JP2010180297A - 硫化亜鉛系蛍光体及びその製造方法 - Google Patents

硫化亜鉛系蛍光体及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高品質な硫化亜鉛系蛍光体を効率的に製造することが可能な工業的な製法を提供すること。
【解決手段】金、銀、銅、マンガン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物、II族金属蟻酸塩、共付活剤、並びに硫化剤を水性媒体中で混合し、反応を行うことによって硫化亜鉛系蛍光体粒子を生成させ、必要に応じて該蛍光体粒子を前駆体として更に焼成して蛍光体を得ることにより、上記課題を解決する。
【選択図】なし

Description

本発明は、硫化亜鉛系蛍光体及びその製造方法に関する。
化合物半導体を主たる構成材料とする無機組成物は、蛍光、リン光などの発光材料、蓄光材料などの分野で用いられている。これらの中には、電気エネルギーによって光を発する特性(エレクトロルミネッセンス特性)を有するものもあり、光源、表示装置用素子などの用途で一部用いられている。特に青色蛍光体は、単色のみならず、白色の発光材料としても有用であるが、現在知られている材料は、電気エネルギーの光変換効率が不十分であり、そのため発熱、消費電力などの点で問題があり、用途が限定されている。
化合物半導体としてはII−VI族元素化合物半導体、なかでも硫化亜鉛が一般的に広く使用されているが、硫化亜鉛を製造する際には、硫化亜鉛粉末の粒子の大きさ及び形状制御が問題となる。硫化亜鉛の製造方法として、これまで高温固相合成法が知られていたが、高温固相合成法では硫化亜鉛粉末の粒子の大きさ及び形状の制御が困難であった。また、共沈法、水熱合成法、エマルジョン法など各種液相法も知られてはいるが、単一結晶相の硫化亜鉛粉末が合成されたという報告例はないため、硫化亜鉛粉末の利用には多くの困難がある。
液相法のうち、共沈法による硫化亜鉛形成に関しては、硝酸亜鉛、硝酸及びチオアセトアミドの水溶液に硫化亜鉛粒子を沈殿させた後、60℃でエージングすることにより、約0.5〜2μmの硫化亜鉛球形粒子が得られることが知られている(非特許文献1参照)。
また、亜鉛塩とチオアセトアミドを原料として使用し、種々の陰イオンの存在下で硫化亜鉛粒子が沈殿する様相を観察した研究例が報告されている。この中では、反応温度を60℃〜70℃に設定して各々硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩イオンの存在下で硫化亜鉛粒子を合成した場合に得られる硫化亜鉛の1次粒子の大きさは約13nmであり、2次粒子は多結晶質粒子であることが報告されている(非特許文献2)。
一方、水熱合成法を利用した研究では、酢酸亜鉛と硫化ナトリウムを使用して150℃で硫化亜鉛粉末を合成し、約10時間の反応後に合成された粉末は平均6nmの非常に小さい粒子であるとが報告されている(非特許文献3参照)。また、水熱合成条件下に、キレート配位剤としてEDTAなどを添加し、粒子成長を試みた例も報告されている(特許文献1参照)。更に、トルエンなどの有機溶媒を使用して、エマルジョン下に、粒子を成長させた例も報告されている(非特許文献4)。
ジャーナル オブ ケミカル ソサイエティ ファラデイ トランス(J.Chem.Soc., Faraday Trans.)1984年、第1巻、第80号、p.563〜570 セラミック トランジッション(Ceramic Trans.)1990年、第12巻、p.137−146 マテリアル リサーチ ブレタン(Mat. Res. Bull.,)1995年、第30巻、第5号、p.601−605 マテリアル リサーチ ブレタン(Mat. Res. Bull.,)2005年、第40巻、629−634項
特開2005−306713公報
しかしながら、非特許文献1及び2に開示されているような、硝酸塩を使用した共沈法では、使用した原料の硝酸イオンが粒子内に残留し、また、硝酸イオンによりII−VI族元素化合物が酸化されてしまうため、蛍光体としての性能が著しく低下するという問題がある。
