JP2010046711A - サブマージアーク溶接用溶融型フラックスおよび低温用鋼のサブマージアーク溶接方法。 - Google Patents

サブマージアーク溶接用溶融型フラックスおよび低温用鋼のサブマージアーク溶接方法。 Download PDF

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Abstract

【課題】 高速度の溶接条件においても溶接作業性が良好で、優れた機械性能の溶接金属が得られるサブマージアーク溶接用溶融型フラックスおよび低温用鋼のサブマージアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】 質量%で、SiO:8〜25%、Al:30〜50%、MgO:0.5〜5.0%、MnO:0.5〜5.0%、CaO:5〜20%、CaF:25〜50%を含有する溶融型フラックスと、ワイヤ全質量%で、C:0.02〜0.30%、Si:0.08〜0.6%、Mn:1.2〜3.0%、Ni:0.5〜3.5%、Mo:0.03〜0.8%を含有し、かつ、充填フラックスに、C:0.01〜0.27%、CaF:2〜15%を含有し、ワイヤの全水素量が50ppm以下で、前記成分中の充填フラックスのフラックス充填率が10〜30%からなる鋼製外皮に継ぎ目が無いフラックス入りワイヤとの両者を組合せてサブマージアーク溶接をする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、LPG貯蔵タンク、低温用機器、寒冷地向け鋼構造物などの溶接に使用される低温用鋼のサブマージアーク溶接用溶融型フラックスおよびそのサブマージアーク溶接方法に関し、特に高速度の溶接条件においても優れた機械性能の溶接金属、ビード形状および溶接作業性が得られるサブマージアーク溶接用溶融型フラックスおよび低温用鋼のサブマージアーク溶接方法に関する。
サブマージアーク溶接は、高能率で安定した溶接作業性および溶接金属の機械的性能が得られることから、造管、鉄骨、橋梁、車両など幅広い分野の溶接に適用されている。近年、エネルギー産業の発展に伴い、低温用鋼は幅広く用いられており、年々使用比率が増加している。そこで、サブマージアーク溶接においては、低温用鋼を用いた施工における生産性の向上や安全性、耐久性の確保のため、更なる改善が求められており、その中でも特に溶接の高能率化と溶接金属の高靭性化の要望が極めて大きい。
従来、低温用鋼のサブマージアーク溶接には、フラックスとして溶融型のフラックスまたは焼成型のフラックスが用いられ、フラックスの成分に合わせてソリッドワイヤが主に使用されている。溶融型フラックスは、各種鉱物原材料を1500℃以上の高温度で溶融し、冷却後粉末状に粉砕したものであり、吸湿が少なく、溶接金属の拡散性水素量を低くすることができ、取扱や保管が容易であるという特徴がある。一方、焼成型フラックスは、各種原材料に水ガラス等を添加して造粒し、550℃程度で焼成したものであり、溶接金属の化学成分を自由に調整できるという優れた特徴があるが、吸湿しやすいという欠点がある。
低温用鋼のサブマージアーク溶接には、溶接金属の高靭性化、溶接の高速度化、安定した溶接金属の品質確保のため、特に溶融型フラックスを適用することが多い。しかし、溶融型フラックスは溶接金属の化学成分を自由に調整することができないため、溶接金属の高靭性化のためには塩基度を高め、溶接金属の酸素量を低くしなければならない。ただし、単に塩基度を高めるだけでは高靭性化の限界があり、また、正常なビード形状および良好な溶接作業性を得ることはできない。そこで、溶接金属の化学成分を調整し、高靭性化するためにはソリッドワイヤにNi、Mn、Mo等の合金成分を含有させる必要がある。しかし、ワイヤの合金成分量が増加すると、ワイヤ自体が高強度となり、溶接用ワイヤ製造の伸線加工時に、加工硬化が加わりさらにワイヤが硬化する。ワイヤが硬化するとダイス磨耗や断線が多くなるため、製造が困難となる。そこで、一般的には伸線途中で熱処理を行いワイヤの強度を低下させるが、合金成分量が多い場合はワイヤの変態温度が低下するため、焼なまし処理により軟化を行う場合に長時間の保持が必要になる。また、高温の焼ならし処理により軟化を行う場合では、高強度の組織に変態しやすい。したがって、ワイヤを軟化するためには熱処理温度を低く設定し、長時間の保持や徐冷が必要となるため、生産性が非常に悪くなる。
