JP2010198903A - 燃料電池とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】自己加湿可能な燃料電池であって、製造効率性も高く、性能品質に優れた燃料電池を提供する。
【解決手段】膜電極接合体4と、ガス透過層(ガス拡散層5,5’)およびセパレータ7,7’と、からなり、酸化剤ガスおよび燃料ガスがコフロー制御もしくはカウンターフロー制御されている燃料電池セル10からなる燃料電池であって、膜電極接合体4のうち、少なくとも、アノード側の燃料ガスの供給マニホールドM1側の領域において、該膜電極接合体4を貫通する貫通孔9が形成されており、カソード側のガス透過層の貫通孔に対応する位置の酸化剤ガスのガス圧が、アノード側のガス透過層の該貫通孔に対応する位置の燃料ガスのガス圧に比して高くなるようにガス圧を制御する制御装置を具備している。
【選択図】図1
【解決手段】膜電極接合体4と、ガス透過層(ガス拡散層5,5’)およびセパレータ7,7’と、からなり、酸化剤ガスおよび燃料ガスがコフロー制御もしくはカウンターフロー制御されている燃料電池セル10からなる燃料電池であって、膜電極接合体4のうち、少なくとも、アノード側の燃料ガスの供給マニホールドM1側の領域において、該膜電極接合体4を貫通する貫通孔9が形成されており、カソード側のガス透過層の貫通孔に対応する位置の酸化剤ガスのガス圧が、アノード側のガス透過層の該貫通孔に対応する位置の燃料ガスのガス圧に比して高くなるようにガス圧を制御する制御装置を具備している。
【選択図】図1
Description
本発明は、燃料電池とその製造方法に係り、特に、酸化剤ガスおよび燃料ガスの双方が無加湿雰囲気で燃料電池セル内に提供され、該燃料電池セル内での自己加湿が可能となっている燃料電池とその製造方法に関するものである。
固体高分子型燃料電池のセルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層と、から膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を形成し、各触媒層の外側にガス流れの促進と集電効率を高めるためのガス拡散層(GDL)が配されて電極体(MEGA:MEAとGDLの接合体)を形成し、このガス拡散層の外側にガス流路溝が形成されたセパレータが配されて構成されている。なお、セパレータから分離されたガス流路層が該セパレータとガス拡散層の間に介在する構造の燃料電池セルも存在する。実際には、これらの燃料電池セルが発電性能に応じた段積だけ積層され、燃料電池スタックが形成されることになる。
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極では固有のガス流路溝もしくはガス流路層にて面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが電極触媒に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。この電気化学反応では、アノード電極にて生成されたプロトン(水素イオン)と水が水和状態で電解質膜を透過してカソード電極に至り、カソード電極にて生成水が生成されることとなる。
ところで、燃料電池の発電に必要なプロトンの移動は水を媒体としていることから、電解質膜の含水率が低下するとプロトン伝導性が低下し、結果として発電性能の低下に至ることとなる。特に、低加湿雰囲気下での発電においては、電解質膜の含水率が大きく低下してプロトン伝導性の低下がより顕著となることが分かっている。したがって、膜電極接合体を構成する電解質膜やアノード側およびカソード側の触媒層は、プロトン伝導性を低下させない程度の加湿雰囲気に保持されている必要がある。
上記する電解質膜等を加湿雰囲気に保持する方策として、これまでの燃料電池セルでは、燃料電池システムを構成する加湿モジュールにて所望の加湿雰囲気とされた酸化剤ガスや燃料ガスを燃料電池セル内に提供するようにしている。
