JP2010134282A - 回折型多焦点レンズ - Google Patents

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Abstract

【課題】各焦点となる各次数に所望の高い効率を分配でき、またその回折位相構造の最適化を簡便かつ容易に行なうことを可能とする。
【解決手段】回折パターンの回折位相構造が、下記式により表される構造を有することを特徴とする回折型多焦点レンズ。

但し、ξは、回折パターンの1周期におけるレンズの半径方向の位置を示す値であり、φ(ξ)は、基準面を通過した光の位相に対して、ξの位置を通過する光の位相のずれ量の値(ラジアン)を示す。
【選択図】なし

Description

本発明は、回折型多焦点レンズに関し、特に、新規な位相構造を採用することにより各回折次数の回折効率を最適なものにすることを可能にしたものに関するものである。
複数の焦点を持つ回折型多焦点レンズは、一般の光学素子として用いられることは勿論、眼科用の遠用及び近用視力補正用の眼用レンズ(眼鏡、コンタクトレンズ、眼内レンズ等の移殖用レンズ)等のさまざまの分野にも応用されている。
回折型多焦点レンズの光学的構造は典型的な回折構造であるノコギリ歯状のblazed groove型や矩形波型のbinary型の回折構造のものが知られている。これ
らの回折型多焦点レンズは屈折型多焦点レンズに比べ、軽量であり、また、厚みを薄くできる利点があるが、波長依存性が高いので、分散性が高くなり、グレアなどの発生があるなどのデメリットもある。
これらの回折型多焦点レンズは、その焦点の効率を制御するため、さまざまな方法が取られている。例えば、特許文献1、2には、位相ゾーンプレートにおけるファセット(ステップ)の深さとその回折構造の周期関数のプロフィール(形状)の変更により所望の次数での回折効率を得る技術が開示されている。
また、特許文献3には、矩形及び三角形型の回折表面の地形学的光学高さ関数である周期関数による位相構造で各次数の効率を制御し、各次数における効率をあらかじめ設定した目標値に対して近接するようにスーパーガウシアン関数等の誤差最適化関数を用いる手法が開示されている。さらに、特許文献4には、多次数回折(multiorder d
iffractive: MOD)構造、波面分割回折構造(wavefront spl
itting diffractive structure: WSD)により最適化する技術が開示されている。
特開平02−055314号公報 米国特許第5,017,000号明細書 特開平07−198909号公報 特表2008−511019号公報
しかし、このような従来の回折型多焦点レンズでは、その位相構造を変更し、各次数の効率を所望の値に効率良く分配すること、及びその位相構造を規定することは難しい。また、設計上の位相構造に、例えば、特許文献4のように付加的なステップを設けるような非常に細かな構造を取る場合もあり、その加工も非常に難しい。
また、実際のレンズに加工するために位相構造を最適化する場合、誤差最適化関数によっては誤差による揺らぎ、振れの問題により所望の効率が得られない場合が考えられる。そのような場合には、複雑な関数や非常に多数の変数が必要となる。例えば、特許文献4のフーリエ級数であるハーモニック関数でハーモニック項が9個の場合は、18個の変数を最適化しなければならない。さらには、特許文献3の非対称である効率のスーパーガウシアン分布の場合は、H、W、m、W、mの5つの変数を最適化する必要があるなど、その最適化処理の計算は複雑で煩雑なものであった。
また、多焦点レンズにおいて、−1次、0次、+1次の次数を持つ3焦点のレンズを得る為には、回折型構造と屈折型構造を組み合わせた混合型の多焦点レンズが検討され、ブレーズ構造と位相シフトを持つバイナリー構造の回折構造を持つ構造、また0次、+1次の次数のブレーズ構造の回折多焦点レンズに調和回折次数を追加することにより3焦点のレンズを得ることも検討されている、しかし特許文献3,4に記載の技術と同様に変数の多さなどからその制御、最適化は複雑で煩雑な作業を要する。
本発明は上述の事情を背景としてなされたものであり、回折型多焦点レンズにおいて、各焦点となる各次数に所望の高い効率を分配でき、またその回折位相構造の最適化を簡便かつ容易に行なうことを可能とする回折型多焦点レンズを提供することを目的とする。
上述の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
第1の手段
レンズ表面に、回折作用をなす環状の回折パターンが同心的に繰り返し設けられてなる回折型多焦点レンズにおいて、
前記回折パターンの回折位相構造が、下記式により表される構造を有することを特徴とする回折型多焦点レンズ。
但し、前記(1)式において、各符号は以下の通りである。
ξ;回折パターンの1周期におけるレンズの半径方向の位置を示す値であり、0から1までの値を有する。
w;φ(ξ)の式の形態が変わる位置を規定する値である。
φ(ξ);基準面を通過した光の位相に対して、ξの位置を通過する光の位相のずれ量の値(ラジアン)を示す。
;0≦ξ<w、並びに、1−w≦ξ≦1のときに、直線φ(ξ)の勾配を規定する値である。
;w≦ξ<1−wのときに、直線φ(ξ)の勾配を規定する値である。
q;w≦ξ<1−wのときに、直線φ(ξ)の基準面に対する平行移動量を規定する値である。
第2の手段
前記(1)式において、前記qが0<|q|≦1であることを特徴とする請求項1に記載の回折型多焦点レンズ。
第3の手段
レンズ表面に、回折作用をなす環状の回折パターンが同心的に繰り返し設けられてなる回折型多焦点レンズにおいて、
前記回折パターンの回折位相構造が、第1〜第2のいずれかの手段にかかる回折位相構造を表す曲線を、曲線近似、フィルタリング又は畳み込み積分によりスムージングを行い、最適化して求めた曲線により表される構造を有することを特徴とする回折型多焦点レンズ。
第4の手段
前記回折型多焦点レンズがコンタクトレンズ、眼内レンズ等の眼用レンズであることを特徴とする第1〜第3のいずれかの手段にかかる回折型多焦点レンズ。
第1の手段において、回折位相構造を規定する式(1)の傾きp1、、q及びwの大きさを変化させることにより各次数の効率を制御することができる。
