JP2010255842A - 無励磁作動形ブレーキ - Google Patents
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Abstract
【課題】ブレーキとしての固着が発生することを防止するとともに、優れた摩擦・摩耗特性を有する無励磁作動形ブレーキを提供する。
【解決手段】被制動軸回りに微少角度揺動可能であって且つ磁極体と共に磁気回路を形成し得るアーマチュア3と、被制動軸の軸方向に沿ってアーマチュア3と対向する位置に配されるプレート5と、アーマチュア3とプレート5との間に配され且つ励磁コイルが無励磁状態である場合にアーマチュア3が押圧する第1摩擦面6Sa及びプレート5が押圧する第2摩擦面6Sbを有する摩擦板6とを備え、摩擦板6の第1摩擦面6Sa及び第2摩擦面6Sb、アーマチュア3のうち第1摩擦面6Saに押圧し得る面3S、プレート5のうち第2摩擦面6Sbに押圧し得る面5Sをそれぞれ硬化処理した。
【選択図】図3
【解決手段】被制動軸回りに微少角度揺動可能であって且つ磁極体と共に磁気回路を形成し得るアーマチュア3と、被制動軸の軸方向に沿ってアーマチュア3と対向する位置に配されるプレート5と、アーマチュア3とプレート5との間に配され且つ励磁コイルが無励磁状態である場合にアーマチュア3が押圧する第1摩擦面6Sa及びプレート5が押圧する第2摩擦面6Sbを有する摩擦板6とを備え、摩擦板6の第1摩擦面6Sa及び第2摩擦面6Sb、アーマチュア3のうち第1摩擦面6Saに押圧し得る面3S、プレート5のうち第2摩擦面6Sbに押圧し得る面5Sをそれぞれ硬化処理した。
【選択図】図3
Description
本発明は、無励磁状態においてバネ等の付勢力或いは永久磁石の力により制動力が働く無励磁作動形ブレーキに関するものである。
従来より、励磁コイルを有する磁極体と、被制動軸回りに微少角度揺動可能であって且つ軸方向に摺動可能なアーマチュアと、被制動軸の軸方向に沿ってアーマチュアと対向する位置に設けたプレートと、アーマチュアとプレートとの間に配される摩擦板と、アーマチュアをプレート側に付勢するバネ等の付勢部材とを備え、励磁コイルが無励磁状態である場合に、アーマチュアが付勢部材によってプレート側に付勢され、摩擦板がアーマチュア及びプレートに押圧することにより制動力が働く無励磁作動形ブレーキが知られている。
このような無励磁作動形ブレーキでは、摩擦板に押圧し得る摩擦相手材であるアーマチュアやプレートとして、例えば低炭素鋼等の軟鋼製のものが適用されている。一方、この種の無励磁作動形ブレーキに適用される摩擦板としては、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂と添加剤とを混合して圧縮成形されたものや、このような熱硬化性樹脂と添加剤とを混合して圧縮成形されたフェーシングを金属製の芯材に一体的に取り付けたもの(特許文献1参照)、或いは金属製の芯材を主体としてその表面に硬化処理を施したもの(特許文献2参照)が挙げられる。なお、特許文献2の構成においては、摩擦板のうち励磁コイルが無励磁状態にある場合にアーマチュアに押圧する第1摩擦面及びプレートに押圧する第2摩擦面は、それぞれアーマチュア及びプレートよりも相対的に硬度が高く設定されていた(金属製の摩擦板にのみ硬化処理を施し、アーマチュア及びプレートには硬化処理を施していない)。
