JP2010215561A - 概日リズム調整剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】安全かつ簡便に概日リズムを調整する。
【解決手段】バレリアンオイルを有効成分とする概日リズム調整剤。
【選択図】図1

Description

本発明は、嗅覚刺激により概日リズムを調整する概日リズム調整剤に関する。
ヒトを含む哺乳動物において、睡眠・覚醒、さらには体温、血圧、ホルモン分泌など様々な生体現象に、約24時間周期のリズム、すなわち概日リズムが存在することが知られている。生体には、体内時計と呼ばれる概日リズムを形成するための機構が備わっており、視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus : SCN)にその中枢が存在する。体内時計の機構は多くの分子群のネットワークから成り、複数の時計遺伝子の存在が報告されている。体内時計には、大きく分けて2つの機構が関与していると考えられている。1つ目は概日リズム自体を内因的に作り出す発振機構である。外界からの明暗情報等が遮断された環境下でも、生物の行動や生理現象に個体固有の内因性リズムが存在しており、そのリズムは地球の自転に伴い生じる24時間の明暗周期から多少のずれを生じることが分かっている。実際に、感覚を遮断した状態で自由に生活させるとかなりの人数が24時間の概日リズムではなく、一般的に24時間より長い時間、例えば25時間またはそれ以上といった周期の、固有の睡眠・覚醒リズムを呈する。2つ目の機構は、そのような内因性の生体リズムのずれ(位相のずれ)を補正して24時間の環境周期(明暗周期)に概日リズムを同調させる機構であり、光や食事、あるいは薬物等による刺激を介して位相のずれを補正することができる。日常生活において主に光刺激により体内時計の位相変化(前進性または行進性)が誘導され、その結果、生物の概日リズムが24時間に維持されている。
概日リズムは本来、地球の自転に伴って起こる昼夜、つまり明暗周期などの24時間の環境周期に基づいて設定されたものであり、通常の環境下では、ネズミなどの夜行性の動物は夜間に、ヒトなどの昼行性の動物は昼間に行動しやすくなっている。しかしながら、複雑な現代社会において、海外渡航、深夜勤務、シフト勤務、夜更かしや昼夜逆転生活などにより外界の明暗環境と体内時計との間に著しいずれが生じ、概日リズムの乱れに起因する睡眠障害や、それに付随して生じる倦怠感、疲労感、記憶や意欲の低下、さらには循環器、消化器および生殖器の不調などの様々な症状を訴える患者が急速に増加している。
概日リズム障害として、例えば、航空機により短時間に長距離を移動する海外渡航者において生じる時差ぼけ症候群があり、出発地と到着地で昼間・夜間の位相のズレ(時差)を経験し、体内時計が現地時間に徐々に調整されるまで、睡眠・覚醒リズムが乱れて注意力・集中力が低下し、さらには、体温、血圧、ホルモン分泌などのリズムも乱れる。
また、昼間シフト、夜間シフトおよびいわゆるグレイブヤードシフト(真夜中から朝8時までの勤務)を循環する交替勤務者などにおいて生じる交代勤務症候群では、一過性の体内時間感覚消失常態または体内リズムの同調欠失が生じて、その結果、勤務シフト交替への調整が困難になり、睡眠障害を引き起こして全身倦怠、疲労感等を促進させる。
さらに、夏休みなどの長い休暇中の昼夜逆転生活や通勤通学の遠距離化、受験勉強など生活環境の変化等を誘因として、睡眠相遅延症候群や非24時間型睡眠・覚醒症候群などの概日リズム睡眠障害が生じる。睡眠相遅延症候群では、睡眠および覚醒の位相が社会的に好ましい時間帯に比べて後退して、入眠および覚醒時間が慢性的に遅れる。一方、非24時間型睡眠・覚醒症候群では、生体リズムが24時間の環境リズムに同調できず24時間より長い周期の概日リズムを有し、入眠時間と覚醒時間が毎日少しずつ(約1時間)後退して睡眠相が定まらない。それら概日リズム睡眠障害は、遺伝的に生じやすい体質があることも分かってきており、不登校や引きこもり、さらには鬱の発症や促進にも関与することが知られており、社会生活に支障をきたすため深刻な問題となっている。
上記のような概日リズムの変調を調整するために様々な取り組みがなされており、例えば高照度光を一定時間照射することにより、体内時計の位相を変化(前進)させて概日リズムを調整できることが報告されている(例えば、特許文献1および2)。光刺激は主として目の網膜から網膜視床下部路を通って視交叉上核に伝えられて体内時計の位相変化の誘導に寄与すると考えられており、網膜から視床下部への経路に障害がある場合その効果は制限される。
