半導体デバイスの基板材料となるシリコン単結晶の多くはCZ法により製造されている。CZ法では石英ルツボ内に収容されたシリコン融液に種結晶を浸漬し、種結晶および石英ルツボを回転させながら種結晶を徐々に上昇させることにより、種結晶の下端に大きな直径の単結晶を成長させる。CZ法によれば直径300mm以上の大口径なシリコン単結晶インゴットを高い歩留りで製造することが可能である。
完全に無欠陥のシリコン単結晶を製造することは難しい。シリコン単結晶の真性の点欠陥は空孔(Vacancy)と格子間シリコン原子(Interstitial Si)であるが、両方をなくすことはできず、最終的に空孔か格子間シリコンかのどちらか一方が優勢な点欠陥として残る。結晶成長速度が速いと空孔が優勢となり、逆に結晶成長速度が遅いと格子間シリコンが優勢になる。これらの点欠陥の飽和濃度は温度の関数であり、結晶育成中の温度の低下により点欠陥の過飽和度が上昇する。過飽和度に分布が生じた場合、外方拡散などによって均一化が進む。しかし、点欠陥の濃度がある一定以上となれば、これらが凝集し、結晶成長冷却中に結晶欠陥(Grown-in欠陥)を形成する。
ボイド欠陥は、空孔が優勢な領域に発生するGrown-in欠陥である。ボイド欠陥は空孔が集まってできた空洞欠陥であり、内部の壁に内壁酸化膜と呼ばれる酸化膜が形成されていることが知られている。この欠陥は、検出する方法によって幾つかの異なる呼称が存在する。レーザー光線をウェーハ表面に照射し、その反射光・散乱光などを検出するパーティクルカウンターによって観察された場合はCOP(Crystal Originated Particle)と呼ばれる。選択エッチング液内でサンプルを揺動させないで比較的長時間放置したあとに流れ模様として観察された場合は、FPD(Flow Pattern Defect)と呼ばれる。赤外レーザー光線をウェーハの表面から入射し、その散乱光を検出する赤外散乱トモグラフ(LST: Laser Scattering Tomography)によって観察された場合には、LSTD(Laser Scattering Tomography Defect)と呼ばれる。これらは検出方法が異なっているが全てボイド欠陥であると考えられている。
転位クラスターは、格子間シリコンが優勢な領域に発生するGrown-in欠陥であり、LEP(Large Etch Pit)とも呼ばれている。この格子間シリコンのGrown-in欠陥は、FPDと同様のエッチング方法、つまり選択エッチング液内でサンプルを揺動させないで比較的長時間放置することで、貝殻状の大きなピットとして観察される。
結晶欠陥の検出方法の感度は、パーティクルカウンターの性能(波長や検出感度)、赤外散乱トモグラフの性能(入射光強度や検出感度)、酸素濃度等の影響もあり一概には言えないが、LSTD>COP〜FPDとなり、LSTDの感度が高いと言われている。この検出感度の差は、ボイド欠陥中の内壁酸化膜が薄くなるなどの変化が生じるためと考えられる。FPDは選択エッチングという化学反応による検出方法であり、検出感度が内壁酸化膜に影響されるのに対し、LSTDは誘電率差による光の散乱という物理現象を利用した検出方法であり、内壁酸化膜が薄いほど誘電率差が大きくなるためであると考えられている。
CZ法により製造されるシリコン単結晶に含まれる欠陥の種類や分布は、単結晶の引き上げ速度Vと結晶成長方向の温度勾配Gとの比V/Gに依存する。V/Gが大きい場合には空孔が過剰となり、空孔の凝集体であるボイド欠陥が発生する。一方、V/Gが小さい場合には格子間シリコンが過剰となり、格子間シリコンの凝集体である転位クラスターが発生する。したがって、ボイド欠陥も転位クラスターも含まない単結晶を製造するためにはV/Gを厳密に制御しなければならない。
単結晶の引き上げ速度Vはその径方向のどの位置でも一定であるため、結晶成長方向の温度勾配Gが単結晶の径方向のどの位置でもできるだけ一定となるように結晶成長界面近傍のホットゾーンを構築する必要がある。またV/Gが所定の範囲内に収まるように引き上げ速度Vを制御する必要がある。現在では、V/Gを厳密に制御することによってボイド欠陥および転位クラスターを含まない直径300mmのシリコン単結晶が量産されている。
しかしながら、V/Gを厳密に制御して引き上げられたボイド欠陥および転位クラスターを含まないシリコン単結晶であってもその全面が決して均質ではなく、熱処理後の挙動が異なる複数の領域を含んでいる。具体的には、ボイド欠陥が発生する領域と転位クラスターが発生する領域との間には、V/Gが大きいほうから順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の三つの領域が存在する。
