JP2010261923A - 走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡測定法、走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡、その探針および探針の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】中空基材の一端を先鋭化し先端部25bとして先端を切断してなる先端面に、ファラデー電流の計測を行うSECM電極26Aを備えると共に、中空基材の中空部25a1内に、中空部25a1内を満たす電解質の先端面の開口25c1からの流出量に応じたイオン電流を計測するSICM電極27を備えた探針21を使用する。探針21を、探針−試料間距離一定モードで試料表面に沿って相対的に走査移動し、SICM電極27で計測するイオン電流を距離制御フィードバック信号に利用しつつ、SECM電極26Aで試料表面の電気化学イメージングを行うと共に、SICM電極27で試料表面の形状イメージングを行う。
【選択図】図1
Description
(1)酸化還元電位を印加した際にファラデー電流/充電電流が非常に大きく、高速・高感度な測定が可能である。
(2)測定電流が微小であるため、低電解質溶液中での測定が可能であり、IRドロップを抑えられる。
(3)電子移動反応が十分に速い場合、電気化学反応種が球面拡散状態となり、定常電流が得られる。
GCモードは、はじめ溶液中に反応物が存在しないため、バックグラウンドの電流を非常に低くできる。そのため検出感度が非常に高い。また、酵素の反応時間とともに生成物が多くなるため、生成物を蓄積させることができる。細胞の代謝物(一酸化窒素、神経伝達物質)の検出は、GCモードである。
FBモードは、基質添加後の反応時間に影響を受けず、また、レドックスサイクルが電極−試料間距離に依存するため、解像度の高い測定が可能である。低濃度のメディエータを用いることで、電極でのメディエータの直接酸化電流を低く抑えることができる。金属パターンの測定や、親水性メディエータ(細胞膜を透過できない)を用いた細胞の形状測定がFBモードである。
SECMは、生体・細胞サンプル、細胞及び生体膜の機能評価、半導体などの材料の評価・表面観察・修飾加工、局部腐食、液/液界面を経由するイオン・電子移動反応、電極表面研究など、幅広い分野の研究で応用されてきた。
Constant Current距離制御の弱点は、導電性と絶縁性の混在した試料の測定ができないこと、ファラデー電流がフィードバック信号に使用されてしまうため、凹凸以外に試料表面の情報を取得できないこと、試料表面に電極を近接させる際に、従来の力学的相互作用を利用した距離制御システムが、試料に対してダメージを与える虞があること、が挙げられる。
非特許文献1には、SchuhmannらがSECMにシアフォース距離制御を取り入れたが、生細胞のイメージングには成功していないことが報告されている。非特許文献2には、Macphersonらは、原子間力顕微鏡に用いられる距離制御をSECMに導入したが、AFMプローブの形状の影響で表面の状態を詳細に捉えることが困難であることが報告されている。非特許文献3には、Wipfらにより、インピーダンス距離制御も考案されたが、電極が微小になると距離制御が困難となることが報告されている。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、空洞とリング型の電極を同心状に有するタイプと、先鋭化した先端部の先端面に中空部の開口と電極とを有するダブルバレル型のタイプの2種類の探針の開発に成功した。2種類の探針の詳細については、実施形態において説明する。
図1に示すように、この実施形態に係る走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡(走査型SECM−SICM顕微鏡ともいう。)1は、X−Y方向に移動するX−Yステージ2と、X−Yステージ2上に備えられた容器3と、容器3の底面に置かれる試料Tが設置される電気化学セル4と、探針21と、試料電極(Sample Electrode)5と、対極6(Counter Electrode)と、参照電極(Reference Electrode)7と、それらの電極信号の検出・制御用のバイポテンショスタット8と、探針21をZ軸方向に移動制御するZステージ9と、X−Yステージ2及びZステージ9を移動制御しかつバイポテンショスタット8の制御信号に基づいて画像表示する制御装置(PC)10と、を含んで構成される。バイポテンショスタット8は、一つの溶液系に対極6と参照電極7及び二つの作用電極を挿入し、参照電極7のターミナル電位に対する作用電極のターミナル電位をそれぞれ任意に規制して、各作用電極を流れる電流を測定し、測定情報を制御装置(PC)10へ出力する。
