JP2011042864A - 機械的特性に優れたマグネシウム合金鍛造材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】強度伸びバランスなどの機械的な特性が優れたMg−Zn−Gd系マグネシウム合金鍛造材とその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】特定組成のMg−Zn−Gd系マグネシウム合金鋳塊を熱間鍛造する際に発生する加工発熱を極力抑制して熱間鍛造字の割れを防止し、しかも、この熱間鍛造によって得られた鍛造材組織を、長周期積層構造から形成されるとともに、その周縁が互いに再結晶粒で分断されているラメラ相として、好ましくは、前記再結晶粒も微細化させるとともに特定の平均面積分率だけ存在させて、このラメラ相を微細化させ、強度伸びバランスを優れさせる。
【選択図】図1

Description

本発明は、機械的特性に優れ、熱間鍛造によって製造されたMg−Gd−Zn系のマグネシウム合金鍛造材およびその製造方法に関する。以下、マグネシウムをMgとも言う。
一般に、マグネシウム合金材は、実用化されている合金の中で最も密度が低く軽量で強度も高いため、電気製品の筐体や、自動車のホイールや、足回り部品等の自動車部品等への適用が進められている。
特に、自動車に関連する用途の部品においては、高い機械的性質が要求されるため、Gd、YなどのREM(希土類元素)やZnを合金元素として添加したMg−Zn−REM系マグネシウム合金材が、耐熱性に優れる合金として提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2および非特許文献1参照)。ただ、これらは、片ロール法、急速凝固法などの特殊な方法により、製品形状のマグネシウム合金材を製造している。
しかし、前記した特殊な製造方法は、Mg−Zn−REM系マグネシウム合金材の高い機械的性質が得られるものの、特殊な設備が必要であり、生産性も低いという問題があり、更に適用できる部材が限られるという問題もある。
そこで、これに対して、前記特殊な設備あるいはプロセスを用いずに、生産性の高い、溶解鋳造、塑性加工(押出)からなる、通常の製造方法で製造しても、実用上有用な機械的性質が得られるMg−Zn−Gd系マグネシウム合金材ものが提案されている(例えば、特許文献3〜6参照)。Gdは、Yなどの他のREM(希土類元素)に比して、鋳造が容易であるなど、前記生産性の高い通常の製造方法に適している。
これら公知のMg−Zn−Gd系マグネシウム合金材は、共通して、組織中に後述する長周期積層構造を有しており、これによって高い機械的性質が得られることが知られている。ここで、長周期積層構造(Long Period Ordered Structure 略してLPO)とは、Mgの六方晶構造における最密面の原子積層構造が、通常のAB型ではなく、ABACAB型など長周期の構造を持つものをいう。このLPO構造が存在すると、マグネシウム合金材の引張強さおよび耐力、特に、高温での引張強さおよび耐力が向上することが知られている。
これら従来の、溶解鋳造、塑性加工(押出)からなる、通常の製造方法で製造された、組織中に長周期積層構造を有するマグネシウム合金材の、強度や伸びなどの機械的性質を更に高めたマグネシウム合金材も提案されている(例えば、特許文献7〜9参照)。
前記特許文献7、8では、Zn、Gdを所定量含有するMg−Zn−Gd系マグネシウム合金材の組織を、長周期積層構造を有するとともに、この粒内や粒界に、Mg−GdまたはMg−Zn−Gdなどからなる特定組成の晶析出物を特定量析出させたものとしている。そして、このようなマグネシウム合金材を、溶解鋳造後に熱間押出加工をして、更に、200〜300℃で20時間以上保持する熱処理を施すか、熱間押出加工の加工速度を調整することで製造している。
特許文献9では、Zn、GdなどのREを所定量含有するMg−Zn−RE系マグネシウム合金材の組織を、長周期積層構造とα−Mgとで形成されるラメラ相としている。そして、熱間押出加工で、マグネシウム合金材に高温下で所定量の歪みを与えて、このラメラ相を微細化し、一部の長周期積層構造に湾曲部および屈曲部のうちの少なくとも一方を形成し、かつ、分断部を形成している。また、この長周期積層構造の分断部に、前記微細化したα−Mgが形成されている組織ともしている。そして、このような組織により、優れた引張強度、耐力、伸びを有するマグネシウム合金材が得られるとしている。
特許文献10では、Zn、GdなどのREを所定量含有するMg−Zn−RE系マグネシウム合金材を、溶体化処理後の低温の熱処理によって析出させた、針状または板状の析出物を有する組織としている。
特許文献11では、Zn、GdなどのREを所定量含有するMg−Zn−RE系マグネシウム合金材の組織を、長周期積層構造とα−Mgとで形成されるラメラ相とし、このラメラ相の一部が湾曲または屈曲したものとしている。
