以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
[感光性樹脂組成物の構成成分]
まず、感光性樹脂組成物(以下、組成物という。)を調製するための成分について説明する。
《(A)ベース樹脂》
(可逆移動触媒重合法)
本発明では(A)成分は可逆移動触媒重合法(RTCP;Reversible chaintransfer catalyzed polymerization)を経て合成される。可逆移動触媒重合法は、リビングラジカル重合法の一種である。リビングラジカル重合の基本概念は、下記式に示すように、ドーマント種(Polymer−X)の成長ラジカル(Polymer・)への可逆的活性化反応にあり、通常のラジカル重合と比較して二分子停止反応が起こりにくく、分散度(Mw/Mn)が狭い重合体が得られる。また、可逆移動触媒重合法では初期添加のドーマント種とモノマーの仕込み比によって重合体の分子量が決定されるので、分子量の設定が容易となる。
可逆移動触媒重合法は、原子移動ラジカル重合法の場合のような遷移金属錯体や、可逆的付加−開裂連鎖移動重合法の場合のようなジチオエステル化合物等の連鎖移動剤(RAFT剤)を使用することなく、触媒化合物(X−A)を用いる。この重合では、ラジカル重合開始剤の作用等で生じた成長ラジカル(Polymer・)が、触媒化合物(X−A)のハロゲン(X)を引き抜き、この触媒化合物のラジカル活性種(A・)がドーマント種(Polymer−X)と共にin situで生成する。ラジカル活性種(A・)はドーマント種の活性化剤として作用し、成長ラジカル(Polymer・)と触媒化合物(X−A)が生成する。この過程は触媒化合物(X−A)への可逆的連鎖移動であり、ドーマント種はこの可逆的連鎖移動により触媒的に活性化される。これにより、極めて効率よく重合反応が進行する。下記式では、ハロゲン(X)がヨウ素(I)の場合の例を示している。
触媒化合物におけるハロゲンの結合は、成長ラジカルとの間でハロゲンの交換を行う上で適切であることが必要とされる。このようにハロゲンの結合が適切な化合物であれば、ハロゲン以外の置換基を有する化合物であっても、可逆移動触媒重合法のための触媒化合物として使用することができる。
(触媒化合物)
触媒化合物としては、ゲルマニウム、スズ、アンチモン、リン、窒素、酸素、炭素から選択される少なくとも1つの中心元素と、この中心元素に結合する少なくとも1つのハロゲンを含む化合物が挙げられる。中心元素とは、触媒化合物を構成する原子のうち、ハロゲンと結合して主に触媒作用を担う原子を意味する。
この触媒化合物の前記中心元素が特にゲルマニウム、リン、窒素、酸素、炭素である場合には、生成する(A)成分中における導電性物質の残存を抑制することができる。また、ゲルマニウム、リン、窒素、酸素、炭素は、人体への毒性及び環境への影響が少ないという点からも有利である。また、この触媒化合物は使用量が少ない場合であっても、触媒作用を発揮するため、特に中心元素がゲルマニウム、リン、窒素、酸素、炭素である場合には、人体への毒性及び環境への影響が少ない触媒化合物を用いると共に、更にその触媒化合物の使用量を少なくすることができるという利点がある。
ハロゲンは、触媒化合物が2つ以上の中心元素を有する場合には、各中心元素にそれぞれ少なくとも1つ結合している。このハロゲンとしてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、塩素、臭素又はヨウ素であることが好ましく、臭素又はヨウ素であればより好ましく、ヨウ素であれば特に好ましい。このハロゲンは、1分子の触媒化合物中に2つ以上存在してもよい。例えばハロゲンが、1分子中に2個、3個、又は4個存在してもよく、またそれ以上の複数のハロゲンが存在してもよい。1分子の触媒化合物中のハロゲンの数は2〜4個であることが好ましい。1分子の触媒化合物中に存在する複数のハロゲンは、互いに同一の種類の原子であってもよく、異なる種類の原子であっても良い。
この触媒化合物は、必要に応じて、ハロゲン以外の基を有していても良く、例えば、触媒化合物中の中心元素に任意の有機基又は無機基が結合していてもよい。
有機基は、鎖状構造であっても、環状構造であってもよく、また鎖状構造と環状構造とを共に有していてもよい。有機基としては、置換又は非置換のアリール基(ヘテロアリール基を含む。以下、同じ。)、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、エステル基(脂肪族カルボン酸エステル等)、アルキルカルボキシル基、アルキルカルボニル基(メチルカルボニル基等)、ハロアルキル基(トリフルオロメチル基等)などが挙げられる。
アリール基を構成する芳香族炭化水素の環の数は1つであってもよく、2以上であってもよく、好ましくは1〜3である。芳香族炭化水素の環が複数である場合には、これらの環は縮合していてもよく、縮合していなくてもよい。このアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
また、置換基を有するアリール基における前記置換基の数は特に制限されないが、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1〜2であり、更に好ましくは1である。また、このアリール基における置換基の位置は任意に選択される。特にアリール基が置換基を有するフェニル基である場合には、置換基の位置は中心元素に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよいが、特にパラ位であることが好ましい。
アルケニル基の有する二重結合の数は少なくとも1つであって、2以上であってもよい。二重結合の数の上限は特に制限されないが、10以下であってもよく、5以下であってもよい。また二重結合と単結合とが交互に繰り返される構造であることが好ましい。またアルケニル基は鎖状、環状のいずれの構造であってもよい。鎖状の場合は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。環状の場合は環状構造のみで構成されていてもよく、環状構造と鎖状構造とが結合した構造であってもよい。また、二重結合は環状構造、鎖状構造のいずれに存在していてもよい。このアルケニル基の炭素数は任意の自然数でありえるが、1〜30が好ましく、1〜20であればより好ましい。またアルケニル基は低級アルケニル基であってもよく、この場合の炭素数は2〜10が好ましく、2〜5であればより好ましく、2〜3であれば更に好ましい。アルケニル基の具体例としてはビニル基が挙げられる。
アルキニル基の有する三重結合の数は1つであってもよく、2つ以上であってもよい。三重結合の数の上限は特に制限されないが、10以下であってもよく、5以下であってもよい。また三重結合と単結合とが交互に繰り返される構造であることが好ましい。またアルキニル基は鎖状、環状のいずれの構造であってもよい。鎖状の場合は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。環状の場合は環状構造のみで構成されていてもよく、環状構造と鎖状構造とが結合した構造であってもよい。また、二重結合は環状構造、鎖状構造のいずれに存在していてもよい。このアルキニル基の炭素数は任意の自然数でありえるが、1〜30が好ましく、1〜20であればより好ましい。またアルキニル基は低級アルキニル基であってもよく、この場合の炭素数は2〜10が好ましく、2〜5であればより好ましく、2〜3であれば更に好ましい。
アルコキシ基は鎖状、環状のいずれの構造であってもよい。鎖状の場合は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。環状の場合は環状構造のみで構成されていてもよく、環状構造と鎖状構造とが結合した構造であってもよい。このアルコキシ基の炭素数は任意の自然数でありえるが、1〜30が好ましく、1〜20であればより好ましい。またアルコキシ基は低級アルコキシ基であってもよく、この場合の炭素数は1〜10が好ましく、1〜5であればより好ましく、1〜3であれば更に好ましい。このアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
アルキルカルボキシル基は、環状のいずれの構造であってもよい。鎖状の場合は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。環状の場合は環状構造のみで構成されていてもよく、環状構造と鎖状構造とが結合した構造であってもよい。このアルキルカルボキシル基の炭素数は任意の自然数でありえるが、1〜30が好ましく、1〜20であればより好ましい。またアルキルカルボキシル基は低級アルキルカルボキシル基であってもよく、この場合の炭素数は1〜10が好ましく、1〜5であればより好ましく、1〜3であれば更に好ましい。
アルキルカルボニル基は、環状のいずれの構造であってもよい。鎖状の場合は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。環状の場合は環状構造のみで構成されていてもよく、環状構造と鎖状構造とが結合した構造であってもよい。このアルキルカルボニル基の炭素数は任意の自然数でありえるが、1〜30が好ましく、1〜20であればより好ましい。またアルキルカルボニル基は低級アルキルカルボニル基であってもよく、この場合の炭素数は1〜10が好ましく、1〜5であればより好ましく、1〜3であれば更に好ましい。
ハロアルキル基は、環状のいずれの構造であってもよい。鎖状の場合は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。環状の場合は環状構造のみで構成されていてもよく、環状構造と鎖状構造とが結合した構造であってもよい。また、ハロアルキル基は、全ての水素がハロゲンと置換されていてもよく、一部の水素のみがハロゲンと置換されていてもよい。このハロアルキル基の炭素数は任意の自然数でありえるが、1〜30が好ましく、1〜20であればより好ましい。またハロアルキル基は低級ハロアルキル基であってもよく、この場合の炭素数は1〜10が好ましく、1〜5であればより好ましく、1〜3であれば更に好ましい。低級ハロアルキル基の好ましい具体例としては、トリフルオロメチル基が挙げられる。
この有機基が、特に置換又は非置換のアリール基、アルケニル基又はアルキニル基であれば、反応時のラジカルの活性がより高くなる傾向がある点で好ましい。アリール基が置換基を有する場合の前記置換基としては、アルキル基、アルキルオキシ基等が挙げられる。前記アルキル基は低級アルキル基が好ましい。この低級アルキル基の炭素数は1〜5が好ましく、1〜3であれば特に好ましい。この低級アルキル基がメチル基であれば更に好ましい。すなわち、有機基がフェニル基、低級アルキルフェニル基又は低級アルキルオキシフェニル基であることが好ましい。
また、無機基としては、水酸基、アミノ基、シアノ基等が挙げられる。
触媒化合物中の有機基及び無機基の数は特に制限されないが、好ましくは3以下であり、より好ましくは1である。
この触媒化合物は、ラジカル反応性二重結合を有さないことが好ましい。
また、この触媒化合物は、重合反応時に反応系中に配位子を含有させることでこの配位子が配位結合した錯体となっていてもよいが、このような配位子を使用しなくてもよい。このため、原子移動ラジカル重合法で使用される遷移金属錯体は配位子により錯体化していることで溶解性が向上しているのであるが、上記触媒化合物ではこのような配位子を使用する必要がない。配位子を用いなければ、材料コストの点でも有利であり、また使用触媒の重量を減らすことが可能である点でも有利である。すなわち、一般的に配位子として使用されるアミン化合物は、通常、高価であるか、あるいは合成に煩雑な手間がかかる。さらに、アミンの性質を考慮すると、遷移金属のアミン錯体は、生成高分子に吸着されやすいと考えられ、そのため、いっそうその除去に手間がかかると考えられる。
このような触媒化合物は、その多くは公知であり、試薬販売会社などから市販されているものをそのまま用いることが可能である。また、この触媒化合物は公知の方法により合成することも可能である。
(ゲルマニウム、スズ、アンチモンを中心元素とする触媒化合物)
ゲルマニウムを中心元素とする触媒化合物の一例として、ゲルマニウムにR1としてアリール基等の有機基が結合した構造を有する触媒化合物が挙げられる。この触媒化合物は公知の方法により合成することが可能である。例えば、下記反応式のようにR1がヨウ素に結合した構造を有するヨウ化物(R1I)にヨウ化ゲルマニウム(GeI2)を反応させることで、R1GeI3の構造を有する触媒化合物を合成することができる。
R1I + GeI2 → R1GeI3
ヨウ化物(R1I)が液体である場合、上記反応は溶媒を使用せずに進行させることができるが、必要に応じて溶媒(例えば、ベンゼン、トルエンなど)を使用してもよい。また、ヨウ化物(R1I)が固体である場合には、溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエンなどを使用することができる。なお、特に反応触媒を使用しなくてもこの反応は進行する。このような反応の具体例は、例えば、文献Journal of Organometallic Chemistry 56, 1-39(1973)などに記載されており、この文献に記載された方法を応用することで、種々のR1がゲルマニウムに結合した化合物を合成することができる。
スズを中心元素とする触媒化合物の一例として、スズにR1としてアリール基等の有機基が結合した構造を有する触媒化合物が挙げられる。この触媒化合物は公知の方法により合成することが可能である。例えば、R1がスズに結合した構造を有する化合物((R1)4Sn)にSnI4を反応させることで、(R1)nSnIm(n+m=4かつn=1、2、または3)の構造を有する触媒化合物を合成することができる。このような反応の具体例は、例えば、文献Angewandte Chemie 75, 225-235(1963)などに記載されており、この文献に記載された方法を応用することにより、様々なR1がスズに結合した構造を有する化合物を合成することができる。
アンチモンを中心元素とし、アリール基等の有機基が結合した触媒化合物は、公知の方法により合成することができる。例えば、中心元素がゲルマニウムまたはスズである場合と同様の方法によって、合成することができる。
ゲルマニウム、スズ又はアンチモンを中心元素とする触媒化合物の、重合反応時の使用量は特に制限されず、リビングラジカル重合を触媒するのに充分な量であればよいが、反応溶液1リットルに対して、10ミリモル(mM)以下とすることが好ましく、5ミリモル以下とすることも好ましく、2ミリモル以下とすることも好ましい。質量基準では、触媒化合物の使用量を反応溶液に対して1質量%以下とすることが好ましく、0.50質量%以下とすることも好ましく、0.1質量%以下とすることも好ましい。
また、触媒化合物の使用量の下限は特に制限されないが、反応溶液1リットルに対して0.lミリモル以上であることが好ましく、0.5ミリモル以上であることも好ましく、0.8ミリモル以上であることも好ましい。質量基準では、触媒化合物の使用量は反応溶液に対して0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上であることも好ましく、0.08質量%以上であることも好ましい。触媒化合物の使用量が少なすぎる場合には、生成する成分(A)の分子量分布が広くなり易い。
(リン、窒素を中心元素とする触媒化合物)
リン又は窒素を中心元素とする触媒化合物としては、下記一般式で示されるものが挙げられる。
R1 nMhX1 mZk
Mは中心元素であって、リン又は窒素である。X1はハロゲンである。Zは酸素、窒素又は硫黄である。ZはMと結合し、両者間の結合は二重結合又は三重結合である。この結合は、Zが酸素又は硫黄である場合には二重結合が好ましく、Zが窒素である場合には三重結合が好ましい。
式中のR1は有機基又は無機基であって、アルキル基、アルキルカルボキシル基、ハロアルキル基、水酸基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、置換又は非置換のアリール基のいずれかであることが好ましく、アルキル基、アルコキシ基、置換又は非置換アリール基のいずれかであることが更に好ましい。特に中心元素がリンである場合には、R1はアルキル基、アルコキシ基、置換又は非置換のアリール基のいずれかであることが好ましい。