図2〜図4に示すように、この実施形態の探針21は、探針本体25Aと、SECM電極26Aと、SICM電極27とを有してなる。
探針本体25Aを構成する中空基材には、鉛ドープされたソーダガラス、ボロシリケイトあるいはクオーツキャピラリを用いると、プラーによる引き伸ばしが良好に行われうる。
導電層26aは、金属層であるのが好ましく、この実施形態では金(Au)又はプラチナ(Pt)を薄膜形成技術で、例えばスパッタリングにより200nmの膜厚となるように形成してなる。絶縁層28は、この実施形態では電着塗装により薄膜形成する好ましく、具体的には、被膜を形成するポリマーが、例えば、ポリアクリル酸であるように電着により10nm〜1μmの厚さとなるように形成することが好ましい。膜厚は蒸着膜の場合は蒸着時間により、電着膜の場合は電流または電着時間により制御する。絶縁層はパリレンCを用いてもよい。
SECM電極26Aは、該SECM電極26Aと試料Tの表面との間の電気化学反応に起因するファラデー電流を検出する。
電解質には例えばClイオンが含まれていることが好ましい。その他、局所インジェクションにより、生体試料の応答を電気化学的に検出するために、電解質には、他のイオン、タンパク質、DNA、試薬などを含めて電気泳動を利用してインジェクションが可能であるようにすることが望ましい。
これらの寸法は、探針23の最適化のパラメータであり、探針−試料間の距離制御、並びに形状イメージの空間分解能は、イオン電流を距離制御フィードバック信号に利用することと相俟って、開口25c1の直径に依存しほぼ同等となる。例えば、開口25c1の直径が10nmであれば、探針−試料間距離がほぼ10nmになり、形状イメージの空間分解能がほぼ10nmとなり、また開口25c1の直径が1μmであれば、探針−試料間距離がほぼ1μmになり、形状イメージの空間分解能がほぼ1μmになる。
まず、一つの中空部25a1を有する中空基材25A’の外周面に導電層26aをスパッタリングにより被覆形成し、次いで該導電層26aを電着塗装のための一方の電極として該導電層26aを覆う絶縁層28を形成し、次いで先端部をプラーで引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化し、次いで集束イオンビームで先端部を切断することにより中空部25a1が開口25c1にて露出する先端面を備えた探針本体25Aを形成すると共に、上記切断により形成する先端面に同時に露出する金属層24のリング状の切断面部をもって構成されたSECM電極26Aを備え、中空部25a1に電解質を満たすと共にSICM電極27を備える。
FIBは、探針21で試料表面の観察を行いながら探針21の先端部の切断が可能なため、特定の大きさのリング型電極を再現性よく作製可能となった。さらに、開口25c1と導電層26aの直径が非常に小さく、しかも探針21の端面に形成されているため、試料Tに対して探針21をアプローチさせやすく、試料Tに近接するリング部分の面積も、従来のコーンタイプに比べ広いため、試料の表面状態の測定に有効である。
これに対し、従来のSECM顕微鏡における探針の製造方法によれば、電着塗料の収縮を利用して開口の回りにコーン形状にSECM電極を露出形成していたので、SECM電極を再現性よく露出させることは困難であった。また、コーン形状の電極は、理論的な解析が困難であり、試料に近接する電極面積が狭いため、表面状態を顕著に捉えることができなかった。
(内周リング型SECM電極とSICM電極との複合機能探針)
図5に示すように、この実施形態の探針22は、探針本体25Aと、開口25c1の内周に設けられるSECM電極26Bと、SICM電極27とを有してなる。
一つの中空部25a1を有する中空基材の一端をプラーで引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化し、次いで上記中空部25a1にブタンガスを充填して炭化させることにより中空部25a1の内周面に導電部として炭素層26bを被覆形成し、次いで集束イオンビームで中空基材の先端部25bの先端を切断することにより、先鋭化した先端部25bを有しかつ先端面に中空部25a1が露出する開口25c1を備えた探針本体25Aとしている。そして、炭素層26bの、探針本体25Aの先端面に露出するリング状の端面部をもってSECM電極26Bを構成している。
