本発明の目的は、一対のスピーカユニットについてこれらの磁気回路の変位を制限するための手段が設けられたスピーカ装置における音質の改善を図ることにある。
(請求項1に記載の発明の特徴)
請求項1に記載の発明は、スピーカ装置に係り、フレームと該フレームに支持された振動板及び該振動板に振動を生じさせるための磁気回路とを有する一対の同一のスピーカユニットと、両スピーカユニットを支持する支持体であって該支持体に両スピーカユニットが同方向に向けてかつ互いに間隔をおいて配置された支持体と、両スピーカユニットの振動板の振動に伴って生じる前記スピーカユニットの軸線方向への両磁気回路の変位をそれぞれ制限する一組の変位制限手段であって、前記支持体に互いに面対称をなすように取り付けられた一組の変位制限手段と、両変位制限手段の対称面に直交して伸びかつ両変位制限手段を互いに結合する剛性を有する結合手段とを含むことを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、同方向に向けられた両スピーカユニットの駆動時における各振動板の振動に伴って生じる磁気回路の変位が各変位制限手段により制限される。前記磁気回路の変位を制限することにより、前記磁気回路を支持するフレームの振動が抑制され、各スピーカユニットからの放射音の質の劣化が低減される。
両変位制限手段とこれらが取り付けられた支持体とは、前記磁気回路に変位を生じさせる外力への対抗のために変形する。これらの変形は、両変位制限手段がこれらに共通の前記支持体に互いに面対称に配置されていることから、対称面に関して同一の形態をとる。また、両変位制限手段はこれらを結合する手段が剛性を有しかつ前記対称面に対して直交して伸びることから、両変位制限手段は、両変位制限手段と前記結合手段との結合点すなわち対称点において、前記結合手段を介して互いに押し合い又は引き合う。これに伴い、前記結合点における両変位制限手段の変形が相殺され、これにより前記変位制限手段が受ける前記外力の一部が消費される。その結果、前記支持体の変形の程度が低減され、各スピーカユニットからの放射音の質の劣化がより低減される。
(請求項2に記載の発明の特徴)
請求項2に記載の発明は他のスピーカ装置に係り、請求項1に記載の発明と同様、フレームと該フレームに支持された振動板及び該振動板に振動を生じさせるための磁気回路とを有する一対の同一のスピーカユニットと、両スピーカユニットを支持する支持体であって該支持体に両スピーカユニットが同方向に向けてかつ互いに間隔をおいて配置された支持体と、両スピーカユニットの振動板の振動に伴って生じる前記スピーカユニットの軸線方向への両磁気回路の変位をそれぞれ制限する一組の変位制限手段であって、前記支持体に互いに面対称をなすように取り付けられ、互いに接する一対の当接部又は共通部を有する一組の変位制限手段とを含むことを特徴とする。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明におけると同様、同方向に向けられた両スピーカユニットの駆動時における各振動板の振動に伴って生じる磁気回路の変位が各変位制限手段により制限される。前記磁気回路の変位を制限することにより、前記磁気回路を支持するフレームの振動が低減、抑制され、各スピーカユニットからの放射音の質の劣化が低減される。
また、請求項1に係る発明におけると同様、両変位制限手段とこれらが取り付けられた支持体とは前記磁気回路に変位を生じさせる外力への対抗のために変形し、これらの変形は、両変位制限手段がこれらに共通の前記支持体に互いに面対称に配置されていることから、対称面に関して同一の形態をとる。また、両変位制限手段が、互いに接する一対の当接部又は両変位制限手段に共通の共通部を有することから、両変位制限手段はこれらの当接部において互いに押し合い若しくは引き合い、又はこれらの共通部において互いに拮抗する力を及ぼしあう。これに伴い、前記当接部における両変位制限手段の変形が相殺され、又は前記共通部における変形が実質的に発生することがなく、これにより前記変位制限手段が受ける前記外力の一部が消費される。その結果、前記支持体の変形すなわち振動の程度と、該振動の発生に伴う各スピーカユニットからの放射音の質の劣化とがより低減される。
(請求項3に記載の発明の特徴)
請求項3に記載の発明はさらに他のスピーカ装置に係り、フレームと該フレームに支持された振動板及び該振動板に振動を生じさせるための磁気回路とを有する一対の同一のスピーカユニットと、両スピーカユニットをそれぞれ支持する一対の支持体であって両支持体に両スピーカユニットが互いに対向又は背向するように配置された一対の支持体と、両スピーカユニットの振動板の振動に伴って生じる前記スピーカユニットの軸線方向への両磁気回路の変位をそれぞれ制限する一組の変位制限手段であって、両支持体に互いに面対称をなすように取り付けられた一組の変位制限手段と、両変位制限手段の対称面に直交して伸びかつ両変位制限手段を互いに結合する剛性を有する結合手段とを含むことを特徴とする。
請求項3に記載の発明によれば、両支持体にそれぞれ支持され互いに対向し又は背向する両スピーカユニットの駆動時における各振動板の振動に伴って生じる磁気回路の変位が各変位制限手段により制限される。前記磁気回路の変位を制限することにより、前記磁気回路を支持するフレームの振動が低減、抑制され、各スピーカユニットからの放射音の質の劣化が低減される。
各変位制限手段とこれが取り付けられた各支持体とは、前記磁気回路に変位を生じさせる外力への対抗のために変形する。これらの変形は、両スピーカユニットが両支持体に互いに対向又は背向するように配置されかつ両変位制限手段が互いに面対称に配置されていることから、対称面に関して同一の形態をとる。また、両変位制限手段はこれらを結合する手段が剛性を有しかつ前記対称面に対して直交して伸びることから、両変位制限手段は、両変位制限手段と前記結合手段との結合点すなわち対称点において、前記結合手段を介して互いに押し合い又は引き合う。これに伴い、前記結合点における両変位制限手段の変形が相殺され、これにより前記変位制限手段が受ける前記外力の一部が消費される。その結果、各支持体の変形の程度が低減され、各スピーカユニットからの放射音の質の劣化がより低減される。
(請求項4に記載の発明の特徴)
請求項4に記載の発明は、請求項1又は3に記載の発明の構成要素を備えた上で、前記結合手段が1又は複数の棒状部材からなることを特徴とする。
請求項4に記載の発明によれば、前記棒状部材を介して、両変位制限手段にそれぞれ生じる変形の抑止力を互いに他の一方の変位制限手段に伝達することができる。
(請求項5に記載の発明の特徴)