また、薬剤による治療法として、概日リズム調節に関与する内因性ホルモンであるメラトニンやメラトニン作用物質などを用いて概日リズム障害を治療または改善する試みがなされている(例えば、特許文献3および4)。さらには、概日リズムを調整できる新規化合物や方法を探索する様々な試みが行われている(例えば、特許文献5および6)。
しかしながら、人間でのメラトニンの作用効果は限定的であり、また催眠作用や内分泌系の作用など他の生理学的活性も有しており、長期投与による副作用が懸念される。さらに、報告されている他の概日リズム調整剤もその安全性が不明であり、また投与するタイミングにより効果が異なるなどの問題がある。従って、副作用がなく、より安全かつ簡便に概日リズムを調整できる物質および方法が尚強く望まれている。
さらに、上記のような従来の概日リズムを調整する方法および薬剤は、概日リズムの位相を変化(前進)させるものであり、概日リズムの周期の長さを調節できる新規な物質および方法が望まれている。
一方で、芳香療法(アロマテラピー)において、脳機能や自律神経系、内分泌系などの様々な生体機能に対する香料の影響が検討されており、バレリアンオイルはストレス緩和や意識水準を鎮静させることが報告されている(例えば、特許文献7および8)。しかしながらこれまで、概日リズムに対する嗅覚刺激の影響については全く知られていなかった。
国際公開第9616697号パンフレット 国際公開第9719720号パンフレット 特開平6-72874号明細書 特開2003-335691号明細書 特表平11-515014号明細書 特開2003-81829号明細書 特開平10-204473号明細書 再表01/098442号明細書
本発明は、上記のような事情に鑑み、安全性が高く長期間にわたり安心して使用できる概日リズム調整剤を提供することを目的とするものである。
本発明者は、バレリアンオイルの香りを嗅がせることによって概日リズムの周期を変化させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。これまで、香料(精油)の香りが概日リズムに影響を及ぼすことは全く知られていなかった。
本発明の概日リズム調整剤はバレリアンオイルを有効成分とすることを特徴とする。バレリアンオイルを吸入させることによって、嗅覚刺激を介して概日リズムを調整することができる。
本発明の概日リズム調整剤は、香料成分(バレリアンオイル)を用いるため副作用がなく、長期間に亘り安全に概日リズムを調整することができ、上記のような概日リズムの不調を原因とする、時差ぼけ症候群、交代勤務症候群、睡眠相遅延症候群、非24時間型睡眠・覚醒症候群などの諸症状を、安全かつ簡便に改善等することを可能にする。特に、揮発させたバレリアンオイルの香りを嗅がせて嗅覚刺激を介して概日リズムを調整するため、視覚障害などにより光照射の同調機構に支障がある患者にも適用可能である。さらに、本発明の概日リズム調整剤は揮発性の精油であり、またその効果が適用のタイミングに依存しないため、様々な態様および製品形態への応用が可能である。種々の方法で気化させたバレリアンオイルを呼吸とともに微量ずつ吸入させることで穏やかな効果を期待でき、また、時間や回数など意識させることなく長期間に亘り適用することが可能である。
CT2にバレリアンオイルの香りを嗅がせたときの自発活動の概日リズムパターンの変化を示すグラフ。
本発明において用いられるバレリアンオイルは、セイヨウカノコソウや、その近縁種であるカノコソウ(Valeriana oficinalis L.var latifolia Miq.(V japonica Makino))、エゾカノコソウ(V.fauriei forma yezoensis)、インドカノコソウ(V.wallichii D.C.)等の根茎等から公知の方法、例えば水蒸気蒸留や溶媒抽出等の方法で得た精油を用いることができる。また、これらセイヨウカノコソウ及びその近縁種から採油された精油がバレリアンオイル(Valerian oil)やカノコソウオイル、吉草根オイル(Kisso root oil,Japanease valerian oil)として市販されており、これらは日本産、中国産、欧州産等産地に関わらず用いることができる。
一般に上記天然バレリアンオイルは、通常数種類以上の脂肪酸を含んでおり、特に悪臭成分の酢酸やイソ吉草酸を含んでいるため、本発明ではこれら悪臭成分を除去した改質バレリアンオイルを用いることがより好ましい。本明細書において、「バレリアンオイル」の語はそのような改質バレリアンオイルを含む。