また、高強度のソリッドワイヤを使用して溶接すると、ワイヤの変形ができずワイヤの矯正が困難となり、ワイヤと開先中心とのセンターずれが起きやすく、良好なビードが得られずに溶接性に問題がある。このように高強度のソリッドワイヤは、ワイヤ製造のための生産性および溶接時の溶接性が低下するという問題があった。
そこで、サブマージアーク溶接用の種々のフラックス入りワイヤが開発されてきたが、高靭性の溶接金属を得るためには溶接金属の酸素量を低くする必要があり、また低温用鋼の溶接は低温割れ(水素割れ)が発生しやすいためフラックス入りワイヤを低水素化する必要があるが、これまでのフラックス入りワイヤでは、これらの必要性を満たすものではなかった。
また、ソリッドワイヤの生産性やワイヤ送給性等の溶接性を考慮し、合金成分の少ない低強度のワイヤを使用し、合金成分の添加量を調整できる焼成型フラックス(ボンドフラックス)を適用した溶接方法もあるが、焼成型フラックスは溶融型フラックスに比べ、フラックスの溶融速度が遅いため、高速溶接に適用することは難しく、また、吸湿しやすいことや溶接金属の靭性のバラツキが若干発生すること、ビード形状が若干凸形状になることなど、焼成型フラックスでは、高速溶接において良好な溶接作業性が得られにくいという問題がある。
これらの点を考慮し、良好な溶接金属機械性能および溶接作業性が得られるサブマージアーク溶接用溶融型フラックスの開発、ワイヤの生産性および溶接性が良好なサブマージアーク溶接用ワイヤの開発が試みられている。
例えば、高速のサブマージアーク溶接における溶接作業性と低温靭性の改善を図った溶融型フラックスが特許文献1に開示されているが、フラックス成分のSiO2が高いため溶接金属の酸素量が高くなり、高靭性化の要求に対しては不十分なものとなる。またMgOが高いためフラックスの軟化溶融点が高くなり、ビード表面に突起物の発生や波目が粗くなり、スラグ剥離性およびビード外観が不良となる。
特許文献2には、フラックスの粒度調整による溶接作業性改善や溶接金属の酸素量低減による靭性向上を図った溶融型フラックスが開示されているが、フラックス成分のAl23が少量しか添加されておらず、良好なスラグ剥離性、ビード外観を得ることはできない。Al23は良好なスラグ剥離性およびビード外観を得るためには極めて重要な成分であり、またアーク安定性を良好にする効果もあるため、特許文献2に記載のAl23添加量ではその効果が得られない。
また、ワイヤの引張強度の低いサブマージアーク溶接用複合ワイヤが特許文献3に開示されており、ワイヤの生産性および送給性は改善されるが、このフラックス入りワイヤでは、ワイヤ中の酸素量が高いため溶接金属中の酸素量が増加し、良好な低温靭性が得られない。さらに、ワイヤ断面形状は継ぎ目を有すフラックス入りワイヤであるので、大気中の水分を吸湿する。したがって、フラックスの水分量を減少しただけでは不十分であり、溶接金属中の拡散性水素量が増加して溶接後に低温割れが発生し易くなる。
特許文献4には、充填するフラックスに高塩基性のスラグ形成成分を含有し、中性フラックスまたは弱塩基性フラックスと組合せて使用することにより、良好な溶接作業性および高靭性の溶接金属が得られる潜弧溶接用複合ワイヤが開示されている。しかし、ワイヤのフープ材にSi、Mn、Mo、Niが添加されているためワイヤ自体の引張強度が高く、ワイヤ送給性が劣ることや、充填するフラックス中にスラグ形成成分を多量に含んでいるため、合金成分が不足し、溶接金属のより一層の高靭性化の要求に対しては不十分である。
サブマージアーク溶接用高靭性複合ワイヤが特許文献5に開示されており、溶接金属の高靭性化と溶接作業性の改善を図っているが、特許文献5に記載のワイヤ成分では溶接金属の高靭性化と良好な溶接作業性の両立は得られない。
さらに、低温用鋼の大入熱潜弧溶接用太径シームレスフラックス入りワイヤが特許文献6に開示されているが、特許文献6に記載のワイヤ成分では良好な溶接金属の靭性を得ることはできず、また、ワイヤの外皮に適用する鋼材の合金成分が低くても、ワイヤ径が4.5〜10mmと太いため、ワイヤ自体の剛性は強くなり、ワイヤ送給性劣化や溶接部の開先が広い施工法にしか適用できないため、使用範囲が限定されて溶接による生産能率が低下するという問題もある。