OSF領域は、As-grown状態(単結晶成長後に何の熱処理も行っていない状態)で板状酸素析出物(OSF核)を含んでおり、1000〜1200℃で熱処理(熱酸化)した場合にOSF(Oxidation induced Stacking Fault:酸素誘起積層欠陥)が発生する領域である。OSFは、シリコン単結晶から切り出したサンプルを熱酸化すると、表面から格子間シリコンが注入され、OSF核の周りで積層欠陥(Stacking Fault)が成長し、このサンプルをエッチング液内で揺動させながら選択エッチングした際にピットとして観察される欠陥である。
シリコン単結晶内での空孔型点欠陥が支配的に存在する領域をV領域とし、格子間シリコン型点欠陥が支配的に存在する領域をI領域とし、格子間シリコン型点欠陥の凝集体および空孔型点欠陥の凝集体が存在しない領域をP領域とするとき、Pv領域とは、前記OSF領域に隣接しかつ前記P領域に属しCOPを形成し得る最低の空孔濃度未満の領域のことをいい、Pi領域とは、前記I領域に隣接しかつ前記P領域に属し侵入型転位を形成し得る最低の格子間シリコン濃度未満の領域のことをいう。Pv領域は、空孔が優勢な領域であり、As-grown状態で酸素析出核を含んでいるため、低温および高温(例えば800℃と1000℃)の2段階の熱処理を施した場合に酸素析出物が発生しやすい。Pi領域は、格子間シリコンが優勢な領域であり、As-grown状態で酸素析出核をほとんど含んでいないため、熱処理を施しても酸素析出物が発生しない。こうしたPv領域とPi領域とを作り分けた高品質なシリコン単結晶を育成するためには、V/Gのさらに厳密な制御が必要である。
COP、FPD、LSTD等の結晶成長起因の欠陥(Grown-in欠陥)は、酸化膜耐圧等のデバイス特性を悪化させる原因となる。例えばウェーハ表面または表面近傍にゲート酸化膜を形成する時に、ボイド欠陥がウェーハ表面に露出して出来たピット、あるいはウェーハ表面近傍に存在するボイド欠陥がこのゲート酸化膜に取り込まれると、GOI(Gate Oxide Integrity)を劣化させる。そのため、欠陥密度の低減と欠陥サイズの縮小は重要な課題である。
一方、シリコンウェーハ中の酸素はデバイス工程の熱処理中に析出してBMD(Bulk Micro Defect)を形成し、重金属不純物を捕獲するゲッタリングサイトとなるため、ウェーハ全面に一定量のBMDを均一に析出させる必要があり、そのためにはある程度の酸素濃度が必要である。
Grown-in欠陥が極めて少なく且つ結晶中の酸素濃度が低いシリコン単結晶を製造する方法として、例えば、特許文献1、2には、窒素がドープされ、全面がN−領域からなるCZ法によるシリコン単結晶ウェーハの製造方法が記載されている。また特許文献3には、結晶成長速度をV、結晶成長界面近傍での温度勾配をGとし、優勢な点欠陥が空孔から格子間シリコンに変化する際のV/Gの値を(V/G)crtとした場合に、V/G≧1.05×(V/G)crtとなるような成長条件で、窒素濃度1×1013〜1×1016(atoms/cm3)、酸素濃度7×1017(atoms/cm3 ASTM'79)以下のシリコン単結晶インゴットを育成し、該育成したシリコン単結晶インゴットから、空孔が優勢な領域を含み、かつ、選択エッチングによりFPDが検出されないシリコン単結晶ウェーハを製造する方法が記載されている。
さらに特許文献4には、シリコン単結晶中の窒素濃度[N]が1×1013(atoms/cm3)以上5×1015(atoms/cm3)以下、かつ、酸素濃度[Oi]が9.2×1017(atoms/cm3 ASTM'79)以下であり、結晶成長速度をV、結晶成長界面近傍での温度勾配をGとした場合に、0.17≦V/G≦−1.85×10−19×[Oi]+0.36を満たす成長条件で単結晶を成長することで、FPDおよびLEPが検出されないシリコン単結晶を製造する方法が記載されている。さらに特許文献4には、シリコン単結晶中の酸素濃度[Oi]が4.0×1017(atoms/cm3 ASTM'79)以下であり、前記成長条件が0.17≦V/G≦−1.25×10−19×[Oi]+0.24を満たすようにすることで、LSTDが検出されないシリコン単結晶を製造する方法も記載されている。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
図1に示すように、単結晶製造装置1は、水冷式のチャンバー10と、チャンバー10内においてシリコン融液2を保持する石英ルツボ11と、石英ルツボ11を保持する黒鉛ルツボ12と、黒鉛ルツボ12を支持する回転シャフト13と、回転シャフト13を回転および昇降駆動するシャフト駆動機構14と、黒鉛ルツボ12の周囲に配置されたヒーター15と、ヒーター15の外側であってチャンバー10の内面に沿って配置された断熱材16と、石英ルツボ11の上方に配置された熱遮蔽体17と、石英ルツボ11の上方であって回転シャフト13と同軸上に配置された単結晶引き上げ用のワイヤー18と、チャンバー10の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構19とを備えている。