改質バレリアンオイルは、例えば、特開平10−204473号公報に記載されているように、上記天然バレリアンオイルからアルカリ処理によって脂肪酸を含む酸性成分を除去することにより得ることができる。具体的な製造方法としては、まず脂肪酸含有バレリアンオイルを有機溶媒、好ましくはエーテルに溶解し、これにアルカリ水溶液を加えて抽出操作を行い、脂肪酸を含む酸性成分を抽出除去する。アルカリ水溶液としては、通常抽出操作で汎用されるものであれば無機塩基、有機塩基を問わず用いることができるが、好ましくは炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液であり、特に炭酸水素ナトリウム水溶液で抽出後、さらに水酸化ナトリウム水溶液で抽出することが好ましい。得られた有機溶媒層を無水硫酸マグネシウム等で乾燥後、有機溶媒を減圧留去し、脂肪酸が除去されたバレリアンオイルを得る。
あるいは、特開平1−254628号公報に記載のように、減圧蒸留により80℃以下の低沸点部を除去することによっても脂肪酸の悪臭成分を除去したバレリアンオイルを調製することができる。
本発明の概日リズム調整剤は、バレリアンオイル単独で用いてもよいが、本発明の効果を達成できる限り、他の任意の香料と適当な割合で調合して好適な香となるように調香して用いてもよい。あるいは、様々な対象物に含めることができ、その対象物の種類に応じて、バレリアンオイルの他に、通常その対象物に含まれる任意の構成要素をさらに含めてよい。また、他の概日リズムを調整する薬剤とバレリアンオイルを併用してもよい。
本発明の概日リズム調整剤を含む対象物は、バレリアンオイルが気化して吸入可能な形態で配合され得るものであればどのようなものでもよく、その剤型や製品形態によって限定されるものではない。
例えば、本発明の概日リズム調整剤を含む組成物の製品形態として、限定はされないが、化粧料、医薬品、医薬部外品、食品、飲料等が挙げられ、またその剤形として、例えば、液剤、粉末剤、顆粒剤、エアゾール剤、固形剤、ジェル剤等が挙げられる。
好適な態様の1つである化粧料として、限定はされないが、例えば、香水、オードトワレ、オーデコロン、クリーム、乳液類、化粧水、ファンデーション類、粉白粉、口紅、石鹸、シャンプー・リンス類、ボディーシャンプー、ボディーリンス、ボディーパウダー類、浴剤類等が挙げられる。
さらに、例えば、芳香剤、消臭剤、アロマキャンドル、インセンス、文房具、財布、バッグ、靴等の任意の雑貨類や、例えば下着、洋服、帽子、ストッキング、靴下等、任意の衣類に、バレリアンオイルを含めることができる。それらの素材にバレリアンオイルを加えても、あるいはそれらの製品にバレリアンオイルを加えてもよい。
尚、本発明の概日リズム調整剤の様々な使用態様を例示したが、それらに限定されるものではなく、本発明の効果を達成できる限り、任意の態様で用いることができる。また、具体的な態様に応じて、バレリアンオイルの他に、本発明の効果を損なわない限り一般的な香料成分を配合することができる。
上記のような対象物中の本発明の概日リズム調整剤の配合量は、他の配合成分および用途等によって適宜選択することができ、特に限定されないが、通常、対象物の全質量に対して、0.0001質量%以上であり、より好適には0.001質量%以上であり、さらに好適には0.01質量%以上である。
本発明において、「バレリアンオイルを吸入させる」とは、気化した香料成分の吸入によって嗅覚を刺激することを意味し、そのやり方や手段は特に限定されず、例えば、香料成分またはそれを含有する組成物を皮膚に直接塗布したり、または直接吸入させてよく、あるいは香料成分を配合した芳香剤、消臭剤、アロマキャンドル、インセンス、文房具、財布、バッグ、靴等の任意の雑貨類や、例えば下着、洋服、帽子、ストッキング、靴下等の任意の衣類を介して、その香りを嗅がせてもよい。
尚、本発明の概日リズム調整剤やそれを配合した対象物の具体的な適用は、概日リズムの調整に関連するものであれば特に限定されない。例えば、時差ぼけ症候群、交代勤務症候群、睡眠相遅延症候群、非24時間型睡眠・覚醒症候群、概日リズム睡眠障害を有する鬱状態など、さらにはそれら概日リズム障害に付随する不眠、体調不調、注意欠損、意欲低下、肌荒れなどの諸症状の予防、改善または治療等に適用できる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。尚、実施例では、バレリアンオイルとして、特開平10−204473号公報に記載の方法によりアルカリ処理によって脂肪酸を除去したものを用いた。
実施例1
概日リズムに対する嗅覚刺激の効果の検討
外界からの刺激を遮断してフリーラン状態にしたラットに、バレリアンオイルの香りを嗅がせて概日リズムに対する嗅覚刺激の効果を検討した。
12時間ごとの明暗周期(8時〜20時まで点灯)で24℃の恒温動物室にて1週間以上飼育した初体重約250gのWister系雄ラットを実験で使用した。餌(オリエンタル酵母、MF)及び水は自由摂取させ、ケージ交換は1週間毎に行った。
