ワークの表面処理方法には、バッチ処理方式と連続処理方式とがある。バッチ処理方式は、図10に示すように、平板形状物(ワーク200P1)を縦吊状態として、列配された各処理槽10P10,10P20,10P30へ順番に搬送する。すなわち、ワーク200P1を処理槽10P10の処理液中に浸漬して所定時間だけ表面処理を施し、次いでワークを上昇(V1),水平搬送(H1)および下降(V21)させて処理槽10P20の処理液中に浸漬する。以下、同様な手順を繰り返す。
連続処理方式は、図11に示す如く、例えば帯状長尺板材(ワーク200P2)を水平状態として保持しつつ各処理槽10P11,10P21,10P31の配列順に従って連続搬送する。すなわち、ワーク200P2が各処理槽の上部に設けられた開口部分10UHを通じて当該各処理液中に浸漬されかつ通過する間に当該各表面処理が施される。
ここに、バッチ処理方式は、ワーク形態(平板形状物,立体形状物,棒状短尺物等)に対する適応性が広いが、各処理槽間におけるワークの上昇・水平搬送・下降が必要になるので、生産性向上が難しい。対する連続処理方式は、各処理槽間での中間的かつ断続的な搬送(V1,H1,V21等)が必要ないので、生産性が高い。しかし、最上流のアンコイラーと最下流のコイラーとの間に張設可能な帯状長尺板材や線状材料に限られる。つまり、ワーク形態に対する適応性が極めて狭い。
ところで、液組成の均一化の点からすれば、処理時間が長い場合に複数の処理槽に分割するバッチ処理方式の場合に比較して、処理時間に応じた槽長を持たせた1つの処理槽内で処理する連続処理方式の方が、その管理・維持が容易である。つまり、安定した品質の処理ができる。また、連続処理方式の場合は、バッチ処理方式における処理槽間での搬送中に引き起こされる問題(ワーク表面付着液による過剰反応、大気接触による酸化進行およびワーク表面への塵埃付着)の心配がない。この問題は、いずれも品質に悪影響を及ぼす。
かくして、ワーク200P1に高品質電解処理(例えば、めっき処理)を行う場合には、図12に示す如く、当該電解処理槽10EP内では槽外に配置されたベルトコンベア等を用いてワークを処理液中で水平搬送(H20)しつつ電解処理を連続して施す連続処理方式が採られている。しかし、他の処理槽との関係では、バッチ処理方式の搬送態様が採用されている。
すなわち、上流側から水平搬送(H10)されたワーク200P1は、下降(V10)により電解処理槽10EPに投入される。また、処理後のワークは、上昇(V30)および水平搬送(H30)により下流側の処理槽へ搬送される。つまり、この図12は、バッチ処理方式と連続処理方式とを組み合わせた折衷方式を指すものといえる。
しかし、薄板状の例えばプリント回路基板(ワーク200P)の場合は、電解処理槽10EP内での水平搬送速度を高くする程にワーク200Pに揺動や振動が発生する。さらに、ワークに搬送(X)方向と直交する方向の湾曲が生じ、その先端が折れてしまう場合がある。これでは、電解処理槽10EP内での電極間距離が変動してしまうから品質劣悪化を免れない。処理槽内装部材との衝突によるワーク200Pの破損や内装部材自体の変形等を発生させる虞もある。
これに関しては、本出願人は、ガイドポストに張設された複数のワイヤー(搬送ガイド)を有する搬送ガイド手段を設けた表面処理装置を提案(特許文献1を参照)している。これによれば、ワイヤー(搬送ガイド)間でワークの自由運動を規制できるから、ワーク200Pの縦吊状態(状態)を維持しつつ安定かつ円滑に搬送することができた。つまりは、高品質処理を行える。
しかし、上記の折衷方式では、槽外から電解処理槽10EPの処理液中にワーク200Pを投入(浸漬)しかつ連続電解処理終了後に処理液中から槽外へワークを取出さなければならない。しかも、ワークの昇降速度は、電解処理の連続性を担保するために処理槽10EP内での水平搬送(H20)速度に比較して高速(例えば、4倍速)である。したがって、浸漬に際する下降工程では、ワーク200Pの先端部分(縦吊状態での下端部分)が大きな液抵抗を受けるので湾曲,折れ曲りあるいは揺動してしまうことが多々ある。結果として、ワーク200Pが槽内装品(例えば、上記ガイドポスト,図示しない電極等)に衝突し、さらには張り付いてしまう場合がある。
