JP2010095800A - 硬質皮膜の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高速・高能率切削が可能な、TiAlNよりも耐摩耗性に優れた硬質皮膜を得るための有用な製造方法を提供する。
【解決手段】所定の組成および結晶構造を有する硬質皮膜を製造するための方法であって、ターゲットを構成する金属の蒸発およびイオン化をアーク放電にて行うアークイオンプレーティング法において、該ターゲットの蒸発面にほぼ直交して前方に発散ないし平行に進行する磁力線を形成し、この磁力線によって被処理体近傍における成膜ガスのプラズマ化を促進すると共に、前記被処理体に印加するバイアス電位をアース電位に対して−50V〜−300Vとして成膜する。
【選択図】図1

Description

本発明は、チップ、ドリル、エンドミル等の切削工具の耐摩耗性を向上するための硬質皮膜を製造するための方法に関するものである。
従来より、超硬合金、サーメットまたは高速度工具鋼を基材とする切削工具の耐摩耗性を向上させることを目的に、TiNやTiCN、TiAlN等の硬質皮膜をコーティングすることが行われている。
特に、TiとAlの複合窒化皮膜(以下、TiAlNと記す)が、優れた耐摩耗性を示すことから、前記チタンの窒化物や炭化物、炭窒化物等からなる皮膜に代わって高速切削用や焼き入れ鋼等の高硬度材切削用の切削工具に適用されつつある。
前記TiAlN皮膜は、Alを添加することによって膜の硬度が上昇し、耐摩耗特性が向上することが知られているが、特許文献1には、TiAlNを(Al,Ti1−x)Nと表現した場合のAlの組成比xが0.7以上で、ZnS型の軟質AlNが析出していることが示されている。また同特許には「Al量(x)が0.75を超える場合は、硬質皮膜がAlNに近似してくる結果、皮膜の軟質化を招き、十分な硬度が得られなくなり、フランク摩耗を容易に引き起こす」ことが記述されている。更に同特許の図3には、Al組成比と膜硬度の関係が示され、Al組成が0.6を超えた付近から硬度が低下しているが、これはAl組成比xが0.6〜0.7の間でZnS型のAlNが析出し始め、Alの組成比増加とともにZnS型AlNの析出が増加して、膜強度が低下することを示唆している。更に同特許には、耐酸化性について、Al組成比xが0.56以上で酸化開始温度が800℃以上となり、前記x値の増加に伴い酸化開始温度も上昇していく傾向が示されているが、硬度を考慮して規定しているAl組成比の上限:0.75においては850℃程度である。
即ちTiAlN膜では、Alの組成比を増加させて硬度を高めるにも限界があるため硬度と耐酸化性を同時に高めていくことができず、結果として耐摩耗性の向上にも限界がある。
しかしながら、近年では、切削工具の使用条件としてより高速化・高能率化が要求されており、この様な切削工具を実現するため、更に優れた耐摩耗性を発揮する硬質皮膜が求められている。
特許第2644710号公報 特許請求の範囲等
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高速・高能率切削が可能な、TiAlNよりも耐摩耗性に優れた硬質皮膜を得るための有用な製造方法を提供することにある。
本発明に係る硬質皮膜の製造方法とは、ターゲットを構成する金属の蒸発およびイオン化をアーク放電にて行うアークイオンプレーティング法において、該ターゲットの蒸発面にほぼ直交して前方に発散ないし平行に進行する磁力線を形成し、この磁力線によって被処理体近傍における成膜ガスのプラズマ化を促進すると共に、前記被処理体に印加するバイアス電位をアース電位に対して−50V〜−300Vとして、下記の硬質皮膜を成膜することをすることを要旨としている。
(Ti,Al,Cr)(C1−d)からなる硬質皮膜であって、
上記a,b,c,dが、
0.02≦a≦0.30、
0.55≦b≦0.765、
0.06≦c、
a+b+c=1、
0.5≦d≦1
(a,b,cはそれぞれTi,Al,Crの原子比を示し、dはNの原子比を示す。以下同じ)、
または
0.02≦a≦0.175、
0.765≦b、
4(b−0.75)≦c、
a+b+c=1、
0.5≦d≦1を満たし、且つ、結晶構造が岩塩構造型を主体とするものである。
本発明においては、前記硬質皮膜は、硬質皮膜の最表面を構成するものであることが好ましい。また、前記硬質皮膜は、切削工具用であることが好ましい。
この場合に、成膜時の被処理体温度(以下、基板温度ということがある)は300℃以上で800℃以下とすると共に、成膜時の反応ガスの分圧または全圧を0.5Pa以上7Pa以下とすることが望ましい。
尚、本発明における上記反応ガスとは、窒素ガス、メタンガス、エチレン、アセチレン、アンモニア、水素、またはこれら2種以上を混合させた皮膜の成分組成に必要な元素を含むガスをいい、これら以外に用いられるArなどの様な希ガス等をアシストガスといい、これらをあわせて成膜ガスということとする。
本発明方法では、従来のTiAlNにCrを添加し、かつこれらTi、Al、Crの成分組成を本発明の如く制御しつつ製造することによって、従来の硬質皮膜よりも耐摩耗性に優れた硬質皮膜を得ることができた。こうした硬質皮膜の実現によって、高速切削や焼き入れ鋼など高硬度鋼の切削に用いることのできる長寿命の切削工具を供給できることとなった。
(Ti,Al,Cr)N膜における金属成分Ti、AlおよびCrの組成図にて本発明範囲を示したものである。 本発明の実施に使用するアークイオンプレーティング(AIP)装置の一例を示した概略図である。 本発明の実施に供するアーク式蒸発源要部の一例を拡大した断面概略図である。 本発明の実施に供する別のアーク式蒸発源要部を拡大した断面概略図である。 従来の本発明の実施に供するアーク式蒸発源要部の一例を拡大した断面概略図である。 成膜した(Ti0.1Al0.7Cr0.2)N膜のX線回折結果を示したものであり、(1)は本発明者らの蒸発源、(2)は従来の蒸発源を用いて成膜した結果を示す。 一例として(Ti0.1Al0.7Cr0.2)N皮膜を成膜した場合の基板(被処理体)温度と皮膜の残留応力との関係を示したグラフである。 (Ti,Al,Cr)N膜における金属成分Ti、AlおよびCrの組成図にて本発明範囲と実施例を示したものである。
本発明者らは、前述した様な状況の下で、より優れた耐摩耗性を発揮する硬質皮膜の実現を目指して鋭意研究を進めた。その結果、指標として皮膜の硬度と耐0酸化性を同時に高めることができれば耐摩耗性が著しく向上することを見出した。そして、その手段としてTiAlN膜に着目して研究を進めた結果、TiAlNにCrを添加することによって膜の硬度および耐酸化性が向上し、結果として耐摩耗性が飛躍的に向上することを突き止め、前記TiAlNとCrの定量的作用効果について更に追求を重ねた結果、上記本発明に想到したのである。
即ち、本発明方法によって得られる硬質皮膜は、Ti、AlおよびCrの窒化物または炭窒化物
(Ti,Al,Cr)(C1−d)からなる皮膜であって、該窒化物または炭窒化物の組成が、
(Ti,Al,Cr)(C1−d)からなる硬質皮膜であって、
上記a,b,c,dが、
0.02≦a≦0.30、0.55≦b≦0.765、0.06≦c、
a+b+c=1、0.5≦d≦1
(a,b,cはそれぞれTi,Al,Crの原子比を示し、dはNの原子比を示す。以下同じ)、
または
0.02≦a≦0.175、0.765≦b、4(b−0.75)≦c、
a+b+c=1、0.5≦d≦1
のものであるが、この様に皮膜中のTi、Al、Cr、CおよびNの組成を規定した理由について、以下詳細に説明する。
