JP2010257765A - ガス拡散層の製造方法、膜電極接合体、膜電極接合体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】フィルム状の成形した場合であっても、内部に不純物などが残留することなく、ガス透過性に優れた微細孔を安価かつ容易に形成することができるガス拡散層の製造方法を提供する。
【解決手段】カーボンブラック粉末11と、PTFE粉末12とを混練して、ガス拡散層用粉末13を製造する工程と、ガス拡散層用粉末13に、超臨界雰囲気下で超臨界二酸化炭素UCを混合することにより、PTFEを溶解させて、ガス拡散層用ペースト材14を製造する工程と、ガス拡散層用ペースト材14の超臨界二酸化炭素UCを減圧しながらフィルム状に成形する工程と、を含んでなる。
【選択図】図1
【解決手段】カーボンブラック粉末11と、PTFE粉末12とを混練して、ガス拡散層用粉末13を製造する工程と、ガス拡散層用粉末13に、超臨界雰囲気下で超臨界二酸化炭素UCを混合することにより、PTFEを溶解させて、ガス拡散層用ペースト材14を製造する工程と、ガス拡散層用ペースト材14の超臨界二酸化炭素UCを減圧しながらフィルム状に成形する工程と、を含んでなる。
【選択図】図1
Description
本発明は、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体に好適なガス拡散層の製造方法、これを用いた膜電極接合体、及びその製造方法に関する。
高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池は、低温における作動が可能であり、かつ、小型軽量化が可能であるため、自動車などの移動体への適用が検討されている。特に、固体高分子型燃料電池を搭載した燃料電池自動車はエコロジーカーとして社会的な関心が高まっている。
このような固体高分子型燃料電池は、図5に示すように、膜電極接合体(MEA)90を主要な構成要素とし、それを燃料(水素)ガス流路および空気ガス流路を備えたセパレータ96,96で挟持して、単セルと呼ばれる1つの燃料電池を形成している。膜電極接合体90は、イオン交換膜である高分子電解質膜91Aの一方側にアノード側の電極(触媒層)92aとアノード側のガス拡散層(アノードガス拡散層)95aを積層し、他方側にカソード側の電極(触媒層)92bとカソード側のガス拡散層(カソードガス拡散層)95bを積層した構造を有する。
ところで、前記燃料電池において、各電極に設けられたガス拡散層は、一般的に、カーボンクロス等のシート状に成形されたカーボン繊維と、疎水性樹脂とを含む部材を製作し、この部材を電極触媒層に積層することにより形成される。このようなガス拡散層は、酸素ガス及び空気ガスの拡散性能を高めること、電極近傍におけるフラッディングを抑制すること、及び、電極触媒層からセパレータへの電子の導電性を阻害しない(電気抵抗を下げる)ことの要件が求められる。
ここで、ガスの拡散性能を高め、フラッディングを抑制するには、ガス拡散層の透気性が充分確保されていなければならない。そこで、例えば、ガス拡散層となるシートの内部に造孔剤を保持させる工程と、シートの内部の造孔剤を消失させてシートの内部に細孔を形成する工程と、を含むガス拡散層の製造方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、造孔剤そのものは、燃料電池の発電特性に寄与しないものであり、ガス拡散層内部の通気を確保するための細孔を形成するものである。よって、造孔剤を加熱、溶解等により、除去する工程が必要であり、製造コスト増を招くことになる。また、ガス拡散層により微細な細孔をしようとした場合には、造孔剤を完全に取り除くことが難しく、ガス拡散層内に、造孔剤の一部が残留するおそれがある。
また、近年、ガス拡散層の層厚みをより薄くする方向で開発が進められており、上記方法で、フィルム状のガス拡散層を製造使用とした場合には、この造孔剤の除去時にガス拡散層が破損するおそれがある。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、フィルム状の成形した場合であっても、内部に不純物などが残留することなく、ガス透過性に優れた微細孔を安価かつ容易に形成することができるガス拡散層の製造方法を提供することにある。
