図1は、本発明の実施形態に係る画像形成装置Xの概略構成を表す図である。画像形成装置Xは、画像形成方式としてカールソン法を採用したものであり、電子写真感光体10、帯電器11、露光器12、現像器13、転写器14、定着器15、クリーニング器16、および除電器17を備えている。
帯電器11は、電子写真感光体10の表面を帯電させる役割を担うものである。帯電電圧は、例えば200V以上1000V以下に設定される。本実施形態において帯電器11は、例えば芯金を導電性ゴムおよびPVDF(ポリフッ化ビニリデン)によって被覆して構成される接触型帯電器が採用されているが、これに代えて、放電ワイヤを備える非接触型帯電器(例えばコロナ帯電器)を採用してもよい。
露光器12は、電子写真感光体10に静電潜像を形成する役割を担うものである。具体的には、露光器12は、画像信号に応じて特定波長(例えば650nm以上780nm以下)の露光光(例えばレーザ光)を電子写真感光体10に照射することにより、帯電状態にある電子写真感光体10の露光光照射部分の電位を減衰させて静電潜像を形成する。露光器12としては、例えば複数のLED素子(波長:680nm)を配列させてなるLEDヘッドを採用することができる。
もちろん、露光器12の光源としては、LED素子に代えてレーザ光を出射可能なものを使用することもできる。つまり、LEDヘッドなどの露光器12に代えて、ポリゴンミラーを含んでなる光学系、あるいは、原稿からの反射光を通すレンズおよびミラーを含んでなる光学系を採用することにより、複写機の構成の画像形成装置とすることもできる。
現像器13は、電子写真感光体10の静電潜像を現像してトナー像を形成する役割を担うものである。本実施形態における現像器13は、現像剤(トナー)Tを磁気的に保持する磁気ローラ13Aを備えている。
現像剤Tは、電子写真感光体10の表面上に形成されるトナー像を構成するものであり、現像器13において摩擦帯電させられる。現像剤Tとしては、例えば、磁性キャリアおよび絶縁性トナーを含んでなる二成分系現像剤と、磁性トナーを含んでなる一成分系現像剤とが挙げられる。
磁気ローラ13Aは、電子写真感光体10の表面(現像領域)に現像剤を搬送する役割を担うものである。磁気ローラ13Aは、現像器13において摩擦帯電した現像剤Tを一定の穂長に調整された磁気ブラシの形で搬送する。この搬送された現像剤Tは、電子写真感光体10の現像領域において、静電潜像との静電引力により感光体表面に付着してトナー像を形成する(静電潜像を可視化する)。トナー像の帯電極性は、正規現像により画像形成が行われる場合には、電子写真感光体10の表面の帯電極性と逆極性とされ、反転現像により画像形成が行われる場合には、電子写真感光体10の表面の帯電極性と同極性とされる。
転写器14は、電子写真感光体10と転写器14との間の転写領域に供給された記録媒体Pに、電子写真感光体10のトナー像を転写する役割を担うものである。本実施形態における転写器14は、転写用チャージャ14Aおよび分離用チャージャ14Bを備えている。転写器14では、転写用チャージャ14Aにおいて記録媒体Pの背面(非記録面)がトナー像とは逆極性に帯電され、この帯電電荷とトナー像との静電引力によって、記録媒体P上にトナー像が転写される。また、転写器14では、トナー像の転写と同時的に、分離用チャージャ14Bにおいて記録媒体Pの背面が交流帯電させられ、記録媒体Pが電子写真感光体10の表面から速やかに分離させられる。
転写器14としては、電子写真感光体10の回転に従動し、且つ、電子写真感光体10とは微小間隙(通常、0.5mm以下)を介して配置された転写ローラを用いることも可能である。この転写ローラは、例えば直流電源により、電子写真感光体10上のトナー像を記録媒体P上に引きつけるような転写電圧を印加するように構成される。転写ローラを用いる場合には、分離用チャージャ14Bのような転写分離装置は省略することもできる。
定着器15は、記録媒体Pに転写されたトナー像を記録媒体Pに定着させる役割を担うものであり、一対の定着ローラ15A,15Bを備えている。定着ローラ15A,15Bは、例えば金属ローラ上にテフロン(登録商標)などで表面被覆したものとされている。定着器15では、一対の定着ローラ15A,15Bの間を通過させる記録媒体Pに対して、熱や圧力などを作用させることにより、記録媒体Pにトナー像を定着させることができる。
