JP2010189345A - レジン硬化物製歯科補綴物表面処理用プライマー組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】アミン成分を含有しておらず、臭いや着色の問題がなく、レジン硬化物製補綴物のレジンセメントに対する接着性を有効に向上させ得るレジン硬化物製歯科用補綴物の表面処理用プライマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分、(B)多価金属イオン、好適には、多価金属イオン溶出性フィラーからの溶出により存在している
(C)揮発性有機溶媒、
(D)水、及び
(E)ヒュームドシリカ
を含有していることを特徴とするレジン硬化物製歯科補綴物表面処理用プライマー組成物。
【選択図】 なし

Description

本発明は、歯科医療分野において使用されるレジン硬化物製補綴物の表面処理に使用されるプライマー組成物に関するものであり、より詳細には、レジン硬化物製歯科補綴物を歯の修復部に充填する際或いは該レジン硬化物製歯科補綴物自体の修復の際などに使用されるプライマー組成物に関するものである。
う蝕等により歯に欠損を生じた場合、その欠損が大きいときには、インレー、アンレー、クラウン等の補綴物により歯の修復が行われる。即ち、技工所などにおいて、歯の欠損部の形状を有する補綴物を成形し、歯科医院において、この補綴物を歯科用セメントと呼ばれるペースト状の接着材を用いて歯の欠損部に接着固定するものである。
このような補綴物には、種々のタイプのものが知られており、例えばコバルト・クロム合金などの卑金属合金製のもの、金・銀・パラジウム合金などの貴金属合金製のもの、ガラスセラミックスなどのセラミックス製のもの、多量の無機フィラーが分散された硬化性樹脂組成物を硬化させたレジン硬化物製のものなどが知られている。何れも一長一短があるが、最近では、特に審美性に優れ、成形が容易なレジン硬化物製補綴物が広く使用される傾向にある。
ところで、上記の接着材である歯科用セメントとしては、(メタ)アクリレート系重合性単量体、無機フィラー及び化学重合開始剤からなるレジンセメントと称されるものが広く使用されているが、このような歯科用セメントは、上述した補綴物に対して直接充分な接着性を示さないため、補綴物の接着面をプライマーで表面処理した後、歯科用セメントを用いて補綴物を歯の欠損部に固定するものである。また、このような補綴物は、長期間にわたって歯の欠損部に固定されているものであり、補綴物自体に破折などにより欠損が生じてしまい、補綴物の修復を行うこともある。このような場合には、例えば破折して脱落した補綴物を、レジンセメントを用いて欠損部に再固定することにより、補綴物自体の修復が行われるが、このような場合においても、前述したプライマーを用いて補綴物の表面処理が行われる。
上記のようなプライマーとしては、補綴物の種類に応じて適宜の種類のものが使用されており、例えば卑金属合金製の補綴物用に使用されるプライマーとしては、酸性基含有重合性単量体の有機溶媒溶液、貴金属合金製の補綴物用に使用されるプライマーとしては、チオウラシル系重合性単量体などの硫黄原子含有重合性単量体の有機溶媒溶液、セラミックス製の補綴物やレジン硬化物製補綴物用のプライマーとしては、シランカップリング剤と酸性基含有重合性単量体とを含む有機溶媒溶液などが使用されていた。
しかるに、上述したプライマーの内、卑金属合金製、貴金属合金製及びセラミックス製の補綴物に関して使用されるものは、歯科用セメントなどに対しての接着性を十分に向上させるのであるが、レジン硬化物製補綴物について使用されるプライマーに関しては、その接着性向上効果が不十分であった。即ち、レジン硬化物製補綴物用に使用されるプライマーは、シランカップリング剤の加水分解により生じたシラノール基がレジン硬化物中のフィラー表面のシラノール基と反応することにより接着性の向上がもたらされるという原理に基づくものであるが、フィラーの表面が硬化した樹脂で覆われており、このためシラノール基同士の反応点が少なく、この結果、接着性の向上が不十分となっていたものである。
このようなレジン硬化物製補綴物用プライマーの欠点を改善したものとして、本出願人は先に、酸性基含有重合性単量体(A)、芳香族アミン(B)及び揮発性有機溶媒(C)を含んでなるプライマー組成物を提案した(特許文献1)。かかるプライマー組成物は、芳香族アミンが酸性基含有重合性単量体と反応して界面活性剤を形成し、この界面活性剤がレジン硬化物とレジンセメントとの濡れ性を向上させるため、レジン硬化物製歯科用補綴物とレジンセメントとの接着力を効果的に向上させ得るというものである。
一方、特許文献2には、(A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分、(B)多価金属イオン溶出性フィラー、(C)揮発性有機溶媒、および(D)水を含んでなる1液型歯科用接着性組成物が開示されているが、該接着性組成物は歯質に対する接着材であり、レジン硬化物製歯科補綴物への適応性、およびその接着効果に関する記載はない。
また、特許文献3には、(A)リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体成分、(B)多価金属イオン、(C)水、および(D)ヒュームドシリカを含んでなる歯科用接着性組成物が開示されている。該組成物においては、重合硬化時に、リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体の該酸性基と多価金属イオンとが塩を形成することによるイオン架橋の相乗効果、更に、ヒュームドシリカが配合されていることにより硬化体の強度が向上しており、歯質に対して高い接着強度が発揮するものである。しかしながら、レジン硬化物製歯科補綴物への適応性、およびその接着効果の記載はない。
特開2006−45094号 WO2007/139207 特開2008−201726号
しかしながら、前述した特許文献1に開示されているプライマー組成物は、アミンが配合されているため、臭いの問題があり、レジン硬化物製補綴物の歯の修復部への充填固定や、該補綴物の修復に際して患者に不快感を与えるという点で未だ不満足である。また、アミン成分による着色の問題もあり、例えば補綴物が変色してしまうという問題もある。さらには、芳香族アミンと酸性基含有重合性単量体とを別個のパッケージで保存しておかなければならないという問題もある。
従って本発明の目的は、アミン成分を必須成分として含有しておらず、臭いや着色の問題がなく、レジン硬化物製補綴物のレジンセメントに対する接着性を有効に向上させ得るレジン硬化物製歯科用補綴物の表面処理用プライマー組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、ワンパッケージで保存され、2液混合などの面倒な操作を必要としない硬化物製歯科用補綴物の表面処理用1液型プライマー組成物を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、硬化物製歯科用補綴物の表面処理に限らず、卑金属製、貴金属製及びセラミックス製の何れの種類の歯科用補綴物についても容易に適用できるプライマーキットを提供することにある。
本発明によれば、
(A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分;
(B)多価金属イオン;
(C)揮発性有機溶媒;
(D)水;
(E)ヒュームドシリカ
を含有していることを特徴とするレジン硬化物製歯科補綴物表面処理用プライマー組成物が提供される。
本発明のプライマー組成物において、好適な態様は、以下の通りである。
(1)前記多価金属イオン(B)の含有量が、前記重合性単量体成分(A)1g当り0.2〜7.0meqとなるような量であり、前記揮発性有機溶媒(C)を、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り30〜150質量部の範囲で含有しており、前記水(D)を、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り3〜30質量部の量で含有しており、前記ヒュームドシリカ(E)は前記重合性単量体成分(A)100質量部当り0.5〜20質量部の量で配合していると共に、前記各成分を混合して1液としてワンパッケージで保存されること。
(2)前記揮発性有機溶媒(C)を、下記式(I):
α≧20・X …(I)
式中、αは、前記揮発性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量部当りの配合量であり、
Xは、前記重合性単量体成分(A)1g当りの多価金属イオン(B)の量(meq)を示す数である、
で表される条件を満足するような量で含有していること。
(3)前記多価金属イオン(B)が、多価金属イオン溶出性フィラーからの溶出により存在していること。
(4)前記多価金属イオン溶出性フィラーは、該フィラー0.1gを10重量%マレイン酸水溶液10mlに加えて23℃で24時間保持したときの多価金属イオン溶出量が5.0〜500meq/g−フィラーを示すものであること。
(5)前記重合性単量体成分(A)中の酸性基含有重合性単量体が、リン酸基を含有する重合性単量体であること。
(6)さらに(F)光重合開始剤を含有していること。
本発明によれば、また、前記(A)乃至(E)成分を所定量比で含むレジン硬化物製歯科補綴物表面処理用プライマー組成物が収容されたパッケージと、硫黄原子含有重合性単量体及び/又はシランカップリング剤並びに揮発性有機溶媒とからなる適合性拡張用プライマー助剤が収容されたパッケージとからなり、前記硫黄原子含有重合性単量体が、互変異性によりメルカプト基を生じるラジカル重合性化合物、ラジカル重合性ジスルフィド化合物及びラジカル重合性チオエーテル化合物からなる群より選択された少なくとも1種である歯科補綴物用プライマーキットが提供される。
本発明のプライマー組成物によれば、これを用いてレジン硬化物製補綴物の表面処理を行うことにより、レジンセメントとの接着性を著しく高めることができ、この結果、レジンセメントを用いてレジン硬化物製補綴物を歯の修復部に強固に接着固定することが可能となり、また、この補綴物自体が破損した場合にも、レジンセメントを用いて破折して脱落した補綴物を補綴物の欠損部に再固定することが可能となる。このような効果が発現する理由は、明確に解明されている訳ではないが、本発明者等は次のように推定している。
