本発明の一実施形態について図1ないし図10に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものである。
(I)ポリイミド系多層フィルムの製造方法
本発明は、少なくとも二種以上のポリイミド系化合物(ポリイミドを含有する樹脂組成物)からなる二層以上の多層フィルム(ポリイミド系多層フィルム)を製造する技術である。
具体的には、本発明では、支持体上に多層液膜を形成する際に、当該多層液膜を構成する複数層の液膜のうち、任意の1層の液膜について、その幅を他の層よりも広くすることにより、多層液膜の端部のみを単層構造とする。好ましい実施形態としては、多層共押出ダイを用いて多層液膜を形成する形態を挙げることができ、このとき、多層共押出ダイの特定の流路にインナーディッケルを挿入する。これにより、同時形成される各液膜の幅を変化させることができるので、端部のみ単層構造となった多層液膜を実質的に1段階で得ることができる。
本発明にかかるポリイミド系多層フィルム(説明の便宜上、単に、多層フィルムと略す場合がある)の製造方法においては、当該製造方法を工程に区分するとすれば、上記ポリイミド系ワニスを調製する工程(ワニス調製工程)、脱水剤および触媒を上記ポリイミド系ワニスに添加する工程(硬化剤添加工程)、上記ポリイミド系ワニスを用いて支持体上に多層液膜を形成する工程(多層液膜形成工程)、得られた多層液膜を乾燥して多層ゲルフィルムを得る工程(ゲルフィルム形成工程)、得られた多層ゲルフィルムを焼成してイミド化を完結させる工程(焼成工程)に区分することができる。以下、上記各工程の区分に基づいて製造方法を具体的に説明する。
<ワニス調製工程>
上記ワニス調製工程は、ポリイミド系化合物の溶液であるポリイミド系ワニスを調製する工程である。ここでポリイミド系化合物とは、ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)、さらには、これらの少なくとも何れかを含有する樹脂組成物を指すものとし、これを有機溶媒に溶解した溶液を、ポリイミド系ワニスと称する。
一般に、ポリイミドは、各種有機溶媒に対する溶解度が低く、溶液を調製し難いことが知られている。これに対して、ポリアミド酸は、比較的に多種類の有機溶媒に溶解させることが可能である。そこで、用いるポリイミド系化合物が任意の有機溶媒に対して十分な溶解度を有する場合には、当該有機溶媒を用いてポリイミド系ワニスを調製すればよいが、用いるポリイミド系化合物が、有機溶剤に対して十分な溶解度を有しない場合には、対応するポリイミド系化合物の前駆体であるポリアミド酸を任意の有機溶媒に溶解してポリイミド系ワニスを調製すればよい。また、本発明では、ポリイミドまたはポリアミド酸を溶液化する場合に、他の成分を加えてもよい。それゆえ、本発明における「ポリイミド系化合物」には、ポリイミド、ポリアミド酸、これらの少なくとも一方を含有する樹脂組成物が含まれる。
上記ポリイミド系ワニスに用いられる有機溶媒としては、ポリイミド系化合物を溶解可能な有機溶媒であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒;フェノール、o−、m−、またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等のフェノール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトン等の溶媒;等の有機極性溶媒を挙げることができる。これら有機溶媒は単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。さらに、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素も使用可能である。
上記有機溶媒の中でも、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド(DMAc)等のホルムアミド系溶媒を特に好ましく用いることができる。なお、有機溶媒中の水の含有はポリアミド酸の分解を促進するため、当該有機溶媒からは可能な限り水分を除去しておくことが好ましい。
本発明において用いられるポリイミド、またはその前駆体であるポリアミド酸は、ポリイミド骨格またはポリアミド酸骨格を有する化合物であれば、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、酸二無水物成分およびジアミン成分を重合用溶媒に溶解して重合することにより得られる前駆体(ポリアミド酸)、このポリアミド酸を化学的にまたは熱的に脱水することによりイミド化して得られるポリイミドを挙げることができる。
上記重合用溶媒としては、上述したワニス調製用の有機溶媒を好適に用いることができる。例えば、DMFやDMAc等の有機溶媒を重合用溶媒として用いれば、得られるポリアミド酸の有機溶媒溶液(ポリアミド酸溶液)をほぼそのままポリイミド系ワニスとして用いることができる。
上記酸二無水物成分およびジアミン成分については特に限定されるものではなく、公知の化合物を用いることができる。代表的には、無水ピロメリット酸およびジアミノフェニルエーテルの組み合わせが挙げられるが、必要に応じて、他の酸二無水物やジアミンに代えたり併用したりしてもよいし、これら化合物以外の他の化合物を共重合してもよい。
なお、本発明において好適に用いられるポリイミド、ポリアミド酸、並びにこれらのモノマー原料(酸二無水物成分およびジアミン成分)の詳細については、後述の(II)ポリアミド酸の合成の項でより具体的に説明する。
<硬化剤添加工程>
上記硬化剤添加工程は、上記ワニス調製工程で調製されたポリイミド系ワニスの少なくとも1種に対して、化学脱水剤(脱水剤)および触媒を添加する工程である。これら脱水剤および触媒はまとめて硬化剤と称する。つまり、本発明では、少なくとも1層のポリイミド層は、化学イミド法によりイミド化されると好ましいことになり、後段の多層液膜形成工程で形成される多層液膜には、複数の液膜のうち少なくとも1層に硬化剤が含有されると好ましいことになる。
本発明で用いられる脱水剤とは、ポリアミド酸に対する脱水閉環剤であれば得に限定されるものではないが、具体的には、例えば、主成分として、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物等の化合物を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、脂肪族酸無水物および/または芳香族酸無水物を特に好適に用いることができる。
上記脱水剤の使用量は特に限定されるものではないが、添加対象となるポリイミド系ワニスにおいて、含有されるポリアミド酸に含まれるアミド酸ユニット1モル当り、0.5〜5モルの範囲内が好ましく、0.7〜4モルの範囲内がより好ましく、1.5〜2.5モルの範囲内が特に好ましい。
本発明で用いられる触媒は、ポリアミド酸に対する上記脱水剤の脱水閉環作用を促進する効果を有する成分であれば得に限定されるものではないが、具体的には、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミン等を挙げることができる。これらの中でも、例えば、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、キノリン、ジエチルピリジンまたはβ−ピコリン等の含窒素複素環化合物が特に好ましく用いられる。
上記触媒の使用量は、添加対象となるポリイミド系ワニスにおいて、含有されるポリアミド酸に含まれるアミド酸ユニット1モル当り、0.05〜3モルの範囲内が好ましく、0.2〜2モルの範囲内がより好ましく、0.5〜1モルの範囲内が特に好ましい。
上記脱水剤および触媒の使用量が上記範囲を下回ると、支持体からの引き剥がし性の改善効果が不十分となったり、イミド化が不十分となり焼成途中で破断したり、機械的強度が低下したりすることがある。また、これらの量が上記範囲を上回ると、イミド化の進行が早くなりすぎ、ポリイミド系ワニスをフィルム状にキャストすることが困難となることがあったり、多層構造において層間の剥離防止が困難となったりする場合がある。
なお、本発明では、複数種類のポリイミド系ワニスの一種以上に、上記脱水剤および触媒(硬化剤)を添加することが好ましいが、硬化剤の添加そのものは必須ではない(例えば、後述する実施例5参照)。したがって、硬化剤添加工程は、本発明において必須の工程ではない。つまり、多層液膜を構成する全ての液膜に硬化剤を添加する必要はなく、何れの液膜にも硬化剤を加えなくてもよい。
硬化剤を液膜に添加する基準は特に限定されるものではないが、各液膜に用いられるポリイミド系ワニスのイミド化の反応速度にあわせて添加の有無や添加量等を設定すればよい。例えば、最も厚い液膜を形成するポリイミド系ワニスのみに硬化剤を添加し、薄い液膜を形成するポリイミド系ワニスには硬化剤を添加しないことも可能である。このように、多層液膜から選択される任意の1層の液膜にのみ硬化剤を混合すれば、製造装置の構成の複雑化を回避することができるため好ましい。
また、1層のみに硬化剤を添加する場合、多層構造の状態から添加する液膜を適切に選定することで、より効率的なイミド化が可能となる場合がある。例えば、多層液膜が3層構造の場合は、中央層となる液膜にのみ硬化剤を添加してもよい。中央層に硬化剤を添加しておくと、当該中央層から硬化剤(脱水剤および触媒)が染み出て、当該中央層を挟持する上下の各層にまで拡散する。それゆえ、製造装置の構成の複雑化を回避できるだけでなく、単一層への添加でイミド化反応を促進することもできるので、より一層好ましい。
ここで、ポリイミド系ワニスに上記硬化剤を添加すれば、当該ポリイミド系ワニスを液膜化して乾燥する際のゲル化反応を促進させることができるとともに、ゲル化反応の促進により、系外に、硬化剤や反応により生成した水、有機溶媒等が排出される。
具体的には、ゲルフィルムは、ポリイミド系ワニスを加熱および/または乾燥させることにより、液膜が自己支持性を有するゲル状のフィルムとなったものである。このゲルフィルムには、少なくとも有機溶媒が残存しており、特に、ワニス中の樹脂製分がポリアミド酸である場合、当該ポリアミド酸の一部がイミド化されている。さらに、硬化剤を添加する場合には、硬化剤そのものが一部残存したり、反応に伴って生成する水等が一部残存したりする。このような有機溶媒、水、硬化剤等をまとめて残存成分と称する。これら残存成分は、ゲル化の進行に伴って、液膜またはゲルフィルムの内部から外部へ染み出してくる。これは、硬化剤を添加した系ではゲル化が迅速に進行するためである。