ところで、このような無励磁作動形ブレーキは、摩擦トルクの安定化を図るために第1摩擦面及び第2摩擦面をそれぞれ摩擦相手材であるアーマチュアやプレートに擦り合わせる処理、いわゆるなじみ処理が出荷前に通常行われる。しかしながら、特許文献2の構成を採用した場合、つまり、金属製の摩擦板にのみ硬化処理を施す一方、軟鋼製の摩擦相手材であるアーマチュア及びプレートには硬化処理を施さない構成を採用した場合、アーマチュア及びプレートは摩擦板の第1摩擦面及び第2摩擦面よりも相対的に柔らかいために、なじみ処理中に、アーマチュア及びプレートのうち摩擦板の第1摩擦面や第2摩擦面にそれぞれ接触する部分(相手材摩擦面)が第1摩擦面及び第2摩擦面に凝着するいわゆる凝着摩耗が生じたり、アーマチュアやプレートの局部的な塊状破壊物(摩耗粉)が第1摩擦面や第2摩擦面に移着するという現象が生じることがあった。
そして、凝着摩耗や摩耗粉の移着が発生することによって、第1摩擦面、第2摩擦面、相手材摩擦面が局部的又は全体的に凹凸の激しい荒れた形状となり、摩擦力にバラツキが生じ得る可能性があった。さらには、これら摩擦板の第1摩擦面、第2摩擦面に凝着又は移着した摩擦相手材の一部や摩耗粉が第1摩擦面、第2摩擦面から相手材摩擦面側に突出して楔のように作用することによって、アーマチュアと磁極体との間のエアーギャップ(軸方向に形成される隙間)がゼロとなり、摩擦板の摩擦面及び相手材摩擦面に作用する垂直荷重がさらに大きくなることによって、ブレーキが固着してロック状態が生じる可能性があった。このようなロックは、相手材の摩擦面を摩擦材の摩擦面よりも硬度が低い軟鋼製のものとして、塑性変形の起こる規模(大きさ)が確保すべきエアーギャップの寸法(例えば0.1mm)より大きい場合に発生する現象である。
このような課題に着目してなされた本発明の主たる目的は、ブレーキとしての固着が発生することを防止するとともに、優れた摩擦・摩耗特性を有する無励磁作動形ブレーキを提供することにある。
すなわち本発明は、励磁コイルを有する磁極体と、被制動軸回りに揺動可能であって且つ磁極体と共に磁気回路を形成し得る1つ以上のアーマチュアと、被制動軸の軸方向に沿ってアーマチュアと対向する位置に配されるプレートと、励磁コイルが無励磁状態である場合に1つ以上の全てのアーマチュア又は前記プレートが押圧する摩擦面を軸方向両端面にそれぞれ有する1つ以上の摩擦板とを備え、無励磁状態において1つ以上の全ての摩擦板を介して1つ以上の全てのアーマチュアとプレートとを連結する乾式の無励磁作動形ブレーキに関するものであり、摩擦板における摩擦面、アーマチュアのうち摩擦板の摩擦面に押圧し得る面、及びプレートのうち摩擦板の摩擦面に押圧し得る面がそれぞれ硬化処理された面であることを特徴とする。ここで、「押圧」とは、接触した状態で押し付けて圧することを意味する。また、「軸方向」とは「被制動軸の軸方向」を意味する。
本発明の無励磁作動形ブレーキは、湿式ではなく乾式に関するものである。これは、乾式と湿式とでは摩擦力の発生原理が異なることに基づく。すなわち、湿式は油等の液体の粘性で摩擦力を発生させるものであるのに対して、乾式は液体を用いずに部品等の固体同士が直接擦れ合うことで摩擦力を発生させるものである。そして、本発明に係る乾式の無励磁作動形ブレーキは、無励磁状態において相互に押圧する面同士を何れも硬化処理を施した面として形成することにより、摩擦力が各面に作用する場合(なじみ処理等)、各面において塑性変形が生じ難く、また塑性変形が生じた場合であってもその変形規模(変形量)を可及的に小さくすることができ、凝着摩耗や摩耗粉の移着を防止または抑制することができる。そして、各面が凹凸状に荒れる(変形する)ことを回避することができ、エアーギャップを確保することができるため、無励磁状態において適切な制動力を発揮するものとなる。ここで、無励磁状態において「相互に押圧する面」とは、例えば、アーマチュア及び摩擦板をそれぞれ1つずつ備え、アーマチュアとプレートとの間に1つの摩擦板を配置した無励磁作動形ブレーキであれば、摩擦板とアーマチュアとの関係においては、摩擦板の一方の摩擦面とアーマチュアのうち摩擦板の当該一方の摩擦面に押圧し得る面であり、摩擦板とプレートとの関係においては、摩擦板の他方の摩擦面(前記一方の摩擦面とは異なる摩擦面)とプレートのうち摩擦板の当該他方の摩擦面に押圧し得る面である。
