JP2010059467A - ニッケル粉末およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 薄層化に十分に対応できる積層セラミックコンデンサの内部電極を作製するために好適なニッケル粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】0.03質量%〜2.5質量%のクロム、および、0.03質量%〜2.5質量%のマグネシウムを含有し、平均粒径が0.4μm以下である、ニッケル粉末であり、クロムが水酸化クロムもしくは酸化クロムの形態で存在し、かつ、マグネシウムが水酸化マグネシウムもしくは酸化マグネシウムの形態で存在する。
【選択図】なし

Description

本発明は、ニッケル粉末、特に、積層セラミックコンデンサ(Multilayer Ceramic Capacitors;MLCC)の内部電極用の導電ペースト材料として好適に用いることができるニッケル粉末、およびその製造方法に関する。
電気回路の形成、特に、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板などの積層セラミック部品の電極などの形成において、厚膜導電体が使用されている。かかる厚膜導電体の作製には導電ペーストが用いられており、この導電ペーストの材料として、ニッケル粉末が広く使用されている。
積層セラミック部品のうち、積層セラミックコンデンサは、厚膜導電体からなる内部電極とセラミック誘電体層とが交互に積層され、その両端に外部電極が設けられるといった構造を有している。
この積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料としては、従来、銀やパラジウムなどの貴金属が用いられていたが、現在では、低価格なニッケルへの転換が進んでおり、特に、内部電極用の導電ペーストは、微細なニッケル粉末と、エチルセルロースなどの樹脂と、ターピネオールなどからなる有機溶剤とを、混練し、混合分散させることにより製造されている。
なお、一般的には、積層セラミックコンデンサは次の通りに製造される。まず、セラミック誘電体グリーンシート上に、微細なニッケル粉末を含む導電ペーストを所定のパターンでスクリーン印刷し、乾燥する。次に、乾燥後のニッケル塗膜が形成された誘電体グリーンシートを、該ニッケル塗膜が交互に重なるように積層し、熱圧着する。さらに、該積層体を所定の大きさに切断後、酸化性雰囲気中で脱バインダを行い、その後、ニッケル塗膜が酸化しないように、還元性雰囲気においてニッケル塗膜と誘電体を同時焼成して、焼結させることにより、内部電極と誘電体層が交互に積層したチップを得る。最後に、該チップに外部電極の形成およびメッキ処理を行うことにより、積層セラミックコンデンサが完成する。
ところで、電子機器においては、高性能化、小型化、高容量化、および高周波化が進んでいる。このため、かかる電子機器用の電子回路の設計においては、多層化および薄層化が進むとともに、異種材料による高積層化も進んでおり、電子回路に用いられる積層セラミックコンデンサにおいても、これらに対応して、薄層化が進められている。
具体的には、積層セラミックコンデンサの誘電体層において薄層化が著しく進んでおり、これに伴い、積層セラミックコンデンサの内部電極の厚さも、従来の数μmから、1〜3μm程度まで薄くなってきており、さらに1μm以下の厚さのものも出現している。
このような厚さを実現するためには、積層セラミックコンデンサ内部電極用の導電ペーストに、平均粒径が小さく、単分散性の高い球状粉末を用いることが要求される。現在では、平均粒径が0.2〜0.4μmであって、単分散性の高い球状のニッケル粉末が導電ペースト用の材料として用いられるようになってきている。
しかしながら、積層セラミックコンデンサにおける、最近のさらなる高容量化および小型化傾向に伴い、市場からはさらに薄層化した内部電極の形成が要求されている。
かかる要求を満たすためには、以下のような課題を解消する必要がある。
内部電極の製造に際し、導電ペーストの材料として、分散性が悪いニッケル粉末、あるいは、ペースト中で分散性を維持できずに凝集してしまうニッケル粉末を用いると、乾燥後のニッケル塗膜において、ニッケル粉末間に多数の空隙ができてしまい、その結果として、塗膜が厚くなってしまう。導電ペーストの印刷面積は一定であるため、ニッケル塗膜が厚くなると、塗膜の密度は低くなる。このように、低密度のニッケル塗膜を積層セラミックコンデンサの製造に用いた場合には、その後の焼成工程において焼結の際、その空隙を埋めようとして、ニッケル塗膜の収縮量が大きくなり、誘電体層の収縮量との間に大きな差が生じる。そして、その結果、チップにクラック、積層構造の破壊(デラミネーション)などの構造的欠陥が多発するという問題が起きる。したがって、内部電極を形成するニッケル塗膜に対しては、密度が高く、緻密であることが要求される。
また、積層セラミックコンデンサを作製する際には、還元性雰囲気下における焼成工程が不可欠であるが、誘電体材料の焼結開始温度が1000℃程度であるのに対して、ニッケル塗膜中のニッケル粉末の焼結開始温度は500℃程度であり、誘電体材料と比べて非常に低い温度から焼結を開始する。したがって、ニッケル粉末が焼結し始めた後、誘電体材料を焼結させるために、さらなる加熱を行うと、ニッケル粉末の焼結がより一層進行してしまい、焼結後の内部電極が島状に途切れてしまうという現象(電極途切れ)が発生する。かかる現象は、ニッケル塗膜の厚さが小さくなるほど、また、使用するニッケル粉末が小粒径であればあるほど、顕著となって発生する。このように、内部電極が島状に途切れてしまうと、電極としての機能を果たさなくなるため、積層セラミックコンデンサの欠陥につながる。
さらに、良好な薄い内部電極を得るためには、内部電極となるニッケル塗膜における表面のフラット(平坦)性が良好であることも重要な要素である。内部電極が薄い積層セラミックコンデンサでは、誘電体層も非常に薄い場合が多いため、ニッケル塗膜の表面に凹凸があると、積層および圧着工程において、ニッケル塗膜の表面の凸部が、その上に積層された誘電体グリーンシートを突き抜けてしまい、内部電極の間でショート不良が発生しやすくなる。ニッケル塗膜内の粗大粒子によって表面上にできた凹凸により塗膜表面のフラット性が低下し、表面高さの差が大きくなると、塗膜表面上の凸部を介して積層された内部電極同士が直接接触してしまうといった不具合が生じ易くなる。このように、ニッケル塗膜における表面のフラット性は、電極作製に用いるニッケル粉末中の粗大粒子の数に大きく影響を受け、粗大粒子の多いニッケル粉末ほど悪化する傾向にある。
以上のように、積層セラミックコンデンサの小型化および高容量化を図るために、積層セラミックコンデンサの内部電極用の材料であるニッケル粉末に対しては、
(1)ニッケル塗膜における密度低下を防止するという観点から分散性が高いと共に、
(2)ニッケル塗膜における表面のフラット性を良好にするという観点から含まれる粗大粒子数が少なく、粒径の均一性が高いことに加え、
