固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成され、この膜電極接合体とこれを挟持するアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL)とから電極体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)が形成され、電極体に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するための金属多孔体からなるガス流路層とセパレータが電極体の両側に配されて構成されている。なお、セパレータにガス流路溝が形成された燃料電池セルも従来一般のものであり、この形態の場合にはガス流路層となる金属多孔体は不要である。実際の燃料電池スタックは、所要電力に応じた基数の燃料電池セルが積層され、スタッキングされることによって形成されている。
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極では固有のガス流路層(またはセパレータに形成されたガス流路溝)にて面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが電極触媒層に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。
上記する燃料電池セルにおいては、膜電極接合体に供給される燃料ガスや酸化剤ガス、さらにはセルの昇温を抑止するための冷却水などの冷却媒体をシールするためのガスケットが、電極体や金属多孔体の周縁に射出成形や圧縮成形にて形成されている。たとえばガス流路となる金属多孔体を具備する燃料電池セルにおいては、成形型のキャビティ内にアノード側もしくはカソード側の一方の金属多孔体を収容し、次いで電極体を収容し、次いでアノード側もしくはカソード側の他方の金属多孔体を収容した姿勢で、電極体および金属多孔体の周縁のガスケット形成用キャビティに樹脂を注入してガスケット成形がおこなわれている。なお、キャビティ内にアノード側もしくはカソード側いずれか一方のセパレータを最初に収容し、次いで上記する構成部材を収容して射出成形をおこなう方法もある。
上記するセパレータには、たとえばチタンやステンレスからなる2枚のプレート(カソード側プレートとアノード側プレート)の間に流路が形成されたプレート(中間層、中間プレート)が介層された3層構造のものや、中間層を樹脂製の枠材とし、2枚のプレートの一方から多数のディンプルや流路を画成するリブを突出させて冷却水流路を形成するものなどがあり(このような構造も3層構造のセパレータに含めることができる)、この3層構造のセパレータを具備する燃料電池が特許文献1に開示されている。この構造のセパレータは、当該セル自体のアノード側もしくはカソード側のいずれか一方のセパレータであると同時に、積層姿勢において隣接するセルのアノード側もしくはカソード側の他方のセパレータとなるものである。
すなわち、この3層構造セパレータを有する燃料電池セルのセル構成部材は、一つの3層構造セパレータと、アノード側およびカソード側のガス透過層(エキスパンドメタルや金属発泡焼結体などの金属多孔体からなるガス流路層)と、電極体(膜電極接合体およびガス拡散層)と、からなり、複数の燃料電池セルが積層された姿勢において、任意の燃料電池セルは、その両端にアノード側およびカソード側のセパレータを有することとなる。
ここで、3層構造セパレータの理解を容易とするべく、図4に3層構造セパレータを具備する燃料電池セルの縦断面図を示している。
図4において、燃料電池セルは、電解質膜aとこれを挟持するカソード側およびアノード側の触媒層b1、b2とから膜電極接合体cが形成され、この膜電極接合体cをカソード側およびアノード側のガス拡散層d1、d2が挟持して電極体eが形成され、電極体eをカソード側およびアノード側のガス流路層f1、f2が挟持し、アノード側のガス流路層f2の下方に、3層構造のセパレータhが配され、電極体eの側方に流体流通用のマニホールドMを具備するガスケットgが射出成形等されてその全体が構成されている。この3層構造のセパレータhは、2枚のステンレス製もしくはチタン製の第1のプレートh1(アノード側プレート)と第2のプレートh2(カソード側プレート)と、このプレートh1、h2間に介在してガスや冷却水などの流体用の流路を画成する中間層h3(中間プレート)と、から構成されている。なお、燃料電池スタックは、図示する燃料電池セルが複数積層され、スタッキングされることによって形成されるものであり、不図示の燃料電池セルが図示する燃料電池セルの上下に積層されるものである。