特開平6−285679号公報 特開平8−187593号公報 特開2006−142377号公報 特開昭48−85443号公報 特開昭49−103858号公報 特開昭61−242791号公報
本発明は、特に高速度の溶接条件においても溶接作業性が良好で、優れた機械性能の溶接金属が得られるサブマージアーク溶接用溶融型フラックスおよび低温用鋼のサブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために、溶融型フラックスの化学組成および組合せるフラックス入りワイヤの鋼製外皮と充填フラックスの合計であるワイヤ成分、充填フラックス成分、ワイヤの全水素量、フラックス充填率などについて鋭意検討し、また、フラックスの化学組成の検討だけでは、溶接金属の靭性向上に限界があり、さらなる靭性向上のため、フラックスと組合せるワイヤについても鋭意検討を行なった。その結果、溶融型フラックスの化学組成を限定し、組合せるフラックス入りワイヤの化学組成、ワイヤ全水素量、フラックス充填率を限定することにより、低温用鋼の高速サブマージアーク溶接において、高靭性の溶接金属を得ることができ、良好な溶接作業性およびビード形状が得られ、溶接金属の拡散性水素量が低く、溶接欠陥のない高品質の溶接部を得ることができることを見出して、本発明を完成した。
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 質量%で、SiO2:8〜25%、Al23:30〜50%、MgO:0.5〜5.0%、MnO:0.5〜5.0%、CaO:5〜20%、CaF2:25〜50%を含有し、その他は酸化鉄および不可避不純物であることを特徴とするサブマージアーク溶接用溶融型フラックス。
(2) 鋼製外皮にフラックスを充填したフラックス入りワイヤのワイヤ全質量%で、鋼製外皮と充填フラックスの一方または両方の合計で、C:0.02〜0.30%、Si:0.08〜0.6%、Mn:1.2〜3.0%、Ni:0.5〜3.5%、Mo:0.03〜0.8%を含有し、かつ、充填フラックスに、C:0.01〜0.27%、CaF2:2〜15%を含有し、残部は鋼製外皮のFe、合金粉中のFe、鉄粉および不可避的不純物からなり、ワイヤの全水素量が50ppm以下で、前記成分中の充填フラックスのフラックス充填率が10〜30%からなる鋼製外皮に継ぎ目が無いフラックス入りワイヤと前記(1)に記載のサブマージアーク溶接用溶融型フラックスとを組合せて溶接することを特徴とする低温用鋼のサブマージアーク溶接方法にある。
本発明のサブマージアーク溶接用溶融型フラックスおよび低温用鋼のサブマージアーク溶接方法によれば、低温用鋼の高速サブマージアーク溶接において、溶接金属中の酸素量が低く高靭性の溶接金属を得ることができ、良好な溶接作業性およびビード形状が得られ、溶接金属の拡散性水素量を低くすることができるので溶接欠陥のない高品質の溶接部を得ることができる。
本発明の実施例で用いた多層盛溶接試験板の開先形状を示す図である。 本発明の実施例における溶接方法の模式図である。 本発明の実施例で用いた水平すみ肉溶接用試験板の開先形状および溶接方法の模式図である。
本発明者らは、前記課題を解決するために、溶融型フラックスの化学組成および組合せるフラックス入りワイヤの鋼製外皮と充填フラックスの合計であるワイヤ成分、充填フラックス成分、ワイヤの全水素量、フラックス充填率などについて鋭意検討した。
サブマージアーク溶接での高速度化および溶接金属の高靭性化には、フラックスの化学組成が重要であり、非常に大きな影響を及ぼす。そこでフラックスは溶融型フラックスを適用することによって高速度の溶接が可能となり、ビード形状もフラットで波目の細かい美しい外観が得られた。しかし、溶接金属の高靭性化のためにはフラックスの塩基度を高める必要があり、塩基性の鉱物原材料の添加量を増加した結果、溶接金属の靭性は向上したが、逆にスラグ剥離性、ビード外観、アーク安定性が劣化した。
