JP2010068109A - 弾性表面波素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧電体膜と下地層との剥離を回避するとともに、放熱性を向上させ、かつ弾性表面波の伝播速度の向上を達成することが可能な弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】弾性表面波素子としてのSAWフィルター1は、窒化アルミニウム単結晶からなるAlN基板11と、AlN基板11の一方の主面11A上に接触するように形成された1対の櫛歯形状を有する電極である入力側電極21および出力側電極22と、入力側電極21に接続された入力側配線23と、出力側電極22に接続された出力側配線25とを備えている。そして、AlN基板11の主面11AとAlN基板11を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−100)面とのなす角は10°以下となっている。
【選択図】図1
【解決手段】弾性表面波素子としてのSAWフィルター1は、窒化アルミニウム単結晶からなるAlN基板11と、AlN基板11の一方の主面11A上に接触するように形成された1対の櫛歯形状を有する電極である入力側電極21および出力側電極22と、入力側電極21に接続された入力側配線23と、出力側電極22に接続された出力側配線25とを備えている。そして、AlN基板11の主面11AとAlN基板11を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−100)面とのなす角は10°以下となっている。
【選択図】図1
Description
本発明は、弾性表面波素子に関し、より特定的には弾性表面波の伝播速度の向上を達成することが可能な弾性表面波素子に関するものである。
弾性表面波素子は、圧電材料の表面を伝播する表面波を利用したデバイスであり、表面に形成された一対の櫛歯型の電極を備えている。そして、一方の電極に信号が入力されると、他方の電極から特定の周波数の信号を出力する機能を有する。そのため、弾性表面波素子は、たとえば通信用フィルターや共振子などとして使用することができる。
弾性表面波素子の構造としては、たとえば、サファイアからなる基板と、当該基板上に形成された窒化アルミニウム(AlN)からなる圧電体膜と、圧電体膜上に形成された電極とを備えたものが提案されている(たとえば特許文献1および2参照)。また、圧電体基板である水晶基板上に電極を形成する構造も提案されている(たとえば特許文献3参照)。
特開平9−98060号公報
特開平10−107581号公報
特開平7−170145号公報
上記特許文献1、2のように圧電体膜としてAlN膜を採用することにより、弾性表面波の高い伝播速度を確保することができる。しかしながら、基板上にAlNからなる圧電体膜を形成する上記従来の構成では、圧電体膜と基板などの下地層との結晶構造の違いに起因して、圧電体膜と下地層との間に応力が発生し、圧電体膜と下地層とが剥離するという問題がある。また、圧電体膜と下地層との界面において熱抵抗が高くなり、放熱性が不十分となるおそれがある。近年、高周波の弾性表面波を処理する必要がある場合も多く、このような場合、特に放熱性が問題となる。さらに、弾性表面波の伝播速度の向上も求められている。
そこで、本発明の目的は、圧電体膜と下地層との剥離を回避するとともに、放熱性を向上させ、かつ弾性表面波の伝播速度の向上を達成することが可能な弾性表面波素子を提供することである。
本発明の一の局面における弾性表面波素子は、窒化アルミニウム単結晶からなる基板と、基板上に形成された電極とを備えている。そして、当該基板の主面と基板を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−100)面とのなす角は10°以下である。
また、本発明の他の局面における弾性表面波素子は、窒化アルミニウム単結晶からなる基板と、基板上に形成された電極とを備えている。そして、当該基板の主面と基板を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−102)面とのなす角は10°以下である。
上述のように、圧電材料としてAlNを採用した従来の弾性表面波素子は、サファイア基板などの下地層上にAlN膜を形成した構成を有していた。これに対し、本発明の表面弾性波素子においては、下地層を用いることなくAlN基板上に電極が配置されるため、圧電体膜と下地層との剥離の問題を回避するとともに、下地層と当該下地層に接触する層との間における熱抵抗に起因した放熱性の低下を回避することができる。
一方、AlN単結晶は、(0002)面(C面)を結晶成長面として成長させることにより、効率よく高品質な単結晶を作製することができる。そして、一般に、AlN基板は作製されたAlN単結晶をスライスして作製されるため、通常その主面は(0002)面となる。これに対し、本発明者は、電極が形成されるAlN基板の主面(主表面)の面方位と弾性表面波の伝播速度との関係を調査したところ、電極が形成されるAlN基板の主面が(1−100)面(M面)あるいは(1−102)面(R面)に近い場合、C面に電極を形成する場合に比べて伝播速度が向上することを見出した。また、電極が形成されるAlN基板の主面とM面やR面とのなす角が大きくなるに従って伝播速度が低下する傾向にあり、当該なす角が10°を超えると伝播速度の低下が大きくなる。本発明の表面弾性波素子においては、電極が形成されるAlN基板の主面と基板を構成するAlN単結晶のM面またはR面とのなす角が10°以下であるため、弾性表面波の伝播速度を向上させることができる。
以上のように、本発明の一の局面および他の局面における弾性表面波素子によれば、圧電体膜と下地層との剥離を回避するとともに、放熱性を向上させ、かつ弾性表面波の伝播速度の向上を達成することが可能な弾性表面波素子を提供することができる。
なお、弾性表面波の伝播速度は、R面上に電極を形成した場合に特に大きくなる。そのため、伝播速度の向上が特に重視される場合、上記本発明の他の局面における弾性表面波素子が採用されることが好ましい。一方、M面に近い主面上に電極を形成した上記本発明の一の局面における弾性表面波素子においては、他の局面における弾性表面波素子に比べると弾性表面波の伝播速度はやや小さいものの、電極が形成される主面の平滑度を向上させることができる。そのため、上記本発明の一の局面における弾性表面波素子によれば、電極の形成が容易であるとともに、当該電極の劣化や剥離が抑制されることにより、耐久性に優れた弾性表面波素子を提供することができる。
上記本発明の弾性表面波素子において好ましくは、基板の転位密度は9×108cm−2以下である。
本発明者は、AlNからなる基板(AlN基板)上に電極を形成した弾性表面波素子の伝播損失について詳細な検討を行なった。その結果、伝播損失は、AlN基板の転位密度の低下に伴って急激に減少するとともに、転位密度が9×108cm−2以下では伝播損失の減少は飽和して、十分に低い伝播損失が得られることを見出した。したがって、上記構成により、弾性表面波の伝播損失を低減することができる。
ここで、本願明細書、特許請求の範囲および要約書において、転位密度とはEPD(Etch Pit Density;エッチピット密度)法により測定される転位密度をいう。このEPD法によるAlN基板の転位密度の測定は、たとえば以下のように実施することができる。まず、水酸化カリウム(KOH)と水酸化ナトリウム(NaOH)とを質量比1:1で混合した温度250℃の融液中にAlNからなる基板を30分間浸漬してエッチングする。そして、当該基板を洗浄した後、顕微鏡を用いて基板の主面(主表面)に発生したエッチピットの個数を調査し、単位面積あたりのエッチピットの個数を算出する。
上記本発明の弾性表面波素子において好ましくは、上記基板の厚さは10μm以上である。これにより、AlN基板を自立基板として取り扱うことが容易となり、弾性表面波素子の製造および製造後の素子の取り扱いが容易となる。また、上記基板の厚さを100μm以上とすることにより、基板の取り扱いが一層容易となる。
上記弾性表面波素子においては、窒化アルミニウム単結晶からなり、上記基板と電極との間に基板に接触して形成されたエピタキシャル膜をさらに備えていてもよい。
AlN基板上に、窒化アルミニウム単結晶からなるエピタキシャル膜(AlNエピタキシャル膜)を形成し、AlNエピタキシャル膜上に電極を配置することにより、電極に接触するAlN単結晶の転位密度を容易に減少させることができる。また、AlN基板とAlNエピタキシャル膜は、同種材料の基板と当該基板に対してエピタキシャル成長した膜であるため、サファイアなどの基板上に異種材料であるAlN膜を形成する場合に比べて両者の密着性が高く、かつ界面における熱抵抗の上昇を抑制することができる。
上記弾性表面波素子において好ましくは、エピタキシャル膜の転位密度は9×108cm−2以下である。これにより、弾性表面波の伝播損失を低減することができる。
上記弾性表面波素子において好ましくは、上記エピタキシャル膜の厚さは1μm以上である。これにより、均質なエピタキシャル膜を形成することが容易となるとともに、たとえば弾性表面波素子が通信用フィルターとして用いられる場合、通信用信号の波長に比べてエピタキシャル膜の厚さが大きくなるため、伝播損失を一層抑制することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の表面弾性波素子によれば、圧電体膜と下地層との剥離を回避するとともに、放熱性を向上させ、かつ弾性表面波の伝播速度の向上を達成することが可能な弾性表面波素子を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。図1は、実施の形態1における表面弾性波素子としてのSAW(Surface Acoustic Wave)フィルターの構成を示す概略図である。
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。図1は、実施の形態1における表面弾性波素子としてのSAW(Surface Acoustic Wave)フィルターの構成を示す概略図である。