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10bとで構成されており、石英ルツボ11、黒鉛ルツボ12、ヒーター15および熱遮蔽体17はメインチャンバー10a内に設けられている。プルチャンバー10bにはチャンバー10内にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)やドーパントガスを導入するためのガス導入口10cが設けられており、メインチャンバー10aの下部にはチャンバー10内の雰囲気ガスを排出するためのガス排出口10dが設けられている。また、メインチャンバー10aの上部には覗き窓10eが設けられており、シリコン単結晶3の育成状況を覗き窓10eから観察可能である。
石英ルツボ11は、円筒状の側壁部と湾曲した底部とを有する石英ガラス製の容器である。黒鉛ルツボ12は、加熱によって軟化した石英ルツボ11の形状を維持するため、石英ルツボ11の外表面に密着して石英ルツボ11を包むように保持する。石英ルツボ11および黒鉛ルツボ12はチャンバー10内においてシリコン融液を支持する二重構造のルツボを構成している。
黒鉛ルツボ12は回転シャフト13の上端部に固定されており、回転シャフト13の下端部はチャンバー10の底部を貫通してチャンバー10の外側に設けられたシャフト駆動機構14に接続されている。黒鉛ルツボ12、回転シャフト13およびシャフト駆動機構14は石英ルツボ11の回転機構および昇降機構を構成している。
ヒーター15は、石英ルツボ11内に充填されたシリコン原料を融解してシリコン融液2を生成すると共に、シリコン融液の溶融状態を維持するために用いられる。ヒーター15はカーボン製の抵抗加熱式ヒーターであり、黒鉛ルツボ12内の石英ルツボ11を取り囲むように設けられている。さらにヒーター15の外側には断熱材16がヒーター15を取り囲むように設けられており、これによりチャンバー10内の保温性が高められている。
熱遮蔽体17は、シリコン融液2の温度変動を抑制して結晶成長界面近傍に適切なホットゾーンを形成するとともに、ヒーター15および石英ルツボ11からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。熱遮蔽体17は、シリコン単結晶3の引き上げ経路を除いたシリコン融液2の上方の領域を覆うグラファイト製の部材であり、特に下端から上端に向かって開口サイズが大きくなる逆円錐台形状を有している。
熱遮蔽体17の下端の開口17aの直径はシリコン単結晶3の直径よりも大きく、これによりシリコン単結晶3の引き上げ経路が確保されている。熱遮蔽体17の開口17aの直径は石英ルツボ11の口径よりも小さく、熱遮蔽体17の下端部は石英ルツボ11の内側に位置するので、石英ルツボ11のリム上端を熱遮蔽体17の下端よりも上方まで上昇させても熱遮蔽体17が石英ルツボ11と干渉することはない。
シリコン単結晶3の成長と共に石英ルツボ11内の融液量は減少するが、融液面と熱遮蔽体17との間隔(ギャップ幅ΔG)が一定になるように石英ルツボ11を上昇させることにより、シリコン融液2の温度変動を抑制すると共に、融液面近傍を流れるガスの流速を一定にしてシリコン融液2からのドーパントの蒸発量を制御することができる。したがって、単結晶の引き上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
石英ルツボ11の上方には、単結晶3の引き上げ軸であるワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取るワイヤー巻き取り機構19が設けられている。ワイヤー巻き取り機構19はワイヤー18と共に単結晶を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構19はプルチャンバー10bの上方に配置されており、ワイヤー18はワイヤー巻き取り機構19からプルチャンバー10b内を通って下方に延びており、ワイヤー18の先端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。図1には、育成途中のシリコン単結晶3がワイヤー18に吊設された状態が示されている。単結晶の引き上げ時には石英ルツボ11と単結晶とをそれぞれ回転させながらワイヤー18を徐々に引き上げることにより単結晶を成長させる。
