JP2010225293A - 機能性素子及び表示装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】工程数を増加させることなく、信頼性の向上が可能な機能性素子を提供する。
【解決手段】無機物で形成された基板上に、下地有機膜、下部電極、機能性薄膜及び上部電極が上記基板側からこの順に積層された機能性素子であって、上記下部電極は、断面視したときに、上記基板側に向かって幅がより広くなるテーパ形状を有し、上記下部電極の材料は、球状の結晶粒で構成された多結晶インジウム錫酸化物であり、上記機能性薄膜は、上記下部電極の端部を直接覆う機能性素子である。
【選択図】図9

Description

本発明は、機能性素子及び表示装置に関する。より詳しくは、有機エレクトロルミネッセンス(以下「有機EL」ともいう。)表示装置に使用される有機EL素子に好適な機能性素子と、有機EL表示装置に好適な表示装置に関するものである。
近年、電子部材の薄層軽量化やフレキシブル化を目的として、機能性薄膜を備える機能性素子の開発が盛んに行われている。機能性素子の中でも、有機EL素子は、薄型化が可能な有機EL表示装置への需要の高まりを受けて、積極的に研究されている。
有機EL素子は、陽極と陰極との間に発光層が挟持された構造を有しており、発光層に電流を流すことにより、発光を呈する。このように、発光層は機能性薄膜としての機能を有する。また、有機EL素子の性能向上を目的として、発光層以外の機能性薄膜(電子注入層等)が、陽極と陰極との間に更に挿入されることもある。
有機EL素子に使用される機能性薄膜である有機層は、膜厚が非常に薄いことから、有機層が形成される領域の表面状態(表面凹凸)の影響を受け易い。したがって、基板上に配置された電極(陽極又は陰極。以下、下部電極とも言う。)を覆うように有機層を形成すると、基板と下部電極との段差により、下部電極の端部周辺は有機層に被覆されにくいという傾向がある。これにより、下部電極の端部周辺では、下部電極が有機層によって覆われていない領域が発生したり、有機層の膜厚が薄くなるといった、有機層の被覆不良が発生するという課題があった。下部電極が有機層によって覆われていない領域が発生すると、陽極と陰極とが短絡し、発光層に必要な電流が流れなくなるため、設定された発光輝度を得ることができなくなる。また、有機層の膜厚が薄くなると、リーク電流の増加や、有機層の破壊が懸念される。
下部電極の端部周辺における有機層の被覆不良の発生を抑制する方法としては、下部電極の端部周辺を覆う部材であるエッジカバーを利用する方法が知られている。
また、特許文献1には、柱状晶の結晶粒がランダム配向した構造を有する多結晶インジウムスズ酸化物(ITO)膜を液晶表示装置の透明導電膜として使用することで、透明導電膜の段差を他の膜が乗り越える場合に、上層膜の良好な付周りを確保する技術が開示されている。特許文献1においては、透明導電膜の端部は、テーパ形状に加工されている。
特開平8−194230号公報
図23は、エッジカバーを備えた有機EL素子の断面模式図である。図23に示すように、基板101上に、下部電極102、有機層103及び上部電極104が形成され、下部電極102の端部は、エッジカバー105で覆われている。すなわち、有機EL層103が下部電極102の端部を覆う必要が無い。これにより、下部電極102の端部周辺で有機層103の被覆不良が発生することを防止することができる。しかしながら、この方法では、エッジカバー105を形成する工程が追加で必要となるため、コストの増加、スループットの低下、歩留りの低下の要因となるという点で改善の余地があった。
また、エッジカバーを用いずに基板と下部電極との段差を低減する方法として、特許文献1で開示されている方法と同様に、下部電極をテーパ形状に加工する方法が検討されている。この方法によれば、下部電極の端部が切り立った形状の場合と比較して、基板と下部電極との段差を低減することができ、下部電極の端部周辺における機能性薄膜の被覆不良の発生を抑制することができる。図24は、テーパ形状を有する下部電極を備えた有機EL素子の断面模式図である。図24に示すように、基板101上に、下部電極202、有機層103及び上部電極104が形成され、下部電極202は、テーパ形状を有する。しかしながら、下部電極をテーパ形状にするのみでは、下部電極の端部周辺における有機層の被覆不良の発生を充分に抑制することはできず、有機EL素子の信頼性が低下するという点で改善の余地があった。
なお、以上述べてきた課題は、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)が設けられた基板上に有機EL素子を形成した場合であっても同様に発生する。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、工程数を増加させることなく、信頼性の向上が可能な機能性素子を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、工程数を増加させることなく、信頼性の向上が可能な機能性素子について種々検討したところ、下部電極(機能性薄膜に覆われる電極)の材料に着目した。
ボトムエミッション型有機ELディスプレイ用の有機EL素子の場合、下部電極に用いられる材料としては、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)等が知られている。この中でも、ITOは、電気的な抵抗値が低いため、下部電極の材料として最も一般的に使用されている。
本発明者らの検討の結果、下部電極の材料としてITOを使用した場合、IZOを使用した場合と比較して、下部電極の端部周辺における有機層の被覆不良が発生し易い傾向があることが判明した。図25は、テーパ形状を有する下部電極の断面模式図である。図25に示すように、下部電極202を構成する結晶粒(グレイン)202aの形状が柱状の場合、下部電極2のG部、H部で特に有機層の被覆不良が発生し易かった。
一般的に、下部電極をパターン形成する工程では、下部電極は、下部電極を構成する結晶粒の形状に沿ってエッチングされやすい。したがって、下部電極が柱状グレインで構成されている場合、下部電極をテーパ形状に加工すると、下部電極の側面の表面凹凸が大きくなり、また、下部電極の端部の角度が急峻になる。図26は、柱状グレインで構成された下部電極の断面を示す図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はSEM写真である。下部電極上に配置される有機層は膜厚が薄いため、このような下部電極の表面状態の影響を受けて、有機層の被覆不良が発生すると考えられる。
IZOは結晶構造がアモルファスであるため、下部電極の材料としてIZOを用いた場合には、下部電極をテーパ形状に加工したとしても、下部電極の端部の角度が緩やかな、なめらかな形状を得ることができる。これに対し、ITOは、通常、複数の結晶粒で構成された多結晶構造を有している。したがって、下部電極の材料としてITOを用いた場合には、下部電極をテーパ形状に加工すると、下部電極の端部の角度が急峻となりやすい。これにより、下部電極の端部周辺で有機層の被覆不良が発生すると考えられる。
そして、本発明者らが更なる検討を行った結果、ITOを用いて下部電極を形成する場合、ITOの結晶構造は成膜条件によって変化し、特に、下部電極が形成される領域に配置された層の表面状態の影響を受けることが判明した。具体的には、表面構造が規則的なガラス等の無機物で形成された基板の表面に下部電極を形成する場合、ITOを構成する結晶粒が規則的に成長し、柱状の結晶粒が得られ、他方、不規則な表面構造を有する下地有機膜の表面上に下部電極を形成すると、ITOを構成する結晶粒が不規則に成長し、球状の結晶粒が得られることを見出した。図27は、球状グレインで構成された下部電極の断面を示す図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はSEM写真である。図27に示すように、下部電極が球状グレインで構成された場合には、柱状グレインで構成された場合と比較して、下部電極の端部の角度が大きくなる。これにより、下部電極の材料としてITOを使用し、下部電極の端部をテーパ形状に加工した場合であっても、下部電極の端部の形状をなめらかにすることができ、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、無機物で形成された基板上に、下地有機膜、下部電極、機能性薄膜及び上部電極が上記基板側からこの順に積層された機能性素子であって、上記下部電極は、断面視したときに、上記基板側に向かって幅がより広くなるテーパ形状を有し、上記下部電極の材料は、球状の結晶粒で構成された多結晶インジウム錫酸化物であり、上記機能性薄膜は、上記下部電極の端部を直接覆う機能性素子である。
なお、本発明の機能性素子は、機能性薄膜と下部電極の端部とが接していることから、下部電極の端部を覆うための部材、いわゆるエッジカバーは設けられない。