ここで、発明者は、超臨界流体は、(1)原理的に表面張力がゼロであるためこの流体が樹脂に浸透しやすい(樹脂に浸み込みその結果樹脂を溶解しやすい)点、(2)超臨界雰囲気下の圧力から減圧することにより蒸発・ガス化して膨張拡散しやすい点、の二つの特徴点に着眼し、この超臨界流体を用いることにより、フィルム状のガス拡散層であっても、積層前の部材として好適に内部に微細孔を形成することができるとの新たな知見を得た。
本発明は、発明者の前記新たな知見に基づくものであり、本発明に係るガス拡散層の製造方法は、少なくとも導電性粉末と、疎水性樹脂粉末とを混練して、ガス拡散層用粉末を製造する工程と、前記ガス拡散層用粉末に、超臨界雰囲気下で超臨界流体を混合することにより、前記疎水性樹脂を溶解させて、拡散層用ペースト材を製造する工程と、前記拡散層用ペースト材の超臨界流体を減圧しながらフィルム状に成形する工程と、を含むことを特徴とするものである。
本発明によれば、超臨界雰囲気下(超臨界流体が維持される温度及び圧力の雰囲気下)において、ガス拡散層用粉末に超臨界流体を混合することにより、超臨界流体が疎水性樹脂粉末に接触し、疎水性樹脂粉末が溶解(分解)する。これにより、ガス拡散層用粉末は、導電性粉末を粒子として含むガス拡散層用ペースト材となる。このとき、疎水性樹脂に、超臨界流体が分子レベルで浸透し、疎水性樹脂粉末を溶解することができるため、疎水性樹脂を加熱して溶解することなく、ガス拡散層用粉末からガス拡散層用ペースト材を容易に製造することが可能となる。
そして、ガス拡散層用ペースト材を、例えば押出し成形機により、フィルム状に成形すると共に、拡散層ペースト材に分散した超臨界流体を超臨界雰囲気の圧力から(例えば大気圧まで)減圧するので、フィルム状に形成されたガス拡散層の超臨界流体がガス化・蒸気化して、膨張拡散し、ガス拡散層の内部からガス拡散層の外部に放出される。この結果、ガス拡散層内に微細孔が形成され、安価かつ容易に、微細孔が形成された多孔質のガス拡散層を部材(ガス拡散層部材)として膜電極接合体の積層前に製造することができる。
このようにして得られたガス拡散層には、微細孔が形成されているので、ガス拡散層の通気性及び吸水性を向上させることができる。特に、吸水性が向上したことにより、後述する膜電極接合体を製造する際に、ガス拡散層を積層後に、高分子電解質前駆体からなる高分子電解質膜の加水分解を好適に行うことができる。
また、上述した如く、ガス拡散層には、微細孔が形成されているので、従来のものに比べてクッション性が高く、柔軟性も高い。これにより、例えば、ガス拡散層を積層後の膜電極接合体に、セパレータを挟持する際に、セパレータを介した外部圧力に対して緩衝材として作用し、膜電極接合体をこの圧力から保護することができる。さらに、柔軟性があるガス拡散層であるので、ロール状に巻き取りできるため、ロール状にして連続的に生産ラインに適用することができる。
本発明に係る疎水性樹脂粉末を構成する高分子樹脂は、コスト上、炭化水素系樹脂材料(エンプラ材料を含む)が望ましいが、フッ化物系樹脂材料などであってもよい。具体的には、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、PAI、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、PPSU、PAR、PBI、PA、ポリフェニレンエーテル(PPO)、ポリカーボネート(PC)、PP、ポリエーテルスルフォン(PES)、PVDC、PSF、PAN、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の材料が使用可能である。
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)などのフッ素樹脂が高い撥水性を有するため好ましく用いられる。その他、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド等の非フッ素系フィルムも用いることができる。