また、非特許文献3及び特許文献1に開示されているような、水熱条件下に実施する方法では、発生する硫化水素により、使用する反応設備の材質が著しく腐食するため、工業的に実施するには大きな難点がある。更に、非特許文献4に開示されているような、有機溶剤を用いたエマルジョンを使用する方法では、有機溶剤を分離しなければならないことに加え、生成する粒子も有機溶媒を含有するため、乾燥などの工程が非常に煩雑になるなどの問題点がある。したがって、本発明の目的は、高品質な硫化亜鉛系蛍光体を効率的に製造することが可能な工業的な製法を提供することにある。
本発明者らは鋭意検討し、金、銀、銅、マンガン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物、II族金属蟻酸塩、共付活剤、並びに硫化剤を水性媒体中で混合し、反応を実施して硫化亜鉛系蛍光体の結晶性粒子を得、これを前駆体として焼成処理を行い、焼成物を得ることにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明により、以下のものを提供することができる。
[1] 金、銀、銅、マンガン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物、II族金属蟻酸塩、共付活剤、並びに硫化剤を水性媒体中でレイノルズ数100以下で攪拌混合し、蛍光体粒子を生成させることを特徴とする硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
[2] 該硫化剤が、硫化水素または有機硫黄化合物である[1]記載の硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
[3] 該有機硫黄化合物が、チオアミド類及び/又はチオ尿素である[2]記載の硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
[4] 反応温度が30℃〜100℃である、[1]〜[3]のいずれかに記載の硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
[5] 該蛍光体粒子を焼成することをさらに含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
[6] X線回折による2θ=28.5°における半価幅が2.0〜3.0である結晶性粒状物としての硫化亜鉛系蛍光体。
本発明に係る硫化亜鉛系蛍光体の製造方法は、水熱合成法やエマルジョンを用いた従来の工業的製法に比べて、実施が比較的容易である一方、製造工程において酸化性物質が発生して蛍光体の性能が損なわれるという問題が解消されることから、従来技術に比べて高品質の蛍光体を効率的を製造することができるという大きな利点がある。
実施例1で得られた蛍光体の粒度分布図である。 実施例1で得られた蛍光体のSEM観察図(倍率1000倍)である。 実施例1で得られた蛍光体の紫外線励起蛍光スペクトル図である。 実施例1で得られた蛍光体のX線回折スペクトル図である。 実施例2で得られた蛍光体の紫外線励起蛍光スペクトル図である。 実施例3で得られた蛍光体の紫外線励起蛍光スペクトル図である。 実施例4で得られた蛍光体の紫外線励起蛍光スペクトル図である。 実施例5で得られた蛍光体の粒度分布図である。 実施例5で得られた蛍光体のSEM観察図(倍率1000倍)である。 実施例5で得られた蛍光体の紫外線励起蛍光スペクトル図である。 実施例5で得られた蛍光体のX線回折スペクトル図である。 比較例3で得られた蛍光体のSEM観察図(倍率1000倍)である。
本発明において使用される金、銀、銅、マンガン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物については、特に限定されるものではなく、塩素、臭素、沃素などのハロゲン化物、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸との塩、蟻酸、酢酸、酪酸、シュウ酸などの有機酸との塩、アセチルアセトネートなどの配位子との錯塩を使用することができる。