このように排出された残存成分が、ゲルフィルムと支持体との隙間に蓄積することにより、支持体からゲルフィルムを引き剥がしやすくなる。それゆえ、ポリイミドの種類にもよるが、一般的に、硬化剤を添加すれば、ゲル化やイミド化が促進されるとともに、ゲルフィルムの引き剥がし性も向上させることができる。その結果、多層フィルムの生産性を高めることができる。
上記硬化剤をポリイミド系ワニスに添加する方法は特に限定されるものではなく、ポリイミド系ワニス中に硬化剤を十分に分散または溶解できるような方法であればよい。一般的には、硬化剤をポリイミド系ワニスに用いられているものと同一の有機溶媒に予め分散または溶解させて、硬化剤溶液を調製しておき、これをポリイミド系ワニスに添加して混合する方法を挙げることができる(実施例参照)。
この方法では、ポリイミド系ワニスの粘性が高いため、硬化剤をそのままポリイミド系ワニスに添加するよりも、硬化剤を分散または溶解させやすいという利点がある。さらに、硬化剤を実質的に液体として取り扱うことができるので、後述するように、本発明にかかる多層フィルムの製造装置において、硬化剤を供給させやすくすることができるという利点もある。
<多層液膜形成工程>
上記多層液膜形成工程は、複数種類のポリイミド系ワニスを複数種類用いて、支持体上に積層して、各ワニス(樹脂溶液)からなる液膜が積層されてなる多層液膜を形成する工程である。ここで、本発明では、当該多層液膜形成工程において、相対的に他の液膜よりも幅の広い幅広液膜を1層含んでおり、かつ、両端部が上記幅広液膜のみからなる単層構造となるように、多層液膜を形成するようになっている。なお、本発明における多層液膜の幅方向とは、連続的に流延製膜される液膜の製膜方向と直角方向を指すものとする。
上記幅広液膜は、他の液膜に比べて相対的に幅広くなっていればよく、それ以外の具体的な構成や形成条件等については特に限定されるものではない。上記多層液膜が支持体上に形成されるため、当該多層液膜に含まれる幅広液膜は支持体上に形成可能な幅であり、かつ、他の液膜よりも広い幅を有するものであればよい。
他の液膜に対する幅の広さについては特に限定されるものではないが、多層液膜の両端部が幅広液膜による単層構造となっている必要があること、当該単層構造の領域は後段の焼成工程においてテンターピンで固定化できる程度の幅を有することが望ましいことから、上記幅広液膜のみからなる端部の幅は、5〜100mmの範囲内であればよく、10〜50mmの範囲内であることが好ましい。上記端部の幅が上記下限より狭くなると、多層液膜の端部において単層構造として有効に機能することができなくなる。一方、上記上限を超えると、他の液膜の幅が狭くなりすぎるか、支持体として非常に幅広いものを用いる必要が生じるため、製造効率の低下等を招くおそれがある。
上記幅広液膜を含む多層液膜の形成方法は特に限定されるものではなく、それぞれの液膜を流延塗布法により逐次形成して積層してもよいし、各液膜を同時に形成してもよい。中でも、本発明では、複数種類のポリイミド系ワニスを支持体上に同時に押し出して流延する共押出法により多層液膜を形成することが好ましい。
共押出法(共押出流延製膜法)では、複数種類のポリイミド系ワニスを支持体上に同時に吐出して流延することにより、多層液膜を実質的に1段階で形成する。また、液膜同士が直接接するため、最終的に得られるポリイミド系多層フィルムの層間が強固に密着するという利点もある。それゆえ、工程数の増加を回避できるだけでなく、逐次積層する方法(逐次法、逐次コーティング法)よりも多層液膜を形成する時間を短くすることができるので、硬化剤によるゲル化促進に伴う残存成分の層間への蓄積も回避することができる。特に、本発明では、共押出法を採用する場合、多層共押出ダイを用いて多層液膜を同時に形成することが好ましい。なお、多層共押出ダイの具体的な構成について後述する。
上記支持体としては、多層液膜を形成させる平滑性があり、ポリイミド系ワニスにより溶解することが無いものであり、好ましくはゲルフィルムの引き剥がし性にも優れたものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、金属製のベルト、金属製のローラー、樹脂ベルト、樹脂フィルム、樹脂ローラー等を使用することができる。
これらの中でも、製造効率の点から、上記支持体は回転体であることが好ましい。回転体であれば、同一の支持体を回転させることで、液膜を連続して形成し、次のゲルフィルム形成工程(液膜の乾燥・ゲル化)に進めることができる。回転体としての支持体の具体例としては、複数の回転軸により回転可能に張り渡されたベルト状支持体、単一の回転軸により回転可能となっているドラム(ローラー)状支持体を挙げることができる。例えば、図4〜6および図8では、支持体10として、2つの軸ローラーにより張り渡されたエンドレスベルトが用いられている。
上記支持体の材質は、液膜の形成に影響を与えない限り特に限定されるものではないが、本発明では、多層液膜を高温で乾燥する過程を含むことから、各種金属製の支持体を好適に用いることができる。また、金属製の支持体の表面は十分研磨されていることが好ましい。このような研磨により、乾燥後に生成したゲルフィルムを支持体から容易に引き剥がすことができる。さらに、ゲルフィルムの引き剥がし性を高めるために、金属製の支持体の表面に、メッキやフッ素樹脂コーティング、フッ素樹脂含有メッキなどの表面処理を施すことがより好ましい。
また、本発明で用いる硬化剤のうち、特に脱水剤は一般的に腐食性が高いので、支持体の材質としては、ステンレス鋼やハステロイ鋼等の金属が好適に用いられる。このような金属材料を用いることで、脱水剤にも高温の加熱にも耐久することができる。さらに、本発明で用いられる支持体は、加熱可能となっていることが好ましい。前述したように、多層液膜が製膜された後には、できる限り速やかに液膜を加熱して乾燥することが求められる。このような迅速な加熱・乾燥によれば、ゲル化反応の進行に伴い排出される残存成分が各液膜(ゲルフィルム)の層間に蓄積することを有効に抑制または回避できるため、多層ゲルフィルムの層間の密着性を向上することができる。
<多層液膜の具体的な構成>
上記多層液膜形成工程にて形成される多層液膜の具体的な構成について説明する。後述するように、本発明は、ポリイミド系接着フィルムの製造に好適に用いることができるため、以下の説明では、ポリイミド系接着フィルムの代表例である三層構造の多層フィルムを製造する場合を例に挙げて説明する。
接着フィルムとして用いられる三層構造の多層フィルムは、耐熱性ポリイミドを含有する耐熱層の少なくとも一方の面、好ましくは両面に、熱可塑性ポリイミドを含有する接着層が積層された構成となっている。したがって、この場合の多層液膜は、上記耐熱層となる液膜の少なくとも一方の面に接着層となる液膜が接触するようになっている。なお、説明の便宜上、耐熱層となる液膜を耐熱液膜とし、接着層となる液膜を接着液膜とする。また、三層構造の場合、一方の面が耐熱液膜に接し他方の面が支持体の表面に接している液膜を下方液膜とし、一方の面のみ耐熱液膜に接しており他方の面は露出している液膜を上方液膜とする。
このような多層液膜としては、具体的には、図1〜図3に示す構成を挙げることができる。図1上に示す多層液膜30は三層構造であり、支持体10の上に下方接着液膜31が形成されており、その上に中央層である耐熱液膜32が積層され、さらにその上に上方接着液膜33が形成されている。同様に、図2上に示す多層液膜30は二層構造であり、支持体10の上に耐熱液膜32が形成され、その上に上方接着液膜33が形成されている。同様に、図3上に示す多層液膜30も二層構造であり、支持体10の上に下方接着液膜31が形成されており、その上に耐熱液膜32が形成されている。したがって、図2上に示す多層液膜は、図1上に示す多層液膜から下方接着液膜を除いた構成であり、図3上に示す多層液膜は、図1上に示す多層液膜から上方接着液膜を除いた構成である。
前述したように、流延製膜法で支持体上に液膜を形成させる際には、両端部にネックインが生じるため、液膜の両端部の厚みが大きくなる。この場合、図9および図10上に示すように、多層液膜30(図9では液膜130)の端部38(図9では端部138)が分厚い構造となる。ここで、多層液膜30を加熱乾燥することにより多層ゲルフィルム40へ転化させることができるが、端部38の厚い部分においては、溶媒等の残像成分の拡散と蒸発が妨げられる。その結果、図10下に示すように、多層液膜のゲル化が進行するに伴って、残存成分の蓄積から下方ゲル層41および中央ゲル層42の間、並びに、中央ゲル層42および上方ゲル層43の間に剥離39が生じてしまう。
そこで、本発明では、このような層間の剥離現象を有効に回避または抑制するために、多層液膜形成工程において、多層液膜30の中から任意に選択された1層の液膜の幅のみを広くし(幅広液膜とし)、ネックインが発生する端部の構造を単層構造とする。具体的には、図1〜図3の上に示すように、耐熱液膜32を幅広液膜とする。このような幅広液膜を形成することにより、当該多層液膜30を多層ゲルフィルム40に転化しても、図1〜図3の下に示すように層間の剥離を実質的に防止することができる。
また、多層ゲルフィルム40を焼成する場合には、端部をテンターピン等の固定化手段で固定するが、図1〜3の下に示すように、本発明では、多層ゲルフィルムにおいて、下方液膜31が転化した下方ゲル層41、上方液膜33が転化した上方ゲル層33は端部にまで及んでおらず、端部は、耐熱液膜32が転化した中央ゲル層43のみの単層構造となっている。それゆえ、中央ゲル層43のみにテンターピン17を刺すことになるため、後述するように脱ピン不良を有効に回避または抑制することができる。
なお、本発明では、多層液膜において隣接する液膜は、異なる種類のポリイミド系ワニスで形成されることが非常に好ましい。同じ種類のポリイミド系ワニスを用いると、隣接する液膜が一つの液膜と化してしまうおそれがある。また、本発明において幅広液膜とする液膜は、多層液膜に含まれる任意の液膜を適宜選択すればよい。ただし、上記のように、複数の液膜に、耐熱層と接着層とが含まれている場合には、耐熱層となる液膜を幅広液膜とすることが好ましい。これにより、上記のように焼成後の脱ピン不良の発生を実質的に防止することができる。
