以下に、本発明のプラスチック光ファイバ(POF)ケーブルの好適な実施の形態について説明する。
まず初めに、本発明の各実施形態のPOFケーブルを構成する各要素について説明する。
[POFケーブルの基本構造]
本発明の実施形態のPOFケーブルは、図1に示すように、コアと、その外周に形成された少なくとも一層のクラッドからなるコア−クラッド構造を有するPOF素線101と、その外周に設けられた、内層側から順に、保護被覆層102、光遮断被覆層103、機能被覆層(C)104、機能被覆層(D)105からなる被覆層を有する。
[POF素線]
本発明のPOFケーブルでは、POF素線のコアを構成する材料(コア材)は、特に限定されるものではないが、105℃付近での長期耐熱性を満足する観点からは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)又はメタクリル酸メチル(MMA)単位を主成分とする共重合体が好ましい(以下、これらをPMMA系樹脂と呼ぶ。)。この共重合体としては、メタクリル酸メチル(MMA)単位と1種類以上のビニル系単量体単位からなる共重合体が好ましい。PMMA系樹脂のなかでも、透明性と機械的強度のバランスに優れたPMMAが特に好ましい。コア材がMMAを主成分とする共重合体である場合には、透明性を十分に確保する点から、MMA単位の含有量は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。MMAに対する共重合成分としては、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル等の、POF用コア材の原料としてこれまでに提案されている材料に使用されている成分を適宜選択することができる。
コアの外周に形成されるクラッドは、1層から形成されていてもよいし、2層以上の複数層から形成されてもよい。このクラッドは、コアあるいは内層クラッドの保護材として機能するための機械特性や耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性、また、屈曲時の光ロスを十分低減できる程度に低屈折率であるといった光学特性の点から、含フッ素オレフィン系樹脂からなる層を少なくとも最外層に有する。この含フッ素オレフィン系樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)単位を少なくとも有し、結晶融解熱が40mJ/mg以下の含フッ素オレフィン系重合体を用いる。
TFE単位を含む含フッ素オレフィン系重合体としては、TFE単位と、フッ化ビニリデン(VdF)単位、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位、パーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル(FVE)単位のうちの少なくとも1種とを共重合して得られる共重合体、VdF単位とTFE単位とヘキサフルオロアセトン単位との共重合体、TFE単位とHFP単位とエチレン単位との共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。TFEに対する共重合成分としては、コスト、透明性、耐熱性の点から、VdF単位、HFP単位あるいはFVE単位が特に好ましい。
また、TFE単位を含む含フッ素オレフィン系重合体中にVdF単位とHFP単位のうち少なくとも1種類を含む樹脂は、POFの溶融紡糸時の安定性に優れている点で好ましい。
上記のTFE単位を含む含フッ素オレフィン系重合体の具体例としては、VdF単位60〜90質量%とTFE単位10〜40質量%からなる2元共重合体、VdF単位10〜60質量%と、TFE単位20〜70質量%と、HFP単位5〜35質量%とからなる3元共重合体、VdF単位5〜25質量%と、TFE単位50〜80質量%と、FVE単位5〜25質量%からなる3元共重合体、エチレン単位5〜60質量%と、TFE単位25〜70質量%と、HFP単位5〜45質量%とからなる3元共重合体、VdF単位10〜30質量%と、TFE単位40〜80質量%と、HFP単位5〜40質量%と、FVE単位0.1〜15質量%とからなる4元共重合体、TFE単位40〜90質量%と、FVE単位10〜60質量%とからなる2元共重合体、TFE単位30〜75質量%とHFP単位25〜70質量%からなる2元共重合体、等を挙げることができる。
FVE単位としては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF3、CF2=CFOCH2CF3、CF2=CFOCH2CF2CF3、CF2=CFOCH2CF2CF2CF3、CF2=CFOCH3、CF2=CFOCH2CH3及びCF2=CFOCH2CH2CH3からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物の単位は、原料が低コストで得られる点から好ましい。
さらに、本発明においては、少なくともクラッド最外層を形成する含フッ素オレフィン系重合体として、示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解熱の値が40mJ/mg以下の樹脂を用いる必要があり、20mJ/mg以下の樹脂が好ましく、15mJ/mg以下の樹脂がより好ましい。結晶融解熱が高すぎると、特に40mJ/mgを超えると、樹脂の結晶性が高くなり、高温環境下においては樹脂の透明性の低下が起こって、POFケーブルの初期および高温環境下での伝送損失が増大する原因となる。少なくともクラッド最外層を構成する含フッ素オレフィン系重合体として、結晶融解熱が上記の範囲内において、例えば1mJ/mg以上の樹脂を用いることができる。