この特許文献11を含めて、前記通常の製造方法での製造を指向する特許文献3〜10などでは、Mg−Zn−RE系マグネシウム合金材を、インゴットから「ECAE(equal-channel-angular-extrusion )加工法」なる押出加工によって、押出材として製造している。これらMg−Zn−RE系マグネシウム合金押出材に共通する特徴的な点は、押出加工によって、高温下で比較的大きな歪み量(加工量)を与え、前記ラメラ相を結晶粒径で20〜60μm程度に微細化し、粒界に多量の微細な晶析出物(Mg−Gd化合物)が存在する組織としている点である。
これに関連して、非特許文献2では、その図13において、Mg−Zn−Y系マグネシウム合金材の押出加工温度と強度、伸びとの関係について、押出加工温度が低い方が、強度は高くなる(伸びは低くなる)ことが開示されている。
特開平06−041701号公報 特開2002−256370号公報 国際公開第2005/052204号パンフレット 国際公開第2005/052203号パンフレット 国際公開第2006/036033号パンフレット 特開2006−97037号公報 特開2008−127639号公報 特開2008−138249号公報 特開2008−150704号公報 特開2007−284782号公報 特開2008−75183号公報
山崎倫昭、他3名,「高温熱処理法により長周期積層構造が形成する新規Mg−Zn−Gd合金」,軽金属学会第108回春期大会講演概要(2005),社団法人軽金属学会,2005年,p.43−44 J.Mater.Res.、Vol.16,No.7,Jul 2001 p1894-1899、「Novel hexagonal structure and ultrahigh strength of magnesium solid solution in the Mg-Zn-Y system」 Akihisa Inoue, et.al
Mg−Zn−RE系マグネシウム合金材の用途を、前記した自動車のホイールや、足回り部品等の自動車部品等のマグネシウム合金部品に広げる場合には、その部品形状からして、前記した押出材ではなく、鍛造によって製造する鍛造材の方が有利な場合や、鍛造によらないと製造できない場合が多々ある。この点、通常の製造方法を指向する前記特許文献や非特許文献でも、Mg−Zn−Gd系マグネシウム合金の鋳造材を塑性加工する方法としては、押出加工以外にも、圧延、引抜や鍛造などの加工方法の可能性を例示している。
本発明者らの知見によれば、従来の熱間押出では製造可能なMg−Zn−Gd系マグネシウム合金材であっても、その組織を前記した押出材と同じく長周期積層構造を含むラメラ相とするために、前記熱間押出と同じようなレベルの比較的大きな歪み量(加工量)で熱間鍛造した場合には、この鍛造中に割れが生じやすく、製造できない問題が生じる。因みに、このような熱間鍛造で製造できない問題の認識は、当然ながら、通常の製造方法を指向する前記特許文献や非特許文献には無い。これら特許文献や非特許文献の全ての実施例では、Mg−Zn−RE系マグネシウム合金材を前記ECAEなる押出加工のみによって製造しており、熱間鍛造で製造した例は無いからである。
また、これも本発明者らの知見ではあるが、このような熱間鍛造での製造上の問題だけではなく、熱間鍛造によって、組織を長周期積層構造を含むラメラ相としたMg−Zn−Gd系マグネシウム合金鍛造材であっても、強度伸びバランスなどの機械的性質をさらに向上させることが必要であった。前記した通り、これまで、Mg−Zn−RE系マグネシウム合金材を熱間鍛造で製造した例はあまり無く、軽量化の目的で、前記種々のマグネシウム合金部品への応用を進めるためには、前記押出材の課題と全く同じく、強度伸びバランスなどの機械的性質をさらに向上させることが必要であるからである。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、強度伸びバランスなどの機械的性質を向上させるとともに、熱間鍛造によって製造が可能な、Mg−Zn−Gd系マグネシウム合金鍛造材およびその製造方法を提供することである。
この目的を達成するために、本発明の機械的特性に優れたマグネシウム合金鍛造材の要旨は、原子%で、Gd:0.4〜5.0%、Zn:0.2〜2.5%、を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるMg−Gd−Zn系マグネシウム合金からなり、このマグネシウム合金組織中に長周期積層構造を含むラメラ相が形成されるとともに、その周縁が互いに再結晶粒で分断され、このラメラ相の平均粒径が30μm 以下であることとする。
ここで、本発明のマグネシウム合金鍛造材の組織前記規定において、ラメラ相の周縁が互いに再結晶粒で分断されているという意味は、ラメラ相の粒界に再結晶が存在し、その再結晶によってラメラ相が分断されているということで、前記した晶析出物が残存してもよい。