TiAlNは岩塩構造型の結晶であり、岩塩構造型のTiNのTiのサイトにAlが置換して入った岩塩構造型の複合窒化物である。岩塩構造型のAlNは高温高圧相であるため、高硬度物質であると予想される。したがって岩塩構造を維持しながらTiAlN中のAlの比率を高めればTiAlN膜の硬度を高めることができる。しかしながら岩塩構造型のAlNは常温常圧や高温低圧では非平衡相であることから、気相コーティングを行っても通常は軟質のZnS型AlNしか生成せず、岩塩構造型AlN単体を生成することができない。
ところがTiNは、岩塩構造型でかつ岩塩構造型のAlNと格子定数が近いため、TiにAlを添加して窒化物を成膜すれば、TiNの構造にAlNが引き込まれて、常温常圧や高温低圧でも岩塩構造型のTiAlNを生成させることができるのである。しかし前述したように、TiAlNを(Al,Ti1−x)Nと表現した場合のAlの組成比xが0.6〜0.7を超えると、TiNによる引き込み効果が弱くなって軟質のZnS型AlNが析出する。
ところでCrNの格子定数は、TiNよりも更に岩塩構造型AlNに近いため、TiAlNのTiを一部Crに置換することで岩塩構造型AlNの比率をより一層高めることができる。この様にCr添加により膜中の岩塩構造型AlNの比率を高めることができれば、TiAlN膜よりも高硬度とすることが可能であると考えられる。
一方、AlNおよびCrNは、耐酸化性もTiNより優れているため、耐酸化性向上の観点からも、Tiの割合を減らしてAlとCrを添加することが好ましいのである。
以下、本発明の(Ti,Al,Cr)(C1−d)皮膜を構成する金属元素Ti、AlおよびCrの原子比a、bおよびcを規定した理由について詳細に述べる。
まずAlについては、前記従来技術における皮膜;TiAlN(0.56≦Al≦0.75)と同等以上の硬度および耐酸化性を得るため、その原子比bの下限を0.55とする。またCrを添加することで、上述の通り、皮膜中の岩塩構造型AlNの割合を増加させて硬度を高め、かつ耐酸化性も向上させることができるが、この様な効果を有効に発揮させるには、Crの原子比cの下限を0.06とする必要がある。ただし、Alの原子比bが0.765を超える場合には、Crの原子比cを下記範囲内となるようにする。
即ち、図1は、(Ti,Al,Cr)N膜における金属成分Ti、AlおよびCrの組成図を示したものであるが、この図1におけるc=4(b−0.75)のラインより左側、即ち、c<4(b−0.75)になると、Crを添加しても膜中のAlNの結晶構造は軟質のZnS型の割合が高くなることから、膜の硬度が急激に低下する。従って、Alの原子比bが0.765を超える場合に、前記TiAlN(0.56≦Al≦0.75)と同等以上の硬度を得るには、Crの割合をc≧4(b−0.75)とする必要がある。
また、前記TiAlN(0.56≦Al≦0.75)と同等以上の硬度を得るには、Tiの原子比aを0.02以上とする必要がある。その理由として、上述の如くCrを添加することで岩塩構造型AlNの比率を高めることができるが、CrNはTiNよりも硬度の低い物質であるので、TiをCrで置換するとその分硬度の低下が懸念される。従って一定以上の硬度を得るには、ある程度のTiを含む必要があること、また格子定数がCrN(4.14Å)および岩塩構造型AlN(4.12Å)と若干異なるTiN(4.24Å)を混入させることによって、結晶の格子が歪んで硬くなることが挙げられる。
一方、Tiの原子比が高すぎると、耐酸化性が前記TiAlN(0.56≦Al≦0.75)よりも劣ることとなるため、Tiの原子比aを0.30以下とする。
尚、Tiの原子比を0.20未満とすることで、耐酸化性が更に向上し、TiAlN(0.56≦Al≦0.75)膜が示す酸化開始温度の最高値850℃よりも更に高い酸化開始温度を示し、より優れた耐酸化性を確保することができる。従って、上記規定したa、bおよびcの範囲の中でも、
0.02≦a<0.20、0.55≦b≦0.765、0.06≦c
a+b+c=1
または
0.02≦a<0.20、0.765≦b、4(b−0.75)≦c
a+b+c=1とすることが好ましい。
また、Alの原子比bを0.6以上にするとともに、Alの原子比上限を膜の結晶構造がほぼ岩塩構造単相となる領域に限定することで、耐酸化性だけでなく、TiAlN(0.56≦Al≦0.75)のうち、最も高硬度を示すTi0.4Al0.6Nよりも更に高い硬度を得ることができる。
従って、より好ましいa、bおよびcの範囲は、
0.02≦a<0.20、0.6≦b≦0.709、
a+b+c=1、
または
0.02≦a<0.20、0.709≦b、
11/6×(b−0.66)≦c、
a+b+c=1である。
皮膜中にCを添加することにより、皮膜中にTiC等の高硬度の炭化物を析出させて、皮膜自身の硬度を高めることができる。しかしながら、過剰に添加すると化学的に不安定なアルミの炭化物を析出させてしまうこととなり、また耐酸化性も劣化し易くなる。従って、(Ti,Al,Cr)(C1−d)におけるdの値が0.5以上となるようにする。前記dの値は、望ましくはAlとCrの合計添加量(b+c)と同等であって、0.7以上とすることが好ましく、より好ましくは0.8以上であり、最も好ましくはd=1である。
尚、本発明の硬質皮膜の結晶構造は、実質的に岩塩構造型を主体とするものである。前述のようにZnS型構造が混入すると高強度を確保することができないからである。
上記岩塩構造型を主体とする結晶構造とは、θ−2θ法によるX線回折における岩塩構造を示すピークのうち、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面のピーク強度をそれぞれ、IB(111)、IB(200)、IB(220)、IB(311)、IB(222)、IB(400)とし、ZnS型構造を示すピークのうち、(100)面、(102)面、(110)面のピーク強度をそれぞれ、IH(100)、IH(102)、IH(110)とした場合に、下記式(4)の値が0.8以上となるような結晶構造のことをいう。0.8未満になると膜の硬度が本発明で好ましいとする硬度よりも低くなるからである。
前記ZnS型構造のピーク強度は、X線回折装置にてCuのKα線を用い、(100)面は2θ=32°〜33°付近、(102)面は2θ=48°〜50°付近、また(110)面は2θ=57°〜58°付近に現れるピークの強度を測定して求める。尚、ZnS型の結晶はAlNが主体であるが、TiやCrが混入しているため、実測されるZnS型AlNのピーク位置は、JCPDSカードのZnS型AlNのピーク位置と若干ずれる。
Figure 2010095800
また本発明の皮膜の結晶構造をX線回折で測定した場合に、岩塩構造型の結晶構造における回折線強度が、I(220)≦I(111)および/またはI(220)≦I(200)を満たしていることが望ましい。これは、岩塩構造型の密に充填した面である(111)面や(200)面が皮膜表面に対して平行に配向することで、耐摩耗性が向上するからである。
更に(200)面と(111)面の回折線強度比;I(200)/I(111)が0.1以上であることが好ましい。I(200)/I(111)は、成膜時に基板に印可するバイアス電圧や、ガス圧、成膜温度などの条件により、概ね0.1から5程度の範囲内で変化するが、本発明では、I(200)/I(111)が0.1以上を満足する場合に、皮膜の切削特性が良好となることを見出した。その理由について詳細は明らかでないが次の様に考えることができる。