さらに、硬化処理した面同士を押圧させた場合、従来のフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂と添加剤からなる摩擦板の摩擦面と硬化処理されていない軟鋼等の鉄そのもの或いはメッキ処理された面とを相互に押圧させた場合と比較して、高摩擦(摩擦係数が高い)であり、しかも摩擦係数の変動幅も小さく、且つ摩耗も小さめか同等であることを発明者らは見出した。
このように、本発明者らは、無励磁状態において相互に押圧し得る面同士を何れも硬化処理することによって、アーマチュアやプレート、つまり摩擦相手材の塑性変形を抑制又は防止し、相互に押圧する面同士が互いに凹凸形状に大きく荒れることを防止することによってロックの発生を回避するという斬新な技術的思想に基づいて、本発明の無励磁作動形ブレーキを案出するに至ったものである。さらに、本発明者は、このような技術的思想に基づく無励磁作動形ブレーキであれば、ブレーキとしての固着を防止することができるのみならず、従来のフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂と添加剤からなるいわゆる摩擦材と比較してより優れた摩擦・摩耗特性を発揮することも見出した。
また、摩擦板自体は薄く形成することが可能である点、及び摩擦面の数が増えればトルクが増大する点に着目し、本発明では、軸方向に2つ以上の摩擦板を配設した無励磁作動形ブレーキを構成することができる。この場合、アーマチュアも軸方向に2つ以上配設し、アーマチュアと摩擦板とを軸方向に交互に並べる態様を採用することができる。このように、軸方向に複数の摩擦板を配置した無励磁作動形ブレーキであれば、上述した2つの点より、ブレーキ全体の大型化(特に軸方向の寸法増加)を招来することなくトルクを大きくすることができ、また、摩擦板が1つだけの無励磁作動形ブレーキと同程度のトルクに設定したい場合にはブレーキ全体の小型化(特に軸方向の寸法縮小)を図ることができる。
また、摩擦板、アーマチュア、及びプレートの主材料としては鋼が好ましく、これら摩擦板、アーマチュア、及びプレートにおいて硬化処理された面、つまり、摩擦板の摩擦面、アーマチュアのうち摩擦板の摩擦面に押圧し得る面、及びプレートのうち摩擦板の摩擦面に押圧し得る面、これら面の硬度としては、ビッカース硬度(HV)350以上1200以下であることが望ましい。ここで、「鋼」としては、低炭素鋼等の軟鋼やステンレス鋼等が挙げられる。
また、このような無励磁作動形ブレーキにおいて適用可能な硬化処理としては、窒化処理、浸炭処理、無電解ニッケルメッキ処理、硬質クロムメッキ処理、タフトライド処理(イソナイト処理)、或いは焼入れ焼戻し処理等が挙げられるが、特に窒化処理であれば、作業効率の向上や製作工程の簡素化、製作コストの低廉化を有効に図ることができる。
本発明によれば、ブレーキとしての固着が発生することを防止するとともに、優れた摩擦・摩耗特性を有する無励磁作動形ブレーキを提供することができる。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る無励磁作動形ブレーキXは、図1等に示すように、無励磁状態において後述する付勢部材4の付勢力(バネ力)により制動力が作用する乾式の無励磁作動形ブレーキXである。この無励磁作動形ブレーキXは、図1及び図2に示すように、励磁コイル12を有する磁極体1と、被制動軸2と、被制動軸2の軸回りに微少角度揺動可能であって且つ磁極体1と共に磁気回路を形成し得るアーマチュア3と、アーマチュア3を磁極体1から離間する方向に付勢する付勢部材4と、被制動軸2の軸方向(スラスト方向)に沿ってアーマチュア3と対向する位置に配されるプレート5と、アーマチュア3とプレート5との間に配される摩擦板6とを備えたものである。