しかしながら、これらの疎水性樹脂からなる粉末のなかでも、本発明に係るガス拡散層の製造方法において用いる疎水性樹脂粉末は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる粉末であることがより好ましい。PTFEは、折りたたみ鎖結晶(ラメラ)を有しており、減圧された超臨界流体がガス化・蒸気化して拡散膨張する(微細孔を形成する)際に、溶解したPTFEにせん断応力が発生するので、前記ラメラの解除を促す(繊維化する)。これにより、ガス拡散層の機械的強度を向上させ、フィルム状の成形を容易にすることができる。
ここで、本発明でいう、超臨界流体とは、気体と液体が共存できる限界の臨界温度及び臨界圧力(臨界点)を超えた状態にある流動体をいい、超臨界流体の状態だけでなく、亜臨界流体の状態及びこれらの状態に近い状態も含むものとする。
そして、超臨界流体を形成する物質としては、水、二酸化炭素、窒素、アンモニア、炭化水素類、アルコール類等を挙げることができる。炭化水素類としては、エタン、プロパン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ヘキサン等が挙げることができ、アルコール類としては、メタノール、エタノール等が挙げることができる。
しかしながら、これらの中でも、より好ましい超臨界流体は、超臨界二酸化炭素、超臨界窒素など、減圧と共にガス化しやすく、ガス拡散層を構成する導電性部材及び疎水性樹脂に対して、安定的に存在可能な物質である。特に、超臨界二酸化炭素は、安価に製造でき、温度40℃〜250℃、圧力8〜10MPaの範囲で、超臨界雰囲気を維持することができるので、ガス拡散層の製造に使用するには、好適である。
本発明に係るガス拡散層の製造方法で用いる導電性樹脂を構成する材料は、発電時におけるガス拡散層の導電性を確保することができるのであれば、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、天然の黒鉛(グラファイト)、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素、さらには、金属、半金属などを挙げることができる。
しかしながら、これらの導電性粉末のなかでも、本発明に係るガス拡散層の製造方法において用いる導電性粉末は、カーボンブラックからなる粉末であることが好ましい。カーボンブラックは、汎用性が高く安価に入手可能であるばかりでなく、電子伝導性と比表面積の大きさから好ましい。
さらに、本発明として、このような製造方法で製造されたガス拡散層を積層した膜電極接合体が、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体(MEA)として好適である。すなわち、高分子電解質膜の両面に電極触媒層及びガス拡散層が順次積層された膜電極接合体において、ガス拡散層に微細孔を有しているので、従来のガス拡散層を適用したものに比べて、発電時における燃料ガスの拡散性が良好である。これにより、燃料電池の発電特性をさらに向上させることができる。
さらに、本発明として、上述した製造方法でされたガス拡散層を用いた膜電極接合体を製造する方法であって、該製造方法は、加水分解によりプロトン伝導性を有する高分子電解質前駆体からなる高分子電解質膜の表面に、電極触媒層を積層する積層工程と、前記ガス拡散層を、加熱及び加圧しながら前記電極触媒層の表面に接合して積層する工程と、前記高分子電解質膜の高分子電解質前駆体が、プロトン伝導性を有する高分子電解質となるように、加水分解する工程と、を含むことがより好ましい。
すなわち、従来の方法では、ガス拡散層の吸水性の観点から、高分子電解質の加水分解後、ホットプレス(加熱及び加圧)によりガス拡散層を溶融圧着して接合を行っていたが、この際、高分子電解質から水分が排出され、高分子電解質膜にしわが発生し、燃料電池の発電特性を損なうことがあった。しかしながら、本発明によれば、前記方法で製造されたガス拡散層の吸水性は、これまでのものに比べてより優れているため、電極触媒層とガス拡散層とを溶融圧着によりガス拡散層の接合後に加水分解することにより、高分子電解質前駆体から、プロトン伝導性を有する高分子電解質への改質を、容易に行うことができる。
