JP2010132509A - シリコン単結晶の育成方法及びシリコンウェーハの検査方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】低酸素のシリコン単結晶に含まれるPv領域とPi領域の境界を判定する。
【解決手段】チョクラルスキー法によって育成されたシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハに対し、少なくとも500℃〜900℃までの温度範囲を2℃/min以下のレートで昇温させるランピング昇温熱処理を施した後、酸素析出物を成長させる酸素析出物成長熱処理を行い、これによって顕在化された酸素析出物の分布によって、シリコンウェーハの結晶欠陥分布を判定する。本発明によれば、低酸素のシリコン単結晶であっても、Pv領域における酸素析出が十分となることから、Pv領域とPi領域の境界判別を容易に行うことが可能となる。したがって、OSF領域を指標とすることなく、Pv領域かPi領域しか含まないシリコン単結晶を育成することが可能となる。
【選択図】図3

Description

本発明はシリコン単結晶の育成方法に関し、特に、チョクラルスキー法(CZ法)によって育成され、半導体デバイスの基板用として好適に用いられるシリコン単結晶の育成方法に関する。また、本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)によって育成されたシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハの結晶欠陥分布を検査する、シリコンウェーハの検査方法に関する。
チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を育成する場合、その結晶に含まれる欠陥の種類や分布は、結晶の引上げ速度Vとシリコン単結晶内の成長方向の温度勾配Gの比に依存する。
図7は、V/Gとシリコン単結晶インゴット内に発生する欠陥の種類及び分布との一般的な関係を示す図である。
図7に示すように、V/Gが大きい場合は空孔が過剰となり、空孔の凝集体である微小ボイド(一般にCOP:Crystal Originated Particleと呼ばれている欠陥)が発生する。一方、V/Gが小さい場合は格子間シリコン原子が過剰となり、格子間シリコンの凝集体である転位クラスタが発生する。したがって、COPも転位クラスタも含まない結晶を製造するには、V/Gが結晶の径方向と長さ方向で適切な範囲に入るように制御しなければならない。まず、結晶の径方向については、どの位置でも引上げ速度Vは一定であるので、温度勾配Gが所定の範囲に入るように単結晶引き上げ装置の炉内構造(ホット・ゾーン)を設計しなければならない。次に、結晶の長さ方向については、温度勾配Gは結晶の引き上げ長さに依存するので、V/Gを所定の範囲に保つ為には、結晶の長さ方向に引上げ速度Vあるいは温度勾配Gを変化させなければならない。現在は、直径300mmのシリコン単結晶でも、V/Gを制御することによって、COPも転位クラスタも含まない結晶が量産されている。
上記のように、V/Gを制御して引き上げたCOPと転位クラスタを含まないシリコンウェーハが量産され、電子デバイスの製造に使われている。しかし、これらのウェーハは決して全面が均質ではなく、熱処理された場合の挙動が異なる複数の領域を含んでいる。図7に示すように、COPが発生する領域と転位クラスタが発生する領域の間には、V/Gが大きい方から順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の三つの領域が存在する。OSF領域とは、as-grown状態(結晶成長後に何の熱処理も行っていない状態)で板状酸素析出物(OSF(Oxidation Induced Stacking Fault)核)を含んでおり、高温(一般的には1000℃から1200℃)で熱酸化した場合にOSFが発生する領域である。Pv領域とは、as-grown状態で酸素析出核を含んでおり、低温及び高温(例えば、800℃と1000℃)の2段階の熱処理を施した場合に酸素析出物が発生し易い領域(酸素析出促進領域)である。Pi領域とは、as-grown状態で殆ど酸素析出核を含んでおらず、熱処理を施されても酸素析出物が発生し難い領域(酸素析出抑制領域)である。
COPが発生し始めるV/Gと転位クラスタが発生し始めるV/Gの差は極めて小さいので、COPも転位クラスタも含まない結晶を製造するには、引上げ速度Vの厳密な管理が必要である。しかしながら、目標通りの引上げ速度Vで結晶を引き上げても、種々の要因からCOPや転位クラスタが発生する場合がある。これは、下記の理由による。
CZ炉は、カーボンヒータ、断熱材、カーボンルツボ等の部材から構成されている。これらの部材は、数十回から数百回の引き上げに亘って継続的に使用される。また、これらの部材は、シリコン融液の蒸気や液滴との反応、シリコン融液及びカーボンから発生したガスとの反応、石英ルツボの反応等で、経時的に変質、減肉し、CZ炉内のホット・ゾーンの熱的特性も経時的に変化する。このようなホット・ゾーンの経時変化が起きると、温度勾配Gが変化するため、目標通りの引上げ速度Vで結晶を引き上げてもV/Gが設計値からずれてしまう。このような理由から、目標通りの引上げ速度Vで結晶を引き上げてもCOPや転位クラスタが発生するのである。
したがって、目標とするV/Gを実現するためには、ホット・ゾーンの経時変化に応じて引き上げ速度Vのプロファイルを変更する必要がある。