また、ワーク200Pをいきなり搬送ガイド間内に下降可能に構築した表面処理装置の場合には、ワークの先端部分(縦吊状態での下端部分)が搬送ガイド間に入らないので、搬送が開始できない。そこで、本出願人は、処理槽10EP内に縦吊(姿態)状態維持手段を組込み、縦吊状態のワーク200Pを槽上から下降させつつ処理液中に浸漬する搬送に先立ち、ワーク200Pの両側から多数の挟持片を接近させかつその強制押え力を利用して縦吊状態(姿態)を保持(維持)可能に形成した表面処理装置を提供(特許文献2を参照)した。これによれば、処理槽10EP内に浸漬する際の先端曲り等を防止しつつワーク200Pを縦吊状態のまま真直ぐに処理液中に下降させることができた。
さらに、搬送方向の上流側に設けた上記の縦吊状態維持手段と搬送ガイド手段との間に引き起こる問題の解決として、両者間に液噴流導入案内手段を設けた表面処理装置を提案(特許文献3を参照)している。この液噴流導入案内手段は、水平搬送中のワーク200Pの両面側から液を強制噴流させて当該ワークの先端部が搬送ガイドに衝突することを回避させるためのものである。
かくして、プリント回路基板(200P)のような薄板状で可撓性に富んだワーク200Pを連続的に表面処理する場合には、上記の折衷方式を採用しているのが実状である。
しかしながら、電子部品や電子機器の一層の高品質が進みかつ小型化および低コスト化が一段と強く要求される現今では、上記の折衷方式の妥協的採用も難しくなる傾向にある。つまり、縦吊状態維持手段の一掃による装置小型化,コスト削減化はもとより、生産能率上、処理槽間ごとの上昇・水平搬送・下降工程を一掃できないかとの指摘がある。
これに関しては、その実現化を目指して試行を繰り返しているが、確認的に記述する以下の技術的事項の解決なくしては、実用的な連続処理方式の具現化は至難とされている。
すなわち、図13において、上流側(右側)の処理槽10P12からX方向に搬送されて来たワーク200Pは、開口部13Pを通して処理槽10P22に搬入され、槽内連続移行中に表面処理が施されかつ処理後に後方側開口部(図示省略)を通して下流側(左側)の処理槽10P32に搬送される。各開口部から漏れた処理液(Qr)は、回収槽17Pに回収されかつ再循環使用される。
ここに、プリント回路基板(ワーク200P)の形態の特殊性から、ワーク搬送手段側の冶具にワークの上端部(上辺側)を挟持させた縦吊状態(両面が垂直になる状態)で水平搬送される。他方、開口部13Pから漏れる液量Qrは非常に多く、しかも上流側に向い勢いよく流れ出る。
かくして、上流側の処理槽10P12から縦吊状態で搬送されて来たワーク200Pを、流出する大量の漏れ液流(Qr)に向いかつ逆らってその先端辺200F側から突入させると、ワーク200Pが湾曲しあるいはその先端が折れてしまう。つまり、平板形状物(200P)を縦吊状態のまま処理槽(10P12)内の処理液中に正確かつ円滑に搬入させることができない。
そこで、液漏れ量Qrを小さくするには、図14(A)に示す1対の搬入ガイドローラ81PL,81PRを設けかつその間隔S1を狭くしなければならない。あるいは、図14(B)に示す弾性材質からなる1対の搬入ガイドブレード82PL,82PRの場合も間隔S2を極めて小さくしなければならない。しかし、液漏れ量Qrを絞れば絞る程に、ワークの先端がガイド(81PL,81PR、82PL,82PR)に直接に衝突してしまうという新たな問題が発生する。したがって、厚さが一段と薄くかつ可撓性に富む傾向が強いワーク200Pでは、連続処理方式は未だに実現できていない。
本発明の目的は、平板形状物を縦吊状態のまま処理槽の処理液中に確実かつ円滑に搬入させることができる平板形状物の表面処理方法および表面処理装置を提供することにある。
上記の試行処理槽10P22では、縦吊状態の平板形状物(200P)を導入させるために縦長でスリット形状の開口部13Pを設けているので、ダムの放水口の場合と同様に、その水頭に応じた勢いでかつ上流側に向かって噴出する処理液流(溢出流)が発生している。しかし、水道の蛇口の場合には、その流量の多少や勢い強弱に関係なく、水は下方に向かって流下するが手前に向かう溢出流は生じない。また、下方に向かう処理液中に搬送方向(横方向)から押し込むようにワーク200Pを搬入させれば、その直後からワークの各側面には等価の水圧が掛かりかつ下方に向けた軽い引張力を発生できるので、ワークが湾曲しあるいは折れることを防止できる筈である。
