JP2010190589A - 原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法 - Google Patents

原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法 Download PDF

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信之 太田
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Abstract

【課題】応力腐食割れの進展をさらに抑制することができる原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を提供する。
【解決手段】ダイヤモンド皮膜形成装置11は炉心シュラウド5の溶接部9に対向して位置決めされ、チャンバー12が溶接部9を覆って炉心シュラウド5の外面に押し付けられる。メタンを含む原料ガスが、原料ガス供給管18により原料ガス導入装置15内のプラズマ室16に供給される。マイクロ波発生器31で発生したマイクロ波がプラズマ室16内の原料ガスに照射され、原料ガスの一部がプラズマになる。プラズマを含む原料ガス20が空間46内に噴出される。プラズマ状態の下で原料ガス中のメタンが分解し、反応性に富む化学種が生成され、ダイヤモンドの結晶が合成される。原料ガスが当てられた炉心シュラウド5の溶接部9の外面にダイヤモンド皮膜10が形成される。
【選択図】図4

Description

本発明は、原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法に係り、特に、沸騰水型原子力プラントの、高温水に暴露されるステンレス鋼製の構成部材に適用するのに好適な原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法に関する。
原子力プラントのステンレス鋼及びニッケル基合金等で作られた構成部材における応力腐食割れ(以下、SCCという)の発生は、材料等の改善により、現時点では、原子力プラントの実用化初期に比べてはるかに抑制されている。このため、今日における原子力プラントの安全性及び信頼性は格段に向上している。しかしながら、さらに、SCCの発生及び進展を抑制して原子力プラントの安全性をさらに高めるため、絶えず技術革新が行われている。
例えば、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)では、プラントの稼働率向上の観点から、炉内構造物及び圧力境界を構成する構成部材等の原子力プラントの構成部材(304ステンレス鋼、316Lステンレス鋼、ニッケル基合金等)のSCCを抑制することは、今もなお重要な課題となっている。
SCCは、材料、応力、環境の3因子が重畳したときに起こると考えられている。従って、3因子のうち、少なくとも1因子を緩和することによりSCCを抑制することができる。
原子力発電プラントの運転中、炉心の強いガンマ線及び中性子線により、原子炉内の冷却水が放射線分解する。その結果、原子力プラントの構成部材は、放射線分解生成物である酸素及び過酸化水素を数百ppb程度含む高温の冷却水に曝される。本出願では、高温とは100℃以上を意味する。定格出力運転時の炉心出口における気液二相流の温度が288℃である。原子力プラントの構成部材の高温腐食電位(Electrochemical corrosion potential;ECP)が低下するとき、裂進展速度(以下、GDR(Crack Growth Rate)という)が減少する。冷却水に含まれる酸素及び過酸化水素の濃度を下げるとECPが低下するので、表面が冷却水に曝された構成部材のSCCを緩和するためには、ECPを低減すること、つまり、冷却水中に存在する酸素及び過酸化水素の濃度を低減することが有効である。
この課題に対する従来技術の一つとして、原子炉内の冷却水に水素を添加する技術(以下、水素注入という)がある。原子炉内の冷却水を炉水と称する。BWRプラントにおける水素注入は、原子炉に接続される給水配管を流れる給水に水素を添加して溶存させ、この水素を含む給水を原子炉内に導くことにより行われる。ここで、水素注入により炉水中の酸素及び過酸化水素の濃度が低下する理由について説明する。炉水に水素が添加されたとき、原子炉内の炉心を取囲むダウンカマ内で、水素が再結合反応により酸素及び過酸化水素と再結合される。この再結合反応は、放射線照射の作用により生成するOH等の反応性に富むラジカル種が、触媒のように作用することにより速やかに進行される。この再結合反応により、炉水中での酸素及び過酸化水素の濃度は低下する。酸素及び過酸化水素の濃度が低下することにより、原子力プラントの構成部材の腐食電位(ECP)も低下する。水素注入は、注入した水素と炉水の放射線分解によって生じた酸素及び過酸化水素とを反応させて水に戻すことにより、炉水中の酸素及び過酸化水素の濃度を低減する技術である。しかしながら、高濃度の水素を注入した場合には、水分子を構成する酸素と中性子の核反応によって生じる高エネルギーのγ線を放出する放射性窒素16(N−16)が、原子炉から主蒸気配管に排出する蒸気中に移行しやすくなる。この結果、N−16がタービン建屋の線量率を上昇させることになる。したがって、N−16による副作用を生じない濃度範囲で水素を給水に注入して腐食電位を低減することが望まれている。
N−16の発生を抑制できて炉水中の酸素及び過酸化水素の濃度を低減する技術が幾つか知られている。この技術に関する第1の技術が、WO1999/017302号公報に記載されている。この技術は、白金族系貴金属元素の酸化物または水酸化物を炉水に注入することにより、原子力プラントの構成部材の表面に触媒機能を有する白金族系貴金属元素を付着させるものである。付着した白金族系貴金属元素の触媒作用によって、炉水に含まれた水素と酸素が再結合される。白金族系貴金属元素の注入は、前述の水素注入と併用される。