従来は、OSF領域を含むように引き上げ速度プロファイルを設定し、引き上げた結晶から切り出したサンプルにCu(銅)デコレーションやOSF評価のための熱処理を行ってOSF領域の広さを評価し、その広さに基づいて後続の引き上げの速度プロファイルを調整していた(特許文献1、2参照)。すなわち、OSF領域が広ければCZ炉はV/Gが大きくなる(Gが小さくなる)方向に変化しているので後続の引き上げでは引上げ速度Vを低めに設定し、逆に、OSF領域が狭ければCZ炉はV/Gが小さくなる(Gが大きくなる)方向に変化しているので後続の引き上げでは引上げ速度Vを高めに設定していた。
確かに、OSF領域、Pv領域およびPi領域は、空孔凝集空洞欠陥(COP)および転位クラスタが存在しないことから、これらの結晶領域からなるウェーハは酸化膜耐圧特性に優れるウェーハとして有用である。しかしながら、OSF領域、Pv領域およびPi領域が混在するようなウェーハでは、ウェーハ径方向で酸素析出物密度が大きくばらつくことになり、径方向にゲッタリング能力が異なってしまう問題がある。
しかも、これらの方法は、OSF領域の広さや位置を指標として後続の引き上げの速度プロファイルを調整する方法なので、製品として出荷されるウェーハにも必然的にOSF領域が含まれる。今のところ、OSF領域は電子デバイスに影響を与えていないようである。しかし、OSF領域は、as-grown状態でもOSFの核、すなわち、板状の酸素析出物を含む領域であるので、将来の電子デバイスではその特性を劣化させる原因となる可能性が高い。従って、今後は、OSF領域の広さを引上げ速度調整の指標とせずに、OSF領域を含まない結晶を安定的に引き上げる方法を開発することが必要であると考えられる。このためには、Pv領域とPi領域の境界を明確に判別して欠陥分布を確認する必要がある。
特許文献1では、ドライ酸素雰囲気下、900℃〜1100℃×1〜5時間の熱処理を行い、その後、ウエット酸素雰囲気下、1100℃〜1200℃×1〜3時間の熱処理を行った後、選択エッチングによりエッチピットを形成してこれを検出することにより、Pv領域とPi領域の判別をできることが報告されている。
特開2008−222505号公報
これまで、酸素析出物密度を高密度に形成したゲッタリング能力に優れるウェーハの提供が強く求められてきた。しかしながら、酸素析出物はいわゆる結晶欠陥の一種であり、デバイスが形成されるウェーハ表層部に酸素析出物が存在するとデバイス不良をもたらす要因となる。このため、従来から、酸素析出物を有するシリコンウェーハに高温熱処理を施して、デバイスが形成されるウェーハ表層部に存在する酸素析出物を消滅させたアニールウェーハや、酸素析出物を有するウェーハの表面にエピタキシャル膜を形成したエピタキシャルシリコンウェーハなどが開発されている。しかしながら、いずれもウェーハに対して新たな工程を付加するプロセスであって、生産性が低下し、製造コストが上昇するという、根本的な問題がある。
近年、絶縁ゲートバイポーラトランジスター(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)の開発などが進められている。IGBTは、メモリ等のLSIのようにウェーハの表面近傍だけを横方向に使う素子ではなく、ウェーハを縦方向(ウェーハ厚み方向)に使う素子なので、その特性はウェーハのバルクの品質に影響される。このため、ウェーハ表層部の酸素析出物だけではなく、ウェーハ内部の酸素析出物も縮小・低減化を図る必要がでてきた。また、IGBT用ウェーハに限らず、近年、デバイスにおけるクリーン化が進み不純物汚染の危険性も大幅に低減されたことにより、ウェーハに要求される品質としてゲッタリング能力を不問とし、COP、転位クラスタに限らず、結晶欠陥の一種である酸素析出物さえも限りなく低減させたウェーハが次世代ウェーハとして今後要求されることが予想される。
一般的に、ウェーハ中の酸素析出物を低減するには、結晶中の酸素濃度を低下させることにより低減することができる。現状、磁場を印加するMCZ法(Magnetic-field-applied Czochralski Method)を採用し、ルツボ回転速度や結晶回転速度などを調整することにより、酸素濃度3×1017atoms/cmまでの低酸素シリコン単結晶インゴットの作成が可能である(本明細書で記載する酸素濃度は全てASTM F−121(1979)に規格されたフーリエ変換赤外分光光度法による測定値である。)。
しかしながら、低酸素のシリコン単結晶、特に、酸素濃度が12×1017atoms/cm以下のシリコン単結晶においては、結晶中の酸素濃度低下によりPv領域における酸素析出が低下し、Pv領域とPi領域における酸素析出物分布の差が極めて小さくなってしまう。このため、特許文献1に記載された酸素析出物評価熱処理による欠陥分布評価では、Pv領域とPi領域の境界判別が困難となる。
したがって、本発明は、低酸素のシリコン単結晶、特に、酸素濃度が12×1017atoms/cm以下のシリコン単結晶の育成方法であって、Pv領域とPi領域の境界を判定することによって、同一結晶領域からなるシリコン単結晶を育成可能な方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記の育成方法によって育成されたシリコン単結晶から切り出されたシリコンウェーハを検査する方法を提供することを目的とする。
結晶育成時に形成された比較的サイズの大きな酸素析出核は、その後の酸素析出物成長熱処理により成長され、検出可能な酸素析出物として顕在化されることになる。ところが、結晶育成時に形成された非常にサイズの小さな酸素析出核はその後の酸素析出物成長熱処理を受けても検出可能な酸素析出物サイズまで成長せず、逆に微小な酸素析出核は高温の酸素析出物成長熱処理によって消滅することになる。このため、これまで実施されている等温熱処理、例えば、800℃×1時間というような熱処理では、800℃で成長するような酸素析出核しか成長しない。
これに対し、微小な酸素析出核がある程度の大きさにまで成長するように、酸素析出核形成温度域をゆっくりと通過させれば、酸素析出核形成温度域の各温度域で成長する酸素析出核の全てを成長させることができるので、より酸素析出物密度が増大するものと考えられる。
