JP2010210262A - タイヤ空気圧低下検出装置及び方法、並びにタイヤ空気圧低下検出プログラム - Google Patents

タイヤ空気圧低下検出装置及び方法、並びにタイヤ空気圧低下検出プログラム Download PDF

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Abstract

【課題】タイヤの減圧感度が小さい場合、複数の標準タイヤ間で、共振周波数や減圧感度の分散が大きい場合においても、減圧判定を正確に行うことができるタイヤ空気圧低下検出装置を提供する。
【解決手段】車両の各輪に装着されたタイヤの共振周波数に基づいてタイヤの空気圧の低下を検出する装置。複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布であってあらかじめ学習された分布に関する情報を記憶する記憶手段と、正常内圧時におけるタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から周波数特性を推定する初期化手段と、走行中のタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から周波数特性を推定する周波数推定手段と、初期化時の共振周波数、周波数推定手段により得られる或る時刻の共振周波数、及び記憶手段に記憶されている分布に関する情報に基づいて、或る時刻におけるタイヤ空気圧の状態をベイズ推定するベイズ推定手段とを備えている。
【選択図】なし

Description

本発明は、走行中の車両のタイヤの共振周波数に基づき、当該タイヤの空気圧低下を検出するタイヤ空気圧低下検出装置及び方法、並びにタイヤ空気圧低下検出プラグラムに関するものである。
自動車が安全に走行できるための要素の1つとして、タイヤの空気圧をあげることができる。空気圧が適正値よりも低下すると、操縦安定性や燃費が悪くなり、タイヤバーストの原因となる場合がある。このため、タイヤ空気圧の低下を検出し、運転者に警報を出して適切な処置を促すタイヤ空気圧警報装置(Tire Pressure Monitoring System;TPMS)は、環境の保護や運転者の安全性の確保という見地から重要な技術である。
従来の警報装置は、直接検知型と間接検知型の2つに分類することができる。直接検知型は、タイヤホイール内部に圧力センサを組み込むことでタイヤの空気圧を直接計測するものである。空気圧の低下を高精度に検出することができる一方で、専用のホイールが必要となることや実環境での耐故障性能に問題があることなど、技術的、コスト的な課題を残している。
一方、間接検知型はタイヤの回転情報から空気圧を推定する方法であり、動荷重半径(Dynamic Loaded Radius;DLR)方式と、共振周波数(Resonance Frequency Mechanism;RFM)方式に細分類することができる。DLR方式は、減圧したタイヤが走行時につぶれることで動荷重半径が小さくなり、その結果正常圧のタイヤよりも速く回転する現象を利用し、4つのタイヤの回転速度を比較することで圧力低下を検出する方式である。車輪速センサから得られる車輪の回転速度信号だけを用いて比較的簡単に演算処理できることから、主に一輪のパンクを検出することを目的として広く研究が進められてきた。しかし、車輪の回転速度を相対比較しているに過ぎないため、4輪が同時に減圧する場合(自然漏れ)は検知することができない。また、車両の旋回、加減速や荷重の偏りなどの走行条件によっても車輪速差が生じるため、全ての走行状態を通じて精度良く減圧を検知できないという問題がある。
他方、RFM方式は、減圧によって車輪速信号の周波数特性が変化することを利用して正常圧との差異を検出する方式である。DLR方式と異なり、あらかじめ保持しておいた各輪の正常値との絶対比較であるため、4輪同時減圧にも対応でき、より良い間接検知方式として注目されている。しかし、走行条件によっては強いノイズなどが原因で、目的とする領域の周波数の推定値が車両速度や路面状況に頑健でないなどの課題がある。本発明は、RFM方式に基づくタイヤの状態検知装置に関するものである。以下、この方式の基本原理についてより詳しく述べる。