また、第2の手段によれば、上記式(1)の高さまたは深さqが0<|q|≦1の範囲に設定することにより、焦点を−1次、0次と+1次の3焦点にすることができ、これにより損失する効率を0の位相の部分に集約することできるため、その効率の合計は2焦点のものより高効率となる。
第3の手段によれば、スムージングにより、加工が困難な設計上の理想形状を、加工が容易な実形状に近いものに変換でき、レンズ加工の際の加工性を向上させることができる。
第4の手段によれば、第1〜第3の手段にかかる回折型多焦点レンズの特徴を備えたコンタクトレンズ、眼内レンズ等の眼用レンズを得ることができる。以下、本発明をより詳しく説明する。
上述の通り、本発明の特徴は、回折位相構造を表す下記式1のφ(ξ)をq及びp1,及びwパラメーターで規定することで、位相構造を変化させることにより各回折次数の回折効率を制御することができる回折位相構造及びその回折位相構造による回折型多焦点レンズである。
なお、上記qは、直線φ(ξ)の基準面に対する平行移動量を規定する値であり、以下においては説明を簡単にするために「高さ又は深さ」という。また、上記p1,は、直線φ(ξ)の勾配を規定する値であり、以下においては説明を簡単にするために「傾き」という。
回折位相構造の式(1)の0≦ξ<w、並びに、1−w≦ξ≦1の傾きはp、w≦ξ<−1−wの傾きはp、qは深さを表し、wは、φ(ξ)の式の形態が変わる位置を規定する値である。
また、上記式(1)の高さ又は深さqを小さくすれば3つの次数−1次、0次、+1次を持つ回折構造が得られ、その高さ又は深さqが0<|q|≦1の範囲の場合に3つの次数−1次、0次、+1次を持つ回折構造が得られる。これにより損失する効率を0次の位相の部分に集約することできるため、その効率の合計は2焦点のものより高効率となる。
スムージングは、以下の理由により行うものである。すなわち、上記回折位相構造は、設計上の理想的な位相変換面である典型的な回折構造であるノコギリ歯状のblazed
groove型や矩形波型のbinary型の回折構造であり鋭いエッジ形状を持つた
め、その形状を加工するのは困難である。それゆえ、設計上の理想形状より実形状に近いものに変換する必要があり、また、レンズ加工の際に加工性を上げるために、スムージングを行う必要がある。
スムージングには、正弦関数、余弦関数、スプライン関数、多項式等による曲線近似や、Butterfly filter、Butterworth filter、Kalman filter等のLow−pass filterによるもの、またガウシアン関数、スーパーガウシアン関数等による畳み込み積分を行なうものなどがある。畳み込み積分
を行なう分布や関数は所望の波形が得られる最適な分布や関数を用いることができるが、本発明では変数が少なく、また所望の波形が得られるガウシアン関数を用いるのが最適である。
以下に、このガウシアン関数を用いる場合について、下記ガウシアン回折光学構造の位相φ(ξ)として 式(2)で表される関係を有する例を用いて説明する。
上記式(2)のφ(ξ)は、ガウシアン回折光学構造であり、φ(ξ)はスムージング前のバイナリー位相回折光学素子に属する回折光学構造である。g(ξ)は標準偏差σを持つガウシアン関数であり、ξは回折ゾーン内の0と1の間の分割位置を表し、そして
* は畳み込み積分を表す。上記式(2)におけるg(ξ)は以下の式(3)で表される

また、ガウシアンスムージング後の凹凸形状の凸部の頂点または、凹部の底辺を含む平面を基準面からの高さ又は深さとしての回折パターンz(ξ)は、以下の式(4)によ
って簡易的に表現できる。
ここでnとnはそれぞれレンズ材質と媒質の屈折であり、λは設計波長である。
ここで、ガウシアン回折構造の透過関数t(ξ)は文献J. W. Goodman,”Introduction to Fourier Optics,”McGraw−Hi
ll,Int’l. Ed,Singapore(1996)における光波伝播の複素振幅により計算でき、以下の式(5)で表される。
式(5)において、A(ξ)は光の振幅であり、それはゾーン内で均一であり、この関数においてはjは(j=−1)である虚数単位となる。式(5)の透過関数t(ξ
)は式(4)のz(ξ)の周期性によって、以下の式(6)の複素フーリエ級数として表わすことができる。
これより、フーリエ級数の係数aは以下の式(7)のように計算される。
上記の式(7)により、ガウシアン回折光学構造のm次における回折効率ηは次式により得られる。
従って、ガウシアン回折光学構造はガウシアン関数の標準偏差σの数値とφ(ξ)の適切なパラメーターを選ぶことにより設計される。
一般的に最適化されたガウシアン回折光学構造の設計は、文献J.C.Lagarias, J.A.Reeds, M. H. Wright, and P. E. Wright, ”Con
vergence Properties of the Nelder−Mead Sim
lex Method in Low Dimensions,”SIAM Journal of Optimization, 9(1), pp. 112−147(1998)のような
特定の数学的最適化手法により数学的に行なわれる。数学的最適化を実現する為には、所望の回折効率に基づく、適したメリット関数で制約される。たくさんのメリット関数の定義が可能であるが、その一例として米国ZEMAX Development Corporation社製 光学システムデザインソフト ZEMAX(登録商標)における例では、最適化には次式を用い行なう。
ここで、ηはm次における現時点の回折効率であり、ηTmはm次における目的とする値の回折効率であり、Wはm次における回折効率の重みづけであり、優先する次数の効率を目的効率に近づけるために他の次数よりWを大きくすることにより重みをつける。効率の合計は目的とする効率で全てのm次の次数を正規化する。特定の最適化手法はp、p、q、w、σとσの最適な値を選択することによりMFの値を最小化しようとすることで行なう。
上記ガウシアン関数で畳み込み積分を行なうことでスムージングを行なう場合の説明を行なったが、スムージング処理を行なわずに直接フーリエ変換を行なうことにより所望の回折光学構造を得ることもできるが、上記の方法で、ガウシアン関数を用いることにより、p、p、q、w、σの5個の変数で表現ができることによる設計の自由度をあげる