クリーニング器16は、電子写真感光体10の表面に残存するトナーを除去する役割を担うものであり、クリーニングブレード16Aを備えている。クリーニングブレード16Aは、電子写真感光体10の表面から、残留トナーを掻きとる役割を担うものである。クリーニングブレード16Aは、例えばポリウレタン樹脂を主成分としたゴム材料により形成されている。本実施形態におけるクリーニングブレード16Aは、一般的なショアA硬度(例えば60°以上80°以下)のものを採用しているが、残留トナーの除去効率を高める観点から、一般的なショアA硬度範囲より硬度の小さいものを採用してもよい。
除電器17は、電子写真感光体10の表面電荷を除去する役割を担うものであり、特定波長(例えば780nm以上)の光を出射可能とされている。除電器17は、例えばLEDなどの光源によって電子写真感光体10の表面の軸方向全体を光照射することにより、電子写真感光体10の表面電荷(残余の静電潜像)を除去するように構成されている。
図2は、電子写真感光体10の概略構成を表す断面図である。電子写真感光体10は、基体10A、成膜層10B、および突起10Cを有しており、画像信号に基づいた静電潜像やトナー像が形成されるものである。なお、電子写真感光体10は、図外の回転機構によって図1の矢印A方向に回転可能とされる。
基体10Aは、電子写真感光体10の支持母体となるものであり、少なくとも表面に導電性を有するように構成されている。本実施形態に係る基体10Aの形状は円筒状であるが、これには限られず、例えば無端ベルト状としてもよい。本実施形態における基体10Aは、アルミニウム系合金を含んで構成されており、結晶粒界10Aaを有している。アルミニウム系合金(Al系合金)としては、例えばアルミニウム−マンガン系合金(Al−Mn系合金)と、アルミニウム−マグネシウム系合金(Al−Mg系合金)と、アルミニウム−マグネシウム−シリコン系合金(Al−Mg−Si系合金)とが挙げられる。Al−Mn系合金は、AlおよびMn以外に、Mg、Si、銅(Cu)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ジルコニア(Zr)、ボロン(B)、あるいは鉄(Fe)などを不純物として含んでいてもよい。Al−Mg系合金は、AlおよびMg以外に、Mn、Si、Cu、Cr、Zn、Ti、V、Zr、B、あるいはFeなどを不純物として含んでいてもよい。Al−Mg−Si系合金は、Al、MgおよびSi以外に、Mn、Cu、Cr、Zn、Ti、V、Zr、B、あるいはFeなどを不純物として含んでいてもよい。
本実施形態における基体10Aの平均結晶粒度は、18μm以上1909μm以下に設定されている。平均結晶粒度の制御は、例えば抽伸加工率(例えば、加工率:5%以上25%以下)あるいは熱処理条件(例えば、処理温度:280℃以上450℃以下、処理時間:30分以上90分以下)を調整することによって行われる。平均結晶粒度の測定は、JIS−H0501(比較法)に基づいて、基体10Aの表面を光学顕微鏡(MMFP−TR、オリンパス株式会社製)で観測することによって行われる。基体10Aの平均結晶粒度を18μm以上1909μm以下の範囲に設定すると、結晶粒界10Aaに沿って形成される各突起10Cの離間距離を適切に保つことができるため、電子写真感光体10とクリーニングブレード16Aとの間における摩擦力低減効果を充分に得つつ、クリーニングブレード16Aにより各突起10C間に残留する現像剤Tの除去を充分に行うことができる。
基体10Aにおける成膜層10Bの形成面は、旋盤などにより表面処理が施される。表面処理としては、例えば鏡面加工および線状溝加工が挙げられる。
成膜層10Bは、基体10Aの外周面10Aa上に形成されており、その厚みは例えば15μm以上90μm以下に設定されている。成膜層10Bの厚みを15μm以上にすると、例えば長波長光吸収層を設けなくても記録画像に干渉縞が発生するのを適切に抑制することができ、成膜層10Bの厚みを90μm以下にすると、応力に起因して基体10Aから成膜層10Bが剥がれてしまうのを適切に抑制することができる。
本実施形態における成膜層10Bは、電荷注入阻止層101と、光導電層102と、表面層103とを積層形成したものである。