後述する実施例で裏付ける通り、歪み量(加工量)に関わらず、本発明の製造方法のように、熱間鍛造時の加工発熱を極力抑制しなければ、再結晶粒は生成せず、本発明組織は得られない。熱間鍛造時の加工発熱が抑制されない場合には、前記した押出材のように、ラメラ相の粒界に晶析出物(Mg−Gd化合物)が残存する一方で、再結晶粒は生成しない。現実的には、ラメラ相の周縁を互いに晶析出物で分断するようには、ラメラ相の粒界に多量には存在しないが、ラメラ相の粒界に間隔をあけて散見される程度(数は少ないものの)存在する(検出できる)。但し、このような場合でも、ラメラ相の周縁を互いに分断する再結晶粒の存在自体は必須である。
また、前記再結晶粒の平均粒径が5μm以下であるとともに、平均面積分率が35〜70%の範囲であることが好ましい。
更に、上記目的を達成するために、本発明の機械的特性に優れたマグネシウム合金鍛造材の製造方法の要旨は、原子%で、Gd:0.4〜5.0%、Zn:0.2〜2.5%を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるMg−Gd−Zn系マグネシウム合金インゴットを、圧下率が55〜85%の範囲および温度が300〜420℃の範囲で、金型を用いて熱間鍛造するに際し、前記金型の温度を前記インゴットの加熱温度よりも5〜30℃の範囲で低くした状態で熱間鍛造を開始し、鍛造材の組織を、長周期積層構造から形成されるとともに、その周縁が互いに再結晶粒で分断されているラメラ相を有し、このラメラ相の平均粒径が30μm 以下であるものとする。
本発明は、Mg−Zn−Gd系マグネシウム合金鍛造材の機械的性質向上の手段として、マグネシウム合金組織中に長周期積層構造とα−Mgとで形成されたラメラ相を有する点は、前記した従来の、特にMg−Gd−Zn系マグネシウム合金押出材などと同じである。しかし、このラメラ相の周縁(粒界)を再結晶させた再結晶粒群で仕切ることによって、ラメラ相をより微細化させ、機械的性質を更に向上させる点が大きく異なる。
従来のMg−Gd−Zn系マグネシウム合金材の熱間鍛造や熱間押出などの製造方法では、これら塑性加工時に、加工発熱が発生し、加工中のマグネシウム合金材の高温化(温度上昇)が避けがたい。ラメラ相の微細化機構は十分に明らかとはなっていないが、加工発熱によりマグネシウム合金材の温度が上昇するとラメラ相は微細化されず、温度上昇せずマグネシウム合金材の温度が低温に保たれると、再結晶粒が生成し、微細なラメラ相が得られる。前記した、組織を長周期積層構造を含むラメラ相とした、従来のMg−Zn−Gd系マグネシウム合金材の強度や伸びなどの機械的性質に限界があったのは、主として、この熱間塑性加工時の加工発熱によるものである。
これは、Mg−Zn−Y系マグネシウム合金材について、押出加工温度と強度との関係を開示した前記非特許文献2も同様である。この非特許文献2では、確かに、前記した通り、押出加工温度が低い方が高強度となっているが、これは、押出加工温度が低い方が、マグネシウム合金材に対して、押出による歪がより多く入るからである。そして、この非特許文献2も、本発明同様に、ラメラ相も形成されてはいるが、前記熱間押出時の加工発熱を一切考慮していないために、この加工発熱によって、必然的に、再結晶粒群が生成しないために、ラメラ相が微細化されずに粗大化し、強度伸びバランスなどの機械的性質に限界があったものである。
これに対して、本発明では、熱間鍛造時の加工発熱を極力抑制して、加工中のマグネシウム合金材の高温化(温度上昇)を避け、このラメラ相の周縁(粒界)を再結晶させ、これら再結晶粒群でこのラメラ相を仕切ることによって、ラメラ相をより微細化させ、機械的性質を更に向上させる。
この結果、本発明では、Mg−Zn−Gd系マグネシウム合金材の優れた機械的性質の目安として、引張強度が320MPa以上であるとともに、0.2%耐力が240MPa以上であり、伸びが5以上であり、強度伸びバランスに優れる、機械的性質が得られる。
このように、本発明の前記再結晶粒群を有する鍛造材組織は、熱間鍛造時の加工発熱を極力抑制すれば、前記した熱間押出と同じような比較的大きな歪み(加工量)で熱間鍛造せずとも、得ることができる。言い換えると、この加工発熱を極力抑制しなければ、熱間鍛造によって、前記再結晶粒群を有する本発明鍛造材組織は得られない。したがって、本発明は、熱間鍛造によって、生産性が高くMg−Zn−Gd系マグネシウム合金材を製造できるという大きな効果も得られる。
本発明の鍛造材組織を示す光学顕微鏡写真(図面代用写真)である。 図1の組織の一部を拡大して示すSEM(走査型電子顕微鏡)写真(図面代用写真)である。 比較例の鍛造材組織を示す光学顕微鏡写真(図面代用写真)である。
(マグネシウム合金成分組成)