図6(a),(b)に示すように、探針23は、一の実施形態に係るダブルバレル型の探針であり、ダブルバレル型の探針本体25Bと、SECM電極26Cと、SICM電極27とを有してなる。
探針本体25Bを構成するダブルバレル型の中空基材には、鉛ドープされたソーダガラス、ボロシリケイトあるいはクオーツキャピラリを用いる。
導電線26cは、この実施形態では金(Au)又はプラチナ(Pt)の線が用いられている。
図7に示すように、SECM電極26Cは、該SECM電極26Cと試料Tの表面との間の電気化学反応に起因するファラデー電流を検出する。
これらの寸法は、探針23の最適化のパラメータであり、探針−試料間の距離制御、並びに形状イメージの空間分解能は、イオン電流を距離制御フィードバック信号に利用することと相俟って、開口25c2の直径に依存しほぼ同等となる。例えば、開口25c2の直径が10nmであれば、探針−試料間距離がほぼ10nmになり、形状イメージの空間分解能がほぼ10nmとなり、また開口25c2の直径が1μmであれば、探針−試料間距離がほぼ1μmになり、形状イメージの空間分解能がほぼ1μmになる。
二つの中空部25a2,25a3を有する中空基材の上記一方の中空部25a3にSECM電極26Cを形成するための導電線26cを挿入し、次いでプラーにより中空基材の先端部25bを導電線26cと共に引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化し、次いで集束イオンビームで先鋭化した先端部25bの先端を切断することにより、先端面に上記他方の中空部25a2が露出する開口25c2を備えるとともに、該先端面に上記一方の中空部25a3の開口を閉塞した状態に露出形成された導電線26cの切断面部にて形成されるSECM電極26Cを備え、上記他方の中空部25a2に電解質を満たすと共に該電解質の開口25c2からの流出量に応じたイオン電流を計測するSICM電極27を備える。
図6(a),(b)に示す探針23について、他の製造方法について説明する。
第1工程:二つの中空部を有する中空基材の一方の中空部にSECM電極26Cを形成するための金属線、例えば金線(Au)又はプラチナ線(Pt)を挿入すると共に、他方の中空部に易エッチング線、例えば銅線(Cu)を挿入する。
第2工程:プラーにより中空基材の先端部を金属線及び易エッチング線と共に引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化しかつ金属線を挿入した側の中空部の先端を閉鎖した状態とする。
第3工程:易エッチング線を挿入した上記他方の中空部25a2の先端部を露出して易エッチング線をエッチングにより除去する。易エッチング線は銅以外であっても、銀、金または白金であっても電解エッチング法により開口を作製することができる。
第4工程:集束イオンビームで中空基材の先端部を切断することにより、易エッチング線を除去した側の中空部25a2を先端面で露出させる開口25c2を備えるとともに、金属線を挿通した側の中空部の開口を該金属線で閉塞した状態として、該金属線の切断面部にて形成されるSECM電極26Cを備える。
第5工程:易エッチング線を除去した側の中空部25a2に、電解質を満たすと共に該電解質の該中空部の開口25c2からの流出量に応じたイオン電流を計測するSICM電極27を備える。
従来のプローブの作製は、電着塗料の収縮を利用して開口25cを形成していたが、SECMに用いる電極部を再現性よく露出させることは困難であった。また、コーン形状の電極は、理論的な解析が困難であり、試料に近接する電極面積が狭いため、表面状態を顕著に捉えることができなかった。
そこで、FIBを用いて探針本体を構成する中空基体の先鋭化した先端部について、先端面を形成するための切断を行った。FIBは、プローブで試料表面の観察を行いながら切断が可能なため、特定の大きさのリング型電極を再現性よく作製可能となった。さらに、絶縁部と金属部が非常に小さいため、基板に対してプローブをアプローチさせやすく、試料に近接するリング部分の面積もコーンに比べ広いため、試料の表面状態の測定に有効である。
電気化学測定系には、2chのパッチクランプアンプ(Axon Instruments社のCurrent Amplifier, Multiclamp 700B)を用いた。ここでは、2chのパッチクランプアンプバイポテンショスタット8の場所に、上記2chのパッチクランプアンプをそのまま置き換えて使用した。