また、第2の技術は、特開平7−198893号公報及び特開平7−209487号公報に記載されているように、高温の炉水と接触する原子力プラントの構成部材の腐食電位を低減させる方法を記載している。この方法は、原子炉内のステンレス鋼構成部または関連構成部の腐食を減少させる方法であって、金属化合物の溶液または懸濁液を炉水に混合させ、炉水に混合されたその金属をステンレスの酸化皮膜に混入または付着させることによりステンレス鋼の耐食性を高めるものである。その金属を含む化合物は、原子炉の核分裂による発熱状態の下で分解し、含有する金属のイオンまたは原子を放出する性質を有する。その金属が原子力プラントの構成部材であるステンレス鋼部材の酸化皮膜に混入または付着した場合には、ステンレス鋼の電気化学電位が臨界電位よりも低下し、粒界応力腐食割れが抑制される。その金属として、パラジウムなどの白金属貴金属のほか、Zr、Tiがあげられている。
第3の技術は、特開2001−4789号公報に記載されているように、原子炉内に存在する光や放射線の照射によって起電する光触媒物質、原子炉内の温度圧力条件下で光物質を形成する金属、金属化合物またはこれらの表面にPt、Rh、RuもしくはPdの一つ以上を付着させた物質を、原子炉構造部材の表面に付着させるものでがある。第3の技術によれば、水素注入を実施しなくても、または水素注入を実施する場合には少量の水素の注入により、原子炉構造部材の腐食電位を低下させることができる。
WO1999/017302号公報 特開平7−198893号公報 特開平7−209487号公報 特開2001−4789号公報
しかしながら、沸騰水型原子炉では、炉水に注入した水素は炉心で発生した蒸気と共に、炉水から放出されてしまう。その結果、水素注入効果を促進するための貴金属を原子力プラントの構成部材の表面に付着させても、沸騰二相流領域では腐食電位を下げる効果が得られない。また、光及び放射線を利用する第3の技術では、再循環系配管及び原子炉の炉底部のような場所では十分な強度の光及び放射線が存在しない可能性がある。
本発明の目的は、応力腐食割れをさらに抑制することができる原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を提供することである。
上記目的を達成する本発明の特徴は、原子力プラントの構成部材の水と接触する表面にダイヤモンド皮膜を形成することにある。
構成部材の水と接触する表面に形成されたダイヤモンド皮膜が、腐食環境になる水と構成部材の母材との直接接触を防ぐことができる。このため、構成部材の応力腐食割れを抑制することができる。
本発明によれば、原子力プラントの構成部材における応力腐食割れをさらに抑制することができる。
試験片内に作成した模擬き裂内の腐食電位分布を示す説明図であり、(A)は水の流れがない場合での模擬き裂内の腐食電位分布を示す説明図、(B)は水の流れが存在する場合での模擬き裂内の腐食電位分布を示す説明図である。 沸騰水型原子力プラントの1つの運転サイクルでの運転状態を示す説明図である。 本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を示す説明図である。 図3に示す原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法で用いられるダイヤモンド皮膜形成装置の縦断面図である。 本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を適用する沸騰水型原子力プラントの構成図である。 図5に示すダイヤモンド注入装置の詳細構成図である。 本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を適用する沸騰水型原子力プラントの構成図である。
発明者らは、N−16の発生を抑制でき、原子力プラントの構成部材における応力腐食割れの進展をさらに抑制することができる方法について検討を行った。この結果、発明者らは、原子力プラントの構成部材の炉水と接触する表面にダイヤモンドの皮膜を形成することによって、N−16の発生を抑制でき、原子力プラントの構成部材における応力腐食割れの進展をさらに抑制できることを見出した。この結論に至る発明者らの検討結果を以下に説明する。
発明者らは、まず、応力腐食割れによって構成部材に生じたき裂の内部の腐食電位の分布を測定することを試みた。原子力プラントの構成部材に実際に生じたき裂内の腐食電位の測定は困難であるので、原子力プラントのき裂が存在する構成部材を模擬して、ドリルで穴を開けて形成した内径が0.4mmの模擬き裂を有する304ステンレス鋼の試験片を作成した。発明者らは、その模擬き裂内に微小な腐食電位センサ(電極)を挿入して、これを走査することによって模擬き裂内の腐食電位の分布を測定した。この測定は、沸騰水型原子炉の条件を模擬して、圧力容器内で280℃、70気圧の水中に蒸気の試験片を浸漬させて行った。圧力容器内で水の流れが存在しない場合、及び水の流れが存在する場合のそれぞれにおいて、模擬き裂内の腐食電位の分布を測定した。
図1(A)は水の流れが無いときにおける模擬き裂内の腐食電位の分布を示している。水中の溶存酸素(DO)濃度が400ppbである場合、腐食電位は模擬き裂の開口部で大きく低下し、模擬き裂の内部ではほとんど一定であった。一方、圧力容器内の水を脱気した条件(脱気条件)では、脱気した水中のDO濃度が25ppbのとき、すでに模擬き裂の内外において腐食電位に差がないことが分かった。水中のDO濃度が低下した場合には、き裂進展速度が低下する。このように、模擬き裂の内外での腐食電位の差がなくなり、局部電池が形成できなくなったとき、発明者らはき裂を進展する駆動力が得られなくなることを確認した。