本発明では、マグネシウム合金の成分組成を、優れた機械的性質を得るための基本として、原子%で、Gd:0.4〜5.0%、Zn:0.2〜2.5%、を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるMg−Gd−Zn系マグネシウム合金とする。以下に各成分について説明する。
(Gd)
Gdは、同じ効果を有するY、Dy、Ho、Er、Tmなど他の希土類元素(REM:Rare−Earth−Metal)に比して、鋳造しやすく常法にて製造しやすいという、大きな利点がある。Gdは、Znと共に特定の量含有することにより、Mg−Zn−Gd系合金の合金組織中に長周期積層構造(Long Period Ordered Structure 略してLPO)を形成させ、これによって、再結晶粒によって分断されたラメラ相を形成できる。
Gd含有量が少なすぎると、GdをMgマトリックスに十分に固溶させることができず、長周期積層構造を形成させることができない。このため、再結晶粒によって分断されたラメラ相も形成できなくなる。一方で、Gd含有量が多すぎると、粗大なMg−Gd系金属間化合物が生じて、マグネシウム合金鍛造材の伸びが低下する(脆化する)。したがって、Gdは0.4〜5.0原子%の範囲で含有させる。
(Zn)
Znは、Gdと共に特定の量含有することにより、Mg−Zn−Gd系合金の合金組織中に長周期積層構造を形成させ、これによって、再結晶粒によって分断されたラメラ相を形成できる。
Zn含有量が少なすぎると、ZnをMgマトリックスに十分に固溶させることができず、長周期積層構造を形成させることができない。このため、再結晶粒によって分断されたラメラ相も形成できなくなる。一方で、Zn含有量が多すぎると、粗大なMg−Zn系金属間化合物が生じて、マグネシウム合金鍛造材の伸びが低下する(脆化する)。したがって、Znは0.2〜2.5原子%の範囲で含有させる。
(不可避的不純物)
なお、Mg−Zn−Gd系合金は、Mg地金だけではなく、Mgスクラップを溶解原料として使用するなど、前記した成分以外の元素が必然的に含まれる可能性がある。この点、Zn、Gd以外にも、本発明に係るマグネシウム合金鍛造材の効果に悪影響を与えない範囲内であれば、不可避的不純物の範囲で、他の成分を含有することができる。例えば、Zrを2原子%以下の範囲で含んでいても構わない。このZrは不純物ではあるが、少量の含有で微細化に寄与する効果もある。また、Fe、Ni、Cu、Si等を各々0.2原子%以下含んでいても構わない。
(マグネシウム合金組織)
本発明マグネシウム合金鍛造材は、図1に示すように、Mg−Zn−Gd系合金の合金組織中に長周期積層構造(LPSO)で形成され、微細な再結晶粒の群によって分断された多数のラメラ相を有する。ここで、図1には、このラメラ相の組織単位(表示はラメラ組織単位)のひとつを点線で囲って例示し、ラメラ相中の長周期積層構造や、微細な再結晶粒の群(表示は再結晶粒)も引き出し線によって例示している。この図1の再結晶粒群の部分を拡大したものを図2に示し、再結晶粒のひとつを引き出し線によって例示している。図1は倍率400倍の光学顕微鏡写真であり、図2は倍率2000倍のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。なお、この図1は、後述する実施例表1における発明例1のマグネシウム合金鍛造材の組織を示す。
前記長周期積層構造は、溶解鋳造工程、または溶解、鋳造後の熱処理工程において、Mg−Zn−Gd系合金の合金組織であるラメラ組織内に層状組織を形成して存在する。この長周期積層構造から得られる電子回折図形では、六方晶構造を示す回折斑点中に長周期に対応した回折斑点が現れることから、長周期構造を確認することができる。
前記図1に示すように、長周期積層構造は直線状に形成され、その形成方向は、同一ラメラ組織単位内では同一方向に形成され、組織単位同士では互いに異なる方向に形成される。ただ、この長周期積層構造(ラメラ相)が形成されたままの状態では、マグネシウム合金鍛造材の機械的性質が不十分で、高い引張強度および0.2%耐力を維持しながら、高い伸びを得ることができない。
そのため、本発明では、前記長周期積層構造(ラメラ相)に熱間鍛造加工を加えることで、前記図1に示すように、その周縁を微細な再結晶粒の群によって分断して微細化させる。ここで、ラメラ相の周縁が互いに再結晶粒で分断されているという意味は、ラメラ相の粒界に多量にあるいは連続して存在するのは前記再結晶粒であるという意味である。後述する通り鍛造条件が適切でなく、再結晶粒が生成しないか、例え再結晶粒が生成しても、この再結晶粒がラメラ相の周縁を再結晶粒で分断するには、数が不足するか、粗大化しすぎる場合には、ラメラ相の平均粒径を30μm 以下と微細化させることができない。
本発明では、前記図1に示すように、前記した晶析出物(Mg−Gd化合物)はラメラ相の粒界には存在しない。また例え存在しても、ラメラ相の周縁を互いに分断して存在する再結晶粒に対して、その数は著しく少なく、間隔を開けた散発的であり、従来の押出材のようには、ラメラ相の周縁を互いに分断するように、多量にあるいは連続しては存在しない。