SICMの距離制御には、低電流(nA−pA)を高速(1kHz以上)で検出する必要があり、バイポテンシオスタットでは、応答速度が非常に遅く(1−10Hz)、生細胞のように柔らかい試料の測定が困難であった。さらに、2chのパッチクランプアンプでは、SICM極、SECM極の電流のフィルタリング速度、ならびに印加電位を、それぞれ独立に設定できる。
本測定では、SICMおよびSECMのフィルタリング速度をそれぞれ1kHz、40Hzとして測定を行った。電極走査系にはピエゾステージを用いた。
Physic Instruments(PI)社の621.2CLをX−Yステージ、621.ZCLをZステージとし、ステージコントローラから電圧を印加した。ステージコントローラの制御および電流信号のPCへの取り込みは、Digital Signal Processor (DSP)を用いた。
DSPは、PI制御の演算処理を予め書き込むことで、PCを介さずにフィードバック制御を行うことが可能であり、制御を高速化できる。
ステップ(1) はじめに試料から十分に離れた位置でプローブを高い状態に保ち初期電流値を決定(測定時間2ms)
ステップ(2) PI制御により、プローブを試料に対して近接(近接スピード50μm/s)
ステップ(3) (2)を初期電流値から1%減少する点まで繰り返す(所要時間10−200ms)
ステップ(4) SECM測定(50ms)
ステップ(5) プローブを上昇後(上げ幅0.5−10μm、上昇後ピエゾが動くまでの待ち時間2ms)
ステップ(6) XY方向へプローブを移動(ピエゾが移動するまでの待ち時間10ms)
この動作を繰り返すことで各測定点において探針−基板間距離が1点に定め、形状イメージ(z座標のプロット)を取得した。この測定では、プローブの上下運動に要する時間が非常に長い。DSPボードを導入することで、1イメージを6分で取得可能となった。
鉛ドープされたソーダガラス管の先端部を熱引きプラーを用いて先鋭化し、内径0.86μm、外径1.50μmの鉛ドープされたソーダガラス管とする。次に、ソーダガラス管との周囲に、スパッタリングにより200nmの金層を形成する。次に、銀ペーストを接着剤として用いて、金層に導線を接続する。次に、白金線を対極に用いて、アノーディック電着塗料ELECOAT AE−X(株式会社シミズ製)(塗膜を形成するポリマーはポリアクリル酸)に浸す。電着は二電極式で行う。すなわち、参照電極、対極用の2本のケーブルで白金線をポテンシオスタットにつなぎ、金層を陽極、白金線を陰極にして、2Vの直流電圧を120秒間印加し、金層上に絶縁性電着塗料層を形成する。次に、水洗後、オーブンに入れ、150℃、30分間の熱処理を行い、電着塗料膜をしっかりと固化、乾燥させる。次に、絶縁層を形成後に、フォーカスイオンビームにより、先端部を切断することでリング型の電極の形成と、中空の空洞部を露出させる。
上記の探針の製造方法により作成した電極の電子顕微鏡(SEM)写真を示す図9(a),(b)によれば、リング電極と中空の空洞部を確認することができた。開口径、リング電極径、絶縁層径の直径はそれぞれ300nm、500nm、800nmとなっている。さらに、作成された微小電極を、サイクリックボルタモグラム(CV)より評価した。作製した電極を、0.5mMのフェロセンメタノール及び0.1MのKCl溶液中に浸し、電圧をかけ、流れる電流の大きさを調べた。結果を図9(c)に示す。微小電極に特有に見られる定常電流を確認できた。SECM−SICM探針のイオン電流観測側に銀/塩化金電極を挿入した場合、銀イオンが溶け出してファラデー電流観測側のリング電極に析出しCVに銀の酸化/還元スパイクピークが観測されることがある。これを回避するために、アクリルアミドゲルを充填した細いチューブに銀/塩化銀を挿入し、それを探針後方から挿入してもよい。銀/塩化金電極の変わりに白金線などを用いても実質上測定は可能である。
FIBは、探針で試料表面の観察を行いながら探針先端部を切断が可能なため、特定の大きさのリング型電極を再現性よく作製可能となった。また探針作製の歩留まりは90%以上であった。さらに、絶縁被膜層と金属層が非常に小さいため、試料に対してプローブをアプローチさせやすく、試料に近接するリング部分の面積もコーンに比べ広いため、試料の表面状態の測定に有効である。
以上の結果から、SECM−SICM用の探針は、イオン電流計測と電気化学計測の両方を干渉することなく独立に実施可能な機能複合型の探針として構成されていることが確認できた。
測定対象として、西洋ワサビペルオキシダーゼをスポット−固定化した酵素固定化基板を用いた。酵素固定化基板の作製法は以下のとおりである。