本発明は、これら経験則と推測事項に着目した試験・研究の結果として創生された新規で有用なものである。すなわち、積極的に処理液の下向きの連続流動を生成することで上流側に向かう噴出液流の発生を消滅しかつ下向連続流動液中にワークを直接搬入させることで、連続処理可能に形成したものである。
具体的には、請求項1の発明は、処理液を再循環使用しつつ処理槽に処理液を下向連続流動させ、平板形状物を連続流動処理液中に押し込むようにして処理槽に搬入しかつ搬送中に下向連続流動処理液を用いて表面処理を施し、表面処理終了後に平板形状物を連続流動する処理液中から押し出すようにして処理槽から搬出させる、平板形状物の表面処理方法である。
また、請求項2の発明は、電解処理室の下方側で回収した処理液を電極室の下方側から供給しかつ電極室に供給して上向きに連続流動させ、電極室を連続流動した処理液を再循環使用しつつ電解処理室に再供給して処理液を下向きに連続流動させ、平板形状物を連続流動処理液中に押し込むようにして電解処理室に搬入しかつ搬送中に給電しつつ平板形状物に下向連続流動処理液を用いて表面処理を施し、表面処理終了後に平板形状物を連続流動処理液中から押し出すようにして電解処理室から搬出させる、平板形状物の表面処理方法である。
また、請求項3の発明は、処理槽を、搬送経路を挟み対向配設された1対の起立隔壁で区画しかつ処理液を下向きに連続流動可能な下向流動液室から形成し、下向流動液室の下方側で回収された処理液を下向流動液室に再供給しつつ再循環使用可能に形成し、平板形状物を上流側搬入用開口部を通しかつ連続流動処理液中に押し込むようにして下向流動液室に搬入可能で、処理済の平板形状物を下流側搬出用開口部を通しかつ連続流動処理液中から押し出すようにして下向流動液室から搬出可能に形成し、下向流動液室内の搬送中に下向連続流動処理液を用いて表面処理可能に形成された、平板形状物の表面処理装置である。
また、請求項4の発明は、1対の溢出槽を搬送経路を挟み対向配設し、下向流動液室が各内側起立隔壁で区画された区画内空間としてかつ上向流動液室が当該各溢出槽の内部空間として形成され、下向流動液室が当該各溢出槽の上端部を越えて溢出しかつ上方側開口部から供給された処理液Qspを下向連続流動可能に形成されるとともに上向流動液室が下方側から再供給された処理液Qspを上向連続流動可能に形成され、下向流動液室の搬送方向の上流側に搬入用開口部を設けかつその下流側に搬出用開口部を設け、下向流動液室の下方側開口部から流下排出された処理液を回収可能な回収槽と、回収された処理液を加圧して各上向流動液室に再供給しつつ処理液を再循環使用可能な液再循環手段とを設け、平板形状物を搬入用開口部を通しかつ連続流動処理液中に押し込むようにして下向流動液室に搬入可能であるとともに処理済の平板形状物を搬出用開口部を通しかつ連続流動処理液中から押し出すようにして下向流動液室から搬出可能に形成し、下向流動液室内の搬送中に下向連続流動処理液を用いて平板形状物に表面処理可能に形成された、平板形状物の表面処理装置である。
さらに、請求項5の発明は、各上向流動液室内に当該各内側起立隔壁を挟んで平板形状物の各面に対向可能に電極を配設するとともに各内側起立隔壁が電極と平板形状物との間の通電を促進可能かつ上向流動液室から下向流動液室への処理液のバイパス流動を抑制可能に形成されている。請求項6の発明は、内側起立隔壁が多孔板から形成されている。また、請求項7の発明は、起立隔壁が布製シート部材から形成されている。
さらに、請求項8の発明は、平板形状物がプリント回路基板とされかつ搬送手段側の複数の冶具でプリント回路基板の上端部を挟持させた縦吊状態で搬送可能に形成されている。
請求項1の発明によれば、平板形状物を縦吊状態のまま処理槽内で下向きに流動する処理液中に確実かつ円滑に搬入させることができる。よって、連続搬送と高品質処理とを高能率でかつ安定して行える。
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明の場合と同様に平板形状物を縦吊状態のまま処理槽内で下向きに流動する処理液中に確実かつ円滑に搬入させることができるとともに、平板形状物と電極との間の給電を伴う電解処理を高能率でかつ安定して行える。
