JP2011057748A - ポリエステルの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶融重縮合により、ヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸誘導体からポリエステルを製造する際、反応中間物であるオリゴマーが固化し始めるなどして流動性や攪拌効率が低下し、反応が進行しにくく、重合度が頭打ちになる。
【解決手段】ヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸誘導体を固化防止剤の存在下に溶融重縮合させること特徴とするポリエステルの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、溶融重縮合により、ヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸誘導体(以下、モノマー化合物と称することがある)からポリエステルを製造する方法に関する。
ポリエステルは、ジカルボン酸化合物とジオール化合物とを重縮合(以下、単に重合と称することもある)させることにより得られたポリマーであり、その中でもテレフタル酸より得られるポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、以下「PET」と称することがある)は、成形時の透明性、ガスバリア性、耐熱性および機械的強度に優れた性質を有することから、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、その他エンジニアリングプラスチック成形品等多くの分野に用いられている。
一般的にポリエステル樹脂は石油資源から得られる原料を用いて製造されるが、現在、石油資源の枯渇および二酸化炭素による地球温暖化が懸念されており、植物などの生物起源物質から得られる原料を用いたポリマーが求められている。そのような生物起源物質含有率が高いポリマーとして、ポリ乳酸等の種々の脂肪族バイオポリマーが検討されているが、耐熱性や結晶性が不十分であり使用の制限がある。そこで、耐熱性や結晶性の改善を図るために糖質や木質から製造可能な芳香族ヒドロキシカルボン酸原料を用いた芳香族バイオポリマーの検討がなされている。そのような芳香族ヒドロキシカルボン酸原料としては、例えば、下記式(A)
Figure 2011057748
に示した4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸(本明細書では以下「バニリン酸」と呼称することもある)、
また、下記式(B)
Figure 2011057748
に示した4−ヒドロキシ−3、5−ジメトキシ安息香酸(本明細書では以下「シリンガ酸」と呼称することもある)が挙げられる。共に木質由来物質であるリグニンから得られ、例えばバニリン酸はリグニンをアルカリ中で酸化分解して得られたバニリンを変換することにより得られる。また、バニリン酸は糖質からの発酵によって得ることも可能である。
これまで、上記化合物を含む芳香族ヒドロキシカルボン酸の中でも、バニリン酸ポリマーが検討されてきたが、バニリン酸の単重合体では融点が非常に高すぎて利用が困難であった。
そこで、融点を降下させるため、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸のようにバニリン酸などのヒドロキシ安息香酸のフェノール性ヒドロキシル基をヒドロキシアルキルエーテル化したモノマー化合物を重縮合させたポリエステル(以下、ホモポリエステルと称することがある)が検討されてきた(特許文献1、2、3、非特許文献1参照)。しかし、このように古くから検討がなされてきたにもかかわらず、該ホモポリエステルは実用化に至っていない。
特公昭34−10793号公報 特公昭35−17345号公報 特公昭36−17198号公報
"Holz als Roh−und Werkstoff",(ドイツ)、Springer−Verlag(シュプリンガー・フェアラーク)、1981年,第39巻,p.107−112
本発明者らが、上記ホモポリエステル及びその製造方法について検討を行ったところ、その反応中間物であるオリゴマーが非常に融点が高くかつ結晶性も高いため、重縮合反応の途中で固化(結晶化)し始め流動性や攪拌効率が低下して反応が進行しにくくなり、重合度が頭打ちになってしまい、公知の技術では実用に好ましい程度にまで高重合度の該ホモポリエステルを得ることができないことが分かった。また、本発明者らは、ポリマーに柔軟性を与えるため一般的に用いられる、フタル酸ジエステル等の公知の可塑剤を添加して溶融重縮合を行い、オリゴマー固化防止を図ったが、該可塑剤はオリゴマー又はポリマーと反応したり、可塑剤自身が分解したりしてしまい、オリゴマー固化を防止できない上、生成するポリマー品質に悪影響があることが分かった。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討し溶融重縮合により、ヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸誘導体からポリエステルを製造する際、スルホン化合物等の固化防止剤の存在下に溶融重縮合を行うことで、反応物の固化等による流動性や攪拌効率の低下を防止し、反応が円滑に進み、かつ、特に高い重合度のポリエステルを得ることができることを見出し、本発明を完成させた。本発明の要旨を以下に示す。
1. 下記式(1)
Figure 2011057748
