本発明は、高耐圧で大電力用の半導体装置とその製造方法に関する。特には、半導体層の表面に絶縁膜を介して形成される制御電極を有するIGBTなどのMOS型の半導体装置とその製造方に関する。
近年のパワーエレクトロニクス分野における電源機器の小型化、高性能化への要求を受けて、電力用半導体装置では、高耐圧化、大電流化と共に、低損失化、高破壊耐量化、高速化に対する性能改善に注力されている。600Vから6500Vクラスまでの中、高耐圧領域では絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)が電力用半導体装置の主流を占め、前記諸特性要求を満たすため、特に600Vから1700Vクラスでの特性改善の進歩には目覚しいものがある。
このIGBTの特性改善を支える大きな技術の一つが薄ウエハ技術である。以降、ウエハという語句は、プロセスに投入する前の半導体基板または諸々のプロセス加工を加えた後の半導体基板の総称として用いることがある。この薄ウエハ技術は、厚さ500μm程度のFZ―n型シリコン基板を用い、まず、ウエハの一方の主面側にMOSゲートを含む素子構造を作成する。その後、素子作成最終段階においてウエハの裏面から、素子耐圧が確保でき、かつ十分低損失特性が得られる最適の厚さまで薄く削る。ウエハ研磨後の裏面から、リンおよびボロンなどの不純物をイオン注入してn+型層(FS層またはバッファ層)およびp型層(コレクタ層)を形成する。このp型層(コレクタ層)の表面にコレクタ電極を形成すると、薄ウエハ技術を用いたFS−IGBTの主要プロセスが終了する。このFS−IGBTによれば、優れたオン電圧―ターンオフ損失特性が得られる(特許文献1)。
前記薄ウエハ技術が誕生する前のいわゆるパンチスルー型IGBTのウエハプロセスは、300μmから500μmという厚い低抵抗p型シリコン支持基板上に、事前に最適な厚さ、不純物濃度に設計されたn+型低抵抗層(以降、n型バッファ層ともいう)、高抵抗n−型層(以降、n−型ドリフト層ともいう)等をエピタキシャル成長させた厚いウエハをそのままの厚さで最終プロセスまで維持してIGBTウエハを形成した。このパンチスルー型のウエハプロセスでは、前述のようにn型バッファ層や高抵抗n−型ドリフト層の濃度、厚さは事前に最適設計され、かつウエハ全体の厚さも低抵抗p+型シリコン支持基板が十分厚いため、ウエハプロセス中に割れるということはほとんど無く生産性には優れている。しかし、低抵抗p+型シリコン支持基板(以降p+型基板)の不純物濃度が高く、厚すぎるために、IGBT動作時の少数キャリアの注入効率が極めて大きくなる。その結果、前述の薄ウエハ技術によるウエハプロセスで作成したIGBTと比較すると、オン電圧―ターンオフ損失特性などに関しては、たとえ、ライフタイムコントロール技術により電気特性を調整しても、とても及ばないという電気特性面での限界を有することが知られている。
このような電気特性上の限界を取り払うために、前記パンチスルー型のウエハプロセスにおいてp+型基板をプロセスの最終段階で裏面から削り、p+型基板の残りを1μm程度と極めて薄いp型コレクタ層として残して少数キャリアの注入効率を小さくすることにより、前記オン電圧―ターンオフ損失特性の向上を図るという製造方法も提案された。しかしながら、ウエハ研磨の精度が通常±5μm程度であるので、パンチスルー型プロセスに裏面研磨を加えた前述の製造方法では、研磨精度上の問題から、ウエハ研磨後p型コレクタ層が全部研磨されて無くなり、オン電圧が急増することがある。また、それとは反対にp型コレクタ層が設計値よりも厚く残り、その結果ターンオフ損失が増加するなど、発生損失特性のばらつきが極めて大きくなるという欠点がある。さらにまた、この製造方法では、ウエハ厚さを最終のプロセスでウエハを厚さ60〜70μmまで研磨するので前記薄ウエハ技術と同様、p+基板研磨後、裏面電極形成時にウエハが割れるという欠点もあり実用化には至っていない。
つまり、前者の薄ウエハ技術を適用した場合、p型コレクタ層、n型バッファ層(FS層)、高抵抗n−型ドリフト層の濃度および厚さは最適設計値を実現できるが、生産性が悪く、また、後者のエピタキシャル法を用いたパンチスルー型プロセスの場合、生産性は優れているが、素子の電気特性的に限界があり、さらなる電気特性の向上が難しいという特徴がある。
また、IGBTの電流−電圧特性を見ると、コレクタ−エミッタ間電圧が0Vから0.7Vの範囲で電流が流れない領域があることが知られている。これは、低抵抗p型コレクタ層と低抵抗n型バッファ層(FS層)および高抵抗n−型ドリフト層間にビルトイン電圧があるためであり、このことが低電流領域でのオン電圧が十分低減できない大きな原因となっている。
図39に示すのはFS−IGBT薄ウエハ技術を用いたRC(Reverse Conducting)−IGBTと呼ばれるデバイスの要部断面図である。このRC−IGBTは、表面側にp型チャネル領域204、n+型エミッタ領域205、トレンチ208内に形成されるゲート絶縁膜(図示せず)、ゲート電極206などからなるトレンチMOSゲート構造を備える。裏面側のp型コレクタ層201の一部がn型バッファ層202になり、n型バッファ層(FS層)202とp型コレクタ層201とが裏面側で短絡されている構造である。等価回路的にはIGBTの一部にMOSFETが内蔵された構造と言える。このRC−IGBTはコレクタ−エミッタ間の電圧が0.7V以下の、通常IGBTが動作しない領域においても内蔵MOSFETで電流を流すことができることを特徴とする(特許文献2)。
また、n型バッファ層(FS層)202とp型コレクタ層201とが裏面側で短絡されている構造を有するRC−IGBTであって、さらに、n
−型ドリフト層203を、半導体基板の主面に垂直なn層とp層がストライプ状平面パターンを有して、前記主面に平行な方向では交互に隣接して配列される集合体とした超接合構造を組み合わせたIGBTが記載された文献が公開されている。この特許文献によれば、特に中低耐圧のIGBTにおいても、低オン電圧と高速スイッチングとを可能にするとある(特許文献3)。
特許第3885598号公報
US2007/0231973(FIG1)
特開2003−303965号公報
しかしながら、前記特許文献1に記載のFS−IGBTについて、素子耐圧を確保し、低損失特性を達成するためには、前記ウエハ研磨後の厚さは、600V耐圧の素子で、およそ60μmから70μm、1200V耐圧の素子では100μm+αという極めて薄い状態にしなければならない。この状況で、たとえば、8インチウエハにてウエハハンドリングし、裏面からのイオン注入、電極形成のプロセスを進めていくと、その途中にウエハが割れるという問題が発生する可能性が極めて高く、その結果、生産性がなかなか向上しないという問題がある。
また、前記特許文献2記載のRC−IGBTについては、たとえば600V耐圧のIGBTの場合、コレクタ短絡構造により内蔵されるMOSFETのオン抵抗は、600V耐圧素子では、600VのMOSFETの特性が現れるので、IGBT動作(または伝導度変調)が起きなければ、極めて高くなる。また、前記FS−IGBTには薄ウエハ技術達成のために低抵抗FS層(n+型層)が必要となるが、このFS層を導入すると前記RC−IGBTではIGBT動作が起こりにくくなり、順方向の電流−電圧特性にいわゆる“とび“現象(snap−back phenomena)が現れてオン電圧が十分低減できないという問題が発生しやすい。
一方、高耐圧MOSFETのオン抵抗を下げる構造として、前記特許文献3にも記載されている超接合構造がよく知られている。しかしながら、超接合構造型MOSFET(以下SJ−MOSFETと略す)は通常エピタキシャルウエハまたはエピタキシャル法を適用したウエハで形成されるため、FZウエハを活用した薄ウエハ技術のようにエピタキシャルウエハまたはエピタキシャル法を適用しないで製造されるIGBT内に内蔵することはその製法上極めて難しい。たとえば、その製法はトレンチエッチングやエピタキシャル成長を駆使した基板の作成と、その基板上に作成する超接合構造の設計ならびに基板との位置合せ精度の問題など、そのウエハプロセスは極めて困難である。特に前記特許文献3に記載のIGBTでは、超接合層の各pn層幅をn型バッファ層下のp型コレクタ層まで一定に保つ形をとっているため、IGBTの特性、特にオン電圧が大きく増加する懸念があると考えられる。
本発明の目的は、半導体装置の特性に影響を与えるp型コレクタ層、n型バッファ層(またはFS層)、n−型ドリフト層の濃度・厚さを素子のウエハプロセスの制約無く最適設計値で実現でき、低電流領域でのオン電圧を低減し、オン電圧−ターンオフ損失特性が良好で、生産性に優れた半導体装置およびその製造方法を提供することにある。
