(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる制御システムの全体構成を模式的に示す説明図である。本実施形態では、電気自動車の駆動用モータに適用されたモータ制御システムについて説明を行う。この制御システムは、モータ10、インバータ20および制御ユニット40を主体に構成されている。
モータ10は、ロータ(可動子)とステータ(固定子)とを主体に構成されており、中性点を中心に星形結線された複数の相巻線(本実施形態では、U相巻線、V相巻線、W相巻線からなる3つの相巻線)がステータに巻回された永久磁石同期電動機である。このモータ10は、後述するインバータ20から、3相の交流電力が各相巻線にそれぞれ供給されることにより生じる磁界と、回転子の永久磁石が作る磁界との相互作用により駆動する。具体的には、モータ10では、ロータに埋め込まれた永久磁石と、ロータ自体を構成する磁性体(例えば、電磁鋼板)と、ステータ自体を構成する磁性体(電磁鋼板)とによって主磁気回路が形成される。そして、永久磁石からの磁石磁束、および、各相の巻線へ通電することで発生する交番磁束が、主磁気回路を流れることで電磁力によるトルクが発生する。これにより、ロータおよびこれに連結された出力軸が回転する。モータ10の出力軸は、自動変速機に連結されている。
インバータ20は、電源30に接続されており、電源30からの直流電力を交流電力に変換してモータ10に供給する電力変換手段である。この交流電力はモータ10の各相に対応して生成され、インバータ20は各相の交流電力をモータ10にそれぞれ出力し、これにより、モータ10を駆動する。
ここで、電源30は、直流電源であり、例えば、ニッケル水素電池あるいはリチウムイオン電池といったバッテリを用いることができる。電源30と、インバータ20との間にはDC/DCコンバータ31が設けられており、DC/DCコンバータ31は、電源30の電圧を昇圧した上で、インバータ20に印加する。インバータ20の入力端子間には、平滑コンデンサ32が設けられている。
インバータ20は、正極側の母線と、3相に対応する各出力端子との間に、上アームに対応する一方向の導通を制御可能なスイッチがそれぞれ接続され、負極側の母線と、3相に対応する各出力端子との間に、下アームに対応するスイッチがそれぞれ接続されている。個々のスイッチは、半導体スイッチ(例えば、IGBT等のトランジスタといったスイッチング素子)を主体に構成されており、個々の半導体スイッチには、還流用ダイオードが逆並列接続されている。
各スイッチのオン・オフ状態、すなわち、導通および遮断の切り替え(スイッチング動作)は、制御ユニット40から出力される駆動信号を通じて制御される。個々のスイッチは、制御ユニット40によってオンされることにより導通状態となり、オフされることにより非導通状態(遮断状態)となる。
制御ユニット40は、インバータ20を制御する制御手段であり、このインバータ20を介して負荷であるモータ10の出力トルクを制御する。制御ユニット40としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。制御ユニット40は、ROMに記憶された制御プログラムに従い、インバータ20を制御するための演算を行う。そして、制御ユニット40は、この演算によって算出された制御信号(駆動信号)をインバータ20に対して出力する。
制御ユニット40には、各種のセンサ(図示せず)によって検出されるセンサ信号が入力されている。モータ10におけるU相およびW相の電流iu,iwは、電流センサによって検出され、これが制御ユニット40に入力されている。なお、3相の電流の総和はゼロとなるため、U相およびW相の電流iu,iwより残りのV相の電流ivを検出することができる。また、モータ10に取り付けられた位置センサ(例えば、レゾルバ)によって検出される情報も制御ユニット40に入力されている。
本実施形態において、制御ユニット40は、切替可能な駆動方式として、矩形波電圧駆動と、PWM波電圧駆動とを有し、駆動方式に応じてインバータ20を制御する。ここで、矩形波電圧駆動は、直流電力から矩形波電圧を生成してモータ10に印加する、具体的には、モータ10の電気的な回転位相である電気角1周期に対してインバータ20が出力する出力電圧パルスの位相を可変とする駆動方式である。これに対して、PWM波電圧駆動は、直流電力からPWM波電圧を生成して負荷に印加する、具体的には、キャリア電圧と正弦波制御電圧とに基づいてPWM制御を行い、PWM制御のデューティー指令値を算出することで等価的な正弦波交流電圧を生成する駆動方式である。制御ユニット40は、これを機能的に捉えた場合、トルク制御部41と、電流制御部42と、3相/dp変換部43と、鉄損マップ44と、高調波電圧指令生成部45と、dq/3相変換部46と、PWM信号生成部47と、矩形波電圧演算部48と、電圧指令演算部49と、位相演算部50とを有している。
トルク制御部41は、モータ10の運転状況、例えば、外部より与えられるトルク指令Te*と、位相演算部50において演算されるモータ回転数ωとに基づいて、駆動方式を決定する。一般に、矩形波電圧駆動は、PWM波電圧駆動に比べて電圧利用率の点で優れており、高出力が得られるが、トルク指令値Te*やモータ回転数ωが急変する過渡変化時には、PWM波電圧駆動に比べて応答が悪い。そのため、トルク指令値Te*とモータ回転数ωが小さい領域では、モータ出力は最高出力よりも低い状態で運転されるので、高出力を得るための矩形波電圧駆動よりも応答性がよいPWM波電圧駆動の方が適している。これに対して、トルク指令値Te*とモータ回転数ωが大きい領域では、モータ出力は最高出力に近い状態で運転されるので、応答性がよいPWM波電圧駆動よりも高出力を得るための矩形波電圧駆動の方が適している。
トルク制御部41は、このような観点から作成された制御マップを保持しており、この制御マップを参照した上で、モータ10の回転数ωとトルク指令値Te*とに基づいて、駆動方式をPWM波電圧駆動とするのかそれとも矩形波電圧駆動とするのかを決定する。決定された駆動方式が現在の設定されている駆動方式と異なる場合、トルク制御部41は、駆動方式の切替指示を行う。なお、駆動方式の切替時に処理については後述する。
駆動方式としてPWM波電圧駆動が選択されている場合、トルク制御部41は、外部より与えられるトルク指令Te*と、位相演算部50において演算されるモータ回転数ωとに基づいて、トルク指令に対応するd軸およびq軸電流指令id*,iqをそれぞれ演算する。そのため、モータ10の特性等を考慮して、トルク指令値Te*およびモータ回転数ωと、d軸およびq軸電流指令id*,iq*との関係を実験やシミュレーションを通じて予め取得しておくことで、トルク制御部41は、この関係を規定したマップを保持する。トルク制御部41は、当該マップを参照してd軸およびq軸電流指令id*,iq*をそれぞれを演算する。得られる。演算されたd軸およびq軸電流指令id*,iq*は、電流制御部42に対して出力される。