<各種ダイの構成>
本発明で用いられるダイの具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知の各種の構成を好適に用いることができる。
多層共押出ダイとしては、例えば、図4に示すように、ダイ本体51内部に、一つの中心層用流路52a、および2つの外層用流路52bが形成された構成の三層共押出ダイ50を挙げることができる。中心層用流路52aには、中心層用のポリイミド系ワニスを供給する手段が接続されており、中心層用のポリイミド系ワニス(例えば、耐熱性ポリイミド系ワニス)が流通するようになっている。また、外層用流路52bのうち、図中左側の方には、上層用のポリイミド系ワニスを供給する手段が接続されており、上層用のポリイミド系ワニス(例えば、熱可塑性ポリイミド系ワニス)が流通するようになっている。同様に、外層用流路52bのうち、図中右側の方には、下層用のポリイミド系ワニスを供給する手段が接続されており、下層用のポリイミド系ワニス(例えば、熱可塑性ポリイミド系ワニス)が流通するようになっている。
上記三層共押出ダイ50では、ダイ本体51中で、上記3つの流路が合流し、一つの吐出口54に接続される構成となっている。したがって、供給された3種のポリイミド系ワニスは、ダイ本体51内で合流して三層構造の液膜として吐出口53から吐出される。その結果、中央液膜の両面に外層(上方液膜および下方液膜)が積層された三層構造の多層液膜30を支持体(エンドレスベルト)10上に直接形成することができる。
次に、スライドダイとしては、例えば、図5に示すように、ダイ本体61内部に、上層用流路62b、中心層用流路62a、および下層用流路62cがこの順で配列されている構成のスライドダイ60を挙げることができる。この構成では、上層用流路62bに対応する上層用吐出口63b、中心層用流路62aに対応する中心層用吐出口63a、下層用流路62cに対応する下層用吐出口63cがこの順で設けられ、かつ、これら吐出口の形成されているダイ本体61の部位は、上層用吐出口63bから下層用吐出口63cに向かって下方に傾斜した傾斜面64となっている。また、下層用吐出口63cから見て外側となる位置には、液膜を支持体10(エンドレスベルト)上に良好に流延できるように、ダイ本体61から外側に突出したリップ部65が形成されている。
上記スライドダイ60においては、上記三層共押出ダイと同様に、上層用流路62b、中心層用流路62a、および下層用流路62cに対して、それぞれポリイミド系ワニスを供給する手段が接続されている。それゆえ、これらから供給されるポリイミド系ワニスは各吐出口から吐出される。ここで、傾斜面64の下方にある下層用吐出口63cから吐出される下層ポリイミド系ワニスは、直接傾斜面64の上に流出し、リップ部65から下方の支持体上に流れ落ちる。
この下層用吐出口63cから見て傾斜面64の上方には、中心層用吐出口63aが形成されている。そのため、この中心層用吐出口63aから吐出される中心層ポリイミド系ワニスは、下層用吐出口63cから継続的に吐出される下層ポリイミド系ワニスの上に積層された状態で傾斜面64の上を流出し、リップ部65から下方の支持体上に流れ落ちる。
さらに、中心層用吐出口63aから見て傾斜面64の上方には、上層用吐出口63bが形成されている。そのため、この上層用吐出口63bから吐出される上層ポリイミド系ワニスは、中心層用吐出口63aから継続的に吐出される中心層ポリイミド系ワニスの上に積層された状態となる。中心層ポリイミド系ワニスは上記のように下層ポリイミド系ワニスの上に積層されているので、上層、中心層および下層の三層構造の液膜が形成された状態で傾斜面34の上を流出し、リップ部35から下方の支持体上に流れ落ちる。これにより、支持体10(エンドレスベルト)上には、三層構造の多層液膜30が形成されることになる。
次に、単層ダイ(単層押出ダイ)としては、図6に示すように、上層、中心層および下層ポリイミド系ワニスに対応して、それぞれ単層ダイを並列配置した構成のものを挙げることができる。この構成では、エンドレスベルト(支持体)10の進行方向(図中矢印)の下流側から順に、上層用単層ダイ71b、中央層用単層ダイ71a、および下層用単層ダイ71cが配置されている。各単層ダイの構成は何れも同じで、本体の内部にはポリイミド系ワニスの流路72b、72aまたは72cが形成されており、ダイの先端には、吐出口73b、73aまたは73cが形成されている。
上記進行方向から見て最も上流側には、下層用単層ダイ71cが設けられているので、このダイから吐出される下層ポリイミド系ワニスは、エンドレスベルト10上に流延して液膜(下方液膜31)を形成する。このすぐ下流側には、中央層用単層ダイ71aが設けられているので、このダイから吐出される中央層ポリイミド系ワニスは、下方液膜31の上に流延し、中央液膜32を形成する。この状態では、中央液膜32および下方液膜31の二層構造の液膜が支持体上に形成されていることになる。
さらに、最も下流側には、上層用単層ダイ71bが設けられているので、このダイから吐出される上層ポリイミド系ワニスは、中央液膜32の上に流延し、上方液膜33を形成する。その結果、三層構造の多層液膜30が形成されることになる。
なお、上記各構成以外には、スプレー法やナイフエッジ式のコーティング、グラビア式コーティング等の方法を用いることにより、支持体上に多層構造の液膜を形成させることもできる。
特に、本発明では、複数種類のポリイミド系ワニスを支持体上に同時に吐出可能とする構成であることが好ましく、中でも、多層共押出ダイを用いることがより好ましい。順次液膜を積層する方法(逐次法)よりも、複数の液膜を同時に形成する方法(共押出法)の方が、各液膜相互の密着性が高く、特に、多層共押出ダイを用いた共押出法を用いれば、各液膜相互の密着性をより一層優れたものとすることができるため好ましい。上記共押出ダイには、マルチマニホールド型およびフィードブロック型の2種類があるが、マルチマニホールド型の共押出ダイを用いることがより好ましい。これにより。形成される各層の厚みの均一性をより一層高くすることができる。
ところで、本発明において、多層液膜から任意に選択される1層の液膜の幅のみを広くして幅広液膜を形成する具体的な方法は特に限定されるものではない。本発明では、上記のように多層共押出ダイを用いることが好ましいが、多層共押出ダイを用いて上記幅広液膜を含む多層液膜を形成する場合には、ダイ内部で統合される前の各流路(図4の場合では、中心層用流路52a、2つの外層用流路52b)において、幅広液膜を形成するための流路を広くし、それ以外の流路、すなわち、幅を狭くしたい液膜を形成するための流路を狭くすればよい。これら流路の幅を異ならせることで、合流した後に吐出口から吐出される多層液膜においては、幅広液膜を含む構成とすることができる。
上記多層共押出ダイにおいて、合流前の流路の幅を異ならせる方法は特に限定されるものではなく、最初から幅の異なる流路を有するダイを製造して用いてもよいが、ダイの汎用性の観点から、上記幅広液膜以外の液膜を形成するための流路に、インナーディッケルを挿入することにより樹脂溶液の流量を調整したものを好適に用いることができる。インナーディッケルを用いれば、流路の幅を任意に調整することができる。
具体的には、例えば、図7(a)に示すように、マニホールド55およびランド56に挿入する形状のインナーディッケル54aであってもよいし、図7(b)に示すように、プレランド57に挿入する形状のインナーディッケル54bであってもよい。
これらインナーディッケルは、通常は幅を狭くしたい液膜を形成するための流路の両端に挿入すればよいが、この方法に限定されるものではなく、幅を狭くしたい液膜を形成するための流路に長いインナーディッケルを挿入し、幅広液膜を形成するための流路に短いインナーディッケルを挿入してもよい。このようにインナーディッケルを用いれば、多層液膜全体の幅を任意の長さに設定することができるとともに、任意に選択される1層の液膜を幅広液膜とすることができる。
<ゲルフィルム形成工程>
上記ゲルフィルム形成工程は、多層液膜形成工程にて形成された上記多層液膜を、自己支持性を有する多層ゲルフィルムを得る工程である。通常、乾燥してゲル化することにより、多層液膜をゲルフィルムに転化する。特に、本発明では、上述したように、上記多層液膜形成工程で用いる複数種類のポリイミド系ワニスの少なくとも1種には、予め脱水剤および触媒(硬化剤)が添加されている(つまり化学イミド法が採用される)ことが好ましい。それゆえ、ゲルフィルムへの転化時間を短縮化できるとともに、支持体からの剥離性も向上することができる。
具体的には、化学イミド法を採用すると、添加された硬化剤により、ゲル化やイミド化を促進するだけでなく、支持体と多層ゲルフィルムとの隙間に残存成分を蓄積させるため、多層ゲルフィルムの引き剥がし性が向上する。
ここで、本発明者らが鋭意検討した結果、上記残存成分が、多層ゲルフィルムと支持体の隙間ではなく、多層ゲルフィルムを構成する各層(個々のゲルフィルム)の間に蓄積されると、各層同士の密着性が低下してしまい、層間の剥離が生じて多層構造が破壊されることを独自に見出した。つまり、硬化剤を添加したポリイミド系ワニスを用いて多層液膜を形成し、これを乾燥して多層ゲルフィルムを得ると、層間が剥離しやすいと言う問題も生じる。特に、上記層間の剥離は、ネックインにより厚みが増した多層液膜の端部について生じやすいことが明らかとなった。これは、残存成分の拡散と蒸発が阻害されるためである。
そこで、本発明では、上記多層液膜形成工程にて説明したように、ゲルフィルム化しようとする多層液膜の端部が単層構造となっている。上記層間の剥離は特に端部に生じやすいが、上記のように端部が単層構造であれば、当該端部での層間剥離は生じなくなるため、多層ゲルフィルムにおける層間剥離を有効に回避または抑制することが可能となる。つまり、本発明では、多層液膜の端部を単層構造とするだけで、多層ゲルフィルムの支持体からの引き剥がし性を向上できるだけでなく、多層ゲルフィルムの層間剥離の発生も有効に回避または抑制することができる。
