以下、本発明を具体化した一実施形態について、図1〜図20を参照して説明する。なお、以下の記載においては、車両の進行方向(前進方向)を前方として説明する。
図1〜図3(A)の少なくとも1つに示すように、車両においてボディサイド部11の車内側の近傍には車両用シート12が配置されている。ここで、ボディサイド部11とは、車両の側部に配置された部材を指す。例えば、前席に対応するボディサイド部11は、フロントドア、センターピラー(Bピラー)等である。また、後席に対応するボディサイド部11は、サイドドア(リアドア)の後部、Cピラー、タイヤハウスの前部、リアクォータ等である。
車両用シート12は、シートクッション(座部)13と、そのシートクッション13の後側から起立し、かつ傾き調整機構(図示略)を有するシートバック(背もたれ部)14とを備えて構成されている。シートバック14の車外側の側部には収納部15が設けられており、サイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールAMがこの収納部15に収納されている。収納部15の位置は、車両用シート12に着座した乗員Pの斜め後方近傍となる。エアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ20(図5参照)及びエアバッグ30を主要な構成部材として備えている。
次に、これらの構成部材の各々について説明する。ここで、本実施形態では、エアバッグモジュールAM及びその構成部材について「上下方向」、「前後方向」というときは、車両用シート12のシートバック14を基準としている。シートバック14の起立する方向を「上下方向」とし、この方向に対し車両の略前後方向に直交する方向を「前後方向」としている。通常、シートバック14は後方へ傾斜した状態で使用されることから、「上下方向」は厳密には鉛直方向ではなく、多少傾斜している。同様に、「前後方向」は厳密には水平方向ではなく、多少傾斜している。
<インフレータアセンブリ20>
図4は、エアバッグ30が膨張用ガスGを充填させることなく平面状に展開させられた状態(以下「平面展開状態」という)のエアバッグモジュールAMを、乗員Pとともに模式的に示している。また、図5は、図4のエアバッグ30内に配置されたインフレータアセンブリ20を示している。さらに、図6は、図5のインフレータアセンブリ20を斜め後ろ上方から見た状態を示している。これらの図4〜図6の少なくとも1つに示すように、インフレータアセンブリ20は、ガス発生源としてのインフレータ21と、そのインフレータ21を外側から覆うリテーナ22とを備えて構成されている。インフレータ21は略上下方向に細長い略円柱状をなしており、その内部には、外部からの作動信号に応じて反応して膨張用ガスGを生ずるガス発生剤(図示略)が収容されている。
インフレータ21の上部には、同インフレータ21への作動信号の印加配線となるハーネス(図示略)が接続されている。また、インフレータ21の下端部側には、略円柱状をなし、かつ他の箇所よりも小径のガス噴出部23が設けられている。このガス噴出部23の外周面には、上記ガス発生剤が発生した膨張用ガスGをインフレータ21の軸線L1に直交する方向(径方向)へ噴出する複数のガス噴出孔24が設けられている。
なお、インフレータ21としては、上記ガス発生剤を用いたタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスGを噴出させるタイプが用いられてもよい。
一方、リテーナ22は、ディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ21をエアバッグ30と一緒にシートバック14内のシートフレーム16(図6参照)に固定する機能を有する部材である。リテーナ22の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって、略上下方向に細長い略円筒状に形成されている。リテーナ22の少なくとも下端側は開放端22Aとなっており(図5参照)、ガス噴出部23から噴出される膨張用ガスGの少なくとも一部の略下方への通過を許容する。なお、図5では、上記開放端22Aを図示するためにリテーナ22の下端部の一部が破断されて図示されている。
リテーナ22において開放端22Aよりも上側、かつインフレータ21のガス噴出部23の近傍には窓部25が設けられている。この窓部25は、ガス噴出部23から噴出される膨張用ガスGの少なくとも一部の略前方への通過を許容する。
リテーナ22には、これを上記シートフレーム16に取付けるための係止部材として、複数本(本実施形態では2本)のボルト26が固定されている。表現を変えると、ボルト26が、リテーナ22を介してインフレータ21に間接的に固定されている。これらのボルト26は、インフレータ21の軸線L1に直交する方向へ向けて延びている。
なお、インフレータアセンブリ20は、インフレータ21とリテーナ22とが一体になったものであってもよい。
<エアバッグ30>
図1〜図3(A)の少なくとも1つに示すように、エアバッグ30は、車両の走行中等に側突等により衝撃が外側方(図2では下方、図3(A)では左方)からボディサイド部11に加わったときに、上記インフレータ21からの膨張用ガスG(図5及び図6参照)により膨張展開する。そして、エアバッグ30は、その一部を収納部15内に残した状態で同収納部15から車両の略前方へ向けて飛び出し、車両用シート12及びボディサイド部11間の隙間G1で膨張展開することにより乗員Pを拘束して上記衝撃から保護するためのものである。
図7は、エアバッグモジュールAMの内部構造を示している。ただし、図7では、図4とは異なり、シートバック14が略鉛直状に起立させられたときのエアバッグモジュールAMの内部構造が示されている。また、図7では、エアバッグモジュールAM(インフレータアセンブリ20を除く)の車内側の半分が示されている。この図7に示すように、エアバッグ30は、それぞれ袋状をなす第1膨張体31及び第2膨張体32を備えて構成されている。第1膨張体31の多くの部分は、第2膨張体32よりも上側に位置している。
次に、上記図4及び図7に加えて図8〜図10を参照し、上記第1膨張体31及び第2膨張体32について、(i)第2膨張体32単独の形態、(ii)第1膨張体31単独の形態、(iii )第1膨張体31及び第2膨張体32を結合した形態、の順に説明する。
ここで、図8は、図7のエアバッグ30を構成する第1膨張体31及び第2膨張体32の各車内側部分を、上下方向に分離させた状態で示している。さらに、図9は、第2膨張体32等を平面状に展開させた状態を示し、図10は、第1膨張体31等を平面状に展開させた状態を示している。
(i)第2膨張体32単独の形態
図4、図7〜図9の少なくとも1つに示すように、第2膨張体32は、1枚の布帛からなるパネル布(基布とも呼ばれる)33を用いて形成されている。パネル布33としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸やポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。パネル布33は、その中央部分に設定された折り線34に沿って二つ折りされることによって車幅方向に重ね合わされている。ここでは、エアバッグ30の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、車内側に位置するものを布帛部35といい、車外側に位置するものを布帛部36というものとする。パネル布33においては、両布帛部35,36の外形形状が、折り線34を対称軸として互いに線対称の関係にある。
両布帛部35,36は、それらの上部を除く周縁部に設けられた周縁結合部37により結合されている。周縁結合部37は、両布帛部35,36を縫合することによって形成されている。この両布帛部35,36において、周縁結合部37によって結合(縫合)されていない箇所、より正確には後述する区画結合部61との間は、第2膨張体32の膨張に供した膨張用ガスGをエアバッグ30の外部へ排出するための排気口40となっている。なお、この排気口40の部分にも周縁結合部37が設けられて両布帛部35,36が結合され、同排気口40が塞がれてもよい。
第2膨張体32内の下部であって、周縁結合部37によって囲まれた箇所は、乗員Pの主として腰部PPとボディサイド部11との間において、比較的高い内圧で膨張展開して同腰部PPを拘束及び保護する「下膨張部EL」となっている。この下膨張部ELは、後述する中央膨張部ECの下方側に位置している。また、第2膨張体32内の上部であって、周縁結合部37の設けられていない箇所は挿入部38を構成している。この挿入部38のうち、折り線34よりも前側の近傍部分は、上述したインフレータアセンブリ20を収納するためのインフレータ収納部39を構成している。
両布帛部35,36は、挿入部38の前縁部38Fにおいては相互に縫合されていない。インフレータ収納部39と挿入部38の外部(前方部分)とは繋がっている(連通されている)。
(ii)第1膨張体31単独の形態
図4、図7、図8及び図10の少なくとも1つに示すように、第1膨張体31は、上記第2膨張体32と同様の素材からなる1枚の布帛からなるパネル布41を用いて形成されている。パネル布41は、その中央部分に設定された折り線42に沿って二つ折りされることによって車幅方向に重ね合わされている。ここでは、第1膨張体31の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、車内側に位置するものを布帛部43といい、車外側に位置するものを布帛部44というものとする。パネル布41においては、両布帛部43,44の外形形状が、折り線42を対称軸として互いに線対称の関係にある。