車両が走行すると、タイヤが路面から力を受けることで現れる前後方向のねじれ運動と、サスペンションの前後の運動とが連成共振を起こす。この共振現象は、車輪の回転運動にも影響を及ぼすため、アンチロックブレーキングシステム(Anti−Lock Braking System;ABS)に搭載された車輪センサから取得される車輪速信号にも共振現象に関する情報が含まれる。また、連成共振はタイヤのねじれ剛性に起因した固有の振動モードであるため、その励起状態はタイヤの物理特性を構成する空気圧の変化にのみ依存して変化し、車両速度や路面の変化に依存することはほとんどない。すなわち、空気圧が低下するとタイヤのねじれ運動のダイナミクスが変化するため、車輪速信号を周波数解析すると、連成共振が作るピーク(共振ピーク)は減圧時では正常圧時よりも低周波数側に現れる。
図3は、空気圧の状態が、正常圧(221kPa)、正常圧から15%減圧(188kPa)、25%減圧(166kPa)、40%減圧(133kPa)の場合において、タイヤに発生する振動を高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform;FFT)により解析した結果を表わしている。25〜30Hz付近に存在するピーク値に対応する周波数(共振周波数)が、内圧の変化によってより低周波側に移動していることが分かる。この現象は、前述の特性からタイヤや車両の種類、走行速度や路面の状況などから独立して現れるため、RFM方式ではこの共振周波数に着目し、初期化時に推定した基準周波数よりも相対的に低いと判断される場合に警報を出す。ここで、ABSから取得される車輪速信号から共振周波数を推定する必要があるが、計算資源が限られる車載の計算機では必要な時系列データを記憶させておくことが難しいため、FFTによる周波数分析を行うことは困難である。このため、従来の手法においては、以下に述べるオンライン手法を用いて共振周波数を推定している。
車輪速信号は各時刻における時系列データとして取得されるため、これをK次の自己回帰(Antoregressive;AR)モデルに基づいて時系列解析を行う。具体的には、次の式(1)で示されるモデルにおけるパラメータθ={a1、・・・、aK}をカルマンフィルタ(逐次最小二乗法)で推定する。
Figure 2010210262
ここで、y(t)は時刻tにおける車輪速、εは白色ノイズを表しており、Kはモデルの次数である(振動のような現象を表現するために、2次モデルを仮定する場合はK=2とすることができる。)。ARモデルを表わす伝達関数の極に対応する周波数が共振周波数として推定されるため、前記モデルにより共振ピークが正しく抽出できれば、正確に共振周波数を得ることができる。
ところで、タイヤ空気圧警報装置では、各時刻において前記従来手法等によって推定された共振周波数の系列に基づき、タイヤが減圧しているか否かの判定を最終的に下す必要がある。ここで、共振周波数の推定を正確に行えたとしても、減圧の判定に関して次のような二つの問題がある。
第一に、タイヤや車両の種類によっては、正常圧時と減圧時の共振周波数の差(以下、この差を「減圧感度」という。ただし、本明細書中の「共振周波数」の語が真の共振周波数ではなく、前記のARモデル等のシステムによって推定された周波数を意味する場合は、その分布の平均値の差を指すものとする。ここで、同じブランドのタイヤであっても、製造ばらつき等によってタイヤの共振周波数は個体間でばらつきがあること、また、真の共振周波数に係りなく、その推定値はノイズ等の影響によって推定分散の範囲でばらつくことに注意する必要がある。)が小さいものがある。この場合、減圧感度が共振周波数のもつ分散よりも小さい場合は正確に減圧判定を行うことが難しい。すなわち、従来から用いられる減圧判定方法として、初期化時に推定された基準周波数と現時刻で推定された共振周波数との差が、あらかじめ設定した差分量を上回っている場合に警報を出すという方法があるが、例えば、減圧感度が3Hzであるタイヤに対して、正常圧時において推定された共振周波数の分布の標準偏差が1Hzであれば、どのように差分量を設定したとしても、走行条件のばらつきによって基準周波数が低めに設定されたときは未警報の可能性があり、また、高めに設定されたときは誤報の可能性がある。言い換えれば、正常圧時の推定共振周波数の分布と減圧時の同分布の裾野が重複すると、正確な判定を一意に下すことが難しい。このような場合には、推定結果を棄却して減圧判定を見送る等の対処方法が考えられるが、本質的な解決ではないため走行条件によっては不都合が生じる場合がある。