中間層h3には、酸化剤ガスを不図示の燃料電池セル(図示する燃料電池セルの下方に位置することとなる燃料電池セル)のカソード側ガス流路層に提供するための酸化剤ガス導入路h3a(酸化剤ガスの流れ:Z1)と、図示する燃料電池セル自身のアノード側ガス流路層f2に燃料ガスを提供するための燃料ガス導入路h3b(燃料ガスの流れ:Z2)、さらには、発電経過における電極体eの昇温を抑止するための冷却媒体が流通する冷却用流路h3cが形成されている。なお、図4は、酸化剤ガスが流通するマニホールドMを通る断面で切断した縦断面図である。
ところで、燃料電池セルにおいては、その触媒層が形成された領域が一般に発電領域となっており、セパレータの全面積に対する該発電領域の割合は発電面積利用率と称され、この発電面積利用率を可及的に高くすることが求められている。
しかし、図4からも明らかなように、3層構造セパレータでは、その構造上の制約(ガスの導入路を設けたり、酸化剤ガスと燃料ガスのそれぞれに固有のガス流路層等へガスを供給するための開口(燃料ガス用のガス供給用開口h1a、酸化剤ガス用のガス供給用開口h2a)およびガス流路層等からガスを排気するための排気用開口(不図示)を同じ側面領域に設けるなど)から、電極体eの触媒層形成領域は、冷却媒体が流通する冷却用流路が形成されている平面範囲にしか設けることができない。より具体的には、平面視でカソード側のガス供給用開口h2aおよびガス排気用開口(不図示)よりもアノード側のガス供給用開口h1aおよびガス排気用開口(不図示)が内側に形成されている場合には、このアノード側のガス供給用開口h1aおよびガス排気用開口の内側範囲に触媒層形成領域(図中の中央領域)が限定されている。なお、これらの開口は、ガス流路層の全範囲に効果的にガスを提供するとともに、ガス流路層等からのガスの効率的な排気を図るべく、触媒層と同程度の幅をその延長とする細長形状に形成される形態もあり、このような細長形状のガス開口は、いわゆるコモンレールと称されることもある。
上記理由から触媒層形成領域が制限されているのに対して、発電領域を仮に広げ、この触媒層形成領域を中央領域のみならず、その外側の周縁領域まで広げた場合に(したがって、少なくとも上記コモンレールh1a、h2aに対応する平面位置、およびそれよりもさらに外側の領域に触媒層が形成される)、この周縁領域に対応するガス流路層等において(対応する位置には冷却用流路が形成されていない)、高密度電流通電時等の際に異常過熱が生じ、電解質膜にガスのクロスリーク路となり得る孔が開いたり、あるいは、異常過熱によってドライアップが助長され、燃料電池の局所的な発電落ち(発電性能低下、発電不可)が生じ得るという課題が危惧される。
さらに、上記する周縁領域は、マニホールドMから導入されるガスリッチな酸化剤ガスや燃料ガスが流れ込んでくる領域でもあるため、発電経過において、電極体の中央領域よりも高温になり易く、上記する課題の発生が一層懸念される。
そこで、上記する燃料電池セルの周縁領域に触媒層を設けて、発電利用面積を広げる代わりに、この周縁領域のガス透過層(ガス流路層やガス拡散層など)に他の作用を奏させるべく、当該領域を有効に利用する試み、検証が現在進行している。
ところで、上記するコモンレールは、燃料ガスや酸化剤ガスをガス透過層に供給し、あるいはガス透過層から外部へ排出するために比較的大きな開口面積を有するものである一方で、燃料電池セル内で生成された生成水等がこのコモンレールを閉塞するという課題があり、当該分野にて解決すべき重要な課題の一つとなっている。
たとえば、燃料電池セル内が氷点下雰囲気の場合に、このようにコモンレール内で水分が滞留した姿勢で燃料電池の発電を停止した場合、滞留した水分が凍結してコモンレールやセパレータのガス導入路、ガス排出路等を閉塞してしまい、たとえば氷点下起動時に燃料電池セルへのガス提供が阻害され、発電できないという課題が懸念される。