即ち、このプライマー組成物をレジン硬化物からなる歯科補綴物の表面に塗布すると、該補綴物内(レジン硬化物)の表面部分に浸透していくと同時に、この上に塗布された際には該レジンセメントとも良く親和し、このレジンセメントの硬化反応時に、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体成分が重合硬化する。そして、この硬化反応に加えて、酸性基含有重合性単量体由来の酸性基、水、および多価金属イオンの作用によるポリマー鎖のイオン架橋が合わせて生じるばかりか、このようなイオン架橋物が親水的なイオン結合部分と疎水的な重合鎖部分を有しており、さらに、イオン架橋物と親和性の良いヒュームドシリカが複雑に混合しているため、レジンセメントと補綴物との親和性が高められ、レジン硬化物(補綴物)中へのレンジセメントの浸透性が高められる。このような重合硬化とイオン架橋、そして親和性(なじみ)との相乗効果により、歯科補綴物及びレジンセメントの双方に対して、強固な接着力が発現されるものと信じられる。
しかも、本発明のプライマー組成物は、アミン成分を含有しておらず、臭いや着色の問題を全く生じないばかりか、使用に際して他の成分と混合する必要がないため、作業性にも優れている。
また、本発明においては、揮発性有機溶媒の使用量を調整することにより、多価金属イオン量を適度な濃度範囲に容易に調整することができ、これにより、保存時におけるイオン結合によるゲル化の程度が問題のないレベルに抑制され、ワンパッケージでの長期保存が可能となっており、1液型のプライマー組成物として使用することができる。特に、ヒュームドシリカ(E)成分を配合して、その硬化体の強度を一層に高め、レジン硬化物製補綴物に対するレジンセメントの接着性により優れたものにできるため、該多価金属イオン(B)の配合量を重合性単量体成分(A)1g当り0.2〜1.0未満meqの範囲に少なくしても、レジン硬化物(補綴物)に対する表面処理用プライマーとして実用上満足できるものにでき、これに起因して上記保存安定性を一層に優れたものにできる。
しかも、本発明のプライマー組成物では、揮発性有機溶媒を用いて多価金属イオンを希釈しているため、使用時には、この組成物をレジン硬化物製補綴物の表面に塗布した後にエアブローすることにより、該有機溶媒を容易に揮散させることができ、短時間で多価金属イオンによるイオン結合が強固なものとなるように濃縮することができ、その後のラジカル重合による接着と、重合した酸性基含有重合性単量体のイオン架橋による接着との相乗効果を確実に発揮され、安定して高い接着力向上効果を示す。
さらに、本発明のプライマー組成物は、レジン硬化物からなる補綴物のプライマーとして使用されるが、酸性基含有重合性単量体成分を含有しているため、卑金属合金製の補綴物に対しても比較的高い接着性向上効果を示すばかりか、これに硫黄原子含有重合性単量体を添加すれば、卑金属合金製、貴金属合金製の補綴物に対して著しく高い接着性向上効果が発現し、シランカップリング剤を添加すれば、セラミックス製の補綴物に対して高い接着性向上効果が発現する。従って、硫黄原子含有重合性単量体及び/またはシランカップリング剤を有効成分として含む有機溶媒溶液を適合性拡張用プライマー助剤として包装し、このパッケージを、各成分の含有量が所定の範囲に調整された本発明のプライマー組成物が収容されたパッケージと組み合わせたプライマーキットは、補綴物の種類を問わず、補綴物のプライマー処理に使用することができる。即ち、このプライマーキットにおいては、樹脂製及び卑金属合金製の補綴物に対しては、前述した本発明のプライマー組成物を使用し、貴金属合金製或いはセラミックス製の補綴物に対しては、本発明のプライマー組成物に適合性拡張用プライマー助剤を加えて使用すればよいのである。
レジン硬化物製補綴物のプライマー処理(接着性向上処理)に使用される本発明のプライマー組成物は、基本成分として、(A)重合性単量体成分、(B)多価金属イオン、(C)揮発性有機溶媒、(D)水及び(E)ヒュームドシリカを含有するものであり、必要により、(F)光重合開始剤が配合される。
<重合性単量体成分(A)>
本発明において、重合性単量体成分(A)(以下、単に「単量体成分」と呼ぶ)は、このレジン硬化物や接着材として使用されるレジンセメントに対する接着性を付与するために使用される成分であるが、特にレジン硬化物やレジンセメントに対する浸透性を高めるため、重合性単量体成分(A)中の5質量%以上は、酸性基含有重合性単量体(A1)であることが必要である。即ち、酸性基含有重合性単量体(A1)の量が少ない場合には、このプライマー組成物は、レジン硬化物やレジンセメントに対して十分な浸透性を示さず、レジン硬化物製の補綴物にレジンセメントを強固に接着させることが困難となってしまうからである。
また、単量体成分(A)は、全てが酸性基含有重合性単量体(A1)であってもよいが、接着界面の強度及びレジン硬化物(補綴物)やレジンセメントに対する浸透性を調節し、より優れた接着強度及び接着耐久性を得る為に、酸性基を有しない重合性単量体(A2)を更に含むのが好適である。
例えば、単量体成分(A)中の酸性基含有重合性単量体(A1)の含有割合は、5〜80質量%、特に20〜70質量%の範囲にあることが望ましく、残部が酸性基を含有していない重合性単量体(A2)であるのがよい。即ち、酸性基含有重合性単量体(A1)の配合量が少ないと、レジンセメントのレジン硬化物に対する浸透性が低下し、レンジ硬化物、即ち、レジン硬化物製補綴物に対する接着性が低下してしまう。また、この量が多すぎると、プライマー組成物自体の強度が低下する傾向にあり、接着性が低下する傾向がある。
酸性基含有重合性単量体(A1):
本発明において、酸性基含有重合性単量体(A1)は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。
このような単量体(A1)が分子中に有している酸性基としては次に示すようなものを挙げることができる。
酸性基の例;
Figure 2010189345
また、単量体(A1)が分子中に有している重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。
本発明において、上記のような酸性基及び重合性不飽和基を分子中に有している重合性単量体(A1)の具定例としては、下記式で表される化合物が代表的である。
酸性基含有重合性単量体(A1)の代表例;
Figure 2010189345
Figure 2010189345
Figure 2010189345
Figure 2010189345
但し上記化合物中、Rは水素原子またはメチル基を表す。
また、上記の化合物以外にも、ビニル基に直接ホスホン酸基が結合したビニルホスホン酸類や、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸等を酸性基含有重合性単量体(A1)として使用することができる。
上記で例示した酸性基含有重合性単量体(A1)は、それぞれ単独で又は二種以上を混合して用いることができるが、これらの中でも分子内における酸の価数が2価以上の化合物(多塩基酸化合物)を使用することが、後述する多価金属イオンとのイオン結合性を高め、強固な接着強度を得るという観点から好ましい。このような多塩基酸化合物は、分子内に1価の酸基を2個以上有するものであってもよいし、2価以上の酸基を分子中に少なくとも1個有するものであってもよい。但し、このような多塩基酸化合物のみを酸性基含有重合性単量体(A1)として用いた場合、強度向上の観点からは好ましいが、1液状態での保存安定性は若干低下する傾向がある。従って、多塩基酸化合物と、分子内における酸の価数が1価の酸性化合物とを併用することが、接着強度と保存安定性とを両立させる上で、より好適である。
また、酸性基含有重合性単量体(A1)として上記のように多塩基酸化合物と1価酸性化合物とを併用する場合、何れの化合物も、酸性基としてリン酸系の酸基(例えば、−O−P(=O)(OH)、(−O−)P(=O)OH等)を含有しているものであることが最も好適である。このような組み合わせで酸性基含有重合性単量体(A1)が使用されている系は、レジン硬化物に対して高い浸透性を示すため、レジン硬化物に対して高い接着強度が得られ、更に1液状態での保存安定性も良好なものが得られる。
さらに、硬化速度の観点からは、酸性基含有重合性単量体(A1)は、重合性不飽和基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物であることが好適である。
酸性基を含有していない重合性単量体(A2):
単量体(A1)と併用され得る酸性基を含有していない重合性単量体(A2)は、酸性基を含有しておらず且つ分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を有しているという条件を満足している限り、公知の化合物を何等制限無く使用できる。かかる重合性単量体が有している重合性不飽和基としては、前述した単量体(A1)で例示したものと同様のものを挙げることができるが、特にアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基が好ましい。
このような重合性単量体(A2)の代表例としては、以下の(メタ)アクリレート系単量体を挙げることができ、これらは1種単独で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
1.モノ(メタ)アクリレート系単量体;
メチル(メタ)アクリレート、
エチル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
2−シアノメチル(メタ)アクリレート、
ベンジル(メタ)アクリレート、
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
アリル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、
グリセリルモノ(メタ)アクリレート、
2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等。
2.多官能(メタ)アクリレート系単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、
1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、
1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、
ウレタン(メタ)アクリレート、
エポキシ(メタ)アクリレート等。