電荷注入阻止層101は、基体10A側からの電荷が光導電層102側に注入されるのを阻止する役割を担うものである。具体的に、電荷注入阻止層101は、帯電処理を成膜層10Bの自由表面に受けた際に、基体10A側より光導電層102側にホールが注入されるのを阻止する機能を有している。電荷注入阻止層101は、例えばシリコンを主体とする非単結晶材料により構成される。本明細書において非単結晶材料とは、多結晶、微結晶、あるいは非晶質の部分を含む材料を意味している。電荷注入阻止層101の厚さは、所望の電子写真特性および経済的効果などの観点から、0.1μm以上10μm以下に設定されている。電荷注入阻止層101の厚さが0.1μm未満であると、基体10A側からの電荷の注入を充分に阻止することができない場合があり、電荷注入阻止層101の厚さが10μmを超えると、残留電荷が発生し、メモリ特性が悪化してしまう場合がある。
光導電層102は、レーザ光などの光照射によってキャリアを発生させる役割を担うものである。光導電層102は、例えばシリコンを主体とする非単結晶材料により構成され、微結晶シリコンを含んでなる場合は、暗導電率・光導電率を高めることができ、光導電層102の設計自由度を高めることができる。このような微結晶シリコンは、成膜条件を変えることによって形成することができ、例えばグロー放電分解法を採用する場合、基体10Aの温度および直流パルス電力を高めに設定し、希釈ガス(例えば水素)の流量を増すことによって形成できる。光導電層102の厚さは、所望の電子写真特性および経済的効果などの観点から、5μm以上100μm(好適には10μm以上80μm以下)に設定されている。光導電層102の厚さが5μm未満であると、帯電能あるいは光感度を充分に確保できない場合があり、光導電層102の厚さが100μmを超えると、不必要に形成時間が長くなり、製造コストの増大に繋がってしまう場合がある。
表面層103は、主として電子写真感光体10の耐湿性、繰り返し使用特性、電気的耐圧性、使用環境特性、あるいは耐久性を高める役割を担うものであり、例えばシリコンおよび炭素の少なくとも一方を主体とする非単結晶材料により構成される。表面層103の厚さは、耐久性あるいは残留電位などの観点から、0.2μm以上1.5μm以下(好適には、0.5μm以上1μm以下)に設定されている。表面層103の厚さが0.2μm未満であると、耐刷による画像キズあるいは画像濃度ムラの発生を充分に抑制できない場合があり、表面層103の厚さが1.5μmを超えると、残留電位に起因する画像不良の
発生を適切に抑制できない場合がある。
突起10Cは、電子写真感光体10と、これに当接されるクリーニングブレード16Aとの間の摩擦力を低減する役割を担うものである。突起10Cは、アルミニウム系合金の結晶粒界10Aaに沿って形成され、且つ、一部が成膜層10Bの表面から突出している。本実施形態における突起10Cは、基体10Aの結晶粒界10Aa上に析出する析出物Sを起点として成長させたものとして構成されている。
本実施形態における析出物Sは、基体10Aを熱処理することによって形成される。本実施形態における熱処理は、処理温度を280℃以上450℃以下(好適には350℃以上450℃以下)、処理時間を30分以上90分以下に設定して行われる。このような条件において熱処理を行うと、基体10Aの熱変形を適切に抑制しつつ、基体10Aの構成材料に含まれる不純物などを結晶粒界10Aaに対して適切に拡散させることができる。そして、基体10Aの構成材料に含まれる不純物などを結晶粒界10Aaに対して適切に拡散させることによって、該結晶粒界10Aa近傍に析出物を析出させることができる。
このような熱処理によって析出物Sを形成する場合、突起10Cの起点となる析出物Sの大きさの均一性が高い傾向にあるため、突起10Cの大きさ(例えば高さ)の均一性も高い傾向にある。また、このような熱処理によって析出物Sを形成する場合、突起10Cの起点となる析出物Sは不純物の拡散に伴い、結晶粒界10Aa近傍に析出される傾向が高いため、突起10Cを結晶粒界10Aaに沿って適切に形成することができる。
本実施形態における突起10Cの成膜層10Bの表面から突出した部分の形状は、電子写真感光体10とクリーニングブレード16Aとの間の摩擦力低減効果を高める観点あるいはクリーニングブレード16Aにおける欠けの発生を抑制する観点から、半球状とされているが、これには限られない。
