JP7338828B2 - 認知機能向上用組成物 - Google Patents
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Description
[1]紅茶香気成分を有効成分として含んでなる、認知機能の向上、維持および/または改善に用いるための組成物(本明細書において「本発明の組成物」ということがある)並びに認知機能の向上剤、維持剤および改善剤(本明細書において「本発明の用剤」ということがある)。
[2]認知機能が、記憶機能である、上記[1]に記載の組成物および用剤。
[3]記憶機能が、長期記憶機能である、上記[2]に記載の組成物および用剤。
[4]認知機能が、注意機能である、上記[1]に記載の組成物および用剤。
[5]認知機能が、記憶獲得機能および/または記憶定着機能である、上記[1]に記載の組成物および用剤。
[6]紅茶香気成分が、ゲラニオール、リナロールオキシドおよび2-フェニルエタノールからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[7]健常者に用いるための、上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[8]認知機能の向上、維持および/または改善により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療、予防または改善に用いるための、上記[1]~[7]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[9]気道を介した吸入用組成物である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[10]食品または経口製剤の形態である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[11]乳タンパク質酵素分解物を有効成分としてさらに含んでなる、上記[10]に記載の組成物。
[12]乳タンパク質酵素分解物またはそれを含有する組成物と組み合わせて使用するための、上記[10]に記載の組成物。
・記憶力を持続する、高める、向上させる、改善する、増強する、サポートする、維持する
・認知機能を持続する、高める、向上させる、改善する、増強する、サポートする、維持する
・記憶力の維持に役立つ、低下を防止する
・集中力を持続する、高める、向上させる、改善する、増強する、サポートする、維持する
・うっかりを防止する、物忘れを防止する
・記憶の定着を向上させる、記憶の精度を高める
・加齢に伴う記憶の低下を抑制する
(1)試験成分の調製
紅茶香料は、ディンブラ紅茶葉から常法に従って香気成分を抽出して紅茶香料(溶媒:エタノール)を調製し、これを試験成分とした(以下、例2~5において同じ)。また、対照成分としてMilliQ水を用いた。濾紙(Whatman社製、定性濾紙グレード1、2cm×2cm、以下同じ)1枚あたり100μLの試験成分または対照成分を吸収させ、これを6枚ずつ作製した。
10週齢雄のC57BL/6マウス(オリエンタル酵母工業社)を1ケージ(縦18.2cm、横26cm、高さ12.8cm)に1匹ずつ飼育して3時間馴化し、実験群と対照群(各群3匹)に分けた。実験群のマウス1匹あたり上記(1)で作製した試験成分(紅茶香料溶液)を吸収させた濾紙2枚を、また、対照群のマウス1匹あたり対照成分(MilliQ水)を吸収させた濾紙2枚をケージの床において、それぞれ30分間呈示した。該濾紙の呈示開始から1.5時間後に4%パラホルムアルデヒドで還流固定を行い、脳を摘出した。次いで、30%スクロースに置換した後、OTCコンパウンドに脳を包埋し、ミクロトーム(Leica CM3050、Leica社製)を用いて1匹の脳あたり厚さ30μmの切片を作製した。
結果を図1に示す。
(1)試験方法