図2は、本実施の形態によるシリコン単結晶の製造工程を示すフローチャートである。また、図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
図2に示すように、本実施の形態によるシリコン単結晶の製造では、石英ルツボ11内のシリコン原料をヒーター15で加熱して融解することによりシリコン融液2を生成する(ステップS11)。次に、ワイヤー18の先端部に取り付けられた種結晶を降下させてシリコン融液2に着液させる(ステップS12)。その後、シリコン融液2との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を育成する単結晶の引き上げ工程(ステップS13〜S16)を実施する。
単結晶の引き上げ工程では、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部3aを形成するネッキング工程(ステップS13)と、結晶直径が徐々に大きくなったショルダー部3bを形成するショルダー部育成工程(ステップS14)と、結晶直径が規定の直径(例えば300mm)に維持されたボディー部3cを形成するボディー部育成工程(ステップS15)と、結晶直径が徐々に小さくなったテール部3dを形成するテール部育成工程(ステップS16)が順に実施され、最終的には単結晶が融液面から切り離される。以上により、図3に示すようなネック部3a、ショルダー部3b、ボディー部3cおよびテール部3dを有するシリコン単結晶インゴット3が完成する。
本実施形態では、単結晶の引き上げ工程においてシリコン単結晶中の窒素濃度[N]、酸素濃度[Oi]、単結晶の引き上げ速度Vと結晶成長界面近傍での温度勾配Gとの比V/Gを適切な値に調整することで、無欠陥または超低欠陥のシリコン単結晶を製造する。
シリコン単結晶中の窒素濃度[N]は、例えば、シリコン融液に窒素をドープすることで調製することができる。シリコン融液に窒素をドープする方法としては、所定の結晶位置で所望の窒素濃度となるよう偏析を考慮に入れた分量の窒化物(窒化膜付きシリコンウェーハ)を多結晶シリコン原料と共に予め石英ルツボ内に仕込んでおき、多結晶シリコンと共に窒化物を融解することで窒素が溶け込んだシリコン融液を生成する方法がある。シリコン単結晶中の窒素濃度は窒化物の量を調整することによって制御することができる。
シリコン単結晶中の窒素濃度[N]は1×1013〜1×1015(atoms/cm3)であることが好ましい。窒素濃度[N]が1×1013(atoms/cm3)未満となると窒素ドープの効果が得られず、窒素濃度[N]が1×1015(atoms/cm3)を超えるとシリコン中の窒素の固溶限界に近づいてしまい、単結晶化が難しくなるからである。一方、シリコン単結晶中の窒素濃度がこの範囲内であれば、結晶中の酸素濃度が低い場合でも酸素析出を促進させることができ、これによりウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gのマージン幅を広げることができる。したがって、デバイス熱処理後のウェーハ全面にBMDを発生させることができ、ウェーハのゲッタリング能力を高めることができる。
シリコン単結晶のボディー部の中盤の窒素濃度[N]は、1×1014(atoms/cm3)であることが好ましい。シリコン単結晶中の窒素濃度[N]は偏析によって引き上げの進行と共に徐々に大きくなるので、シリコン単結晶の引き上げ開始時の窒素濃度を[N]を例えば1×1013〜8×1013(atoms/cm3)とすることにより、ボディー部のテール側の窒素濃度[N]は1×1014〜1×1015(atoms/cm3)となり、ボディー部の窒素濃度[N]が1×1014(atoms/cm3)前後となるように制御することができる。
シリコン単結晶中の酸素濃度[Oi]は、9.5×1017(atoms/cm3)以下であり、9×1017(atoms/cm3)以下であることが好ましく、8×1017(atoms/cm3)以下であることが特に好ましい。シリコン単結晶中の酸素濃度をこのような低酸素側に設定するのは、酸素濃度9.5×1017(atoms/cm3)以上の場合、OSF領域にAs-grownでBMDが発生するからであり、特にデバイス熱処理後にウェーハ内部に発生するBMDと異なり、ウェーハ表面にもBMDが存在するため、酸化膜耐圧が悪化し、デバイスへの悪影響が懸念されるためである。また、上限に近い場合、実際の製造時の工程能力による酸素濃度のバラツキにより9.5×1017(atoms/cm3)以上になる恐れがある。酸素析出物評価熱処理(以下、評価熱処理という)後のウェーハ面内のBMD密度を1×108(個/cm3)以上にするためには、酸素濃度[Oi]が4.0×1017(atoms/cm3)よりも大きいことが必要であり、6.0×1017(atoms/cm3)以上であることが好ましく、7.0×1017(atoms/cm3)以上であることが特に好ましい。
