JP2010233500A - 遺伝子型の識別方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】PCR−PHFA法を利用した遺伝子型の識別方法において、塩基配列の相違の識別精度を改善させることができる方法及び該方法に好適なキットの提供。
【解決手段】遺伝子変異における遺伝子型を識別する方法であって、試料に含まれる遺伝子中の変異部位を含む領域を核酸増幅反応により増幅し、試料2本鎖核酸を調製する核酸増幅工程と、前記変異部位が特定の遺伝子型であり、かつ標識物質により標識されている標準2本鎖核酸を、前記試料2本鎖核酸と混合して競合的鎖組み換え反応を行い、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することにより、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸との同一性を識別する識別工程とを有し、かつ前記標準2本鎖核酸の少なくとも1の変異部位の塩基がヌクレオチドアナログである遺伝子型の識別方法、並びに当該方法により遺伝子型を識別するために用いられる遺伝子型識別用キット。
【選択図】図4

Description

本発明は、遺伝子多型や体細胞変異等の遺伝子型の識別方法及び当該方法に用いられるキットに関し、さらに詳述すると、鎖組み換え反応を利用したコンペティティブハイブリダイゼーションを用いて核酸の塩基配列の僅かな相違を識別する方法の識別精度を改善する方法、及び当該方法に用いられるキットに関する。
ヒトゲノムの解読、特にSNP(Single Nucleotide Polymorphism)地図を作成する国際ハップマッププロジェクトにより、ヒトゲノムに関する情報は増加の一途をたどっている。さらに、得られたゲノム情報と個人の体質との関連を見出し、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握し、個人の特性に応じた病気の診断・治療・予防や薬剤の投与を可能とする「個人の遺伝情報に応じた医療」(オーダーメード医療)の実現をめざした研究が、世界全体で大規模に展開されている。ここでの遺伝子の違いは、個々人のゲノムの塩基配列上での違いを意味し、その主たる違いは一塩基の違い(SNP)である。また、最近では、短い塩基配列が繰り返される回数(コピー数)の違い(Copy Number variation:CNV)も、ゲノム全体に広がっていることがわかり、このCNVの違いと病気との関連性も指摘されている。
ここで、個人の遺伝子レベルでの違いを把握するためには、各個人の遺伝子型を調べる必要が生じてくる。たとえば、あるSNPでは、その遺伝子型はAA、AG、GGの3種類であることが分かっているとする。Aはアデニン、Gはグアニン塩基を示し、このSNPは、ゲノムのその位置がアデニンの場合とグアニンの場合がある一例である。従って、当該SNPの遺伝子型を識別するための検査は、この3種類の遺伝子型のいずれであるかを決定することになる。すなわち、Aについて0と100のいずれであるか、Gについて0と100のいずれであるか、又は、AとGが50と50であるかどうかを見ればよい。このように、SNP等の生殖細胞変異の検出は、ほぼ定性的な検出といってよく、その方法は比較的容易で簡便な各種方法が実用化されている。
一方、がん細胞においては、体細胞のレベルで変異が生じ、その変異ががんの引き金となって異常な増殖につながると考えられている。従って、ある特定の種類のがん細胞では、特定の遺伝子の変異がみられることがあり、当該変異を指標にがん細胞の検出を行うことも可能である。但し、がん細胞は多様性に富み、一種類の変異でがん細胞を特定することは必ずしも容易ではない。
また、最近の薬物療法においては、生体内の特定の分子(タンパク質等)を標的とした薬剤が開発され、副作用が少なく、効果が高いものが見出されてきている。これらは分子標的薬と呼ばれ、主にがん治療の領域で活発に開発されている。ごく最近、これら分子標的薬では、標的としている分子のシグナル伝達の下流のタンパク質に変異が生じている場合には当該薬剤の効果が発揮できないこと等が明らかになってきている。この場合、変異を生じているタンパク質をコードする遺伝子の変異を調べることにより、当該薬剤の効果を予測することが可能となってきており、SNP検出とは異なる新たなオーダーメード医療の領域が開けつつある。
ここで述べた、がん細胞に特徴的な変異又は分子標的薬に抵抗性を示す変異は、そのほとんどが体細胞変異である。先に述べた生殖細胞変異の場合、どの細胞でも共通の変異が見られるのに対し、体細胞変異では変異を起こした細胞でのみ変異が見られ、変異を起こしていない細胞(通常は正常細胞)では変異は見られない。従って、通常、検体(検査の対象となる試料)中では、変異した細胞と正常細胞が混在する状況となっており、これらの細胞の存在比に応じて、変異した遺伝子と正常の遺伝子が存在することになる。つまり、試料の大部分が正常細胞であって一部変異細胞が含まれる場合、多くの正常な遺伝子中に存在するわずかな変異遺伝子を検出しなければならず、この点が生殖細胞における変異検出と異なる点で、体細胞の遺伝子変異検出をより困難にしている点である。
体細胞の遺伝子変異検出法には大きく分けて二つの方法がある。一つは、遺伝子増幅の段階で正常な遺伝子と変異遺伝子を区別する方法であり、具体的には、変異遺伝子のみを特異的に増幅する方法である。
たとえば、最も感度がよいとされている方法は、正常な遺伝子のみを制限酵素を用いて切断し、切断されていない変異遺伝子のみを増幅する“mutant−enriched PCR”と呼ばれている方法である(例えば、非特許文献1参照。)。この方法では、変異遺伝子を増幅する反応を繰り返すことにより、正常遺伝子10分子中の1分子の変異遺伝子を検出できるとされている(例えば、非特許文献2参照。)。この方法はこのように高感度という点では優れているが、操作はひじょうに煩雑で一般の診断適用できる方法ではない。
また、PCR等のプライマーの伸張反応において、一塩基の違いを区別して増幅する方法が開発されている。この方法は、“ARMS(amplification refractory mutation system)”(例えば、非特許文献3参照。)、“ASPCR(allele specific PCR)”(例えば、非特許文献4参照。)等と呼ばれている方法である。この方法は、比較的高感度であり、さらに一般的なPCRの増幅反応以外の操作を必要とせず、反応のすべてを閉鎖系で行うことができ、かつ非常に簡便であり、PCRのキャリーオーバーコンタミネーションのない優れた方法である。しかしながら、一度でも一塩基識別を誤って正常遺伝子を増幅した場合、以後の増幅反応において、変異遺伝子の増幅と同じように正常遺伝子も増幅されてしまうため、擬陽性の危険が高い方法とも言える。この方法を用いる場合、反応条件、すなわち反応温度や塩濃度等を厳密に制御する必要があり、また鋳型量も厳密に同じにする必要があり(例えば、非特許文献5参照。)、不特定多数の検体を検査する臨床検査や、高い精度が要求される診断には不向きである。
体細胞の遺伝子変異を検出するもう一つの方法は、変異遺伝子と正常遺伝子を同時に増幅し、その後変異遺伝子と正常遺伝子を区別して検出する方法である。増幅された変異遺伝子と正常遺伝子を区別して検出する方法としては、電気泳動を利用する方法、ハイブリダイゼーションを利用する各種方法等がある(例えば、非特許文献5参照。)。しかしながら、ほとんどの方法において、多量の正常遺伝子に含まれる少量の変異遺伝子を精度よく検出することは困難である。例えば、変異遺伝子検出のゴールドスタンダードといわれている方法として、ジデオキシシークエンシング法がある。ジデオキシシークエンシング法は、変異遺伝子を比較的高感度で検出することが可能であるものの、変異遺伝子と正常遺伝子が混在する場合に、変異遺伝子の検出感度は10%程度であり、それほど高感度の検出はできない。その他、ピロシークエンシング法では、5%程度まで検出感度を高めることができ、ジデオキシシークエンシング法より優れていることが報告されている(例えば、非特許文献6参照。)。
また、変異を含む配列をPCRにより増幅し、その生成物の2本鎖DNAの融解曲線を求め、変異遺伝子と正常遺伝子の融解曲線の違いから変異遺伝子の割合を求める方法が開発されている。この方法でも、正常遺伝子に含まれる変異遺伝子を5%程度まで検出できるとされている(例えば、非特許文献7参照。)。
その他、同じ塩基配列をもつ2本鎖間での鎖の組み換え反応(鎖置換反応)を利用したPCR−PHFA法が開発された。PCR−PHF法は、遺伝子型の識別対象であるサンプル(2本鎖核酸)と配列既知の標準2本鎖核酸との間で塩基配列がまったく同じであれば、それぞれの鎖を区別することができず、鎖の組換え(鎖置換)が起こるが、1塩基でも違いがあれば、完全に相補的な塩基配列を持つ鎖同士が優先的に2本鎖を形成するために、サンプルと標準2本鎖核酸との間で組換えが起こらないことを利用した変異検出法である。このPCR−PHFA法を用いることにより、実際の検体から1%程度という高感度で変異遺伝子を検出できることが報告されている(例えば、非特許文献8参照。)。このように、PCR−PHFA法は、検出感度が高く、再現性に優れた方法であるが、操作がやや煩雑であり、また、キャリーオーバーコンタミネーション等も問題であった。それらの問題を解決するために、幾つかの改良法が提案されている。
例えば特許文献1には、PCR−PHFA法の改良法として、蛍光共鳴エネルギー移動を利用する方法が開示されている。微量の変異遺伝子を高感度で正確に測定するPCR−PHFA法においては、同じ配列をもつ二つの2本鎖核酸の間での鎖の組換えを検出する必要があるが、サンプルの2本鎖核酸は非標識とし、鎖の組換えを起こさせるための配列既知の標準核酸を標識する場合が多い。特許文献1記載の方法では、標準核酸の一方の鎖の5’末端付近に蛍光物質を結合させて標識し、他方の鎖の3’末端付近を別の蛍光物質で標識する。鎖組み換え反応が起こらず標準核酸が元の2本鎖の場合には、二つの異なる蛍光物質の間での蛍光共鳴エネルギー移動が観察される。これに対して、サンプルの2本鎖核酸との間での鎖組み換え反応が起こると、蛍光共鳴エネルギー移動は観察されなくなる。従って、この蛍光共鳴エネルギー移動の程度を測定することで鎖の組換えの程度を測定することができる。
具体的には、例えば、ある核酸配列のある位置(識別対象とする変異部位)がアデニンである場合とグアニンである場合とを区別する場合、当該位置を含み、かつ当該位置の塩基がアデニン(相補鎖ではチミン)である標準2本鎖核酸を準備する。さらに、その標準2本鎖核酸を、一方の鎖は蛍光物質Xで、他方の鎖は蛍光物質Xと互いにエネルギー移動可能な蛍光物質Yで、それぞれ標識する。つまり、標準2本鎖核酸では、二つの蛍光物質が近接しているために、そのままでは蛍光共鳴エネルギー移動が生じる状態にある。