(3)内部電極の電極途切れを防止するという観点から過剰な焼結の進行を抑制するという特性が要求される。
これに対して、特許文献1には、ニッケルペーストに誘電体セラミック粉末(共材)を加えることで、内部電極の収縮と誘電体層の収縮のミスマッチを解消しうることが記載されている。しかしながら、最近では、より薄い内部電極を得るために、使用するニッケル粉末の粒子径を微小化する方向にあり、ニッケル粒子間の隙間(スリーポケット)の大きさもそれにつれて小さくなっている。このため、市販されている平均粒径0.1μm以上の共材では、スリーポケットに収まりきらないので、ニッケル粒子の焼結抑制効果はほとんど期待できず、内部電極の電極途切れを防止することはできない。
また、特許文献2には、熱分解性化合物とニッケル原料とを含む溶液を噴霧し、熱分解することにより、表面に複合酸化物層が形成されたニッケル粉末を調製し、ニッケル粉末の焼結開始温度を誘電体材料の焼結開始温度に近づけることが記載されている。しかしながら、このような調製方法では、複合酸化物の被覆状態が均一なものとなり難く、さらに、ペースト化の過程で、表面の複合酸化物層が剥離してしまうことなどから、かかるニッケル粒子では焼結抑制効果が十分であるとはいえない。
特許文献3には、水溶液中においてニッケル粉末をチタン酸バリウム前駆体で被覆し、乾燥後、400℃以上の温度で加熱して、チタン酸バリウム被覆ニッケル粉末を得ることにより、焼成時の熱収縮率の低減およびニッケル粉末の耐酸化性の向上を図ることが記載されている。しかしながら、この方法では、チタン酸バリウム前駆体がニッケル粒子同士のバインダとなり、粒子同士が乾燥時に強固に凝集する。これをさらに熱処理すると、凝集はさらに強固なものとなり、内部電極の厚さが厚くなってしまう。このため、かかるニッケル粉末は、薄く均一な内部電極を得る材料として有効に用いられるに至っていない。
特許文献4および特許文献5には、クロムなどの金属塩をニッケル塩化物とともに揮発させ、気中還元して球状の合金粉を得ることにより、ニッケル粉末にクロムなどを含有させることが記載されている。かかるニッケル粉末では、クロムなどがニッケル粉末の表面に緻密な酸化物保護被膜を形成し、ニッケル粉末の焼結開始温度を高めると共に、耐酸化性を向上させている。しかしながら、ニッケル粉末自身の焼結開始温度を高温側にシフトさせることはできるものの、収縮開始温度は540℃程度であり、それ以上の温度域においては、合金化されていないニッケル粉末と同等の収縮率を示している。これに対して、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体グリーンシートの収縮は、1000℃以上で顕著となるため、収縮のミスマッチを完全に解消するには至っていない。
また、特許文献4には、金属塩化物蒸気を水素ガスによって還元し気相から直接ニッケル粉末を析出させる方法において、Al、Co、Cr、Mnの添加により、焼成工程でのニッケル粉末の収縮挙動のコントロールを行う方法について記載されている。この方法では、生成するニッケル粒子径は塩化ニッケル蒸気の濃度に依存するため、小径粒子を製造する場合には、塩化ニッケル蒸気濃度を低くする必要があり、その結果、生産性が悪化するという問題を抱えている。
一方、湿式法と呼ばれるニッケル塩を還元剤と混合することによりニッケル粉末を得る方法は、反応条件により粒径をコントロールすることが可能であり、そのため生産性の悪化が小さい。しかし、焼成工程におけるニッケル粉末の収縮開始温度は、粒径が小さくなるに伴って低温度化する傾向にあり、本発明が対象としている粒径が0.2μm以下のものでは、450℃以下で収縮が開始される場合が見られる。
そこでこのような小径粒子については焼結開始温度をさらに高くする必要があり、その対処方法としてニッケル粉末製造時にクロムを添加することが考えられる。しかし、この方法では、その効果が小さい場合があり、またクロムを大量に添加した場合には、電気特性への悪影響が心配される。さらにCrのみの添加では、収縮開始温度は高温度化するものの、収縮終了温度を高温度化することはできない。
また、特許文献6には、金属ニッケルの表面に、原子番号が12〜56、82の範囲内で、周期律表の2〜14族に属する金属元素の少なくとも一種を含む酸化物および複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種が固着している複合ニッケル微粉末を得ることにより、ニッケル粉末の熱収縮開始温度をより高温側へシフトさせることが記載されている。しかしながら、この方法では、ニッケル粉末の表面に均一に酸化物層を形成させることが非常に難しく、また、ペースト化工程で、表面の酸化物または複合酸化物が剥がれてしまい、焼結抑制効果が満足に得られないという問題がある。また、焼成時において、酸化物層の破壊が起こった箇所から焼結が始まってしまうので、その効果は、焼成時において非常に弱く、前述の課題を解決するには不十分である。
一方、ニッケル粒子の分散性とその粒径の均一性という課題に関して、特許文献7には、水酸化ニッケルをエチレングリコール溶液中で加熱還元する際に、核生成のためにパラジウムイオンまたは銀イオンなどを添加して、平均粒径が0.1μm以下のニッケル微粉末を得ることが記載されている。この方法では、小径粒子は得やすいものの、反応後の有機溶媒成分の除去が比較的困難であり、生産にはあまり向かない。
また、特許文献8には、パラジウムと銀の分散コロイド溶液と還元剤とアルカリ性物質からなるアルカリ性コロイド溶液にニッケル塩水溶液を添加して、平均粒径が0.3μm以下のニッケル微粉末を得ることが記載されている。これらの製法により、平均粒径が小さく、均一な粒度分布と良好な分散性を有すると共に、粗大粒子が少ない球状ニッケル粉末を得ることについて、一定の成果が得られている。このように、本製法では粒径の制御に関しては優れているが、収縮挙動のコントロールという点については、対策がなされておらず、さらなる改良を必要とする。
特開昭57−30308号公報 特開平11−124602号公報 特開2001−131602号公報 特開平11−21644号公報 特開2002−60877号公報 特開2000−282102号公報 特開2006−336060号公報 特開2007−138291号公報
上述の通り、薄層化した積層セラミックコンデンサの内部電極用の導電ペースト材料として、平均粒径が0.4μm以下と小さく、良好な分散性を有し、粗大粒子が少なく、かつ、製造工程において発生する内部電極の電極途切れを防止し得るニッケル粉末の出現が期待されている。
したがって、本発明は、かかる要求に応えうるニッケル粉末を提供することを目的とする。
本発明に係るニッケル粉末は、0.03質量%〜2.5質量%のクロム、および、0.03質量%〜2.5質量%のマグネシウムを含有し、平均粒径が0.4μm以下、より具体的には、平均粒径が0.05μm〜4μmであることを特徴とする。