さらに、高分子電解質前駆体は、加水分解後の高分子電解質に比べて軟らかいが、本発明に係る方法で製造されたガス拡散層は、従来のガス拡散層に比べてクッション性が高いので、ホットプレス(熱圧プレス)による接合性をより高めることができる。
ここで、加水分解によりプロトン伝導性を発揮する高分子電解質前駆体は、いわゆるF型高分子電解質と呼ばれるもので、スルホン酸基等のプロトン伝導性基に変性される前駆体基、例えば−SO2F基を有するものであり、これらの基は、加水分解により、−SO3H基となりプロトン伝導性が発現される。
本発明によれば、フィルム状の成形した場合であっても、内部に不純物などが残留することなく、ガス透過性に優れた微細孔を安価かつ容易に形成し、クッション性及び吸水性の高いガス拡散層を得ることができる。
以下に、図面を参照して、本発明に係るガス拡散層の製造方法、及びこれを用いた膜電極接合体の製造方法を実施形態に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るガス拡散層を部材として製造するに好適な製造方法を説明するため図であり、図1(a)は、導電性粉末と疎水性樹脂粉末とを混練する混練工程を説明するための模式図であり、図1(b)は、ガス拡散層用ペースト材の製造工程及び成形工程を行う樹脂成形装置の模式断面図であり、図1(c)は、図1(b)に示す樹脂成形装置により成形されたガス拡散層の模式図である。
図1に示すように、本実施形態で製造するガス拡散層(部材)は、上述した図5に示す固体高分子型燃料電池に用いるに好適なガス拡散層である。ガス拡散層は、発電時において、電極触媒層やガス拡散層内での水分の滞留によるフラッディングの発生を抑制すべく、疎水性樹脂を含み、さらには、ガス拡散層内の電子導電性を確保するために、導電性材料を含むものである。
そこで、このような特性を満たすために、まず、図1(a)に示すように、導電性粉末としてカーボンブラック粉末11と、疎水性樹脂粉末として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるPTFE粉末(PTFEペレット)12を混練器20に投入し、これら粉末が均一に分散するように混練して、ガス拡散層用粉末13を製造する。カーボンブラック粉末の平均粒径は10〜50nmであることが好ましく、PTFE粉末は、25〜500μmの範囲にあることが好ましい。
本実施形態では、導電性粉末として、カーボンブラックからなる粉末11を用いたが、ガス拡散層内の電子導電性を確保することができるのであれば、例えば、黒鉛(グラファイト)、ピッチ、又はコークスなどの粉末や、金属粉末等であってもよい。ただし粉末以外にも繊維(短繊維や長繊維)の形態も可能であるが、ガス拡散層をフィルム状に成形する際に、膜の破れ等を考慮した場合には、粉末の形態が好ましく、球状の粉末であることがより好ましい。
さらに、疎水性樹脂としては、発電時の生成水によるフラッディングを抑制することができる樹脂であれば、PTFEに限定されるものではなく、例えば、PFA(パーフルオロアルキルビニルデン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)などを挙げることができる。
本実施形態では、疎水性樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いていることで、後述する微細孔を形成時にこの樹脂に作用するせん断応力により、樹脂が延伸されるので、ガス拡散層の機械的強度を向上させることができる。これにより、成形時に、ガス拡散層を、好適にフィルム状に(これまでの厚さをより薄肉化)することができる。
次に、図1(b)に示すように、超臨界流体として超臨界二酸化炭素UCを、超臨界流体生成装置30で生成する。この超臨界流体生成装置30は、一般に知られた方法で超臨界二酸化炭素UCを生成することができる装置であり、二酸化炭素を、臨界温度(具体的には40℃〜250℃)まで加熱し、さらに臨界圧力(具体的には8〜10MPa)まで加圧して、超臨界二酸化炭素UCを生成することができるのであれば、特にその装置構成及び生成方法は、限定されるものではない。例えば、液化二酸化炭素から、超臨界二酸化炭素を生成してもよい。