水の流れが存在する場合には、模擬き裂内の腐食電位の分布は図1(B)に示すようになる。水の流れが模擬き裂の開口部付近に存在する場合には、この水の流れによって生じた渦が、水中の溶存酸素を模擬き裂内に持ち込むことに起因して、模擬き裂内の開口部付近に腐食電位のピークが生じることが明らかになった。水中のDOの濃度を下げることによって、模擬き裂内外の腐食電位の差が無くなることも分かった。水の流れが模擬き裂の開口部付近に存在する場合には、DOの濃度を下げても、模擬き裂内の開口部付近に腐食電位のピークが生じる。模擬き裂内での腐食電位ピークの形成は、原子力プラントの構成部材の表面への水素触媒及び光触媒の付着によって炉水のDO濃度を下げずに腐食電位を下げる場合には、炉水の流れによって炉水中のDOが構成部材に生じたき裂内に持ち込まれると十分な効果が得られない可能性があることを示している。
発明者らは、炉水の流れによってDOが原子力プラントの構成部材に生じたき裂内に持ち込まれて、き裂内の腐食電位、特にき裂内の開口部付近の腐食電位が増大した場合でも、このき裂の進展、すなわち、応力腐食割れの進展を抑制できる対策案を検討した。この結果、発明者らは、ダイヤモンド粒子を炉水に添加することが、応力腐食割れの進展を抑制する有望な対策であることを見出した。
原子力プラントの運転中に原子炉内の炉水にダイヤモンド粒子を添加することによって、炉水中のDOがき裂内に持ち込まれる場合と同様に、炉水と共にき裂の側に到達したダイヤモンド粒子が、き裂の内部に持ち込まれてき裂の内面に付着する。き裂の内面に付着したダイヤモンド粒子は、膜状になり、き裂の内面を炉水に含まれた酸素から遮断する効果をもたらす。ダイヤモンド粒子は、等電点が低pHを示し、負に強く帯電しているので、き裂の内外に局部電池が形成された場合には、き裂の先端に向かって電気泳動が生じ、ダイヤモンド粒子がき裂内で濃縮される。これは、炉水に存在するヘマタイト及びマグネタイトなどの鉄粒子がほぼ中性に等電点を持ちあまり強く帯電していないことと大きく異なる。き裂の内面に膜状に付着したダイヤモンド粒子はき裂の内面を腐食から保護すると同時に、ダイヤモンド粒子がき裂の内部に充填されることによって、き裂内部を炉水の流動の影響から遮ることになる。このため、き裂内部へのDOの持ち込みをさらに抑制することができる。以上のことから、ダイヤモンド粒子を炉水に添加することによって、原子力プラントの構成部材の応力腐食割れを抑制することができる。
良好な電気絶縁体であるダイヤモンドは、構成部材の表面での電気化学反応を抑制し、構成部材の腐食を抑制することができる。ダイヤモンドは、600℃くらいの温度までは酸化しにくいため、原子炉の使用温度である300℃前後では安定に存在する。もしも、ダイヤモンドが酸化された場合には、ダイヤモンドは炉水中では二酸化炭素になる。二酸化炭素は、原子炉の条件ではほとんど解離しなく、蒸気と共に炉水から排出されてタービンに導かれるので、原子力プラントに悪影響を及ぼさない。
したがって、ダイヤモンド皮膜をステンレス鋼などの原子力プラントの構成部材の表面に形成することによって、構成部材が炉水の腐食環境にさらされることを防ぐことができ、その構成部材の応力腐食割れを抑制することができる。さらには、ダイヤモンドは硬いため、原子力プラントにおいてエロージョン及び磨耗の懸念される部位にダイヤモンド皮膜を形成することも可能である。
ダイヤモンド皮膜を原子力プラントの構成部材の表面に形成する場合には、工場、及び原子力発電所の現場にダイヤモンド皮膜形成装置を設置し、このダイヤモンド皮膜形成装置を用いて、その構成部材の表面にダイヤモンド皮膜を形成する。これによって、応力腐食割れの抑制に必要な耐食性被膜が、構成部材の表面に形成できる。
原子力プラントの構成部材は、例えば、BWRプラントにおいては、上部格子板、炉心支持板、炉心シュラウド、シュラウドサポート、シュラウドサポートレグ、ジェットポンプ、ノズルサーマルスリーブ、炉内計装管ハウジング及び再循環系配管などである。また、その構成部材は、制御棒の表面など強い中性子の照射を受けて長期的には耐食性の低下が懸念される制御棒の構成部材であってもよい。これらの構成部材は、オーステナイトステンレス鋼またはニッケル基合金によって作られている。特に、シュラウドサポート及びレグは強度の高いニッケル基合金(アロイ600)で製作されている。
ダイヤモンド皮膜は、加圧水型原子力プラント(PWRプラント)の構成部材の表面、特に、構成部材の炉水と接触する表面に形成してもよい。
原子力プラントの構成部材の表面に形成されるダイヤモンド皮膜の厚みは、1μm以上である。ただし、狭隘部に面している、構成部材の炉水の接水面に形成されるダイヤモンド皮膜の厚みは、製造公差よりも十分に小さい厚みとするために10μm以下とする。一方、炉心シュラウドの接水面のように、狭隘部に面していなく開放されている、構成部材の接水面に形成されるダイヤモンド皮膜の厚みは、1mm以下にする。
ダイヤモンド皮膜は、ダイヤモンド粒子を含む懸濁液を炉水に添加し、原子力プラントの構成部材の表面に付着させることによって形成しても良い。このとき、ダイヤモンド粒子の粒径は、炉水に存在しているクラッドと呼ばれる鉄酸化物程度の大きさ、0.45μm以下が好ましい。このような条件が満たされるとき、炉水浄化系のフィルタ等の目詰まり及び回転機の回転部等への影響はクラッドと同程度と考える。構成部材に生じる応力腐食割れのき裂開口部の高さは100μm以下であるので、粒径が2nmよりも大きく0.45μm以下であれば、炉水の流動によって生じた渦によってダイヤモンド粒子が、き裂内に流入し、き裂の内面に付着してこの内面にダイヤモンド皮膜を形成することができる。
ダイヤモンド粒子を含む懸濁液を原子炉内の炉水に注入する時期について説明する。BWRプラントは、1つの運転サイクルにおいて、図2に示すように、原子炉の起動運転、定格運転及び停止運転が行われる。その懸濁液の炉水への注入は、起動運転、定格運転及び停止運転の運転中、及び原子炉の停止中のいずれかの期間において行われる。ダイヤモンドは不活性で炉水に影響を与えないので、ダイヤモンド粒子の注入期間及び注入するダイヤモンド粒子の濃度は任意に決められる。但し、炉心に装荷された燃料集合他の燃料棒の表面への付着の影響、及びタービンへの搬入及び付着が懸念されるので、原子力プラントの定格運転では注入するダイヤモンド粒子の濃度は10ppb以下が望ましい。定格運転以外の期間では数ppmレベルでのダイヤモンド粒子の添加が可能である。