第二に、市販される乗用車には、その車の標準として複数ブランドのタイヤが指定されていることが通常であり、それらは互いにトレッドパターン、インチサイズ、扁平率等が異なる。こうしたタイヤの性質が異なれば、減圧感度や各空気圧条件における共振周波数も異なるが、いずれの標準タイヤが装着された場合であっても(どの種類のタイヤが装着されたのかは、システムには未知である。)、単一の警報システムにより減圧を検出する必要がある。したがって、初期化(空気圧の調整後に一定時間システムに対して与えられる、正常空気圧状態における共振周波数を記憶する手続きを指す。)の段階において、いずれの標準タイヤが装着されているかについて判断を下すとともに、減圧判定の段階においては、異なるタイヤの性質を考慮した判定を行う必要がある。
複数の標準タイヤ間で、共振周波数や減圧感度の分散が大きい場合など、前記二つの問題が重畳する状況においては減圧判定が特に難しく、RFM方式に基づく空気圧警報システムの実用化を阻む大きな問題となっている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、前述した困難な問題を効果的に解決して、タイヤの減圧感度が小さい場合や、複数の標準タイヤ間で、共振周波数や減圧感度の分散が大きい場合においても、減圧判定を正確に行うことができるタイヤ空気圧低下検出装置及び方法、並びにタイヤ空気圧低下検出プログラムを提供することを目的としている。
本発明のタイヤ空気圧低下検出装置(以下、単に「検出装置」ともいう)は、車両の各輪に装着されたタイヤの共振周波数に基づいて当該タイヤの空気圧の低下を検出する装置であって、
複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布であってあらかじめ学習された分布に関する情報を記憶する記憶手段と、
正常内圧時におけるタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する初期化手段と、
走行中のタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する周波数推定手段と、
初期化時の共振周波数、前記周波数推定手段により得られる或る時刻の共振周波数、及び前記記憶手段に記憶されている分布に関する情報に基づいて、当該或る時刻におけるタイヤ空気圧の状態をベイズ推定するベイズ推定手段と
を備えたことを特徴としている。
本発明の検出装置は、複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布であってあらかじめ学習された分布に関する情報(例えば、正規分布の平均及び分散)を記憶させておき、ベイズ推定手段によって、初期化時の共振周波数、前記周波数推定手段により得られる或る時刻の共振周波数、及び前記記憶手段に記憶されている分布に関する情報に基づいて、当該或る時刻におけるタイヤ空気圧の状態をベイズ推定するので、タイヤの減圧感度が小さい場合、複数の標準タイヤ間で、共振周波数や減圧感度の分散が大きい場合においても、減圧判定を正確に行うことができる。
また、本発明のタイヤ空気圧低下検出方法(以下、単に「検出方法」ともいう)は、車両の各輪に装着されたタイヤの共振周波数に基づいて当該タイヤの空気圧の低下を検出する方法であって、
複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布であってあらかじめ学習された分布に関する情報を記憶する工程と、
正常内圧時におけるタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する初期化工程と、
走行中のタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する周波数推定工程と、
初期化時の共振周波数、前記周波数推定手段により得られる或る時刻の共振周波数、及び前記記憶手段に記憶されている分布に関する情報に基づいて、当該或る時刻におけるタイヤ空気圧の状態をベイズ推定するベイズ推定工程と
を含むことを特徴としている。