また、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を混合して用いることも可能である。このような他の重合性単量体としては、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン系化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物;などを挙げることができる。これらの他の重合性単量体は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
また、本発明において、重合性単量体(A2)として疎水性の高い重合性単量体を用いる場合には、併せて2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の両親媒性の単量体を使用することが好適である。このような両親媒性の単量体の併用により、本発明のプライマー組成物の必須成分である水の分離を防止し、組成の均一性を確保することができ、安定して高い接着強度を得ることができるからである。
<多価金属イオン(B)>
本発明のプライマー組成物は、成分(B)として多価金属イオンを含有していることが重要である。即ち、多価金属イオンは、酸性基含有重合性単量体の重合物をレジン硬化物である補綴物やレジンセメント中の硬化物成分に対してイオン架橋させるものであり、このようなイオン架橋と重合硬化との相乗効果、特に、該イオン架橋物の作用により、レジンセメントと補綴物との親和性が高められ、レジン硬化物(補綴物)中へのレンジセメントの浸透性が高められることにより高い接着強度を確保することができるのである。
この多価金属イオンとは、前記重合性単量体(A1)が有している酸性基と結合可能な2価以上の金属イオンのことであり、酸性基と結合可能である限り、任意の多価イオンであってよいが、歯科用に使用されるという観点から、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、イッテルビウム、チタン、亜鉛、マグネシウム、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ランタノイド等のイオンが好適である。このうち、接着性の高さから3価以上のイオンが好適であり、アルミニウムイオン、ランタンイオン、チタンイオンを成分として含有しているのが、該接着性の高さの他、生体に対する安全性などの観点から最も好ましい。
本発明のプライマー組成物中には、上記のような多価金属イオン(B)が、前述した単量体成分(A)1g当たり0.2〜12.0meqの量で存在していることが好ましい。このような量で多価金属イオンが存在していることにより、適度なイオン架橋によりレジン硬化物(補綴物)とレジンセメントとの界面に強固な接着層を形成することが可能となり、また、レジン硬化物へのレジンセメントの浸透性が高められるのである。多価金属イオンの量が、上記範囲よりも少ない場合には、イオン架橋が不十分になり、接着強度が不十分となるおそれがある。また、上記範囲よりも多い場合には、酸性基含有重合性単量体(A1)による浸透性が低下するばかりか、1液(ワンパッケージ)での保存安定性を確保するために必要な揮発性有機溶媒(C)の量が多量となってしまい、このプライマー組成物をレンジ硬化物である補綴物表面に塗布し、エアブロー処理を行った後に残存する接着性成分が不足しがちとなり、何れの場合においても接着強度が低下する原因となる。
なお、本開発のプライマーを1液(ワンパッケージ)での保存安定性を確保するためには、多価金属イオンは、前述した単量体成分(A)1g当たり0.2〜7.0meqの量で存在していることが好ましい。さらには、本発明のプライマーにおいて、レジン硬化物(補綴物)とレジンセメントとの接着力の向上は、係る多価金属イオンの配合によるイオン架橋の形成だけでなく、ヒュームドシリカの配合によっても大きく高められているため、該多価金属イオン(B)の配合量は0.3〜3.0meq、さらには0.3〜1.0未満meqの少ない量であっても、レジン硬化物(補綴物)の表面処理用プライマーとしての使用に十分な接着性を発揮させることができ、この場合、ワンパッケージでの保存安定性を飛躍的に高めることができ特に好適である。多価金属イオンの量が多いほど、その接着強度は高い傾向にあるが、一方で臨床での実使用を考慮した長期的な保存安定性においてはその保存安定性が低下傾向にあるためである。
本発明において、上記のような量で多価金属イオン(B)を存在させるためのイオン供給源としては、前述した多価金属のアルコキシド、水溶性塩、水溶性水酸化物、水溶性酸化物、錯塩などのイオン性化合物を、その溶解度や解離度に応じた量で使用することができるが、多価金属イオン溶出性フィラー(以下、単に多価金属フィラーと呼ぶ)を使用することもできる。即ち、多価金属フィラーは、接着層の機械的強度を向上させる為のフィラーとしての機能を有しているため、レジン硬化物製補綴物とレジンセメントとの間により高い接着強度を確保することができるからである。
多価金属イオン供給源としての多価金属アルコキシドとしては、例えば、アルミニウムトリイソプロポキシド、マグネシウムヒドロキシド、カルシウムヒドロキシド、バリウムヒドロキシド、ランタントリイソプロポキシド、スカンジウムトリイソプロポキシド、イッテルビウムトリイソプロポキシド、クロミウムトリイソプロポキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、鉄(III)エトキシド、銅(II)エトキシド、亜鉛ビス(2−メトキシエトキシド)等を例示することができる。また、多価金属の水溶性塩としては、サリチル酸アルミニウムや塩化アルミニウムなどを例示することができ、多価金属の水溶性水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化ランタン、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどを挙げることができる。さらに水溶性酸化物としては、酸化アルミニウムを挙げることができ、錯塩としては、バナジウム(III)テトラキスアセチルアセトナト、マンガン(III)テトラキスアセチルアセトナト、コバルト(III)テトラキスアセチルアセトナト、ニッケル(II)テトラキスアセチルアセトナト等を例示することができる。
また、上記の多価金属フィラーは、本発明において、特に好適に使用されるものであり、このフィラーは、前述した多価金属イオンを上述した範囲内で溶出し得る限り、ナトリウム等の一価の金属イオンを含有していても良いが、一価の金属イオンをあまり多量に含有していると多価金属イオンのイオン架橋性にも影響するため、一価の金属イオンは、できるだけ含有量が少ないのが好ましく、通常は、多価金属フィラー中に含まれる一価金属イオン含量が、多価金属イオンの含有量の10モル%以下、特に5モル%以下のものが好適である。
尚、本発明において、プライマー組成物中に存在する多価金属イオンの量は、ICP発光分光分析や原子吸光分析等で各種イオンの濃度を測定し、この測定値から多価金属イオンによる単量体成分(A)とのイオン結合量を、単量体成分(A)1g当りのミリ当量に換算して表したものであり、単量体成分(A)1g当りの各多価金属イオン濃度(mmol/g)にそれぞれの金属イオンの価数をかけて得られる値の総和として求めることができる。
また、多価金属フィラーからの多価金属イオンの溶出は、通常、プライマー組成物を調製後、室温(23°C)にて3時間〜12時間ほどで全て溶出される。従って、多価金属フィラーを用いた場合の多価金属イオン量は、室温(23°C)にて調製24時間後の多価金属イオン量と実質的に等しく、多価金属フィラーに含まれる総多価金属イオン量とプライマー組成物中の単量体成分(A)含量とから算出することができる。
上述した多価金属フィラーは、前述した範囲の量の多価金属イオンを溶出し得るものであれば特に限定されないが、多価金属イオンが、該多価金属イオンと同時に溶出可能なカウンターアニオンの塩として含まれている場合、溶出−解離したカウンターアニオンが接着強度に悪影響を与える恐れがある(これは、多価金属の水溶性塩を用いた場合も同様である)。従って、本発明では、多価金属イオンのカウンターアニオンが同時に溶出しないような多価金属フィラーを用いるのが好ましい。このような条件を満足する多価金属フィラーとしては、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類において、その骨格の隙間に多価金属イオンを含有したものを挙げることができる。
上記のようなガラス類としては、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスなどの酸化物ガラス成分を含有するものや、フッ化ジルコニウムガラス等のフッ化物ガラス成分を含有するものが好適である。即ち、これらの成分を含有するガラス類からなる多価金属フィラーは、多価金属イオンを溶出させた後は、網様構造を有する多孔性の粒子となり、プライマー組成物の硬化物強度(接着層強度)を向上させる作用を有する。
本発明においては、特に硬化体強度の向上の点でアルミノシリケートガラスからなる多価金属フィラーがより好適に使用され、さらには、歯質を強化するフッ化物イオンを接着後に徐々に放出するという所謂フッ素徐放性を有するフルオロアルミノシリケートガラスからなる多価金属フィラーが最も好適に用いられる。
多価金属フィラーにおける多価金属イオンの溶出特性は、該フィラー中に含まれる各種元素の配合比で制御することができる。例えば、アルミニウム、カルシウム等の多価金属イオンの含有率を多くすればこれらの溶出量は一般に多くなるし、また、ナトリウムやリンの含有率を変えることにより多価金属イオンの溶出量を変えることもできるので、多価金属イオンの溶出特性を比較的容易に制御することができる。
また、多価金属フィラーの溶出特性は、一般に知られている方法を用いて制御することもでき、代表的な方法として、多価金属フィラーを酸で処理することにより、フィラー表面の多価金属イオンをあらかじめ除去し、溶出特性を制御する方法が知られている。この方法に用いられる酸は塩酸、硝酸等の無機酸、マレイン酸、クエン酸等の有機酸など一般的に知られている酸が用いられる。酸の濃度、処理時間等は除去するイオンの量によって適宣決定すればよい。
また、本発明において多価金属フィラーとして好適な上記フルオロアルミノシリケートガラスは、例えば、歯科用に使用されるグラスアイオノマーセメントに使用される公知のものが使用できる。一般に知られているフルオロアルミノシリケートガラスは、イオン質量%で表して、下記の組成を有している。