このように生成された超臨界二酸化炭素UCと、上述したガス拡散層用粉末13とを、樹脂成形装置40内に投入する。樹脂成形装置40は、一般的な押出し成形機であり、超臨界二酸化炭素UCとガス拡散層用粉末13とを均一に混合する混合部41と、混合されたガス拡散層用ペースト材14を押出す押出し部42と、押出し部42において押し出されたガス拡散層用ペースト材14をフィルム状に成形する一対の成形ロール43,43を最小限の構成として備えている。また、混合部41と押出し部42とは、内部に導入された超臨界二酸化炭素UCの状態が保持される(超臨界雰囲気下が保たれる)ように、密閉空間となっている。
そして、樹脂成形装置40に投入された、超臨界二酸化炭素UCと、ガス拡散層用粉末13とは、超臨界雰囲気下(超臨界流体が維持される温度及び圧力の雰囲気下)で、混合部41内においてスクリュー(図示せず)で混合される。この際に、超臨界雰囲気下において、ガス拡散層用粉末13に超臨界二酸化炭素UCを混合することにより、液状の超臨界二酸化炭素UCがPTFE粉末に接触し、PTFE粉末が溶解する。これにより、ガス拡散層用粉末13は、ペースト状であるガス拡散層用ペースト材14となる。
このとき、PTFEに、超臨界二酸化炭素UCが分子レベルで浸透し、PTFE粉末を溶解することができるため、PTFE樹脂を加熱して溶解することなく、ガス拡散層用粉末13からガス拡散層用ペースト材14を容易に製造することが可能となる。
このように、混合部41で製造されたガス拡散層用ペースト材14は、押出し部42内のスクリュー(図示せず)によって、成形ロール43,43に向かって押出される。そして、成形ロール43,43間において押出されたガス拡散層用ペースト材14は、圧延されて、フィルム状に成形される。このとき、成形ロール43,43間でのガス拡散層用ペースト材14の成形は、大気中においてされるので、ガス拡散層用ペースト材14に含まれる超臨界二酸化炭素UCは、超臨界雰囲気の圧力から大気圧に減圧されるので、ガス化又は蒸気化して膨張拡散する。この結果として、ガス化又は蒸気化した二酸化炭素が、成形時のガス拡散層の内部からガス拡散層の外部に放出される。これによりガス拡散層15の内部に微細孔が形成される。
なお、発明者の実験によれば、ガス拡散層用ペースト材の送り速度、超臨界二酸化炭素UCの圧力及び温度条件、超臨界二酸化炭素UCの混合率等を適宜設定することにより、微細孔の細孔径を、50nm〜500μmの範囲で形成することができる。
このようにして、図1(c)に示すように、カーボンブラック粒子(粉末)11が、PTFE12aに分散すると共に、無数の微細孔16が形成されるので、通気性及びクッション性の高い多孔質のガス拡散層15を得ることができる。
さらに、微細孔16の形成時において、ガス化又は蒸気化した二酸化炭素により、溶解したPTFEに、せん断応力が作用するので、PTFEの繊維化が促進され、これにより、ガス拡散層15の機械的強度を向上させることができる。この結果、ガス拡散層15の厚さを10μm〜50μmの範囲にすることができる。
成形されたフィルム状のガス拡散層15は、柔軟性を有しており、機械的強度も向上するので、図1(b)に示すように、巻き取りロール44により、ロール状に巻き取り可能となる。このようにして巻き取られたガス拡散層は、後述する膜電極接合体を製造する際には、生産ラインで連続的して搬送することが可能となるので、膜電極接合体の製造効率を高めることができる。
図2は、本実施形態に係る製造方法で製造されたガス拡散層を用いて、膜電極接合体を製造する方法を説明するための模式図であり、図2(a)は、電極触媒層を積層する工程を説明するための模式図であり、図2(b)は、図2(a)に示す工程後に、ガス拡散層を接合する工程を説明するための模式図であり、図2(c)は、図2(b)に示す工程後に、加水分解された膜電極接合体の模式図である。