即ち、岩塩構造型の結晶構造では、基本的に金属元素(Ti、Al、Cr)が窒素または炭素と結合し、金属元素同士、窒素原子同士、または炭素原子同士の結合はほとんど存在せず、(111)面では、最隣接原子が金属元素同士、窒素原子同士、または炭素原子同士であるが、お互いに結合していないと考えられる。これに対して(200)面では、隣接している原子(最隣接原子)は金属元素と窒素あるいは金属元素と炭素の組み合わせで、(200)面内における金属元素と窒素原子または炭素原子とは結合している割合が高いことから安定していると考えられる。従って、面内の安定性の高い(200)面を、(111)面に対してある一定以上の割合で表面に対して配向させれば、硬度が増加して切削特性を向上させることができると考えられる。前記I(200)/I(111)の値は、好ましくは0.2以上である。
(111)面の回折線の回折角度は、皮膜の成分組成、残留応力の状態、または基板の種類によって変化しうるものであり、本発明の硬質皮膜についてCuのKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折を行った結果、回折角度はおおよそ37.0°〜38.0°の範囲内で変化し、皮膜中のTi量が増加すると該回折角度が小さくなる傾向が示された。この様に、皮膜中のTi量の増加により前記(111)面の回折角度が低角側となる、即ち(111)面間距離が大きくなるのは、前述の如く、TiNの格子定数(4.24Å)が岩塩構造型のAlNの格子定数(4.12Å)やCrNの格子定数(4.14Å)と比較して大きいことに起因していると考えられる。
岩塩構造型の(111)面における回折角度は、下記ブラッグの式(5)に代入して算出することができる。尚、式(5)中の(111)面の面間距離は、岩塩構造型のTiN、AlN、およびCrNの標準格子定数(4.24Å、4.12Åおよび4.14Å)およびこれらの組成比から、混合則(low of mixture)を用いて得た下記式(6)にて求めることができる。
2×面間距離(Å)×sin(回折角度2θ/2)=使用X線の波長(Å) …(5)
[使用するX線の波長:CuのKα線 1.54056Å]
(111)面間距離(Å)=[2.4492×Ti量(at%)+2.379×Al量(at%) +2.394×Cr量(at%)]/100 …(6)
[尚、各元素量は金属元素のみで100%換算]
例えば、本発明の硬質皮膜;(Ti0.1Al0.72Cr0.18)N皮膜を超硬合金基板上に形成した場合、上記式(5)より求めた回折角度は37.6°であるが、成膜条件や残留応力の影響により37.2°〜37.7°の範囲内で変化する。この本発明の硬質皮膜の場合、形成ままの状態で皮膜に圧縮応力が作用していたことから、基板に平行な方向に位置する面の面間距離が、ポアソン効果により標準状態[上記式(6)から求められる面間距離]よりも広がり、θ−2θのX線回折法における(111)面の回折角度が標準状態[上記式(6)より求めた標準状態の面間距離を上記式(5)に代入して求めた回折角度]よりも低角度側に検出された。
尚、CuのKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折にて求められる(111)面の回折角度は、皮膜中の金属元素の組成から上記式(5)および式(6)を用いて算出される標準の回折角度に対し、±0.3°の範囲内にあることが望ましい。
また(111)面の回折線の半値幅[通常、FWHM(Full Width Half Maximum)、即ち、回折線最大強度の半分を示す部分の回折線の幅を示す]は、皮膜の結晶サイズ、皮膜中の不均一残留応力等の要因によって変化しうるものであり、前記半値幅が大きくなると皮膜の結晶が小さくなる傾向がある。本発明の要件を満足する硬質皮膜の場合、前記半値幅は概ね0.2°以上で1°以下であり、一例として示す前記(Ti0.1Al0.72Cr0.18)N皮膜の場合、成膜条件により0.3°〜0.8°の範囲内で変化した。
本発明に係る硬質皮膜は、上記要件を満足する単層の皮膜の他、上記要件を満たし、且つ相互に異なる皮膜を複数積層して用いることもできる。また用途によっては、前記1層または2層以上の本発明で規定する(Ti,Cr,Al)(CN)膜の片面側または両面側に、岩塩構造型主体の結晶構造を有し、且つ前記硬質皮膜とは異なる成分組成の金属窒化物層、金属炭化物層および金属炭窒化物層よりなる群から選択される少なくとも1層が積層されていてもよい。
尚、ここでいう「岩塩構造型主体の結晶構造」も、前述の如く、θ−2θ法によるX線回折における岩塩構造を示すピークのうち、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面のピーク強度をそれぞれ、IB(111)、IB(200)、IB(220)、IB(311)、IB(222)、IB(400)とし、ZnS型構造を示すピークのうち、(100)面、(102)面、(110)面のピーク強度をそれぞれ、IH(100)、IH(102)、IH(110)とした場合に、上記式(4)の値が0.8以上となるような結晶構造のことをいうものとする。岩塩構造型であって前記硬質皮膜とは異なる成分組成の金属窒化物層、金属炭化物層または金属炭窒化物層として、例えばTiN、TiAlN、TiVAlN、TiCN、TiAlCN、TiNbAlCN、TiC等の皮膜が挙げられる。
また本発明の切削工具用硬質皮膜には、前記1層もしくは2層以上の本発明の硬質皮膜の片面側または両面側に、4A族、5A族、6A族、AlおよびSiよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む金属層または合金層が1以上積層されているものであってもよく、前記4A族、5A族、6A族の金属として、Cr、Ti、Nb等が挙げられ、合金としてはTi−Al等を用いることができる。この様な積層皮膜の形成は、特に、硬質皮膜との密着性が超硬合金母材よりも低い鉄系母材(HSS、SKH51、SKD等)を基板とする場合に有効であり、前記鉄系母材上に、本発明で規定する皮膜よりも比較的硬度の低い前記CrN、TiN、TiAlN等の皮膜、あるいはCr、Ti、Ti−Al等の金属中間層を形成し、その上に本発明の硬質皮膜を形成することで、基材への密着性が良好な硬質皮膜が得られるのである。
上記(i)本発明の要件を満たし、かつ相互に異なる皮膜や、(ii)岩塩構造型であって前記硬質皮膜とは異なる成分組成の金属窒化物層、金属炭化物層または金属炭窒化物層、(iii)4A族、5A族、6A族、AlおよびSiよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む金属層または合金層を、複数層形成して本発明の硬質皮膜とする場合には、1層の厚みが0.005〜2μmの範囲内にあればよいが、本発明の硬質皮膜は、単層の場合であっても上記複数層の場合であっても、トータルとしての膜厚は、0.5μm以上20μm以下の範囲内とすることが望ましい。0.5μm未満だと膜厚が薄すぎて耐摩耗性が好ましくなく、一方、上記膜厚が20μmを超えると切削中に膜の欠損や剥離が発生するからである。尚、より好ましい膜厚は1μm以上で15μm以下である。
更に、Alの組成比が高くても結晶構造が実質的に岩塩構造型を主体とする本発明の硬質皮膜を作製するには、本発明で規定する様な方法で成膜することが大変有効である。即ち、成膜ガス雰囲気中でアーク放電を行ってターゲットを構成する金属を蒸発させてイオン化し、被処理体上に本発明の硬質皮膜を形成する方法にて、前記金属とともに成膜ガスのプラズマ化を促進しつつ成膜することが必要であり、このとき前記被処理体近傍における成膜ガスのプラズマ化を、ターゲットの蒸発面にほぼ直交して前方に発散ないし平行に進行するよう形成した磁力線によって促進しつつ成膜することを好ましい形態とする。
尚、本発明の成膜方法は、本発明で規定する岩塩構造型を主体とする(Ti,Al,Cr)(CN)皮膜の成膜に有効であるのは勿論のこと、それ以外の皮膜を成膜するにあたっても大変有効な方法であることは言うまでもない。
