JP2010053467A - 炭素繊維前駆体繊維用油剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】
製糸工程での単繊維間の融着と接着を効果的に抑制し、かつ炭素繊維を安定して操業性良く生産できる炭素繊維前駆体用油剤、および炭素繊維の高性能化と操業安定性と両立させることができる炭素繊維製造用前駆体繊維を提供する。
【解決手段】
末端に第1級アミンを有する構造のアミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体(A)0.2〜20重量%、芳香族エステル、トリメチロールプロパンアルキルエステル、トリメリット酸アルキルエステルおよびジアルキルチオジプロピオネートからなる群から選ばれた化合物(B)60〜90重量%、および界面活性剤(C)10〜40重量%からなる炭素繊維前駆体繊維用油剤。
【選択図】 なし
製糸工程での単繊維間の融着と接着を効果的に抑制し、かつ炭素繊維を安定して操業性良く生産できる炭素繊維前駆体用油剤、および炭素繊維の高性能化と操業安定性と両立させることができる炭素繊維製造用前駆体繊維を提供する。
【解決手段】
末端に第1級アミンを有する構造のアミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体(A)0.2〜20重量%、芳香族エステル、トリメチロールプロパンアルキルエステル、トリメリット酸アルキルエステルおよびジアルキルチオジプロピオネートからなる群から選ばれた化合物(B)60〜90重量%、および界面活性剤(C)10〜40重量%からなる炭素繊維前駆体繊維用油剤。
【選択図】 なし
Description
本発明は、炭素繊維前駆体繊維用油剤とその炭素繊維前駆体繊維用油剤を付与した炭素繊維前駆体繊維に関するものである。
炭素繊維は、他の補強用繊維に比べて高い比強度および比弾性率を有するため、その優れた機械的特性を利用して複合材料用補強繊維として工業的に広く利用されている。その適用範囲は、従来からのスポーツ用途や航空宇宙用途に加え、土木・建築など一般産業用途へも大きく拡がりつつあり、低コスト化および生産の安定性向上により供給安定化することが求められている。
炭素繊維の中で、最も広く利用されているポリアクリロニトリル(以下、PANと略記することがある。)系炭素繊維は、その前駆体となるPAN系重合体からなる紡糸溶液を湿式紡糸、乾式紡糸または乾湿式紡糸して炭素繊維前駆体繊維(以下、前駆体繊維と略記することがある。)を得た後、それを200〜400℃の温度の酸化性雰囲気下で加熱して耐炎化繊維へ転換し、それを少なくとも1,000℃の温度の不活性雰囲気下で加熱して炭素化することによって工業的に製造されている。上記の各工程において、繊維束を構成する単繊維間が直接接触して融けあった融着あるいは油剤が接着剤の役割を果たした単繊維間の接着が発生すると、毛羽の発生や断糸による操業性の悪化と共に欠陥増加による炭素繊維のストランド強度低下が著しくなる。このような単繊維間の融着や接着は軽微なものでも、炭素繊維の品質や品位に大きな影響を与える。そのため、これらの単繊維間の融着や接着を回避する目的で、前駆体繊維束の製造工程において、前駆体繊維束に油剤を付与することが必須となっている。
従来、油剤としては、とりわけ耐熱性と離型性に優れ、単繊維間の接着を効果的に防止することができる各種変性シリコーン系化合物が好ましく用いられており、これについて数多くの提案がなされている。例えば、特定のアミノ変性シリコーンを中心とした油剤は、空気中および窒素中での加熱時の減量が少なく、かつ、均一付着性に優れているため、単繊維間の融着や接着防止効果が高いことが一般的に広く知られている。
しかしながら、この油剤は、炭素繊維製造のための耐炎化処理工程や炭素化処理工程などの焼成工程において、酸化ケイ素、炭化ケイ素あるいは窒化ケイ素等を生成して、これらのスケールの堆積が操業性を低下させ、さらにはそれらのスケール除去のための停機が必要となり、稼働率の低下につながるという問題を有していた。
このような問題に対して、根本的原因である前駆体繊維に付与する油剤のシリコーン系化合物ひいてはケイ素含有量を低減する油剤技術がいくつか提案されている。例えば、特定のシリコーン系化合物を含まない化合物とアミノ変性シリコーンとを組み合わせた油剤が提案されているが、この油剤は停機の間隔が広がるという面では効果はあるものの、それでも操業性の向上効果は満足できるものではなく、さらにケイ素含有量を低減させる必要があった。
ケイ素を含有しない油剤として、ビスフェノールA系芳香族エステルを主成分とする油剤(特許文献1参照。)が提案されている。この油剤は、ケイ素を含有しないため上述の操業性の低下は抑制できるが、本発明者らが検討したところ、均一付着性が不足しているためか油剤付与本来の目的である単繊維間同士の融着防止効果が十分とはいえず、また高品質で高品位の炭素繊維を安定して得ることができないという問題があった。
そのため、この化合物に関し、一部官能基を改良したものや新規化合物がいくつか提案している。例えば、末端にアミド基を有する化合物と低分子ポリアミンと脂肪酸の縮合化合物の混合物(特許文献2参照。)、主鎖骨格にN元素を有する特定化合物(特許文献3参照。)、片末端に3級アミンあるいはアミド構造を有する化合物(特許文献4参照。)、および主骨格に2ヶ所3級アミン構造を有する特定の化合物(特許文献5参照)が提案されている。しかしながら、これらの提案は、アミド基やわずかな3級アミンでは均一付着性の効果が低いためか、本発明者らが検討したところ、融着防止効果は小さいものであった。また、ジメチルアミノエチル基を有する化合物(特許文献6参照。)も提案されているが、この化合物は、分子量あたりの官能基量が多く、確かにカチオン性が増して均一付着性は改善されるものの、3級アミンであり、均一付着性が不足し、融着防止効果は十分とはいえなかった。
以上のように、従来技術では、操業性と炭素繊維の品質と品位を両立できないという問題があった。
特開平8−78340号公報
特開平8−78341号公報
特開2002−266250号公報
特開2004−360133号公報
特開2005−23502号公報
特開2006−225808号公報
そこで本発明の目的は、上記従来技術の課題に鑑み、製糸工程での単繊維間の融着と接着を効果的に抑制し、かつ炭素繊維を安定して操業性良く生産することができる炭素繊維前駆体繊維用油剤、および炭素繊維の高性能化と操業安定性と両立させることができる炭素繊維製造用前駆体繊維を提供することにある。
本発明者らは、末端に第1級のアミン構造を有するアミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体とケイ素を含有しない高耐熱性油脂、それに界面活性剤を組み合わせて炭素繊維前駆体繊維用油剤としたところ、シリコーン系化合物を用いない油剤としては特異的に炭素繊維前駆体繊維の融着および接着を抑制することができ、上記目的を達成できることを見い出し本発明に想到した。
すなわち、本発明は、上記の目的を達成せんとするものであって、本発明の炭素繊維前駆体繊維用油剤は、末端に第1級アミンを有する構造のアミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体(A)0.2〜20重量%、単数または複数のビスフェノールA型の骨格を有する芳香族エステル、トリメチロールプロパンアルキルエステル、トリメリット酸アルキルエステルおよびジアルキルチオジプロピオネートからなる群から選ばれた化合物(B)60〜90重量%、および界面活性剤(C)10〜40重量%からなるものである。
本発明の炭素繊維前駆体繊維用油剤の好ましい態様によれば、前記のアクリル系重合体(A)は、下記の構造式(I)
(式中、R1は水素または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1〜10の整数を表す。)で示される単位を有する構造のアクリル系重合体である。
本発明の炭素繊維前駆体繊維用油剤の好ましい態様によれば、前記のアクリル系重合体(A)アミン水素当量は200〜2,000g/eqであり、そして前記のアクリル系重合体(A)の重量平均分子量は5,000〜100,000である。
本発明の炭素繊維前駆体繊維用油剤の好ましい態様によれば、前記の炭素繊維前駆体繊維用油剤は、さらに、アミノ基1モルに対して0.3〜5.0モル当量の炭素数6以下の低級脂肪族モノカルボン酸を加えてなる有機カルボン酸(D)を含むものである。