図1を参照して、実施の形態1におけるSAWフィルター1は、窒化アルミニウム単結晶からなるAlN基板11と、AlN基板11の一方の主面11A上に接触するように形成された1対の櫛歯形状を有する電極である入力側電極21および出力側電極22と、入力側電極21に接続された入力側配線23と、出力側電極22に接続された出力側配線25とを備えている。そして、AlN基板11の主面11AとAlN基板11を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−100)面とのなす角は10°以下となっている。
次に、実施の形態1におけるSAWフィルター1の動作について説明する。図1を参照して、入力側配線23から入力側電極21に入力信号である交流電圧が印加されると、圧電効果によりAlN基板11の主面11A(表面)に弾性表面波が生じ、出力側電極22に伝達される。このとき、入力側電極21および出力側電極22は図1に示すように櫛歯形状を有しているため、入力側電極21から出力側電極22に向かう方向において、AlN基板11の主面のうち電極が形成された領域は所定の周期(電極周期)で存在する。そのため、入力信号により発生した弾性表面波は、その波長が電極周期に一致する場合最も強く励振され、電極周期とのずれが大きいほど減衰する。その結果、電極周期に近い波長の信号のみが出力側電極22および出力側配線25を介して出力される。
上記SAWフィルター1においては、入力側電極21および出力側電極22が形成されるAlN基板11の主面11AとAlN基板11を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−100)面とのなす角が10°以下とされているため、弾性表面波の伝播速度が向上している。また、AlN基板11上に直接入力側電極21および出力側電極22が形成され、サファイア基板など下地層が用いられていないため、圧電体膜と下地層との剥離の問題を回避するとともに、下地層と当該下地層に接触する層との間における熱抵抗に起因した放熱性の低下が回避されている。その結果、本実施の形態におけるのSAWフィルター1は、圧電体膜と下地層との剥離を回避するとともに、放熱性を向上させ、かつ弾性表面波の伝播速度の向上を達成することが可能なSAWフィルターとなっている。
さらに、上記SAWフィルター1においては、平滑度を向上させることが可能なM面に近い主面11A上に入力側電極21および出力側電極22が形成されている。そのため、入力側電極21および出力側電極22が形成される主面11Aの平滑度を、たとえば表面粗さRaが0.3μm以下となる程度にまで向上させることが可能となっている。その結果、たとえば電極(入力側電極21および出力側電極22)を金属の蒸着により形成した場合、当該電極とAlN基板11の主面とが強固に固着し、弾性表面波素子が高周波の弾性表面波を処理する場合でも、発熱に起因した電極の剥離を抑制することができる。また、平滑度の高い主面11A上に電極を形成することにより、たとえば電極を金属の蒸着により形成する場合、均一な電極を形成することが可能となり、発熱に起因した電極の劣化を抑制することができる。
さらに、AlN自立基板上に直接電極が形成された本実施の形態におけるSAWフィルター1は、サファイアなどの基板上にAlNからなる圧電体膜を形成した従来の弾性表面波素子に比べて、高い周波帯域(具体的にはUHF波)まで動作可能となっている。また、AlN単結晶の熱伝導率は30W/cm・Kと高いため、SAWフィルター1は高周波帯域で動作した場合でも放熱効率が高く、冷却が容易である。さらに、SAWフィルター1は、従来の弾性表面波素子に比べて耐熱性にも優れ、より高温での動作が可能となっている。また、SAWフィルター1によれば、サファイアなどの基板上にAlNからなる圧電体膜を形成する工程が省略できるため、製造プロセスを簡略化することが可能である。
また、SAWフィルター1においては、AlN基板11の転位密度は9×108cm−2以下であることが好ましい。これにより、弾性表面波の伝播損失を低減することができる。
さらに、SAWフィルター1においては、AlN基板11の厚さは10μm以上であることが好ましい。これにより、AlN基板11を自立基板として取り扱うことが容易となり、SAWフィルター1の製造および製造後の取り扱いが容易となる。
次に、実施の形態1におけるSAWフィルター1の製造方法について説明する。図2は、実施の形態1におけるSAWフィルターの製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図3は、実施の形態1におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略斜視図である。また、図4および図5は、実施の形態1におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略断面図である。
図2を参照して、実施の形態1におけるSAWフィルター1の製造方法では、まず、工程(S10)としてAlN単結晶成長工程が実施される。この工程(S10)では、SiC(炭化珪素)などの異種基板上にAlN単結晶を成長させることにより、AlN単結晶の厚膜が作製される。具体的には、図3を参照して、直径1インチ以上4インチ以下、たとえば2インチ、面方位(0002)、オフ角0°以上15°以下、たとえば3.5°、ポリタイプ6HのSiC単結晶基板91上に、昇華法によりAlN単結晶厚膜92を成長させる。AlN単結晶厚膜92の厚さは、たとえば50mm程度とすることができる。AlN単結晶厚膜92の成長は、成長温度を1700℃以上2100℃以下、たとえば1900℃程度、成長を実施する容器内の圧力を30kPa以上90kPa以下、たとえば50kPa程度とし、当該容器内に流入する窒素の流量を50sccm以上900sccm以下、たとえば500sccm程度とする条件下で実施することができる。ここで、AlN単結晶厚膜92の転位密度を低減し、9×108cm−2以下とするためには、たとえばAlN単結晶厚膜92の成長の途中で温度を上げることにより、原子の移動を促進することが好ましい。これにより、転位等の欠陥の発生を抑制することができる。
次に、工程(S20)としてM面切断・研磨工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において作製されたAlN単結晶の厚膜を(1−100)面に平行にスライスすることにより、自立した基板として取り扱い可能なAlN単結晶からなる基板であるAlN単結晶自立基板が作製される。具体的には、図3を参照して、まず円盤状のSiC単結晶基板91上に円柱状に成長したAlN単結晶厚膜92の側壁を、円柱の軸に平行な面が形成されるように研削加工する。その後、形成された面の面方位をX線測定器(たとえばX線回折装置など)を用いて計測し、たとえばワイヤーソー加工機を用いてAlN単結晶厚膜92を(1−100)面に平行な切断面92Aにおいて切断する。その後、SiC単結晶基板91を除去することにより、AlN単結晶自立基板93が得られる。AlN単結晶自立基板93の形状は、たとえば縦50mm、横50mm、厚さ1mmである。
そして、AlN単結晶自立基板93に対して研削加工が実施され、主面の面方位が(1−100)面(M面)に対して10°以下の範囲に分布するように、すなわちAlN単結晶自立基板93の主面と窒化アルミニウム単結晶の(1−100)面とのなす角が10°以下となるように調整される。さらに、AlN単結晶自立基板93の主面に対して機械研磨および化学研磨が実施され、表面粗さRaが300nm以下、たとえば10nmとされる。これにより、たとえば厚さ400μmのAlN基板11が得られる。
次に、工程(S30)として電極形成工程が実施される。この工程(S30)では、AlN基板11の一方の主面上に櫛歯型の電極が形成される。具体的には、図4を参照して、工程(S20)において作製されたAlN基板11の一方の主面上に、導電体であるAlの膜(Al膜)が形成される。Al膜の形成は、たとえばスパッタリングにより実施することができる。また、Al膜の厚さは、100nm以上10μm以下、たとえば500nm程度とすることができる。その後、当該Al膜上にレジストが塗布されてレジスト膜が形成された後、露光および現像が実施されることにより、所望の入力側電極21および出力側電極22の形状に対応する領域以外の領域に開口が形成される。そして、開口が形成されたレジスト膜をマスクとして用いて、たとえばウェットエッチングを実施することにより、図4に示すように入力側電極21と出力側電極22とからなる対が複数個形成される。入力側電極21および出力側電極22における櫛歯型電極の電極間隔は、入力される信号の周波数および出力すべき信号の周波数に応じて適宜決定することができるが、0.1μm以上550μm以下、たとえば5.5μmとすることができる。
次に、工程(S40)としてチップ化工程が実施される。この工程(S40)では、図5を参照して、入力側電極21と出力側電極22とからなる対が複数個形成されたAlN基板11が厚さ方向に切断されることにより、1対の入力側電極21および出力側電極22を含む複数のチップに分離される。AlN基板11の切断は、たとえばNd:YAG(Yittrium・Aluminium・Garnet)レーザ(ネオジウム・ヤグレーザ)を用いて実施することができる。ここで、図5における分離後の各チップの断面は、図1における線分V−Vに沿う断面に相当する。
その後、図1を参照して、工程(S40)において作製されたチップに対して入力側配線23および出力側配線25が形成されることにより、実施の形態1におけるSAWフィルター1が完成する。
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。図6は、実施の形態2におけるSAWフィルターの製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図7および図8は、実施の形態2におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略断面図である。