本実施形態に係る電子写真感光体10は、アルミニウム系合金の結晶粒界10Aaに沿って形成され、且つ、一部が成膜層10Bの表面から突出する突起10Cを有している。このような構成によると、画像形成領域において凹凸を設けることに起因する画質の低下を抑制しつつ、電子写真感光体10に当接されるクリーニングブレード16Aとの間の摩擦力(特に画像形成領域における摩擦力)を低減することができる。つまり、電子写真感光体10では、画像形成領域においてクリーニングブレード16Aのめくれの発生を低減することができる。したがって、電子写真感光体10では、例えば高速印刷あるいは大型印刷を行う場合においても、クリーニング性に優れたものとすることができる。
また、本実施形態に係る画像形成装置Xは、電子写真感光体10を備えているため、上述の効果と同様の効果を奏する。加えて、画像形成装置Xでは、電子写真感光体10とクリーニングブレード16Aとの間の摩擦力を低減することができるため、クリーニングブレード16Aとして比較的硬度の小さいものを採用しても摩擦力を充分に低いものとすることができる。このように、比較的硬度の低いクリーニングブレードを採用すると、クリーニング性をより高めることができる。
図3は、基体10Aの熱処理、並びに、電子写真感光体10における電荷注入阻止層101、光導電層102、および表面層103を形成するプラズマCVD装置Yの一例を示す模式的図である。
プラズマCVD装置Yは、反応室20と、支持機構30と、直流電圧供給機構40と、温度制御機構50と、回転機構60と、ガス供給機構70と、排気機構80と、を備えている。
反応室20は、基体10Aに対して堆積膜を形成するための空間であり、円筒状電極21と、一対のプレート22,23と、絶縁部材24,25により規定されている。
円筒状電極21は、堆積膜の形成空間を規定するとともに、第2導体としての役割を担うものである。円筒状電極21は、基体10Aと同様の導電性材料により構成されており、絶縁部材24,25を介して一対のプレート22,23に接合されている。本実施形態における円筒状電極21は、支持機構30に支持させた基体10Aと円筒状電極21との離間距離が10mm以上100mm以下となるように形成されている。これは、基体10Aと円筒状電極21との距離が10mmよりも小さくなると、基体10Aと円筒状電極21との間で安定した放電を得難くなる場合があり、基体10Aと円筒状電極21との距離が100mmよりも大きくなると、プラズマCVD装置Yが必要以上に大きくなってしまい単位設置面積当たりの生産性が低下する場合があるからである。
円筒状電極21は、ガス導入口21aおよび複数のガス吹き出し孔21bを有しており、その一端において接地されている。円筒状電極21の接地は必須の要件ではなく、後述の直流電源41とは別の基準電源に接続する構成としてもよい。なお、円筒状電極21を直流電源41とは別の基準電源に接続する場合、基準電源における基準電圧は、例えば1500V以上1500V以下とされる。
ガス導入口21aは、洗浄ガスおよび原料ガスを反応室20に導入するための開口であり、ガス供給機構70に接続されている。
複数のガス吹き出し孔21bは、円筒状電極21の内部に導入された洗浄ガスおよび原料ガスを基体10Aに向けて吹き出すための開口であり、図の上下方向および周方向において等間隔で配置されている。複数のガス吹き出し孔21bは、同一形状の円形に形成されており、その孔径は例えば0.5mm以上2.0mm以下とされている。なお、複数のガス吹き出し孔21bの孔径、形状および配置については、適宜変更可能である。
プレート22は、反応室20の開放状態と閉塞状態とを選択することが可能な構成とされており、プレート22を開閉することにより反応室20に対する後述の支持体31の出し入れが可能とされている。プレート22は、基体10Aと同様の導電性材料により形成されているが、その下面側に防着板26が取り付けられている。これにより、プレート22に対して堆積膜が形成されるのが防止されている。なお、防着板26は、基体10Aと同様の導電性材料により形成されており、プレート22に対して着脱自在とされている。
プレート23は、反応室20のベースとなるものであり、基体10Aと同様の導電性材料により形成されている。プレート23と円筒状電極21との間に介在する絶縁部材25は、円筒状電極21とプレート23との間にアーク放電が発生するのを抑制する役割を担うものである。このような絶縁部材25は、例えばガラス材料(ホウ珪酸ガラス、ソーダガラス、耐熱ガラスなど)、無機絶縁材料(セラミックス、石英、サファイヤなど)、あるいは合成樹脂絶縁材料(テフロン(登録商標)などのフッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ビニロン、エポキシ、マイラー、PEEK材など)により形成することができるが、絶縁性を有し、使用温度で充分な耐熱性があり、真空中でガスの放出が小さい材料であれば特に限定はない。