クラッドが複数層で形成されている場合、その内層側の内層クラッドを形成する樹脂としては、フッ素化メタクリレート系重合体、フッ化ビニリデン系重合体等のPOF用クラッド材として提案されている材料を適宜選択することができる。特にフッ素化メタクリレート系重合体は、屈折率の調整が容易で、良好な透明性及び耐熱性を有しながら、屈曲性及び加工性に優れる重合体であるため好ましい。
上記フッ素化メタクリレート系重合体としては、例えば、良好な透明性及び耐熱性を有しながら、屈曲性及び加工性に優れる重合体として、下記一般式(7):
CH2=CX−COO(CH2)m−R1f (7)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、又はメチル基、R1fは炭素数1〜12の(フルオロ)アルキル基、mは1又は2の整数を示す。)
で表される(メタ)アクリル酸フッ素化アルキルエステルの単位(A)15〜90質量%と、単位(A)の単量体と共重合可能な単量体の単位(B)10〜85質量%からなり、
屈折率が1.39〜1.475の範囲にある共重合体を用いることができる。
(メタ)アクリル酸フッ素化アルキルエステルの単位(A)としては、(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル(3FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(4FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(5FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(6FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(8FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロブチル)エチル(9FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロヘキシル)エチル(13FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(16FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロオクチル)エチル(17FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,11H−(イコサフルオロウンデシル)(20FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロデシル)エチル(21FM)等の単位を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
一方、単位(A)の単量体と共重合可能な単量体の単位(B)として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、メタアクリル酸等の化合物の単位を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
これらの中から、クラッド材としての透明性や耐熱性を満足するように、1種類以上の化合物を適宜選択すればよい。中でも、(メタ)アクリル酸メチルは、(メタ)アクリル酸フッ素化アルキルエステルと共重合することによって、クラッド材の透明性や耐熱性、さらに機械的強度をバランス良く向上させることができる点から好ましい。また、メタアクリル酸の単位を、フッ素化メタクリレート系重合体中に0.5〜5質量%の範囲で含有させることによって、POFのコア材及びクラッド最外層の樹脂の両方に対する密着性を向上できる。
POFに低曲げ損失が要求される場合には、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロオクチル)エチル(17FM)の単位10〜40質量%と、(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル(3FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(4FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(5FM)のうち少なくとも1種類からなる単位40〜90質量%と、メタクリル酸メチルの単位0〜20質量%からなり、屈折率が1.39〜1.43の範囲にある共重合体が好ましい。
POFに高い伝送帯域が要求される場合には、(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル(3FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(4FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(5FM)のうち少なくとも1種類からなる単位15〜30質量%と、メタクリル酸メチルの単位70〜95質量%からなり、屈折率が1.45〜1.475の範囲にある共重合体が好ましい。