ことが出来、また最適化のための計算が非常に簡単になり容易に旋盤加工、キャストモールディング加工等の加工に適したスムージングが行なえることが判った。
また、計算の効率を上げるために、p、p、q、w、σの各パラメーターの内、幾つかのパラメーターを固定(定数)としパラメーターの数を減らし最適化することにより、各次数の目的とする効率を維持したまま、計算効率を上げることも可能である。
また、そのスムージング処理によりφ(ξ)の鋭いエッジが無くなることにより、そのエッジにより起こる光の散乱が減りグレアの低減及びコントラスト感度の向上が期待できる。また、多焦点レンズがコンタクトレンズの場合、エッジによる装用感の低下の防止、涙液の脂質成分等の回折部への堆積防止などにも効果が期待できる。
ここで、−1次と+1次の回折次数の効率を完全に同等に分割する最も簡単な回折位相構造であるφ(ξ)は次式で表すことができる。
この式(10)と式(1)〜(9)により、設計波長λ=546.074nm、屈折率n=1.5におけるさまざまな標準偏差σによる効率を求めて表1に示し、また、ガウシアン回折構造の深さz(ξ)を表すグラフを図1に示した。
標準偏差σの値が増加するにつれて矩形波はスムージングされ、加工に適した滑らかな曲線となるが、反面効率(η−1=η+1)は減少する傾向が見られる。しかし、σ=0.06においても、上記回折位相構造によるガウシアン回折構造はまだ非常に高効率(η−1=η+1≧0.382)を実現できることが示される。
図2は本発明の実施の形態にかかる回折型多焦点レンズの断面図、図3は図2に示される回折型多焦点レンズに形成されている回折パターンの表面凹凸形状を示す図、図4は図3に示される回折パターン11の具体的形状寸法を示す図である。
図2に示される回折型多焦点レンズ10は、屈折型レンズ構造と回折型構造とを組み合
わせたものであり、物体側面11に回折構造が形成され、像側面12は通常の屈折面とされている。そして、物体側面11から入射した平行光L0を、光軸O上の2点、f1(+1次),f2(−1次)に焦点を結ばせるもので、いわゆるバイフォーカル(2焦点)レンズである。
図3において、回折構造は、物体側表面に回折面が形成され、像側面は平面に形成されているものである。そして、物体側から入射した平行光L0を、−1次、+1次の2つの次数に分散させる。この回折構造に屈折型レンズ構造を組み合わせることによって、図2に示される2焦点レンズを構成しているものである。ここで、回折面11の回折パターンは、半径方向に繰り返し設けられた環状の凹凸形状であり、その周期が外周側に向かうに従って小さくなる構成となる。光を2つ以上の回折次数に分割して、複数の焦点距離を得られるようにしたものである。
図4は、回折パターン11の具体的形状寸法を示すものであり、図の横軸が、光軸Oを0とした半径方向においてレンズ外周側に向かう距離でありレンズ中心からの距離である。また、図の縦軸が、凹凸形状の凸部の頂点を含む平面を基準面として、その基準面から像側に彫り込まれた深さ(以下Surface sagという)であり、換言すると、レンズの厚さ
方向の距離である。また、図5、図6は、回折パターン11のなかの1組の凹凸形状からなる単位パターンについて、この部分を通過する光の位相関係を表す回折位相構造を示す図である。ここで、図5はスムージングなしの回折位相構造であり、図6はガウシアン関数によるスムージングを取り入れた回折位相構造である。
図5、6の位相パターンはq<0の場合で検討を行なうと位相構造は縦軸の位相(ラジアン)の0より上方向に位相構造をとり、q>0の場合は0より下向に位相構造をとるが効率等の結果は同じである。また、以下の実施例1,2はq>0の場合で検討を行なった。
図6の回折パターンは、式(4)のzにより計算され、スムージング処理されたガウシアン回折光学構造φ(ξ)は、目標とする効率ηTmと各次数の回折効率の加重W、ガウシアン関数の標準偏差σを決定し、式(9)で最適化を行なうことで各パラメーターp、p、q、w、を選択することより決定できる。スムージング無しの回折位相構造は、式(1)の回折位相構造φ(ξ)だけを最適化することにより各パラメーターp、p、q、w、を選択し決定できるが、図5のスムージング無しの回折位相構造は、ガウシアン関数の標準偏差σをσ=0とすることで、式(3)のガウシアン関数g(ξ)によるスムージング効果を無くすことにより、スムージング無しの回折構造とした。
また、図5の最適化された回折位相パターンをガウシアン関数等でスムージングすることも可能であるがここではそうしなかった。それは、目標とする効率に対して最も近い効率が得られるように最適化され、選択された各パラメーターp、p、q、wによる位相構造が、そのスムージングにより最適化による位相構造と異なることになり、目標とする効率に対して最も近い効率とならないためである。スムージング処理を行なう場合は式(1)の回折位相構造φ(ξ)と式(3)のガウシアン関数g(ξ)を畳込み積分を行う式(2)のガウシアン回折光学構造φ(ξ)を基本式にして、式(9)のMFの値を最小化することにより最適化を行なうことが好ましい。
<二重焦点レンズの例>
(実施例1)
実施例1にかかる回折型多焦点レンズは、遠用度数+20.0D、加入度数+3.0Dのバイフォーカルレンズである。この回折型多焦点レンズは、屈折度数が+21.5Dの屈折型レンズ構造と、以下の回折型レンズ構造とを組み合わせたものである。すなわち、−1次の屈折度数が−1.5Dであり、+1次の屈折度数が+1.5Dであって−1次と+1次とが同じ回折効果を持つ回折型レンズ構造である。材質はPMMAであり、設計波
長=546.074nmとしたとき、屈折率nは、n = 1.493である。また、
媒質としての房水の屈折率nは、n=1.336であり、前面は、この前面に回折
構造を持つ曲率半径7.30mmの球面、後面は平面とした。また、レンズ直径は、6.0mm、レンズエッジ厚は、1.0mm、中心厚は、1.64mmであって、平凸構造のレンズであった。この回折位相構造はp=p=p、q、w=0.25の式(11)で表現することができる。