プレート23および絶縁部材25には、ガス排出口23A,25Aおよび圧力計27が設けられている。ガス排出口23A,25Aは、反応室20の内部の気体を排出する役割を担うものであり、排気機構80に接続されている。圧力計27は、反応室20の圧力をモニタリングするためのものであり、公知の種々のものを使用することができる。
支持機構30は、基体10Aを支持するとともに、第1導体としての役割を担うものである。支持機構30は、支持体31と、導電性支柱32と、絶縁材33とを含んで構成されている。本実施形態における支持機構30は、2つの基体10Aを支持することができる長さ(寸法)に形成されており、支持体31が導電性支柱32に対して着脱自在とされている。このような構成によると、支持した2つの基体10Aの表面に直接触れることなく、反応室20に対して2つの基体10Aの出し入れを行なうことができる。
支持体31は、フランジ部31aを有する中空状の部材であり、基体10Aと同様の導電性材料により全体が導体として構成されている。
導電性支柱32は、導板32aを有する筒状の部材であり、基体10Aと同様の導電性材料により全体が導体として構成されている。導電性支柱32は、その上端部において支持体31の内壁面に当接するように構成されている。
絶縁材33は、導電性支柱32とプレート23との間の電気的絶縁性を確保する役割を担うものであり、反応室20の略中央において導電性支柱32とプレート23との間に介在している。
直流電圧供給機構40は、導電性支柱32に対して直流電圧を供給する機構であり、直流電源41および制御部42を有している。
直流電源41は、導電性支柱32に対して印加する直流電圧を発生させる役割を担うものであり、導板32aを介して導電性支柱32に接続されている。
制御部42は、直流電源41の動作を制御する役割を担うものであり、該直流電源41に接続されている。制御部42は、直流電源41の動作を制御して、導電性支柱32を介して支持体31にパルス状の直流電圧(図4参照)を印加することができるように構成されている。
温度制御機構50は、基体11の温度を制御する役割を担うものであり、セラミックパイプ51およびヒータ52を有している。
セラミックパイプ51は、絶縁性および熱伝導性を確保する役割を担うものであり、導電性支柱32の内部に収容されている。
ヒータ52は、基体10Aを加熱する役割を担うものであり、導電性支柱32の内部に収容されている。基体10Aの温度制御は、例えば支持体31あるいは導電性支柱32に熱電対(図示せず)を取り付け、そのモニタ結果に基づいてヒータ52をオン/オフ制御することにより行われる。基体10Aの温度は、例えば、熱処理時は280℃以上450℃以下(好適には350℃以上450℃以下)の範囲における所定温度に維持され、成膜処理時は200℃以上330℃以下の範囲における所定温度に維持される。なお、ヒータ52としては、例えばニクロム線およびカートリッジヒータが挙げられる。
回転機構60は、支持体31を回転させる役割を担うものであり、回転モータ61と、回転導入端子62と、絶縁軸部材63と、絶縁平板64とを有している。回転機構60により支持機構30を回転させて成膜を行う場合、支持体31とともに基体10Aが回転させられるために、原料ガスの分解成分を基体10Aの外周に対して略均等に堆積させるうえで好適である。
回転モータ61は、基体10Aに回転力を付与する役割を担うものである。回転モータ61は、例えば基体10Aを1rpm以上10rpm以下の一定の回転数で回転させるように動作制御される。回転モータ61としては、公知の種々のものを使用することができる。
回転導入端子62は、反応室20内を所定の真空度に保ちながら回転力を伝達する役割を担うものである。このような回転導入端子62としては、回転軸を二重もしくは三重構造としてオイルシールあるいはメカニカルシールなどの真空シール手段を用いることができる。
絶縁軸部材63および絶縁平板64は、支持機構30とプレート22との間の絶縁状態を維持しつつ、回転モータ61からの回転力を支持機構30に伝達する役割を担うものであり、例えば絶縁部材25と同様の絶縁材料により形成されている。