アークイオンプレーティング(AIP)装置においては、従来のように磁場がターゲットの裏側に配置されたカソード蒸発源では本発明の皮膜を作製することが困難であり、磁石がターゲットの横または前方に配置されて、ターゲット蒸発面にほぼ直交して前方に発散ないし平行に進行する磁力線を形成し、この磁力線によって成膜ガスのプラズマ化を促進することが本発明の硬質皮膜を形成する上で大変有効なのである。
本発明を実施するための装置の一例として、図2にAIP装置を示しながら簡単に説明する。
このAIP装置は、真空排気する排気口11および成膜ガスを供給するガス供給口12とを有する真空容器1と、アーク放電によって陰極を構成するターゲットを蒸発させてイオン化するアーク式蒸発源2と、コーティング対象である被処理体(切削工具)Wを支持する支持台3と、この支持台3と前記真空容器1との間で支持台3を通して被処理体Wに負のバイアス電圧を印加するバイアス電源4とを備えている。
前記アーク式蒸発源2は、陰極を構成するターゲット6と、このターゲット6と陽極を構成する真空容器1との間に接続されたアーク電源7と、ターゲット6の蒸発面Sにほぼ直交して前方に発散ないし平行に進行し、被処理体Wの近傍まで伸びる磁力線を形成する磁界形成手段としての磁石(永久磁石)8とを備えている。被処理体Wの近傍付近における磁束密度としては、被処理体の中心部において磁束密度が10G(ガウス)以上、好ましくは30G以上とするのが良い。尚、蒸発面にほぼ直交するとは、蒸発面の法線方向に対して0°を含み、30°程度以下の角度をなすことを意味する。
図3は、本発明の実施に供するアーク式蒸発源要部の一例を拡大した断面概略図であるが、前記磁界形成手段としての磁石8は、ターゲット6の蒸発面Sを取り囲むように配置されている。磁界形成手段としては、前記磁石に限らず、コイルとコイル電源とを備えた電磁石でも良い。また、磁石の配置場所は図4に示すように、ターゲット6の蒸発面Sの前方(被処理体側)を取り囲むように設けても良い。尚、図2では、チャンバーをアノードとしたが、例えばターゲット側面前方を取り囲むような円筒形状の専用アノードを設けても良い。
尚、図5に示す従来のAIP装置のアーク式蒸発源102にも、アーク放電をターゲット106上に集中させるための電磁石109を備えたものがあるが、電磁石109がターゲット106の裏側に位置しているため、磁力線がターゲット蒸発面近傍でターゲット表面と平行となり、磁力線が被処理体Wの近傍にまで伸びないようになっている。
本発明で使用するAIP装置のアーク式蒸発源と、従来のそれとの磁場構造の違いは、成膜ガスのプラズマの広がり方の違いにある。
前記図4に示すように、放電で発生した電子eの一部が磁力線に巻き付くように運動を行い、この電子が成膜ガスを構成する窒素分子等と衝突することによって成膜ガスがプラズマ化する。前記図5における従来の蒸発源102では、磁力線がターゲット近傍に限られるため、上記の様にして生成された成膜ガスのプラズマの密度はターゲット近傍が最も高く、被処理体Wの近傍ではプラズマ密度がかなり低いものとなっている。これに対し、図3および図4に示す様な本発明で使用する蒸発源では、磁力線が被処理体Wにまで伸びるため、被処理体W近傍における成膜ガスのプラズマ密度が従来の蒸発源に比べ格段に高いものとなっている。
そして、この様な成膜ガスのプラズマ密度の違いが、生成される膜の結晶構造に影響を与えると考えられる。図6はこの様な影響を確認した一実施例であり、組成が(Ti0.1,Cr0.2,Al0.7)Nの膜を、従来の蒸発源と本発明の蒸発源をそれぞれ用いて成膜したときのTiCrAlN膜のX線回折結果を示したものである。図6中の「B1」は岩塩構造、「Hex」はZnS型構造を表し、( )は結晶面を表している。また、図6中における記号のないピークは、基板(超硬合金)のピークを示している。成膜条件は、両蒸発源ともにアーク電流100A、窒素ガス圧力2.66Pa、基板(被処理体)温度400℃とし、基板(被処理体)のバイアス電圧を50V〜300Vの範囲内で変化させている。尚、バイアスの電位は、アース電位に対してマイナスとなるように印加しており、例えばバイアス電圧100Vとは、アース電位に対してバイアス電位が−100Vであることを示す。
この図6(2)に示されるように、磁石がターゲットの背面に位置している従来のAIP装置の蒸発源では、バイアス電圧を300Vまで上げても、立方晶である岩塩構造型と六方晶であるZnS型との混合相しか生成できないが、図6(1)に示されるように、磁石がターゲット側面に位置している本発明のAIP装置の蒸発源を用いると、バイアス電圧をアース電位に対して70V以上とすることで岩塩構造型単相の膜が得られることがわかる。
もともと岩塩構造型AlNは、常温常圧では非平衡相であり生成しにくい物質であるが、本発明の蒸発源によって窒素のプラズマ化が促進されて、窒素が高エネルギーの粒子となっているため、非平衡相である岩塩構造型AlNが生成し易くなっているものと考えられる。
前記バイアス電圧を上げることで、プラズマ化した成膜ガスや金属イオンのエネルギーが高くなり、膜の岩塩構造化が促進されることとなるため、バイアス電圧は50V以上とすることが好ましく、より好ましくは70V以上、さらに好ましくは100V以上である。しかしバイアス電圧が高すぎると、プラズマ化した成膜ガスによって膜がエッチングされ、成膜速度が極端に小さくなるためあまり実用的でない。従って、バイアス電圧は300V以下とすることが好ましく、より好ましくは260V以下で、さらに好ましくは200V以下である。バイアス電圧を印加する目的は、前述の如く入射する成膜ガスやターゲットからの金属原子のイオンにエネルギーを与え、皮膜の岩塩構造化を促進することにあるが、Al量の比較的少ない皮膜あるいはCr量の比較的多い皮膜の形成においては、バイアス電圧が多少低くても前述の引き込み効果が有効に作用し、岩塩構造化を容易に図ることができる。皮膜中のAl量が約65原子%以下、またはCr量が約25原子%を超える皮膜の形成では、バイアス電圧を70V以下としても岩塩構造型単層の皮膜を得ることができる。
また本発明では、皮膜形成時の基板温度の範囲を300℃以上800℃以下とすることが好ましいとしているが、これは形成した皮膜の応力と関係している。図7は、一例として(Ti0.1Al0.7Cr0.2)N皮膜形成時の基板(被処理体)温度と形成した皮膜の残留応力の関係を示したものであり、アーク電流を100A、成膜時の基板のバイアス電圧を150V、窒素ガスの圧力を2.66Paとして実験を行っている。
この図7より、基板温度が上昇すれば得られる硬質皮膜の残留応力は低減する傾向にあることが分かる。得られた硬質皮膜に過大な残留応力が作用していると、成膜ままの状態で剥離が生じ易く密着性に劣る。従って、基板温度は300℃以上とするのが好ましく、より好ましくは400℃以上である。一方、基板(被処理体)温度を高めれば上記残留応力は低減するが、残留応力が小さすぎる場合には圧縮応力が小さくなり、基板の抗折力増加作用が損なわれ、また高温による基板の熱的変質も生じることとなる。従って基板温度は800℃以下とすることが好ましい。より好ましくは700℃以下である。
基板が超硬合金母材の場合、前記基材温度は特に制限されるものではないが、基材がHSS(高速度工具鋼、SKH51等)あるいはSKD11、SKD61等の熱間工具鋼である場合には、成膜時の基板温度を基板材料の焼き戻し温度以下にして基板の機械的特性を維持するのがよい。焼き戻し温度は基板材料によって異なり、例えば前記SKH51で550〜570℃程度、前記SKD61で550〜680℃、前記SKD11の高温焼き戻しでは500〜530℃であり、成膜時の基板温度はこれらの焼き戻し温度以下とすることが好ましい。より好ましくはそれぞれの焼き戻し温度に対して50℃程度低い基板温度とするのがよい。