両布帛部43,44は、それらの下部を除く周縁部に設けられた周縁結合部45により結合されている。第1膨張体31の下部であって上記折り線42よりも前側の近傍部分は、被挿入部47を構成している。
第1膨張体31内の上部には、略前後方向に延びるテザー51が設けられている。テザー51は、図7、図10及び図11の少なくとも1つに示すように、車幅方向に一対の構成片52,53を備えている。各構成片52,53は、第1膨張体31と同様、布帛によって、上下方向に対するよりも前後方向に細長い長方形状に形成されている。各構成片52,53の前端部は布帛部43,44の上部前端に達し、後端部は同布帛部43,44の上部後端から前方へ離れている。車内側の構成片52は、その下縁部に沿って前後方向へ延びるように設けられた下結合部54によって車内側の布帛部43に結合されている。また、車外側の構成片53は、その下縁部に沿って前後方向へ延びるように設けられた下結合部55によって車外側の布帛部44に結合されている。これらの下結合部54,55の前端は周縁結合部45の上部前端に達しており、後端は第1膨張体31の前後方向中央部付近に位置している。さらに、両構成片52,53は、それらの上縁部に沿って前後方向に延びるように設けられた上結合部56によって相互に結合されている。本実施形態では、下結合部54,55及び上結合部56が、縫糸を用いた縫合によって形成されている。このようにして、両構成片52,53からなるテザー51は、第1膨張体31の両布帛部43,44間に架け渡されている。このテザー51では、エアバッグ30の非膨張時には、構成片52,53の大部分が重なり合った状態となる(図11(A)参照)。
図4に示すように、第1膨張体31の内部空間は、テザー51を境として、それよりも上側の上膨張部EUと、下側の中央膨張部ECとに区画されている。上膨張部EUは、乗員Pの主として肩部PSとボディサイド部11との間において、比較的高い内圧で膨張展開して同肩部PSを拘束及び保護する(図3(A)参照)。また、中央膨張部ECは、乗員Pの胸部PT及び腹部PB(これらを区別する必要がない場合には、「胸部PT等」という)とボディサイド部11との間において、上記上膨張部EUよりも低い内圧で膨張展開して胸部PT等を拘束及び保護する(図3(A)参照)。中央膨張部ECは上膨張部EUの下方側に位置している。また、上記テザー51は、第1膨張体31が車幅方向へ膨張するときの厚みを規制する機能も有する。
なお、上記テザー51に代えてシームにより第1膨張体31の内部空間が上膨張部EU及び中央膨張部ECに区画されてもよい。シームは、両布帛部43,44を相互に接近させた状態で結合するものであり、多くの場合、両布帛部43,44を重ね合わせた状態で縫糸によって縫合することによって形成される。
また、第1膨張体31において、乗員Pの腕部PAに対応する箇所、ここではテザー51の後端部近傍となる箇所には、環状の閉じ部57が設けられている。閉じ部57は、上部開口OUに設けられた後述する上部弁80を逆止弁として機能させるためのものであり、両布帛部43,44を縫糸で環状に縫合することによって形成されている。
(iii )第1膨張体31及び第2膨張体32を結合した形態
図7〜図10の少なくとも1つに示すように、上記第2膨張体32の挿入部38は、その折り線34を第1膨張体31の折り線42に略合致させた状態で被挿入部47内に挿入及び配置されている。この配置により、被挿入部47が挿入部38の外側に重ね合わされている。
挿入部38の車内側部分は、内結合部58により被挿入部47の車内側部分に結合されている。同様に、挿入部38の車外側部分は、内結合部59により被挿入部47の車外側部分に結合されている。これらの内結合部58,59は、単に、挿入部38及び被挿入部47における車内側部分同士を結合するとともに車外側部分同士を結合するものであり、車内側部分と車外側部分とを相互に結合するものではない。
また、挿入部38の車内側部分及び車外側部分と、その外側に重なっている被挿入部47の車内側部分及び車外側部分とは、略前後方向に延びる区画結合部61により一体に結合されている。この区画結合部61により、第1膨張体31の内部空間と第2膨張体32の内部空間とが互いに上下に区画されている。すなわち、単に挿入部38を被挿入部47内に挿入配置しただけでは、第1膨張体31の内部空間と第2膨張体32の内部空間とは連通した状態となるが、区画結合部61が設けられることで両内部空間が上下に2つに仕切られている。さらに、本実施形態では、挿入部38の車内側部分及び車外側部分と、その外側に重なっている被挿入部47の車内側部分及び車外側部分とは、第1膨張体31の上述した周縁結合部45の後部の一部(符号45Aにて示される箇所)によって一体に結合されている。
上記区画結合部61によって区画されて、第1膨張体31から独立した第2膨張体32は、乗員Pの主として腰部PPの車外側近傍において、比較的高い内圧で膨張展開して同腰部PPを拘束及び保護するための膨張部(下膨張部EL)となっている。
上述したインフレータアセンブリ20は、図4に示すように、前側ほど低くなるように傾斜させられた姿勢で、エアバッグ30のインフレータ収納部39内に配設されている。インフレータアセンブリ20の大部分は中央膨張部EC内に位置している。リテーナ22に固定された両ボルト26は、車内側の布帛部35,43等(後述するインナバッグ70の車内側の布帛部72も含まれる)の後端部に挿通されている(図5及び図6参照)。なお、エアバッグ30は、上記周縁結合部45Aの近傍で同エアバッグ30の外側に装着された環状の締結具(図示略)によって、インフレータアセンブリ20の上端部に気密状態で締結されている。
さらに、本実施形態では、図7、図9及び図10の少なくとも1つに示すように、上記エアバッグ30の内部に、インナバッグ70と、それぞれ逆止弁からなる上部弁80及び下部弁90とが配設されている。次に、これらの部材について説明する。
<インナバッグ70>
インナバッグ70は、主として、インフレータ21からの膨張用ガスGをエアバッグ30内の略上方、略前方及び略下方の3方向へ導くとともに、自身が膨張することで、同エアバッグ30の中央膨張部ECの概ね後半分を、展開の初期に膨張させるためのものであり、次の条件(I)を満たす態様で中央膨張部ECに配設されている。その条件(I)とは、エアバッグ30が膨張展開し、かつ鉛直状態に配置した状態では、インナバッグ70の前端70Fが、中央膨張部ECの前端ECFよりも後方、かつ車両用シート12におけるシートバック14の前端14Fよりも前方に位置することである。本実施形態では、インナバッグ70の前端縁71は、第1膨張体31の前後方向中央部の近傍において、略上下方向へ直線状に延びている。前端縁71の上端は閉じ部57の前方近傍に位置し、前端縁71の下端は中央膨張部EC(第1膨張体31)の下部(下端)に位置している。また、インナバッグ70の後端は、第1膨張体31の後端と略同じ箇所に位置している。
インナバッグ70は、上述した第1膨張体31や第2膨張体32とは異なり、車内側に位置する布帛部72と、その車外側に布帛部72から独立した状態で位置する布帛部73とを備えている。車内側の布帛部72は、上述した内結合部58の上部58Uによって第1膨張体31の車内側の布帛部43に結合されるとともに、同内結合部58の残部58Lによって第1膨張体31の車内側の布帛部43と、第2膨張体32の車内側の布帛部35とに結合されている。また、車内側の布帛部72の上端部は、車両前後方向へ直線状に延びる別の内結合部74によって第1膨張体31の車内側の布帛部43に結合されている。この内結合部74の前端は上記閉じ部57に達し、後端は布帛部43の上部後端縁に達している。
同様に、インナバッグ70の車外側の布帛部73は、上述した内結合部59の上部59Uによって第1膨張体31の車外側の布帛部44に結合されるとともに、同内結合部59の残部59Lによって第1膨張体31の車外側の布帛部44と、第2膨張体32の車外側の布帛部36とに結合されている。また、車外側の布帛部73の上端部は、車両前後方向へ直線状に延びる別の内結合部75によって第1膨張体31の車外側の布帛部44に結合されている。この内結合部75の前端は上記閉じ部57に達し、後端は布帛部44の上部後端縁に達している。
インナバッグ70の両布帛部72,73は、それらの前縁部に沿って設けられた結合部76によって相互に結合されている(図7参照)。この結合部76は、両布帛部72,73の上下方向についての略中央部には設けられておらず、この結合部76の設けられていない箇所は、中間部開口OCとなっている。インナバッグ70の内部空間は、この中間部開口OCを通じて中央膨張部ECに連通されている。中間部開口OCは、中央膨張部ECのうち、インナバッグ70の配置されていない箇所に向かって、ここでは前方に向かって開口している。
さらに、インナバッグ70の両布帛部72,73は、上述した閉じ部57によって、テザー51の両構成片52,53及び第1膨張体31の両布帛部43,44に一体に結合されている。また、インナバッグ70の両布帛部72,73は、上述した区画結合部61によって、第1膨張体31の両布帛部43,44と、第2膨張体32の両布帛部35,36とに一体に結合されている。