なお酸素濃度[Oi]の添え字「i」は"Interstitial"の頭文字を意味する。酸素原子はシリコン結晶の格子間(Interstitial)に存在し、FT−IR法において格子間酸素Oiによる特定の波長の吸収が観察され、その吸光度から酸素の濃度を求められる。すなわち、FT−IR法によって求められる酸素濃度は格子間酸素Oiの濃度であるので[Oi]と表している。
シリコン単結晶中の酸素濃度[Oi]は、ヒーター15のパワーや石英ルツボ11の回転速度によって制御することができる。ヒーター15のパワーを強くしたり石英ルツボ11の回転速度を速くしたりする場合には石英ルツボ11が溶存しやすくなるので、シリコン融液2中の酸素濃度を高めることができ、これによりシリコン単結晶3中の酸素濃度を高めることができる。
本実施形態では、シリコン単結晶の引き上げ速度(結晶成長速度)をV(mm/min)、結晶成長界面近傍での温度勾配をG(K/mm)とした場合にその比V/Gが、
−4.89×10−20×[Oi]+0.213≦V/G≦0.197
を満たす成長条件下で単結晶を成長させる。V/Gが0.197を超えるとLSTDが検出され、デバイス作製時に酸化膜耐圧の劣化等の問題を引き起こすからである。また、V/Gが−4.89×10−20×[Oi]+0.213未満となると、BMD密度が1×108(個/cm3)以上となるようにウェーハ全面を均一に酸素析出させることができなくなるからである。ここで、V/Gの下限値を酸素濃度[Oi]の関数としたのは、酸素濃度の低下と共にPv領域の下限値が低下し、Pv領域の幅が広がっていくことを新たに見出し、条件式として表すことが可能となったからである。
以上説明したように、本実施形態によるシリコン単結晶の製造方法は、シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる際、前記シリコン単結晶中の窒素濃度[N]が1×1013〜1×1015(atoms/cm3)となるように前記シリコン融液中の窒素濃度を制御し、前記シリコン単結晶中の酸素濃度[Oi]が9.5×1017(atoms/cm3)以下となり、且つ、前記シリコン単結晶の引き上げ速度V(mm/min)と結晶成長界面近傍での温度勾配G(K/mm)との比V/Gが、
−4.89×10−20×[Oi]+0.213≦V/G≦0.197
を満たす育成条件下で前記シリコン単結晶を育成するので、As-grown状態でLSTDが検出されず、評価熱処理後のBMD密度が1×108(個/cm3)以上となるシリコン単結晶を製造するので、結晶中の酸素濃度が低く且つゲッタリング能力が高いシリコンウェーハの材料となるシリコン単結晶を高い歩留まりで製造することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
例えば図1に示した単結晶製造装置の構造は一例であって、シリコン融液に磁場を印加するいわゆるMCZ法を実施する単結晶製造装置等、種々の単結晶製造装置を用いることができる。また本発明においてシリコン単結晶のサイズは特に限定されず、150〜450mmまでの様々なサイズのシリコン単結晶を対象とすることができる。ただし、本発明は直径が大きなシリコン単結晶ほどその効果が大きく、直径200mm以上のシリコン単結晶に対して特に有効である。
酸素濃度[Oi]が8×1017(atoms/cm3)、窒素濃度[N]が6×1013〜7×1013(atoms/cm3)である直径約200mmのシリコンウェーハ(ポリッシュドウェーハ)のサンプル#1〜#3を用意し、これらのウェーハのFPD面内分布を測定した。シリコンウェーハの酸素濃度はASTM F−121(1979)に従って測定した。またシリコンウェーハの窒素濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy:二次イオン質量分析法)によって測定した。
FPDの測定ではウェーハ中心から径方向に10mmピッチで設定した測定点のFPD密度を測定した。その結果、図9(a)〜(c)に示すように、ウェーハサンプル#1〜#3のすべての測定点のFPD密度は0(個/cm2)であった。
次にこれらのウェーハサンプル#1〜#3のLSTD面内分布を測定した。LSTDの測定には赤外散乱トモグラフィ(レイテックス社製MO−441)を用い、ウェーハ中心から5mmピッチで設定した測定点のLSTD密度を測定した。その結果を図9(d)〜(f)に示す。