尚、前述のようにクラッド層は2層以上の複数層から形成されてもよいが、製造コストを低減する観点からは、最外層クラッドとコアの間に内層クラッドとして第1クラッドのみを備え、第1クラッド及びその外周に最外層クラッドとして第2クラッド層を備えた2層構造とすることが好ましい。
[保護被覆層]
次に本発明のPOFケーブルを構成する保護被覆層について説明する。
本発明のPOFケーブルの特徴の一つは、後述する光遮断被覆層を形成するナイロン系樹脂に含まれる原料由来のモノマー及び/又はオリゴマーがPOF素線に移行することを遮断するため、POF素線と光遮断被覆層の間に保護被覆層を設けたことにある。例えば、光遮断被覆層を形成する樹脂組成物中のナイロン系樹脂がナイロン12である場合、ナイロン12の原料であるラウリルラクタムがPOF素線へ移行する。POF素線と光遮断被覆層の間に保護被覆層を設けることにより、ラウリルラクタムのPOF素線への移行量を低減することができる。これにより、特に短波長側の伝送損失の悪化を防ぐことができる。
保護被覆層を形成する樹脂の、メルトフローインデックス(MI)(温度210℃、荷重5kgf(49N)の条件で直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間に吐出される重合体の量(g))は、特に制限されないが、5〜200の範囲にあることが好ましい。MIが小さすぎると被覆層形成時の成形安定性が低下したり、クロスヘッド内部でPOF素線にかかる樹脂圧力が高くなり、POFケーブルの光学特性が低下したりするおそれがある。逆にMIが大きすぎると、保護被覆層の機械的強度や厚みの均一性が低下する傾向がある。
保護被覆層を形成する樹脂は、(メタ)アクリル酸メチル系樹脂、スチレン系樹脂、フッ化ビニリデン単独重合体、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、及びエチレン単位とビニルアルコール単位を含む共重合体から選ばれる少なくとも一種の樹脂である。
(メタ)アクリル酸メチル系樹脂としては公知のものが使用でき、例えば、(メタ)アクリル酸メチルの単独重合体(PMMA)や、(メタ)アクリル酸メチルと他の単量体との共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸メチル系樹脂中の(メタ)アクリル酸メチル単位の含有量は、10質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸メチル単位の共重合成分としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、その他の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、さらには下記一般式(8):
(式中、Xは水素原子又はメチル基、Yは水素原子又はフッ素原子を示し、mは1又は2、nは1〜12の整数を示す。)
で表される、(メタ)アクリル酸フッ素化アルキルエステルが挙げられる。
なお、上記一般式(8)において、含フッ素アルキル基の構造が嵩高くなると共重合時の重合性、共重合体の耐熱性が低下することから、含フッ素アルキル基は炭素数が1〜12であることが好ましい。
上記一般式(8)で表される(メタ)アクリル酸フッ素化アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル(3FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(4FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(5FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(6FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(8FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロブチル)エチル(9FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロヘキシル)エチル(13FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(16FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロオクチル)エチル(17FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,11H−(イコサフルオロウンデシル)(20FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロデシル)エチル(21FM)等の、直鎖状フッ素化アルキル基を有する(メタ)アクリル酸フッ素化エステルが挙げられ、また、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロネオペンチルや(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロイソブチル等の、分岐状フッ素化アルキル基を有する(メタ)アクリル酸フッ素化エステル等を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸メチル系樹脂は、保護被覆層としての機械的強度と、上述のナイロン系樹脂に含まれるモノマー及びオリゴマーのPOF素線中への溶解・拡散を防止する点から、(メタ)アクリル酸メチル単位70〜95質量%と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位((メタ)アクリル酸n−ブチルや(メタ)アクリル酸エチル等)5〜30質量%とを含む共重合体が好ましい。