11週齢雄のICRマウス(日本チャールズリバー社)5匹を用いた。マウスを断頭し、脳をすばやく摘出し、2mMとなるように4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)(GIBCO社製)を加えて冷却したハンクス平衡塩溶液(HBSS)(GIBCO社製)に入れた。Neo-Linear Slicer-MT(堂阪EM社製)を用いて、海馬を含有する脳スライスを作製した。5匹のマウスから厚さ300μmの矢状脳スライスを作製し、1試験区あたり脳スライス4枚を用いて4反復のデータを取得した。また、試験成分として、上記例1(1)で調製した紅茶香料溶液を用いた。具体的には、紅茶香料溶液濃度が0%(非添加)、0.001%、0.01%または0.1%となるよう2mM HEPESを含むHBSSに添加することにより、対照区(非添加)および3試験区の紅茶香料サンプルを調製し、37℃で保温した。脳スライス1枚あたり500μLの紅茶香料サンプルを添加し、30分後に100μLの紅茶香料サンプルを回収した(回収サンプル)。各回収サンプルを除タンパク処理した後、HPLC-ECDシステム(700series、エイコム社製)を用いてセロトニン(5-HT)、ドーパミン(DA)、ドーパミンから合成されるノルエピネフリン(NE)並びにドーパミン代謝物であるジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)、3-メトキシチラミン(3-MT)およびホモバニリン酸(HVA)の濃度を測定した。なお、セロトニン、ドーパミンおよびノルエピネフリンはモノアミン神経系の神経伝達物質であり、セロトニンは脳機能において様々な機能に関与し(Adv.Pharmacol.,68:167-197(2013))、ドーパミンは認知機能、記憶機能といった高次脳機能に関与し(日生誌,65(4-5):113-129(2003))、ノルエピネフリンは注意機能、記憶・学習機能等に関与する(総合リハ,25(11):1229-1236(1997))。
結果を図2に示す。
本例から、紅茶香料またはその構成成分が脳内に移行し薬理効果を発揮している可能性が示された。ここで、紅茶成分やその構成化合物が脳内で薬理効果を発揮するという報告はないが、他の化合物では嗅覚刺激を介して該化合物が脳内で薬理効果を発揮するとの報告がある(例えば、臨床神経生理学,42(4):87-99(2014))。従って、本発明の紅茶香気成分による薬理効果(認知機能向上等)については、紅茶香料やそれを構成する化合物が脳内に移行することによって発揮される機序も含まれると考えられた。本発明の紅茶香気成分による薬理効果の機序が化合物の直接の脳内移行によるものに起因することを前提とすると、本発明の紅茶香気成分による薬理効果の発揮は、経口摂取等により体内に取り込まれてから血流を介しまたは何らかのシグナル伝達を介して発揮される薬理作用よりも即効性があるものと考えられる。従って、本発明の紅茶香気成分は、即効性を有する点で有利であるといえる。
(1)分析方法
上記例1(1)で調製した紅茶香料溶液について、以下の条件にてガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を行い、紅茶香料に含まれる各種成分の含有量を測定した。分析に際して使用した標準品は、リナロール(東京化成工業社製、以下同じ)、ゲラニオール(シグマアルドリッチ社製、以下同じ)、ベンジルアルコール(シグマアルドリッチ社製、以下同じ)、リナロールオキシド(東京化成工業社製、以下同じ)および2-フェニルエタノール(東京化成工業社製、以下同じ)の純品を用いた。
装置(リナロールオキシド以外の分析):7890A/5875C inertXL(Agilent Technologies社製)
装置(リナロールオキシドの分析):7890A/5975C inertXL(Agilent Technologies社製)
カラム(リナロールオキシド以外の分析):DB-WAX UI(長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm、Agilent Technologies社製)
カラム(リナロールオキシドの分析):DB-WAX(長さ30m、内径0.25mm、
膜厚0.25μm、Agilent Technologies社製)
注入量:1μL
注入口温度:150℃
カラム槽昇温:60℃(1分間)→15℃/分→220℃
ヘリウムガス流量:1mL/分
(1)認知機能の評価方法(新奇物体認識試験)