磁極体1は、アーマチュア3側に開口する断面視コ字状の凹部11aが形成されたリング状のヨーク11と、凹部11a内に収容される励磁コイル12とを備えたものであり、フィールドコアとも称される。ヨーク11を図示しない固定部に固定することにより、磁極体1全体が移動不能に固定されている。
アーマチュア3は、図3(同図は図2のz領域拡大図である)に示すように、例えば低炭素鋼等の軟鋼からなるアーマチュア芯材31と、アーマチュア芯材31の表面を硬化処理することによって形成したアーマチュア表面硬化層32とを備えたリング状をなすものである。このアーマチュア3は、被制動軸2の軸方向(スラスト方向)にスライド移動可能なものである。なお、本実施形態の無励磁作動形ブレーキXは、磁極体1から後述するプレート5に亘って被制動軸2の軸方向と平行な平行ピンPを設けおり、アーマチュア3は平行ピンPにガイドされながら被制動軸2の軸方向にスライド移動可能であって且つ回転方向には平行ピンPにより拘束される(トルク支持)ようにしている(図1参照)。具体的には、平行ピンPを、アーマチュア3に形成したアーマチュアの厚み方向に貫通させた穴(平行ピンPにおける軸部分の径よりも大きな開口寸法を有する穴)又は例えば外側方(被制動軸2から離間する方向)に向かって開口するU字状の溝に通した状態で磁極体1に圧入しておくことにより、穴又は溝と平行ピンPとのあそび(ギャップ)分だけアーマチュア3が被制動軸2の回転方向に微少角度揺動するように構成している。以下の説明では、アーマチュア3のうち、後述する摩擦板6と接触する面を「アーマチュア摩擦面3S」と称する。このアーマチュア摩擦面3Sが本発明における「アーマチュアのうち第1摩擦面に押圧し得る面」に相当する。
付勢部材4は、例えばバネから構成され、アーマチュア3を磁極体1から離間する方向に付勢するものである。本実施形態では、ヨーク11に形成した付勢部材用凹部11bに付勢部材4の一部を収容している。
プレート5は、例えば低炭素鋼等の軟鋼からなるプレート芯材51と、プレート芯材51の表面を硬化処理することによって形成したプレート表面硬化層52とを備えたリング状をなすものである。このプレート5は、先端部を磁極体1に螺着させた固定ネジBの頭部Baとこの固定ネジBに螺着したナットNとによって挟まれた状態で固定されている(図2参照)。本実施形態では、アーマチュア芯材31及びプレート芯材51の表面にそれぞれ窒化処理(例えば塩浴窒化処理やガス軟窒化処理)を施すことによってアーマチュア表面硬化層32及びプレート表面硬化層52を形成している。以下の説明では、プレート5のうち、後述する摩擦板6と接触する面を「プレート摩擦面5S」と称する。このプレート摩擦面5Sが本発明における「プレートのうち第2摩擦面に押圧し得る面」に相当する。
摩擦板6は、例えばステンレス鋼、具体的には非磁性の鋼材であるオーステナイト系ステンレス鋼(好ましくはSUS304或いはSUS303)からなる摩擦板芯材61と、摩擦板芯材61の表面を硬化処理することによって形成した摩擦板表面硬化層62とを備えたリング状をなすものである。この摩擦板6は、オーステナイト系ステンレス鋼等の非磁性の鋼材をプレス加工又は切削加工することによって金属製の摩擦板芯材61を形成し、次いで、摩擦板芯材61の表面に硬化処理、具体的には塩浴窒化処理又はガス軟窒化処理等の窒化処理を施して摩擦板表面硬化層62を形成することによって製作されるものである。以下の説明では、摩擦板6のうち、アーマチュア摩擦面3Sと接触し得る面を「第1摩擦面6Sa」と称し、プレート摩擦面5Sと接触し得る面を「第2摩擦面6Sb」と称する。なお、摩擦板6の基端部(被制動軸2側の端部)は、被制動軸2回りに設けたハブHにスプライン結合されている(図1参照)。