1mg西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP, 1000units/mg)、1mgウシ血清アルブミン(BSA)、4L 25%グルタルアルデヒド(GA)、100μLミリQ水を混合し、ガラスキャピラリに充填してスポット−固定化した。
イオン電流を測定する銀塩化銀電極に対して、+200mV vs. Ag/AGClの電位を印加し、ファラデー電流を測定する微小電極には、+0.05V vs. Ag/AGClの電位を印加した。測定溶液は、メディエータとして0.1M KCl及び0.5mMフェロセンメタノールを含むリン酸バッファー溶液(PBS)を用いた。HRPの基質である過酸化水素を添加すると、HRPの酵素反応により、フェロセンメタノールが酸化される。酸化されたフェロセンメタノールを微小電極により還元し、その際の電流を測定する。同時に、イオン電流を利用したフィードバック制御により、HRPのスポット形状を測定した。
結果を図11に示す。図11(a)は、西洋ワサビペルオキシダーゼパターンの形状イメージであり、(b),(c)は電気化学イメージである。
イオン電流を用いた距離制御により、HRPスポットの形状を観察することができた(図11(a))。
また、電気化学測定においては、HRPの基質である過酸化水素を加える前には、HRPパターン上で電流変化を見ることができないが(図11(b))、過酸化水素を添加すると、HRPの酵素反応によりフェロセンメタノールが酸化され、電極によりフェロセンメタノールを還元し、その際の還元電流を検出することができた(図11(c))。
以上より、イオン電流をフィードバック信号に利用しながらファラデー電流を計測することで、形状イメージングと電気化学イメージングとを同時に取得することが可能となった。
測定対象として、グルコースオキシダーゼ(GOx)のスポット−固定化した酵素固定化基板を用いた。酵素固定化基板の作製法は以下のとおりである。
1mgグルコースオキシダーゼ(2500units/mg)、1mgウシ血清アルブミン(BSA)、4μL 25% グルタルアルデヒド(GA)、100μLミリQ水を混合し、ガラスキャピラリに充填してスポット−固定化した。
イオン電流を測定する銀塩化銀電極に対して、+200mV vs. Ag/AGClの電位を印加し、ファラデー電流を測定する微小電極には、+0.5V vs. Ag/AGClの電位を印加した。測定溶液は、メディエータとして0.5mMのフェロセンメタノールを含むリン酸バッファー溶液(PBS)を用いた。電極反応によりフェロセンメタノールを酸化する。GOxの基質であるグルコースを添加すると、GOxの酵素反応により、酸化体のフェロセンメタノールが還元される。還元されたフェロセンメタノールを微小電極により再び酸化し、その際の電流を測定する。同時に、イオン電流を利用したフィードバック制御により、GOxのスポット形状を測定した。
結果を図12に示す。(a),(c)はグルコースオキシダーゼ固定化基板の異なる位置の形状イメージ、(b),(d)は、(a),(c)に対応する電気化学イメージである。
イオン電流を用いた距離制御により、GOxスポットの形状を観察することができた。また、グルコースを添加すると、GOxの酵素反応により酸化体のフェロセンメタノールが還元され、電極によりフェロセンメタノールを再び酸化し、その際の酸化電流を検出することができた(図12(a))。GOxの測定においては、フェロセンメタノールの酸化還元が、電極とGOxの間で繰り返される。そのため、電極をGOxにできる限り近づけることが望まれ、イオン電流をフィードバック信号に利用しながらファラデー電流を計測することで、250nmの酵素パターンを検出することに成功した(図12(b))。また同様の実験で電極とGOxとの距離を100nmとすると、酵素パターンのコントラストが著しく低下し(図12(d−1))、600nmとするとパターンを確認することができなかった(図12(d−2))。以上より、イオン電流を利用した距離制御がSECMの測定感度向上に貢献していることが言える。
測定対象として、ラット心筋細胞を用いた。ラット心筋細胞に関して、酸素、フェロシアン化カリウム、フェロセンメタノールの透過性を評価した。