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。図6は、実施の形態2におけるSAWフィルターの製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図7および図8は、実施の形態2におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略断面図である。
実施の形態2におけるSAWフィルターは、実施の形態1の場合と同様の構成を有するが、その製造方法に相違点を有している。図6および図2を参照して、実施の形態2におけるSAWフィルター1の製造方法は、基本的には実施の形態1の場合と同様に実施されるが、AlN基板の作製手順において実施の形態1の場合とは異なっている。
すなわち、図6を参照して、実施の形態2におけるSAWフィルター1の製造方法では、工程(S10)および(S20)が実施の形態1の場合と同様に実施されることにより、たとえば厚さ400μmのAlN単結晶自立基板93が得られる。
次に、実施の形態2においては、工程(S21)としてエピタキシャル成長工程が実施される。この工程(S21)では、AlN単結晶自立基板上に、窒化アルミニウム単結晶からなるエピタキシャル層が形成される。具体的には、図7を参照して、工程(S20)において作製されたAlN単結晶自立基板93の主面上に、昇華法によるエピタキシャル成長により、AlN単結晶からなるAlNエピタキシャル層94が形成される。AlNエピタキシャル層94は、成長温度を1800℃以上2200℃以下、たとえば2100℃、成長を実施する容器内の圧力を30kPa以上90kPa以下、たとえば30kPa程度とし、当該容器内に流入する窒素の流量を50sccm以上900sccm以下、たとえば200sccm程度とする条件下で実施することができる。また、AlNエピタキシャル層94の厚さは、1μm以上100mm以下、たとえば20mm程度とすることができる。ここで、AlNエピタキシャル層94の転位密度を低減し、9×108cm−2以下とするためには、たとえばAlNエピタキシャル層94の成長の途中で温度を上げることにより、原子の移動を促進することが好ましい。これにより、転位等の欠陥の発生を抑制することができる。
次に、工程(S22)としてM面AlN基板作製工程が実施される。この工程(S22)では、工程(S21)において作製されたAlN単結晶のエピタキシャル層がスライスされることにより、AlN単結晶からなるAlN基板が作製される。
具体的には、図8を参照して、たとえばワイヤーソー加工機を用いて、AlN単結晶自立基板93上に形成されたAlNエピタキシャル層94を当該AlNエピタキシャル層94の主面に沿った面でスライスすることにより、たとえば縦50mm、横50mm、厚さ0.5mmのAlN基板11が複数枚作製される。その後、AlN基板11に対しては研削加工が実施され、たとえば主面の面方位が(1−100)面に対して10°以下の範囲に分布するように調整される。さらに、AlN基板11の両側の主面に対して機械研磨および化学研磨が実施され、表面粗さRaが、たとえば5nmとされる。この機械研磨および化学研磨が実施された状態で、AlN基板11の厚さは、たとえば400μm程度となる。
次に、工程(S30)が実施の形態1の場合と同様に実施される。入力側電極21および出力側電極22における櫛歯型電極の電極間隔は、たとえば0.19μmとすることができる。
さらに、工程(S40)が実施の形態1と同様に実施される。AlN基板11の複数のチップへの分割は、たとえばNd:YAGレーザを用いて深さ100μmの溝を形成した後、ブレーキング加工を行なうことにより実施することができる。
その後、実施の形態1の場合と同様に、工程(S40)において作製されたチップに対して入力側配線23および出力側配線25が形成されることにより、実施の形態2におけるSAWフィルター1が完成する。
以上のように、AlN単結晶自立基板93上に形成されたAlNエピタキシャル層94をスライスしてAlN基板11を作製することにより、AlN基板11の転位密度の低減が容易となり、弾性表面波の伝播損失の小さいSAWフィルター1を製造することができる。
(実施の形態3)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。図9は、実施の形態3における表面弾性波素子としてのSAWフィルターの構成を示す概略図である。
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。図9は、実施の形態3における表面弾性波素子としてのSAWフィルターの構成を示す概略図である。
図9を参照して、実施の形態3におけるSAWフィルター1は、基本的には実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様に動作するとともに同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3におけるSAWフィルター1は、AlN基板11と入力側電極21および出力側電極22との間にAlNエピタキシャル膜12が配置されている点において、実施の形態1の場合とは異なっている。
すなわち、実施の形態3におけるSAWフィルター1においては、AlN基板11と入力側電極21および出力側電極22との間に、AlN基板11の一方の主面上にエピタキシャル成長した窒化アルミニウム単結晶からなるAlNエピタキシャル膜12が形成されている。そして、当該AlNエピタキシャル膜12上に接触して、入力側電極21および出力側電極22が形成されている。なお、実施の形態3におけるSAWフィルター1は、弾性表面波がAlNエピタキシャル膜12の主面において生じ、AlNエピタキシャル膜12を伝播する点を除いて、実施の形態1の場合と同様に動作する。
実施の形態3におけるSAWフィルター1においては、AlN基板11上にAlNエピタキシャル膜12を形成し、AlNエピタキシャル膜12上に接触して入力側電極21および出力側電極22を配置することにより、入力側電極21および出力側電極22に接触するAlN単結晶の転位密度を減少させることが容易となっている。また、AlN基板11とAlNエピタキシャル膜12は、同種材料の基板と当該基板に対してエピタキシャル成長した膜であるため、サファイアなどの基板上に異種材料であるAlN膜を形成する場合に比べて両者の密着性が高く、かつ界面における熱抵抗の上昇が抑制されている。
また、本実施の形態におけるSAWフィルター1においては、AlNエピタキシャル膜12の転位密度は9×108cm−2以下であることが好ましい。これにより、弾性表面波の伝播損失を低減することができる。
さらに、本実施の形態におけるSAWフィルター1においては、AlNエピタキシャル膜12の厚さは1μm以上であることが好ましい。
これにより、均質なAlNエピタキシャル膜12を形成することが容易になるとともに、SAWフィルター1が通信用フィルターとして用いられる場合、通信用信号の波長に比べてAlNエピタキシャル膜12の厚さが大きくなるため、伝播損失を一層抑制することができる。
次に、実施の形態3におけるSAWフィルター1の製造方法について説明する。図10は、実施の形態3におけるSAWフィルターの製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図11〜図13は、実施の形態3におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略断面図である。
図10および図2を参照して、実施の形態3におけるSAWフィルター1の製造方法は、基本的には実施の形態1の場合と同様に実施される。しかし、実施の形態3においては、AlN基板11上にAlNエピタキシャル膜12が形成される点において、実施の形態1とは異なっている。
すなわち、図10を参照して、実施の形態3におけるSAWフィルター1の製造方法においては、工程(S10)および(S20)が実施の形態1の場合と同様に実施され、AlN基板が作製された後、工程(S23)としてエピタキシャル膜形成工程が実施される。この工程(S23)では、図11を参照して、工程(S20)において作製されたAlN基板11の主面上に、昇華法によるエピタキシャル成長により、AlN単結晶からなるAlNエピタキシャル膜12が形成される。AlNエピタキシャル膜12は、たとえば成長温度を2100℃、成長を実施する容器内の圧力を30kPa程度とし、当該容器内に流入する窒素の流量を200sccm程度とする条件下で実施することができる。また、AlNエピタキシャル膜12の厚さは、1μm以上1mm以下、たとえば100μm程度とすることができる。ここで、AlNエピタキシャル膜12の転位密度を低減し、9×108cm−2以下とするためには、たとえばAlNエピタキシャル膜12の成長の途中で温度を上げることにより、原子の移動を促進することが好ましい。これにより、転位等の欠陥の発生を抑制することができる。以上の手順により、自立した基板として取り扱い可能な厚さ0.5mm程度のAlNエピタキシャル膜12付きAlN基板11が得られる。
その後、AlNエピタキシャル膜12付きAlN基板11の両側の主面(AlN基板11とは反対側のAlNエピタキシャル膜12の主面、およびAlNエピタキシャル膜12とは反対側のAlN基板11の主面)に対して研削加工が実施され、たとえばAlN基板11とは反対側のAlNエピタキシャル膜12の主面の面方位が、(1−100)面に対して10°以下の範囲に分布するように調整される。さらに、AlNエピタキシャル膜12付きAlN基板11の両側の主面に対して機械研磨および化学研磨が実施され、たとえば表面粗さRaが0.3nmとされる。この機械研磨および化学研磨が実施された状態で、AlNエピタキシャル膜12付きAlN基板11の厚さは、たとえば400μm程度となる。