(メタ)アクリル酸メチル系樹脂が、上記の(メタ)アクリル酸フッ素化アルキルエステル単位を含む場合には、保護被覆層としての機械的強度と、上述のナイロン系樹脂に含まれるモノマー及びオリゴマーのPOF素線中への溶解・拡散を防止する点から、(メタ)アクリル酸メチル単位10〜95質量%と(メタ)アクリル酸フッ素化アルキルエステル単位5〜90質量%とを含む共重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸メチル単位50〜90質量%と(メタ)アクリル酸フッ素化アルキルエステル単位10〜50質量%であればより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル単位60〜90質量%と(メタ)アクリル酸フッ素化アルキルエステル単位10〜40質量%であればさらに好ましい。
上記以外の(メタ)アクリル酸メチル単位の共重合成分としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸(1−メチルトリシクロヘプチル)、(メタ)アクリル酸(1−メチルヘキサシクロドデシル)、メタクリル酸トリシクロ〔5.2.1.02,6〕−デカ−8−イル等のその他の脂環式基を有する(メタ)アクリル酸脂環式エステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸芳香族エステル;スチレンの他、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のα−置換スチレン、フルオロスチレン、メチルスチレン等の置換スチレン等の芳香族ビニル化合物等も挙げることができる。
また、保護被覆層を構成する(メタ)アクリル酸メチル系樹脂は、その示差走査型熱量分析計(DSC)で測定したガラス転移温度が70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が低すぎると、光遮断被覆層のナイロン系樹脂由来のモノマー及び/又はオリゴマーのPOF素線への移行を遮断する効果が不十分となり、POFケーブルの耐熱性の向上が困難になる。
スチレン系樹脂としては、スチレンの単独重合体や、スチレン単位を80質量%以上含有する共重合体等が挙げられる。スチレンの単独重合体としては、アタクチックポリスチレンが好ましい。アタクチックポリスチレンは、ガラス転移温度を100℃付近に有する非晶性高分子であり、明確な結晶融点を有さないために比較的低い温度(220℃以下)で、PMMAをコアとするPOF素線に直接被覆することが可能である。一方、アイソタクチックポリスチレンやシンジオタクチックポリスチレンは、結晶融点が240℃以上であり、POF素線の外周に保護被覆層を被覆する時に、高い被覆温度(260℃以上)が必要となる。被覆温度が低いほうが、POF素線への被覆時の影響を抑えることができるため好ましい。尚、スチレン単位の共重合成分としては、上述した(メタ)アクリル酸メチル単位の共重合成分として挙げられた各種単量体成分を用いることができる。
このようなスチレン系樹脂としては、例えば、PSジャパン社製のHF10、NF20、HT52、HF77、679(商品名)、日本ポリスチレン社製の日本ポリスチG120K、G440K、G430(商品名)等の中から選ぶことができる。
フッ化ビニリデン単独重合体(以下、PVDFと略す。)としては、特に制限されないが、アルケマ社製のKYNAR710、720(商品名)、アウジモント社製のHYLAR−MP10、MP20(商品名)、呉羽化学社製のKFポリマー(商品名)等が挙げられる。
なお、保護被覆層としてフッ化ビニリデン系樹脂を用いる場合は、PVDFでなければならない。市販されているフッ化ビニリデン系樹脂としては、VdF単位70〜90質量%とTFE単位又はHFP単位10〜30質量%の共重合体、VdF単位15〜50質量%とTFE単位30〜70質量%とHFP単位15〜25質量%の共重合体が知られているが、これらの材料を保護被覆層に用いても、POFケーブルの十分な耐熱性向上効果を得ることができない。
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下、PBT樹脂と略する)とは、1,4−ブタンジオール(テトラメチレングリコール)とテレフタル酸のエステル化反応、又は1,4−ブタンジオールとテレフタル酸ジメチルのエステル交換反応により得られたビスヒドロキシブチルテレフタレート(BHT)ないしはそのオリゴマーを重縮合して合成された、下記一般式(4):
で示されるオリゴポリ1,4−ブチレンテレフタレートの単位を主構成単位として含有する重合体のことである。