さらに本発明では、形成時の反応ガスの分圧または全圧を0.5Pa〜7Paの範囲とすることを好ましい成膜条件としている。ここで反応ガスの「分圧または全圧」と表示しているのは、本発明が、前述のように窒素ガスやメタンガスといった皮膜の成分組成に必要な元素を含むガスを反応ガス、それ以外のアルゴン等のような希ガスなどをアシストガスといい、これらを併せて成膜ガスとしており、成膜ガスとしてアシストガスを用いず反応ガスのみを用いる場合には、反応ガスの全圧を制御することが有効で、また反応ガス及びアシストガスの両方を用いる場合には反応ガスの分圧を制御することが有効だからである。この反応ガスの分圧または全圧が0.5Pa未満の場合は、アーク蒸発の場合発生するマクロパーティクル(ターゲットの溶融物)の発生が多く表面粗度が大きくなり、用途によっては不都合を生じるので好ましくないのである。一方、反応ガスの分圧または全圧が7Paを超える場合は、蒸発粒子の反応ガスとの衝突による散乱が多くなり、成膜速度が低下するため好ましくないのである。好ましくは1Pa以上で5Pa以下であり、より好ましくは1.5Pa以上で4Pa以下である。
本発明では、成膜方法としてAIP法について述べたが、金属元素とともに成膜ガスのプラズマ化が促進される成膜方法であれば、AIP法に限定されるものではなく、例えば、パルススパッタリング法や窒素のイオンビームアシストデポジション法で成膜することもできる。
本発明に係る硬質皮膜は、上述の如くターゲットを蒸発またはイオン化させて、被処理体上に成膜するイオンプレーティング法やスパッタリング法等の気相コーティング法にて製造するのが有効であるが、該ターゲットの特性が好ましくない場合には、成膜時に安定した放電状態が保てず、得られる皮膜の成分組成が均一でない等の問題が生じる。そこで、優れた耐摩耗性を発揮する本発明の硬質皮膜を得るにあたり、使用するターゲットの特性についても検討したところ、下記の様な知見が得られた。
まず、ターゲットの相対密度を95%以上とすることで、成膜時の放電状態が安定し、効率よく本発明の硬質皮膜が得られることが分かった。即ち、ターゲットの相対密度が95%未満であると、ターゲット中にミクロポア等の合金成分の粗な部分が生じるようになり、この様なターゲットを成膜に用いた場合、該合金成分の蒸発が不均一となって、得られる皮膜の成分組成がばらついたり膜厚が不均一となったりしてしまう。また、空孔部分は成膜時に、局所的かつ急速に消耗するので、減耗速度が速くなりターゲットの寿命が短くなる。空孔が多数存在する場合には、局所的な減耗が急速に進むのみならず、ターゲットの強度が劣化して割れが生じる原因ともなるのである。上記ターゲットの相対密度は96%以上であることが好ましく、より好ましくは98%以上である。
ターゲットの相対密度が95%以上であっても、ターゲット中に存在する空孔が大きい場合には、放電状態が不安定となり良好に皮膜が成膜されないため好ましくない。ターゲット中に半径0.5mm以上の空孔が存在すると、ターゲットを構成する合金成分の蒸発またはイオン化のためのアーク放電が中断して成膜を行うことができないことが知られている。本発明者らが検討したところ、空孔の半径が0.3mm以上になると放電中断には至らずとも放電状態が不安定となることが分かった。従って、安定した放電状態を保ち、良好にかつ効率よく成膜を行うには、ターゲット中に存在する空孔の半径を0.3mm未満、好ましくは0.2mm以下とするのがよいのである。
AIP法等の気相コーティング法では、使用するターゲットの成分組成が、形成される皮膜の成分組成を決定付けることから、ターゲットの成分組成は、目的とする皮膜の成分組成と同一であることが好ましい。即ち、耐摩耗性に優れた本発明の硬質皮膜を得るには、ターゲットとして、(Ti,Al,Cr)からなるものであって、
0.02≦x≦0.30、
0.55≦y≦0.765、
0.06≦z、
x+y+z=1
(x,y,zはそれぞれTi,Al,Crの原子比を示す。以下同じ)、
または
0.02≦x≦0.175、
0.765≦y、
4(y−0.75)≦z、
x+y+z=1
を満足するものを用いることが好ましいのである。
上記ターゲットの成分組成を満足していても、ターゲットの成分組成分布がばらついていると、得られる硬質皮膜の成分組成分布も不均一となり、該皮膜の耐摩耗性が部分的に異なることとなってしまう。またターゲットの成分組成分布にばらつきがあると、ターゲットに局所的な電気伝導性や融点等の差異が生ずることとなり、これが放電状態を不安定にして良好に成膜されないのである。従って、本発明のターゲットは、組成分布のばらつきが0.5at%以内にあることが好ましい。
更に本発明者らは、ターゲットの製造に用いる原料あるいはターゲット製造時の雰囲気が原因で、ターゲット中に不可避的に混入する不純物(酸素、水素、塩素、銅およびマグネシウム)の含有量が、成膜時の放電状態等に及ぼす影響についても調べた。
その結果、酸素、水素および塩素がターゲット中に多量に含まれていると、成膜時にターゲットからこれらのガスが突発的に発生し、放電状態が不安定となったり最悪の場合にはターゲットそのものが破損して良好に成膜されないことが分かった。従って、ターゲット中に含まれる酸素は0.3質量%以下、水素は0.05質量%以下、塩素は0.2質量%以下に抑えるのがよいのである。より好ましくは、酸素を0.2質量%以下、水素を0.02質量%以下、塩素を0.15質量%以下に抑える。
また、銅やマグネシウムは、本発明のターゲットを構成するTi,AlおよびCrよりも蒸気圧が高く気化しやすいので、多量に含まれる場合には、ターゲット製造時にガス化してターゲット内部に空孔が形成され、この様な欠陥が原因で成膜時の放電状態が不安定となるのである。従って、ターゲット中に含まれる銅の含有量は、0.05質量%以下に抑えることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以下である。また、マグネシウムの含有量は、0.03質量%以下に抑えることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以下である。
この様な不純物の含有量を本発明で規定する範囲にまで低減する方法として、例えば原料粉末の真空溶解や、清浄雰囲気で原料粉末の配合・混合を行うこと等が挙げられる。
ところで本発明は、ターゲットの製造方法についてまで特定するものではないが、例えば、量比や粒径等を適切に調整した原材料のTi粉末、Cr粉末およびAl粉末を、V型ミキサー等で均一に混合して混合粉末とした後、これに冷間静水圧加圧処理(CIP処理)あるいは熱間静水圧加圧処理(HIP処理)を施すことが本発明のターゲットを得る有効な方法として挙げられる。これらの方法の他、熱間押出法や超高圧ホットプレス法等によっても本発明のターゲットを製造することができる。
尚、上記の様にして混合粉末を調製した後、ホットプレス処理(HP)にてターゲットを製造する方法も挙げられるが、この方法では、本発明で用いるCrが高融点金属であるため相対密度の高いターゲットが得られ難いといった問題点がある。また、上記の様に混合粉末を用いて製造する方法の他、予め合金化させた粉末を用いて、CIP処理やHIP処理を行ったり、溶解・凝固させてターゲットを得る方法も挙げられる。しかし前記合金化粉末を用いてCIP処理またはHIP処理を行う方法では、組成の均一なターゲットが得られるという利点があるものの、合金粉末が難焼結性であるため、高密度ターゲットが得られ難いといった問題点がある。また後者の合金化粉末を溶解・凝固させる方法では、組成が比較的均一なターゲットが得られるという利点があるが、凝固時に割れや引け巣が発生し易いといった問題があり、本発明のターゲットを得ることは難しい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