これらは、単独で使用しても、複数を混合して使用しても構わない。蛍光体中への陰イオンの残留性を考慮して、塩化物などのハロゲン化物、有機酸塩の使用が好ましく、使用する反応器の材質を考慮して、有機酸塩の使用がより好ましい。
金、銀、銅、マンガン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素は、アクセプターとしてドーピングされ、発光中心として機能する。これらの量は、特に制限されるものではないが、通常、硫化亜鉛系蛍光体100重量部に対して5〜20000重量ppmとするのが好ましく、10〜8000重量ppmとするのがより好ましい。
本発明において使用するII族金属蟻酸塩としては、例えば蟻酸亜鉛、蟻酸カドミウムを挙げることができる。II族金属蟻酸塩は、反応条件下に、速やかに分解し、一酸化炭素と水になる。このため、硫化亜鉛系蛍光体中に残留しても、還元雰囲気となることから、硫化亜鉛系蛍光体が酸化されるなどの問題はない。蟻酸塩としては、蟻酸亜鉛を使用することが好ましい。
本発明において、共付活剤としてガリウム、アルミニウム、インジウム、イリジウム化合物を用いることができる。ガリウム、アルミニウム、インジウム、イリジウム化合物としては、例えば、硫化ガリウム、硫化アルミニウム、硫化インジウム、硫化イリジウムなどの硫化物を直接使用することもできるし、塩化ガリウム、臭化ガリウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化インジウム、臭化インジウムなどのハロゲン化物塩、硫酸ガリウム、リン酸ガリウム、硝酸ガリウム、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸インジウム、リン酸インジウム、硝酸インジウム、硫酸イリジウム、リン酸イリジウム、硝酸イリジウムなどの鉱酸塩、炭酸ガリウム、重炭酸ガリウム、炭酸アルミニウム、重炭酸アルミニウム、炭酸インジウム、重炭酸インジウム、炭酸イリジウム、重炭酸イリジウムなどの炭酸塩、酢酸ガリウム、ギ酸ガリウム、プロピオン酸ガリウム、安息香酸ガリウム、酢酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、安息鉱香アルミニウム、酢酸インジウム、ギ酸インジウム、プロピオン酸インジウム、安息香酸インジウム、酢酸イリジウム、ギ酸イリジウム、プロピオン酸イリジウム、安息香酸イリジウムなどの有機酸塩、ガリウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセトネート、インジウムアセチルアセトネート、イリジウムアセチルアセトネートなどの有機錯体等として使用してもよい。これらは、単独で使用しても複数を混合して使用しても構わない。
ガリウム、アルミニウム、インジウム、イリジウムはドナーとして作用する。これらの量に関しては、特に限定はないが、あまりに多すぎると、経済的ではなく、また、濃度消光を引き起こすことがあり、反面あまりに少なすぎると、高い蛍光効率を引き出すことが困難になる。そこで、通常、硫化亜鉛系蛍光体100重量部に対して5〜5000重量ppmとするのが好ましく、10〜1000重量ppmとするのがより好ましい。
本発明において、共付活剤として、塩素、フッ素、ヨウ素、臭素などのハロゲンを用いることもできる。ハロゲンを導入する際に、用いることのできるハロゲン化合物としては、第四級アンモニウムのフッ化物、塩化物、臭化物;ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアルカリ金属のフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属のフッ化物、塩化物、ヨウ化物;亜鉛、カドミウム、銅、マンガン、金などの遷移金属のフッ化物、塩化物、ヨウ化物などを挙げることができる。これらは、単独で使用しても複数を混合して使用しても構わない。色純度、安定性を考慮して、ハロゲンとして塩素を使用することが好ましい。
ハロゲンの量に関しては、特に限定はないが、あまりに多すぎると経済的ではなく、また、濃度消光を引き起こすことがあり、またあまり少なすぎると、高い蛍光効率を引き出すことができない。そこで、通常、硫化亜鉛系蛍光体100重量部に対して5〜5000重量ppmとするのが好ましく、10〜1000重量ppmとするのがより好ましい。