絶縁平板64は、プレート22を取り外す際に落下するゴミあるいは粉塵などの異物が基体10Aへ付着するのを防止する役割を担うものである。このような絶縁平板64を有する場合、基体10Aに異物が付着することに起因する異常放電の発生を抑制することができるため、成膜欠陥の発生を抑制することができる。
ガス供給機構70は、複数の原料ガスタンク71,72,73,74と、複数の配管71A,72A,73A,74Aと、バルブ71B,72B,73B,74B,71C,72C,73C,74Cと、複数のマスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dとを含んでなり、配管75およびガス導入口21aを介して円筒状電極21に接続されている。
各原料ガスタンク71,72,73,74は、原料ガスが充填されたものである。原料ガスとしては、例えばSiH4、H2、B2H6、CH4、N2、あるいはNOが用いられる。
バルブ71B,72B,73B,74B,71C,72C,73C,74Cおよびマスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dは、反応室20に導入するガス成分の流量、組成およびガス圧を調整するためのものである。なお、ガス供給機構70においては、各原料ガスタンク71,72,73,74に充填すべきガスの種類、あるいは複数の原料ガスタンク71,72,73,74の数は、基体10Aに形成すべき膜の種類あるいは組成に応じて適宜選択すればよい。
排気機構80は、反応室20のガスをガス排出口23A,25Aを介して外部に排出する役割を担うものであり、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82を有している。これらのポンプ81,82は、圧力計27でのモニタリング結果により動作制御されるものである。すなわち、排気機構80では、圧力計27でのモニタリング結果に基づいて、反応室20を所定の真空状態に維持できるとともに、反応室20のガス圧を目的値に設定することができる。なお、反応室20の圧力は、例えば1.0Pa以上100Pa以下とされる。
次に、プラズマCVD装置Yを用いた基体10Aの熱処理方法、並びに、成膜層10Bの形成方法について、電子写真感光体10(図2参照)を作製する場合を例にとって説明する。
まず、プラズマCVD装置Yのプレート22を取り外した上で、複数の基体10A(図面上は2つ)を支持させた支持機構30を、反応室20の内部にセットし、再びプレート22を取り付ける。支持機構30における2つの基体10Aの支持は、支持体31のフランジ部31a上において、下ダミー基体D1、基体10A、中間ダミー基体D2、基体10A、および上ダミー基体D3を順次積み上げる形で行われる。各ダミー基体D1,D2,D3としては、例えば、全体が導電性を有する構成のものや、絶縁体の表面に導電性膜を形成した構成のものが挙げられるが、中でも基体10Aと同様の構成のものが特に好ましい。下ダミー基体D1は、主として基体10Aの高さ位置を調整する役割を担うものである。中間ダミー基体D2は、主として隣接する基体10Aの端部間にアーク放電が発生するのを抑制する役割を担うものである。中間ダミー基体38Bとしては、その長さがアーク放電の発生を充分に抑制できる長さ(例えば1cm以上)に設定され、その外周面側角部が曲面加工(例えば曲率半径0.5mm以上)あるいは面取り加工(カットされた部分の軸方向の長さおよび深さ方向の長さがそれぞれ0.5mm以上)が施されたものが採用される。上ダミー基体D3は、主として支持体31に堆積膜が形成されるのを抑制する役割を担うものである。上ダミー基体D3としては、その一部が支持体31の最上部より上方に突出するように構成されたものが採用される。
次に、基体10Aに対して熱処理を行う。具体的には、排気機構80により反応室20を減圧するとともに、温度制御機構50により基体10Aを所定温度に制御した状態で所定時間放置する。基体10Aの温度制御は、ヒータ52を発熱させることにより所定温度近傍まで昇温させた後、ヒータ52をオン・オフすることによって所定温度に維持される。反応室20の減圧は、圧力計27での反応室20の圧力をモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82の動作を制御することにより、ガス排出口23A,25Aを介して反応室20からガスを排出させることによって行なわれる。反応室20の減圧は、例えば1×10−3Pa程度に至るまで行われる。基体10Aの温度は、280℃以上450℃以下(好適には350℃以上450℃以下)に設定される。また、熱処理時間は、熱処理を開始したときから30分以上90分以下に設定される。なお、熱処理は、ヒータ52による加熱に加えて、アルゴン(Ar)ボンバードを行う方が好ましい。Arボンバードは、アルゴン(Ar)ガスをプラズマで電離させることにより生じるAr+イオンを、電界を利用して加速させて基体10Aに衝突させる処理である。