[実施例1]
前記図2に示すAIP装置のカソードにTi、Cr、Alからなるターゲット合金を取り付け、さらに、支持台上に基板(被処理体)として超硬合金製チップ、超硬合金製スクエアエンドミル(直径10mm、2枚刃)および白金箔(0.1mm厚)を取り付けた。そして、チャンバー内を真空排気後、チャンバー内にあるヒーターで被処理体の温度を400℃に加熱し、3×10−3Pa以下の真空度とした後に、0.66PaのArガス雰囲気中で、基板(被処理体)に700Vのバイアス電圧を印可してArイオンによる前記基板のクリーニングを10分間行った。その後、窒素ガスを導入し、チャンバー内の圧力を2.66Pa、アーク電流を100Aとしてアーク放電を開始し、基板(被処理体)の表面に膜厚4μmの皮膜を形成した。尚、成膜中にアース電位に対して基板(被処理体)がマイナス電位となるよう150Vのバイアス電圧を基板(被処理体)に印加した。
成膜終了後、膜中の金属成分組成、膜の結晶構造、ビッカース硬度および酸化開始温度を調べた。ビッカース硬度はマイクロビッカース硬度測定器を用い、荷重0.25N、保持時間を15秒として測定した。膜中のTi、Cr、Alの成分組成はEPMAにより測定した。尚、皮膜中の金属元素およびNを除くO、C等の不純物元素量は、前記EPMAによる定量分析で酸素が1at%以下、炭素が2at%以下のレベルであった。また、膜の結晶構造はX線回折により同定した。酸化開始温度は、白金サンプルを用いて、熱天秤により人工乾燥空気中で室温から5℃/minの昇温速度で加熱したときに重量変化が生じる温度を測定し、その温度を酸化開始温度とした。前記式(4)の値は、前述のようにX線回折装置にてCuのKα線を用いて各結晶面のピーク強度を測定して求めた。得られた膜の成分組成、結晶構造、ビッカース硬度、酸化開始温度および前記式(4)の値を表1に示す。
Figure 2010095800
表1より、No.21,22および23に示すTiAlN(0.56≦Al≦0.75)の皮膜硬度は2700〜3050で、酸化開始温度は800〜850℃であるが、皮膜硬度および酸化開始温度の両方を同時に高めることはできていない。これに対し、本発明の成分組成範囲を満たすNo.1〜17では、高いビッカース硬度および酸化開始温度を同時に達成することができた。
図8は、(Ti,Al,Cr)N膜における金属成分Ti、AlおよびCrの組成図にて本発明範囲とNo.1〜27の実施例を示したものであるが、この図8の●、▲および■に示されるように、本発明の範囲内にあるNo.1〜17は、TiAlN(0.56≦Al≦0.75)の示す高硬度および高酸化開始温度を同時に達成させることができた。特に、図8にて■で示す好ましい成分組成範囲内にあるNo.3〜5は、酸化開始温度がTiAlN(0.56≦Al≦0.75)とほぼ同程度でかつ非常に高い硬度を示し、No.15〜17は、硬度がTiAlN(0.56≦Al≦0.75)の最高レベルと同等でかつ高い酸化開始温度を示す結果となった。
また、図8にて●で示すより好ましい成分組成範囲内にあるNo.6〜9、10〜14は、従来のTiAlN(0.56≦Al≦0.75)では実現し得なかった最高の硬度および最高の酸化開始温度を達成することができ、いずれにしても従来のTiAlN(0.56≦Al≦0.75)膜より高い耐摩耗性を発揮できることとなった。
これに対し、図8にて○で示す本発明の規定成分組成を満たさないNo.18〜20、24〜27は、高いビッカース硬度および酸化開始温度を同時に示すものではなく、上記TiAlN(0.56≦Al≦0.75)と同程度かまたはそれ以下となったため、TiAlN(0.56≦Al≦0.75)よりも優れた耐摩耗性を期待することはできない。
[実施例2]
前記実施例1で得られた硬質皮膜を被覆したエンドミルのうち、No.1,4,7,11,16,18,19,22,24および27について切削試験を行い、摩耗評価を行った。被削材としてSKD61焼き入れ鋼(HRC50)を用いた。切削条件は以下の通りである。摩耗評価は、上記各エンドミルを用いて被削材を20m切削後、刃先を光学顕微鏡で観察して摩耗幅を測定した。その結果を表2に示す。
切削条件
切削速度:200m/min
送り速度:0.07mm/刃
切り込み:5mm
ピックフィード:1mm
切削油:エアーブローのみ
切削方向:ダウンカット
Figure 2010095800
表2より、本発明の要件を満たす皮膜をコーティングしたNo.1,4,7,11および16のエンドミルは、本発明の要件を満足しない皮膜をコーティングしたNo.18,19,22,24および27のエンドミルと比較して摩耗幅が小さく、耐摩耗性に優れていることがわかる。
[実施例3]
組成がTi:9at%、Cr:19at%、Al:72at%の合金ターゲットを用い、成膜時間を変化させて行ったことを除き、前記実施例1と同様にして超硬合金製スクエアエンドミル(直径10mm、2枚刃)上に表3に示す種々の膜厚のTiCrAlN膜を成膜した。この時、蒸発源には前記図4に示す蒸発源を用いた。また、成膜時のバイアス電圧は100Vとした。尚、得られた膜の金属成分をEPMAにて組成分析したところ、Ti:10at%、Cr:20at%、Al:70at%であった。成膜後のエンドミルの耐摩耗性を、前記実施例2と同様にして切削試験を行い評価した。その結果を表3に併記する。
Figure 2010095800
表3より、本発明で好ましいとする膜厚のNo.1〜5は、摩耗幅が小さく優れた耐摩耗性を示すのに対し、No.6は、膜厚が薄いため耐摩耗性に劣る結果となった。またNo.7は膜厚が厚すぎるため切削中に刃先が欠損した。
[実施例4]
組成がTi:13at%、Cr:15at%、Al:72at%の合金ターゲットを用い、支持台上に被処理体として超硬合金製チップ、超硬合金製スクエアエンドミル(直径10mm、2枚刃)および白金箔(0.1mm厚)を前記図2に示したAIP装置に取り付け、チャンバー内を真空状態にした。その後、チャンバー内にあるヒーターで被処理体温度を550℃に加熱し、窒素とメタンの混合ガスを導入してチャンバー内の圧力を2.66Paとし、アーク電流100Aでアーク放電を開始して、前記基板(被処理体)の表面に膜厚3μmの(TiAlCr)(CN)皮膜を形成した。成膜中はアース電位に対して基板(被処理体)がマイナス電位となるよう150Vのバイアス電圧を基板(被処理体)に印加した。その他の成膜条件に関しては前記実施例1と同様である。
成膜終了後、膜中の金属成分組成、酸化開始温度および耐摩耗性について調べた。得られた皮膜中のTi、Al、Crの成分組成はEPMAにより測定した。金属元素およびC、Nを除く皮膜中の不純物元素量は、前記EPMAによる定量分析で酸素が1at%以下のレベルであった。酸化開始温度は前記実施例1の方法と同様にして測定した。また成膜後のエンドミルの耐摩耗性は、前記実施例2と同様にして切削試験を行い評価した。これらの結果を表4に併記する。
Figure 2010095800
表4より本発明の要件を満たす皮膜をコーティングしたNo.1〜3のエンドミルは(TiAlCr)(CN)皮膜におけるCおよびNの比率が本発明の規定を外れているNo.4のエンドミルと比較して、酸化開始温度が高くかつ切削試験における摩耗幅が小さく、耐摩耗性に優れていることが分かる。
[実施例5]
組成がTi:9at%、Cr:19at%、Al:72at%の合金ターゲットを用い、前記実施例1と同様に超硬合金製エンドミル(直径10mm、2枚刃)を基材(被処理体)として以下の皮膜を形成した。