珪素;10〜33%、特に15〜25%
アルミニウム;4〜30%、特に7〜20%
アルカリ土類金属;5〜36%、特に8〜28%
アルカリ金属;0〜10%、特に0〜10%
リン;0.2〜16%、特に0.5〜8%
フッ素;2〜40%、特に4〜40%
酸素;残量
また、上記のアルカリ土類金属中のカルシウムの一部又は全部を、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムで置き換えたものも好適である。さらに、上記のアルカリ金属はナトリウムが最も一般的であるが、その一部または全部をリチウム、カリウム等で置き換えたものも好適である。更に必要に応じて、上記アルミニウムの一部をチタン、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ランタン等で置き換えたガラスを多価金属フィラーとして使用することも可能である。
上述した多価金属フィラーの粒子形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕形粒子、あるいは球状粒子でもよく、必要に応じて板状、繊維状等の粒子を混ぜることもできる。
また、多価金属フィラーは、プライマー組成物中に均質に分散することができるという観点から、例えばレーザ回折散乱法で測定した体積換算での平均粒子径(D50)が0.01μm〜5μm、特に0.05μm〜3μm、最も好適には0.1μm〜2μmの範囲にあるのがよい。更に、多価金属イオン溶出量を前述した範囲に容易に調整できるという観点から、該フィラー0.1gを、10重量%マレイン酸水溶液10ml中に温度23°Cで24時間浸漬保持した時に溶出した多価金属イオンの量が、5.0〜500meq/g−フィラー、特に10〜100meq/g−フィラーであるものが好適である。この時の多価金属イオン量も、ICP発光分光分析や原子吸光分析等で測定することができる。なお、上記の条件下における24時間後の多価金属イオンの溶出量を、以下、「24時間溶出イオン量」ともいう。
<揮発性有機溶媒(C)>
本発明において、揮発性有機溶媒(C)は、各種成分を均一に分散させるために使用される。このような有機溶媒(C)は、前述した単量体成分(A)100質量部当り30〜150質量部の範囲で配合されるのが好ましい。即ち、有機溶媒(C)の配合量が30質量部未満では、このプライマー組成物の均一性が十分でなくなる虞があり、さらに、レジン硬化物(補綴物)への浸透性が低下し、十分な接着力が得られなくなる。
他方、その配合量が150質量部を越えると、補綴物の接着面にプライマー組成物を塗布した後に有機溶媒を除去することが困難となり、また有機溶媒を除去するために過度のエアブローが必要となってしまい、過度のエアブローにより接着成分までもが除去されてしまい、接着成分の濃度の低下によって接着強度の低下が生じるおそれがある。
さらに、揮発性有機溶媒(C)は、上述した多価金属イオンに由来するゲル化を防止する機能を有しており、これにより、多価金属イオンが配合されたときの急激なゲル化が抑制されるため、プライマー組成物を補綴物の所定の部位へのコーティングを容易に行うことができ、補綴物の修復作業をスムーズに行うことが可能となる。また、このような有機溶媒(C)の使用は、プライマー組成物の保存安定性を向上させるという点で効果的であり、例えば、この有機溶媒(C)によって、多価金属イオンを特定の濃度に希釈することにより、プライマー組成物を、全ての成分が配合された1液状態(即ち、ワンパッケージの形態)で保存することが可能となるのである。
1液状態で保存する際の有機溶媒(C)は、前述した単量体成分(A)100質量部当り30〜150質量部の範囲で且つ、下記式(I):
α≧20・X …(I)
式中、αは、前記水溶性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量部当りの配合量であり、
Xは、前記多価金属イオンの前記重合性単量体成分(A)1g当りの量(meq)を示す数である、
で表される条件を満足するような量で配合されていることが好適である。
また、この水溶性有機溶媒(C)の配合量が30〜150質量部の範囲にあったとしても、式(I)の条件を満足していない場合には(即ち、α<20・Xの場合)、多価金属イオンの希釈の程度が低く、このため、ゲル化を生じ易く、全ての成分が配合されたワンパッケージの形態での保存安定性が低下し、例えば、前述した重合性単量体成分(A)と多価金属イオン(B)とは別個のパーケージで保存しておくことが必要となってしまう。
本発明においては、特に高い接着強度を得るという観点からは、上記の有機溶媒(C)の配合量は、60〜100質量部の範囲とすることが好ましく、さらに、保存安定性を高めるという観点からは、この配合量は、下記式(II):
α≧25・X …(II)
式中、α及びXは、式(I)で示した通り、
を満足しているのがよい。
本発明のプライマー組成物は、レジン硬化物製の補綴物の表面(レジンセメントを接着させるべき面)に塗布後、エアブローによって有機溶媒(C)を揮発させることにより、補綴物表面に有効成分が濃縮され、酸性基含有重合性単量体と多価金属イオン間でのイオン架橋が促進され、レジン硬化物製の補綴物表面のレジンセメントに対する接着性が高められる。従って、本発明において使用する有機溶媒(C)は、室温で揮発性を有していることが必要である。
尚、本明細書において、「揮発性」とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。また、「水溶性」とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。
また、本発明においては、この有機溶媒(C)は多価金属イオン(B)に対する希釈性及び以下に述べる水(D)との相溶性の観点から水溶性であることが好適である。
本発明において好適に使用される揮発性の有機溶媒(C)としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンが好ましい。
<水(D)>
本発明において、成分(D)の水は、各種成分を均一に分散させるための溶媒としての機能を有すると同時に、酸性基含有重合性単量体(A1)と多価金属イオン(B)とのイオン結合の促進の為に必要である。この水は、貯蔵安定性及び医療用成分に有害な不純物を実質的に含まない蒸留水や脱イオン水が好適に使用される。
このような成分(D)の水の添加量は、前記単量体成分(A)100質量部当り、3〜30質量部、特に5〜25質量部である。水の添加量がこの範囲よりも少ないと、イオン架橋が不十分となり、高い接着強度を得ることができない。また、上記範囲よりも多量に使用されると、このプライマー組成物を補綴物表面に塗布した後に水を完全に除去することが困難となり、水の残存により十分な接着力が得られなくなる。
<ヒュームドシリカ(E)>
本発明においてヒュームドシリカ(E)とは、火炎加水分解法によって製造された非晶質シリカであり、煙霧質シリカとも別名されるものである。具体的には、四塩化ケイ素を酸水素炎中で高温加水分解させることで製造することができる。該方法によって製造されたシリカは、透過型電子顕微鏡で測定した任意の100粒の平均1次粒径が5〜100nm程度であり、緩やかな3次凝集構造をしている。そして、この凝集構造と上記イオン架橋物が水を介して複雑に混合することで、レジンセメントとレジン硬化物との親和性が高められ、レジン硬化物(補綴物)中へのレンジセメントの浸透性が高められるため、本発明のプライマー組成物では、高い接着強度が得られる。一方、シリカ以外の他の無機充填材はもちろんのこと、同じシリカであっても、湿式法、ゾルゲル法、火炎溶融法等の他の製造方法で得られたものは、ヒュームドシリカのようにプライマー組成物中において、緩やかな3次凝集構造が形成され難く、また、粗大な2次凝集粒子を形成する等して、これらのみを用いたのでは、前記ヒュームドシリカを用いる本発明のような優れた接着強度に関する効果は得られない。
本発明に利用できるヒュームドシリカは、従来公知のものが何ら制限無く利用できるが、比表面積が50m/g以上、より好ましくは100〜300m/gのものが好ましい。比表面積はBET法を用いて測定できる。
一方、前述のように、ヒュームドシリカはその表面のシラノール基と、イオン架橋点の多価金属イオンとが水を介して結合していることにより、高い接着強度が達成されていると予測されるため、該ヒュームドシリカとしては、表面に少なくともシラノール基数が0.1個/nm以上、より好ましくは0.5〜2個/nm存在しているのが好ましい。ヒュームドシリカ表面のシラノール基数は、該ヒュームドシリカを一度、水に浸漬した後150℃で乾燥して、カールフィッシャー法により測定すれば良い。
本発明に用いるヒュームドシリカは、シラノール数を上述の好ましい範囲にするために、シランカップリング剤に代表される表面処理剤でその数を調整することができる。カップリング処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられ、特に好ましくは、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザンが用いられる。
これらのヒュームドシリカ(E)の配合量は、特に制限されるものではないが、接着強度を向上させつつ、組成物の粘度も一定範囲に抑えて、歯質レジン硬化物(補綴物)への浸透性を保持する観点から、重合性単量体成分(A)100質量部に対して0.5〜20質量部の範囲、より好ましくは5〜10質量部が好ましい。
<光重合開始剤(F)>
本発明のプライマー組成物は、レジンセメントとの接着性をさらに向上させるために、この組成物に光重合開始剤(F)を配合することができる。このような光重合開始剤(F)としては、そのもの自身が光照射によってラジカル種を生成する化合物や、このような化合物に重合促進剤を加えた混合物が使用される。
それ自身が光照射にともない分解して重合可能なラジカル種を生成する化合物としては、以下のものを例示することができる。
α−ジケトン類;
カンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、
ナフトキノン、1,4−フェナントレンキノン、
3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等。
チオキサントン類;
2,4−ジエチルチオキサントン等。
α−アミノアセトフェノン類;