本発明の機能性素子の構成としては、このような構成要素を必須として形成されるものである限り、その他の構成要素により特に限定されるものではない。
本発明の機能性素子における好ましい形態について以下に詳しく説明する。
多結晶ITOを構成する結晶粒は、全てが球状であることが好ましいが、本発明の効果を充分に発揮するという観点からは、多結晶ITOを構成する結晶粒の90%以上が球状であればよい。多結晶ITOを構成する結晶粒の90%以上が球状であれば、例えば、本発明の機能性素子を有機EL素子に適用し、有機EL表示装置を作製した場合であっても、下部電極の端部に起因するパネル欠陥の割合を実用上問題がない水準にすることができる。
上記下地有機膜の材料としては、不規則に配向した表面構造を得ることができる材料であればよく、特に限定されない。このような要件を満たし、かつ、入手が容易である材料としては、樹脂が挙げられる。すなわち、上記下地有機膜の材料は、樹脂であることが好ましい。
下部電極をテーパ形状に加工する工程では、一般的に、フォト工程が使用される。したがって、下地有機膜の材料は、フォト工程で使用される薬品や、熱処理に対する耐性を有することが好ましい。また、その他の好ましい特性として、基板との密着性が高いこと、吸湿性が低いことも挙げられる。このような要求を満たす材料としては、樹脂の中でも、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びノボラック樹脂が挙げられる。すなわち、上記樹脂は、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びノボラック樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの樹脂であることが好ましい。なお、下地有機膜の材料として、ここで挙げた樹脂を複数使用してもよい。すなわち、下地有機膜の材料は、共重合体であってもよい。
テーパ形状を有する下部電極と基板との段差は、下部電極の材料を構成する結晶粒の大きさの影響を受けやすい。したがって、上記球状の結晶粒の平均径は、上記機能性薄膜の平均膜厚以下であることが好ましい。これにより、下部電極と基板との段差を効果的に低減することができる。
上記球状の結晶粒は、完全な球であることが好ましいが、楕円体のように、多少完全な球から変形した形状であってもよい。この場合、本発明の効果を充分に確保するという観点からは、図28(a)に示すように、上記球状の結晶粒は、長径(長軸の長さ)をa、短径(短軸の長さ)をbとしたとき、(a−b)/a≦0.25の関係(以下、第一関係とも言う。)を満たしていればよい。また、同様の観点から、図28(a)及び(b)に示すように、上記球状の結晶粒は、長径をa、最大曲率半径をa、短径をb1、最小曲率半径をbとしたとき、a≦aの関係(以下、第二関係とも言う。)と、b≧b/8の関係(以下、第三関係とも言う。)とを満たしていればよい。更に、本発明の効果を効率よく発揮するという観点から、上記球状の結晶粒は、第一〜第三関係を全て満たす形状であることが好ましい。
上記下部電極の表面粗さのRmaxは、上記機能性薄膜の平均膜厚の15%以下であることが好ましい。これにより、下部電極の端部を覆う機能性薄膜の被覆不良の発生をより抑制することができる。
上記機能性素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることが好ましい。これにより、信頼性の高い有機EL素子を実現することができる。この場合、機能性薄膜は、有機EL素子の有機層として機能する。有機層の例としては、発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等が挙げられる。
本発明はまた、本発明の機能性素子を備える表示装置でもある。上述したように、本発明の機能素子は、機能性薄膜の被覆不良の発生が抑制されることで、高い信頼性を獲得している。したがって、この機能素子を表示装置に適用することで、パネル欠陥の少ない表示装置を実現することができる。
本発明の機能素子によれば、工程数を増加させることなく、信頼性の向上が可能な機能性素子を提供することができる。
実施形態1の有機EL素子を示す斜視模式図である。 図1中のA1−A2線に沿った断面模式図である。 高分子型有機EL素子の構造例を示す断面模式図である。 低分子型有機EL素子の構造例を示す断面模式図である。 実施形態2の有機EL表示装置の一つの画素を示す模式図である。 実施形態2の有機EL表示装置の画素構成を示す模式図である。 図5中のB1−B2線に沿った断面模式図であり、実施形態2の有機EL表示装置がアクティブマトリックス駆動方式で構成される場合を示す。 図5中のB1−B2線に沿った断面模式図であり、実施形態2の有機EL表示装置がパッシブマトリックス駆動方式で構成される場合を示す。 実施形態1の有機EL素子の封止構造を示す断面模式図である。 マスク蒸着法の概念を示す模式図である。 実施形態1の有機EL素子の駆動回路図である。 実施形態2の有機EL表示装置の駆動回路を示す模式図である。 実施形態2の有機EL表示装置の絵素部を示す平面模式図である。 図13中のC1−C2線に沿った断面模式図である。 図13中のD1−D2線に沿った断面模式図である。 下部電極の端部周辺を示す断面模式図である。 (a)〜(d)は、実施例1の有機EL表示装置が備えるTFT基板の製造工程を示す模式図である。 (e)〜(g)は、実施例1の有機EL表示装置が備えるTFT基板の製造工程を示す模式図である。 (h)〜(j)は、実施例1の有機EL表示装置が備える有機EL素子の製造工程を示す模式図である。 (k)は、実施例1の有機EL表示装置を示す断面模式図である。 実施例2の有機EL表示装置を示す平面模式図である。 実施例2の有機EL表示装置を示す断面模式図である。 エッジカバーを備えた有機EL素子の断面模式図である。 テーパ形状を有する下部電極を備えた有機EL素子の断面模式図である。 テーパ形状を有する下部電極の断面模式図である。 柱状グレインで構成された下部電極の断面を示す図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はSEM写真である。 球状グレインで構成された下部電極の断面を示す図であり、(a)は断面模式図であり、(b)はSEM写真である。 (a)及び(b)は、下部電極の材料を構成する結晶粒の好ましい形状を示す模式図である。
本明細書において、下部電極とは、機能性薄膜を挟持する電極対の内、機能性薄膜の基板側に配置された電極を言う。また、上部電極とは、機能性薄膜を挟持する電極対の内、機能性薄膜の基板とは逆側に配置された電極を言う。
多結晶ITOに含まれる球状の結晶粒の割合は、下部電極の断面のSEMで観察することにより、確認することができる。具体的には、本発明の機能性素子を含むパネルを直線上に割り、露出した下部電極の断面をSEMで観察し、下部電極が形成された基板の平面方向にそって直線状に0.5μmの長さの領域に含まれる結晶粒の形状を調べる。この方法で下部電極の断面の任意の5点を観察した結果から、多結晶ITOに含まれる球状の結晶粒の割合を判断する。
球状の結晶粒の平均径は、下部電極の断面の任意の5点をSEMで観察し、得られた結晶粒の大きさ(グレインサイズ)の平均値をとることで、確認することができる。グレインサイズの測定は、SEM観察を行った点毎に、下部電極が形成された基板の平面方向にそって直線状に0.5μmの長さの領域に含まれる結晶粒を一つずつ測定し、その平均値をとることにより、行うことができる。なお、結晶粒が長軸と短軸とを有する場合は、長軸の長さと短軸の長さとの平均値をグレインサイズとする。
機能性薄膜の平均膜厚は、機能性薄膜の断面の任意の5点をSEMで観察し、得られた膜厚の平均値をとることで、確認することができる。
maxとは、JIS B 0601−1982の規格で定められた最大断面高さを言う。Rmaxは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)法によって測定することができる。本発明の効果を確実に確保するという観点からは、2μm/点の条件で、機能性薄膜側の下部電極の表面を5点測定し、その5点全てが機能性薄膜の平均膜厚の15%以下であることが好ましい。
以下に実施形態を掲げ、本発明を図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、以下の説明において、同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記している。
(実施形態1)