本発明に適しているPBT樹脂として、より具体的には、上記一般式(4)で示されるオリゴポリ1,4−ブチレンテレフタレートをハードセグメント単位(結晶相)として含有し、ソフトセグメント単位(非晶相)として、分子量が200〜5000の範囲にある脂肪族ポリエーテル(例えば、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)など)と、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジプロピル、テレフタル酸ジブチルのうち少なくとも1種類との重縮合で合成された下記一般式(5)で示されるブロック単位、又は下記一般式(6)で示されるポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)やポリブチレンアジペート(PBA)のような脂肪族ポリエステルのブロック単位を含有するエラストマー樹脂が好ましい。
(式中、pは4〜12の整数、qは2〜20の整数を示す。)
上記のPBT樹脂の中でも、特に、高温高湿下における、POFケーブルの光学性能や被覆層の引抜強度の耐久性を維持する点で、上記一般式(5)で示される脂肪族ポリエーテル単位を含むブロック単位をソフトセグメント単位として有するPBT樹脂が好適である。特に、オリゴポリ1,4−ブチレンテレフタレートからなるハードセグメント部分(A)(式(4)に示される構造)と、テレフタル酸あるいはテレフタレートと分子量が200〜600の範囲にあるポリテトラメチレングリコール(PTMG)との重縮合体からなるソフトセグメント部分(B)(式(5)においてp=4の場合の構造)とを含むブロック共重合体であるPBT樹脂が、高温高湿下における、POFケーブルの光学性能や被覆層の引抜強度の耐久性に優れていることから好ましい。
さらに、上記PBT樹脂においては、ハードセグメント部分(A)に含まれる1,4−ブチレンテレフタレート単位の総モル数(a)と、ソフトセグメント部分(B)に含まれる1,4−ブチレンテレフタレート単位の総モル数(b)の比(a/b)は、15/85〜30/70の範囲が好ましい。この比(a/b)が小さすぎると、ポリマー主鎖中のエーテル結合単位の数が増えるため、高温高湿下でPBT樹脂が加水分解による劣化を受けやすくなったり、ソフトセグメント含有量が増大するため、材料自体が柔軟で変形を受け易くなるために引抜強度が低下したり、光遮断被覆層を構成するナイロン系樹脂由来のモノマーやオリゴマーを遮断する効果が低下する。逆に、この比(a/b)が大きすぎると、ハードセグメントの含有量が増大するために、結晶融点が高くなり、保護被覆層の被覆安定性が低下したり、被覆工程におけるPOF素線と保護被覆層の間、及び/又は保護被覆層と光遮断被覆層の間の熱融着性が低下したりする傾向がある。この比(a/b)は18/82以上がより好ましく、22/78以上がさらに好ましい。一方、この比は27/73以下がより好ましく、25/75以下がさらに好ましい。
さらに、上記PBT樹脂の結晶融点は、155℃以上205℃以下の範囲にあることが好ましい。結晶融点が低すぎると、モノマーやオリゴマーのPOF素線への移行を遮断する機能が不十分となるおそれがある。一方、結晶融点が高すぎると、後述するような共押出被覆装置を用いて、POF素線の外周に保護被覆層を設ける際の成形安定性が低下するおそれがある。PBT樹脂の結晶融点は195℃以下がより好ましく、185℃以下がさらに好ましい。またPBT樹脂の結晶融点は165℃以上がより好ましく、175℃以上がさらに好ましい。
さらに、上記PBT樹脂は、JIS K7215規格に準じて測定したショアD硬度が38〜65の範囲にあることが好ましい。ショアD硬度が低すぎると、高温での流動性が高くなる傾向があるため、被覆安定性が低下したり、材料自体が柔軟で変形しやすくなったりする傾向があるため、POF素線と光遮断被覆層との間の引き抜き強度が低下する。ショアD硬度が高すぎると、被覆工程における、POF素線と保護被覆層の間、及び/又は保護被覆層と光遮断被覆層の間の熱融着性が低下するため、POF素線と光遮断被覆層との間の引き抜き強度が低下する。このショアD硬度は40以上がより好ましく、45以上がさらに好ましい。また、このショアD硬度は60以下がより好ましく、55以下がさらに好ましい。
このようなPBT樹脂の結晶融点やショアD硬度は、上記ハードセグメント単位と上記ソフトセグメント単位の構成比や各々の分子量、あるいは重合体全体の分子量を調整することによって調整できる。
このようなPBT樹脂としては、例えば、東レ・デュポン社製のハイトレル(Hytrel)2551、2474、4047、4057、4767(商品名)や、ポリプラスチック社製のDYURANEX 400LP(商品名)、帝人化成社製のヌーベラン4400シリーズ(商品名)、東洋紡社製のペルプレンSタイプ、Pタイプ(P150M)(商品名)、三菱化学社製のプリマロイBシリーズ(商品名)等の中から選ぶことができる。
上記のようなPBT樹脂を保護被覆層に用いることによって、POF素線と光遮断被覆層との間の引き抜き強度が高くなる傾向にあり(例えば30N以上にできる場合があり)、POFケーブルが高温環境下に置かれた時のピストニングの発生がより一層起きにくくなる傾向にある。また、POFケーブルの一端にプラグを固定し、プラグを介して他の機器等と接続した後に振動などの機械的作用を受けた際に、POF素線と光遮断被覆層との密着性が不十分な場合には、POF素線に過剰な力が作用してPOF素線が破断し易くなるが、このような破断も起きにくくなる傾向にある。