nは0〜4×hの整数であり、特に0〜2×hの整数であることが好ましい。R1が複数である場合(nが2以上の場合)は、各R1は互いに同一であってもよく、また全てのR1又は一部のR1が互いに異なっていてもよい。また、R1が複数である場合(nが2以上の場合)は、二つのR1が互いに結合すると共にMと共に環状構造を形成していてもよい。
hは1以上の整数であり、実用的には10以下の整数であることが好ましく、6以下の整数であればより好ましく、4以下の整数であれば更に好ましく、3以下の整数であればいっそう好ましく、2以下の整数であれば特に好ましく、1であれば最も好ましい。hが大きすぎる場合には、触媒化合物の合成が困難になるおそれがある。
hが2以上の整数である場合、複数の中心元素Mは、全て同一の元素であることが好ましい。またhが2以上の整数の場合、中心元素M同士は、単結合、二重結合または三重結合により連結されている。例えばhが2の場合は、−M−M−、−M=M−、−M≡M−等のように二つの中心元素Mが結合した構造とすることができる。具体例としては、後述する2つのリン原子が結合した−P=P−の構造が挙げられる。また、hが3以上の場合、中心元素Mは例えば−P=P−P=P−のように直鎖状に連結していてもよく、分岐鎖状に連結していてもよい。
また、hが2以上の整数である場合、R1、X1及びZはそれぞれ独立して、複数の中心元素Mのいずれかに結合していればよい。
mは1〜5×hの整数であり、好ましくは2〜5×hの整数である。mが2以上の場合、各X1は互いに同一であってもよく、また全てのX1又は一部のX1が互いに異なっていてもよいが、特に全てのX1が同一であることが好ましい。
kは0〜2×hの整数である。Zが窒素である場合は、kは0又は1であることが好ましい。
また、中心元素Mがリン又は窒素である場合、m+nは3又は5であることが好ましい。
また、n,h,m,kの値は、触媒化合物の全体の原子価が釣り合うように選択される。
式中のR1、X1及びZは、通常は前記中心元素Mに結合している。例えば、二つの中心元素Mが結合した構造(−M=M−)を有する触媒化合物として、R1−M=M−X1の構造を有するものが挙げられる。
中心元素がリンである場合の触媒化合物の好ましい一例として、下記一般式に示すものが挙げられる。
R1 nPhX1 m(=O)k
この場合、nは0〜2の整数であり、Pが三価である場合は0であることが好ましく、Pが5価である場合は2であることが好ましい。kは0又は1であり、Pが3価である場合は0であることが好ましく、Pが5価である場合は1であることが好ましい。X1はヨウ素であることが好ましい。また、R1は、アルコキシ基、置換又は非置換のアリール基が好ましく、アルコキシ基又は非置換のアリール基がより好ましく、低級アルコキシ基又は非置換のアリール基が特に好ましい。
中心元素がリンである場合の触媒化合物の具体例としては、ハロゲン化リン(三ヨウ化リン、五ヨウ化リン等)、ハロゲン化ホスフィン(R1 2PX1、R1PX1 2等、例えばヨウ化ジフェニルホスフィン(Ph2PI))、ハロゲン化亜リン酸誘導体(R1 2PX1(=O)、R1PX1 2(=O)、PX1 3(=O)等、例えばヨウ化亜リン酸ジエチル((C2H5O)2PI(=O))、エチルフェニルホスフィネート(Ph(C2H5O)2PI(=O))、ジフェニルホスフィンオキサイド(Ph2PI(=O))などが挙げられる。
一方、中心元素が窒素である場合、nは0〜3の整数であることが好ましく、0〜2の整数であれば更に好ましい。またhは1が好ましく、kは0が好ましい。また、二つのR1が中心元素である窒素と共に環状構造を形成する場合の前記二つのR1は、共にアルキルカルボニル基、ビニルカルボニル基、又はフェニルカルボニル基であることが好ましい。
中心元素が窒素である場合の触媒化合物の具体例としては、ハロゲン化窒素(三ヨウ化窒素等)、ハロゲン化アミンやハロゲン化イミド(R1 2NX1、R1NX1 2等、例えばヨウ化ジフェニルアミン(Ph2NHI)、ヨウ化コハク酸イミド((CH2)2(C=O)2NI(NIS))、ヨウ化マレイミド((CH)2(C=O)2NI)、ヨウ化フタルイミド(C6H4(C=O)2NI)などや、これらの化合物に1又は複数の置換基を導入した誘導体などが挙げられる。
リン又は窒素を中心元素とする触媒化合物は、公知の方法により合成することが可能である。
例えばリンにハロゲン及び有機基であるR1が結合した構造を有する触媒化合物を合成する方法として、R1 2PH(=O)にヨードホルム、ヨウ素、或いはN−ヨードコハク酸イミドを反応させることによりR1 2PI(=O)を合成する方法が挙げられる。また、リンにハロゲン及び有機基であるR1が結合した触媒化合物は、文献ChemicalCommunication 797-798(2001)や文献Synthetic Communication33, 3851-3859(2003)に記載された方法により合成することもできる。
また、窒素にハロゲン及び有機基であるR1が結合した構造を有する触媒化合物を合成する方法として、R1 2NHにAg2Oを触媒としてヨウ素を反応させることによりR1 2NIを合成する方法が挙げられる。また、窒素にハロゲン及び有機基であるR1が結合した触媒化合物は、文献Journalof the American Chemical Society 75, 3494-3495(1953)に記載された方法により合成することもできる。
リン又は窒素を中心元素とする触媒化合物の、重合反応時の使用量は特に制限されず、リビングラジカル重合を触媒するのに充分な量であればよいが、反応溶液1リットルに対して、10ミリモル(mM)以下とすることが好ましく、5ミリモル以下とすることも好ましく、2ミリモル以下とすることも好ましく、1ミリモル以下とすることも好ましく、0.5ミリモル以下とすることも好ましい。質量基準では、触媒化合物の使用量を反応溶液に対して1質量%以下とすることが好ましく、0.75質量%以下とすることも好ましく、0.70質量%以下とすることも好ましく、0.50質量%以下とすることも好ましく、0.2質量%以下とすることも好ましく、0.1質量%以下とすることも好ましく、0.05質量%以下とすることも好ましい。
また、この触媒化合物の使用量の下限は特に制限されないが、反応溶液1リットルに対して0.02ミリモル以上であることが好ましく、0.1ミリモル以上であることも好ましく、0.5ミリモル以上であることも好ましい。質量基準では、触媒化合物の使用量は反応溶液に対して0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることも好ましく、0.02質量%以上であることも好ましい。触媒化合物の使用量が少なすぎる場合には、生成する成分(A)の分子量分布が広くなり易い。
また、リン又は窒素を中心元素とする触媒化合物を使用する場合は、重合反応系に前記触媒化合物を直接加えてもよいが、この触媒化合物の前駆体(触媒前駆体)を加えてもよい。触媒前駆体とは、重合反応系に加えられる前には触媒化合物には該当しないが、重合反応系中で化学反応して触媒として作用できる状態になる化合物をいう。「触媒として作用できる状態になる」とは、好ましくは触媒前駆体が触媒化合物に変換されることをいう。
重合反応時には触媒化合物は活性化ラジカルとなって触媒活性を発揮するが、化学反応により前記活性化ラジカルと同様の活性化ラジカルを生成させることができる化合物は、触媒前駆体に該当する。例えば、リンの水素化物は触媒前駆体に該当する。すなわち、リンの水素化物は過酸化物などにより水素が引き抜かれることで、リン化合物の活性化ラジカルを発生させることができる。窒素の水素化物も触媒前駆体に該当する。
窒素を中心元素とする触媒化合物に対応する触媒前駆体としては、例えばアミンやイミド(R1 2NH又はR1NH2、例えばジフェニルアミン(Ph2NH)やコハク酸イミド((CH2)(C=O)2NH)、マレイミド((CH)2(CO)2NH)、フタルイミド(C6H4(C=O)2NH)などが挙げられる。
リンを中心元素とする触媒化合物に対応する触媒前駆体としては、ホスファイト(R1 2PH(=O))が挙げられ、具体的には(EtO)2PH(=O)、(BtO)2PH(=O)、(EtO)PhPH(=O)などが挙げられる。ホスファイトはホスホン酸のモノエステルであってもよく、ジエチルエステルであってもよいが、このうちジエチルエステルが好ましく、ホスホン酸のジアルキルエステルであればより好ましい。
このような触媒前駆体が使用される場合、成分(A)を合成する工程には、重合反応の前に触媒前駆体を化学変化させる工程が含まれる。触媒前駆体の化学変化を重合反応が行われる容器中で進行させれば全体のプロセスを簡略化することができる点で有利であるが、この容器とは別の容器中で進行させてもよい。
この触媒前駆体の使用量は、上記触媒化合物の使用量と同様の量とすることができる。この触媒前駆体を使用した場合に発生する活性化ラジカルの量が、上記の量の触媒化合物を使用した場合に発生する活性ラジカルの量と同様の量であることが好ましい。
(酸素を中心元素とする触媒化合物)
酸素を中心元素とする触媒化合物では、中心元素は、ハロゲン以外に、炭素、ケイ素、窒素、リンから選択される原子(以下、便宜上、「1位原子」という)に結合している。1位原子は、好ましくは炭素、窒素またはリンであり、より好ましくは炭素である。1位原子には、中心元素のほか、炭素及び水素から選択される他の原子(以下、便宜上、「2位原子」という)のみが結合していることが好ましい。2位原子は好ましくは炭素である。2位原子には、炭素、酸素及び水素から選択される原子のみが結合していることが好ましい。1位原子と、少なくとも一つの2位原子との間の結合は、二重結合又は三重結合であることが好ましい。この場合、触媒化合物は中心元素に不対電子が生じてラジカル化した場合に共役系が形成されて共鳴安定化し、リビングラジカル重合の触媒としての性能が良好になる。また、例えば、2位原子として二つの原子が存在し、このうち一つの2位原子と1位原子とが二重結合で結合していることが好ましい。例えば2位原子として二つの炭素原子が存在し、このうち一つの炭素原子と1位原子とが二重結合で結合していることが好ましい。2位原子は二つ以上存在することが好ましく、この場合、1位原子と一つの2位原子とが二重結合で結合し、他の2位原子と1位原子とが単結合で結合し、前記二重結合と単結合とが共役系の一部を構成していることが好ましい。例えば、1位原子が炭素であり、2位原子として二つの炭素原子が存在し、一方の2位原子と1位原子との結合が二重結合であると共に、他方の2位原子と1位原子との結合が単結合であって、前記二重結合と単結合とが、共役系の一部を構成していることが好ましい。具体的には、例えば、中心元素がアルケニル基(ビニル基等)、アルキニル基、置換又は非置換のアリール基(好ましくはフェニル基、ビフェニル基等)のうちいずれかの有機基と結合し、且つこの有機基がアルケニル基又はアルキニル基の場合にはその末端に二重結合又は三重結合が存在することが好ましい。
上記アルケニル基の好ましい構造として、−CR7=CR8R9で示されるものが挙げられる。R7、R8、R9は水素でもよく、アルキル基でもよく、その他の置換基(例えばアルケニル基、アルキルカルボキシル基、ハロアルキル基、アルキルカルボニル基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基、アルキル置換アリール基等)であってもよい。R7、R8、R9がすべて水素である場合には、このアルケニル基はビニル基である。
また、上記アルケニル基の好ましい構造として、−C≡CR10で示されるものが挙げられる。R10は水素でもよく、アルキル基でもよく、その他の置換基(例えばアルケニル基、アルキルカルボキシル基、ハロアルキル基、アルキルカルボニル基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基、アルキル置換アリール基等)であってもよい。
酸素を中心元素とする触媒化合物としては、下記一般式で示されるものが挙げられる。
R1 n(OX1)m
X1はハロゲンである。
式中のR1は有機基又は無機基であって、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルカルボキシル基、ハロアルキル基、水酸基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、置換又は非置換のアリール基のいずれかであることが好ましく、特に上記の通りアルケニル基、アルキニル基、置換又は非置換アリール基のいずれかであることが好ましい。
nは正の整数であり、例えば1であってもよく、2であってもよく、3以上の整数であってもよい。また、nは1〜10の整数であってもよく、1〜5の整数であってもよく、1〜3の整数であってもよく、1又は2であってもよい。
mは正の整数であり、例えば1であってもよく、2であってもよく、3以上の整数であってもよい。また、mは1〜10の整数であってもよく、1〜5の整数であってもよく、1〜3の整数であってもよく、1又は2であってもよい。mが2以上の場合、各X1は互いに同一であってもよく、また全てのX1又は一部のX1が互いに異なっていてもよいが、特に全てのX1が同一であることが好ましい。
n及びmの値は、触媒化合物の全体の原子価が釣り合うように選択される。
中心元素である酸素は、通常、R1とX1の両方に結合している。
酸素を中心元素とする触媒化合物の具体例としては、ハロゲン化酸素(例えばヨウ化酸素)、アルコキシハライドあるいはカルボキシハライド(R1OX、例えばヨウ化安息香酸(PhCOOI))、フェノール系化合物中のフェノール性水酸基中の水素をハロゲンに置換した化合物(例えば、ヨウ化チモール)などが挙げられる。
酸素を中心元素とする触媒化合物は、公知の方法により合成することが可能である。また、ビタミン類などの天然物中に存在する化合物は、天然物から抽出するなどの方法により入手することもできる。
例えば酸素にハロゲン及び有機基であるR1が結合した構造を有する触媒化合物を合成する方法として、R1OHにIClを反応させることによりR1OIを合成する方法が挙げられる。また、このような触媒化合物を合成する方法として、文献Tetrahedron Letters 21, 2005-2008(1980)、文献TetrahedronLetters 25, 1953-1956(1984)、文献Tetrahedron Letters 30,4791-4794(1989)などに記載された方法も挙げられる。
酸素を中心元素とする触媒化合物の、重合反応時の使用量は特に制限されず、リビングラジカル重合を触媒するのに充分な量であればよいが、反応溶液1リットルに対して、10ミリモル(mM)以下とすることが好ましく、5ミリモル以下とすることも好ましく、2ミリモル以下とすることも好ましく、1ミリモル以下とすることも好ましく、0.5ミリモル以下とすることも好ましい。質量基準では、触媒化合物の使用量を反応溶液に対して1質量%以下とすることが好ましく、0.75質量%以下とすることも好ましく、0.70質量%以下とすることも好ましく、0.50質量%以下とすることも好ましく、0.2質量%以下とすることも好ましく、0.1質量%以下とすることも好ましく、0.05質量%以下とすることも好ましい。
また、この触媒化合物の使用量の下限は特に制限されないが、反応溶液1リットルに対して0.02ミリモル以上であることが好ましく、0.1ミリモル以上であることも好ましく、0.5ミリモル以上であることも好ましい。質量基準では、触媒化合物の使用量は反応溶液に対して0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることも好ましく、0.02質量%以上であることも好ましい。触媒化合物の使用量が少なすぎる場合には、生成する成分(A)の分子量分布が広くなり易い。
また、酸素を中心元素とする触媒化合物を使用する場合は、重合反応系に前記触媒化合物を直接加えてもよいが、この触媒化合物の前駆体(触媒前駆体)を加えてもよい。
酸素を中心元素とする触媒化合物に対応する触媒前駆体としては、酸素を中心元素とする触媒化合物中における中心元素である酸素に結合したハロゲンを水素に置換した化合物が挙げられる。すなわち、炭素、ケイ素、窒素、リンから選択される原子に水酸基が結合した構造を有する化合物が、触媒前駆体として使用可能である。