しかし、昨今の燃料電池とその周辺機器とからなる燃料電池システムには、より一層の高性能化や小型化、軽量化、低コスト化が叫ばれており、これらを実現することで、該システムを搭載する電気自動車やハイブリッド車の燃費性能の向上とこれに起因する環境影響負荷の一層の低減を図ることが可能となる。この小型化、軽量化の観点に基づいて、上記する加湿モジュールを排した燃料電池システムの開発がおこなわれている。これは、加湿モジュールを排する代わりに、燃料電池セル内で自己加湿をおこなうことでガスの加湿状態を形成し、もってセル内を所望の加湿雰囲気に保持しようとする構造形態である。たとえば、電気化学反応にて生成された生成水のカソード側からアノード側への逆拡散や、アノード側からカソード側へのプロトン伝導に伴う随伴水の移動などにより、膜電極接合体の内部で水分の還流をおこないながら電解質膜等の加湿雰囲気を保持するものである。この構造形態では、仮に燃料ガスと酸化剤ガスがともに無加湿雰囲気ガスの場合に、カソード側で生成水が生成され、これがアノード側電極に逆拡散されて電解質膜やアノード側触媒層が加湿雰囲気となるまでの間の十分なプロトン伝導を補償できない。
ここで、上記する自己加湿自在な燃料電池が特許文献1に開示されている。この燃料電池は、親水性官能基を有するフッ素樹脂で構成された固体高分子型電解質膜の疎水部に高分子安定化金属ナノ粒子である触媒を分散させ、親水基及び吸蔵水によって構成されたクラスタ中には触媒を存在させない構成としたものであり、この構成により、電解質膜中をクロスオーバーする燃料ガスと空気とを触媒が反応させて水を発生させ、電解質膜の自己加湿を実現するとともに、クラスタ及びチャンネル中に触媒が存在しないことから、プロトン伝導を阻害することを防止できるというものである。
しかし、固体高分子型電解質膜の疎水部に高分子安定化金属ナノ粒子である触媒を分散させ、かつ、親水基及び吸蔵水によって構成されたクラスタ中には触媒を存在させないような電解質膜の製造が極めて困難であることは理解に易く、したがって、製造効率と製造歩留まりの双方が低下することは避けられない。近時、電気自動車やハイブリッド車の需要増大に応じて、発電性能(品質)に優れた燃料電池の大量生産が必須課題となっている中、より現実的で、かつ高品質を保証し、製造効率性に優れた燃料電池の開発が切望されている。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、自己加湿可能な燃料電池であって、製造効率性も高く、性能品質に優れた燃料電池を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池は、電解質膜とアノード側およびカソード側の触媒層とからなる膜電極接合体と、該膜電極接合体を挟持するアノード側およびカソード側のガス透過層およびセパレータと、からなり、アノード側の供給マニホールドから流入してガス透過層もしくはセパレータのガス流路溝を面内方向に流れ、排気マニホールドから流出する燃料ガスの流れ方向と、カソード側の供給マニホールドから流入してガス透過層もしくはセパレータのガス流路溝を面内方向に流れ、排気マニホールドから流出する酸化剤ガスの流れ方向と、が、同方向もしくは逆方向に制御されている燃料電池セルからなる燃料電池であって、前記膜電極接合体のうち、少なくとも、アノード側の燃料ガスの供給マニホールド側の領域において、該膜電極接合体を貫通する貫通孔が形成されており、カソード側のガス透過層の前記貫通孔に対応する位置の酸化剤ガスのガス圧が、アノード側のガス透過層の前記貫通孔に対応する位置の燃料ガスのガス圧に比して高くなるようにガス圧を制御する制御装置を具備しているものである。
本発明の燃料電池は、少なくともアノード側の燃料ガスの供給マニホールド側の領域において膜電極接合体を貫通する貫通孔が形成されていること、ガス圧を制御する制御手段によって、カソード側のガス透過層の前記貫通孔に対応する位置の酸化剤ガスのガス圧が、アノード側のガス透過層の該貫通孔に対応する位置の燃料ガスのガス圧に比して高くなるように制御されること、により、発電経過に応じた(発電量の大小など)所望量の酸化剤ガス(空気や酸素)をアノード側電極に流入してきた燃料ガスに直接的に提供することができる。これにより、アノード側の供給マニホールド近傍で電気化学反応が生じて生成水が生成され、この生成水を相対的にガス圧の高い流入燃料ガスによってアノード側電極に拡散提供することにより、アノード側電極(アノード側の触媒層)の全体を加湿雰囲気に保持することができる。一方、カソード側において、電気化学反応によって自動的に生成水が生成され、これによってカソード側電極の全体が加湿雰囲気となることは言うまでもない。カソード側で生じた生成水がアノード側に逆拡散されること、アノード側からカソード側へプロトン伝導に伴う随伴水が移動すること、は既述する通りであり、セル内におけるアノード側とカソード側の間の水分循環が形成される。