このことは、常温発電時において、コモンレール等が生成水等で閉塞する場合にも同様に問題となるものであるが、特に、発電時にコモンレール等が閉塞してしまうと、ガスが電極体に提供されない状態で発電のみが進行するために、燃料電池セルが異常過熱してしまい、セル構成部材が損傷するという課題にも繋がってしまう。
そして、通常の燃料電池スタックは、たとえば200〜400基程度の燃料電池セルが積層されて構成されるものであるが、コモンレールが閉塞している燃料電池セルにはガスの提供がなされず、コモンレールが閉塞していない燃料電池セルにのみガスが提供され、発電が進むことから、結果として、所望の発電量が得られなくなることは理解に易い。
上記課題に対し、たとえば非発電時に、空気等のガスを燃料電池セル内に掃気してやり(パージ)、コモンレール等を閉塞している水分をガス圧で解消するといった対策が現在施されているが、十分な効果が得られていないことが本発明者等により分かってきている。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、燃料電池セルで発電に寄与していない未使用領域を有効活用すること、および、いわゆるコモンレール等を生成水等が閉塞し難くでき、もって所望の発電量を確実に得ることのできる、燃料電池を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池は、電解質膜と、該電解質膜の両側で当接する触媒層と、から膜電極接合体が形成され、該膜電極接合体の両側にガス透過層が配され、いずれか一方のガス透過層側には、燃料ガスもしくは酸化剤ガスのいずれか一方を該ガス透過層に提供するセパレータが配されて燃料電池セルを成し、該燃料電池セルが積層されてなる燃料電池であって、前記セパレータには、アノード側もしくはカソード側のガス透過層に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するためのガス供給用開口と、該アノード側もしくはカソード側のガス透過層から燃料ガスもしくは酸化剤ガスを排出するためのガス排気用開口が開設されており、前記ガス供給用開口と前記ガス排気用開口の間の内側に対応する中央領域に触媒層が形成されており、前記ガス透過層のうち、前記中央領域の外側の周縁領域には、吸水領域が形成されているものである。
ここで、上記する燃料電池セルの構造は、膜電極接合体のアノード側とカソード側の双方に拡散層基材と集電層からなるガス拡散層を具備する形態、アノード側とカソード側のいずれか一方は集電層のみを具備する(拡散層基材が廃された)形態の双方を含んでいる。
また、本明細書では、これらのいずれの形態も電極体と称呼している。また、電極体の両側にガス流路溝が形成されたセパレータが直接配された形態は勿論のこと、いわゆるフラットタイプのセパレータと電極体の間に、ガス流路層(エキスパンドメタル等の金属多孔体)が配された形態を含むものである。さらに、「ガス透過層」とは、ガス拡散層とガス流路層の双方を含む意味である。したがって、ガス流路層を具備しないセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」を意味するものであり、ガス拡散層とガス流路層の双方を具備するセル形態においては「ガス透過層」は「ガス拡散層」と「ガス流路層」の双方もしくはいずれか一方を意味するものである。
また、本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルは、たとえば3層構造のセパレータを有し、かつ、このセパレータに開設されて、ガス透過層へ燃料ガスや酸化剤ガスを提供するガス供給用開口と、ガス透過層からのガスを排気するためのガス排気用開口と、を有し、たとえば、これらの開口が細長形状に形成されているものにおいて、これらの開口の間の中央領域に対応する電極体内にアノード側およびカソード側の触媒層が形成されており、この中央領域の外側の周縁領域に吸水領域が形成されている。すなわち、セル構造のうち、本来的に発電に寄与しない領域を吸水領域とし、この吸水領域にてコモンレール等に溜まりつつある水分を効果的に吸水することで、コモンレール等に生成水等が溜まってこれを閉塞し、ガス流れが阻害されるという問題を効果的に解消するものである。