一方、駆動方式として矩形波電圧駆動が選択されている場合、トルク制御部41は、トルク指令Te*と、モータ回転数ωとに基づいて、トルク指令に対応する電圧位相指令δ*を演算する。そのため、モータ10の特性等を考慮して、トルク指令値Te*およびモータ回転数ωと、電圧位相指令δ*との関係を実験やシミュレーションを通じて予め取得しておくことで、トルク制御部41は、この関係を規定したマップを保持する。トルク制御部41は、当該マップを参照して電圧位相指令δ*を演算する。演算された電圧位相指令δ*は、矩形波電圧演算部48に対して出力されるとともに、後述するように、駆動方式の切替時には、必要に応じて電圧指令演算部49に対しても出力される。
電流制御部42に対して出力されたd軸およびq軸電流指令id*,iq*は、モータ10の実電流値に対応するd軸およびq軸電流id,iqがそれぞれ減算され、これにより、電流制御部42には、d軸およびq軸の電流偏差が入力される。ここで、d軸およびq軸電流id,iqは、3相/dq変換部43が、3相の電流iu,iv,iwを位相演算部50において演算される電気角θに基づいて座標変換を行うことにより演算される。電流制御部42は、例えば、PI制御を用いて、d軸およびq軸の電流偏差がそれぞれ0となるようなd軸およびq軸電圧指令vd*,vq*をそれぞれ演算する。演算されたd軸およびq軸電圧指令は、dq/3相変換部46に出力される。なお、本実施形態では、電流制御部42から出力されるd軸およびq軸電圧指令vd*,vq*には、必要に応じて、後述するd軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqhがそれぞれ加算された上で、dq/3相変換部46に入力される。
鉄損マップ44は、トルク指令Te*とモータ回転数ωとを入力として、矩形波電圧駆動時におけるモータ10の鉄損と、PWM波電圧駆動時におけるモータ10の鉄損とを出力するマップである。モータ10の鉄損は、ステータやロータを構成する磁性体(コア材)を磁化したときに失われる電気エネルギーである。トルク指令Te*およびモータ回転数ωと、矩形波電圧駆動時およびPWM波電圧駆動時におけるモータ10の鉄損との関係は、実験やシミュレーションを通じて予め取得されており、これが鉄損マップ44として規定されている。この鉄損マップ44は、現在の駆動方式におけるモータ10の鉄損を切替前の鉄損値Wiとして出力し、駆動方式の切替指示に対応して切り替えられる他方の駆動方式におけるモータ10の鉄損を切替後の鉄損値Wi_nとして出力する。なお、この鉄損マップ44は、例えば、3相のうちの1相のみをPWM波電圧駆動し、残りの2相を矩形波電圧駆動するといったように、3相全てについて駆動方式の切り替えを行った場合のみならず、各相について駆動方式を段階的に切り替えた際の切替前後のモータ10の鉄損をも規定するマップとなっている。
高調波電圧指令生成部45は、駆動方式の切り替えに応じて、切替前の鉄損値Wiと、切替後の鉄損値Wi_nとに基づいて、d軸およびq軸電圧指令vd*,vq*に重畳させるd軸およびq軸高調波電圧Vdh,Vqを演算する。モータ10の鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損の和として表されるが、主磁気回路となる磁性体を通過する交番磁束の高調波成分ほど損失の比率が大きくなる。d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅を増加させることにより、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束が増加し、これにより、モータ10の鉄損を増加させることができる。なお、矩形波電圧駆動およびPWM波電圧駆動のいずれか一方のみの駆動方式で制御を行っている場合、高調波電圧指令生成部45は、d軸およびq軸電圧指令vd*,vq*へのd軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの重畳は行っておらず、d軸およびq軸高調波電圧Vdh,Vqはゼロとして演算される。駆動方式の切り替えに応じたd軸およびq軸高調波電圧Vdh,Vqの重畳手法の詳細については後述する。
dq/3相変換部46は、位相演算部50において演算される電気角θを参照した上で、d軸およびq軸電圧指令vd*,vq*から、各相に対応する電圧指令vu,vv,vwに座標変換を行う。各相の電圧指令vu〜vwは、PWM信号生成部47に出力される。
PWM信号生成部47は、例えば、三角波といった周期的に変動するPWMキャリアの電圧レベルと、各相の電圧指令vu〜vwとの比較に基づいて、インバータ20を駆動する駆動信号を生成する。具体的には、PWM信号生成部47は、各相毎に、電圧指令vu〜vwと、キャリアとを比較し、上下アームのスイッチをオン・オフする駆動信号を生成する。そして、PWM信号生成部47は駆動信号をインバータ20に対して出力する。インバータ20は、この駆動信号に応じて各アームがスイッチング動作を行うことでPWM波電圧をモータ10の各相に印加し、これにより、モータ10を駆動する。
矩形波電圧演算部48は、位相演算部50において演算される電気角θを参照した上で、電圧位相指令θに基づいて、各相毎に、上下アームのスイッチをオン・オフする駆動信号を生成する。そして、矩形波電圧演算部48は、駆動信号をインバータ20に対して出力する。インバータ20は、この駆動信号に応じて各アームがスイッチング動作を行うことで矩形波電圧をモータ10の各相に印加し、これにより、モータ10を駆動する。
電圧指令演算部49は、電圧位相指令δ*と、電源30の電圧(電源電圧)Vdcとに基づいて、d軸およびq軸電圧指令vd*,vq*をそれぞれ演算する。そのため、モータ10の特性等を考慮して、電圧位相指令δ*および電源電圧Vdcと、d軸およびq軸電圧指令vd*,vq*との関係を実験やシミュレーションを通じて予め取得しておくことで、電圧指令演算部49は、この関係を規定したマップを保持する。電圧指令演算部49は、当該マップを参照してd軸およびq軸電圧指令vd*,vq*を演算する。演算されたd軸およびq軸電圧指令vd*,vq*は、必要に応じて、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqhがそれぞれ加算され、d軸およびq軸電圧指令vd*,vq*としてdq/3相変換部46に出力される。
位相演算部50は、位置センサより検出されるモータ10のロータ位置を表す情報に基づいて、位相演算部50が電気的な位相(電気角)θと、この電気角θを時間微分することにより電気角速度、すなわち、モータ回転数ωとを演算している。