一般的にフラックスの塩基度を高めると溶接作業性が劣ることは公知であり、単に塩基度を上げるだけでは良好な溶接作業性と溶接金属機械的性能の両立は図れない。そこで、良好な溶接金属機械的性能を維持し、優れた溶接作業性を得るために新たに見出したのがAl23の添加増量である。Al23は良好なスラグ剥離性およびビード外観を得るための極めて重要な成分であり、またアーク安定性を良好にする効果もある。一般的なサブマージアーク溶接用溶融型フラックスにはAl23が含有されていることは公知であるが、多量に含有されたフラックスは今までに無い。また、Al23は一般的には塩基度を下げるといわれているが、中性酸化物であるため、多少添加量を増量させても溶接金属の酸素量は高くならないことが明らかとなった。これにより、Al23をはじめフラックスの化学組成を適正化することで良好な溶接金属機械的性能と溶接作業性の両立が可能となった。
フラックスの化学組成の検討だけでは、溶接金属の靭性向上に限界があり、さらなる靭性向上のため、フラックスと組合せるワイヤについても鋭意検討を行った。
溶接金属の高靭性化については、溶接金属の酸素バランスおよび合金元素添加による結晶粒組織適正化が最も重要である。そこで本発明者らは、先ず、フラックスと組合せるワイヤとしてはワイヤ自体の強度を上げずに、必要な合金成分を自由に調整できるフラックス入りワイヤの適用を検討した。
まず、ワイヤ成分において、強脱酸剤のMgやAlを適用し、溶接金属の酸素量コントロールを行ったが、Mg原材料自体の水素量も多いため、溶接金属の拡散性水素量が高くなり、低温割れが発生した。また、Alは溶接金属に粗大なAl酸化物を多量に生成させるため、低温用鋼のアシキュラーフェライト主体組織では、粗大な酸化物が破壊の起点となり、靭性を著しく低下させた。
そこで、MgおよびAlに代わる強脱酸剤として新たに見出したのがCの添加である。ただし、脱酸の効果を有意に働かせるためには、鋼製外皮のCを多くするより、充填フラックスのCを多くした方が効果は大きい傾向が認められた。これは、サブマージアーク溶接の場合、溶接電流が高いので鋼製外皮中に添加されたCは、溶融金属中の酸素と結びつく前に、酸化消耗する傾向が認められた。そこで、Cが溶接金属の脱酸をする前に酸化消耗せずに溶融プールまで維持させるために、主に充填フラックスに添加させることにした。鋼製外皮にCを添加し、溶接金属の酸素量をコントロールする場合は、Cの酸化消耗を考慮して多量に添加する必要があり、多量に添加するとワイヤ自体の引張強度が高くなって生産性、ワイヤ送給性および溶接作業性が劣る結果となった。
ワイヤ成分およびフラックス充填率の調整、低水素原材料の適用等により優れた機械的性能を有する溶接金属を得ることが可能となったが、さらに、鋼製外皮に継ぎ目をなくすことによって、製造工程中に焼鈍を行うことが可能となり、ワイヤの水素量をより低減することができ、また酸洗処理やメッキ処理を行うことも可能となるため、ワイヤ表面状態の清浄化および耐錆性の向上を図ることができ、ワイヤ送給性が良好となり溶接作業性を向上させることが可能となった。
以上の結果から、溶融型フラックスの化学組成を限定し、組合せるフラックス入りワイヤの化学組成、ワイヤ全水素量、フラックス充填率を限定することにより、低温用鋼の高速サブマージアーク溶接において、高靭性の溶接金属を得ることができ、良好な溶接作業性およびビード形状が得られ、溶接金属の拡散性水素量が低く、溶接欠陥のない高品質の溶接部を得ることができることを見出した。
以下に本発明のサブマージアーク溶接用溶融型フラックス成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の%は、質量%を示す。
SiO2は、良好な溶接ビードを形成するための重要な成分であるが、過多になると溶接金属中の酸素量が増加して靭性が劣化する。8%未満ではビード趾端部のなじみが悪くなり、スラグ剥離性が劣化し、また特に高速度の溶接においてはアンダーカットも生じる。一方、25%を超えると溶接金属の酸素量が増加して靭性が劣化する。したがって、SiO2は8〜25%とする。
Al23は、高速度の溶接で良好なスラグ剥離性およびビード外観を得るためには極めて重要な成分である。また、アーク安定性を良好にする効果もある。その含有量が30%未満ではその効果が得られない。一方、50%を超えると凸ビードとなりスラグ剥離性も不良になる。したがって、Al23は30〜50%とする。