また、請求項3の発明によれば、請求項1の発明の場合と同様に平板形状物を縦吊状態
のまま処理槽内で下向きに流動する処理液中に確実かつ円滑に搬入させることができると
ともに、具現化が容易である。
さらに、請求項4の発明によれば、請求項3の発明の場合と同様な効果を奏することができることに加え、さらに1対の溢出槽を用いて下向流動液室および上向流動液室が形成されているので、液流動を一段と安定化できるとともに構造簡単かつ取り扱いが容易である。
さらに、請求項5の発明によれば、請求項4の発明の場合と同様な効果を奏することができることに加え、請求項2の発明の場合と同様に平板形状物と電極との間の給電を伴う電解処理を高能率でかつ安定して行える。また、請求項6の発明によれば、請求項5の発明の場合と同様な効果を奏することができる他、さらにコスト低減ができる。請求項7の発明によれば、請求項5の発明の場合と同様な効果を奏することができる他、さらに処理液のバイパス流動を抑制する作用を強化することができる。
さらにまた、請求項8の発明によれば、請求項3から請求項7まで各発明の場合と同様な効果を奏することができることに加え、一段と多様化するプリント回路基板への適応性が広くかつ高品質基板の提供に大きく貢献することができる。
(第1の実施の形態)
本表面処理方法(請求項1の発明)を実施するために最良な表面処理装置は、図1(概略正面図)に示す如く、処理槽10を搬送経路12を挟み対向配設した1対の起立隔壁32AL,32ARで区画されかつ上方側から供給された処理液Qspを下向きに連続流動(Qdp)可能な下向流動液室11(11L,11R)から形成し、この下向流動液室の下方側に流下した処理液Qdpを回収可能かつ回収された処理液を下向流動液室11(11L,11R)の上方側に再供給しつつ再循環使用可能に形成し、平板形状物(200)を搬送方向の上流側に設けられた搬入用開口部15INを通して下向流動液室に搬入可能であるとともに処理済の平板形状物をその下流側に設けられた搬出用開口部15OTを通して下向流動液室から搬出可能に形成し、下向流動液室内の搬送中に下向きに連続流動する処理液Qdnを用いて平板形状物(200)に表面処理を施すことができるように形成されている。
ここに、平板形状物は、この実施の形態では、プリント回路基板(ワーク200)とされている。このワーク200は、ワーク搬送手段(70)側の複数の冶具80にその上端部を挟持させた縦吊状態で、搬送方向(図1で紙面に直交する方向…搬送経路12)に連続搬送される。複数の冶具80は、搬送方向に一定ピッチで取付けられている。なお、ワーク搬送手段(70)等に関しては、第3の実施形態において説明する。
確認的に、本表面処理方法(装置)の基本的構成・機能は、搬送方向[X方向(図6,図7を参照)]の上流側から縦吊状態で搬送されて来た平板形状物(200)を処理槽10に搬入し、処理槽10の処理液中で平板形状物に表面処理を施し、表面処理後の平板形状物を処理槽から搬出してその下流側に搬送させることで、複数枚の平板形状物を連続的に表面処理するものである。
処理槽10は、X方向に伸びる搬送経路12を挟み槽幅方向(図1で左右方向)に対向(離隔)配設された1対の起立隔壁32AL,32ARを用いて区画された下向流動液室11から形成されている。この下向流動液室11は、上方側から供給された処理液Qspを利用して下向きに連続して流動(Qdn)させることができる。つまり、下向連続液流動(域)を生成可能である。なお、搬送経路12を中心とした場合、その左側を下向流動液室11Lしかつ右側を下向流動液室11Rとする。
なお、この下向流動液室11(起立隔壁32AL,32AR)の上方側には処理液を供給するための開口部13が設けられ、下方側には流下した処理液を排出するための開口部19が設けられている。
ここに、上部開放かつ四方側壁で有底構造の従来例(例えば、図13の処理槽10P22)の構造に比較して、本処理槽10は槽内での処理液の流動および供給・排出に関する作用(機能)が全く異なる。つまり、ユニークな構造であると理解される。ただし、具現(構築)化は容易である。