また、本実施形態の特徴の一つとして、制御ユニット40は、駆動方式に応じて内部の制御経路の切り替えを行うべく、スイッチなど構成される経路切替部51〜54を備えている。第1の経路切替部51は、電流制御部42の後段に設けられており、第2の経路切替部52は、電圧指令演算部49の後段に設けられている。第3の経路切替部53は、dq/3相変換部46の後段に設けられており、第4の経路切替部54は、矩形波電圧演算部48の後段に設けられている。個々の経路切替部51〜54は、トルク制御部41によって判断される駆動方式に応じて制御される。
3相の駆動方式が矩形波電圧駆動である場合、トルク制御部41は、第1から第3の経路切替部51〜53を遮断し、第4の経路切替部54を導通する。これにより、トルク制御部41から矩形波電圧演算部48を経由してインバータ20へと至る経路が確保され、矩形波電圧駆動が可能となる。一方、3相の駆動方式がPWM波電圧駆動である場合、第1および第3の経路切替部51,53を導通するとともに、第2および第4の経路切替部52,54を遮断する。これにより、トルク制御部41から、電流制御部42、dq/3相変換部、PWM信号生成部47を経由してインバータ20へと至る経路が確保され、PWM波電圧駆動が可能となる。
また、駆動方式の切替時、少なくとも1相についてPWM波電圧駆動を行い、他の相について矩形波電圧駆動を行う場合には、トルク制御部41は、第3および第4の経路切替部53,54については、駆動方式に対応する相のみを導通状態として、他の相を遮断状態に制御する。また、少なくとも1相について矩形波電圧駆動を行う場合、トルク制御部41は、第1の経路切替部51を遮断するとともに、第2の経路切替部52を導通する。これにより、dq/3相変換部46に出力されるd軸およびq軸電圧指令vd*,vq*の演算は、電流制御部42による電流ベクトル制御から、電圧指令演算部49による電圧ベクトル制御によって行われる。
以下、矩形波電圧駆動およびPWM波電圧駆動の駆動方式の切り替えについて説明を行う。駆動方式の切り替えが判断された場合、制御ユニット40(本実施形態では、高調波電圧指令生成部45)は、駆動方式の切り替えに応じて、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させる制御を行う。
図2は、駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動へと切り替える際の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、制御ユニット40(具体的には、トルク制御部41)がPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動への切り替えを判断することにより、制御ユニット40によって実行される。
まず、ステップ1(S1)において、制御ユニット40は、鉄損マップ44により、3相を矩形波電圧駆動した際のモータ10の鉄損値を切替後の鉄損値Wi_nとして算出する。そして、ステップ2(S2)において、制御ユニット40は、鉄損マップ44により、3相をPWM波電圧駆動した際のモータ10の鉄損値を切替前の鉄損値Wi_nとして算出する。
ステップ3(S3)において、高調波電圧指令生成部45は、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも大きいか否かを判断する。ステップ3において肯定判定された場合、すなわち、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも大きい場合には、ステップ4(S4)に進む。一方、ステップ3において否定判定された場合、すなわち、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wi以下の場合には、後述するステップ7(S7)に進む。
ステップ4において、高調波電圧指令生成部45は、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅を所定のステップ値だけ増加させ、このd軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqをd軸およびq軸電圧指令vd*,vq*に重畳する。d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅を増加させることにより、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束が増加し、これにより、モータ10の鉄損が増加する。
ステップ5(S5)において、高調波電圧指令生成部45は、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅を増加させたことによるモータ10の鉄損が、切替後の鉄損値Wi_nに到達したか否か判断する。ステップ5において肯定判定された場合、すなわち、モータ10の鉄損が切替後の鉄損値Wi_nに到達した場合には、ステップ6(S6)に進む。一方、ステップ5において否定判定された場合、モータ10の鉄損が切替後の鉄損値Wi_nに到達していない場合には、ステップ4に戻る。
ステップ6において、高調波電圧指令生成部45は、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅をゼロに戻す。また、トルク制御部41は、第1から第4の経路切替部51〜54を切り替えて、3相の駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動とする。このステップ6により、駆動方式の切り替えが完了する。
一方、ステップ7において、トルク制御部41は、第1から第4の経路切替部51〜54を切り替えて、少なくとも1相(例えば、U相)を除く他の相(例えば、V,W相)を矩形波電圧駆動に切り替える。したがって、このステップ7以降では、U相のみの駆動方式がPWM波電圧駆動となり、V,W相の駆動方式が矩形波電圧駆動となる。
ステップ8(S8)において、高調波電圧指令生成部45は、ステップ7の切替前後でモータ10の鉄損値が変化しないように、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅を設定し、このd軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqをd軸およびq軸電圧指令vd*,vq*に重畳する。d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqを重畳させることにより、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束が増加し、これにより、モータ10の鉄損が切替前の鉄損値Wiまで増加する。そして、ステップ9(S9)において、高調波電圧指令生成部45は、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅を、所定のステップ値だけ減少させる。