図12は、インナバッグ70における片方(車内側)の布帛部72を示している。図7及び図12の少なくとも一方に示すように、インナバッグ70は、自身の上端部において、より正確には、閉じ部57と第1膨張体31における周縁結合部45の上部後端との間において、布帛部43,44に対して内結合部74,75にて結合されているが、布帛部72,73同士は結合されていない。インナバッグ70における、この布帛部72,73同士の非結合部分を、「上部開口OU」というものとする。インナバッグ70の内部空間は、この上部開口OUを通じて上膨張部EUに連通している。上部開口OUは、上膨張部EUに向かって、ここでは略上方に向かって開口している。
また、インナバッグ70は、自身の下端部において、より正確には区画結合部61の後端と、第2膨張体32の折り線34との間において、布帛部35,36に対して内結合部58,59にて結合されているが、布帛部72,73同士は結合されていない。インナバッグ70における、この布帛部35,36同士の非結合部分を、「下部開口OL」というものとする。なお、内結合部58,59は、周縁結合部45と交差している(図7参照)。インナバッグ70の内部空間は、この下部開口OLを通じて下膨張部ELに連通している。下部開口OLは、下膨張部ELに向かって、ここでは略下方に向かって開口している。
さらに、本実施形態では、中間部開口OCの流路面積をSCとし、上部開口OUの流路面積をSUとし、下部開口OLの流路面積をSLとすると、SC<SU、かつSC<SLの関係を満たすように、各流路面積SC,SU,SLがそれぞれ設定されている。流路面積SU,SLは同程度の大きさに設定されている。
<上部弁80>
図10、図13及び図15(A)の少なくとも1つに示すように、上部弁80は、インナバッグ70から上膨張部EUへの膨張用ガスGの流通のみを許容する弁であり、少なくとも上膨張部EUにおける上部開口OUの近傍に設けられている。上部弁80の位置は、エアバッグ30の展開状態において、車両の後方側である。
上部弁80は、車内側に位置する布帛部81と、その車外側に布帛部81から独立した状態で位置する布帛部82とを備えている。布帛部81,82の各下端部は、上部開口OUにおいてインナバッグ70の上端内部に配置されている。
布帛部81,82のインナバッグ70及びエアバッグ30との結合のために、上述した内結合部74,75と、閉じ部57の一部とが利用されている。すなわち、車内側の布帛部81の下端部は、車内側の内結合部74によって、インナバッグ70の車内側の布帛部72と一緒に第1膨張体31の車内側の布帛部43に結合されている。また、車外側の布帛部82の下端部は、車外側の内結合部75によって、インナバッグ70の車外側の布帛部73と一緒に第1膨張体31の車外側の布帛部44に結合されている。この場合、上記内結合部74は、上部弁80及びインナバッグ70の車内側の各布帛部81,72を、第1膨張体31の車内側の布帛部43に縫着(共縫い)することによって形成されていることとなる。また、上記内結合部75は、上部弁80及びインナバッグ70の各車外側の布帛部82,73を、第1膨張体31の車外側の布帛部44に縫着(共縫い)することによって形成されていることとなる。車内側の布帛部81の下端部と車外側の布帛部82の下端部とは相互に結合されていない。
また、両布帛部81,82の前端部は、閉じ部57の一部によって、インナバッグ70の両布帛部72,73と、テザー51の両構成片52,53と一緒に、第1膨張体31の両布帛部43,44に結合されている。この場合、閉じ部57は、第1膨張体31、テザー51、インナバッグ70及び上部弁80を縫合(共縫い)することによって形成されていることとなる。
さらに、両布帛部81,82の後端部には、上下方向に延びる結合部83が設けられており、両布帛部81,82がこの結合部83によって相互に結合されている。この結合部83の下端83L(図13参照)はインナバッグ70の布帛部72,73の上端部に至っており、両布帛部81,82の後部下端がインナバッグ70にも結合されている。上記結合部83は、上部弁80においてインナバッグ70の外部に配置されている部分では、両布帛部81,82の後端部を縫合することにより形成されている。また、結合部83は、上部弁80において、インナバッグ70内に配置されている部分(下端83L)では、上部弁80及びインナバッグ70を縫合することによって形成されている。
上記両布帛部81,82の上部には、前側ほど低くなるように傾斜した傾斜部84が設けられている。この傾斜部84においては、両布帛部81,82が相互に結合されていない。また、上述したように、両布帛部81,82は、それらの下端部においてインナバッグ70及び第1膨張体31の対応する布帛部72,73,43,44に結合されているが、同布帛部81,82同士は結合されていない。従って、上部弁80は、傾斜部84及び下端部において開放された筒状をなしていることになる。
上記のように、車内側の布帛部81が内結合部74によって第1膨張体31の車内側の布帛部43に結合されていることから、膨張用ガスGは両布帛部81,43間を通って上膨張部EUから中央膨張部ECへ向けて、又はその逆方向へ向けて流れることが不能である。同様に、車外側の布帛部82が内結合部75によって第1膨張体31の車外側の布帛部44に結合されていることから、膨張用ガスGは両布帛部82,44間を通って上膨張部EUから中央膨張部ECへ向けて、又はその逆方向へ向けて流れることが不能である。膨張用ガスGは、上部弁80の両布帛部81,82間を流路として通ることをもってのみ、上膨張部EUから中央膨張部ECへ向けて、又はその逆方向へ向けて流れることが可能である。
ここで、両布帛部81,82の下端部はテザー51の後方近傍に位置し、中央膨張部ECに臨んでいる。また、両布帛部81,82の傾斜部84は、上膨張部EU内の下部で、かつテザー51の後方近傍に位置している。
また、上記のようにして布帛部81,82は、それらの下端部及び前端部において、第1膨張体31の布帛部43,44に結合されている。両布帛部81,82は、それ以外の箇所においては布帛部43,44に対し結合されていない。こうした構成の上部弁80の一部(上部)は、他の箇所よりも折れ曲がりやすくなっている。上部弁80の上記箇所(上部)は、中央膨張部ECの内圧が上膨張部EUの内圧よりも高いときには伸長して上部開口OUを開放し(図15(B)参照)、低いときには上部開口OUを閉塞する様に折れ曲がる(図15(C)参照)可曲部88となっている。
<下部弁90>
図9、図14及び図16(A)の少なくとも1つに示すように、下部弁90は、インナバッグ70から下膨張部ELへの膨張用ガスGの流通のみを許容する弁であり、下膨張部ELにおける下部開口OLの近傍に設けられている。下部弁90の位置は、エアバッグ30の展開状態において、車両の後方側である。この下部弁90は基本的には、上述した上部弁80と同様の構成を有している。すなわち、下部弁90は、車内側に位置する布帛部91と、その車外側に布帛部91から独立した状態で位置する布帛部92とを備えている。布帛部91,92の各上端部は、下部開口OLにおいてインナバッグ70の下端内部に配置されている。
両布帛部91,92のインナバッグ70及びエアバッグ30との結合のために、上述した内結合部58,59の一部と、区画結合部61の一部とが利用されている。すなわち、車内側の布帛部91の上端部は、車内側の内結合部58によって、インナバッグ70の車内側の布帛部72と一緒に第1膨張体31及び第2膨張体32の各車内側の布帛部43,35に結合されている。また、車外側の布帛部92の上端部は、車外側の内結合部59によって、インナバッグ70の車外側の布帛部73と一緒に第1膨張体31及び第2膨張体32の各車外側の布帛部44,36に結合されている。この場合、上記内結合部58は、下部弁90及びインナバッグ70の各車内側の布帛部91,72を、第1膨張体31及び第2膨張体32の各車内側の布帛部43,35に縫着(共縫い)することによって形成されていることとなる。また、上記内結合部59は、下部弁90及びインナバッグ70の各車外側の布帛部92,73を、第1膨張体31及び第2膨張体32の各車外側の布帛部44,36に縫着(共縫い)することによって形成されていることとなる。車内側の布帛部91の上端部と車外側の布帛部92の上端部とは相互に結合されていない。
また、両布帛部91,92の前端部は、区画結合部61の一部によって、インナバッグ70と一緒に、第1膨張体31及び第2膨張体32に結合されている。この場合、区画結合部61は、第1膨張体31、第2膨張体32、インナバッグ70及び下部弁90を縫合(共縫い)することによって形成されていることとなる。
さらに、下部弁90における両布帛部91,92の後端部には、上下方向に延びる結合部93が設けられており、両布帛部91,92がこの結合部93によって相互に結合されている。この結合部93の上端93U(図14参照)はインナバッグ70の下端部に至っており、両布帛部91,92の上端後部がインナバッグ70にも結合されている。上記結合部93は、下部弁90においてインナバッグ70の外部に配置されている部分では、両布帛部91,92の後端部同士を縫合することにより形成されている。また、結合部93は、下部弁90において、インナバッグ70内に配置されている部分(上端93U)では、下部弁90及びインナバッグ70を縫合することによって形成されている。