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明の構成要素を備えた上で、各変位制限手段が、各スピーカユニットの支持体に固定された支持部材と、該支持部材に支持され各スピーカユニットの磁気回路を各スピーカユニットの軸線方向に向けて押圧する押圧部材とからなることを特徴とする。
請求項5に記載の発明によれば、前記磁気回路に生じる前記スピーカユニットの軸線方向への変位が前記押圧部材により制限される。このとき、前記磁気回路に対する前記押圧部材の反力はこれを支持する前記支持部材を介して前記支持体が担う。また、前記押圧部材が前記磁気回路に対して及ぼす押圧力(プレロード)は、前記磁気回路に発生し得る変位の大きさをより小さいものに制限する。
(請求項6に記載の発明の特徴)
請求項6に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明の構成要素を備えた上で、両スピーカユニットの支持体のそれぞれがバッフル板又は筐体からなることを特徴とする。
請求項6に記載の発明によれば、両スピーカユニットがバッフル板又は筐体により支持されたスピーカ装置において、音質劣化の低減を図ることができる。
(請求項7に記載の発明の特徴)
請求項7に記載の発明は、請求項3に記載の発明の構成要素を備えた上で、両スピーカユニットの支持体のそれぞれがバッフル板からなることを特徴とする。
請求項7に記載の発明によれば、両スピーカユニットがそれぞれ一対のバッフル板により支持されたスピーカ装置において、音質劣化の低減を図ることができる。
(請求項8に記載の発明の特徴)
請求項8に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明の構成要素を備えた上で、さらに、一組の変形制限手段を備えることを特徴とする。両変形制限手段は、両スピーカユニットの振動板の振動に伴って生じる前記スピーカユニットの軸線方向への前記支持体の変形を制限するものであって、前記支持体に前記対称面に関して互いに面対称をなすように取り付けられ、互いに接する一対の当接部、又は共通部を有する。
請求項8に記載の発明によれば、また、両変形制限手段はこれらが取り付けられた前記支持体の変形への対抗のために変形し、前記支持体の変形を制限する。両変形制限手段の変形は、これらに共通の前記支持体に互いに面対称に配置されていることから、対称面に関して同一の形態をとる。また、両変形制限手段が、互いに接する一対の当接部又は共通部を有することから、両変形制限手段はこれらの当接部において互いに押し合い若しくは引き合い、又はこれらの共通部において互いに拮抗する力を及ぼしあう。これに伴い、前記当接部における両変形制限手段の変形が相殺され、又は前記共通部における変形が実質的に発生することがなく、これにより前記変形制限手段が前記支持体から受ける外力の一部が消費される。その結果、前記支持体の変形すなわち振動の程度と、該振動の発生に伴う各スピーカユニットからの放射音の質の劣化とがより一層低減される。
(請求項9に記載の発明の特徴)
請求項9に記載の発明は、フレームと該フレームに支持された振動板及び該振動板に振動を生じさせるための磁気回路とを有する一対の同一のスピーカユニットと、両スピーカユニットを支持する支持体であって両スピーカユニットが互いに反対方向に向けてかつ互いに間隔をおいて配置された支持体と、両スピーカユニットの振動板の振動に伴って生じる前記スピーカユニットの軸線方向への両磁気回路の変位をそれぞれ制限する一組の変位制限手段であって、前記支持体に互いに点対称をなすように取り付けられた一組の変位制限手段とを含むことを特徴とする。
請求項9に記載の発明にあっては、両スピーカユニットが一つの支持体に互いに反対方向に向けて支持され、両スピーカユニットはいわゆる逆位相に駆動される。両変位制限手段は、両スピーカユニットの駆動時における各振動板の振動に伴って生じる磁気回路の変位を制限する。前記磁気回路の変位を制限することにより、前記磁気回路を支持するフレームの振動が低減、抑制され、各スピーカユニットからの放射音の質の劣化が低減される。
また、両変位制限手段とこれらが取り付けられた支持体とは前記磁気回路に変位を生じさせる外力への対抗のために変形するところ、両変位制限手段がこれらに共通の前記支持体に互いに点対称に配置されていることから、一方のスピーカユニットの駆動により生じる一方の変位制限手段及び前記支持体の変形(変形A)は、他方の変位制限手段及び前記支持体に対して同一形態の前記変形Aをもたらし、同時に、他方のスピーカユニットの駆動により生じる他方の変位制限手段及び前記支持体の変形(変形B)は、前記一方の変位制限手段及び前記支持体に対してこれと同一の形態の変形Bをもたらす。ここで、両スピーカユニットは逆位相に駆動されるため、前記変形Aと前記変形Bとは変形が互いに逆の形をなす形態すなわち正反対の形態をとる。このため、一方のスピーカユニットの駆動に起因する一方の変位制限手段及び前記支持体の変形Aは、他方のスピーカユニットの駆動に起因する一方の変位制限手段及び前記支持体の変形Bにより打ち消され、かつ、他方のスピーカユニットの駆動に起因する他方の変位制限手段及び前記支持体の変形Bは、一方のスピーカユニットの駆動に起因する一方の変位制限手段及び前記支持体の変形Aにより打ち消される。これにより、両変位制限手段が受ける前記外力のほとんどが熱エネルギとして消費される。その結果、前記支持体の変形すなわち振動の程度と、該振動の発生に伴う各スピーカユニットからの放射音の質の劣化とがより低減される。
(請求項10に記載の発明の特徴)
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明の構成要素を備えた上で、さらに、両スピーカユニットの振動板の振動に伴って生じる前記スピーカユニットの軸線方向への前記支持体の変形を制限する一組の変形制限手段であって、前記支持体に前記点対称の中心に関して互いに点対称をなすように取り付けられている一組の変形制限手段を含むことを特徴とする。
請求項10に記載の発明によれば、両変形制限手段は前記変位制限手段と同様に機能し、前記支持体の変形を制限する。すなわち、両変形制限手段はこれらが取り付けられた支持体の変位を生じさせる外力への対抗のために変形するところ、両変形制限手段がこれらに共通の前記支持体に互いに点対称に配置されていることから、一方のスピーカユニットについての一方の変形制限手段及び前記支持体の変形(変形C)は、他方の変形制限手段及び前記支持体に対して同一形態の変形(変形C)をもたらし、同時に、他方のスピーカユニットについての他方の変形制限手段及び前記支持体の変形(変形D)は、前記一方の変形制限手段及び前記支持体に対して同一形態の変形(変形D)をもたらす。ここで、両スピーカユニットは逆位相に駆動されるため、前記変形Cと前記変形Dとは正反対の形態をとる。このため、一方のスピーカユニットの駆動に起因する一方の変形制限手段及び前記支持体の変形Cは、他方のスピーカユニットの駆動に起因する一方の変形制限手段及び前記支持体の変形Dにより打ち消され、かつ、他方のスピーカユニットの駆動に起因する他方の変形制限手段及び前記支持体の変形Dは、一方のスピーカユニットの駆動に起因する一方の変形制限手段及び前記支持体の変形Cにより打ち消される。これにより、両変形制限手段が受ける前記外力のほとんどが消費される。その結果、前記支持体の変形すなわち振動の程度と、該振動の発生に伴う各スピーカユニットからの放射音の質の劣化とがより低減される。