本発明は、このような技術的知見に基づき成されたものであって、本発明によるシリコン単結晶の育成方法は、チョクラルスキー法によって空孔凝集空洞欠陥(COP)及び転位クラスタを含まない酸素濃度が5×1017atoms/cm以上のシリコン単結晶インゴットを育成する育成工程と、シリコン単結晶インゴットから評価用試料を切り出す切り出し工程と、評価用試料に対し、少なくとも500℃から900℃までの温度範囲を2℃/min以下のレートで昇温させるランピング昇温熱処理工程と、ランピング昇温熱処理工程を行った後、酸素析出物を成長させる酸素析出物成長熱処理工程と、酸素析出物成長熱処理工程によって顕在化された酸素析出物の分布によって、酸素析出促進領域(Pv領域)と酸素析出抑制領域(Pi領域)との境界を判定する評価工程と、評価工程における判定結果に基づいて、後続の育成工程における育成条件を調整するフィードバック工程とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、酸素析出核の形成温度域である500℃〜900℃までの昇温レートを2℃/min以下に設定してランピング昇温熱処理を施していることから、500℃〜900℃の各温度範囲で形成される酸素析出核を幅広く析出させることが可能となる。このため、低酸素のシリコン単結晶、特に、酸素濃度が12×1017atoms/cm以下のシリコン単結晶であっても、Pv領域における酸素析出が十分となることから、Pv領域とPi領域の境界判別を容易に行うことが可能となる。したがって、この判定結果に基づいて後続の育成工程における育成条件を調整すれば、OSF領域を指標とすることなく、Pv領域かPi領域しか含まないシリコン単結晶を育成することが可能となる。
フィードバック工程においては、結晶領域が酸素析出促進領域(Pv領域)及び酸素析出抑制領域(Pi領域)のいずれか一方のみとなるよう、後続の育成工程における育成条件を調整することが好ましい。これによれば、シリコンウェーハの径方向における酸素析出物密度をほぼ一定とすることが可能となる。特に、結晶領域がPi領域のみとなるよう育成条件を調整すれば、IGBTのようにウェーハのバルクの品質に影響されるデバイス用の高品質なシリコン単結晶を提供することが可能となる。
酸素析出物成長熱処理工程においては、900℃〜1100℃の熱処理を1〜16時間行うことが好ましい。これによれば、ランピング昇温熱処理工程にて形成された酸素析出核を十分に成長させることが可能となるからである。
また、本発明によるシリコンウェーハの検査方法は、チョクラルスキー法によって育成された酸素濃度が5×1017atoms/cm以上のシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハに対し、少なくとも500℃〜900℃までの昇温レートが2℃/min以下のランピング昇温熱処理を施した後、酸素析出物を成長させる酸素析出物成長熱処理を行い、これによって顕在化された酸素析出物の分布によって、シリコンウェーハの結晶欠陥分布を判定することを特徴とする。
本発明においても、酸素析出核の形成温度域である500℃〜900℃までの昇温レートを2℃/min以下に設定してランピング昇温熱処理を施していることから、500℃〜900℃の各温度範囲で形成される酸素析出核を幅広く析出させることが可能となる。このため、低酸素のシリコンウェーハ、特に、酸素濃度が12×1017atoms/cm以下のシリコンウェーハにおける酸素析出物の分布を評価することが可能となる。
酸素析出物成長熱処理は900℃〜1100℃で1〜16時間の熱処理であることが好ましい。これによれば、ランピング昇温熱処理にて形成された酸素析出核を十分に成長させることが可能となるからである。
検査対象となるシリコンウェーハは、酸素析出促進領域(Pv領域)および酸素析出抑制領域(Pi領域)を含むことが好ましい。本発明の検査方法によれば、低酸素のシリコンウェーハ、特に、酸素濃度が12×1017atoms/cm以下のシリコンウェーハであっても、Pv領域における酸素析出が十分となることから、Pv領域とPi領域の境界判別を容易に行うことができるからである。
本発明においては、シリコンウェーハの表面または劈開断面で観察される酸素析出物密度の値が1×10個/cm以上である領域を酸素析出促進領域(Pv領域)と判定することが好ましい。酸素析出物密度の値が1×10個/cm以上であれば、シリコンウェーハの表面や劈開断面をエッチング液でエッチングした後、光学顕微鏡などで酸素析出物の存在を容易に確認することができるからである。
このように、本発明のシリコン単結晶の育成方法によれば、酸素濃度が低い場合であっても、OSF領域を指標とすることなく、Pv領域かPi領域しか含まないシリコン単結晶を育成することが可能となる。
また、本発明のシリコンウェーハの検査方法によれば、酸素濃度が低い場合であっても、Pv領域又はPi領域しか含まないシリコンウェーハにおける酸素析出物の分布を評価することが可能となる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の好ましい実施形態によるシリコン単結晶の育成方法に適用可能な引き上げ装置の構成を示す模式図である。
図1に示すシリコン単結晶引き上げ装置10は、チャンバー11と、チャンバー11の底部中央を貫通して鉛直方向に設けられた支持回転軸12と、支持回転軸12の上端部に固定されたグラファイトサセプタ13と、グラファイトサセプタ13内に収容された石英るつぼ14と、グラファイトサセプタ13の周囲に設けられたヒーター15と、支持回転軸12を昇降及び回転させるための支持軸駆動機構16と、種結晶を保持するシードチャック17と、シードチャック17を吊設する引き上げワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取るためのワイヤー巻き取り機構19と、ヒーター15及び石英るつぼ14からの輻射熱によるシリコン単結晶インゴット20の加熱を防止すると共にシリコン融液21の温度変動を抑制するための熱遮蔽部材22と、各部を制御する制御装置23とを備えている。