なお、上記する燃料電池は、上記する燃料ガスの流れ方向と酸化剤ガスの流れ方向とが同方向である、いわゆるコフロー制御形態であってもよいし、双方の流れ方向が逆方向である、いわゆるカウンターフロー制御形態であってもよい。なお、カウンターフロー制御形態の場合は、アノード側電極の燃料ガスの供給マニホールド側の領域に対して、カソード側電極の酸化剤ガスの排気マニホールド側の領域が対応することになる。一般に、供給マニホールドから流入するガス圧(流入圧)は排気マニホールドから流出するガス圧(流出圧)に比して相対的に高圧であること、本発明の燃料電池においてはカソード側からアノード側へ酸化剤ガスを提供する必要があること、の双方に鑑みれば、コフロー制御形態の方が、アノード側への酸化剤ガス提供の確実性が高いと言える。
ここで、「アノード側の燃料ガスの供給マニホールド側の領域」とは、膜電極接合体において、そのアノード側の燃料ガスの供給マニホールドに極めて近い位置〜供給マニホールドと排気マニホールドの中間位置よりも供給マニホールド側に若干入った位置までの全領域を意味するものであるが、可及的に供給マニホールドに近接した位置であるのが好ましい。また、燃料電池セルの構造は、膜電極接合体(MEA)のアノード側とカソード側の双方に拡散層基材と集電層からなるガス拡散層を具備する形態、アノード側とカソード側のいずれか一方は集電層のみを具備する(拡散層基材が廃された)形態の双方を含んでいる。また、本明細書では、これらのいずれの形態も電極体(MEGA)と称呼している。また、電極体の両側にガス流路溝が形成されたセパレータが直接配された形態は勿論のこと、いわゆるフラットタイプのセパレータと電極体の間に、ガス流路層(エキスパンドメタル等の金属多孔体)が配された形態を含むものである。さらに、「ガス透過層」とは、ガス拡散層とガス流路層の双方を含む意味である。したがって、ガス流路層を具備しないセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」を意味するものであり、ガス拡散層とガス流路層の双方を具備するセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」と「ガス流路層」の双方もしくはいずれか一方を意味するものである。
膜電極接合体に形成される貫通孔の孔径やその基数は適宜選定できる。また、貫通孔もしくはその近傍におけるガス圧制御、すなわち、酸化剤ガスのガス圧>燃料ガスのガス圧となるようなガス圧制御は、提供される双方のガスの圧力を、酸化剤ガスのガス圧が所定割合だけ高くなるように予め設定しておけばよく、場合によっては、貫通孔のアノード側、カソード側に小型の圧力センサを設けておき、仮に圧力が逆転するような信号を得た際には、自動的に酸化剤ガスのガス圧が高くなるような自動制御機構を具備していてもよい。
また、本発明による燃料電池の好ましい実施の形態において、前記電解質膜は、30重量%メタノール水溶液に対する面内方向の膨潤率が1以上で2以下の範囲である。
本実施の形態は、電解質膜の面内方向の膨潤率を1以上で2以下の範囲に規定することにより、電解質膜の膨潤時の体積(寸法)変化を最小限に抑えることができる。そのため、膜電極接合体(もしくは電解質膜)に形成された貫通孔を起点として電解質膜に亀裂が生じる等の危険を回避することができる。