さらに、本発明のタイヤ空気圧低下検出プログラムは、車両の各輪に装着されたタイヤの共振周波数に基づいて当該タイヤの空気圧の低下を検出するためにコンピュータを、複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布であってあらかじめ学習された分布に関する情報を記憶する記憶手段、正常内圧時におけるタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する初期化手段、走行中のタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する周波数推定手段、及び、初期化時の共振周波数、前記周波数推定手段により得られる或る時刻の共振周波数、及び前記記憶手段に記憶されている分布に関する情報に基づいて、当該或る時刻におけるタイヤ空気圧の状態をベイズ推定するベイズ推定手段として機能させることを特徴としている。
本発明のタイヤ空気圧低下検出装置及び方法、並びにタイヤ空気圧低下検出プログラムによれば、タイヤの減圧感度が小さい場合、複数の標準タイヤ間で、共振周波数や減圧感度の分散が大きい場合においても、減圧判定を正確に行うことができる。
本発明の検出装置の一実施の形態を示すブロック図である。 図1に示される検出装置の電気的構成を示すブロック図である。 減圧によりタイヤの共振周波数が変化する様子を示す図である。 2種類のタイヤが装着されている可能性がある中で、本出願人がさきに提案した方法(先願方法)により得られる推定共振周波数の分布を示す図である。 3種類のタイヤが装着されている可能性がある中で、先願方法により得られる推定共振周波数の分布を示す図である。 別の3種類のタイヤが装着されている可能性がある中で、先願方法により得られる推定共振周波数の分布を示す図である。 本発明の検出方法と先願方法の減圧判定性能を表す図である。
以下、添付図面を参照しつつ、本発明のタイヤ空気圧低下検出装置及び方法、並びにタイヤ空気圧低下検出プログラムの実施の形態を詳細に説明する。
図1に示されるように、本発明の一実施の形態に係る検出装置は、4輪車両に備えられた4つのタイヤの左前輪(FL)、右前輪(FR)、左後輪(RL)および右後輪(RR)の回転速度情報を検出するため、各タイヤに関連して設けられた通常の車輪速度検出手段(回転速度情報検出手段)1を備えている。
前記車輪速度検出手段1としては、電磁ピックアップなどを用いて回転パルスを発生させ、パルスの数から回転角速度及び車輪速度を測定するための車輪速センサや、ダイナモのように回転を利用して発電を行い、この電圧から回転角速度及び車輪速度を測定するためのものを含む角速度センサなどを用いることができる。前記車輪速度検出手段1の出力は、ABSなどのコンピュータである制御ユニット2に与えられる。この制御ユニット2には、例えばタイヤが減圧していることを表示するための液晶表示素子、プラズマ表示素子またはCRTなどで構成された表示器3、ドライバーによって操作することができる初期化ボタン4、及びタイヤの減圧をドライバーに知らせる警報器5が接続されている。
制御ユニット2は、図2に示されるように、外部装置との信号の受け渡しに必要なI/Oインターフェース2aと、演算処理の中枢として機能するCPU2bと、このCPU2bの制御動作プログラムが格納されたROM2cと、前記CPU2bが制御動作を行う際にデータなどが一時的に書き込まれたり、その書き込まれたデータが読み出されたりするRAM2dとから構成されている。ROM2cは、後述する学習結果(複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布をあらかじめ実験走行等により学習した結果)を記憶する記憶手段としても機能する。
前記車輪速度検出手段1では、タイヤの回転数に対応したパルス信号(以下、「車輪速パルス」ともいう)が出力される。そして、この車輪速パルスを所定のサンプリング周期ΔT(秒)、例えばΔT=0.005秒毎にサンプリングすることで、車輪速信号の時系列データを得ることができる。
本実施の形態に係る検出装置は、車輪速度検出手段(回転速度情報検出手段)1、この車輪速度検出手段により得られる回転速度情報又はこの回転速度情報から演算される回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する周波数推定手段、複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布をあらかじめ学習した結果を記憶する記憶手段、正常内圧時におけるタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する初期化手段、初期化時の共振周波数、前記周波数推定手段により得られる或る時刻の共振周波数、及び前記記憶手段に記憶されている学習結果に基づいて、当該或る時刻におけるタイヤ空気圧の状態をベイズ推定するベイズ推定手段とで主に構成されている。そして、タイヤの空気圧低下検出プログラムは、前記制御ユニット2を周波数特性推定手段、記憶手段、初期化手段及びベイズ推定手段として機能させる。