まず、本発明の機能性素子を有機EL素子に適用した実施形態1について説明する。図1は、実施形態1の有機EL素子を示す斜視模式図である。図1に示すように、本実施形態の有機EL素子の基本構造は、基板1上に、下部電極2を形成し、その上に有機層3を形成し、その上に上部電極4を形成している。電源を用いて下部電極2と上部電極4の間に電流を流すことにより、有機層3が発光する。また、下部電極2及び上部電極4の少なくとも一方を透光性の電極(透明電極)とし、有機層3からの発光を基板1の上側又は下側に取り出す。有機層3からの発光を基板1の下側(有機層3の下部電極2側)に取り出す方式をボトムエミッション、他方、有機層3からの発光を基板1の上側(有機層3の上部電極4側)電極4側の有機EL素子形成面側に取り出すことをトップエミッションという。
有機EL素子は、例えば、下部電極2を陽極として、下部電極2から有機層3にプラス電荷(以下、正孔とも言う。)を流し、上部電極4を陰極として、上部電極4から有機層3にマイナス電荷(以下、電子とも言う。)を流す場合、有機層3でこれらの正孔と電子が結合し、発生したエネルギーにより有機層3の分子が励起され、励起された分子が元の安定な状態に戻るときにエネルギーを光として放出することで、発光する。
図2は図1中のA1−A2線に沿った断面模式図である。有機EL素子は、下部電極2と上部電極4とに挟まれた部分の有機層3が発光する。有機EL素子の性能を向上させるため、有機層3は、少なくとも発光層を含む2層以上の多層構造であることが好ましい。
有機EL素子は、有機層3中の発光層に用いられる有機材料の分子量により、高分子型と低分子型に分けられる。一般的に、発光層3の有機材料が分子量1万以上の有機EL素子は高分子型、発光層の有機材料が分子量1万未満の有機EL素子は低分子型と呼ばれる。以下、多層構造で形成された有機層3の例として、高分子型有機EL素子の場合と、低分子型有機EL素子の場合とについて説明する。
図3は、高分子型有機EL素子の構造例を示す断面模式図である。高分子型有機EL素子は、性能改善のため、有機層3が、有機層3a、3bの2層で構成されている。下部電極2を陽極、上部電極4を陰極とした場合、有機層3bは発光層であり、有機層3aは、発光層への正孔輸送効率を改善する機能を有する正孔輸送層である。これにより、有機EL素子の発光輝度、発光効率、素子寿命が向上する。
図4は、低分子型有機EL素子の構造例を示す断面模式図である。低分子型有機EL素子は、性能改善のため、有機層3が、有機層3a、3b、3c、3d、3eの5層で構成されている。下部電極2を陽極、上部電極4を陰極とした場合、有機層3cは正孔注入層であり、有機層3aは正孔輸送層であり、有機層3bは発光層であり、有機層3dは電子輸送層であり、有機層3eは電子注入層である。電子注入層は陰極と機能を兼ねている場合もある。正孔輸送層は、正孔を効率よく発光層へ輸送する機能を有する。電子輸送層は、電子を効率よく発光層へ輸送する機能を有する。正孔注入層は、陽極から正孔輸送層へ効率よく正孔注入する機能を有する。電子注入層は、陰極から電子輸送層へ効率よく電子を注入する機能を有する。発光層は、正孔と電子の結合エネルギーにより、所定の色や輝度で発光する機能を有する。
(実施形態2)
次に、実施形態2として、実施形態1の有機EL素子を用いた有機EL表示装置の概要を説明する。図5は、実施形態2の有機EL表示装置の一つの画素を示す模式図である。図5に示すように、本実施形態の有機EL表示装置においては、赤色(Red:以下、Rと記載)の絵素5Rと、緑色(Green:以下、Gと記載)の絵素5Gと、青色(Blue:以下、Bと記載)の絵素5Bとを一組として一つの画素5が構成される。以後、画素5を画素単位という。したがって、本実施形態の有機EL表示装置に使用される有機EL素子は、絵素5R、5G、5B毎に発光層の材料を変えて形成される。すなわち、一つの画素5には3つの有機EL素子が配置される。発光層以外の有機層については、色毎に個別に形成しても良いし、共通化して全面的に形成してもよい。
図6は、実施形態2の有機EL表示装置の画素構成を示す模式図である。図6は、模式的に3×3画素単位の例を示した。図6に示すように、基板1上に、X方向及びY方向のそれぞれに3つの画素単位がマトリクス状に並んでいる。なお、フルハイビジョンの液晶パネルであれば、X方向に1920個、Y方向に1080個の画素単位が並んでいる。このような画素単位の並べ方は、並置方式と呼ばれる。他にもデルタ配列方式を始めとする多くの方式があるが、ここでは説明を省略する。なお、本実施形態の有機EL素子は、並置方式以外の方式を採用した表示装置にも適用可能である。
図7は、図5中のB1−B2線に沿った断面模式図であり、実施形態2の有機EL表示装置がアクティブマトリックス駆動方式で構成される場合を示す。アクティブマトリクス駆動では、薄膜トランジスタ6(Thin Film Transistor:以下TFTと記載)がパネル駆動に使用される。基板1上には、TFT6の他、駆動回路用パターン、走査線、データ線、電源線等が形成されている。下部電極2と基板1との間には、樹脂材料で形成された平坦化絶縁膜7が配置される。平坦化絶縁膜7は、下部電極2側に、不規則に配向した表面構造を有する。また、平坦化絶縁膜7はスルーホール8を有しており、スルーホール8を介して駆動回路と下部電極2とが接続される。下部電極2は、各画素5中の絵素5R、5G、5B毎にパターン形成されている。また、有機層3は、絵素5R、5G、5B毎に発光層材料を変えて形成されている。以後、絵素5Rに形成される有機層3を有機層3R、絵素5Gに形成される有機層3を有機層3G、絵素5Bに形成される有機層3を有機層3Bと表記する。下部電極4は、本実施形態の有機EL表示装置の表示領域全面を含んで形成されている。有機EL表示装置の駆動回路により、所定のタイミングで電流値が各下部電極2に与えられ、各下部電極2を通じて電荷が有機層3R、3G、3Bに流される。このようにして、下部電極2と上部電極4とに挟まれた部分の有機層3R、3G、3Bが発光する。絵素5R、5G、5Bには、それぞれの色に合わせて予め設定された信号データによって、最適な電流が流れる。
図8は、図5中のB1−B2線に沿った断面模式図であり、実施形態2の有機EL表示装置がパッシブマトリックス駆動方式で構成される場合を示す。図8に示すように、パッシブマトリックス駆動方式で構成される有機EL表示装置は、図7に示したアクティブマトリックス駆動方式で構成される有機EL表示装置からTFT6を除いた構成である。下部電極2は、図6のY方向に沿ってストライプ状に形成される。上部電極4は、図6のX方向に沿って、下部電極2と直交するようにストライプ状に形成される。絵素5R、5G、5Bは、下部電極2と上部電極4との交点に形成される。パッシブマトリックス駆動方式の場合も、アクティブマトリックス駆動方式の場合と同様に、有機EL表示装置の駆動回路により、所定のタイミングで電流値が各下部電極2に与えられ、各下部電極2を通じて電荷が有機層3R、3G、3Bに流される。このようにして、下部電極2と上部電極4とに挟まれた部分の有機層3R、3G、3Bが発光する。
以下、実施形態1の有機EL素子の材料について説明する。
基板1は、有機EL素子の機械的耐久性を担保する機能、及び、有機層3に外部から水分や酸素が進入することを抑制する機能を有する必要がある。基板1の材料としては、絶縁性を有する無機物であるガラスや石英等を使用することができる。なお、本実施形態の有機EL素子がボトムエミッション方式である場合は、基板1の材料として、ガラス等の光透過率の高い無機材料を使用することが好ましい。
陽極は、有機層3にホール(正孔)を注入する機能を有する。陽極の材料としては、例えば、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、金(Au)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、イットリウム(Y)、ナトリウム(Na)、ルテニウム(Ru)、マンガン(Mn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、イッテルビウム(Yb)、フッ化リチウム(LiF)等の金属材料、マグネシウム(Mg)/銅(Cu)、マグネシウム(Mg)/銀(Ag)、ナトリウム(Na)/カリウム(K)、アスタチン(At)/酸化アスタチン(AtO2)、リチウム(Li)/アルミニウム(Al)、リチウム(Li)/カルシウム(Ca)/アルミニウム(Al)、又はフッ化リチウム(LiF)/カルシウム(Ca)/アルミニウム(Al)等の合金、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等の導電性酸化物等を使用することができる。なお、陽極はこれらの材料からなる層を複数積層して形成してもよい。陽極の材料としては、仕事関数の大きい材料であることが好ましい。これにより、有機層3への正孔注入効率を向上させることができる。仕事関数の大きな材料としては、インジウムスズ酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)等が挙げられる。
正孔注入層は、陽極バッファ層とも呼ばれ、陽極と有機層3のエネルギーレベルを近づけ、陽極から有機層3への正孔注入効率を改善する機能を有する。正孔注入層の材料としては、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体等を挙げることができる。