(請求項11に記載の発明の特徴)
請求項11に記載の発明は、請求項8〜10のいずれか1項に記載の発明の構成要素を備えた上で、各変位制限手段が、各スピーカユニットの支持体に固定された支持部材と、該支持部材に支持され各スピーカユニットの磁気回路を各スピーカユニットの軸線方向に向けて押圧する押圧部材とからなることを特徴とする。
請求項11に記載の発明によれば、請求項5に記載の発明におけると同様、前記磁気回路に生じる前記スピーカユニットの軸線方向への変位が前記押圧部材により制限される。このとき、前記磁気回路に対する前記押圧部材の反力はこれを支持する前記支持部材を介して前記支持体が担う。また、前記押圧部材が前記磁気回路に対して及ぼす押圧力(プレロード)は、前記磁気回路に発生し得る変位の大きさをより小さいものに制限する。
(請求項12に記載の発明の特徴)
請求項12に記載の発明は、請求項8〜11のいずれか1項に記載の発明の構成要素を備えた上で、各変形制限手段が、前記支持体に固定された支持部材と、該支持部材に支持され前記支持体を各スピーカユニットの軸線方向に向けて押圧する押圧部材とからなることを特徴とする。
請求項12に記載の発明によれば、前記支持体に生じる変位が前記押圧部材により制限される。このとき、前記支持体に対する前記押圧部材の反力はこれを支持する前記支持部材を介して前記支持体が担う。また、前記押圧部材が前記支持体に対して及ぼす押圧力(プレロード)は、前記支持体に発生し得る変位の大きさをより小さいものに制限する。
本発明によれば、一対のスピーカユニットについてこれらの磁気回路の変位を制限するための変位制限手段が設けられたスピーカ装置の両変位制限手段の変形を互いに相殺し、あるいはさらにスピーカユニットの支持体の変形を制限する手段による該支持体の変形を抑制することにより、前記支持体の変形を抑制し、各スピーカユニットからの放射音の質の劣化をより低減することを通して、音質の改善を図ることができる。
図1を参照すると、本発明の一実施例に係るスピーカ装置が全体に符号1で示されている。スピーカ装置1は、一対のスピーカユニット3と、両スピーカ3を支持する支持体5とを備える。両スピーカ3はこれらが同方向(図1において左方向)に向けてかつ互いに間隔をおいて(図1において上下方向に間隔をおいて)支持体5に取り付けられかつこれに支持されている。
両スピーカユニット3は同一である。すなわち、両スピーカユニット3は、種類、大きさ、性能等の全てにおいて同一である。各スピーカユニット3は動電形と呼ばれるタイプに属し、全体に椀形をなすフレーム7と、フレーム7にそれぞれ支持された振動板9及び磁気回路11とを備える。両スピーカユニット3は、磁気回路11の作用の下、いわゆる同位相で駆動される。すなわち、両スピーカユニット3の振動板9がそれぞれ両スピーカユニット3の軸線Lに関して同じ方向へ同じ変位量を振動し、両スピーカユニット3の双方、より具体的には両振動板9の双方がこれらの軸線Lの方向における前方(図1において左方)に向けて音を放射する。
スピーカユニット3の支持体5は、図示の例においては、密閉形の筐体からなる。スピーカユニット3は、そのフレーム7を介して、前記筐体の前面(図1において左側の面)を規定する外壁を貫通して伸びかつこれに固定されており、その振動板9が前記筐体の外部に開放し、またその磁気回路11が前記筐体の内部に位置する。支持体5は、前記密閉形の筐体に代えて、例えばバスレフ形の筐体、バッフル板、折り曲げバッフル板、後面開放形バッフル板等(図示せず)とすることができる。
スピーカ装置1は、該スピーカ装置が発する音の質の劣化の発生原因となる磁気回路11の変位を制限するための変位制限手段13を備える。磁気回路11の変位は、各スピーカユニット3の駆動時に振動板9の振動の影響を受けてフレーム7と共に軸線Lの方向に振動することにより生じる。変位制限手段13は、支持部材15と、該支持部材に支持された、磁気回路11に対して押圧作用を及ぼす押圧部材、例えばボルト17とからなるものとすることができる。
変位制限手段13の支持部材15は、比較的高い剛性を有する帯状の金属板を全体にコ字形に折り曲げてなり、互いに相対する一対の平行な側部19と、両側部19に連なりかつこれらと直交する底部21と、該底部に相対する開放頂部23とを有する。支持部材15は、また、両側部19の先端からこれらと直交して伸び、実質的に開放頂部23を規定する一対のフランジ部25を有する。
支持部材15は、スピーカユニット3のフレーム7と磁気回路11とをこれらの後方(図1において右方)において取り巻いている。より詳細には、支持部材15の両フランジ部25がそれぞれスピーカユニット3の上下に位置するように配置されかつ前記筐体の内壁に対向するように配置及び該筐体に固定され、一対の両側部19と底部21とがスピーカユニット3のフレーム7及び磁気回路11の双方との間に間隔をおいてこれらの周囲を取り巻いている。これにより、支持体5と支持部材15とが全体に矩形の平面形状を規定している。
ボルト17は、支持部材15の底部21にその長さ方向における中間において螺合され、スピーカユニット3の軸線L上を磁気回路11に向けて伸びかつ該磁気回路に接している。磁気回路11に接しているボルト17は、スピーカユニット3の駆動に伴ってその軸線Lの方向に磁気回路11が振動するとき、支持部材15を反力支持体として、磁気回路11が軸線L上をこれに沿って変位すること、より詳細には、磁気回路11が支持部材15の底部21に向けて一方向に変位することを止め又は制限する。その結果、磁気回路11及びこれを支持するフレーム7の振動が抑制され、スピーカ装置1における音質の劣化の低減が図られる。なお、ボルト17の磁気回路11に接する先端部を磁気回路11に対して軸線Lの周りに回転可能に連結することが可能である。これによれば、軸線Lの前記一方向に加えて他の一方向(反対方向)についても、磁気回路11の変位を制限することができる。