また、処理槽10(下向流動液室11)の搬送方向の上流側(図1で紙面に直交する方向で手前側)にワーク200を縦吊状態のまま搬入させるための搬入用開口部15INが設けられかつ下流側に処理後のワーク200を縦吊状態のまま搬出させるための搬出用開口部15OTが設けられている(図6を参照)。
上部開放部13を通して供給された処理液Qspは、下向流動液室11において、下向きに連続して流動する。つまり、処理液Qdnの全量が垂直方向に自然流下(加圧流下としてもよい。)するので、従来例の場合(図13)のように水頭により処理液QrがX方向へ大量にかつ勢いよく漏れるという不都合は生じない。
したがって、各開口部15は、従来例(図13)の場合と同様な縦長スリット形状であるが、幅方向寸法は従来例のように神経質的に細かく選択決定する必要がない。上記のように開口部15からX方向に勢いよく大量の処理液(Qr)が流出する現象が生じないので、自由裁量的に決めることができる。また、ガイド(81PL,81PR等)を設ける必要もないので、装置簡素化および低コスト化を促進できる。
因みに、この実施の形態では、製作上の事情等を考慮してワーク200の厚み(t)の約5倍(5t)から10倍(10t)に狭くしてある(図5を参照)。
さて、下向流動液室11の上方側開口部13を通して供給された処理液Qspは、室内を流下した後、下方側開口部19を通して排出されかつこの排出処理液Qdpは回収槽40に回収される。また、回収された処理液は、液再循環手段50によって下向流動液室11(11L,11R)の上方側(13)に再供給しつつ再循環使用可能に形成されている。
この液再循環手段50は、吸込管51,再循環ポンプ55,フィルタ56および供給管52等から形成され、回収槽40から吸引した処理液を加圧して下向流動液室11(11L,11R)の上方側に再供給する。この実施の形態では、各起立隔壁32AL,32ARの上端部に供給管52に連通する枝管52L,52Rを設け、この枝管52L,52Rに接続された液噴出ヘッダー53L,53Rから上部開口部13を通して処理液を再供給する。液噴出ヘッダー53L,53Rは、X方向に伸びかつ当該各下向流動液室11L,11R内に間断無くかつ必要十分な量の処理液を噴出することができる。
かくして、下向流動液室11L,11R内の処理液Qは、重力作用により下方に向かって連続して流下する。搬入されたワーク200を中心に観察すれば、左右の下向流動液室11L,11Rのそれぞれに処理液の下向連続流動(域)を形成したことに等しい。したがって、従来例の場合(図13)のように激しい漏れ噴出液Qrとの衝突がないから、ワーク20の先端辺(200F)に折れや湾曲が生じない。つまり、処理液中にワーク200を確実かつ円滑に搬入することができる。
また、この流下処理液(下向連続流動液)Qdnは、浸漬(搬入)されたワーク200の各面(表裏面)に等価の液圧を付与することになる。つまり、ワーク200の左右に圧力差が生じない。しかも、下向連続流動液(流下液)は、上端部が冶具80に挟持された縦吊状態のワーク200に、その上端部側から下端部側に向けた引張力を生じさせるように働く。
かくして、搬入されたワーク200は、上端部(80)が固定端とされかつ自由端(先端部)が下方に引っ張られるので、左右に揺動したり湾曲することなく、真直ぐ1枚板として縦吊状態のまま処理液中を円滑に搬送される。因みに、第3の実施形態の如く電解処理槽10EPの場合には、ワーク200と各電極との間隔(極間距離)が一定になるので、高精度処理を安定して行える。
かかる構成の第1の実施形態によれば、処理槽10の下方側で回収した処理液をその上方側から再供給して再循環使用しつつ処理槽に処理液を下向きに連続流動させ、平板形状物(200)を連続流動する処理液中に押し込むようにして処理槽に搬入しかつ搬送中に当該平板形状物に下向きに連続流動する処理液を用いて表面処理を施し、表面処理終了後に平板形状物を連続流動する処理液中から押し出すようにして処理槽から搬出させる表面処理方法を、確実かつ高能率で実施することができる。
詳しくは、液再循環手段50(55)を駆動して、貯液タンク40から吸引した処理液を加圧しつつ液噴出ヘッダー53L,53Rから処理槽10内の上方側開口部13を通して下向流動液室11(11L,11R)に供給する。下向流動液室11(11L,11R)内には、処理液の下向連続流動(域)が生成される。この下向連続流動(域)は、処理液が垂直に自然流下する層流状態の液流である。