なお、本明細書において、「ニッケル粉末」の語は、ニッケル単独からなる粉末のほか、添加元素を含有するニッケル合金からなる粉末も包含する用語として使用される。
前記クロムが、水酸化クロムまたは酸化クロムの形態で存在しており、かつ、前記マグネシウムが、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムの形態で存在していることが好ましい。
本発明に係るニッケル粉末は、収縮開始温度が460℃以上であることを特徴とする。
本発明に係るニッケル粉末は、走査電子顕微鏡で、倍率10000倍、縦9μm×横13μmの観察写真を20視野で撮影した場合に、該20視野の観察写真において、粒径0.5μm以上の粒子の含有率が1000ppm以下であることを特徴とする。
また、本発明に係るニッケル粉末は、該ニッケル粉末を40質量%含む導電ペーストを用いて、フィルム上にスクリーン印刷によりニッケル塗膜を形成し、該ニッケル塗膜を乾燥することにより乾燥膜を得た場合において、該乾燥膜の乾燥膜密度が4.0g/cm3以上となることを特徴とする。
さらに、本発明に係るニッケル粉末は、該ニッケル粉末を40質量%含む導電ペーストを用いて、アルミナ基板上に0.45mg/cm3のニッケル塗布質量でスクリーン印刷によりニッケル塗膜を形成し、該ニッケル塗膜を120℃で1時間乾燥し、還元性雰囲気下において10℃/minの昇温速度で1300℃まで焼成することにより厚膜導電体を得て、前記アルミナ基板の背面側より照明光を照射して、光学顕微鏡で、倍率20倍、縦320μm×横460μmで前記厚膜導電体側より撮影して画像を得た場合において、該画像における全撮影面積に対する光が透過しなかった部分の面積の割合である緻密率が40%以上となることを特徴とする。
一方、本発明に係るニッケル粉末の製造方法は、
パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製する工程と、
該アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩とマグネシウム塩とニッケル塩水溶液とを同時に添加するか、あるいは、該アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩とマグネシウム塩とを含有するニッケル塩水溶液を添加することにより、ニッケル粒子を生成させる工程とを有することを特徴とする。
前記ニッケルの添加量に対する、前記クロムの添加量を0.04質量%〜3質量%とすることが好ましい。
前記ニッケルの添加量に対する、前記マグネシウムの添加量を0.04質量%〜5質量%とすることが好ましい。
前記ニッケルの添加量に対する、前記パラジウムの添加量を1質量ppm〜5000質量ppmとすることが好ましい。
前記ニッケルの添加量に対する、前記銀の添加量を0.01質量ppm〜50質量ppmとすることが好ましい。
なお、前記アルカリ性コロイド溶液を作製する際に、保護コロイド剤をさらに添加し、前記複合コロイド粒子を分散させることがさらに好ましい。
この場合、前記ニッケルに対する、前記保護コロイド剤の添加量を1質量ppm〜5000質量ppmとすることが好ましい。
また、前記保護コロイド剤としてゼラチンを用いることが好ましい。
本発明のニッケル粒子は、クロムおよびマグネシウムを含有するため、収縮開始温度が460℃以上と高くなり、チップの焼成時において内部電極に電極途切れが発生することが抑制される。また、製造工程において、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散しているアルカリ性コロイド溶液に、ニッケル塩と共に、クロム塩およびマグネシウム塩を添加することにより、平均粒径が小さく、粗大粒子の存在が非常に少ない、分散性および粒度の均一性に優れたニッケル粉末を得ることが可能となる。
よって、かかるニッケル粉末を内部電極用の材料として用いることで、表面のフラット性が良好で、高い乾燥膜密度を有するニッケル塗膜を形成でき、内部電極の厚さが極めて薄い場合でも、内部電極の間でショート不良が発生することを抑制でき、積層セラミックコンデンサのさらなる薄層化を実現することが可能となる。
本発明者らは、前述の課題に対して、鋭意研究開発を行った結果、クロムおよびマグネシウムを添加し、ニッケル粉末に含有させることにより、ニッケル粉末の焼成時に、その焼結が抑制されるといった焼結阻害効果がもたらされ、かかるニッケル粉末を積層セラミックコンデンサの内部電極用の導電ペースト材料として使用すれば、焼成後に内部電極が島状に途切れてしまうという電極途切れの発生を抑制でき、内部電極における高い膜連続性が得られるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
(ニッケル粉末)
本発明のニッケル粉末は、その平均粒径が0.4μm以下であり、クロム0.03〜2.5質量%、および、マグネシウム0.03〜2.5質量%を含有する。
ニッケル粉末におけるクロムの含有量が0.03質量%未満では、ニッケル粉末の焼結阻害効果が十分に発揮されない。一方、クロムの含有量が2.5質量%を超えても、その効果は発揮されるが、大きな焼結阻害効果の向上は得られないため、コスト的に不利となる。また、焼成後のニッケル塗膜(厚膜導電体)の抵抗値が高くなるので、好ましくない。したがって、クロムの含有量は、0.03〜2.5質量%とし、より好ましくは、0.1〜1質量%とするのが望ましい。
また、ニッケル粉末におけるマグネシウムの含有量が0.03質量%未満では、ニッケル粉末の焼結阻害効果が十分に発揮されない。一方、マグネシウムの含有量が2.5質量%を超えても、その効果は発揮されるが、大きな焼結阻害効果の向上は得られないため、コスト的に不利となる。また、焼成後のニッケル塗膜(厚膜導電体)の抵抗値が高くなるので、好ましくない。さらに、マグネシウムは、ニッケル粒子を粗大化させる傾向に働き、フロック(凝集体)を形成させる傾向も有する。したがって、マグネシウムの含有量についても、0.03〜2.5質量%とし、より好ましくは0.1〜1質量%とするのが望ましい。
クロムは、ニッケル粉末の内部において、塩化クロムの形態でも存在し得るが、電子部品用途という点を考慮すると塩素分が増加することは好ましくなく、酸化物または水酸化物の少なくともどちらか一方の形態で存在していることが望ましい。かかる酸化物または水酸化物の代表的なものとしては、CrO2,Cr23,Cr(OH)3などを挙げることができる。酸化物もしくは水酸化物として存在することにより、焼結時の収縮挙動コントロールに関して、水酸化物は酸化物になり、酸化物は比較的安定であるので、高温度までその形態を保持し、収縮を遅延させる効果を発揮すると考えられる。同様に、マグネシウムについても、ニッケル粉末の内部において、塩化マグネシウムの形態でも存在し得るが、酸化物または水酸化物の少なくともどちらか一方の形態で存在していることが望ましい。かかる酸化物または水酸化物の代表的なものとしては、MgO,Mg(OH)2などが挙げられる。