また、支持部材15の底部21に螺合されたボルト17は、これを回してその支持部材15の底部21に対する螺合位置を変更し、磁気回路11に向けて進めることができ、これによりボルト17を介して磁気回路11とフレーム7とに対して軸線Lの方向に圧縮力(押圧力)を及ぼすことができる。磁気回路11及びフレーム7の双方を被圧縮状態におくことにより、これらが振動可能である範囲すなわち磁気回路11の変位の大きさをより小さいものとすることができ、これにより、磁気回路11及びフレーム4の双方の振動抑制がより促進され、さらなる音質劣化の低減が図られる。なお、ボルト17を支持する支持部材15は、図示のコ字形の折れ曲がり形状に代えて、例えば半円形のような他の折れ曲がり形状を有するものとすることができる。また、両支持部材15は、これらを同一の大きさとする図示の例に代えて、一方が他の一方よりも大きいか又は小さいものとすることができる。ただし、この場合には、互いに押し合い又は引き合う部分相互の面積に異同が生じるため、このような異同が生じない同一の大きさの場合と比べて、変位制限の効果において程度が劣る。
ところで、ボルト17が磁気回路11の変位を制限するとき、すなわちボルト17が、振動する磁気回路11からの外力を受けてこれに対抗する反力を磁気回路11に及ぼすとき、ボルト17を支える支持部材15に刻々に変化する撓み又は変形が生じる。この変形は、図示の例では両支持部材15が同じ形を有し、また同じスピーカユニット3に関して同じ態様で支持体5に支持されているため、同一である。さらに、支持部材15に生じた変形の影響は、支持部材15と一体の関係にある支持体5に及び、その結果、支持体5に撓み又は変形すなわち振動が生じる。この支持体5の振動もまたスピーカ装置1の音質に悪影響を及ぼしこれを劣化させる原因となる。
本発明にあっては、両変位制限手段13が、支持体5を構成する前記筐体の前面に直交する面(対称面)Sに関して対称に、すなわち面対称をなすように配置されている。なお、両スピーカユニット3も、また、対称面Sに関して対称に、すなわち面対称に配置されている。両支持部材15に生じる前記変形の形態又は態様は同一であることから、例えば一方(上方)の支持部材15の側部19と、この側部19に相対する他の一方(下方)の支持部材15の側部19とに着目すると、互いに相対する上下の両側部19は、対称面Sに関して等距離にある点すなわち対称点において、互いに他の一方の側部19に向けて同時に凸状又は凹状に同じ変形をする。
本発明にあっては、さらに、両変位制限手段13が剛性を有する結合手段27を介して互いに結合されている。結合手段27は、図1に示す例では、3本の例えば鋼製の棒状部材29からなる。各棒状部材29は、両支持部材15間を対称面Sに対して直交して伸び、その両端部において両支持部材15の互いに相対する両側部19にそれぞれ固定されている。棒状部材29の数量は、1又は任意の複数とすることができる。また、結合手段13は、これを前記棒状部材とすることに代えて、例えば一又は複数の板状部材(図示せず)、ブロック(図示せず)等からなるものとすることができる。
各棒状部材29は対称面Sを直交して伸びかつその両端部の両支持部材15に対する両固定部位又は結合部位31が前記対称点上にあり、また、各棒状部材29は前記したように剛性を有する。これらのことから、両支持部材15の互いに相対する両側部19は、変形時、各棒状部材29との結合部位31において、各棒状部材29を介して、互いに押し合い又は引き合う。その結果、両側部19、すなわち両支持部材15の一部においてこれらの変形が相殺され、これにより、これらの変形を引き起こした磁気回路11からの外力の一部が熱エネルギに変換され、消費される。これにより、両支持部材15の変形によって引き起こされる支持体5の変形の度合いをより小さいものとし、スピーカ装置1の音質に対する悪影響をより低減することができる。
対称面Sに関して対称に配置された両変位制限手段13における変形の低減は、図2に示すように、両変位制限手段13を互いに接するものとすることによっても達成することができる。
図2に示す例においては、両支持部材15の互いに相対する上下の両側部19が互いに他の一方に対する当接部をなし、さらに互いに他の一方に固着されている。これによれば、両支持部材15に同一の変形が生じるとき、互いに相対する両側部19がこれらの当接部において互いに押し合い又は引き合う。これにより、両側部19の変形が相殺される。両側部19の固着は、例えばボルト及びナットを用いての両者の相互締結、接着剤の使用による両者の相互接着等により行うことができる。また、両側部19を固着することなしに、両側部19が単に接するようにしてもよい。但し、この場合には、両支持部材15に同一の変形が生じるとき、互いに相対する両側部19がこれらの接触部位において互いに押し合う場合においてのみ両側部19の変形が相殺される。
図3及び図4にさらに他の例に係るスピーカ装置1を示す。この例のスピーカ装置1においては、一対の同一のスピーカユニット(図3で見て上方に位置するスピーカユニット)(以下「上方のスピーカユニット」という。)3がそれぞれ一対の支持体5に支持され、これらの振動板9が互いに対向している。両支持体5には、さらに、これらの振動板9が互いに背向するように、すなわち両磁気回路11が互いに向かい合うように配置された一対の同一のスピーカユニット(図3で見て下方に位置するスピーカユニット)(以下「上方のスピーカユニット」という。)3がそれぞれ支持されている。両支持体5はそれぞれバッフル板からなり、互いに間隔をおいて平行に配置されている。なお、上方のスピーカユニット3及び下方のスピーカユニット3については、上方のスピーカユニット3同士が同一でありかつ下方のスピーカユニット3同士が同一である限り、上方のスピーカユニット3と下方のスピーカユニット3とが互いに異なるものであってもよい。
上方の両スピーカユニット3は水平に伸びる共通の軸線L(図4)を有し、また、下方の両スピーカユニット3も水平に伸びる共通の軸線(図示せず)を有する。上方の一対のスピーカユニット3同士及び下方の一対のスピーカユニット3同士は、両対のスピーカユニットの両軸線に直交する共通の対称面S(図4)に関して対称に配置されている。なお、符号33,35は、それぞれ、両支持体5に選択的に取り付けられる2対の音響反射板を示す。
図3及び図4に示すスピーカ装置1においても、各対のそれぞれのスピーカユニット3について、前記したと同様の支持部材15及び押圧部材であるボルト17からなる変位制限手段13が適用され、各支持部材15が各支持体5に取り付けられている。但し、この例では、支持部材15の支持体5に対する取付部である両フランジ部25が、図1及び図2に示す例では互いに他の一方に向けて伸びているのに対し、互いに他の一方に対して反対方向へ伸びている。上側の両スピーカユニット3に適用された変位制限手段13同士、及び下側の両スピーカユニット3に適用された変位制限手段13同士も、また、それぞれ、対称面Sに関して対称である。