この触媒前駆体としては、芳香族環に水酸基が結合した構造を有するフェノール系化合物、脂肪族基の炭素に水酸基が結合した構造を有する脂肪族アルコール系化合物が挙げられる。
触媒前駆体は、ラジカル反応性二重結合を有さないことが好ましい。芳香族二重結合(例えばベンゼン環中の二重結合)のようにラジカルとの反応性が低い二重結合は、触媒前駆体中に存在していてもよい。脂肪族二重結合であっても、ビタミンC中の二重結合のようにラジカルとの反応性の低い二重結合は、触媒前駆体中に存在していてもよい。従って、ビタミンCは触媒前駆体として使用可能である。一般に水酸基と結合した二重結合(1位原子と2位原子との間の二重結合)はラジカルとの反応性がない。例えばビニルアルコール(CH2=CH−OH)はラジカル重合性モノマーではない。水酸基と結合した三重結合(1位原子と2位原子との間の三重結合)も同様にラジカル反応性がなく、このような三重結合を有する化合物はラジカル重合性モノマーではない。
また、酸化防止剤としての機能を兼ね備える触媒前駆体を使用することも好ましい。尚、酸化防止剤は、一般的には水酸基の近傍に大きい置換基が存在することが好ましいとされているが、酸化防止剤としての機能を兼ね備える触媒前駆体についてはそのような大きい置換基が存在する必要はない。例えば無置換のフェノールのように水酸基以外の置換基が存在しない場合であっても、酸化防止剤としての機能を兼ね備える触媒前駆体として使用することができる。
この触媒前駆体の使用量は、上記触媒化合物の使用量と同様の量とすることができる。この触媒前駆体を使用した場合に発生する活性化ラジカルの量が、上記の量の触媒化合物を使用した場合に発生する活性ラジカルの量と同様の量であることが好ましい。
尚、フェノール系化合物を触媒前駆体として使用する場合には、その使用量が多いと、モノマーの種類によっては前記フェノール系化合物が重合禁止剤として作用することがある。例えばスチレンなどを重合する場合にはフェノール系化合物の使用量が過剰であると重合反応が進まなくなる場合がある。このため、フェノール系化合物の使用量は重合禁止剤として作用しない程度の少量とすることが望ましい。但し、モノマーがアクリレートやメタクリレートである場合にはフェノール系化合物は有効な重合禁止剤とはならないため、フェノール系化合物の使用量がある程度多くても重合禁止効果による不利益はない。
酸素を中心元素とする触媒化合物、及び触媒化合物に対応する触媒前駆体の例を、下記式に示す。
(炭素を中心元素とする触媒化合物)
炭素を中心元素とする触媒化合物としては、中心元素である炭素に、ハロゲンのほか、電子吸引性置換基、又は中心元素と共に共鳴構造を形成する置換基が、2又は3個結合しているものを挙げることができる。このような置換基を有することで、触媒化合物からハロゲンが脱離した場合に、前記置換基によって活性ラジカル(炭素ラジカル)が安定化される。また、中心元素には、炭素ラジカルを安定化させることができる電子供与性置換基が結合していてもよい。このような電子供与性置換基が中心元素に1〜3個、好ましくは2〜3個結合した化合物を、触媒化合物として用いることができる。以下、前記電子吸引性置換基、中心元素と共に共鳴構造を形成する置換基、及び電子供与性置換基を、ラジカル安定化用置換基と総称する。
またこの触媒化合物の中心元素には、ラジカル安定化用置換基以外の置換基が結合していてもよい。一つの中心元素に結合しているラジカル安定化用置換基以外の置換基の個数は1個以下であることが好ましく、中心元素にラジカル安定化用置換基以外の置換基が結合していないことがより好ましい。ラジカル安定化用置換基以外の置換基としては、例えば水素が挙げられる。
この触媒化合物では、二つ又は三つのラジカル安定化用置換基が結合している場合に、二つのラジカル安定化用置換基が互いに連結していることで前記二つのラジカル安定化用置換基と中心元素が環構造を形成していてもよい。また中心元素に三つのラジカル安定化用置換基が結合している場合に、前記三つのラジカル安定化用置換基が互いに連結していることで前記三つのラジカル安定化用置換基と中心元素が環構造を形成していてもよい。同一の中心元素に結合している複数のラジカル安定化用置換基が互いに連結している場合は、前記複数のラジカル安定化用置換基は全体として一つのラジカル安定化用置換基を構成し、このラジカル安定化用置換基中の異なる複数の原子が同一の中心元素と結合しているともみなせる。但し、本明細書中では便宜上、このような場合は複数のラジカル安定化用置換基が中心元素に結合しているものとみなす。
上記電子吸引性置換基は、中心元素である炭素に結合して、この中心元素から電子を吸引する置換基である。好ましい電子吸引性置換基はハロゲンであり、具体的にはフッ素、塩素、臭素又はヨウ素である。また電子吸引性置換基は、カルボニル酸素(=O)、シアノ基、ニトロ基等のような、ハロゲンと同程度に中心元素から電子を吸引する置換基であってもよい。
上記電子供与性置換基は、中心元素である炭素に結合してこの中心元素に電子を供与する置換基である。このような電子供与性置換基としては、例えばアルコキシ基が挙げられる。
上記の中心元素と共に共鳴構造を形成する置換基としては、二重結合又は三重結合を有する置換基が挙げられる。この二重結合又は三重結合を構成する置換基では、中心元素に結合する原子(1位原子)と、この置換基における1位原子に結合する原子(2位原子)とが、二重結合又は三重結合で結合している。この場合、中心元素が炭素ラジカルとなった場合に、炭素ラジカルと、二重結合又は三重結合における電子との共鳴効果により前記炭素ラジカルが安定化されて、触媒として高い活性を発揮するようになる。
二重結合を有する置換基における上記1位原子としては、例えば炭素、ケイ素、リン、窒素等が挙げられ、また三重結合を有する置換基における上記1位原子としては、例えば炭素、ケイ素、リン等が挙げられる。特にこの1位原子は炭素であることが好ましい。この1位原子は中心元素及び上記2位原子以外に、水素、アルキル基等の他の適宜の基と結合していてもよい。また、二重結合を有する置換基における上記2位原子としては、例えば炭素、ケイ素、リン、窒素、酸素等が挙げられ、また三重結合を有する置換基における上記2位原子としては、例えば炭素、ケイ素、リン、窒素等が挙げられる。特にこの2位原子は炭素であることが好ましい。この2位原子は中心元素及び上記2位原子以外に、水素、アルキル基等の他の適宜の基と結合していてもよい。
また、二重結合又は三重結合を有する置換基における1位原子と2位原子とは、共に炭素であることが特に好ましい。前記1位原子と2位原子とが共に炭素であると共に両者が二重結合で結合している場合、前記二重結合は芳香族性の二重結合であっても、エチレン性二重結合であってもよい。このような二重結合を有する置換基としては、アルケニル基、アルキニル基、置換又は非置換のアリール基等が挙げられる。但し、触媒化合物はラジカル反応の際に重合しないことが好ましいため、二重結合を有する置換基は、特に置換又は非置換のアリール基であることが好ましい。また、エチレン性二重結合を有する置換基については、ラジカル重合反応性が低いものであることが好ましい。
また、中心元素には、上記のような二重結合又は三重結合を有する置換基が、2つ又は3つ結合していることが好ましい。この場合、中心元素が炭素ラジカルとなった場合に共鳴効果により前記炭素ラジカルが更に安定化されて、触媒として更に高い活性を発揮するようになる。
触媒化合物としては、例えば下記一般式で表されるものが挙げられる。
式中のX1はハロゲンである。また、式中のRa、Rbは、1位原子と2位原子とが二重結合或いは三重結合で結合している有機基、又はハロゲンであり、Rcは1位原子と2位原子とが二重結合或いは三重結合で結合している有機基、ハロゲン又は水素である。Ra、Rb、Rcのうちから選ばれるいずれか二つが互いに連結することでRa、Rb、Rcのうちいずれか二つと中心元素を含む環構造が形成されていてもよく、またRa、Rb、Rcが互いに連結することでRa、Rb、Rcを含む環構造が形成されていてもよい。また中心元素、Ra及びRbで脂肪族不飽和環構造や、芳香族環構造を構成していてもよい。
また、触媒化合物としては、例えば一般式R1X1 hで表されるものが挙げられる。R1は置換又は非置換のアリール基であり、好ましくは置換又は非置換のフェニル基である。置換基を有するアリール基における前記置換基としては低級アルキル基、低級アルコキシ基、シアノ基が挙げられる。X1はハロゲンであり、R1の芳香族環中の炭素原子に結合している。hはR1の芳香族環中の炭素原子の数を超えない任意の正の整数である。
中心元素と共に共鳴構造を構成する置換基が、一つの中心元素に二つ結合している場合には、二つの前記置換基と中心元素とが全体として一つの共鳴構造を構成することが好ましい。すなわち、例えば二つの前記置換基と中心元素とが全体として芳香族環構造を構成することが好ましい。このような構造を有する触媒化合物の例としては、ヨードベンゼンが挙げられる。この場合、ヨードベンゼンの芳香族環を構成する炭素原子のうち、ヨウ素と結合する1位の炭素が中心元素に該当し、2位及び5位の炭素原子が、それぞれ置換基の1位原子に該当する。また、このような構造を有する触媒化合物として、下記一般式に示される化合物を挙げることもできる。
式中、M11は、中心原子である炭素(C)に結合する原子であり、好ましくは炭素、ケイ素、リン又は窒素、より好ましくは炭素である。M12はM11に結合する原子であり、好ましくは炭素、ケイ素、燐、窒素又は酸素、より好ましくは炭素又は酸素である。M11とM12との間の結合は二重結合又は三重結合である。R10及びR11は、M11の原子価に応じて存在する任意の置換基、R12及びR13は、M12の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、これらは例えば水素、アルキル基、アルコキシ基等である。
M21は中心元素に結合する原子であり、好ましくは炭素、ケイ素、リン又は窒素、より好ましくは炭素である。M22はM21に結合する原子であり、好ましくは炭素、ケイ素、リン、窒素又は酸素、より好ましくは炭素または酸素である。M21とM22との間の結合は二重結合又は三重結合である。R20及びR21は、M21の原子価に応じて存在する任意の置換基、R22及びR23は、M22の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、これらは例えば水素、アルキル基、アルコキシ基等である。また、R13はR23に連結されていてもよい。
また、触媒化合物の他例として、下記一般式に示される化合物が挙げられる。
式中、M41は中心元素に結合する原子であり、好ましくは炭素、ケイ素、リン又は窒素、より好ましくは炭素である。M42はM41に結合する原子であり、好ましくは炭素、ケイ素、リン、窒素又は酸素、より好ましくは炭素又は酸素である。R40及びR41はM41の原子価に応じて存在する任意の置換基、R42及びR43はM42の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、これらは例えば水素、アルキル基、アルコキシ基等である。
M51は中心元素に結合する原子であり、好ましくは炭素、ケイ素、リン又は窒素、より好ましくは炭素である。M52はM51に結合する原子であり、好ましくは炭素、ケイ素、リン、窒素又は酸素、より好ましくは炭素又は酸素である。R50及びR51はM51の原子価に応じて存在する任意の置換基、R52及びR53はM52の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、これらは例えば水素、アルキル基、アルコキシ基等である。
上記一般式において、R43はR53に連結されていてもよく、また更にR53が存在しない場合にはR43はM52に連結されていてもよい。このような場合の触媒化合物の構造の例を下記一般式に示す。
上記一般式に示す触媒化合物では、R43を構成する原子のうち、M42と結合する原子がM52とも結合すれば、安定な6員環を形成することができるので、好ましい。このような触媒化合物の好ましい形態の一例として、R43がCH又はNであり、M42とR43との間の結合が単結合であり、R53が存在せず、R43が直接M52に結合し、R43とM52との間の結合が二重結合であるものが挙げられる。この場合、6員環において極めて安定な共鳴構造が形成されることになる。
更に、R43及びR53が共に存在しない場合、M42がM52に直接結合していてもよい。この場合、中心元素の炭素原子とM41、M42、M51及びM52が5員環を形成する。
なお、中心元素と共に共鳴構造を構成する置換基は、電子吸引性の置換基であってもよく、電子供与性の置換基であってもよい。
炭素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、ハロゲン化炭素(例えばCI4)、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アリール(例えばヨウ化ジフェニルメタン(Ph2Cl2))、ハロゲン化ヘテロアリール等が挙げられる。
炭素を中心元素とする触媒化合物には、有機ハロゲン化物に相当する化合物があるが、この触媒化合物は、ドーマント種として用いられるPE−IやCP−I等の有機ハロゲン化物とは区別される。例えば有機ハロゲン化物に相当する触媒化合物を使用する場合、この触媒化合物とは異なる構造を有する有機化合物をドーマント種として使用する。PE−IやCP−Iのように、ハロゲンが結合する炭素にメチル基が二つ以上結合している化合物は、触媒としては作用しない。触媒化合物である有機ハロゲン化合物は、ハロゲンとの親和性が強いことからハロゲンをドーマント種から引き抜く力が強く、且つモノマーとは反応せず重合の成長種とはならない必要がある。この触媒化合物は、ドーマント種に比べて電子的にやや不安定で高活性であり、且つモノマーとの反応を避けるべくやや嵩高い有機ハロゲン化物であることが好ましい。すなわち触媒化合物である有機ハロゲン化物は、炭素−ハロゲン間の結合が弱く、ハロゲンを放出して炭素ラジカルになりやすく、その炭素ラジカルはドーマント種からハロゲンを引き抜く力が強いことが好ましい。
ドーマント種として機能せずに触媒化合物として機能する有機ハロゲン化物では、この有機ハロゲン化物におけるp軌道、又はs軌道とp軌道との混成軌道(例えばsp3混成軌道)の電子に基づくラジカルが触媒として有効に作用するものである。このような触媒化合物として機能する有機ハロゲン化物は、ラジカル反応の実験を行うことにより、容易に確認することができる。具体的には、有機ハロゲン化物と代用的なドーマント種(例えばPE−I)とを組み合わせてリビングラジカル重合反応の実験を行い、狭い分子量分布が得られれば、その有機ハロゲン化物が触媒として作用したことが確認できる。
炭素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例を以下に示す。
芳香族環に直接ハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した構造を有する触媒化合物として、下記に例示されるものを使用することができる。
共役脂肪族二重結合に隣接する炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した構造を有する触媒化合物として、下記に例示されるものを使用することができる。この触媒化合物は、特に二つの二重結合の間に挟まれた炭素にヨウ素が結合した構造を有することが好ましい。
芳香族二重結合に隣接する炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した構造を有する触媒化合物として、下記に例示されるものを使用することができる。この触媒化合物は、特に二つ以上の芳香族環の間に挟まれた炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した構造を有することが好ましい。また、三つの芳香族環の間に挟まれた炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した構造を有する化合物も触媒化合物として使用可能である。