上記両布帛部91,92の下部には、前側ほど高くなるように傾斜した傾斜部94が設けられている。傾斜部94の傾斜態様は、上記上部弁80における傾斜部84の傾斜態様と逆である。この傾斜部94においては、両布帛部91,92が相互に結合されていない。また、上述したように、両布帛部91,92は、それらの上端部においてインナバッグ70、第1膨張体31及び第2膨張体32の対応する布帛部72,73,43,44,35,36に結合されているが、両布帛部91,92同士は結合されていない。従って、下部弁90は、傾斜部94及び上端部において開放された筒状をなしていることになる。
上記のように、車内側の布帛部91が内結合部58によって第2膨張体32の車内側の布帛部35に結合されていることから、膨張用ガスGは車内側の両布帛部91,35間を通って下膨張部ELから中央膨張部ECへ向けて、又はその逆方向へ向けて流れることが不能である。同様に、車外側の布帛部92が内結合部59によって第2膨張体32の車外側の布帛部36に結合されていることから、膨張用ガスGは車外側の両布帛部92,36間を通って下膨張部ELから中央膨張部ECへ向けて、又はその逆方向へ向けて流れることが不能である。膨張用ガスGは、下部弁90の両布帛部91,92間を流路として通ることをもってのみ、下膨張部ELから中央膨張部ECへ向けて、又はその逆方向へ向けて流れることが可能である。
ここで、両布帛部91,92の上端部は区画結合部61の後方近傍に位置し、中央膨張部ECに臨んでいる。また、両布帛部91,92の傾斜部94は、下膨張部EL内の上部で、かつ区画結合部61の後方近傍に位置している。そして、インフレータアセンブリ20のリテーナ22が、その下端部のみにおいて下部弁90内の上部に入り込んでいる。
また、上記のようにして両布帛部91,92は、それらの上端部及び前端部において両布帛部35,36に結合されている。両布帛部91,92は、それ以外の箇所においては布帛部35,36に対し結合されていない。こうした構成の下部弁90の一部(下部)は、他の箇所よりも折れ曲がりやすくなっている。下部弁90の上記箇所は、中央膨張部ECの内圧が下膨張部ELの内圧よりも高いときには伸長して下部開口OLを開放し(図16(B)参照)、低いときには下部開口OLを閉塞する様に折れ曲がる(図16(C)参照)可曲部98となっている。
ところで、エアバッグモジュールAMは、上記平面展開状態のエアバッグ30(図4参照)が折り畳まれることにより、図17に示すようにコンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている。これは、エアバッグモジュールAMをシートバック14における限られた大きさの収納部15(図1及び図2参照)に確実に収納するためである。
図17及び図18の少なくとも一方に示すように、上記収納用形態のエアバッグ30は、第1の折り畳み部30A、第2の折り畳み部30B及び第3の折り畳み部30Cを有している。第1の折り畳み部30Aは、図18に示す平面展開状態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも前側部分101に対し、前方から後方へ向けた折り畳みのみが行なわれることにより形成されたものの一部である。第1の折り畳み部30Aの多くは中央膨張部ECからなり、インフレータアセンブリ20の前方近傍に位置している。第2の折り畳み部30Bは、第1の折り畳み部30A形成のための上記折り畳みに加え、エアバッグ30においてインフレータアセンブリ20よりも上側部分102が前下方へ折り返されることにより形成されたものであり、上記第1の折り畳み部30Aの前方近傍に位置している。第3の折り畳み部30Cは、第1の折り畳み部30A形成のための上記折り畳みに加え、エアバッグ30においてインフレータアセンブリ20よりも下側部分103がさらに下方から上方へ向けて折り畳まれることにより形成されたものである(図19参照)。
平面展開状態のエアバッグ30は、下記工程(中間形態への変形工程、第2の折り畳み部の形成工程、第3の折り畳み部の形成工程)を経て収納用形態にされる。次に、各工程について説明する。
<中間形態への変形工程>
この工程では、図18に示すように、平面展開状態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも前側部分101が蛇腹折りされる。ここでの蛇腹折りは、エアバッグ30を、一定幅ずつ順に折り畳むという、エアバッグ30の折り態様の1つである。この蛇腹折りに際しては、平面展開状態のエアバッグ30に対し略上下方向へ直線状に延びる複数本の折り線(山折り線104及び谷折り線105)が設定される。これらの山折り線104及び谷折り線105の設定により、上記前側部分101が複数の被折り畳み部101Aに区画される。山折り線104及び谷折り線105の間隔は、蛇腹折りにおける折り幅H1となる。
そして、エアバッグ30が、これらの山折り線104及び谷折り線105に沿って、矢印Cで示すように前方から後方に向けてインフレータアセンブリ20の近傍まで、上記折り幅H1ずつ順に蛇腹状に折り畳まれる。すなわち、被折り畳み部101Aにおいて隣り合う折り線(山折り線104、谷折り線105)によって挟まれた面が重なるようにして、上記エアバッグ30が折り畳まれる。折り畳み後には、図19(A)に示すように、上記複数の被折り畳み部101Aの上記面がいずれも前後方向に対し略直交した状態となる。表現を変えると、複数の被折り畳み部101Aが前後方向に積層された(束ねられた)状態となり、エアバッグ30は上下方向に長く、かつ前後方向の寸法の小さな中間形態となる。
<第2の折り畳み部の形成工程>
図17及び図19(A),(B)の少なくとも1つに示すように、この工程では、上記中間形態のエアバッグ30においてインフレータアセンブリ20よりも上側部分102が、条件(II)を満たす態様で前下方へ折り返される。その条件(II)とは、上側部分102のうち後述する折り返された部分106の少なくとも一部が、中央膨張部ECと上膨張部EUとの境界部107よりも下方に位置することである。表現を変えると、上記条件(II)は、折り返された部分106の下端106Lが、上記境界部107よりも低い箇所に位置することである。ここでは、上記上側部分102に対し、境界部107よりも上方において、車幅方向へ直線状に延びる1本の折り線108が設定される。そして、上側部分102において折り線108よりも上側の部分が折り線108に沿って前下方へ折り返される。この折り返しにより、第1の折り畳み部30Aの前方近傍に第2の折り畳み部30Bが形成される。第2の折り畳み部30Bの形成により、エアバッグ30の上下方向の寸法が、上記中間形態への変形工程を経た段階よりも小さくなる。
<第3の折り畳み部の形成工程>
この工程では、上記中間形態のエアバッグ30(図19(A),(B)参照)において、インフレータアセンブリ20よりも下側部分103が折り畳まれる。この折り畳みに際しては、下側部分103に対し、それぞれ略車幅方向(図19(B)の左右方向)へ直線状に延びる複数本の折り線109が設定される。
ここで、折り線109の上記設定に先立ち、上述したように、平面展開状態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも前側部分101に対し前方から後方へ向かう蛇腹状の折り畳みが行われていて、その被折り畳み部101Aが前後方向に対し略直交している。従って、中間形態のエアバッグ30を収納用形態にする際に、同エアバッグ30の下側部分103に対し車幅方向に延びる折り線109を設定することは、他の方向へ延びる折り線を設定することよりも容易になし得る。
折り線109の上記設定により、下側部分103が複数の矩形の被折り畳み部103Aに区画される。隣り合う折り線109の間隔は、折り畳みが行われる際の折り幅H2となる。そして、下側部分103が、これらの折り線109に沿って、図19(B)の矢印Dで示すように下方から上方に向けて、上記折り幅H2ずつ順に蛇腹状に折り畳まれる。本実施形態では、複数の被折り畳み部103Aについて、最下部のもの(符号103A1にて図示)のみが、それ以外のもの(符号103A2にて図示)とは異なる方向へ折り畳まれる。最下部以外の被折り畳み部103A2は、一定幅(折り幅H2)ずつ交互に折り方向を変えながら下方へ向けて折り重ねられるのに対し、最下部の被折り畳み部103A1は、その隣の被折り畳み部103A2の前端103Fにおいて上方へ折り重ねられる。上記の折り畳みにより、インフレータアセンブリ20の下方に第3の折り畳み部30Cが形成される。
この際、前後方向に略直交する被折り畳み部103Aに対し車幅方向に延びるよう設定された折り線108に沿って上記下側部分103を折り畳むことは、他の方向へ伸びる折り線に沿って折り畳むことよりも容易になし得る。
上記複数の被折り畳み部103Aは、いずれも上下方向に対し略直交した状態となる。表現を変えると、全ての被折り畳み部103Aが上下方向に積層された(束ねられた)状態となる。
第3の折り畳み部30Cの形成により、エアバッグ30の上下方向の寸法が、第2の折り畳み部30Bの形成工程を経た段階よりもさらに小さくなる。
なお、上記の工程のうち、第2の折り畳み部30Bの形成工程と、第3の折り畳み部30Cの形成工程とが逆の順に行われてもよい。
こうして、各工程が行なわれることで、図17における第1〜第3の折り畳み部30A〜30Cが形成されて、エアバッグ30が収納用形態にされる。このエアバッグ30を含むエアバッグモジュールAMは、前後方向にも上下方向にも寸法が小さく、狭い収納部15(図1及び図2参照)に対しても収納に適したものとなる。