次に、このような構成をなす無励磁作動形ブレーキXの動作について説明する。
励磁コイル12が励磁されていない無励磁状態である場合、図1乃至図3に示すように、アーマチュア3は、付勢部材4の付勢力によって磁極体1から離間する方向に付勢され、摩擦板6に押圧する。具体的には、アーマチュア3のアーマチュア摩擦面3Sと摩擦板6の第1摩擦面6Saとが押圧する。この際、摩擦板6の第2摩擦面6Sbとプレート5のプレート摩擦面5Sも相互に押圧し、その結果、ハブHを介して被制動軸2に制動力が作用する。
一方、励磁コイル12が励磁状態である場合、アーマチュア3は、磁極体1と共に磁気回路を形成し、この磁気回路を通る磁束によって発生する吸引力により付勢部材4の付勢力に抗して磁極体1に接触する位置まで磁極体1側に吸引される。これにより、アーマチュア3は摩擦板6から離間し、アーマチュア摩擦面3Sと摩擦板6の第1摩擦面6Saとの押圧状態も解除され、被制動軸2に対する制動力は働かない。
そして、本実施形態に係る無励磁作動形ブレーキXは、励磁コイル12が励磁されていない無励磁状態において相互に押圧する摩擦面同士、具体的にはアーマチュア摩擦面3Sと摩擦板6の第1摩擦面6Sa、及びプレート摩擦面5Sと第2摩擦面6Sb、これらの摩擦面を全て硬化処理した表面硬化層(アーマチュア表面硬化層32、摩擦板表面硬化層62、プレート表面硬化層52)によって形成しているため、従来の態様、つまり無励磁状態において摩擦板の摩擦面と接触する摩擦相手材(アーマチュアやプレート)の摩擦面が軟鋼そのものである態様と比較して、なじみ処理中における各摩擦面(第1摩擦面6Sa、第2摩擦面6Sb、アーマチュア摩擦面3S、プレート摩擦面5S)の塑性変形を抑制することができる。その結果、従来の態様であれば生じ得た凝着摩耗や摩耗粉の移着を防止することができ、各摩擦面(第1摩擦面6Sa、第2摩擦面6Sb、アーマチュア摩擦面3S、プレート摩擦面5S)が比較的大きく塑性変形した場合に生じ得る不具合、すなわち、塑性変形により各摩擦面が凹凸状に大きく荒れて(面荒れ)、励磁コイル12が励磁状態にある場合に確保すべきエアーギャップを確保することができず、垂直荷重が正規よりも大きく作用した場合にいわゆるブレーキとしての固着(ロック)が生じ得るという不具合を有効に防止することができる。
さらに、本実施形態に係る無励磁作動形ブレーキXは、相互に押圧し得る摩擦面の両方(摩擦板6とアーマチュア3との関係では第1摩擦面6Saとアーマチュア摩擦面3Sとを意味し、摩擦板6とプレート5との関係では第2摩擦面6Sbとプレート摩擦面5Sとを意味する)を硬化処理された表面硬化層によって形成することにより、従来のフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂と添加剤とからなるいわゆる摩擦材で構成された摩擦板を用いるブレーキのように相互に押圧し得る摩擦面のうち一方の摩擦面を軟鋼等の鉄や亜鉛めっき鉄自体によって形成している態様と比較して、摩擦係数が高く、しかも摩擦係数の変動幅も小さく、さらに摩耗深さも小さい(浅い)又はほぼ同等であることが発明者の行った試験によって判明した。