また、本発明の炭素繊維前駆体繊維は、上記のいずれかに記載の炭素繊維前駆体繊維用油剤を、乾燥した炭素繊維前駆体繊維に対して0.1〜5重量%付着させてなるものである。
本発明の炭素繊維前駆体繊維の好ましい態様によれば、前記の炭素繊維前駆体繊維が、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸からなる群から選ばれた酸単量体を0.1〜2モル%共重合してなるポリアクリロニトリル系重合体からなるのである。
本発明によれば、製糸工程での単繊維間の融着と接着を効果的に抑制し、炭素繊維を安定して操業性良く生産することができる炭素繊維前駆体繊維用油剤を得ることができ、その炭素繊維前駆体繊維用油剤を炭素繊維製造用前駆体繊維に付着適用することにより、工程安定性に優れ、高物性でかつ高品位の炭素繊維を安定して得るための炭素繊維前駆体繊維が得られる。
また、本発明によれば、製糸工程で用いられるシリコーン系化合物の量を少なくてしても炭素繊維の製造工程において融着および接着を防止することができるため、シリコーン系化合物が少ない割に強度の低下が少なく、シリコーン系化合物を用いるが故の炭素繊維の生産機会損失やコストアップを避けることができ、結果として低コストな炭素繊維を得ることができ、強度ネックではない用途にとっては、非常に有用である。
また、本発明の炭素繊維前駆体繊維から得られた炭素繊維は、プリプレグ化した後に複合材料に成形することもでき、炭素繊維を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、フードおよびプロペラシャフトなどの自動車構造部材用途、フライホイールおよびCNGタンクなどのエネルギー関連用途などに好適に用いることができる。
本発明の炭素繊維前駆体用油剤(以下、単に油剤と略記することがある。)について、詳細に説明する。
本発明の炭素繊維前駆体繊維用油剤は、末端に第1級アミンを有する構造のアミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体(A)0.2〜20重量%、芳香族エステル、トリメチロールプロパンアルキルエステル、トリメリット酸アルキルエステルおよびジアルキルチオジプロピオネートからなる群から選ばれた化合物(B)60〜90重量%、および界面活性剤(C)10〜40重量%を含んでいる。
本発明の油剤には、ポリアクリロニトリル系繊維との均一付着性の観点から、末端に第1級アミンを有する構造のアミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体(A)が用いられる。
アクリル系重合体(A)の割合は、水を除く油剤全体に対して0.2〜20重量%であり、好ましくは、1〜10重量%であり、さらに好ましくは、5〜10重量%である。アクリル系重合体(A)の割合が0.2重量%未満の場合、効果が不足し、主に前駆体繊維の単繊維同士の融着を抑制する高耐熱油脂の均一付着性が低下して、油脂の不足している部分で融着が発生する。また、アクリル系重合体(A)の割合が20重量%を超える場合、油剤による前駆体繊維の単繊維間の接着が強固になり過ぎて、耐炎化において酸化が進行しにくくなる。
油脂を界面活性剤で水エマルジョンとして、乾燥前の水を含んだPAN系繊維、いわゆる膨潤糸に付与して乾燥させても、融着抑制効果は極めて低いものである。その原因を調べるために、有機物からなる高耐熱性の高架橋ポリスチレン微粒子を油剤に混合してそれを前駆体繊維に付与し、得られた前駆体繊維を観察したところ、高架橋ポリスチレン微粒子は繊維間にできた空隙に集中し、繊維と繊維が接触している部分で不足していることがわかった。
また、油脂自体も同様に繊維と繊維が接触している部分で不足しているものと推定される。
本発明のアクリル系重合体(A)を油剤に混合し、上記と同様の実験を行うと微粒子が凝集することなく繊維表面を均一に覆っていることがわかった。
油脂の均一付着性を高めるメカニズムは必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。すなわち、アクリル系重合体(A)により油剤の粘度が上がり、油脂の流動が抑制されると共に、アクリル系重合体(A)のアミノ基によりPAN系重合体への親和性が高く、アクリル系重合体(A)が均一に繊維表面を被覆するためである。通常、油剤としてこのようなアクリル系重合体(A)を用いる例は極めて珍しく、単繊維間の接着が懸念されるが、アクリル系重合体(A)を20重量%までで助剤として用いることにより、アクリル系重合体(A)と混じりきれず表面に染み出した油脂によって、繊維同士のすべりのよさが確保されているものと推定される。
アミノアルキレン基としては、アミノメチレン基、アミノエチレン基、アミノプロピレン基およびアミノブテン基等が挙げられる。また、末端の第1級アミンとしては、−NH2および−NH3・X(Xは単原子または多原子の陰イオンを表す。)等が挙げられる。
本発明で用いられるアクリル系重合体(A)としては、下記の構造式(I)
(式中、R1は水素または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1〜10の整数を表す。)で示される単位を有する構造のものが好ましく用いられる。
上記の構造式(I)示される単位を有するアクリル系重合体(A)は、例えば、カルボキシル基含有不飽和単量体1〜20重量%とアクリル酸エステルを主成分とする不飽和単量体99〜80重量%とを、適当な有機溶媒中で溶液重合を行なった後に、生成したポリマーの分子中に存在するカルボキシル基に対し、エチレンイミンやプロピレンイミン等の炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキレンイミンを反応させることにより製造することができる。
ここでカルボキシル基含有不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸およびイタコン酸等や、これらの酸無水物を例示することができる。これらの中でも、アクリル酸およびメタクリル酸が好適である。
また、アクリル酸エステルを主成分とする不飽和単量体は、混和性の点で、少なくとも50重量%以上はアクリル酸エステルを含有していることが好ましい。アクリル酸エステルとしては、アルキル置換基の炭素数が1〜8の範囲のものを広く使用することができ、具体的にはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレート等を例示することができる。これらは、1種もしくは2種以上混合して使用され得る。
アクリル酸エステル以外の不飽和単量体は、アクリルアミンポリマーの凝集力を向上せしめ、耐熱性を向上させる目的で、または親水性を付与し水溶化を助長する目的で使用される。
凝集力を向上せしめる目的の単量体としては、その単独ポリマーのガラス転移温度が20℃以上であるスチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよび酢酸ビニル等を例示することができる。
また、親水性を付与する目的の単量体としては、アクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタアクリレートおよびヒドロキシエチルメタクリレート等を例示することができる。良好な混和性を与えるアクリル酸エステルモノマーとして、好ましくは、エチルアクリレート、ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレート等を挙げることができる。凝集力を向上せしめる単量体として、好ましくは、スチレンやメチルメタクリレート等を挙げることができる。また、親水性を助長できる単量体として、好ましくは、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートおよびジエチルアミノエチルメタアクリレート等を挙げることができる。
上記二種の不飽和単量体を溶液重合させる際に用いられる有機溶媒としては、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、n−もしくはイソプロピルアルコール、n−、イソもしくはt−ブチルアルコール等の低級アルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン、酢酸エチルおよび酢酸ブチルを例示することができる。