ステップ10(S10)において、高調波電圧指令生成部45は、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅がゼロに到達したか否かを判断する。このステップ10において肯定判定された場合、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅がゼロに到達した場合には、ステップ11(S11)に進む。一方、ステップ10において否定判定された場合、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅がゼロに到達していない場合には、ステップ9に戻る。
ステップ11において、トルク制御部41は、第1から第4の経路切替部51〜54を切り替えて、矩形波電圧駆動に切り替えていない相(例えば、U相)について、PWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替える。このステップ11により、3相のすべてについて駆動方式が矩形波電圧駆動となり、駆動方式の切り替えが完了する。
つぎに、駆動方式を矩形波電圧駆動からPWM波電圧駆動へと切り替える際の処理手順について説明する。この処理手順は、上述したPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動への切替処理と同様の手順で行うことができる。具体的には、高調波電圧指令生成部45は、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも大きいか否かを判断し、この判断結果に応じて、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させる。なお、本実施形態では、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅を操作して、高調波磁束を増加させるものであるため、PWM波電圧駆動をしている相がなければ高調波磁束の制御を行うことができない。そこで、高調波電圧指令生成部45は、矩形波電圧駆動からPWM波電圧駆動へと切り替える際には、以下の通り制御を行う。
具体的には、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも大きい場合、トルク制御部41は、第1から第4の経路切替部51〜54を切り替えて、少なくとも1相について矩形波電圧駆動からPWM波電圧駆動へと切り替える。つぎに、高調波電圧指令生成部45は、モータ10の鉄損が、切替後の鉄損値Wi_nに到達するまで、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅にステップ値を順次加算することにより、その振幅を漸次増加させる。そして、モータ10の鉄損が切替後の鉄損値Wi_nに到達したこと条件に、トルク制御部41は、第1から第4の経路切替部51〜54を切り替えて、残りの相について矩形波電圧駆動からPWM波電圧駆動へと切り替え、また、高調波電圧指令生成部45は、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅をゼロに戻す。これにより、3相のすべてについて駆動方式が矩形波電圧駆動となり、駆動方式の切り替えが完了する。
一方、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wi以下の場合には、上述したステップ7からステップ11の手順と同様に、駆動方式を矩形波電圧駆動からPWM波電圧駆動に切り替える。
このように本実施形態において、制御ユニット40(主として、トルク制御部41)は、モータ10の運転状況に応じて矩形波電圧駆動とPWM波電圧駆動との間で駆動方式の切り替えを行うとともに、切替設定される駆動方式に応じてインバータ20を制御する。また、制御ユニット40(主として、高調波電圧指令生成部45)は、駆動方式の切り替えに応じて、主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させる。かかる構成によれば、高調波磁束の増加により、モータ10の鉄損を増加させることができるので、高調波磁束を操作することで、駆動方式の切替前後におけるモータ10の鉄損を対応させることができる。これにより、駆動方式の切替前後におけるモータ10の鉄損の急激な変化を吸収することができるので、切替時のトルクショックを低減することができる。
また、本実施形態において、制御ユニット40は、駆動方式の切替前後におけるモータ10の鉄損をそれぞれ推定する鉄損マップ44として有している。そして、駆動方式の切替前の鉄損と切替後の鉄損とを比較して、高調波磁束を増加させる。具体的には、駆動方式の切替前の鉄損が切替後の鉄損よりも小さい場合、切替後の鉄損と対応するまで高調波磁束を漸次増加させて、モータ10の鉄損が切替後の鉄損と対応したことを条件に高調波磁束の増加を終了させるとともに、駆動方式の切り替えを行う。一方、駆動方式の切替前の鉄損が切替後の鉄損よりも大きい場合、駆動方式を切り替えたこと条件に、電動機の鉄損が切替前の鉄損と対応するように高調波磁束を瞬間的に増加させ、その後に増加させた高調波磁束を漸次減少させる。かかる手法によれば、駆動方式の切替前後でモータ10の鉄損の変化率を所望の値に制御することで、トルクの変化率を抑えることができる。これにより、駆動方式の切替前後のトルクショックを低減することができる。
また、本実施形態によれば、高調波電圧指令生成部45は、d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vqの振幅を操作することにより、少なくとも1相についてPWM波電圧駆動を行っている場合に、PWM波電圧を生成するための電圧指令(d軸およびq軸電圧指令vd*,vq*)に高調波成分(d軸およびq軸高調波電圧指令Vdh,Vq)を重畳する(高調波磁束増加手段)。かかる構成によれば、電圧指令に高調波成分を重畳することにより、高調波磁束を増加させることができるので、高調波成分の重畳を通じて高調波磁束を操作することができる。これにより、トルクショックを低減することができるとともに、システム上の仕様を大きく変更することなく、高調波磁束の操作を行うことができる。