上記回折構造は、次のようにして設計・評価したものである。すなわち、式(1)の代わりに回折位相構造として式(11)を用いて、式(9)で最適化を行い、pとqの2つのパラメーターを選択することにより設計を決定し、設計した光学性能を評価した。この場合、最適化の為の加重WをW−1=W=W+1=1とし、ガウシアン関数の標準偏差σ=0.05とし、ガウシアン関数によるスムージング無しのσ=0で目標の効率をηT−1=0.500、ηT0=0.000、ηT+1=0.500とした。その結果を表2−1、表2−2に示した。
ガウシアンスムージングの場合、0次に効率が生じるが非常に小さな値であり焦点として結像しても見えない程度と考えられる。上記結果よりスムージング無しの場合がスムージング有りより効率は高いがガウシアンスムージングの有無による−1次と+1次の効率の合計の差は0.032と小さく、ガウシアンスムージングによる効率の低下は僅かであることが判る。
また、スムージング無しの場合と、ガウシアンスムージングを行なった場合との回折構造の実際の効率ηにおける各次数の値を全部合計した値が1になる比率で各次数の実際の値ηmを換算すると各次数の効率は下記の表2−2となる。
上記結果より目標とする効率の合計に比べスムージング無しの場合も、ガウシアンスムージングありの場合のいずれとも実際の効率の合計は低い値となったが、スムージング無しの場合と、ガウシアンスムージングありの場合とで、実際の効率の合計での比率で考えると−1次と+1次の実際の効率は同等の値であり、設計どおりの結果であることが判った。
また、−1次と+1次の回折次数に分割されることによる2重焦点の加入度数は一般的な回折構造の半分となり、色収差が減少される効果も望める。
次に加入度数として−1次に度数−P(D)を持ち、+1次に度数+P(D)を持つバイフォーカルレンズとして検討するために、度数Pの回転対称レンズの位相関数ψ(r)は解析的に次式(12)で表すことができる。
ここで、f=1/Pはレンズの焦点距離であり、rはレンズ中心からの半径距離である。
また、焦点距離が半径距離より非常に大きい場合(r/f<<1)は、位相関数ψ(r)は次式(13)のように近似的に表すことができる。
この位相関数ψ(r)を、1周期である2πの位相差の整数倍毎に各周期の基準面を形成し、各周期の基準面を式(4)の回折パターンz(ξ)で置き換えることにより、ガウシアン回折構造の表面凹凸形状(Surface sag)を求めることができる。
ここで、P=1.5(D)とし、f=666.7mmとして、加入度数3.0(D)のバイフォーカルレンズの場合について、ガウシアン回折構造の表面凹凸形状(Surface sag)を以下のようにして求めた。すなわち、ガウシアン回折構造z(ξ)のプロットとして、米国The Math Works社製プログラミングソフトウェアMATLAB の
境界条件を考慮したthe modified fminsearch関数(The Ma
th Works社ホームページで公開)を用いて式(4)(12)で計算を行なった。
こうして求めた1周期のスムージング無しの場合(破線)と、ガウシアンスムージングを行なった場合(実線)とのそれぞれの回折位相構造を図7に示した。また、ガウシアン回折構造の具体的凹凸形状及び寸法(Surface sag)を図4に示した。
(実施例2−1)
実施例2−1は、実施例1と同様に遠用度数+20.0D、加入度数+3.0Dのバイフォーカルレンズとして本願発明を用いて構成する例である。実施例1と異なるのは、以下の点である。まず、回折型レンズ構造として、式(1)を用いることにより、異なる回折効果を持つ2つの次数−1次と+1次のガウシアン回折構造を用いた。屈折型レンズ構造としては、屈折度数が+21.5Dの凸レンズ構造とした。この回折構造は、最適化の為の加重WをW−1=W=W+1=1 として、ガウシアン関数の標準偏差σ=0.
05とし、ガウシアン関数によるスムージング無しのσ=0の条件で目標とする効率ηTmをηT−1=0.550、ηT0=0.000、ηT+1=0.450として、p、p、q、wの4つのパラメーターを選択することにより設計を決定し設計試作を行い、設計した光学性能を評価した。その結果を表3−1−1、表3−1−2に示し、1周期のスムージング無しの場合(破線)と、ガウシアンスムージング(実線)を行なった回折位相構造とを図8に示し、ガウシアン回折構造の具体的表面凹凸形状及び寸法(Surface sag)を図9に示した。
スムージング無しの各次数の効率はガウシアンスムージングの各次数の効率より高い結果が得られたが、ガウシアンスムージングの有無による−1次と+1次の効率の合計の差は0.034と小さく、ガウシアンスムージングによる効率の低下は僅かであることが判る。
また、スムージング無しとガウシアンスムージングを行なった回折構造の実際の効率ηにおける各次数の値を全部合計した値が1になる比率で各次数の実際の値ηを換算すると、各次数の効率は表3−1−2となる。
上記結果よりスムージング無しと、ガウシアンスムージングありとのいずれの場合とも+1次の効率が若干目標効率に対して低い値とはなったが、スムージング無しの場合と、ガウシアンスムージングの場合との実際の効率の合計での比率で考えると−1次と+1次の実際の効率は目標の値に近いものであり、各次数の効率を制御できることが判った。
実施例1の図7、図4と比較して図8、図9はp、pの傾きが加わることにより、各次数の効率が変化することが判る。
(実施例2−2)
実施例2−2は、実施例1、実施例2−1と同様に遠用度数+20.0D、加入度数+3.0Dのバイフォーカルレンズとして本願発明を用いて構成する例であるが、異なる回折効果を持つ2つの次数−1次と+1次のガウシアン回折構造と、屈折度数が+21.5Dの屈折型レンズ構造とを組み合わせたバイフォーカルレンズである。回折構造に式(11)を用い、実施例2−1と同様の条件で目標とする効率ηTmをηT−1=0.550、ηT0=0.000、ηT+1=0.450として、pとqの2つのパラメーターを選択することにより設計試作を行い、設計した光学性能を評価した。その結果を表3−2−1、表3−2−2に示し、1周期のスムージング無し(破線)とガウシアンスムージング(実線)を行なった回折位相構造を図10に示し、ガウシアン回折構造の具体的表面凹凸形状及び寸法(Surface sag)を図11に示した。