さらに、図3及び図4に示すスピーカ装置1においても、上方の両スピーカユニット3についての両変位制限手段13同士が、対称面Sに直交する前記したと同様の結合手段27により互いに結合され、また、下方の両スピーカユニット3についての両変位制限手段13同士が、対称面Sに直交する前記したと同様の結合手段27により互いに結合されている。
より詳細には、結合手段27は前記したと同様の複数の棒状部材29からなる。上方の両スピーカユニット3についての両変位制限手段13は、該変位制限手段を構成する両支持部材15の両フランジ部25において、2本の棒状部材29により相互に結合されている。また、下方の両スピーカユニット3についての両変位制限手段13は、該変位制限手段を構成する両支持部材15の底部21及び両フランジ部25において、複数本(図示の例では4本)及び2本の棒状部材29により相互に結合されている。図示の例では、両支持部材15をこれらの各フランジ部25において相互結合する各棒状部材29は、その両端部が支持体5及びフランジ部25を貫通して伸びかつこれらの両端部にそれぞれナット37が螺合されており、支持部材15を支持体5に固定する機能及び両支持体5の相互間隔を保持するスペーサとしての機能をさらに有する。
図3及び図4に示すスピーカ装置1の例においては、互いに対向する上方の両スピーカユニット3と互いに背向する下方の両スピーカユニット3との双方がともに両支持体5に支持されているところ、この例に代えた他のスピーカ装置1の例として、対向する両スピーカユニット3のみがそれぞれ両支持体5に支持されたもの、又は背向する両スピーカユニット3のみがそれぞれ両支持体5に支持されたものとすることができる。
前記したところから、図3及び図4に示すスピーカ装置1の例においても、図1に示すスピーカ装置1におけると実質的に同様にして、両支持部材15の変形によって引き起こされる支持体5の変形の度合いがより小さいものとされ、スピーカ装置1の音質に対する悪影響がより低減される。
具体的には、両対のスピーカユニット3がそれぞれ同位相で駆動されるとき、上方の両スピーカユニット3に適用された両支持部材15は、これらが変形するとき、棒状部材29により相互結合されたこれらの各フランジ部25において、棒状部材29を介して互いに押し合い又は引き合う。その結果、両フランジ部25の変形及び該フランジ部の固定箇所における両支持体5の変形がそれぞれ相殺される。図3及び図4に示す例においては、両フランジ部25の変形の影響を受ける、フランジ部25の固定箇所の周辺において両支持体5に生じる、互いに面対称をなす両変形を相殺するため、両スピーカユニット3の上下において、両支持体5が他の2本の棒状部材39により相互に結合されている。棒状部材39は、棒状部材29と同様に剛性を有するものからなり、両支持体5間を対称面Sに直交して伸びている。両支持体5に変形が生じるとき、これらと棒状部材39との結合箇所において、棒状部材39を介して互いに押し合い又は引き合う。
また、下方の反対向きの両ユニット3に適用された両支持部材15は、これらが変形するとき、棒状部材29により相互結合されたこれらの各フランジ部25及び底部21において、棒状部材29を介して互いに押し合い又は引き合う。その結果、両フランジ部25及び両底部21の変形が相殺される。さらに、両支持部材15の変形に伴って生じる両支持体5の変形を相殺するため、前記したと同様に、両支持体5が下方のスピーカ3の下方位置において、他の2本の棒状部材39を介して相互に結合されている。なお、符号41は、互いに相対する音響反射板33,35同士を相互に連結するための連結棒を示す。
図5に示すように、本発明は、同一方向に向けられた3以上の同一のスピーカユニット3についても同様に適用することができる。図5に示す例においては、4つのスピーカユニット3が上下方向に等間隔をおいて配置されかつ平板状の単一のバッフル板からなる支持体5に支持されている。各スピーカユニット3について、前記したと同様、変位制限手段13が適用されている。この例においては、図2に示す例におけると同様、互いに面対称をなして上下に隣接する各対(全部で3対)のスピーカユニット3に適用された各対の変位制限手段13において、互いに上下に隣接しかつ相対する両側部19同士が互いに接している。
3以上のスピーカユニット3を支持するための支持体5の他の例として、図6に示すような密閉形の筐体や、図7に示すような扇形の平面形状を有するバッフル板とすることができる。また、3以上のスピーカユニット3は上下方向以外の任意の方向に整列するように配置することができる。
また、互いに隣接する各対の変位制限手段13の互いに相対する両側部19を互いに接するように配置することに代えて、図1に示す例のように、両側部19を一以上の棒状部材29からなる結合手段27を介して互いに結合してもよい(図示せず)。
スピーカ装置1は、両スピーカユニット3の磁気回路11の変位を制限するための互いに面対称をなす一組の変位制限手段13(図8)に加えて、さらに、支持体5の変形を制限するための一組の変形制限手段43(図9)を有するものとすることができる。
両変形制限手段43は、両変位制限手段13の対称面Sに関して面対称をなすように配置され、両スピーカユニット3の振動板9の振動及び変位制限手段13の前記変形に伴って生じる該スピーカユニットの軸線方向への支持体5の変形を制限する作用をなす。図8及び図9に示す例において、両変位制限手段13は、以下に説明する点を除き、図2に示す例におけると実質的に同様の構成を有し、また同様の作用効果を奏する。
すなわち、この例では、一対のスピーカユニット3を支持する支持体5がフレーム45内に配置されかつフレーム45に支持されている。フレーム45は、仮想直方体の各稜線に沿って伸びる山形鋼により形成され、6つの矩形状の開放面である正背の両開放面47,49、上下の両開放面51,53及び両側方の開放面55,57を有する。
支持体5は矩形状のバッフル板からなり、フレーム45の正背の両開放面47,49と平行にこれらの間の中間位置に配置され、上下方向に伸びている。支持体5は、また、各開放面47〜57を規定するフレーム45の各部に例えばボルト(図示せず)を用いて固定されている。支持体5には、図1又は図2に示す例におけると同様に一対のスピーカユニット3が上下に互いに間隔をおいて配置され、これらの振動板9がフレーム45の開放正面47に対向し、また磁気回路11がフレーム45の開放背面49に対向している。