マウス等の齧歯類は、新奇物体と認識すると探索欲求からこれに接近し、形状の確認、匂いを嗅ぐ等の探索行動を行う。このとき、記憶している物体に対しては探索行動をとらないか、もしくは新奇物体と比較して探索行動の時間(探索時間)が短くなる。新奇物体認識試験はこの性質を利用するものであり、記憶状態を評価することができる。本実施例では新奇物体認識試験により各種成分の記憶への影響について評価を行った。
ア 準備
6週齢雄のCD-1マウス(日本SLC社)を24時間馴化し、実験群と対照群(各群10匹)に分けた。香気成分として上記例1(1)と同様にして調製した紅茶香料溶液(試験成分)、ゲラニオール(和光純薬工業社製、以下同じ)、リナロールオキシド(東京化学工業社製、以下同じ)、2-フェニルエタノール(和光純薬工業社製、以下同じ)、または5成分混合物(ゲラニオール、リナロールオキシド、2-フェニルエタノール、ベンジルアルコール(和光純薬工業社製、以下同じ)、リナロール(和光純薬工業社製、以下同じ)を含む混合物)を表2に示す濃度となるよう流動パラフィン(和光純薬工業社製、以下同じ)で希釈して調製し、対照溶液は何も溶解させない流動パラフィンを対照溶液とした。試験成分溶液または対照溶液を満たした試験管内に濾紙(Whatman社製、ガラス繊維濾紙、グレードGF/B、φ25 mm)を浸して溶液を吸収させた。次いで、濾紙をディフューザー(クリアフォレストエアリーフ、ミクニ社製)に装着し、香気成分呈示に用いるケージ(縦22.5cm、横33.8cm、高さ14cm、以下「香気成分呈示用ケージ」と記載することがある。)内にセットした。なお、5成分混合物は、各成分の流動パラフィン中の濃度を表2に示す濃度となるように5成分を混合して調製した。
イ 各個体への香気成分の呈示
各個体への香気成分の呈示および試行は、室温およそ23℃、湿度およそ55.5±5%に調整された室内で行った。獲得試行の直前にマウス1匹を香気成分呈示用ケージに入れ(試験開始)、ケージ内で5分間自由探索させることにより香気成分を呈示(1回目の香気成分呈示)した。直後にケージ外で獲得試行を行った。試験開始から24時間後にマウス1匹を再度香気成分呈示用ケージに入れ、ケージ内で5分間自由探索させることにより香気成分を呈示した(2回目の香気成分呈示)。直後にケージ外でテスト試行を行った。上記1回目の香気成分呈示~テスト試行の手順による試験を各個体に対して行った。なお、2回の香気成分呈示において、ディフューザーの稼働は、香気成分呈示用ケージへのマウスの入室と同時に開始し、マウスの退室と同時に終了させた。
結果を図4および図5に示す。
(1)認知機能の評価方法(新奇物体認識試験)
認知機能は、上記例4(1)に記載の方法に従って評価した。
5週齢のICRマウス(日本チャールズリーバー社)を1ケージ(大きさは例5と同じ)に5匹ずつ飼育して1週間馴化した。香気成分としてゲラニオールは0%(V/V)(対照)、0.0001%(V/V)、0.001%(V/V)、0.01%(V/V)(以上、「低濃度ゲラニオール試験」という)、0%(V/V)(対照)、0.01%(V/V)、0.03%(V/V)、0.1%(V/V)、0.3%(V/V)、リナロールオキシドまたは2-フェニルエタノールをそれぞれ0%(V/V)(対照)、0.01%(V/V)、0.03%(V/V)、0.1%(V/V)、0.3%(V/V)となるように調製した。香気成分呈示用ケージの大きさを13.6cm、横20.8cm、高さ11.5cm、獲得試行前の香気成分の呈示時間を10分間とした以外は、上記例4(2)に記載の方法に従って行った。なお、ゲラニオール試験群は各群15匹とし、低濃度ゲラニオール試験、リナロールオキシド試験群および2-フェニルエタノール試験群は各群10匹とした。
結果を図6に示す。
本実施例では新奇物体認識試験により、香気成分の呈示タイミングと記憶機能の関係性を評価した。
認知機能は、上記例4(1)に記載の方法に従って評価した。
香気成分の呈示方法は、上記例5(2)に記載の方法に従って行った。香気成分としてゲラニオールを0%(V/V)(対照)、0.001%(V/V)となるように調製した。香気成分の呈示タイミングは下記の4パターンとし、各群10匹とした。なお、香気成分として対照を呈示したものを「香気成分呈示:なし」と記載した(以下、同じ)。
・対照群 獲得試行前香気成分呈示:なし、テスト試行前香気成分呈示:なし
・試験群1 獲得試行前香気成分呈示:なし、テスト試行前香気成分呈示:あり
・試験群2 獲得試行前香気成分呈示:あり、テスト試行前香気成分呈示:なし