本発明において使用される硫化剤としては、硫化水素または有機硫黄化合物を使用することができる。有機硫黄化合物としては、チオホルムアミド、チオアセトアミドなどのチオアミド類、チオ尿素などを挙げることができる。硫化剤としては、硫化ナトリウム、硫化カルシウムなどのアルカリ金属硫化物、アルカリ土類金属硫化物を用いることができる。しかしながら、前記硫化剤を使用した場合には、硫化亜鉛系蛍光体中に、これらの残留金属が混入することに加え、系中に多量の硫化剤が存在する結果、結晶中に、硫黄分が取り込まれ、結晶化度が向上しにくくなる点で好ましくない。入手容易性の点から、チオアセトアミド、チオ尿素が好ましく、さらに残留性、安全性を考慮すると、チオアセトアミドが好ましい。
硫化剤の量に関しては、特に制限はないが、硫化亜鉛系蛍光体前駆体の生成効率を考慮して、通常、使用するII族金属蟻酸塩の当量以上の量で使用することが好ましく、結晶化度向上効果及び粒子成長の効果を考慮すると、1〜10当量の範囲の量で、さらに、経済性、操作性を考慮して、1.05〜3当量の範囲の量で使用することが好ましい。添加の方法としては、II族金属蟻酸塩と硫化剤全量を一括で混合しても、硫化剤を逐次混合しても構わない。更に、II族金属蟻酸塩と硫化剤を当量混合し、反応の経過を見ながら、過剰量を添加することもできる。また、金、銀、銅、マンガン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物、II族金属蟻酸塩及び共付活剤からなる水性液を調製し、これに硫化剤からなる水性液を混合してもよい。
本発明で使用する水性媒体としては、水又は水を主成分とする水性液が挙げられるが、水を使用するのが好ましい。使用する水に関しては、溶存する金属元素、非金属元素の存在が、硫化亜鉛系蛍光体中に残留すると、著しい蛍光収率低下をもたらすため、これらの物質を含まないものが好ましく、蒸発残分として1000ppm以下、より好ましくは200ppm以下である。具体的には、蒸留精製水やイオン交換水を用いることが好ましく、ハロゲンなどの揮発性イオンを含まないという点においてイオン交換水を用いることがより好ましい。
水性媒体中におけるII族金属蟻酸塩、発光中心となる金、銀、銅、マンガンおよび希土類元素、および共付活剤の濃度としては特に限定されるものではなく、各々の化合物の溶解度に依存することは言うまでもないが、通常、0.01モル/L〜10モル/Lの範囲内に調整され、操作性、反応容器の容積効率等を考慮して、0.05〜5モル/Lの範囲内に調整することが好ましい。
硫化剤の溶液中での濃度に関しても同様に、特に限定はなく、使用する硫化剤の種類に依存することは言うまでもないが、通常、0.01モル/L〜10モル/Lの範囲内で調整され、さらに、操作性、反応容器の容積効率等を考慮して、0.05〜5モル/Lの範囲内で調整することが好ましい。
本発明では、硫化反応を速やかに進行させるために、酸を添加することができる。使用できる酸としては、特に限定するものではないが、塩酸などの鉱酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マレイン酸などの有機酸を挙げることができる。硫化亜鉛系蛍光体に残留し難いものとして、蟻酸、酢酸、塩酸を使用することが好ましい。
酸の添加量は、反応を実施する基質量に依存するため、必ずしも限定されるものではない。酸は、反応を円滑に実施できるpHに調整されるように添加されればよく、具体的にはpH<5が得られるように添加されればよい。特に好ましいpHは2〜4.8である。
本発明の実施温度は、反応が進行する温度であればよく、特に限定されるものではないが、100℃以上では、特殊な反応設備を必要となるため、また、低すぎる温度では、反応の進行が著しく遅くなるため好ましくない。したがって、30℃〜100℃の範囲、より好ましくは、40℃〜95℃の範囲で実施することが好ましい。
本発明では、反応溶液の攪拌速度が重要である。攪拌速度が速すぎると、生成する粒子の形状が揃わず、蛍光強度が著しく小さくなるため好ましくない。そのため、攪拌は、レイノルズ数が100以下となるように、より好ましくは50以下となるように実施する。