さらに、本発明による燃料電池の製造方法は、電解質膜とアノード側およびカソード側の触媒層とからなる膜電極接合体と、該膜電極接合体を挟持するアノード側およびカソード側のガス透過層およびセパレータと、からなり、アノード側の供給マニホールドから流入してガス透過層もしくはセパレータのガス流路溝を面内方向に流れ、排気マニホールドから流出する燃料ガスの流れ方向と、カソード側の供給マニホールドから流入してガス透過層もしくはセパレータのガス流路溝を面内方向に流れ、排気マニホールドから流出する酸化剤ガスの流れ方向と、が、同方向もしくは逆方向に制御されている燃料電池セルからなる燃料電池であって、前記膜電極接合体のうち、少なくとも、アノード側の燃料ガスの供給マニホールド側の領域において、該膜電極接合体を貫通する貫通孔が形成されており、カソード側のガス透過層の前記貫通孔に対応する位置の酸化剤ガスのガス圧が、アノード側のガス透過層の前記貫通孔に対応する位置の燃料ガスのガス圧に比して高くなるようにガス圧を制御する制御装置を具備している、燃料電池の製造方法において、相対湿度が10〜30%の湿度雰囲気下で、前記膜電極接合体に前記貫通孔を形成することを特徴とするものである。
電解質膜は、その含水率が高くなるにつれて体積膨張するが、この電解質膜に上記する貫通孔が形成されている場合には、この電解質膜の体積膨張時に貫通孔自体の孔径は小さくなることは理解に易い。このことはすなわち、発電経過において、電解質膜に貫通孔が形成された際の湿度よりも低い湿度雰囲気の際に、今度は電解質膜が相対的に体積収縮することによって貫通孔の孔径が大きくなることを意味している。そして、形成当初の貫通孔に比して発電経過時に該貫通孔が大きくなってしまうと、上記する危険性、すなわち、貫通孔を起点として電解質膜に亀裂が生じる等の危険がある。
ところで、本発明者等の知見によれば、燃料電池の発電経過において、電解質膜の相対湿度はおよそ50〜60%程度となっているのが一般的であること、相対湿度が30%を下回る可能性はほとんどないこと、が分かっている。
そこで、本発明の製造方法においては、膜電極接合体に貫通孔を形成する際の相対湿度を、発電経過で想定される最低の相対湿度以下の湿度雰囲気下で形成することにより、貫通孔の孔径増大を回避することができる。
上記する本発明の燃料電池を具備する燃料電池システムは、従来の加湿モジュールを排してセル内で自己加湿をおこなう燃料電池からなるものであり、したがって、システム全体の軽量化、小型化を実現することができる。しかも、この燃料電池は、簡易な圧力制御装置を具備するとともに、膜電極接合体の所定部位に貫通孔を設けただけの極めて簡易な構造を具備しながら、信頼性の高い自己加湿を実現することができる。このような燃料電池とこれを具備する燃料電池システムは、家庭用の定置型燃料電池や車載用燃料電池など、その適用分野は多岐に亘るが、特に、近時その生産が拡大しており、車載機器に一層の高性能化、小型化、軽量化を要求する電気自動車やハイブリッド車に好適である。
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池とその製造方法によれば、システム全体の軽量化、小型化を実現することができ、簡易な圧力制御装置を具備するとともに、膜電極接合体の所定部位に貫通孔を設けただけの極めて簡易な構造を具備しながら、信頼性の高い自己加湿を実現することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示する燃料電池セルはセパレータにガス流路溝が形成された形態であるが、この形態以外にも、セパレータからガス流路層が分離され、セパレータとガス拡散層の間に金属発泡焼結体やエキスパンドメタル等の金属多孔体からなるガス流路層が介層された形態であってもよいことは勿論のことである。また、図示する燃料電池セルは、カソード側の酸化剤ガスの流れとアノード側の燃料ガスの流れが同方向の、いわゆるコフロー制御された燃料電池セルであるが、双方の流れが逆方向の、いわゆるカウンターフロー制御された燃料電池セルであってもよい。
図1は、複数の燃料電池セル10,…が積層されてなる燃料電池の一部を示しており、図2は、図1の燃料ガス供給マニホールド側を拡大した図である。この燃料電池セル10は、電解質膜1と、カソード側およびアノード側の触媒層2,3と、から膜電極接合体4が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス拡散層5,5’が挟持して電極体を形成し、これをカソード側およびアノード側のセパレータ7,7’が挟持するとともに、電極体の周縁に樹脂素材の流体シール用のガスケット8が形成されている。この燃料電池セル10は、セパレータ7に形成されたガス流路溝7aを介して面内方向に流れる無加湿雰囲気の酸化剤ガスの流れ方向(Y2方向)と、セパレータ7’に形成されたガス流路溝7’aを介して面内方向に流れる同様に無加湿雰囲気の燃料ガスの流れ方向(X2方向)が同方向に制御されている(無加湿ガスのコフロー制御)。なお、図1の縦断面図は、ガスケット8に形成されてアノード側電極に燃料ガスを供給する供給マニホールドM1とセル内を流れた燃料ガス(X2方向)が排気される排気マニホールドM2を通る断面で切断した図である。したがって、カソード側電極に酸化剤ガスを供給する供給マニホールドとセル内を流れた酸化剤ガス(Y2方向)が排気される排気マニホールドは別途の断面に形成されており、図1には図示されていない。