(式中、Rは炭素数2〜8の脂肪族基、R、RはそれぞれH、OH、OCH、OCのいずれかである。)
の構成単位よりなるポリエステルの製造方法において、
重合触媒及び固化防止剤の存在下に、下記式(2)
Figure 2011057748
(式中、Rは炭素数2〜8の脂肪族基であり、R、RはH、OH、OCH、OCのいずれかであり、RはH、CH、C又はC(フェニル基)である。)
で表されるヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸誘導体を、常圧で加熱反応させ、次いで減圧下、200℃〜300℃の温度で加熱しながら溶融重縮合させることを特徴とする製造方法。
2. 固化防止剤が、下記式(3)または(4)
Figure 2011057748
Figure 2011057748
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、C1〜30の、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、またはアリールアルコキシアルキル基であり、アリール基、アリールアルキル基、及びアリールアルコキシアルキル基の核には置換基として、C1〜4のアルキル基、ハロゲン基、または−OCH基を有することができ、アルコキシアルキル基、およびアリールアルコキシアルキル基は、それぞれ、アルコキシ基またはアリールアルコキシ基を、アルキル幹に複数個有していても良く、RとRおよびRとRは、共有結合で結ばれていても良く、Rは、C1〜15のアルキレン基、またはアリーレン基であり、アリーレン基の核には置換基として、C1〜4のアルキル基、ハロゲン基、または−OCH基を有することができ、mは、1〜100の整数である。)
で示されるスルホン化合物であることを特徴とする上記1項に記載の製造方法。
3. 固化防止剤が、請求項2記載の式(3)において、RおよびRが、それぞれ独立に、C6〜C12の、アリール基またはアリールアルキル基である上記2項に記載の製造方法。
4. 硫黄原子量が30質量ppm以下のポリエステルを得る上記2項または3項に記載の製造方法。
本発明によれば、ヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸誘導体から、従来の技術では到達できなかった高重合度のポリエステルを製造することができる。
以下に、本発明を実施するための形態につき詳細に説明する。尚、本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
本発明は、前記式(1)の構成単位よりなるポリエステルを製造する方法についてのものであり、該ポリエステルとしては、前記式(1)におけるR、Rのうち一方が水素、もう一方がメトキシ基のもの、又はR、Rの双方がメトキシ基のものが好ましく、Rについては炭素数2〜4の脂肪族基から選ばれる1種類以上のものが好ましい。本発明のポリエステルとして、特に好ましくは、前記式(1)におけるR、Rのうち一方が水素、もう一方がメトキシ基であり、かつRがエチレン基のものである。
本発明の製造方法によって、ポリマー(ポリエステル)試料0.06gを1,1,2,2−テトラクロロエタンとp−クロロフェノールとの質量比8:5の混合液10mLに溶解した溶液の35℃における還元粘度が0.50〜1.00dL/gであるポリエステルを、容易に得ることができる。上記ポリエステルの溶液粘度が0.50より低くなると成形品に十分な機械強度を持たせることが困難となる。また、溶液粘度が1.00よりも高くなると溶融粘度が高く成形が困難となり好ましくない。上記ポリエステルの還元粘度は0.60〜0.80dL/gであるとより好ましい。
本発明の製造方法によって得られるポリエステルは、その融点が220℃〜300℃であると好ましく、250℃〜300℃であるとより好ましく、270℃〜300℃であると。融点が220℃未満だと耐熱性に劣り、300℃を超えると成形時の熱安定性が悪くなる。
本発明の製造方法によって得られるポリエステルは、ガラス転移温度(Tg)が60℃〜100℃であると好ましく、70℃〜100℃であるとより好ましい。ガラス転移温度が60℃未満だと耐熱性が劣り、100℃を超えると成型性が悪くなる。
また、本発明の製造方法によって得られるポリエステルは、その5%質量減少温度が350℃以上であると好ましく、380℃以上であるとより好ましい。5%質量減少温度が350℃未満であると、溶融成形時でのポリマー分解が顕著になり、成型性が悪くなる。
本発明の製造方法によって得られるポリエステルは、その硫黄原子含有量が30質量ppm以下であると好ましく、10質量ppm以下であるとより好ましい。硫黄原子含有量30質量ppm以上であるポリエステルは、耐熱性や色相などの物性が著しく劣る。
本発明の製造方法によって得られるポリエステルは、ASTM D6866 08に準拠して測定された生物起源物質含有率が50〜100%であると好ましく、70%〜100%であるとより好ましい。