上記収納用形態にされたエアバッグモジュールAMは、エアバッグ30の各部(第1膨張体31、第2膨張体32、インナバッグ70等)に挿通されたボルト26がシートフレーム16に挿通され、このボルト26にナット17が締め付けられることにより、同シートフレーム16に固定される。
なお、リテーナ22は、上述したボルト26とは異なる部材によって車両(シートフレーム16)に固定されてもよい。
サイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールAMのほかに図1に示す衝撃センサ111及び制御装置112を備えている。衝撃センサ111は加速度センサ等からなり、車両のボディサイド部11等に取付けられており、ボディサイド部11に外側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置112は、衝撃センサ111からの検出信号に基づきインフレータ21の作動を制御する。
上記のようにして、本実施形態のサイドエアバッグ装置が構成されている。次に、このサイドエアバッグ装置の作用を、図20を参照しながら説明する。この図20中、符号Aは、エアバッグ30が膨張展開を完了したときに乗員Pとボディサイド部11との間で占める領域(以下、「保護領域A」という)を示している。
このサイドエアバッグ装置では、側突等により車両に対し側方から衝撃が加わらないときには、エアバッグ30は収納用形態にされて、インフレータアセンブリ20とともに収納部15に収納され続ける。このとき、上部弁80及び下部弁90では、いずれも車内側の布帛部81,91及び車外側の布帛部82,92が互いに接触した扁平状態に保持されている(図15(A)、図16(A)参照)。
これに対し、車両の走行中にボディサイド部11に所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ111によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置112からインフレータ21に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ21では、図5及び図6に示すように、ガス発生剤が高温高圧の膨張用ガスGを発生し、これをガス噴出部23の複数のガス噴出孔24からインフレータ21の軸線L1に直交する方向(径方向)の全方向へ噴出する。膨張用ガスGの多くは、リテーナ22の窓部25を通ってインナバッグ70の略前方へ向けて導出される。
また、膨張用ガスGの一部は、リテーナ22の下側の開放端22Aを通って下膨張部ELの下方へ向けて導出される。すなわち、リテーナ22の窓部25とは異なる箇所とインフレータ21との間の隙間は、一部のガス噴出孔24からの膨張用ガスGの通路となり得る。そのため、ガス噴出孔24から噴出されてリテーナ22に当った膨張用ガスGは、その流れ方向をインフレータ21の軸線L1に沿う2方向(略上方及び略下方)へ変える。ただし、インフレータ21においてガス噴出部23よりも上側の部分は同ガス噴出部23よりも大径状をなしていて、リテーナ22との間の隙間が、ガス噴出部23とリテーナ22との間の隙間よりも小さい。そのため、流れの向きを変えられた膨張用ガスGは略上方へは流れにくく、略下方へは流れやすい。よって、上記のようにリテーナ22に当って流れの向きを変えられた膨張用ガスGの多くは、リテーナ22の下側の開放端22Aを通り、略下方へ向けて流れて下部弁90内及び下膨張部ELへ流れる。
図7及び図12の少なくとも一方に示すように、リテーナ22の窓部25を通ってインナバッグ70に噴出された上記膨張用ガスGにより同インナバッグ70が膨張を開始する。この膨張するインナバッグ70により、その外側の中央膨張部ECが膨張させられる。上記インナバッグ70の膨張によって、まず、中央膨張部ECの後半分の部分(インナバッグ70が内在する部分)が膨張する。ついで、中間部開口OCからのガス流出により、中央膨張部EC全体が膨張し、エアバッグ30の車幅方向の厚みT1が、インナバッグ70単体の膨張時の厚みT2よりも増すこととなる(図3(B)参照)。ここで、図3(B)は、インナバッグ70及びエアバッグ30が膨張状態となったエアバッグモジュールAMについて、図7のZ−Z線に沿った断面構造を示している。
なお、インナバッグ70単体の膨張時における、エアバッグ30の車幅方向の厚み、すなわち中間部開口OCから膨張用ガスGが流出する前のエアバッグ30の厚みをT1’とすると、この厚みT1’は上記厚みT2より若干大きく、上記厚みT1よりも小さくなる。そして、この厚みT1’を、ボディサイド部11と車両用シート12との隙間寸法(T3:図3(A)参照)より小さく設定しておくことが望ましい。この様な設定(T1’<T3)により、ボディサイド部11と車両用シート12との隙間へのエアバッグ30の進入性が向上する。また、インナバッグ70内の膨張用ガスGの一部は、上部開口OUを通じて上部弁80に流れる。
このとき、上膨張部EUには膨張用ガスGが未だ流入しておらず、又はわずかに流入しているにすぎず、同上膨張部EUの内圧は中央膨張部ECの内圧よりも低い。一方、膨張用ガスGが流入しているインナバッグ70では内圧が高くなっている。この内圧差により、上部弁80では、両布帛部81,82を離隔させる力が接近させる力に勝る。そのため、図15(B)に示すように、両布帛部81,82が互いに離隔され、可曲部88を含む上部弁80の全体が上下両端を開放した筒状となり、膨張用ガスGが上部弁80内の流路を通って上膨張部EUへ流れる。
また、このときには、下膨張部ELには膨張用ガスGが未だ流入しておらず、又はわずかに流入しているにすぎず、同下膨張部ELの内圧は中央膨張部ECの内圧よりも低い。一方、膨張用ガスGが流入しているインナバッグ70では内圧が高くなっている。そのため、この内圧差により、下部弁90では上記上部弁80と同様に、図16(B)に示すように、両布帛部91,92が互いに離隔され、可曲部98を含む下部弁90の全体が上下両端を開放した筒状となり、膨張用ガスGが下部弁90内の流路を通って下膨張部ELへ流れる。
また、膨張したインナバッグ70内の膨張用ガスGの一部は、中間部開口OCを通って中央膨張部ECへ流れる。このように流れる膨張用ガスGにより、上膨張部EU、下膨張部EL及び中央膨張部ECがそれぞれ膨張し、折り畳まれた順とは逆の順に折り状態を解消する。後から折り畳まれた部分が、先に折り畳まれた部分の折り状態の解消を規制するからである。
第2の折り畳み部30B形成のための前下方への折り返しが、中間形態への変形のための前方から後方へ向かう折り畳みよりも後に行われている本実施形態では、図17に示す収納用形態のエアバッグ30において、第2の折り畳み部30Bがその折り返された状態を解消する。この解消に際し、第2の折り畳み部30Bは、折り線108を支点とする前上方へ向かう回転(図17における矢印E参照)を伴う。この回転により、折り返された状態が完全に解消されると、第2の折り畳み部30Bが略上下方向に細長い状態となる。
この際、上述したように、膨張するインナバッグ70によってその外側に位置するエアバッグ30の中央膨張部EC(第1の折り畳み部30A)が図20において二点鎖線で示すように前方へ膨張させられる。一方、中央膨張部ECの前方近傍には、中間形態のエアバッグ30において前下方へ折り返された部分106(第2の折り畳み部30B)が位置している。このため、上記のように膨張する中央膨張部EC(第1の折り畳み部30A)により、上記折り返された部分106(第2の折り畳み部30B)が前方へ向かう力(押圧力F)を受ける。この押圧力Fにより、折り返された部分106の折り状態の解消(折り線108を支点とする前上方への回転)が促進される。
また、本実施形態では、第3の折り畳み部30C形成のための下方から上方へ向かう折り畳みが、中間形態への変形のための前方から後方へ向かう折り畳みよりも後に行われている。このことから、インフレータアセンブリ20よりも下側部分103(第3の折り畳み部30C)が、上記の折り返しの解消と略同時に、上方から下方へ向けて折り状態を解消しながら展開する(図17及び図20参照)。ここで、通常、乗員Pの車外側近傍に設けた収納部15の下方近傍には、エアバッグ30の下方への展開を大きく妨げるようなものはない(図4参照)。そのため、エアバッグ30の下側部分103(第3の折り畳み部30C)は収納部15の下方のより低い位置まで容易に展開し得る。この展開によりエアバッグ30は、図20において状態(I)で示すように、略上下方向に細長い形態となる。
この際、下側部分103(第3の折り畳み部30C)では、複数の被折り畳み部103A(103A1,103A2)が上下方向に対し略直交している。このことから、同被折り畳み部103Aにおいて膨張用ガスGの圧力を受けたエアバッグ30の下側部分103(第3の折り畳み部30C)は、折り状態を解消しながら下方へ向けて真っ直ぐ展開する(図20における矢印Jの方向:下方側)。このように下方へ向かう展開の直進性がよいため、エアバッグ30は収納部15下方のより低い位置まで展開しやすくなる。
また、上記展開に際し、被折り畳み部103A1はその隣の被折り畳み部103A2の前端103Fを支点とする後下方へ向かう回転(図17における矢印H参照)を伴う。車両用シート12の上に荷物等の干渉物があった場合、上記の回転の方向は干渉物から遠ざかる方向である。そのため、被折り畳み部103A1が折り状態を解消する際に干渉物に当たって強く押す可能性は、同被折り畳み部103A1が被折り畳み部103A2の後端において上側へ折り返されて上側に重ねられる等して、展開の際に前下方へ向かう回転を伴う場合よりも低くなる。