水素注入との併用は、ダイヤモンド粒子が多孔質な状態で原子力プラントの構成部材の表面に付着してダイヤモンド皮膜が形成されたとしても、このダイヤモンド皮膜による炉水の遮断効果及び水素注入による酸化剤濃度の低減効果の重畳によって、構成部材の応力腐食割れをさらに抑制することができる。
以上の検討を考慮した本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を、図3及び図4を用いて説明する。本実施例の応力腐食割れ抑制方法は、工場内で行われる。作業対象となる構成部材は、例えば、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)の原子炉圧力容器内に設置されて炉心を取り囲む炉心シュラウドである。炉心シュラウド5は、所定の曲率で曲げられた複数枚の鋼板を溶接でつなぎ合せて製造される。このため、炉心シュラウド5は複数の溶接部9を有する。これらの溶接部9の内面及び外面にダイヤモンド皮膜9が形成される(図4参照)。
ダイヤモンド皮膜9を形成するダイヤモンド皮膜形成装置11を、図4を用いて説明する。ダイヤモンド皮膜形成装置11は、チャンバー12、マイクロ波キャビティ14、円筒状の原料ガス導入装置15、マイクロ波発生器17及び原料ガス供給管18を有する。原料ガス導入装置15が、内部に空間46が形成されたチャンバー12に取り付けられる。耐熱の環状のシール部材13がチャンバー12の先端に取り付けられる。マイクロ波キャビティ14が、原料ガス導入装置15を取り囲んで原料ガス導入装置15に取り付けられる。プラズマ室16が、原料ガス導入装置15内でマイクロ波キャビティ14に取り囲まれた部分に形成される。原料ガス導入装置15のマイクロ波キャビティ14によって取り囲まれた部分(プラズマ室16に面する部分)は、石英管で構成される。マイクロ波発生器17がマイクロ波キャビティ14に接続され、原料ガス供給管18が原料ガス導入装置15に接続される。図示されていないが、電力供給ケーブル及び制御信号用配線が原料ガス供給管18に取り付けられている。空間46に連通された排気管19がチャンバー12に接続される。
ダイヤモンド皮膜形成装置11を用いた、本実施例における原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を以下に説明する。
オーステナイトステンレス鋼製の炉心シュラウド5は、例えば、工場内の床面上に設置された回転可能な回転台(図示せず)の上に置かれている。ダイヤモンド皮膜形成装置11は、炉心シュラウド5の近くで床面上に設置された位置決め装置21に取り付けられている。位置決め装置21は、上下方向においてダイヤモンド皮膜形成装置11の位置決めを行う。ダイヤモンド皮膜形成装置11は、位置決め装置21によって、炉心シュラウド5に形成されて周方向に伸びている1つの溶接部9に対向するように位置決めされる。このとき、チャンバー12は、炉心シュラウド5の外面に軽く押し付けられ、炉心シュラウド5に形成された溶接部9の一部を覆っている。シール部材13が、炉心シュラウド5の外面と接触し、チャンバー12内の空間46とチャンバー12の外部の空間とのシールを行っている。これにより、空間46の気密性が保たれる。
ダイヤモンド皮膜形成装置11を用いて、炉心シュラウド5にダイヤモンド皮膜10を形成する方法を具体的に説明する。排気管19に接続された真空ポンプ(図示せず)を駆動して、チャンバー12内の空間46の空気を外部に排出する。空間46内の圧力が、後述する原料ガスの供給量と真空ポンプの排気速度の調整により1〜10kPaに維持される。
メタンを1〜30%含む水素ガスである原料ガスが、原料ガス供給管18を通って原料ガス導入装置15内のプラズマ室16に供給される。マイクロ波発生器17で発生した2.45GHzのマイクロ波が、マイクロ波キャビティ14に伝えられ、原料ガス導入装置15の石英管を通してプラズマ室16内の原料ガスに照射される。プラズマ室16に面する部分が石英管になっているので、マイクロ波キャビティ14から照射されたマイクロ波が、プラズマ室16内の原料ガスに吸収されやすい。マイクロ波の照射によって原料ガスの一部が、プラズマ室16内でプラズマになる。
一部がプラズマ状態になった原料ガス20が、プラズマ室16から原料ガス導入装置15内を経てチャンバー12内の空間46に導かれる。その原料ガスは、原料ガス導入装置15に形成された開口部47から空間46内に噴出される。プラズマ状態の下で、原料ガスに含まれたメタンガスが分解し、反応性に富む化学種が生成される。空間46内に流入した原料ガスは、チャンバー12によって覆われた炉心シュラウド5の外面に向って流れ、溶接部9の外面に到達する。原料ガスが溶接部9に向かって流れる過程で、メタンから生成された反応性に富む化学種が反応してダイヤモンドの結晶が合成される。原料ガスが炉心シュラウド5の外面に当てられたとき、炉心シュラウド5の外面にダイヤモンドの結晶が付着して皮膜状に成長する。このようにして、溶接部9の外面にダイヤモンド皮膜10が形成される。
ダイヤモンド皮膜10は、溶接部9を含む約20cmの幅で形成される。この形成されたダイヤモンド皮膜10の幅は、原料ガス導入装置15に形成された開口部47の大きさによって定まる。
炉心シュラウド5の溶接部9の外面に設定された厚み(例えば1μm)のダイヤモンド皮膜10が形成されたとき、溶接部9のダイヤモンド皮膜10が形成されていない部分がチャンバー12と対向するように、上記した回転台を回転させて炉心シュラウド5を回転させる。その後、溶接部9のダイヤモンド皮膜10が形成されていない部分の外面に、上記したように、ダイヤモンド皮膜10を形成する。炉心シュラウド5の周方向に形成された溶接部9の全周に亘って外面にダイヤモンド皮膜が形成される。