・試験群3 獲得試行前香気成分呈示:あり、テスト試行前香気成分呈示:あり
結果を図7に示す。図7の結果から、獲得試行前のみ香気成分を呈示した試験群2では、対照群に比べて有意にDiscrimination indexが高くなり、獲得試行前・テスト試行前どちらも呈示した試験群3と同程度であることが確認された。テスト試行前のみ香気成分を呈示した試験群1では、対照群に比べて有意な差はなかった。
本実施例では新奇物体認識試験により、香気成分の呈示タイミングと記憶機能の関係性を評価した。
認知機能は、上記例4(1)に記載の方法に従って評価した。
香気成分の呈示方法は、テスト試行前の香気成分の呈示時間を10分間とした以外は、上記例5(2)に記載の方法に従って行った。香気成分としてゲラニオールを0%(V/V)(対照)、0.001%(V/V)となるように調製した。香気成分の呈示タイミングは下記の2パターンとし、各群10匹とした。
・対照群 獲得試行前香気成分呈示:なし、テスト試行前香気成分呈示:なし
・試験群 獲得試行前香気成分呈示:なし、テスト試行前香気成分呈示:あり
結果を図8に示す。図8の結果から、対照群とテスト施行前のみ香気成分を呈示した試験群のDiscrimination indexは同程度であった。
上記例6と例7の結果から、香気成分の吸入によりDiscrimination indexが増加するメカニズムは、プルースト効果(ある特定の匂いを嗅ぐことで、過去の関連する記憶が誘発される現象)ではなく、獲得施行前の香気成分の吸入によって、物体の形状の記憶が定着し、長期記憶が増強されたこと(すなわち、記憶獲得機能および/または記憶定着機能)に起因することが示唆された。よって、紅茶香気成分は認知機能の向上において、記憶行動時のみの吸入で薬理効果を発揮できるといえる。
本試験では、特定の香気成分を呈示することと認知機能改善用組成物の摂取を併用したときの記憶機能に対する影響を評価した。
乳清(ホエイ)に含まれるタンパク質を、特定の微生物由来酵素で処理することにより産生される特定アミノ酸配列を有するペプチドに、認知機能改善効果があることが報告されている(Ano et al., Neurobiology of Aging, 72(2018)23-31および国際公開第2017/086303号)。
認知機能は、上記例4(1)に記載の方法に従って評価した。
ホエイ酵素分解物(HW-3、雪印メグミルク社)を0.5mg/mLとなるように蒸留水に懸濁した。蒸留水(対照)またはホエイ酵素分解物懸濁液を、1日1回、3日間(試験の前日、試験当日の獲得試行・テスト施行のそれぞれ1時間前)、10mL/kgでマウスに強制経口投与した。なお、本ホエイ酵素分解物を国際公開第2017/086303号に記載のLC/MS/MS法で分析したところ、テトラペプチドGTWYは1.61mg/g、ジペプチドWYは0.65mg/g含まれていた。
香気成分の呈示方法は、上記例5(2)に記載の方法に従って行った。香気成分としてゲラニオールを0%(V/V)(対照)、0.0001%(V/V)、となるように調製した。
・対照群 香気成分呈示:なし、ホエイ酵素分解物投与:なし
・試験群1 香気成分呈示:なし、ホエイ酵素分解物投与:あり
・試験群2 香気成分呈示:あり、ホエイ酵素分解物投与:なし
・試験群3 香気成分呈示:あり、ホエイ酵素分解物投与:あり
結果を図9に示す。図9の結果から、対照群と比較して、ホエイ酵素分解物の経口投与のみを行った試験群1と、香気成分の呈示のみを行った試験群2では、P<0.05で有意にDiscrimination indexが高く、併用した試験群3では、さらにDiscrimination indexが高くなることが確認された。よって、ホエイ酵素分解物摂取のみ、または、香気成分の吸入のみによって長期記憶の増強効果が得られることが示された。また、香気成分の吸入とホエイ酵素分解物摂取の併用は、長期記憶の増強に対して、併用効果を有することが示された。
本試験では、特定の香気成分を呈示することと認知機能改善用組成物の摂取を併用したときの記憶機能に対する影響を評価した。
認知機能は、上記例4(1)に記載の方法に従って評価した。
ホエイ酵素分解物の投与方法は、上記例8(3)に記載の方法に従って行った。