一方で、サンプル由来の核酸を、核酸増幅反応により、標準2本鎖核酸とまったく同じ長さとなるように増幅して調製する。得られたサンプル由来2本鎖核酸と標準2本鎖核酸を混合し、熱を加えて2本鎖を変性させた後、徐々に温度を低下させて再び2本鎖を形成させる。このとき、サンプル由来2本鎖核酸の変異部位が、すべて標準2本鎖核酸と同じアデニンであった場合、サンプル由来2本鎖核酸と標準2本鎖核酸との間では鎖の組み換え反応が生じる。理論上は、サンプル由来2本鎖核酸と標準2本鎖核酸の分子数の比が1:1であった場合、組み換わる確率は1/2であり、また元の2本鎖にもどる確率も1/2であり、蛍光共鳴エネルギー移動の程度も1/2となる。サンプル由来2本鎖核酸の変異部位が、すべて標準2本鎖核酸とは異なるグアニンであった場合、鎖組み換え反応は起こらず、従って蛍光共鳴エネルギー移動の程度は変化しない。これをもって、サンプル中の検出(識別)したい目的の塩基がアデニンであるかグアニンであるかを検出することが可能となる。サンプル由来2本鎖核酸と標準2本鎖核酸との比を増大させることにより、組換えの程度を大きくすることができる。たとえば、サンプル由来2本鎖核酸と標準2本鎖核酸の比が20:1である場合、組換えの割合は20/21、すなわち標準2本鎖核酸が元の2本鎖に戻る確率は1/21となり、蛍光共鳴エネルギー移動の変化が大きくなり検出が容易になる。
特開2003−174882号公報
チェン(Chen)、外1名、アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical biochemistry)、1991年、第195巻、第51〜56ページ。 ジャコブソン(Jacobson)、外1名、オンコジーン(Oncogene)、1994年、第9巻、第553〜563ページ。 ニュートン(Newton)、外7名、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic acids research)、1989年、第17巻、第2503〜2516ページ。 ウ(Wu)、外3名、プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・ジ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)、1989年、第86巻、第2757〜2760ページ。 ノラウ(Nollau)、外1名、クリニカル・ケミストリー(Clincal Chemistry)、1997年、第43巻、第1114〜1128ページ。 オギノ(Ogino)、外9名、ザ・ジャーナル・オブ・モレキュラー・ダイアグノスティックス(The Journal of Molecular Diagnostics)、2005年、第7巻、第413〜421ページ。 クリプィ(Krypuy)、外4名、ビーエムシー・キャンサー(BMC Cancer)、2006年、第6巻、第295ページ。 タダ(Tada)、外7名、クリニカ・キミカ・アクタ(Clinica Chimica Acta)、2002年、第324巻、第105ページ。
従来のPCR−PHFA法では、鎖組み換え反応における塩基配列の識別精度が十分ではなく、1〜2塩基の違いを識別することができずに相違する核酸鎖同士の間でも鎖組み換え反応が起こってしまい、擬陽性を出してしまうことがあった。
前記特許文献1記載の方法は、蛍光共鳴エネルギー移動を利用しており、感度が高く、また、操作も比較的簡便な良好な方法であるものの、やはり、擬陽性を出してしまうことがあり、識別精度が十分ではなかった。また、蛍光測定の測定ごとのバラツキを防ぐ方法もない。
このように、公知のPCR−PHFA法は、いずれも、実際に変異遺伝子を高感度で検出する方法にはいたっていない。
一方、近年の遺伝子検出技術の進展は著しく、微細加工技術と蛍光検出法を組み合わせた多数の遺伝子発現や変異を同時に検出する方法が開発されており、これらの技術と組み合わせることの可能な変異遺伝子の高感度検出が望まれるところである。
本発明はこのような状況下、PCR−PHFA法を利用した遺伝子型の識別方法において、塩基配列の相違を識別する精度を改善させることができる方法、及び該方法に好適なキットを提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、鎖の組換えを起こさせるための配列既知の標準2本鎖核酸の全部又は一部の塩基を、ヌクレオチドアナログに置換することにより塩基配列の相違の識別精度を改善できることを見出し、本発明を完成させた。さらに本発明者は、標準2本鎖核酸中の変異部位以外の箇所を、天然の遺伝子の塩基配列とは非相補的な塩基配列に改変することにより塩基配列の相違の識別精度を改善できることも見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1) 遺伝子変異における遺伝子型を識別する方法であって、試料に含まれる遺伝子中の変異部位を含む領域を核酸増幅反応により増幅し、試料2本鎖核酸を調製する核酸増幅工程と、前記変異部位が特定の遺伝子型であり、かつ標識物質により標識されている標準2本鎖核酸を、前記試料2本鎖核酸と混合して競合的鎖組み換え反応を行い、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することにより、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸との同一性を識別する識別工程と、を有し、かつ、前記標準2本鎖核酸の少なくとも1の変異部位の塩基がヌクレオチドアナログであることを特徴とする遺伝子型の識別方法、
(2) 前記標準2本鎖核酸中の変異部位のみがヌクレオチドアナログにより構成されていることを特徴とする前記(1)記載の遺伝子型の識別方法、
(3) 前記標準2本鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のいずれの変異部位もヌクレオチドアナログにより構成されていることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の遺伝子型の識別方法、
(4) 前記ヌクレオチドアナログがロックド核酸(LNA)である前記(1)〜(3)のいずれか記載の遺伝子型の識別方法、
(5) 遺伝子変異における遺伝子型を識別する方法であって、試料に含まれる遺伝子中の変異部位を含む領域を核酸増幅反応により増幅し、試料2本鎖核酸を調製する工程と、前記変異部位が特定の遺伝子型である標準2本鎖核酸を、前記試料2本鎖核酸と混合して競合的鎖組み換え反応を行い、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することにより、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸との同一性を識別する工程と、を有し、かつ、前記標準2本鎖核酸中の変異部位以外であって、1塩基からなる部位、若しくは2塩基以上の連続又は非連続した部位が、前記遺伝子変異を含む天然の遺伝子とは非相補的な塩基に改変されていることを特徴とする遺伝子型の識別方法、
(6) 前記標準2本鎖核酸中の改変された部位に相当する前記試料2本鎖核酸中の部位が、当該標準2本鎖核酸の塩基配列と同一の塩基配列に改変されていることを特徴とする前記(5)記載の遺伝子型の識別方法、
(7) 前記標準2本鎖核酸中の改変された部位の塩基種がアデニン、チミン、又はウラシルであり、前記遺伝子中の当該部位に相当する部位の塩基種がグアニン又はシトシンであることを特徴とする前記(5)又は(6)記載の遺伝子型の識別方法、
(8) 前記核酸増幅工程が、前記標準2本鎖核酸中の改変された部位に相当する前記試料2本鎖核酸中の部位を、当該標準2本鎖核酸と同一の塩基配列に改変した改変箇所を有するプライマーを用いてポリメラーゼチェーン反応(PCR)を行うことにより、試料2本鎖核酸を調製する工程であることを特徴とする前記(5)又は(6)記載の遺伝子型の識別方法、
(9) 前記改変箇所が、前記プライマーの3’末端から2塩基以上離れた場所に位置していることを特徴とする前記(8)記載の遺伝子型の識別方法、
(10) 前記標準2本鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のうち、一方の鎖の3’端部が第1標識物質により、他方の鎖の5’端部が第2標識物質により、それぞれ標識されており、前記第1標識物質と前記第2標識物質は、互いにエネルギー移動可能な物質であり、前記第1標識物質及び前記第2標識物質間のエネルギー移動によるエネルギー変化の度合いを測定することにより、前記識別工程における標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか記載の遺伝子型の識別方法、
(11) 前記第1標識物質及び前記第2標識物質の少なくとも一方が蛍光物質であり、前記識別工程における競合的鎖組み換え反応は、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸とを含む反応液の温度を、高温から徐々に低下させることにより行うものであり、かつ、前記第1標識物質又は前記第2標識物質の蛍光強度の温度に対する平均変化率が最大となる温度の±3〜5℃の温度範囲における降温速度が、当該温度範囲以外の温度の場合よりも小さいことを特徴とする前記(10)記載の遺伝子型の識別方法、
(12) 前記第1標識物質及び前記第2標識物質の少なくとも一方が蛍光物質であり、前記識別工程における競合的鎖組み換え反応は、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸とを含む反応液の温度を、高温から徐々に低下させることにより行うものであり、かつ、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度の測定を、前記反応液の温度低下による蛍光強度の変化量に基づき測定することを特徴とする前記(10)又は(11)記載の遺伝子型の識別方法、
(13) 前記第1標識物質及び前記第2標識物質の少なくとも一方が蛍光物質であり、前記識別工程における競合的鎖組み換え反応は、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸とを含む反応液の温度を、高温から徐々に低下させることにより行うものであり、かつ、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度の測定を、前記反応液の温度低下による蛍光強度の変化量と、前記試料2本鎖核酸を含まず前記標準2本鎖核酸を含む対照反応液の温度低下による蛍光強度の変化量との比に基づき測定することを特徴とする前記(10)又は(11)記載の遺伝子型の識別方法、