特許請求の範囲の請求項1記載の発明によれば、前記本発明の目的を達成するために、高抵抗p型またはn型シリコン支持基板とこのシリコン支持基板上に形成され、比較的低濃度ではあるが、たとえば、前記高抵抗p型シリコン支持基板よりも高濃度で厚さの薄いp型コレクタ層と、その上に高濃度で比較的厚さの薄いn型バッファ層が形成されている。さらにその上に、ストライプ状平面パターンで前記基板の主面に垂直方向に形成されるn型ドリフト層とp型仕切り層が前記主面に平行な方向では交互に平行に繰り返し接してなる超接合層が形成されている。該超接合層表面に選択的に前記ストライプ状平面パターンに直角方向に形成されるp型チャネル領域と、前記p型チャネル領域の表面に選択的に形成されるn+型エミッタ領域とを備える。該n+型エミッタ領域の表面から前記p型チャネル領域を貫通する深さで前記超接合層のストライプ状パターンに直交する方向に形成される第一トレンチと、該第一トレンチの内表面にゲート絶縁膜を介して設けられるゲート電極と、前記p型チャネル領域表面および前記n+型エミッタ領域表面に共通に接するエミッタ電極とを有する。前記高抵抗シリコン支持基板の他方の主面側には前記p型コレクタ層と前記n型バッファ層にそれぞれ達する深さの第二トレンチと第三トレンチとを有する。該第二トレンチと該第三トレンチのそれぞれの底部および側面ならびに前記高抵抗シリコン支持基板の他方の主面にはコレクタ電極が接する半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項2記載の発明によれば、前記第一導電型仕切り層が第二導電型ドリフト層の表面から前記第二導電型半導体バッファ層に達する深さで、ストライプ状の平面パターンのトレンチにエピタキシャル半導体層を成長させることにより形成される特許請求の範囲の請求項1記載の半導体装置の製造方法とする。
特許請求の範囲の請求項3記載の発明によれば、前記第一導電型仕切り層が前記第二導電型ドリフト層内にあって、前記第二導電型半導体バッファ層の近傍に達する深さで、ストライプ状の平面パターンのトレンチにエピタキシャル半導体層を成長させることにより形成される特許請求の範囲の請求項1記載の半導体装置の製造方法とする。
特許請求の範囲の請求項4記載の発明によれば、前記n型バッファ層が前記n型ドリフト層よりも低抵抗な層である特許請求の範囲の請求項1記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項5記載の発明によれば、前記第二トレンチ対前記第三トレンチのトレンチ底部面積比率が5対1であることを特徴とする請求項4記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項6記載の発明によれば、前記n型バッファ層が前記n型ドリフト層よりも高抵抗な層である特許請求の範囲の請求項1記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項7記載の発明によれば、前記第二トレンチ対前記第三トレンチのトレンチ底部面積比率が36対1である特許請求の範囲の請求項6記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項8記載の発明によれば、前記ストライプ状平面パターンを繰り返し有するp型仕切り層とn型ドリフト層のそれぞれの前記ストライプ状平面パターンの短辺幅が異なる特許請求の範囲の請求項1記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項9記載の発明によれば、前記第一絶縁膜と前記第二絶縁膜とが高抵抗シリコン支持基板に格子状に複数設けられる半導体チップの最外周辺に位置し、半導体チップ化のために切断する領域である切断領域に設けられている特許請求の範囲の請求項1記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項10記載の発明によれば、前記第一絶縁膜と前記第二絶縁膜とが、前記高抵抗シリコン支持基板の最外周辺と、格子状に複数に設けられる各半導体チップの配列外との間に設けられている特許請求の範囲の請求項1記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項11記載の発明によれば、前記第一絶縁膜と前記第二絶縁膜をトレンチエッチングの終点検出用絶縁膜として用いて、前記第二トレンチと前記第三トレンチをそれぞれ形成する特許請求の範囲の請求項1記載の半導体装置の製造方法とする。
特許請求の範囲の請求項12記載の発明によれば、前記高抵抗シリコン支持基板の一方の主面に、それぞれ積層される所定の形状の第一絶縁膜と、前記高抵抗シリコン支持基板よりも低抵抗なp型コレクタ層とを備える。前記第一絶縁膜とは前記主面の上方から見て重ならない位置に設けられる所定の形状の第二絶縁膜と、前記n型バッファ層と、前記主面に垂直な方向であって、該主面に平行な仮想切断面でストライプ状平面パターンを繰り返し有するp型仕切り層とn型ドリフト層からなる超接合層とをこの順に備える。該超接合層の表面層に選択的に、該超接合層のストライプ状平面パターンに直交する方向に形成されるp型のチャネル領域と、該p型チャネル領域の表面層に選択的に形成されるn+型エミッタ領域とを備える。該n+型エミッタ領域の表面と前記超接合層の前記n型ドリフト層の表面とに挟まれる前記p型のチャネル領域の表面で前記超接合層のストライプ状平面パターンに直交する方向にゲート絶縁膜を介して設けられるゲート電極と、前記p型チャネル領域表面と前記n+型エミッタ領域表面とに共通に接するエミッタ電極とを有する。前記高抵抗シリコン支持基板の他方の主面に、前記p型コレクタ層と前記n型バッファ層にそれぞれ達する深さの第二トレンチと第三トレンチを有する。該第二トレンチと第三トレンチのそれぞれの底部および側面ならびに前記高抵抗シリコン支持基板の他方の主面に接するコレクタ電極を備える半導体装置とすることにより、前記本発明の目的は達成される。
特許請求の範囲の請求項13記載の発明によれば、前記第一導電型仕切り層が第二導電型ドリフト層の表面から前記第二導電型半導体バッファ層に達する深さで、ストライプ状の平面パターンのトレンチにエピタキシャル半導体層を成長させることにより形成される特許請求の範囲の請求項12記載の半導体装置の製造方法とする。
特許請求の範囲の請求項14記載の発明によれば、前記第一導電型仕切り層が前記第二導電型ドリフト層内にあって、前記第二導電型半導体バッファ層の近傍に達する深さで、ストライプ状の平面パターンのトレンチにエピタキシャル半導体層を成長させることにより形成される特許請求の範囲の請求項12記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項15記載の発明によれば、前記n型バッファ層が前記n型ドリフト層よりも低抵抗な層である特許請求の範囲の請求項12記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項16記載の発明によれば、前記第二トレンチ対前記第三トレンチのトレンチ底部面積比率が5対1であることを特徴とする請求項15記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項17記載の発明によれば、前記n型バッファ層が前記n型ドリフト層よりも高抵抗な層である特許請求の範囲の請求項12記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項18記載の発明によれば、前記第二トレンチ対前記第三トレンチのトレンチ底部面積比率が36対1である特許請求の範囲の請求項17記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項19記載の発明によれば、前記ストライプ状平面パターンを繰り返し有するp型仕切り層とn型ドリフト層のそれぞれの前記ストライプ状平面パターンの短辺幅が異なる特許請求の範囲の請求項12記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項20記載の発明によれば、前記第一絶縁膜と前記第二絶縁膜とが最外周辺に位置し、チップ化のために切断する領域である切断領域に設けられている特許請求の範囲の請求項12記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項21記載の発明によれば、前記第一絶縁膜と前記第二絶縁膜とが、前記半導体支持基板の最外周辺と、格子状に複数に設けられる各半導体装置の配列外との間に設けられている特許請求の範囲の請求項12記載の半導体装置とする。
特許請求の範囲の請求項22記載の発明によれば、前記第二トレンチと前記第三トレンチを、それぞれ前記第一絶縁膜と前記第二絶縁膜をトレンチエッチングの終点検出用絶縁膜として用いて形成する特許請求の範囲の前記請求項12記載の半導体装置の製造方法とする。