次に、工程(S30)として電極形成工程が実施される。この工程(S30)では、図12を参照して、AlNエピタキシャル膜12の主面上に、たとえば厚さ300nmのAl膜がスパッタリングにより形成される。その後、当該Al膜上にレジストが塗布されてレジスト膜が形成された後、露光および現像が実施されることにより、所望の入力側電極21および出力側電極22の形状に対応する領域以外の領域に開口が形成される。そして、開口が形成されたレジスト膜をマスクとして用いて、たとえばウェットエッチングを実施することにより、図12に示すように入力側電極21と出力側電極22とからなる対が複数個形成される。入力側電極21および出力側電極22における櫛歯型電極の電極間隔は、たとえば0.19μmとすることができる。
次に、工程(S40)としてチップ化工程が実施される。この工程(S40)では、図13を参照して、入力側電極21と出力側電極22とからなる対が複数個形成されたAlNエピタキシャル膜12付きAlN基板11が、1対の入力側電極21および出力側電極22を含む複数のチップに分割される。AlNエピタキシャル膜12付きAlN基板11の複数のチップへの分割は、たとえばNd:YAGレーザを用いて深さ100μmの溝を形成した後、ブレーキング加工を行なうことにより実施することができる。なお、図13における分離後の各チップの断面は、図9における線分XIII−XIIIに沿う断面に相当する。
その後、図9を参照して、工程(S40)において作製されたチップに対して入力側配線23および出力側配線25が形成されることにより、実施の形態3におけるSAWフィルター1が完成する。なお、上記実施の形態3においては、AlN基板が実施の形態1と同様の手順で作製される場合について説明したが、実施の形態2と同様の手順で作製されてもよい。
(実施の形態4)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態4について説明する。図14は、実施の形態4における表面弾性波素子としてのSAWフィルターの構成を示す概略図である。
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態4について説明する。図14は、実施の形態4における表面弾性波素子としてのSAWフィルターの構成を示す概略図である。
図14を参照して、実施の形態4におけるSAWフィルター2は、基本的には実施の形態1のSAWフィルター1と同様の構成を有し、同様に動作するとともに同様の効果を奏する。しかし、実施の形態4におけるSAWフィルター2は、M面に近い主面11Aを有するAlN基板11に代えて、R面に近い主面51Aを有するAlN基板51を備えている点において、実施の形態1のSAWフィルター1とは異なっている。より具体的には、AlN基板51の主面51AとAlN基板51を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−102)面とのなす角は10°以下となっている。なお、実施の形態4におけるSAWフィルター2は、弾性表面波がAlN基板51の主面において生じ、AlN基板51を伝播する点を除いて、実施の形態1の場合と同様に動作する。
上記SAWフィルター2においては、入力側電極21および出力側電極22が形成されるAlN基板51の主面51AとAlN基板51を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−102)面とのなす角が10°以下とされているため、弾性表面波の伝播速度が実施の形態1の場合よりもさらに向上している。また、AlN基板51上に直接入力側電極21および出力側電極22が形成され、サファイア基板など下地層が用いられていないため、圧電体膜と下地層との剥離の問題を回避するとともに、下地層と当該下地層に接触する層との間における熱抵抗に起因した放熱性の低下が回避されている。その結果、本実施の形態におけるのSAWフィルター2は、圧電体膜と下地層との剥離を回避するとともに、放熱性を向上させ、かつ弾性表面波の伝播速度の向上を達成することが可能なSAWフィルターとなっている。
次に、実施の形態4におけるSAWフィルター2の製造方法について説明する。図15は、実施の形態4におけるSAWフィルターの製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図16は、実施の形態4におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略斜視図である。また、図17および図18は、実施の形態4におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略断面図である。
図15および図2を参照して、実施の形態4におけるSAWフィルター2は、基本的には実施の形態1におけるSAWフィルター1と同様に製造することができる。しかし、上述のようにAlN基板の主面の面方位が異なることに起因して、AlN基板の作製手順において、実施の形態4におけるSAWフィルター2の製造方法は、実施の形態1におけるSAWフィルター1の製造方法とは異なっている。
すなわち、図15を参照して、実施の形態4におけるSAWフィルター1の製造方法では、まず、実施の形態1の場合と同様に、工程(S10)が実施される。具体的には、図16を参照して、たとえば直径1インチ、面方位(0002)、オフ角0°、ポリタイプ6HのSiC単結晶基板91上に、昇華法によりAlN単結晶厚膜92を成長させる。AlN単結晶厚膜92の厚さは、たとえば80mm程度とすることができる。AlN単結晶厚膜92の成長は、たとえば成長温度を1850℃程度、成長を実施する容器内の圧力を60kPa程度とし、当該容器内に流入する窒素の流量を200sccm程度とする条件下で実施することができる。
次に、工程(S25)としてR面切断・研磨工程が実施される。この工程(S25)では、工程(S10)において作製されたAlN単結晶の厚膜を(1−102)面に平行にスライスすることにより、自立した基板として取り扱い可能なAlN単結晶からなる基板であるAlN単結晶自立基板が作製される。具体的には、図16を参照して、まず円盤状のSiC単結晶基板91上に円柱状に成長したAlN単結晶厚膜92の側壁を研削加工し、平坦な面を形成する。その後、形成された面の面方位をX線測定器(たとえばX線回折装置など)を用いて計測し、たとえばワイヤーソー加工機を用いてAlN単結晶厚膜92を(1−102)面に平行な切断面92Bにおいて切断することにより、AlN単結晶自立基板95が得られる。AlN単結晶自立基板95の形状は、たとえば直径(長径)約25mm、厚さ1mmである。
そして、AlN単結晶自立基板95に対して研削加工が実施され、主面の面方位が(1−102)面(R面)に対して10°以下の範囲に分布するように、すなわちAlN単結晶自立基板95の主面と窒化アルミニウム単結晶の(1−102)面とのなす角が10°以下となるように調整される。さらに、AlN単結晶自立基板95の主面に対して機械研磨および化学研磨が実施され、表面粗さRaが300nm以下、たとえば1nmとされる。これにより、たとえば厚さ400μmのAlN基板11が得られる。
次に、工程(S30)が実施の形態1の場合と同様に実施される。具体的には、図17を参照して、工程(S25)において作製されたAlN基板51の一方の主面上に、たとえば厚さ150nm程度のAl膜が形成され、実施の形態1の場合と同様にフォトリソグラフィプロセスによりレジストからなるマスクが形成される。そして、ウェットエッチングが実施されることにより、図17に示すように入力側電極21と出力側電極22とからなる対が複数個形成される。
次に、工程(S40)が実施の形態1の場合と同様に実施される。すなわち、図18を参照して、入力側電極21と出力側電極22とからなる対が複数個形成されたAlN基板51が厚さ方向に切断されることにより、1対の入力側電極21および出力側電極22を含む複数のチップに分離される。ここで、図18における分離後の各チップの断面は、図14における線分XVIII−XVIIIに沿う断面に相当する。
その後、図14を参照して、工程(S40)において作製されたチップに対して入力側配線23および出力側配線25が形成されることにより、実施の形態4におけるSAWフィルター2が完成する。
(実施の形態5)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態5について説明する。図19は、実施の形態5におけるSAWフィルターの製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図20および図21は、実施の形態5におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略断面図である。
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態5について説明する。図19は、実施の形態5におけるSAWフィルターの製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図20および図21は、実施の形態5におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略断面図である。
実施の形態5におけるSAWフィルターは、実施の形態4の場合と同様の構成を有するが、その製造方法に相違点を有している。図19および図15を参照して、実施の形態5におけるSAWフィルター2の製造方法は、基本的には実施の形態4の場合と同様に実施されるが、AlN基板の作製手順において実施の形態4の場合とは異なっている。
すなわち、図19を参照して、実施の形態5におけるSAWフィルター2の製造方法では、工程(S10)および(S25)が実施の形態4の場合と同様に実施されることにより、AlN単結晶自立基板95が作製される。