香気成分の呈示方法は、上記例5(2)に記載の方法に従って行った。香気成分としてゲラニオールを0%(V/V)(対照)、0.00001%(V/V)、0.0001%(V/V)となるように調製した。
・対照群 香気成分呈示:なし、ホエイ酵素分解物投与:なし
・試験群1 香気成分呈示:なし、ホエイ酵素分解物投与:あり
・試験群2 香気成分呈示:あり(0.00001%)、ホエイ酵素分解物投与:なし
・試験群3 香気成分呈示:あり(0.00001%)、ホエイ酵素分解物投与:あり
・試験群4 香気成分呈示:あり(0.0001%)、ホエイ酵素分解物投与:なし
・試験群5 香気成分呈示:あり(0.0001%)、ホエイ酵素分解物投与:あり
結果を図10に示す。図10の結果から、対照群と比較して、ホエイ酵素分解物の経口投与のみを行った試験群1と、ゲラニオール0.00001%(V/V)の呈示のみを行った試験群2に比べて、ホエイ酵素分解物とゲラニオール0.00001%(V/V)を併用した試験群3では、Discrimination indexが高くなることが確認された。また、ゲラニオール0.0001%(V/V)に関する試験群4および5においても同様の結果が得られた。よって、香気成分の吸入とホエイ酵素分解物の摂取を組み合わせることによって長期記憶が増強することが確認された。
上記例8と例9の結果から、香気成分の吸入とホエイ酵素分解物の摂取は長期記憶の増強に対して、併用効果を持つことが示された。この結果から、ホエイ酵素分解物を含む食品や経口製剤へのゲラニオールの賦香や、ゲラニオール含有の食品とホエイ酵素分解物含有の食品や経口製剤との併用により、記憶機能の向上効果がさらに高まるといえる。
(1)試験の概要
本試験は単盲検試験とし、被験香料または対照香料を鼻から吸入させた時の認知機能を評価した。ここで、交感神経機能の亢進により認知機能に影響を及ぼすことが知られていることから(Journal of Physiology,454:373-87,1992、Applied Psychophysiology Biofeedback,37(4):219-27,2017)、認知機能の評価は自律神経系を評価することにより行った。具体的には、20歳以上65歳以下の健康な男女に、被験香料として紅茶香料またはその構成成分である化合物1種類を含む香料を、対照香料として蒸留水をそれぞれ吸入させて自律神経反応を評価した。
25歳以上51歳以下の健康な男女7名(男性5名、女性2名)を被験者とし、後述のスケジュールによりすべての被験者にすべての試験香料に対する試験を行った。
試験方法の概略として、試験スケジュールを表3に示した(○印は試験を実施したことを示す)。試験日1に対照香料吸入時の自律神経反応評価と、いずれかの被験香料吸入時の自律神経反応評価を行った。試験日2以降も被験香料を替えて同じ評価を行い、試験日4までにすべての被験香料が評価できるようにした。なお、試験は1日以上間隔を空けて行い試験日が連続しないようにした。また、自律神経反応の評価は後述のように瞳孔反応を測定することにより行った。
ア 試験香料の吸入方法
2cm×2cmにカットしたろ紙(Kimberly-Clark製wiper 33330)に試験香料 0.05mLを染み込ませてアロマディフューザー(ミクニ社製FAD01)にセットした。アロマディフューザーは被験者の鼻から約10cm離した位置に設置し、揮散する香気成分を鼻から吸入させた。各試験香料の吸入時間は1分間とした。なお、ろ紙は被験者毎に交換した。
試験香料の処方は表4に示される通りであった。対照香料以外は50%含水エタノールを溶媒とする香料である。なお、紅茶香料はディンブラ紅茶葉から常法に従って抽出して製造したものであり、紅茶香料中の主要な香気成分として知られる成分の含有量は例3に記載の方法で定量し、表中に記載した。
ア 測定項目
所定の可視光の刺激に対する瞳孔の反応について、縮瞳相とその後の散瞳相を自動的に測定・解析し、縮瞳率CR(contraction rate of pupils:瞳孔横径変化量/最大瞳孔横径×100)と最大散瞳速度VD(maximum velocity of mydriasis:散瞳速度の最高値)を求めた。前者は副交感神経活動の指標として、後者は交感神経活動の指標として汎用されるものである。いずれも、値の増加が神経活動の亢進と評価される。