(14) 前記(10)〜(13)に記載の遺伝子型の識別方法により遺伝子型を識別するために用いられるキットであって、試料2本鎖核酸を調製するための核酸増幅試薬と、互いにエネルギー移動可能な2種類の標識物質と、核酸鎖の3’端部に標識物質を導入するための試薬と、核酸鎖の5’端部に標識物質を導入するための試薬とを具備することを特徴とする遺伝子型識別用キット、
を提供するものである。
なお、本願明細書中、上記(1)に係る遺伝子型の識別方法を第1の識別方法、上記(5)に係る遺伝子型の識別方法を第2の識別方法という。さらに、「本発明の遺伝子型の識別方法」は、第1の識別方法と第2の識別方法の両方を含む。
本発明の遺伝子型の識別方法は、核酸の塩基配列の識別精度が大幅に改善されており、SNP等の生殖細胞変異のみならず、従来のPCR−PHFA法では識別が困難であった体細胞変異も高精度に識別することができる。
また、本発明の遺伝子型識別用キットを用いることにより、本発明の遺伝子型の識別方法をより簡便に行うことができる。
遺伝子型が異なる場合のドナー標識物質の蛍光挙動の一例を模式的に示した図である。 遺伝子型が異なる場合のアクセプター標識物質の蛍光挙動の一例を模式的に示した図である。 図1と同様にしてPCR産物(試料2本鎖核酸)、標準2本鎖核酸(マッチ)、標準2本鎖核酸(ミスマッチA)、及び標準2本鎖核酸(ミスマッチB)を調製し、競合的鎖組み換え反応を行った場合の、ドナー標識物質のΔFを示した図である。 実施例1において、試料2本鎖核酸(G12D)と、標準2本鎖核酸(G12D)、標準2本鎖核酸(G12D(LNA))、標準2本鎖核酸(G12S_2)、又は標準2本鎖核酸(G12S_2(LNA))とを混合し、鎖組み換え反応を行った結果を示した図である。 実施例1において、試料2本鎖核酸(G12S_2)と、標準2本鎖核酸(G12D)、標準2本鎖核酸(G12D(LNA))、標準2本鎖核酸(G12S_2)、又は標準2本鎖核酸(G12S_2(LNA))とを混合し、鎖組み換え反応を行った結果を示した図である。 実施例1において、試料2本鎖核酸(G12D)と、各標準2本鎖核酸とを混合し、鎖組み換え反応を行って求めたΔFAMを示した図である。 実施例1において、試料2本鎖核酸(G12S_2)と、各標準2本鎖核酸とを混合し、鎖組み換え反応を行って求めたΔFAMを示した図である。
本発明において遺伝子変異とは、同一生物種の個体間において存在する遺伝子の塩基配列の相違を意味し、変異部位とは、塩基配列中の相違する部位を意味する。具体的には、塩基配列中の1又は複数の塩基が置換・欠失・挿入されていることにより、塩基配列の相違は生じる。すなわち、本発明において遺伝子変異とは、体細胞変異等のように後天的な変異に加えて、SNPやマイクロサテライト多型等の遺伝子多型のような先天的な変異も含む。
本発明においてヌクレオチドアナログとは、非天然のヌクレオチドであり、天然のヌクレオチドであるデオキシリボヌクレオチド(DNA)やリボヌクレオチド(RNA)と同様の機能を有するものをいう。すなわち、ヌクレオチドアナログは、天然のヌクレオチドの塩基や糖骨格を改変したものであって、ヌクレオチドと同様にリン酸ジエステル結合により鎖を形成することができ、かつ、ヌクレオチドアナログを用いて形成されたプライマーやプローブは、ヌクレオチドのみを用いて形成されたプライマーやプローブと同様に、PCRやハイブリダイゼーションに用いることができる。このようなヌクレオチドアナログとして、例えば、PNA(ポリアミドヌクレオチド誘導体)、LNA(BNA)、ENA(2’−O,4’−C−Ethylene−bridged nucleic acids)、及びこれらの複合体等がある。ここで、PNAは、DNAやRNAのリン酸と5炭糖からなる主鎖をポリアミド鎖に置換したものである。また、LNA(BNA)は、リボヌクレオシドの2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレン架橋された構造を持つRNAアナログである。
本発明の遺伝子型の識別方法において、標準2本鎖核酸とは、PCR−PHFA法において、識別対象である試料由来の2本鎖核酸と競合的に鎖組み換えをさせる塩基配列既知の2本鎖核酸を意味する。具体的には、標準2本鎖核酸は、対象の遺伝子の変異部位を含む部分領域であって、変異部位が特定の遺伝子型である配列と同一の塩基配列を含む2本鎖核酸である。この標準2本鎖核酸と試料由来の2本鎖核酸との間で鎖組み換え反応が起こった場合には、当該試料中に含まれている遺伝子は、標準2本鎖核酸と同一の遺伝子型であり、鎖組み換え反応が起こらなかった場合には、標準2本鎖核酸とは異なる遺伝子型であると識別することができる。
本発明の第1の識別方法は、遺伝子変異における遺伝子型をPCR−PHFA法を用いて識別する際に、競合的鎖組み換え反応に用いる標準2本鎖核酸として、少なくとも1の変異部位の塩基をヌクレオチドアナログに改変したものを用いることにより、競合的鎖組み換え反応における塩基配列の識別精度を改善させる方法である。標準2本鎖核酸の変異部位にヌクレオチドアナログを導入することにより、塩基配列の識別精度が改善できる理由は明らかではないが、変異部位における標準2本鎖核酸の核酸鎖同士の親和性が高められる結果、標準2本鎖核酸と塩基配列が相違する核酸鎖との鎖組み換え反応が顕著に抑制されるためと推察される。
例えば、LNAを含むオリゴヌクレオチドがDNAからなるオリゴヌクレオチドとアニールすると、2本鎖核酸のコンフォメーションが変化する。例えば、3’ヌクレオチドごとにLNAを含むオリゴヌクレオチドは、ダブルへリックスをB構造からA構造へ変化させる。これにより2本鎖核酸のスタッキングがよくなり安定性が上昇する。つまり、変異部位において標準2本鎖核酸の2本の核酸鎖間の塩基対がDNA−DNAのみである場合よりも、LNA−DNA又はLNA−LNAである場合の方が、標準2本鎖核酸の核酸鎖同士の親和性が高くなり、競合的鎖組み換え反応において、標準2本鎖核酸の核酸鎖同士が、試料由来の2本鎖核酸の核酸鎖よりも優先的にハイブリダイズする。これにより、試料由来の2本鎖核酸の塩基配列が標準2本鎖核酸とは相違する場合に、標準2本鎖核酸が誤って試料由来の核酸鎖と鎖組み換えされることを顕著に抑制することができる。
一般的には、LNAによる改変は、Tm値の大幅な増加を目的とするものであり、20mer程度のオリゴヌクレオチドに対して改変がなされる。これに対して、PCR−PHFA法では、識別対象である試料2本鎖核酸としてPCR産物を用いる場合が多く、このため、競合的鎖組み換え反応に用いる標準2本鎖核酸は、40〜50bp程度の長さが必要であると予測される。さらに、LNA改変によるTm値の増加は、オリゴヌクレオチドの長さ依存的に減少する傾向にあることが報告されている(Yong et al., Nucleic acids research、2006年、第34巻、第8号:e61参照。)。つまり、40〜50bpという比較的長いオリゴヌクレオチドに対してLNAを導入する改変を行うことや、2本鎖核酸をLNA改変することによるハイブリダイゼーション効率への影響、さらにLNA改変した2本鎖核酸を用いてPCR−PHFA法を行うことは、過去に実施されておらず、その効果は未知であった。そして、PCR−PHFA法において競合的鎖組み換え反応に用いる塩基配列既知の2本鎖核酸として変異部位をLNA改変した2本鎖核酸を用いることにより、識別精度が改善され、塩基配列が相違する核酸鎖と誤って鎖組み換え反応が起こる確率が大幅に減少することは、本発明者が初めて見出した知見である。
本発明の第1の識別方法において、標準2本鎖核酸に導入されるヌクレオチドアナログは、天然のヌクレオチドのみを用いた場合よりも、標準2本鎖核酸の核酸鎖同士の親和性を高められるヌクレオチドアナログであれば特に限定されるものではなく、前記で列挙されたいずれのヌクレオチドアナログを用いてもよく、また、これらのヌクレオチドアナログの修飾体を用いてもよい。本発明においては、より識別精度向上効果が優れていることから、LNAを用いることが好ましい。
標準2本鎖核酸中、ヌクレオチドアナログに改変する部位は、変異部位を含んでいればよいが、変異部位のみを改変することが好ましい。塩基配列の識別精度をより向上させることができるためである。なお、変異部位が2以上の塩基から構成される場合や、一の標準2本鎖核酸中に複数の変異部位がある場合には、これらの変異部位を構成する塩基のうち、少なくとも1の塩基がヌクレオチドアナログに改変されていればよい。もちろん、変異部位を構成する全てをヌクレオチドアナログに改変してもよい。
また、標準2本鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のうち、片方の核酸鎖の変異部位にのみヌクレオチドアナログを導入してもよく、両方の核酸鎖の変異部位にヌクレオチドアナログを導入してもよい。
このようなヌクレオチドアナログ改変部位を有する標準2本鎖核酸は、例えば、公知の化学合成によって調製することができる。化学合成法としては、トリエステル法、亜リン酸法等が挙げられる。例えば、液相法又は不溶性の担体を使った固相合成法等を利用した通常の自動合成機(APPLIED BIOSYSTEMS社392等)を使用して1本鎖のDNAを大量に調製し、その後アニーリングを行うことにより2本鎖DNAを調製することができる。1本鎖を合成する際に、ヌクレオチドアナログを導入することができる。
本発明の第1の識別方法は、具体的には、試料に含まれる遺伝子中の変異部位を含む領域を核酸増幅反応により増幅し、試料2本鎖核酸を調製する核酸増幅工程と、前記変異部位が特定の遺伝子型である標準2本鎖核酸を、前記試料2本鎖核酸と混合して競合的鎖組み換え反応を行い、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することにより、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸との同一性を識別する識別工程とを有する。