なお、本工程におけるゲル化の方法や条件は特に限定されるものではなく、多層液膜から有機溶媒を一部蒸発させたり、ポリアミド酸の一部をイミド化したりしてゲルフィルムへ転化できるような条件であればよい。通常は、加熱等による乾燥方法を採用することができる。この場合の乾燥方法は特に限定されるものではなく、ゲル化を進行できる方法であればよいが、初期段階で残存成分を有効に蒸発できる方法であることがより好ましい。具体的には、加熱よる乾燥方法を好適に用いることができる。具体的な加熱方法についても特に限定されるものではなく、従来公知の加熱方法を好適に用いることができるが、加熱温度は60℃以上200℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下であることがより好ましい。
上記ゲル化する際の加熱温度(多層液膜の乾燥温度)を60〜200℃の範囲内とすることにより、液膜のゲル化を効率的に進行できるだけでなく、乾燥の初期段階で残存成分を有効に蒸発させることができる。その結果、層間の剥離をより一層有効に抑制することができる。一方、上記温度範囲を下回ると、残存成分を有効に蒸発させることができない場合がある。また、上記温度範囲を上回ると、多層ゲルフィルムが支持体上に固着しやすくなり、多層ゲルフィルムの引き剥がし性が低下する傾向にある。
また、乾燥時間についても特に限定されるものではないが、加熱方法によらず1〜600秒の範囲内であることが好ましい。加熱時間が上記範囲内であれば、多層ゲルフィルムを効率良くかつ確実に作製することができる。一方、乾燥時間が上記範囲を外れると、ほとんど乾燥できなかったり過剰に乾燥されたりすることがある。
<焼成工程>
上記焼成工程は、ゲルフィルム形成工程で得られた多層ゲルフィルムを焼成してイミド化を完結させる工程である。これにより、多層ゲルフィルム内の残存成分を完全に蒸発させるとともに、ポリアミド酸を含有している場合にはイミド化反応を完了させることになる。その結果、複数のポリイミド層が積層されたポリイミド系多層フィルムを得ることができる。
上記焼成工程で用いる加熱方法は特に限定されるものではなく、支持体から引き剥がした多層ゲルフィルムを有効に加熱して多層フィルムに焼成できる方法であればよいが、具体的には、例えば、フィルムの上方の面または下方の面、あるいは、両面から100℃以上の熱風をフィルム全体に噴射して加熱する方式、または遠赤外線をフィルムに照射する方式等を好適に用いることができる。
上記焼成工程における焼成温度は、イミド化を完了できるとともに、残存成分を十分に蒸発できる温度範囲であれば特に限定されるものではないが、200℃以上600℃以下であることが好ましく、また、徐々に温度を上昇させることが好ましい。焼成温度が高すぎると、多層フィルムの焼成に温度ムラができやすく平坦性が失われやすい傾向にあり、低すぎると、十分な焼成処理が行われない場合がある。焼成時間も特に限定されるものではなく、イミド化が完了できる時間であれば、従来公知の範囲内の時間で焼成することができる。
ここで、本発明で用いられる焼成手段(焼成装置または焼成部)は、従来公知のものを好適に用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、ゲルフィルムの両端をクリップやテンターピンで固定して、ゲルフィルムを加熱焼成炉内に搬送するタイプのものを用いることが好ましい。従来、熱可塑性ポリイミド層を含む多層フィルムを焼成する場合、熱可塑性ポリイミド層が焼成により可塑化されるため脱ピン不良が生じやすかった。
ここで、本発明者らは、テンターピンからの脱ピン不良は、テンターピンに刺さった多層フィルムのうち、熱可塑性ポリイミドのように熱で可塑化しやすい成分を含む層がテンターピンに固着することが原因であることを見出した。そこで、本発明者らは、さらに鋭意検討した結果、端部を単層構造とすることが脱ピン不良の抑制に非常に有効であることを見出した。
つまり、本発明では、多層ゲルフィルムの両端部が単層構造であるため、この単層部分を耐熱性ポリイミド層のように、熱で可塑化しやすい成分を含む層ではない層とすれば、上記脱ピン不良を有効に回避または防止することができる。それゆえ、本発明では、熱可塑性ポリイミド層等、焼成により可塑化しやすい層を含んでいる場合であっても、当該焼成工程において、多層ゲルフィルムの両端部である単層構造の部分をテンターピンで固定した状態で、当該多層ゲルフィルムを焼成することができる。また、テンターピン以外の固定化手段を用いる場合でも、可塑化による影響を有効に回避または抑制することができる。
しかも、この端部の単層構造は、焼成工程の前段で行われるゲルフィルム形成工程における問題を回避することが可能となる。それゆえ、多層フィルムの製造方法において、多層液膜の端部を単層構造化することは、異なる製造工程においてそれぞれ異なる作用を発揮し、異なる問題を解消することが可能となる。
なお、本発明にかかる製造方法は、上記ワニス調製工程、硬化剤添加工程、多層液膜形成工程、ゲルフィルム形成工程、焼成工程の全てを含んでいる必要はない。例えば、前述したように、硬化剤添加工程を省略するなど、適宜、各工程を省略したり、他の工程を追加したりすることができる。
<製造装置の好ましい一例>
本発明にかかるポリイミド系多層フィルムの製造方法で用いられる製造装置の具体的な構成は特に限定されるものではなく、製造の規模や目的等に合わせて公知の装置や部材等を適宜選定して用いることができる。例えば、後述する実施例のうち、実施例1〜5では、小規模の実験室レベルでポリイミド系多層フィルムの製造を行っているため、シリンジやアルミ箔等を用いているが、実施例6では、工業的な生産レベルの製造装置を利用している。
工業的な生産レベルの製造装置としては、具体的には、例えば、図8に示すように、ワニス用タンク11・12・13、硬化剤用タンク14、支持体(エンドレスベルト)10、連続式乾燥炉15、連続式焼成炉16、多層フィルム巻取部18、多層共押出ダイ50を備えている構成を挙げることができる。この製造装置は、前述した接着フィルム、すなわち、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が形成されている構成の多層フィルムを製造する装置である。
上記ワニス用タンク11・12・13は、ポリイミド系ワニスを供給する溶液供給手段であり、このうち、少なくとも一つの溶液供給手段、図8に示す例の場合、ワニス用タンク11からは、予め脱水剤および触媒(硬化剤)を含有するポリイミド系ワニスを供給可能となっている。
上記3つのワニス用タンクのうち、ワニス用タンク11が、耐熱性ポリイミド層を形成するためのポリイミド系ワニスを貯蔵する中央層用タンク11となっており、ワニス用タンク12および13が、熱可塑性ポリイミド層を形成するためのポリイミド系ワニスを貯蔵する上層用タンク12および下層用タンク13となっている。これらワニス用タンクは、何れも配管20を介して多層共押出ダイ50に接続されている。なお、中央層用タンク11は、配管20の途中に図示しない液体混合器を介在させており、硬化剤用タンク14と配管20で接続されている。
上記ワニス用タンク11〜13および硬化剤用タンク14の具体的な構成は特に限定されるものではなく、従来公知のタンクを好適に用いることができる。配管20についても同様であり、従来公知のものを好適に用いることができる。これらタンクや配管のサイズや材質等については、製造規模、製造しようとする多層フィルムの種類、詳細な製造条件等によって適宜設定されるものであり、特に限定されない。なお、上記タンクや配管以外の構成についても原則同様である。
なお、上記硬化剤用タンク14および図示しない液体混合器は、中央層用のポリイミド系ワニスに対して硬化剤溶液(脱水剤および触媒)を添加するものであるため、硬化剤供給手段ということができる。硬化剤供給手段の具体的な構成は、これらの組み合わせに限定されるものではない。また、液体混合器の具体的な構成も特に限定されるものではなく、公知の各種構成を好適に用いることができる。
上記ワニス用タンク11〜13、硬化剤用タンク14、液体混合器では、本発明にかかる製造方法における硬化剤添加工程が実施され、これら工程が実施された後に、多層液膜形成工程が実施される。図8に示す製造装置においては、多層液膜を形成する手段として、多層共押出ダイ50を備えている。この多層共押出ダイ50の具体的な構成については前述したので省略する。また、この部位は、製膜手段(製膜部)であると言えるので、必要に応じて他のダイを用いてもよいし、ダイ以外の構成を備えていてもよい。また、図8に示す構成では、支持体10としてエンドレスベルトを用いているが、支持体10の詳細についても前述したので、その説明は省略する。
上記支持体上に形成された多層液膜は、加熱手段により加熱され、乾燥することによりゲル化する(ゲルフィルム形成工程)。これにより自己支持性を有する多層ゲルフィルムが得られる。この多層液膜の乾燥に用いられる乾燥手段は特に限定されるものではないが、一般的には、加熱による乾燥が効率的であるので、従来公知の加熱・乾燥装置を好適に用いることができる。特に、本発明では、上記エンドレスベルト(支持体)10上の多層液膜30を搬入した状態で、当該多層液膜30を加熱する連続式乾燥炉15を好ましく用いることができる。支持体10としてエンドレスベルトを用いていること、連続的な乾燥が可能なことから、さらに、上述したように、エンドレスベルト10そのものが加熱可能な支持体となっていれば、より一層迅速な加熱・乾燥が可能になるため好ましい。
本実施の形態では、図8に示すように、エンドレスベルト10における一方の端部(図中右側の端部)の上側において多層共押出ダイ50により多層液膜30が形成され、当該エンドレスベルト10の回転により、他方の端部(図中左側の端部)を介して、右側の端部の下方まで多層液膜30が移動する(搬送される)ことになる。そこで、図8に示す構成では、加熱手段として、当該エンドレスベルト17の図中左側の大部分を覆った状態で設けられる連続式乾燥炉15を備えている。このような連続式乾燥炉15であれば、エンドレスベルト10における右側の端部の上方から下方に至るまでの間、当該エンドレスベルト10上の多層液膜30を乾燥することができるとともに、装置構成をコンパクト化することも可能となる。なお、上記連続式乾燥炉15における加熱温度等の条件はゲルフィルム形成工程において述べた通りであり、その具体的な説明は省略する。