上記カルボキシル基含有不飽和単量体とアクリル酸エステルを主成分とする不飽和単量体の溶液重合は、例えば、アゾビスイソブチロニトリルやベンゾイルパーオキサイド等の従来公知の重合開始剤の存在下に、60〜100℃程度の温度で4〜24時間程度で行なわれ、カルボキシル基含有アクリルポリマーが重合される。
得られたカルボキシル基含有アクリル系ポリマーのカルボキシル基に対し、アルキレンイミンを反応させたアクリルアミンポリマーは、例えば、特開2003−192722号公報に記載の反応条件に従い製造することができる。具体的には、得られたカルボキシル基含有アクリル系ポリマー水溶液70重量部に、撹拌下、30℃の温度でアルキレンイミン4.6重量部(イミノ基/カルボキシル基=1.0モル比)を30分にわたり加える。アルキレンイミンを加えた後、固形分調整のため3.9重量部の脱イオン水を加え、加熱して80℃の温度まで昇温し、3時間撹拌して熟成を行い、その後冷却してアクリルアミンポリマーを得る。
また、本発明で用いられるアクリル系重合体(A)は、前駆体繊維との接着性の観点から、アミン水素当量が200〜2,000g/eqであることが好ましい。アミン水素当量のより好ましい範囲は、400〜1,500g/eqであり、さらに好ましくは600〜1,000g/eqである。アミン水素当量が200g/eq未満の場合、反応性が高くなり過ぎるため界面が強固となり、その結果、成形品が脆性的になる場合がある。また、アミン水素当量が1,500g/eqを超える場合、反応性が乏しくなり界面接着が不十分になる場合がある。
上記の構造式(I)において、n=1の場合には、側鎖はアミノ基だけであるが、n=2以上の場合には末端がアミノ基となり、その途中はイミノ基となる。これらのアミノ基とイミノ基の量は、アミン水素当量として示すことができる。このアミン水素当量は、次式で計算される。
・アミン水素当量(g/eq)=(S1×N×S2×4000)/(F×V×W)
(ここで、S1:試料の採取量(g)、N:試料の固形分(重量%)、S2:希釈試料液の採取量(g)、F:1/4N−PVSK液の力価、V:1/4N−PVSK液の滴定量(ml)、W:希釈試料液の全重量(g)である。)。PVSK液とは、ポリビニル硫酸カルシウム溶液(コロイド滴定用、和光純薬工業(株)製)である。
・アミン水素当量(g/eq)=(S1×N×S2×4000)/(F×V×W)
(ここで、S1:試料の採取量(g)、N:試料の固形分(重量%)、S2:希釈試料液の採取量(g)、F:1/4N−PVSK液の力価、V:1/4N−PVSK液の滴定量(ml)、W:希釈試料液の全重量(g)である。)。PVSK液とは、ポリビニル硫酸カルシウム溶液(コロイド滴定用、和光純薬工業(株)製)である。
また、本発明で用いられるアクリル系重合体(A)は、重量平均分子量が5,000〜100,000であることが好ましい。重量平均分子量は、より好ましくは10,000〜80,000であり、さらに好ましくは30,000〜60,000である。重量平均分子量が5,000未満の場合、アクリル系重合体(A)自体の強度が低くなり、結果的に成形品の強度が低下する場合がある。また、重量平均分子量が100,000を超える場合、分子鎖同士が絡み合いを起こすため、反応活性点であるアミノ基がそれらの分子鎖中に取り込まれて、効果が軽減する場合がある。
アクリル系重合体(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。ただし、GPCカラムとしてポリスチレン架橋ゲルを充填したもの(shodex GPC K−804;昭和電工(株)製)を用い、GPC溶媒としてクロロホルムを用いた。
アクリル系重合体(A)は、直鎖状構造でも環状構造でも多分岐構造であっても構わない。
本発明で用いられる芳香族エステル、トリメチロールプロパンアルキルエステル、トリメリット酸アルキルエステルおよびジアルキルチオジプロピオネートからなる群からえらばれた化合物(B)の割合は、水を除く油剤全体に対して60〜90重量%であり、好ましくは70〜90重量%であり、さらに好ましくは70〜80重量%である。化合物(B)の割合が60重量%未満の場合、油剤の有する繊維同士の摩擦係数を低下させ、耐炎化工程まで接着と融着を抑制する効果が不十分となり、炭素繊維強度が低くなる。また、化合物(B)の割合が90重量%以上の場合、アクリル系重合体(A)や界面活性剤(C)が不足して油剤の性能発揮に対してはバランスが悪くなり、その結果、炭素繊維強度が低くなる。
本発明で用いられる化合物(B)は、単数または複数のビスフェノールA型の骨格を有する芳香族エステル、トリメチロールプロパンアルキルエステル、トリメリット酸アルキルエステルおよびジアルキルチオジプロピオネートからなる群から選ばれた化合物である。
単数または複数のビスフェノールA型の骨格を有する芳香族エステルは、ビスフェノールA型の骨格を1〜4個有するもの好ましく用いられる。
また、単数または複数のビスフェノールA型の骨格を有する芳香族エステルは、好ましくは複数の炭素数2〜4のアルキレンオキサイド基および/または複数の炭素数4〜23のアルキルエステルからなる構造を含む化合物およびその誘導体である。誘導体の具体例としては、アルキルエステルのアルキル部位を2つの側鎖にポリエチレンオキサイド部位をもつ3級アミン、または2つの側鎖にポリエチレンオキサイド部位をもつアルキルアミドに置換した構造を有する化合物が挙げられる。
その具体例として、WO97/09474号公報で用いられるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物をモノアルキルエステル化し、さらに飽和脂肪族ジカルボン酸を反応させて得られた化合物、特許4048230号公報の請求項1記載のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物をジアルキルエステル化した化合物、特開2004−360133号公報の請求項3記載の炭化水素基のアルキレンオキサイド付加物をモノアルキルエステル化し、さらに飽和脂肪族ジカルボン酸を反応させて得られた化合物とポリオキシアルキレンアルキルアミンもしくはポリオキシアルキレン脂肪族アミドとをエステル化反応させて得られる化合物および特開2005−23502号公報の式(1)あるいは式(4)記載の化合物等が挙げられる。
また、トリメチロールプロパンアルキルエステルおよびトリメリット酸アルキルエステルにおいては、それぞれ3個あるアルキル鎖は好ましくは炭素数4〜23のものであり、より好ましくは炭素数10〜15である。アルキル鎖の構造は、直鎖状でも一部分岐を有していても構わないし、飽和結合でも不飽和結合を有していても構わないし、同一構造であっても、それぞれ異なる構造であっても構わない。
また、ジアルキルチオジプロピオネートとしては、アルキル鎖は好ましくは炭素数11〜15のものである。アルキル鎖の構造は、直鎖状でも一部分岐を有していても構わないし、飽和結合でも不飽和結合を有していても構わないし、同一構造であっても、それぞれ異なる構造であっても構わない。また、構造の一部に繰り返し単位が1〜20のアルキレンオキサイド鎖を含んでも構わない。アルキレンオキサイドの中でも、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドおよびそれらのブロック共重合体がより好ましく、特に、エチレンオキサイドが好ましい。
本発明の油剤は、溶媒を含まないものを指し、溶媒を含む場合は溶媒を含んだ油剤約1gを底直径が70mm、深さ15mmの底が平坦なアルミニウム皿に入れ、120℃の温度の熱風循環式オーブン中で2時間加熱したときの残存分を油剤と定義する。本発明では、溶媒としては特に水が好ましいが、油剤を溶媒に乳化・分散させて前駆体繊維に付与して均一付着性を高めている。そのため、本発明の油剤では、界面活性剤(C)が必要となる。
本発明で用いられる界面活性剤(C)の割合は、水を除く油剤全体に対して10〜40重量%であり、好ましくは10〜25重量%である。界面活性剤(C)の割合が10重量%未満の場合、アクリル系重合体(A)と化合物(B)成分の乳化力が弱く、均一付着性が低下する。界面活性剤(C)の割合が40重量%を超える場合は、乳化の効果が飽和するだけでなく、耐炎化工程でタールを発生させ、工程通過性を低下させることがある。