即ち、バイアス電圧、成膜温度等を変化させて、結晶配向の異なる(Ti、Al、Cr)N皮膜を形成した他、成膜ガスとして(窒素+メタン)ガスを用いて、CおよびNの比率の異なる(Ti、Al、Cr)(CN)皮膜を形成した。また、(Ti、Al、Cr)N皮膜とTi50Al50N皮膜の積層皮膜を形成した。表5に示す実験No.8は、超硬合金製エンドミル表面に(Ti、Cr、Al)(CN)皮膜を形成した後、更にTi50Al50N皮膜を形成したものであり、実験No.9は、超硬合金製エンドミル表面に、(Ti、Cr、Al)(CN)皮膜およびTi50Al50N皮膜の各10層を交互に積層させたものである。尚、総膜厚は約3μmであった。得られた皮膜の耐摩耗性は、前記実施例2と同様にして切削試験を行い、摩耗幅で評価した。
Figure 2010095800
表5より、実験No.3、6および7では、摩耗試験における摩耗幅が大きいことから、結晶配向や(Ti、Al、Cr)(CN)皮膜におけるCおよびNの比率が、本発明の要件を満足するよう制御することで、より耐摩耗性に優れた硬質皮膜が得られることが分かる。
[実施例6]
組成がTi:10at%、Cr:18at%、Al:72at%の合金ターゲットを用い、前記図2に示したAIP装置を使用して、表6または表7に示す様にバイアス電圧、基板温度、窒素ガス圧を変化させて、超硬合金製スクエアエンドミル(直径10mm、2枚刃)または超硬合金製チップ上に膜厚約3μmの(Ti、Al、Cr)N皮膜を形成した。成膜時のアーク電流は150Aとし、その他の成膜条件は前記実施例1と同様とした。
成膜終了後、得られた皮膜の金属成分組成、結晶構造、結晶方位、岩塩構造型の(111)面の回折線の回折角度および半値幅、ビッカース硬度および耐摩耗性を調べた。結晶構造、結晶方位、岩塩構造型の(111)面の回折線の回折角度および半値幅はCuのKαを用いたθ−2θ法のX線回折で測定した。耐摩耗性は、前記実施例2と同様にして切削試験を行い摩耗幅で評価した。得られた皮膜の金属成分組成はEPMAで測定した。その結果、表7に示す通り、成膜条件によりTi:10〜12at%、Cr:10〜23at%、Al:66〜68at%の範囲内でわずかに成分組成が異なっていることが分かった。これらの結果を表6および表7に示す。皮膜中の金属元素および窒素以外の不純物元素量は、前記EPMAによる定量分析で酸素が1原子%以下、炭素が2原子%以下のレベルであった。また金属元素の合計量と窒素との比率は、いずれも原子比で0.9〜1.1の範囲内であった。
Figure 2010095800
Figure 2010095800
表6および表7より、本発明で好ましいとする基板電圧、反応ガス圧、基板温度に制御したNo.1〜6、9〜12、および15〜17は、No.7、8、13、14および18と比較して、硬度が高く、かつ摩耗幅が小さく優れた耐摩耗性を有することから、成膜条件を本発明の規定を満たすよう制御することによって、皮膜の結晶配向、回折線の角度および半値幅を本発明で好ましい範囲内とすることができ、結果として耐摩耗性に優れた皮膜が得られることが分かる。
[実施例7]
組成がTi:10at%、Cr:18at%、Al:72at%の合金ターゲットを用い、図2に示したAIP装置を用い(但し、この場合は蒸発源2を2つ設置)、皮膜の種類に応じてアーク電流を100〜150A、窒素(または窒素とメタンの混合)ガス圧を0Pa(金属膜)〜2.66Pa、膜種に応じて基板に印加するバイアス電圧を30〜150Vの範囲内で変化させ、基板温度を550℃にして、表8に示す種々の金属窒化物、炭化物、炭窒化物または金属膜の積層膜を超硬合金製スクエアエンドミル(直径10mm、2枚刃)上に形成した。その他の成膜条件に関しては前記実施例1と同様である。積層の仕方は、超硬合金製エンドミル上に、表8における皮膜1、次に表8における皮膜2の順に、交互に蒸発源を切り替えて表8に示す膜厚の皮膜を積層した。表8に示す積層数は[皮膜1+皮膜2]を1単位とした時の繰り返し数を示す。尚、総膜厚は約3μmであった。成膜後の皮膜の耐摩耗性は前記実施例2と同様にして切削試験を行い評価した。これらの結果を表8に示す。
Figure 2010095800
表8の実験No.1〜12より、切削工具用硬質皮膜を複数層とする場合であっても、本発明の要件を満たす皮膜をコーティングしたものであれば、切削試験の摩耗幅は30μm以下と優れた耐摩耗性を示すことが分かる。
[実施例8]
組成がTi:9at%、Cr:19at%、Al:72at%の合金ターゲットを用い、アーク電流を100A、基板(被処理体)温度を500℃とし、アース電位に対して基板(被処理体)側がマイナスとなるようバイアス電圧を50〜400Vの範囲内で変化させて30分間成膜を行ったことを除き、前記実施例1と同様にして超硬合金製チップまたは超硬合金製スクエアエンドミル(10mm直径、2枚刃)上に成膜を行った。得られた皮膜の結晶構造をX線回折により同定した。また成膜後の超硬合金製チップを破断し、その断面を走査型電子顕微鏡で観察して膜厚を測定した。更に前記実施例2と同様にして切削試験を実施した。これらの結果を表9に示す。尚、得られた皮膜の金属元素組成をEMPAで測定したところ、成膜時のバイアス電圧の相違によりTi:9〜11at%、Cr:19〜21at%、Al:68〜71at%の範囲内でわずかに成分組成が異なっていることが分かった。
Figure 2010095800
表9より、No.2〜5は、本発明で好ましいとするバイアス電圧範囲内としたものであり、この様なバイアス電圧で成膜することによって最適な結晶構造または膜厚とすることができた。これに対し、No.1は本発明で好ましいとするバイアス電圧よりも低いため、結晶構造がB1+Hexの混合相となり、優れた耐摩耗性を期待することができない。また、No.6および7は、本発明で好ましいとするバイアス電圧よりも高く、膜厚が薄いかほとんど成膜されないため、優れた耐摩耗性を期待することができない。また、切削試験を行った結果についても、本発明で望ましいとするバイアス電圧で成膜した皮膜は、摩耗量が小さく切削性に優れていることが分かる。
[実施例9]
組成がTi:10at%、Cr:18at%、Al:72at%の合金ターゲット、Ti:50at%、Al:50at%の合金ターゲット、または純Ti金属、純Cr金属のターゲットを用い、前記図2に示したAIP装置を使用して、超硬合金チップ及び超硬合金製ボールエンドミル(直径10mm、センター半径5R、2枚刃)上に、膜厚約3μmのTiAlCrN、TiAlN、TiNまたはCrN膜を形成した。前記基板に印加するバイアス電圧は、TiAlCrN成膜時には150V、TiAlN、TiNまたはCrN成膜時には50Vとし、基板温度は550〜580℃の範囲とし、反応ガス(窒素)の圧力は2.66Pa、アーク電流は150Aとした。その他の成膜条件は前記実施例1と同様である。
成膜終了後、得られた皮膜の金属成分組成、ビッカース硬度および耐摩耗性を調べた。耐摩耗性は、下記の条件で切削試験を実施し、ボールエンドミルの先端部の摩耗幅および境界部の摩耗幅で評価した。EPMAにより成分組成を測定した結果、合金ターゲットを用い成膜したTiCrAlN膜およびTiAlN膜の成分組成は、ターゲットの成分組成と多少異なり、それぞれターゲットよりもAl量のわずかに少ない(Ti0.1Cr0.22Al0.68)Nおよび(Ti0.54Al0.46)Nの組成の皮膜が得られた。また、皮膜中の金属元素と窒素原子との比率は、いずれの皮膜も原子比で0.9〜1.1の範囲内であった。
切削試験条件
被削材:S55C(ブリネル硬度220)
切削速度:100m/分
送り速度:0.05mm/刃
深さ切り込み:4.5mm
ピックフィード:0.5mm
その他:ダウンカット、エアブロー
切削長:30m
Figure 2010095800
表10より、本発明の要件を満たす皮膜は、前記切削試験における先端部摩耗量および境界部摩耗量が従来知られているTiAlN、TiN、CrNの皮膜と比較して小さく、被切削材;S55C(HB220)に対して優れた切削特性を示すことが分かる。