同様にして、炉心シュラウド5に形成された、異なる高さで周方向に伸びる溶接部、及び軸方向に伸びる溶接部の外面に沿って、ダイヤモンド皮膜10が形成される。これらの溶接部の内面にも、ダイヤモンド皮膜形成装置11によってダイヤモンド皮膜10が形成される。
本実施例における炉心シュラウド5の表面へのダイヤモンド皮膜の形成は、気中での気相合成法によって行われる。
工場で溶接部の表面にダイヤモンド皮膜10が形成された炉心シュラウド5は、新設のBWRプラントの原子炉圧力容器内、または既設のBWRプラントの原子炉圧力容器内に設置される。後者の場合は、ダイヤモンド皮膜10が形成された炉心シュラウド5は、既設のBWRプラントの原子炉圧力容器内に設置されている既設の炉心シュラウドを交換する際に用いられる。
BWRプラントの他の構成部材の溶接部の表面にも、ダイヤモンド皮膜形成装置11を用いて同様に、ダイヤモンド皮膜10を形成することができる。
溶接部の表面にダイヤモンド皮膜10が形成された炉心シュラウド5が原子炉圧力容器内に設置されたBWRプラントの運転が行われているとき、ガンマ線及び中性子の照射による炉水の放射線分解によって生じた酸素及び過酸化水素を含む炉水が、炉心シュラウド5の内外面に接触する。しかしながら、炉心シュラウド5の溶接部9付近の内外面がダイヤモンド皮膜10で覆われているので、ダイヤモンド皮膜10の表面は炉水に接触するが、その溶接部9付近の内外面に酸素及び過酸化水素を含む炉水が直接接触することはなくなる。
本実施例は、応力腐食割れが発生しやすい、炉心シュラウド5等の構成部材の溶接部9付近の内外面をダイヤモンド皮膜10で覆っているので、BWRプラントの構成部材における応力腐食割れの発生を著しく抑制することができる。
メタン及び水素を含む原料ガスに、酸素、一酸化炭素あるいは二酸化炭素を数%混ぜても良い。これによって、構成部材の表面へのススなどの付着を抑えることができ、構成部材の表面に形成されたダイヤモンド皮膜の膜質を向上させることができる。膜質を向上することによってダイタモンド皮膜内の欠陥・空隙率や不純物濃度が低下してダイヤモンド皮膜の耐食性・耐久性が高まる。水素ガスの代わりに、アルゴン、及びアルゴン及び水素の混合ガスを使用しても良い。これによって、ダイヤモンド皮膜の成長速度を制御することができる。また、原料ガスをプラズマ化する方法として、前述した方法以外に、マイクロ波キャビティの設置の仕方を変え、マイクロ波キャビティ内とガスの流路を共通とした方法を用いても良い。または高周波コイルを用いても良い。
BWRプラントの、オーステナイトステンレス鋼(例えば、SUS304L及びSUS316L等)製の構成部材及びニッケル基合金製の構成部材の溶接部の表面に、ダイヤモンド皮膜形成装置11を用いて、ダイヤモンド皮膜10を形成することができる。BWRプラントの運転中において、これらの構成部材で応力腐食割れの発生が著しく抑えられる。
工場内あるいは発電所内で新しい炉心シュラウド及び炉内機器の炉水と接触する表面にダイヤモンド皮膜を形成することによって、原子炉圧力容器内に設置されて酸素及び過酸化水素を含む炉水に曝されたときに、炉心シュラウド及び炉内機器の腐食速度を低減して応力腐食割れの発生を抑制することができる。特に、上記のように、ダイヤモンド皮膜を形成した炉心シュラウド及び炉内機器では、応力腐食割れの発生時間が、ダイヤモンド皮膜を形成していない場合に比べて、非常に長くなる。
本実施例は、PWRプラントの構成部材(例えば、オーステナイトステンレス鋼製)の溶接部付近へのダイヤモンド皮膜の形成を工場で行う場合にも適用することができる。
本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を、以下に説明する。本実施例の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法では、実施例1で用いたダイヤモンド皮膜形成装置11を、既設のBWRプラントの原子炉圧力容器内に持ち込んで、BWRプラントの構成部材である、例えば炉心シュラウドの炉水に接触する溶接部の内外面に、ダイヤモンド皮膜10を形成する。
BWRプラント(図5参照)の運転が停止された後の運転停止中に行われる定期検査の期間において、プラントの構成部材へのダイヤモンド皮膜10の形成が行われる。その運転が停止された後、原子炉圧力容器の蓋が取り外され、原子炉圧力容器内から蒸気乾燥器及び気水分離器が取り出される。さらに、炉心シュラウドに取り囲まれた炉心に装荷されている複数の燃料集合体が取り出され、燃料貯蔵プールに搬送される。燃料集合体の上端部を支持する上部格子板も炉心シュラウドから取り外されて、原子炉圧力容器から取り出される。
ダイヤモンド皮膜形成装置11は、位置決め装置に取り付けられている。この位置決め装置は、例えば、原子炉圧力容器の蓋が取り付けられていたフランジの上面に設置された環状の軌道に、旋回できるように取り付けられている。位置決め装置は、原子炉圧力容器内で、ダイヤモンド皮膜形成装置11を、原子炉圧力容器の軸方向及び半径方向に移動させることができる。このため、ダイヤモンド皮膜形成装置11のチャンバー12を、構成部材、例えば、炉心シュラウド5の内面または外面のダイヤモンド皮膜10を形成すべき部分に位置合せすることができる。位置決め装置は、原子炉圧力容器の上方に位置している運転床の上に設置してもよい。
炉心シュラウド5の溶接部9の内面にダイヤモンド皮膜10を形成する場合には、炉心シュラウド5内に挿入されたダイヤモンド皮膜形成装置11を位置決め装置により移動させて、ダイヤモンド皮膜10を形成する炉心シュラウド5の内面の所定位置にチャンバー12を設定する。実施例1と同様に、炉心シュラウド5の溶接部9の内面にダイヤモンド皮膜10が形成される。このようにして、炉心シュラウド5の内面の所定箇所にダイヤモンド皮膜10が形成される。