本発明で用いられる界面活性剤(C)は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性および両性のいずれの界面活性剤も用いることができる。アニオン性とカチオン性の界面活性剤の組み合わせ以外は、2種以上の界面活性剤を組み合わせて用いても構わないが、。中でも、カチオン性界面活性剤が好ましく、アミノ基などがもたらす弱カチオン性界面活性剤が好ましく用いられる。カチオン性の界面活性剤としては塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム,塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ラノリン誘導四級アンモニウム塩、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、塩化ベヘニン酸アミドプロピルジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム、が例示される。
また、ノニオン性界面活性剤も好ましく用いられる。ノニオン性の界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールのアルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル、スチレン化フェノールおよびアルキルアミンエーテルなどを挙げることができる。
本発明の油剤においては、乳化に先立って、油剤中に含まれるアミノ基1モルに対して好ましくは0.3〜5.0モル当量に相当する炭素数1〜6の低級脂肪族モノカルボン酸(D)を、さらに加えておくことが好ましい。その結果、均一付着性を高め、乳化を助けることができる。炭素数6以下の低級脂肪族モノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸およびカプロン酸等のモノカルボン酸、およびグリコール酸、乳酸およびマロン酸等の炭素数4以下のオキシカルボン酸等が挙げられる。これらのモノカルボン酸は、単独でも2種以上を混合して用いても差し支えない。
また、両性界面活性剤として、イミダゾリン型、アミドベタイン型、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、アルキルスルホベタイン型、アミドスルホベタイン型、ヒドロキシスルホベタイン型、カルボベタイン型、ホスホベタイン型、アミノカルボン酸型、およびアミドアミノ酸型両性界面活性剤が例示される。
背景技術で述べたように、シリコーン系化合物は、一般に高い融着防止効果が認められるため好ましく使用されてきたが、シリコーン系化合物を用いるが故の副作用があるため、全く用いないことが好ましい。しかしながら、本発明の油剤においては、融着防止効果が不足する場合には、シリコーン系化合物を油剤に対して25重量%を超えない範囲で加えても構わない。このようなシリコーン系化合物としては、表面平滑な均一皮膜を素早く形成するために、25℃の温度における動粘度が、好ましくは10〜10000cStであり、より好ましくは100〜2000cStであり、さらに好ましくは300〜1000cStであるものが用いられる。動粘度の低いシリコーン系化合物には、分子中のケイ素原子に結合する有機基として、前記したアルキル基などの他に、アミノ基、脂環式エポキシ基およびアルキレンオキサイド基などが含まれていることが好ましく、さらに繊維と親和性の高いアミノ基が含まれていることが好ましい。そのアミノ基は、モノアミンタイプでもポリアミンタイプでもよいが、とりわけ、次の構造式(II)
−Q−(NH−Q’)p−NH2 ・・・ (II)
(ここで、QおよびQ’は同種または異種の炭素数1〜10の2価の炭化水素基を表し、Pは0〜5の整数である。)で示される変性基のものが好ましく用いられる。
−Q−(NH−Q’)p−NH2 ・・・ (II)
(ここで、QおよびQ’は同種または異種の炭素数1〜10の2価の炭化水素基を表し、Pは0〜5の整数である。)で示される変性基のものが好ましく用いられる。
用いられるシリコーン系化合物において、アミノ基が少なすぎると繊維との親和性が低下し、多すぎると耐熱性が低下する。そのため、その変性量は、末端アミノ基量を−NH2の重量に換算して、0.05〜10重量%とすることが好ましく、変性量はより好ましくは0.1〜5重量%である。アミノ変性シリコーンは、全シリコーン系化合物の中に、20〜100重量%含まれていることが好ましく、30〜90重量%含まれていることがより好ましく、40〜80重量%含まれていることがさらに好ましい態様である。
また、本発明の油剤においては、150℃の温度における動粘度が15000cSt以上であるシリコーン系化合物により得られたエマルジョンを含むことも好ましい態様である。前述のシリコーン系化合物は、繊維表面に拡展して均一に繊維表面を覆うことを目的としていたが、上記の高動粘度のシリコーン系化合物は、繊維表面には拡展せずにエマルジョンのまま繊維表面に分散し、スペーサーのごとく作用することを目的としている。高動粘度のシリコーン系化合物は、その動粘度が高いほど好ましい。そのため、製糸の乾燥工程温度に近い150℃の温度における動粘度が、15000cSt以上、好ましくは20000cSt以上、より好ましくは80000cSt以上、更に好ましくは150000cSt以上のシリコーン系化合物が用いられる。
動粘度の上限は特に限定されない。動粘度が高すぎると微粒化が困難になることがあるので、微粒化のためには、動粘度は15000000cSt以下とすることが好ましいが、乳化重合により微粒化が可能な場合は、それより高粘度でもかまわない。ただし、繊維表面を傷つけないために、液体は、150℃の温度において変形できることが好ましい。ここで、150℃の温度において変形できるとは、液体を、150℃の温度に保持した熱板に付与し、その熱板を垂直に立てて、1時間後に観察したときに形状が変化していることを指す。油剤中の液体を測定する際は、下記のように遠心分離等を用いて液体を分離してから測定することができる。
液体の動粘度は、次の方法で求めることができる。オストワルド型粘度計(毛管粘度計)に所定の温度に保たれた液体を10mlセットし、測定液の上面が一定の距離を通過する時間t(sec)を測定する。基準液体の粘度をη0(cP)、密度をρ0(g/cm3)、流下時間をt0(sec)とすると、動粘度は、次式により算出される。
・動粘度(cSt)=(η0/ρ0)×(t/t0)
油剤中の液体の動粘度の測定については、遠心分離によりシリコーン系化合物を分離し、分離されたシリコーン系化合物からpH調整により乳化剤を分離し、液体を抽出した後、動粘度の測定を行う。
・動粘度(cSt)=(η0/ρ0)×(t/t0)
油剤中の液体の動粘度の測定については、遠心分離によりシリコーン系化合物を分離し、分離されたシリコーン系化合物からpH調整により乳化剤を分離し、液体を抽出した後、動粘度の測定を行う。
本発明で用いられるシリコーン系化合物としては、基本的に直鎖状のシロキサン骨格を有するものであることが好ましい。若干の分岐や架橋構造を有していてもよいが、分子全体が直鎖状の構造からなるものが好ましい。分子中のケイ素原子に結合する有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびへキシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ビニル基やアリル基などのアルケニル基;フェニル基やトリル基などのアリール基、グリシジル基、脂環式エポキシ基、およびアミノ基などが例示される。有機基が反応性であると、耐炎化工程までに架橋反応が起こり、固体スペーサーのようになることがあるため、有機基は非反応性であることが好ましい。有機基は、メチル基や脂環式エポキシ基であることが特に好ましく、メチル基が最も好ましい。有機基の一部に反応性基を含む場合は、ゲル化を抑制する観点から、その反応性基の当量は、好ましくは4000g/mol以上であり、より好ましくは10000g/mol以上であり、さらに好ましくは50000g/mol以上である。
ケイ素原子に結合するその他の基として、アルコキシ基、水酸基および水素原子などを部分的に含んでいてもよい。分子鎖の末端基としては、トリオルガノシリル基またはその有機基の一部が水酸基で置換された基が例示される。特に、反応性の低いトリメチルシリル基であることが好ましい。このようなシリコーン系化合物は、1種を単独で使用しても、2種以上を混合して用いてもよい。
シリコーン系化合物の場合、150℃の温度における動粘度は、25℃の温度における動粘度を用い、下記式においてT=150℃として計算により求めることもできる。ただし、この計算値と前記した実測値が異なる場合には、実測値を用いる。
・logηT={763.1/(273+T)}―2.559+logη25