クロムおよびマグネシウム、特に、これらの酸化物または水酸化物は、ニッケル粉末の生成反応時に、ニッケル粉末の内部に取り込まれ、そのままニッケル粉末の内部に留まって含有されるため、ペースト化工程において、ニッケル粉末から剥がれたり欠落することがない。また、焼成時においても、これらはニッケル粉末の内部に存在しているため、ニッケルの焼結に伴って、ニッケル粉末の界面にほとんど濃縮することなく、ニッケル塗膜の中に留まり続ける。
以上のように、クロムおよびマグネシウムは、ニッケル塗膜の中に存在し続けることにより、物理的にニッケルの焼結の進行を阻害し、その結果として、ニッケル粉末からなる内部電極層の焼結を抑制し続け、内部電極層が島状に孤立する現象である電極途切れを防止するものと考えられる。
ところで、本発明のニッケル粒子は収縮開始温度が460℃以上であることを特徴としているが、同様な効果は、既に開示されている先行技術による方法でも得られる。
しかしながら、本発明は、収縮開始温度を高温度化させることに加え、さらに収縮を終了する温度をも高温度化させ、その効果をマグネシウムの添加により達成することを特徴としている。
具体的には、収縮開始温度は、比較例3、4に示すように、クロムを0.5%添加した場合は590℃であり、クロムを0.7%添加した場合には600℃程度となるが、実施例10に示すようにクロムを0.5%、マグネシウムを0.2%添加した場合には640℃程度となる。
また、収縮終了温度は、比較例3、4に示すようにクロムの添加量が0.5%の場合650℃、0.7%の場合690℃であり、クロムを0.5%、マグネシウムを0.2%添加した実施例10の場合には730℃程度と高温度化する。
このようにクロムのみでは収縮終了温度の高温度化は難しく、マグネシウムを添加することにより、収縮終了温度までも高温度化することができる。
(平均粒径)
ニッケル粒子の平均粒径は、内部電極の厚さが1μm程度以下という積層セラミックコンデンサの薄層化に対応させるためには、0.4μm以下であることが必要である。なお、ニッケル塗膜を形成する際のスクリーン印刷などが困難になるといった取扱い性の観点から、かかる平均粒径は0.05μm以上とすることが好ましく、また、製造時の反応制御の困難性からも、平均粒径の下限値は0.05μmとする。
粒径の測定は、具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真(倍率10000倍、縦9.0μm×横13μm)を20視野で撮影し、該20視野の観察写真において、粒子の大きさをそれぞれ測定することにより行われる。
(粒径0.5μm以上の粗大粒子含有率)
本発明に係るニッケル粉末は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真(倍率10000倍、縦9.0μm×横13μm)を20視野で撮影した場合に、該20視野の観察写真において、粒径0.5μm以上の粒子の含有率が1000ppm以下であるという特性を有する。
具体的には、粒径の測定に用いた観察写真を用いて、測定した全粒子数と、粒径0.5μm以上の粗大粒子の数とにより、次式、
「粒径0.5μm以上の粗大粒子含有率=(粗大粒子数)/(全測定粒子数)」
を用いて、粒径0.5μm以上の粗大粒子含有率(ppm)を算出する。
粒径0.5μm以上の粒子の含有率が1000ppmを超えると、ニッケル塗膜における表面の凹凸が大きくなって、チップの積層工程−圧着工程において、該ニッケル塗膜が誘電体層を突き抜け、積層セラミックコンデンサにおける、内部電極間のショート不良の発生率が上昇してしまう。積層セラミックコンデンサのさらなる薄層化を達成する観点から、かかる粒径0.5μm以上の粒子の含有率は100ppm以下であることが好ましい。
ニッケル粒子がかかる特性を具備することにより、誘電体層上に形成されるニッケル塗膜における表面のフラット性が高められ、チップの積層工程−圧着工程において、ニッケル塗膜が誘電体層を突き抜けてしまうことによる、内部電極間のショート不良の発生が抑制される。
(乾燥膜密度)
また、本発明では、ニッケル粉末を40質量%含む導電ペーストを用いて、フィルム上にスクリーン印刷し、ニッケル塗膜を形成する。このようにして形成された該ニッケル塗膜を乾燥させ得られた本発明に係る乾燥膜は、乾燥膜密度が4.0g/cm3以上となる特性を有する。
なお、乾燥膜密度は、具体的には、乾燥膜の重量と体積から、次式、
「乾燥膜密度(g/cm3)=乾燥膜重量/乾燥膜体積」
により算出される。
また、測定に使用するフィルムは、その上にニッケル塗膜を形成することができるフィルムであれば任意であるが、通常、ポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルムが使用される。
さらに、導電ペースト(ニッケルインク)を形成するための樹脂と溶剤は、積層セラミックコンデンサの内部電極形成用の導電ペーストに用いることができるものであれば任意であるが、樹脂としては、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル系樹脂が、溶剤としては、ターピネオール、トリメチルベンゼンなどの有機バインダをそれぞれ使用できる。また、樹脂と溶剤の比率は、8質量%:52質量%〜11質量%:49質量%の範囲であれば同様の結果が得られる。なお、導電ペースト(ニッケルインク)は、ニッケル粉末と、樹脂と溶剤とを、3本ロールミルにて混練することにより作製される。
なお、分散性の悪い粉末は、ペースト作製時において分散させることができなかったり、一度分散させても再凝集してしまうため、その結果、粉末間に空隙が生じ、乾燥後にもその状態が保持され、乾燥膜密度が低下してしまうという問題が起こる。
本発明は、これら問題を、粉末内にクロムを存在させることにより分散性が非常に良い粉末を得、その結果、乾燥膜密度を従来技術による粉末により得られる乾燥膜のそれよりも高くすることによって解決する。
(緻密率)
加えて、本発明では、ニッケル粉末を40質量%含む導電ペーストを用いて、アルミナ基板上に0.45mg/cm3のニッケル塗布質量でスクリーン印刷してニッケル塗膜を形成し、該ニッケル塗膜を120℃で1時間乾燥し、還元性雰囲気下において10℃/minの昇温速度で1300℃まで焼成することにより厚膜導電体を得る。引き続き、このようにして得られた厚膜導電体における前記アルミナ基板の背面側より照明光を照射して、光学顕微鏡で、前記厚膜導電体側から、倍率200倍で、縦320μm×横460μmの範囲について撮影し、得られた画像において、全撮影面積に対する光が透過しなかった部分の面積の割合である緻密率を求める。本発明に係る厚膜導電体は、緻密率が40%以上となる特性を有する。
具体的には、2.54cm(1インチ)角のアルミナ基板を用いて測定する。また、還元性雰囲気については任意であるが、積層セラミックコンデンサの製造時と同様に、弱還元性の水素および窒素の混合雰囲気中で行うことが好ましい。