上記乾燥処理により、図8に示すように、連続式乾燥炉15では、多層液膜30は多層ゲルフィルム40となるので、連続式乾燥炉15からの多層ゲルフィルム40の排出とともに、当該多層ゲルフィルム40はエンドレスベルト10上から引き剥がされ、焼成される。ここで用いられる焼成手段としては、ゲルフィルムをイミド化するために焼成するものであれば特に限定されるものではないが、支持体10上の多層ゲルフィルム40を搬入した状態で、当該多層ゲルフィルム40を焼成する連続式焼成炉16であることが好ましい。
多層ゲルフィルム40を引き剥がした後、さらに高温に加熱焼成することによって、当該多層ゲルフィルム40内に残存する残存成分(有機溶媒、ゲル化反応により生成した反応液、脱水剤、触媒等)を完全に蒸発させるととともに、特に、液膜が、ポリアミド酸を含有するポリイミド系ワニスにより形成されている場合には、ゲル化により一部のみなされたポリアミド酸のイミド化を終了させる。これにより、ポリイミド系多層フィルムを製造することができる。
上記連続式焼成炉16の具体的な構成は特に限定されるものではなく、多層ゲルフィルム40を有効に加熱してポリイミド系多層フィルムに焼成できる加熱炉であればよいが、具体的には、例えば、熱風をフィルム全体に噴射して加熱する方式の熱風炉、または、遠赤外線をフィルムに照射する遠赤外線発生装置を備えた遠赤外線炉を好適に用いることができる。
また、焼成時には、徐々に温度を上昇させる方法を用いることが好ましい。したがって、連続式焼成炉16としては、複数の加熱炉を連結する段階式の加熱炉を用いることがより好ましい。このとき用いる個々の加熱炉としては、熱風炉のみでもよいし、遠赤外線炉のみでもよいし、熱風炉と遠赤外線炉とを混在させてもよい。また、各加熱炉の間には、進行方向前段の加熱炉からの熱を次段の加熱炉へ伝えないために、各加熱炉を仕切るための断熱手段が備え付けられていることが好ましい。この断熱手段としては特に限定されるものではなく、公知の構成を用いることができる。
なお、上記連続式焼成炉16における加熱温度(焼成温度)等の諸条件は特に限定されるものではなく、焼成工程で説明した通りであるので、詳細な説明は省略する。同様に、上記連続式焼成炉16で多層ゲルフィルム40を加熱焼成する場合、当該連続式焼成炉16内の多層ゲルフィルム40の搬送方法については特に限定されるものではなく、従来公知の構成で搬送すればよいが、前述したように、特に本発明では、テンターピン17を用いた搬送方法を採用しても脱ピン不良の発生を有効に回避することができる。
図8に示す製造装置においては、連続式焼成炉16で焼成され完全にイミド化されたポリイミド系多層フィルムを巻き取るための多層フィルム巻取部18が備えられている。その具体的な構成は特に限定されるものではなく従来公知の構成を適宜採用することができる。なお、本発明にかかる製造装置は上記構成に限定されるものではなく、これら以外の構成が適宜備えられていてもよいし、必要に応じて一部の構成は備えられていなくてもよい。
(II)ポリアミド酸の合成
本発明にかかる多層フィルムは、少なくとも二種以上のポリイミド系フィルムを積層して構成されることが好ましい。そして、一方のフィルムは、上述したように、耐熱性ポリイミド層であることが好ましい。これにより、本発明にかかるポリイミド系多層フィルムは少なくとも耐熱性を有することとなる。また、他方のフィルムは、上述したように熱可塑性ポリイミド層であることが好ましい。これにより、本発明にかかるポリイミド系多層フィルムは、熱可塑性ポリイミド層が高温下において接着剤の役割を担うこととなる。このような多層フィルムは、絶縁性フィルム(耐熱性ポリイミド層)を銅箔等の金属箔に熱圧着法で貼り付けることが容易になるため、プリント基板用のポリイミドフィルムとして高性能なものを作製することが可能となる。
<耐熱性ポリイミド層>
ここで、上記耐熱性ポリイミド層とは、非熱可塑性ポリイミドを90重量%以上含有する樹脂組成物からなっていれば、その具体的な組成や用いられるポリイミドの分子構造、層の厚み等は特に限定されるものではない。耐熱性ポリイミド層に用いられる非熱可塑性ポリイミドは、前述したように、ポリアミド酸を前駆体として用いて製造される。
このポリアミド酸の製造方法(合成方法、重合方法)としては公知のあらゆる方法を用いることができ、特に限定されるものではない。通常、1種以上の酸二無水物からなる酸二無水物成分と1種以上のジアミンからなるジアミン成分とを、実質的に等モル量となるように合成用溶媒中に分散または溶解させて、制御された温度条件下で上記各モノマー成分の重合が完了するまで攪拌する方法を好適に用いることができる。なお、酸二無水物成分としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が好適に用いられ、ジアミン成分としては、芳香族ジアミン等が好適に用いられる。
得られるポリアミド酸は合成用溶媒に分散または溶解した状態、すなわち有機溶媒溶液(ポリアミド酸溶液)の状態であり、そこ固形分濃度は通常5〜35重量%の範囲内、好ましくは10〜30重量%の範囲内となる。固形分濃度がこの範囲内であれば、適切な分子量のポリアミド酸が合成されているとともに、ポリアミド酸溶液としても作業上好ましい溶液粘度となっている。
なお、上記耐熱性ポリイミド層、およびこれを形成するためのポリイミド系ワニスには、必要に応じて無機あるいは有機物のフィラーを添加しても良い。
<ポリアミド酸の重合方法>
上記ポリアミド酸の重合方法としては、従来公知のあらゆる方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合方法の特徴は、そのモノマー成分の添加順序にある。それゆえ、モノマー成分の添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。それゆえ、本発明において、ポリアミド酸の重合にはどのようなモノマー成分の添加方法を用いてもよい。代表的な重合方法としては、次に示す各方法を挙げることができる。これら方法は単独で用いてもよいし、部分的に組み合わせて用いてもよい。本発明では、下記の何れの重合方法を用いて得られたポリアミド酸を用いてもよい。
(1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を添加して反応させて重合する。
(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとが実質的に等モルとなるように芳香族ジアミンを追加添加して重合させる。
(3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いて、ここに芳香族ジアミンを追加添加した後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を追加添加して重合させる。
(4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を添加して重合させる。
特に本発明では、耐熱性ポリイミドを得るために、後述する剛直構造を有するジアミン(便宜上、剛直ジアミンと称する)を用いてプレポリマーを得る重合方法を用いてもよい。この重合方法を用いることにより、弾性率が高く、吸湿膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得やすくなる傾向にある。
上記重合方法において、プレポリマー調製時に用いる剛直ジアミンと酸二無水物とのモル比は、100:70〜100:99もしくは70:100〜99:100の範囲内が好ましく、さらには100:75〜100:90もしくは75:100〜90:100の範囲内がより好ましい。上記モル比が上記範囲を下回ると弾性率および吸湿膨張係数の改善効果が得られにくく、上記範囲を上回ると線膨張係数が小さくなりすぎたり、引張伸び性が低下したりする等の弊害が生じることがある。
<非熱可塑性ポリイミドの製造に用いられる酸二無水物成分>
本発明において、上記耐熱性ポリイミド層に含有される非熱可塑性ポリイミドを製造するにあたり、前駆体であるポリアミド酸の合成に用いる酸二無水物成分としては特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)あるいはこれらの類似物等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
上記酸二無水物の中でも、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の群から選択される少なくとも一種の化合物を特に好ましく用いることができる。
上記4種の特に好ましい酸二無水物のうち、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも一種を用いる場合の使用量は、全酸二無水物に対して、60モル%以下であることが好ましく、55モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましい。これら3種のテトラカルボン酸二無水物から少なくとも一種を用いる場合、その使用量が上記の範囲を上回ると、得られる耐熱性ポリイミド層のガラス転移温度(Tg)が低くなりすぎたり、ポリアミド酸溶液の熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜そのものが困難になったりすることがあるため好ましくない。
また、テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物を用いる場合の使用量は、40〜100モル%の範囲内が好ましく、45〜100モル%の範囲内がより好ましく、50〜100モル%の範囲内がさらに好ましい。ピロメリット酸二無水物をこの範囲内で用いれば、得られる耐熱性ポリイミド層のTg、および、ポリアミド酸溶液の熱時の貯蔵弾性率を使用または製膜に好適な範囲に保ちやすくなる。
<非熱可塑性ポリイミドの製造に用いられるジアミン成分>