この例では、また、図8に示すように、両変位制限手段13を構成する両押圧部材である両ボルト17をそれぞれ支持する1対の支持部材15が、鋼製の4つの帯状板59,61,63,65、すなわち上下方向に伸びる帯状板(縦板)59と、該縦板に対して直角にかつ水平に伸びる最上方位置の帯状板(上方の横板)61と、該横板の下方にあってこれと平行に伸びる中間位置の帯状板(中間の横板)63と、最下方位置にあって両横板61,63と平行に伸びる帯状板(下方の横板)65とにより形成されている。
すなわち、フレーム45の開放上面51を横断して伸びる上方の横板61(より正確にはその半分の長さの部分61A)と、開放背面49を上下に伸びる縦板59(より正確にはその上半分の長さの部分59A)と、中間の横板63とが、上方の変位制限手段13の一部をなすコ字形の支持部材15を形成する。また、中間の横板63と、縦板59(より正確には下半分の長さの部分59B)と、開放下面53を横断して伸びる下方の横板65(より正確にはその半分の長さの部分65A)とが、下方の変位制限手段13の一部をなすコ字形の支持部材15を形成する。各変位制限手段13の押圧部材であるボルト17は縦板59に螺合され、各スピーカユニット3の磁気回路11に向けて伸びかつ該磁気回路を押圧している。
図8及び図9に示す例では、縦板59の上半部59A及び下半部59Bがそれぞれ両支持部材15を構成し、また、中間の横板63が両支持部材15を構成する共通の部分である共通部をなす。単一の縦板59に代えてこれを独立した上下2つの帯状板からなるものとすることができる。また、単一の中間の横板63に代えて、互いに重ね合わされた、あるいはさらに互いに固定された2つの帯状板からなるものとすることができ、このとき、これらの2つの帯状板はそれぞれ両変位制限手段13における互いに接する一対の当接部をなす。
縦板59は、フレーム45の開放背面49を水平方向に二分する位置に配置され、かつ、その両端部において、フレーム45の開放背面49を規定するフレーム45の上下部にボルト67により固定され、両スピーカユニット3の磁気回路11に相対している。縦板59は、さらに、一対の横部材69にボルト71により固定されている。両横部材69はそれぞれフレーム45に固定され水平方向に伸びる山形鋼からなる。両横部材69はフレーム45の開放背面49を上下方向に二分する位置にあり、その両端部において開放背面49を規定するフレーム45の両側部にボルト(図示せず)により固定されている。
上方の横板61は、フレーム45の開放上面51を水平方向に二分する位置に配置され、かつ、その両端部において、開放上面51を規定するフレーム45の上部にボルト73により固定されている。これにより、上方の横板61は、フレーム45を介して、縦板59に連結されかつ固定されている。上方の横板61は、さらに、支持体5に該支持体の上部においてボルト75により固定されている。これにより、上方の変位制限手段13における支持部材15がその両端部の一方において支持体5に固定されている。
下方の横板65も、また、上方の横板61と同じような態様におかれている。すなわち、下方の横板65は、フレーム45の開放下面53を水平方向に二分する位置に配置され、かつ、その両端部において、フレーム45の開放下面53を規定するフレーム45の下部にボルト(図示せず)により固定されている。これにより、下方の横板65は、フレーム45を介して、縦板59に連結されかつ固定されている。下方の横板65も、また、支持体5に該支持体の下部においてボルト(図示せず)により固定されている。これにより、下方の変位制限手段13における支持部材15がその両端部の一方において支持体5に固定されている。
また、中間の横板63は、両変位制限手段13についての対称面S上にあって、フレーム45に固定された両横部材69と、これらの横部材69に対向するように配置されかつ支持体5に複数のボルト(ただし、代表的に1つのボルトのみを示す。)77により固定された一対の他の横部材79とに固定されている。より詳細には、中間の横板63は、その両端部において、両横部材69及び両横部材79に挟持されかつこれらの横部材69,79にボルト81により固定されている。これにより、中間の横板63は、フレーム45を介して、縦板59に連結されかつ固定されている。これにより、また、両変位制限手段13における両支持部材15がこれらの両端部の他の一方において支持体5に固定されている。横部材69及び横部材79は、また、それぞれ、両支持部材15及び支持体5を補強し、これらの形態維持に寄与する。
図8及び図9に示す両変位制限手段13にあっては、両スピーカユニット3が同位相で駆動され、両スピーカユニット3の磁気回路11がそれぞれこれらの軸線方向に振動するときに生じる両支持部材15の変形又は該変形をもたらす外力の相殺又は拮抗が、両支持部材15の共通部をなす中間の横板63において生じ、横板63において熱エネルギとして消費される。
次に、図9に示すように、支持体5の変形を制限するための両変形制限手段43は、前記したように、それぞれ、支持体5の正面側又は前方側にあって該支持体に対称面Sに関して互いに面対称をなすように取り付けられ、支持体5の背面側又は後方側にある両変位制限手段13に相対している。両変形制限手段43は、両変位制限手段13における一対の支持部材15と同様の構造を有する一対のコ字形の支持部材83を備え、さらに各支持部材83に支持された上下一対の押圧部材である一対のボルト85とを備える。
上方の一対の支持部材83は、上方の横板61(より正確には残りの半部61B)と、フレーム45の開放正面47を上下方向に伸びる帯状板(縦板)87(より正確には上下2つの部分87A,87B)と、下方の横板65(より正確には残りの半部65B)と、上下の両横板61,65間の中間位置にあってこれらと平行に伸びる帯状板(中間の横板)89とからなる。
縦板87は、変位制限手段13の縦板59に相当し、これに相対している。縦板87は、縦板59と同様、フレーム45の開放正面47を水平方向に二分する位置に配置され、かつ、その両端部において、フレーム45の開放正面47を規定するフレーム45の上下部にボルト91により固定され、両スピーカユニット3の振動板9に相対している。縦板87は、さらに、一対の横部材93にボルト95により固定されている。両横部材93はそれぞれフレーム45に固定され水平方向に伸びる山形鋼からなり、背面側の両横部材69に相当する。両横部材93はフレーム45の開放正面47を上下方向に二分する位置にあり、その両端部において開放正面47を規定するフレーム45の両側部にボルト(図示せず)により固定されている。