また、撮影した個々の画像について、透過光の専有面積をそれぞれ測定し、次式、
「緻密率(%)=(全撮影面積−透過光面積)/(全撮影面積)×100」
により、緻密率を算出する。
なお、ニッケル塗布重量は、緻密率測定後にアルミナ基板上のニッケル塗膜を酸溶解させた後、アルミナ基板を乾燥させて、その重量を計測し、ニッケル塗膜の酸溶解前のアルミナ基板の重量との差から算出する。
なお、緻密率は、測定した透過光面積に基づいて算出するが、これは、透過光の有無によってアルミナ基板上のニッケル粉末の存在箇所が確認できるという知見によるものである。すなわち、透過光の無い部分は、ライト照明光がニッケル粉末に遮られて透過できない状態であって、当該部分にはニッケル粉末が存在していることを示しており、また逆に、透過光のある部分は、ライト照明光がニッケル粉末に遮られず透過している状態であって、当該箇所にはニッケル粉末が存在していないことを示している。
したがって、緻密率が高い場合とは、ニッケル塗膜が島状に途切れることなく、焼成後に内部電極の電極途切れの発生が抑制されている状態である。一方、緻密率が低い場合とは、ニッケル塗膜が島状に途切れてしまって、焼成後に内部電極の電極途切れが各所に点在して発生している状態である。
ニッケル単独からなり、平均粒径が0.4μmである従来のニッケル粉末を使用して製造される積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体上に印刷されている塗布重量1mg/cm2のニッケル塗膜の緻密率は、約40%以上となる。ところが、積層セラミックコンデンサさらに薄層化するために、内部電極の厚さを1μm程度とする場合を考慮して、ニッケル塗布重量を0.45mg/cm2まで下げた場合には、ニッケル塗膜の緻密率が40%以下となってしまい、内部電極の不良につながり、本来要求されるコンデンサの容量を得ることはできない。
しかしながら、本発明のニッケル粉末を用いることにより、ニッケル塗布重量を0.45mg/cm2とした場合でも、40%以上の緻密率が達成され、内部電極における高い膜連続性を維持することが可能である。
(ニッケル粉末の製造方法)
本発明に係るニッケル粉末の製造方法は、ニッケル塩をアルカリ性コロイド溶液に添加して、ニッケル粒子を還元析出する工程において、(1)ニッケル塩水溶液と共に、クロム塩とマグネシウム塩を添加すること、および、(2)ニッケル粒子を生成させるためのアルカリ性コロイド溶液として、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散しているものを使用することを特徴とする。
かかるパラジウムと銀の複合コロイド粒子が分散しているアルカリ性コロイド溶液を用いることによって、粒径が均一化され、微細されたニッケル粒子が還元生成する。このようなニッケル粒子の粒径が均一化され、微細化される機構については、詳細は不明であるが、以下のように推測することができる。
すなわち、パラジウムと銀は、ニッケルよりも酸化還元電位が高いため、ニッケル粒子析出の際に核となり、この核にニッケルが析出し、成長して、ニッケル粒子になると考えられる。したがって、ニッケル核は生成せずに、ニッケル粒子が生成していると推測される。
また、パラジウムと銀の複合コロイド粒子が、均一に単分散状態のままアルカリ性コロイド溶液中で存在しているため、ニッケル塩水溶液を添加すると、前述のように核となるコロイド粒子に対して、ニッケルは均等に核成長を起こしやすいと考えられる。
さらに、パラジウムのみならず、銀を添加することによって、パラジウムの凝集が抑制され、粗大粒子や連結粒子の形成が抑制されるので、パラジウムと銀の添加量を所定の範囲内に制御することによって、粒径がより均一で、単分散状態のパラジウムと銀からなる複合コロイド粒子を生成することができると考えられる。
また、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子は、前述のようにニッケル析出の際に、ニッケル粒子の核となるため、複合コロイド粒子数の多少に伴い、ニッケル粒子の核の数も変化することとなる。したがって、アルカリ性コロイド溶液中に多くの複合コロイド粒子が存在する場合には、多数の核に分散してニッケルが析出し、ニッケル粒子となるため、それぞれの核に析出するニッケルはあまり成長せず、個々のニッケル粒子の粒径は微細化しやすい。逆に、アルカリ性コロイド溶液中に存在する複合コロイド粒子の数が少ない場合は、核の数も少数となるため、それぞれの核に析出するニッケルが多くなり、核成長が進んでしまい、個々のニッケル粒子の粒径は粗大化しやすくなると考えられる。
このように、ニッケル塩水溶液からニッケルを還元析出するに際して、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子は、ニッケルの還元析出の核となり、かつ、ニッケル粒子の核成長を促進する還元助剤として用いられ、さらに、この複合コロイド粒子の数を所定の範囲内に制御とすることによって、これらを単分散状態とし、生成されるニッケル粒子の粒径を均一化させ、加えて粗大粒子や連結粒子の形成を抑制してニッケル粒子を微細化することができると考えられる。
また、パラジウムと銀の存在は、クロムおよびマグネシウムの酸化物または水酸化物の形成に必要である。
パラジウムと銀の複合コロイド粒子を用いずに、ニッケル粒子の還元析出工程を行うと、添加したクロム塩およびマグネシウム塩は、反応せずにそのままの状態で存在し続けるため、クロムおよびマグネシウムの両元素はニッケル粉末にほとんど含有されない。
このことから、パラジウムと銀の存在が、クロムおよびマグネシウムの酸化物または水酸化物の形成に対して与える影響は、次のように考えられる。すなわち、パラジウムと銀の複合コロイド、特にパラジウムが存在すると、パラジウムが有する触媒作用によって、クロムおよびマグネシウムの反応が促進され、これらは水酸化物または酸化物という非常に微細な非水溶性物質へ変化し、共沈するため、クロムおよびマグネシウムは、ニッケル粉末が成長するのと同時に、ニッケル粉末中に取り込まれて含有されると考えられる。
本発明に係るニッケル粉末の製造方法は、大別すると、次の2つの工程を有する。
(1)パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製する。
(2)該アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩とマグネシウム塩とニッケル塩水溶液とを同時に添加するか、あるいは、該アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩とマグネシウム塩とを含有するニッケル塩水溶液を添加することにより、ニッケル粒子を生成させる。
上記製造方法の第1の工程において、まず、パラジウムと銀からなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液を作製する。コロイド溶液は、パラジウム塩水溶液と銀塩水溶液を所定量混合して作製する。