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン等。
アシルフォスフィンオキシド誘導体;
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、
ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等。
また、上記した重合促進剤としては、第三級アミン類、などが使用される。その具体例は以下の通りである。
第三級アミン類;
N,N−ジメチルアニリン、
N,N−ジエチルアニリン、
N,N−ジ−n−ブチルアニリン、
N,N−ジベンジルアニリン、
N,N−ジメチル−p−トルイジン、
N,N−ジエチル−p−トルイジン、
N,N−ジメチル−m−トルイジン、
p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、
m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、
p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、
p−ジメチルアミノアセトフェノン、
p−ジメチルアミノ安息香酸、
p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、
p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、
N,N−ジメチルアンスラニックアシッドメチルエステル、
N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、
N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、
p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、
p−ジメチルアミノスチルベン、
N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、
4−ジメチルアミノピリジン、
N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、
N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、
トリブチルアミン、
トリプロピルアミン、
トリエチルアミン、
N−メチルジエタノールアミン、
N−エチルジエタノールアミン、
N,N−ジメチルヘキシルアミン、
N,N−ジメチルドデシルアミン、
N,N−ジメチルステアリルアミン、
N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、
2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等。
このような光重合開始剤(F)の配合量は、このプライマー組成物を硬化できるだけの有効量であれば特に限定されず、適宜設定すれば良いが、一般的には、単量体成分(A)100質量部当り、0.01〜10質量部、特に0.1〜5質量部の範囲とするのがよい。0.01質量部未満では重合が不十分になり易く、10質量部を越えると、生成重合体の強度が低下し好ましくない。尚、前述した重合硬化促進剤は、この光重合開始剤(F)中に数%程度の触媒量で使用すればよい。従って、重合硬化促進剤としてアミン化合物が使用されたとしても、極めて微量であり、悪臭や着色の問題は生じない。
<その他の配合剤>
本発明のプライマー組成物には、その性能を低下させない範囲で、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物などの有機増粘材を添加することが可能である。
また、ヒュームドシリカに加えて他の充填剤を添加することも有効な態様である。このような他の充填剤としては、有機充填剤および無機充填材のいずれであっても良いが、例えば、ゾルゲル法等により得られたシリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア、シリカ・アルミナなどの複合無機酸化物からなるもの等が好ましい。これらの他の充填剤の平均1次粒径は、0.001〜1μmであるのが好ましい。これらの充填剤も前記したシランカップリング剤により表面処理されていても良い。これらの他の無機充填剤の配合量は、特に制限されるものではないが、一般には前記ヒュームドシリカ(E)の配合量との合計量で、該ヒュームドシリカ(E)の好適な配合量として示した量(すなわち、重合性単量体成分(A)100質量部に対して0.5〜20質量部の範囲、より好ましくは5〜10質量部)を越えない範囲が良好である。
さらに、本発明のプライマー組成物には、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤を、必要に応じて選択して使用することもできる。
また、本発明のプライマー組成物は、これを補綴物表面に塗布したとき、この塗布面はレジンセメントで覆われるため、硬化時に空気中の酸素の影響を殆ど受けず、空気中の酸素が接着力に影響を及ぼすものでは無いが、この組成物中に溶存する酸素による硬化阻害などを最小限に抑えるために、重合硬化促進剤の例として示した第三級アミンを添加することもできる。
<プライマー組成物の施用>
本発明のプライマー組成物は、例えば、多価金属イオン(B)、揮発性有機溶媒(C)及び水(D)の配合量が前述した所定の範囲内に調整されているものは、多価金属イオンによるゲル化が有効に抑制され、保存安定性に優れているため、各成分が一括で混合され、1液の状態、即ち、ワンパッケージの形態で密封容器に保存され、使用時に容器から所定量を取り出して所定部位に施用される。即ち、使用に際して、各成分を混合する面倒な操作は必要でなく、歯科医師などの労力を軽減し、しかも、安定して一定の接着強度を確保することができる。尚、各成分の配合量比が所定の範囲外である場合には、保存安定性が損なわれるため、例えば酸性基含有重合性単量体成分(A1)と多価金属イオン成分(B)とを別個のパーケージで保存し、他の成分は、(A1)或いは(B)が収容された何れかのパッケージ、或いは適当な量比で両方のパッケージに混合されて保存され、使用時に各成分が混合されることとなる。
このような本発明のプライマー組成物は、レジン硬化物製の補綴物の表面処理による接着性向上に使用され、例えば、該補綴物を歯の修復箇所に固定する際、或いは歯の修復箇所に固定された補綴物が破損した場合の修復に際して用いられる。
補綴物を歯の修復箇所に固定する際には、所定の形状に成形された補綴物の表面を適宜研磨した後に、所定量のプライマー組成物を塗布し、エアーブローにより組成物中の揮発性有機溶媒(C)及び水(D)を除去した後、その塗布面にレジンセメントのペーストを上塗りし、これを歯の修復箇所に接着させ、化学重合、光重合等によりレジンセメントのペーストを硬化させ、これにより、補綴物がレジンセメントにより歯の修復箇所に接着固定される。
また、破損した補綴物自体の修復に用いる場合には、例えば破折して脱落した補綴物及び歯に残存した補綴物のそれぞれについて、破折した面に所定量のプライマー組成物を塗布し、エアブローにより有機溶媒等を除去した後、前記と同様、レジンセメントのペーストを何れかの補綴物の塗布面に上塗りして硬化せしめることにより、破折して脱落した補綴物を再固定することができる。また、破折した補綴物の代わりに、これと同形状に新たに成形された補綴物を使用し、歯に残存している補綴物に同様にして接着固定することもできる。
尚、補綴物にプライマー組成物を塗布し、さらにレジンセメントのペーストを塗布するまでの工程は、容器から取り出されたプライマー組成物から揮発性有機溶媒(C)が揮散してしまわないように、できるだけ迅速に行うのがよく、例えば数分で行うべきである。揮発性有機溶媒(C)が揮散して量が減ってしまうと、接着性向上が期待できないからである。
<硬化レジン製補綴物>
本発明において、上述したプライマー組成物により処理されるレジン硬化物製補綴物は、樹脂成分を硬化して形成されるものであれば、特に制限されず、それ自体公知の歯科用硬化性組成物を硬化して得られるものであってよい。例えば、このような硬化組成物は、一般に、ラジカル重合性単量体と無機フィラーを主成分として含むものである。
上記のラジカル重合性単量体としては、(メタ)アクリレート系単量体が一般に使用され、特に、本発明のプライマー組成物に関して説明した酸性基を有しない多官能の重合性単量体(A2)が主に用いられる。また無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ等の金属酸化物や、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等の複合酸化物、バリウムガラス等が主に用いられる。無機フィラーは、ラジカル重合性単量体との二成分基準で50〜95質量%程度の量で硬化性組成物中に配合されている。また、この硬化性組成物中には、通常、硬化させるために有効な量で、光重合開始剤、化学重合開始剤あるいは熱重合開始剤が配合されている。このような硬化性組成物は、例えば、特開2002−255721号公報、特開2001−139411号公報、特開2003−95836号公報、特開2000−80013、特開平10−218721号公報、特開平11−100305号公報、特開平7−196431号公報、特開平6−107516号公報、再公表2002−005752号公報等に記載されている。
上記のような硬化性組成物は、歯科技工士により、歯の修復部位に対応する所定形状に成形され、光照射、加熱などにより硬化させることによって、支台歯、レジンインレー、レジンクラウン等の歯科補綴物として歯の修復に適用されるものであるが、本発明のプライマー組成物は、補綴物が硬化物であるにもかかわらず、該補綴物に対して優れた接着性を示す。即ち、このようなレジン硬化物製補綴物に適用される従来公知のプライマーは、該補綴物が硬化物であり、活性点が少ないため、該補綴物に対する接着性が低いが、本発明のプライマー組成物は、それ自体で該補綴物に対して優れた接着性を示す成分を含有しているばかりか、該補綴物に対して高い浸透性を示し、しかも硬化による結合とイオン架橋による結合とによってレジン硬化物である補綴物に対して高い接着性を示すのである。
<レジンセメント>