したがって、上流側の搬入用開口部15INおよび下流側の搬出用開口部15OTから搬送方向に処理液が勢いよく噴出することはない。静かに下方側開口部19から流下排出されて下方の回収槽40に回収される。処理液の再循環使用により、運転中は下向連続流動が続く。
ここで、搬送方向の上流側(図1の紙面手前側)から縦吊状態で搬送されて来た平板形状物(ワーク200)は、搬入用開口部15INから処理槽10(11)内に搬入される。従来例の場合のように搬送方向への噴出液流に逆らって突入させるのではなく、連続流動する処理液中に押し込むようにして搬入される。換言すれば、層流状態の連続流動処理液に横方向(搬送方向)から割り込ませるように、ワーク200をその先端辺200F(図6,図12を参照)から静かに押し入れる。したがって、搬入時の折れや湾曲は生じない。つまり、平板形状物(200)を縦吊状態のまま処理槽10(11)内で下向きに流動する処理液中に確実かつ円滑に搬入させることができる。
また、処理槽10(11)内では、ワーク200の各面(表裏面)に等圧が加わるので、圧力差に起因する揺れが生じない。さらに、下向連続流動処理液は、ワーク200を下方に引っ張る作用を誘発する。したがって、処理液中での円滑搬送が担保される。
この処理液中でワーク200に表面処理を施すことができる。この際、下向連続流動処理液の表面払拭作用によりワーク200の表裏面の活性が高められる。ムラがなく全面的均一でかつ高品質な表面処理を迅速に行える。また、従来例の場合(図10,図11,図12)のように、槽内に液撹拌手段やバブリング手段を設ける必要がない。
表面処理後のワーク200は、下向連続流動処理液中から押し出すようにして処理槽10(11)から外部に搬出されかつその下流側に搬送される。後端辺200B(図6を参照)が搬出用開口部15OTから完全に出るまで、ワーク200の両面(表裏面)の液圧均一と下方への引っ張り作用が働くので、この点からも円滑な搬出ができる。
かくして、連続搬送と高品質処理とを確実かつ安定して行え、結果として、複数枚の平板形状物(プリント回路基板200)を連続的に表面処理することができる。しかも、具現化が容易で、構造簡単かつ取り扱いが容易(簡単)である。
(第2の実施の形態)
この第2の実施の形態は、図2に示される。基本的な構成・機能は第1の実施形態の場合(図1)と同様であるが、処理槽10(11,21)を1対の溢出槽30L,30Rを対向配設することで表面処理装置を構築可能に形成してある。
すなわち、表面処理装置は、1対の溢出槽30L,30Rを対向配設して下向流動液室11(11L,11R)と上向流動液室21L,21Rとを形成し、下向流動液室11(11L,11R)が処理液を下向連続流動可能かつ上向流動液室21L,21Rが上向連続流動可能に形成され、下向流動液室11(11L,11R)に搬入用開口部15INおよび搬出用開口部15OTを設けかつ処理液の再循環使用に必要な回収槽40および液再循環手段50を設け、第1の実施形態の場合と同様にワーク200を下向流動液室に搬入可能かつ搬出可能であるとともに下向流動液室11内の搬送中に下向連続流動処理液Qdnを用いて表面処理可能に形成されている。
なお、第1の実施形態において説明した事項と共通する部分については、その説明を簡略化しまたは省略する。
図2において、1対の溢出槽30L,30Rは、各内側起立隔壁32L,32Rが搬送経路12を挟み対面するようにして対向配設される。各溢出槽30L,30Rは、上部開放型のオーバーフロー槽で、各内側起立隔壁32L,32Rの上端部を越えて溢出(オーバーフロー)する処理液Qspを下向流動液室11(11L,11R)内に供給する。処理液の供給がオーバーフロー方式であるから、第1の実施形態の場合に比較して、一段と静かで円滑かつ安定した均一供給ができる。
処理槽10の一部を構成する下向流動液室11(11L,11R)は、各内側起立隔壁32L,32Rで区画された区画内空間として形成される。下向流動液室11(11L,11R)は、各溢出槽30L,30Rの上端部を越えて溢出しかつ上方側開口部13から供給された処理液Qspを下向きに連続流動可能である。