表3−2−1、表3−2−2、図10、図11の結果より、実施例2−2も実施例2−1と同様にガウシアンスムージングによる効率の低下は僅かであり、スムージング無しの場合と、ガウシアンスムージングの場合も+1次の効率が若干目標効率に対して低い値とはなったが、−1次と+1次の実際の効率は目標の値に近いものであり、各次数の効率を制御できることが判った。
また、選択できるパラメーターの数は実施例2−1の4つ、実施例2−2の2つであったがガウシアンスムージング、スムージング無しとも得られる効率はほぼ同じであり、目標とする効率に対して最適化することにより、選択できるパラメーターの数が減っても得られる効率は維持できることが判る。
<三重焦点レンズの例>
ところで、式(1)の高さまたは深さ方向の位相シフトを低くすれば3つの次数−1次、0次、+1次を持つ回折構造が得られ、その高さまたは深さqが0<|q|≦1の範囲の場合に3つの次数を持つ回折構造が得られる。その場合の回折型レンズ構造の断面構成を図12に示し、図12に示された回折型レンズ構造と凸レンズ形状をなした屈折型レンズ構造とを組み合わせた三重焦点の回折型多焦点レンズの断面図を図13に示した。図12のように、回折構造のパラメーターqを上記範囲とした場合、平行光線は−1次、0次、
+1次の3つの回折次数に分割され、これに屈折型レンズ構造を組み合わせることにより図13のように3つの焦点を結像させることができる。図13は屈折効果と回折効果とを合成して3焦点レンズを構成した回折型多焦点レンズの構成を示す図である。図13において、この回折型多焦点レンズ20は、基本的に凸レンズを構成する物体側曲面21に本願発明にかかる回折位相構造を有する回折パターンを形成し、像側面22は、通常の凸レンズの曲面としたもので、これにより、物体側から入射した平行光Lを、光軸O上の3点、f1(+1次),f2(0次),f3(−1次)に焦点を結ばせるようにしたものである。
(実施例3−1)
実施例3−1として3重焦点の場合を以下に示す。遠用度数+20.0D、加入度数+3.0D(中間用度数+21.5D)の3焦点レンズは、屈折度数が+21.5Dの屈折型レンズ構造と、−1次の屈折度数を−1.5D、0次の屈折度数0.0D、+1次の屈折度数を+1.5Dである回折構造とで構成される。PMMA製レンズ材質の屈折率n
=1.493、媒質としての房水の屈折率n=1.336、設計波長=546.07
4nmで、前面に回折構造を持つ曲率半径7.30mmの球面、後面を平面としてレンズ直径6.0mm、レンズエッジ厚1.0mm、中心厚1.64mmの平凸構造のレンズを設計試作した。回折位相構造は式(1)を用い、最適化により選択されるパラメーターはp、p、q、w,σの5つで、最適化の為の加重WをW−1=W=W+1=1と
し、目標の効率をηT−1=0.450、ηT0=0.200、ηT+1=0.350の条件で、式(9)で最適化を行い、各パラメーターを選択することにより回折構造を決定し設計を行い、光学性能を評価した。その結果を表4−1−1に示し、1周期のスムージング無しの場合(破線)とガウシアンスムージングの場合(実線)との回折位相構造を図14に示し、ガウシアン回折構造の具体的表面凹凸形状及び寸法(Surface sag)を図1
5に示した。
上記結果より実施例1、実施例2−1、2−2と実際に得られる効率の合計を比較すると、0次の効率を利用できることより、スムージング無しとスムージング有りとも効率の合計が大きくなることが判る。またガウシアンスムージングの有無による3つの次数の効率の合計の差はガウシアンスムージングの方が効率の合計が高く、これは実施例2−1、2−2にも見られるようにガウシアンスムージングによるスムージング無し位相構造のエッジの部分がスムージングされることにより0次の効率も発生するため、ガウシアンスムージングは効率利用率が高くなるためである。
また、スムージング無しとガウシアンスムージングを行なった回折構造の実際の効率ηにおける各次数の値を全部合計した値が1になる比率で各次数の実際の値ηを換算すると、各次数の効率は表4−1−2となる。
上記結果より実施例1、実施例2−1、2−2と同様に実際に得られる効率の合計は目標の効率の合計より低い値となるが、実際に得られる効率の合計より比率を考慮すると、各次数ともほぼ設計どおりの値が得られていることが理解できる。
図14、図15と実施例1、実施例2の1周期のスムージング無し(実線)とガウシアンスムージング(破線)を行なった回折位相構造、ガウシアン回折構造の表面凹凸形状(Surface sag)を比較すると、実施例3−1では深さqを浅くすることにより異なる3つ
の次数に分散させ3焦点を結像させることが判る。また本実施例においてqは0<q≦1で検討を行なっているが、0>q≧−1の範囲で同様に検討を行なうと位相構造は位相(πラジアン)、Surface sag(μm)の0より上方向に位相構造をとるが、効率等の結果
は同じである。
また深さqを小さくすることによりSurface sagが浅くなり、スムージングの効果がよ
り顕著に現れ、加工性の向上、レンズ表面への堆積物等の抑制の効果が期待できる。
(実施例3−2)
実施例3−2も三重焦点の例である。回折構造をp=p=p、w=0.25の式(11)を用いた以外は、条件は実施例3−1の同様にして、目標の効率をηT−1=0.450、ηT0=0.200、ηT+1=0.350で、式(9)において最適化を行い、pとqの2つのパラメーターを決定することにより設計を行い、設計した光学性能を評価した。その結果を表4−2−1、表4−2−2に示し、1周期のスムージング無し(破線)とガウシアンスムージング(実線)を行なった回折位相構造を図16、ガウシアン回折構造の表面凹凸形状(Surface sag)を図17に具体的形状寸法を示した。
表4−2−1、表4−2−2、図16、図17の結果より、実施例3−2も実施例3−1と同様の結果が得られることが判った。
また、選択できるパラメーターの数は実施例3−1の5つ、実施例3−2の2つであったがガウシアンスムージング、スムージング無しとも得られる効率はほぼ同じであり、目標とする効率に対して最適化することにより、選択できるパラメーターの数が減っても得られる効率は維持できることが判る。
<パラメーターの数による計算効率>