なお、図3は、本実施形態の製造方法を対比するため、従来の膜電極接合体の製造方法を示した模式図であり、図3(a)は、電極触媒層を積層する工程を説明するための模式図であり、図2(a)と同じ工程である。図3(b)は、図3(a)に示す工程後に、加水分解された膜電極接合体の模式図であり、図3(c)は、図3(b)に示す工程後に、ガス拡散層を接合する工程を説明するための模式図であり、図3(d)は、図3(a)〜(c)の一連の工程により製造された膜電極接合体の一例を示した模式図である。
まず、図2(a)に示すように、F型高分子電解質膜51を準備する。F型高分子電解質膜51は、−SO2F基を有する高分子電解質前駆体を含んでおり、加水分解により、−SO2F基から−SO3H基になり、プロトン伝導性を発現する高分子電解質膜である。
例えば、フルオロアルキルエーテル側鎖とパーフルオロアルキル主鎖を有するフルオロアルキル共重合体のパーフルオロ系プロトン交換樹脂が好ましく用いられる。例えば、デュポン社製ナフィオン(商標名)、旭化成製アシプレックス(商標名)等が例示される。
この高分子電解質膜51の両面に、電極触媒層52を積層する。電極触媒層52は、例えば、高分子電解質及び溶媒をペースト状に混練し、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、スクリーン印刷、スプレー塗布などの方法により、積層することができる。
次に、図2(b)に示すように、ホットプレス(熱圧プレス)により、電極触媒層52が形成された上に、ガス拡散層15を溶融圧着して接合する。その後、図2(c)に示すように、水酸化ナトリウムなどアルカリ成分を含む溶液中で加水分解し、該加水分解により−SO2F基から−SO3H基を有するH型の高分子電解質膜51Aとし、プロトン伝導性を発現させる。その後、硝酸などの酸成分を含む溶液で膜を中和する。このようにして、膜電極接合体50を製造することができる。
ところで、これまでの方法では、図3(b)に示すように、ガス拡散層95の吸水性が十分でないため、ガス拡散層95を接合する前に、電極触媒層92が形成された高分子電解質膜91の加水分解を行っていたが、本実施形態に係るガス拡散層15は、これまでのものに比べて吸水性に優れているため、接合後であっても、加水分解用のアルカリ溶液がガス拡散層15に浸透し、容易に、高分子電解質膜を加水分解することができる。
このような結果、これまでは、図3(b)に示す、加水分解時に高分子電解質膜91Aが膨潤し、図3(c)示すホットプレス時に、加水分解した高分子電解質膜91Aの水分が抜けて、高分子電解質膜91Aが収縮する。
これにより、図3(d)に示すように、高分子電解質膜91Aにしわが発生することがあった。しかしながら、図2(c)に示すように、本実施形態によれば、ホットプレス後に加水分解を行うので、水分の抜けによる膜収縮がないので、しわのない膜電極接合体50を確実に製造することができる。
また、図2(a)に示すF型高分子電解質膜51は、図2(c)に示す加水分解後のH型高分子電解質51Aに比べて軟らかく、また、本実施形態で製造されたガス拡散層15は、従来のガス拡散層に比べてクッション性が高いので、ホットプレス(熱圧プレス)による接合性をより高め、電極触媒層52に密着し易い。
さらに、図2(a)〜(c)に示す一連の工程で製造された膜電極接合体50を用いて製造された燃料電池は、高分子電解質膜51Aにしわがなく、無数の微細孔16が形成されガス拡散性に優れたガス拡散層15を備えているので、発電特性を向上させることができる。
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
(実施例1)
上述した実施形態に示す方法に沿って、ガス拡散層に相当する試験体を製造した。具体的には、導電性粉末として平均粒径50μmのカーボンブラック粉末と、疎水性樹脂粉末として、平均粒径500μmのPTFE粉末とを、質量比で、5:1の割合で、100gとなるように混練し、ガス拡散層用粉末を製作した。
上述した実施形態に示す方法に沿って、ガス拡散層に相当する試験体を製造した。具体的には、導電性粉末として平均粒径50μmのカーボンブラック粉末と、疎水性樹脂粉末として、平均粒径500μmのPTFE粉末とを、質量比で、5:1の割合で、100gとなるように混練し、ガス拡散層用粉末を製作した。