本発明の検出方法は、「ベイズ推定」と呼ばれる確率的推定手法に基づく。この手法は、得られた観測情報に基づいて、その観測の原因となった事象を推定するための確率論的方法、言い換えれば、いわゆる逆問題を確率的方法により扱う枠組みであり、従来から多数の工学的応用例が報告されている。例えば、受信した電子メールが通常のメールであるか、迷惑メールであるかを判断する「ベイジアン・スパムフィルタ」などは分かりやすい例である。ユーザが通常のメールの集合と迷惑メールの集合を学習データセットとして与えることで、原因と観測の因果関係(一般に、「尤度関数」と呼ぶ。)を事前に学習させておけば、システムは新しく得られた未知のメールがいずれに由来するものであるかを推定できるため、高い確率で迷惑メールと推定されれば、そのメールを破棄する等の望ましい処理を行うことができる。同様の枠組みにより、癌の罹患が疑われる患者から採取された遺伝子に基づいて、偽陽性を評価することで医療的判断や予後の予測を支援するツールや、顔画像に基づく個人識別ツール等も提案されている。また、工学的に広く用いられているカルマンフィルタは、尤度関数を正規分布とした場合においてベイズ推定を逐次的に行う手法(一般に、「逐次ベイズ推定」と呼ばれる。)と等価である事実は広く知られており、また、得られた観測情報から背後に存在する因果関係ネットワークを推定する手法(一般に、「ベイジアンネットワーク」と呼ばれる。)等も知られている。この枠組み、および派生技術については古くから広く知られており、多くの学術文献や解説書が存在する。
一方で、タイヤ空気圧警報システムにおいては、減圧判定のためのアルゴリズムとして、初期化時に推定された基準周波数と現時刻で推定された共振周波数との差が、あらかじめ設定した差分量を上回っている場合に警報を出すという方法が採用されてきた。しかし、前述した通り、このように単純な決定論的方法では実用において対処できない場合があるため、確率分布によって複数の可能性に対する不確実性を考慮した上で最適な判定を下すという確率論的方法が必要となる。
時刻tにおいて推定された共振周波数をωt、空気圧の状態をst、装着されているタイヤの種類をz、初期化時における時刻1からtまでの間に得られた共振周波数の系列を
Figure 2010210262
すなわち、初期化時において、式(4)にしたがって装着されているタイヤの分布
Figure 2010210262
ここで、式(3)、(4)において現れる二つの尤度関数
Figure 2010210262
ただし、両式にあらわれる分母については計算が困難であるため、尤度関数に正規分布を仮定してカルマンフィルタを用いるか、あるいはパーティクルフィルタや変分ベイズ法などの適当な近似計算手法を用いる必要がある。本実施の形態では、カルマンフィルタを用いて解析的に所望の事後分布を得る。尤度関数に正規分布を仮定することになるが、共振周波数の推定値は真のタイヤの共振周波数を中心とし、ある範囲のばらつきをもって正規分布することが経験的に分かっているため、この仮定は妥当である。
いま、各タイヤの正常圧時における共振周波数の分布の平均を
Figure 2010210262
初期化時においては、時刻t(t=1、・・・、T)において共振周波数
Figure 2010210262
Figure 2010210262
検出時においては、時刻t(t=1、・・・)において共振周波数ωtを得たとして、上記と同様のカルマンフィルタアルゴリズムを実行する。
Figure 2010210262