本発明の製造方法において、上記式(2)で表されるモノマー化合物(ヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸誘導体)から製造することができ、製造方法としては溶融重合法が好ましい。上記式(2)で表されるモノマー化合物として、具体的には、4−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−(3−ヒドロキシプロポキシ)安息香酸、4−(4−ヒドロキシブトキシ)安息香酸、4−(5−ヒドロキシヘプトキシ)安息香酸、4−(6−ヒドロキシヘキトキシ)安息香酸、4−(7−ヒドロキシヘプトキシ)安息香酸、4−(8−ヒドロキシオクトキシ)安息香酸、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸、4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−3−メトキシ安息香酸、4−(4−ヒドロキシブトキシ)−3−メトキシ安息香酸、4−(5−ヒドロキシヘプトキシ)−3−メトキシ安息香酸、4−(6−ヒドロキシヘキトキシ)−3−メトキシ安息香酸、4−(7−ヒドロキシヘプトキシ)−3−メトキシ安息香酸、4−(8−ヒドロキシオクトキシ)−3−メトキシ安息香酸、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメトキシ安息香酸、4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−3,5−ジメトキシ安息香酸、4−(4−ヒドロキシブトキシ)−3,5−ジメトキシ安息香酸、4−(5−ヒドロキシヘプトキシ)−3,5−ジメトキシ安息香酸、4−(6−ヒドロキシヘキトキシ)−3,5−ジメトキシ安息香酸、4−(7−ヒドロキシヘプトキシ)−3,5−ジメトキシ安息香酸、4−(8−ヒドロキシオクトキシ)−3,5−ジメトキシ安息香酸およびそのメチルエステル、エチルエステル、フェニルエステルが挙げられる。
上記に挙げた前記式(2)のモノマー化合物の中でも、特に4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメトキシ安息香酸、およびそれらのメチルエステル、エチルエステル、フェニルエステルが好ましい。その理由は、原料である4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸(バニリン酸とも言う)及び4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシ安息香酸(シリンガ酸とも言う)は糖質や木質、またはグルコースからの発酵により作ることができるため再生可能な資源として入手可能であるからである。
本発明の製造方法において用いる重合触媒としては、周期律表第I族のリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、周期律表同第II族のマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等、モリブデン、ニッケル、銅、銀、水銀、鉛、白金、パラジウム、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトの、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機錯体、及びハロゲン化物等からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素成分が含有された化合物および含窒素有機化合物を使用することが可能だが、チタン、モリブデン、マンガン、コバルト、及びゲルマニウムからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素成分が含有された化合物が好ましく、特にチタン化合物が好ましい。
本発明のポリエステルの製造方法における重合触媒として好ましいチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトラキス(2−エチル−1−ヘキサノラート)、チタンジイソプロポキシビス(2、4−ペンタンジオネート)、酢酸チタン、蓚酸チタン、乳酸チタン、チタンアセチルアセトナート、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸− 水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナートやその他のチタン錯体化合物などが挙げられ、中でも、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、チタンジイソプロポキシビス(2、4−ペンタンジオネート)、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムが好ましい。
また、本発明のポリエステルの製造方法において重合触媒として使用できるチタン以外の金属元素の化合物としては、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド、蓚酸ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、酸化マンガン、水酸化マンガン、マンガンメトキサイド、酢酸マンガン、安息香酸マンガン、マンガンアセチルアセトナート、塩化マンガン等のマンガン化合物、蟻酸コバルト、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、安息香酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート、炭酸コバルト、蓚酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト等のコバルト化合物等、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の周期律表第I族金属の化合物、酢酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化バリウム、水酸化バリウム、酢酸バリウム、炭酸バリウム等の周期律表第II族金属の化合物、、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、メトキシアンチモン、トリフェニルアンチモン、アンチモングリコレート、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、亜鉛メトキサイド、亜鉛アセチルアセトナート、塩化亜鉛、酸化鉛、メチルメルカプチド鉛、酢酸カドミウムが挙げられる。