また、中間の横板89は、変位制限手段13における中間の横板63に相当し、これに相対している。また、中間の横板89は、対称面S上にあって、フレーム45に固定された両横部材93と、これらの横部材93に対向するように配置されかつ支持体5に複数のボルト(ただし、代表的に1つのボルトのみを示す。)97を介して固定された一対の他の横部材99とに固定されている。より詳細には、中間の横板63は、その両端部において、両横部材93及び両横部材99に挟持されかつこれらの横部材93,99にボルト101により固定されている。これにより、中間の横板89は、フレーム45を介して、縦板87に連結されかつ固定されている。これにより、また、両変形制限手段43における両支持部材83がこれらの両端部の他の一方において支持体5に固定されている。横部材93,99は、また、それぞれ、両支持部材83及び支持体5を補強し、これらの変形抵抗性又は形態維持性を高めることに寄与する。
各対の押圧部材である各対のボルト85は、それぞれ、上下に互いに間隔を置いて配置されかつ縦板87に螺合され、各スピーカユニット3の上方位置及び下方位置に向けて該スピーカユニットの軸線に平行に伸び、これらの先端が支持体5に接している。これにより、スピーカユニット3のフレーム7又は磁気回路11の振動発生を原因として生じる支持体5の前記撓み又は変形(振動)が制限され、当該振動の発生に基づくスピーカユニット3の音質の低減が図られている。
好ましくは、変位制限手段13におけるボルト17と同様、各対のボルト85をこれらの軸線の周りに回転させることにより縦板87に対する螺合位置を進められ、これにより各対のボルト85が縦板87すなわち各支持部材83を反力支持体として、支持体5に押圧力(プレロード)を及ぼしている。これにより、支持体5の変形又はたわみ(振動)が可能である範囲が狭められ、当該振動の発生に基づくスピーカユニット3の音質のより一層の低減が図られる。
支持体5の両変形制限手段43は、さらに、支持体5が縦板87の両半部87A,87Bに向けて撓むように変形し、これに伴って、互いに面対称をなす両支持部材83に変形が生じるとき、該変形を生じさせる前記外力が両支持部材83の共通部を構成する中間の横板89において互いに拮抗し、熱エネルギとなって消費される。中間の横板89が互いに接する一対の板からなり、両板が両変形制限手段43の互いに接する一対の当接部を構成する場合には、両板が互いに押し合い、あるいは両板が互いに固定されている場合にはさらに互いに引き合い、前記外力が消費される。なお、変位制限手段13におけるボルト17のように、変形制限手段43の各ボルト85の支持体5に接する先端部を支持体5に対して前記ボルトの軸線の周りに回転可能に連結することが可能である。これによれば、前記ボルトの軸線の両方向に関して、支持体5の変形を制限することができる。
次に、図10を参照すると、本発明の他の例に係るスピーカ装置1が示されている。このスピーカ装置は、図1〜図9に示すスピーカ装置1と異なり、バッフル板からなる支持体5に支持される一対の同一のスピーカユニット3が、互いに反対方向に向けてかつ互いに間隔をおいて(図示の例では上下方向に間隔をおいて)配置されている。両スピーカは、いわゆる逆位相に駆動される。すなわち、両スピーカユニット3の振動板9がそれぞれ両スピーカユニット3の軸線Lに関して互いに反対方向へ同じ変位量を振動し、両スピーカユニット3、より具体的には両振動板9がそれぞれこれらの軸線方向における前方及び後方に向けて音を放射する。
図10に示すように、支持体5は図8及び図9におけると同様のフレーム45に支持されている。フレーム45は、一対の補強板103のほか、さらに2対の補強版105を付加した点を除き、また、後述するように変位制限手段13の支持部材15の構成部材及び変形制限手段43の支持部材83の構成部材について若干の相違がある点を除き、図8及び図9に示す例におけると同様である。
図10に示すスピーカ装置1は、両スピーカユニット3に適用された、図8及び図9に示すと同様の一組の変位制限手段13及び一組の変形制限手段43を有する。この例では、両スピーカユニット3が互いに逆向きに配置され、フレーム45の背面側(49)及び正面側(47)に一組の変位制限手段13が配置され、かつ、フレーム45の正面側(47)及び背面側(49)に一組の変形制限手段43が配置されている。変位制限手段13及び変形制限手段43は、次の点を除き、図8及び図9に示す例におけると同一の構成を有する。
まず、フレーム45の背面側及び正面側の両変位制限手段13は互いに点対象に配置され、かつフレーム45の正面側及び背面側の両変形制限手段43も互いに点対象に配置されている。これらの点対象の対象の中心は同一であり、支持体5である矩形のバッフル板の重心、すなわち前記バッフル板の正背両面における両対角線の交点同士を結ぶ直線上の一点にある。なお、両スピーカユニット3もまた前記対称の中心に関して点対称に配置されている。
また、フレーム45の背面側(49)の上方位置にある変位制限手段13の支持部材15が下方の横板65の半部65Aと、縦板の下半部59Bと、中間の横板83とにより構成されている。中間の横板83は、フレーム45の背面側の下方位置にある変形制限手段43の支持部材83の一部と共通する。同様に、フレーム45の正面側(47)における下方位置にある変位制限手段13の支持部材15が下方の横板65の半部65Bと、縦板の下半部87Bと、中間の横板89とにより構成されている。横板89は、フレーム45の正面側の上方位置にある変形制限手段43の支持部材83の一部と共通する。
図10に示す例によれば、両スピーカユニット3は、これらが逆位相に駆動されるとき、図1〜図9に示す例においてスピーカユニットが同位相に駆動されるときと同様、両変位制限手段13が、両スピーカユニット3の軸線方向に関して両振動板9の振動に伴って生じる両磁気回路11の変位をそれぞれ制限する。磁気回路11の変位制限により、磁気回路11を支持するフレーム7の変形又は振動が低減、抑制され、各スピーカユニット3からの放射音の質の劣化が低減される。
両スピーカユニット3の振動板9の振動方向に応じて、任意の一時点において、磁気回路11の変位制限のために上方の変位制限手段13の支持部材15とこれが取り付けられた支持体5とに撓み又は変形(変形A)が生じ、かつ下方の変位制限手段13の支持部材15とこれが取り付けられた支持体5とに変形Aとは正反対の撓み又は変形(変形B)が生じ、他の時点において、前記上方の変位制限手段13に変形Bが生じ、かつ下方の変位制限手段13に変形Aが生じる。両変形A及びBの形態は、前記変位制限手段を構成する前記支持部材及び支持体の双方が有する変形抵抗性又は形態維持性を前提として、前記対称の中心に関して互いに点対称をなす。
すなわち、両スピーカユニット3が駆動されていないときは、各支持部材15と支持体5とは共同して全体として矩形状の外形を規定する形態をとり、また、両スピーカユニット3が逆位相で駆動されるときに生じる例えば上方の変位制限手段13の前記変形A及び下方の変位制限手段13の前記変形Bは次のような形態をとる。