ここで、レイノルズ数(Re)は、下式により定義される無次元数である。
Re=ρ×n×d/μ
上記式中、ρは液体の密度(kg/m)、nは攪拌翼の回転速度(sec−1)、dは攪拌翼の直径(m)、μは液体の粘度(kg/m・sec)である。
また、攪拌翼に関しては、特に限定するものではないが、本発明において反応溶液にはできるだけ弱いせん断力が付与されるように攪拌が実施されることが望ましいことから、穏やかに攪拌を実施することができるタイプの攪拌翼(特に限定するものではないが、例えばパドル型、いかり型)を使用することが好ましい。
本発明では、反応溶液の粘度は、通常0.150〜0.170 kg/m・secの範囲内、より特定的には0.155〜0.165kg/m・secの範囲内の値を有する。また、反応溶液の密度は、通常1000〜1150kg/m、の範囲内、より特定的には1020〜1100kg/mの範囲内の値を有する。
反応容器内の雰囲気は、特に限定されるものではないが、酸素存在下では、生成する硫化亜鉛系蛍光体が、酸化されるため好ましくない。そこで、反応は、通常、硫化水素、窒素などの雰囲気下で実施する。
本発明では、反応終了後、室温に冷却し、残留する硫化水素を除去した後、反応液を遠心分離、ろ過などの方法で除去する。更に、得られた硫化亜鉛の固体を、必要に応じて、イオン交換水で洗浄する。その後、真空、熱風などの条件下で乾燥し、目的の硫化亜鉛粒子を得ることができる。硫化亜鉛粒子は、さらに焼成処理を実施する前でも、紫外光励起により十分な強度の蛍光を発することが観察されている。したがって、焼成前の前駆体というべき硫化亜鉛もまた蛍光体である。硫化亜鉛粒子のX線回折による分析では、2θ=28.5°の最も強度の高いピークの半価幅が、2.0〜3.0であり、従来知られている蛍光体より、著しく半価幅が広い。なお、上記の2θ値については、±0.1°の測定誤差を考慮に入れるべきである。
このようにして得られた硫化亜鉛を更に焼成すると、結晶化が促進されるため、より安定な蛍光体が得られる。焼成は、硫化亜鉛系蛍光体の結晶系が変化する温度又はそれより高温で、且つ硫化亜鉛系蛍光体が昇華する温度又はそれより低温で実施する。具体的には、焼成は通常300℃以上1250℃以下、好ましくは350℃以上1230℃以下の温度で実施する。
焼成温度までの昇温速度は特に限定されるべきものではないが、通常、2.0℃/分以上40.0℃/分以下の速度で昇温させている。昇温速度が速すぎると、炉体や硫化亜鉛系蛍光体を入れる容器が破損することがあり、また、昇温速度が遅すぎると、生産効率が低下するだけでなく、融着などを起こし、粒子の形状がいびつになるため好ましくない。かかる観点から、2.5℃以上30.0℃以下の昇温速度で実施することが好ましい。
本発明において、焼成時に欠落する硫黄を補うために、硫黄を添加することができる。添加する量は特に限定されるものではなく、通常、硫化亜鉛系蛍光体100重量部に対して、0.1〜300重量部、より好ましくは、1〜20重量部を添加して実施される。
本発明において、焼成時に、硫酸亜鉛などの亜鉛化合物、酸化ガリウム、硫酸銅のような熱還元によって導電性を付与できる化合物を添加することができる。これらの添加物の使用量もまた制限されるものではないが、通常、硫化亜鉛系蛍光体100重量部に対して、0.1〜300重量部、より好ましくは、1〜20重量部で実施される。
本発明において、焼成は1回または複数回で実施される。焼成を複数回実施する場合、最終回はその前回より低い温度で実施すると、結晶性が安定化し、蛍光体としての機能が高まることがあるので好ましい。
焼成終了後、得られた蛍光体粒子は、ドーピングによって導入されなかった余分のガリウム化合物や黒色化した金属化合物が付着しているため、これらの付着物を除去するために洗浄を行う。洗浄のためには、中性水や、酸性水が使用される。酸性分としては、特に限定されるものではないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機酸や、その水溶液を使用することができる。これらは、単独で使用することもできるし、複数を混合して使用することもできる。