正孔輸送層は、陽極から発光層への正孔の輸送効率を向上させる機能を有する。正孔輸送層の材料としては、ポルフィリン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリ−p−フェニレンビニレン、ポリシラン、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミン置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、水素化アモルファスシリコン、水素化アモルファス炭化シリコン、硫化亜鉛、又はセレン化亜鉛等が挙げられる。
発光層は、陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子とを再結合させて光を出射させる機能を有する。発光層の材料としては、金属オキシノイド化合物[8−ヒドロキシキノリン金属錯体]、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ジフェニルエチレン誘導体、ビニルアセトン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ブタジエン誘導体、クマリン誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、スチリル誘導体、スチリルアミン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、トリススチリルベンゼン誘導体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、アミノピレン誘導体、ピリジン誘導体、ローダミン誘導体、アクイジン誘導体、フェノキサゾン、キナクリドン誘導体、ルブレン、ポリ−p−フェニレンビニレン、ポリシラン等が挙げられる。
電子輸送層は、電子を発光層まで効率良く移動させる機能を有する。電子輸送層の材料としては、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体、シロール誘導体、金属オキシノイド化合物等の有機化合物等が挙げられる。
電子注入層は、陰極と有機層3のエネルギーレベルを近づけ、陰極から有機層3へ電子が注入される効率を向上させる機能を有する。これにより、有機EL素子の駆動電圧を下げることが可能となる。電子注入層は陰極バッファ層とも呼ばれる。電子注入の材料としては、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化ストロンチウム(SrF)、フッ化バリウム(BaF2)等の無機アルカリ化合物や、Al、SrO等が挙げられる。
陰極は有機層3に電子を注入する機能を有する。陰極の材料としては、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、金(Au)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、イットリウム(Y)、ナトリウム(Na)、ルテニウム(Ru)、マンガン(Mn)、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、イッテルビウム(Yb)、フッ化リチウム(LiF)等の金属材料や、マグネシウム(Mg)/銅(Cu)、マグネシウム(Mg)/銀(Ag)、ナトリウム(Na)/カリウム(K)、アスタチン(At)/酸化アスタチン(AtO2)、リチウム(Li)/アルミニウム(Al)、リチウム(Li)/カルシウム(Ca)/アルミニウム(Al)、フッ化リチウム(LiF)/カルシウム(Ca)/アルミニウム(Al)等の合金、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等の導電性酸化物等を使用することができる。なお、陰極はこれらの材料からなる層を複数積層して形成してもよい。陰極の材料は、仕事関数の小さい材料が好ましい。これにより、有機EL層への電子注入効率を向上させることができる。仕事関数が小さい材料としては、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、フッ化リチウム(LiF)、マグネシウム(Mg)/銅(Cu)、マグネシウム(Mg)/銀(Ag)、ナトリウム(Na)/カリウム(K)、リチウム(Li)/アルミニウム(Al)、リチウム(Li)/カルシウム(Ca)/アルミニウム(Al)、又はフッ化リチウム(LiF)/カルシウム(Ca)/アルミニウム(Al)等が挙げられる。
次に、実施形態1の有機EL素子の封止構造について説明する。図9は、実施形態1の有機EL素子の封止構造を示す断面模式図である。基板1と封止基板10とは、封止樹脂11によって接着固定されている。基板1と封止基板10とで封止された領域には、不活性ガス13が充填されている。
基板1上には、TFT6と、下部電極2と、有機層3R、3G、3Bと、上部電極4と、封止膜9とが配置されている。下部電極2は、絵素5R、5G、5Bとなる領域毎にストライプ状に配置される。有機層3Rは、赤色の発光を呈する機能を有し、絵素5Rとなる領域に配置される。有機層3Gは、緑色の発光を呈する機能を有し、絵素5Gとなる領域に配置される。有機層3Bは、青色の発光を呈する機能を有する。絵素5Bとなる領域に配置される。上部電極4は、絵素5R、5G、5Bとなる領域を一体として覆うように配置される。このように、基板1上には、下部電極2、有機層3R及び上部電極4を含んで構成される有機EL素子と、下部電極2、有機層3G及び上部電極4を含んで構成される有機EL素子と、下部電極2、有機層3B及び上部電極4を含んで構成される有機EL素子とが配置される。
下部電極2は、球状の結晶粒で構成された多結晶ITOを材料として、フォトリソ法によって形成する。すなわち、下部電極2は透明電極である。下部電極2の膜厚は、100nm程度であればよい。
有機層3R、3G、3Bは、正孔注入層兼正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層兼電子注入層とが積層された構造を有する。正孔注入層兼正孔輸送層の材料としては、例えば、NPB(N,N−di(naphthalene−1−yl)−N,N−diphenyl−benzidene)を使用することができる。電子輸送層兼電子注入層の材料としては、例えば、Alq3(アルミニウムキノリノール錯体(aluminato−tris−8−hydroxyquinolate))を使用することができる。正孔注入層兼正孔輸送層及び電子輸送層兼電子注入層の膜厚は、それぞれ30nm程度であればよい。本実施形態では、発光層の材料として、分子量が1万未満の有機材料を使用する。すなわち、基板1上に配置される有機EL素子は、低分子型である。
上部電極4は、通常の蒸着法でベタパターンに形成する。上部電極4の材料については特に限定されず、一般的な電極材料を使用することができる。
有機層3は、マスク蒸着法で、R、G、Bの色毎に塗り分けて形成する。マスク蒸着法とは、蒸発源として成膜材料を入れたるつぼを加熱し、成膜材料を蒸発させることで、マスクを介して薄膜を基板に形成する方法である。図10は、マスク蒸着法の概念を示す模式図である。図10に示された部材は、一つの真空蒸着装置内に配置されている。図10に示すように、るつぼ15に成膜材料14(有機層3の材料)をセットし、また基板ホルダーに有機EL素子形成基板(基板1)をセットしておき、雰囲気圧力が10−4Paになるまで真空引きする。るつぼ15と基板1の間にはシャッター17が設置されている。シャッター17は、最初は閉じている。シャッター17と基板1の間には蒸着マスク16があり、蒸着マスク16は基板1に近接して設置される。蒸着マスク16には、開口部16aが設けられている。成膜材料14は開口部16aを通って基板1上に形成される。図10ではマスク蒸着法の概念を説明しているため、開口部16aは1箇所のみであるが、実際は、有機層3が形成される領域毎に開口部16aが設けられる。開口部16aは、有機層3を形成する領域に対してあらかじめ位置合わせをしておく。その後、るつぼ15を加熱し、シャッター17を短時間開閉することで有機層3R、3G、3Bをそれぞれの材料毎に形成する。なお、図10では、基板1上に有機層3R、3G、3Bが直接形成されているが、実際は、基板1の蒸着マスク16側の面には、上述のTFT6、下部電極2等が形成されている。
封止膜9は、少なくとも表示領域を含む領域に形成される。封止膜9の材料としては、例えば、酸化ケイ素(SiO)を使用することができる。封止膜9の膜厚は、500nm程度であればよい。封止膜9は、公知の方法で形成することができる。例として、スパッタ装置を用いて封止膜9を形成する場合について説明する。まず、チャンバー内に基板1をセットし、適切な形状の基板ホルダーを用いることで、成膜領域を、少なくとも表示領域を含む領域とする。そして、アルゴン(Ar)ガスを190sccm、酸素(O)ガスを10sccm流し、雰囲気ガス圧を0.3Paにし、SiOターゲットを使用して0.2kWで30分成膜し、その後2kWの出力で2時間成膜することで、封止膜9として機能するSiO層を500nmの膜厚で形成することができる。