チャンバー11の上部には、Arガスをチャンバー11内に導入するためのガス導入口24が設けられている。Arガスはガス管25を介してガス導入口24からチャンバー11内に導入され、その導入量はコンダクタンスバルブ26により制御される。
チャンバー11の底部には、チャンバー11内のArガスを排気するためのガス排出口27が設けられている。密閉したチャンバー11内のArガスはガス排出口27から排ガス管28を経由して外へと排出される。排ガス管28の途中にはコンダクタンスバルブ29及び真空ポンプ30が設置されており、真空ポンプ30でチャンバー11内のArガスを吸引しながらコンダクタンスバルブ29でその流量を制御することでチャンバー11内の減圧状態が保たれている。
さらに、チャンバー11の外側にはシリコン融液21に磁場を印加するための磁場供給装置31が設けられている。磁場供給装置31から供給される磁場は、水平磁場であっても構わないし、カスプ磁場であっても構わない。
図2(a)は、シリコン単結晶インゴット20の引き上げ速度Vと欠陥の種類及び分布との関係を示す図であり、図2(b)〜(d)はそれぞれ図2(a)に示すB−B線、C−C線及びD−D線に沿った断面図である。図2(a)に示す欠陥分布は、引上げ速度を徐々に低下させた引上げ速度変更実験を行うことによって得られる。また、図2(a)の引き上げ条件は、引き上げる単結晶の中心部が融点から1370℃までの温度域で、中心部における温度勾配をGcとし、外周部における温度勾配をGeとした場合、Gc/Ge≧1に設定されている。
図2(a)から明らかなように、COP領域41、OSF領域42及び転位クラスタ45を含まない結晶を引き上げるためには、引き上げ速度をV1以上、V4以下に設定することが必要である。つまり、引き上げ速度をV1以上、V4以下に設定すれば、引き上げられた結晶は、Pv領域43とPi領域44だけの無欠陥結晶となる。さらに、COP領域41、OSF領域42及び転位クラスタ45だけでなく、Pv領域43をも含まない結晶、つまり、Pi領域44だけの無欠陥結晶を引き上げるためには、引き上げ速度をV1以上、V2以下に設定することが必要である。一方、Pv領域43だけの無欠陥結晶を引き上げるためには、引き上げ速度をV3以上、V4以下に設定すればよい。また、引き上げ速度がV2超、V3未満である場合には、Pv領域43とPi領域44が混在した無欠陥結晶が得られる。もちろん、ここでいう無欠陥とは、ショルダー部やテイル部を含めて無欠陥であることを意味するのではなく、安定的な引き上げ条件下において得られる直胴部の実質的に全長に亘って無欠陥であることを意味する。
このように、Pi領域44だけの無欠陥結晶を引き上げるためには、引き上げ速度をV1以上、V2以下に設定すればよい。また、Pv領域43だけの無欠陥結晶を引き上げるためには、引き上げ速度をV3以上、V4以下に設定すればよい。しかしながら、既に説明したとおりホット・ゾーンは経時変化することから、引き上げ速度V1,V2,V3,V4は絶対値として与えられるのではなく、ホット・ゾーンの変化に応じた相対的な値として与えられる。したがって、Pi領域44だけの無欠陥結晶又はPv領域43だけの無欠陥結晶を引き上げるためには、引上げ速度変更実験を行うことによって図2(a)に示す欠陥分布を持った結晶を引き上げ、これを参照することによって、引き上げ速度V1,V2,V3,V4を割り出し、実際の引き上げ速度をV1〜V2又はV3〜V4に設定すればよい。
引き上げ速度をV1〜V2又はV3〜V4に設定して引き上げを行った後も、実際に引き上げられた結晶を評価することによって、現在の引き上げ速度の適否を判断するとともに、後続のバッチに対するフィードバックを行う必要がある。これについて、以下具体的に説明する。
まず、引き上げ速度VがC−C線に相当する速度である場合、図2(c)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40(評価用試料)の中心部にはディスク状のPv領域43aが現れ、外周部にはリング状のPv領域43bが現れる。これらの間のドーナツ状の領域は、Pi領域44である。Pv領域43とPi領域44を識別する方法については、酸素析出物の核を形成するランピング昇温熱処理と、酸素析出物を成長させる酸素析出物成長熱処理からなる2段階の熱処理によって、酸素析出物を顕在化させることにより行う。熱処理工程の詳細については後述する。
このように、シリコンウェーハ40が図2(c)に示す状態である場合、引き上げ速度がV2を超え、V3未満であると判断することができる。したがって、Pi領域44だけの無欠陥結晶を引き上げるためには、制御装置23によって引き上げ速度Vを低下させる必要があることが分かる。また、Pv領域43だけの無欠陥結晶を引き上げるためには、制御装置23によって引き上げ速度Vを上昇させる必要があることが分かる。
そして、引き上げ速度VがB−B線に相当する速度である場合、図2(b)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40は全てPv領域43となる。この場合には、引き上げ速度がV3以上、V4以下であると判断することができ、したがって、Pv領域43だけの無欠陥結晶の引き上げを目標としている場合には、制御装置23による引き上げ速度Vの変更を行う必要はない。