硫化亜鉛系蛍光体は、高濃度の酸性物質と接触すると分解することがあるので、酸性水を使用する場合は、通常0.1〜20重量%の水溶液で使用することが好ましく、1〜10重量%の水溶液を使用することがより好ましい。硫化亜鉛系蛍光体の分解、表面へのイオン残留性を考慮すると、酢酸を使用することが好ましい。
本発明において、余分な金、銀、銅、マンガンおよび希土類元素をシアン化物溶液によって除去することが出来る。使用するシアン化物としては、入手容易性などの観点からシアン化ナトリウム、シアン化カリウムの使用が一般的であり、通常0.1〜1重量%の濃度の水溶液を硫化亜鉛系蛍光体の10〜100重量倍使用する。洗浄後は、安全性の観点からも、シアンの残留を防止する必要があるため、シアンが検出されなくなるまでイオン交換水で洗浄を行うことが好ましい。
洗浄して得られた蛍光体は、更に、真空、熱風などの方法で乾燥し、所望の蛍光体を得ることができる。蛍光体が形成されたことは、紫外光励起による蛍光スペクトルを測定することによって確認することができる。
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、以下の実施例、比較例で得られた硫化亜鉛粒子の蛍光スペクトルの測定のために使用した測定装置及び測定条件は以下のとおりである。
測定装置:日本分光株式会社製 FP−6500
励起波長:350nm
励起バンド幅:5nm
ソフトウェア:Spectra Manager for Windows(登録商標) 95/NT Ver1.00.00 2005 日本分光株式会社製
粉末X線結晶回折の測定は、株式会社リガク製 RINT2400 Ru-H2Rを使用して行った。
粒度分布の測定は、堀場製作所製 LA-950を使用して行った。
また、SEM観察は、キーエンス製 VE-8800を使用して行った。
以下の実施例において、前出の計算式を用いてレイノルズ数(Re)を算出するために必要な反応溶液の密度(ρ)及び粘度(μ)の値を測定したところ、それぞれ1072kg/m、0.161kg/m・secであった。
実施例1
イオン交換水1000gに、蟻酸亜鉛2水和物95.75g(0.50モル)、塩化銅0.1031g(銅1000ppm相当)を溶解し、酢酸9.00gを添加して溶液Aを調製した。また、イオン交換水1000gにチオアセトアミド37.55g(0.50モル)を溶解し、溶液Bを調製した。3Lの三つ口フラスコに還流管および温度計を装着し、直径0.20mの攪拌翼を取り付け、溶液Aを加えた。そこに溶液Bを添加し、攪拌翼の回転速度を22.5rpmに設定してレイノルズ数100となるように攪拌しながら、95℃まで昇温した。95℃に到達した後、3時間保持し、室温まで冷却した。析出物をデカンテーションし、イオン交換水500gで3回遠心分離しながら洗浄し、100℃にて12時間真空乾燥し、蛍光体40.11gを得た。得られた蛍光体の粒度分布図を図1に、SEM観察結果を図2に、紫外線励起蛍光スペクトルを図3に示す。更に、X線回折図を図4に示す。このとき、2θ=28.5°の半価幅は2.0であった。
実施例2
実施例1で得られた蛍光体3g、硫黄0.3gを坩堝に取り、真空置換炉に入れ、300℃1時間真空下に乾燥した後、窒素にて大気圧に戻した。更に、400℃まで昇温して1時間保持した。常温まで冷却し、目的の蛍光体2.8gを得た。得られた蛍光体の紫外線励起蛍光スペクトルを図5に示す。
実施例3
実施例2の焼成温度を800℃とした以外は、実施例2と同様に行い、蛍光体2.8gを得た。得られた蛍光体の紫外線励起蛍光スペクトルを図6に示す。
実施例4
実施例2の焼成温度を900℃とした以外は、実施例2と同様に行い、蛍光体2.8gを得た。得られた蛍光体の紫外線励起蛍光スペクトルを図7に示す。
実施例5
イオン交換水200gに、蟻酸亜鉛2水和物19.15g(0.10モル)、塩化銅0.01031g(銅500ppm相当)、硝酸ガリウム11水和物0.03173g(ガリウム500ppm相当)を溶解し、酢酸1.80gを添加して溶液Aを調製した。チオアセトアミド7.51g(0.10モル)を取り、イオン交換水200gに溶解し、溶液Bを調製した。1Lの三つ口フラスコに還流管および温度計を装着し、直径0.20mの攪拌翼を取り付け、溶液Aを加えた。そこに溶液Bを添加し、攪拌翼の回転速度を11.3rpmに設定してレイノルズ数50で攪拌しながら、95℃まで昇温した。95℃に到達した後、3時間保持し、室温まで冷却した。析出物をデカンテーションし、イオン交換水200gで3回遠心分離しながら洗浄し、100℃にて12時間真空乾燥し、蛍光体6.93gを得た。得られた蛍光体の粒度分布図を図8に、SEM観察結果を図9に、紫外線励起蛍光スペクトルを図10に示す。更に、X線回折図を図11に示す。このとき、2θ=28.5°の半価幅は2.9であった。