ここで前記p型コレクタ層は少数キャリアの注入効率を抑えるために低濃度で厚さも比較的薄い設計となっている。また、前記n型バッファ層は、IGBT動作しやすくするために比較的低濃度に設計されている。また、前記高抵抗p型シリコン支持基板(以降、高抵抗p型支持基板と略記)の裏面から前記p型コレクタ層に達するまでの第二トレンチと前記n型バッファ層に達するまでの第三トレンチがそれぞれ形成され、これらの第二、第三トレンチの底部、側面から前記高抵抗シリコン支持基板の裏面にいたる面はコレクタ電極となる金属導電体で連続的に覆われている。その際、前記第二、第三トレンチ底部が正確にp型コレクタ層もしくはn型バッファ層に達するように作成するため、あらかじめ高抵抗p型支持基板と前記p型コレクタ層の上にシリコン酸化膜に代表される第一または第二絶縁膜をそれぞれ形成しておく。これらの第一、第二絶縁膜は、前記第二または第三トレンチを形成する際のエッチングストッパーとして、エッチング終点を検出するために用いられる。その際、主電流が流れる領域である活性領域内に前記第一または第二絶縁膜を形成すると、電流導通時の抵抗となるため、形成する場所は主電流の導通に関係のない、たとえば、各半導体装置チップ周辺に位置する切断ライン近傍やウエハの最外周辺に位置する素子が形成されない領域にのみ形成する。このようにして形成された半導体装置チップは、チップ内にSJ−MOSFETとpコレクタ層総不純物量が少ない低注入特性で、n型バッファ層の薄いIGBTが同一素子内に融合された形となる。電気特性は低電流領域ではSJ−MOSFETの低オン抵抗特性、高電流領域ではp型コレクタ層からn型ドリフト層まで最適設計されたIGBTの良好な伝導度変調による低オン電圧特性が得られる。また、ウエハプロセス全体においては厚い支持基板である高抵抗p型シリコンがあるためにプロセス途中で割れることも無く、生産性に優れている。
本発明によれば、半導体装置の特性に影響を与えるp型コレクタ層、n型バッファ層(またはFS層)、n−型ドリフト層の濃度・厚さを素子のウエハプロセスの制約無く最適設計値で実現でき、低電流領域でのオン電圧を低減し、オン電圧−ターンオフ損失特性が良好で、生産性に優れた半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
以下、本発明のトレンチゲート型およびプレーナゲート型絶縁ゲートバイポーラトランジスタについて、図面を参照して詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
図1A、図1Bは実施例1、4の高抵抗p型支持基板の表面およびp型コレクタ層表面に形成した第一、第二酸化膜を含むIGBTの格子状配列を示すウエハの平面図(a)と、この平面図(a)の破線円部の拡大平面図(b)。図2、図3、図21、図22は実施例1、4の、第二トレンチがp型コレクタ層に、第三トレンチがnバッファ層にそれぞれ接することを示すIGBT周辺耐圧構造部と活性領域のそれぞれ断面図。図4、図23は、図3、図22をA−A線またはD−D線でそれぞれ切断したときの活性領域の断面図。図5〜図7A、図24〜図26は実施例1、4のIGBTの、超接合層形成までのプロセスを示す断面図。図7B、図7Cは実施例1、4のIGBTの超接合層形成後の平面図。図8、図9、図27、図28は実施例1、4のIGBTの超接合層形成後のIGBTの周辺耐圧構造部と活性領域の断面図。図10、図11、図29、図30は実施例1、4のIGBTの高抵抗p型支持基板の裏面にトレンチ形成用酸化膜マスク形成後の素子周辺耐圧構造部と活性領域の断面図。図12、図13、図31、図32は実施例1、4のIGBTの高抵抗p型支持基板の裏面に第二トレンチとコレクタ電極形成後の周辺耐圧構造部と活性領域の断面図。図14、図17、図35、図37は実施例1、2と実施例4、5で作成したIGBTと従来型薄ウエハ技術および従来SJ−MOSFETの各I−V特性比較図。図15、図18、図36、図38は実施例1、2と実施例4、5で作成したIGBTと従来型薄ウエハ技術を用いて作成したIGBTのオン電圧―ターンオフ損失トレードオフ特性比較図。図16、図33は実施例2、5のIGBTの活性領域を示す要部断面図。図19、図34は本発明にかかる実施例1、4のIGBTが逆方向に接続されるダイオードを内蔵することを示す活性領域の断面図。図20は本発明のIGBTを適用する三相インバータ回路図である。
以下、本発明の実施例1について、図1A−図15を参照して説明する。なお、実施例1では、耐圧600VのトレンチゲートIGBTについて説明する。
図1Aは、実施例1のトレンチゲートIGBTの作成に用いる8インチ径の高抵抗p型支持基板101と、その高抵抗p型支持基板101上に形成されるシリコン酸化膜102パターンの平面図である。チップサイズは図1A(a)の破線円部の拡大図である図1A(b)に示すように6.8mm角であるので、図1A(a)に示す格子状のシリコン酸化膜102のパターンピッチは6.8mmとなる。幅200μmの格子状のシリコン酸化膜102のパターンに囲まれた6.6mm角の中にトレンチゲートIGBTの素子領域103が作り込まれる。幅200μmの格子状のシリコン酸化膜102の中央線がウエハをIGBTチップにダイシングにより分離する際のダイシングライン104となる。
図2、図3、図4は、実施例1のトレンチゲートIGBTの概略断面図である。図2はトレンチゲートIGBTの周辺部の、図3はトレンチゲートIGBTの活性領域の、それぞれ断面図である。図4は図3に示すA−A線で切断した断面図を示す。これらの図2、図3、図4に示すように、実施例1のトレンチゲートIGBTは高抵抗p型支持基板101表面に部分的にシリコン酸化膜105(図2(a))と、そのシリコン酸化膜105上に厚さ3.0μm、不純物濃度3.0×1017cm−3のp型コレクタ層1とを備える。このp型コレクタ層1上にさらに部分的にシリコン酸化膜106(図2(b))と、その上に厚さ2.0μm、不純物濃度2.0×1016cm−3のn型バッファ層2を有する。その際、前記高抵抗p型支持基板101の表面に形成したシリコン酸化膜105と前記p型コレクタ層上に形成したシリコン酸化膜106は前記高抵抗p型支持基板101の主面上方から見て相互に重ならない位置とする。
また、前記n型バッファ層2は、従来のn+型バッファ層(FS層)よりは不純物濃度を低く、n−型ドリフト層3よりは高い不純物濃度にされる。
n−型ドリフト層3は、厚さ55μmで、リンを不純物濃度4.0×1015cm−3程度含む(図2)。このn−型ドリフト層3は、前記高抵抗p型支持基板101の主面に垂直な方向に形成されるp型仕切り層4とn−型ドリフト層3とが前記主面に平行な方向では、交互に接するストライプ状平面パターンの繰り返しからなる超接合層を有するウエハにされている(図4)。図2、図3でも超接合層は形成されているが、切断面の位置の関係でp型仕切り層4が現れていないだけである。
前記超接合層の表面層に、従来の技術と同様に、トレンチゲート構造を形成するための第一トレンチ6が前記超接合層3、4と直交するよう形成される(図3)。この第一トレンチ6内部をゲート絶縁膜(図示せず)を介してゲート電極5で埋め込むことでトレンチゲートが形成される。p型チャネル領域7とn+型エミッタ領域8の形成、ゲート電極5とエミッタ電極9を絶縁するためのBPSGによる層間絶縁膜(図示せず)および前記p型チャネル領域7とn+型エミッタ領域8の各表面に共通に接するエミッタ電極9が形成される(図3)。
高抵抗p型支持基板101の裏面には、裏面の表面から前記p型コレクタ層1と前記n型バッファ層2とにそれぞれ達する第二トレンチ11、第三トレンチ12と、これらの第二トレンチ11、第三トレンチ12の各内面と、各底部にそれぞれ接するコレクタ電極13を備える。なお、高抵抗支持基板101としてはp型基板でもn型基板であっても差し支えない。この際、本発明のトレンチゲートIGBTを適用する、インバータのキャリア周波数などの動作周波数に対応する最適な素子特性を得るためには、たとえば、モーター駆動用インバータのキャリア周波数10kHzを想定すると、前記p型コレクタ層1に接するコレクタ電極13の面積と前記n型バッファ層2に接するコレクタ電極13の面積比率を5:1に設定することが好ましい。
特に、実施例1のようなトレンチゲートIGBTの場合、前記第二トレンチ11、第三トレンチ12は、厚さの薄いp型コレクタ層1およびn型バッファ層2にそれぞれ正確に達していることが重要である。第二トレンチ11が正確に前記p型コレクタ層1に達していないとオン電圧が急激に劣化し、第三トレンチ12がn型バッファ層2に正確に達してないと、SJ−MOSFETが動作しないなどの不具合を生じるからである。
以下、図5から図13を用いて、本発明トレンチゲートIGBTの製造方法を詳しく説明する。図5に示すように、まず、厚さ500μm、直径8インチの高抵抗p型支持基板101を準備し、その上にシリコン酸化膜を0.2μmの厚さに形成する。その後、前記図1A(a)のような、形成するチップサイズに応じたピッチの格子状に酸化膜を残すようにパターニングし、シリコン酸化膜105を形成する。図1A(b)に示すように、実施例1でチップサイズに応じた4辺のうち2辺のダイシングによる切断ライン近傍での酸化膜幅を100μmとした。
この上に、図6に示すように、周知の技術であるエピタキシャル法を用いて厚さ3.0μm、不純物濃度3.0×1017cm−3のp型コレクタ層1を堆積する。このコレクタ層1はなるべく薄く形成すると正孔の注入効率を小さくすることができ、好ましいが、ウエハ面内の濃度・厚さばらつきを考慮し、3.0μmの厚さに設定した。この際、アクセプタ不純物としてボロンを用いた。その後、前記高抵抗p型支持基板101上に形成したシリコン酸化膜105と同様にダイシングによる切断ライン近傍に幅100μmのシリコン酸化膜106を形成する。その際、前記酸化膜105を形成した2辺とは重ならないように、他の2辺に形成する。その上に厚さ2.0μm、不純物濃度2.0×1016cm−3のn型バッファ層2をエピタキシャル成長により形成する。