[ただし、T:150(℃)、logηT:T℃における動粘度(cSt)、logη25:25℃における動粘度(cSt)。]
本発明の油剤に用いられる高動粘度のシリコーン系化合物のエマルジョンは、例えば、水を用いて、上述したシリコーン系化合物などの高動粘度の液体を乳化する方法や、シリコーン系化合物などを乳化重合により得る方法などが挙げられる。
・logηT={763.1/(273+T)}―2.559+logη25
[ただし、T:150(℃)、logηT:T℃における動粘度(cSt)、logη25:25℃における動粘度(cSt)。]
本発明の油剤に用いられる高動粘度のシリコーン系化合物のエマルジョンは、例えば、水を用いて、上述したシリコーン系化合物などの高動粘度の液体を乳化する方法や、シリコーン系化合物などを乳化重合により得る方法などが挙げられる。
本発明の油剤には、上記した成分以外にも、粘度調整剤、酸化防止剤、抗菌剤、防腐剤、防錆剤およびpH調整剤などの成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。特に、酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、および4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジトリデシルホスファイト)などが好ましく用いられ、これらは単独でも組み合わせでも良い。
酸化防止剤は、油剤に対して5重量%までの範囲で配合することが好ましく、配合量はより好ましくは0.1〜2重量%であり、更に好ましくは0.5〜1.5重量%である。酸化防止剤を添加することにより、化合物(B)やシリコーン系化合物が耐炎化工程や炭素化工程の前半で分解することを抑制し、融着防止効果を高めることができる。
本発明の前駆体繊維は、上述した油剤が付与されてなるものである。前駆体繊維としては、高性能炭素繊維の前駆体繊維としてよく用いられるポリアクリロニトリル系繊維が好ましい。本発明の油剤は、前駆体繊維の製糸工程におけるいずれの段階で付与してもよいが、単繊維同士の接着や融着を効果的に防止するためには、油剤なしでは前駆体繊維の単繊維同士が融着する程の熱が加わる工程の前、すなわち、製糸工程で110℃以上の熱が加わる乾燥工程の前に付与することが好ましい。すなわち、ポリアクリルニトリル系重合体を含む紡糸溶液を所定の紡糸方法で紡糸した後、水洗して得られる水膨潤状態の糸条に上述した油剤を付与した後、130〜200℃の温度で熱処理することにより、油剤が付与された前駆体繊維が得られる。
前駆体繊維を構成するアクリル系重合体の成分としては、少なくとも95モル%以上、より好ましくは98モル%以上のアクリロニトリルと、5モル%以下、より好ましくは2モル%以下の耐炎化を促進し、かつ、アクリロニトリルと共重合性のある耐炎化促進成分を共重合したものを好適に使用することができる。本発明においては、耐炎化を促進する意味で耐炎化促進成分として、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の酸単量体を用いることが好ましい。かかる耐炎化促進成分は、0.1モル%以上で耐炎化促進効果を発揮し始め、2モル%以下なら耐炎化時の異常発熱などを避けることができる。また、かかる耐炎化促進成分以外にも溶媒への溶解性を高める観点から、例えば、アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルを共重合しても構わない。
紡糸溶液は、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法などの重合法を採用して得ることができる。紡糸溶液に使用される溶媒としては、有機、無機のいずれの溶媒がも使用することができるが、特に有機溶媒を使用することが好ましい。具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどが使用され、特にジメチルスルホキシドが好ましく使用される。
紡糸方法は、乾湿式紡糸法や湿式紡糸法が好ましく採用される。紡糸口金から直接または間接に凝固浴中に紡糸溶液を吐出し、凝固糸を得る。凝固浴液は、簡便性の点から、紡糸溶液に使用する溶媒と凝固促進成分とから構成することが好ましく、凝固促進成分としては水を用いることが好ましい。凝固浴中の紡糸溶媒と凝固促進成分の割合および凝固浴液温度は、得られる凝固糸の緻密性、表面平滑性および可紡性などを考慮して適宜選択して使用される。
紡糸して得られた凝固糸は、20〜98℃の温度に温調された単数または複数の水浴中で水洗され、延伸される。延伸倍率は、糸切れや単繊維間の接着が生じない範囲で、適宜設定することができるが、表面がより平滑な前駆体繊維を得るためには、延伸倍率は5倍以下であることが好ましい。延伸倍率はより好ましくは4倍以下であり、さらに好ましくは3倍以下である。延伸倍率は、全工程の延伸倍率を高めやすいことから、1.1倍以上であること好ましい。
また、得られる前駆体繊維の緻密性を向上させる観点から、延伸浴の最高温度は、50℃以上とすることが好ましく、より好ましくは70℃以上である。浴延伸の最高温度が99℃を超えると水の蒸発が激しく、製造エネルギー消費が大きくなる。
水洗、延伸された後の水膨潤状態の糸条に、本発明の油剤を付与することが好ましい。油剤の付与手段としては、糸条内部まで均一に油剤を付与することができることを勘案し、適宜選択して使用すればよい。具体的には、水等の分散媒を用いて、油剤成分の濃度が好適には0.01〜10重量%となるように調製し、浸漬法、噴霧法、タッチロール法あるいはガイド給油法などで水膨潤繊維に付与する手段が採用される。油剤成分の濃度が低すぎる場合には、前駆体繊維に対して単繊維間融着などの効果を十分に付与することができず、濃度が高すぎる場合には、油剤の粘度が大きくなりすぎて流動性が悪くなり、前駆体繊維を束内まで均一に処理することが困難になることがある。
油剤の付着量は、前駆体繊維の乾燥重量に対する分散媒を除く油剤成分の割合が、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.3〜3重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%となるように調整する。油剤の付着量が少なすぎると、単繊維同士の融着が生じ、得られる炭素繊維の引張強度が低下することがあり、付着量が多すぎると、油剤が単繊維間を覆い、耐炎化工程での酸素の透過が悪くなることがある。
油剤を付与された糸条は、速やかに乾燥することが好ましい。乾燥手段としては、加熱された複数のローラーに糸条を直接接触させる手段が好ましく用いられる。乾燥温度は、高いほど生産性の観点からも好ましく、単繊維間の融着が生じない範囲で高く設定することが好ましい。具体的には、乾燥温度は130℃以上が好ましく、より好ましくは180℃以上である。通常、乾燥温度の上限は、200℃程度である。乾燥時間は、膨潤糸条が乾燥するのに十分な時間とする。具体的には、乾燥時間は15〜60秒程度である。また、糸条への加熱状態が均一になるように、糸条をできるだけ拡幅した状態でローラーに接触させることが好ましい。
得られる前駆体繊維の緻密性や生産性を向上する観点から、乾燥された糸条を、さらに加圧スチーム中または乾熱下で後延伸することが好ましい。後延伸時のスチーム圧力または温度や後延伸倍率は、糸切れや毛羽発生のない範囲で適宜選択して使用することができる。
前駆体繊維の糸条を構成する単繊維の繊度(単繊維繊度)は、好ましくは0.1〜2.0dTexであり、より好ましくは0.3〜1.5dTexであり、さらに好ましくは0.5〜1.2dTexである。単繊維繊度は、小さいほど得られる炭素繊維の引張強度や弾性率を向上する点で有利であるが、生産性は低下することが多いため、性能とコストのバランスを勘案し選択することが好ましい。
また、前駆体繊維の糸条を構成する単繊維数は、好ましくは1000〜96000本であり、より好ましくは、12000〜48000本であり、さらに好ましくは24000本〜48000本である。ここで、前駆体繊維の糸条を構成する単繊維数とは、耐炎化処理される直前の単繊維数をいい、生産性の観点から単繊維数は多いほど好ましい。単繊維の数が少なすぎると、生産性が悪化することが多く、また、多すぎると耐炎化の際に焼成むらを発生しやすくなることが多い。
上述した方法により、前駆体繊維が製造され、さらに次に述べる方法で、前駆体繊維を耐炎化処理した後、炭素化処理することにより、高性能な炭素繊維を製造することができる。