これに対して、図3は、前記図1と同様の倍率400倍の光学顕微鏡写真であるが、後述する実施例表1における比較例11のマグネシウム合金鍛造材の組織を示す。即ち、図3は、後述する通り、熱間鍛造時の加工発熱を抑制せずに製造したマグネシウム合金鍛造材の例であり、前記した押出材のように、ラメラ相の粒界に晶析出物(Mg−Gd化合物)が残存する一方で、再結晶粒は生成していない。
本発明では、Mg−Zn−Gd系マグネシウム合金鍛造材の強度や伸びなどの機械的性質を向上させるために、このような長周期積層構造から形成されるとともに、その周縁が互いに再結晶粒で分断されているラメラ相の平均粒径を30μm以下と微細化させる。ラメラ相が30μm を超えて粗大化した場合には、強度伸びバランスなどの機械的性質が向上しない。
ここで、ラメラ相だけでなく、ラメラ相を分断している再結晶粒も、その平均粒径を5μm以下に微細化させ、かつ、その平均面積分率を35〜70%の範囲とすることが好ましい。この再結晶粒の平均粒径が5μmを超えて粗大化した場合には、再結晶粒の群によってラメラ相を分断しにくくなり、ラメラ相の平均粒径を30μm以下と微細化させることが難しくなる。また、この再結晶粒(群)の平均面積分率が35%未満でも、ラメラ相を分断しにくくなり、ラメラ相の平均粒径を30μm以下と微細化させることが難しくなる。一方、再結晶粒(群)の平均面積分率が70%を超えて大きくなると、ラメラ相自体の平均面積分率が小さくなって、Mg−Zn−Gd系マグネシウム合金鍛造材の強度伸びバランスなどの機械的性質が向上されにくくなる。なお、この再結晶粒の平均粒径の方は、実施例で測定方法を詳述する通り、SEMによる、後方散乱電子回折像を用いた結晶方位解析方法(SEM/EBSP法)により測定する。
(製造方法)
本発明マグネシウム合金鍛造材を得るための好ましい製造方法、条件について以下に説明する。本発明のマグネシウム合金鍛造材は、前記した通り、溶解鋳造、熱処理、鍛造からなる、通常の鍛造方法で製造可能である。即ち、前記した特定成分組成に調整したマグネシウム合金溶湯のインゴットを鋳造後、合金元素を固溶させるための(固溶量を確保するための)溶体化処理、必要により調質処理(熱処理)、熱間鍛造するためのビレットの機械加工、熱間鍛造を行なって製造する。
但し、前記した通り、従来の鍛造工程では、熱間鍛造時に、加工発熱が発生し、鍛造加工中のマグネシウム合金材の高温化(温度上昇)が避けがたい。このため、ラメラ相の組織単位を微細にすることができない。組織を長周期積層構造を含むラメラ相とした、従来のMg−Zn−Gd系マグネシウム合金鍛造材の強度伸びバランスなどの機械的性質に限界があったのは、主として、この熱間鍛造時の加工発熱によるものである。
これに対して、本発明では、このラメラ相の周縁を再結晶させ、これら再結晶粒群でこのラメラ相を仕切ることによって、ラメラ相をより微細化させ、機械的性質を更に向上させるために、前記熱間鍛造時の加工発熱を極力抑制して、加工中のマグネシウム合金鍛造材の高温化(温度上昇)を避ける必要がある。
熱間鍛造時の歪み量(圧下率)に関わらず、熱間鍛造時の加工発熱を極力抑制しなければ、再結晶粒は生成せず、本発明組織は得られない。熱間鍛造時の加工発熱が抑制されない場合には、前記した図3のように、前記した押出材のように、ラメラ相の粒界に再結晶粒は生成しない。また、例え、再結晶粒が生成しても、ラメラ相の周縁を再結晶粒で分断するには、数が不足するか、粗大化しすぎ、ラメラ相を微細化することができない。
熱間鍛造時の加工発熱を極力抑制するために、熱間鍛造前の金型温度を、前記熱間鍛造前のマグネシウム合金インゴット素材の加熱温度(熱間鍛造温度)よりも低くする。これに対して、通常の熱間鍛造では、加工時(開始時や終了時)のマグネシウム合金インゴット素材の加熱温度(熱間鍛造温度)が先ず設定される。そして、使用する金型によって冷却されて、加工中のインゴットの実体温度が下がって、前記設定温度から逸脱しないように、使用する金型温度は、前記インゴットの加熱温度と、ほぼ同じくすることが常識的である。このため、従来のMg−Gd−Zn系マグネシウム合金鍛造材の製造方法では、熱間鍛造時に加工発熱が多量に発生し、必然的に、加工中のマグネシウム合金鍛造材の高温化(温度上昇)が避けがたい。
使用する金型温度を、前記熱間鍛造前のマグネシウム合金インゴットの加熱温度(素材温度)とほぼ同じくした場合の、この加工発熱による加工中のマグネシウム合金鍛造材の温度上昇は、勿論加工条件にもよるが、計算すると、概ね10℃以上、40℃以下の範囲である。