歯の修復部位に補綴物を接着固定するために用いるレジンセメントは、歯科用接着材として公知であり、例えば、特開平5−170618号公報、特開平6−16520号公報、特開平8−319209号公報、特開平9−3109号公報、特開2002−161013号公報、特開2003−96122号公報等に記載されているペースト状の硬化性組成物であり、光照射、加熱等により硬化させることにより、補綴物と歯質或いは補綴物同士の接着に使用される。
即ち、上記の公報等に記載されているように、このレジンセメントは、重合性単量体として(メタ)アクリレート系重合性単量体を含み、さらに光重合開始剤、化学重合開始剤等の重合開始剤や無機フィラーが配合されているものである。
例えば、かかるレジンセメントにおいて、(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、本発明のプライマー組成物中の配合成分として説明した酸性基含有重合性単量体(A1)や酸性基を有しない多官能或いは単官能の重合性単量体の内、(メタ)アクリレート基を有しているものが一般的に使用される。
光重合開始剤としては、やはり、前述した本発明のプライマー組成物において、光重合開始剤(F)として例示したものが一般的に使用され、中でも、α−ジケトン/第3級アミン系重合開始剤、クマリン等の色素、トリクロロメチル基置換−s−トリアジン等の光酸発生剤及びテトラフェニルボレート・アミン塩等のアリールボレート化合物からなる色素/光酸発生剤/アリールボレート化合物系光重合開始剤が好適に使用される。また、化学重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物と、N,N−ジエタノール−p−トルイジン等の第3級アミンからなる過酸化物/アミン系の重合開始剤;酸性化合物/アリールボレート化合物からなる重合開始剤;酸性化合物/アリールボレート化合物/金属錯体からなる重合開始剤;酸性化合物/アリールボレート化合物/金属錯体/有機過酸化物からなる重合開始剤;トリブチルボランの部分酸化物等のアルキル金属化合物;n−ブチルバルビツール酸/塩化銅のようなバルビツール酸系開始剤が一般に使用される。このような重合開始剤は、レジンセメント中に、所謂触媒量で配合されている。
さらに、無機フィラーは、硬化物の機械的強度を高めるために配合されるものであり、一般に、レジンセメント中には、無機フィラーが25〜75質量%の量で配合されている。このような無機フィラーとしては、前述したレジン硬化物製補綴物を形成するための硬化性組成物中に配合されるものと同様のものが使用されている。
上記のレジンセメントは、前述したプライマー組成物が塗布されたレジン硬化物製補綴物表面に塗布され、光照射や加熱によって硬化するが、この硬化物は、プライマー組成物中に配合されている重合性単量体成分(A)と共重合し、且つイオン架橋によってプライマー組成物の硬化体(接着層)と結合するため、該硬化体を介して補綴物に強固に接着固定することとなる。
<プライマーキット>
既に述べたように、各成分の使用量が所定割合に調整された本発明のプライマー組成物では、これを、所定の密封容器に収容してワンパッケージの形態で、レジン硬化物製補綴物のプライマーとして使用されるが、酸性基含有重合性単量体を含有しているため、その他の補綴物に対してもある程度の接着性を示す(該単量体が補綴物中の金属原子と水素結合を形成するからである)。従って、他の補綴物に対して効果的な接着性成分を添加することにより、他の補綴物に対するプライマー、例えば、卑金属合金製補綴物、貴金属合金製補綴物、或いはセラミックス製補綴物のプライマーとしての使用も可能である。
例えば、貴金属合金製補綴物用のプライマーとしては、重合性単量体として硫黄原子含有重合性単量体が有効な接着成分であることが知られている。即ち、この単量体中の硫黄原子が貴金属原子と化学的結合を形成するため、このような硫黄原子含有重合性単量体が配合されたプライマーは、貴金属合金製補綴物のプライマーとして効果的となるわけである。従って、本発明のプライマー組成物に所定量の硫黄原子含有重合性単量体を添加することにより、本発明のプライマー組成物を貴金属合金製補綴物用のプライマーに転用することができる。
上記のような硫黄原子含有重合性単量体には、例えば特開2000−248201号に開示されているもの、具体的には、下記一般式(a1)〜(a5)で表される互変異性によりメルカプト基(SH)を形成し得るラジカル重合性化合物、下記一般式(a6)〜(a9)で表されるラジカル重合性ジスルフィド化合物、下記一般式(a10)〜(a11)で表されるラジカル重合性チオエーテル化合物などが知られている。
Figure 2010189345
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Figure 2010189345
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尚、上記の式(a1)〜(a11)中、
は、水素原子またはメチル基であり、
は、炭素数1〜12のアルキレン基、−CH−C−CH基、−(CH)p−Si(CH−(CH)q−基(但し、p及びqは1〜5の整数)であり、
は、−O−CO−基、−OCH−基または−OCH−C−基であり、
は、−O−CO−基、−C−基または結合手(基R2と不飽和炭素とが直接結合していること)であり、
Yは、−S−、−O−または−N(R’)−である(但し、R’は、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基である)。
これらの中でも、その接着性の観点より、上記一般式(a1)〜(a5)で表される互変異性によりメルカプト基(SH)を形成し得るラジカル重合性化合物が好ましい。
また、シランカップリング剤は、セラミックス用補綴物に対して有効な接着成分としても知られている。従って、本発明のプライマー組成物に、シランカップリング剤を添加したものは、レジン硬化物製補綴物用のプライマーのみならず、セラミックス製補綴物用のプライマーとして好適に使用することができる。
尚、上記のようなシランカップリング剤としては、例えば、前述したヒュームドシリカ(E)の表面処理剤として例示したシラン化合物が使用される。
上記の説明から理解されるように、本発明のプライマー組成物は、これを所定の密封容器に収容したものをレジン硬化物製補綴物用プライマーとし、これとは別個に、他の補綴物に対して効果的な硫黄原子含有重合性単量体(以下、単に硫黄系単量体と呼ぶ)やシランカップリング剤などの接着性向上成分を揮発性有機溶媒に溶解乃至分散させた組成物を、適合性拡張用プライマー助剤として他の密封容器に収容し、これらを歯科補綴物用キットとして用いるのがよい。即ち、かかるキットにおいては、本発明のプライマー組成物をレジン硬化物製補綴物および卑金属合金製補綴物のプライマーとして使用し、他の補綴物に対しては、適合性拡張用プライマー助剤の所定量を、例えば赤色光などの不活性光下に本発明のプライマー組成物に添加混合して使用すればよく、従って、このようなキットは、レジン硬化物製補綴物に限らず、他の任意の補綴物に対してプライマーとして使用することが可能となる。
尚、上記の適合性拡張用プライマー助剤において、揮発性有機溶媒としては、接着性向上剤成分(硫黄系単量体及び/又はシランカップリング剤)を均一に溶解乃至分散せしめ、且つ本発明のプライマー組成物に均一に混合し得るようなものであれば特に制限されないが、一般的には、本発明のプライマー組成物に配合されている揮発性有機溶媒(C)と同じ溶媒を用いることが好適である。また、この適合性拡張用プライマー助剤には、必要により、重合禁止剤などの添加剤が配合されていてもよい。
適合性拡張用プライマー助剤中の接着性向上剤成分は、例えば、0.1乃至20質量%、特に0.5乃至15質量%の濃度に設定されていることが好ましい。即ち、この濃度があまり低いと、本発明のプライマー組成物に添加したとき、揮発性有機溶媒の量が過剰となり、エアブロー等により揮発性有機溶媒を除去するのに長時間要することとなり、作業性が低下してしまうおそれがある。また、接着性向上剤成分の濃度が必要以上に高いと、本発明のプライマー組成物に添加したとき、接着性向上成分を均一に分散させることが困難となるおそれを生じるからである。
さらに、接着性向上剤成分は、硫黄系単量体及びシランカップリング剤の両方を使用し、これらを揮発性有機溶媒中に溶解乃至分散せしめてもよいし、硫黄系単量体或いはシランカップリング剤の何れか一方のみを移用することもできる。何れか一方を使用する場合には、例えば、硫黄系単量体を有機溶媒に混合したものを貴金属製補綴物用のプライマー助剤とし、シランカップリング剤を有機溶媒に混合したものをセラミックス製補綴物用プライマー助剤として使用するのがよい。具体的には、硫黄系単量体を含む適合性拡張用プライマー助剤が収容されたパッケージと、シランカップリング剤を含む適合性拡張用プライマー助剤が収容されたパッケージとを、前述した本発明のプライマー組成物が収容されたパッケージと組み合わせてプライマーキットとしての使用に供することができる。
上述したプライマーキットにおいて、硫黄系単量体による接着性向上を利用して他の補綴物用のプライマー(非金属合金或いは貴金属合金製補綴物用プライマー)として用いる場合には、本発明のプライマー組成物と混合したときの硫黄系単量体の濃度が、全重合性単量体当り0.01乃至10質量%の濃度となるように混合することが好ましく、シランカップリング剤による接着性向上を利用して他の補綴物用のプライマー(例えばセラミックス製補綴物用プライマー)として用いる場合には、本発明のプライマー組成物と混合したときのシランカップリング剤の濃度が、全重合性単量体当り0.1乃至15質量%の濃度となるように混合することが好ましい。
以下本発明を実験例により具体的に説明するが、本発明はこれら実験例により何等制限されるものではない。
各実験例で用いた各種成分、及び各実験例中に示した、略称、略号、接着強度測定方法、保存安定性評価方法、及び多価金属イオン量測定方法については以下の通りである。
<重合性単量体成分(A)>
[酸性基含有重合性単量体(A1)]
PM:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートとの2:1の混合物
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MAC−10:11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸
4−META:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸
[酸性基を含有しない重合性単量体(A2)]