前記酸化膜105と106とを基板101の上方から見て相互に重ならない位置に形成するための異なる方法を以下に示す。たとえば、図1Bに示すように、ウエハの左半分にある、素子を形成しないウエハ周辺領域に、高抵抗p型支持基板101の表面に1cm2程度大きさの前記シリコン酸化膜105Aを形成し、同様に、ウエハの右半分の、素子を形成しないウエハ周辺領域には、p型コレクタ層1の表面にシリコン酸化膜106Aを形成する方法としてもよい。その後、リンを4.0×1015cm−3程度含むn−型ドリフト層3を55μm程度の厚さにエピタキシャル成長する(図6)。
次に、n−型ドリフト層3の表面に厚さ1.6μmの酸化膜(図示せず)を成長させ、フォトリソグラフおよびエッチングにより4μmピッチで、4μm幅のストライプ状パターンの酸化膜マスクを形成する。この酸化膜マスクを用いて、異方性エッチングにより表面からn型バッファ層2に達するトレンチを形成する。その後、このトレンチ内に、ボロンを前記n−型ドリフト層3と同程度の濃度で含むp型シリコンをエピタキシャル成長により埋め込み、さらに前記酸化膜マスクより厚くなるように成長させる。
その後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)および酸化膜エッチングにより前記n−型ドリフト層3の表面層を再度露出させると、n−型ドリフト層3と、前記トレンチ内にp型シリコンが埋め込まれたp型仕切り層4が前記主面に平行な方向では交互に接するストライプ状平面パターンの繰り返しからなる超接合層となる(図7A)。
その後、前記超接合層の表面からトレンチゲート用の第一トレンチ6を幅1.2μm、ピッチ5μmで等間隔で4.5μmの深さに形成する。十分に注意深くトレンチ6を形成することで、トレンチ6底部の曲率半径は0.6μmで形成する。前述したように、実施例1では図7Bの平面図に示すように前記第一トレンチ6と超接合層が直交するような平面パターンに配置した。その後、図9に示すように、第一トレンチ6内部に厚さ100nmのゲート酸化膜(図示せず)の成長後に、ポリシリコンを堆積させて前記第一トレンチ6内に埋め込みゲート電極5を形成する。
次に、イオン注入法と熱拡散法を用いて、深さ約2.5μmのp型チャネル領域7を形成する。なお、このときの不純物はボロンを用い、そのドーズ量は8.0×1013cm−2、熱拡散温度と時間は1150℃で2時間とした。さらにその後、n+型エミッタ領域8の形成のために砒素をドーズ量5.0×1015cm−2ほどで、深さ0.4μmにイオン注入する。その後、層間絶縁膜(図示せず)としてBPSG(Boro Phospho Silicate Glass)を厚さ1.0μm堆積しパターニング後、熱処理(1000℃)する。エミッタ電極9となるAl−1%Si合金をスパッタ法にて厚さ5μmに形成し、パターニング後熱処理(400℃)をしてそれぞれ形成する。表面保護膜(図示せず)として厚さ10μmのポリイミドを素子表面に形成後、エミッタ電極9ならびにゲート電極パッド部(図示せず)を窓明けするようにパターニングし、熱処理(300℃)して形成する(図8、図9)。なお、図8、図9の活性領域の断面図に超接合層のp型仕切り層4が図示されていないが、これは、トレンチゲートと超接合構造が直交して形成されているからであり、トレンチゲート構造を説明するために、超接合層に平行に切断される図となっているためである。
次に、前記ウエハの裏面、すなわち高抵抗p型支持基板101の裏面に厚さ1.6μmの酸化膜10を成長させ、フォトリソグラフおよびエッチングによりトレンチ形成用の酸化膜マスク10aを形成する(図10、図11)。なお、この酸化膜マスクは、図1A(b)に示すチップ4辺のうちの2辺に相当する周辺耐圧構造部の高抵抗p型支持基板101上に酸化膜105が形成された領域では5μm幅、5μm間隔で均等に形成した(図10(a))が、同じ周辺耐圧構造部でも他の2辺に相当するp型コレクタ層1の上に酸化膜106が形成された領域では酸化膜に窓明けをしていない(図10(b))。また、活性領域では一部の酸化膜マスク幅を100μmと広めに残す酸化膜マスク10bを形成する(図11)。
その後RIE法などの異方性エッチングにより前記ウエハの裏面からトレンチエッチングをする。実施例1では、その後のウエハプロセスにてウエハが割れない範囲でトレンチエッチング時間を短縮するため、あらかじめ、厚さ500μm程度の前記ウエハの裏面を研磨して厚さを250μmまで薄くした後に前記エッチングを行った。この際、このエッチングを第二トレンチ底部が前記p型コレクタ層に達したところで正確に止めることが肝要であるが、前述したとおり電気特性向上のためp型コレクタ層の厚さを3.0μmと比較的薄く設定しているため、通常はうまくトレンチエッチングを止めるのが難しい。しかしながら、本発明によれば、高抵抗p型支持基板とp型コレクタ層の間に幅100μmで、またはウエハの最外周辺部の位置で素子が形成されていない領域に、厚さ0.2μmのシリコン酸化膜105、106が配置されているため、前記エッチングを進めて第二トレンチの底部が前記p型コレクタ層に達したと同時にシリコン酸化膜がエッチングし始める。エッチング中に酸素を検出した時点でエッチングを止めれば、正確にトレンチエッチングの先端を前記p型コレクタ層でとめることが可能である(図12)。同様に、図示しないが、裏面酸化膜除去後、レジストを塗布する。そして今度は活性領域内の一部酸化膜幅を100μm残したところに前記同様5μm幅で酸化膜に窓明けし、かつ周辺耐圧構造部で、前記第二トレンチを掘らなかった領域に幅5μmで5μm間隔の酸化膜パターンを形成する。その後、前記同様RIE法にてトレンチエッチングを行い、今度は第三トレンチ(図示せず)の底部がn型バッファ層に達したところでエッチングを止める。次に、n型バッファ層と裏面側コレクタ電極とのオーミックコンタクトを取る目的で、裏面側にリンをイオン注入する。そして裏面酸化膜を除去後、前記第二トレンチ、第三トレンチの各底部、側面ならびにウエハの裏面全体にAl,Ti,NiそしてAuの金属積層膜を真空蒸着にて形成してコレクタ電極13とする(図13)。以上説明した製造方法により、本発明にかかるトレンチゲートIGBTの主要なウエハプロセスが終了する。なお、前記シリコン酸化膜はダイシングによる切断ライン104に沿って幅100μmで形成、または、ウエハの最外周辺部にのみ形成されているため、大部分の第二トレンチ11、第三トレンチ12が、その後のコレクタ電極13の形成では確実にIGBT内のp型コレクタ層1、または、n型バッファ層2と前記金属積層膜(コレクタ電極13)がコンタクトすることができる。そのため前記シリコン酸化膜105、106が電流の導通に影響を与えることはまったく無い。なお、このトレンチゲートIGBTにはスイッチング速度を向上させるためのライフタイムコントロールプロセスは一切適用していないが、素子特性の最適化のためにはライフタイムコントロールプロセスを施しても差し支えない。
前述の方法にて直径8インチの600V トレンチゲートIGBTウエハ100枚を作成したが、IGBTプロセスが終了するまでのウエハプロセス中で割れたものは一切無く、生産性に非常に優れていることが判明した。比較のためにFZウエハを使った前述の薄ウエハ技術を使って同様に8インチ径のトレンチゲートFS−IGBTを作成したところ、ウエハ厚さが65μmで100枚中約35枚が割れた。これは薄く研磨した後の、ウエハハンドリング中または、裏面への不純物形成工程ならびに電極形成工程の途中にて割れたためである。また、前述の実施例1にてコレクタ電極13の形成を真空蒸着法にて行ったが、別の方法、たとえば、スパッタ法、またはメッキ法にして形成しても、8インチウエハ100枚にてウエハの割れは一切無いことを確認した。
図14は実施例1にて作成したトレンチゲートIGBT素子の電流−電圧特性を示す。また、比較のために600V SJ−MOFETならびに薄ウエハプロセスを適用した600V トレンチゲートFS−IGBTの特性も併せて示す。実施例1のトレンチゲートIGBTは、コレクタ・エミッタ間の電圧が0Vから0.6Vの間でも従来のSJ−MOSFETに近い十分な電流導通能力を示していることがわかる。また、定格電流近傍の300A/cm2付近では、SJ−MOSFETに対しては明らかに優位性を示し、かつトレンチゲートFS−IGBTにも遜色ない低オン電圧特性を示していることがわかる。このように電流密度が50A/cm2以下での低電流領域ではSJ−MOSFET並みの、また、電流密度が300A/cm2近傍の高電流領域ではトレンチゲートFS−IGBTと同等の良好な電流−電圧特性を示すことがわかる。なお、本発明素子の6.8mm角、素子定格は600V/100Aで、定格電流密度は300A/cm2である。さらに本発明のスイッチング特性についても測定した。その結果、定格電流100Aでのターンオフ損失を測定したところ1.95mJとなった。これは、比較したトレンチゲートFS−IGBTのターンオフ損失2.3mJに対して15%もの低減が図れていることになる。さらに条件を換えた素子を作成し特性比較をしたところ、図15に示すように従来のトレンチゲートFS−IGBTに対して若干ではあるが、低オン電圧でかつ低ターンオフ損失を示すという良好な特性であることがわかった。なお、実施例1のトレンチゲートIGBTにおいて、図15に示したトレードオフ特性は、p型コレクタ層の濃度を変えた素子、すなわち不純物濃度を4.0×1017cm−3、6.0×1017cmとするものを新たに追加作成し評価した結果である。そこで実施例1のトレンチゲートIGBTを用いて図20に示す3相インバータ回路を構成しモーターを駆動することでその発生損失を従来のトレンチゲートFS−IGBTと比較した。なお、インバータ動作条件は次の通りである。