これに対して、本発明では、熱間鍛造前のマグネシウム合金インゴットの加熱温度に対して、熱間鍛造前の金型温度を5℃以上、30℃以下の範囲で低くする。これによって、前記金型の温度を前記インゴットの加熱温度よりも5〜30℃低くした状態で熱間鍛造を開始し、熱間鍛造時のマグネシウム合金インゴットの素材温度(加熱温度)は維持したままで、加工発熱による、加工中のマグネシウム合金鍛造材の高温化(温度上昇)を抑制する。そして、このような熱間鍛造によって、鍛造材の組織を、長周期積層構造から形成されるとともに、その周縁が互いに再結晶粒で分断されているラメラ相を有し、このラメラ相の平均粒径が30μm 以下であるものとする。
前記金型温度のインゴットの加熱温度に比した差(低さ)が5℃未満では、後述する最適圧下条件や温度条件での熱間鍛造時の加工発熱を効果的に抑制できない。一方、金型温度のインゴットの加熱温度に比した差(低さ)が30℃を超えると、熱間鍛造時の後述する最適温度条件を維持できずに、熱間鍛造温度が下がり過ぎてしまい、逆に本発明の再結晶組織が得られないか、加工限界未満となる。
(溶解鋳造工程)
溶解、鋳造も常法に従って行うが、溶解、鋳造工程は溶湯からの酸化物除去のために、マグネシウム合金の溶解後は、鋳造するまでに、あるいは鋳造しつつ、フラックス精錬することが好ましい。
(溶体化処理)
マグネシウム合金インゴットの溶体化処理は、200〜540℃の処理温度で1〜30時間行なうことが好ましい。より好ましい溶体化処理温度は300〜520℃である。この温度が低過ぎる、あるいは時間が短過ぎると、Gd、Znなどの合金元素の固溶量が不足する可能性がある。一方、この温度が高過ぎる、あるいは時間が長過ぎると、結晶粒が粗大化する可能性がある。必要により調質処理(熱処理)を行なうなど、複数回の熱処理を実施してもよい。
(熱間鍛造工程)
前記熱処理したマグネシウム合金を、前記熱処理後に冷却して再加熱するか、あるいは前記熱処理後に前記熱間鍛造温度まで冷却して、熱間鍛造を施す。熱間鍛造では、鋳造、熱処理により生じたラメラ相を微細化すると共に、前記図1に示すように、長周期積層構造(ラメラ相)の周縁を、微細な再結晶粒の群によって分断して微細化させる。したがって、ラメラ相を微細化や、微細な再結晶粒の形成のためには、できるだけ低温で塑性加工し、必要十分な歪みを与えることが好ましい。
このため、前記した成分組成のMg−Gd−Zn系マグネシウム合金インゴットを熱間鍛造するに際しては、圧下率(加工量)を55〜85%の範囲とし、かつ300〜420℃の温度範囲で金型を用いて熱間鍛造する。
熱間鍛造の際のインゴットの加熱温度(鍛造温度)の上限は420℃以下、好ましくは400℃以下とし、下限は、加工限界である300℃以上、好ましくは340℃以上とする。インゴットの加熱温度(鍛造温度)が340℃未満では、割れたり、プレス能力が不足する。前記した通り、熱間鍛造前の金型温度は、これらのインゴットの加熱温度に対して、5℃以上、30℃以下の範囲で低くする。
また、熱間鍛造の際の圧下率(加工量)は55〜85%の範囲とし、インゴットに付与する歪みは相当歪みで0.9以上とする。相当歪みとは、VonMiesesの降伏応力に対応する相当歪みである。このような相当歪みを、前記熱間鍛造温度範囲において与えるためには、前記圧下率の範囲とし、また、鍛造速度を最大で20mm/sec程度とすることが好ましい。圧下率が55%未満であると、前記相当歪みが0.9未満となり、前記本発明の再結晶粒が生成しないか、生成してもラメラ相の周縁を再結晶粒で分断するには数が不足して、ラメラ相が微細化されない。このため、マグネシウム合金鍛造材の引張強度および耐力が低くなることは勿論、伸びも低い値となってしまう。
一方、熱間鍛造の際の圧下率が85%を超えると、前記した通り、従来の押出加工並の加工率となって、熱間鍛造中の割れが生じやすくなり、熱間鍛造自体ができなくなる。また、前記相当歪みも2.3を超えて高くなりすぎ、マグネシウム合金鍛造材の引張強度、0.2%耐力、伸びが却って低下する。
この熱間鍛造後は、強制的に空冷さらには水冷することが、結晶粒粗大化防止の点で好ましい。また、熱間鍛造後の鍛造材は、用途に合わせて、必要に応じて、更に調質(熱処理)あるいは加工、表面処理などが施されて良い。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
以下に、本発明の実施例を説明する。Mg−Zn−Gd系マグネシウム合金組成と製造方法、特に熱間鍛造加工条件を変えて、マグネシウム合金組織中のラメラ相の平均粒径(μm )、ラメラ相を分断する再結晶粒の平均粒径(μm )と平均面積分率(%)を種々変えて、得られたマグネシウム合金鍛造材のTS(MPa)、YS(MPa)、伸び(%)などの機械的な特性を各々測定、評価した。これらの結果を下記表1に示す。
より具体的には、下記表1に示す化学成分組成のマグネシウム合金を、それぞれアルゴン不活性雰囲気下の電気溶解炉において溶解し、鋳鉄製ブックモールドに750℃の温度で鋳込み、95mmφ×180mm長さのマグネシウム合金鋳塊を得た。そして、これらの鋳塊の表面を機械加工により面削して、各々90mmφ×35mmのマグネシウム合金ビレットとした。