D26E:2,2′−ビス(4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル)プロパン
BisGMA:2,2′−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
AAEM:2−メタクリルオキシエチルアセチルアセテート
<金属イオン(B)供給源>
[多価金属フィラー]
MF1:製造例1で得た多価金属フィラー
(平均粒径:0.5μm、24時間溶出イオン量:10meq/g−フィラー)
MF2:製造例2で得た多価金属フィラー
(平均粒径:0.5μm、24時間溶出イオン量:25meq/g−フィラー)
MF3:製造例3で得た多価金属フィラー
(平均粒径:0.5μm、24時間溶出イオン量:50meq/g−フィラー)
[多価金属のアルコキシド等]
アルミニウムトリイソプロポキシド:Al(O−iPr)
アルミニウムヒドロキシド:Al(OH)
ランタントリイソプロポキシド:La(O−i−Pr)
ランタンヒドロキシド:La(OH)
スカンジウムトリイソプロポキシド:Sc(O−i−Pr)
イッテルビウムトリイソプロポキシド:Yb(O−i−Pr)
マグネシウムヒドロキシド:Mg(OH)
カルシウムヒドロキシド:Ca(OH)
バリウムヒドロキシド:Ba(OH)
チタニウムテトライソプロポキシド:Ti(O−i−Pr)
ジルコニウムテトライソプロポキシドZr(O−i−Pr)
バナジウム(III)テトラキスアセチルアセトナト:V(acac)
クロミウム(III)トリイソプロポキシド:Cr(O−i−Pr)
マンガン(III)テトラキスアセチルアセトナト:Mn(acac)
鉄(III)エトキシド:Fe(OEt)
コバルト(III)テトラキスアセチルアセトナト:Co(acac)
ニッケル(II)テトラキスアセチルアセトナト:Ni(acac)
銅(II)エトキシド:Cu(OEt)
亜鉛ビス(2−メトキシエトキシド):Zn(OCHCHOMe)
<揮発性有機溶媒(C)>
エチルアルコール:Et−OH
イソプロピルアルコール:IPA
アセトン
<ヒュームドシリカ(E)>
FS1:平均1次粒径18nm、比表面積220m/g、シラノール基数5個/nm
FS2:平均1次粒径18nm、比表面積120m/g、メチルトリクロロシラン処理、シラノール基数1.2個/nm
FS3:平均1次粒径18nm、比表面積200m/g、ジメチルシラン及びジクロロヘキサメチルジシラザン処理、シラノール基数1個/nm
FS4:平均1次粒径40nm、比表面積50m/g、メチルトリクロロシラン処理、シラノール基数1.3個/nm
<その他シリカ粒子>
MS:溶融シリカ、平均1次粒径0.4μm、比表面積8m/g、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、シラノール基数2個/nm
SS:ゾルゲルシリカ、平均1次粒径60nm、比表面積70m/g、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、シラノール基数3個/nm
PS:沈降シリカ、30nm、比表面積180m/g、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン処理、シラノール基数>5個/nm
<光重合開始剤(F)>
CQ:カンファーキノン
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド
<重合禁止剤>
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
<その他の配合剤>
[硫黄系単量体]
MTU−6:6−メタクリロイルオキシヘキシル−2−チオウラシル−5−カルボキシレート
[シランカップリング剤]
MPS:3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
<レジン硬化物製補綴物に対する接着性>
市販の歯科用レジンとしてトクヤマデンタル製「パールエステ」を用意し、この歯科用レジンを、10×10×3mmのポリテトラフルオロエチレン製モールドに充填し、透明ポリプロピレンフィルムを圧接して酸素を遮断した状態で光重合及び加熱重合(100℃×15分)を連続して行い、レジン硬化体を作製した。
このレジン硬化体(10×10×3mm)の表面を、♯800の耐水研磨紙で磨いて平滑にした後、この研磨面に、3mmφの穴を開けた接着テープを貼り付けた。即ち、この接着テープの穴の部分が模擬窩洞となり、接着面となる部分である。
次いで、模擬窩洞となる上記の穴の部分に、各実施例、比較例で調製されたプライマー組成物をスポンジで塗布し、20秒放置した後に圧縮空気を約5秒間吹き付けた。この後、歯科用レジンセメントとしてトクヤマデンタル製「ビスタイトII」をプライマー組成物が塗布された穴(模擬窩洞)の部分に充填し、その上から直径8mmのステンレス製アタッチメントを圧接して接着性試験片を作製した。
次いで、上記の接着性試験片を、37℃の水中に24時間浸漬した後、引張試験機(島津製作所製オートグラフ)を用い、クロスヘッドスピード2mm/minにて、上記レジン硬化体と接着試験片(ステンレス製アタッチメント)との接着強度を測定した。尚、1試験当り、4つの試験片について、引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度を接着強度として評価した。
<歯科用合金製補綴物に対する接着性>
卑金属合金製の被着体としてトクヤマデンタル製歯科用コバルト−クロム合金「ワクローム」(10×10×3mm)、及び貴金属合金製の被着体としてトクヤマデンタル製歯科用金−銀−パラジウム合金「金パラ12」(10×10×3mm)を用意した。
上記の被着体の表面を、それぞれ、♯1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラスト処理し、その処理面に、レジン硬化物製補綴物に対する接着性と全く同様にして、模擬窩洞となる穴を有する接着テープを貼り付け、さらに各実施例、比較例で調製されたプライマー組成物の充填、圧縮空気の吹き付け、レジンセメントの充填、及びステンレス製アタッチメントとを圧接しての接着試験片を作製し、且つ全く同様にして、卑金属合金製の被着体あるいは貴金属合金製の被着体と接着試験片(ステンレス製アタッチメント)との接着強度を測定した。
<セラミックス製補綴物に対する接着性>
セラミックス製の被着体としてトクヤマデンタル製歯科用陶材「セラエステ」(10×10×3mm)を用意した。
上記のセラミックス製被着体の表面を、レジン硬化物製補綴物に対する接着性と全く同様にして、耐水研磨紙での研磨、研磨面への接着テープの貼り付け、各実施例、比較例で調製されたプライマー組成物の充填、圧縮空気の吹き付け、レジンセメントの充填、及びステンレス製アタッチメントとを圧接しての接着試験片の作製を行い、且つ全く同様にして、セラミックス製の被着体と接着試験片(ステンレス製アタッチメント)との接着強度を測定した。
<多価金属イオン量の測定>
試料のプライマー組成物を、調製直後から24時間攪拌し、この後、100mlのサンプル管に試料のプライマー組成物を計り取り、IPAを用いて1容量%に希釈した。
この希釈液を、シリンジフィルターでろ過し、ICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて、重合性単量体成分(A)1g当りの多価金属イオン濃度(mmol/g)を測定した。尚、複数の多価金属イオンが存在する場合には、得られた各イオン濃度にそれぞれのイオン価数をかけた値の総和を計算することで、(A)成分1gに対するイオン架橋量、即ち、多価金属イオン量(meq)を求めた。
<保存安定性の評価>
プライマー組成物を調製後、37℃のインキュベーター内で3ヶ月間保存した後、この組成物を用いて、上記した接着強度測定方法と同様の方法を用いてレジン硬化物に対する接着強度を測定し、37℃保存前の組成物の接着強度(初期接着強度)と比較した。また、該保存品の析出物の有無、およびゲル化状態を目視にて観察し、下記評価基準に従って保存安定性を評価した。
<評価基準>
1 ; 析出物なし、ゲル化なし
2 ; 僅かに析出物あり、ゲル化なし
3 ; 析出物あり、ゲル化なし
4 ; 析出物あり、一部ゲル化
5 ; 全体がゲル化
<実施例1>
下記処方1(プライマーA):
酸性基含有重合性単量体(A1):2.5gのPM
重合性単量体(A2):3.0gのBisGMA、2.0gの3G、2.5gのHEMA
揮発性有機溶媒(C):3.0gのイソプロパノール(IPA)
ヒュームドシリカ(E):1.0gのFS2
その他の成分:0.003gのBHT(重合禁止剤)
下記処方2(プライマーB):
多価金属イオン(B)供給源:0.21gのアルミニウムトリイソプロポキシド
揮発性有機溶媒(C):7.0gのイソプロパノール(IPA)
水(D):2.0gの蒸留水
に従い、それぞれ上記各成分を攪拌混合し、2液型プライマー組成物を調製した。使用直前に上記2液を等質量ずつ採取、混合して均一溶液とする態様とし、このプライマー組成物について、多価金属イオン(Alイオン)濃度、レジン硬化物製の補綴物に対する接着強度、及び保存安定性(接着強度のみ)を測定し、その結果を表1に示した。
尚、表1中のXは、(A)成分1g当りの多価金属イオン量を示す値である。
<実施例2〜6、比較例1〜2>
処方を、表1のように変更した以外は、実施例1と全く同様にして2液型プライマー組成物を調製し、且つ同様にしてプライマー組成物の評価を行い、その結果を表1に示した。
実施例1〜6は、各成分が本発明のプライマー組成物の構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても歯科用レジン硬化体に対して優れた接着強度および保存安定性を有していることがわかる。
これに対して、比較例1では(B)成分が配合されておらず、比較例2では(A1)成分が配合されておらず、いずれの場合も歯科用レジン硬化体の接着強度は非常に低いものであった。
Figure 2010189345
<実施例7>
下記処方:
酸性基含有重合性単量体(A1):2.5gのPM
重合性単量体(A2):3.0gのBisGMA、2.0gの3G、2.5gのHEMA
多価金属イオン(B)供給源:0.28gのアルミニウムトリイソプロポキシド
揮発性有機溶媒(C):4.0gのイソプロパノール(IPA)
水(D):1.5gの蒸留水
ヒュームドシリカ(E):1.0gのFS2
その他の成分:0.003gのBHT(重合禁止剤)