一般に、ベイズ推定は計算量が大きいため、厳密解を得ることは現実的でない場合が多いが、共振周波数の推定値が正規分布に従うことを利用して尤度関数にこの分布を仮定し、カルマンフィルタを用いることで極めて簡単な行列演算のみで解析的に厳密解を得ることができる。そのため、計算資源の限られた実車環境においても容易に本発明を実施することができる。唯一、指数関数の評価を必要とする式(5)、(6a)、(6b)の計算が比較的重く、問題となる。しかし、式(5)のタイヤ装着確率の計算については初期化終了時に一度実行するだけで足り、オンラインで迅速に計算する必要はないため、他の処理を進めつつバックグラウンドで少しずつ計算を行う等の実装により問題を回避することができる。また、式(6a)、(6b)の事後確率の計算は、以下で例示する減圧判定アルゴリズムにおいては確率の大小比較だけを必要とするため、指数関数として厳密に計算する必要がない。すなわち、式(6a)、(6b)の両辺の対数のみを考えればよく、計算負荷の問題を解決できる。
なお、製造ばらつき等に由来する同一種類のタイヤ内における共振周波数のばらつきまで考慮すると、あらかじめパラメータを決定しておくべき尤度関数p(ωt|st、z)の分散が大きくなりすぎ、装着するタイヤのブランドによっては望ましい性能を達成することができない場合がある。一方で、同一ブランドのタイヤであれば、共振周波数の絶対値が異なっても、減圧感度は大きく変化しないことが経験的に知られている。そこで、尤度関数の学習には同一タイヤのデータのみを与え、実車においては初期化終了時に、尤度関数p(ωt|st、z)の平均値が初期化で得た共振周波数の平均値
Figure 2010210262
式(2)にしたがって空気圧の状態stに関する事後確率p(st|ht、ωSTD)が計算されれば、これに基づいて減圧判定を行うことができる。例えば、あらかじめ設定した判定時刻Tにおいて、最も当該確率が高くなるsTが減圧状態であれば警報を出すというアルゴリズムが考えられる。より具体的には、stが「正常圧」、「減圧」の二値をとる場合、正常圧・減圧に関するそれぞれの確率を比較して、減圧の確率の方が大きければ警報を出すというアルゴリズムである。また、stが「正常圧」、「やや減圧」、「減圧」の三値をとる場合、最も大きい確率をとる空気圧状態に応じて、警報の有無を決めるアルゴリズムである。
あるいは、未警報よりも誤報を避けたいような場合であれば、適当に定義した評価関数の当該確率に関する期待値から警報を出すか否かを決定するアルゴリズムも考えられる。例えば、正常圧の確率が0.4、減圧の確率が0.6と計算された場合、前記の方法であれば警報を出すが、「正常圧のときに『正常圧』と判定する効用を1、『減圧』と誤判定する効用を−10、減圧のときに『正常圧』と誤判定する効用を−2、『減圧』と判定する効用を1」とする評価関数で期待値をとれば、「警報を出す」ことに対する期待効用は、1×0.4+(−10)×0.4=−3.6、「警報を出さない」ことに対する期待効用は、−2×0.6+1×0.6=−0.6となるため、減圧の確率が高い場合でも「警報を出さない」ことに対する効用が高くなり、確率の単純比較だけでは誤報の回避が難しい場合に警報を見送ることができる。
[実施例及び比較例]
つぎに本発明の検出方法の実施例を説明するが、本発明は以下に記載する実施例のみに限定されるものではない。
本発明の有効性を確認するために、実車実験によって採取された実データに適用して評価した。用いたデータセットは、米国の一般道路や高速道路を様々な条件(走行時間、路面状態、走行速度、積載荷重等の条件が異なる)のもとで走行することによって得たもので、50種類のデータ(このうち24種類は正常圧条件のデータ、残りの26種類は25パーセント減圧条件のデータ)が含まれる。任意の1種類の正常圧データ(24種類のうちの1つ)を初期化用データ、これとは別の任意の1種類のデータ(50種類のうちの1つ)を判定用データ、残りの48種類のデータを尤度関数の学習用データとしたとき、これらの組み合わせを総当りで評価(24×50=1200評価)した場合の判定精度を評価した。また、具体的な減圧判定アルゴリズムとしては、判定を開始してから15分の時点で事後確率p(st|ht、ωSTD)が最大となるsTを現在の空気圧状態とする、という単純なものを採用した。
〔条件1〕