本発明の第1の識別方法に供される試料としては、例えば、細菌、ウィルス等の病原体、ヒト等の生体から分離された血液、唾液、組織病片等、或いは糞尿等の排泄物が挙げられる。更に、出生前診断を行う場合は、羊水中に存在する胎児の細胞や、試験管内での分裂卵細胞の一部を検体とすることもできる。また、これらの試料は直接、又は必要に応じて遠心分離操作等により沈渣として濃縮した後、例えば、酵素処理、熱処理、界面活性剤処理、超音波処理、或いはこれらの組み合わせ等による細胞破壊処理を予め施したものを使用することができる。この場合、上記細胞破壊処理は、目的とする組織由来の核酸を顕在化させる目的で行われるものである。なお、細胞破壊処理の具体的な方法は、PCRプロトコルス・アカデミック・プレス・インク(PCR PROTOCOLS Academic Press Inc.,p14、p352(1990))等の文献に記載された公知の方法に従って行うことができる。また、試料中の核酸は、トータル量で5〜50ng程度であることが好ましいが、5ng以下でも充分増幅可能である。
本発明の第1の識別方法において識別対象とする変異部位としては、がん関連遺伝子、遺伝病に関連する遺伝子、ウィルス遺伝子、細菌遺伝子及び病気のリスクファクターと呼ばれる多型性を示す遺伝子等に存在するものが挙げられる。がん関連遺伝子としては、例えばk−ras遺伝子、N−ras遺伝子、p53遺伝子、BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子、又はAPC遺伝子等が挙げられる。遺伝病に関連する遺伝子としては、各種先天性代謝異常症等との関連が報告されている遺伝子等が挙げられる。ウィルス遺伝子、細菌遺伝子としては、例えばC型肝炎ウィルス、B型肝炎ウィルス等の遺伝子が挙げられる。多型性を示す遺伝子としては、例えば、HLA(Human Leukocyte Antigen)や血液型に関する遺伝子のように、病気等の原因とは必ずしも直接は関係のない、個体によって異なる塩基配列を持つ遺伝子や、高血圧、糖尿病等の発症に関係するとされている遺伝子等が挙げられる。これらの遺伝子は、その大部分が宿主の染色体上に存在するものであるが、ミトコンドリア遺伝子にコードされている場合もある。
本発明においては、まず、核酸増幅工程として、試料に含まれる遺伝子中の変異部位を含む領域を核酸増幅反応により増幅し、試料2本鎖核酸を調製する。核酸増幅反応としては、変異部位を含む領域を2本鎖核酸として増幅可能な反応であれば、特に限定されるものではなく、PCR法、LCR(Ligase chain Reaction)法、3SR(Self−sustained Sequence Replication)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等の公知の核酸増幅反応の中から適宜選択して用いることができる(Manak,DNA Probes 2nd Edition p255〜291,Stockton Press(1993))。本発明においては、特にPCR法が好適である。
例えば、変異部位を含む増幅する領域を挟むようにプライマーを設計し、ポリメラーゼを用いたプライマーの伸長反応を繰り返し行うことにより、試料2本鎖核酸を調製することができる。この伸長反応に用いられるdNTP、ポリメラーゼ等の試薬は、核酸増幅を行う場合に通常用いられている試薬の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、ポリメラーゼとしては、E.coliDNAポリメラーゼI、E.coliDNAポリメラーゼIのクレノウ断片、T4 DNAポリメラーゼ等の任意のDNAポリメラーゼを用いることができるが、特にTaq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ等の熱安定性DNAポリメラーゼを用いることが好ましく、これによりサイクル毎に新たな酵素の添加の必要性がなくなり、自動的にサイクルを繰り返すことが可能になり、更にアニーリング温度を50〜60℃に設定することが可能なためプライマーによる標的塩基配列認識の特異性を高めることができ、迅速かつ特異的に遺伝子増幅反応を行うことができる(詳細については特開平1−314965号公報、特開平1−252300号公報参照)。また、この伸長反応を行う際の反応条件等の具体的な方法については、実験医学第8巻第9号(羊土社、(1990))、PCRテクノロジー・ストックトン・プレス(PCR Technology Stockton press)(1989)等の文献に記載された公知の方法に従い行うことができる。
試料2本鎖核酸は、変異部位を含む遺伝子中の領域のうち、標準2本鎖核酸と完全に同一の領域を核酸増幅して得られた2本鎖核酸である。このように、試料2本鎖核酸と標準2本鎖核酸とは、変異部位のみが異なるため、変異部位が1塩基のみである場合の識別精度をより向上させることができる。
次いで、識別工程として、標準2本鎖核酸を試料2本鎖核酸と混合して競合的鎖組み換え反応を行い、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することにより、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との同一性を識別する。
競合的鎖組み換え反応は、相同な塩基配列を持つ2本鎖核酸と1本鎖核酸との間、或いは相同な塩基配列を持つ2本鎖核酸と2本鎖核酸との間で起こる競合的な核酸鎖の置換反応(コンペティティブハイブリダイゼーション)であり、標準2本鎖核酸及び試料2本鎖核酸を混合して変性した後、アニーリングすることにより行うことができる。
標準2本鎖核酸及び試料2本鎖核酸を変性する方法としては、加熱による方法又はアルカリによる方法が好ましい。本発明においては、簡便であることから、加熱により変性させることが好ましい。具体的には、2本鎖核酸を、90〜100℃、好ましくは95〜100℃に一定時間加熱することにより、変性させることができる。
変性させた標準2本鎖核酸及び試料2本鎖核酸をアニーリングさせる場合には、反応液中の塩濃度が最適になるように調製することが好ましい。最適な塩濃度は、一般的には鎖長に依存する。一般に、ハイブリダイゼーションにおいては、SSC(20×SSC:3M塩化ナトリウム、0.3Mクエン酸ナトリウム)やSSPE(20×SSPE:3.6M塩化ナトリウム、0.2Mリン酸ナトリウム、2mM EDTA)が使われており、本発明の識別方法においても、これらの溶液を好適な濃度に希釈して使用することができる。また、必要に応じてジメチルスルフォキシド(DMSO)、ジメチルフォルムアミド(DMF)等の有機溶媒を添加することもできる。
加熱により変性させた場合には、反応液の温度を、高温(一般的には、変性温度であり、例えば、90〜100℃の範囲のいずれかの温度)から降下させることにより、アニーリングを行い、競合的鎖組み換え反応を行うことができる。反応液の降温速度や反応終了時点の反応液の温度等の条件は、標準2本鎖核酸及び試料2本鎖核酸の鎖長や塩基配列に応じて適宜設定することができる。標準2本鎖核酸のTm付近の温度範囲(Tm±3〜5℃)において、反応液の温度低下がゆっくり(例えば、0.1℃/分〜0.3℃/分の速度)であるほど、非相補的な塩基配列を有する1本鎖同士がハイブリダイズする確率が低減され、精度よく競合的鎖組み換え反応を行うことができる。
標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度は、いずれかの核酸を標識物質により標識し、当該標識を指標として測定することができる。例えば、標準2本鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のうち、一方の鎖をある標識物質で標識し、他方の鎖を別の標識物質で標識する。この場合、鎖組み換え反応が起こらなかった場合には、2種類の標識物質は全て同じ分子から検出される。一方、鎖組み換え反応が起こった場合には、2種類の標識物質のうちのいずれか一方のみ検出される分子が存在する。よって、反応液中の2本鎖核酸の各分子がいずれの標識物質で標識されているかを検出することにより、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することができる。なお、標準2本鎖核酸に代えて試料2本鎖核酸を同様に標識してもよい。さらに、標準2本鎖核酸の一方の核酸鎖をある標識物質で標識し、この標識した核酸鎖と鎖組み換え反応が起こり得る試料2本鎖核酸の一方の核酸鎖を別の標識物質で標識してもよい。
標識物質としては、非放射性、放射性物質のどちらを用いてもよいが、好ましくは非放射性物質が用いられる。非放射性の標識物質としては、直接標識可能なものとして蛍光物質[例えばフルオレッセイン誘導体(フルオレッセインイソチオシアネート等)、ローダミン及びその誘導体(テトラメチルローダミンイソチオシアネート等)]、化学発光物質(例えばアクリジン等)等が挙げられる。 また、標識物質と特異的に結合する物質を利用することにより、間接的に標識物質を検出することができる。このような標識物質としては、ビオチン、リガンド、特定の核酸あるいはタンパク質ハプテン等が挙げられる。そして、標識物質と特異的に結合する物質としては、ビオチンの場合にはこれに特異的に結合するアビジンあるいはストレプトアビジンが、ハプテンの場合はこれに特異的に結合する抗体が、リガンドの場合はレセプターが、特定の核酸あるいはタンパク質の場合はこれと特異的に結合する核酸、核酸結合タンパク質あるいは特定のタンパク質と親和性のあるタンパク質等が利用できる。 上記ハプテンとしては2,4−ジニトロフェニル基を有する化合物やジゴキシゲニンを使うことができ、更にはビオチンあるいは蛍光物質等もハプテンとして使用することができる。これらの標識物質は、いずれも単独又は必要があれば複数種の組み合わせで公知の手段(特開昭59−93099号公報、特開昭59−148798号公報、特開昭59−204200号公報参照。)により、導入することができる。
また、2種類の標識物質のうち、いずれかの標識物質を固相単体に結合可能な物質とした場合には、汎用されている固液分離作業を行うことにより、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することができる。例えば、標準2本鎖核酸の一方の鎖を標識物質Aで標識し、他方の鎖を固相単体に結合可能な標識物質Bで標識し、鎖組み換え反応後の反応液を標識物質Bが結合可能な固相単体に接触させる。その後、当該固相担体に結合している2本鎖核酸中の標識物質Aを測定する。鎖組み換え反応が起こった場合には、固相担体に結合している2本鎖核酸中の標識物質Aにより標識されている2本鎖核酸の割合が減少する。
特に、本発明においては、互いにエネルギー移動可能な2種類の標識物質(例えば、励起により蛍光を発生するドナー標識物質と、その蛍光を吸収するアクセプター標識物質)を用いて、これらの標識物質間のエネルギー移動によるエネルギー変化の度合いを指標として、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することが好ましい。