また、処理槽10の一部を構成する上向流動液室21L,21Rは、各溢出槽30L,30Rの内部空間として形成される。上向流動液室21L,21Rは、下方側から再供給された処理液を上向きに連続流動可能である。つまり、上向流動液室21L,21Rは、下方側から供給された処理液を利用して上向きに連続して流動する処理液Qupつまり上向液流動(域)を生成する。溢出槽30L,30Rの内底部には整流ボックス36L,36Rを設け、安定した上向流を生成可能かつ維持可能に形成してある。
そして、下向流動液室11(11L,11R)の搬送方向の上流側に搬入用開口部15INを設けかつその下流側に搬出用開口部15OTを設けてある。開口部の幅は、溢出槽30L,30Rの各内側起立隔壁32L,32R間の距離である。ただし、調整板を付設するなどして、各内側起立隔壁32L,32R間の距離相当幅よりも狭い幅に形成してもよい。
回収槽40は、下向流動液室11(11L,11R)の下方側開口部19から流下排出された処理液を回収することができる。液再循環手段50は、回収された処理液を加圧してかつ各整流ボックス(整流ヘッダーでもよい。)36L,36Rを通じて各上向流動液室21L,21Rに再供給しつつ処理液を再循環使用する。
かくして、ワーク200を搬送方向の上流側に設けられた搬入用開口部15INを通しかつ連続流動する処理液中に押し込むようにして下向流動液室11に搬入可能であるとともに処理済のワークをその下流側に設けられた搬出用開口部15OTを通しかつ連続流動する処理液中から押し出すようにして下向流動液室11から搬出可能に形成し、下向流動液室内の搬送中に下向きに連続流動する処理液を用いてワーク200に表面処理を施すことができる。
しかして、この第2の実施の形態によれば、第1の実施形態の場合と同様に平板形状物(ワーク200)を縦吊状態のまま処理槽10(11)内で下向きに流動する処理液中に確実かつ円滑に搬入させることができる。しかも、1対の溢出槽30L,30Rを用いて下向流動液室11および上向流動液室21を形成すればよいので、具現化が一段と容易で、処理液流動を一段と安定化できる。
また、1対の溢出槽30L,30Rの搬送経路12を中心とした配設間隔を変更するだけで、下向流動液室11(11L,11R)の内容積や搬入用開口部15INおよび搬出用開口部15OTの幅を調整できるので、ワーク200の厚さや搬送速度等に対する適応性が広い。
(第3の実施の形態)
この第3の実施の形態は、図3〜図8に示される。基本的な構成・機能は第2の実施形態の場合(図2)と同様であるが、表面処理が電解処理(ここでは、めっき処理)とされかつ処理槽10が電解処理槽10EPとして形成してある。また、請求項2の発明に係る表面処理方法を実施するために最良である。
図3において、表面処理(電解処理)装置は、第2の実施形態の場合と同様な各上向流動液室21L,21R内に当該各内側起立隔壁(37L,37R)を挟んでワーク200の各面(表裏面)に対向可能に電極35KL,35KRを配設するとともに、各内側起立隔壁(37L,37R)が電極35KL,35KRと平板形状物(200)との間の通電を促進可能かつ上向流動液室21L,21Rから下向流動液室11L,11Rへの処理液のバイパス(素通り)流動を抑制可能に形成されている。
つまり、上向流動液室21L,21Rは、電極室21EPL,21EPRを形成する。同様に、各下向流動液室11L,11Rは、電解処理室11EPL,11EPRを形成する。
電極35KL,35KRは、アノードバッグ35L,35R内に収容された多数の銅ボールからなり、給電中において処理液中に銅イオンを生成供給することができる。この電極35KL,35KRは、上向流動液Qupによって表面が洗われるので、銅イオンを高効率かつ安定して生成供給することができる。この点で、処理液組成の管理が楽になる。
また、アノードバッグ35L,35Rは、図5に示す装着用フック部材34L,34Rを介して当該各溢出槽30EPL,30EPRに着脱可能に取付けられる。銅ボールの補給や交換を含むメンテナンスを簡単に行える。
この実施の形態では、構造簡素化およびコスト低減のために、各内側起立隔壁(32L,32R)を図3,図8に示す多孔板37から形成してある。各多孔板37L,37Rには、通電促進効果およびバイパス流動抑制効果を得るために選択された小径(例えば、1mmφ)の貫通孔37hが多数設けられている。