封止基板10は、有機EL素子に酸素や水分が進入することを防止する機能を有する。封止基板10としては、ガラス基板や石英基板等を使用することができる。有機EL素子がボトムエミッション構造の場合は、封止基板10は透光性を有する必要はないが、トップエミッション構造である場合は、透光性を有するガラス基板等を使用する必要がある。また、ボトムエミッション構造の場合に限り、封止基板10の有機EL素子側に乾燥剤12を形成する場合がある。乾燥剤12を形成した場合は、有機EL素子の素子寿命が向上する。乾燥剤12として、例えば、酸化バリウム、酸化カルシウムを使用することができる。本実施形態の有機EL素子は、ボトムエミッション構造であり、封止基板10として、ガラス基板(封止ガラス)を使用する。
封止樹脂11は、基板1と封止基板10とを接着固定する機能を有する。封止樹脂11の材料としては、エポキシ樹脂等の酸素透過性及び透湿性の低い材料を用いることができる。
次に、実施形態1の有機EL素子及び実施形態2の有機EL表示装置の駆動回路について説明する。図11は、実施形態1の有機EL素子の駆動回路図である。図12は、実施形態2の有機EL表示装置の駆動回路を示す模式図である。
図11に示すように、データ線(ソース線)18と走査線(ゲート線)19とが縦横の方向に配置され、スイッチング用TFT6aと駆動用TFT6bとが設けられる。駆動用TFT6bには、電源回路Vp、Vcomと、保持容量20とが接続される。有機EL素子21は、駆動用TFT6bによって駆動する。このように、一つの有機EL素子21に対して、スイッチング用TFT6aと駆動用TFT6bとが設けられる。すなわち、実施形態2の有機EL表示装置では、一つの絵素毎に二つのTFTが設けられる。なお、一つの絵素に対してTFTを3つ以上設けてもよい。
図12に示すように、実施形態2の有機EL表示装置では、表示領域に絵素回路22が多数並べられ、額縁領域に走査線駆動回路23、データ線駆動回路24、電源回路Vcom、Vpが配置される。絵素回路22は、図11で示した有機EL素子の駆動回路を意味する。データ線駆動回路24や走査線駆動回路23の信号に基づき各絵素のスイッチング用TFT6aが作動し、これにより各画素の駆動用TFT6bが駆動され、有機EL素子21に電流が流れる。これにより、有機EL素子21が発光し、画像が表示される。
図13は、実施形態2の有機EL表示装置の絵素部を示す平面模式図である。図13のようなパターンが絵素毎に形成されており、一つの画素に対して3色の絵素(R、G、B)が配置される。図14は、図13中のC1−C2線に沿った断面模式図である。図15は、図13中のD1−D2線に沿った断面模式図である。
ストライプ状に形成されたソース配線18a(データ線)は、スイッチング用TFT6aに電気的に接続されており、スイッチング用TFT6aにデータ信号を入力する。ゲート配線19a(走査線)は、ソース配線18aの延伸方向と交差する方向に延伸して形成される。ゲート配線19aは、ゲート配線19aの延伸方向と直交する方向に突き出た突出部を有し、この突出部がスイッチング用TFT6aのゲート電極として機能して、スイッチング用TFT6aに走査信号を入力する。スイッチング用TFT6aのドレイン領域はゲート配線19bに接続されている。ゲート配線19bは駆動用TFT6bのゲート電極として機能し、ソース配線18bとゲート配線19bとの重なる部分で保持容量(Cs)20を形成している。また、ソース配線18bは、駆動用TFT6bのソース領域に接続されている。駆動用TFT6bのドレイン領域は下部電極2と電気的に接続されている。
スイッチング用TFT6aは、ソース配線18a及びゲート配線19aから入力された信号に基づいて保持容量(Cs)20に電荷を与え、駆動用TFT6bを動作させる。駆動用TFT6bからの入力信号に基づいて、下部電極2に電流が供給される。
ソース配線18a、18b、18cと、ゲート配線19a、19bとは、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、タングステン(W)等の導電性材料により形成することができる。
図14は、スイッチング用TFT6a及び駆動用TFT6bが配置された領域の断面を示している。スイッチング用TFT6a及び駆動用TFT6bは公知の方法で形成することができる。基板1上には、保護膜26、ゲート絶縁膜27、層間絶縁膜28、平坦化膜7が基板1側からこの順に積層されている。保護膜26上に配置される半導体膜25は、ゲート絶縁膜27に覆われている。半導体膜25は、半導体膜スイッチング用TFT6a又は駆動用TFT6bのチャネル領域、ソース領域、ドレイン領域を有する。半導体膜25の材料としては、アモルファスシリコン、微結晶シリコン、ポリシリコン、酸化亜鉛等の酸化物半導体を使用することができる。ゲート絶縁膜27上に配置されるゲート配線19a、19bは、層間絶縁膜28に覆われている。層間絶縁膜28上に配置されるソース配線18a、18b、18cは、平坦化膜7に覆われている。平坦化膜7上には下部電極2が配置され、コンタクトホール8を介して下部電極2とソース配線18cとが電気的に接続される。
なお、図14では、スイッチング用TFT6a及び駆動用TFT6bがトップゲート構造の場合を示したが、ボトムゲート構造であってもよい。
図15は、絵素として機能する有機EL素子が配置された領域の断面を示している。
以下、実施形態1の有機EL素子及び実施形態2の有機EL表示装置の効果について説明する。図16は、下部電極の端部周辺を示す断面模式図である。図16に示すように、下部電極2は、球状の結晶粒2aで構成された多結晶ITOを用いて形成されている。これにより、下部電極2を、表面凹凸の少ない緻密な膜にすることができる。その結果、従来は必須であった下部電極2の端部を覆うエッジカバーを省略したとしても、下部電極2の端部周辺において有機層3の被覆不良が発生することなく、有機EL素子の信頼性を向上させることができる。また、従来は特に有機層3の被覆不良が発生しやすかった下部電極2の端部(図16中のE部、F部)でも、有機層3の被覆不良の発生を抑制することができる。更に、有機EL素子の信頼性が向上することで、有機EL表示装置のパネル欠陥の発生を抑制することができる。
以下に実施例を掲げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
上述の図9を用いて実施例1の有機EL表示装置の構成について説明する。実施例1の有機EL表示装置は、互いに対向して配置された基板1と封止基板10とが封止樹脂11によって貼り合わされた構造を有する。基板1上には、平坦化絶縁膜(下地有機膜)7、薄膜トランジスタ(TFT)6、下部電極2、有機層3R、3G、3B、上部電極4及び封止膜9が形成されている。すなわち、基板1は、TFT基板である。一方、封止基板10の基板1側の表面には、乾燥剤12が形成されている。封止樹脂11によって封止された領域には、不活性ガス13が充填されている。このように、本実施例の有機EL表示装置の駆動方式は、アクティブマトリクス方式である。
平坦化絶縁膜7には、TFT6と下部電極2とを電気的に接続するためのスルーホール8が絵素毎に形成されている。下部電極2は、球状の結晶粒で構成されて多結晶ITOを用いて形成した。下部電極2は、断面がテーパ形状となるように加工した。有機層3R、3G、3Bは、下部電極2よりも大きなパターンで、それぞれ絵素のRGBに合わせて形成した。上部電極4は、有機層3R、3G、3Bを覆うように表示領域全体にベタパターンで形成した。図9では、5R、5G、5Bの3つの絵素のみを図示しているが、実際には3つ以上の絵素が形成されている。その後、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で、乾燥剤12を形成した封止基板10を、封止樹脂12を介して基板1と貼り合わせる。このとき、封止基板10の乾燥剤12が形成された側の面が、基板1の有機層3R、3G、3Bが形成された面と対向するように貼り合せる。このようにして、図9に示した構成を得ることができる。
以下、本実施例の有機EL表示装置の詳細について、製造方法とともに説明する。
まず、TFT6の製造方法について説明する。図17、18は、実施例1の有機EL表示装置が備えるTFTの製造工程を示す模式図である。図17は、TFTが形成されるまでの工程を示し、図18は、TFT形成後に配線等を形成する工程を示す。なお、図17、18に示された領域は、図13中のC1−C2線に沿った断面に相当する。