エステル結合などの二重結合に隣接する炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した構造を有する触媒化合物として、下記に例示されるものを使用することができる。この触媒化合物は、特に二つの二重結合の間に挟まれた炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した構造を有することが好ましい。
また、C−I(炭素−ヨウ素)結合、又はC−Br(炭素−臭素)結合を有し、炭素が更に三つのハロゲン原子と結合している構造を有する触媒化合物が使用可能である。例えば一般式CX1 mInで表される触媒化合物を使用することができる。X1はハロゲンであり、m及びnはそれぞれ1〜3の整数であり、且つm+n=4である。すなわち、少なくとも一つのヨウ素又は臭素を有する四ハロゲン化メチルを触媒化合物として使用することができる。このような触媒化合物として、CI4、CF3I、CF2I2等が挙げられる。尚、I、Brのいずれも有さないハロゲン化メチル(例えばCCl4)は、触媒としての活性が非常に低いため、好ましくない。
炭素を中心元素とする触媒化合物は、公知の方法により合成することが可能である。また、天然物中に存在する化合物は、その天然物から抽出するなどの方法により入手することもできる。
例えば炭素にハロゲン及び有機基であるR1が結合した構造を有する触媒化合物を合成する方法として、R1 3CHにN−ヨードコハク酸イミドを反応させたり、R1 3COHにヨウ素あるいはP2I4を反応させたりすることによりR1 3Iを合成する方法が挙げられる。また、このような触媒化合物を合成する方法として、文献Tetrahedron Letters 36, 609-612(1995)や、文献TetrahedronLetters 20, 1801-1904(1979)に記載された方法も挙げられる。
炭素を中心元素とする触媒化合物の、重合反応時の使用量は特に制限されず、リビングラジカル重合を触媒するのに充分な量であればよいが、反応溶液1リットルに対して、10ミリモル(mM)以下とすることが好ましく、5ミリモル以下とすることも好ましく、2ミリモル以下とすることも好ましく、1ミリモル以下とすることも好ましく、0.5ミリモル以下とすることも好ましい。質量基準では、触媒化合物の使用量を反応溶液に対して1質量%以下とすることが好ましく、0.75質量%以下とすることも好ましく、0.70質量%以下とすることも好ましく、0.5質量%以下とすることも好ましく、0.2質量%以下とすることも好ましく、0.1質量%以下とすることも好ましく、0.05質量%以下とすることも好ましい。
また、この触媒化合物の使用量の下限は特に制限されないが、反応溶液1リットルに対して0.02ミリモル以上であることが好ましく、0.1ミリモル以上であることも好ましく、0.5ミリモル以上であることも好ましい。質量基準では、触媒化合物の使用量は反応溶液に対して0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることも好ましく、0.02質量%以上であることも好ましい。触媒化合物の使用量が少なすぎる場合には、生成する成分(A)の分子量分布が広くなり易い。
また、炭素を中心元素とする触媒化合物を使用する場合は、重合反応系に前記触媒化合物を直接加えてもよいが、この触媒化合物の前駆体(触媒前駆体)を加えてもよい。
炭素を中心元素とする触媒化合物に対応する触媒前駆体としては、炭素を中心元素とする触媒化合物中における中心元素である炭素に結合したハロゲンを水素に置換した化合物が挙げられる。
従って、例えば中心元素である炭素に、一つ又は二つの水素原子と、二つ又は三つのラジカル安定化用置換基が結合している構造を有する化合物を、触媒前駆体として使用することができる。ラジカル安定化用置換基としては、中心元素と共に共鳴構造を構成する置換基が好ましい。中心元素である炭素には、水素原子及びラジカル安定化用置換基以外の置換基が1つ結合していてもよいが、このような置換基が中心元素に結合していないことが、より好ましい。
但し、芳香族環に直接ハロゲンが結合した構造を有する化合物は触媒化合物として使用可能であるが、この化合物のハロゲンを水素に置換した化合物(ベンゼン等の芳香族環状炭化水素)は、触媒として活性が非常に低いため、触媒前駆体としては好ましくない。
また、ハロゲン化メチルは触媒化合物として使用可能であるが、このハロゲン化メチルの全てのハロゲンを水素に置換した化合物(メタン)は、気体であるため触媒前駆体として使用しにくく、また活性も低いため、好ましくない。
上記触媒化合物中の炭素原子に結合したハロゲンを水素に置換した構造を有する化合物としては、例えば炭素、ケイ素、窒素又はリンにC−H基が結合した構造を有する化合物が挙げられる。
触媒前駆体としては、好ましくはメチレンに二つの芳香族環が結合した構造を有する化合物が挙げられる。
触媒前駆体における、ハロゲン以外に中心元素である炭素に結合する原子(1位原子)は、炭素、ケイ素、窒素又はリンが挙げられ、好ましくは炭素、窒素又はリンであり、更に好ましくは炭素である。1位原子には、中心元素である炭素以外には、炭素及び水素から選択される原子のみが結合していることが好ましい。1位原子と結合する中心元素以外の原子(2位原子)は、好ましくは炭素である。2位原子には、炭素、酸素及び水素から選択される原子のみが結合していることが好ましい。また、1位原子と2位原子との結合が二重結合であることが好ましい。また、1位原子に二つの2位原子が結合していると共に、一方の2位原子と1位原子とが二重結合で結合されていることが好ましく、例えば1位原子である炭素原子に2位原子として二つの炭素原子が結合し、且つ1位原子である炭素原子と一方の2位原子である炭素原子が二重結合で結合された構造を有する触媒前駆体を使用することが好ましい。2位原子は二つ以上存在することが好ましく、この場合、1位原子と一つの2位原子とが二重結合で結合し、他の2位原子と1位原子とが単結合で結合し、前記二重結合と単結合とが共役系の一部を構成していることが好ましい。例えば、1位原子が炭素であり、2位原子として二つの炭素原子が存在し、一方の2位原子と1位原子との結合が二重結合であると共に、他方の2位原子と1位原子との結合が単結合であって、前記二重結合と単結合とが、共役系の一部を構成していることが好ましい。
このような触媒前駆体としては、芳香族環に炭化水素基が結合した構造を有する炭化水素化合物が好ましく、例えば置換又は非置換のアリール基に炭化水素基が結合した化合物が好ましい。例えば触媒前駆体として、メチレン基に二つの芳香族置換基が結合した構造を有する化合物を使用することが好ましい。前記アリール基は、置換又は非置換のフェニル基又はビフェニル基が好ましい。また、置換基を有するアリール基における置換基は、アルキル基、アルコキシル基、シアノ基等が好ましく、低級アルキル基及び低級アルコキシ基がより好ましい。
触媒前駆体はラジカル反応性二重結合を有さないことが好ましい。芳香族二重結合(例えばベンゼン環の二重結合)のようにラジカルとの反応性が低い二重結合を触媒前駆体が有していてもよい。脂肪族二重結合であっても、ラジカルとの反応性が低い二重結合を有する化合物は、触媒前駆体として使用することに支障はない。
炭素を中心元素とする触媒化合物に対応する触媒前駆体の好ましい具体例を以下に示す。
脂肪族二重結合に隣接する炭素に水素が結合した構造を有する化合物を、触媒前駆体として使用することができる。特に二つの脂肪族二重結合の間に挟まされた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、二つの脂肪族二重結合の間に挟まれたメチレン基を有する化合物が使用可能である。このような触媒前駆体としては、下記式に示す1,4−シクロヘキサジエンが挙げられる。
芳香族環に隣接する炭素に水素が結合した化合物を触媒前駆体として使用することができる。特に二つ以上の芳香族環の間に挟まれた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、二つの芳香族環の間に挟まれたメチレン基を有する触媒前駆体として、下記式に示されるものが挙げられる。また三つの芳香族環の間に挟まれた炭素に水素が結合した構造を有する触媒前駆体として、トリフェニルメタンが挙げられる。
エステル結合などの二重結合に隣接する炭素に水素が結合した構造を有する化合物を触媒前駆体として使用することができる。特に、二つの二重結合の間に挟まれた炭素に水素が結合した構造を有する化合物を、触媒前駆体として使用することができる。例えば、二つの二重結合の間に挟まれたメチレン基を有する化合物を触媒前駆体として使用することができる。このような触媒前駆体として、下記式に示されるものが挙げられる。
(A)成分の合成に用いられるモノマーの種類と、触媒化合物との組み合わせは特に限定されず、任意に選択されたモノマーに対して任意に選択された触媒化合物を使用することが可能である。ただし、メタクリレート系モノマーについては、芳香環を有する置換基を有する触媒化合物、より具体的にはアリール基を有する触媒化合物を使用することが、反応性の点で、それ以外の触媒化合物よりも好ましい。
(ドーマント種)
この触媒化合物を使用したリビングラジカル重合においては、重合反応系中の反応途中の成長鎖にこの成長鎖を保護する保護基を導入することが好ましい。このような保護基としては、従来からリビングラジカル重合に用いる保護基として公知の各種保護基が挙げられる。
保護基の導入にあたっては、ドーマント種として例えば、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を重合反応系に添加し、この有機ハロゲン化物から成長鎖へハロゲンを移動させることにより、このハロゲンを保護基とすることができる。このような有機ハロゲン化物は比較的安価であるので、リビングラジカル重合における保護基導入のための公知の他の化合物に比べて有利である。また、必要に応じて、炭素以外の元素にハロゲンが結合したドーマント種を用いることもできる。
この有機ハロゲン化物は、分子中に少なくとも1個の炭素−ハロゲン結合を有し、ドーマント種として機能するものであればよく、特に限定されるものではないが、一般的にはこの有機ハロゲン化物の1分子中にハロゲンが1個または2個含まれていることが好ましい。
有機ハロゲン化物のハロゲンが結合した炭素(以下、便宜上、「1位炭素」という)に結合した水素の数は、2以下であることが好ましく、1以下であることが更に好ましく、水素が結合していないことが特に好ましい。また、有機ハロゲン化物の1位炭素に結合しているハロゲンが塩素である場合には、その塩素の数は3以下であることが好ましく、2以下であることが更に好ましく、1であることが特に好ましい。
有機ハロゲン化物の1位炭素には、炭素が1以上結合していることが好ましく、炭素が2又は3結合していれば更に好ましい。
この有機ハロゲン化物のハロゲンは、触媒化合物中のハロゲンと同一であってもよく、異なってもよい。異種のハロゲンであっても、有機ハロゲン化物と触媒の化合物との間で、互いにハロゲンを交換することが可能であるからである。ただし、有機ハロゲン化物のハロゲンと、触媒化合物中のハロゲンとが同一であれば、有機ハロゲン化物と触媒の化合物との間でのハロゲンの交換がより容易であるので、好ましい。
有機ハロゲン化物として、以下の一般式(II)で示されるものが挙げられる。
CR2R3R4X2 (II)
ここで、式中のR2、R3は、それぞれ独立にハロゲン、水素またはアルキル基であり、好ましくは水素または低級アルキル基であり、より好ましくは水素またはメチル基である。R4は、ハロゲン、水素、アルキル基、アリール基またはシアノ基であり、好ましくはアリール基またはシアノ基である。R4が、ハロゲン、水素またはアルキル基である場合、R4はR2またはR3と同一であってもよく、異なっていてもよい。
X2は、ハロゲンであり、好ましくは塩素、臭素またはヨウ素である。R2〜R4にハロゲンが存在する場合、X2は、前記R2〜R4におけるハロゲンと同一であってもよく、異なっていてもよい。また、X2は触媒化合物に含まれるハロゲンと同一であってもよく、異なっていてもよい。
この有機ハロゲン化物の1分子中に含まれるハロゲンの数は、1又は2であることが好ましい。
このような有機ハロゲン化物の好ましい例としてはハロゲン化アルキルまたはハロゲン化置換アルキルが挙げられる。このうち特にハロゲン化置換アルキルが好ましい。このハロゲン化アルキルまたはハロゲン化置換アルキルにおけるアルキル基は、2級以上のアルキル基が好ましく、より好ましくは3級アルキル基である。すなわち、有機ハロゲン化物のハロゲンが結合している炭素が有する水素は、2つ以下であることが好ましく、1つ以下であることがより好ましく、水素を有さないことがさらに好ましい。
また、ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化置換アルキルにおいてアルキル基の炭素数は2または3であることが好ましい。従って、有機ハロゲン化物は、さらに好ましくは、ハロゲン化置換エチルまたはハロゲン化置換イソプロピルである。また、ハロゲン化置換アルキルにおける置換基としては、例えば、フェニル基、シアノ基などが挙げられる。
有機ハロゲン化物の好ましい具体例としては、例えば、以下の構造式で表されるPE−I(CH(CH3)(Ph)I)、CP−I(C(CH3)2(CN)I)などが挙げられる。
有機ハロゲン化物の別の具体例としては、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ブロモメチル、ジブロモメタン、ブロモホルム、テトラブロモメタン、ブロモエタン、ジブロモエタン、トリブロモエタン、テトラブロモエタン、ブロモトリクロロメタン、ジクロロジブロモメタン、クロロトリブロモメタン、ヨードトリクロロメタン、ジクロロジヨードメタン、ヨードトリブロモメタン、ジブロモジヨードメタン、ブロモトリヨードメタン、テトラヨードメタン、ヨードホルム、ジヨードメタン、ヨウ化メチル、塩化イソプロピル、塩化t−ブチル、臭化イソプロピル、臭化t−ブチル、トリヨードエタン、ヨウ化エチル、ジヨードプロパン、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化t−ブチル、ブロモジクロロエタン、クロロジブロモエタン、ブロモクロロエタン、ヨードジクロロエタン、クロロジヨードエタン、ジヨードプロパン、クロロヨードプロパン、ヨードジブロモエタン、ブロモヨードプロパン等が挙げられる。これらの有機ハロゲン化物は単独で用いてもよく、複数種を組合せて用いてもよい。
重合反応時における有機ハロゲン化物の使用量は、重合反応系中におけるラジカル重合開始剤1モル当たり0.05以上であることが好ましく、0.5モル以上であればより好ましく、1モル以上であれば更に好ましい。また、この使用量は重合反応系中におけるラジカル重合開始剤1モル当たり100モル以下であることが好ましく、30モル以下であればより好ましく、5モル以下であれば更に好ましい。さらに、この使用量は重合反応系に供給されるビニル系単量体の1モル当たり0.001モル以上であることが好ましく、0.005モル以上であればより好ましい。また、この使用量は重合反応系に供給されるビニル系単量体の1モル当たり0.5モル以下であることが好ましく、0.4モル以下であればより好ましく、0.3モル以下であれば更に好ましく、0.2モル以下であれば更に好ましく、0.1モル以下であれば特に好ましい。また、この使用量は、更にビニル系単量体の1モル当たり0.07モル以下であることが好ましく、0.05モル以下であることも好ましく、0.04モル以下であることも好ましく、0.03以下であることも好ましく、0.02モル以下であることを好ましく、0.01モル以下であることも好ましい。
上記有機ハロゲン化物は、その多くの化合物が公知である。この有機ハロゲン化物としては、試薬販売会社などから市販されている試薬などをそのまま用いることが可能である。また、有機ハロゲン化物を、従来公知の合成方法を用いて合成することもできる。
また、有機ハロゲン化物の原料を重合反応系中に仕込み、重合反応時にその場(in situ)で有機ハロゲン化物を生成させることもできる。例えば、重合反応系中にアゾビス(イソブチロニトリル)とヨウ素を原料として仕込むことで、有機ハロゲン化物である上記CP−Iを重合反応時にin situで生成させることができる。