[実施例10]
ターゲットの相対密度や不純物含有量が成膜時の放電状態に及ぼす影響について調べた。
それぞれ100メッシュ以下のTi粉末、Cr粉末およびAl粉末を所定量混合し、温度:900℃かつ圧力:8×10Paの条件でHIP処理を行って、表11に示す各成分組成のターゲットを作製した。上記ターゲットの成分組成はICP−MSにて測定した。また得られたターゲットの放電特性を調べるため、外径254mm、厚さ5mmに成形したターゲットをスパッタリング装置に装着し、反応性スパッタリング法により膜厚3μmの皮膜を被処理体である超硬合金製チップ上に成膜した。成膜は反応ガスとしてNガスを用い、出力500Wで行った。
得られた硬質皮膜の成分組成はXPSで測定し、耐摩耗性は下記の条件で切削試験を行って評価した。また成膜時の放電状態については、表面における放電状況を目視で観察したり、放電電圧のモニターを観察して行った。これらの結果を表11に示す。
切削試験条件
被削材:SKD61(HRC50)
エンドミル:超硬合金製 4枚刃
切削速度:200m/min
切り込み:1mm
送り速度:0.05mm/刃
切削長:20m
評価基準
◎:すくい面摩耗深さが25μm未満
○:すくい面摩耗深さが25〜50μm
△:すくい面摩耗深さが50μm以上
放電状態
・安定 :放電電圧の瞬間的な上昇や放電の場所的な偏りが認められな
いもの
・やや不安定:放電電圧の瞬間的な上昇や放電の場所的な偏りが多少認めら
れるもの
・不安定 :放電電圧の瞬間的な上昇や放電の場所的な偏りがかなり認め
られるもの
・放電中断 :放電が停止するもの
Figure 2010095800
表11より、No.1〜7は、本発明で規定する相対密度を満足するものであることから放電状態は良好で、その結果、ターゲットと成分組成が同一で、良好な耐摩耗性を発揮する皮膜が得られていることが分かる。これに対し、No.8〜10は、ターゲットの相対密度が本発明の要件を満足するものではないため、放電状態が不安定であったり継続不可能となり、その結果、得られる皮膜の成分組成がターゲットの成分組成と大きくずれ、耐摩耗性の好ましくない皮膜が得られる結果となった。
[実施例11]
100メッシュ以下のTi粉末、100メッシュ以下のCr粉末、および240メッシュ以下のAl粉末を所定量混合し、温度:500〜900℃、圧力:8×10Paの条件でHIP処理して表12に示す各成分組成のターゲットを作製した。得られたターゲットを削り出すか、あるいは銅製バッキングプレートのろう付けを行って、底面に外径104mm、厚さ2mmの固定つばが設けられたターゲットを作製し、アーク放電方式イオンプレーティング装置に該ターゲットを装着して、膜厚3μmの皮膜を被処理体である超硬合金製チップ上に成膜した。成膜は、反応ガスとしてNガスまたはN/CHガスを用い、被処理体の温度を500℃、アーク電流を100A、かつ被処理体のバイアス電圧を150Vにして行った。
ターゲットの成分組成はICP−MSにて測定した。得られた皮膜の耐摩耗性は、前記実施例6と同様の切削試験方法で評価した。また、得られた皮膜の成分組成をXPSにより測定したところ、いずれの皮膜の成分組成もターゲットの成分組成の±2at%の範囲内にありターゲットの成分組成とほぼ一致していた。ターゲット中の欠陥(空孔)の有無ならびに空孔サイズの測定は、超音波探傷法により行った。また成膜時の放電状態は、前記実施例6と同様の方法で評価した。これらの結果を表12に示す。
Figure 2010095800
表12より、No.1〜10は、ターゲットの相対密度およびターゲット中に存在する空孔の大きさが本発明で規定する要件を満足していることから、成膜時の放電状態が安定で、良好な耐摩耗性を有する皮膜が得られていることが分かる。
これに対しNo.5および7は、ターゲット中に存在する空孔の大きさが本発明の規定を満足するものではなく、No.9および10は、ターゲットの相対密度が本発明の規定を満たさず、またNo.6および8は、本発明で規定するターゲットの相対密度およびターゲット中に存在する空孔の大きさのどちらも満足していないため、成膜時に放電状態が不安定もしくは中断してしまい、成膜不可能となるか、皮膜が得られた場合であっても耐摩耗性に劣るものとなってしまった。
[実施例12]
次にターゲット中の不純物(酸素、水素、塩素、銅およびマグネシウム)の含有量が成膜時の放電状態に与える影響について調べた。
表13に示す各成分組成のターゲットを前記実施例7と同様の方法で作製した。得られたターゲットの相対密度はいずれも99%以上で、0.3mm以上の空孔や連続した欠陥はいずれにも存在しなかった。得られたターゲットを用い、反応ガスとしてNガスのみを使用する以外は前記実施例7と同様の条件で成膜を行った。ターゲット中の不純物の含有量は原子吸光法で測定した。また成膜時の放電状態は、前記実施例6と同様にして評価した。これらの結果を表13に示す。
Figure 2010095800
表13より、No.1,3〜9,16および17は、酸素、水素、塩素、銅およびマグネシウムのすべての不純物の含有量が本発明の要件を満足するものであることから、放電状態が良好となっていることが分かる。これに対し、No.2,10および11では酸素含有量、No.12では水素含有量、No.13では塩素含有量、No.14では銅含有量、No.15ではマグネシウム含有量、No.18では酸素およびマグネシウムの含有量、No.19では、塩素、銅およびマグネシウムの含有量が本発明で好ましいとする規定範囲を超えている。この結果より、成膜時の放電状態を良好にして効率よく本発明の切削工具用硬質皮膜を得るには、ターゲット中の不純物(酸素、水素、塩素、銅およびマグネシウム)の含有量を本発明の規定範囲内とすることが好ましいことが分かる。
1 真空容器
2、2A アーク式蒸発源
3 支持台
4 バイアス電源
6 ターゲット
7 アーク電源
8 磁石(磁界形成手段)
9 電磁石(磁界形成手段)
11 排気口
12 ガス供給口
W 被処理体
S ターゲットの蒸発面

Claims (4)

  1. ターゲットを構成する金属の蒸発およびイオン化をアーク放電にて行うアークイオンプレーティング法において、該ターゲットの蒸発面にほぼ直交して前方に発散ないし平行に進行する磁力線を形成し、この磁力線によって被処理体近傍における成膜ガスのプラズマ化を促進すると共に、前記被処理体に印加するバイアス電位をアース電位に対して−50V〜−300Vとして、下記の硬質皮膜を成膜することを特徴とする硬質皮膜の製造方法。
    (Ti,Al,Cr)(C1−d)からなる硬質皮膜であって、
    上記a,b,c,dが、
    0.02≦a≦0.30、
    0.55≦b≦0.765、
    0.06≦c、
    a+b+c=1、
    0.5≦d≦1
    (a,b,cはそれぞれTi,Al,Crの原子比を示し、dはNの原子比を示す。以下同じ)、
    または
    0.02≦a≦0.175、
    0.765≦b、
    4(b−0.75)≦c、
    a+b+c=1、
    0.5≦d≦1を満たし、且つ、結晶構造が岩塩構造型を主体とするものである。
  2. 前記硬質皮膜は、硬質皮膜の最表面を構成するものである請求項1に記載の硬質皮膜の製造方法。
  3. 前記硬質皮膜は、切削工具用である請求項1または2に記載の硬質皮膜の製造方法。
  4. 成膜時の前記被処理体温度を300℃以上800℃以下とすると共に、成膜時の反応ガスの分圧または全圧を0.5Pa以上7Pa以下とする請求項1〜3のいずれかに記載の硬質皮膜の製造方法。
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