パラメーターの数による計算効率を比較する為にパーソナルコンピュータを用い実施例3−2と実施例3−1の計算開始から終了までの所要時間を計測することにより比較し、結果を表5に示した。使用したパーソナルコンピュータは 米国Intel社製CPU Intel Pentium(登録商標)D830(LGA 775 FSB 800 MHz 実クロック 3.0 GHz キャッシュ 各コア 1 MB デュアルコア CPU)、メモリー 2 GBを搭載した市販のパーソナルコンピュータを用いた。
上記結果よりパラメーターの数により計算効率は大幅に異なることが理解でき、実施例2−1、実施例2−2、実施例3−1、実施例3−2の比較に見られるように、目的とする効率に対して最適化することより得られる効率を低下すること無く、パラメーターの数が少なくすることにより短時間で最適化を行なうことが出来る。
<試作品による評価>
次に、上記実施例1、実施例2−2及び実施例3−2の各実施例にかかる回折型多焦点レンズを実際に製作して解像度評価等を行ったので、以下にそれぞれ、試作品1、試作品2−2、試作品3−2として説明する。
(ISO模型眼による解像度評価結果)
試作により得られた各試作品1、試作品2−2、試作品3−2について、独トライオプティクス社製IOL定数測定装置 Optispheric IOLに蒸留水を入れ、アパチャーを3.0mmに設定したTrioptics社製ISO模型眼(ISO 1197
9−2 Annex C,Measurement of MTF, Model eyeに準
拠)を通して、ベストフォーカスをMTF値(変調伝達関数(Modulus of the Optical Transfer Function ))50c/mmの最大コントラスト値の条件下でオートフォーカスにより焦点が結像する距離における解像度を評価するために背景が黒、テストパターンが透明のネガタイプの1951 USAF テストパター
ンチャート(MIL−STD−150A,Section 5.1.1.7, Resolving Power Targetに準拠)の像を撮影することで解像度の評価を行なった。
図18は試作品1の多焦点レンズをISO模型眼で1951 USAF テストパターンチャートを撮影した結果を示す図、図19は試作品2−2の多焦点レンズの撮影結果を示す図、図20は試作品3−2の多焦点レンズの撮影結果を示す図である
上記図18、図19に見られるように、試作品1、試作品2−2は、上述の実施例1及び実施例2−2の説明の項で述べた結果と同様に、遠用と近用の効率の変化が1951
USAF テストパターンチャートのチャートでも確認できた。また、図20の試作品3
−2では、実施例3−2の説明の項で述べた結果と同様に、遠用、近用の効率をあまり低下させず、中間用度数の焦点が結像することが確認できた。また、試作品1、試作品2−2でも中間用度数がオートフォーカスにより焦点が結像するか確認を行なったが、その遠用と近用の間ではオートフォーカスによる結像が確認できる焦点は無かった。
(Surface sagの確認)
試作品1、試作品2−2、試作品3−2のSurface sagの測定をパナソニック ファクトリーソリューションズ株式会社製超高精度三次元測定機 UA3P で縦軸に試作品の屈折構造の曲面を平坦にした基準面に対する測定面の高低の距離 Zd−AXIS(μm)、
横軸にレンズ中心からの距離 R−AXIS(mm)としてSurface sagを測定した。そのチャートを図21−1、図22−1、図23−1に示し、それに対応する設計値からのガウシアン回折構造の表面凹凸形状(Surface sag)である図4、図11及び図17に示さ
れる凹凸形状に、Surface sagの測定のチャートが平坦になるように補正を行った各測定
点の数値を図21−2、図22−2、図23−2にプロットし比較した。
比較の結果、設計値による実線と測定値の破線のプロットはほぼ重なり、各試作品1、試作品2−2、試作品3−2とも設計値に近い位相構造であることが判り、スムージングによる加工性の良さを確認できた。
(度数の測定(眼内度数換算))
次に各試作品1、試作品2−2、試作品3−2の度数を独トライオプティクス社製IOL定数測定装置Optispheric IOLで水中浸漬状態、空間周波数 MTF50c/mmにおけるベストフォーカスでの有効焦点距離測定値の焦点距離より眼内レンズの
眼内度数に変換し求めた。その結果を表6に示した。表6の設計値は眼内での度数を想定したものであり、測定値は水中浸漬のためn=1.333の値であり、眼内での度数に換算するために媒質として房水の屈折率n=1.336、空間周波数MTF50c/mm
、瞳孔径Φ=3.0mmの条件でISO11979−2 Annex A, Measurement of Dioptric Power準拠し換算した。
加入度数は回折構造により生じることより媒質の屈折率の変化はその度数には影響は無く、表6から明らかなように、各試作品1、試作品2−2、試作品3−2の度数の測定値
は設計値に対し大きなズレは見られなかった。
(変調伝達関数 Modulus of the Optical Transfer Fun
ction(MTF) とデフォーカス特性 Through Focus Response(TFR)の測定)
MTF曲線は、横軸に空間周波数をとり、縦軸にコントラスト特性とってグラフに表したものであり、コントラスト特性は、特定の空間周波数を持った白黒等間隔のテストパターンを用いる。TFRチャートは、横軸に像面デフォーカス量(D)をとり、縦軸にMTF値をとって、グラフ上にTFR曲線として描いたものである。像面デフォーカス量は、−1次の焦点が結像する距離である基準像面から測定像面までの距離を前後に移動させ、その像面デフォーカス量でのMFTをプロットしたものであり、ISO−11979−9に準拠して測定した。
試作品1、試作品2−2、試作品3−2の解像力特性の評価として結像特性を評価するために、独トライオプティクス社製IOL定数測定装置 Optispheric IOLで、変調伝達関数(Modulus of the Optical Transfer Function(MTF)とデフォーカス特性Through Focus Response(TFR)を、水中浸漬状態における空間周波数 MTF 50c/mmにおけるベスト