但し、引き上げ速度がV4を超えて上昇すると、図2(a)のX2−X2線で示すように、OSF領域42が含まれてしまう。したがって、OSFを含まない結晶の育成が必要である場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを低下させる必要がある。OSF領域42とPv領域43の境界は、公知の熱処理などによって判別することが可能である。また、引き上げ速度がさらに大きくなると、図2(a)のX1−X1線で示すように、COP領域41が含まれてしまう。したがって、COPを含まない結晶の育成が必要である場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを低下させる必要がある。COP境域41とOSF領域42の境界は、公知の熱処理などによって判別することが可能である。
一方、引き上げ速度VがD−D線に相当する速度である場合、図2(d)に示すように、切り出されたシリコンウェーハ40は全てPi領域44となる。この場合には、引き上げ速度がV1以上、V2以下であると判断することができ、したがって、Pi領域44だけの無欠陥結晶の引き上げを目標としている場合には、制御装置23による引き上げ速度Vの変更を行う必要はない。
但し、引き上げ速度がV1未満に低下すると、図2(a)のX3−X3線で示すように、転位クラスタ45が含まれる結晶領域となってしまう。このような結晶はICデバイス用のシリコンウェーハとして不適格であることから、この場合には、制御装置23によって引き上げ速度Vを上昇させる必要がある。Pi領域44と転位クラスタ45の境界は、評価サンプルに通常のセコエッチングなどのエッチング処理を施すことで、目視レベルで簡単に転位クラスタ発生領域を確認することができる。
尚、図2では引き上げ条件をGc/Ge≧1に設定しているが、この点は本発明において必須でない。しかしながら、Gc/Ge≧1に設定すれば、図2(a)に示すように、OSF領域42の底部が平坦化され、その結果、無欠陥結晶が得られるV1〜V4の速度域が広がる。しかも、Pv領域43とPi領域44が混在するV2〜V3の速度域も小さくなることから、Pi領域44だけの結晶が得られるV1〜V2の速度域や、Pv領域43だけの結晶が得られるV3〜V4の速度域が広くなる。これに対し、Gc/Ge<1である場合には、図7に示したように、OSF領域42の底部がU字型となり、OSF領域42が含まれる速度域が広くなってしまう。その結果、V1〜V4の速度域が狭くなり、場合によっては存在しなくなってしまう。このような点を考慮すれば、引き上げ条件をGc/Ge≧1に設定することが望ましい。温度勾配Ge、Gcの調整は、炉内のホット・ゾーン構造(図1に示した熱遮蔽部材22の形状、シリコン融液21の液面と熱遮蔽部材22との距離など)を調整することにより行うことができる。
このように、後述する2段階の熱処理を行うことによりPv領域43にて酸素析出物を顕在化させれば、Pv領域43とPi領域44との境界を容易に認識することができることから、Pv領域43だけの無欠陥結晶を引き上げる場合、並びに、Pi領域44だけの無欠陥結晶を引き上る場合のいずれにおいても、現在の引き上げ速度Vの適否が判断できる。尚、初回引上げ時の引上げ条件を決めるときには、少なくともPv領域43とPi領域44を含む結晶領域、すなわち、V2〜V3の速度域で育成することが望ましい。これは、図2(c)に示したとおり、Pv領域43とPi領域44を含む結晶領域であれば、ディスク状のPv領域43aの径やリング状のPv領域43bの幅に基づいて、引き上げ速度をどの程度調整すればよいか、容易に判断することができるからである。
また、図2では、シリコン単結晶インゴット20を径方向に切断した評価用試料を用いているが、シリコン単結晶インゴット20を軸方向に切断した評価用試料を用いても構わない。前者の場合、結晶引上げ軸方向に間隔をおいて複数枚のサンプルを切り出すことで、結晶引上げ軸方向の欠陥分布の変化を確認することができる。後者の場合、軸方向に連続した複数枚のサンプルを作成することで、結晶引上げ軸方向の欠陥分布を確認することができる。
次に、Pv領域43の形状を観察する方法について説明する。
Pv領域43の形状観察は、酸素析出物の核を形成するランピング昇温熱処理と、酸素析出物を成長させる酸素析出物成長熱処理からなる2段階の熱処理によって、Pv領域43に酸素析出物を顕在化させることにより行う。具体的には、チョクラルスキー法によって空孔凝集空洞欠陥(COP)及び転位クラスタを含まない酸素濃度が5×1017atoms/cm以上のシリコン単結晶インゴットを育成し(育成工程)、シリコン単結晶インゴットから評価用試料であるシリコンウェーハを切り出し(切り出し工程)、ランピング昇温熱処理及び酸素析出物成長熱処理からなる2段階の熱処理によって酸素析出物を顕在化させる。ランピング昇温熱処理及び酸素析出物成長熱処理からなる2段階の熱処理を施すと、Pv領域43にて酸素析出物が現れる一方、Pi領域44には酸素析出物が現れないことから、これによりPv領域43とPi領域44の境界を判定することができる(評価工程)。
上述の通り、観察されたPv領域の形状は、現在の引き上げ速度Vが最適な引き上げ速度Vに対してどの程度ずれているかを判断する指標となることから、これに基づいて、後続の育成工程における育成条件にフィードバックすれば、所望の品質を持ったシリコン単結晶インゴットを安定的に量産することが可能となる(フィードバック工程)。ここで、所望の品質を持ったシリコン単結晶インゴットとは、Pv領域43のみからなるシリコン単結晶インゴット(図2(b)参照)またはPi領域44のみからなるシリコン単結晶インゴット(図2(d)参照)を指す。また、後続の育成工程における育成条件の調整は引上げ速度Vを調整することにより行われる。なお、単結晶成長に伴う単結晶軸方向の温度勾配Gの変化については、シリコン融液21と熱遮蔽部材22との間隔などを調整して温度勾配Gそのものの大きさを調整するようにしてもよく、引上げ速度Vおよび温度勾配Gの双方を調整するようにしてもよい。