略上下方向に細長くなった上記エアバッグ30は、そのインフレータ収納部39をシートバック14の収納部15に残した状態で、引き続き図20の状態(II)及び(III )で示すように、ボディサイド部11と車両用シート12との間において、前方へ向けて折り状態を解消しながら展開する(図20における矢印Kの方向:前方側)。エアバッグ30が膨張展開している途中で、すなわちエアバッグ30が完全に膨張展開するよりも前に、インナバッグ70の膨張展開が完了する。インナバッグ70の膨張展開が完了したときには、その前端70Fが、膨張展開状態のエアバッグ30における中央膨張部ECの前端ECFよりも後方、かつシートバック14の前端14Fよりも前方に位置する。換言すれば、中央膨張部ECの概ね後半分が膨張することとなり(図7参照)、同インナバッグ70が乗員Pの少なくとも胸部PT等の側方近傍に位置する。この点においてインナバッグ70は、通常、乗員Pの側方近傍で膨張しないインナチューブとは異なる。そのため、インナバッグ70は、乗員Pを拘束して衝撃から保護する機能も発揮することとなる。
上記エアバッグ30の膨張展開に際し、図3(A)及び図4の少なくとも一方に示すように、上膨張部EUは、ボディサイド部11と、車両用シート12に着座している乗員Pの肩部PSとの間で膨張展開する。また、中央膨張部ECはボディサイド部11と乗員Pの胸部PT等との間で膨張展開し、下膨張部ELは同ボディサイド部11と同乗員Pの腰部PPとの間で膨張展開する。特定の膨張部が他の膨張部よりも極端に遅く膨張展開することはない。特に、中央膨張部ECの膨張展開は上記インナバッグ70の膨張によって確保されるため、特許文献2とは異なり、他の膨張部に比べて中央膨張部ECが極端に遅く膨張展開することはなく、また、逆に中央膨張部ECが極端に早く膨張展開することもない。そして、エアバッグ30が、乗員Pの車外側近傍における保護領域A(図20参照)の全体を占めるように展開することにより、乗員Pの各部がエアバッグ30の対応する膨張部EU,EC,ELによって拘束され、側突による衝撃から乗員Pが確実に保護される。
ここで、図12に示すように、中間部開口OCの流路面積SCが、上部開口OUの流路面積SUよりも小さく設定されている(SC<SU)ことから、中間部開口OCを通って中央膨張部ECへ流れる膨張用ガスGの単位時間当たりの流量は、上部開口OUを通って上膨張部EUへ流れる膨張用ガスGの単位時間当たりの流量よりも少なくなる。また、中間部開口OCの流路面積SCが、下部開口OLの流路面積SLよりも小さく設定されている(SC<SL)ことから、中間部開口OCを通って中央膨張部ECへ流れる膨張用ガスGの単位時間当たりの流量は、下部開口OLを通って下膨張部ELへ流れる膨張用ガスGの単位時間当たりの流量よりも少なくなる。そのため、図4に示す中央膨張部ECの残りの部分(換言すれば、インナバッグ70が内在しない部分)の内圧は、上膨張部EUよりも、また下膨張部ELよりも遅く膨張展開する。これに伴い、中央膨張部ECの内圧は、上膨張部EUの内圧よりも、また下膨張部ELの内圧よりも遅れて上昇することとなり、エアバッグ30の膨張初期には、中央膨張部ECの内圧が上膨張部EU及び下膨張部ELのいずれの内圧よりも低くなる。その結果、乗員Pの側部のうち耐衝撃性の高い肩部PSが内圧の高い上膨張部EUによって拘束及び保護され、同じく耐衝撃性の高い腰部PPが内圧の高い下膨張部ELによって拘束及び保護される。また、耐衝撃性の低い胸部PT等が、内圧の低い中央膨張部ECによってソフトに拘束及び保護される。
また、エアバッグ30の上記膨張展開に際しては、図20の状態(I)におけるエアバッグ30の下部113が、ボディサイド部11と乗員Pの腰部PP、大腿部PF等との間といった狭い隙間G1(図3(A)参照)を通って前方へ展開することとなる。この隙間G1は、一般に、乗員Pの他の部位とボディサイド部11との隙間G1よりも狭い。しかし、収納用形態のエアバッグ30は、最初に後方から前方へ展開し、その後に上方から下方へ展開する場合(以下、比較例という)よりも、乗員Pを車幅方向内側へ押し退けやすい。比較例では、エアバッグ30が上記の狭い隙間G1に入り込んでいこうとするときに乗員Pをシートクッション13等に押付けるのに対し、本実施形態では、一旦低い位置まで展開したエアバッグ30の下部113が前方へ展開する際に乗員Pを車両用シート12等に押付けることがないからである。そのため、エアバッグ30は、その下部113において乗員Pの腰部PP、大腿部PF等を車幅方向内側へ押し退けて隙間G1の幅を拡げながら、同乗員Pとボディサイド部11との狭い隙間G1を通り、前方へ向けて確実に展開する。
この際、収納用形態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも前側部分101では、複数の被折り畳み部101Aがいずれも前後方向に対し略直交している。このことから、下側部分103が下方へ展開した後、被折り畳み部101Aにおいて膨張用ガスGの圧力を受けたエアバッグ30の前側部分101は、折り状態を解消しながら前方へ向けて真っ直ぐに展開する。このように前方へ向かう展開の直進性がよいため、エアバッグ30はより前方の位置まで展開しやすくなる。
インフレータ21における膨張用ガスGの噴出期間の後期又は噴出停止後には、下膨張部EL及び中央膨張部EC間で生じた内圧差により、下部弁90では、両布帛部91,92を接近させる力が離隔させる力に勝る。そのため、図16(C)に示すように、下部弁90の可曲部98が閉じて折り曲げられる。この折り曲げられた可曲部98により、下部弁90内の流路が閉塞され、下膨張部ELに一旦流入した膨張用ガスGが、下部弁90を通って中央膨張部ECへ流れる(逆流する)ことが規制される。従って、乗員Pの腰部PPを保護するのに適切な内圧にまで高められた下膨張部ELの内圧が、膨張用ガスGの中央膨張部ECへの逆流により低下することがなく適正な値に維持される。
図15(C)に示すように、上部弁80も上記下部弁90と同様に動作(閉弁)する。上膨張部EUに一旦流入した膨張用ガスGが、上部弁80を通って中央膨張部ECへ流れる(逆流する)ことが規制される。従って、乗員Pの肩部PSを保護するのに適切な内圧にまで高められた上膨張部EUの内圧が、膨張用ガスGの中央膨張部ECへの逆流により低下することがなく適正な値に維持される。
また、上記側突時の衝撃によりボディサイド部11が車内へ進入し、膨張展開した中央膨張部ECが乗員Pの胸部PT等に押付けられた場合には、上部弁80が上膨張部EUの内圧を調整する調圧機構を発揮するとともに、下部弁90が下膨張部ELの内圧を調整する調圧機能を発揮する。これらの調圧機能の内容は、上部弁80においても下部弁90においても同様である。
上部弁80は、膨張用ガスGが中央膨張部ECから上膨張部EUへ流れることは許容するが、上膨張部EUから中央膨張部ECへ膨張用ガスGが流れる(逆流する)ことを規制する。より詳しくは、中央膨張部ECの内圧が上膨張部EUの内圧よりも高い場合には、図15(B)に示すように、可曲部88を含む上部弁80の全体が上下両端を開放した筒状となり(開弁し)、中央膨張部ECから上膨張部EUへの膨張用ガスGの流通を許容する。また、上膨張部EUの内圧が中央膨張部ECの内圧よりも高い場合には、図15(C)に示すように、上部弁80の可曲部88が閉じて折り曲げられる。この折り曲げられた可曲部88により、上部弁80内の流路が閉塞され、上膨張部EUから中央膨張部ECへ膨張用ガスGが流れる(逆流する)ことが規制される。このように、中央膨張部EC内の膨張用ガスGが上膨張部EUへ流れ、かつ逆流が規制されることで、同中央膨張部ECの内圧が低下し、かつ上膨張部EUの内圧が上昇する。そのため、胸部PT等の拘束時に中央膨張部ECの内圧が過度に上昇することが起こりにくい。
特に、本実施形態では、中央膨張部EC及び上膨張部EU間では、膨張用ガスGはインナバッグ70及び上部弁80を通って流れるのみであり、上部弁80を経由せずに中央膨張部EC及び上膨張部EU間で膨張用ガスGが流通することはない。従って、膨張用ガスGの上記流通が原因で上部弁80の上記調圧機能が損なわれることがない。
また、上述したように乗員Pの肩部PSの耐衝撃性は胸部PT等の耐衝撃性よりも高い。そのため、中央膨張部ECからの膨張用ガスGにより上膨張部EUの内圧が高くなっても支障がなく、むしろ、上膨張部EUによって肩部PSを通じて乗員Pが車内側へ押されることとなり、同乗員Pがより確実に衝撃から保護される。
また、下部弁90は、下膨張部ELに対して、上部弁80と同様に作動するため、下膨張部ELによって耐衝撃性の高い腰部PPを通じて乗員Pが車内側へ押されることとなり、同乗員Pがより確実に衝撃から保護される。
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ30の中央膨張部EC内に、インフレータアセンブリ20を内包するインナバッグ70を設けている。また、エアバッグ30を、上部開口OUを通じて上膨張部EUに連通させ、中間部開口OCを通じて中央膨張部ECに連通させ、下部開口OLを通じて下膨張部ELに連通させている(図7)。そのため、乗員Pの部位の耐衝撃性に応じた内圧で各膨張部EU,EC,ELを膨張展開させつつ、特定の膨張部(中央膨張部EC)が他の膨張部(上膨張部EU及び下膨張部EL)よりも極端に遅く膨張展開するのを抑制してエアバッグ30の展開性能の向上を図ることができるようになる。