フォーカスで測定した。その測定の結果を、図24−1〜図24−3、図25−1〜図25−3、図26−1〜図26−4に示す。図24−1は試作品1のMTF(遠用)を示す図であり、図24−2は試作品1のMTF(近用)を示す図であり、図24−3は試作品1のTFRを示す図である。また、図25−1は試作品2−2のMTF(遠用)を示す図であり、図25−2は試作品2−2のMTF(近用)を示す図であり、図25−3は試作品2−2のTFRを示す図である。さらに、図26−1は試作品3−2のMTF(遠用)を示す図であり、図26−2は試作品3−2のMTF(近用)を示す図であり、図26−3は試作品3−2のMTF(中間)を示す図であり、図26−4は試作品3−2のTFRを示す図である。
試作品1と試作品2−2とのMTFとTFRでは、MTFの遠用と近用の値が逆転し、またTFRの−1次と+1次におけるピークの高さが逆転していることが判った。このことより上述した実施例の効率、及びISO模型眼による測定結果の結果と同様に遠用、近用の効率の制御が可能であることが理解できた。また、試作品1及び試作品2−2と、試作品3−2とのMTFとTFRを比較すると、遠用、近用のMTFの値はあまり減少せず、またTFRは遠用、近用のピークの間の中間のピークが見られ、3焦点の多焦点レンズが得られることが判った。このことより、上述した実施例の効率、及びISO模型眼による測定結果の結果と同様に遠用、近用の効率の制御が可能であることが判った。
(実施例4)
実施例4にかかる回折型多焦点レンズは、眼内レンズを本発明にかかる回折型多焦点レンズで構成した例である。以下、説明する。
n−ブチルアクリレート(n−BA:構造式1参照)42g、フェニルエチルメタクリ
レート(PEMA:構造式2参照)52g、パーフロロオクチルエチルオキシプロピレン
メタクリレート(HRM−5131HP:構造式3参照)8g、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)5gおよびAIBN 0.33gの混合物に、これらのレンズ
用モノマー全量に対して紫外線吸収剤T−150(構造式4参照)を1.5重量%、反応性黄色染料HMPO−B(構造式5参照)を0.02重量%加えて窒素ガスを通しながら十分に撹拌し、得られた重合性材料をPMMA製支持部リングの中に入れて、室温から60℃まで30分間で加熱し、60℃で12時間保持し、60℃から90℃まで15分間加熱し、90℃で3時間保持し、90℃から100℃まで15分間で加熱し、100℃で12時間保持後、室温まで自然放冷する重合プログラムで熱重合した。得られた重合物を理研製鋼株式会社製 金型旋盤 UPL−240Hにより切削加工した。こうして得た実施例
4のレンズは、レンズ前面を球面とし、レンズ後面を球面とガウシアン回折構造とを組み合わせた構造にした回折型多焦点眼内レンズである。得られた多焦点眼内レンズは 屈折
率 1.516であり、効率は 遠用 45%、中間 17%、近用 26%であり、度数 +20.0D、加入度数+3.5Dであった。なお、図27は実施例4にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンの回折位相構造を示す図である。
(実施例4のレンズと市販レンズとのグレア・ハローの比較)
図28の回折パターンの回折位相構造持つ比較例A、図29の回折パターンの回折位相構造持つ比較例Bの市販のレンズ2種類を比較例として、これらと実施例4とについてグレア及びハローの比較を行うために模型眼像シミュレーションを行なった。模型眼像シミュレーションはHOYA製模型眼システム(構造:角膜球面レンズ、水槽、眼内レンズ治具、カラーCCDカメラ)で行い、その結果を以下に説明する。実験用光源は2個用い、一個目の光源(グレア検証用の電球)を4m、二個目の光源(ハロー検証用の点光源)を6mの位置に配置し、これらをHOYA製模型眼システムに設置し、多焦点レンズの遠方の焦点を6mに合わせた。二個目の光源の明るさをハローパターンが出る条件で調節した。全ての検体でカメラのブライトネス及びシャッタースピードを一定にして撮影した。用いたHOYA製模型眼システムの模型眼パラメーターを表7、模型眼像シミュレーションの結果を図30(瞳孔径:Φ=3.0mmの場合)及び図31(瞳孔径:Φ=4.5mmの場合)に示す。
比較例A、比較例B及び実施例4のシミュレーション結果を検討する。各図の上部の光源がグレア検証用の電球であり、下の点光源はハロー検証用であり、ハロー検証用の点光源に関しては拡大図を添付した。グレアを比較すると従来型ブレーズド(Blazed)型回折構造の比較例Aは非常に大きく、アポダイズ型回折構造の比較例Bは比較的小さい。実施例4のグレアをこれら回折型多焦点眼内レズと比べると、ガウシアン回折光学構造は従来型ブレーズド(Blazed)型回折構造よりはグレアは少なく、アポダイズ型回折構造は同等であることが確認された。ハローについてはどのレンズでも確認されなかった。
なお、以上の実施例は、物体側面に回折パターンを設け屈折型レンズと組み合わせた例を掲げたが、回折パターンは、像側面に設けてもよい。また、回折パターンを設ける面は平面とし、所望の光学性能を得るようにしてもよい。
本発明の多焦点レンズは光学素子として有用であり、特にその用途は限定されないが光学素子、眼科用の遠方及び近用視力補正用の眼用レンズ(眼鏡、コンタクトレンズ、眼内
レンズ等の移殖用レンズ)等に応用可能である。