パラジウムは、ニッケルに対して1〜5000質量ppmとすることが好ましい。
1質量ppm未満では、核となるコロイド粒子の数が少なくなり、得られるニッケル粒子の粒径が大きくなってしまう場合がある。一方、5000質量ppmを超えても、ニッケル粒子の微細化によって得られるさらなる効果がほとんど見られず、かつ、高価な貴金属を大量に使用することとなるため、コストの点で問題が生ずる。
また、ニッケル粒子の平均粒径が小さくなり過ぎると、ニッケル粒子の凝集力が大きくなり、ペースト中に分散させることが難しくなる。その結果、ニッケル粒子が凝集した状態で積層セラミックコンデンサを製造することとなって、ニッケル塗膜が誘電体層へ突き抜ける事態が生ずる。よって、パラジウム量が多過ぎることは、内部電極間のショート不良などの問題を発生させる原因となり得る。
銀は、ニッケルに対して0.01〜50質量ppmとすることが好ましい。
パラジウムと銀を複合させてコロイド粒子とした場合、銀は少量で、ニッケル粒子の粗大粒子および連結粒子の生成を抑制する効果を発揮する。これは、銀によってパラジウムが微細化し、核として作用するコロイド粒子の数が増加するためであると考えられる。
0.01質量ppm未満では、このような効果がほとんど得られない場合があり、50質量ppmを超えると、ニッケル粒子の微細化によって得られるさらなる効果がほとんど見られない。
ここで、パラジウム塩水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウムまたは硫酸パラジウムなどから選ばれる少なくとも1種を含む水溶液を、パラジウム塩水溶液として用いればよい。これらの中では、液調整が容易な塩化パラジウムを含む水溶液を用いるのが最も好ましい。
一方、銀塩水溶液としては、例えば、硝酸銀水溶液を用いることができる。
次に、得られたコロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質を混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製する。アルカリ性コロイド溶液の作製方法は、特に限定されず、例えば、コロイド溶液に還元剤とアルカリ性物質を添加したり、あるいは、コロイド溶液とアルカリ性物質を加えた還元剤溶液を個別に作製し、これらを混合したりする方法などでもよい。一般的には、コロイド溶液をアルカリ性の還元剤溶液に滴下することにより行う。
また、コロイド溶液と還元剤溶液を混合する際に、還元剤溶液に予め保護コロイド剤を添加しておくことが好ましい。所定範囲内の量の保護コロイド剤を添加して保護コロイドを形成することにより、複合コロイド粒子の凝集が一層抑制され、単分散状態が促進されるためである。
このような保護コロイド剤としては、パラジウムと銀からなる複合コロイド粒子を取り囲み、保護コロイドの形成に寄与するものであればよく、ゼラチンが最も好ましい。その他、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリビニルアルコールなども、保護コロイド剤として用いることができる。
なお、ニッケルに対して、保護コロイド剤の添加量を1〜5000質量ppmとすることが好ましい。1質量ppm未満では、保護コロイドの形成が不十分となり、コロイド粒子が凝集してしまうことがあり、還元したニッケル粉末中に粗大粒子や連結粒子が発生するおそれがある。5000質量ppmを超えると、保護コロイドが多くなり過ぎ、未還元のニッケルが残留するおそれがある。
本発明において用いる還元剤は、特に限定されるものではなく、前述のように、例えば、ヒドラジン、ヒドラジン化合物および水素化ホウ素ナトリウム等から選ばれる少なくとも1種類を含む水溶性ヒドラジン化合物を用いて作製したヒドラジン水溶液などを用いることが好ましい。これらの還元剤の中では、特に成分に不純物が少ない点で、ヒドラジン(N24)が最も好ましい。
また、コロイド溶液と混合するアルカリ性物質も、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびアンモニアなどの水溶性アルカリ性物質であればよい。本発明においては、これらの水溶性アルカリ性物質と、ヒドラジン、ヒドラジン水和物などの水溶性ヒドラジン化合物とを純水中で混合して、アルカリ性のヒドラジン水溶液を作製し、アルカリ性の還元剤溶液として用いることができる。
なお、アルカリ性の還元剤溶液としては、水酸化ナトリウムとヒドラジン水和物との混合溶液が好ましいが、混合水溶液のpHが10未満では、反応速度が遅くなり、ニッケルの還元析出が起こりにくくなってしまうため、pHを10以上に調整することが特に好ましい。
第2の工程においては、上記のように作製されたアルカリ性コロイド溶液に、クロム塩と、マグネシウム塩と、ニッケル塩水溶液とを、同時に添加するか、あるいは、アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩およびマグネシウム塩を含有するニッケル塩水溶液を添加する。
通常、ニッケル粒子の生成反応時においては、生成したニッケル粉末同士が少なからず引っ付きあって、その結果、凝集粒子が生成されてしまう。よって、クロムを含有しないニッケル粉末において、粒径0.5μm以上の粒子の含有率を1000ppm以下とすることは困難である。
しかしながら、本発明においては、クロムを添加することにより、ニッケル粉末の生成反応時において、凝集粒子の生成が抑制され、その結果、粗大粒子の含有量を大幅に低下させることが可能となっている。
なお、このような現象が生ずるメカニズムについては、まだ正確に解明されていない。これまでの知見では、クロムのみを単独で添加した場合と、マグネシウムのみを単独で添加した場合とを比較すると、マグネシウムのみを添加した場合には、粗大粒子数は増加する傾向があり、また、フロック(凝集体)が形成される傾向が強くなる。このことから推測すると、クロムの添加には、反応時にニッケル粉末の表面電位を変化させ、より分散性を向上させて、粉末粒子同士の凝集を抑制する効果があり、このため、凝集粒子の生成が抑制されると考えられる。
また、ニッケル塩水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ニッケル、硝酸ニッケルおよび硫酸ニッケルなどから選ばれる少なくとも1種類を含む水溶液を用いることができる。ただし、これらの水溶液の中では、特に廃液処理が簡易にできる塩化ニッケル水溶液が好ましい。
クロム塩としては、硝酸クロム、硫酸クロム、硫化クロム、酸化クロムを用いることもできるが、反応工程から水溶性であることが望ましく、特に、塩化クロムが好適である。クロム塩の量は、ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、0.04質量%〜3質量%とすることが好ましい。より好ましくは、0.2質量%〜1.2質量%とする。