図17(a)に示すように、基板1上に、保護膜26、半導体膜25を形成する。具体的には、まず、基板1として無アルカリガラス基板を準備する。基板1は、あらかじめIPA超音波洗浄、純水洗浄などの方法により、有機物などの異物を除去しておく。その後、保護膜26として、公知のCVD(Chemical Vapor Deposition)法により、シリコンオキシナイトライド(SiON)を基板1の表面全体に成膜した。この保護膜26は、基板1からの不純物の拡散を防ぐために設けられる。保護膜26の膜厚は100nm〜300nmであればよい。次に、半導体膜25を形成する。半導体膜25の形成方法としては、まず、プラズマCVD法により、アモルファスシリコンを保護膜26上に成膜し、得られたアモルファスシリコン膜に結晶化を助長する金属触媒を塗布法や成膜法により添加した後、基板1が歪まない温度で加熱処理を行うことによって、金属添加物を起点として結晶質シリコンが形成される。次に、この結晶性シリコンをレーザ処理によってアニールすることで得られた多結晶ポリシリコンを、半導体膜25として使用する。半導体膜25の膜厚は、50nm程度であればよい。以上の工程を経て、図17(a)で示した状態となる。
次に、図17(b)に示すように、半導体膜25をパターニングする。具体的には、フォトレジストを用いた公知のフォトプロセスによって半導体膜25上に所定のマスクパターンを形成した後、半導体膜25の一部をドライエッチング法によって除去する。その後、使用したフォトレジストを除去する。以上の工程を経て、図17(b)で示した状態となる。
次に、図17(c)に示すように、ゲート絶縁膜27を形成する。具体的には、公知のCVD法を用いて、半導体膜25を覆うように酸化ケイ素(SiO2)を成膜することで、ゲート絶縁膜27を形成した。ゲート絶縁膜27の膜厚は、50nm〜300nm程度であればよい。その後、TFT6のしきい値を調整するため、イオンドーピング法により半導体膜25に不純物を注入した。
次に、図17(d)に示すように、ゲート配線19a、19bを形成する。具体的には、ゲート絶縁膜27上にゲート膜として高融点金属膜を全面デポしてから、フォトレジストを公知のフォトプロセスで所定のパターンに形成した後、公知の方法でドライエッチングを行い、使用したフォトレジストを除去することで、ゲート配線19a、19bを形成した。その後、半導体膜25にソース・ドレイン領域を形成するため、イオンドーピング法により半導体膜25に高濃度の不純物を注入した。以上の工程を経て、TFT6を形成することができた。
次に、図18を用いて、TFT基板の製造工程の後半について説明する。
図18(e)に示すように、層間絶縁膜28を形成する。具体的には、公知のCVD法を用いて、ケイ素系絶縁膜をゲート絶縁膜27上に成膜することで、層間絶縁膜28を形成した。層間絶縁膜28の膜厚は、400nm〜900nm程度であればよい。
次に、図18(f)に示すように、ソース配線18a、18b、18cを形成する。具体的には、まず、公知のフォトプロセスにより、フォトレジストをパターン形成し、ドライエッチング法によりコンタクトホール29が形成される部分の層間絶縁膜27をエッチングしてから、フォトレジストを除去することにより、層間絶縁膜27にコンタクトホール29を形成した。次に、スパッタ法により、低抵抗なアルミニウム系金属を含む多層膜を全面に形成し、公知のフォトエッチプロセスにより多層膜をパターニングすることで、ソース配線18a、18b、18cを形成した。その後、高温熱処理で水素化処理を行い、TFT6の活性化領域(半導体膜25のチャネル領域)とゲート絶縁膜27との界面に水素原子を供給した。これにより、TFT6の特性を劣化させる不対結合手を低減することができる。
次に、図18(g)に示すように、平坦化絶縁膜7、スルーホール8及び下部電極2を形成する。具体的には、まず、感光性のアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ノボラック樹脂をスピンコート法により全面に塗布した後、所定のパターンで露光する。その後、アルカリ溶液等の現像液で現像し、200℃以上の高温炉でベークすることにより、スルーホール8を有する平坦化絶縁膜7を形成した。平坦化絶縁膜の膜厚は、1μm〜4μm程度であればよい。次に、スパッタ法により、酸化錫(SnO)を5wt%〜20wt%含む酸化インジウム(In)から成る酸化物ターゲットをITOターゲットとし、マグネトロンDCスパッタ装置で成膜することで、ITO膜を形成した。基板温度は120℃〜230℃とし、チャンバー内は、到達真空度1.3mPa以下とし、酸素を1vol%〜5vol%含むアルゴン(Ar)の混合ガスを150sccm〜300sccm流し、ガス圧13mPa〜130mPaの雰囲気とし、投入電力を1W/cm〜3W/cmとした。本実施例では、ITOターゲットと基板1との間の距離は約10cmである。成膜時間は、ITO膜の膜厚に合わせて適宜調節する。本実施例では、ITO膜の膜厚を200nmとした。その後、基板1を200℃以上の高温で1〜2時間熱処理した。
次に、下部電極2上に感光性のフォトレジストをスピンコート法で塗布し、所定のパターンに露光後、アルカリ溶液で現像する。次に、前記基板を35〜45℃の塩化第二鉄(濃度39%)溶液に5分間浸し、純水で5分間水洗する。その後、フォトレジストをアッシング法や剥離液で除去する。このようにして、図18(g)に示すように、テーパ形状を有する下部電極2を形成した。
上記条件で形成された下部電極2の断面をSEMで観察すると、多結晶ITOを構成する結晶粒の90%以上が、図27(b)で示したような形状であった。すなわち、多結晶ITOを構成する結晶粒の90%以上が球状グレインであった。多結晶ITOを構成する結晶粒は、成膜条件によって、その形状(グレイン形状)や大きさ(グレイン径)を変えることができる。そこで、比較対象として、グレイン形状を柱状にしたものと、グレイン径を15nm〜150nmまで変化させたものを作製した。比較評価の結果については後述する。
なお、本実施例では、トップゲート型TFTの例を示したが、ボトムゲート型TFTであっても同一の効果を奏することができる。
以下、絵素5R、5G、5Bとして機能する有機EL素子の形成工程について説明する。図19は、実施例1の有機EL表示装置が備える有機EL素子の製造工程を示す模式図である。なお、図19に示された領域は、図13中のD1−D2線に沿った断面に相当する。
図19(h)は、図18(g)で説明した工程が行われた後の基板1を示している。すなわち、基板1上に、保護膜26、ゲート絶縁膜27、層間絶縁膜28及び平坦化絶縁膜7が積層されている。また、層間絶縁膜28上にはソース配線18a、18bが配置され、平坦化絶縁膜7上には下部電極2が配置されている。この状態の基板1に対して、後述する工程により、有機EL素子を形成することで、本実施例の有機EL表示装置が完成する。以下、有機EL素子の製造工程について詳述する。
まず、図19(i)に示すように、有機層3及び上部電極4を形成する。有機層3は、有機層3f、3b、3gの3層で構成されている。有機層3fは、正孔注入層兼正孔輸送層として機能する。有機層3bは、発光層として機能する。有機層3gは、電子輸送層兼電子注入層として機能する。本実施例では、正孔注入層兼正孔輸送層の材料として、NPB(N,N−di(naphthalene−1−yl)−N,N−diphenyl−benzidene)を使用し、電子輸送層兼電子注入層の材料としてAlq3(アルミニウムキノリノール錯体(aluminato−tris−8−hydroxyquinolate))を使用した。発光層の材料は、絵素5R、5G、5B毎に適した公知の材料を使用することができる。正孔注入層兼正孔輸送層の膜厚は30nmとし、発光層の膜厚は30nmとし、電子輸送層兼電子注入層の膜厚は40nmとした。すなわち、有機層3の膜厚は、100nmとした。
有機層3は、図10で示したマスク蒸着法を用いて、上述の条件により、R、G、Bの色毎に塗り分けて形成した。すなわち、有機層3は、絵素5R、5G、5Bのそれぞれに独立して形成した。
上部電極4は、通常の蒸着法により、R、G、B毎に塗りわけすることなく、表示領域を少なくとも含む領域にベタパターンで形成する。本実施例では、上部電極4の材料として、マグネシウム・銀(Mg・Ag)を使用した。これにより、上部電極4を半透明の陰極にすることができる。上部電極4の膜厚は1〜20nmであればよく、本実施例では5nmとした。
次に、図19(j)に示すように、少なくとも表示領域を含む領域に、封止膜9を形成する。具体的には、スパッタ装置により、酸化ケイ素(SiO)を500nmの膜厚に成膜することで、封止膜9を形成した。以下、封止膜9を形成する手順を詳細に説明する。まず、チャンバー内に基板1をセットし、基板ホルダーの形状を適切にすることで、成膜領域を、少なくとも表示領域を含む領域とする。そして、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスを190sccm、酸素(O)ガスを10sccm流し、雰囲気ガス圧を0.3Paにし、SiOターゲットを使用して、0.2kWで30分成膜する。その後、更に、2kWの出力(投入電力)で2時間成膜することにより、500nmの膜厚のSiO膜(封止膜9)を形成した。