図9(d)に示すように、サンプル#1のLSTD面内分布はウェーハ中心部でLSTD密度が約1×107(/cm3)と高いが、外周に向かって徐々に低くなり、ウェーハ外周部では検出限界値の約1×105(/cm3)となった。また図9(e)に示すように、サンプル#2のLSTD面内分布はウェーハ中心部のLSTD密度だけが約2×106(/cm3)と高く、それ以外の中間部及び外周部では低くなり、検出限界値の約1×105(/cm3)となった。さらに図9(f)に示すように、サンプル#3のLSTD面内分布はウェーハの径方向の全域でLSTD密度が低く、検出限界値の約1×105(/cm3)となった。
次に、これらのウェーハサンプル#1〜#3の酸化膜耐圧マップを測定した。酸化膜耐圧の測定では、まずシリコンウェーハの表面に厚さ25nmのシリコン酸化膜を形成し、その直上にポリシリコン層を成長させた後、該ポリシリコン層を島状にエッチングすることによりMOS構造のキャパシタを形成する。次に、このMOSキャパシタの島状ポリシリコン電極を通して絶縁膜に電圧を印加することにより、(絶縁破壊電圧/絶縁膜の厚み)で表される絶縁破壊電界強度を測定した。その結果を図9(g)〜(i)に示す。同図において、色の濃い領域は酸化膜耐圧が高い領域、色の薄い領域は酸化膜耐圧が低い領域を示している。電極面積は1mm2、10mm2、20mm2で行い、何れも同じ傾向が得られたが、図は20mm2の結果を示している。
図9(g)に示すように、ウェーハサンプル#1の酸化膜耐圧はウェーハ中心部において特に低く、外周部に向かって酸化膜耐圧が徐々に改善される傾向となった。また図9(h)に示すように、ウェーハサンプル#2の酸化膜耐圧はウェーハ中心部の酸化膜耐圧だけが低く、それ以外の中間部及び外周部では概ね良好となった。さらに図9(i)に示すように、ウェーハサンプル#3の酸化膜耐圧はウェーハ全面において良好であった。
以上の結果から、FPDが検出されなかったとしてもLSTDが検出される場合には、シリコンウェーハの酸化膜耐圧が悪化することが明らかとなった。
酸素濃度および窒素濃度をパラメータとし、V/Gの変化(すなわち引き上げ速度Vの変化)が結晶品質にどのような影響を与えるかを評価した。この評価試験では、以下に示す直径200mmのシリコン単結晶のサンプル1〜4を用いた。
サンプル1は、窒素ドープなしで酸素濃度[Oi]が11×1017(atoms/cm3)のシリコン単結晶インゴットであり、サンプル2は、窒素ドープなしで酸素濃度[Oi]が8×1017(atoms/cm3)のシリコン単結晶インゴットである。サンプル3は、酸素濃度[Oi]が8×1017(atoms/cm3)、窒素濃度[N]が1×1014(atoms/cm3)のシリコン単結晶インゴットであり、サンプル4は、酸素濃度[Oi]が4.3×1017(atoms/cm3)、窒素濃度[N]が3×1014(atoms/cm3)のシリコン単結晶インゴットである。
上記のように、シリコン単結晶中の酸素濃度はASTM F−121(1979)により測定した。シリコン単結晶中の窒素は、所定の結晶位置の窒素濃度が所望の値になるよう、偏析を考慮に入れた分量の窒化膜付きシリコンウェーハを、結晶引き上げ開始前に多結晶シリコン原料と共に石英ルツボに投入することにより添加した。シリコン単結晶中の窒素濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy:二次イオン質量分析法)によって測定した。
シリコン単結晶インゴットのサンプル1〜4の製造時にはV/Gの条件が異なるウェーハが得られるように単結晶引き上げ速度Vを徐々に変化させた。その後、シリコン単結晶インゴットのサンプル1〜4をポリッシュドウェーハに加工し、ポリッシュドウェーハのAs-grown状態でのLSTDの面内分布を測定した。また評価熱処理後のポリッシュドウェーハのLSTD測定によりLSTDと等価なBMDの面内分布を求めた。LSTDの測定には赤外散乱トモグラフィ(レイテックス社製MO−441)を用いた。そしてV/Gとシリコン単結晶の径方向の欠陥分布との対応関係図を作成した。
図4(a)〜(d)は、V/Gとシリコン単結晶インゴットの径方向の欠陥分布との関係を示す模式図である。また図4(a)〜(d)中の測定値を表1に示す。
図4(a)〜(d)に示すように、結晶の種類の分布は、V/Gが大きいほうから、LSTD検出領域、Pv領域、Pi領域、転位クラスター発生領域の順で存在している。Pv領域はLSTDが検出されず且つBMDが析出する領域であり、Pi領域は転位クラスターが発生せず且つBMDが析出しない領域である。そして、図4(a)〜(d)に示すように、酸素濃度や窒素濃度の影響によりPv領域やPi領域の広さが変化する。