なお、反応時に添加するクロムは、添加した量の全てが、生成されるニッケル粉末中に取り込まれるわけではなく、本発明者らが行った試験では、添加量の6〜8割程度が含まれることが確認された。従って、所望するクロム含有量に対して、1.2〜1.4倍程度の添加量となるように調整することが望ましい。
また、クロム塩は、ニッケル粒子生成反応時において、ニッケル塩水溶液と同時にアルカリ性コロイド溶液に添加してもよいし、アルカリ性コロイド溶液に添加するニッケル塩水溶液に予め添加してもよい。
マグネシウム塩としては、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫化マグネシウム、酸化マグネシウムを用いることもできるが、反応工程から水溶性であることが望ましく、特に塩化マグネシウムが好適である。
また、マグネシウム塩は、ニッケル粒子生成反応時において、ニッケル塩水溶液と同時にアルカリ性コロイド溶液に添加してもよいし、アルカリ性コロイド溶液に添加するニッケル塩水溶液に予め添加してもよい。マグネシウム塩の量は、ニッケル塩水溶液として添加されるニッケルの量に対して、0.04質量%〜5質量%とすることが好ましい。より好ましくは、0.15質量%〜4.2質量%とする。
クロムと同様に、反応時に添加するマグネシウムは、添加した量の全てが、生成されるニッケル粉末中に取り込まれるわけではなく、本発明者らが行った試験では、添加量の5〜8割程度が含まれることが確認された。従って、所望するマグネシウム含有量に対して、1.3〜2倍程度の添加量となるように調整することが望ましい。
以上のように、本発明では、ニッケル粉末の粒子内にクロムとマグネシウムを存在させることを特徴としている。そのため、収縮開始温度が460℃以上と、ニッケル単独のニッケル粉末、および、クロム含有のニッケル粉末と比較して、収縮開始温度を高温度化させると共に、前記したように収縮終了温度をも高温度化させるといった効果を得ることができ、さらにそれによって、高い値の緻密率をも得られると考えられる。
故に、本発明のニッケル粉末を用いれば、1300℃近傍の高温で焼成を行っても、ニッケル粉末の焼結が進行し過ぎて、内部電極が島状に途切れる電極途切れの発生を抑制することができ、内部電極を構成する焼成後の厚膜導電体における緻密率は40%以上となる。
また、本発明では、特に、ニッケル粒子の生成反応において、パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したアルカリ性コロイド溶液に、ニッケル塩水溶液と共に、クロム塩およびマグネシウム塩を添加するため、クロムとマグネシウムが、微細な水酸化物または酸化物の形態でニッケル粒子中に取り込まれ、上記効果が十分に発揮される。
従って、このようにして製造された本発明のニッケル粉末は、平均粒径が0.4μm以下であると共に、粒径0.5μm以上の粒子の含有率が1000ppm以下という、さらに均一な粒度分布と良好な分散性を達成することができる。また、このニッケル粉末を含む導電ペーストを乾燥させて形成した乾燥膜においては、4.0g/cm3以上の乾燥膜密度を達成することができる。
さらに、かかる特性によって、積層セラミックコンデンサのさらなる薄層化が企図され、ニッケル塗膜の厚さが小さくなった場合においても、焼成工程におけるニッケル塗膜と誘電体層の収縮量の相違に起因するクラックやデラミネーションなどの構造欠陥がチップに生じることを抑制することができる。
(実施例1〜9)
[ニッケル粉末の作製]
まず、6Lの純水にゼラチンを溶解させた後、濃度が0.02g/Lとなるようにヒドラジンを混合し、パラジウムと微量の銀の混合溶液を滴下して、コロイド溶液とし、アルカリ性物質である水酸化ナトリウムを加えることによりpHを10以上とした後、さらにヒドラジンの濃度が26g/Lとなるまでヒドラジンを加え、アルカリ性コロイド溶液を作製した。
得られたアルカリ性コロイド溶液において、パラジウムの含有量は、ニッケルの全質量に対して1〜5000質量ppmの範囲内とし、銀の含有量は、ニッケルの全質量に対して0.01〜50質量ppmの範囲内とし、ゼラチンの含有量は、ニッケルの全質量に対して1〜5000質量ppmの範囲内として、それぞれ変化させた。なお、パラジウムおよび銀の含有量は、ICP発光分光分析法より分析した。
その後、塩化ニッケルを予め溶解させ、ニッケル濃度100g/Lの塩化ニッケル水溶液に、塩化クロムおよび塩化マグネシウムを溶解させ、前述のアルカリ性コロイド溶液に0.5L滴下して、ニッケルの還元析出を行い、ニッケル粉末を得た。なお、得られたニッケル粉末中のクロムとマグネシウムの含有量の調整は、反応時におけるニッケル塩およびマグネシウム塩の添加量を変化させることにより行った。
得られたニッケル粉末を、さらに150℃にて12時間乾燥させ、乾燥させたニッケル粉末を得た。
[平均粒径、粒径0.5μm以上の粗大粒子含有率]
得られた乾燥ニッケル粉末の粒径は、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−5510)を用いて撮影した、走査型電子顕微鏡観察写真(倍率10000倍、縦9μm×横13μm)20視野におけるそれぞれの粒子について測定することにより求めた。また、その測定結果より、平均粒径および粒径0.5μm以上の粗大粒子含有率を算出した。
[乾燥膜密度]
エチルセルロース20質量%を、ターピネオール80質量%に撹拌しながら、添加および80℃に加熱して、エチルセルロースの溶け込んだターピネオール溶液を作製した。
続いて、得られた溶液45質量%と、本発明の実施例のニッケル粉末40質量%と、ターピネオール15質量%とを、3本ロールミルにて混練し、導電ペーストを作製した。
得られた導電ペーストを用いて、PETフィルムの上に、1.5cm角、厚み40μmの乾燥膜を形成し、その後、得られた乾燥膜の乾燥膜質量および厚みを測定して乾燥膜体積を求め、その結果から、乾燥膜密度を算出した。
[緻密率]
上記導電ペーストを用いて、2.54cm(1inch)角のアルミナ基板の上に、0.45mg/cm2のニッケル塗布重量でニッケル塗膜をスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥した後、弱還元性(N2/H2)雰囲気下において10℃/minの昇温速度で1300℃まで昇温して焼成を行った。
その後、印刷面とは反対側よりライト照明光を照射し、印刷面の光の透過状況を、光学顕微鏡により倍率200倍、縦320μm×横460μmで撮影した。
撮影した画像のそれぞれにおいて、全撮影面積と、透過光の占有面積である透過光面積とを測定して、その結果から、ニッケル塗膜の緻密率を算出した。
また、その後、アルミナ基板上のニッケル塗膜を酸溶解させ、乾燥させたアルミナ基板の重量を計測し、酸溶解の前後の重量差により、ニッケル塗布重量を正確に算出した。
[収縮開始温度および収縮終了温度]