また、本発明のポリエステルの製造方法における重合触媒として使用できる含窒素有機化合物としては、具体的には、例えば、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、2−ジメチルアミノピリジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、ビピリジン、4−ピロリジノピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2.]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等が挙げられる。
また、上記の金属化合物および含窒素有機化合物から選ばれる2種類以上のものを混合して、本発明のポリエステルの製造方法における重合触媒として使用することもできる。
本発明のポリエステルの製造方法において、上記の重合触媒の使用量は、前記式(2)のモノマー化合物1モルに対し、好ましくは1×10−9〜1×10−3モル、より好ましくは1×10−8〜5×10−4モルの範囲で選ばれる。
本発明のポリエステルの製造方法においては、前記式(2)で表されるモノマー化合物を、常圧で加熱反応させることが肝要であり、その際の反応温度として、100〜200℃が好ましい。これはオリゴマー化反応を進行させ、反応後期に減圧して反応に伴い副生するアルコール、水、フェノール(以下、副生アルコール類と略する)などを留去する際、未反応のモノマー化合物の留出を防ぐためである。本発明の製造方法における常圧とは、意識的な加圧または減圧を加えない場合の圧力のことであり、通常の大気圧0.096〜0.106MPaである。
本発明の製造方法においては副生アルコール類を適宜系(反応器)から除去することにより反応を進めることができる。そのためには、オリゴマー化反応の進行とともに徐々に減圧することが効果的であり、モノマー化合物の溜出防止のため、徐々に5〜150Torr(0.67〜20kPa)に減圧し、副生アルコール類の溜去が完了した後に1Torr(0.13kPa)以下の可能な限りまで減圧するのが好ましい。また、重合反応の温度は、重合反応を適切に進める為には重合温度は200℃〜300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは205℃〜285℃の範囲である。
また反応は不活性ガス下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどを挙げることができる。更に、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
本発明の製造方法において用いる固化防止剤は、前記式(2)のモノマー化合物の重縮合反応や生成したオリゴマーやポリマーの分解・副反応に関与するような反応性の官能基、例えば、エステル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基等を持たないものであることが肝要である。固化防止剤として好ましいそのような化合物としては、飽和炭化水素類、芳香族炭化水素類、スルフィド類、スルホン類などが挙げられる。また、該固化防止剤は、反応中のオリゴマーが固化し易い段階より前に大部分が飛散するようなことなく、かつ高真空状態にある重縮合反応終了時点では、大部分が飛散・溜去されて生成したポリエステル中には殆ど残留していないような、適度な揮発性を有しているものが好ましい。そのような化合物としては、水素化トリフェニル混合物、トリフェニルミクスチャー、ジベンジルトルエン混合物など熱媒に用いられるような化合物も挙げられるが、下記式(3)または(4)
Figure 2011057748
Figure 2011057748
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、C1〜30の、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、またはアリールアルコキシアルキル基であり、アリール基、アリールアルキル基、及びアリールアルコキシアルキル基の核には置換基として、C1〜4のアルキル基、ハロゲン基、または−OCH基を有することができ、アルコキシアルキル基、およびアリールアルコキシアルキル基は、それぞれ、アルコキシ基またはアリールアルコキシ基を、アルキル幹に複数個有していても良く、RとRおよびRとRは、共有結合で結ばれていても良く、Rは、C1〜15のアルキレン基、またはアリーレン基であり、アリーレン基の核には置換基として、C1〜4のアルキル基、ハロゲン基、または−OCH基を有することができ、mは、1〜100の整数である。)
で示されるスルホン化合物が好ましい。