次に、圧力8MPa、温度40℃の超臨界雰囲気下条件とした超臨界二酸化炭素を生成し、樹脂成形装置に、超臨界二酸化炭素を1mL/minと、先に製作したガス拡散層用粉末とを投入して混合し、上述した超臨界雰囲気下(超臨界二酸化炭素が生成された温度及び圧力)でガス拡散層用ペースト材を製作し、これを押出成形によりフィルム状のガス拡散層に成形すると共に、ペースト材に含まれる超臨界二酸化炭素を大気圧まで減圧して、無数の微細孔が形成されたガス拡散層を製作した。そして、得られた成形部材から、φ3mm、高さ10mmとなるように円柱試験片を製作した。
(比較例1)
実施例と同じ形状の円柱状試験片を製作した。実施例と相違する点は、従来の方法で、炭素繊維及びPTFE粉末を、実施例1と同じ割合で界面活性剤を含む水溶液で混合してペースト状にして塗布し、これを焼成して、ガス拡散層を製作し、これを円柱状の試験片にした点である。
実施例と同じ形状の円柱状試験片を製作した。実施例と相違する点は、従来の方法で、炭素繊維及びPTFE粉末を、実施例1と同じ割合で界面活性剤を含む水溶液で混合してペースト状にして塗布し、これを焼成して、ガス拡散層を製作し、これを円柱状の試験片にした点である。
[評価方法1]
実施例1及び比較例1の円柱状試験片の両端を加圧部材で加圧し、円柱状試験片が屈曲するまでの加圧力(耐圧力)を測定した。この結果を表1に示す。
実施例1及び比較例1の円柱状試験片の両端を加圧部材で加圧し、円柱状試験片が屈曲するまでの加圧力(耐圧力)を測定した。この結果を表1に示す。
[結果1]
実施例1の加圧力が、比較例1の耐圧力よりも大きいことから、実施例1のガス拡散層のほうが、機械的強度が高いと考えられる。実施例1及び比較例1のガス拡散層は、PTFEとカーボンブラック粉末が同程度の割合で含有しているにもかかわらず、実施例1のほうが比較例1よりも機械的強度が高い理由は、成形時に超臨界二酸化炭素が減圧され、ガス化又は蒸気化した二酸化炭素により、溶解したPTFEに、せん断応力が作用するので、PTFEの繊維化が促進され、これにより、ガス拡散層の機械的強度が向上したと考えられる。
実施例1の加圧力が、比較例1の耐圧力よりも大きいことから、実施例1のガス拡散層のほうが、機械的強度が高いと考えられる。実施例1及び比較例1のガス拡散層は、PTFEとカーボンブラック粉末が同程度の割合で含有しているにもかかわらず、実施例1のほうが比較例1よりも機械的強度が高い理由は、成形時に超臨界二酸化炭素が減圧され、ガス化又は蒸気化した二酸化炭素により、溶解したPTFEに、せん断応力が作用するので、PTFEの繊維化が促進され、これにより、ガス拡散層の機械的強度が向上したと考えられる。
(実施例2)
高分子電解質前駆体(NafionDE2020(Dupont社製))からなる高分子電解質膜を準備し、この高分子電解質膜の両面に白金担持カーボンと、高分子電解質膜の高分子電解質と同じ高分子電解質とを含む溶液を塗布し、アノード側及びカソード側に触媒層を積層し、さらに、ホットプレスによりガス拡散層を形成し、その後、水酸化ナトリウム溶液に浸漬して、高分子電解質膜の加水分解を行い、その後、硝酸水溶液で中和し、膜電極接合体を製作した。
高分子電解質前駆体(NafionDE2020(Dupont社製))からなる高分子電解質膜を準備し、この高分子電解質膜の両面に白金担持カーボンと、高分子電解質膜の高分子電解質と同じ高分子電解質とを含む溶液を塗布し、アノード側及びカソード側に触媒層を積層し、さらに、ホットプレスによりガス拡散層を形成し、その後、水酸化ナトリウム溶液に浸漬して、高分子電解質膜の加水分解を行い、その後、硝酸水溶液で中和し、膜電極接合体を製作した。
(比較例2)
実施例1と同じようにして、膜電極接合体を製作した。実施例2と相違する点は、比較例1に係るガス拡散層を用い、さらに、加水分解を、ガス拡散層を積層する前にした点である。
実施例1と同じようにして、膜電極接合体を製作した。実施例2と相違する点は、比較例1に係るガス拡散層を用い、さらに、加水分解を、ガス拡散層を積層する前にした点である。
[評価方法]