本発明における標識物質間のエネルギー移動とは、エネルギーを発生するドナー標識物質とこのドナー標識物質から発生したエネルギーを吸収するアクセプター標識物質との少なくとも2種の標識物質が、互いに近接した状態にある場合に、ドナー標識物質からアクセプター標識物質へのエネルギーの移動をいう。例えば、2種の標識物質が蛍光物質である場合、ドナー標識物質を励起して生じる蛍光をアクセプター標識物質が吸収し、このアクセプター標識物質が発する蛍光を測定するか、又はドナー標識物質を励起して生じる蛍光をアクセプター標識物質が吸収することにより起こるドナー標識物質の消光を測定することができる(PCR Methods and applications 4,357−362(1995)、Nature Biotechnology 16,49−53(1998))。なお、ドナー標識物質の蛍光波長とアクセプター標識物質の吸収波長に重なりがなくてもエネルギー移動が起こる場合があるが、このようなエネルギー移動も本発明に含まれるものである。また、アクセプター標識物質はクエンチャーであってもよい。このようなくクエンチャーとして、例えばdubcylやブラックホール等が挙げられる。
具体的には、標準2本鎖核酸として、構成する2本の核酸鎖のうち、一方の鎖の3’端部を第1標識物質により標識し、他方の鎖の5’端部を第1標識物質と互いにエネルギー移動可能な第2標識物質により標識したものを用いる。第1標識物質と第2標識物質のいずれがドナー標識物質であってもよい。この標準2本鎖核酸は、第1標識物質と第2標識物質が近接した状態にあるため、エネルギー移動が生じる。一方、試料2本鎖核酸との間で競合的鎖組み換え反応が起こると、鎖の組み換えが起こった2本鎖核酸では、第1標識物質と第2標識物質とが離れているため、エネルギー移動が生じず、反応液中のエネルギー移動が生じた2本鎖核酸の割合が減少する。そこで、第1標識物質又は第2標識物質から発されるエネルギー(蛍光物質である場合には蛍光強度)を測定することにより、エネルギー移動によるエネルギー変化の度合いを測定し、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することができる。
遺伝子型が異なる(変異部の塩基配列が相違する)核酸鎖同士に比べて、遺伝子型が同一の(完全に相補的な塩基配列を持つ)核酸鎖同士のほうがより優先的に2本鎖を形成する。このため、これに伴って標識物質間でのエネルギー移動によるエネルギー変化の度合、すなわち、鎖置き換え反応によって生じたり消失したりするエネルギー移動の変化の度合を任意の検出器を用いて測定することにより、試料中に含まれていた遺伝子の変異部位の遺伝子型が、標準2本鎖核酸と同一であるかどうかや、試料中に含まれていた標準2本鎖核酸と同一の遺伝子型の割合を検出することができる。例えば、検出に蛍光エネルギー移動を利用する場合には、分光蛍光光度計、蛍光プレートリーダーなどで特定波長の蛍光スペクトルを測定することにより、標準2本鎖核酸と同一の遺伝子型を持つ遺伝子の有無や割合を容易に検出することができる。
標準2本鎖核酸は標識せず、試料2本鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のうち、一方の鎖の3’端部を第1標識物質により標識し、他方の鎖の5’端部を第2標識物質により標識したものを用いてもよい。この場合には、標準2本鎖核酸を標識した場合と同様に、鎖の組み換えが起こった2本鎖核酸ではエネルギー移動が生じず、反応液中のエネルギー移動が生じた2本鎖核酸の割合が減少する。
また、標準2本鎖核酸の一方の核酸鎖の3’端部(又は5’端部)を第1標識物質により標識し、この標識した核酸鎖と鎖組み換え反応が起こり得る試料2本鎖核酸の一方の核酸鎖(第1標識物質により標識した核酸鎖の相補鎖)の5’端部 (又は3’端部)を第2標識物質により標識したものを用いてもよい。この場合には、鎖の組み換えが起こった2本鎖核酸ではエネルギー移動が生じ、反応液中のエネルギー移動が生じた2本鎖核酸の割合が増大する。
このように、標識物質間のエネルギー移動によるエネルギー変化の度合いを測定することによって、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することにより、固液分離作業等の煩雑な作業を要することなく、迅速かつ簡便に標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との同一性を識別することができる。しかも、両標識物質を、互いに近接する3’端部と5’端部とに導入することにより、鎖の置き換えが生じた程度を正確かつ確実に捕えることができる上、標準2本鎖核酸又は試料2本鎖核酸が鎖の長い遺伝子断片であっても、常に良好な感度をもって正確かつ確実に相補鎖の置換の程度を測定し得、遺伝子型の同一性を正確かつ安定的に識別することができる。特に、従来の煩雑な固液の分離作業を必要としない簡易な方法であることから、自動化も可能となり、最前線の医療現場での要望に応えることができる。
第1標識物質又は第2標識物質として用いることができる標識物質としては、互いに近接した状態でエネルギー移動可能なものであれば特に制限されないが、中でも蛍光物質、遅延蛍光物質が好ましく、場合によっては化学発光物質、生物発光物質等を用いることもできる。このような標識物質の組み合せとしては、フルオレセイン及びその誘導体(例えばフルオレセインイソチオシアネート等)とローダミン及びその誘導体(例えばテトラメチルローダミンイソチオシアネート、テトラメチルローダミン−5−(and−6−)ヘキサノイックアシッド等)との組み合わせ、フルオレセインとダブシルとの組み合わせ等が挙げられ、これらの中から任意の組み合わせを選択することができる(Nonisotopic DNA Probe Techniques.Academic Press(1992))。その他、近接させた場合に熱エネルギーの放出が生じる組み合わせの分子であってもよい。このような標識物質の組み合わせとしては、Alexa Fluor(登録商標)488(インビトロジェン社製)、ATTO 488(ATTO-TEC GmbH社製)、Alexa Fluor(登録商標)594(インビトロジェン社製)、及びROX(Carboxy-X-rhodamine)からなる群より選択される1とBHQ(登録商標、Black hole quencher)−1又はBHQ(登録商標)−2との組み合わせ等が挙げられる。
なお、グアニンは、FAMが近接した場合にクエンチする能力があるため(Nucleic acids Research 2002,vol.30.no.9 2089-2195)、これを利用してもよい。例えば、標準2本鎖核酸の一方の鎖の3’端部をFAMで標識した場合であって、他方の鎖の5’末端の塩基がグアニンである場合には、当該他方の鎖を標識物質で標識せずともよい。
標準2本鎖核酸又は試料2本鎖核酸に、第1標識物質又は第2標識物質を導入する方法としては、一般的な核酸への標識導入方法を採用することができる。例えば、標識物質を核酸に直接化学的に導入する方法(Biotechniques 24,484−489(1998))、DNAポリメラーゼ反応あるいはRNAポリメラーゼ反応により標識物質結合モノヌクレオチドを導入する方法(Science 238,336−3341(1987))、標識物質を導入したプライマーを用いてPCR反応を行うことにより導入する方法(PCR Methods and Applications 2,34−40(1992))等が挙げられる。
標準2本鎖核酸又は試料2本鎖核酸に標識物質を導入する位置は、鎖置き換え反応によりエネルギー移動が生じたり、消失する位置、すなわち、核酸鎖の3’端部及び/又は5’端部である必要がある。具体的には、本発明において、5’端部及び3’端部とは、核酸鎖の5’末端及び3’末端からそれぞれ30塩基以内の範囲を示すが、両方の標識物質が近ければ近いほどエネルギー移動を起こし易いため、好ましくはそれぞれの末端から10塩基以内であり、最も好ましくは5’末端及び3’末端である。ここで、標識物質を相補鎖とハイブリダイズする塩基部分に多数導入すると1塩基程度の置換が検出できなくなる可能性があるため、それぞれの核酸鎖の端部分のみに導入することが好ましい。例えば、2種の標識物質の一方を一方の核酸鎖の5’端部(3’端部)に導入すると共に、これと相補的な他方の核酸鎖の3’端部(5’端部)に他方の標識物質を導入することにより、ハイブリダイゼーション反応に影響を与えることなく、両核酸鎖は鎖置き換え反応により、エネルギー移動を生じたり、消失したりする。
具体的には、5’端部に標識を有する核酸鎖を調製するには、5’端部に標識物質が導入されたリンカーと任意の核酸鎖をリガーゼにより結合させる方法(Nucleic Acids Res.25,922−923(1997))、あるいは5’端部に標識物質が導入されたプライマーを用いてPCR反応を行う方法(PCR Methods and Applications 2,34−40(1992))等が挙げられる。
一方、3’端部に標識を有する核酸鎖を調製するには、上記5’端部に標識物質を導入する場合と同様に、3’端部に標識物質が導入されたリンカーと任意の核酸鎖をリガーゼにより結合させる方法がある。なお、核酸鎖がDNAではなくRNAであったり、DNAの3’端部がRNAである場合には、その末端のRNAの糖(リボース)部を選択的に開環させて、生じたアルデヒド基を利用して標識することもできる。
さらに、標識物質を導入したモノヌクレオチド三リン酸を、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼの働きにより核酸鎖の3’端部に導入することもできる(Biotechniques 15,486−496(1993))。
なお、標準2本鎖核酸が100塩基以下の比較的短い核酸鎖である場合には、直接化学合成により標識核酸を調製することもできる(Nucleic Acids Res.16,2659−2669(1988)、Bioconjug.Chem.3,85−87(1992))。
標識物質間のエネルギー移動によるエネルギー変化の度合いの測定は、一般的に、標識物質から発される蛍光を測定することにより行われるが、この蛍光測定は、多数の検体を同時に測定でき、しかも多彩な温度制御ができるいわゆるリアルタイムPCR装置等を使う場合が多い。しかしながら、このような装置では、検出ごとの蛍光測定精度は必ずしも高くなく、バラツキの大きい結果となる場合が多い。また、添加する標準2本鎖核酸の添加量のバラツキも、測定精度に大きな影響を与える要因となり得る。反応を微量で行うための装置では、このような測定のバラツキ、標準物質の添加量のバラツキはさらに大きくなることが危惧される。従って、定量的な測定を行う場合には、それら測定間でのバラツキを補正することが好ましい。