上記式(3)及び(4)におけるR、R、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜30の基であり、アルキル基であれば炭素数1〜30のものが好ましく、炭素数4〜18のものであるとより好ましく、シクロアルキル基であれば炭素数6〜18のものが好ましく、アリール基であれば炭素数4〜18のものが好ましく、アリールアルキル基であれば炭素数5〜20のものが好ましく、アルコキシアルキル基であれば炭素数2〜30のものが好ましく、アリールアルコキシアルキル基であれば炭素数6〜30のものが好ましい。なお、本願において、“アリール”と称する場合、フェニル基やナフチル基などのほか、ピリジル基やチオニル基など複素芳香族環の基も含まれる。
上記式(4)におけるRは、炭素数1〜15の基であり、アルキレン基であれば炭素数1〜15のものが好ましく、炭素数1〜4のものであるとより好ましく、アリーレン基であるならば炭素数4〜15のものが好ましく、炭素数6〜12のものがより好ましい。
上記式(3)で示される化合物の具体例としては、ジメチルスルホン、ジブチルスルホン、ジフェニルスルホン、ジトリルスルホン、ジキシリルスルホン、ジメシチルスルホン、ジクロロフェニルスルホン、ジメトキシフェニルスルホン、ジシクロヘキシルスルホン、ジベンジルスルホン、ジナフチルスルホン、ジピリジルスルホン、ジフルフリルスルホン、メチルフェニルスルホン、メチルトリルスルホン、メチルシクロヘキシルスルホン、メチルメトキシフェニルスルホン、メチルクロロフェニルスルホン、メチルベンジルスルホン、メチルナフチルスルホン、フェニルトリルスルホン、フェニルキシリルスルホン、フェニルメトキシフェニルスルホン、フェニルベンジルスルホン、フェニルナフチルスルホン、フェニルメトキシメチルスルホン、フェニルフェノキシメチルスルホン、フェニルシクロヘキシルスルホン、フェニルメチルベンゼンスルホン、フェニル(3‐ピリジルメチル)スルホン、フェニル2‐チエニルスルホン、トリルブチルスルホン、トリルベンジルスルホン、トリルナフチルスルホン、トリルクロロベンジルスルホン、トリメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン、ペンタメチレンスルホン、ベンゾチオフェンジオキシド、ジベンゾチオフェンジオキシド、チオキサンセン−9、9−ジオキシド、4−ブチルチアンー1、1−ジオキシド等が挙げられる。
上記式(4)で示される化合物の具体例としては、ビス(メチルスルホニル)メタン、2、2−ビス(メチルスルホニル)プロパン、ビス(フェニルスルホニル)メタン、1、2−ビス(フェニルスルホニル)エタン、1、2−ビス(フェニルスルホニル)エチレ
ン、フェニルスルホニルベンジルスルホニルフェニルメタン等が挙げられる。
特に上記式(3)で表される固化防止剤が好ましく、なかでも、上記式(3)において、RおよびRが、それぞれ独立に、C6〜C12の、アリール基またはアリールアルキル基であるスルホン化合物が好ましく、その中でも更に、ジフェニルスルホン、p-トリルフェニルスルホン、ジトリルスルホン、ジキシリルスルホン、ジメシチルスルホン、ジナフチルスルホン、ジベンジルスルホン、ビス(2‐ピリジルメチル)スルホン等が好ましいが、価格や入手容易という点でジフェニルスルホンが最も好ましい。
本発明の製造方法において、上記固化防止剤の使用量は、固化防止剤としての効果を十分に示し、かつ重合後期に大部分の固化防止剤がポリマー中から除去できるようにするために、前記式(2)のモノマー化合物1モルに対し、好ましくは1×10−3〜1モル、より好ましくは1×10−3〜3×10−1モルの範囲である。
本発明の製造方法によって得られるポリエステルは、本発明の目的を損なわない範囲で、2種類以上の前記式(1)の構成単位からなるものであっても良く、またフェノール性ヒドロキシル基がヒドロキシアルキルエーテル化されていない芳香族ヒドロキシカルボン酸との共重合体として用いても良い。そのような芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、具体的には、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)、3−メトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸(バニリン酸)、4−メトキシ−3−ヒドロキシ安息香酸(イソバニリン酸)、3、5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸(シリンガ酸)、2,6−ジメトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、3−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、4−メチル−3−ヒドロキシ安息香酸、3−フェニル−4−ヒドロキシ安息香酸、4−フェニル−3−ヒドロキシ安息香酸、2−フェニル−4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,4−ジヒドロキシケイ皮酸(コーヒー酸)、(E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシ−フェニル)プロパン−2−エノール酸(フェルラ酸)、3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロペノン酸(クマル酸)などが挙げられ、これらは、単独で使用しても2種以上を用いても併用しても良い。