使用したタイヤはトレッド幅215ミリ、扁平率60パーセントの17インチタイヤ、およびトレッド幅225ミリ、扁平率55パーセントの18インチタイヤの2種類である。本発明者らは、実車実験等を繰り返した結果から、当該2種類のタイヤの共振周波数がそれぞれ41.4Hz、42.7Hz、25パーセント減圧した場合の共振周波数の変化量がそれぞれ3.0Hz、2.4Hzであることを確認した。すなわち、これらのタイヤは正常圧時における共振周波数も減圧感度も異なり、それぞれの共振周波数を本出願人がさきに提案した手法(特願2008−129055に示される推定手法(先願方法)。車両の各輪のタイヤの回転速度情報を定期的に検出する工程において得られる回転速度(又は加速度)情報から、当該回転速度(又は加速度)情報の周波数特性を推定する工程と、推定された周波数特性に基づいて前記タイヤの空気圧の低下を判定する工程とを含んでいる。前記周波数特性を推定する工程は、前記回転速度(又は加速度)情報を含む時系列信号に対し、3次以上の線形モデルのパラメータを時系列推定する第1の工程、推定された線形モデルと、線形モデルの出力信号である前記回転速度(又は加速度)情報とから、当該線形モデルに対する入力信号を推定する第2の工程、推定された入力信号と、前記回転速度(又は加速度)情報とから、2次に低次元化した線形モデルのパラメータを同定する第3の工程、及び2次に低次元化して同定されたパラメータからタイヤのねじり方向の共振周波数を推定する第4の工程を含んでいる。また、前記タイヤの空気圧の低下を判定する工程において、推定されたタイヤのねじり方向の共振周波数に基づいてタイヤの空気圧の低下を判定する。)で推定した場合における推定共振周波数の分布は図4のようになる。
〔条件2〕
使用したタイヤを、トレッド幅215ミリ、扁平率60パーセントの17インチタイヤ、トレッド幅225ミリ、扁平率55パーセントの18インチタイヤ、及びトレッド幅245ミリ、扁平率45パーセントの19インチタイヤの3種類に変えた。これらの3種類のタイヤの共振周波数がそれぞれ41.4Hz、42.7Hz、44.9Hz、25パーセント減圧した場合の共振周波数の変化量がそれぞれ3.0Hz、2.4Hz、2.6Hzであることを確認した。また、前記と同様にして先願方法にしたがい共振周波数を推定した。結果を図5に示す。
〔条件3〕
使用したタイヤを、トレッド幅225ミリ、扁平率55パーセントの16インチタイヤ、トレッド幅225ミリ、扁平率50パーセントの17インチタイヤ、及びトレッド幅245ミリ、扁平率40パーセントの18インチタイヤの3種類に変えた。これらの3種類のタイヤの共振周波数がそれぞれ41.6Hz、42.3Hz、40.5Hz、25パーセント減圧した場合の共振周波数の変化量がそれぞれ2.1Hz、2.1Hz、2.7Hzであることを確認した。また、前記と同様にして先願方法にしたがい共振周波数を推定した。結果を図6に示す。
本実験において、装着されているタイヤに関して不確実性がある状況(自動車会社が指定する複数種類の標準タイヤのうち、どの種類のタイヤが装着されているのかがシステム側からは未知である状況)における減圧判定の精度を評価したところ、図7の結果を得た。なお、図7の評価は互いに異なる1200の評価条件に対する正答率(正しく判定(「正常圧」のときに「正常圧」と判定し、「減圧」のときに「減圧」と判定すること)できた割合)で行った。正答率は1200条件に対する正答数で計算しており、例えば2種類のタイヤのいずれかが装着される本発明の場合(99.1)、1200のうち11条件で誤報又は未警報があり、また同じ条件での先願方法の場合(71.2)、1200のうち346条件で誤報又は未警報があったということである。
先願方法では十分な性能を示すことができないが、本発明に基づけば、ほぼ間違いなく適切に減圧判定を行うことができることが分かる。本発明と先願方法との間にこれほど顕著な性能差があるのは、次の理由による。初期化時に推定された基準周波数と現時刻で推定された共振周波数との差が、あらかじめ設定した差分量を上回っている場合に警報を出すという手法では、2種類のタイヤの減圧感度が異なっている場合でも事前に設定しておく差分量は1つの値でしかなく、初期化時に得られた共振周波数によっては誤報、未警報が頻発する。例えば、初期化時に得た共振周波数が42Hzであったとき、17インチにおいて標準に近い共振周波数が得られたのか、18インチにおいてやや低めの共振周波数が得られたのかを分離しないまま、例えば差分量を2.5Hzと設定して減圧判定を行うため、判定時の共振周波数が40Hzであれば警報を出さないが、装着されたタイヤが18インチであれば確実に減圧状態と言えるため警報を出すべき状況である。このように、先願方法では対処できない状況においても、本発明に基づけば異なる複数のタイヤが装着されている状態を考慮して減圧判定するため、確実に警報を出すことができる。
なお、本実施例では前記2種類又は3種類のタイヤに対する2つの空気圧状態を検出する設定としたが、タイヤの種類や空気圧状態の数が増えても同一の方法により減圧判定を行うことができる。