図4(a)に示すように、窒素ドープなし且つ酸素濃度[Oi]が11×1017(atoms/cm3)と高いシリコン単結晶のサンプル1では、LSTD検出領域のV/G下限値(X1)が0.197、Pi領域のV/G上限値(X2)が0.182、転位クラスター検出領域のV/G上限値(X3)が0.179となった。そして、LSTDおよび転位クラスターを含まないウェーハ全面をGrown-in欠陥フリー領域とすることができるV/Gのマージン幅(X1−X3)は0.018となり、ウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gのマージン幅(X1−X2)は0.015となった。
このように、サンプル1では、酸素濃度が高いことで窒素ドープなしでもウェーハ全面がPv領域となるV/Gのマージン幅をある程度確保することができた。
図4(b)に示すように、窒素ドープなし且つ酸素濃度[Oi]が8×1017(atoms/cm3)と低いシリコン単結晶のサンプル2では、LSTD検出領域のV/G下限値(X1)が0.197、Pi領域のV/G上限値(X2)が0.197、転位クラスター検出領域のV/G上限値(X3)が0.185となった。そして、ウェーハ全面をGrown-in欠陥フリー領域とすることができるV/Gのマージン幅(X1−X3)は0.012となり、全面をPv領域とすることができるV/Gのマージン幅(X1−X2)はゼロとなった。
このように、酸素濃度が低いサンプル2では、ウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gの上限値(X1)に変化はないが、V/Gの下限値(X2)が高くなり、V/Gのマージン幅はゼロとなった。この結果から、酸素濃度が低くなるほどウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gの下限値が高くなり、V/Gの下限値に酸素依存性があることが分かった。ウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gのマージン幅がゼロかもしくは非常に狭い場合には、ウェーハ全面をPv領域とすることができるシリコン単結晶を製造することが極めて困難である。
図4(c)に示すように、1×1014(atoms/cm3)の窒素[N]がドープされ且つ酸素濃度[Oi]が8×1017(atoms/cm3)であるシリコン単結晶のサンプル3では、LSTD検出領域のV/G下限値(X1)が0.197、Pi領域のV/G上限値(X2)が0.174、転位クラスター検出領域のV/G上限値(X3)が0.169となった。そして、ウェーハ全面をGrown-in欠陥フリー領域とすることができるV/Gのマージン幅(X1−X3)は0.029となり、全面をPv領域とすることができるV/Gのマージン幅(X1−X2)は0.023となった。
このように、酸素濃度が低くても窒素がドープされているサンプル3では、ウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gの下限値が非常に低くなり、V/Gのマージン幅が非常に広くなった。つまり、窒素をドープすることでウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gのマージン幅を大きく広げることができ、ウェーハ全面をPv領域とすることができるシリコン単結晶を高い歩留りで製造することができることが分かった。
図4(d)に示すように、3×1014(atoms/cm3)の窒素[N]がドープされ且つ酸素濃度[Oi]が4.3×1017(atoms/cm3)であるシリコン単結晶のサンプル4では、LSTD検出領域のV/G下限値(X1)が0.197、Pi領域のV/G上限値(X2)が0.193、転位クラスター検出領域のV/G上限値(X3)が0.188となった。そして、ウェーハ全面をGrown-in欠陥フリー領域とすることができるV/Gのマージン幅(X1−X3)は0.009となり、ウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gのマージン幅(X1−X2)は0.004となった。
このように、窒素が多くドープされていても酸素濃度が非常に低いサンプル4では、ウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gの上限値に変化はないが、V/Gの下限値が高くなり、V/Gのマージン幅が非常に狭くなった。つまり、酸素濃度を非常に低くした場合には、窒素濃度を高くしてもウェーハ全面をPv領域とすることができるV/Gのマージン幅が狭くなるだけでなく、Pi領域を形成することができるV/Gのマージン幅さえも狭くなってしまい、ウェーハ全面がPv領域のシリコン単結晶はおろか、LSTDおよび転位クラスターがないシリコン単結晶の引き上げすら難しくなることが分かった。