次に、実施の形態5においては、工程(S26)としてエピタキシャル成長工程が実施される。この工程(S26)では、AlN単結晶自立基板上に、窒化アルミニウム単結晶からなるエピタキシャル層が形成される。具体的には、図20を参照して、工程(S25)において作製されたAlN単結晶自立基板95の主面上に、昇華法によるエピタキシャル成長により、AlN単結晶からなるAlNエピタキシャル層96が形成される。AlNエピタキシャル層96は、成長温度を1800℃以上2300℃以下、たとえば2200℃、成長を実施する容器内の圧力を30kPa以上90kPa以下、たとえば40kPa程度とし、当該容器内に流入する窒素の流量を50sccm以上900sccm以下、たとえば400sccm程度とする条件下で実施することができる。また、AlNエピタキシャル層96の厚さは、1μm以上100mm以下、たとえば30mm程度とすることができる。ここで、AlNエピタキシャル層96の転位密度を低減し、9×108cm−2以下とするためには、たとえばAlNエピタキシャル層96の成長の途中で温度を上げることにより、原子の移動を促進することが好ましい。これにより、転位等の欠陥の発生を抑制することができる。
次に、工程(S27)としてR面AlN基板作製工程が実施される。この工程(S27)では、工程(S26)において作製されたAlN単結晶のエピタキシャル層がスライスされることにより、AlN単結晶からなるAlN基板が作製される。
具体的には、図21を参照して、たとえばワイヤーソー加工機を用いて、AlN単結晶自立基板95上に形成されたAlNエピタキシャル層96を当該AlNエピタキシャル層96の主面に沿った面でスライスすることにより、たとえば直径約25mm、厚さ0.5mmのAlN基板51が複数枚作製される。その後、AlN基板51に対しては研削加工が実施され、たとえば主面の面方位が(1−102)面に対して10°以下の範囲に分布するように調整される。さらに、AlN基板51の両側の主面に対して機械研磨および化学研磨が実施され、表面粗さRaが、たとえば1nmとされる。この機械研磨および化学研磨が実施された状態で、AlN基板51の厚さは、たとえば400μm程度となる。
次に、工程(S30)が実施の形態4の場合と同様に実施される。形成されるAl膜の厚さは、たとえば250nmとすることができる。また、入力側電極21および出力側電極22における櫛歯型電極の電極間隔は、たとえば5.5μmとすることができる。
さらに、工程(S40)が実施の形態1と同様に実施される。AlN基板51の複数のチップへの分割は、たとえばNd:YAGレーザを用いて深さ100μmの溝を形成した後、ブレーキング加工を行なうことにより実施することができる。
その後、実施の形態4の場合と同様に、工程(S40)において作製されたチップに対して入力側配線23および出力側配線25が形成されることにより、実施の形態5におけるSAWフィルター2が完成する。
以上のように、AlN単結晶自立基板95上に形成されたAlNエピタキシャル層96をスライスしてAlN基板51を作製することにより、AlN基板51の転位密度の低減が容易となり、弾性表面波の伝播損失の小さいSAWフィルター2を製造することができる。
(実施の形態6)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態6について説明する。図22は、実施の形態6における表面弾性波素子としてのSAWフィルターの構成を示す概略図である。
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態6について説明する。図22は、実施の形態6における表面弾性波素子としてのSAWフィルターの構成を示す概略図である。
図22を参照して、実施の形態6におけるSAWフィルター2は、基本的には実施の形態4の場合と同様の構成を有し、同様に動作するとともに同様の効果を奏する。しかし、実施の形態6におけるSAWフィルター2は、AlN基板51と入力側電極21および出力側電極22との間にAlNエピタキシャル膜52が配置されている点において、実施の形態4の場合とは異なっている。
すなわち、実施の形態6におけるSAWフィルター2においては、AlN基板51と入力側電極21および出力側電極22との間に、AlN基板51の一方の主面上にエピタキシャル成長した窒化アルミニウム単結晶からなるAlNエピタキシャル膜52が形成されている。そして、当該AlNエピタキシャル膜52上に接触して、入力側電極21および出力側電極22が形成されている。なお、実施の形態6におけるSAWフィルター2は、弾性表面波がAlNエピタキシャル膜52の主面において生じ、AlNエピタキシャル膜52を伝播する点を除いて、実施の形態4の場合と同様に動作する。
実施の形態6におけるSAWフィルター2においては、AlN基板51上にAlNエピタキシャル膜52を形成し、AlNエピタキシャル膜52上に接触して入力側電極21および出力側電極22を配置することにより、入力側電極21および出力側電極22に接触するAlN単結晶の転位密度を減少させることが容易となっている。また、AlN基板51とAlNエピタキシャル膜52は、同種材料の基板と当該基板に対してエピタキシャル成長した膜であるため、サファイアなどの基板上に異種材料であるAlN膜を形成する場合に比べて両者の密着性が高く、かつ界面における熱抵抗の上昇が抑制されている。
また、本実施の形態におけるSAWフィルター2においては、AlNエピタキシャル膜52の転位密度は9×108cm−2以下であることが好ましい。これにより、弾性表面波の伝播損失を低減することができる。
さらに、本実施の形態におけるSAWフィルター2においては、AlNエピタキシャル膜52の厚さは1μm以上であることが好ましい。
これにより、均質なAlNエピタキシャル膜52を形成することが容易になるとともに、SAWフィルター2が通信用フィルターとして用いられる場合、通信用信号の波長に比べてAlNエピタキシャル膜52の厚さが大きくなるため、伝播損失を一層抑制することができる。
次に、実施の形態6におけるSAWフィルター2の製造方法について説明する。図23は、実施の形態6におけるSAWフィルターの製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図24〜図26は、実施の形態6におけるSAWフィルターの製造方法を説明するための概略断面図である。
図23および図15を参照して、実施の形態6におけるSAWフィルター2の製造方法は、基本的には実施の形態4の場合と同様に実施される。しかし、実施の形態6においては、AlN基板51上にAlNエピタキシャル膜52が形成される点において、実施の形態4とは異なっている。
すなわち、図23を参照して、実施の形態6におけるSAWフィルター2の製造方法においては、工程(S10)および(S25)が実施の形態4の場合と同様に実施され、AlN基板が作製された後、工程(S28)としてエピタキシャル膜形成工程が実施される。この工程(S28)では、図24を参照して、工程(S25)において作製されたAlN基板51の主面上に、昇華法によるエピタキシャル成長により、AlN単結晶からなるAlNエピタキシャル膜52が形成される。AlNエピタキシャル膜52は、たとえば成長温度を2100℃、成長を実施する容器内の圧力を30kPa程度とし、当該容器内に流入する窒素の流量を200sccm程度とする条件下で実施することができる。また、AlNエピタキシャル膜52の厚さは、1μm以上1mm以下、たとえば100μm程度とすることができる。ここで、AlNエピタキシャル膜52の転位密度を低減し、9×108cm−2以下とするためには、たとえばAlNエピタキシャル膜52の成長の途中で温度を上げることにより、原子の移動を促進することが好ましい。これにより、転位等の欠陥の発生を抑制することができる。以上の手順により、自立した基板として取り扱い可能な厚さ0.5mm程度のAlNエピタキシャル膜52付きAlN基板51が得られる。
その後、AlNエピタキシャル膜52付きAlN基板51の両側の主面(AlN基板51とは反対側のAlNエピタキシャル膜52の主面、およびAlNエピタキシャル膜52とは反対側のAlN基板51の主面)に対して研削加工が実施され、たとえばAlN基板51とは反対側のAlNエピタキシャル膜52の主面の面方位が、(1−102)面に対して10°以下の範囲に分布するように調整される。さらに、AlNエピタキシャル膜52付きAlN基板51の両側の主面に対して機械研磨および化学研磨が実施され、たとえば表面粗さRaが0.3nmとされる。この機械研磨および化学研磨が実施された状態で、AlNエピタキシャル膜52付きAlN基板51の厚さは、たとえば400μm程度となる。
次に、工程(S30)として電極形成工程が実施される。この工程(S30)では、図25を参照して、AlNエピタキシャル膜52の主面上に、たとえば厚さ300nmのAl膜がスパッタリングにより形成される。その後、当該Al膜上にレジストが塗布されてレジスト膜が形成された後、露光および現像が実施されることにより、所望の入力側電極21および出力側電極22の形状に対応する領域以外の領域に開口が形成される。そして、開口が形成されたレジスト膜をマスクとして用いて、たとえばウェットエッチングを実施することにより、図25に示すように入力側電極21と出力側電極22とからなる対が複数個形成される。入力側電極21および出力側電極22における櫛歯型電極の電極間隔は、たとえば0.19μmとすることができる。
次に、工程(S40)としてチップ化工程が実施される。この工程(S40)では、図26を参照して、入力側電極21と出力側電極22とからなる対が複数個形成されたAlNエピタキシャル膜12付きAlN基板11が、1対の入力側電極21および出力側電極22を含む複数のチップに分割される。AlNエピタキシャル膜52付きAlN基板51の複数のチップへの分割は、たとえばNd:YAGレーザを用いて深さ100μmの溝を形成した後、ブレーキング加工を行なうことにより実施することができる。なお、図26における分離後の各チップの断面は、図22における線分XXVI−XXVIに沿う断面に相当する。
その後、図22を参照して、工程(S40)において作製されたチップに対して入力側配線23および出力側配線25が形成されることにより、実施の形態6におけるSAWフィルター2が完成する。なお、上記実施の形態6においては、AlN基板が実施の形態4と同様の手順で作製される場合について説明したが、実施の形態5と同様の手順で作製されてもよい。