ここで、3層構造のセパレータを有する形態においては、第1のプレート(たとえばアノード側プレート)、中間層(もしくは中間プレート)、第2のプレート(たとえばカソード側プレート)の積層構造を呈しており、3つのプレートともにステンレスやチタンなどから形成することができ、その軽量化を図るべく、中間層のみを熱可塑性樹脂から成形することもできる。また、3つのプレートが金属素材からなる場合には、それぞれのプレートをろう付けすることで一体化でき、中間層が樹脂製の場合には、第1のプレートと中間層、第2のプレートと中間層をそれぞれ耐熱性の接着剤等で一体化することができる。また、3層構造のセパレータ以外の形態、たとえば、セパレータの一方の側面にガス用の溝流路が形成され、他方の側面に冷却媒体用の溝流路が形成されたセパレータであってもよい。
ここで、上記する吸水領域として、以下の2つの形態を挙げることができる。
その一つの形態は、中央領域のガス透過層に比して吸水領域が相対的に高い親水性を有しているものであり、他の形態は、吸水領域の平均細孔径が、中央領域の平均細孔孔に比して相対的に小さくなっているものである。
周縁領域のガス透過層(ガス流路層等)を相対的に高い親水性のものとする方策としては、たとえば、ガス流路層であるエキスパンドメタルや発泡焼結体等を硫酸や硝酸等の酸内に浸漬して、新水性官能基であるカルボキシル基等を部材表面に付着させる方法、エキスパンドメタル等を親水性素材の金属から形成する方法、さらには、液体ホーニング処理等を施して部材表面に微細な凹凸を付与する方法、などがある。
一方、吸水領域の平均細孔径を相対的に小径とする方策としては、エキスパンドメタル等の周縁領域をプレスして所望に押し潰して孔径を細孔とする方法などがある。なお、吸水領域の平均細孔孔を相対的に小径とするのは、毛管力によって水分が当該吸水領域に移動し易くなるという原理を利用したものである。
たとえば3層構造セパレータの冷媒流路が存在しない周縁領域に対応するガス流路層等に上記する吸水領域を設けておくことにより、コモンレール等を生成水等が閉塞する前に、これらの水分を発電に寄与しない周縁領域の当該吸水領域に移動させることができ、もって、コモンレール等が水分で閉塞されることを効果的に抑止することができる。すなわち、発電に寄与しないセル領域を有効に利用しながら、非発電時等におけるパージの必要性をなくし、しかも、当該パージに比して水分による開口閉塞抑止効果の極めて高いセル構造を形成することが可能となる。
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池によれば、いわゆるコモンレールよりも外側の領域であって、発電面積としては未使用であった周縁領域に吸水領域を設けたことにより、当該未使用領域を有効活用しながら、当該コモンレール等を水分が閉塞するのを効果的に抑止でき、もって、所望の発電量が確保された燃料電池を得ることができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は燃料電池セルの左側領域、より具体的には、燃料ガスが導入されるガス供給用開口を含む領域のみを取り出して拡大した図であり、実際の燃料電池セルはこれと同構造の右側領域であって、ガス排気用開口を具備する領域を有するものであることは言うまでもないことである。また、説明をより明瞭とするべく、酸化剤ガスの供給用開口などの図示は省略している。
図1は、本発明の燃料電池を構成する燃料電池セルの一実施の形態の一部を拡大した縦断面図であり、図2は、図1のII−II矢視図であって、コモンレールから導入されたガスのガス流路層(ガス透過層)内における流れ、および、セル内の水分が周縁領域の吸水領域に吸収されている状況を模式的に示した図である。まず、図1で示す燃料電池セル10は、電解質膜1と、カソード側およびアノード側の触媒層2,2’と、から膜電極接合体3が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス拡散層4,4’(ガス透過層)が挟持して電極体5が形成され、これをカソード側およびアノード側のガス流路層6,6’(ガス透過層、金属多孔体)が挟持し、さらに、アノード側のガス流路層6’側に3層構造のセパレータ7が配されて構成される。
触媒層2,2’は電解質膜1に比してそれらの面積が狭小であり、したがって、電解質膜1の両側の触媒層2,2’の周縁には該触媒層2,2’が存在しない露出領域1aが形成され、この露出領域1aには、カソード側およびアノード側の不図示の保護フィルムが配されて、ガス拡散層4,4’から突出する毛羽が電解質膜1の露出領域に突き刺さるのを防護している。