に従い、上記各成分を攪拌混合し、1液型プライマー組成物を調製した。なお、このプライマー組成物について、多価金属イオン(Alイオン)濃度、レジン硬化物製の補綴物に対する接着強度、及び保存安定性を測定し、その結果を表3に示した。
尚、表3中のXは、(A)成分1g当りの多価金属イオン量を示す値である。
<実施例8〜28>
処方を、表2のように変更した以外は、実施例7と全く同様にしてプライマー組成物を調製し、且つ同様にしてプライマー組成物の評価を行い、その結果を表3に示した。
<比較例3>
多価金属イオン(B)供給源を全く配合しなかった以外は、実施例7と同様にしてプライマー組成物を調製し、且つ同様にしてプライマー組成物の評価を行い、その結果を表5に示した。
<比較例4〜9>
処方を、表4のように変更した以外は、実施例7と全く同様にしてプライマー組成物を調製し、且つ同様にしてプライマー組成物の評価を行い、その結果を表5に示した。
実施例7〜28は、各成分が本発明の1液型プライマー組成物の構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても歯科用レジン硬化体に対して優れた接着強度および保存安定性を有していることがわかる。ただし、これらの中でもイオン量(X)が大きい程、目視評価による保存安定性が低下傾向にあることがわかる。
これに対して、比較例3では(B)成分が配合されておらず、比較例4では(A1)成分が配合されておらず、比較例5では(A1)成分の含有量が本発明の範囲に満たず、いずれの場合も歯科用レジン硬化体に対する接着強度は非常に低いものであった。比較例6では(E)成分であるヒュームドシリカが配合されておらず、対応する実施例に比べて接着強度が低いことがわかる。また、比較例7〜9では、ヒュームドシリカに代えて、他の無機充填材を用いた場合であり、良好な接着強度は得られなかった。
Figure 2010189345
Figure 2010189345
Figure 2010189345
Figure 2010189345
<製造例1>:多価金属フィラーMF1の製造
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を、湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、得られた粉末1gに対して、20gの
5.0N塩酸を使用し、粒子表面を40分間処理して多価金属フィラー(多価金属イオン溶出性フィラー)MF1を得た。
得られた多価金属フィラーMF1の0.1gを、温度23℃、10重量%マレイン酸水溶液10ml中に24時間浸漬保持し、溶出した多価金属イオンの量をICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて分析した結果、この多価金属フィラーMF1の24時間溶出イオン量は10meq/g−フィラーであった。
<製造例2>:多価金属フィラーMF2の製造
5.0N塩酸での処理時間を20分間とした以外は製造例1と全く同様にして、多価金属フィラーMF2を得た。ICP発光分光分析の結果、この多価金属フィラーMF2の24時間溶出イオン量は25meq/g−フィラーであった。
<製造例3>:多価金属フィラーMF3の製造
塩酸での処理を全く行わなかった以外は製造例1(或いは製造例2)と全く同様にして、多価金属フィラーMF3を得た。ICP発光分光分析の結果、この多価金属フィラーMF3の24時間溶出イオン量は50meq/g−フィラーであった。
<実施例29>
下記処方:
酸性基含有重合性単量体(A1):3.0gのPM
重合性単量体(A2):2.4gのBisGMA、1.6gの3G、3.0gのHEMA
多価金属イオン(B)供給源:製造例1で調製された多価金属イオン溶出性フィラーMF1(0.38g)
揮発性有機溶媒(C):8.5gのイソプロパノール(IPA)
水(D):2.0gの蒸留水
ヒュームドシリカ(E):1.0gのFS2
その他の成分:0.003gのBHT(重合禁止剤)
に従い、上記各成分を攪拌混合し、1液型プライマー組成物を調製した。このプライマー組成物について、多価金属イオン濃度、レジン硬化物製の補綴物に対する接着強度、及び保存安定性を測定し、その結果を表7に示した。
尚、表7中のXは、(A)成分1g当りの多価金属イオン量を示す値である。
<実施例30〜40>
処方を、表6のように変更した以外は、実施例29と全く同様にしてプライマー組成物を調製し、且つ同様にしてプライマー組成物の評価を行い、その結果を表7に示した。
実施例29〜40は、各成分が本発明の1液型プライマー組成物の構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても歯科用レジン硬化体に対して優れた接着強度および保存安定性を有していることがわかる。ただし、これらの中でもイオン量(X)が大きい程、目視評価による保存安定性が低下傾向にあることがわかる。
Figure 2010189345
Figure 2010189345
<応用実験例1>
硫黄系単量体としてMTU−6を用意し、これを有機溶媒(IPA)に溶解させ、MTU−6が1質量%の適合性拡張プライマー助剤を調製した。
上記のプライマー助剤を、MTU−6が重合性単量体(A)当り1質量%となるようにして実施例7で調製されたプライマー組成物に添加し、転用プライマーを作製した(適合性拡張プライマー助剤と実施例7で調整されたプライマー組成物を等質量ずつ採取した)。
この転用プライマーを用いて、硬化物レジン製補綴物、卑金属合金製補綴物、貴金属製補綴物に対する接着強度を測定し、その結果を表8に示した。
<応用実験例2>
シランカップリング剤(MPS)を使用し、これを有機溶媒(IPA)に溶解させ、MPSが4質量%の適合性拡張プライマー助剤を調製した。
上記のプライマー助剤を、MTU−6が重合性単量体(A)当り4質量%となるようにして実施例7で調製されたプライマー組成物に添加し、転用プライマーを作製した。
この転用プライマーを用いて、硬化物レジン製補綴物、卑金属合金製補綴物、及びセラミックス製補綴物に対する接着強度を測定し、その結果を表8に示した。
<応用実験例3>
硫黄系単量体としてMTU−6を、シランカップリング剤としてMPSを用意し、これを有機溶媒(IPA)に溶解させ、MTU−6およびMPSがそれぞれ1質量%、4質量%の適合性拡張プライマー助剤を調製した。
上記のプライマー助剤を、MTU−6およびMPSが重合性単量体(A)当りそれぞれ1質量%、4質量%となるようにして実施例7で調製されたプライマー組成物に添加し、転用プライマーを作製した(適合性拡張プライマー助剤と実施例7で調整されたプライマー組成物を等質量ずつ採取した)。
この転用プライマーを用いて、硬化物レジン製補綴物、卑金属合金製補綴物、貴金属製補綴物及びセラミックス製補綴物に対する接着強度を測定し、その結果を表8に示した。
応用実施例1では、MTU−6を配合した拡張プライマーを用いたため、レジン、卑金属合金および貴金属合金製補綴物に対する良好な接着強度が得られた。応用実施例2では、MPSを配合した拡張プライマーを用いたためレジン、卑金属合金およびセラミックス製補綴物に対する良好な接着強度が得られた。また、応用実施例3では、MTU−6およびMPSの両者を配合した拡張プライマーを用いたため、いずれの補綴物に対しても良好な接着強度が得られた。
Figure 2010189345

Claims (8)

  1. (A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分;
    (B)多価金属イオン;
    (C)揮発性有機溶媒;
    (D)水;
    (E)ヒュームドシリカ
    を含有していることを特徴とするレジン硬化物製歯科補綴物表面処理用プライマー組成物。
  2. 前記多価金属イオン(B)の含有量が、前記重合性単量体成分(A)1g当り0.2〜7.0meqとなるような量であり、
    前記揮発性有機溶媒(C)を、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り30〜150質量部の範囲で含有しており、
    前記水(D)を、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り3〜30質量部の量で含有しており、
    前記ヒュームドシリカ(E)は前記重合性単量体成分(A)100質量部当り0.5〜20質量部の量で配合していると共に、
    前記各成分を混合して1液としてワンパッケージで保存される請求項1に記載のプライマー組成物。
  3. 前記揮発性有機溶媒(C)を、下記式(I):
    α≧20・X …(I)
    式中、αは、前記揮発性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量部当りの配合量であり、
    Xは、前記重合性単量体成分(A)1g当りの多価金属イオン(B)の量(meq)を示す数である、
    で表される条件を満足するような量で含有している請求項2に記載のプライマー組成物。
  4. 前記多価金属イオン(B)が、多価金属イオン溶出性フィラーからの溶出により存在している請求項1〜3のいずれか一項に記載のプライマー組成物。
  5. 前記多価金属イオン溶出性フィラーは、該フィラー0.1gを10重量%マレイン酸水溶液10mlに加えて23℃で24時間保持したときの多価金属イオン溶出量が5.0〜500meq/g−フィラーを示すものである請求項1〜4のいずれか一項に記載のプライマー組成物。
  6. 前記重合性単量体成分(A)中の酸性基含有重合性単量体が、リン酸基を含有する重合性単量体である請求項1〜5のいずれか一項に記載のプライマー組成物。
  7. さらに(F)光重合開始剤を含有している請求項1〜6のいずれか一項に記載のプライマー組成物。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載のプライマー組成物が収容されたパッケージと、硫黄原子含有重合性単量体及び/又はシランカップリング剤並びに揮発性有機溶媒とからなる適合性拡張用プライマー助剤が収容されたパッケージとからなり、前記硫黄原子含有重合性単量体が、互変異性によりメルカプト基を生じるラジカル重合性化合物、ラジカル重合性ジスルフィド化合物及びラジカル重合性チオエーテル化合物からなる群より選択された少なくとも1種である歯科補綴物用プライマーキット。
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