測定は瞳孔の日内変動の影響を避けるため、一定の時刻(午前9時から12時)に行った。また、他の因子の自律神経系への影響を避けるため、測定の前2時間は飲食、特にカフェインを含む飲食品の摂取を禁止した。測定は暗室内で行い、測定・解析には瞳孔記録計(イリスコーダデュアルC10641、浜松ホトニクス社製)を使用した。
(i)ブランク測定2回、対照香料吸入中2回、休憩5分、対照香料の吸入中2回の測定を行った。ブランク値は、瞳孔反射の個人差・日間差を補正して相対値を算出するために測定した(後記「(6)評価と解析」参照。)。
(ii)対照香料での測定終了後、5分間の休憩をさせ、同様の測定をいずれかの被験香料についても行った。
(iii)上記(3)で述べたように、(i)および(ii)の測定を試験日1から試験日4に行うことで、被験者全員にすべての被験香料についての評価を受けさせた。なお、(i)および(ii)により、被験者1名1日あたり12回の測定が行われた。
上述のように、対光反射測定で得られた縮瞳率CRを副交感神経活動の指標として、最大散瞳速度VDを交感神経活動の指標として評価した。ブランクでの測定値と試験香料の測定値から相対値(相対CRまたは相対VD)を算出した。算出は下記式(4)および式(5)により行った。そして、被験者毎に同一試験日における対照香料と被験香料の相対値を得、被験者全員の値を1標本t検定で比較することにより、被験香料の効果を評価した。
紅茶香料、2-フェニルエタノール、ゲラニオールを単一もしくは組み合わせて鼻から吸入することにより、自律神経活動に作用し、交感神経活動が亢進することが確認された。交感神経活動を優位にする香りが脳を活性化し認知機能の改善に寄与することが報告されている(新島,自律神経,45(5),178-184(2008)、永井,日本看護研究学会雑誌,23(4),11-17(2000)、Jimbo D, et al.; Psychogeriatrics, 9:173-179(2009))ことから、紅茶香料、2-フェニルエタノール、ゲラニオールを単一もしくは組み合わせについても、交感神経活動を亢進して脳を活性化し、認知機能を改善すると考えられた。
Claims (10)
- リナロールおよび/またはリナロールオキシドを有効成分として含んでなる、認知機能の向上、維持および/または改善に用いるための、気道を介した吸入用組成物であって、有効成分が嗅覚刺激を介して認知機能を向上、維持および/または改善し、前記認知機能が長期記憶機能、注意機能、記憶獲得機能および/または記憶定着機能である、組成物。
- 有効成分がリナロールオキシドである、請求項1に記載の組成物。
- 健常者に用いるための、請求項1または2に記載の組成物。
- 認知機能の向上、維持および/または改善により治療、予防または改善しうる疾患または症状の治療、予防または改善に用いるための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
- 食品または経口製剤と併用するものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
- 食品または経口製剤が乳タンパク質酵素分解物を含んでなる、請求項5に記載の組成物。
- リナロールオキシドを有効成分として含んでなる、認知機能の向上、維持および/または改善に用いるための組成物であって、前記認知機能が注意機能であり、前記組成物が食品または経口製剤であり、摂取または投与により有効成分が口腔および咽頭を通じて鼻腔内に拡散し、それにより嗅覚を刺激する、組成物。
- リナロールを有効成分として含んでなる、認知機能の向上、維持および/または改善に用いるための組成物であって、前記認知機能が注意機能であり、前記組成物が食品または経口製剤であり、摂取または投与により有効成分が口腔および咽頭を通じて鼻腔内に拡散し、それにより嗅覚を刺激する、組成物。
- 乳タンパク質酵素分解物またはそれを含有する組成物と組み合わせて使用するための、請求項7または8に記載の組成物。
- 認知機能の向上、維持および/または改善に用いるための組成物の製造のためのリナロールオキシドの使用であって、前記認知機能が長期記憶機能、注意機能、記憶獲得機能および/または記憶定着機能であり、前記組成物が食品または経口製剤である、使用。
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