Vdc=300V、Io=60A(rms)、キャリア周波数fc=10kHz、出力周波数fo=50Hz、cosθ=0.9
その結果、実施例1のトレンチゲートIGBTを用いたインバータの発生損失は47Wとなり、従来のトレンチゲートFS−IGBTを用いたインバータの発生損失62Wに対して約25%の低減が可能となった。これは、図15に示したトレードオフ特性の若干改善もあるが、図14に示したように低電流領域での電流導通能力が従来のトレンチゲートFS−IGBTに対して格段に向上したため、この領域でのオン電圧が十分低減できたところによる。
また、実施例1のトレンチゲートIGBTの素子耐圧は730Vと従来薄ウエハプロセスでのトレンチゲートFS−IGBT(素子耐圧726V)と同様、600V素子として十分な特性が得られていることを確認した。さらに、最大ターンオフ電流ならびに負荷短絡耐量についても測定したところ、従来のトレンチゲートFS−IGBTとほとんど同等の特性を示していることも併せて確認した(実施例1のトレンチゲートIGBT:最大ターンオフ電流:425A、負荷短絡耐量18μsec、 従来トレンチゲートFS−IGBT:最大ターンオフ電流:416A、負荷短絡耐量16μsec)。なお、前記測定時の温度は125℃である。
このことから、実施例1によるトレンチゲートIGBTは高い生産性を有し、かつそれによってできたトレンチゲートIGBTは極めて良好な電気特性を示すことがわかる。
実施例2は、MOSゲート構造が実施例1のトレンチゲート構造に対し、プレーナゲート構造としたこと以外は実施例1と同一の条件で作成したものである。そのため、この実施例2のプレーナゲートIGBTのウエハプロセスは、前述の実施例1記載の内容とほとんど変わらないので、詳細は省略する。図16は、実施例2の600V耐圧のプレーナゲートIGBTの活性領域の要部断面図である(周辺耐圧構造部の断面図は前記実施例1の図2、図3とMOSゲート構造以外は同じなので省略する)。なお、実施例2では高抵抗支持基板として、p型基板を用いたが、n型基板であっても差し支えない。その結果、プレーナゲート構造を有する直径8インチの600V耐圧のIGBTウエハ100枚を作成したが、ウエハプロセスが終了するまでのウエハプロセス中で割れたものは一切無く、前記実施例1同様、生産性に非常に優れていることが判明した。
図17は、実施例2にて作成したプレーナゲートIGBT素子の電流−電圧特性を示す。また、比較のために実施例1で用いたのと同じ600V SJ−MOFETならびに薄ウエハプロセスを適用したトレンチゲートFS−IGBTの特性も併せて示す。前記実施例1の図14に比べるとトレンチゲート構造をプレーナゲート構造に変えた分だけ特性はやや劣化するが、それでも実施例2のプレーナゲートIGBTは、コレクタ・エミッタ間の電圧が0Vから0.6Vの間でも従来のSJ−MOSFETに近い十分な電流導通能力を示していることがわかる。また、定格電流近傍の300A/cm2付近では、トレンチゲートFS−IGBTに遜色ない低オン電圧特性を示していることがわかる。このようにプレーナゲート構造でも電流密度が50A/cm2以下での低電流領域ではSJ−MOSFET並みの、また、電流密度が300A/cm2近傍の高電流領域ではトレンチゲートFS−IGBTと同等の良好な電流−電圧特性を示すことがわかる。なお、実施例2のプレーナゲートIGBTは6.8mm角、素子定格は600V/100Aで、定格電流密度は300A/cm2である。さらに実施例2のプレーナゲートIGBTにおいてもスイッチング特性を測定した。その結果、定格電流100Aでのターンオフ損失を測定したところ1.72mJとなった。これは、比較したトレンチゲートFS−IGBTのターンオフ損失2.0mJに対して28%もの低減が図れていることになる。さらに条件を換えた素子を作成し特性比較をしたところ、図18に示すように従来のトレンチゲートFS−IGBTに対して若干ではあるが、低オン電圧でかつ低ターンオフ損失を示すという良好な特性であることがわかった。なお、実施例2のプレーナゲートIGBTにおいて、図18に示したトレードオフ特性は、p型コレクタ層1の濃度を変えた素子、すなわち不純物濃度を4.0×1017cm、6.0×1017cmとするものを新たに追加作成し評価した結果である。
そこで実施例2のプレーナゲートIGBTを用いて実施例1と同様、図20に示す3相インバータ回路を構成しモーターを駆動することでその発生損失を従来のトレンチゲートFS−IGBTと比較した。なお、インバータ動作条件は次の通りである。
Vdc=300V、Io=60A(rms)、キャリア周波数fc=10kHz、出力周波数fo=50Hz、cosθ=0.9
その結果、実施例2のプレーナゲートIGBTを用いたインバータの発生損失は55Wとなり、従来トレンチゲートFS−IGBTを用いたインバータの発生損失62Wに対して約12%の低減が可能となった。これは、図18に示したトレードオフ特性の若干の改善もあるが、図17に示したように低電流領域での電流導通能力が従来トレンチゲートFS−IGBTに対して格段に向上したため、この領域でのオン電圧が十分低減できたところによる。
また、実施例2のプレーナゲートIGBTの素子耐圧は730Vと従来薄ウエハプロセスでのトレンチゲートFS−IGBT(素子耐圧726V)と同様、600V素子として十分な特性が得られていることを確認した。さらに、最大ターンオフ電流ならびに負荷短絡耐量についても測定したところ、従来のトレンチゲートIGBTとほとんど同等の特性を示していることも併せて確認した(実施例2のプレーナゲートIGBT:最大ターンオフ電流:430A、負荷短絡耐量20μsec、 従来トレンチゲートFS−IGBT:最大ターンオフ電流:416A、負荷短絡耐量16μsec)。なお、前記測定時の温度は125℃である。
実施例3は、前述の実施例1で説明したトレンチゲートIGBTに、部分的にライフタイムコントロールを施したものである。ライフタイムキラーとしてヘリウムをウエハ裏面から、IGBTの基板の表面側から60μmの深さの位置に照射した。ライフタイムキラー照射以外のIGBTのウエハプロセス条件は実施例1に記述のものと同じなので省略する。まず、オン電圧−ターンオフ損失のトレードオフ特性であるが、ヘリウムを照射した分オン電圧2.2Vと高くなるが、ターンオフ損失1.8mJと低減し、その結果、実施例1のトレンチゲートIGBTとほとんど変わらなかった。また、ダイオードの逆回復特性を測定したところ、逆回復時間trr=80nsecとライフタイムキラーを入れない場合のtrr=350nsecに対し格段に高速化が可能となった。局所的にライフタイムコントロールをしたことでダイオードの逆回復特性が大きく向上することがわかる。これにより、図20の3相インバータ回路で破線円部で示した素子構成を同時に高性能化することが可能となる。
実施例4では、耐圧600VのトレンチゲートIGBTについて説明する。図1A、図1Bは実施例4のトレンチゲートIGBTの作成に用いた8インチ径の高抵抗p型支持基板101とその上に形成されたパターニング後シリコン酸化膜の平面図である。チップサイズを6.8mm角としているため、図に示す寸法で格子状にシリコン酸化膜を形成している。図1A、図1Bについての説明は前述した実施例1と同じであるから、これ以上の説明は省略する。
図21、図22、図23は、実施例4のトレンチゲートIGBTの概略断面図である。図21はトレンチゲートIGBTの周辺耐圧構造部の、図22はトレンチゲートIGBTの活性領域の、それぞれ断面図である。なお、図23は図22の断面図をD−D線で切断した場合の断面図である。
これらの図21、図22、図23に示すように、実施例4のトレンチゲートIGBTの構造は、高抵抗p型支持基板101表面に部分的にシリコン酸化膜105(図21(a))と、そのシリコン酸化膜105上に厚さ3.0μm、不純物濃度1.0×1017cm−3のp型コレクタ層21とを備える。このp型コレクタ層21上にさらに部分的にシリコン酸化膜106(図21(b))と、その上に厚さ3.0μm、不純物濃度2.0×1013cm−3のように低不純物濃度のn−型バッファ層22を有する。実施例4では、n−型バッファ層22の不純物濃度が実施例1の場合と異なり、さらにその上に形成されるn−型ドリフト層23よりも低不純物濃度にされる。その際、前記高抵抗p型支持基板101の表面に形成したシリコン酸化膜105と前記p型コレクタ層21上に形成したシリコン酸化膜106は前記高抵抗p型支持基板101の主面上方から見て相互に重ならない位置とする。その方法として前記実施例1で説明した図2に示す方法と同じでよい。また、前記酸化膜105と106とを基板101の上方から見て相互に重ならない位置に形成する異なる方法を以下に示す。たとえば、図1Bに示すように、ウエハの左半分にある、素子を形成しないウエハ周辺領域に、高抵抗p型支持基板101の表面に1cm2程度大きさの前記シリコン酸化膜105を形成し、同様に、ウエハの右半分の、素子を形成しないウエハ周辺領域には、p型コレクタ層1の表面にシリコン酸化膜106を形成する方法としてもよい。