また、本発明の製造方法によって得られるポリエステルは、本発明の目的を損なわない範囲で、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシ脂肪族カルボン酸、テレフタル酸やアジピン酸などのポリカルボン酸、および多価アルコール、並びにこれらのエステル化物またはオリゴマーを共重合させたものでも良い。
本発明の製造方法によって得られるポリエステルは単独で用いてもよく、また本発明の目的を損なわない範囲で他の熱可塑性ポリマー(例えば、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアリレート、液晶性ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、シリコーン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィンなど)、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、タルク、クレーおよびマイカなど)、天然高分子(ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリヒドロキシバリレート/ヘキサノエート、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸樹脂、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤など)、難燃添加剤(リン系、ブロモ系など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系など)、流動改質剤、着色剤、光拡散剤、赤外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、離形剤などを添加したものでもよい。
以下の実施例により本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。実施例及び比較例にて用いた4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸メチル(バニリン酸メチル)は、生物起源物質から得られたものを用いた。
各物性の測定方法について以下に示す。
1)還元粘度ηsp/C
ポリマー(ポリエステル)試料0.06gを、1,1,2,2−テトラクロロエタンとp−クロロフェノールとの質量比8:5の混合溶媒10mL(ポリマー濃度が約0.6g/dL)に溶解した試料溶液を用いて、濃度35℃にて、ウベローデ粘度計を使用して測定した結果より、下記式にて求めた。
ηsp/C[dL/g]=(t/t−1)/0.6
t:試料溶液のフロータイム
:溶媒のみのフロータイム
2)ガラス転移温度、融点
TA Instruments社製DSC (型式DSC2920)により、昇温速度10℃/min、2nd Runにて測定した。
3)5%質量減少温度
Rigaku社製 TGA (型式 TG 8120 Thermo plus)により測定した。
4)硫黄含有量
ポリエステル試料をAr/O気流中にて900℃で燃焼分解し、発生したガスを吸収液に吸収させ、ダイオネクス社製イオンクロマトグラム (型式 IC DX−500)により、硫酸イオン(SO 2−)を定量し、該ポリエステル中の硫黄分の量に換算した。
5)生物起源物質含有率
ASTM D6866 08に準拠し、放射性炭素濃度(percent modern carbon;C14)による生物起源物質含有率試験から、生物起源含有物質率を測定した。
[実施例1]
4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸メチル50g(0.221モル)を反応器に入れ、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを0.0225g(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸メチル成分1モルに対して3×10−4モル)、固化防止剤としてジフェニルスルホン4.82g(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸メチル成分1モルに対して0.1モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融させた。撹拌下、反応槽内を1時間かけて徐々に205℃まで温度を上げながら、生成するメタノールを留去し、この状態で1時間かけて100Torr(13.3kPa)まで徐々に減圧し、さらにメタノールを留去した。オリゴマーの固化は起こらず、内容物の流動性も良好で、攪拌混合に特に問題はなかった。
次いで、285℃まで徐々に昇温し、285℃に到達後、更に減圧した。最終的に、0.75Torr(0.1kPa)、285℃で2時間反応せしめた。その結果、還元粘度0.630dL/gのポリエステルが得られた。このポリエステルの硫黄含有量は6ppmであった。また、生物起源物質含有率は77.3%であり、融点が278℃であり、ガラス転移温度(Tg)が84℃であり、且つ5%重量減少温度(Td)が397℃と耐熱性、熱安定性いずれも良好であった。
[比較例1]