また、有機ハロゲン化物は、無機又は有機固体表面や、無機又は有機分子表面などに固定化したものを用いることもできる。例えばシリコン基板表面、高分子膜表面、無機又は有機微粒子表面、顔料表面などに固定化した有機ハロゲン化物を使用することができる。固定化には、例えば化学結合や物理結合などを利用できる。
(ラジカル反応開始剤)
この触媒化合物を使用したリビングラジカル重合方法においては、必要に応じて、必要量のラジカル反応開始剤を用いることができる。ラジカル反応開始剤としては、ラジカル反応に使用する開始剤として公知の開始剤が使用可能である。例えばラジカル反応開始剤として、アゾ系のラジカル反応開始剤、過酸化物系のラジカル重合開始剤などが使用可能である。アゾ系のラジカル反応開始剤の具体例としては、アゾビス(イソブチロニトリル)が挙げられる。過酸化物系のラジカル重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等が挙げられる。
また、触媒前駆体として水素化化合物を使用する場合は、ラジカル反応開始剤として過酸化物系のラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。過酸化物系のラジカル重合開始剤は、水素化化合物の水素を引き抜く力が特に強いため、リンの水素化物等の触媒前駆体から水素を引き抜いて活性化ラジカルを発生させることができる。過酸化物としては、特に有機過酸化物が好ましい。
ラジカル重合開始剤の使用量は特に限定されないが、反応液1リットルに対して1ミリモル以上が好ましく、5ミリモル以上であればより好ましく、10ミリモル以上であれば更に好ましい。またこのラジカル重合開始剤の使用量は反応液1リットルに対して、500ミリモル以下が好ましく、100ミリモル以下であればより好ましく、50ミリモル以下であれば更に好ましい。
また、重合反応が長時間に亘る場合はこれらのラジカル反応開始剤を反応系へ少しずつ連続して添加し、或いは少しずつ分割して添加することが好ましい。
(溶媒等)
重合反応時には溶媒を使用することができる。(A)成分の合成に用いられるモノマーなどを含む反応混合物が反応温度において液体であれば、必ずしも溶媒を用いる必要はないが、この場合も必要に応じて溶媒を用いてもよい。溶媒としては、従来、リビングラジカル重合に用いられていた溶媒をそのまま使用することが可能であるが、例えば水、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−ブチルアルコール、ヘキサノール、エチレングリコール等の直鎖、分岐、2級あるいは多価のアルコール類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;スワジールシリーズ(丸善石油化学社製)、ソルベッソシリーズ(エクソン・ケミカル社製)等の石油系芳香族系混合溶剤;セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類;プロピレングリコールメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールメチルエーテル等のポリプロピレングリコールアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロゾルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;ジアルキルグリコールエーテル類等を用いることができる。このような有機溶剤は一種のみを用い或いは二種以上を適宜互いに組み合わせて使用することができる。
溶媒の使用量は、重合反応が適切に行われる限り特に限定されないが、モノマー100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であればより好ましく、50質量部以上であれば更に好ましい。溶媒の使用量が少なすぎる場合には、反応溶液の粘度が高く成りすぎる場合がある。また、この溶媒の使用量はモノマー100質量部に対して2000質量部以下であることが好ましく、1000質量部以下であればより好ましく、500質量部以下であれば更に好ましい。溶媒の使用量が多すぎると反応溶液のモノマー濃度が薄くなりすぎる場合がある。
また、モノマーを溶解しない溶媒を使用すると、乳化重合、分散重合、懸濁重合を行うことができる。例えば、スチレンやメタクリレートをモノマーとする場合、水を溶媒とすることで、乳化重合、分散重合、懸濁重合を行うことができる。
また、重合反応系中には、必要に応じて各種の添加剤を必要量添加してもよい。この添加剤としては、酸化防止剤、重合抑制剤等が挙げられる。
(反応条件)
上述した各種原料を混合することにより、リビングラジカル重合の材料として適切な原料組成物が得られ、この原料組成物中でリビングラジカル重合を進行させることができる。
この原料組成物中には、上記原料以外の原料を含まないことが好ましい。例えば環境問題等の観点から、原料組成物は、遷移金属を含む原料を実質的に含有しないことが好ましい。また、原料組成物は、リビングラジカル重合に無関係な材料(例えば、エピスルフィド化合物等)を実質的に含まないことが好ましい。
例えば、原料組成物は、ラジカル重合開始剤、触媒化合物と触媒前駆体のうち少なくとも一方、(A)成分の合成に用いられるモノマー、溶媒、及び有機ハロゲン化物を含み、それ以外の原料を実質的に含まないことが好ましい。なお、触媒前駆体を使用する場合は、上記のとおりラジカル重合開始剤は過酸化物系のラジカル重合開始剤であることが好ましい。また、溶媒が不要な場合には溶媒が含まれていなくてもよい。
重合反応時の反応温度は特に限定されないが、ゲルマニウム、スズ、又はアンチモンを中心元素とする触媒化合物を使用する場合は、反応温度は10℃以上が好ましく、20℃以上であればより好ましく、30℃以上であれば更に好ましく、40℃以上であればいっそう好ましく、50℃以上であれば特に好ましい。また、この反応温度は130℃以下が好ましく、110℃以下であればより好ましく、100℃以下であれば更に好ましく、90℃以下であればいっそう好ましく、85℃以下であれば特に好ましい。
また、リン、窒素、酸素又は炭素を中心元素とする触媒化合物を使用する場合、反応温度は10℃以上が好ましく、20℃以上であればより好ましく、30℃以上であれば更に好ましく、40℃以上であればいっそう好ましく、50℃以上であれば特に好ましい。また、この反応温度は130℃以下が好ましく、120℃以下であればより好ましく、110℃以下であれば更に好ましく、105℃以下であればいっそう好ましく、100℃以下であれば特に好ましい。
この反応温度が高すぎる場合には、加熱のための設備等にコストがかかるという欠点がある。温度が室温以下の場合には、冷却のための設備等にコストがかかるという欠点がある。また、室温以下で重合するように反応混合物を調製すると、その反応混合物が室温では不安定で反応してしまうために、反応混合物の保管が困難になるという欠点がある。したがって、上記の、室温より少し高く、かつ過度に高すぎない温度範囲(例えば、ゲルマニウム、スズ、又はアンチモンを中心元素とする触媒化合物を使用する場合は50〜85℃、リン又は窒素を中心元素とする化合物を使用する場合は50〜100℃)は、実用的な意味において非常に好適である。
また、重合反応の反応時間は特に限定されないが、15分間以上が好ましく、30分間以上であればより好ましく、1時間以上であれば更に好ましい。またこの反応時間は3日以下が好ましく、2日以下であればより好ましく、1日以下であれば更に好ましい。
この反応時間が短すぎる場合には、充分な分子量を有する(A)成分を得ることが難しい。反応時間が長すぎる場合には、プロセス全体としての効率が悪い。適切な反応時間とすることにより、優れた性能(適度な重合反応速度と副反応の軽減)が達成され得る。
この重合反応は、空気雰囲気下で行ってもよい。また必要に応じて窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
このリビングラジカル重合により得られる生成ポリマーは、末端にヨウ素等のハロゲンを有する。この末端のハロゲンは必要に応じて除去し、或いは他の官能基に変換することができる。末端のハロゲンの反応性は一般的に高いため、種々の反応によりこのハロゲンを除去し、又は他の官能基に変換することができる。例えば末端のヨウ素を熱又はエネルギー線により除去する方法、末端のヨウ素を水酸化ナトリウムと反応させて水酸基に変換する方法、末端のヨウ素を塩化ナトリウムと反応させて塩素に変換する方法、末端のヨウ素を水素化ホウ素ナトリウムと反応させて水素に変換する方法、末端のヨウ素をアルコールと反応させてアルコキシ基に変換する方法、末端のヨウ素をアミンと反応させてアミノ基に変換する方法などが挙げられる。ヨウ素以外のハロゲンも、ヨウ素の場合と同様に種々の官能基に変換することができる。
((A)成分の構成)
(A)成分は、可逆移動触媒重合法により得られ、分散度が1.8以下の重合体、並びに可逆移動触媒重合法により得られ、分散度が1.8以下の重合体を変性して得られる樹脂のうち、少なくとも一方からなる。分散度(Mw/Mn)は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比によって定義される。前記分散度は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)による分子量の測定結果に基づいて導出することができる。
(A)成分の合成に用いられるモノマーは、共重合可能なエチレン性不飽和単量体であればよい。このモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐或いは脂環式アルキル系(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数は例えば2〜23)のモノ(メタ)アクリレート類;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエチレングリコールエステル系(メタ)アクリレート類、及び同様なプロピレングリコール系(メタ)アクリレート類、ブチレングリコール系モノ(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;べンジル(メタ)アクリレート等の芳香族系の(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ターシャリーブチル(メタ)アクリルアミド、N−ターシャリーオクチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド類;スチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエン、α−メチルスチレン、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ビニルベンジルアルコール等のビニル芳香族化合物類;マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;2−(メタ)アクリルアミドエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、3−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有(メタ)アクリレート類;その他にグリセロールモノ(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、ビニルエーテル類、(メタ)アリルアルコール、シアン化ビニリデン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルピロリドン、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
また、共重合可能なエチレン性不飽和基を複数個有する化合物もゲル化の起らない範囲で(A)成分の合成に少量使用できる。このような多官能性の化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、トリビニルベンゼン等が挙げられる。これらは単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。これらの化合物は、レジストインキとした際のプリキュア後の塗膜の硬度及び最終的なレジストの硬度を調節するために、或いは分散性、溶解性、印刷性等、レジストインキの使用工程上の作業性の調節等のために用いられる。
(A)成分中にアルカリ可溶性基を導入してアルカリ可溶型とする方法としては、分子内に一つのラジカル重合性二重結合と一つ以上のアルカリ可溶性基を併有する単量体を可逆移動触媒重合法により共重合する方法と、可逆移動触媒重合法により得られる重合体に予め適宜の反応性基を導入しておいて、この重合体に、前記反応性基と反応する官能基とアルカリ可溶性基を併有する化合物、若しくは前記反応性基と反応、結合することでカルボキシル基を生ずる化合物を反応させる方法とが挙げられる。前記アルカリ可溶性基としては、カルボキシル基、フェノール性水酸基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。
この(A)成分としては感光性を有するものを用いることができるが、感光性を有しないものを用いることもできる。感光性とは、適宜の光重合開始剤の存在下で紫外線、可視光線、赤外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けて重合反応を生じさせる性質を意味する。
このような(A)成分の具体例としては、下記の(A1)成分乃至(A3)成分を挙げることができる。
(A1)側鎖にカルボキシル基を有する重合体。
(A2)上記(A1)成分のカルボキシル基の一部に、分子内に少なくとも一つのエチレン性二重結合と一つのカルボキシル基と反応し得る反応基を有する化合物(d)と反応させて得られる樹脂。
(A3)側鎖にエポキシ基を有する重合体を生成した後に、前記エポキシ基の全部若しくは一部に飽和若しくは不飽和のモノカルボン酸(e)を反応させ、この生成物中の水酸基の全部若しくは一部に多塩基酸無水物(f)を反応させて得られる樹脂。
上記(A1)成分は、少なくとも1個の共重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物(モノマー)を重合させるにあたり、重合に供されるモノマーの少なくとも一種或いは全部として、分子内に一つのエチレン性二重結合と少なくとも一つのカルボキシル基を有する化合物を用い、この重合を上記のような可逆移動触媒重合法にて行うことで得ることができる。
この分子内に一つのエチレン性二重結合と少なくとも一つのカルボキシル基を有する化合物としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、桂皮酸等;無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水イタコン酸等の二塩基酸無水物とヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等の1分子中に1個の水酸基を含むエチレン性不飽和基を有する化合物とを反応させて得られるハーフエステル類;コハク酸、マレイン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、イタコン酸等の二塩基酸とグリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートモノグリシジルエーテル等の1分子中に1個のエポキシ基を含むエチレン性不飽和基を有する化合物とを反応させて得られるハーフエステル類等が挙げられる。
このような化合物は単独で又は複数種を併用して用いることができる。このうち特に好ましい化合物として(メタ)アクリル酸を挙げることができる。