以下、本発明の実施例1について説明する。上記実施の形態1と同様の構成を有するSAWフィルターを作製し、(1)動作特性、(2)電極の耐久性、および(3)転位密度と損失との関係、を調査する実験を行なった。実験の手順および結果は以下の通りである。
(1)動作特性
まず、上記実施の形態1と同様の方法で素子(SAWフィルター)を作製した。工程(S10)においては、直径2インチ、面方位(0002)、オフ角3.5°、ポリタイプ6HのSiC基板上に、昇華法により厚さ50mmのAlN単結晶厚膜を形成した。成長温度は約1900℃、成長を実施する容器内の圧力は50kPaとし、当該容器内に窒素を500sccmの流量で流入させた。工程(S20)では、ワイヤーソー加工機を用いて厚さ1mmのAlN基板を作製し、主面の面方位が(1−100)面に対して10°以下の範囲で分布するように主面を研削加工した。さらに、両側の主面に機械研磨および化学研磨を施し、表面粗さRaを10nm、厚さを400μmとした。
まず、上記実施の形態1と同様の方法で素子(SAWフィルター)を作製した。工程(S10)においては、直径2インチ、面方位(0002)、オフ角3.5°、ポリタイプ6HのSiC基板上に、昇華法により厚さ50mmのAlN単結晶厚膜を形成した。成長温度は約1900℃、成長を実施する容器内の圧力は50kPaとし、当該容器内に窒素を500sccmの流量で流入させた。工程(S20)では、ワイヤーソー加工機を用いて厚さ1mmのAlN基板を作製し、主面の面方位が(1−100)面に対して10°以下の範囲で分布するように主面を研削加工した。さらに、両側の主面に機械研磨および化学研磨を施し、表面粗さRaを10nm、厚さを400μmとした。
工程(S30)では、AlN基板上に約500nmの厚さのAl膜を形成し、フォトリソグラフィープロセスにより、レジストからなるマスクを形成した後、ウェットエッチングを実施することによりAl膜の一部を除去して、Alからなる入力側電極および出力側電極を形成した。櫛歯型電極の電極間隔は5.5μmとした。そして、工程(S40)では、Nd:YAGレーザを用いてAlN基板を切断し、実験用の素子を得た。
そして、得られた素子の性能を、ネットワークアナライザーを用いて評価した。入力する帯域周波数を0.95GHz〜1.05GHz、出力する周波数を1GHzとした場合、挿入損失は0.5dBであった。このことから、本発明の表面弾性波素子は、十分に小さい挿入損失を達成していることが確認された。
また、素子を恒温槽に装入し、素子の温度を約500℃まで上昇させ、動作の可否を調査したところ、正常に動作した。このことから、本発明の弾性表面波素子は、高温での動作が可能であることが確認された。
以上の実験結果より、M面あるいはM面に近い主面を有するAlN自立基板の主面上に直接電極が形成された本発明の弾性表面波素子は、サファイアなどの基板上にAlNからなる圧電体膜を形成した従来の弾性表面波素子に比べて、製造プロセスを簡略化しつつ、圧電体膜の剥離を回避するとともに、損失の低減、高温での動作を達成可能であることが分かった。
(2)電極の耐久性
上記(1)と同様のプロセスで、電極が形成されるAlN基板の主面の表面粗さRaが1nm〜1×105nm(100μm)の9種類、面方位分布(AlN基板の主面と(1−100)面とのなす角)が10°以下および10°を超え20℃以下の2種類の組合せで18種類の素子のサンプルを各20個ずつ準備し、恒温槽に投入した。電極はAl電極とし、その形成は、蒸着法によるAl膜の成膜およびフォトリソグラフィープロセスにより実施した。また、AlN基板の転位密度は1.2×104cm−2とした。そして、素子の温度を500℃まで上昇させた後、当該素子を恒温槽から取り出し、Al電極の剥離が発生しているか否かを調査した。
上記(1)と同様のプロセスで、電極が形成されるAlN基板の主面の表面粗さRaが1nm〜1×105nm(100μm)の9種類、面方位分布(AlN基板の主面と(1−100)面とのなす角)が10°以下および10°を超え20℃以下の2種類の組合せで18種類の素子のサンプルを各20個ずつ準備し、恒温槽に投入した。電極はAl電極とし、その形成は、蒸着法によるAl膜の成膜およびフォトリソグラフィープロセスにより実施した。また、AlN基板の転位密度は1.2×104cm−2とした。そして、素子の温度を500℃まで上昇させた後、当該素子を恒温槽から取り出し、Al電極の剥離が発生しているか否かを調査した。
図27は、AlN基板の表面粗さRaとAl電極の剥離した割合との関係を示す図である。図27において、横軸は電極が形成されたAlN基板の主面の表面粗さRaを示しており、縦軸は恒温槽に投入されて加熱された素子のうちAl電極の剥離が発生した素子の割合を示している。また、図27において、丸印は面方位分布が10°以下の素子、四角印は面方位が10°を超え20°以下の素子のデータを示している。
図27を参照して、AlN基板の主面の表面粗さが大きくなると電極の剥離の割合が高くなる傾向があるものの、表面粗さを5μm以下とすることにより、電極の剥離を回避可能であることが確認された。また、AlN基板の主面の表面粗さが同じであれば、AlN基板の主面の面方位分布を10°以下とすることにより、面方位分布が10°を超える場合に比べて、電極の剥離を抑制できることが確認された。
(3)転位密度と損失との関係
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1×105cm−2〜8×109cm−2のAlN基板を用いて素子を作製した。そして、各素子の損失(挿入損失)を測定し、AlN基板の転位密度と挿入損失との関係を調査した。
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1×105cm−2〜8×109cm−2のAlN基板を用いて素子を作製した。そして、各素子の損失(挿入損失)を測定し、AlN基板の転位密度と挿入損失との関係を調査した。
図28は、AlN基板の転位密度と素子の挿入損失との関係を示す図である。図28を参照して、転位密度が9×108cm−2以下の範囲においては挿入損失が0.1〜0.2dBであるのに対し、転位密度が9×108cm−2を超える1×109cm−2以上では挿入損失が増加していくことが分かった。このことから、M面またはM面に近い主面を有するAlN基板の主面上に直接電極を形成した本発明の表面弾性波素子においては、AlN基板の転位密度は9×108cm−2以下であることが好ましいことが確認された。
以下、本発明の実施例2について説明する。上記実施の形態2と同様の構成を有するSAWフィルターを作製し、(1)動作特性、(2)電極の耐久性、および(3)転位密度と損失との関係、を調査する実験を行なった。実験の手順および結果は以下の通りである。
(1)動作特性
まず、上記実施の形態2と同様の方法で素子(SAWフィルター)を作製した。工程(S10)および(S20)を上記実施例1の場合と同様に実施した後、工程(S21)では、得られたAlN単結晶自立基板上に昇華法によるエピタキシャル成長により、厚さ20mmのAlNエピタキシャル層を成長させた。成長温度は約2100℃、成長を実施する容器内の圧力は30kPaとし、当該容器内に窒素を200sccmの流量で流入させた。
まず、上記実施の形態2と同様の方法で素子(SAWフィルター)を作製した。工程(S10)および(S20)を上記実施例1の場合と同様に実施した後、工程(S21)では、得られたAlN単結晶自立基板上に昇華法によるエピタキシャル成長により、厚さ20mmのAlNエピタキシャル層を成長させた。成長温度は約2100℃、成長を実施する容器内の圧力は30kPaとし、当該容器内に窒素を200sccmの流量で流入させた。
ここで、上記手順により2枚のAlN単結晶自立基板上にAlNエピタキシャル層を形成し、うち1枚のAlN単結晶自立基板上に形成されたAlNエピタキシャル層の転位密度をEPD法により調査した。EPD法による転位密度の調査は、以下のように行なった。まず、KOHとNaOHとを質量比1:1で混合した温度250℃の融液中に、AlN単結晶自立基板上に形成されたAlNエピタキシャル層を30分間浸漬してエッチングした。そして、洗浄を実施した後、顕微鏡を用いてAlNエピタキシャル層の主面に発生したエッチピットの個数を調査し、単位面積あたりのエッチピットの個数を算出した。その結果、転位密度は3×104cm−2という低い値であることが分かった。このことから、AlN単結晶自立基板上には転位密度が抑制された高品質なAlNエピタキシャル層が形成されていることが確認された。また、AlNエピタキシャル層の主面の面方位をX線測定(X線回折)により確認したところ、面方位は(1−100)となっていることが確認された。
工程(S22)では、ワイヤーソー加工機を用いて厚さ0.5mmのAlN基板を作製し、AlN基板の主面の面方位が(1−100)面に対して10°以下の範囲で分布するように主面を研削加工した。さらに、両側の主面に機械研磨および化学研磨を施し、表面粗さRaを5nm、厚さ400μmとした。
工程(S30)では、AlN基板上に約200nmの厚さのAl膜を形成し、フォトリソグラフィープロセスにより、レジストからなるマスクを形成した後、ウェットエッチングを実施することによりAl膜の一部を除去して、Alからなる入力側電極および出力側電極を形成した。櫛歯型電極の電極間隔は0.19μmとした。そして、工程(S40)では、Nd:YAGレーザを用いてAlN基板に深さ100μmの溝を形成し、さらにブレーキング加工によりAlN基板を分割し、実験用の素子を得た。
そして、得られた素子の性能を、ネットワークアナライザーを用いて評価した。入力する帯域周波数を28.95GHz〜29.05GHz、出力する周波数を29GHzとした場合、挿入損失は0.1dBであった。このことから、本発明の表面弾性波素子は、十分に小さい挿入損失を達成していることが確認された。
また、素子を恒温槽に装入し、素子の温度を約500℃まで上昇させ、動作の可否を調査したところ、正常に動作した。このことから、本発明の弾性表面波素子は、高温での動作が可能であることが確認された。