4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸メチル50g(0.221モル)を反応器に入れ、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを0.0225g(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸メチル成分1モルに対して3×10−4モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融させた。撹拌下、反応槽内を60分かけて徐々に205℃まで温度を上げながら、生成するメタノールを留去し、この状態で1時間かけて100Torr(13.3kPa)まで徐々に減圧し、さらにメタノールを留去した。その際、オリゴマーの固化が一部で起こり、内容物が著しく流動しにくくなって充分に攪拌混合されなくなった。 次いで、285℃まで徐々に昇温し、285℃に到達後、更に減圧した。最終的に、0.75Torr(0.1kPa)、285℃で5時間反応せしめた。得られたポリエステルは、硫黄含有量は1ppm以下、生物起源物質含有率は77.3%、融点が275℃、ガラス転移温度(Tg)が82℃であり、且つ5%重量減少温度(Td)が396℃と耐熱性、熱安定性はいずれも良好であったが、還元粘度は0.512dL/gにとどまった。
[比較例2]
4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸メチル50g(0.221モル)を反応器に入れ、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを0.0225g(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸メチル成分1モルに対して3×10−4モル)、フタル酸 ビス(2−エチルヘキシル)4.32g(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸メチル成分1モルに対して0.1モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融させた。
撹拌下、反応槽内を60分かけて徐々に205℃まで温度を上げながら、生成するメタノールを留去し、この状態で1時間かけて100Torr(13.3kPa)まで徐々に減圧し、さらにメタノールを留去した。その際、オリゴマーの固化が一部で起こり、内容物が著しく流動しにくくなって充分に攪拌混合されなくなった。
次いで、285℃まで徐々に昇温し、285℃に到達後、更に減圧した。最終的に、0.75Torr(0.1kPa)、285℃で5時間反応せしめた。その結果、還元粘度0.196dL/gと重合度が不十分なポリエステルが得られた。このポリエステルの生物起源物質含有率は77.3%であり、融点が258℃であり、ガラス転移温度(Tg)が63℃であり、且つ5%重量減少温度(Td)が376℃と耐熱性、熱安定性が不十分であった。これは、フタル酸 ビス(2−エチルヘキシル)が分解したり、ポリエステル末端と反応してポリマー鎖に取り込まれたりしたことが原因と思われる。
本発明の製造方法によって得られるポリエステルは、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、その他エンジニアリングプラスチック成形品等に好適である。

Claims (4)

  1. 下記式(1)
    Figure 2011057748
    (式中、Rは炭素数2〜8の脂肪族基、R、RはそれぞれH、OH、OCH、OCのいずれかである。)
    の構成単位よりなるポリエステルの製造方法において、
    重合触媒及び固化防止剤の存在下に、下記式(2)
    Figure 2011057748
    (式中、Rは炭素数2〜8の脂肪族基であり、R、RはH、OH、OCH、OCのいずれかであり、RはH、CH、C又はC(フェニル基)である。)
    で表されるヒドロキシアルコキシ芳香族カルボン酸誘導体を、常圧で加熱反応させ、次いで減圧下、200℃〜300℃の温度で加熱しながら溶融重縮合させることを特徴とする製造方法。
  2. 固化防止剤が、下記式(3)または(4)
    Figure 2011057748
    Figure 2011057748
    (式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、C1〜30の、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、またはアリールアルコキシアルキル基であり、アリール基、アリールアルキル基、及びアリールアルコキシアルキル基の核には置換基として、C1〜4のアルキル基、ハロゲン基、または−OCH基を有することができ、アルコキシアルキル基、およびアリールアルコキシアルキル基は、それぞれ、アルコキシ基またはアリールアルコキシ基を、アルキル幹に複数個有していても良く、RとRおよびRとRは、共有結合で結ばれていても良く、Rは、C1〜15のアルキレン基、またはアリーレン基であり、アリーレン基の核には置換基として、C1〜4のアルキル基、ハロゲン基、または−OCH基を有することができ、mは、1〜100の整数である。)
    で示されるスルホン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  3. 固化防止剤が、請求項2記載の式(3)において、RおよびRが、それぞれ独立に、C6〜C12の、アリール基またはアリールアルキル基である請求項2に記載の製造方法。
  4. 硫黄原子量が30質量ppm以下のポリエステルを得る請求項2または3に記載の製造方法。
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