なお、図19では、1ドット(1絵素)分のみを示しているが、実際のパネルでは、この絵素が多数集まってパネルを構成している。
次に、有機EL素子の封止工程について説明する。図20は、実施例1の有機EL表示装置を示す断面模式図である。なお、図20に示された領域は、図13中のD1−D2線に沿った断面に相当する。
封止基板10は、有機層3に酸素や水分が進入することを防止する機能を有する。本実施例では、封止基板10として、無アルカリガラスで形成した封止ガラスを使用した。封止基板10は封止樹脂11により接着固定されている。封止樹脂11の材料としては、エポキシ樹脂を用いた。本実施例では、有機EL素子がボトムエミッション構造である。したがって、封止基板10の基板1側には、乾燥剤12を形成した。これにより、有機EL素子の素子寿命を向上することができる。乾燥剤12の材料としては、酸化バリウムを用いた。また、封止基板10で封止した領域には、不活性ガス13を充填した。
このようにして作製した有機EL表示装置を、図6に示した回路構成で全面をベタ表示させ、パネル仕様上の最大輝度まで発光させた状態で、室温で1時間放置した。その後、非発光部等のパネル欠陥について不良解析を行った。本実施例の有機EL表示装置では、下部電極2の材料である多結晶ITOを構成する結晶粒の90%以上が球状(球状グレイン)である。比較対象として、柱状グレインで構成された場合のサンプルと、結晶粒の平均径(平均グレイン径)とを変更した場合のサンプルとを作成し、パネル欠陥の割合を調査した。その結果を表1に示す。但し、パネル欠陥は、不良原因が下部電極2の端部に起因するものをカウントした。
以下、柱状グレインと球状グレインとを作りわける方法について説明する。スパッタ法により、SnOを10wt%程度含むInから成る酸化物ターゲットをITOターゲットとし、基板温度は150℃、成膜時圧力は0.04Pa、ガス流量は200sccmの2vol%酸素含有のアルゴン混合ガスを用いた場合に、1.5W/cm以下の出力では柱状グレインを形成することができ、2.0W/cm以上の出力では球状グレインを形成することができる。平均グレイン径は、下部電極の断面をSEMで観測した結果から算出した。表1に示した複数のサンプルは、出力以外の成膜条件も変更して作製しているが、結晶粒の形状、平均グレイン径以外の条件については同一である。
表1より、多結晶ITOのグレイン形状が球状(球状グレイン)の場合、多結晶ITOのグレイン形状が柱状(柱状グレイン)の場合と比較して、パネル欠陥の割合が減少することが分かる。発光点の全体の数に対してパネル欠陥の割合が0.01%以下であれば、表示品位への影響は無く、実用上問題がない。本実施例では、有機層3の膜厚が100nmと非常に薄い。したがって、柱状グレインの場合には、下部電極2の表面凹凸が大きくなり、下部電極2の端部周辺で有機層3の被覆不良が発生することで、パネル欠陥が増加していると考えられる。すなわち、柱状グレインの場合には、下部電極2の端部をエッジカバーで覆うことが必須であると言える。なお、表1には示していないが、エッジカバーを使用した場合には、多結晶ITOのグレイン形状や平均グレイン径に関わり無く、パネル欠陥の割合は実用上問題がない水準であった。
本実施例の有機EL表示装置では、下部電極2の材料として、球状グレインで構成された多結晶ITOを使用している。したがって、エッジカバーを形成する工程を省略しながら、パネル欠陥の割合を低減することができる。エッジカバーを形成する工程を省略できるという点は、コスト、歩留まり、生産性の観点から利点が大きい。
また、表1より、球状グレインであっても、平均グレイン径が100nmを超えると、パネル欠陥の割合が実用上問題とされる水準となった。したがって、本実施例において、パネル欠陥の割合を0.01%以下にするためには、平均グレイン径を100nm以下にすることが必要である。本実施例の有機層3の膜厚(平均膜厚)は100nmであるので、好ましい平均グレイン径は、有機層3の平均膜厚以下であると言える。これは、エッチングによって形成された下部電極2の最終端(図16のF部)の形状が、最終的に下部電極2を構成する結晶粒2aの大きさによって決定されるためであると考えられる。したがって、平均グレイン径が大きい場合には、下部電極2と基板1との段差が大きくなり、有機層3の被覆不良が発生し易くなるため、パネル欠陥の割合が増加したと考えられる。
なお、下部電極2と基板1との段差をより低減する方法としては、平均グレイン径を更に小さくする方法や、アモルファス構造のITOを使用する方法も考えられる。しかしながら、これらの方法を用いた場合、エッチングむら、エッチング残渣、パターン荒れの問題が生じるため、実用化は困難である。本実施例では、ITOを成膜した後、ベークによってITOを多結晶状態にしてから、下部電極2のパターン形成を行っているため、このような問題は生じない。
また、平均グレイン径が小さくなると、下部電極2の抵抗値が高くなり、有機層3に必要な電流が流れなくなるおそれがある。例えば、本実施例では、実用上の最大膜厚と思われる200nmでITO膜(下部電極2)を形成した場合、平均グレイン径が25nmのとき、抵抗値は70〜80Ω/□であったが、平均グレイン径が15nmのとき、抵抗値は100〜110Ω/□であった。なお、これらの抵抗値は、柱状グレインであっても球状グレインであっても同程度であった。抵抗値が80Ω/□を越えると、有機EL素子の発光輝度が低下するという問題が生じる。したがって、平均グレイン径は、25nm以上であることが好ましい。
(実施例2)
以下、実施例2の有機EL表示装置について説明する。図21は、実施例2の有機EL表示装置を示す平面模式図である。図22は、実施例2の有機EL表示装置を示す断面模式図である。なお、実施例1と同一の部材については、同一の符号を付記する。
実施例2の有機EL表示装置の駆動方式は、パッシブマトリクス方式である。図21に示した下部電極2と上部電極4との交点が、それぞれ絵素として機能する。図21では6点×6点の絵素構成を示したが、実際は、より多くの絵素により構成されている。
下部電極2と上部電極2とはそれぞれストライプ状に形成されている。下部電極2は球状の結晶粒で構成された多結晶ITOで形成されている。上部電極4は下部電極2と直交するように形成される。下部電極2と上部電極の間には、有機層3R、3G、3Bが形成される。本実施例の有機EL表示装置では、下部電極2と基板1との間に、下地有機膜として、平坦化絶縁層7が形成されている。比較対象として、平坦化絶縁膜7を形成しないものを作製した。比較評価の結果については後述する。
以下、実施例2の有機EL表示装置の製造方法について説明する。なお、ここで述べた以外の工程については、実施例1と同一である。
基板1として無アルカリガラス基板を用いる。事前にIPA超音波洗浄、純水洗浄などの方法により、基板1から有機物などの異物を除去しておく。次に、モリブデン(Mo)により、有機EL素子のR、G、B塗りわけ用のマーカーを形成する。具体的には、まず、スパッタ法によりMoを基板1の全面に成膜し、スピンコート法で感光性のフォトレジストを塗布する。その後、所定のパターンで露光後、アルカリ溶液で現像してから、ドライエッチング法でMoをエッチングする。そして、アッシング装置や剥離液により、フォトレジストを除去する。このようにして、有機EL素子のR、G、B塗りわけ用のマーカーを形成した。
次に、アクリル樹脂をスピンコート法で塗布することで、下地有機膜として機能する平坦化絶縁膜7を形成した。その後、パターンを形成する場合は、露光してアルカリ溶液で現像し、焼成炉で200℃以上の高温でベークした。パターンを形成しない場合は、露光や現像なしで、焼成炉で200℃以上の高温でベークした。その後、実施例1と同一の方法により、多結晶ITOを用いて下部電極2を形成した。その他の工程についても実施例1と同様にして行うことで、図22に示すように、実施例2の有機EL表示装置が完成した。下部電極2は、実施例1と同様にテーパ形状を有する。また、比較対象として、平坦化絶縁膜7を有しないサンプルも作製した。このサンプルは、下地有機膜として機能する平坦化絶縁膜7を有しない点を除いて、実施例2の有機EL表示装置と同一の構成を有する。
下地有機膜を有する場合と、有しない場合とについて、多結晶ITOを構成する結晶粒のグレイン形状毎の割合を比較した。その結果を表2に示す。表2で示したサンプルは、SnOを10wt%程度含むInから成る酸化物ターゲットをITOターゲットとし、基板温度は150℃、成膜時圧力は0.04Pa、ガス流量は200sccmの2vol%酸素含有のアルゴン混合ガスを用いて形成したものである。スパッタパワー(出力)は、1.0W/cm〜3.0W/cmまで変化させた。表2においては、上記第一〜第三関係の少なくとも一つを満たす形状の結晶粒を、球状グレインとした。また、球状グレインを除き、基板の平面に対して略直交する方向に成長した結晶粒(例えば、図26(b)のSEM写真で示した形状の結晶粒)を柱状グレインとした。柱状グレイン及び球状グレインのどちらにも属さない形状の結晶粒は、その他のグレイン形状とした。