すなわち、前記変形Aは、支持部材15の縦板59の上半部59Aとこれに相対する支持体5の上半部とが互いに反対方向に向けて撓み、かつ支持部材15の上方の横板61の半部61Aと中間の横板63(図8参照)とが互いに他の一方に向けて撓む形態をとる。これを端的にいえば、前記矩形の両長辺が膨らみ、かつ両短辺がへこむ。他方、下方の変位制限手段13の前記変形Bは次のような形態をとる。すなわち、支持部材15の縦板87の下半部87Bとこれに相対する支持体5の下半部とが互いに他の一方に向けて撓み、かつ支持部材15の下方の横板65の半部65Bと中間の横板89とが互いに反対方向に向けて撓む形態をとる。これを端的にいえば、前記矩形の両長辺がへこみかつ両短辺が膨らむ。したがって、両スピーカユニット3が逆位相で駆動されるとき、上下の各変位制限手段13に両変形A及びBが同時に生じ、このために両変形A及びBは互いに打ち消され、上下の各変位制限手段13には、見かけ上、変形は生じない。その結果、支持体5の変形又はたわみがさらに抑制され、スピーカユニット3の音質のより一層の低減が図られる。
両変形制限手段43においても、また、両スピーカユニット3が逆位相に駆動されるときに両変形制限手段43が機能し、図8及び図9に示す例においてスピーカユニットが同位相に駆動されるときと同様、両スピーカユニット3の軸線方向に関して両振動板9の振動に伴って生じる支持体5の変形を制限する。
両変形制限手段43にあっては、両スピーカユニット3の振動板9の振動方向に応じて、任意の一時点において、上方の変形制限手段43の支持部材83とこれが取り付けられた支持体5とに撓み又は変形(変形C)が生じ、かつ下方の変形制限手段43の支持部材83とこれが取り付けられた支持体5とに変形Cとは正反対の撓み又は変形(変形D)が生じ、他の時点において、前記上方の変形制限手段43に変形Dが生じ、かつ下方の変形制限手段43に変形Cが生じる。両変形C及びDの形態は、前記変形制限手段を構成する前記支持部材及び支持体の双方が有する変形抵抗性又は形態維持性を前提として、前記対称の中心に関して互いに点対称をなす。
すなわち、両スピーカユニット3が駆動されていないときは、各支持部材83と支持体5とは共同して全体として矩形状の外形を規定する形態をとり、両スピーカユニット3が逆位相で駆動されるときに生じる例えば上方の変形制限手段43の前記変形C及び下方の変形制限手段43の前記変形Dは次のような形態をとる。
すなわち、前記変形Cは、支持部材83の縦板87の上半部87Aとこれに相対する支持体5の上半部とが互いに反対方向に向けて撓み、かつ支持部材83の上方の横板61の半部61Bと中間の横板89とが互いに他の一方に向けて撓む形態をとる。これを端的にいえば、前記矩形の両長辺が膨らみ、かつ両短辺がへこむ。他方、下方の変形制限手段43の前記変形Dは次のような形態をとる。すなわち、支持部材83の縦板59の下半部59Bとこれに相対する支持体5の下半部とが互いに他の一方に向けて撓み、かつ支持部材15の下方の横板65の半部65Bと中間の横板89とが互いに反対方向に向けて撓む形態をとる。これを端的にいえば、前記矩形の両長辺がへこみかつ両短辺が膨らむ。したがって、両スピーカユニット3が逆位相で駆動されるとき、上下の各変形制限手段43に両変形C及びDが同時に生じ、このために両変形C及びCは互いに打ち消され、上下の各変形制限手段43には、見かけ上、変形は生じない。その結果、支持体5の変形又はたわみがさらに抑制され、スピーカユニット3の音質のより一層の低減が図られる。
図10に示す例については、両変形制限手段43の配置を省略し、両変位制限手段13のみを有するものとすることができる。両変形制限手段43の配置が省略された、互いに点対称をなす両変位制限手段13のみが配置されたスピーカ装置1の例を図11に示す。図11に示す例においては、さらに、互いに反対方向に向けて配置された両スピーカユニット3を支持するバッフル板からなる支持体5が、図10におけるフレーム45に代えて、両変位制限手段13と、一対の脚部材107とに支持されている。
両変位制限手段13は、前述した例におけると同様、支持体5に固定された一対の支持部材15と、これらにそれぞれ支持された一対の押圧部材をなすボルト17とからなる。図示の両変位制限手段13は、互いに相対する上下一対の平行な板体109,111及び113,115と、各対の板体間に配置されかつこれらに固定され、上下方向に伸びる帯状の板部材117とからなる。各対の板体及び板部材117は共同してコ字形の側面形状を規定する。
各対における一方(下方)の板体111と上方の板体113とは、それぞれ、支持体5の上下方向におけるほぼ中間位置において支持体5の両面に直交しかつ接するように配置され、他方(上方)の板体109と下方の板体115とがそれぞれ支持体5の上部及び下部において支持体5の両面に直交しかつ接するように配置され、各板体109〜115は適当な固定具(図示せず)により支持体5に固定されている。支持体5に対する各板体109〜115の直交状態の維持の補強のため、さらに、支持体5と各板体109〜115との交差箇所に山形鋼119が配置され、かつボルト121により固定されている。なお、下方の板体111が両脚部材107により支持されている。
また、各板部材117は、各スピーカユニット3の磁気回路11に相対する位置にあって、ボルト123を介して、各板体109〜115に固定されている。なお、符号125,127は、それぞれ、上下各対の板体109,111及び113,115の相互間隔を維持するためのスペーサ及び補強部材をなす。
図11に示すスピーカ装置1における両変位制限手段13は、図10に示す例における両変位制限手段13と同じように作用し、また機能する。説明の重複を避けるため、その詳細な説明は省略する。
なお、前記した1組の変形制限手段43のいずれの例においても、両変形手段43間において支持部材83を構成する前記板の幅寸法、厚さ寸法等に相違があるように設定し、あるいはボルト85の使用数量に相違があるように設定することは任意である。
また、図10及び図11に示すスピーカ装置1、すなわち一対のスピーカユニット3が互いに逆向きに配置されたスピーカ装置1から放射される音は、聴取者がスピーカ装置1の側面において聴取することが望ましい。すなわち、図10に代表的に示すように、スピーカ装置1から矢印Aの方向に放射される音を聞くことが望ましい。さらに、図示しないが、一対のスピーカ装置1を用いたステレオ方式による音の聴取を行う場合は、両スピーカ装置1をこれらの両側面が聴取者に向けられるように、すなわち両スピーカ装置1がV字の両線上に位置しかつ聴取者がV字の頂点に位置することが望ましい。さらに、また、複数のスピーカユニット3のすべてが同方向に向けられたスピーカ装置1(図1、図2、図5〜図9)からの音の聴取は、聴取者がスピーカユニット3の振動板9に面して行うことができる。