MgOは、スラグの耐火性および塩基度を向上させる効果がある。その含有量が0.5%未満ではフラックスの塩基度が低くなり、溶接金属中の酸素量が増加して靭性が劣化する。一方、5.0%を超えるとフラックスの軟化溶融点が高くなり、ビード表面に突起物の発生や波目が粗くなり、スラグ剥離性およびビード外観が不良となる。したがって、MgOは0.5〜5.0%とする。
MnOは、スラグの粘性、流動性および融点の調整をするのに有効な成分である。その含有量が0.5%未満ではスラグの粘度が低下して流動性が劣化するため、特に高速度の溶接においてはビード蛇行およびアンダーカットが生じる。一方、5.0%を超えるとスラグの粘度が高くなりすぎ、スラグ巻き込み、焼き付きが発生してスラグ剥離性が劣化する。したがって、MnOは0.5〜5.0%とする。
CaOは、スラグの融点および流動性を調整するために重要な成分である。5%未満ではビード趾端部のなじみが悪くビード外観が不良となり、高速度の溶接ではアンダーカットも生じる。一方、20%を超えるとスラグ流動性が不良となり、ビード高さが不均一でスラグ剥離性も不良になる。したがって、CaOは5〜20%とする。
CaF2は、靭性改善に効果があるが、融点が低いため過多になるとビードの平滑性が損なわれる。25%未満では靭性改善の効果がなく、50%を超えるとビード外観が不良となる。したがって、CaF2は25〜50%とする。
なお、フラックスの粒度構成は、溶融金属の大気とのシールド性およびガス抜けを考慮して1.4×0.21mmで、粒径が0.21mm未満のフラックスが12%以下であることが好ましい。
その他は、酸化鉄(FeO等)およびP、S等の不純物であり、PおよびSは共に低融点の化合物を生成して、靭性を低下させるので、できるだけ低いことが好ましい。
次に、サブマージアーク溶接用溶融型フラックスと組合せるフラックス入りワイヤの成分組成について述べる。なお、ワイヤの成分は、鋼製外皮と充填フラックスの一方または両方に含有される。
フラックス入りワイヤ全体のCは、固溶強化により溶接金属の強度を確保する重要な元素であると共に、アーク中の酸素と反応しアーク雰囲気および溶接金属の酸素量を低減する効果がある。鋼製外皮と充填フラックスの一方または両方の合計(以下、ワイヤ成分という。)のCが0.02%未満では、前記脱酸および強度確保の効果が不十分であり、靭性も低下する。一方、0.30%を超えると溶接金属のCが高くなるためマルテンサイト主体の組織となり、強度が高く靭性が低下する。したがって、ワイヤ成分のCは0.02〜0.30%とする。
また、Cによる脱酸の効果を有意に働かせるためには、鋼製外皮のCを多くするより充填フラックスのCを多くした方が効果は大きいため、充填フラックスのCは0.01〜0.27%とする。充填フラックスのCが0.01%未満であると、十分な脱酸効果が得られず靭性が劣化する。一方、0.27%を超えると脱酸が過剰となり、溶接金属の強度が高くなって靭性が劣化する。
ワイヤ成分のSiは、溶接金属の強度および靭性向上に重要な元素であり、溶接中に酸素と結合しスラグ成分となるため、溶接金属の酸素量を低減する効果がある。ワイヤ成分のSiが0.08%未満では、溶接金属の強度が低く、酸素量が多くなって靭性が低下する。一方、0.6%を超えると溶接金属のマトリックスを固溶強化するが、フェライト結晶粒を粗大化させるため著しく靭性が低下する。したがって、ワイヤ成分のSiは0.08〜0.6%とする。
ワイヤ成分のMnは、焼入れ性を向上させて強度を高めるのに有効な成分である。ワイヤ成分のMnが1.2%未満では、焼入れ性が不足して強度が低くなる。一方、3.0%を超えると焼入れ性が過多となり、溶接金属の強度が高くなり靭性が低下する。したがって、ワイヤ成分のMnは1.2〜3.0%とする。
ワイヤ成分のNiは、溶接金属の強度および靭性確保を目的とする。ワイヤ成分のNiが0.5%未満では、強度が低く靭性が低下する。一方、3.5%を超えると、Niはオーステナイト安定化元素であるため、オーステナイト粒径を粗大化させて溶接金属の靭性を劣化させる。したがって、ワイヤ成分のNiは0.5〜3.5%とする。
ワイヤ成分のMoは、溶接金属の強度確保を目的とする。ワイヤ成分のMoが0.03%未満では、強度が低くなる。一方、0.8%を超えると溶接金属中に金属間化合物を生成して溶接金属を著しく硬化させて靭性が低下する。したがって、ワイヤ成分のMoは0.03〜0.8%とする。