また、(A1)成分から上記(A2)成分を生成する場合、上記(d)成分(分子内に少なくとも一つのエチレン性二重結合と一つのカルボキシル基と反応し得る反応基を有する化合物)としては、カルボキシル基と反応し得る反応基としてグリシジル基、イソシアネート基等を有する化合物を挙げることができる。具体的には、グリシジル基を有する化合物としては、グリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシジシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、エポキシ化ステアリルアクリレート(新日本理化株式会社製;品番「リカレジンESA」)等を、イソシアネート基を有する化合物としては2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製;品番「カレンズAOI」、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社;品番「カレンズMOI」)等を挙げることができる。
この(A2)成分は、側鎖に(d)成分に由来するエチレン性二重結合を有することから、感光性が付与されている。
この(d)成分は単独で又は複数種を併用して用いることができる。また(d)成分としては、特にグリシジル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
(A1)成分に対して(d)成分を反応させるにあたっては、(A2)成分の酸価が20〜200mgKOH/gの範囲となるように(d)成分の付加量を設定するのが好ましい。
また、(A1)成分と(d)成分との反応時には、この反応を促進させるために触媒を使用することが好ましい。触媒としてはベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン等の第3級アミン類、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩類若しくはトリフェニルフォスフィン、トリフェニルスチビン等が挙げられる。この触媒の使用量は、反応原料混合物の総量(最終的に反応系中に含まれる原料の総量)、すなわち(A1)成分の生成に使用するモノマー類、溶媒、リビングラジカル重合法に用いる触媒および開始剤、(d)成分、(d)成分の反応に使用する触媒、(d)成分の反応に使用する重合禁止剤等の総量に対して好ましくは0.1〜10質量%の範囲とする。
また(A1)成分と(d)成分との反応時には、(A1)成分の重合反応が生じることを防止する目的で、重合禁止剤を使用することが好ましい。重合禁止剤としてはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、上記反応原料混合物の総量に対して0.01〜1質量%が好ましい。
この(A1)成分と(d)成分とは、常法により、好ましくは60〜150℃、特に好ましくは80〜120℃の反応温度で反応させることができる。また、反応時間は好ましくは5〜60時間である。
また、(A3)成分を得る場合、まず少なくとも1個の共重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物(モノマー)を重合させて、側鎖にエポキシ基を有する重合体を合成する。この重合に供されるモノマーの少なくとも一部或いは全部として、分子内に一つのエチレン性二重結合と少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物を用いる。この重合を上記のような可逆移動触媒重合法にて行う。
このような分子内に一つのエチレン性二重結合と少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物としては、グリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシジシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、エポキシ化ステアリルアクリレート(新日本理化株式会社製;品番「リカレジンESA」)等を挙げることができる。これらの化合物は単独で又は複数種を併用して用いることができる。またこの化合物として、特にグリシジル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
また、上記(e)成分(飽和若しくは不飽和のモノカルボン酸)のうち、飽和モノカルボン酸としては、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酢酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸、ジメチロールカプロン酸等を用いることができる。
また、(e)成分として特に不飽和モノカルボン酸を用いる場合には、(A3)成分の側鎖にエチレン性二重結合を導入することができ、これにより(A3)成分に感光性を付与することができる。この不飽和モノカルボン酸としては例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、桂皮酸等;無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水イタコン酸等の二塩基酸無水物とヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等の1分子中に1個の水酸基を含むエチレン性不飽和基を有する化合物とを反応させて得られるハーフエステル類;コハク酸、マレイン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、イタコン酸等の二塩基酸とグリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートモノグリシジルエーテル等の1分子中に1個のエポキシ基を含むエチレン性不飽和基を有する化合物とを反応させて得られるハーフエステル類等が挙げられる。
この(e)成分は、一種単独で又は複数種を併用して用いることができる。またこの(e)成分としては、特に(メタ)アクリル酸を用いることが好ましい。
また、上記(f)成分(多塩基酸無水物)は、側鎖にエポキシ基を有する重合体と(e)成分との反応により生じた水酸基と反応する。これにより(A3)成分の側鎖にカルボキシル基が導入され、この(A3)成分にアルカリ可溶性が付与される。この(f)成分としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水イタコン酸等の二塩基酸無水物、トリメリット酸無水物を挙げることができる。また1個以上の酸無水物基を有する化合物もゲル化の起らない範囲で少量使用でき、例えば無水ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物(大日本インキ化学工業株式会社製「B−4400」)などが挙げられる。
(A3)成分の生成にあたり、側鎖にエポキシ基を有する重合体に対して(e)成分を反応させるにあたっては、(e)成分を、前記重合体の1エポキシ当量に対して0.7〜1.2化学当量の範囲で用いることが好ましい。
また、この側鎖にエポキシ基を有する重合体と(e)成分との反応を促進させるために触媒を使用することが好ましい。触媒としてはベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン等の第3級アミン類、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩類若しくはトリフェニルフォスフィン、トリフェニルスチビン等が挙げられる。この触媒の使用量は、反応原料混合物の総量(最終的に反応系中に含まれる原料の総量)、すなわち(A3)成分の生成に使用するモノマー類、溶媒、リビングラジカル重合法に用いる触媒および開始剤、(e)成分、(f)成分、(e)成分の反応に使用する触媒、(e)成分の反応に使用する重合禁止剤等の総量に対して好ましくは0.1〜10質量%の範囲とする。
また側鎖にエポキシ基を有する重合体と(e)成分との反応時には、側鎖にエポキシ基を有する重合体同士の重合を防止する目的で、重合禁止剤を使用することが好ましい。重合禁止剤としてハイドロキノン若しくはハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。その使用量は、上記の反応原料混合物の総量に対して0.01〜1質量%が好ましい。
この側鎖にエポキシ基を有する重合体と(e)成分との反応条件は適宜設定されるが、好ましくは常法により、60〜150℃、特に好ましくは80〜120℃の反応温度で反応させる。又、反応時間は好ましくは5〜60時間である。
側鎖にエポキシ基を有する重合体と(e)成分との反応により生成した中間生成物に(f)成分を反応させるにあたっては、(A3)成分に付与すべき所望の酸価に応じ、前記中間生成物の1水酸基当量に対して(f)成分を0.1〜1.5化学当量の範囲で用いることが好ましい。
また、この中間生成物と(f)成分との反応時には、この反応を促進するために上記(e)成分との反応の場合と同様の触媒を用い、また上記中間生成物の重合を防止する目的で上記(e)成分との反応の場合と同様の重合禁止剤を用いることが好ましい。この触媒や重合禁止剤としては、上記(e)成分との反応において添加したものをそのまま使用することができる。
この中間生成物と(f)成分とは、常法により、好ましくは20〜150℃、特に好ましくは50〜100℃の反応温度で反応させることができる。又、反応時間は好ましくは1〜30時間である。
上記のような(A1)成分、(A2)成分(A3)成分は、いずれも組成物をエッチングレジストインキ、ソルダーレジストインキとして調製するために用いることができる。特に(A1)成分及び(A2)成分は1段階又は2段階の反応で合成することが可能であり、またカルボキシル基及びエチレン性二重結合を有することでアルカリ可溶性及び感光性を有し、この(A1)成分及び(A2)成分を使用してエッチングレジストインキとしては十分な塗膜性能を有する組成物を調製することができる。このため(A1)成分及び(A2)成分は、組成物をエッチングレジストインキとして調製するために好適に用いることができる。また、(A3)成分は、合成するためには3段階の反応に要するが、この(A3)成分にはより多くのカルボキシル基及びエチレン性不飽和二重結合を導入可能であり、この(A3)成分を用いると塗膜性能の要求レベルが高い永久塗膜の性能を向上させる事が容易である。このため、(A3)成分は特に組成物をソルダーレジストインキとして調製する場合に好適に用いることができる。
上記のような(A)成分は、可逆移動触媒重合法で得られる分散度(Mw/Mn)が1.8以下の重合体や、可逆移動触媒重合法で得られる分散度(Mw/Mn)が1.8以下の重合体を変性して得られる樹脂で構成されるため、この(A)成分の分散度も狭いものとなる。ここで、前記可逆移動触媒重合法で得られる重合体の分散度が1.8よりも広くなると所望の分子量より高分子量の成分と低分子量の成分が系中に入るため、高分子量成分により非露光部の現像性が低下し、また低分子量成分により乾燥塗膜の光硬化性は向上するものの指触タックが悪化する。すなわち、指触タックと光硬化性、現像性の両立が難しくなってしまうものである。また、より優れた性能を有する組成物を得るためには、前記重合体の分散度は1.6以下であることが好ましく、1.5以下であれば更に好ましい。また、(A)成分の分散度も1・8以下であることが望ましい。
ここで、上記可逆移動触媒重合法で得られる重合体の分散度の理論上の下限値は1であるが、分散度を1とすることは困難であり、実際上の分散度の下限値は1.05である。
ここで、上記の分散度は(A)成分の合成の際の可逆移動触媒重合法によるリビングラジカル重合の条件を変更することで調整することが可能であり、このリビングラジカル重合の条件を適宜変更することで(A)成分の分散度が所望のものとなるようにすることができるものである。すなわち、リビングラジカル重合系の分子量分布を決定するパラメーターとしては、ドーマント種の可逆活性化における活性化速度定数や成長ラジカル濃度があり、ドーマント種の活性化速度定数が大きいリビングラジカル重合系を選ぶ事で、得られる重合体の分子量分布を狭くし、分散度を狭くすることができる。
また、成長ラジカル濃度を下げることで2分子停止反応の発生頻度を抑制できることにより、分子量分布を狭くして分散度を狭くすることもできる。例えばラジカル源であるラジカル開始剤の添加量を少なくする。
また、この(A)成分の数平均分子量は、1000〜200000の範囲とすることが好ましく、より好ましくは2000〜100000である。このような範囲において現像性と指触タック性が確保されるものである。
更に、(A)成分に十分なアルカリ溶解性を付与するためには、その酸価が20〜200mgKOH/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは40〜170mgKOH/gの範囲である。
この(A)成分は、組成物中に適宜の割合で含有されるが、組成物の全量(組成物に希釈剤(H)が含有されている場合には、希釈剤(H)を除いた組成物の全量)に対して、10〜90質量%の範囲で含有させることが好ましく、この場合、組成物の良好な感光性及び作業性、並びに最終的に形成される硬化皮膜の良好な物性を確保することができる。
《(B)光重合性単量体》
(B)成分としては(メタ)アクリレート単量体等の光重合性単量体を用いることができる。このような光重合性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリロイルモルフォリン、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、シクロペンタニルモノ(メタ)アクリレート、シクロペンテニルモノ(メタ)アクリレート、シクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、シクロペンテニルジ(メタ)アクリレート;多塩基酸とヒドロキジアルキル(メタ)アクリレートとのモノ−、ジ−、トリ−又はそれ以上のポリエステル等;ポリエステル(メタ)アクリレートやウレタン(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
この(B)成分は、組成物中に配合されることで、組成物を希釈して塗布しやすい状態とすると共に、この組成物の酸価を調整して組成物全体のアルカリ可溶性を調整する機能も有し得る。
またこの(B)成分は、上記(A)成分として感光性を有しないものを用いる場合には、組成物に感光性を付与するための成分となるものであり、また上記(A)成分が感光性を有する場合でも、更に組成物に(B)成分を含有させればこの組成物に更なる感光性を付与することができる。
組成物中に(B)成分を配合する場合には、組成物全量(後述する(H)成分(希釈剤)として有機溶剤を用いる場合にはこの有機溶剤を除く全量)に対して、50質量%以下の範囲で含有させることが好ましい。組成物中に(B)成分を50質量%を超えて含有させる場合には、組成物の乾燥塗膜の表面粘着性が強くなり過ぎ、パターンを描いたネガマスクを乾燥塗膜表面に直接当てがって露光するときにネガマスクの汚損等の問題を生じるおそれがある。また、組成物中に(B)成分を含有させる場合の含有量の下限は特に制限されないが、組成物に良好な皮膜特性を得るための感光性を付与するためには下限を1質量%とすることが好ましい。
《(C)光重合開始剤》
(C)成分としては、特に制限されず、紫外線、可視光線、赤外線、近赤外線、電子線等の所望のエネルギー線露光用の光重合開始剤を使用することができる。(C)成分の具体例としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン、3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、3,3',4,4'−テトラー(t−ブチルペルオキシルカルボニル)ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルスルフィド等のベンゾフェノン類又はキサントン類;2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、4,4'−ビス−ジエチルアミノベンゾフェノン等の窒素原子を含むもの;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
これらの(C)成分は組成物中に一種単独で又は複数種を組み合わせて含有させることができる。