照度コントローラーを設置して照明条件を変更できるようにした遮光防音箱の中で1匹ずつラットを飼育した。赤外線センサーを利用したアクティビティーメーターを用いてラットの自発活動量を継続的に計測および記録した。
まず、遮光防音箱に入れたケージの中で、毎日9時から21時まで照明を点灯し、21時から翌日の9時まで消灯させる12時間毎の明暗周期に2週間同調させた後、全く照明を点灯させない常暗条件下で2週間以上飼育して、自発活動の概日リズムをフリーラン状態にさせた(フリーラン期間)。次に、各ラットの主観的暗期の終わりをCT(概日時間)0として、所定の主観的時刻(CT2, CT4, CT6, CT8, CT10, CT12, CT14, CT16, CT18またはCT20)に、無臭の溶媒であるクエン酸トリエチル(和光純薬社)で1%に希釈したバレリアンオイル溶液、または対照としてクエン酸トリエチルのみを、香り散布装置を用いて300μl/日となるように飼育遮光防音箱内に30分間送気して香りを嗅がせた(各群3匹ずつ)。10日間繰り返して同様に所定の主観的時刻にバレリアンオイル溶液またはクエン酸トリエチルを30分間送気して香りを嗅がせた。
アクティビティーメーターで記録したラットの自発行動を、概日リズム解析ソフトを用いて解析し、ラットごとに、フリーラン期間の概日リズムの周期と、その後香り刺激を与えたときの概日リズムの周期とを比較して、香り刺激による概日リズムの周期の変化を調べた。
図1に、CT2のタイミングで30分間バレリアンオイルを嗅がせたときの自発活動の概日リズムパターンの変化を示す。縦軸はアクティビティーメーターで測定した30分毎のラットの自発運動量を示す。横軸は時刻を表し、各行の後半の0時から24時の自発活動量を次の行の前半の0時から24時に再表示するダブルプロット法により表示した。上段の14日間がフリーラン期間であり、下段の10日間がバレリアンの香りに暴露させた期間(香り暴露期間)である。
香り刺激を所定の主観的時刻に10日間与えたときの概日リズム周期からフリーラン期間の概日リズム周期を減算して、香り刺激を与えることによる概日リズム周期の変化を算出した。結果を表1に示す(平均値;n=3)
Figure 2010215561
バレリアンオイルの香りを嗅がせて嗅覚刺激を与えることにより、対照と比較して概日リズムの周期が変化した。
上述したように、人の内因性の生体リズムは一般的に24時間より長い周期を有しており、地球の自転に伴う24時間の環境周期(明暗周期)に概日リズムを同調させることによって生体リズムが地球の環境周期にうまく適応できるように調整されているが、様々な先天的または後天的な要因により、それら概日リズム調整機構がうまく機能しなくなると、一旦ずれた位相や周期のずれを調節できなくなり、様々な概日リズム障害が引き起こされると考えられている。バレリアンオイルは、概日周期を短縮させることにより、特に24時間の環境リズムに同調できず24時間より長い周期の概日リズムを有するような場合に周期を調整して、概日リズム障害を改善等できる。
実施例2
バレリアンオイルの成分分析
実施例1で得られたバレリアンオイルの効果に寄与する香料成分を調べるため、バレリアンオイルのガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリーによる成分分析を実施した。分析は、カラム:HP−INNOWAXキャピラリーカラム(60m x 0.25mm x 0.25μm)、昇温:60℃→230℃(50分、4℃/分)、キャリアーガス:ヘリウム(1ml/min.)、イオン化電圧:70eVの条件で行った。得られたマススペクトロメトリーについて、WILLEYマススペクトラルデータベースにより成分を同定した。バレリアンオイルのガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリーにより同定された成分の分析結果一例を表2に示す。
Figure 2010215561
表2に示すように、バレリアンオイルの主要成分はボルニルアセテートであった。ボルニルアセテートとバレリアンオイルは香りの質が類似しており、嗅覚刺激として生体機能に同様の効果を及ぼすと考えられることから、ボルニルアセテートにはバレリアンオイルと同様の概日リズム調整効果が期待できる。

Claims (2)

  1. バレリアンオイルを有効成分とする概日リズム調整剤。
  2. バレリアンオイルを吸入させることにより概日リズムを調整する請求項1記載の概日リズム調整剤。
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