図1に示した単結晶製造装置を用いて比較例1による結晶直径200mmのシリコン単結晶インゴットを育成した。その際、窒素ドープなしで結晶中の酸素濃度[Oi]が8×1017(atoms/cm3)となるように結晶引き上げ条件を制御した。次に、このシリコン単結晶インゴットのボディー部から厚さ1mmのサンプルウェーハ(S1〜S6)をインゴットのトップ側からボトム側まで一定の間隔おきに採取し、各サンプルウェーハに所定の加工を施してポリッシュドウェーハを作製した。その後、赤外散乱トモグラフを用いてポリッシュドウェーハの各サンプルのLSTD密度を測定した。LSTD密度の測定では、ウェーハの中心から外周までのウェーハ面内の11点を測定した。その結果、図5(a)に示すように、As-grown状態ではすべてのサンプルウェーハのLSTD密度が検出限界以下となった。
次に、ポリッシュドウェーハの各サンプルに対して評価熱処理を行った後、BMDを顕在化させたウェーハ面内のLSTD測定によりLSTD密度と等価なBMD密度を求めた。評価熱処理では、酸化雰囲気で780℃×4時間および1000℃×16時間の2段階の熱処理を行った。その後、ウェーハを劈開し、劈開断面をライトエッチング液で2μmエッチングした後、赤外散乱トモグラフを用いて劈開断面のLSTD密度を測定した。
その結果、図5(b)に示すように、ウェーハ全面でLSTD密度が1×108(個/cm3)以上とならないウェーハが散見された。このことは、評価熱処理後のウェーハ面内にBMDが十分に析出しなかったことを意味する。すなわち、As-grown状態でのLSTD特性は良好であったが、評価熱処理後のBMD特性は悪かった。
次に、比較例1よりもV/Gが少し大きくなるように(引き上げ速度Vが速くなるように)した点以外は比較例1と同一条件下で比較例2によるシリコン単結晶インゴットを育成し、このシリコン単結晶インゴットからサンプルウェーハを切り出し、As-grown状態でのLSTD密度を測定した。また評価熱処理後のLSTD測定によりLSTD密度と等価なBMD密度を測定した。その結果、図6(a)および(b)に示すように、評価熱処理後のすべてのサンプルウェーハのウェーハ全面でLSTD密度が1×108(個/cm3)以上となったが、As-grown状態でもすべてのサンプルウェーハでLSTDが検出された。すなわち、評価熱処理後のBMD特性は良好になったが、As-grown状態でのLSTD特性は悪化した。
次に、シリコン単結晶インゴットのトップの窒素濃度が8×1013(atoms/cm3)(ミドル付近の窒素濃度[N]が1×1014(atoms/cm3))となり且つ結晶中の酸素濃度[Oi]が8×1017(atoms/cm3)となるように結晶引き上げ条件を制御した点以外は比較例1と同一条件下で実施例1によるシリコン単結晶インゴットを育成し、このシリコン単結晶インゴットからサンプルウェーハを切り出し、As-grown状態でのLSTD密度および評価熱処理後のLSTD密度を測定した。その結果を図7(a)および(b)に示す。また、図8(a)および(b)は、図7の最上段(S1)のグラフの拡大図であり、同じ特性を有する各段のグラフを代表して示すものである。図7(a)および(b)ならびに図8(a)および(b)に示すように、As-grown状態のすべてのサンプルウェーハでLSTDは検出されず、且つ、評価熱処理後のすべてのサンプルウェーハのウェーハ面内のLSTD密度をほぼ1×108(個/cm3)またはそれ以上とすることができた。特に、As-grown状態でLSTDが検出されなかったウェーハの評価熱処理後のLSTD密度はBMD密度と等価であると言えることから、実施例1ではBMD密度が1×108(個/cm3)以上であると評価することができる。すなわち、As-grown状態でのLSTD特性および評価熱処理後のBMD特性の両方が良好となった。
以上の結果から、窒素ドープなしで結晶中の酸素濃度が8×1017(atoms/cm3)となるシリコン単結晶の引き上げ工程において、LSTDが発生しないように引き上げ条件(V/G)を制御すると、評価熱処理後のBMD密度が低くなり、逆にBMD密度を高くしようとするとAs-grown状態でLSTDが発生してしまい、両立が難しかった。しかし、窒素をドープしたシリコン単結晶では、同一の酸素濃度でもAs-grown状態でLSTDが発生せず、評価熱処理後のウェーハ全面にBMDを発生させることができた。
なお実施例1の条件において酸素濃度[Oi]を8×1017(atoms/cm3)よりも高くすることは、ウェーハ全面にPv領域が得られるV/Gのマージン幅を広げる方向に制御することになるので、As-grown状態でのLSTD特性および評価熱処理後のBMD特性は両方とも良好となるはずである。したがって、酸化膜耐圧等のデバイス特性が許す限り、結晶中の酸素濃度[Oi]を例えば9.5×1017(atoms/cm3)とすることも可能である。