n−型ドリフト層23は、リンを6.0×1014cm−3程度の不純物濃度で含み、厚さは65μm程度である(図21、図22)。このn−型ドリフト層23は、前記基板主面に垂直な方向に形成されるp型仕切り層24とn−型ドリフト層23が前記主面に平行な方向では、交互に接するストライプ状平面パターンの繰り返しからなる超接合層を有するウエハにされている(図23)。実施例4では、従来の薄ウエハ技術によるトレンチゲートFS−IGBTやRC−IGBTのような比較的濃度の高いn+型バッファ層(FS層)ではなく、また、前述の実施例1のトレンチゲートIGBTにおけるn型バッファ層とも異なり、高抵抗n−型バッファ層22にされている。これはp型コレクタ層21とn−型バッファ層22との裏面側での短絡構造に起因するMOSFET動作からIGBT動作への移行を、たとえば、前述のI−V特性の“とび“を生じさせないでスムースに行なわせオン電圧を十分低減するためである。また前述した従来のトレンチゲートFS−IGBTのようなn+型バッファ層(FS層)が無いため、素子耐圧時に空乏層ストッパがなくなり、結果的にn−型ドリフト層23が厚くなりオン電圧が高くなるのではとの懸念が生じる。しかし、実施例4のトレンチゲートIGBTは超接合層を備えているためn−型ドリフト層23の不純物濃度は通常のIGBTよりも格段に高くすることができる。そのため、従来のような高不純物濃度のn+型バッファ層(FS層)がなくても十分な耐圧を保持できるのである。かつn−型ドリフト層23を薄くすることができるのである(図23)。
前記超接合層の表面には、実施例1と同様に、トレンチゲート構造を形成するための第一トレンチ26が前記超接合層23、24と直交するような平面パターンで配置される。この第一トレンチ26の内部をゲート絶縁膜を介して導電性ポリシリコンで埋め込む方法でトレンチゲートが形成される。トレンチゲートの幅は1.2μmで3.0μmの深さである。第一トレンチ26の内部には、厚さ100nmのゲート酸化膜(図示せず)を介してポリシリコンゲート電極25が埋め込まれる。さらに、p型チャネル領域27やn+型エミッタ領域28の形成、ゲート電極上にはBPSGによる層間絶縁膜を介してエミッタ電極29として5μmの厚さのAl−1%Siからなる金属膜を備える。さらに、その上に好ましくは厚さ10μmのポリイミド層を備える。高抵抗p型支持基板101の裏面には、前記p型コレクタ層21ならびに前記n−型バッファ層22とコレクタ電極35を備える。なお、実施例4では高抵抗支持基板としてp型基板を用いたが、n型基板であっても差し支えない。この際、実施例4のトレンチゲートIGBTを適用する、たとえば、動作周波数(インバータのキャリア周波数など)によって最適な素子特性を得るために、前記p型コレクタ層21ならびに前記n−型バッファ層22に接するコレクタ電極面積の比率を最適化することが重要である。
実施例4では、モーター駆動用インバータのキャリア周波数10kHzを想定し、前記p型コレクタ層21と前記n−型バッファ層22に接する面積を36:1に設定した。
特に、実施例4のような構造のトレンチゲートIGBTの場合、p型コレクタ層21に正確に第二トレンチ11の底部が接触しないと、オン電圧が急激に劣化するなどの不具合が生じる。またn−型バッファ層22に正確に第三トレンチ12の底部が接触しないと、SJ−MOSFETが動作しないなどの不具合を生じることとなるので、製造プロセスにより、設計どおりの接触構成になっているかが、この製造方法の要注意点である。
この点を含め、図24から図32を用いて実施例4のトレンチゲートIGBTの製造方法を詳しく説明する。まず直径8インチの高抵抗p型支持基板101を準備し、その上にシリコン酸化膜105を厚さ0.2μmに形成する。その後、形成するチップサイズに応じて酸化膜を残すようにパターニングし、シリコン酸化膜105を形成する(図24)。実施例4で実施例1と同様に、チップサイズに応じた4辺のうち2辺のダイシングライン104(図27)近傍での酸化膜幅を100μmとする。この上に、周知の技術であるエピタキシャル法を用いて厚さ3.0μm、不純物濃度1.0×1017cm−3のp型コレクタ層21を形成する。この層21はなるべく薄く形成して正孔の注入効率を小さくすることが好ましい。実際にはウエハ面内の濃度・厚さばらつきを考慮し、厚さを3.0μmに設定した。この際、不純物としてボロンを用いる。その後、前記高抵抗p型支持基板101上に形成したのと同様に、ダイシングライン104近傍に幅100μmのシリコン酸化膜106を形成する。その際、前記酸化膜105を形成した2辺とは重ならない他の2辺に形成する。その上に厚さ3.0μm、不純物濃度2.0×1013cm−3のn−型バッファ層22をエピタキシャル法にて形成する。なお実施例4と異なる方法として、図1Bに示すように、ウエハ面内の一部に1cm2程度の大きさの酸化膜105Aと酸化膜106Aをそれぞれ残す方法で、p型コレクタ層21とn−型バッファ層22を形成しても差し支えない。その後、前述したとおり、リンを6.0×1014cm−3程度含むn−型ドリフト層23を65μm程度の厚さにエピタキシャル成長させる(図25)。
次にn−型ドリフト層23の表面層に厚さ1.6μmの酸化膜(図示せず)を成長させ、フォトリソグラフおよびエッチングにより24μmおきに4μm幅の酸化膜マスクを形成した後、異方性エッチングによりn−型ドリフト層23の表面からn−型バッファ層22との境界近傍に達するトレンチを形成する。トレンチの深さは50μmとした。その後、不純物としてボロンを前記n−型ドリフト層23の約5倍程度の濃度を含むp型シリコンを酸化膜マスクより厚くなるようにエピタキシャル成長させてトレンチを埋める。その後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)および酸化膜エッチングにより、前記n−型ドリフト層23の表面層を再度露出させると、n−型ドリフト層23と、前記トレンチ内にp型シリコンが埋め込まれたp型仕切り層24とが前記主面に平行な方向では交互に接するストライプ状平面パターンの繰り返しからなる超接合層を有する超接合型半導体基板ができる(図26)。通常の超接合型MOSFETの場合、前記p型仕切り層24とn−型ドリフト層23は等間隔で形成することが知られているが、この実施例4では、オン電圧を十分低減するために、前述のような不均等間隔とした。その理由は、超接合型IGBTでは、裏面p型コレクタ層21から注入された正孔がp型仕切り層24を通ってエミッタ電極に抜けていく際に、このp型仕切り層24が、たとえば、4μm間隔の等間隔に設計されると、せっかくコレクタから注入された正孔がすぐにエミッタに抜けてしまい十分な伝導度変調を起こさないこととなる。その結果オン電圧が十分低減できなくなるためである。しかしながら、前記p型仕切り層24とn−型ドリフト層23は等間隔で形成しないと十分な素子耐圧が得られないと予想されるが、n型ドリフト層23の不純物濃度を最適化することで600V以上の耐圧を得るような設計となっている。その後、トレンチゲートを幅1.2μm深さ3.0μmとし、前記図7Cに示すように前記トレンチゲート用第一トレンチと超接合層が直交するような平面パターンに配置した。実施例4では図7Cに示すような不均等間隔のトレンチゲート構造としたが、図7Bに示すような通常の等間隔のトレンチゲート構造でも差し支えない。また、十分に注意深く第一トレンチを形成することで、第一トレンチの底部の曲率は0.6μmで形成することができる。その後、第一トレンチ内面に厚さ100nmのゲート酸化膜の成長後、ポリシリコンゲート電極を埋め込む。
次に、イオン注入法と熱拡散法を用いて、深さ約2.5μmのp型チャネル領域27を形成する。このときの不純物はボロンを用い、そのドーズ量は8.0×1013cm−2、熱拡散温度と時間は1150℃・2時間とする。さらにその後、n+型エミッタ領域28の形成のために砒素をドーズ量5.0×1015cm−2ほどイオン注入し、深さ0.4μmの層を形成する。その後、層間絶縁膜(図示せず)としてBPSGを厚さ1.0μm堆積しパターニング後熱処理(1000℃)、そしてエミッタ電極29となるAl−1%Siを厚さ5μmにスパッタ法にて形成、同様にパターニング後熱処理(400℃)をしてそれぞれ形成する。表面保護膜として厚さ10μmのポリイミド(図示せず)を素子表面に形成後、エミッタ電極29ならびにゲート電極パッド部(図示せず)を窓明けするようにパターニングし、熱処理(300℃)して形成する(図28)。また、図28に示す実施例4のトレンチゲートIGBTの活性領域の断面図には超接合層が図示されていないが、これは、実施例1と同様にトレンチゲートと超接合層とが直交して形成されているためである。