ここで、触媒層2,3は電解質膜1に比してそれらの面積が狭小であり、したがって、電解質膜1の両側の触媒層2,3の周縁には該触媒層2,3が存在しない露出領域が形成されており、この露出領域には、カソード側およびアノード側の保護フィルム6,6’が配されており、ガス拡散層5,5’から突出する毛羽が電解質膜1に突き刺さるのを防護している。
ここで、膜電極接合体4を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
また、触媒層2,3は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層5,5’等の基材に塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
また、ガス流路溝7a,7’aを流れたガスを膜電極接合体4に拡散提供する(ガス流れY4,X4)ガス拡散層5,5’は、拡散層基材51,51’と集電層52,52’(MPL)からなるものであり、拡散層基材51,51’としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材51,51’の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材51,51’としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層52,52’はアノード側、カソード側の触媒層3,2から電子を集める電極の役割を果たすとともに、生成水を排水する撥水作用を奏するものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料と、フッ素樹脂(PTFE)などから形成できる。
また、保護フィルム6,6’は、ポリテトラフルオロエチレン、PVDF(二フッ化ポリビニル)、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、コポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリイミド、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ、シリコーン、シリコンゴム、シリコンベースのエラストマなどから形成されるものである。
また、セパレータ7,7’は、導電性金属であるステンレスやチタンなどから形成されており、平面視で蛇行状もしくは直線状のガス流路溝7a,7’aがガス拡散層5,5’側に形成されており、その外側には不図示の冷媒流路(冷媒としては、冷却水や冷却エア、冷却エチレングリコールなど)が形成されている。
さらに、電極体の周縁であってセパレータ7,7’に挟まれた領域に設けられたガスケット8は、たとえば成形型内に電極体を収容し、その周縁に樹脂を射出成形することで成形される。なお、ガスケット8は、ブチル系ゴムやウレタン系ゴム、シリコーンRTVゴム、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、炭化水素樹脂などの樹脂素材にて成形される。
ここで、膜電極接合体4のうち、アノード側の燃料ガスの供給マニホールドM1側の領域において、該膜電極接合体4を貫通する一つまたは複数の貫通孔9が形成されている。
この貫通孔9は、膜電極接合体4を用意し、相対湿度が10〜30%の湿度雰囲気下で、該膜電極接合体4の所望箇所に所望数の貫通孔9を形成するのが好ましい。また、使用される電解質膜1は、30重量%メタノール水溶液に対する面内方向の膨潤率が1以上で2以下の範囲であるものを使用するのがよい。