ニッケル粉末試料の収縮特性は、まず直径0.5cm、高さ約0.3cmの樹脂含有ニッケル粉末円柱状ペレットを作製し、以下の条件に従ってこれを焼成し、熱膨張計によって測定した。熱膨張計の測定条件は、N2が98%、H2が2%の混合ガス気流中で昇温速度5℃/minで室温から1300℃まで試料温度を昇温させ、その間で10%収縮した時の温度を収縮開始温度、20%収縮した時の温度を収縮終了温度とした。なお、円柱状ペレット試料は、ニッケル粉末を上記所定寸法の金型に入れて1000kg/cm2の圧力で圧縮成形して得た。
(比較例1)
塩化ニッケル水溶液に、塩化クロムおよび塩化マグネシウムを溶解しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケル粉末を得て、同様の評価を行った。この評価結果を表1に示す。
(比較例2)
塩化クロムおよび塩化マグネシウムを、表1に示したように、0.03質量%とごく少量としたこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケル粉末を得て、同様の評価を行った。この評価結果を表1に示す。
Figure 2010059467
(評価結果)
実施例1〜9では、粒径0.5μm以上の粗大粒子含有率が、600ppm以下であったのに対して、塩化クロムおよび塩化マグネシウムをごく少量しか含有しない、または、全く含有しない、ニッケル粉末による比較例1および2では、粒径0.5μm以上の粗大粒子含有率が1200ppm以上であった。また、実施例1〜9のニッケル粉末で形成されたニッケル塗膜の緻密率が40%以上であったのに対して、比較例1および2のニッケル粉末で形成されたニッケル塗膜の緻密率は、40%を下回った。
以上のように、本発明に係る製造方法によって得られたニッケル粉末は、粗大粒子が少なく、内部電極の表面のフラット性が良好となり、かつ、内部電極が島状に途切れる電極途切れを効率的に抑制することができる。
また、従来より用いられている平均粒径が0.4μm(程度)のニッケル粉末であっても、本発明に係るニッケル粉末であれば、緻密率が向上することが明らかであり、よって従来よりも薄いニッケル塗膜を形成することができるため、現行の積層セラミックコンデンサにおいても、内部電極のさらなる薄層化を十分に実現することが可能である。

Claims (15)

  1. 0.03質量%〜2.5質量%のクロム、および、0.03質量%〜2.5質量%のマグネシウムを含有し、平均粒径が0.4μm以下であることを特徴とするニッケル粉末。
  2. 前記平均粒径が0.05μm〜0.4μmであることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉末。
  3. 前記クロムが、水酸化クロムまたは酸化クロムの形態で存在しており、かつ、前記マグネシウムが、水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムの形態で存在していることを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル粉末。
  4. 収縮開始温度が460℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のニッケル粉末。
  5. 走査電子顕微鏡で、倍率10000倍、縦9μm×横13μmの観察写真を20視野で撮影した場合に、該20視野の観察写真において、粒径0.5μm以上の粒子の含有率が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のニッケル粉末。
  6. 前記ニッケル粉末を40質量%含む導電ペーストを用いて、フィルム上にスクリーン印刷によりニッケル塗膜を形成し、該ニッケル塗膜を乾燥することにより乾燥膜を得た場合において、該乾燥膜の乾燥膜密度が4.0g/cm3以上となることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のニッケル粉末。
  7. 前記ニッケル粉末を40質量%含む導電ペーストを用いて、アルミナ基板上に0.45mg/cm3のニッケル塗布質量でスクリーン印刷によりニッケル塗膜を形成し、該ニッケル塗膜を120℃で1時間乾燥し、還元性雰囲気下において10℃/minの昇温速度で1300℃まで焼成することにより厚膜導電体を得て、前記アルミナ基板の背面側より照明光を照射して、光学顕微鏡で、倍率200倍、縦320μm×横460μmで前記厚膜導電体側より撮影して画像を得た場合において、該画像における全撮影面積に対する光が透過しなかった部分の面積の割合である緻密率が40%以上となることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のニッケル粉末。
  8. パラジウムと銀とからなる複合コロイド粒子が分散したコロイド溶液と、還元剤と、アルカリ性物質とを混合して、アルカリ性コロイド溶液を作製する工程と、
    該アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩とマグネシウム塩とニッケル塩水溶液とを同時に添加するか、あるいは、該アルカリ性コロイド溶液に、クロム塩とマグネシウム塩とを含有するニッケル塩水溶液を添加することにより、ニッケル粒子を生成させる工程とを有することを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
  9. 前記ニッケルの添加量に対する、前記クロムの添加量を0.04質量%〜3質量%とすることを特徴とする請求項8に記載のニッケル粉末の製造方法。
  10. 前記ニッケルの添加量に対する、前記マグネシウムの添加量を0.04質量%〜5質量%とすることを特徴とする請求項8または9に記載のニッケル粉末の製造方法。
  11. 前記ニッケルの添加量に対する、前記パラジウムの添加量を1質量ppm〜5000質量ppmとすることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
  12. 前記ニッケルの添加量に対する、前記銀の添加量を0.01質量ppm〜50質量ppmとすることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
  13. 前記アルカリ性コロイド溶液を作製する際に、保護コロイド剤をさらに添加し、前記複合コロイド粒子を分散させることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項に記載のニッケル粉末の製造方法。
  14. 前記ニッケルに対する、前記保護コロイド剤の添加量を1質量ppm〜5000質量ppmとすることを特徴とする請求項13に記載のニッケル粉末の製造方法。
  15. 前記保護コロイド剤としてゼラチンを用いることを特徴とする請求項13または14に記載のニッケル粉末の製造方法。
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