本発明において、上記耐熱性ポリイミド層に含有される非熱可塑性ポリイミドを製造するにあたり、前駆体であるポリアミド酸の合成に用いるジアミン成分としては特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルN−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、あるいはこれらの類似物等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
上記ジアミン成分としては、剛直構造を有する剛直ジアミンと柔構造を有するジアミンとを併用することができる。その場合の好ましい使用比率は、モル比で80/20〜20/80の範囲内であればよく、70/30〜30/70の範囲内であることがより好ましく、60/40〜30/70の範囲内であることがさらに好ましい。剛直ジアミンの使用比率が上記範囲を上回ると、得られる耐熱性ポリイミド層の引張伸びが小さくなる傾向にある。また、剛直ジアミンの使用比率が上記範囲を下回ると、得られる耐熱性ポリイミド層のTgが低くなりすぎたり、ポリアミド酸溶液の熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜が困難になったりする等の弊害を伴う場合がある。
本発明における上記剛直ジアミンとは、次に示す一般式(1)で表される2価の芳香族基からなる群から選択される基である。
なお、一般式(1)中のR2 は一般式群(2)で表される。
上記一般式群(2)中のR3 は同一または異なってH−,CH3−,−OH,−CF3 ,−SO4 ,−COOH,−CO−NH2 、Cl−、Br−、F−、およびCH3O−からなる群より選択される何れかの1つの基である。
一方、柔構造を有するジアミンとは、エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等の柔構造を有しており、好ましくは、下記一般式(3)で表されるものである。
なお、一般式(3)中のR4 は、一般式群(4)
で表される2価の有機基からなる群から選択される基であり、式中のR5 は同一または異なってH−,CH3−,−OH,−CF3 ,−SO4 ,−COOH,−CO−NH2 ,Cl−,Br−,F−,およびCH3O−からなる群より選択される1つの基である。
本発明において、耐熱性ポリイミド層を形成するためのポリイミド系ワニスは、最終的に得られる当該耐熱性ポリイミド層(ポリイミドフィルム)が所望の特性を有するフィルムとなるように、上記酸二無水物成分およびジアミン成分の種類、配合比を適宜決定して用いることができる。
ここで、ポリアミド酸を合成するための好ましい重合用溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を特に好ましく用いることができる。これら重合用溶媒は、そのままポリイミド系ワニス用の溶媒として用いることができる。
<熱可塑性ポリイミド層>
本発明にかかる熱可塑性ポリイミド層は、熱可塑性ポリイミドを含有する樹脂組成物より形成されていればよい。ここで、用いられる熱可塑性ポリイミド(広義)とは、熱可塑性ポリイミド(狭義)、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミド等を挙げることができるが特に限定されるものではない。これら樹脂は1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜混合して用いてもよい。上記樹脂の中でも、吸湿性が低い点から、熱可塑性ポリエステルイミドを特に好適に用いることができる。
上記熱可塑性ポリイミド層は、接着層として耐熱性ポリイミド層に積層されて接着フィルムとなった場合に、特に、ラミネート法により被積層物を貼り合わせる際に有為な接着力を発揮できればよく、含有される熱可塑性ポリイミド(広義)の含有量、分子構造、熱可塑性ポリイミド層の厚み等の条件は特に限定されるものではない。しかしながら、有為な接着力を発現せしめるためには、実質的には熱可塑性ポリイミド(広義)を50重量%以上含有することが好ましい。
上記熱可塑性ポリイミド(広義)も、前記非熱可塑性ポリイミドと同様に、その前駆体であるポリアミド酸からの転化反応により得ることができる。当該ポリアミド酸の製造方法としては、前記非熱可塑性ポリイミドの前駆体と同様、公知のあらゆる合成方法を用いることができる。
また、本発明に用いられる熱可塑性ポリイミド(広義)は、そのTgが150〜300℃の範囲内であることが好ましい。なお、Tgは動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求めることができる。Tgが上記の範囲内であれば、既存の装置でラミネートが可能であり、かつ得られる接着フィルム(多層フィルム)の耐熱性を損なうことがない。
本発明に用いられる熱可塑性ポリイミド(広義)の前駆体であるポリアミド酸についても特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆるポリアミド酸を用いることができる。このポリアミド酸溶液の製造に関しても、前記非熱可塑性ポリイミドで説明したモノマー原料および製造条件等を全く同様に用いることができる。
なお、上記熱可塑性ポリイミド(広義)は、使用するモノマー原料を種々組み合わせることにより、諸特性を調節することができるが、一般に、上記剛直ジアミンの使用比率が大きくなるとTgが高くなったり、ポリアミド酸溶液の熱時の貯蔵弾性率が大きくなり接着性・加工性が低くなったりする場合がある。上記剛直ジアミンの使用比率は、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることが特に好ましい。
上記熱可塑性ポリイミド(広義)の好ましい具体例としては、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物類を含有する酸二無水物成分とアミノフェノキシ基を有するジアミン成分とを重合して得られるポリアミド酸をイミド化したものを挙げることができるが、特に限定されるものではない。
上記熱可塑性ポリイミド層においては、上述した熱可塑性ポリイミド(広義)を含んでいればよく、他の成分を含んでいてもよい。例えば、上記耐熱性ポリイミド層の場合と同様に、上記熱可塑性ポリイミド層、およびこれを形成するためのポリイミド系ワニスには、必要に応じて無機あるいは有機物のフィラーを添加しても良い。ここで、上記熱可塑性ポリイミド層は、ラミネート法により有為な接着力を発揮することができればよく、当該層に用いられる各成分の組成や、熱可塑性ポリイミド(広義)の分子構造、厚み等の諸条件は特に限定されるものではない。ただし、当該熱可塑性ポリイミド層が有為な接着力を発揮するためには、実質的には熱可塑性ポリイミド(広義)を50重量%以上含有することが好ましい。
(III)本発明の利用
本発明にかかる多層フィルムの製造方法は、ポリイミド層を複数積層したポリイミド系多層フィルムの製造に広く用いることができる。多層フィルムの具体的な種類は特に限定されるものではなく、ポリイミドを含有する樹脂層を複数、直接積層した構造を有しており、2種類以上のポリイミド層を含んでいるものであればよいが、当該多層フィルムの代表例として、ポリイミド系の接着フィルムを挙げることができる。
上記ポリイミド系の接着フィルムには、少なくとも、耐熱性ポリイミド層と熱可塑性ポリイミド層とを直接積層した構造が含まれているものである。上記耐熱性ポリイミド層は、耐熱性ポリイミドを含有する樹脂組成物からなっており、絶縁層(絶縁フィルム)として機能するポリイミド層である。また、上記熱可塑性ポリイミド層は、熱可塑性ポリイミドを含有する樹脂組成物からなっており、接着層(接着フィルム)として機能するポリイミド層である。このような接着フィルムは、特に二層FPC等の基板材料として好適に用いることができる。
上記ポリイミド系の接着フィルムのより具体的な構成は特に限定されるものではなく、耐熱性を発揮させるために少なくとも耐熱性ポリイミド層を含んでいればよい。したがって、例えば、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が積層されていてもよいし、片面のみ積層されていてもよいし、これら以外のポリイミド層が含まれていてもよいし、耐熱性ポリイミド層および熱可塑性ポリイミド層の積層構成が複数含まれていてもよい。また、複数のポリイミド層中に、耐熱性ポリイミド層とこれに直接積層される熱可塑性ポリイミド層とが含まれ、かつ、熱可塑性ポリイミド層が少なくとも一方の面の表面層に位置していればよい。
このように、本発明は、何れの種類のポリイミド層を組み合わせた多層フィルムを製造する場合にも適用することができる。例えば、本発明で得られるポリイミド系多層フィルムを、二層FPCの原料に使用する場合には、耐熱性ポリイミド層の片面または両面に熱可塑性ポリイミド層が密着した構造にすればよい。この場合、耐熱性ポリイミド層となるポリイミド系ワニス(耐熱性ポリイミド系ワニス)から形成される液膜の少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミド層となるポリイミド系ワニス(熱可塑性ポリイミド系ワニス)から形成される液膜が接触した、多層構造の液膜を支持体上に形成させ、これを加熱乾燥してゲルフィルムを得た後に高温焼成する製造方法を、特に好ましい態様として挙げることができる。
特に、FPCの実用性の面からは、接着フィルムの具体的な構成としては、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が密着した三層構造が最も好ましい形態である。それゆえ、このような三層構造の接着フィルム(多層フィルム)を製造する場合には、耐熱性ポリイミド系ワニスから形成される液膜の両面に、熱可塑性ポリイミド系ワニスから形成される液膜が接触した、三層構造の液膜を支持体上に形成させ、これを加熱乾燥した後に高温焼成する製造方法を、最も好ましい態様として挙げることができる。
ここで、硬化剤(脱水剤および触媒)は何れのポリイミド層となるポリイミド系ワニスに添加してもよいが、必ずしも全てのポリイミド系ワニスに硬化剤を添加しなくてもよい。例えば、上記二層FPC用の接着フィルムを製造する場合には、耐熱性ポリイミド系ワニスにのみに硬化剤を添加することが好ましい。