この貫通孔9は、膜電極接合体4を用意し、相対湿度が10〜30%の湿度雰囲気下で、該膜電極接合体4の所望箇所に所望数の貫通孔9を形成するのが好ましい。また、使用される電解質膜1は、30重量%メタノール水溶液に対する面内方向の膨潤率が1以上で2以下の範囲であるものを使用するのがよい。
さらに、カソード側のガス拡散層5の貫通孔9付近における酸化剤ガスのガス圧が、アノード側のガス拡散層5’の貫通孔9付近における燃料ガスのガス圧に比して高くなるようにガス圧を制御する、不図示の制御装置が設けられている。
この制御装置には、燃料ガスのガス圧よりも酸化剤ガスのガス圧が所定割合だけ高くなるようにそれぞれのガス圧が予め設定されており、この設定条件に応じて、酸化剤ガスが貫通孔9を介してアノード側電極に提供できるようになっている(図2のY5の流れ方向)。
アノード側に流れ込んだ酸化剤ガスは、アノード側電極で流入燃料ガスと電気化学反応を起こし、該アノード側電極にて生成水を生成する。生成された生成水は、アノード側電極の全面に提供され(浸透し)、アノード側電極が所望に加湿される。この加湿されたアノード側電極からプロトンがカソード側に随伴水を伴って移動し、電解質膜1を介してカソード側電極に提供される。カソード側電極では、電気化学反応によって酸化剤ガスの排気側領域を中心に生成水が生成され、これがアノード側へ逆拡散することにより、燃料電池セル10内での水分還流が招来され、燃料電池セル内の自己加湿が実現する。
なお、膜電極接合体4が十分に加湿されると、その構成部材である電解質膜1が膨潤することで貫通孔9は閉塞する。貫通孔9が閉塞することにより、それまで貫通孔9を介してアノード側へ直接提供されていた(直接燃料)酸化剤ガス等が通常発電に使用されることになり、燃費を向上させることができる。さらには、電解質膜1の膨潤による貫通孔9の閉塞を利用することで、該電解質膜1の膨潤による寸法変化をこの貫通孔9で吸収することができる。
実際の燃料電池は、所望する発電量に応じて図示する燃料電池セル10が所定段積層されて燃料電池スタックが形成される。さらに、この燃料電池スタックは、最外側にエンドプレート、テンションプレート等を備え、両端のテンションプレート間に圧縮力が加えられて燃料電池が形成される。電気自動車等に車載される燃料電池システムは、この燃料電池と、水素ガスや空気を収容する各種タンク、これらのガスを燃料電池に提供するためのブロア、燃料電池を冷却するためのラジエータ、燃料電池で生成された電力を蓄電するバッテリ、この電力で駆動する駆動モータ等から大略構成されるものであるが、本発明の燃料電池を使用することで、従来の燃料電池システムで必須構成であった、ガスの加湿モジュールを廃することが可能となる。
[貫通孔を介した酸化剤ガス流通量に関する実験とその結果]
本発明者等は、貫通孔を具備する本発明の電極体を有する燃料電池セル(実施例)と、貫通孔を具備しない従来構造の電極体を有する燃料電池セル(比較例)を試作し、比較例に比して実施例がどの程度の発電量の向上を実現できるのか、を実証するための実験をおこなった。ここで、実施例は、貫通孔を介して流通する酸化剤ガスの流通量を、50nm/sec/cm2、100nm/sec/cm2、150nm/sec/cm2の3ケースとし、通電される電流密度を0.5A/cm2以下の低密度領域から1.5A/cm2程度の高密度領域まで変化させ、それぞれの電流密度に応じた電圧を測定した。また、発電条件としては、セル内温度を80℃程度の高負荷発電状態とし、無加湿の酸化剤ガスおよび燃料ガスをセル内に提供する方法でおこなった。
本発明者等は、貫通孔を具備する本発明の電極体を有する燃料電池セル(実施例)と、貫通孔を具備しない従来構造の電極体を有する燃料電池セル(比較例)を試作し、比較例に比して実施例がどの程度の発電量の向上を実現できるのか、を実証するための実験をおこなった。ここで、実施例は、貫通孔を介して流通する酸化剤ガスの流通量を、50nm/sec/cm2、100nm/sec/cm2、150nm/sec/cm2の3ケースとし、通電される電流密度を0.5A/cm2以下の低密度領域から1.5A/cm2程度の高密度領域まで変化させ、それぞれの電流密度に応じた電圧を測定した。また、発電条件としては、セル内温度を80℃程度の高負荷発電状態とし、無加湿の酸化剤ガスおよび燃料ガスをセル内に提供する方法でおこなった。