以上の実験結果より、AlNエピタキシャル層をスライスして作製されることにより転位密度が小さく、M面あるいはM面に近い主面を有するAlN基板の表面に電極を形成した本発明の弾性表面波素子は、サファイアなどの基板上にAlNからなる圧電体膜を形成した従来の弾性表面波素子に比べて、製造プロセスを簡略化しつつ、圧電体膜の剥離を回避するとともに、損失の低減、高温での動作を達成可能であることが分かった。
(2)電極の耐久性
上記(1)と同様のプロセスで、電極が形成されるAlN基板の主面の表面粗さRaが1nm〜1×105nm(100μm)の9種類、面方位分布(AlN基板の主面と(1−100)面とのなす角)が10°以下および10°を超え20℃以下の2種類の組合せで18種類の素子のサンプルを各20個ずつ準備し、恒温槽に投入した。電極はAl電極とし、その形成は、蒸着法によるAl膜の成膜およびフォトリソグラフィープロセスにより実施した。また、AlN基板の転位密度は1.0×104cm−2とした。そして、素子の温度を500℃まで上昇させた後、恒温槽から取り出し、Al電極の剥離が発生しているか否かを調査した。
上記(1)と同様のプロセスで、電極が形成されるAlN基板の主面の表面粗さRaが1nm〜1×105nm(100μm)の9種類、面方位分布(AlN基板の主面と(1−100)面とのなす角)が10°以下および10°を超え20℃以下の2種類の組合せで18種類の素子のサンプルを各20個ずつ準備し、恒温槽に投入した。電極はAl電極とし、その形成は、蒸着法によるAl膜の成膜およびフォトリソグラフィープロセスにより実施した。また、AlN基板の転位密度は1.0×104cm−2とした。そして、素子の温度を500℃まで上昇させた後、恒温槽から取り出し、Al電極の剥離が発生しているか否かを調査した。
図29は、AlN基板の表面粗さRaとAl電極の剥離した割合との関係を示す図である。図29において、横軸は電極が形成されたAlN基板の主面の表面粗さRaを示しており、縦軸は恒温槽に投入されて加熱された素子のうちAl電極の剥離が発生した素子の割合を示している。また、図29において、丸印は面方位分布が10°以下の素子、四角印は面方位が10°を超え20°以下の素子のデータを示している。
図29を参照して、AlN基板の主面の表面粗さが大きくなると電極の剥離の割合が高くなる傾向があるものの、表面粗さを5μm以下とすることにより、電極の剥離を回避可能であることが確認された。また、AlN基板の主面の表面粗さが同じであれば、AlN基板の主面の面方位分布を10°以下とすることにより、面方位分布が10°を超える場合に比べて電極の剥離を抑制できることが確認された。
(3)転位密度と損失との関係
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1×104cm−2〜9×109cm−2のAlN基板を用いて素子を作製した。そして、各素子の損失(挿入損失)を測定し、AlN基板の転位密度と挿入損失との関係を調査した。
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1×104cm−2〜9×109cm−2のAlN基板を用いて素子を作製した。そして、各素子の損失(挿入損失)を測定し、AlN基板の転位密度と挿入損失との関係を調査した。
図30は、AlN基板の転位密度と素子の挿入損失との関係を示す図である。図30を参照して、転位密度が9×108cm−2以下の範囲においては挿入損失が0.1〜0.2dBであるのに対し、転位密度が9×108cm−2を超える1×109cm−2以上では挿入損失が増加していくことが分かった。このことから、M面またはM面に近い主面を有するAlN基板の主面上に直接電極を形成した本発明の表面弾性波素子においては、AlN基板の転位密度は9×108cm−2以下であることが好ましいことが確認された。
以下、本発明の実施例3について説明する。上記実施の形態4と同様の構成を有するSAWフィルターを作製し、(1)動作特性、(2)周波数と伝播速度との関係、および(3)転位密度と損失との関係、を調査する実験を行なった。実験の手順および結果は以下の通りである。
(1)動作特性
まず、上記実施の形態4と同様の方法で素子(SAWフィルター)を作製した。工程(S10)においては、直径1インチ、面方位(0002)、オフ角0°、ポリタイプ6HのSiC基板上に、昇華法により厚さ80mmのAlN単結晶厚膜を形成した。成長温度は約1850℃、成長を実施する容器内の圧力は60kPaとし、当該容器内に窒素を200sccmの流量で流入させた。工程(S25)では、ワイヤーソー加工機を用いて厚さ1mm、直径約25mmのAlN基板を作製し、主面の面方位が(1−102)面に対して10°以下の範囲で分布するように主面を研削加工した。さらに、両側の主面に機械研磨および化学研磨を施し、表面粗さRaを1nm、厚さを400μmとした。
まず、上記実施の形態4と同様の方法で素子(SAWフィルター)を作製した。工程(S10)においては、直径1インチ、面方位(0002)、オフ角0°、ポリタイプ6HのSiC基板上に、昇華法により厚さ80mmのAlN単結晶厚膜を形成した。成長温度は約1850℃、成長を実施する容器内の圧力は60kPaとし、当該容器内に窒素を200sccmの流量で流入させた。工程(S25)では、ワイヤーソー加工機を用いて厚さ1mm、直径約25mmのAlN基板を作製し、主面の面方位が(1−102)面に対して10°以下の範囲で分布するように主面を研削加工した。さらに、両側の主面に機械研磨および化学研磨を施し、表面粗さRaを1nm、厚さを400μmとした。
工程(S30)では、AlN基板上に約150nmの厚さのAl膜を形成し、フォトリソグラフィープロセスにより、レジストからなるマスクを形成した後、ウェットエッチングを実施することによりAl膜の一部を除去して、Alからなる入力側電極および出力側電極を形成した。櫛歯型電極の電極間隔は5.5μmとした。そして、工程(S40)では、Nd:YAGレーザを用いてAlN基板を切断し、実験用の素子を得た。
そして、得られた素子の性能を、ネットワークアナライザーを用いて評価した。入力する帯域周波数を0.95GHz〜1.05GHz、出力する周波数を1GHzとした場合、挿入損失は0.5dBであった。このことから、本発明の表面弾性波素子は、十分に小さい挿入損失を達成していることが確認された。
また、素子を恒温槽に装入し、素子の温度を約500℃まで上昇させ、動作の可否を調査したところ、正常に動作した。このことから、本発明の弾性表面波素子は、高温での動作が可能であることが確認された。
以上の実験結果より、R面あるいはR面に近い主面を有するAlN自立基板の主面上に直接電極が形成された本発明の弾性表面波素子は、サファイアなどの基板上にAlNからなる圧電体膜を形成した従来の弾性表面波素子に比べて、製造プロセスを簡略化しつつ、圧電体膜の剥離を回避するとともに、損失の低減、高温での動作を達成可能であることが分かった。
(2)周波数と伝播速度との関係
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1.2×104cm−2、櫛歯型電極の電極間隔が5.5μmであり、電極が形成されるAlN基板の主面の面方位分布(AlN基板の主面と(1−102)面とのなす角)が10°以下および10°を超え20℃以下の2種類の素子を準備した。そして、入力される信号の周波数を変化させた場合の弾性表面波の伝播速度を調査した。
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1.2×104cm−2、櫛歯型電極の電極間隔が5.5μmであり、電極が形成されるAlN基板の主面の面方位分布(AlN基板の主面と(1−102)面とのなす角)が10°以下および10°を超え20℃以下の2種類の素子を準備した。そして、入力される信号の周波数を変化させた場合の弾性表面波の伝播速度を調査した。
図31は、入力される信号の周波数と弾性表面波の伝播速度との関係を示す図である。図31において、丸印は面方位分布が10°以下の素子、四角印は面方位分布が10°を超え20°以下の素子のデータを示している。
図31を参照して、入力される信号の周波数に関係なく、面方位分布を10°以下とすることにより、面方位分布が10°を超える場合に比べて伝播速度が向上することが確認される。このことから、伝播速度の向上を達成するためには、面方位分布を10°以下とすることが好ましいといえる。また、入力される信号の周波数が高いほど伝播速度は上昇し、面方位分布が10°以下の場合においては伝播速度を最大約7200m/secにまで高速化できることが分かった。
(3)転位密度と損失との関係
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1×105cm−2〜9×109cm−2のAlN基板を用いて素子を作製した。そして、各素子の損失(挿入損失)を測定し、AlN基板の転位密度と挿入損失との関係を調査した。
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1×105cm−2〜9×109cm−2のAlN基板を用いて素子を作製した。そして、各素子の損失(挿入損失)を測定し、AlN基板の転位密度と挿入損失との関係を調査した。
図32は、AlN基板の転位密度と素子の挿入損失との関係を示す図である。図32を参照して、転位密度が9×108cm−2以下の範囲においては挿入損失が0.1〜0.3dBであるのに対し、転位密度が9×108cm−2を超える1×109cm−2以上では挿入損失が増加していくことが分かった。このことから、R面またはR面に近い主面を有するAlN基板の主面上に直接電極を形成した本発明の表面弾性波素子においては、AlN基板の転位密度は9×108cm−2以下であることが好ましいことが確認された。
以下、本発明の実施例4について説明する。上記実施の形態5と同様の構成を有するSAWフィルターを作製し、(1)動作特性、(2)周波数と伝播速度との関係、および(3)転位密度と損失との関係、を調査する実験を行なった。実験の手順および結果は以下の通りである。
(1)動作特性