次に、温度制御機構50により基体10Aの温度を成膜処理時の所定温度(例えば250℃以上300℃以下)にした後に、反応室20を所定圧力まで減圧した状態で、ガス供給機構70により反応室20に原料ガスを供給するとともに、円筒状電極21と支持体31との間にパルス状の直流電圧を印加する。これにより、円筒状電極21と支持体31(基体10A)との間にグロー放電が発生して原料ガスが分解され、その分解成分が基体10Aの表面に堆積されることとなる。排気機構80においては、圧力計27のモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82の動作を制御することにより、反応室20の圧力を所定範囲(例えば1.0Pa以上100Pa以下)に維持する。すなわち、反応室20の内部は、ガス供給機構70におけるマスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dと排気機構80におけるポンプ81,82によって圧力を所定範囲に維持する。反応室20への原料ガスの供給は、バルブ71B,72B,73B,74B,71C,72C,73C,74Cの開閉状態を適宜制御しつつ、マスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dを制御することにより、原料ガスタンク71,72,73,74の原料ガスを、所望の組成および流量で、配管71A,72A,73A,74A,75およびガス導入口21aを介して円筒状電極21の内部に導入することにより行なわれる。円筒状電極21の内部に導入された原料ガスは、複数のガス吹き出し孔21bを介して基体10Aに向けて吹き出される。そして、バルブ71B,72B,73B,74B,71C,72C,73C,74Cおよびマスフローコントローラ71D,72D,73D,74Dによって原料ガスの組成を適宜切り替える。一方、円筒状電極21と支持体31との間におけるパルス状直流電圧の印加は、円筒状電極21が接地されている場合、−3000V以上−50V以下(好適には−3000V以上−500V以下)の負のパルス状直流電位V1(図4参照)となるように行われ、円筒状電極21が基準電源(図示せず)に接続されている場合、基準電源により供給される電位V2を基準電位として、目的とする電位差ΔV(例えば−3000V以上−50V以下)となるように行われる。また、支持体31(基体10A)に対して負のパルス状電圧(図4参照)を印加する場合、基準電源により供給される電位V2は、例えば1500V以上1500V以下に設定される。制御部42は、直流電圧の周波数(1/T(sec))が300kHz以下に、duty比(T1/T)が20%以上90%以下となるように直流電源41を制御する。本実施形態におけるduty比とは、図4に示したようにパルス状の直流電圧の1周期T(基体10Aと円筒状電極21との間に電位差が生じた瞬間から、次に電位差が生じた瞬間までの時間)における電位差発生時間T1が占める時間割合と定義される。例えば、duty比20%とは、パルス状の電圧を印加する際の、1周期に占める電位差発生時間が1周期全体の20%であることを意味する。以上のようにして、基体10Aの表面には、電荷注入阻止層101、光導電層102、表面層103が順次積層した成膜層10B、および、突起10Cが形成される。
上述のように、基体10Aの熱処理と成膜層10Bの形成とを同じ装置内で連続的に行うと、基体10Aの出し入れを行う際に該基体10Aの表面に異物が付着してしまうのを抑制することができる。したがって、本製造方法によって製造する電子写真感光体10では、突起10Cを結晶粒界10Aに沿って適切に形成することができる。
なお、基体10Aの熱処理後で、成膜層10Bの形成前に、該基体10Aの表面に対して研磨加工などを施すと、結晶粒界10A近傍に析出させた析出物Sの状態が変化してしまうため、析出物Sを起点とする突起Cを適切に形成することが困難となる。