表2より、下地有機膜を有しない場合は、下地有機膜を有する場合と比較して、球状グレインの割合が少ないことが分かる。このことから、不規則な表面構造を有する下地有機膜を使用することで、球状グレインが形成されやすくなることが分かる。球状グレインの割合が少なくなると、下部電極2の端部に起因するパネル欠陥が発生し易くなる。したがって、球状グレインの割合は多い方が好ましい。このように、下地有機膜を使用することで、球状グレインを容易に形成することができ、有機EL素子の信頼性を容易に向上させることができる。
(評価試験1)
下部電極の表面凹凸とパネル欠陥の発生割合との関係を検証するため、以下に示す方法で作製した有機EL表示装置の評価試験を行った。
評価試験1に用いる有機EL表示装置の製造方法について説明する。まず、ガラス基板上にアクリル樹脂をスピンコート法により塗布後、窒素ガス雰囲気のオーブン内でガラス基板を230℃で1時間焼成することで、ガラス基板上にアクリル樹脂からなる下地有機膜を形成した。焼成後の下地有機膜の膜厚は2μmとした。その後、先ほどのガラス基板に対して、スパッタ法により、酸化錫(SnO)を5wt%〜20wt%含む酸化インジウム(In)から成る酸化物ターゲットをITOターゲットとし、マグネトロンDCスパッタ装置で成膜することで、下地有機膜上にITO膜(下部電極)を形成した。基板温度は120℃〜230℃とし、チャンバー内は、到達真空度1.3mPa以下とし、酸素を1vol%〜5vol%含むアルゴン(Ar)の混合ガスを150sccm〜300sccm流し、ガス圧13mPa〜130mPaの雰囲気とし、投入電力を1W/cm〜3W/cmとした。これらの範囲内でプロセス条件を変更し、複数のサンプルを作製した。ITOターゲットとガラス基板との間の距離は約10cmとした。また、ITO膜の膜厚を100nmとした。その後、ITO膜が形成された先ほどのガラス基板を200℃の大気雰囲気中で1時間焼成した。
その後、実施例2と同様の方法で有機EL表示装置を作製し、所定の回路構成で全面をベタ表示させ、パネル仕様上の最大輝度まで発光させた状態で、室温で1時間放置した。その後、非発光部等のパネル欠陥について不良解析を行った。そして、ITO膜の表面粗さのRmaxと、パネル欠陥の割合との関係を調査した。その結果を表3に示す。但し、パネル欠陥は、不良原因が下部電極(ITO膜)の端部に起因するものをカウントした。なお、評価試験1で使用した有機EL表示装置の有機層の平均膜厚は100nmである。
表3より、ITO膜の表面粗さのRmaxが小さくなるにつれて、パネル欠陥の割合が減少することが分かる。発光点の全体の数に対してパネル欠陥の割合が0.01%以下であれば、表示品位への影響は無く、実用上問題がないとされている。すなわち、ITO膜の表面粗さRmaxは、15nm以下であることが好ましい。また、今回の評価試験で使用した有機EL表示装置の有機層の平均膜厚は100nmであることから、ITO膜の表面粗さRmaxは、有機層の膜厚の15%以下であることが好ましい。
(評価試験2)
下部電極の表面凹凸に対する下地有機膜の影響を検証するため、下地電極が下地有機膜上に形成された有機EL表示装置と、下部電極がガラス基板上に形成された有機EL表示装置とを作製し、それぞれの有機EL表示装置における下部電極のRmax値を比較した。
下部電極が下地有機膜上に形成された有機EL表示装置は、上記評価試験1と同様の方法で作製した。また、下部電極がガラス基板上に形成された有機EL表示装置は、アクリル樹脂を用いて下地有機膜を形成する工程を省略し、ガラス基板上に直接ITO膜(下部電極)を形成することを除いて、上記評価試験1と同様の方法で作製した。そして、それぞれの有機EL表示装置におけるITO膜の表面粗さのRmaxを測定した。その結果を表4に示す。
表4に示すように、下地有機膜上に形成されたITO膜は、ガラス基板上に形成されたITO膜と比較して、Rmax値が小さいことが分かる。すなわち、下地有機膜上に形成されたITO膜は、ガラス基板上に形成されたITO膜よりも、よりなめらかな表面形状を有していることが分かる。表3に示すように、ITO膜のRmax値が小さくなるにつれてパネル欠陥は少なくなる。従って、下地有機膜上にITO膜を形成することで、よりパネル欠陥が少ない有機EL表示装置を作製可能であることが分かる。
(評価試験3)
ITO膜(下部電極)に含まれる球状グレインの割合と、有機EL表示装置におけるパネル欠陥の発生割合との関係を検証するため、球状グレインの割合が異なるITO膜をそれぞれ備える複数の有機EL表示装置を作製し、パネル欠陥(点欠陥)の発生割合を比較した。その結果を表5に示す。ITO膜に含まれる球状グレインの割合は、ITO膜の形成時のスパッタパワーを変更することによって調節した。ITO膜以外の製造方法については、評価試験1と同様の方法により、評価試験3に用いる有機EL表示装置を作製した。
表5は、上記の方法で作製した有機EL表示装置の中から、対角2.4インチの320画素×240画素(RGB1組で1画素を形成)、対角3.6インチの640画素×360画素の有機EL表示装置を任意に選び調べた結果である。但し、パネル欠陥は、不良原因が下部電極(ITO膜)の端部に起因するものをカウントした。市販製品のカタログ等に記載されているように、パネル欠陥の割合が0.01%以下であれば、実用上問題が無いことが一般的に知られている。従って、表5より、ITO膜に含まれる球状グレインの割合が90%以上であれば、パネル欠陥の割合が実用上問題がない水準となることが分かる。
1、101:基板
2、102、202:下部電極
2a、102a、202a:結晶粒(グレイン)
3、3R、3G、3B、103:有機層
3a:有機層(正孔輸送層)
3b:有機層(発光層)
3c:有機層(正孔注入層)
3d:有機層(電子輸送層)
3e:有機層(電子注入層)
3f:有機層(正孔注入層兼正孔輸送層)
3g:有機層(電子注入層兼電子輸送層)
4、104:上部電極
5:画素
5R、5G、5B、:絵素
6:薄膜トランジスタ(TFT)
7:平坦化絶縁膜(下地有機膜)
8:スルーホール
9:封止膜
10:封止基板
11:封止樹脂
12:乾燥剤
13:不活性ガス
14:成膜材料
15:るつぼ
16:マスク
16a:開口部
17:シャッター
18、18a、18b、18c:データ線(ソース配線)
19、19a、19b:走査線(ゲート配線)
20:保持容量(Cs)
21:有機EL素子
22:絵素回路
23:走査線駆動回路
24:データ線駆動回路
25:半導体膜
26:ゲート絶縁膜
27:層間絶縁膜
28:保護膜
29:コンタクトホール

Claims (9)

  1. 無機物で形成された基板上に、下地有機膜、下部電極、機能性薄膜及び上部電極が該基板側からこの順に積層された機能性素子であって、
    該下部電極は、断面視したときに、該基板側に向かって幅がより広くなるテーパ形状を有し、
    該下部電極の材料は、球状の結晶粒で構成された多結晶インジウム錫酸化物であり、
    該機能性薄膜は、該下部電極の端部を直接覆うことを特徴とする機能性素子。
  2. 前記下地有機膜の材料は、樹脂であることを特徴とする請求項1記載の機能性素子。
  3. 前記樹脂は、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びノボラック樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの樹脂であることを特徴とする請求項2記載の機能性素子。
  4. 前記球状の結晶粒の平均径は、前記機能性薄膜の平均膜厚以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の機能性素子。
  5. 前記球状の結晶粒は、長径をa、短径をbとしたとき、(a−b)/a≦0.25の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の機能性素子。
  6. 前記球状の結晶粒は、長径をa、最大曲率半径をa、短径をb1、最小曲率半径をbとしたとき、a≦aの関係と、b≧b/8の関係とを満たすことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性素子。
  7. 前記下部電極の表面粗さのRmaxは、前記機能性薄膜の平均膜厚の15%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の機能性素子。
  8. 前記機能性素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の機能性素子。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の機能性素子を備えることを特徴とする表示装置。
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