過去のBWRプラントの運転によって、炉心シュラウド5の溶接部9に応力腐食割れによるき裂が発生している場合には、このき裂の内面にもダイヤモンド皮膜10が形成される。
炉心シュラウド5の内面に対するダイヤモンド皮膜10の形成が終了した場合には、位置決め装置によりダイヤモンド皮膜形成装置11を原子炉圧力容器と炉心シュラウドの間に形成される環状のダウンカマ内に挿入する。このダウンカマ内でダイヤモンド皮膜形成装置11を位置決め装置によって走査して、炉心シュラウド5の外面で溶接部9付近にダイヤモンド皮膜10を形成する。ダウンカマ内に配置されたジェットポンプ及びライザー管によって、ダイヤモンド皮膜形成装置11のチャンバー12を炉心シュラウド5の外面に接触させることができない箇所が存在する。このような箇所の溶接部9付近の外面にはダイヤモンド皮膜10を形成することができない。ダイヤモンド皮膜形成装置11によってダイヤモンド皮膜10を形成することができない、炉心シュラウド5外面の溶接部9付近に対しては、ウォータジェットピーニングなどにより圧縮残留応力を付与する。
原子炉圧力容器内の構成部材の所定箇所へのダイヤモンド皮膜10の形成が終了した後、ダイヤモンド皮膜形成装置11及び位置決め装置が運転床上まで天井クレーンを用いて搬送される。原子炉圧力容器に蓋が取り付けられて定期検査が終了した後、BWRプラントの運転が開始される。この運転中に、酸素及び過酸化水素を含む炉水が、原子炉圧力容器内でBWRプラントの構成部材に形成されたダイヤモンド皮膜に接触する。しかしながら、構成部材の溶接部付近の表面を覆っているダイヤモンド皮膜10によって、炉水が溶接部付近で構成部材の母材に直接接触することがなくなる。構成部材において応力腐食割れによって生じているき裂の内面も、ダイヤモンド皮膜10で覆われているので、炉水がき裂の内面に接触することがなくなる。
このため、ダイヤモンド皮膜10を形成した後におけるBWRプラントの運転によって、既に生じているき裂の進展が抑制され、構成部材における新たな応力腐食割れの発生も抑制される。
本実施例は、ジェットポンプの替りにインターナルポンプを備えているABWRを用いたBWRプラントにおいて、このプラントの構成部材、特に、原子炉圧力容器内の構成部材の炉水と接触する表面にダイヤモンド皮膜を形成する場合にも適用することができる。
本実施例は、既設のPWRプラントにおいて、原子炉容器内の構成部材の溶接部付近の炉水と接触する表面にダイヤモンド皮膜を形成する場合にも適用することができる。
本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を、図5を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法は、BWRプラントの運転中に、構成部材の炉水と接する表面にダイヤモンド皮膜を形成する方法である。
本実施例が適用されるBWRプラント1の構成を説明する。BWRプラント1は、原子炉2、主蒸気配管27、タービン28、復水器29及び給水配管30を備えている。原子炉2は、原子炉圧力容器3及び原子炉圧力容器3内に配置された炉心4を有する。複数の燃料集合体(図示せず)が炉心4に装荷されている。炉心4は原子炉圧力容器3内に配置された炉心シュラウド5によって取り囲まれている。複数のジェットポンプ6が原子炉圧力容器3と炉心シュラウド5の間に形成される環状のダウンカマ内に配置される。再循環ポンプ8が設けられる再循環系配管7の一端が、原子炉圧力容器3に接続され、ダウンカマに連絡される。再循環系配管7の他端は、原子炉圧力容器3内に達してジェットポンプ6のノズル(図示せず)に接続される。気水分離器25及び上記乾燥器26が、原子炉圧力容器3内で炉心4の上方に配置される。
主蒸気配管27が、原子炉圧力容器3とタービン28を接続する。給水配管30が復水器29と原子炉圧力容器3を接続する。復水ポンプ31、浄化装置32、低圧給水加熱器34、給水ポンプ33及び高圧給水加熱器35が、この順序で、復水器29から原子炉圧力容器3に向かって設置される。
BWRプラント1は、原子炉浄化系を備えている。原子炉浄化系は、浄化系配管36、浄化系ポンプ38及び浄化装置40を有する。浄化系配管36は、再循環系配管7に一端が接続され、他端が給水配管30に接続される。再生熱交換器37、浄化系ポンプ38、非再生熱交換器39及び浄化装置40が、浄化系配管36に設けられる。ドレン配管41が、原子炉圧力容器3と浄化系配管36を接続する。酸素注入装置43及びダイヤモンド注入装置42が給水配管30に接続される。
腐食電位センサ44がドレン配管41に設置される。水素及び酸素の濃度を測定する濃度計45A,45B,45C及び45Dが、ドレン配管41、浄化系配管36、給水配管30及び主蒸気配管27に設置される。
再循環ポンプ8の駆動によってダウンカマ内の炉水が昇圧され、再循環系配管7を通ってジェットポンプ6内に噴出される。ジェットポンプのノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ内に吸引される。ジェットポンプ6から吐出された炉水は、炉心4内に供給される。炉水は、炉心4内で加熱されて一部が蒸気になる。蒸気は、気水分離器25及び蒸気乾燥器26で水分を除去され、主蒸気配管27に排出される。
蒸気は、タービン28を回転させて復水器29に排出される。発電機(図示せず)が、タービン28によって回転されて発電を行う。蒸気は、復水器29で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管30を通って原子炉圧力容器3内に供給される。給水は、給水配管30を通る間に、復水ポンプ31及び給水ポンプ33によって加圧され、低圧給水加熱器32及び高圧給水加熱器35によって加熱される。浄化装置32は給水に含まれているクラッド及びイオンを除去する。
再循環系配管7内を流れる炉水の一部は、浄化系配管36内に流入し、浄化装置40で浄化された後、給水配管30を経て原子炉圧力容器3内に供給される。