一般的に測定間のバラツキを補正する方法として、各測定間で同じ結果となることが明らかな標準物質を用いる方法がある。例えば、各反応液に、第1標識物質及び第2標識物質のいずれとも異なる蛍光物質を共通に添加しておき、当該蛍光物質の値に基づき、目的の蛍光測定値を補正することが可能である。しかしながら、このような補正方法は、間接的である上に、標準2本鎖核酸の添加量のバラツキを補正することはできない。
また、蛍光共鳴エネルギー移動を利用した検出法においては、一般的に、ドナーとなる蛍光物質とアクセプターとなる蛍光物質の両方蛍光値の比を求めることにより、測定間のバラツキを補正する方法が行われている。すなわち、ドナーを励起して生じる蛍光と、ドナーからのエネルギー移動で励起されて発光したアクセプターの蛍光との両方を測定し、その比を求める方法である。そこで、本発明者は、本発明の遺伝子型の識別方法において、標識物質間のエネルギー移動によるエネルギー変化の度合いを測定する際に、ドナー標識物質の蛍光値とアクセプター標識物質の蛍光値との比を求めることによりバラツキが低減できるかどうかを検討したが、満足できる結果には到らなかった。これは、鎖組み換え反応後のドナー標識物質の蛍光値は非常に小さく、このような状態での蛍光測定はバラツキが非常に大きくなり易く、このため、ドナー標識物質の蛍光値とアクセプター標識物質の蛍光値との比も非常に大きなバラツキを生じることになるためと考えられる。なお、ドナー標識物質の蛍光値が小さいのは、鎖組み換え反応が起こらずに、変性後の標準2本鎖核酸が元の2本鎖核酸に戻ったときには、エネルギー移動が生じるため、ドナー標識物質の蛍光はほとんどアクセプター標識物質にエネルギー移動される結果、非常に弱い発光となるためである。
さらに、本発明の遺伝子型の識別方法では、標識物質の種類、遺伝子型の種類、標準2本鎖核酸や試料2本鎖核酸の塩基配列の種類、標準2本鎖核酸中の変異部位の位置等により、標識物質の蛍光値の変化、特にドナー標識物質の蛍光値の変化の挙動が影響を受けるという問題があることを、本発明者は見出した。図1は、遺伝子型が異なる場合のドナー標識物質の蛍光挙動の一例を模式的に示した図であり、図2は、同じく遺伝子型が異なる場合のアクセプター標識物質の蛍光挙動の一例を模式的に示した図である。まず、3種類の遺伝子型がある遺伝子変異に対して、一の遺伝子型であるPCR産物を試料2本鎖核酸とし、このPCR産物と同一の遺伝子型の標準2本鎖核酸(マッチ)と、このPCR産物と異なる遺伝子型の標準2本鎖核酸(ミスマッチA)と、両者いずれとも異なる遺伝子型の標準2本鎖核酸(ミスマッチB)とを用意し、各標準2本鎖核酸は、構成する2本の核酸鎖のうち、一方の鎖の3’端部をドナー標識物質により標識し、他方の鎖の5’端部をアクセプター標識物質により標識した。試料2本鎖核酸と各標準2本鎖核酸をそれぞれ混合し、変性させた後、95℃から35℃まで反応液の温度を降下させ、各温度における蛍光強度を測定したところ、標準2本鎖核酸(ミスマッチA)と標準2本鎖核酸(ミスマッチB)とでは、ドナー標識物質の蛍光値が大きく異なり、特にエンドポイント(35℃)では、標準2本鎖核酸(ミスマッチB)の蛍光強度は、標準2本鎖核酸(ミスマッチA)の蛍光強度よりも大幅に大きく、標準2本鎖核酸(マッチ)の蛍光強度に近くなっている。このように、遺伝子型の塩基の種類によって、蛍光強度が影響を受ける場合があり、本発明の遺伝子型の識別方法では、ドナー標識物質の蛍光値とアクセプター標識物質の蛍光値との比を求めることによっては、データのバラツキを補正することにはつながらない。
そこで、本発明者は、さらに検討を重ねた結果、鎖組み換え反応後(エンドポイント)における蛍光強度のみではなく、反応液の温度低下による蛍光強度の変化量、つまり、変性により1本鎖の状態における蛍光強度と、アニーリング後の2本鎖核酸の状態における蛍光強度との変化量ΔF(フルオラセンス)に基づいて補正することにより、測定間のバラツキをよく補正できることを見出した。ΔFは、ドナー標識物質の変化量であってもよく、アクセプター標識物質の変化量であってもよい。ドナー標識物質のΔFは、具体的には、下記式(1)により求めることができる。同じくアクセプター標識物質のΔFは、下記式(2)により求めることができる。下記式(1)及び(2)中、「F[start-point]」は、反応液の温度降下開始時点の温度における蛍光強度、「F[end-point]」は、反応液の温度降下終了時点の温度における蛍光強度を意味する。
Figure 2010233500
また、ΔFは、ドナー標識物質とアクセプター標識物質のいずれであっても、下記式(3)により求めることもできる。下記式(3)中、「F[max]」は、反応液の温度降下開始から終了までの温度依存的な蛍光挙動内で最も高い蛍光強度を意味し、「F[min]」は、同じく温度依存的な蛍光挙動内で最も低い蛍光強度を意味する。
Figure 2010233500
図3は、図1と同様にしてPCR産物(試料2本鎖核酸)、標準2本鎖核酸(マッチ)、標準2本鎖核酸(ミスマッチA)、及び標準2本鎖核酸(ミスマッチB)を調製し、競合的鎖組み換え反応を行った場合の、上記式(1)に基づき求めたドナー標識物質のΔFを示した図である。図3において、標準2本鎖核酸(マッチ)のΔFがマイナス値となっているのは、Tris緩衝液の温度依存的なpH変化による蛍光物質の変化、あるいは蛍光物質の温度依存性によるものである。特に、ドナー標識物質としてフルオラセインを用いた場合には、このようにΔFがマイナス値となるような挙動を示す。つまり、試料2本鎖核酸とは遺伝子型が異なる場合(ミスマッチの場合)のΔF値は大きくなり、試料2本鎖核酸と遺伝子型が同一の場合(マッチの場合)のΔF値はマイナスから0に近い値となる。逆に、アクセプター標識物質のΔF値を指標とした場合、試料2本鎖核酸と遺伝子型が同一の場合のΔF値は大きくなり、試料2本鎖核酸とは遺伝子型が異なる場合のΔF値はマイナスから0に近い値となる。そして、これらのΔF値を算出することにより、遺伝子型を識別することができる。
鎖組み換え反応が起こらずに、変性後の標準2本鎖核酸が元の2本鎖核酸に戻ったときには、鎖組み換え反応後のドナー標識物質の蛍光は弱く、また、1本鎖の状態におけるアクセプター標識物質の蛍光も弱いものの、ΔFのバラツキは、ドナー標識物質の蛍光値とアクセプター標識物質の蛍光値との比をとった場合ほど大きくなく、測定間のバラツキをよく補正できることがわかった。
測定機器の種類により蛍光強度の測定値は変動する傾向があるが、ΔFによる補正では、測定機器間のバラツキを補正することは困難である。そこで、本発明者は、試料2本鎖核酸と標準2本鎖核酸うち、標識物質で標識されていない2本鎖核酸を含有しない対照反応液を調製し、この対照反応液の温度低下による蛍光強度の変化量ΔFを用いることにより、測定装機器のバラツキをより低減できることを見出した。これは、対照反応液のΔFを測定ごと、あるいは測定装機器ごとに参照することにより、蛍光測定時の外部標準としての役割を果たしているためである。
つまり、標準2本鎖核酸を標識物質で標識した場合に、試料2本鎖核酸を含まず標準2本鎖核酸を含むものを対照反応液とし、反応液のΔFと対照反応液のΔFとの比を測定することにより、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定する。この比は、具体的には下記式(4)により求めることができる。なお、式(4)中、「ΔF[反応液]」は、反応液の蛍光変化量ΔF、「ΔF[対照反応液]」は、対照反応液の蛍光変化量ΔFを意味する。
Figure 2010233500
標識した2本鎖核酸のみの蛍光共鳴エネルギー移動の程度、つまりΔF[対照反応液]を100%とし、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸の組み換えがどの程度起こっているかを求めることができる。標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸とを混合し、鎖組み換え反応を行った場合に、INDEX値が100%に近い場合には、鎖組み換えが起こらなかったことを示し、試料2本鎖核酸の遺伝子型は標準2本鎖核酸とは異なると識別される。一方、INDEX値が0%に近い場合には、鎖組み換えが起こったことを示し、試料2本鎖核酸の遺伝子型は標準2本鎖核酸と同一であると識別される。
また、前述したように、鎖組み換え反応では、反応液の温度をゆっくりと低下させていくことが重要であるが、降温速度を低下させることにより、鎖組み換え反応に非常に長時間を要するという問題もある。そこで、標識物質間のエネルギー移動によるエネルギー変化の度合いを測定することによって、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定する場合には、予め、標識した2本鎖核酸の融解曲線を描き、第1標識物質又は前記第2標識物質の蛍光強度の温度に対する平均変化率(dF/dT;温度に対する蛍光強度の変化量)を求め、この平均変化率が大きい温度範囲において反応液の降温速度を十分に小さくし、その他の温度範囲についてはより大きな降温速度で行うことにより、鎖組み換え反応における識別精度を損なうことなく、短時間で鎖組み換え反応を行うことができる。
具体的には、蛍光強度の温度に対する平均変化率が最大となる温度の±3〜5℃の温度範囲にのみを、十分に小さな降温速度、例えば0.1℃/分〜0.3℃/分、より好ましくは0.1℃/分という非常に緩やかな降温速度とし、他の温度範囲ではより早い降温速度とする。事前に標識した2本鎖核酸の相転移付近の温度を把握することにより、効率的な測定を行うことができ、測定時間の短縮化に繋がる。
なお、相転移付近でも早い速度で降温させると、試料2本鎖核酸と標準2本鎖核酸との遺伝子型が異なる場合であっても、誤って鎖組み換え反応を起こしてしまうことがあり、ミスマッチのレスポンス、すなわち、蛍光PCR−PHFAの場合では、蛍光共鳴エネルギー移動の程度が本来よりも小さくなってしまい、擬陽性に繋がる可能性がある。