図3は、駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧へと切り替えた際に切替後の鉄損が増加するケースでのモータ10の相電流およびトルクの推移を示す説明図である。本実施形態の切替手法によれば、タイミングt1〜t2の期間において、切替前後でモータ10の鉄損が同じになるよう高調波電圧指令Vdh,Vqを重畳させる。そして、切り替えの前後で鉄損値が同じと判断できたら、駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動へ切り替える。これにより、駆動方式の切替前後のトルクショックを低減することができる。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態にかかる制御システムについて説明する。第2の実施形態にかかる制御システムが、第1の実施形態のそれと相違する点は、高調波磁束を増加させる方法である。第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下、相違点を中心に説明を行う。
図4は、本発明の第2の実施形態にかかる制御システムの全体構成を模式的に示す説明図である。本実施形態のモータ制御システムは、第1の実施形態に示す高調波電圧指令生成部45に代えて可変キャリア周波数生成部57を備えている。この可変キャリア周波数生成部57は、鉄損マップ44から出力される切替前後の鉄損値Wi,Wi_nに基づいて、PWM信号生成部47におけるPWMキャリアの周波数fcを制御する。キャリアの周波数fcを通常のPWM制御時の基準値よりも大きくした場合、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束が増加し、これにより、モータ10の鉄損を増加させることができる。
以下、矩形波電圧駆動およびPWM波電圧駆動の駆動方式の切り替えについて説明を行う。駆動方式の切り替えが判断された場合、制御ユニット40(本実施形態では、可変キャリア周波数生成部57)は、駆動方式の切り替えに応じて、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させる制御を行う。
図5は、駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動へと切り替える際の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、制御ユニット40(具体的には、トルク制御部41)がPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動への切り替えを判断することにより、制御ユニット40によって実行される。
まず、ステップ20(S20)において、制御ユニット40は、鉄損マップ44により、矩形波電圧駆動におけるモータ10の鉄損値を切替後の鉄損値Wi_nとして算出する。そして、ステップ21(S21)において、制御ユニット40は、鉄損マップ44により、PWM波電圧駆動におけるモータ10の鉄損値を切替前の鉄損値Wi_nとして算出する。
ステップ22(S22)において、可変キャリア周波数生成部57は、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも小さいか否かを判断する。ステップ22において肯定判定された場合、すなわち、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも小さい場合には、ステップ23(S23)に進む。一方、ステップ22において否定判定された場合、すなわち、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wi以上の場合には、後述するステップ28(S28)に進む。
ステップ23において、可変キャリア周波数生成部57は、PWM波電圧駆動時の基本周波数に所定値αを加算することにより、後述するステップ24(S24)において3相のうち任意の相をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替えた際に、その切替前後でモータ10の鉄損値が変化しないようなキャリア周波数fcを設定する。
そして、ステップ24において、トルク制御部41は、第1から第4の経路切替部51〜54を切り替えて、少なくとも1相(例えば、U相)をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替える。つぎに、ステップ25(S25)において、可変キャリア周波数生成部57は、パラメータαを所定のステップ値減少させることにより、キャリア周波数fcを更新する。
ステップ26において、可変キャリア周波数生成部57は、パラメータαがゼロに到達したか否かを判断する。このステップ26において肯定判定された場合、すなわち、パラメータαがゼロに到達した場合には、ステップ27(S27)に進む。一方、ステップ26において否定判定された場合、すなわち、パラメータαがゼロに到達していない場合には、ステップ25に戻る。
ステップ27において、トルク制御部41は、全ての相について矩形波電圧駆動に切り替えが行われたか否かを判断する。このステップ27において肯定判定された場合、すなわち、全ての相において矩形波電圧駆動に切り替えられた場合には、本処理を終了する。一方、ステップ27において否定判定された場合、すなわち、全ての相について矩形波電圧駆動に切り替えが行われていない場合には、ステップ23に戻り、矩形波電圧駆動のままの相のうちの一つの相を対象として駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替える。
これに対して、ステップ28において、可変キャリア周波数生成部57は、現在のキャリア周波数fcに所定のステップ値Δfを加算することにより、キャリア周波数を更新する。
ステップ29(S29)において、可変キャリア周波数生成部57は、モータ10の鉄損値が、後述するステップ30(S30)において3相のうち任意の相をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替えた場合のモータ10の鉄損値に到達したか否かを判断する。このステップ29において肯定判定された場合には、ステップ30に進み、ステップ29において否定判定された場合には、ステップ28に戻る。
ステップ30において、トルク制御部41は、第1から第4の経路切替部51〜54を切り替えて、3相のうち少なくとも1相(例えば、U相)をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替える。そして、ステップ31(S31)において、可変キャリア周波数生成部57は、キャリア周波数fcを初期値、すなわち、PWM波電圧駆動時の基本周波数に戻す。