充填フラックスのCaF2は、溶接金属の靭性向上に重要な元素であり、溶接中にアーク雰囲気中の酸素分圧を下げ、溶接金属の酸素量を低減する効果がある。充填フラックスのCaF2が2%未満では、溶接金属中の酸素量が高くなり靭性が低下する。一方、15%を超えるとアークが不安定となり、またワイヤ中のスラグ成分が増えるため、溶着量が減少し、溶着効率を低下させる。したがって、充填フラックスのCaF2は2〜15%とする。
フラックス入りワイヤに含まれる全水素量が多くなると、溶接時に水素ガスとしてブローホールやピット、ポックマークなどの溶接欠陥を発生させる。また、溶接金属の拡散性水素量が多くなり低温割れが発生する。したがって、溶接欠陥や低温割れを防ぐためには、ワイヤの全水素量を50ppm以下にする必要がある。
前記成分中の充填フラックスのフラックス充填率は10〜30%とする。フラックス充填率が10%未満では、目的の高靭性化に対して必要な合金成分が不足し、十分な機械的性能が得られない。一方、30%を超えると、継ぎ目がないフラックス入りワイヤの製造時、成型後にシーム部を溶接し継ぎ目を無くすが、溶接時シーム部にフラックスが入り込みやすくなり、溶接欠陥が発生して生産性が劣化する。また、フラックス充填率が多くなると、充填フラックスの酸素量が増加し、溶接金属の酸素量も増加するため靭性が低下する。
なお、充填フラックス中の合金成分は、鋼製外皮の成分とその含有量を考慮して、各限定した範囲内で配合成分を調整し、種々の鋼材(母材)の成分に応じたフラックス入りワイヤとすることができる。
また、溶接金属の酸素量を低下させるために、充填フラックスの主体は金属粉としてスラグ形成剤となる酸化物等は添加しないことが望ましい。
その他、不純物としてのPおよびSは共に低融点の化合物を生成して、靭性を低下させるため、できるだけ低いことが好ましい。
本発明のサブマージアーク溶接用溶融型フラックスおよび低温用鋼のサブマージアーク溶接方法は、安定したアーク、ワイヤ送給性、溶着効率向上を可能とした溶接をするために、組合せるワイヤ外径は1.0〜4.0mmとすることが好ましい。
また、このワイヤは、鋼製外皮に継ぎ目の無い(以下、シームレスという。)断面形状のため、耐吸湿性能に優れており、さらに製造工程中に焼鈍を行うことができるため、溶接金属の拡散性水素量を極力低減することができる。帯鋼から成形し、シーム部の溶接を行わない通常のシーム有りのフラックス入りワイヤでは、充填フラックスが吸湿しやすく、また製造工程中、焼鈍を行うことができないため、溶接金属の拡散性水素量は多くなる傾向がある。このシーム有りのフラックス入りワイヤが製造工程中に焼鈍できない理由は、シーム部に若干の間隙が空いているため、焼鈍を行うと、充填フラックス中の合金剤が酸化して酸化物となり溶接金属の酸素量が増加してしまうことや所定の焼入れ特性を得ることができず、溶接金属の強度および靭性が低下してしまうからである。シーム有りのフラックス入りワイヤは、ワイヤ断面が非対称となり、ワイヤ自体がねじれ易く、溶接時に開先中心とのセンターずれを生じ易いが、シームレスワイヤはワイヤ断面が同心円からなり、全ての方向について対称であり、扱いやすく、ねじれが発生し難いワイヤを得ることができる。
なお、シームレスワイヤは、製造工程中に酸洗処理やめっき処理を行うことも可能となるため、ワイヤ表面状態を清浄化および耐錆性を向上することができるので、ワイヤ送給性が良好となり溶接作業性を向上させることができる。
以下、実施例により本発明の効果をさらに詳細に説明する。
表1に示す各種成分の溶融型フラックスと表2に示す鋼製外皮を用いて表3に示す各種フラックス入りワイヤを試作し、これらを組合せて多層盛溶接の溶接金属機械的性能評価として、表4に示す板厚25mmの鋼板を、図1に示すように、開先角度4を30°、ルート間隔5を13mmの開先形状に鋼板3を加工し、表5に示す溶接条件および図2に示す溶接チップ1とワイヤ2を用いる2ワイヤ1電極方式にて、矢印の方向に溶接する溶接試験を実施した。また、溶接作業性評価は、水平すみ肉溶接で、表4に示す板厚25mmの鋼板を用いて、図3に示すように、T字に鋼板3を組立て、溶接チップ1とワイヤ2とをセットし、表6に示す溶接条件にて2ワイヤ1電極方式で溶接長1mの溶接試験を実施した。
なお、表1に示す溶融型フラックスは、各種鉱物原材料を1500℃以上の高温度で溶融し、冷却後粉末状に粉砕して1.4×0.21mmの粒度に整粒したものを用いた。