熱可塑性ポリイミド系ワニスは、一般に分子量が低く、ゲル化反応の速度が速く、微細構造が緻密である。そのため、熱可塑性ポリイミド系ワニスに硬化剤を添加すると、当該ポリイミド系ワニスのみが先に緻密な構造のゲルフィルムを形成してしまうため、多層液膜において中央の液膜(耐熱性ポリイミド層となる液膜)の外層に、緻密な構造のゲルフィルムが形成されることになる。その結果、耐熱性ポリイミド系ワニスから排出される残存成分が逃げ場を失い層間に蓄積されるため、層間の剥離現象がより発生しやすくなる。
これに対して、耐熱性ポリイミド系ワニスにのみ硬化剤を添加すると、耐熱性ポリイミド系ワニスのゲル化反応の進行に伴い、残存成分が液膜の外部に排出される。これらの残存成分のうち、硬化剤(脱水剤および触媒)は、隣接する液膜、すなわち熱可塑性ポリイミド系ワニスの内部に浸透し、熱可塑性ポリイミド系ワニスのゲル化反応を次第に促進させることになる。その結果、耐熱性ポリイミド系ワニスから生成するゲルフィルムと熱可塑性ポリイミド系ワニスから生成するゲルフィルムと層間の密着性が良好となるため、層間の剥離をより一層有効に抑制または回避することができる。
本発明にかかる多層フィルムが接着フィルムである場合には、ポリイミド層を含む積層体の製造に好適に用いることができる。すなわち、本発明には、上記接着フィルムを用いて製造される積層体が含まれてもよい。上記積層体の具体的な構成は特に限定されるものではないが、代表的な構成として、接着フィルムを絶縁性フィルム(耐熱性フィルム)として用い、この接着フィルムの表面に金属層を積層してなる構造を有する積層体を挙げることができる。上記積層体の製造方法は特に限定されるものではないが、本発明にかかる接着フィルムに対して、ラミネート法、好ましくは熱ロールラミネート法により金属箔を少なくとも一方の表面に接着させる方法を挙げることができる。
上記接着フィルムに積層される金属層としては、特に限定されるものではないが、本発明にかかる積層体をフレキシブル金属張積層板として、電子機器・電気機器用途に用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金等からなる金属箔を挙げることができる。また、一般的なフレキシブル金属張積層板では、圧延銅箔、電解銅箔といった銅箔が多用されるが、これら銅箔は本発明においても好ましく用いることができる。なお、これらの金属箔の表面には、防錆層や耐熱層あるいは接着層が塗布されていてもよい。
また、本発明には、上記接着フィルム、あるいは、上記積層体を用いて形成されるフレキシブル配線板も含まれてもよい。具体的には、フレキシブルプリント配線板(FPC)を挙げることができる。上記フレキシブルプリント配線板の具体的な製造方法は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、接着フィルムに金属箔を積層し、パターンエッチング処理を行い、金属箔に所望のパターン回路を形成する方法を挙げることができる。このように、本発明にかかる多層フィルムとしての接着フィルムは、高性能なプリント基板用ポリイミドフィルムとして用いることが可能となる。
本発明について、実施例および比較例、並びに図4、図7および図8に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例および比較例においた硬化剤は次のように調製した。
〔硬化剤〕
溶剤としてDMF19.6g、脱水剤として無水酢酸6.5g、触媒としてイソキノリン3.9.kgの割合で溶解させて硬化剤を調製した。
〔合成例1;耐熱性ポリイミド系ワニスとしてのポリアミド酸溶液の調製〕
10℃に冷却したDMFを76.2kg、p−フェニレンジアミン(PDA)を3.7kg加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を9.8kg徐々に添加し、30分間撹拌した。当該溶液に、メジアン平均径が2μm、かつ7μm以上の粒子径の割合が0.05%の粒子径分布を有するリン酸水素カルシウム粒子の10%DMF分散液を41.4g添加し、十分に攪拌した。
次いで、300gのBPDAを2kgのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が3500ポアズに達したところで添加を停止し、耐熱性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を合成した。得られたポリアミド酸溶液は固形分濃度が15重量%であり、これを耐熱性ポリイミド系ワニスとした。
〔合成例2;熱可塑性ポリイミド系ワニスとしてのポリアミド酸溶液の調製〕
10℃に冷却したDMFを78kg、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を11.56kg加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDAを7.87kg徐々に添加した。続いて、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMEG)を380g添加し、30分間撹拌した。
次いで、300gのTMEGを3kgのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が3000ポアズに達したところで添加を停止し、熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を合成した。得られたポリアミド酸溶液に対して、さらにDMFを43.7kg添加することにより固形分濃度を14重量%に調整し、これを熱可塑性ポリイミド系ワニスとした。
〔実施例1〕
本実施例では、多層共押出ダイとして、図4に示す構造の三層共押出ダイ50を用いた。当該三層共押出ダイ50の流路の幅は120mmであり、外層用流路52b・52cの両端には、それぞれ、幅が10mmのインナーディッケル(図7(b)に示すタイプ)を挿入した。したがって、中心層用流路52aの幅は120mmのままであり、外層用流路52aおよび52cの幅は100mmとなる。
上記硬化剤30gを、0℃に冷却した100gの耐熱性ポリイミド系ワニスに添加して混合した。得られた混合液を遠心分離機で脱泡してからシリンジに充填し、このシリンジを、多層液膜の中心層となる三層共押出ダイ50の中心層用流路52aに接続した。同時に、多層液膜の外層となる三層共押出ダイ50の外層用流路52bおよび52cには、0℃に冷却した熱可塑性ポリイミド系ワニスのみを充填したシリンジを接続した。
各シリンジを動作させ、耐熱性ポリイミド系ワニス(硬化剤含有)を1.0kg/hrの速度で、熱可塑性ポリイミド系ワニスを0.16kg/hrの速度で、三層共押出ダイに注入した。これにより三層共押出ダイのリップから三層構造の多層液膜を押し出し、これを1.0m/分の速度で移動するアルミ箔(支持体)の上に流延し、三層構造の多層液膜をアルミ箔上に形成した。
得られた多層液膜の両端部を観察すると、耐熱性ポリイミド系ワニスと熱可塑性ポリイミド系ワニスとの色の違いから、当該両端部の辺縁から約5mmの幅にわたる領域で、耐熱性ポリイミド系ワニスが単層液膜を形成していることが確認された。
上記多層液膜をアルミ箔とともに乾燥炉に入れ、130℃で100秒間乾燥することにより多層ゲルフィルムを得た。得られた多層ゲルフィルムを目視で観察したが、剥離は観察されなかった。その後、多層ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がした。容易に引き剥がすことができたので引き剥がし性は良好であった。
引き剥がした多層ゲルフィルムの両端部、すなわち単層構造の部分をテンターピンで固定し、300℃×30秒、400℃×50秒、450℃×10秒の温度で焼成してイミド化を完了させた。これにより、耐熱性ポリイミド層(絶縁層)の両面に熱可塑性ポリイミド層(接着層)が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。焼成炉から取り出した多層フィルムをテンターピンから引き抜いたが、テンターピンからは容易に引き抜くことができ、脱ピン不良は生じなかった。また、この多層フィルムにおける層間の密着性は良好であった。
〔実施例2〕
本実施例では、多層共押出ダイとして、実施例1と同様に、図4に示す構造の三層共押出ダイ50を用いた。当該三層共押出ダイ50の流路の幅は120mmであり、外層用流路52b・52cの両端には、それぞれ、幅が20mmのインナーディッケル(図7(b)に示すタイプ)を挿入した。したがって、中心層用流路52aの幅は120mmのままであり、外層用流路52bおよび52cの幅は80mmとなる。
上記熱可塑性ポリイミド系ワニスの注入速度を0.11kg/hrとした以外は、実施例1と同様にして、三層構造の多層液膜をアルミ箔上に形成した。得られた多層液膜の両端部を観察すると、耐熱性ポリイミド系ワニスと熱可塑性ポリイミド系ワニスとの色の違いから、当該両端部の辺縁から約10mmの幅にわたる領域で、耐熱性ポリイミド系ワニスが単層液膜を形成していることが確認された。
また、実施例1と同一の条件で多層液膜を多層ゲルフィルムに転化した。得られた多層ゲルフィルムを目視で観察したが、剥離は観察されなかった。その後、多層ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がした。容易に引き剥がすことができたので引き剥がし性は良好であった。
さらに、実施例1と同一の条件で多層ゲルフィルムを焼成し、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。焼成炉から取り出した多層フィルムをテンターピンから引き抜いたが、テンターピンからは容易に引き抜くことができ、脱ピン不良は生じなかった。また、この多層フィルムにおける層間の密着性は良好であった。
〔実施例3〕
本実施例では、多層共押出ダイとして、実施例1と同様に、図4に示す構造の三層共押出ダイ50を用いた。当該三層共押出ダイ50の流路の幅は120mmであり、外層用流路52b・52cの両端には、それぞれ、幅が30mmのインナーディッケル(図7(b)に示すタイプ)を挿入した。したがって、中心層用流路52aの幅は120mmのままであり、外層用流路52bおよび52cの幅は60mmとなる。