ステップ32において、トルク制御部41は、全ての相について矩形波電圧駆動に切り替えが行われたか否かを判断する。このステップ32において肯定判定された場合、すなわち、全ての相において矩形波電圧駆動に切り替えられた場合には、本処理を終了する。一方、ステップ32において否定判定された場合、すなわち、全ての相について矩形波電圧駆動に切り替えが行われていない場合には、ステップ30において残りの相のうちの一つの相を対象として駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替えることを前提に、ステップ28の処理に戻る。
また、駆動方式を矩形波電圧駆動からPWM波電圧駆動へと切り替える場合には、上述したPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動への切り替えと同様の手順で行うことができる。具体的には、高調波電圧指令生成部45は、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも大きいか否かを判断し、この判断結果に応じて、可変キャリア周波数生成部57は、キャリア周波数fcを調整する。
このように本実施形態において、駆動方式の切り替えに応じて、主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させる。かかる構成によれば、高調波磁束の増加により、モータ10の鉄損を増加させることができるので、高調波磁束を操作することで、駆動方式の切替前後におけるモータ10の鉄損を対応させることができる。これにより、駆動方式の切替前後におけるモータ10の鉄損の急激な変化を吸収することができるので、切替時のトルクショックを低減することができる。
また、駆動方式の切替前の鉄損と切替後の鉄損とを比較して、高調波磁束を増加させる。これにより、駆動方式の切替前後でモータ10の鉄損の変化率を所望の値に制御することで、トルクの変化率を抑えることができる。これにより、駆動方式の切替前後のトルクショックを低減することができる。
また、本実施形態によれば、可変キャリア周波数生成部57は、少なくとも1相についてPWM波電圧駆動を行っている場合に、PWM波電圧を生成するためのPWMキャリア周波数fcを変化させる(高調波磁束増加手段)。かかる構成によれば、PWMキャリア周波数fcを変化させることにより、高調波磁束を増加させることができるので、PWMキャリア周波数fcの変化を通じて高調波磁束を操作することができる。また、PWMキャリア周波数fcを変化させることにより、変化させることができる高調波の周波数帯を広くとることができる。そのため、鉄損がキャリア周波数域の高調波磁束で大きく変化するようなモータに適用すれば、鉄損可変レンジを広くでき、トルクショックを低減しやすくなる。また、システム上の仕様を大きく変更することなく、高調波磁束の操作を行うことができる。
図6は、駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧へと切り替えた際に切替後の鉄損が減少するケースでのモータ10の各相の電圧指令およびトルクの推移を示す説明図である。同図に示すように、駆動方式の切り替えを相毎に行い、少なくとも1相をPWM波電圧駆動を行っていれば、鉄損の制御は可能である。キャリア周波数fcを可変して切替前後で鉄損が変化しないようにすることで、トルクの変化率が大きくならないよう抑制される。なお、同図に示すように、最終的に3相すべて矩形波駆動に切り替える際、ある1相をPWM波電圧駆動に切り替え、キャリア周波数fcを増加させておいてもよい。これにより、有効印加電圧の減少と鉄損の増加とより、トルクが急激に上がってしまうといった事態の発生を抑制することができる。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態にかかる制御システムについて説明する。第3の実施形態にかかる制御システムが、第1の実施形態のそれと相違する点は、高調波磁束を増加させる方法である。第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下、相違点を中心に説明を行う。
図7は、本発明の第3の実施形態にかかる制御システムの全体構成を模式的に示す説明図である。本実施形態のモータ制御システムは、第1の実施形態に示す高調波電圧指令生成部45に代えて可変キャリア周波数生成部59を備えている。この可変キャリア周波数生成部59は、鉄損マップ44から出力される切替前後の鉄損値Wi,Wi_nに基づいて、DC/DCコンバータ31のスイッチング動作を規定するキャリアの周波数(キャリア周波数)fdcを制御することができる。DC/DCコンバータ31のキャリア周波数fdcを通常のPWM制御時の基準値よりも小さくした場合、インバータ20に出力される直流電圧に変動成分が重畳される。これにより、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束が増加し、モータ10の鉄損を増加させることができる。
なお、本実施形態の手法では、3相の駆動方式を一括して切り替えることができるため、第1の実施形態に示す電圧指令演算部49および第2の経路切替部52は省略されている。
以下、矩形波電圧駆動およびPWM波電圧駆動の駆動方式の切り替えについて説明を行う。駆動方式の切り替えが判断された場合、制御ユニット40(本実施形態では、可変キャリア周波数生成部59)は、駆動方式の切り替えに応じて、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させる制御を行う。
図8は、駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動へと切り替える際の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、制御ユニット40(具体的には、トルク制御部41)がPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動への切り替えを判断することにより、制御ユニット40によって実行される。
まず、ステップ40(S40)において、制御ユニット40は、鉄損マップ44により、矩形波電圧駆動におけるモータ10の鉄損値を切替後の鉄損値Wi_nとして算出する。そして、ステップ41(S41)において、制御ユニット40は、鉄損マップ44により、PWM波電圧駆動におけるモータ10の鉄損値を切替前の鉄損値Wi_nとして算出する。
ステップ42(S42)において、可変キャリア周波数生成部59は、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも小さいか否かを判断する。ステップ42において肯定判定された場合、すなわち、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも小さい場合には、ステップ43(S43)に進む。一方、ステップ42において否定判定された場合、すなわち、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wi以上の場合には、後述するステップ47(S47)に進む。