以上、本発明の具体的な実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
電子写真感光体10において突起10Cは、析出物Sを起点として成長させることにより構成されているが、これに代えて、図5に示すように、比較的大きな析出物Sの表面を単に成膜層10Bで覆うようにして構成してもよい。
[実施例]
<電子写真感光体の作製>
電子写真感光体は、円筒状基体としてAl−Mn系合金素管(外径:80.5mm、内径:74mm、長さ360mm)を用いて作製した。Al−Mn系合金素管は、0.8重量%のMnと、0.45重量%のMgと、0.09重量%のSiと、0.4重量%のFeと、1重量%のCuとを含んでなるAl−Mn系合金をダイキャスト鋳造で造塊した後、得られた鋳塊を円筒状に熱間押出加工して、抽伸加工および切削加工を施して形成した。Al−Mn系合金素管に対しては、図3に示すプラズマCVD装置を用いて、表1に示す条件で放電加熱処理(処理時間は処理温度に応じて30分以上90分以下の範囲で設定)を施したうえで、成膜層(電荷注入阻止層、光導電層、および表面層)を形成した。表1におけるB2H6の流量は、SiH4の流量に対する比で表している。なお、プラズマCVD装置の電源としては、直流パルス電源(パルス周波数:50kHz、Duty比:70%)を使用した。また、膜厚の測定は、その断面をSEMおよびXMAで分析することにより行なった。
<平均結晶粒度および画質の測定>
作製した電子写真感光体について、以下の手順に従って平均結晶粒度および画質の評価を行った。
作製した電子写真感光体を画像形成装置(型番:KM−8030、京セラミタ製株式会社製)に搭載して、100万枚印字した後の白画像を作成した後、この白画像について、以下のような基準で画像評価を行った。円基体の平均結晶粒度は、作製した電子写真感光体から成膜層を除去することにより得られる基体表面を光学顕微鏡(型番:MMFP−TR、オリンパス株式会社製」)で観測し、JIS−H0501(比較法)に従って測定した。なお、基体の平均結晶粒度は、成膜層を形成する直前の基体表面を上述と同様の方法で測定してもほぼ同様の結果を得ることができる。
画質評価の判断基準は、白画像のかぶりが実質的に無い場合を「◎」とし、白画像のかぶりがわずかにしか認められず、実用上問題のない場合を「○」とし、全体的あるいは部分的に白画像のかぶりが認められ、条件によっては使用可能である場合を「△」とした。ここで、「かぶり」とは、白画像を拡大して見た場合に、微小な黒点が全体にわたって存在している状態、いわゆる白色の抜けが悪くなった状態を意味する。上述の評価の結果を表2に示す。
<評価>
表2から、No.3〜12の電子写真感光体を備えた画像形成装置により作成された画像は、白画像のかぶりが実質的に無い、もしくは、わずかにしか認められない程度であった。これは、No.3〜12の電子写真感光体を備えた画像形成装置では、クリーニングブレードにめくれが実質的に発生していないのに加え、突起間の離間距離も適切な範囲であることからクリーニングブレードによるトナー除去も適切に行えているからであると思われる。一方、No.1,2の電子写真感光体を備えた画像形成装置により作成された画像は、全体的に白画像のかぶりが認められた。これは、No.1,2の電子写真感光体を備えた画像形成装置では、クリーニングブレードにめくれが実質的に発生していないものの、突起間の離間距離が比較的小さいことから突起間に存在するトナーをクリーニングブレードによって充分に除去しきれない場合があるためであると考えられる。また、No.13〜15の電子写真感光体を備えた画像形成装置により作成された画像は、部分的に白画像のかぶりが認められた。これは、No.13〜15の電子写真感光体を備えた画像形成装置では、突起間の離間距離が比較的大きいことから突起間に存在するトナーはクリーニングブレードによって充分に除去できるものの、摩擦力が比較的大きいことからクリーニングブレードに若干めくれが生じてしまう場合があるためであると考えられる。
以上のことから、結晶粒界に沿って、一部が表面から突出する突起を形成した電子写真感光体では、従来のものに比べて画質の向上を図ることができるが、その効果は平均結晶粒度を18μm以上1909μm以下とすることで、より高められることがわかった。