また、これらの(C)成分と共に、安息香酸系又はp−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、2−ジメチルアミノエチルベンゾエート等の第三級アミン系等の公知の光重合促進剤や増感剤等を併用しても良い。また、レーザ露光法用増感剤として7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン、4,6−ジエチル−7−エチルアミノクマリン等のクマリン誘導体、その他カルボシアニン色素系、キサンテン色素系等を適宜選択して使用しても良い。
この(C)成分を組成物中に配合する場合の配合量は適宜設定されるものであるが、組成物の感光性と、得られる硬化皮膜の物性との良好なバランスを得るためには、組成物の全量(後述する(H)成分(希釈剤)として有機溶剤を用いる場合にはこの有機溶剤を除く全量)に対して、0.1〜30質量%の範囲とすることが望ましい。
《(G)多官能エポキシ化合物》
(G)成分は、組成物中に配合されるとこの組成物に熱硬化性を付与し、また広い現像幅を付与することができる。現像幅とは、現像可能性を保持し得る予備乾燥条件の幅を意味するものであり、予備乾燥管理幅あるいは予備乾燥許容範囲ともいう。
この(G)成分としては、例えば溶剤難溶性エポキシ化合物、汎用の溶剤可溶性エポキシ化合物等を用いることができる。具体的には、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA−ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、ビフェニル型エポキシ樹脂(例えばジャパンエポキシレジン(株)製の品番「YX4000」)、ソルビトールポリグリシジルエーテル、N−グリシジル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂(例えばダイセル化学工業(株)製の品番「EHPE−3150」)、ポリオールポリグリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、N−グリシジル型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキジフェニル)メタンベースの多官能エポキシ樹脂(例えば日本化薬社製の品番「EPPN−502H」、ダウケミカル社製の品番「TACTIX−742」「XD−9053」等)、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、エポキシ基を有するビニル重合ポリマー、多官能グリシジル化合物のポリイソシアネート変性物等が挙げられる。これらは一種単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。
これらのうち、(G)成分として特にトリグリシジルイソシアヌレート、ビフェニル型エポキシ樹脂(例えばジャパンエポキシレジン(株)製の品番「YX4000」)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA−ノボラック型エポキシ樹脂等を用いることが望ましい。
(G)成分を組成物中に配合する場合は、その配合量は、紫外線硬化性樹脂組成物の全量(後述する(H)成分(希釈剤)として有機溶剤を用いる場合にはこの有機溶剤を除く全量)に対して、0.1〜50質量%の範囲であることが望ましく、特に0.1〜30質量%の範囲において、組成物に優れた熱硬化性と広い現像幅とが付与される。
《(H)希釈剤》
この(H)成分としては、有機溶剤を用いることができる。前記有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−ブチルアルコール、ヘキサノール、エチレングリコール等の直鎖、分岐、2級あるいは多価のアルコール類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;スワジールシリーズ(丸善石油化学社製)、ソルベッソシリーズ(エクソン・ケミカル社製)等の石油系芳香族系混合溶剤;セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類;プロピレングリコールメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールメチルエーテル等のポリプロピレングリコールアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロゾルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;ジアルキルグリコールエーテル類等が挙げられる。また、(H)成分として水を使用し、或いは水と親水性の有機溶媒とを併用することもできる。この場合は有機成分を分散させて乳化或いは可溶化させるために、界面活性剤等を併用することができる。水を使用する場合は、有機溶剤の無用な放出を少なくすることができるという点では、環境に負担の少ないものとなる。
この(H)成分は一種のみを用い或いは二種以上を適宜互いに組み合わせて使用することができる。
この(H)成分を使用すると、組成物の樹脂成分を溶解、希釈して組成物を液状として塗布可能な状態にすることができ、また組成物の塗布後には(H)成分は乾燥により揮散して乾燥塗膜を造膜させることができる。また、特に組成物を希アルカリ溶液で現像可能なレジストインキとして調製する場合には組成物中に(H)成分として有機溶剤を含有させることが好ましく、このとき適宜選択された有機溶剤を使用することで、予備乾燥時に(H)成分が速やかに揮散し、乾燥塗膜に残存しないようにすることが好ましい。
組成物中に(H)成分を含有させる場合のその配合量は、組成物全量中で5質量%以上とすることが望ましく、これより少ない場合は組成物の塗布が困難となり易い。尚、この(H)成分の好適な配合量は組成物の塗布方法により異なるので、選択される塗布方法に応じて配合量を適宜調節することが好ましい。
《(I)他の成分》
組成物中には、特にこの組成物をフォトソルダーレジストインキとして調製する場合、上記各成分のほかに、例えばカプロラクタム、オキシム、マロン酸エステル等でブロックされたトリレンジイソシアネート、モルホリンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート系のブロックドイソシアネート、及びn−ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、ブチル化尿素樹脂、ブチル化メラミン尿素共縮合樹脂、ベンゾグアテミン系共縮合樹脂等のアミノ樹脂等の熱硬化成分、及び紫外線硬化性エポキシアクリレート又は紫外線硬化性エポキシメタクリレート、例えばビスフェノールA型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、脂環型等エポキシ樹脂にアクリル酸又はメタクリル酸を付加したもの、並びにスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の高分子化合物を配合することができる。
またこの組成物には、必要に応じて、さらにイミダゾール誘導体、ポリアミン類、グアナミン類、3級アミン類、4級アンモニウム塩類、ポリフェノール類、多塩基酸無水物、メラミン、ジシアンジアミド等のエポキシ樹脂硬化剤及び硬化促進剤類;硫酸バリウム、酸化珪素、タルク、クレー、炭酸カルシウム等の充填剤及び着色剤;シリコンやアクリレート共重合体、フッ素系界面活性剤等のレベリング剤;シランカップリング剤等の密着性付与剤;アエロジル等のチクソトロピー剤;ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、t−ブチルカテコール、フェノチアジン等の重合禁止剤;ハレーション防止剤、難燃剤、消泡剤、酸化防止剤等の各種添加剤;分散安定性を向上させるための界面活性剤や高分子分散剤等を配合しても良い。
また、組成物は、本発明の目的を達成することができる限り、上記(A)成分のほか、リビングラジカル重合法以外の重合法を経て合成された他の樹脂を含有してもよい。このような他の樹脂としては、例えば可逆移動触媒重合法を代えてリビングラジカル重合法以外の重合法を経て合成された以外は上記(A)成分と同様にして合成される樹脂を挙げることができる。また、(A)成分が感光性を有しない場合において、組成物に感光性を付与する場合には、他の樹脂として感光性を有する樹脂を、組成物中に含有させることもできる。他の樹脂の含有量は、ベース樹脂の分散度が過度に広くならないように適宜調整される。
[感光性樹脂組成物の調製方法]
本発明の組成物は、上記の各成分を適宜の手法により混合して調製することができる。例えば、各配合成分及び添加剤等を三本ロール、ボールミル、サンドミル等を用いる公知の混練方法によって調製することができる。また、エッチングレジスト用の感光性樹脂組成物を調製する場合のように感光性樹脂組成物中に充填剤を配合しない場合には、各成分をフラスコ等の容器中で混合することで感光性樹脂組成物を調製することもできる。
[感光性樹脂組成物からなるプリント配線板製造用感光性レジストインキ組成物の硬化物及びプリント配線板の作製]
本発明の組成物は、フォトレジストインキ、プリント配線板の層間絶縁材料、カラーフィルター用レジスト等の種々の用途に使用することができ、特にプリント配線板やプリント配線板製造用の積層板等の基板に対して層状に形成して、ソルダーレジストやエッチングレジスト等のレジストパターンを形成するために、好適に使用される。
基板としては適宜のものを用いることができるが、例えばガラスエポキシ樹脂基板や、ポリイミド基板等からなるフレキシブル基板等、或いはこれらから形成されるプリント配線板等を用いることができる。
本発明に係る組成物を使用して基板上にレジストパターンを形成する方法は特に限定されないが、その中で最も一般的な方法を例示すれば以下の通りである。
例えば、レジストインキとして調製された組成物を、基板上に浸漬法、スプレー、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、カーテンコーター又はスクリーン印刷等により塗布した後、(H)成分(希釈剤)である有機溶剤を揮発させるために例えば60〜120℃で予備乾燥を行い、予備乾燥塗膜を形成する。
次にパターンを描画したネガマスクを予備乾燥塗膜の塗膜表面に直接又は間接的に当てがい、ケミカルランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ又はメタルハライドランプ等を用いて紫外線を照射した後、現像によりパターンを形成する。そして、(G)成分(多官能エポキシ化合物)を配合している場合には、さらに例えば120〜180℃で30〜90分程度の加熱により熱硬化させることでレジストの皮膜強度、硬度及び耐薬品性等の諸特性を向上させることができるのである。
上記現像工程で使用される現像液としては、適宜の有機溶剤を使用することができる。また、特に(A)成分がアルカリ溶解性を有する場合には、現像液としてアルカリ溶液を使用することができる。アルカリ溶液としては、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液などを例示することができる。このアルカリ溶液の溶媒としては、水又は水とアルコール系等の親水性のある有機溶媒の混合物を用いることができる。
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下に使用される「部」及び「%」は、特に示さない限り、全て質量基準である。
また、「数平均分子量」、「重量平均分子量」及び「分散度」は、下記測定条件に基づきGPCにより測定されたものである。
下記の各合成例で得られた試料を固形分について10mg/mLとなる様にTHF溶液を調製し、各々インジェクション量100μLにて測定した。
(測定条件)
GPC測定装置:昭和電工社製SHODEX SYSTEM 11
カラム:SHODEX KF−800P、KF−805、KF−803及びKF−801の4本直列
移動層:THF
流量:1mL/分
カラム温度:45℃
検出器:RI
換算:ポリスチレン
[アルカリ可溶性樹脂の合成]
下記合成例1〜11並びに比較合成例1〜7のように、ベース樹脂を合成した。
〔合成例1〕
反応容器として、還流冷却器、温度計、窒素置換用ガラス管及び撹拌機を取り付けた四ツ口フラスコを用い、この反応容器に、ヨウ素6.3部、ABN−V(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))12.4部、DPM(ジフェニルメタン)3.2部、PGMAC(プロピレングリコールモノメチルアセテート)100部、GMA(グリシジルメタクリレート)70部、MMA(メチルメタクリレート)30部を加え、反応器内を窒素置換した。続いて窒素気流下に75℃で3時間加熱し、in−situでドーマント種を生成させると共に、RTCP重合法によるリビングラジカル重合を行った。
得られた重合体の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び分散度Mw/Mnは、表1の「中間体特性」の欄に示す通りである。
反応容器への窒素気流の供給を停止した後、この反応容器にHQ(ハイドロキノン)0.1部、アクリル酸37部、DMBA(ジメチルベンジルアミン)0.3部を加え、100℃で10時間付加反応を行い、続いてTHPA(テトラヒドロ無水フタル酸)38部を加えて100℃で3時間反応させた。これにより、アルカリ可溶性樹脂の固形分量が66%の溶液(アルカリ可溶性樹脂(A−1)溶液)を得た。
このアルカリ可溶性樹脂(A−1)の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分散度Mw/Mn、及び酸価は、表1の「生成物特性」の欄に示す通りである。
〔合成例2〜5〕
合成例1において、原料成分の使用量を表1に示すように変更した。それ以外は合成例1と同様にして、表1に示す中間体特性及び生成物特性を有するアルカリ可溶性樹脂の溶液(アルカリ可溶性樹脂(A−2)〜(A−5)溶液)を得た。
〔合成例6〕
合成例1において、DPMに代えてNIS(N−ヨードスクシンイミド)を使用し、また原料成分の使用量を表1に示すように変更した。それ以外は合成例1と同様にして、表1に示す中間体特性及び生成物特性を有するアルカリ可溶性樹脂の溶液(アルカリ可溶性樹脂(A−6)溶液)を得た。
〔合成例7〕
合成例1において、DPMに代えて亜リン酸ジエチルを使用し、また原料成分の使用量を表1に示すように変更した。それ以外は合成例1と同様にして、表1に示す中間体特性及び生成物特性を有するアルカリ可溶性樹脂の溶液(アルカリ可溶性樹脂(A−7)溶液)を得た。
〔合成例8〕
合成例1において、MMAに代えてスチレンを使用し、また原料成分の使用量を表1に示すように変更した。それ以外は合成例1と同様にして、表1に示す中間体特性及び生成物特性を有するアルカリ可溶性樹脂の溶液(アルカリ可溶性樹脂(A−8)溶液)を得た。
〔合成例9〕
反応容器に、ヨウ素1.2部、ABN−R(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル))2.0部、MFDG(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)100部を加え、反応器内を窒素置換した後80℃で3時間加熱することでドーマント種を合成した。次にこの反応容器にMAA(メタクリル酸)35部、MMA(メタクリル酸メチル)65部、V−70(2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル))2.9部、CHD(シクロヘキサジエン)0.09部を加え、窒素気流下に40℃に加熱、2時間後と4時間後にV−70を初期配合量の8分の1ずつ追加し、6時間反応する方法でRTCP重合法によるリビングラジカル重合を行った。
得られた重合体の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び分散度Mw/Mnは、表1の「中間体特性」の欄に示す通りである。