本発明の第2の識別方法は、遺伝子変異における遺伝子型をPCR−PHFA法を用いて識別する際に、競合的鎖組み換え反応に用いる標準2本鎖核酸として、変異部位以外であって、1塩基からなる部分領域、若しくは2塩基以上の連続又は非連続した部分領域が、当該遺伝子変異を含む天然の遺伝子とは非相補的な塩基に改変されているものを用いることにより、競合的鎖組み換え反応における塩基配列の識別精度を改善させる方法である。標準2本鎖核酸に、天然の遺伝子とは非相補的な塩基(塩基配列)に改変した部位を設けることにより、塩基配列の識別精度が改善できる理由は明らかではないが、試料2本鎖核酸の遺伝子型に関わらず、試料2本鎖核酸と標準2本鎖核酸との親和性を低下させる結果、標準2本鎖核酸と塩基配列が相違する核酸鎖との鎖組み換え反応が顕著に抑制されるためと推察される。
なお、本発明及び本願明細書において、「天然の遺伝子」とは、人工的な改変等を行わない状態で、生物が有する遺伝子を意味する。すなわち、本発明の第2の識別方法では、変異部位以外の領域(つまり、識別対象である遺伝子変異の全ての遺伝子型において、塩基配列が同一である領域)の塩基種を改変した標準2本鎖核酸を用いる。
例えば、天然の遺伝子では、変異部位の近傍に、GCリッチ領域(グアニン、シトシンの含有率が高い領域)のように比較的強い力で塩基対を形成している部位が存在する場合には、この部位の高い親和性に引きずられて、1塩基の相違が認識し難く、変異部位の遺伝子型が異なる核酸鎖同士であってもハイブリダイズし易くなってしまう。そこで、このような強い力で塩基対を形成している部位の塩基種を、非相補的な塩基種に改変することにより、当該部位の1本鎖核酸同士の親和性が低下し、これにより、試料由来の2本鎖核酸の遺伝子型が標準2本鎖核酸とは相違する場合に、標準2本鎖核酸が誤って試料由来の核酸鎖と鎖組み換えされることを顕著に抑制することができる。
本発明においては、特に、天然の遺伝子ではグアニン又はシトシンである部位を、標準2本鎖核酸ではアデニン又はチミン(RNA鎖又はDNAとRNAのキメラ鎖を形成する場合にはウラシル)に改変することが好ましい。
また、標準2本鎖核酸中の塩基種を改変する部位(以下、塩基種改変部位)は、変異部位以外であれば特に限定されるものではなく、標準2本鎖核酸や試料2本鎖核酸の塩基配列の種類等を考慮して、適宜決定することができる。塩基種改変部位は、1塩基からなる部分領域であってもよく、2塩基以上の連続した部分領域であってもよい。また、一の標準2本鎖核酸中に含まれる塩基種改変部位は、1つであってもよく、2以上であってもよい。例えば、1塩基又は2塩基以上からなる塩基種改変部位が、標準2本鎖核酸中に非連続的に複数存在していてもよい。
塩基種改変部位を有する標準2本鎖核酸は、ヌクレオチドアナログ改変部位を有する標準2本鎖核酸と同様に公知の化学合成によって調製することができる。その他、核酸に変異を導入する際に一般的に用いられる核酸増幅反応を用いることによっても調製することができる。例えば、天然の遺伝子由来の核酸を鋳型として、塩基種改変部位を所望の塩基種に改変したプライマー等を用いてPCRを行うことにより、塩基種改変部位を有する標準2本鎖核酸を調製することができる。さらに、核酸増幅反応したものを、プラスミドベクター、ファージベクター、又はプラスミドとファージのキメラベクターから選ばれるベクターに組み込み、大腸菌、枯草菌等の細菌あるいは酵母等の増殖可能な任意の宿主に導入して大量に調製することもできる(遺伝子クローニング)。
本発明の第2の識別方法は、具体的には、試料に含まれる遺伝子中の変異部位を含む領域を核酸増幅反応により増幅し、試料2本鎖核酸を調製する核酸増幅工程と、前記変異部位が特定の遺伝子型である標準2本鎖核酸を、前記試料2本鎖核酸と混合して競合的鎖組み換え反応を行い、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することにより、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸との同一性を識別する識別工程とを有する。なお、本発明の第2の識別方法における核酸増幅工程及び識別工程は、前述の本発明の第1の識別方法と同様にして行うことができる。
本発明の第2の識別方法では、標準2本鎖核酸中の塩基種改変部位に相当する試料2本鎖核酸の部位も、当該標準2本鎖核酸の塩基配列と同一の塩基配列に改変されていることが好ましい。変異部位以外の部位において、標準2本鎖核酸のみならず、試料2本鎖核酸の核酸鎖同士の親和性を低下させることにより、さらに識別精度を改善することができるためである。
このように、標準2本鎖核酸中の塩基種改変部位に相当する部位の塩基種が改変された試料2本鎖核酸は、標準2本鎖核酸と同様に、核酸に変異を導入するために一般的に用いられる核酸増幅反応を用いることによって調製することができる。具体的には、核酸増幅工程において、塩基種改変部位に相当する部位の塩基種を標準2本鎖核酸と同一の塩基配列に改変した改変箇所を有するプライマーを用いてPCRを行うことにより調製することができる。なお、当該改変箇所は、試料2本鎖核酸の核酸増幅に用いるプライマーの3’末端から2塩基以上離れた場所に位置していることが好ましい。
さらに、本発明の第2の識別方法は、本発明の第1の識別方法と組み合わせてもよい。すなわち、標準2本鎖核酸として、変異部位をヌクレオチドアナログで改変し、変異部位以外の部位を非相補的な塩基に改変する(好ましくは、天然の遺伝子においてグアニン又はシトシンである部位を、アデニン、チミン、又はウラシルに改変する)ことにより、より一層遺伝子型の識別精度を向上させることができる。
本発明の遺伝子の識別方法は、遺伝子型の識別精度が非常に優れており、SNP等の生殖細胞変異のみならず、がん細胞等で観察されるような体細胞変異をも十分な精度で識別することが可能である。
本発明の遺伝子の識別方法は、その高い識別精度から、臨床検査等においても有用である。
例えば、K−rasはシグナル伝達系のタンパク質であり、プロトオンコ―ジーンである。多くのがん細胞においてK−ras遺伝子に変異が生じていることが報告されている。特にK−ras遺伝子のコドン12、13にアミノ酸置換を伴う変異が顕著に見られ、13種類の変異パターンが存在することが知られている。最近、K−ras遺伝子に変異がある患者では、抗がん剤であるEGFR抗体薬(セツキシマブ、パニツムマブ)等が効力を発揮できないことが次々に明らかとなっている。このような抗がん剤治療は副作用のみならず高額な費用を要する。したがって、治療前にK−ras変異の検査を行い、効く患者のみを選別して治療することがオーダーメード医療の一環として提案されている。
また、EGFR抗体薬であるセツキシマブは、大腸がん治療薬として使用されている。大腸がんの年間罹患数は10万人弱であり、平成17年の死亡者数は4万800人であった。食生活の欧米化により増え続ける傾向にあり、4年後には40,000人の大腸がん患者がEGFR抗体薬治療の対象となるとのEGFR抗体薬のメーカーによる試算もある。当該試算が正しければ、K−rasの検査市場は日本国内だけで4年後には4億円を越すものと予想される。
しかしながら、従来の識別法では、体細胞変異を十分な精度で識別することは困難であり、擬陽性が多い、と言う問題があった。本発明の遺伝子の識別方法は、体細胞変異をも非常に精度よく識別可能であることから、臨床検査における精度改善のみならず、医療費の削減にも資することが期待できる。
本発明の遺伝子型識別用キットは、上記本発明の第1の識別方法に従って、試料中に含まれている遺伝子変異の遺伝子型を識別したり、特定の遺伝子型が含まれている割合を検出するために用いられるキットであって、試料2本鎖核酸を調製するための核酸増幅試薬と、互いにエネルギー移動可能な2種類の標識物質と、核酸鎖の3’端部に標識物質を導入するための試薬と、核酸鎖の5’端部に標識物質を導入するための試薬とを具備することを特徴とする。その他、キットには、試料前処理用の細胞破壊試薬や、標識物質の標識を検出するための試薬等を組み合わせても良い。このように、本発明の第1の識別方法に必要な試薬等をキット化することにより、より簡便かつ短時間で遺伝子型の識別を行うことができる。
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
がん遺伝子であるK−rasのコドン12及びコドン13の遺伝子変異を識別対象の変異部位として、本発明の第1の識別方法の識別精度を調べた。なお、使用する標準2本鎖核酸及び試料2本鎖核酸は、常法の化学合成法により調製した。
まず、コドン12及びコドン13の各遺伝子変異の遺伝子型に対して、表1記載の遺伝子型の標準2本鎖核酸をそれぞれ作製した。各標準2本鎖核酸は、一方の5’末端はFAM標識(グレンリサーチ社)し、もう一方の3’末端はAlexa標識(インビトロジェン社製)した。各遺伝子型の標準2本鎖核酸は、プライマーを設計してPCRにより調製することもできるが、本実施例においては、構成する2本の核酸鎖を1本ずつ化学合成したものをハイブリダイズさせることにより調製した。表1に、化学合成した核酸鎖の配列を、遺伝子型ごとに示す。
表1中、コドン12、13は下線で示し、変異部位は小文字で表した。また、「Wild」は野生型を、「6−FAM」はFAM標識を、「Ale594」はAlexa標識を、右欄の数字は配列表中の対応する配列番号を、それぞれ示す。
Figure 2010233500
表1記載の標準2本鎖核酸のうち、遺伝子型G12D及びG12S_2の標準2本鎖核酸の変異部位をLNA改変したもの〔標準2本鎖核酸(G12D(LNA))及び標準2本鎖核酸(G12S_2(LNA))〕も作製した。さらに、試料2本鎖核酸として、遺伝子型がG12D又はG12S_2である2本鎖核酸を調製した〔試料2本鎖核酸(G12D)及び試料2本鎖核酸(G12S_2)〕。なお、各試料2本鎖核酸も、標準2本鎖核酸と同様に、構成する2本の核酸鎖を1本ずつ化学合成したものをハイブリダイズさせることにより調製した。表2に、化学合成した核酸鎖の配列を、遺伝子型ごとに示す。表2中、コドン12、13は下線で示し、変異部位は小文字で表した。また、右欄の数字は配列表中の対応する配列番号を示す。
Figure 2010233500
まず、表1記載のいずれかの標準2本鎖核酸と、表2記載のいずれかの試料2本鎖核酸を混合した反応液を、表3の組成となるように調製した。この調製した各反応液を、蛍光強度(蛍光共鳴エネルギー移動)の測定装置にセットし、95℃で5分間保持して変性させた後、85℃から75℃の温度範囲の各温度で3分間保持しつつ降温し、75℃から35℃にさらに降温し、35℃で5分間保持した。なお、蛍光強度の測定装置はABI7900の装置を用いた。さらに、FAMの蛍光強度の変化量ΔFAMを、下記式(5)により求めた。なお、式(5)中、「FAM[95℃]」は95℃から反応液の温度が下がる直前の蛍光強度であり、「FAM[35℃]」はエンドポイントでの蛍光強度である。
Figure 2010233500
Figure 2010233500