ここで、2段階の熱処理について詳細に説明する。
2段階の熱処理は、上述の通り、酸素析出物の核を形成するランピング昇温熱処理と、酸素析出物を成長させる酸素析出物成長熱処理からなる。ランピング昇温熱処理は、500℃〜900℃までの昇温レートを2℃/min以下に設定して行い、好ましくは、1.0〜1.5℃/min以下に設定して行う。
ここで、ランピングの温度域を500℃〜900℃に設定しているのは、この温度域が酸素析出核の形成温度域だからである。つまり、500℃未満の温度領域や、900℃を超える温度領域では、酸素析出核がほとんど形成されないため、このような温度領域でランピング昇温を行っても酸素析出核の形成に寄与しないからである。したがって、生産性を考慮すれば、500℃未満の温度領域や900℃を超える温度領域においては、2℃/minを超える昇温レートで昇温させることが好ましい。
また、昇温レートを2℃/min以下に設定しているのは、酸素析出核の形成温度域である500℃〜900℃の各温度での通過時間を十分に確保することによって、各温度範囲で形成される酸素析出核を幅広く析出させるためである。特に、昇温レートを1.0〜1.5℃/min以下に設定すれば、処理時間を著しく増大させることなく、酸素析出核を最も効果的に析出させることが可能となる。これに対し、昇温レートが2℃/minを超えると、酸素析出核の形成温度域の通過時間が短くなる結果、結晶育成時に形成された微小な酸素析出核が十分に成長しない。このため、酸素濃度が低い場合、特に、酸素濃度が12×1017atoms/cm以下である場合においては、Pv領域43にて酸素析出物を顕在化させることができなくなってしまう。
昇温レートの下限については特に限定されないが、昇温レートを0.5℃/min未満に設定しても形成される酸素析出核の数はこれ以上ほとんど増えない一方、昇温レートを小さくすればするほど、ランピング昇温熱処理に要する時間が長くなってしまう。これらの点を考慮すれば、昇温レートは0.5℃/min以上に設定することが好ましいと言える。
また、熱処理時のガス雰囲気は、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガスのいずれでもよく、酸素ガスと窒素ガス、あるいは酸素ガスとアルゴンガスの混合ガス雰囲気であってもよい。特に酸素ガスを含む酸化性ガス雰囲気が好ましい。酸化性ガス雰囲気が好ましい理由は、酸化性ガス雰囲気であれば結晶育成時に形成された微小な酸素析出核の消滅を抑制できるからである。
一方、酸素析出物成長熱処理については、ランピング昇温熱処理にて形成された酸素析出核が成長する条件であれば特に限定されないが、900℃〜1100℃の温度で1〜16時間の熱処理することが好ましい。尚、酸素析出物成長熱処理は、ランピング昇温熱処理を行った後であれば、任意のタイミングで行うことができる。すなわち、ランピング昇温熱処理と同じ熱処理炉を用いて酸素析出物成長熱処理を行っても構わないし、別の熱処理炉を用いて酸素析出物成長熱処理を行っても構わない。作業効率を考慮すれば、ランピング昇温熱処理と同じ熱処理炉を用いて酸素析出物成長熱処理を連続的に行うことが好ましい。
この場合、図3(a)に示すように、500℃から900℃までランピング昇温熱処理を行った後、900℃で0.5〜2時間保持し、任意の昇温レート(例えば5℃/min)で1000℃〜1100℃まで昇温した後、この状態を1〜16時間保持しても構わない。あるいは、図3(b)に示すように、ランピング昇温熱処理を引き続き1000℃〜1100℃まで行い、その後この状態を1〜16時間保持しても構わない。尚、図3(a),(b)に示す例では、熱処理炉のロード時の温度を500℃、熱処理後の降温レートを3℃/min以下、アンロード時の温度を700℃に設定しているが、本発明がこれらに限定されるものではない。
以上説明した2段階の熱処理を行うことにより、従来の熱処理では顕在化させることが困難であった微小な酸素析出物を顕在化させることが可能となる。すなわち、Pv領域43とPi領域44の境界を判定することができる。境界の判定においては、評価用試料であるシリコンウェーハの表面または劈開断面で観察される酸素析出物密度の値が1×10個/cm以上である領域をPv領域43と判定すればよい。これは、酸素濃度が5×1017atoms/cm以上であれば、上記の2段階の熱処理を施すとPv領域43において酸素析出物密度の値が1×10個/cm以上となり、Pi領域44において酸素析出物密度の値が1×10個/cm未満となるからである。すなわち、1×10個/cmで区切れば、Pv領域43とPi領域44とを明確に判別することが可能となる。
ここで、酸素濃度が5×1017atoms/cm以上のシリコン単結晶インゴットである必要があるのは、酸素濃度が5×1017atoms/cm未満であると、上述した2段階の熱処理を施してもPv領域の酸素析出物が十分に顕在化されず、その結果、Pv領域とPi領域との境界を判別することが困難となるからである。また、空孔凝集空洞欠陥(COP)及び転位クラスタを含まないシリコン単結晶に制限しているのは、COP領域41は上述した2段階の熱処理を行うことなく簡単に判別することができるからであり、転位クラスタ45を含むシリコン単結晶は、製品として不適格だからである。
尚、1×10個/cm以上の酸素析出物が観察される領域は、Pv領域43だけでなく、OSF領域42やCOP領域41も含まれる。換言すれば、1×10個/cm以上の酸素析出物が形成された領域がPv領域43であるのか、OSF領域42又はCOP領域41であるのかは、本発明による2段階の熱処理では判断することは困難である。しかしながら、OSF領域42やCOP領域41については、公知の熱処理方法によって判別することができることから、本発明による2段階の熱処理と併せて、OSF領域42やCOP領域41を顕在化させる公知の熱処理を行うことにより、Pv領域を特定することが可能である。