耐炎化処理は、通常、酸素含有気体雰囲気下、好ましくは空気雰囲気下で、好ましくは200〜300℃の温度で行われる。コスト削減および得られる炭素繊維の性能を高める観点から、糸条が反応熱の蓄熱によって糸切れを生じる温度よりも10〜20℃低い温度で耐炎化することが好ましい。耐炎化処理の時間は、生産性および得られる炭素繊維の性能を高める観点から、10〜100分間が好ましく、より好ましくは30〜60分間である。この耐炎化処理の時間とは、糸条が耐炎化炉内に滞留している全時間をいう。この時間が少なすぎると、各単繊維の酸化された外周部分と酸化不足の内側部分の構造差が全体的に顕著となり、本発明の効果が得られにくくなることがある。
耐炎化処理の工程における糸条の延伸比は、好ましくは0.85〜1.10であり、より好ましくは0.88〜1.06であり、さらに好ましくは0.92〜1.02である。延伸比を高めることにより、同じ熱処理量で炭素繊維の弾性率を向上させることができる。
耐炎化処理の工程に続いて、炭素化処理の工程に移るが、その前に温度300〜800℃の不活性雰囲気下、好ましくは窒素またはアルゴン雰囲気下で行う予備炭素化処理の工程を設けることも好ましい態様である。この予備炭素化処理の工程における延伸比は、得られる炭素繊維の性能を高める観点から、好ましくは0.90〜1.25であり、より好ましくは1.00〜1.20であり、さらに好ましくは1.05〜1.15である。
炭素化処理は、通常、不活性雰囲気下で、1000〜2000℃の温度で行われる。その最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて適宜選択して決定されるが、低すぎると、得られる炭素繊維の引張強度、弾性率が低下することがある。炭素化処理の工程における延伸比は、得られる炭素繊維の性能を高める観点から、好ましくは0.95〜1.05であり、より好ましくは0.97〜1.02であり、さらに好ましくは0.98〜1.01である。
弾性率がより高い炭素繊維を所望する場合には、炭素化処理に引き続いて、黒鉛化処理を行うこともできる。黒鉛化処理は、通常、不活性雰囲気下で、2000〜3000℃の温度で行われる。その最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて適宜選択して決定される。黒鉛化処理の工程における延伸比は、所望する炭素繊維の要求特性に応じて、毛羽発生など品位低下の生じない範囲で適宜選択することができる。
得られた炭素繊維に対しては、表面処理を行うことにより、複合材料としたときのマトリックスとの接着強度をより高めることができる。表面処理方法としては、気相処理や液相処理を採用することができるが、生産性や品質ばらつきを考慮すると、液相処理の中でも電解処理(陽極酸化処理)が好ましく適用される。
電解処理に用いられる電解液としては、硫酸、硝酸および塩酸のような酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびテトラエチルアンモニウムヒドロキシドのようなアルカリ、あるいはそれらの塩を含む水溶液を用いることができるが、特に好ましくはアンモニウムイオンを含む水溶液が用いられる。例えば、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、燐酸2水素アンモニウム、燐酸水素2アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムあるいはそれらの混合物を含む水溶液を電解液として用いることができる。
電解処理において炭素繊維に与える電気量は、使用する炭素繊維により異なる。例えば、炭素化度の高い炭素繊維ほど高い通電電気量が必要となるが、一般には、接着特性向上の観点から、X線光電子分光法(ESCA)により測定される炭素繊維の表面酸素濃度O/Cおよび表面窒素濃度N/Cが、それぞれ0.05以上0.40以下および0.02以上0.30以下の範囲になるように電気量を設定することが好ましい。
これらの条件を満足することにより、複合材料とした際の炭素繊維とマトリックスとの接着が適正なレベルとなる。したがって、炭素繊維とマトリックスとの接着が強すぎて非常に脆性的な破壊となって複合材料の縦方向の引張強度が低下してしまうという欠点も、あるいは、複合材料の縦方向の引張強度は強いものの、炭素繊維とマトリックスとの接着力が低すぎて、複合材料の非縦方向の機械的特性が発現しないという欠点も防止することができ、縦および非縦方向にバランスのとれた複合材料特性が発現される。
得られた炭素繊維は、さらに、必要に応じて、サイジング処理がなされる。サイジング剤には、マトリックスとの相溶性のよいサイジング剤が好ましく、マトリックスに併せて選択して使用される。
このようにして得られた炭素繊維は、プリプレグ化した後に複合材料に成形することもできるし、織物などのプリフォームとした後、ハンドレイアップ法、プルトルージョン法およびレジントランスファーモールディング法などにより複合材料に成形することもできる。また、炭素繊維は、フィラメントワインディング法や、チョップドファイバーやミルドファイバー化した後、射出成形することにより複合材料に成形することができる。
本発明で得られた炭素繊維を用いた複合材料は、ゴルフシャフトや釣り竿などのスポーツ用途、航空宇宙用途、フードやプロペラシャフトなどの自動車構造部材用途、およびフライホイールやCNGタンクなどのエネルギー関連用途などに好適に用いることができる。
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例では、各特性を次の方法により測定した。
<炭素繊維のストランド引張強度および引張弾性率の測定>
炭素繊維束に下記組成の樹脂を含浸させ、130℃の温度で35分間硬化させた後、JIS R7601(1986年)に基づいて引張試験を行い、n=6本のストランドについて測定し、平均値でストランド引張強度と引張弾性率を求めた。
[樹脂組成](かっこ内は、メーカー等)
・3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(ERL-4221、ユニオンカーバイド社製)・・・・・・・・・100重量部
・3フッ化ホウ素モノエチルアミン(ステラケミファ(株)製)・・・・・3重量部
・アセトン(和光純薬工業(株)製)・・・・・・・・・・・・・・・・・4重量部
また、実施例および比較例に用いた成分は、次のとおりである。
炭素繊維束に下記組成の樹脂を含浸させ、130℃の温度で35分間硬化させた後、JIS R7601(1986年)に基づいて引張試験を行い、n=6本のストランドについて測定し、平均値でストランド引張強度と引張弾性率を求めた。
[樹脂組成](かっこ内は、メーカー等)
・3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(ERL-4221、ユニオンカーバイド社製)・・・・・・・・・100重量部
・3フッ化ホウ素モノエチルアミン(ステラケミファ(株)製)・・・・・3重量部
・アセトン(和光純薬工業(株)製)・・・・・・・・・・・・・・・・・4重量部
また、実施例および比較例に用いた成分は、次のとおりである。
<アクリル系重合体(A)>
・A−1:アクリル系重合体
(株)日本触媒製 “ポリメント”(登録商標)SK−1000(アミン水素当量:650g/eq、重量平均分子量:50,000)
・A−2:アクリル系重合体
(株)日本触媒製 “ポリメント”(登録商標)NK−350(アミン水素当量:1400g/eq、重量平均分子量:100,000)
・A−3:アクリル系重合体
(株)日本触媒製 “ポリメント”(登録商標)NK−100PM(アミン水素当量:400g/eq、重量平均分子量:20,000)
・A−4:1、6−ヘキサメチレンカーボネートジオールとヘキサメチレンジイソシアネートとを重合した自己乳化型ポリウレタン重合体(アミン水素当量:0g/eq、重量平均分子量:50,000)
・A−5:ポリメチルメタクリレート
住友化学工業(株) “スミペックス”(登録商標)LG(N/C:0、飽和吸水率:1%)
・A−6:ポリアクリルアミド
ALDRICH社製 ポリアクリルアミド 50重量%水溶液(重量平均分子量:10,000、N/C:0.33、飽和吸水率:10%)
・A−7:ポリアミド
東レ(株)製 水溶性ナイロン A−90
[実施例1]
下記処方の炭素繊維前駆体用油剤を調製した。