また、表3に示すフラックス入りワイヤは、表2に示す鋼製外皮を用いて、F1の鋼製パイプの場合、フラックスを鋼製パイプ中に振動充填した後、縮径、焼鈍して素線とした。F2の帯鋼は、成型工程で帯鋼をU字型に成型してフラックスを充填し、O字型に成型してシーム部を溶接後、縮径、焼鈍して素線とした。F3の帯鋼は、成型工程で帯鋼をU字型に成型してフラックスを充填し、ラップ型に成型後、縮径して素線とした。さらに、それらの素線を2.0mm径まで伸線した。なお、ワイヤ全水素量は2.0mm径のワイヤを熱伝導度方式による高周波加熱法によって測定した。
Figure 2010046711
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各試作溶融型フラックスおよび組合せフラックス入りワイヤの評価は、溶接金属の拡散性水素量、水平すみ肉溶接後のビード外観・形状、スラグ剥離性およびアンダーカットの有無、多層盛溶接後の溶接欠陥の有無、溶接金属の酸素量、引張強度および靭性を調査した。
溶接金属の拡散性水素量の測定は、JIS Z 3118に準拠して表1に示す各種成分の溶融型フラックスと表3に示す各種フラックス入りワイヤを表7に示す組合せで測定し、6ml/100g以下を良好とした。
Figure 2010046711
多層盛溶接の溶接欠陥はX線透過試験で調査した。
溶接金属の機械的性能評価は、多層盛溶接試験体の鋼板表面下7mmを中心にシャルピー衝撃試験片(JIS Z2202 4号)および引張試験片(JIS Z 2201 A1号)を採取して、機械試験を実施した。靭性の評価は−60℃におけるシャルピー衝撃試験により行い、各々繰返し数3本の平均により評価した。なお、シャルピー衝撃試験の吸収エネルギーは90J以上を良好とした。引張強度の評価は560MPa以上を良好とした。これらの調査結果を表7にまとめて示す。
表7から明らかなように、本発明例である試験記号T1〜T10は、フラックス記号MF1〜MF10および組合せたワイヤ記号W1〜W10が本発明の構成要件を満足するため、拡散性水素量が低く、水平すみ肉溶接における溶接作業性が良好で、多層盛溶接部に欠陥が無く、溶接金属の機械的性能も優れており、極めて満足な結果であった。
これに対し、比較例である試験記号T11は、フラックス記号MF11のAl23が高いのでビード形状およびスラグ剥離性が不良であった。また、組合せたワイヤ記号W11のフラックス充填率が低いので引張強度および吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T12は、フラックス記号MF12のSiO2が高いので溶接金属の酸素量が多く吸収エネルギーが低値であった。また、Al23が低いのでスラグ剥離性およびビード外観が不良であった。さらに、組合せたワイヤ記号W20のMnが低いので引張強度が低かった。
試験記号T13は、フラックス記号MF13のMgOが低いので溶接金属の酸素量が多く吸収エネルギーが低値であった。また、MnOが高いのでスラグ剥離性が不良で、多層盛溶接ではスラグ巻き込み欠陥が生じた。
試験記号T14は、フラックスMF14のSiO2が低いのでビード外観およびスラグ剥離性が不良でアンダーカットも発生した。また、組合せたワイヤ記号W12のSiが低いので溶接金属の引張強度が低く、酸素量が多く吸収エネルギーが低値で、さらにCaF2が高いのでアークが不安定であった。
試験記号T15は、フラックス記号MF15のMgOが高いのでビード外観およびスラグ剥離性が不良であった。また、組合せたワイヤ記号W13はシーム有りタイプのワイヤであるのでワイヤ全水素量が高く、溶接金属の拡散性水素量が高く、さらに、Siが高いので溶接金属の強度が高く吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T16は、フラックス記号MF16のCaOが低いのでビード外観が不良でアンダーカットも生じた。また、組合せたワイヤ記号W14のフラックスの充填率が高いので溶接金属の酸素量が多く吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T17は、フラックス記号MF17のMnOが低いのでビードが蛇行してアンダーカットも生じた。