図4乃至図6は、相互に押圧し得る摩擦面における静摩擦係数、静摩擦係数の変動幅、及び摩耗深さをそれぞれ実施例及び従来例について同じ条件下で試験して得られたデータを示すものであり、以下に詳述する。
実施例1…図4乃至図6における(1)であり、相互に押圧する摩擦面のうち、一方の摩擦面がステンレス鋼の表面を窒化処理(具体的には塩浴窒化処理)することによって形成した面であり、他方の摩擦面が、軟鋼の表面を窒化処理することによって形成した面である。
実施例2…図4乃至図6における(2)であり、相互に押圧する摩擦面のうち、一方の摩擦面がステンレス鋼の表面を窒化処理した後にさらにペーパー掛け処理を施したものであり、他方の摩擦面が軟鋼の表面を窒化処理した後にさらにペーパー掛け処理を施したものである。
従来例1…図4乃至図6における(3)であり、相互に押圧する摩擦面のうち、一方の摩擦面が従来実用してきた摩擦材のうちで静摩擦係数最高クラスの摩擦材からなるものであり、他方の摩擦面が軟鋼からなるものである。
従来例2…図4乃至図6における(4)であり、相互に押圧する摩擦面のうち、一方の摩擦面が、従来実用してきている各種摩擦材から選択した一の摩擦材からなるものであり、他方の摩擦面が軟鋼の表面に亜鉛メッキ処理を施したものである。
従来例3…図4乃至図6における(5)であり、相互に押圧する摩擦面のうち、一方の摩擦面が、従来実用してきている各種摩擦材から選択した一の摩擦材であって且つ従来例2とは異なる摩擦材からなるものであり、他方の摩擦面が軟鋼の表面に亜鉛メッキ処理を施したものである。
各実施例、従来例について2サンプルずつ試験を実施し、全て共通の試験条件及び評価方法によって相対比較した結果、実施例1及び実施例2は、従来例1乃至3と比較して、摩擦係数が高い一方で、摩擦係数の変動幅は小さく、しかも摩耗量も少ない又はほぼ同等程度であることが確認された。すなわち、本実施形態に係る無励磁作動形ブレーキXのように、相互に接触する摩擦面(摩擦板6とアーマチュア3との関係においては第1摩擦面6Sa及びアーマチュア摩擦面3Sであり、摩擦板6とプレート5との関係においては第2摩擦面6Sb及びプレート5摩擦板6)の両面を硬化処理した面とすることによって、従来のフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂と添加剤とからなる、いわゆる摩擦材を使う場合(従来例1乃至3)と比較して、優れた摩擦・摩耗特性を有し、適切な制動力を発揮するものとなる。加えて、各摩擦面(第1摩擦面6Sa、第2摩擦面6Sb、アーマチュア摩擦面3S、プレート摩擦面5S)が、硬化処理した後にペーパー掛け処理を施した面であればさらに優れた摩擦・摩耗特性を有することも確認され、このような摩擦面を無励磁作動形ブレーキXに適用することによって、より適切な制動力を発揮するものとなる。
また、本実施形態に係る無励磁作動形ブレーキXは、摩擦板6、アーマチュア3及びプレート5の表面を窒化処理する、或いは窒化処理した後にペーパー掛け処理を行うだけで上述した優れた摩擦・摩耗特性を有するものとなり、製作工程の複雑化を招来することなく、製作コストの大幅な増加も回避することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、図7に示すように、軸方向に複数の摩擦板(図示例では2つの摩擦板6A、6B)を並べた乾式の無励磁作動形ブレーキXであってもよい。図7に示す無励磁作動形ブレーキXは、2つのアーマチュア3A、3B及び2つの摩擦板6A、6Bを備え、これらアーマチュア3A、3B及び摩擦板6A、6Bを軸方向に交互に配置したものである。これら各アーマチュア3A、3B及び各摩擦板6A、6Bはそれぞれ上述した実施形態におけるアーマチュア3及び摩擦板6に準じて表面に硬化処理を施している。