イオン電流を測定する銀塩化銀電極に対して、+200mV vs. Ag/AGClの電位を印加し、ファラデー電流を測定する。微小電極に対しては、酸素、フェロシアン化カリウム、フェロセンメタノール、それぞれについて、−0.5V vs. Ag/AGCl、+0.5V vs. Ag/AGCl、+0.5V vs. Ag/AGClの電圧を印加して測定を行った。電極反応により、酸素、フェロシアン化カリウム、フェロセンメタノールを還元あるいは酸化し、その電流応答により、イメージングを行った。測定溶液は、メディエータとして0.5mMのフェロセンメタノールを含むリン酸バッファー溶液(PBS)を用いた。
結果を図13に示す。(a),(b),(c)のそれぞれの左側の写真はラット心筋細胞の異なる位置の形状イメージであり、(a)の右側の写真は酸素の細胞透過性を示す電気化学イメージであり、(b)の右側の写真はフェロシアン化カリウムの細胞透過性を示す電気化学イメージであり、(c)の右側の写真はフェロセンメタノールの細胞透過性を示す電気化学イメージである。
イオン電流を用いた距離制御により、ラット心筋細胞の形状を観察することができた。また、電気化学測定では、化学物質の細胞透過性の違いを検出することができた。細胞を透過可能な化学物質(酸素、フェロセンメタノール)の検出では、細胞上において化学物質が細胞を透過することで、化学物質の物理的な拡散阻害が弱まり、細胞上と基板上で電流応答に違いが見られる。しかし、透過性のない化学物質(フェロシアン化カリウム)では、電流応答に違いが見られない。このような測定を行うには、電極と試料との距離を常に一定に保つ必要があり、凹凸の激しい心筋細胞の測定は困難とされてきた。以上より、イオン電流を利用した距離制御がSECMによる細胞膜透過性評価に貢献していることが言える。
本発明は上記の実施形態及び実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の技術的範囲には、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々、設計変更した形態が含まれる。
T…試料
21,22,23…探針
25A,25B…探針本体
25a1,25a2,25a3…中空部
25b…先端部
25c1,開口25c2…開口
26A,26B,26C…SECM電極
26a…導電層
26b…炭素層
26c…導電線
27…SICM電極
28…絶縁層
Claims (19)
- 中空基体の一端を先鋭化しかつ先端を切断して中空部に満たす電解質を流出する開口を有して形成された探針本体の先端面に、探針−試料表面間の電気化学反応に起因するファラデー電流を計測するSECM電極を備え、さらに上記中空部内に上記開口から流出する電解質のイオン電流を計測するSICM電極を備えてなる探針を、上記SICM電極で計測するイオン電流を距離制御フィードバック信号に利用しつつ、探針−試料間距離一定モードで試料表面に沿って相対的に走査移動し、上記SECM電極で試料表面の電気化学イメージングを行うと共に、上記SICM電極で試料表面の形状イメージングを行う、走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡測定法。
- レーザー光を前記探針の中空基材を通して試料に照射して、上記電気化学イメージングと上記形状イメージングとともに光学測定を同時に行う、請求項1記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡測定法。
- 中空基材の一端を引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化し先端を切断し先端面に中空部を露出する開口を有する探針本体と、
上記探針本体に沿って絶縁状態に設けられた導電部が上記切断により上記探針本体の先端面に上記開口を取り巻くリング状又は上記開口に隣接して一定形状の露出した部分であって上記探針−試料表面間の電気化学反応に起因するファラデー電流を計測するSECM電極と、
上記中空部内に備えられていて該中空部内に満たされる電解質の上記開口からの流出量に応じたイオン電流を計測するSICM電極と、を有してなり、
SECM電極とSICM電極に独立に電圧を印加されて上記ファラデー電流と上記イオン電流とを干渉を起こすことなく同時に検出する探針を備え、
該探針を、SICM電極で計測したイオン電流を距離制御フィードバック信号に利用しつつ、探針−試料間距離一定モードで試料表面に沿って相対的に走査移動し、上記SECM電極で電気化学イメージングを行うと共に、上記SICM電極で形状イメージングを行う、走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡。 - 中空基材の先端部を引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化し先端を切断し先端面に中空部を露出する開口を有する探針本体と、