また、インナバッグ70を、その前端70Fが、膨張展開した状態のエアバッグ30における中央膨張部ECの前端ECFよりも後方、かつシートバック14の前端14Fよりも前方に位置するように配置している(図7)。そのため、インナバッグ70に、乗員Pを拘束して衝撃から保護する機能も発揮させることができ、エアバッグ30のみで乗員Pを拘束及び保護するものに比べて、拘束・保護性能の向上を図ることができる。
(2)中間部開口OCの流路面積SCを、上部開口OU及び下部開口OLの各流路面積SU,SLと異ならせている(小さくしている)(図12)。そのため、乗員Pの側部のうち耐衝撃性の高い部位に対応する膨張部を高い内圧で膨張展開させ、耐衝撃性の低い部位に対応する膨張部を低い内圧で膨張展開させることが可能となる。
(3)上膨張部EUにおける上部開口OUの近傍に、インナバッグ70から上膨張部EUへの膨張用ガスGの流通のみを許容する上部弁80を設けている(図13)。そのため、乗員Pの拘束時に中央膨張部ECの内圧が過度に上昇する現象を抑制しつつ、乗員Pを保護するのに適切な内圧にまで高められた上膨張部EUの内圧を低下させずに維持することができる。
(4)中央膨張部EC及び上膨張部EUを互いに独立させることで、同中央膨張部EC及び上膨張部EU間での膨張用ガスGの流通が上部弁80を通じてのみ行なわれるようにしている。そのため、上部弁80を経由せずに中央膨張部EC及び上膨張部EU間で膨張用ガスGが流通するのを規制し、同流通が原因で上部弁80の調圧機能が損なわれることのないようにし、上記(3)の効果を一層確実なものとすることができる。
(5)下膨張部ELにおける下部開口OLの近傍に、インナバッグ70から下膨張部ELへの膨張用ガスGの流通のみを許容する下部弁90を設けている(図14)。そのため、乗員Pの拘束時に中央膨張部ECの内圧が過度に上昇する現象を抑制しつつ、乗員Pを保護するのに適切な内圧にまで高められた下膨張部ELの内圧を低下させずに維持することができる。
(6)中央膨張部EC及び下膨張部ELを互いに独立させることで、同中央膨張部EC及び下膨張部EL間での膨張用ガスGの流通が下部弁90を通じてのみ行なわれるようにしている。そのため、下部弁90を経由せずに中央膨張部EC及び下膨張部EL間で膨張用ガスGが流通するのを規制し、同流通が原因で下部弁90の調圧機能が損なわれることのないようにし、上記(5)の効果を一層確実なものとすることができる。
(7)中央膨張部ECを乗員Pの胸部PT等の側方近傍で膨張展開させ、上膨張部EUを同乗員Pの肩部PSの側方近傍で膨張展開させ、下膨張部ELを同乗員Pの腰部PPの側方近傍で膨張展開させるようにしている(図3(A),図4)。そのため、膨張展開した中央膨張部ECによって胸部PT等を拘束及び保護し、膨張展開した上膨張部EUによって肩部PSを拘束及び保護し、膨張展開した下膨張部ELによって腰部PPを拘束及び保護することができる。
(8)上記(2)に関連するが、インナバッグ70における中間部開口OCの流路面積SCを、上部開口OUの流路面積SUよりも小さく設定している(図12)。そのため、エアバッグ30の膨張初期には、中央膨張部ECの内圧を上膨張部EUの内圧よりも低くすることができ、乗員Pの側部のうち耐衝撃性の高い肩部PSを内圧の高い上膨張部EUによって拘束及び保護し、耐衝撃性の低い胸部PT等を、内圧の低い中央膨張部ECによってソフトに拘束及び保護することができる。
(9)上記(2)に関連するが、インナバッグ70における中間部開口OCの流路面積SCを、下部開口OLの流路面積SLよりも小さく設定している(図12)。そのため、エアバッグ30の膨張初期には、中央膨張部ECの内圧を下膨張部ELの内圧よりも低くすることができ、乗員Pの側部のうち耐衝撃性の高い腰部PPを内圧の高い下膨張部ELによって拘束及び保護し、耐衝撃性の低い胸部PT等を、内圧の低い中央膨張部ECによってソフトに拘束及び保護することができる。
(10)エアバッグ30を収納用形態(図17)にする際に、展開状態のエアバッグ30のインフレータ21よりも前側部分101を、前方から後方へ向けて折り畳むことにより(図18)、略上下方向に細長い中間形態(図19(A),(B)参照)にしている。さらに、中間形態のエアバッグ30のインフレータ21よりも上側部分102を、前下方へ折り返してインナバッグ70の前方に位置させている(図17参照)。そのため、エアバッグ30を、前後方向にも上下方向にもコンパクトな形態にすることができ、狭い収納部15であっても収納しやすくすることができる。また、インナバッグ70の膨張に伴い膨張する中央膨張部ECによって、上記折り返された部分106を押圧することで、同部分の折り状態の解消を促進することができる(図20)。
(11)中間形態のエアバッグ30について折り返された部分106の少なくとも一部を、中央膨張部ECと上膨張部EUとの境界部107よりも下方に位置させている(図17)。そのため、折り返された部分106を中央膨張部EC及びインナバッグ70の前側に位置させ、同部分106に対し、膨張するインナバッグ70及び中央膨張部ECによる押圧力Fを確実に作用させて、折り状態を解消させることができる。
(12)中間形態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも下側部分103を、その被折り畳み部103A1,103A2が上下方向に対し略直交するように、下方から上方へ向けて蛇腹状に折り畳んでいる(図19(A),(B))。そのため、エアバッグ30を、狭い収納部15に対する収納に適したコンパクトな収納用形態(図17)にすることができる。
また、車両の側突時には、図20に示すように、収納用形態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも下側部分103を収納部15の下方の低い位置まで展開させた後に、エアバッグ30全体を前方へ展開させることができる。このように乗員Pの車外側近傍の広い保護領域Aにわたって展開したエアバッグ30によって、側突による衝撃から乗員Pを保護することができる。
(13)エアバッグ30を中間形態(図19(A),(B))にする際に、図18に示すように展開状態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも前側部分101を、被折り畳み部101Aが前後方向に対し略直交するように前方から後方へ向けて蛇腹状に折り畳んでいる。そのため、下側部分103の下方への展開、及び上側部分102の折り返しの解消により上下方向に細長くなったエアバッグ30を、折り状態を解消させながら前方へ向けて真っ直ぐに展開させることができる。このように前方へ向かう展開の直進性がよくなるため、エアバッグ30をより前方の位置まで確実に展開させることができる。
(14)上記(13)の構成に加え、中間形態のエアバッグ30の下側部分103に対する下方から上方へ向かう蛇腹状の折り畳みを、図19(B)に示すようにそれぞれ車幅方向へ延びる複数本の折り線109に沿って行っている。従って、中間形態(図19(A)、(B))のエアバッグ30を収納用形態(図17)にする際に、同中間形態のエアバッグ30の下側部分103に対し車幅方向に延びる折り線109を設定することが、他の方向へ延びる折り線を設定する場合よりも容易に行える。また、これらの折り線109に沿ってエアバッグ30の下側部分103を下方から上方へ向けて蛇腹状に折り畳むことが容易に行える。このように、展開性能と折り畳み性能との両立を図ることができる。
(15)乗員Pの腰部PPとボディサイド部11との隙間G1は、一般に、乗員Pの他の部位とボディサイド部11との隙間G1よりも狭い。そのため、腰保護部を有するエアバッグ30の場合、腰保護部を腰部PP及びボディサイド部11間で展開させることが本来難しい。この点、本実施形態では、下膨張部ELを有するエアバッグ30に対し第1及び第3の折り畳み部30A,30Cを設けている。このため、下膨張部ELを、収納部15の下方のより低い位置まで展開させた状態で乗員Pの腰部PPとボディサイド部11との狭い隙間G1に展開させることができ、腰部PPを適切に保護する大きな効果が得られる。
(16)一般に、上下方向に複数の膨張部に区画されたエアバッグ30の場合、下側の膨張部は、上側に隣接して膨張する膨張部側へ引張られる。そのため、エアバッグ30によって乗員Pの腰部PP等を衝撃から確実に保護するためには、最下部の膨張部をより低い位置で前方へ展開させることが重要である。
従って、本実施形態のように、エアバッグ30を上下方向に3つに区画することにより上膨張部EU、中央膨張部EC及び下膨張部ELを設けたサイドエアバッグ装置において、下膨張部ELを収納部15の下方のより低い位置まで展開させ、その状態でさらにエアバッグ30を前方へ展開させることで、特に大きな効果が得られる。すなわち、下膨張部ELの下部を腰部PP及びボディサイド部11間の狭い隙間G1で展開させることで、下膨張部ELが上側に隣接する中央膨張部ECの膨張に伴い上方へ引張られたとしても、乗員P、特に腰部PPを適切に保護することができる。