逆に、観察される酸素析出物密度が1×10個/cm未満となる領域は、Pi領域44だけでなく、転位クラスタ45も含まれるが、本発明による2段階の熱処理後に目視レベルで、転位クラスタ45の発生領域を検出することができる。また、本発明による2段階の熱処理を行わずに、評価サンプルに通常のセコエッチングなどのエッチング処理を施すことでも、目視レベルで簡単に転位クラスタ発生領域を確認することができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、酸素濃度が低い場合であってもPv領域とPi領域との境界を判別することが可能となる。したがって、判定結果に基づいて後続の引き上げ条件を調整すれば、Pv領域のみ或いはPi領域のみのシリコン単結晶を育成することが可能となる。Pv領域のみのシリコンウェーハは、ゲッタリング可能な酸素析出物密度を有しており、且つ、径方向における酸素析出物密度がほぼ一定であることから、ゲッタリング能力が要求されるシリコンウェーハとして非常に高品質なシリコンウェーハとなる。一方、Pi領域のみのシリコンウェーハは、酸素析出物密度が均一且つ低レベルであることから、IGBTなどの垂直シリコンデバイス用として好適に用いることが可能となる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
まず、図1に示す引上げ装置を用いて、酸素濃度の異なる複数のシリコン単結晶インゴットA〜Hを引き上げた。引き上げ速度Vは、いずれも図2(a)のC−C線に相当する速度に設定することにより、Pv領域とPi領域が混在するよう調整した。ここで育成したインゴットは、単結晶直径:300mm、結晶方位:<100>、極性:p型(ボロンドープ)の単結晶インゴットである。シリコン単結晶インゴットA〜Hの酸素濃度は表1の通りである。
Figure 2010132509
次に、シリコン単結晶インゴットA〜Hからそれぞれ7枚のシリコンウェーハを切り出し、合計56枚(=8×7)のサンプルを作製した。インゴットA〜Hから切り出されたシリコンウェーハは、それぞれサンプルA1〜A7、B1〜B7、C1〜C7、D1〜D7、E1〜E7、F1〜F7、G1〜G7、H1〜H7とした。そして、各インゴットA〜Hから切り出された7枚のシリコンウェーハに対して、互いに異なる条件で熱処理を行うことにより、酸素析出物(BMD)を形成した。熱処理雰囲気については、いずれのサンプルに対してもドライ酸素雰囲気とした。
具体的には、サンプルA1〜H6については図3(a)に示した条件で熱処理を行い、ランピング昇温熱処理における昇温レートを表2に示すとおりに設定した。いずれのサンプルも、ランピング終了後900℃に維持する時間は1時間とし、酸素析出物成長熱処理は1000℃で16時間行った。また、1000℃からアンロードするまでの降温レートは3℃/min、アンロード時の温度は700℃とした。
Figure 2010132509
一方、残りのサンプルA7〜H7については、図3(c)に示すように、800℃で4時間、1000℃で16時間の2段階等温熱処理を行った。ロード時の温度は700℃、700℃から800℃までの昇温レートは5℃/min、800℃から1000℃までの昇温レートは5℃/min、1000℃からアンロードするまでの降温レートは3℃/min、アンロード時の温度は700℃とした。
そして、各サンプルを劈開し、劈開断面をライトエッチング液で2μmエッチングした後、断面のBMD密度を光学顕微鏡で観察した。結果を図4に示す。図4(a)はPv領域におけるBMD密度を示しており、図4(b)はPi領域におけるBMD密度を示している。
図4(a)に示すように、Pv領域におけるBMD密度は酸素濃度が低いほど小さくなるが、ランピングレートを小さくすることによりBMD密度が高められることが分かる。具体的には、酸素濃度にかかわらずPv領域におけるBMD密度を1×10個/cm以上とするためには、ランピング昇温熱処理における昇温レートを2℃/min以下とすればよいことが分かる。これに対し、昇温レートが2℃/minを超えると、低酸素のサンプルにおいてPv領域におけるBMD密度が1×10個/cm未満となる。2段階の等温熱処理を行ったA7〜D7についても、Pv領域におけるBMD密度は1×10個/cm未満であった。
また、図4(b)に示すように、Pi領域においてもランピングレートが小さくなるほどBMD密度が高くなったが、いずれのサンプルも1×10個/cm以上となることはなかった。
これにより、本発明による熱処理を行えば、1×10個/cmのBMD密度を基準として、Pv領域とPi領域を明確に判別できることが確認された。
図5は、ライトエッチング液でシリコンウェーハの表面を2μmエッチングした後の外観を示す図であり、(a)はサンプルA2の外観、(b)はサンプルA7の外観を示している。図5(a)に示すように、ランピング昇温熱処理における昇温レートを1℃/minとしたサンプルA2では、Pv領域とPi領域が外観上も明確に相違している。これに対し、等温熱処理を行ったサンプルA7では、全体的にBMD密度が低く、外観上、Pv領域とPi領域を識別することはできなかった。
図6(a)はサンプルA2の径方向におけるBMD密度の分布を示すグラフであり、図6(b)はサンプルA7の径方向におけるBMD密度の分布を示すグラフである。図6(a)に示すように、サンプルA2においてはPv領域におけるBMD密度とPi領域におけるBMD密度の差が顕著であり、しかも、その境界部分における変化が急峻であった。これに対し、サンプルA7においては全体的にBMD密度が小さく、且つ、Pv領域におけるBMD密度とPi領域におけるBMD密度の差が僅かであった。