そして、摩擦板として上述した実施形態で示した摩擦板6よりも薄い摩擦板6A、6Bを適用することにより、無励磁作動形ブレーキの軸方向寸法の大型化を招来することなく、複数のアーマチュア3A、3B及び摩擦板6A、6Bを軸方向に交互に配置することができる。ここで、2つのアーマチュア3A、3Bのうち、磁極体1側のアーマチュアを第1アーマチュア3Aとし、摩擦板6A、6B間に配置されるマーマチュアを第2アーマチュア3Bとするとともに、2つの摩擦板6A、6Bのうち相対的に磁極体1に近い方の摩擦板を第1摩擦板6Aとし、アーマチュア3A、3B間に配置される摩擦板を第2摩擦板6Bとした場合、無励磁状態において、第1摩擦板6Aの一方の摩擦面6ASaは第1アーマチュア3Aのアーマチュア摩擦面3ASに押圧し、他方の摩擦面6ASbは第2アーマチュア3Bの一方のアーマチュア摩擦面3BSaに押圧するとともに、第2摩擦板6Bの一方の摩擦面6BSaは第2アーマチュア3Bの他方のアーマチュア摩擦面3BSbに押圧し、他方の摩擦面6BSbはプレート5のプレート摩擦面5Sに押圧する。そして、これら相互に押圧する面に全て硬化処理を施していることにより、上述した作用効果と同様の作用効果を得ることができる。なお、図7及び図8において、前記実施形態に係る無励磁作動形ブレーキXの各部と対応する部分には同じ符号を付し、図8では、各アーマチュア3A、3Bの芯材、表面硬化層をそれぞれ3A1、3B1、3A2、3B2で示し、各摩擦板6A、6Bの芯材、表面硬化層をそれぞれ6A1、6B1、6A2、6B2で示している。
さらに、乾式無励磁作動形ブレーキが発揮するトルクは、次の数式、
T=nμPr
T:トルク、n:摩擦面の数、μ:摩擦係数、P:圧力(押付力)、r:平均摩擦半径
で求めることができ、1つの摩擦板が2つの摩擦面を有するものであることから、以下の表2に示すように摩擦板の増加に伴ってトルクも増加する。
このように、例えば摩擦板の数を2、3、4と増加することにより、無励磁状態で得られるトルクは、1つの摩擦板を備えたブレーキで得られるトルクの2倍、3倍、4倍となり、摩擦板を軸方向に複数配置することによってトルクの増大化を実現することができる。図7及び図8に示す態様では2つの摩擦板を用いているため、摩擦面の数が4となり、無励磁状態で得られるトルクは1つの摩擦板を備えたブレーキと比較して2倍のトルクを得ることができる。さらに、上述したように、表面に硬化処理を施すことで優れた摩擦・摩耗特性を各摩擦面に与えることができるため、例えば軸方向に複数配置した摩擦板を図7及び図8に示すように薄く形成することが可能になり、ブレーキ全体の大型化(特に軸方向の大型化)を招来することなく、トルクの増加を実現することができる。
T=nμPr
T:トルク、n:摩擦面の数、μ:摩擦係数、P:圧力(押付力)、r:平均摩擦半径
で求めることができ、1つの摩擦板が2つの摩擦面を有するものであることから、以下の表2に示すように摩擦板の増加に伴ってトルクも増加する。
また、比較的薄い摩擦板を適用することが可能であるということは、例えば図2に示す摩擦板6の厚みを図7に示す摩擦板6A、6Bの厚みに設定変更すれば、トルクの低下を伴うことなく、ブレーキ全体の小型化(特に軸方向の小型化)を実現することができる。
また、上述した実施形態では、硬化処理として、塩浴窒化処理やガス軟窒化処理等の窒化処理を例示したが、窒化処理に代えて、浸炭処理、無電解ニッケルメッキ処理、硬質クロムメッキ処理、タフトライド処理(イソナイト処理)、或いは焼入れ焼戻し処理等の硬化処理を採用してもよい。