(17)中間形態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも下側部分103の折り畳みに際し、図17及び図20に示すように、最下部の被折り畳み部103A1を、その隣の被折り畳み部103A2の前端103Fにおいて上方へ折り返して同被折り畳み部103A2の上側に重ねている。そのため、被折り畳み部103A1が折り状態を解消する際に車両用シート12上の干渉物に当たって強く押す可能性を、同被折り畳み部103A2の後端において上方へ折り返して上側に重ねる等して、展開の際に前下方へ向かう回転を伴う場合よりも低くすることができる。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<インフレータアセンブリ20に関する事項>
・リテーナ22として、その上端部が閉塞され、下端部のみが開放されたものや、上下両端部がともに開放されたものを用いてもよい。
・リテーナ22を用いることなくインフレータ21をシートバック14に直接取り付けるようにしてもよい。
・インナバッグ70の内部の後部にインナチューブを配置し、このインナチューブ内にインフレータアセンブリ20を配置してもよい。このインナチューブは、インフレータ21から噴出される膨張用ガスGを整流するために用いられる。
インナチューブとしては例えば図21(A),(B)に示す構造を有するものを採用することができる。このインナチューブ116は、上下方向に延び、かつ上下両端が開放された管状部117と、その管状部117の車内側の上端から上方へ延びるシート状部118とを備えている。管状部117の下部は、下側ほど径が小さくなる(縮径する)ように形成されている。インナチューブ116の形成に際し、図22に示すように倒立略L字状をなす単一の布帛119が用いられている。この布帛119において、シート状部118となる予定の箇所の上部にボルト孔121があけられている。また、管状部117となる予定の箇所にもボルト孔122があけられている。そして、上記布帛119の下端部が管状に丸められ、さらに同下端部の両端が縫合されることによって、上記管状部117及びシート状部118とからなるインナチューブ116が形成される。図21(A),(B)及び図22中の符号123は、縫合部分を示している。管状部117の上下方向の寸法は、リテーナ22の窓部25を概ね覆い得る大きさに設定されている。
管状部117の少なくとも下端部は下部弁90の内部に配置される。また、管状部117は、インナバッグ70及びエアバッグ30(第1膨張体31及び第2膨張体32)に対し縫着等の手段によって結合されてもよい。そして、インフレータアセンブリ20の下部が管状部117内に配置され(図21(A))、リテーナ22の上下一対のボルト26が、対応するボルト孔121,122に挿通される。両ボルト26がシートフレーム16に挿通されてナット17が締付けられることにより、インナチューブ116はインナバッグ70及びエアバッグ30と一緒にシートフレーム16に固定される。
上記構成のインナチューブ116を採用すると、インフレータ21のガス噴出部23から噴出されて窓部25を通過した膨張用ガスGは管状部117に当たり、流れ方向をインフレータ21の軸線L1に沿う方向(上下方向)に変える。ここで、管状部117の下部が下側ほど縮径するため、膨張用ガスGは下方へよりも上方へ流れやすい。そのため、インナチューブ116を用いない場合に比べ、膨張用ガスGをより所望の方向へ整流することが可能となる。
<エアバッグ30に関する事項>
・エアバッグ30を収納用形態にする際に、中間形態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも上側部分102を、前下方へ折り返してインナバッグ70の前方に位置させることについては前述した。これに加え、又は代えて、中間形態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも下側部分103を、前上方へ折り返してインナバッグ70の前方に位置させるようにしてもよい。
・中間形態のエアバッグ30における下側部分103の折り畳みに際し、最下部の被折り畳み部103A1を、その隣の被折り畳み部103A2の後端において折り返して同被折り畳み部103A2の下側に重ねるようにしてもよい。この場合にも、最下部の被折り畳み部103A1を、その隣の被折り畳み部103A2の前端103Fにおいて折り返して同被折り畳み部103A2の上側に重ねる上記実施形態と同様の効果が期待できる。
・展開状態のエアバッグ30のインフレータアセンブリ20よりも前側部分101を、蛇腹折りとは異なる折り態様で前方から後方へ向けて折り畳んでもよい。
<インナバッグ70に関する事項>
・インナバッグ70における中間部開口OCの上下方向の位置を変更してもよい。
・条件(I)、すなわち「インナバッグ70の前端70Fが、膨張展開状態のエアバッグ30における中央膨張部ECの前端ECFよりも後方、かつシートバック14の前端14Fよりも前方に位置する」ことを満たす範囲内で、インナバッグ70の形状を変更してもよい。その一例を図23に示す。この例では、インナバッグ70の前端縁71が前側ほど低くなるように傾斜している。前端縁71の上端は閉じ部57の近傍に位置し、下端は中央膨張部ECの外縁下部に位置している。この下端はインナバッグ70の前端70Fに該当する。なお、この条件(I)を満たしていれば、中間部開口OCが一番前方側に位置する様に配設されていてもよい。
前端縁71の上端の位置が前記実施形態のインナバッグ70と略同じであるのに対し、下端(前端70F)が前記実施形態のインナバッグ70よりもかなり前方に位置する。そのため、このように変更した場合には、インナバッグ70の容量が前記実施形態よりも多くなって、同インナバッグ70による乗員Pの拘束及び保護性能が高くなる。
中間部開口OCは、中央膨張部ECのうち、インナバッグ70の配置されていない箇所に向かって、ここでは斜め前上方に向かって開口している。なお、図23では、中間部開口OCは、インナバッグ70の前端縁71の下端(前端70F)の上方近傍に設けられているが、これよりも上方に設けられてもよい。
上記のように、インナバッグ70の前端縁71を傾斜させ、その前端縁71に中間部開口OCを設ける場合には、次の利点もある。それは、中央膨張部ECにおける中間部開口OCの前後位置を簡単に変えることができることである。中間部開口OCの前後位置が変ると、膨張用ガスGがインナバッグ70の中間部開口OCを通過するタイミングも変ってくる。それに応じて中央膨張部ECが膨張展開のタイミングも変ってくる。表現を変えると、中央膨張部ECが膨張展開するタイミングを、中間部開口OCの前後位置を調整することで容易に変えることができる。
・上記条件(I)を満たす範囲内で、インナバッグ70の前端70Fの前後方向の位置を変更してもよい。
・上部開口OU、下部開口OL及び中間部開口OCの少なくとも1つが他の開口とは異なる流路面積となるように、各開口の流路面積を設定してもよい。この場合、乗員Pの耐衝撃性の高い部位を拘束及び保護する膨張部に連通する開口については、その流路面積を大きく設定し、反対に、耐衝撃性の低い部位を拘束及び保護する膨張部に連通する開口については、その流路面積を小さく設定することが望ましい。従って、上記実施形態では、上部開口OUと下部開口OLとで流路面積を同程度に設定したが、両流路面積を異ならせてもよい。
・上部開口OU、中間部開口OC及び下部開口OLの少なくとも1つをインナバッグ70に複数設けてもよい。
・前記実施形態では、中間部開口OCをインナバッグ70の前端縁71に設けたが、この中間部開口OCをインナバッグ70の側面に設けてもよい。
・インナバッグ70は、第1膨張体31や第2膨張体32と同様、1枚の布帛を二つ折りし、縫合等の手段によって袋状に結合したものであってもよい。
<上部弁80及び下部弁90に関する事項>
・上部弁80は、上膨張部EU内の膨張用ガスGが中央膨張部ECへ流れる(逆流する)ことを規制できるものであればよく、上記実施形態とは異なる構造を有するものであってもよい。同様に、下部弁90は、下膨張部EL内の膨張用ガスGが中央膨張部ECへ流れる(逆流する)ことを規制できるものであればよく、上記実施形態とは異なる構造を有するものであってもよい。
・上部弁80及び下部弁90の少なくとも一方を省略してもよい。
<その他の事項>
・周縁結合部37,45、下結合部54,55、上結合部56、内結合部58,59,74,75、区画結合部61、及び結合部76,83,93の少なくとも1つを、上記縫着とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成してもよい。
・収納部15をシートバック14に代え、ボディサイド部11において、車両用シート12に着座した乗員Pの車外側近傍となる箇所に設けてもよい。
・本発明は、上膨張部EUを乗員Pの肩部PSとは異なる部位を保護するための膨張部としたり、中央膨張部ECを乗員Pの胸部PT等とは異なる部位を保護するための膨張部としたり、下膨張部ELを、乗員Pの腰部PPとは異なる部位を保護するための膨張部としたりしたサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
11…ボディサイド部、12…車両用シート、14…シートバック、14F,70F,103F,ECF…前端、21…インフレータ、30…エアバッグ、70…インナバッグ、80…上部弁、90…下部弁、101…前側部分、102…上側部分、106…折り返された部分、107…境界部、EC…中央膨張部、EL…下膨張部、EU…上膨張部、G…膨張用ガス、OC…中間部開口、OL…下部開口、OU…上部開口、P…乗員、PP…腰部、PS…肩部、PT…胸部、SC,SL,SU…流路面積。