・A−1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5重量部
・トリメチロールプロパンアルキルエステル・・・・・・・・・84重量部
(ここで、3つのアルキル鎖には炭素数11の直鎖状のものを用いた。)
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル(平均HLB10)・・・10重量部
・(ペンタエリスリチル‐テトラキス〔3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1重量部
・酢酸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.1重量部
・水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4000重量部
アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなる共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により重合し、濃度22重量%の紡糸原液を得た。重合後、紡糸原液にアンモニアガスをpH8.5になるまで吹き込み、イタコン酸を中和して、アンモニウム基をポリマー成分に導入することにより、紡糸原液の親水性を向上させた。得られた紡糸原液を40℃の温度で、直径0.15mm、孔数6000の紡糸口金を用いて、一旦空気中に吐出し、約4mmの距離の空間を通過させた後、10℃の温度にコントロールした40重量%ジメチルスルホキシド水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸により凝固させた。得られた凝固糸を水洗した後、70℃の温度の温水中で3倍に延伸し、さらに油剤浴中を通過させることにより、上記で調製した炭素繊維前駆体用油剤をディップーニップ法で付着させた。さらに180℃の温度の加熱ローラーを用いて、接触時間40秒の乾燥処理を行った。得られた乾燥糸を、製糸全延伸倍率を14倍として、0.4MPaの加圧スチーム中で延伸することにより、単繊維繊度1dtex、単繊維本数6000本の前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維の油剤付着量は、純分で1.0重量%であった。
・A−1:アクリル系重合体
(株)日本触媒製 “ポリメント”(登録商標)SK−1000(アミン水素当量:650g/eq、重量平均分子量:50,000)
・A−2:アクリル系重合体
(株)日本触媒製 “ポリメント”(登録商標)NK−350(アミン水素当量:1400g/eq、重量平均分子量:100,000)
・A−3:アクリル系重合体
(株)日本触媒製 “ポリメント”(登録商標)NK−100PM(アミン水素当量:400g/eq、重量平均分子量:20,000)
・A−4:1、6−ヘキサメチレンカーボネートジオールとヘキサメチレンジイソシアネートとを重合した自己乳化型ポリウレタン重合体(アミン水素当量:0g/eq、重量平均分子量:50,000)
・A−5:ポリメチルメタクリレート
住友化学工業(株) “スミペックス”(登録商標)LG(N/C:0、飽和吸水率:1%)
・A−6:ポリアクリルアミド
ALDRICH社製 ポリアクリルアミド 50重量%水溶液(重量平均分子量:10,000、N/C:0.33、飽和吸水率:10%)
・A−7:ポリアミド
東レ(株)製 水溶性ナイロン A−90
[実施例1]
下記処方の炭素繊維前駆体用油剤を調製した。
・A−1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5重量部
・トリメチロールプロパンアルキルエステル・・・・・・・・・84重量部
(ここで、3つのアルキル鎖には炭素数11の直鎖状のものを用いた。)
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル(平均HLB10)・・・10重量部
・(ペンタエリスリチル‐テトラキス〔3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1重量部
・酢酸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.1重量部
・水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4000重量部
アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%からなる共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により重合し、濃度22重量%の紡糸原液を得た。重合後、紡糸原液にアンモニアガスをpH8.5になるまで吹き込み、イタコン酸を中和して、アンモニウム基をポリマー成分に導入することにより、紡糸原液の親水性を向上させた。得られた紡糸原液を40℃の温度で、直径0.15mm、孔数6000の紡糸口金を用いて、一旦空気中に吐出し、約4mmの距離の空間を通過させた後、10℃の温度にコントロールした40重量%ジメチルスルホキシド水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸により凝固させた。得られた凝固糸を水洗した後、70℃の温度の温水中で3倍に延伸し、さらに油剤浴中を通過させることにより、上記で調製した炭素繊維前駆体用油剤をディップーニップ法で付着させた。さらに180℃の温度の加熱ローラーを用いて、接触時間40秒の乾燥処理を行った。得られた乾燥糸を、製糸全延伸倍率を14倍として、0.4MPaの加圧スチーム中で延伸することにより、単繊維繊度1dtex、単繊維本数6000本の前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維の油剤付着量は、純分で1.0重量%であった。
得られた前駆体繊維を4本合糸して単繊維本数を24000本とした後、240〜280℃の温度の空気中で加熱して耐炎化繊維に転換した。耐炎化処理の時間は40分で、耐炎化処理の工程における延伸比は1.00とした。
さらに、この耐炎化繊維を、300〜800℃の温度の窒素雰囲気中で加熱して予備炭素化処理した後、最高温度1300℃の窒素雰囲気中で加熱して炭素化処理した。予備炭素化処理の工程における延伸比は1.10で、炭素化処理の工程における延伸比は0.97とした。さらに、炭素化処理して得られた繊維を、硫酸水溶液中で10クーロン/g−CFの電気量で陽極酸化処理を行って炭素繊維を得た。これらの間、炭素繊維には、操業性に影響を及ぼすような顕著な毛羽や切断は発生しなかった。得られた良好な品位の炭素繊維の引張強度は4.6GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
[実施例2]
実施例1で用いたA−1の化合物をA−2の化合物に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.2GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
実施例1で用いたA−1の化合物をA−2の化合物に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.2GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
[実施例3]
実施例1で用いたA−1の化合物をA−3の化合物に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.0GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
実施例1で用いたA−1の化合物をA−3の化合物に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.0GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
[比較例1]
実施例1で用いたA−1の化合物の組成を5重量部から0.1重量部に下げたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得ようとしたが、製糸工程の乾燥で単繊維間に融着が発生したため、加圧スチームによる延伸は糸切れが起こり、炭素繊維とすることはできなかった。
[比較例2]