次に前記ウエハの裏面、すなわち高抵抗p型支持基板101が露出している面に厚さ1.6μmの酸化膜31を成長させ、フォトリソグラフおよびエッチングによりトレンチ形成用の酸化膜マスク31aを形成する(図29、図30)。なお、この酸化膜マスク31aはチップ4辺のうちの2辺に相当する、周辺耐圧構造部の高抵抗p型支持基板101上に酸化膜105が形成された領域では5μm幅、5μm間隔で均等に形成したが、同じ周辺耐圧構造部でも他の2辺に相当するp型コレクタ層21の上に酸化膜105が形成された領域では酸化膜に窓明けをしていない(図29(b))。また活性領域では一部の酸化膜幅を100μmと広めに残す酸化膜領域31bを形成する(図30)。その後、RIE法などの異方性エッチングにより前記ウエハの裏面からトレンチエッチングをする。実施例4では、その後のウエハプロセスにてウエハが割れない範囲でトレンチエッチング時間を短縮するため、あらかじめ前記ウエハの裏面を研磨して厚さを250μmまで薄くした後に前記エッチングを行った。この際、このトレンチエッチングを前記p型コレクタ層21に達したところで正確に止めるのが肝要であるが、前述したとおり電気特性向上のためp型コレクタ層21の厚さを3.0μmと比較的薄く設定しているため、うまくトレンチエッチングを止めるのが難しい。しかしながら、実施例4によれば、高抵抗p型支持基板101とp型コレクタ層21の間に幅100μm間隔で酸化膜マスク105、または、ウエハの最外周辺部で、IGBTチップが形成されていない領域に厚さ0.2μmのシリコン酸化膜マスク105Aが配置されているため、前記トレンチエッチングを進めてエッチングの先端が前記p型コレクタ層21に達したと同時にシリコン酸化膜105がエッチングし始める。エッチング中に酸素を検出した時点でエッチングを止めれば、正確にトレンチエッチングの先端を前記p型コレクタ層21でとめることが可能である(図31、図32)。裏面酸化膜除去後、レジストを塗布する。次に活性領域内の一部酸化膜幅を100μmと広く残したところに前記同様5μm幅の酸化膜を窓明し、かつ周辺耐圧構造部で、前記第三トレンチ12を掘らなかった領域に幅5μmで5μm間隔の酸化膜パターンを形成する。その後、前記同様RIE法にてトレンチエッチングを行い、今度はn−型バッファ層22に達したところでエッチングを止める。ここで、n−型バッファ層22と裏面電極とのオーミックコンタクトを取る目的でリンをイオン注入する。そして裏面酸化膜を除去後、前記第三トレンチの底部、側面ならびにウエハの裏面全体にAl,Ti,NiそしてAuの金属積層膜を真空蒸着にて形成してコレクタ電極35とする(図31、図32)。これにより実施例4のトレンチゲートIGBTのウエハプロセスが終了する。なお、前記シリコン酸化膜はダイシングライン104に沿って幅100μmで形成、またはウエハ周辺部にのみ形成されているため、大部分のトレンチが、その後のコレクタ電極35の形成では確実に素子内のp型コレクタ層21表面およびn−型バッファ層22表面に対してコレクタ電極35がコンタクトすることができる。そのため前記シリコン酸化膜が電流の導通に影響を与えることはまったく無い。なお、このトレンチゲートIGBTにはスイッチング速度を向上させるためのライフタイムコントロールプロセスは適用していないが、素子特性の最適化のためにはライフタイムコントロールプロセスを施しても差し支えない。
以上説明した方法により、直径8インチの600V トレンチゲートIGBTウエハ100枚を作成したが、IGBTが完成するまでのウエハプロセス中で割れたものは一切無く、生産性に非常に優れていることが判明した。比較のためにFZウエハを使った前述の薄ウエハ技術を使って同様に8インチIGBTウエハを作成したところ、ウエハ厚さが65μmで100枚中約35枚が割れてしまった。これは薄く研磨した後の、ウエハハンドリング中または裏面への不純物形成工程ならびに電極形成工程の途中にて割れたためである。また前記実施例にてコレクタ電極35の形成を真空蒸着法にて行ったが、別の方法、例えばスパッタ法、またはメッキ法にして形成しても、8インチIGBTウエハ100枚にてウエハの割れは一切無いことを確認した。
図35に、実施例4にて作成したトレンチゲート型IGBTの電流−電圧特性を示す。また比較のために600V SJ−MOFETならびに薄ウエハプロセスを適用した600V トレンチゲートFS−IGBTの特性も併せて示す。実施例4のトレンチゲートIGBTは、コレクタ・エミッタ間の電圧が0Vから0.7Vの間でも従来のSJ−MOSFETに近い十分な電流導通能力を示していることがわかる。また定格電流近傍の300A/cm2付近では、SJ−MOSFETに対しては明らかに優位性を示し、かつトレンチゲートFS−IGBTにも遜色ない低オン電圧特性を示していることがわかる。このように電流密度が50A/cm2以下での低電流領域ではSJ−MOSFET並みの、また電流密度が300A/cm2近傍の高電流領域ではトレンチゲートFS−IGBTと同等の良好な電流−電圧特性を示すことがわかる。なお実施例4のトレンチゲートIGBTは6.8mm角、素子定格は600V/100Aで、定格電流密度は300A/cm2である。さらに、実施例4のトレンチゲートIGBTのスイッチング特性についても測定した。その結果、定格電流100Aでのターンオフ損失を測定したところ2.15mJとなった。これは、比較したトレンチゲートFS−IGBTのターンオフ損失2.29mJに対して6%もの低減が図れていることになる。さらにIGBTのプロセス条件を変えた素子を作成し特性比較をしたところ、図36に示すように従来のトレンチゲートFS−IGBTに対して若干ではあるが、低オン電圧でかつ低ターンオフ損失を示すという良好な特性であることがわかる。なお、実施例4のトレンチゲートIGBTにおいて、図36に示したトレードオフ特性は、p型コレクタ層21の不純物濃度を変えた素子、すなわち不純物濃度を2.0×1017cm−3、4.0×1017cm−3とするものを新たに追加作成し評価した結果である。実施例4のトレンチゲートIGBTを用いて図20に示す3相インバータ回路を構成しモーターを駆動することでその発生損失を従来のトレンチゲートFS−IGBTと比較した。なお、インバータ動作条件は次の通りである。Vdc=300V、Io=60A(rms)、キャリア周波数fc=10kHz、出力周波数fo=50Hz、cosθ=0.9
その結果、実施例4のトレンチゲートIGBTを用いたインバータの発生損失は46Wとなり、従来のトレンチゲートIGBTを用いたインバータの発生損失62Wに対して約26%の低減が可能となった。この結果は、図36に示したトレードオフ特性の若干の改善もあるが、図35に示したように低電流領域での電流導通能力が従来トレンチゲートFS−IGBTに対して格段に向上したため、この領域でのオン電圧が十分低減できたところによる。また、実施例4のトレンチゲートIGBT素子耐圧は730Vと従来薄ウエハプロセスでのトレンチゲートFS−IGBT(素子耐圧726V)と同様、600V素子として十分な特性が得られていることを確認した。さらに、最大ターンオフ電流ならびに負荷短絡耐量についても測定したところ、従来のトレンチゲートIGBTとほとんど同等の特性を示していることも併せて確認した(実施例4のトレンチゲートIGBT:最大ターンオフ電流:425A、負荷短絡耐量18μsec、 従来トレンチゲートFS−IGBT:最大ターンオフ電流:416A、負荷短絡耐量16μsec)。なお、前記測定時の温度は125℃である。このことから、実施例4によるトレンチゲートIGBT製造方法は高い生産性を有し、かつそれによってできたトレンチゲートIGBTは極めて良好な電気特性を示すことがわかる。
実施例5は、ゲート構造がプレーナゲートである以外は実施例4と同一の条件で作成したものである。そのためウエハプロセスは実施例1記載の内容とほとんど変わらないので、詳細は省略する。図33は、実施例5の600V耐圧、プレーナゲートIGBTの活性領域の概略断面図を示す(周辺耐圧構造部断面図は前記実施例4と同じなので省略)。なお、実施例5ではp型の高抵抗支持基板を用いたが、n型の高抵抗支持基板であっても差し支えない。その結果、前記方法にて直径8インチの600V IGBTウエハ100枚を作成したが、IGBTの主要なウエハプロセスが終了するまでの間で、ウエハプロセス中で割れたものは一切無く、前記実施例4同様、生産性に非常に優れていることが判明した。図37は実施例5にて作成したプレーナゲートIGBTの電流−電圧特性である。また比較のために実施例1で用いたのと同じ600V SJ−MOFETならびに薄ウエハプロセスを適用したトレンチゲートFS−IGBTの特性も併せて示す。前記実施例4のトレンチゲートFS−IGBTに比べると実施例5ではプレーナゲート構造の違いの分だけ特性はやや劣化するが、それでも実施例5のプレーナゲートIGBTは、コレクタ・エミッタ間の電圧が0Vから0.7Vの間でも従来のSJ−MOSFETに近い十分な電流導通能力を示していることがわかる。また定格電流近傍の300A/cm2付近では、トレンチゲートFS−IGBTに遜色ない低オン電圧特性を示していることがわかる。このようにプレーナゲート構造でも電流密度が50A/cm2以下での低電流領域ではSJ−MOSFET並みの、また電流密度が300A/cm2近傍の高電流領域ではトレンチゲートFS−IGBTと同等の良好な電流−電圧特性を示すことがわかる。なお、実施例5のプレーナゲートIGBTは6.8mm角、素子定格は600V/100Aで、定格電流密度は300A/cm2である。さらに実施例5においてもスイッチング特性を測定した。その結果、図38に示すように、定格電流100Aでのターンオフ損失を測定したところ2.00mJとなった。さらに条件を変えたプレーナゲートIGBTを作成し特性比較をしたところ、図38に示すように従来のトレンチゲートFS−IGBTに対して低オン電圧でかつ低ターンオフ損失を示すという良好な特性であることがわかった。なお実施例5のプレーナゲートIGBTにおいて、図38に示したトレードオフ特性は、p型コレクタ層の濃度を変えた素子、すなわち不純物濃度を2.0×1017cm−3 、4.0×1017cm−3とするものを新たに追加作成し評価した結果である。