比較例1
蟻酸亜鉛に代えて、酢酸亜鉛91.7gを使用した以外は、実施例1と同様に行い、蛍光体38.67gを得た。得られた蛍光体は紫外線を照射しても可視光域に蛍光スペクトルが認められなかった。X線測定の結果、回折像は得られなかった。
比較例2
蟻酸亜鉛に代えて、硫酸亜鉛128.7gを使用した以外は、実施例1と同様に行い、蛍光体38.22gを得た。得られた蛍光体は紫外線を照射しても可視光域に蛍光スペクトルが認められなかった。
比較例3
実施例1において、攪拌翼の回転速度を27rpmに設定してレイノルズ数が120となるように攪拌した以外は、実施例1と同様に行い、蛍光体40.3gを得た。得られた蛍光体のSEM観察図を図10に示す。得られた蛍光体は紫外線を照射しても可視光域に蛍光スペクトルが認められなかった。また、生成した粒子は不規則な形状を有し、無秩序に重なり合っており、球状に成長した粒子はほとんどみられない。
実施例1及び実施例5で得られた硫化亜鉛粒子は、粒度分布図が示すように粒度が比較的揃っており、10μm未満の粒径を有するものが大半を占める(図1、図8)。また、SEM観察写真が示すように、粒子の形状はほぼ球状である(図2、図9)。また、これらの硫化亜鉛粒子は、X線回折スペクトル図(図4、11)が示すとおり、単一の結晶相(立方晶)からなる。これらの硫化亜鉛粒子は焼成処理を行うことなく、励起紫外光の照射下で蛍光を示す(図3、図10)。
実施例1で得られた硫化亜鉛粒子を焼成して得られる蛍光体は、焼成前とは異なる蛍光スペクトルの形状を示し、蛍光の色調にも変化が現れた(図5〜7)。
本発明製造方法によれば、蛍光体としての性能を低下させることなく、高品質な蛍光体を工業的に有利に製造することができるので、産業上の有用性が大きい。

Claims (6)

  1. 金、銀、銅、マンガン及び希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物、II族金属蟻酸塩、共付活剤、並びに硫化剤を水性媒体中でレイノルズ数が100以下となるように攪拌混合し、蛍光体粒子を生成させることを特徴とする硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
  2. 該硫化剤が、硫化水素または有機硫黄化合物である、請求項1記載の硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
  3. 該有機硫黄化合物が、チオアミド類及び/又はチオ尿素である、請求項2記載の硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
  4. 反応温度が30℃〜100℃である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
  5. 該蛍光体粒子を焼成することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の硫化亜鉛系蛍光体の製造方法。
  6. X線回折による2θ=28.5°における半価幅が2.0〜3.0である結晶性粒状物としての硫化亜鉛系蛍光体。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2015064520A (ja) * 2013-09-26 2015-04-09 株式会社ニコン 焦点検出装置および撮像装置
CN113801656A (zh) * 2021-10-27 2021-12-17 上海应用技术大学 一种无掺杂缺陷型氧硫化锌发光粉及其制备方法

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