また、本実施例では式(7a)、(7b)に示される計算を行っていないが、計算を行った場合もほとんど同様の結果を得ることができる。
1 車輪速度検出手段
2 制御ユニット
2a インターフェース
2b CPU
2c ROM
2d RAM
3 表示器
4 初期化ボタン
5 警報器

Claims (9)

  1. 車両の各輪に装着されたタイヤの共振周波数に基づいて当該タイヤの空気圧の低下を検出する装置であって、
    複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布であってあらかじめ学習された分布に関する情報を記憶する記憶手段と、
    正常内圧時におけるタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する初期化手段と、
    走行中のタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する周波数推定手段と、
    初期化時の共振周波数、前記周波数推定手段により得られる或る時刻の共振周波数、及び前記記憶手段に記憶されている分布に関する情報に基づいて、当該或る時刻におけるタイヤ空気圧の状態をベイズ推定するベイズ推定手段と
    を備えたことを特徴とするタイヤ空気圧低下検出装置。
  2. 前記ベイズ推定手段がカルマンフィルタを用いてベイズ推定を行う請求項1に記載のタイヤ空気圧低下検出装置。
  3. タイヤ固体間の共振周波数のばらつきによる影響を緩和するために、前記ベイズ推定に用いる尤度関数を構成する正規分布の平均値を変化させるよう構成されている請求項1又は2に記載のタイヤ空気圧低下検出装置。
  4. 前記分布に関する情報が正規分布の平均及び分散である請求項1に記載のタイヤ空気圧低下検出装置。
  5. 車両の各輪に装着されたタイヤの共振周波数に基づいて当該タイヤの空気圧の低下を検出する方法であって、
    複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布であってあらかじめ学習された分布に関する情報を記憶する記憶工程と、
    正常内圧時におけるタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する初期化工程と、
    走行中のタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する周波数推定工程と、
    初期化時の共振周波数、前記周波数推定手段により得られる或る時刻の共振周波数、及び前記記憶手段に記憶されている分布に関する情報に基づいて、当該或る時刻におけるタイヤ空気圧の状態をベイズ推定するベイズ推定工程と
    を含むことを特徴とするタイヤ空気圧低下検出方法。
  6. 前記ベイズ推定工程においてカルマンフィルタを用いてベイズ推定を行う請求項5に記載のタイヤ空気圧低下検出方法。
  7. タイヤ固体間の共振周波数のばらつきによる影響を緩和するために、前記ベイズ推定に用いる尤度関数を構成する正規分布の平均値を変化させるよう構成されている請求項5又は6に記載のタイヤ空気圧低下検出方法。
  8. 前記分布に関する情報が正規分布の平均及び分散である請求項5に記載のタイヤ空気圧低下検出方法。
  9. 車両の各輪に装着されたタイヤの共振周波数に基づいて当該タイヤの空気圧の低下を検出するためにコンピュータを、複数の空気圧状態にそれぞれ対応する共振周波数の分布であってあらかじめ学習された分布に関する情報を記憶する記憶手段、正常内圧時におけるタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する初期化手段、走行中のタイヤの回転速度情報又は回転加速度情報から当該回転速度情報又は回転加速度情報の周波数特性を推定する周波数推定手段、及び、初期化時の共振周波数、前記周波数推定手段により得られる或る時刻の共振周波数、及び前記記憶手段に記憶されている分布に関する情報に基づいて、当該或る時刻におけるタイヤ空気圧の状態をベイズ推定するベイズ推定手段として機能させることを特徴とするタイヤ空気圧低下検出プログラム。
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