実験の結果、低密度領域〜高密度領域のすべての電流密度領域において、貫通孔を具備しない比較例に対して、50nm/sec/cm2、100nm/sec/cm2、150nm/sec/cm2の順に発生電圧(発電性能)が改善し、150nm/sec/cm2の実施例においては、比較例に比して10%程度もの性能改善が得られることが実証された。
また、貫通孔を介した酸化剤ガス流通量が多くなりすぎると、アノード側における直接燃焼によって発火の危険が危惧される。しかし、150nm/sec/cm2の実施例において、発火の危険性がないことが本実験によって確認された。
なお、本発明者等によれば、酸化剤ガスの流通量が多くなるにつれて発電性能が向上すること、発火の危険性を回避するべく、せいぜい1μm/sec/cm2以下の酸化剤ガス流通量に抑えておくこと、が望ましいという結論が導き出されている。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
1…電解質膜、2…触媒層(カソード側)、3…触媒層(アノード側)、4…膜電極接合体、5,5’…ガス拡散層、51,51’…拡散層基材、52,52’…集電層(MPL)、6,6’…保護フィルム、7,7’…セパレータ、7a,7’a…ガス流路溝、8…ガスケット、9…貫通孔、10…燃料電池セル、M1…燃料ガス供給マニホールド、M2…燃料ガス排気マニホールド
Claims (4)
- 電解質膜とアノード側およびカソード側の触媒層とからなる膜電極接合体と、該膜電極接合体を挟持するアノード側およびカソード側のガス透過層およびセパレータと、からなり、アノード側の供給マニホールドから流入してガス透過層もしくはセパレータのガス流路溝を面内方向に流れ、排気マニホールドから流出する燃料ガスの流れ方向と、カソード側の供給マニホールドから流入してガス透過層もしくはセパレータのガス流路溝を面内方向に流れ、排気マニホールドから流出する酸化剤ガスの流れ方向と、が、同方向もしくは逆方向に制御されている燃料電池セルからなる燃料電池であって、
前記膜電極接合体のうち、少なくとも、アノード側の燃料ガスの供給マニホールド側の領域において、該膜電極接合体を貫通する貫通孔が形成されており、
カソード側のガス透過層の前記貫通孔に対応する位置の酸化剤ガスのガス圧が、アノード側のガス透過層の前記貫通孔に対応する位置の燃料ガスのガス圧に比して高くなるようにガス圧を制御する制御装置を具備している、燃料電池。 - 前記電解質膜は、30重量%メタノール水溶液に対する面内方向の膨潤率が1以上で2以下の範囲である、請求項1に記載の燃料電池。
- 前記ガス透過層は、ガス拡散層、金属多孔体からなるガス流路層、該ガス拡散層と該ガス流路層の組み合わせ、のいずれかの形態からなり、
アノード側とカソード側双方のガス透過層が、複数の前記形態中の同一の形態、もしくは異なる形態のいずれかからなる、請求項1または2に記載の燃料電池。 - 電解質膜とアノード側およびカソード側の触媒層とからなる膜電極接合体と、該膜電極接合体を挟持するアノード側およびカソード側のガス透過層およびセパレータと、からなり、アノード側の供給マニホールドから流入してガス透過層もしくはセパレータのガス流路溝を面内方向に流れ、排気マニホールドから流出する燃料ガスの流れ方向と、カソード側の供給マニホールドから流入してガス透過層もしくはセパレータのガス流路溝を面内方向に流れ、排気マニホールドから流出する酸化剤ガスの流れ方向と、が、同方向もしくは逆方向に制御されている燃料電池セルからなる燃料電池であって、前記膜電極接合体のうち、少なくとも、アノード側の燃料ガスの供給マニホールド側の領域において、該膜電極接合体を貫通する貫通孔が形成されており、カソード側のガス透過層の前記貫通孔に対応する位置の酸化剤ガスのガス圧が、アノード側のガス透過層の前記貫通孔に対応する位置の燃料ガスのガス圧に比して高くなるようにガス圧を制御する制御装置を具備している、燃料電池の製造方法において、
相対湿度が10〜30%の湿度雰囲気下で、前記膜電極接合体に前記貫通孔を形成することを特徴とする、燃料電池の製造方法。
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