そこで実施例5のプレーナゲートIGBTを用いて実施例4と同様、図20に示す3相インバータ回路を構成しモーターを駆動することでその発生損失を従来のトレンチゲートFS−IGBTと比較した。なお、インバータ動作条件は次の通りである。
Vdc=300V、Io=60A(rms)、キャリア周波数fc=10kHz、出力周波数fo=50Hz、cosθ=0.9
その結果、実施例5のプレーナゲートIGBTを用いたインバータの発生損失は53Wとなり、従来トレンチゲートFS−IGBTを用いたインバータの発生損失62Wに対して約15%の低減が可能となった。これは、図38に示したトレードオフ特性の改善もあるが、図37に示したように低電流領域での電流導通能力が従来のトレンチゲートFS−IGBTに対して格段に向上したため、この領域でのオン電圧が十分低減できたところによる。また実施例5のプレーナゲートIGBTの素子耐圧は730Vと従来の薄ウエハプロセスでのトレンチゲートFS−IGBT(素子耐圧726V)と同様、600V素子として十分な特性が得られていることを確認した。さらに、最大ターンオフ電流ならびに負荷短絡耐量についても測定したところ、従来のトレンチゲートFS−IGBTとほとんど同等の特性を示していることも併せて確認した(実施例5のプレーナゲートIGBT:最大ターンオフ電流:430A、負荷短絡耐量20μsec、 従来トレンチゲートFS−IGBT:最大ターンオフ電流:416A、負荷短絡耐量16μsec)。なお、前記測定時の温度は125℃である。
実施例6は、前記実施例4で示したトレンチゲートIGBTに、部分的にライフタイムコントロールを施したものである。ライフタイムキラーとしてヘリウムをウエハ裏面からちょうど素子表面から60μmの位置に照射した。その他のIGBTの作成プロセス条件は実施例4に記述のものと同じなので省略する。まず、オン電圧−ターンオフ損失のトレードオフ特性であるが、ヘリウムを照射した分オン電圧2.2Vと高くなるが、ターンオフ損失1.8mJと低減し、その結果、実施例4のトレンチゲートIGBTとほとんど変わらなかった。またダイオードの逆回復特性を測定したところ、逆回復時間trr=80nsecとライフタイムキラーを入れない場合のtrr=350nsecに対し格段に高速化が可能となった。局所的にライフタイムコントロールをしたことでダイオードの逆回復特性が大きく向上したことがわかる。これにより、図20の丸印で示した素子構成を同時に高性能化することが可能となった。
以上に説明したような実施例1〜6によれば、従来の薄ウエハ技術で作成したトレンチゲートFS−IGBTと同等の電気特性を保持しつつ、生産性を大きく向上できる。さらに本発明にかかるIGBTは、図19、図34に示すように、通常のIGBTに、ダイオード記号で示す逆方向のダイオードが内蔵されたものと考えることもできる。このことにより、たとえば、図20に示す三相インバータ回路において、図中の破線円部で囲んだ部分で、従来はIGBTと逆方向ダイオードを別々のデバイスとして接続構成していたものを、本発明によれば、両デバイスを1つのデバイスとして一体化することができる。この一体化により、たとえば、従来のIGBTモジュールに対して、必要な素子数が半分で同一機能をもたせることができるためモジュールの大きさを極めて小型化することが可能となる。
本発明にかかる実施例1、4の高抵抗p型支持基板上およびp型コレクタ層上に形成した第一、第二酸化膜を含むIGBTの格子状配列を示すウエハの平面図(a)と破線円部の拡大平面図(b)である。
本発明にかかる実施例1、4の高抵抗p型支持基板上およびp型コレクタ層上の異なる位置に形成した第一、第二酸化膜を含むIGBTの格子状配列を示すウエハの平面図(a)と破線円部の拡大平面図(b)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの周辺耐圧構造部の断面図である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの活性領域の断面図である。
図3のA−A線で切断した断面図である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す要部断面図(その1)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す要部断面図(その2)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す要部断面図(その3)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す要部断面図(その4)である。
本発明にかかる実施例4のの主要な製造工程を示す要部断面図である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す周辺耐圧構造部の断面図(その5)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す活性領域の断面図(その6)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す周辺耐圧構造部の断面図(その6)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す活性領域の断面図(その7)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す周辺耐圧構造部の断面図(その7)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTの主要な製造工程を示す活性領域の断面図(その8)である。
本発明にかかる実施例1のIGBTとFS−IGBTと従来のSJ−MOSFETのI−V特性比較図である。
本発明にかかる実施例1のIGBTとFS−IGBTと従来のSJ−MOSFETのオン電圧―ターンオフ損失間の特性比較図である。
本発明にかかる実施例2のIGBT活性領域の断面図である。
本発明にかかる実施例2のIGBTとFS−IGBTと従来のSJ−MOSFETのI−V特性比較図である。
本発明にかかる実施例2のIGBTとFS−IGBTと従来のSJ−MOSFETのオン電圧―ターンオフ損失間の特性比較図である。
本発明にかかる実施例1のIGBT構造の逆方向内蔵ダイオードを示す図である。
本発明にかかる実施例1と実施例2のIGBTを適用して損失を測定した三相インバータ回路図である。
本発明にかかる実施例4のIGBTの周辺耐圧構造部の断面図。
本発明にかかる実施例4のIGBTの活性領域の断面図。
図22の断面図のD−D線で切断した断面図。
本発明にかかる実施例4のIGBTの主要な製造工程を示す要部断面図(その1)である。
本発明にかかる実施例4のIGBTの主要な製造工程を示す要部断面図(その2)である。
本発明にかかる実施例4のIGBTの主要な製造工程を示す要部断面図(その3)である。
本発明にかかる実施例4のIGBTの主要な製造工程を示す周辺耐圧構造部の断面図(その4)である。
本発明にかかる実施例4のIGBTの主要な製造工程を示す活性領域の断面図(その5)である。
本発明にかかる実施例4のIGBTの主要な製造工程を示す周辺耐圧構造部の断面図(その5)である。
本発明にかかる実施例4のIGBTの主要な製造工程を示す活性領域の断面図(その6)である。
本発明にかかる実施例4のIGBTの主要な製造工程を示す周辺耐圧構造部の断面図(その6)である。
本発明にかかる実施例4のIGBTの主要な製造工程を示す活性領域の断面図(その7)である。
本発明にかかる実施例5のIGBTの活性領域の断面図である。
本発明にかかる実施例4のIGBT構造の逆方向内蔵ダイオードを示す図である。
本発明にかかる実施例4のIGBTとFS−IGBTと従来のSJ−MOSFETのI−V特性比較図である。
本発明にかかる実施例4のIGBTとFS−IGBTと従来のSJ−MOSFETのオン電圧―ターンオフ損失間の特性比較図である。
本発明にかかる実施例5のIGBTとFS−IGBTと従来のSJ−MOSFETのI−V特性比較図である。
本発明にかかる実施例5のIGBTとFS−IGBTと従来のSJ−MOSFETのオン電圧―ターンオフ損失間の特性比較図である。
従来の薄ウエハ技術を用いたトレンチFS−IGBTのコレクタの一部にn+型層を設けたRC−IGBTの概略断面図。
符号の説明
1、21 p型コレクタ層
2、22 n型バッファ層
3、23 n−型ドリフト層
4、24 p型仕切り層
5、25 ゲート電極
6、26 第一トレンチ
7、27 p型チャネル領域
8、28 n型エミッタ領域
9、29 エミッタ電極
10、31 酸化膜マスク
11 第二トレンチ
12 第三トレンチ
13、35 コレクタ電極
101 高抵抗p型支持基板
102 シリコン酸化膜
103 素子領域
104 ダイシングライン
105 第一絶縁膜
106 第二絶縁膜。