ステップ43において、可変キャリア周波数生成部59は、DC/DCコンバータ31のキャリアの基本周波数から所定値βを減算することにより、3相の駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替えた際に、その切替前後でモータ10の鉄損値が変化しないように、キャリア周波数fdcを設定する。また、ステップ44において、トルク制御部41は、各経路切替部51,53,54を切り替えて、3相の駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替える。そして、ステップ45(S45)において、可変キャリア周波数生成部59は、パラメータβを所定のステップ値減少させることにより、キャリア周波数fcを更新する。
ステップ46において、可変キャリア周波数生成部59は、パラメータβがゼロに到達したか否かを判断する。このステップ46において肯定判定された場合、すなわち、パラメータβがゼロに到達した場合には、本処理を終了する。一方、ステップ46において否定判定された場合、すなわち、パラメータβがゼロに到達していない場合には、ステップ45に戻る。
これに対して、ステップ47において、可変キャリア周波数生成部59は、現在のキャリア周波数fdcから所定のステップ値Δfを減算することにより、キャリア周波数fdcを更新する。
ステップ48(S48)において、可変キャリア周波数生成部59は、モータ10の鉄損値が、モータ10の鉄損が切替後の鉄損値Wi_nに到達したか否かを判断する。このステップ48において肯定判定された場合には、ステップ49に進み、ステップ48において否定判定された場合には、ステップ47に戻る。
ステップ49において、可変キャリア周波数生成部59は、キャリア周波数を初期値、すなわち、DC/DCコンバータ31のキャリアの基本周波数に戻す。そして、ステップ50において、トルク制御部41は、各経路切替部51,53,54を切り替えて、3相の駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替える。
また、駆動方式を矩形波電圧駆動からPWM波電圧駆動へと切り替える場合には、上述したPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動への切り替えと同様の手順で行うことができる。具体的には、高調波電圧指令生成部45は、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも大きいか否かを判断し、この判断結果に応じて、可変キャリア周波数生成部59は、DC/DCコンバータ31のキャリア周波数fdcを調整する。
このように本実施形態において、駆動方式の切り替えに応じて、主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させる。かかる構成によれば、高調波磁束の増加により、モータ10の鉄損を増加させることができるので、高調波磁束を操作することで、駆動方式の切替前後におけるモータ10の鉄損を対応させることができる。これにより、駆動方式の切替前後におけるモータ10の鉄損の急激な変化を吸収することができるので、切替時のトルクショックを低減することができる。
また、駆動方式の切替前の鉄損と切替後の鉄損とを比較して、高調波磁束を増加させる。これにより、駆動方式の切替前後でモータ10の鉄損の変化率を所望の値に制御することで、トルクの変化率を抑えることができる。これにより、駆動方式の切替前後のトルクショックを低減することができる。
また、本実施形態において、可変キャリア周波数生成部57は、電源30からの直流電圧を変圧してインバータ20に出力するDC/DCコンバータ31を用いてインバータ20に出力する直流電圧に変動成分(リプル)を重畳する。具体的には、可変キャリア周波数生成部57は、DC/DCコンバータ31のスイッチング周波数、すなわち、キャリア周波数fdcを低下させる。かかる構成によれば、DC/DCコンバータ31のキャリア周波数fdcを変化させることにより、インバータ20に出力する直流電圧に変動成分を重畳することができる。この変動成分の重畳により高調波磁束を増加させることができるので、キャリア周波数fdcの変化を通じて高調波磁束を操作することができる。
また、全ての相が矩形波電圧駆動の状態でも鉄損の制御が可能であるため、インバータ20の駆動方式によらず鉄損を操作することができる。これにより、トルクショックを低減する効果を得やすい構成となる。また、モータ10にハードウエアを付け加える必要がなく、安価に構成することができるので、モータの種類に制約がないため汎用性が高いシステムを提供することができる。
図9は、駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧へと切り替えた際に切替後の鉄損が減少するケースでのインバータ20への入力電圧、モータ10の相電流およびトルクの推移を示す説明図である。同図に示すように、切替前に、切替前後で鉄損値が変化しないようにインバータ20への入力電圧に変動成分(リプル)を発生させることで鉄損を増加させることができる。これにより、トルクの変化率を抑えることができ、駆動方式の切替前後のトルクショックを低減することができる。
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態にかかる制御システムについて説明する。第4の実施形態にかかる制御システムが、第1の実施形態のそれと相違する点は、高調波磁束を増加させる方法である。第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することとし、以下、相違点を中心に説明を行う。
図10は、本発明の第4の実施形態にかかる制御システムの全体構成を模式的に示す説明図である。本実施形態のモータ制御システムは、第1の実施形態に示す高調波電圧指令生成部45に代えて電圧指令生成部61を備えている。図11に示すように、本実施形態にかかるモータ10は、断面がリング状のステータ11と、このステータ11の内周側にエアギャップを介して配置され、シャフト12に連結されたロータ13とを備えている。ロータ13には、永久磁石14が所定の角度ピッチで埋め込まれている。また、ステータ11の各ステータティース11aには、ステータ巻線15が各々巻回されているとともに、高調波磁束用巻線16が各々巻回されている。上述した電圧指令生成部61は、電圧指令Vhを高調波磁束用巻線16の電源62に対して出力することにより、所定の電圧を各高調波磁束用巻線16に印加する。この高調波磁束用巻線16が通電されることにより、高調波磁束用巻線16が高調波起磁力源となり、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させることができる。