まず、上記実施の形態5と同様の方法で素子(SAWフィルター)を作製した。工程(S10)および(S25)を上記実施例1の場合と同様に実施した後、工程(S26)では、得られたAlN単結晶自立基板上に昇華法によるエピタキシャル成長により、厚さ30mmのAlNエピタキシャル層を成長させた。成長温度は約2200℃、成長を実施する容器内の圧力は40kPaとし、当該容器内に窒素を400sccmの流量で流入させた。
まず、上記実施の形態5と同様の方法で素子(SAWフィルター)を作製した。工程(S10)および(S25)を上記実施例1の場合と同様に実施した後、工程(S26)では、得られたAlN単結晶自立基板上に昇華法によるエピタキシャル成長により、厚さ30mmのAlNエピタキシャル層を成長させた。成長温度は約2200℃、成長を実施する容器内の圧力は40kPaとし、当該容器内に窒素を400sccmの流量で流入させた。
ここで、上記手順により2枚のAlN単結晶自立基板上にAlNエピタキシャル層を形成し、うち1枚のAlN単結晶自立基板上に形成されたAlNエピタキシャル層の転位密度をEPD法により調査した。EPD法による転位密度の調査は、以下のように行なった。まず、KOHとNaOHとを質量比1:1で混合した温度250℃の融液中に、AlN単結晶自立基板上に形成されたAlNエピタキシャル層を30分間浸漬してエッチングした。そして、洗浄を実施した後、顕微鏡を用いてAlNエピタキシャル層の主面に発生したエッチピットの個数を調査し、単位面積あたりのエッチピットの個数を算出した。その結果、転位密度は2×104cm−2という低い値であることが分かった。このことから、AlN単結晶自立基板上には転位密度が抑制された高品質なAlNエピタキシャル層が形成されていることが確認された。また、AlNエピタキシャル層の主面の面方位をX線測定(X線回折)により確認したところ、面方位は(1−102)となっていることが確認された。
工程(S27)では、ワイヤーソー加工機を用いて厚さ1mmのAlN基板を作製し、AlN基板の主面の面方位が(1−102)面に対して10°以下の範囲で分布するように主面を研削加工した。さらに、両側の主面に機械研磨および化学研磨を施し、表面粗さRaを1nm、厚さ400μmとした。
工程(S30)では、AlN基板上に約250nmの厚さのAl膜を形成し、フォトリソグラフィープロセスにより、レジストからなるマスクを形成した後、ウェットエッチングを実施することによりAl膜の一部を除去して、Alからなる入力側電極および出力側電極を形成した。櫛歯型電極の電極間隔は5.5μmとした。そして、工程(S40)では、Nd:YAGレーザを用いてAlN基板に深さ100μmの溝を形成し、さらにブレーキング加工によりAlN基板を分割し、実験用の素子を得た。
そして、得られた素子の性能を、ネットワークアナライザーを用いて評価した。入力する帯域周波数を0.95GHz〜1.05GHz、出力する周波数を1GHzとした場合、挿入損失は0.1dBであった。このことから、本発明の表面弾性波素子は、十分に小さい挿入損失を達成していることが確認された。
また、素子を恒温槽に装入し、素子の温度を約500℃まで上昇させ、動作の可否を調査したところ、正常に動作した。このことから、本発明の弾性表面波素子は、高温での動作が可能であることが確認された。
以上の実験結果より、AlNエピタキシャル層をスライスして作製されることにより転位密度が小さく、R面あるいはR面に近い主面を有するAlN基板の表面に電極を形成した本発明の弾性表面波素子は、サファイアなどの基板上にAlNからなる圧電体膜を形成した従来の弾性表面波素子に比べて、製造プロセスを簡略化しつつ、圧電体膜の剥離を回避するとともに、損失の低減、高温での動作を達成可能であることが分かった。
(2)周波数と伝播速度との関係
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1.1×104cm−2、櫛歯型電極の電極間隔が5.5μmであり、電極が形成されるAlN基板の主面の面方位分布(AlN基板の主面と(1−102)面とのなす角)が10°以下および10°を超え20℃以下の2種類の素子を準備した。そして、入力される信号の周波数を変化させた場合の弾性表面波の伝播速度を調査した。
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1.1×104cm−2、櫛歯型電極の電極間隔が5.5μmであり、電極が形成されるAlN基板の主面の面方位分布(AlN基板の主面と(1−102)面とのなす角)が10°以下および10°を超え20℃以下の2種類の素子を準備した。そして、入力される信号の周波数を変化させた場合の弾性表面波の伝播速度を調査した。
図33は、入力される信号の周波数と弾性表面波の伝播速度との関係を示す図である。図33において、丸印は面方位分布が10°以下の素子、四角印は面方位が10°を超え20°以下の素子のデータを示している。
図33を参照して、面方位分布を10°以下とすることにより、面方位分布が10°を超える場合に比べて伝播速度が向上することが確認される。このことから、伝播速度の向上を達成するためには、面方位分布を10°以下とすることが好ましいといえる。また、入力される信号の周波数が高いほど伝播速度は上昇し、面方位分布が10°以下の場合においては伝播速度を最大約7200m/secにまで高速化できることが分かった。
(3)転位密度と損失との関係
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1×104cm−2〜9×109cm−2のAlN基板を用いて素子を作製した。そして、各素子の損失(挿入損失)を測定し、AlN基板の転位密度と挿入損失との関係を調査した。
上記(1)と同様のプロセスで、転位密度が1×104cm−2〜9×109cm−2のAlN基板を用いて素子を作製した。そして、各素子の損失(挿入損失)を測定し、AlN基板の転位密度と挿入損失との関係を調査した。
図34は、AlN基板の転位密度と素子の挿入損失との関係を示す図である。図34を参照して、転位密度が9×108cm−2以下の範囲においては挿入損失が0.1〜0.3dBであるのに対し、転位密度が9×108cm−2を超える1×109cm−2以上では挿入損失が増加していくことが分かった。このことから、R面またはR面に近い主面を有するAlN基板の主面上に直接電極を形成した本発明の表面弾性波素子においては、AlN基板の転位密度は9×108cm−2以下であることが好ましいことが確認された。
以下、本発明の実施例5について説明する。電極が形成されるAlN基板の主面の面方位と弾性表面波の伝播速度との関係を調査する実験を行なった。まず、上記実施例1および3と同様の手順で、電極が形成されるAlN基板の主面と(1−102)面(R面)とのなす角が10°以下である素子、および(1−100)面(M面)とのなす角が10°以下である素子を作製した。また、比較のため、電極が形成されるAlN基板の主面と(0002)面(C面)とのなす角が10°以下である素子も作製した。そして、当該素子に対して周波数1.3GHzの信号を入力し、伝播速度を測定した。
図35は、電極が形成されるAlN基板の主面の面方位と伝播速度との関係を示す図である。図35を参照して、電極が形成されるAlN基板の主面の面方位をR面またはM面あるいはこれらに近い面方位とした場合、より詳細にはR面またはM面とのなす角が10°以下の主面を有するAlN基板を採用した場合、電極が形成されるAlN基板の主面の面方位をC面あるいはC面に近い面方位とした場合に比べて、伝播速度が向上することが確認された。このことから、本発明の弾性表面波素子によれば、高い伝播速度を実現可能な弾性表面波素子を提供できることが分かった。また、R面とM面とを比較すると、R面あるいはR面に近い面方位を採用すれば、より大きい伝播速度が得られることが確認される。
なお、上記実施の形態および実施例においては、弾性表面波素子の一例としてSAWフィルターについて説明したが、本発明の弾性表面波素子はこれに限られず、たとえば共振子などのデバイス(SAWデバイス)に採用することができる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の弾性表面波素子は、弾性表面波の伝播速度の向上が求められる弾性表面波素子に、特に有利に適用され得る。
1,2 SAWフィルター、11,51 AlN基板、11A,51A 主面、12,52 AlNエピタキシャル膜、21 入力側電極、22 出力側電極、23 入力側配線、25 出力側配線、91 SiC単結晶基板、92 AlN単結晶厚膜、92A,92B 切断面、93 AlN単結晶自立基板、94 AlNエピタキシャル層、95 AlN単結晶自立基板、96 AlNエピタキシャル層。
Claims (7)
- 窒化アルミニウム単結晶からなる基板と、
前記基板上に形成された電極とを備え、
前記基板の主面と前記基板を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−100)面とのなす角は10°以下である、弾性表面波素子。 - 窒化アルミニウム単結晶からなる基板と、
前記基板上に形成された電極とを備え、
前記基板の主面と前記基板を構成する窒化アルミニウム単結晶の(1−102)面とのなす角は10°以下である、弾性表面波素子。 - 前記基板の転位密度は9×108cm−2以下である、請求項1または2に記載の弾性表面波素子。
- 前記基板の厚さは10μm以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性表面波素子。
- 窒化アルミニウム単結晶からなり、前記基板と前記電極との間に前記基板に接触して形成されたエピタキシャル膜をさらに備えた、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性表面波素子。
- 前記エピタキシャル膜の転位密度は9×108cm−2以下である、請求項5に記載の弾性表面波素子。
- 前記エピタキシャル膜の厚さは1μm以上である、請求項5または6に記載の弾性表面波素子。
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