本発明の好ましい実施形態によるシリコン単結晶の育成方法に適用可能な引き上げ装置の構成を示す模式図である。 (a)はシリコン単結晶インゴットの引き上げ速度Vとシリコン単結晶インゴット内に発生する欠陥の種類及び分布との関係を示す図であり、(b)〜(d)はそれぞれ(a)に示すB−B線、C−C線及びD−D線に沿った断面図である。 熱処理時における温度履歴を説明するグラフであり、(a)及び(b)はランピング昇温熱処理を含む温度履歴を示し、(c)はランピング昇温熱処理を含まない温度履歴を示している。 BMD密度の測定結果を示すグラフであり、(a)はPv領域におけるBMD密度を示し、b)はPi領域におけるBMD密度を示している。 ライトエッチング液でシリコンウェーハの表面を2μmエッチングした後の外観を示す図であり、(a)はサンプルA2の外観、(b)はサンプルA7の外観を示している。 (a)はサンプルA2の径方向におけるBMD密度の分布を示すグラフであり、図6(b)はサンプルA7の径方向におけるBMD密度の分布を示すグラフである。 V/Gとシリコン単結晶インゴット内に発生する欠陥の種類及び分布との一般的な関係を示す図である。
符号の説明
10 シリコン単結晶引き上げ装置
11 チャンバー
12 支持回転軸
13 グラファイトサセプタ
14 石英るつぼ
15 ヒーター
16 支持軸駆動機構
17 シードチャック
18 ワイヤー
19 ワイヤー巻き取り機構
20 シリコン単結晶インゴット
21 シリコン融液
22 熱遮蔽部材
23 制御装置
24 ガス導入口
25 ガス管
26 コンダクタンスバルブ
27 ガス排出口
28 排ガス管
29 コンダクタンスバルブ
30 真空ポンプ
31 磁場供給装置
40 シリコンウェーハ
41 COP領域
42 OSF領域
43 Pv領域
44 Pi領域
45 転位クラスタ

Claims (11)

  1. チョクラルスキー法によって空孔凝集空洞欠陥(COP)及び転位クラスタを含まない酸素濃度が5×1017atoms/cm以上のシリコン単結晶インゴットを育成する育成工程と、
    前記シリコン単結晶インゴットから評価用試料を切り出す切り出し工程と、
    前記評価用試料に対し、少なくとも500℃から900℃までの温度範囲を2℃/min以下のレートで昇温させるランピング昇温熱処理工程と、
    前記ランピング昇温熱処理工程を行った後、酸素析出物を成長させる酸素析出物成長熱処理工程と、
    前記酸素析出物成長熱処理工程によって顕在化された酸素析出物の分布によって、酸素析出促進領域(Pv領域)と酸素析出抑制領域(Pi領域)との境界を判定する評価工程と、
    前記評価工程における判定結果に基づいて、後続の前記育成工程における育成条件を調整するフィードバック工程と、
    を備えることを特徴とするシリコン単結晶の育成方法。
  2. 前記フィードバック工程においては、結晶領域が前記酸素析出促進領域(Pv領域)及び前記酸素析出抑制領域(Pi領域)のいずれか一方のみとなるよう、後続の前記育成工程における育成条件を調整することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の育成方法。
  3. 前記酸素析出物成長熱処理工程においては、900℃〜1100℃の熱処理を1〜16時間行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン単結晶の育成方法。
  4. 前記シリコン単結晶中の酸素濃度が12×1017atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の育成方法。
  5. 前記ランピング昇温熱処理工程を酸化性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の育成方法。
  6. チョクラルスキー法によって育成された酸素濃度が5×1017atoms/cm以上のシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコンウェーハに対し、少なくとも500℃〜900℃までの温度範囲を2℃/min以下のレートで昇温させるランピング昇温熱処理を施した後、酸素析出物を成長させる酸素析出物成長熱処理を行い、これによって顕在化された酸素析出物の分布によって、前記シリコンウェーハの結晶欠陥分布を判定することを特徴とするシリコンウェーハの検査方法。
  7. 前記酸素析出物成長熱処理は、900℃〜1100℃で1〜16時間の熱処理であることを特徴とする請求項6に記載のシリコンウェーハの検査方法。
  8. 前記シリコンウェーハは、酸素析出促進領域(Pv領域)および酸素析出抑制領域(Pi領域)を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載のシリコンウェーハの検査方法。
  9. 前記結晶欠陥分布の判定は、前記酸素析出促進領域(Pv領域)と前記酸素析出抑制領域(Pi領域)との境界判定であることを特徴とする請求項8に記載のシリコンウェーハの検査方法。
  10. 前記シリコンウェーハの表面または劈開断面で観察される酸素析出物密度の値が1×10個/cm以上である領域を前記酸素析出促進領域(Pv領域)と判定することを特徴とする請求項8又は9に記載のシリコンウェーハの検査方法。
  11. 前記ランピング昇温熱処理を酸化性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする請求項6乃至10のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの検査方法。
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