上記熱可塑性ポリイミド系ワニスの注入速度を0.09kg/hrとした以外は、実施例1と同様にして、三層構造の多層液膜をアルミ箔上に形成した。得られた多層液膜の両端部を観察すると、耐熱性ポリイミド系ワニスと熱可塑性ポリイミド系ワニスとの色の違いから、当該両端部の辺縁から約15mmの幅にわたる領域で、耐熱性ポリイミド系ワニスが単層液膜を形成していることが確認された。
また、実施例1と同一の条件で多層液膜を多層ゲルフィルムに転化した。得られた多層ゲルフィルムを目視で観察したが、剥離は観察されなかった。その後、多層ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がした。容易に引き剥がすことができたので引き剥がし性は良好であった。
さらに、実施例1と同一の条件で多層ゲルフィルムを焼成し、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。焼成炉から取り出した多層フィルムをテンターピンから引き抜いたが、テンターピンからは容易に引き抜くことができ、脱ピン不良は生じなかった。また、この多層フィルムにおける層間の密着性は良好であった。
〔実施例4〕
本実施例では、多層共押出ダイとして実施例3と同じもの、すなわち、図4に示す構造の三層共押出ダイ50において、インナーディッケルとして幅が30mmのものを外層用流路52bおよび52cに挿入したものを用いた。それゆえ、当該三層共押出ダイ50の中心層用流路52aの幅は120mmのままであり、外層用流路52bおよび52cの幅は60mmとなる。
上記耐熱性ポリイミド系ワニスには硬化剤を添加せず、上記熱可塑性ポリイミド系ワニスに上記組成の硬化剤を添加し、さらに、上記熱可塑性ポリイミド系ワニスの注入速度を0.2kg/hrとした以外は、実施例1と同様にして、三層構造の多層液膜をアルミ箔上に形成した。得られた多層液膜の両端部を観察すると、耐熱性ポリイミド系ワニスと熱可塑性ポリイミド系ワニスとの色の違いから、当該両端部の辺縁から約15mmの幅にわたる領域で、耐熱性ポリイミド系ワニスが単層液膜を形成していることが確認された。
また、実施例1と同一の条件で多層液膜を多層ゲルフィルムに転化した。得られた多層ゲルフィルムを目視で観察したが、剥離は観察されなかった。その後、多層ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がした。容易に引き剥がすことができたので引き剥がし性は良好であった。
さらに、実施例1と同一の条件で多層ゲルフィルムを焼成し、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。焼成炉から取り出した多層フィルムをテンターピンから引き抜いたが、テンターピンからは容易に引き抜くことができ、脱ピン不良は生じなかった。また、この多層フィルムにおける層間の密着性は良好であった。
〔実施例5〕
本実施例では、多層共押出ダイとして実施例3と同じもの、すなわち、図4に示す構造の三層共押出ダイ50において、インナーディッケルとして幅が30mmのものを外層用流路52bおよび52cに挿入したものを用いた。それゆえ、当該三層共押出ダイ50の中心層用流路52aの幅は120mmのままであり、外層用流路52bおよび52cの幅は60mmとなる。
上記耐熱性ポリイミド系ワニスにも上記熱可塑性ポリイミド系ワニスにも硬化剤を添加しないこと、および、上記耐熱性ポリイミド系ワニスの注入速度を1.3kg/hr、熱可塑性ポリイミド系ワニスの注入速度を0.09kg/hrとした以外は、実施例1と同様にして、三層構造の多層液膜をアルミ箔上に形成した。得られた多層液膜の両端部を観察すると、耐熱性ポリイミド系ワニスと熱可塑性ポリイミド系ワニスとの色の違いから、当該両端部の辺縁から約15mmの幅にわたる領域で、耐熱性ポリイミド系ワニスが単層液膜を形成していることが確認された。
また、実施例1と同一の条件で多層液膜を多層ゲルフィルムに転化した。得られた多層ゲルフィルムを目視で観察したが、剥離は観察されなかった。また、得られた多層ゲルフィルムは、実施例1および2で得られた多層ゲルフィルムと比較してアルミ箔に密着していた。しかしながら、当該多層ゲルフィルムをアルミ箔から伸長に引っ張ることにより、アルミ箔から引き剥がすことができた。
さらに、実施例1と同一の条件で多層ゲルフィルムを焼成し、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。焼成炉から取り出した多層フィルムをテンターピンから引き抜いたが、テンターピンからは容易に引き抜くことができ、脱ピン不良は生じなかった。また、この多層フィルムにおける層間の密着性は良好であった。
〔実施例6〕
本実施例では、多層共押出ダイとして、実施例1と同様に、図4に示す構造の三層共押出ダイ50を用いるとともに、図8に示す製造装置を用いた。当該三層共押出ダイ50の流路の幅は650mmであり、外層用流路52b・52cの両端には、それぞれ、幅が100mmのインナーディッケル(図7(b)に示すタイプ)を挿入した。したがって、中心層用流路52aの幅は650mmのままであり、外層用流路52b・52cの幅は450mmとなる。
0℃に冷却した耐熱性ポリイミド系ワニスを貯蔵するワニス用タンク11を三層共押出ダイ(多層共押出ダイ)50の中心層用流路52aに接続し、5kg/hrの速度で送液した。同時に、耐熱性ポリイミド系ワニスを送液する配管20の途中から、硬化剤用タンク14より上記組成の硬化剤を1.5kg/hrの速度で添加して混合した。同時に、0℃に冷却した熱可塑性ポリイミド系ワニスを貯蔵するワニス用タンク12および13を三層共押出ダイ50の外層用流路52bおよび52cに接続し、0.7kg/hrの速度で送液した。
三層共押出ダイ50のリップから三層構造の多層液膜30が押出されるので、これを1.0m/分の速度で移動するステンレス製のエンドレスベルト(支持体10)上に流延し、当該多層液膜30をエンドレスベルト10の上に形成させた。得られた多層液膜30の端部を観察すると、耐熱性ポリイミド系ワニスと熱可塑性ポリイミド系ワニスとの色の違いから、両端部から約50mmの幅に渡り、耐熱性ポリイミド系ワニスの液膜が単層構造を形成していることが確認された。
上記エンドレスベルト10上の三層構造の多層液膜30は、エンドレスベルト10とともに連続式乾燥炉15を通過することにより、130℃で100秒間乾燥処理が施された。乾燥後の三層構造の多層ゲルフィルム40には層間の剥離が観察されなかった。得られた多層ゲルフィルム40をエンドレスベルト10から引っ張ると容易に引き剥がすことができた。引き剥がした多層ゲルフィルム40の単層構造の部分(幅方向の両端部)をテンターピン17で固定し、連続式焼成炉16を通過させた。焼成炉は、300℃、400℃、450℃の3つの温度領域から形成されており、多層ゲルフィルム40に対して段階的な加熱焼成を行った。
焼成炉から取り出した多層フィルムをテンターピン17から引き抜いたところ、当該多層フィルムは容易にテンターピン17から引き抜くことができたので、これを回収した。得られたポリイミド系多層フィルムは層間密着性の良好な三層構造のフィルムであった。
〔比較例1〕
本実施例では、多層共押出ダイとして、実施例1と同様に、図4に示す構造の三層共押出ダイ50を用いた。当該三層共押出ダイ50の流路の幅は120mmであり、流路52a〜52cの何れにもインナーディッケルを挿入しなかった。したがって、全ての流路の幅は何れも120mmのままである。
上記熱可塑性ポリイミド系ワニスの注入速度を0.17kg/hrとした以外は、実施例1と同様にして、三層構造の多層液膜をアルミ箔上に形成した。得られた多層液膜の両端部を観察すると、多層液膜全体が全て同じ色をしており、両端部においても三層構造が形成されていることが確認された。
また、実施例1と同一の条件で多層液膜を多層ゲルフィルムに転化した。得られた多層ゲルフィルムを目視で観察したところ、当該多層ゲルフィルムの端部に層間の剥離が観察された。その後、多層ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がした。容易に引き剥がすことができたので引き剥がし性は良好であった。
さらに、実施例1と同一の条件で多層ゲルフィルムを焼成し、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。焼成炉から取り出した多層フィルムをテンターピンから引き抜いたところ、フィルムはテンターピンに固着し、容易に引き抜くことができなかった。さらに、得られた多層フィルムは端部において層間密着性に乱れの生じた三層構造の多層フィルムとなった。
〔比較例2〕
本実施例では、多層共押出ダイとして、実施例1と同様に、図4に示す構造の三層共押出ダイ50を用いた。当該三層共押出ダイ50の流路の幅は120mmであり、流路52a〜52cの何れにもインナーディッケルを挿入しなかった。したがって、全ての流路の幅は何れも120mmのままである。
上記耐熱性ポリイミド系ワニスにも上記熱可塑性ポリイミド系ワニスにも硬化剤を添加しないこと、および、上記耐熱性ポリイミド系ワニスの注入速度を1.3kg/hr、熱可塑性ポリイミド系ワニスの注入速度を0.17kg/hrとした以外は、実施例1と同様にして、三層構造の多層液膜をアルミ箔上に形成した。したがって、硬化剤を添加しないという点から見れば、熱可塑性ポリイミド系ワニスの注入速度を除いて実施例5と同様の手順で多層液膜を形成したことになる。得られた多層液膜の両端部を観察すると、多層液膜全体が全て同じ色をしており、両端部においても三層構造が形成されていることが確認された。
また、実施例1と同一の条件で多層液膜を多層ゲルフィルムに転化した。得られた多層ゲルフィルムを目視で観察したが、剥離は観察されなかった。その後、多層ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がした。容易に引き剥がすことができたので引き剥がし性は良好であった。
さらに、実施例1と同一の条件で多層ゲルフィルムを焼成し、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。焼成炉から取り出した多層フィルムをテンターピンから引き抜いたところ、フィルムはテンターピンに固着し、容易に引き抜くことができなかった。
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。