また、上述した実施形態では、摩擦相手材(アーマチュア3、プレート5)の主材料(芯材、母材)として軟鋼の一種である低炭素鋼を採用した例を示したが、軟鋼以外の鋼を主材料として採用することもでき、或いは主材料として軟鋼に代えて、純鉄や電磁軟鉄を採用してであっても構わない。また、摩擦板の主材料(芯材、母材)として、ステンレス鋼以外の鋼を適用してもよく、或いは鋼以外の金属材料を採用することもできる。摩擦板が、金属材料(鋼であるか否かを問わず)を主材料とし、摩擦面を樹脂コーティングではなく窒化処理等の硬化処理により形成したものであれば、環境負荷ガス(CO2)の排出を伴わずに焼却廃棄処理することができ、対環境性にも優れる。
また、制動力にバネ等の付勢部材の弾性を利用する態様に代えて、磁極体に設けた永久磁石の力を利用して制動力を働かせる無励磁作動形ブレーキであっても構わない。すなわち、無励磁状態には永久磁石の力で制動力が被制動軸に作用する一方、励磁状態ではコイル磁束が永久磁石の力を打ち消すことによって制動力が被制動軸に作用しない無励磁作動形ブレーキであっても構わない。
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
1…磁極体
12…励磁コイル
2…被制動軸
3、3A、3B…アーマチュア
3S…第1摩擦面に押圧し得る面(アーマチュア摩擦面)
3AS、3BSa、3BSb…摩擦板の摩擦面に押圧し得る面(アーマチュア摩擦面)
5…プレート
5S…第2摩擦面に押圧し得る面(プレート摩擦面)
6、6A、6B…摩擦板
6Sa…第1摩擦面
6Sb…第2摩擦面
6ASa、6ASb、6BSa、6BSb…摩擦面
X…無励磁作動形ブレーキ
12…励磁コイル
2…被制動軸
3、3A、3B…アーマチュア
3S…第1摩擦面に押圧し得る面(アーマチュア摩擦面)
3AS、3BSa、3BSb…摩擦板の摩擦面に押圧し得る面(アーマチュア摩擦面)
5…プレート
5S…第2摩擦面に押圧し得る面(プレート摩擦面)
6、6A、6B…摩擦板
6Sa…第1摩擦面
6Sb…第2摩擦面
6ASa、6ASb、6BSa、6BSb…摩擦面
X…無励磁作動形ブレーキ
Claims (4)
- 励磁コイルを有する磁極体と、
被制動軸回りに揺動可能であって且つ前記磁極体と共に磁気回路を形成し得る1つ以上のアーマチュアと、
前記被制動軸の軸方向に沿って前記アーマチュアと対向する位置に配されるプレートと、
前記励磁コイルが無励磁状態である場合に前記アーマチュア又は前記プレートが押圧する摩擦面を軸方向両端面にそれぞれ有する1つ以上の摩擦板とを備え、
前記無励磁状態において前記摩擦板を介して前記アーマチュアと前記プレートとを連結する乾式の無励磁作動形ブレーキであり、
前記摩擦板における前記摩擦面、前記アーマチュアのうち前記摩擦板の摩擦面に押圧し得る面、及び前記プレートのうち前記摩擦板の摩擦面に押圧し得る面がそれぞれ硬化処理された面であることを特徴とする無励磁作動形ブレーキ。 - 軸方向に2つ以上の前記摩擦板を配設している請求項1に記載の無励磁作動形ブレーキ。
- 前記1つ以上の全ての摩擦板、前記1つ以上の全てのアーマチュア、及び前記プレートがそれぞれ鋼を主材料とするものであり、前記摩擦板における前記摩擦面、前記アーマチュアのうち前記摩擦板の摩擦面に押圧し得る面、及び前記プレートのうち前記摩擦板の摩擦面に押圧し得る面、これら硬化処理された面のビッカース硬度がHV350乃至1200である請求項1又は2の何れかに記載の無励磁作動形ブレーキ。
- 前記硬化処理が窒化処理である請求項1乃至3の何れかに記載の無励磁作動形ブレーキ。
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2010
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