実施例1で用いたA−1の化合物の組成を5重量部から26重量部に上げたこと以外、は実施例1と同様にして炭素繊維を得ようとしたが、単繊維間に接着が発生したため、加圧スチームによる延伸で一部毛羽が発生し、炭素化工程の前半部分で糸切れが起こり、炭素繊維とすることはできなかった。
実施例1で用いたA−1の化合物の組成を5重量部から0.1重量部に下げたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得ようとしたが、製糸工程の乾燥で単繊維間に融着が発生したため、加圧スチームによる延伸は糸切れが起こり、炭素繊維とすることはできなかった。
[比較例2]
実施例1で用いたA−1の化合物の組成を5重量部から26重量部に上げたこと以外、は実施例1と同様にして炭素繊維を得ようとしたが、単繊維間に接着が発生したため、加圧スチームによる延伸で一部毛羽が発生し、炭素化工程の前半部分で糸切れが起こり、炭素繊維とすることはできなかった。
[比較例3〜6]
実施例1で用いたA−1の化合物をA−4〜A−7の化合物にそれぞれ変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得ようとしたが、製糸工程の乾燥で単繊維間に融着が発生したため、加圧スチームによる延伸は糸切れが起こり、炭素繊維とすることはできなかった。
実施例1で用いたA−1の化合物をA−4〜A−7の化合物にそれぞれ変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得ようとしたが、製糸工程の乾燥で単繊維間に融着が発生したため、加圧スチームによる延伸は糸切れが起こり、炭素繊維とすることはできなかった。
[実施例4]
実施例1で用いたトリメチロールアルキルプロパンを、トリメリット酸アルキルエステル(ここで、3つのアルキル鎖には炭素数11の直鎖状のものを用いた)に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.5GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
実施例1で用いたトリメチロールアルキルプロパンを、トリメリット酸アルキルエステル(ここで、3つのアルキル鎖には炭素数11の直鎖状のものを用いた)に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.5GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
[実施例5]
実施例1で用いたトリメチロールアルキルプロパンを、ビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物をジアルキル(炭素数11)エステル化した化合物に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.6GPa、引張弾性率は240GPaであった。
実施例1で用いたトリメチロールアルキルプロパンを、ビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物をジアルキル(炭素数11)エステル化した化合物に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.6GPa、引張弾性率は240GPaであった。
[実施例6]
実施例1で用いたトリメチロールアルキルプロパンを、ジアルキル(炭素数11)チオジプロピオネートに変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.5GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
実施例1で用いたトリメチロールアルキルプロパンを、ジアルキル(炭素数11)チオジプロピオネートに変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.5GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
[実施例7]
実施例1で用いたトリメチロールアルキルプロパンを64重量部に、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを30重量部に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.2GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
実施例1で用いたトリメチロールアルキルプロパンを64重量部に、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを30重量部に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.2GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
[実施例8]
実施例1で用いたポリオキシエチレンラウリルエーテルを、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール(平均HLB10)に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.7GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
実施例1で用いたポリオキシエチレンラウリルエーテルを、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール(平均HLB10)に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.7GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
[実施例9]
実施例1でアクリロニトリルの共重合に用いたイタコン酸を、メタクリル酸に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.2GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
実施例1でアクリロニトリルの共重合に用いたイタコン酸を、メタクリル酸に変えたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。炭素繊維の引張強度は4.2GPaであり、引張弾性率は240GPaであった。
Claims (7)
- 末端に第1級アミンを有する構造のアミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体(A)0.2〜20重量%、単数または複数のビスフェノールA型の骨格を有する芳香族エステル、トリメチロールプロパンアルキルエステル、トリメリット酸アルキルエステルおよびジアルキルチオジプロピオネートからなる群から選ばれた化合物(B)60〜90重量%、および界面活性剤(C)10〜40重量%からなる炭素繊維前駆体繊維用油剤。
- アクリル系重合体(A)のアミン水素当量が200〜2,000g/eqである請求項1または2記載の炭素繊維前駆体繊維用油剤。
- アクリル系重合体(A)の重量平均分子量が5,000〜100,000である請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維前駆体繊維用油剤。
- アミノ基1モルに対して0.3〜5.0モル当量の炭素数1〜6の低級脂肪族モノカルボン酸を加えてなる有機カルボン酸(D)を含む請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維前駆体繊維用油剤。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維前駆体繊維用油剤を、乾燥した炭素繊維前駆体繊維に対して0.1〜5重量%付着させてなる炭素繊維前駆体繊維。
- 炭素繊維前駆体繊維が、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸からなる群から選ばれた酸単量体を0.1〜2モル%共重合してなるポリアクリロニトリル系重合体からなる請求項6記載の炭素繊維前駆体繊維。
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