ここで、膜電極接合体3を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
また、触媒層2,2’は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層4,4’等の基材にたとえば塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。
なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。
さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
また、ガス拡散層4,4’は、拡散層基材と集電層(MPL)からなるものであり、拡散層基材としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、紋織、平織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層はアノード側、カソード側の触媒層2,2’から電子を集める電極の役割を果たすとともに、生成水等を排水する撥水作用を有するものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料と、フッ素樹脂(PTFE)などから形成できる。
また、金属多孔体6,6’は、エキスパンドメタルや金属発泡焼結体などから形成でき、たとえば、チタンやステンレス、銅、ニッケル等の耐食性に優れた金属素材の発泡焼結体からガス流路層が形成されるものである。
また、3層構造のセパレータ7は、ステンレスやチタンからなる金属製の第1、第2のプレート71,72と、その間に介在する中間層73(中間プレート)と、がろう付け等で一体化されたものである。
図示するセパレータ7を構成する中間層73には、自身が構成要素となる燃料電池セルのアノード側の金属多孔体6'に燃料ガスを供給するための燃料ガスの導入路73bと、セルの積層姿勢において、隣接する不図示の燃料電池セルのカソード側の金属多孔体6に酸化剤ガスを供給する(Z1方向)ための導入路73aが形成されている。さらには、冷却水等の冷却媒体が流通する冷却用流路73cが形成されている。ここで、中間層73には、その内側の領域に冷却用流路73cが形成されており、中間層73には燃料ガス用の導入路73bが形成され、これに連通する第1のプレート71には、図2で示すように平面視で細長形状の燃料ガス用のガス供給用開口71a(コモンレールとも称される)が形成され、このコモンレールを介して燃料ガスがガス流路層6’に提供されるようになっている(Z2方向)。なお、ガス流路層6’に提供された燃料ガスは、当該ガス流路層6’内を面内方向に流れ(Z3方向)、各所でガス拡散層4’に提供されるものである(Z4方向)。
また、中間層73にはさらに酸化剤ガス用の導入路73aが形成され、これに連通する第2のプレート72に形成された細長形状の酸化剤ガス用のガス供給用開口72aが形成されている。なお、図示しない燃料ガスや酸化剤ガスの排出路やガス排気用開口も、不図示の燃料電池セルの右側領域に形成されている。
図示する金属多孔体6,6’に関し、電極体5の発電領域の外側に位置する周縁領域9,9’は、セル内で生成等された水分を吸収して一時的に貯留し、たとえば自然蒸散等を待って不要な水分を排除するための吸水領域が形成されている。
ここで、この吸水領域の形態として、以下の2つの形態を挙げることができる。
吸水領域の一つの形態は、この金属多孔体6,6’の周縁領域9,9’が、その中央領域に比して相対的に高い親水性を有している形態である。
相対的に高い親水性を有している周縁領域9,9’の形成方法としては、ガス流路層であるエキスパンドメタルや発泡焼結体等を硫酸や硝酸等の酸内に浸漬して、新水性官能基であるカルボキシル基(−COOH基)等を部材表面に付着させる方法、エキスパンドメタル等を親水性素材の金属から形成する方法、さらには、液体ホーニング処理して部材表面に微細な凹凸を付与する方法などがある。
ここで、親水性素材の金属としては、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、シリカ、金、チタン、酸化チタン、白金、ジルコンなどの金属素材を挙げることができる。