上記切断により上記探針本体に沿って絶縁状態に設けられた導電部が上記探針本体の先端面に上記開口を取り巻くリング状又は上記開口に隣接して一定形状の露出電極であって上記探針−試料表面間の電気化学反応に起因するファラデー電流を計測するSECM電極と、
上記中空部内に備えられていて該中空部内に満たされる電解質の上記開口からの流出量に応じたイオン電流を計測するSICM電極と、を有してなり、
SECM電極とSICM電極に独立に電圧を印加されて上記ファラデー電流と上記イオン電流とを干渉を起こすことなく同時に検出する、走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。 - 前記探針本体が、一つの中空部を有する中空基材を使用してなり、中空基材の外周面を金属層で被覆され、さらに金属層の外周面を絶縁層で被覆された状態で、先端部がプラーにより先鋭化されかつ集束イオンビームで先端を切断されて平滑な先端面が形成され該先端面に中空部を露出する開口を有して形成された形態であり、
前記SECM電極が、上記集束イオンビームの切断により上記探針本体の先端面に上記金属層が露出してなるリング状端面部であり、
前記SICM電極が、上記中空部内に備えられていて該中空部内に満たされる電解質の上記開口からの流出量に応じたイオン電流を計測する構成である、請求項4に記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。 - 前記探針本体は、一つの中空部を有する中空基材が使用され先端部がプラーにより先鋭化されかつ該中空部の内周面を覆って導電層が形成され、先端部が集束イオンビームで切断されて先端面が形成され該先端面に上記中空部を露出する開口を有する形態であり、
前記SECM電極は、上記集束イオンビームの切断により上記探針本体の先端面に上記開口を取り囲んで形成された導電層のリング状の切断面部であり、
前記SICM電極は、上記中空部内に備えられていて該中空部内に満たされる電解質の上記開口からの流出量に応じたイオン電流を計測する構成である、請求項4に記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。 - 前記探針本体は、二つの中空部を有する中空基材を使用し一方の中空部に金属線を挿入し先端部をプラーで先鋭化しかつ集束イオンビームで切断して前記二つの中空部を露出する開口を有する先端面が形成されかつ前記一方の開口が前記金属線で閉塞された形態であり、
前記SECM電極は、上記集束イオンビームの切断により上記探針本体の先端面に露出形成された金属線の切断面であり、
前記SICM電極は、他方の中空部内に備えられ該中空部内に満たされる電解質の上記開口からの流出量に応じたイオン電流を計測する構成である、請求項4に記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。 - 前記中空基材が、鉛ドープされたソーダガラス、ボロシリケイトあるいはクオーツキャピラリである、請求項4乃至7のいずれかに記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。
- 前記SECM電極を形成する金属線が金あるいはプラチナからなる、請求項5又は7に記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。
- 前記SICM電極を形成する金属線が銀/塩化銀電極からなる、請求項4乃至7のいずれかに記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。
- 前記電解質が流出する前記中空部の開口径が1μm以下である、請求項7乃至10のいずれかに記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。
- 前記電解質が流出する中空部の開口径が10nm〜100nmである、請求項4乃至7のいずれかに記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。
- 前記SECM電極の半径が1μm以下、前記SICM電極を収容する中空部の開口径が1μm以下である、請求項7に記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。