ダイヤモンド注入装置42の具体的な構成を図6を用いて説明する。ダイヤモンド注入装置42は、一対の貯蔵槽50A及び50B、注入ポンプ51及び流量計52を有する。給水配管30に接続された注入配管53が、貯蔵槽50A及び50Bにそれぞれ接続される。注入ポンプ51及び流量計52が注入配管53に設けられる。開閉弁55が注入ポンプ51よりも下流で注入配管53に設けられる。開閉弁54A,54Bが、貯蔵槽50A及び50Bの出口側で、分岐された注入配管53に設置される。純水供給管56が、開閉弁57Aを介して貯蔵槽50Aに接続され、開閉弁57Bを介して貯蔵槽50Bに接続される。
ダイヤモンド粒子を含む懸濁液が、貯蔵槽50A及び50Bにそれぞれ蓄えられている。この懸濁液は、開閉弁54A,54Bを閉じた状態で貯蔵槽50A及び50Bのそれぞれの中にダイヤモンド粒子を含む原液(またはダイヤモンド粒子)を投入し、開閉弁57A,57Bを開いて純水供給管56から脱気された純水を貯蔵槽50A及び50B内にそれぞれ供給することによって、作成される。純水の供給量を調節して、懸濁液に含まれるダイヤモンド粒子の濃度を設定濃度に調節する。ダイヤモンド粒子の粒径は、2nmより大きく0.45μm以下の範囲にある。
BWRプラント1が運転されているとき、開閉弁54A,55を開いて、注入ポンプ51を駆動させ、貯蔵槽50A内のダイヤモンド粒子を含む懸濁液が、注入配管53を通って給水配管30内を流れている給水内に注入される。ダイヤモンド粒子を含む給水が、原子炉圧力容器3内に供給され、原子炉圧力容器3内の炉水に混合される。結果的に、ダイヤモンド粒子が、原子炉圧力容器3内の炉水に注入される。この炉水中のダイヤモンド粒子の濃度が設定濃度になるように、流量計52で計測された懸濁液の流量に基づいて注入ポンプ51の回転速度が調節される。貯蔵槽50A内のダイヤモンド粒子を含む懸濁液がなくなったとき、開閉弁54Aが閉じられ、開閉弁54Bが開いて貯蔵槽50B内のダイヤモンド粒子を含む懸濁液が給水配管30に供給される。貯蔵槽50A内では、前述したように、新たなダイヤモンド粒子を含む懸濁液が生成される。
ダイヤモンド粒子を含む炉水が、原子炉圧力容器3内で、ダウンカマ内及び炉心シュラウド5内を流れ、さらに、再循環系配管7及びジェットポンプ6内を流れる。このため、BWRプラント1の構成部材である上部格子板、炉心支持板、炉心シュラウド5、シュラウドサポート、シュラウドサポートレグ、ジェットポンプ6及びノズルサーマルスリーブ等の炉水が接触する各表面に、炉水に含まれるダイヤモンド粒子が付着し、それらの表面にダイヤモンド皮膜が形成される。それらの構成部材の溶接部の炉水に接触する表面にもダイヤモンド皮膜が形成される。再循環系配管(BWRプラント1の構成部材)7内にもダイヤモンド粒子を含む炉水が流れるので、溶接部を含む再循環系配管7の内面にも、ダイヤモンド皮膜が形成される。炉心シュラウド5は、内外面とも炉水に接触するので、内外面にダイヤモンド皮膜が形成される。
さらに本実施例では、注入配管53との接続点よりも下流の部分で、給水配管30の内面がダイヤモンド粒子を含む給水と接触する。このため、その部分の給水配管30の内面に、ダイヤモンド皮膜が形成される。また、浄化系配管36にも再循環系配管7からダイヤモンド粒子を含む炉水が、供給されるので、浄化系配管36の内面にもダイヤモンド皮膜が形成される。ただし、浄化系配管36内を流れる炉水に含まれるダイヤモンド粒子は、浄化装置40で除去される。このため、浄化装置40よりも下流では、浄化系配管36の内面にダイヤモンド皮膜が形成されない。
ダイヤモンド注入装置42から給水へのダイヤモンド粒子の注入は、例えば、腐食電位センサ44で測定した腐食電位が予め設定した値に到達するまで実施され、腐食電位の測定値が設定値に到達したときに停止される。ダイヤモンド皮膜がBWRプラント1の構成部材の炉水と接触する表面に形成されることによってその構成部材の腐食が抑制されるので、腐食電位に変化が現れる。この腐食電位の計測によって、ダイヤモンド粒子の注入期間が決まる。浄化系配管36に接続されたサンプリング系の配管に腐食電位センサを設置し、この腐食電位センサで測定した腐食電位が設定値に到達したときに、ダイヤモンド粒子の注入を停止してもよい。
ダイヤモンド粒子の注入停止は、腐食電位ではなく、構成部材の表面へのダイヤモンド粒子の付着量に基づいて行ってもよい。例えば、浄化系配管36に接続されたサンプリング系の配管に設置した付着量モニタで測定したダイヤモンド粒子の付着量が目標値になったとき、ダイヤモンド粒子の注入を停止する。
給水配管3及び浄化系配管36は、炭素鋼製であるため、応力腐食割れが発生しない。しかしながら、給水配管3及び浄化系配管36のダイヤモンド皮膜が形成された内面では、それらの配管の母材が給水または炉水に接触しない。このため、ダイヤモンド皮膜が内面に形成された部分では、給水配管3及び浄化系配管36の腐食が防止される。
炉心シュラウド5等の構成部材の炉水と接触する表面の部分に応力腐食割れが発生している場合には、炉水に含まれるダイヤモンド粒子が、前述したように、その応力腐食割れのき裂内に入り込み、き裂の内面にダイヤモンド皮膜を形成する。ダイヤモンド粒子は、負に強く帯電している。このため、き裂の内外に局部電池が形成された場合には、き裂の先端に向かう電気泳動の作用により、ダイヤモンド粒子がき裂の先端まで入りやすくなり、き裂の内面全面に亘ってダイヤモンド皮膜が形成され、さらには、ダイヤモンド粒子がき裂内に充填されることになる。
き裂の内面がダイヤモンド皮膜によって覆われるので、酸素及び過酸化水素を含む炉水が構成部材の母材と直接接触することはなくなる。このため、応力腐食によるき裂の更なる進展を抑制することができる。き裂内にダイヤモンド粒子が充填された場合には、き裂内部を炉水の流動の影響から遮ることになる。このため、き裂内部への酸素及び過酸化水素の持ち込みがさらに抑制され、き裂の進展をさらに抑制することができる。