図4は、試料2本鎖核酸(G12D)と、標準2本鎖核酸(G12D)、標準2本鎖核酸(G12D(LNA))、標準2本鎖核酸(G12S_2)、又は標準2本鎖核酸(G12S_2(LNA))とを混合し、鎖組み換え反応を行った結果を示した図である。FAMはドナー標識分子であるため、理論的には、試料2本鎖核酸と遺伝子型が異なる標準2本鎖核酸(G12S_2)及び標準2本鎖核酸(G12S_2(LNA))の場合には、鎖組み換え反応が生じず、蛍光共鳴エネルギー移動が起こり、FAMの蛍光強度は小さくなる。一方で、試料2本鎖核酸と遺伝子型が同一の標準2本鎖核酸(G12D)及び標準2本鎖核酸(G12D(LNA))の場合には、鎖組み換え反応が生じるため、FAMの蛍光強度はあまり変化しない。
しかしながら、実際には、標準2本鎖核酸(G12S_2)では、ドナー(FAM)の蛍光挙動は変曲、すなわち消光現象が観察されておらず、変異部位を認識できずに誤って鎖組み換え反応が起こったことを示している。これに対して、LNAで変異部位を改変した標準2本鎖核酸(G12S_2(LNA))では、温度依存的にFAMが消光している様子が観察された。これらの結果は、LNA改変によってミスマッチ識別能が顕著に改善されたことを示唆している。
図5は、試料2本鎖核酸(G12S_2)と、標準2本鎖核酸(G12D)、標準2本鎖核酸(G12D(LNA))、標準2本鎖核酸(G12S_2)、又は標準2本鎖核酸(G12S_2(LNA))とを混合し、鎖組み換え反応を行った結果を示した図である。図4と同様に、試料2本鎖核酸と遺伝子型が異なるにも関わらず、標準2本鎖核酸(G12D)では、消光現象が観察されておらず、変異部位を認識できずに誤って鎖組み換え反応が起こっていた。これに対して、LNAで変異部位を改変した標準2本鎖核酸(G12D(LNA))では、温度依存的にFAMが消光している様子が観察されており、標準2本鎖核酸をLNA改変することにより、鎖組み換え反応における核酸識別性が改善されることが観察された。
さらに、試料2本鎖核酸(G12D)と、各標準2本鎖核酸とを混合し、鎖組み換え反応を行なった。この結果に基づき、各反応液のΔFAMを算出し、比較した。各反応液のΔFAMを図6に示す。理論的には、試料2本鎖核酸と遺伝子型が同一の標準2本鎖核酸(G12D)及び標準2本鎖核酸(G12D(LNA))では、鎖組み換え反応が生じ、ΔFAMは0に近くなるが、その他の遺伝子型では、鎖組み換え反応が生じず、ΔFAMは大きくなる。
しかしながら実際には、標準2本鎖核酸(G12S_2)ではΔFAMは小さくなっており、擬陽性となった。一方、LNA改変した標準2本鎖核酸(G12S_2(LNA))ではΔFAMは大きくなっており、陰性であった。
図7は、試料2本鎖核酸(G12S_2)と、各標準2本鎖核酸とを混合し、鎖組み換え反応を行って求めたΔFAMを示した図である。この結果、標準2本鎖核酸の遺伝子型がG12D、野生型、G12A、G12Vの場合に、ΔFAMの値が小さく、擬陽性となった。一方、同じ遺伝子型であっても、LNA改変した標準2本鎖核酸(G12D(LNA))ではΔFAMは大きくなっており、陰性であった。
すなわち、これらの結果から、PCR−PHFA法において、標準2本鎖核酸、特に変異部位をLNA改変することにより、ミスマッチの識別性が大幅に向上し、擬陽性の確率を低減できることが明らかになった。また、この改変に伴い、偽陰性(標準2本鎖核酸と同一の遺伝子型であるにもかかわらず、鎖組み換え反応が生じないこと)は観察されなかった。
K−ras検査において、擬陽性を出さないことは非常に重要である。なぜならば、その判定如何では非常に効果のある大腸がん分子標的薬等が投与されないことになるからである。そのような意味で、PCR−PHFA法による体細胞変異検出を考えた場合、本発明の遺伝子型の識別方法は、非常に重要である。
本発明の遺伝子型の識別方法は、遺伝子型の識別精度が非常に優れているため、臨床検査等の分野、特に体細胞変異の検査等の分野において利用が可能である。

Claims (14)

  1. 遺伝子変異における遺伝子型を識別する方法であって、
    試料に含まれる遺伝子中の変異部位を含む領域を核酸増幅反応により増幅し、試料2本鎖核酸を調製する核酸増幅工程と、
    前記変異部位が特定の遺伝子型であり、かつ標識物質により標識されている標準2本鎖核酸を、前記試料2本鎖核酸と混合して競合的鎖組み換え反応を行い、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することにより、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸との同一性を識別する識別工程と、
    を有し、
    かつ、前記標準2本鎖核酸の少なくとも1の変異部位の塩基がヌクレオチドアナログであることを特徴とする遺伝子型の識別方法。
  2. 前記標準2本鎖核酸中の変異部位のみがヌクレオチドアナログにより構成されていることを特徴とする請求項1記載の遺伝子型の識別方法。
  3. 前記標準2本鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のいずれの変異部位もヌクレオチドアナログにより構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の遺伝子型の識別方法。
  4. 前記ヌクレオチドアナログがロックド核酸(LNA)である請求項1〜3のいずれか記載の遺伝子型の識別方法。
  5. 遺伝子変異における遺伝子型を識別する方法であって、
    試料に含まれる遺伝子中の変異部位を含む領域を核酸増幅反応により増幅し、試料2本鎖核酸を調製する工程と、
    前記変異部位が特定の遺伝子型である標準2本鎖核酸を、前記試料2本鎖核酸と混合して競合的鎖組み換え反応を行い、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することにより、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸との同一性を識別する工程と、
    を有し、
    かつ、前記標準2本鎖核酸中の変異部位以外であって、1塩基からなる部位、若しくは2塩基以上の連続又は非連続した部位が、前記遺伝子変異を含む天然の遺伝子とは非相補的な塩基に改変されていることを特徴とする遺伝子型の識別方法。
  6. 前記標準2本鎖核酸中の改変された部位に相当する前記試料2本鎖核酸中の部位が、当該標準2本鎖核酸の塩基配列と同一の塩基配列に改変されていることを特徴とする請求項5記載の遺伝子型の識別方法。
  7. 前記標準2本鎖核酸中の改変された部位の塩基種がアデニン、チミン、又はウラシルであり、
    前記遺伝子中の当該部位に相当する部位の塩基種がグアニン又はシトシンであることを特徴とする請求項5又は6記載の遺伝子型の識別方法。
  8. 前記核酸増幅工程が、前記標準2本鎖核酸中の改変された部位に相当する前記試料2本鎖核酸中の部位を、当該標準2本鎖核酸と同一の塩基配列に改変した改変箇所を有するプライマーを用いてポリメラーゼチェーン反応(PCR)を行うことにより、試料2本鎖核酸を調製する工程であることを特徴とする請求項5又は6記載の遺伝子型の識別方法。
  9. 前記改変箇所が、前記プライマーの3’末端から2塩基以上離れた場所に位置していることを特徴とする請求項8記載の遺伝子型の識別方法。
  10. 前記標準2本鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のうち、一方の鎖の3’端部が第1標識物質により、他方の鎖の5’端部が第2標識物質により、それぞれ標識されており、
    前記第1標識物質と前記第2標識物質は、互いにエネルギー移動可能な物質であり、
    前記第1標識物質及び前記第2標識物質間のエネルギー移動によるエネルギー変化の度合いを測定することにより、前記識別工程における標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度を測定することを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の遺伝子型の識別方法。
  11. 前記第1標識物質及び前記第2標識物質の少なくとも一方が蛍光物質であり、
    前記識別工程における競合的鎖組み換え反応は、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸とを含む反応液の温度を、高温から徐々に低下させることにより行うものであり、かつ、前記第1標識物質又は前記第2標識物質の蛍光強度の温度に対する平均変化率が最大となる温度の±3〜5℃の温度範囲における降温速度が、当該温度範囲以外の温度の場合よりも小さいことを特徴とする請求項10記載の遺伝子型の識別方法。
  12. 前記第1標識物質及び前記第2標識物質の少なくとも一方が蛍光物質であり、
    前記識別工程における競合的鎖組み換え反応は、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸とを含む反応液の温度を、高温から徐々に低下させることにより行うものであり、
    かつ、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度の測定を、前記反応液の温度低下による蛍光強度の変化量に基づき測定することを特徴とする請求項10又は11記載の遺伝子型の識別方法。
  13. 前記第1標識物質及び前記第2標識物質の少なくとも一方が蛍光物質であり、
    前記識別工程における競合的鎖組み換え反応は、前記標準2本鎖核酸と前記試料2本鎖核酸とを含む反応液の温度を、高温から徐々に低下させることにより行うものであり、
    かつ、標準2本鎖核酸と試料2本鎖核酸との間で鎖組み換えが生じた程度の測定を、前記反応液の温度低下による蛍光強度の変化量と、前記試料2本鎖核酸を含まず前記標準2本鎖核酸を含む対照反応液の温度低下による蛍光強度の変化量との比に基づき測定することを特徴とする請求項10又は11記載の遺伝子型の識別方法。
  14. 請求項10〜13に記載の遺伝子型の識別方法により遺伝子型を識別するために用いられるキットであって、
    試料2本鎖核酸を調製するための核酸増幅試薬と、互いにエネルギー移動可能な2種類の標識物質と、核酸鎖の3’端部に標識物質を導入するための試薬と、核酸鎖の5’端部に標識物質を導入するための試薬とを具備することを特徴とする遺伝子型識別用キット。
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