この各ビレットを各例とも共通して520℃の処理温度で10時間行う条件で溶体化処理した。この溶体化処理後に、調質処理(熱処理)として、500℃の処理温度で、4時間の熱処理を行なった。その後、下記表1に示す鍛造前の各素材温度(鍛造開始温度)に再加熱して各鍛造加工を行った。この際の鍛造前の金型温度(金型加熱)や鍛造速度は下記表1に示す条件として、円盤状の試験材に成形した。
各例とも、前記塑性加工後の試験材から切り出した試料を使用して、マグネシウム合金組織中のラメラ相の平均粒径(μm )、ラメラ相を分断する再結晶粒の平均粒径(μm )と平均面積分率(%)を種々変えて、得られたマグネシウム合金鍛造材のTS(MPa)、YS(MPa)、伸び(%)などの機械的な特性を各々測定、評価した。
ここで、表1に示すMg−Zn−Gd系マグネシウム合金は、記載の元素含有量を除いた残部組成は、酸素、水素、窒素などの極微量不純物成分を除き、マグネシウムである。また、表1の各元素含有量において示す「−」は、元素含有量が検出限界以下であることを示す。
(組織観察)
前記調質処理後の試験材から切り出した試料の断面を120〜1000番のサンドペーパで研磨後、アルミナ等でバフ研磨して鏡面化し、鏡面化された表面を酢酸グリコール水溶液等でエッチングして組織観察面とした。この組織観察面を、前記図1のように、400倍の光学顕微鏡で観察した結果(視野)を写真撮影し、この組織写真から長周期積層構造(LPSO)の状態を観察した。このとき、任意の3箇所を観察し、マグネシウム合金組織中のラメラ相最低50粒以上の粒径(円相当径)を調べ、その平均値をラメラ相の平均粒径(μm)とした。なお、粒径が5μm未満(400倍の光学顕微鏡写真上で2mm未満)の粒については、ラメラ相であることの判定が困難であるため、測定結果から除外した。また、ラメラ相を分断する再結晶粒の平均面積分率(%)を画像処理にて算出した。
(再結晶粒の平均粒径)
一方、ラメラ相を分断している再結晶粒の平均粒径は、SEMによる、後方散乱電子回折像(EBSP:Electron Backscatter Diffraction Pattern)を用いた結晶方位解析方法(SEM/EBSP法)により測定した。上記EBSPを用いた結晶方位解析方法は、SEMの鏡筒内にセットした試料表面に電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。コンピュータでは、この画像を解析して、既知の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって、結晶の方位が決定される。
上記EBSPを用いた結晶方位解析方法は、結晶粒毎の測定ではなく、指定した試料領域を任意の一定間隔で走査して測定し、かつ、上記プロセスが全測定点に対して自動的に行なわれるので、測定終了時には数万〜数十万点の結晶方位データが得られる。このため、観察視野が広く、多数の結晶粒に対する、平均結晶粒径、平均結晶粒径の標準偏差、あるいは方位解析の情報を、数時間以内で得られる利点がある。
具体的な測定は、組織観察用の試験片を採取し、機械研磨およびバフ研磨を行って、試料表面を調製する。このように得られた試験片について、SEM装置として、例えば日本電子社製SEM(JSM−6500F)、例えばTSL社製のEBSP測定・解析システム:OIM(Orientation Imaging Macrograph、解析ソフト名「OIMAnalysis」)を用いて解析を行う。
この際、測定される材料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から、菊池パターンを得る。この際、電子線を試料表面に2次元で走査させ、所定ピッチ毎に結晶方位を測定すれば、試料表面の方位分布を測定できる。次に、得られた上記菊池パターンを解析して、電子線入射位置の結晶方位を知る。即ち、得られた菊池パターンを既知の結晶構造のデータと比較し、その測定点での結晶方位を求める。同様にして、その測定点に隣接する測定点の結晶方位を求め、これら互いに隣接する結晶の方位差が±5°以内(結晶面から±5°以内のずれ)のものは同一の結晶面に属するものとする(見なす)。また、両方の結晶の方位差が±5°を超える場合には、その間(両方の六角形が接している辺など)を粒界とする。このようにして、試料表面の再結晶粒径の分布を求める。測定視野範囲は、例えば100μm×100μm程度の領域とし、これを試験片の適当箇所数か所で測定を行い平均化する。
(機械的な特性)
前記調質処理後の試験材からJIS4号試験片を切り出し、JIS規定の引張試験に準じて、引張強さ、耐力(0.2%)、伸び(%)を測定した。その結果を表1に示す。