ガウシアン回折構造z(ξ)を表すグラフを示す図である。 本発明の実施の形態にかかる回折型多焦点レンズの断面図である。 図2に示される回折型多焦点レンズに形成されている回折パターンの表面凹凸形状を示す図である。 図3に示される回折パターン11の具体的形状寸法を示す図である。 スムージングなしの単位回折パターンを通過する光の位相関係を表す回折位相構造を示す図である。 スムージングありの単位回折パターンを通過する光の位相関係を表す回折位相構造を示す図である。 実施例1にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンにおいて1周期のスムージング無し(破線)の場合とガウシアンスムージング(実線)を行なった場合とのそれぞれの回折位相構造を示す図である。 実施例2−1にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンにおいて1周期のスムージング無し(破線)の場合とガウシアンスムージング(実線)を行なった場合とのそれぞれの回折位相構造を示す図である。 実施例2−1にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンにおけるガウシアン回折構造の具体的表面凹凸形状及び寸法(Surface sag)を示す図である。 実施例2−2にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンにおいて1周期のスムージング無し(破線)の場合とガウシアンスムージング(実線)を行なった場合とのそれぞれの回折位相構造を示す図である。 実施例2−2にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンにおけるガウシアン回折構造の具体的表面凹凸形状及び寸法(Surface sag)を示す図である。 三重焦点の回折型多焦点レンズの回折型レンズ構造を示す図である。 図12に示された回折型レンズ構造と凸レンズ形状をなした屈折型レンズ構造とを組み合わせた三重焦点の回折型多焦点レンズの断面図を示す図である。 実施例3−1にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンにおいて1周期のスムージング無し(破線)の場合とガウシアンスムージング(実線)を行なった場合とのそれぞれの回折位相構造を示す図である。 実施例3−1にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンにおけるガウシアン回折構造の具体的表面凹凸形状及び寸法(Surface sag)を示す図である。 実施例3−2にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンにおいて1周期のスムージング無し(破線)の場合とガウシアンスムージング(実線)を行なった場合とのそれぞれの回折位相構造を示す図である。 実施例3−2にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンにおけるガウシアン回折構造の具体的表面凹凸形状及び寸法(Surface sag)を示す図である。 試作品1の多焦点レンズをISO模型眼で1951 USAF テストパターンチャートを撮影した結果を示す図である。 試作品2−2の多焦点レンズの撮影結果を示す図である。 試作品3−2の多焦点レンズの撮影結果を示す図である。 試作品1のSurface sagの測定したチャートを示す図である。 試作品1のSurface sagの測定のチャートが平坦になるように補正を行った各測定点の数値をプロットして示す図である。 試作品2−2のSurface sagの測定したチャートを示す図である。 試作品2−2のSurface sagの測定のチャートが平坦になるように補正を行った各測定点の数値をプロットして示す図である。 試作品3−2のSurface sagの測定したチャートを示す図である。 試作品3−2のSurface sagの測定のチャートが平坦になるように補正を行った各測定点の数値をプロットして示す図である。 試作品1のMTF(遠用)を示す図である。 試作品1のMTF(近用)を示す図である。 試作品1のTFRを示す図である。 試作品2−2のMTF(遠用)を示す図である。 試作品2−2のMTF(近用)を示す図である。 試作品2−2のTFRを示す図である。 試作品3−2のMTF(遠用)を示す図である。 試作品3−2のMTF(近用)を示す図である。 試作品3−2のMTF(中間)を示す図である。 試作品3−2のTFRを示す図である。 実施例4にかかる回折型多焦点レンズの回折パターンの回折位相構造を示す図である。 比較例Aにかかる回折型多焦点レンズの回折パターンの回折位相構造を示す図である。 比較例Bにかかる回折型多焦点レンズの回折パターンの回折位相構造を示す図である。 比較例A及び比較例Bと実施例4とについて模型眼像シミュレーションによりグレア及びハローの比較を行った結果を示す図である。 比較例A及び比較例Bと実施例4とについて模型眼像シミュレーションによりグレア及びハローの比較を行った結果を示す図である。
符号の説明
10 回折型多焦点レンズ
11 物体側面
12 像側面

Claims (4)

  1. レンズ表面に、回折作用をなす環状の回折パターンが同心的に繰り返し設けられてなる回折型多焦点レンズにおいて、
    前記回折パターンの回折位相構造が、下記式により表される構造を有することを特徴とする回折型多焦点レンズ。
    但し、前記(1)式において、各符号は以下の通りである。
    ξ;回折パターンの1周期におけるレンズの半径方向の位置を示す値であり、0から1までの値を有する。
    w;φ(ξ)の式の形態が変わる位置を規定する値である。
    φ(ξ);基準面を通過した光の位相に対して、ξの位置を通過する光の位相のずれ量の値(ラジアン)を示す。
    ;0≦ξ<w、並びに、1−w≦ξ≦1のときに、直線φ(ξ)の勾配を規定する値である。
    ;w≦ξ<1−wのときに、直線φ(ξ)の勾配を規定する値である。
    q;w≦ξ<1−wのときに、直線φ(ξ)の基準面に対する平行移動量を規定する値である。
  2. 前記(1)式において、前記qが0<|q|≦1であることを特徴とする請求項1に記載の回折型多焦点レンズ。
  3. レンズ表面に、回折作用をなす環状の回折パターンが同心的に繰り返し設けられてなる回折型多焦点レンズにおいて、
    前記回折パターンの回折位相構造が、請求項1〜2における回折位相構造を表す曲線を、曲線近似、フィルタリング又は畳み込み積分によりスムージングを行い、最適化して求めた曲線により表される構造を有することを特徴とする回折型多焦点レンズ。
  4. 前記回折型多焦点レンズがコンタクトレンズ、眼内レンズ等の眼用レンズであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の回折型多焦点レンズ。
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