- 前記SICM電極を形成する金属線が銀/塩化銀電極からなる、請求項4又は13のいずれかに記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針。
- 中空部を有する中空基材の一端をプラーで引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化し、次いで集束イオンビームで先鋭化した先端を切断することにより上記中空部が露出する開口を先端面に備えた探針本体を形成すると共に、上記探針本体の形成と同時に又は形成後に上記探針本体に沿って導電部を絶縁状態に形成し上記切断により形成する先端面に同時に露出する切断面部をもって構成された上記探針−試料表面間の電気化学反応に起因するファラデー電流を計測するSECM電極を備え、前記中空部に電解質を満たすと共に該電解質の上記開口からの流出量に応じたイオン電流を計測するSICM電極を備える、走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針の製造方法。
- 一つの中空部を有する中空基材の外周面に金属層を被覆形成し該金属層を前記導電部とし、次いで該金属層を覆う絶縁層を形成し、次いで先端部をプラーで引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化し、次いで集束イオンビームで先端部を切断することにより上記中空部が開口露出する先端面を備えた探針本体を形成すると共に、上記切断により形成する先端面に同時に露出する前記金属層のリング状の切断面部をもって構成されたSECM電極を備え、前記中空部に電解質を満たすと共に該電解質の上記開口からの流出量に応じたイオン電流を計測するSICM電極を備える、請求項15に記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針の製造方法。
- 一つの中空部を有する中空基材の一端をプラーで引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化し、次いで上記中空部にブタンガスを充填して炭化させることにより上記中空部の内周面に炭素電極層を形成し該炭素電極層を前記導電部とし、次いで集束イオンビームで先端を切断することにより、上記中空基材を先鋭化した先端部を有しかつ中空部が露出する先端面を備えた探針本体として形成すると共に、該炭素電極層の上記探針本体の先端面に露出するリング状の端面部をもって構成されたSECM電極を備える、請求項15に記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針の製造方法。
- 二つの中空部を有する中空基材の上記一方の中空部にSECM電極の形成用の前記導電部として金属線を挿入し、次いでプラーにより上記中空基材の先端部を上記金属線と共に引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化し、次いで集束イオンビームで先端部を切断することにより、上記他方の中空部が露出する開口を有する先端面を備えるとともに、該先端面に上記一方の中空部の開口を閉塞した状態に露出形成された前記金属線の切断面部にて形成されるSECM電極を備え、上記他方の中空部に電解質を満たすと共に該電解質の該中空部の開口からの流出量に応じたイオン電流を計測するSICM電極を備える、請求項15に記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針の製造方法。
- 二つの中空部を有する中空基材の上記一方の中空部にSECM電極Aの形成用の前記導電部として金属線を挿入すると共に、上記他方の中空部に易エッチング線を挿入し、次いでプラーにより上記中空基材の先端部を上記金属線及び易エッチング線と共に引き伸ばしてナノメートルオーダーに先鋭化しかつ中空部の先端を閉鎖した状態とし、次いで易エッチング線を挿入した上記他方の中空部の先端部を露出して易エッチング線をエッチングして除去し、次いで集束イオンビームで先端部を切断することにより、上記他方の中空部が露出する開口を有する先端面を備えるとともに、該先端面に上記一方の中空部の開口を閉塞した状態に露出形成された前記金属線の切断面部にて形成されるSECM電極を備え、上記他方の中空部に電解質を満たすと共に該電解質の該中空部の開口からの流出量に応じたイオン電流を計測するSICM電極を備える、請求項16に記載の走査型電気化学イオンコンダクタンス顕微鏡用の探針の製造方法。
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