また、組合せたワイヤ記号W15のCaF2が低いので溶接金属の酸素量が多く吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T18は、フラックス記号MF18のCaOが高いのでビード外観およびスラグ剥離性が不良であった。また、組合せたワイヤ記号W16のワイヤ成分のCが低いので溶接金属の引張強度が低く、酸素量が多くなって吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T19は、フラックス記号MF19のCaF2が低いので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T20は、フラックス記号MF20のCaF2が高いのでビード形状が不良であった。また、組合せたワイヤ記号W17の充填フラックス中のCが高いので溶接金属の強度が高く吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T21は、フラックス記号MF11のAl23が高いのでビード形状およびスラグ剥離性が不良であった。また、ワイヤ記号W18のMoが低いので引張強度が低かった。さらに、充填フラックス中のCが低いので溶接金属の酸素量が多く吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T22は、フラックス記号MF15のMgOが高いのでビード外観およびスラグ剥離性が不良であった。また、ワイヤ記号W19のワイヤ成分のCが高いので溶接金属の強度が高く吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T23は、フラックス記号MF16のCaOが低いのでビード外観が不良でアンダーカットも生じた。また、ワイヤ記号W21のMnが高いので溶接金属の強度が高く吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T24は、フラックス記号MF17のMnOが低いのでビードが蛇行してアンダーカットも生じた。また、ワイヤ記号W22のMoが高いので溶接金属の強度が高く吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T25は、フラックス記号MF18のCaOが高いのでビード外観およびスラグ剥離性が不良であった。また、ワイヤ記号W23のNiが低いので引張強度および吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T26は、フラックス記号MF20のCaF2が高いのでビード形状が不良であった。また、ワイヤ記号W24のNiが高いので吸収エネルギーが低値であった。
1 溶接チップ
2 ワイヤ
3 鋼板
4 開先角度
5 ルート間隔

Claims (2)

  1. 質量%で、
    SiO2:8〜25%、
    Al23:30〜50%、
    MgO:0.5〜5.0%、
    MnO:0.5〜5.0%、
    CaO:5〜20%、
    CaF2:25〜50%
    を含有し、その他は酸化鉄および不可避不純物であることを特徴とするサブマージアーク溶接用溶融型フラックス。
  2. 鋼製外皮にフラックスを充填したフラックス入りワイヤのワイヤ全質量%で、鋼製外皮と充填フラックスの一方または両方の合計で、
    C:0.02〜0.30%、
    Si:0.08〜0.6%、
    Mn:1.2〜3.0%、
    Ni:0.5〜3.5%、
    Mo:0.03〜0.8%
    を含有し、かつ、充填フラックスに、
    C:0.01〜0.27%、
    CaF2:2〜15%
    を含有し、残部は鋼製外皮のFe、合金粉中のFe、鉄粉および不可避的不純物からなり、ワイヤの全水素量が50ppm以下で、前記成分中の充填フラックスのフラックス充填率が10〜30%からなる鋼製外皮に継ぎ目が無いフラックス入りワイヤと請求項1に記載のサブマージアーク溶接用溶融型フラックスとを組合せて溶接することを特徴とする低温用鋼のサブマージアーク溶接方法。
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