製作した膜電極接合体をセパレータで挟持して燃料電池セルを製作し、これら燃料電池セルを積層して燃料電池スタックを製作した。そして、アノード電極に80%RHに加湿した水素ガスを供給し、カソード電極に無加湿の空気を供給し、セル温度を80℃に保持して、燃料電池に外部負荷を接続し、このときに外部負荷に流れる電流密度及びセル電圧から、燃料電池の発電量を算出して、発電効率を求めた結果を図4に示す。なお、図4は、比較例2に係る燃料電池の発電効率を100%としたものである。
製作した膜電極接合体をセパレータで挟持して燃料電池セルを製作し、これら燃料電池セルを積層して燃料電池スタックを製作した。そして、アノード電極に80%RHに加湿した水素ガスを供給し、カソード電極に無加湿の空気を供給し、セル温度を80℃に保持して、燃料電池に外部負荷を接続し、このときに外部負荷に流れる電流密度及びセル電圧から、燃料電池の発電量を算出して、発電効率を求めた結果を図4に示す。なお、図4は、比較例2に係る燃料電池の発電効率を100%としたものである。
[結果2]
実施例2は、比較例2に比べて、発電効率が高かった。これは、実施例2のガス拡散層は、複数の微細孔が形成されたことにより、発電時において水素ガス及び空気のガス拡散性が高かったことによると考えられる。
実施例2は、比較例2に比べて、発電効率が高かった。これは、実施例2のガス拡散層は、複数の微細孔が形成されたことにより、発電時において水素ガス及び空気のガス拡散性が高かったことによると考えられる。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
11:カーボンブラック粉末、12:PTFE粉末(PTFEペレット)、13:ガス拡散層用粉末、14:ガス拡散層用ペースト材、15:ガス拡散層、30:超臨界流体生成装置、40:樹脂成形装置、41:混合部、42:押出し部、43:成形ロール、44:巻き取りロール、50:膜電極接合体、51:F型高分子電解質膜、51A:H型高分子電解質膜、52:電極触媒層、UC:超臨界二酸化炭素
Claims (6)
- 導電性粉末と、疎水性樹脂粉末とを混練して、ガス拡散層用粉末を製造する工程と、
前記ガス拡散層用粉末に、超臨界雰囲気下で超臨界流体を混合することにより、前記疎水性樹脂を溶解させて、ガス拡散層用ペースト材を製造する工程と、
前記ガス拡散層用ペースト材の超臨界流体を減圧しながらフィルム状に成形する工程と、を含むことを特徴とするガス拡散層の製造方法。 - 前記疎水性樹脂粉末は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる粉末であることを特徴とする請求項1に記載のガス拡散層の製造方法。
- 前記超臨界流体は、超臨界二酸化炭素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス拡散層の製造方法。
- 前記導電性粉末は、カーボンブラックからなる粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス拡散層の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかの製造方法で製造されたガス拡散層を積層した膜電極接合体。
- 請求項1〜4のいずれかの製造方法で製造されたガス拡散層を用いて膜電極接合体を製造する方法であって、
加水分解によりプロトン伝導性を有する高分子電解質前駆体からなる高分子電解質膜の表面に、電極触媒層を積層する積層工程と、
前記ガス拡散層を、加熱及び加圧しながら前記電極触媒層の表面に接合して積層する工程と、
前記高分子電解質膜の高分子電解質前駆体が、プロトン伝導性を有する高分子電解質となるように、加水分解する工程と、を含むことを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
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-
2009
- 2009-04-24 JP JP2009106732A patent/JP2010257765A/ja active Pending
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