応力腐食割れが発生していない構成部材の炉水と接触する表面、及び応力腐食割れが発生している構成部材のき裂以外で炉水と接触している表面に、ダイヤモンド皮膜がそれぞれ形成されているので、これらの表面は酸素及び過酸化水素を含む炉水と直接接触しなくなる。したがって、応力腐食割れが発生していない構成部材、及び応力腐食割れが発生した部分以外の構成部材において、応力腐食割れの発生を著しく抑制することができる。
本実施例は、BWRプラント1の運転中に、このBWRプラントの構成部材の炉水と接触する表面にダイヤモンド皮膜を形成することができる。実施例2のように、原子炉圧力容器3内にダイヤモンド皮膜形成装置11を持ち込む作業が不要になる。
本実施例ではダイヤモンド注入装置42を給水配管30に接続しているが、ダイヤモンド注入装置42を浄化装置40の下流で浄化系配管36に接続してもよい。
本実施例は、PWRプラントにも適用することができる。PWRプラントでは、原子炉容器に接続された一次冷却水配管が、蒸気発生器に接続されている。この一次冷却水配管は、原子炉容器内の炉心で加熱された高温の炉水を、蒸気を発生するために蒸気発生器に供給し、蒸気発生器で温度が低下した炉水を原子炉容器に戻す閉ループを形成している。一次冷却水配管の炉水を原子炉に戻す部分に、ダイヤモンド注入装置42を接続することによって、原子炉容器内に設けられた構成部材の炉水と接触する表面、及び一次冷却水配管の内面にダイヤモンド皮膜を形成することができる。
本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法を、図7を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法も、実施例3と同様に、BWRプラントの運転中に、構成部材の炉水と接する表面にダイヤモンド皮膜を形成する方法である。本実施例が適用されるBWRプラント1Aは、実施例3が適用されるBWRプラント1において給水配管30に接続しているダイヤモンド注入装置42を浄化装置40の下流で浄化系配管36に接続させ、水素注入装置60を新たに給水配管30に接続した構成を有する。
ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンド注入装置42から浄化系配管36及び給水配管30を経て原子炉圧力容器3内に導かれる。ダイヤモンド粒子の注入は、実施例3と同様に、ダイヤモンド粒子を含む懸濁液によって行われる。本実施例においても、実施例3と同様に、BWRプラントの構成部材の炉水と接触する表面にダイヤモンド皮膜を形成することができる。
本実施例は、このダイヤモンド皮膜の形成によって、実施例3で生じる各効果を得ることができる。
さらに、本実施例では、BWRプラント1Aの運転中に、水素注入装置60から水素が給水配管30内の給水に注入される。この水素を含んだ給水が、原子炉圧力容器3内で炉水と混合される。結果的に、水素が炉水に注入される。ダイヤモンド粒子及び水素を含む炉水が、原子炉圧力容器3及び再循環系配管7等の内部を流れる。このため、構造部材の炉水と接触する表面に形成されたダイヤモンド皮膜の作用、及び注入された水素による炉水中の酸化性成分(酸素及び過酸化水素)の濃度の低減効果が重畳され、構造部材における応力腐食割れをさらに抑制することができる。
本実施例は、PWRプラントにも適用することができる。
本発明は、沸騰水型原子力プラント及び加圧水型原子力プラント等の原子力プラントの構成部材における応力腐食割れの抑制のために適用することができる。
1,1A…沸騰水型原子力プラント、2…原子炉圧力容器、4…炉心、5…炉心シュラウド、7…再循環系配管、9…溶接部、10…ダイヤモンド皮膜、11…ダイヤモンド皮膜形成装置、12…チャンバー、14…マイクロ波キャビティ、15…原料ガス導入装置、16…プラズマ室、17…マイクロ波発生器、30…給水配管、42…ダイヤモンド注入装置、50A,50B…貯蔵槽、51…注入ポンプ、53…注入配管、60…水素注入装置。

Claims (7)

  1. 原子力プラントの構成部材の水と接触する表面にダイヤモンド皮膜を形成することを特徴とする原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法。
  2. 前記ダイヤモンド皮膜の形成が気中にて行われる請求項1に記載の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法。
  3. 前記構成部材の前記表面にチャンバーを接触させ、一部がプラズマ化されてダイヤモンドを合成する原料ガスを前記チャンバー内に供給して前記表面に接触させて前記ダイヤモンド皮膜を前記表面に形成する請求項2に記載の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法。
  4. 原子力プラントの原子炉容器に接続される配管に接続されたダイヤモンド注入装置から前記配管内を流れる前記水にダイヤモンド粒子を注入し、注入された前記ダイヤモンド粒子を前記構造部材の前記表面に付着させて前記表面に前記ダイヤモンド皮膜を形成する請求項2に記載の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法。
  5. 前記ダイヤモンド粒子の粒径が、2nmより大きく0.45μm以下の範囲にある請求項4に記載の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法。
  6. 前記ダイヤモンド粒子の注入が前記原子力プラントの運転中に行われる請求項4または5に記載の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法。
  7. 前記炉水に水素が注入される請求項6に記載の原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制方法。
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