表1から明らかな通り、本発明組成内のMg−Zn−Gd系マグネシウム合金である発明例1〜6の鍛造材は、前記好ましい範囲で、熱間鍛造前の素材(インゴット)温度よりも熱間鍛造前の金型温度を低くして、熱間鍛造における加工発熱を抑制して製造されている。これによって、鍛造材組織中のラメラ相の平均粒径、ラメラ相を分断する再結晶粒の平均粒径が微細化されている。また、再結晶粒の平均面積分率も適当である。この結果、発明例は特に強度伸びバランスなどの機械的な特性に優れる。
また、これら発明例は、いずれも熱間鍛造工程において、割れが発生することなく、鍛造できており、熱間鍛造の生産性が高いことも確かめられた。
これに対して、比較例7は、発明例と同じ、本発明組成内のMg−Zn−Gd系マグネシウム合金であるものの、熱間鍛造の圧下率が低すぎる。このため、本発明の再結晶粒が生成しているものの、ラメラ相の周縁を再結晶粒で分断するには数が不足しており、ラメラ相が微細化されていない。このため、発明例に比して、マグネシウム合金鍛造材の引張強度および耐力が低く、特に強度伸びバランスなどの機械的な特性が劣る。
比較例8は、発明例と同じ、本発明組成内のMg−Zn−Gd系マグネシウム合金であるものの、金型温度が鍛造(素材)温度に比して高すぎ、高い熱間鍛造の終了温度の通り、熱間鍛造における加工発熱が抑制されていない。このため、本発明の再結晶粒が生成しているものの、ラメラ相の周縁を再結晶粒で分断するには粗大化しすぎ、ラメラ相が微細化されていない。このため、発明例に比して、マグネシウム合金鍛造材の引張強度および耐力が低く、特に強度伸びバランスなどの機械的な特性が劣る。
比較例9、10は、合金元素の含有量が少なすぎ、本発明組成から外れている。したがって、前記比較例は鍛造条件が好ましい範囲内で行なわれ、鍛造における加工発熱が抑制されているにも係わらず、ラメラ相自体が生成しておらず、機械的な特性が劣ることが自明なため、機械的な特性を測定しなかった。
比較例11は、発明例と同じ、本発明組成内のMg−Zn−Gd系マグネシウム合金であるものの、金型温度が鍛造(素材)温度と同じで高すぎ、熱間鍛造における加工発熱が抑制されていない。このため、前記した図3の通り、従来の押出材のような晶析出物(Mg−Gd化合物)が存在する一方で、本発明の再結晶粒が生成しておらず、ラメラ相が微細化されていない。このため、発明例に比して、マグネシウム合金鍛造材の引張強度および耐力が低く、特に強度伸びバランスなどの機械的な特性が劣る。
比較例12は、発明例と同じ、本発明組成内のMg−Zn−Gd系マグネシウム合金であるものの、従来の押出材製造の際の押出加工並の高い加工率(圧下率)としたために、熱間鍛造としての加工率が高すぎ、割れが発生して、鍛造材自体を製造できなかった。
以上の結果から、生産性良く熱間鍛造により製造でき、しかも強度伸びバランスなどの機械的な特性を優れさせるための、本発明マグネシウム合金鍛造材とその製造方法における、組成、鍛造条件、そして、マグネシウム合金組織中のラメラ相の平均粒径やラメラ相を分断する(微細化するための)再結晶粒の存在などの臨界的な意義が裏付けられる。
以上説明したように、本発明によれば、特に強度伸びバランスなどの機械的な特性が優れたMg−Zn−Gd系マグネシウム合金鍛造材とその生産性が高い製造方法を提供することができる。この結果、これらの特性が要求される、電気・電子機器の筐体や、自動車、航空機のフレーム等の強度部材や構造材に、Mg−Zn−Gd系マグネシウム合金鍛造材を好適に適用することができる。

Claims (3)

  1. 原子%で、Gd:0.4〜5.0%、Zn:0.2〜2.5%を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるMg−Gd−Zn系マグネシウム合金からなり、このマグネシウム合金組織中に長周期積層構造から形成されるとともに、その周縁が互いに再結晶粒で分断されているラメラ相を有し、このラメラ相の平均粒径が30μm 以下であることを特徴とする機械的特性に優れたマグネシウム合金鍛造材。
  2. 前記再結晶粒の平均粒径が5μm以下であるとともに、平均面積分率が35〜70%の範囲である請求項1に記載の機械的特性に優れたマグネシウム合金鍛造材。
  3. 原子%で、Gd:0.4〜5.0%、Zn:0.2〜2.5%を各々含有し、残部Mgおよび不可避的不純物からなるMg−Gd−Zn系マグネシウム合金インゴットを、圧下率が55〜85%の範囲および温度が300〜420℃の範囲で、金型を用いて熱間鍛造するに際し、前記金型の温度を前記インゴットの加熱温度よりも5〜30℃の範囲で低くした状態で熱間鍛造を開始し、鍛造材の組織を、長周期積層構造から形成されるとともに、その周縁が互いに再結晶粒で分断されているラメラ相を有し、このラメラ相の平均粒径が30μm 以下であるものとすることを特徴とする機械的特性に優れたマグネシウム合金鍛造材の製造方法。
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