なお、内側起立隔壁(32L,32R)は、例えば布製シート部材や全体を包囲可能な布製バッグから形成としてもよい。図9の場合は、内側枠部材31に布製シート部材38を張り付けた場合を示す。処理液のバイパス流動を抑制する作用を一段と強化することができる。
図4〜図7において、電解処理槽10EPの一部を形成する上記した内側枠部材31L,31Rの上端部には、図5に示す液面調整堰板33L,33Rが設けられ、上部開口部13への処理液の供給位置(高さ)を調整することができる。液面調整堰板33L,33Rは、搬送される冶具80との干渉を回避させるために上方拡大形状にしてある。
ワーク搬送手段70は、搬送構造体71とこの搬送構造体71に搬送駆動力を与えるベルトコンベア78とから形成され、ワーク200を定速(例えば、1〜2m/minに設定)かつ連続で槽内を搬送可能に形成してある。搬送構造体71は、図5,図6に示す搬
送(X)方向に延設されたレール77と,このレール77に沿って摺動(あるいは転動)可能に装着されたキャリア72と,このキャリア72の一部を構成する横腕木部材73の先端に取付けられた保持部材74と,この保持部材74に着脱可能な冶具80とから形成されている。
この実施の形態では、レール77,キャリア72,ベルトコンベア78等を電解処理槽10EPの外側(図4で右側)に位置をずらせて配置して、構造・手段の相対摺動部で発生する微細な塵埃が10EP内に落下することを防止する。一層の高品質処理を期する。
なお、給電手段は、銅製レール77とキャリア72との摺接によりかつ搬送構造体71(72,73,74,80)を介してワーク200に給電する。つまり、電源装置(図示省略)のマイナス(−)極をワーク(陰極)200に接続する。なお、電極(陽極)35KL,35KRにプラス(+)極が接続される。
冶具(挟持具)80は、図5に示すように保持部材74にネジ止め固定される本体ベースと,支点を中心に回動可能なクランプと,クランプの一端(先端)を本体ベースに常時押圧かつ常時挟持するための付勢力を付与するスプリングとから形成され、クランプの先端と本体ベースとの間でワーク200の上端部を挟持する。
回収槽40は、図6,図7に示すように、処理槽10EP(30EPL,30EPR)の槽長(X方向の長さ)に比較して長く(約2倍長)してある。処理液の組成管理の容易化および再循環の円滑化等のためである。また、開口部15IN・15OTからのシブキも回収できかつ装置周辺を汚さない。
したがって、処理槽10EPつまり溢出槽30EPL,30EPRの前後空間にはガイド手段90L,90Rを設け、電解処理室11EPL,11EPR内に搬入される以前のワーク200と搬出された以後の製品(200)の搬送姿勢を一定に維持可能に形成してある。
ガイド手段90は、図6および図7に示す上流側ガイド手段91Uと下流側ガイド手段91Dとから形成され、複数(5本)の合成樹脂ロープを上下方向に等間隔で張設しかつ搬送経路12を挟み1対を対向配置させた構造である。なお、従来例(特許文献1)の処理液中に装着するガイド手段とは相異する。
かかる第3の実施の形態によれば、処理槽10EPの一部を構成する電解処理室11EP(11EPL,11EPR)の下方側で回収した処理液を処理槽の一部を構成する電極室21EP(21EPL,21EPR)の下方側から供給して処理液を上向きに連続流動させ、電極室を流動した処理液を電解処理室に上方側から再供給することで再循環使用しつつ電解処理室に処理液を下向きに連続流動させ、平板形状物(ワーク200)を下向きに連続流動処理液中に押し込むようにして電解処理室に搬入しかつ搬送中に電極と平板形状物との間に給電しつつ当該平板形状物に下向連続流動処理液を用いて表面処理を施し、表面処理終了後に平板形状物を連続流動処理液中から押し出すようにして電解処理室から搬出させる表面処理方法を、確実に実施することができる。
しかして、この第3の実施の形態によれば、第2の実施形態の場合と同様な効果を奏することができることに加え、平板形状物(ワーク200)と電極35KL,35KRとの間の給電を伴う電解処理を高能率で行える。
さらにまた、一段と多様化するプリント回路基板200への適応性が広くかつ高品質基板の提供に大きく貢献することができる。