また、吸水領域の他の形態は、吸水領域9,9’の平均細孔径を相対的に小径とするものである。たとえば金属多孔体6,6’がエキスパンドメタルからなる場合は、その周縁領域9,9’に対応する部位をプレス等して、所望に押し潰すことで、周縁領域9,9’の細孔径を相対的に小径とすることができる。
また、金属多孔体6,6’が発泡焼結体からなる場合は、その製造過程において、その発泡倍率を周縁領域9,9’と中央領域で変化させる等することで、容易に双方の領域の孔径を調整することができる。
図示するように、金属多孔体6,6’の周縁領域9,9’に吸水領域を設けたことにより、図2で示すように、その近傍に位置するコモンレール71aに生成水や随伴水等が滞留する前に、この水分が周縁領域9,9’に移動するため(R方向)、コモンレール71aが水分で閉塞され、ガス供給やガス排気が阻害されるといった課題は効果的に解消される。たとえば、周縁領域9,9’の細孔を相対的に小径とした場合には、毛管作用によって周縁領域9,9’への水分移動が促進される。
一方、図3で示す燃料電池セル10Aは、金属多孔体6,6’に加えて、ガス拡散層4,4’にも吸水領域9A,9’Aを有するものである。
この吸水領域9A,9’Aも、周縁領域9,9’と同様に、それぞれのガス拡散層(拡散層基材)が領域ごとに親水性の異なる形成素材で形成された形態、ガス拡散層(拡散層基材)の孔径が領域ごとに変化している形態などであってよい。
なお、図示を省略しているが、触媒層の周縁であって電解質膜が該触媒層と密着していない露出領域には、ガス拡散層から突出する毛羽が電解質膜に突き刺さるのを防止し、さらには、射出成形されるガスケットに対して電解質膜を補強する効果を奏する保護ポリマーフィルムが接着されている。この保護ポリマーフィルムは、ポリテトラフルオロエチレン、PVDF(二フッ化ポリビニル)、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、コポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリイミド、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ、シリコーン、シリコンゴム、シリコンベースのエラストマなどから形成されるものである。
ガスケット8は、その端部のマニホールドMの周縁に該マニホールドMを囲繞する無端リブ8aを有するものである。その成形方法の概要は、不図示の成形型内にアノード側の金属多孔体6’、電極体5、カソード側の金属多孔体6の順に収容して型閉めし、膜電極接合体4の側方のガスケット用キャビティ内に樹脂を注入する(射出成形)等の方法でおこなわれる。ここで、このガスケットの材料としては、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタンRTVゴムやブチルゴム系樹脂、シリコーンRTVゴム、EPDM系樹脂等が使用できる。
実際の燃料電池は、所望する発電量に応じて図示する燃料電池セル10,10Aが所定段積層されて燃料電池スタックが形成される。さらに、この燃料電池スタックは、最外側にターミナルプレート、絶縁プレート、およびエンドプレートが配され、セル積層方向に延設するテンションプレートを介して圧縮力が加えられて燃料電池が形成される。電気自動車等に車載される燃料電池システムは、この燃料電池と、水素ガスや空気を収容する各種タンク、これらのガスを燃料電池に提供するためのブロア、燃料電池を冷却するためのラジエータ、燃料電池で生成された電力を蓄電するバッテリ、この電力で駆動する駆動モータ等から大略構成されるものである。
図1〜3より、本発明の燃料電池セル10,10Aが積層され、スタッキングされてなる燃料電池によれば、従来構造の燃料電池に比して、コモンレール等がセル内の生成水や随伴水等で閉塞され、ガス流れが阻害されることで発電性能が低下してしまうという課題が効果的に解消される。すなわち、燃料電池スタックを構成する各燃料電池セルの発電量が確実に担保され、したがって、燃料電池スタックの所与の発電量が確実に担保された燃料電池が得られるものである。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。たとえば、図示するコモンレールが、酸化剤ガス導入路であり、この内側に燃料ガス用のコモンレールが配された構造であってもよい。