この反応容器への窒素気流の供給を停止した後、この反応容器にMFDG29部、HQ(ハイドロキノン)0.05部、GMA(グリシジルメタクリレート)21.3部、DMBA(ジメチルベンジルアミン)0.3部を加え、100℃で10時間付加反応を行った。これにより、アルカリ可溶性樹脂の固形分量が50%の溶液(アルカリ可溶性樹脂(A−9)溶液)を得た。
このアルカリ可溶性樹脂(A−9)の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分散度Mw/Mn、及び酸価は、表1の「生成物特性」の欄に示す通りである。
〔合成例10,11〕
ヨウ素とABN−Rの量を変更し、固形分濃度が50%になるように溶剤量を調整した。それ以外は合成例9と同様にして、表1に示す中間体特性及び生成物特性を有するアルカリ可溶性樹脂の溶液(アルカリ可溶性樹脂(A−10),(A−11)溶液)を得た。
〔比較合成例1〕
反応容器に、GMA70部、MMA30部、PGMAC100部、ABN−V4部を加え、窒素気流下に加熱し、以後1時間ごとにABN−V4部を4回追加しながら65℃において6時間重合させた。得られた重合体の中間体特性は表1に示す通りである。
反応容器への窒素気流の供給を停止した後、HQ0.1部、アクリル酸37部、DMBA0.3部を加え、100℃で10時間付加反応を行い、続いてTHPA38部を加えて100℃で3時間反応させ、アルカリ可溶性樹脂の66%溶液(アルカリ可溶性樹脂(B−1)溶液を得た。
このアルカリ可溶性樹脂(B−1)の生成物特性は、表1に示すとおりである。
〔比較合成例2、3〕
原料成分及びその使用量を表1に示すように変更し、それ以外は比較合成例1と同様にして、表1に示す分子量及び固形分量及び酸価を有するアルカリ可溶性樹脂(B−2)(B−3)溶液を調製した。
〔比較合成例4〕
反応容器に、PGMAC100部、GMA70部、MMA30部、クミルジチオベンゾエート2.72部、AIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)3.28部を加え、窒素気流下に加熱し、70℃において4時間、可逆的付加−開裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)によるリビングラジカル重合を行ない、アルカリ可溶性樹脂の51%溶液(アルカリ可溶性樹脂(B−4)溶液)を得た。このアルカリ可溶性樹脂(B−4)の生成物特性は、表1に示すとおりである。
〔比較合成例5〕
反応容器に、MAA(メタクリル酸)35部、MMA(メチルメタクリレート)65部、MFDG(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)100部、ABN−V(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))2部を加えて加熱し、以後1時間ごとにABN−V0.75部を4回追加しながら65℃において6時間重合させた。得られた重合体の中間体特性は表に示す通りである。
〔比較合成例6,7〕
ABN−Vの量を変更し、固形分濃度が50%になるように溶剤量を調整し、それ以外は比較合成例5と同様にして、表1に示す分子量及び固形分量及び酸価を有するアルカリ可溶性樹脂(B−6)(B−7)溶液を調製した。
〔アルカリ可溶性樹脂の評価〕
各合成例及び比較合成例で得られた樹脂の溶液の外観を目視で観察して、着色の程度を判定すると共に、この溶液の臭いを官能評価した。その結果を表1に示す。
比較合成例4で得られたアルカリ可溶性樹脂(B−4)は上記表1に示す通り赤色を呈し、且つ硫化水素様の臭気が強いため、下記レジストとしての評価は行わなかった。
[液状エッチングレジストインキの性能評価]
〔液状エッチングレジストインキの調製〕
上記合成例及び比較合成例で合成されたアルカリ可溶性樹脂溶液に、それぞれ表2に示す各成分を加え、フラスコ中で均一に撹拌混合することにより、実施例1〜9,13〜15及び比較例1〜3,6〜8のプリント配線板用レジストインキ組成物(液状エッチングレジストインキ)を得た。
尚、表2中の「イルガキュアー907」(商品名)はチバスペシャルティーケミカルズ社製の光重合開始剤であり、また「カヤキュアーDETX−S」(商品名)は日本化薬社製の光重合開始剤であり、また「モダフロー」(商品名)はモンサント社製のレベリング剤である。また「アロニックスM−350」(商品名)は東亞合成株式会社製のトリメチロールプロパントリアクリレートであり、「ビクトリアビュアブルーBOH」は保土ヶ谷工業株式会社製の染料である。
〔評価用テストピースの作製〕
実施例1〜9,13〜15及び比較例1〜3,6〜8で得られた液状エッチングレジストインキにより製造されるプリント配線板の性能を確認するため、順次下記工程を経ることによりテストピースを作成した。
〈塗布工程〉
各液状エッチングレジストインキを、厚み35μmの銅箔のガラスエポキシ基材からなる銅張積層板に塗布し、基板表面にレジストインキ層を形成させた。
〈予備乾燥工程〉
塗布工程の後、基板表面のレジストインキ層中の溶剤を揮発させるために80℃で予備乾燥を30分行ない、膜厚10μmの乾燥塗膜を得た。
〈露光工程〉
その後、減圧密着型両面露光機(オーク製作所製、「ORC HMW−201GX」)にて、評価パターンを描いたマスクを乾燥塗膜に直接当てがうと共に減圧密着させ、120mJ/cm2の紫外線を照射し基板表面上の乾燥塗膜の選択的露光を行った。
〈現像工程〉
露光工程後の乾燥塗膜において、選択的に非露光となっている部分を、30℃の1%炭酸ナトリウム水溶液を現像液として30秒間現像することにより除去し、基板上に露光硬化された乾燥塗膜のパターンを形成させた。
〔性能評価〕
上記工程で得られたテストピースについて以下の評価を行った。
〈タック性〉
上記条件で予備乾燥した塗膜(乾燥塗膜)を、この乾燥塗膜面同士が接触するように重ねて98kPa(1kg/cm2)の圧力をかけ、25℃、55%RH環境下で1週間放置した後、乾燥塗膜面同士の接触を離した。この乾燥塗膜の表面を100倍の顕微鏡で観察し、乾燥塗膜の剥がれや表面状態の異常などの接触跡の有無を確認して、下記評価基準で評価した。
×:塗膜に剥がれがある。
△:塗膜表面に接触跡がある。
○:塗膜表面に接触跡が全くない。
〈現像性〉
現像工程後、非露光部分を除去した部分の基板表面を目視で観察し、下記評価基準で評価した。
×:基板表面にレジストの色が確認できる状態。
△:基板表面に、レジストの色は確認できないが、レジストの残渣が確認できる状態。
○:基板表面に、レジスト残渣が確認できない状態。
〈残存ステップ段〉
露光テスト用マスク(日立化成工業社製、「ステップタブレットPHOTEC21段」)による現像後の残存ステップ段数を求め、これにより露光感度を評価した。
〈解像性〉
線幅及び線間が共に100μmの平行線で構成されるマスクパターンを用いて上記工程によりテストピースを作製し、このテストピースにおける、露光硬化された乾燥塗膜のパターンの線幅を顕微鏡にて測長した。尚、露光硬化された乾燥塗膜のパターンの線幅がマスクパターンの線幅に近いほど解像性は良いとされる。
以上の結果を表2に示す。下記表2に示されるとおり、平均分子量が同程度の場合、実施例1〜9,13〜15の方が特に解像性やタック性について優れた結果が得られた。
[液状ソルダーレジストインキの性能評価]
〔液状ソルダーレジストインキの調製〕
上記合成例で生成されたアルカリ可溶性樹脂(A−1),(A−3),(A−4),(A−9)〜(A−11),(B−1),(B−2),(B−5)〜(B−7)溶液に、表3に示す各成分を加え、三本ロールで混練することにより、実施例10〜12,16〜18及び比較例4,5,9〜11のプリント配線板用レジストインキ組成物(液状ソルダーレジストインキ)を得た。
尚、表3中の「エピクロンN−695」(商品名)は大日本インキ化学工業社製のクレゾールノボラックエポキシ樹脂であり、「イルガキュアー907」(商品名)はチバスペシャルティーケミカルズ社製の光重合開始剤であり、「カヤキュアーDETX−S」(商品名)は日本化薬社製の光重合開始剤であり、「モダフロー」(商品名)はモンサント社製のレベリング剤であり、「DPHA」はジペンタエリスリトールヘキサアクリレートである。
〔評価用テストピースの作製〕
実施例10〜12,16〜18及び比較例4,5,9〜11の液状フォトソルダーレジストインキにより製造されるプリント配線板の性能を確認するため、順次下記工程を経ることによりテストピースを作成した。
〈塗布工程〉
各液状フォトソルダーレジストインキを、厚み35μmの銅箔のガラスエポキシ基材からなる銅張積層板及びこれを予めエッチングしてパターンを形成しておいたプリント配線基板の全面にスクリーン印刷により塗布し、基板表面にレジストインキ層を形成させた。
〈予備乾燥工程〉
塗布工程の後、基板表面のレジストインキ層中の溶剤を揮発させるために80℃で予備乾燥を20分行ない、膜厚20μmの乾燥塗膜を得た。
〈露光工程〉
その後、減圧密着型両面露光機(オーク製作所製、「ORC HMW680GW」)にて、評価パターンを描いたマスクを乾燥塗膜に直接当てがうと共に減圧密着させ、200mJ/cm2の紫外線を照射し基板表面上の乾燥塗膜の選択的露光を行った。
〈現像工程〉
露光工程後の乾燥塗膜において、選択的に非露光となっている部分を、30℃の1%炭
酸ナトリウム水溶液を現像液として60秒間現像することにより除去し、基板上に露光硬化された乾燥塗膜のパターンを形成させた。
〈ポストベーク工程〉
現像工程で得られた、露光硬化された乾燥塗膜のパターンが形成されている基板を150℃で30分間加熱し、乾燥塗膜の硬化を行い、テストピースを得た。
〔性能評価〕
上記工程で得られたテストピースについて以下の評価を行った。
〈タック性〉
上記条件で予備乾燥した塗膜(乾燥塗膜)をこの乾燥塗膜面同士が接触するように重ねて98kPa(1kg/cm2)の圧力をかけ、25℃、55%RH環境下で1週間放置した後、乾燥塗膜面同士の接触を離した。この乾燥塗膜の表面を100倍の顕微鏡で観察し、乾燥塗膜の剥がれや表面状態の異常などの接触跡の有無を確認して、下記評価基準で評価した。
×:塗膜表面に接触跡が付く状態。
△:塗膜表面に接触跡が僅かに付く状態。
○:塗膜表面に接触跡が全く付かない状態。
〈現像性〉
現像工程後、非露光部分を除去した部分の基板表面を目視で観察し、下記評価基準で評価した。
×:基板表面にレジストの色が確認できる状態。
△:基板表面に、レジストの色は確認できないが、レジストの残渣が確認できる状態。
○:基板表面に、レジスト残渣が確認できない状態。
〈残存ステップ段〉
露光テスト用マスク(日立化成工業社製、「ステップタブレットPHOTEC21段」)による現像後の残存ステップ段数を求め、これにより露光感度を評価した。
〈解像性〉
線幅及び線間が共に100μmの平行線で構成されるマスクパターンを用いて上記工程によりテストピースを作製し、このテストピースにおける、露光硬化された乾燥塗膜のパターンの線幅を顕微鏡にて測長した。尚、露光硬化された乾燥塗膜のパターンの線幅がマスクパターンの線幅に近いほど解像性は良いとされる。
〈半田耐熱性〉
テストピースに水溶性フラックス(ロンドンケミカル社製、「LONCO 3355−11」)を塗布した後、このテストピースを260℃の溶融半田浴に15秒間浸漬し、その後水洗した。このサイクルを5回おこなった。この後、露光硬化された乾燥塗膜の表面白化の程度を観察した。また、この乾燥塗膜に対し、クロスカットによるセロハン粘着テープ剥離試験をJIS D0202に準拠して行い、密着状態の変化を観察した。
表面白化の評価方法は次の通りである。
×:著しく白化した。
△:僅かに白化が認められた。
○:異常を生じなかった。
また密着性の評価方法は次の通りである。
×:クロスカット試験をするまでもなく、レジストの膨れ又は剥離を生じた。
△:テープ剥離時にクロスカット部分に一部剥離を生じた。
○:クロスカット部分の剥離を生じなかった。
〈鉛筆硬度〉
露光硬化された乾燥塗膜の鉛筆硬度をJIS K5600に準拠して測定して評価した。
以上の結果を表3に示す。
〔ヨウ素除去処理〕
(沈殿精製によるポリマー粉体(A−5b),(A−5c)の作製)
合成例5において、RTCP重合法によるリビングラジカル重合を行った後、反応後の溶液に重合時の溶媒を加えて2倍に希釈して、希釈液(A−5a)を得た。この希釈液(A−5a)の色は淡黄色であった。
この希釈液(A−5a)を二つに分けて、そのうち一方の希釈液(A−5a)に、110℃で2時間加熱しながら攪拌する加熱処理を施した。これにより、液の色が褐色に変化した。この加熱処理後の液を活性アルミナカラムに通過させたところ、無色となった。この液を大量のメタノール中に注いでポリマーを沈殿後乾燥させることで、白色のポリマー粉体(A−5b)を得た。
また、他方の希釈液(A−5a)を、加熱処理及びアルミナ処理を施すことなく大量のメタノール中に注いでポリマーを沈殿後乾燥させて、白色のポリマー粉体(A−5c)を得た。
(沈殿精製によるポリマー粉体(A−9b),(A−9c)の作製)
合成例9において、RTCP重合法によるリビングラジカル重合を行った後、反応後の溶液に重合時の溶媒を加えて2倍に希釈して、希釈液(A−9a)を得た。この希釈液(A−9a)の色は淡黄色であった。
この希釈液(A−9a)を二つに分けて、そのうち一方の希釈液(A−9a)に、110℃で2時間加熱しながら攪拌する加熱処理を施した。これにより、液の色が褐色に変化した。この加熱処理後の液を活性アルミナカラムに通過させたところ、無色となった。この液を大量の水中に注いでポリマーを沈殿後乾燥させることで、白色のポリマー粉体(A−9b)を得た。
また、他方の希釈液(A−9a)を、加熱処理及びアルミナ処理を施すことなく大量のメタノール中に注いでポリマーを沈殿後乾燥させて、白色のポリマー粉体(A−9c)を得た。
(ポリマー粉体の評価)
各ポリマー粉体について元素分析によりヨウ素の含有量を調査したところ、下記表4に示すように、加熱処理とアルミナ処理後の希釈液から得られたポリマー粉体(A−5b),(A−9b)からはヨウ素は検出されず、ヨウ素が完全に除去されていることが確認された。一方、加熱処理が施されていない希釈液から得られたポリマー粉体(A−5c),(A−9c)からは、ポリマー粉体(A−5c)では0.36%(理論値1.0%)、ポリマー粉体(A−9c)では0.43%(理論値1.2%)のヨウ素が検出された。尚、このヨウ素の検出量が理論値よりも低いのは、メタノールを用いた沈殿精製時等に一部のヨウ素が除去されたためであると推定される。
また、上記希釈液(A−5a),(A−9a)中のポリマー、並びにポリマー粉体(A−5b),(A−5c),(A−9b),(A−9c)の、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び分散度Mw/Mnを測定した結果を下記表4に示す。希釈液(A−5a),(A−9a)中のポリマーよりも、ポリマー粉体(A−5b),(A−5c),(A−9b),(A−9c)の方が分散度が小さくなっているが、これは沈殿精製により低分子量のオリゴマー成分の一部が沈殿せずに除去されたためと考えられる。
(レジストインキ評価)
反応容器中に下記表5に示す成分を加えて、100℃で3時間反応させた。これにより、アルカリ可溶性樹脂(A−12),(A−13)溶液を得た。
[液状エッチングレジストインキの性能評価]
上記合成例で合成されたアルカリ可溶性樹脂(A−12),(A−13)溶液に、それぞれ表6に示す各成分を加え、フラスコ中で均一に撹拌混合することにより、実施例19,20のプリント配線板用レジストインキ組成物(液状エッチングレジストインキ)を得た。
この液状エッチングレジストインキについて、上記と同様の評価試験をおこなった。その結果を表6に示す。
[液状ソルダーレジストインキの性能評価]
上記合成例で生成されたアルカリ可溶性樹脂(A−12),(A−13)溶液に、表7に示す各成分を加え、三本ロールで混練することにより、実施例21,22のプリント配線板用レジストインキ組成物(液状ソルダーレジストインキ)を得た。
この液状ソルダーレジストインキについて、上記と同様の評価試験をおこなった。その結果を表7に示す。
以上のとおり、ヨウ素を除去したポリマー粉体から固形分50%の溶液を調製し、これにより液状エッチングレジストインキ及び液状ソルダーレジストインキを調製してその評価をおこなったところ、ヨウ素が除去されていない場合と同等以上の結果が得られた。