なお、本実施形態の手法では、3相の駆動方式を一括して切り替えることができるため、第1の実施形態に示す電圧指令演算部49および第2の経路切替部52は省略されている。
以下、矩形波電圧駆動およびPWM波電圧駆動の駆動方式の切り替えについて説明を行う。駆動方式の切り替えが判断された場合、制御ユニット40(本実施形態では、電圧指令生成部61)は、駆動方式の切り替えに応じて、モータ10の主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させる制御を行う。
図12は、駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動へと切り替える際の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、制御ユニット40(具体的には、トルク制御部41)がPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動への切り替えを判断することにより、制御ユニット40によって実行される。
まず、ステップ60(S60)において、制御ユニット40は、鉄損マップ44により、矩形波電圧駆動におけるモータ10の鉄損値を切替後の鉄損値Wi_nとして算出する。そして、ステップ61(S61)において、制御ユニット40は、鉄損マップ44により、PWM波電圧駆動におけるモータ10の鉄損値を切替前の鉄損値Wi_nとして算出する。
ステップ62(S62)において、電圧指令生成部61は、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも小さいか否かを判断する。ステップ62において肯定判定された場合、すなわち、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも小さい場合には、ステップ63(S63)に進む。一方、ステップ62において否定判定された場合、すなわち、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wi以上の場合には、後述するステップ67(S67)に進む。
ステップ63において、電圧指令生成部61は、3相の駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替えた際に、その前後でモータ10の鉄損値が変化しないような電圧指令Vhを設定する。また、ステップ64において、トルク制御部41は、各経路切替部51,53,54を切り替えて、3相の駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替える。つぎに、ステップ65(S65)において、電圧指令生成部61は、現在の電圧指令Vhから所定のステップ値を減少させることにより、高調波磁束用巻線16から発生する高調波磁束の振幅が現在値よりも小さくなるように電圧指令Vhを更新する。
ステップ66(S66)において、電圧指令生成部61は、高調波磁束用巻線16から発生する高調波磁束の振幅がゼロに到達したか否かを判断する。ステップ66において肯定判定された場合、すなわち、高調波磁束の振幅がゼロに到達した場合には、本処理を終了する。一方、ステップ66において否定判定された場合、すなわち、高調波磁束の振幅がゼロに到達していない場合には、ステップ65に戻る。
これに対して、ステップ67において、電圧指令生成部61は、現在の電圧指令Vhに所定のステップ値を加算することにより、高調波磁束用巻線16から発生する高調波磁束の振幅が現在値よりも増加するように電圧指令Vhを設定する。
ステップ68(S68)において、電圧指令生成部61は、モータ10の鉄損値が、切替後の鉄損値Wi_nに到達したか否かを判断する。このステップ68において肯定判定された場合には、ステップ69に進み、ステップ68において否定判定された場合には、ステップ67に戻る。
ステップ69において、トルク制御部41は、各経路切替部51,53,54を切り替えて、3相の駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動に切り替える。そして、ステップ70において、電圧指令生成部61は、高調波磁束の振幅がゼロとなるように電圧指令Vhを設定する。
また、駆動方式を矩形波電圧駆動からPWM波電圧駆動へと切り替える場合には、上述したPWM波電圧駆動から矩形波電圧駆動への切り替えと同様の手順で行うことができる。具体的には、高調波電圧指令生成部45は、切替後の鉄損値Wi_nが切替前の鉄損値Wiよりも大きいか否かを判断し、この判断結果に応じて、電圧指令生成部61は電圧指令Vhを調整する。
駆動方式の切り替えに応じて、主磁気回路を流れる磁束において高調波磁束を増加させる。かかる構成によれば、高調波磁束の増加により、モータ10の鉄損を増加させることができるので、高調波磁束を操作することで、駆動方式の切替前後におけるモータ10の鉄損を対応させることができる。これにより、駆動方式の切替前後におけるモータ10の鉄損の急激な変化を吸収することができるので、切替時のトルクショックを低減することができる。
また、駆動方式の切替前の鉄損と切替後の鉄損とを比較して、高調波磁束を増加させる。これにより、駆動方式の切替前後でモータ10の鉄損の変化率を所望の値に制御することで、トルクの変化率を抑えることができる。これにより、駆動方式の切替前後のトルクショックを低減することができる。
また、本実施形態において、電圧指令生成部61は、高調波磁束用巻線16への通電を制御する(高調波磁束増加手段)。かかる構成によれば、高調波磁束用巻線16への通電を変化させることにより、高調波磁束を増加させることができるので、高調波磁束用巻線16への通電を通じて高調波磁束を操作することができる。また、かかる構成によれば、モータ制御用インバータ20とは別回路で高調波磁束を生成することができる。これにより、例えば、直流電圧やインバータ出力電圧に脈動が発生することなく、高調波磁束を生成することができる。そのため、制御系に与える影響が少ない構成で、トルクショックの低減を図ることができる。
図13は、駆動方式をPWM波電圧駆動から矩形波電圧へと切り替えた際に切替後の鉄損が減少するケースでのモータ10の相電流およびトルクの推移を示す説明図である。同図に示すように、切替前後で鉄損値が変化しないように高調波磁束を重畳させることで鉄損を増加させている。これにより、トルクの変化率を抑えることができ、駆動方式の切替前後のトルクショックを低減することができる。