その他に、強密着効果を発現することが可能な保護被覆層を構成する樹脂としては、エチレン単位とビニルアルコール単位を含む共重合体(以下、EVAL共重合体と略する)がある。このEVAL共重合体は、エチレン単位とビニルアルコール単位の含有量比が、エチレン単位20〜70モル%、ビニルアルコール単位30〜80モル%の範囲にある共重合体が好ましい。特に、共重合体の結晶融点が195℃以下、より好ましくは180℃以下の範囲にあり、210℃、荷重5kgf(49N)で測定したメルトフローインデックスが25〜80g/10分の範囲にあるものが、上述のナイロン系樹脂に含まれるモノマー及びオリゴマーのPOF素線中への溶解および拡散を防止する効果に優れるとともに、POFケーブルの成形安定性に優れる点から好ましい。EVAL共重合体としては、例えば、クラレ社製のエバールE105、G156、F104、FP104、EP105、EU105(商品名)等が挙げられる。
保護被覆層は、光遮断被覆層を構成するナイロン系樹脂由来のモノマー及び/又はオリゴマーのPOF素線への移行を遮断する機能を有しているが、このような保護被覆層を有し、POF素線と光遮断被覆層との間の引き抜き強度が比較的低い(例えば30Nより低い)POFケーブルは、POFケーブルの末端部分から光遮断被覆層の一部を剥離して、その上にプラグを固定する用途に好適である。
一方で、自動車搭載用のPOFケーブルの中には、末端部分の光遮断被覆層を剥離させずに、接着剤やレーザー融着法を用いてプラグを直接POFケーブルの光遮断被覆層の外周に固定する用途があり、この場合、POF素線と光遮断被覆層の間には強い密着性(引き抜き強度)が要求される。このような強い密着性が要求される用途においては、保護被覆層の材料としては、PBT系樹脂が特に好ましい。
保護被覆層には、POF素線への外光の入射を防止するために、光遮断被覆層と同様に、カーボンブラック等の遮光剤を含有させてもよく、十分な光遮断効果を得るために、保護被覆層の本来目的とする効果を損なわない範囲で、例えば0.1質量%以上含有させてもよい。
[光遮断被覆層]
次に本発明のPOFケーブルを構成する光遮断被覆層について説明する。
本発明のPOFケーブルには、上述したコア−クラッド構造からなるPOF素線の外周に、外光の入射を防止するためカーボンブラック等の遮光剤を含有させたナイロン系樹脂(ポリアミド系樹脂)からなる光遮断被覆層が設けられる。
POFケーブルが、自動車内LAN通信用配線として、自動車のエンジンルーム近傍等のような高温環境下に敷設される場合には、オイルや電解液、ガソリン等の引火性物質が存在するため、耐熱性と同時に耐薬品性に優れることも要求される。そのため、POFケーブルの被覆材としてのナイロン系樹脂としては、耐熱性、耐屈曲性、耐薬品性等に優れたナイロン11(単独重合体)又はナイロン12(単独重合体)が適している。ナイロン11、ナイロン12は、被覆工程における成形性が良好で、かつ適度な融点を有しているため、PMMA系樹脂をコア材とするPOFケーブルの伝送性能を低下させることなく容易にPOF素線を被覆することができる。
光遮断被覆層は、ナイロン11及びナイロン12の一方のナイロン系樹脂から形成してもよいし、両方を混合して使用してもよい。また、必要に応じて、その他の重合体や化合物を添加して使用することもできる。このように他の重合体や化合物などの他成分を配合する場合には、50質量%以下の範囲内で他成分を添加することが好ましい。他成分が50質量%より多い場合には、ナイロン11、ナイロン12による特性が不十分になるため、バッテリー液耐性が低下したり、POFケーブルの熱寸法安定性が低下する傾向ある。本発明における光遮断被覆層を構成する材料は、ナイロン系樹脂を主成分とし、ナイロン系樹脂成分の含有量(ナイロン11とナイロン12の両方を含有するときは合計含有量)は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。遮光剤の含有量は、光遮断被覆層の所望の効果が得られる範囲に適宜設定でき、例えば0.1〜10質量%の範囲に設定できる。
一般的に、ナイロン12等のナイロン系樹脂は、工業的にはアミンとカルボン酸の重縮合反応により得られる。しかし、ナイロン系樹脂の重合は化学平衡反応であるため、生成ポリマー中にナイロン系樹脂の原料に由来するモノマー、オリゴマーが残存することは避けられない。
本発明者らの検討によれば、POF素線に接するように、ナイロン11又はナイロン12からなる一次被覆層を設けたPOFケーブルは、105℃の高温環境下に長期間放置された場合、POFの伝送損失が著しく増大する現象が見られた。
本発明者らは、この原因についての詳細な解析を行い、その結果、上記の伝送損失が増大する原因は、これら原料由来の残存モノマーやオリゴマーが、一次被覆層や二次被覆層からPOF素線の内部に溶解・拡散して、POFの伝送損失の増大を引き起こしていることをつき止めた。
さらに、この現象は、クラッド最外層が、テトラフルオロエチレン(TFE)単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂であって、その結晶融解熱がある一定以上の値であるものからなる場合に、この伝送損失の増大が著しいことを見出した。
上記のナイロン系樹脂原料に由来するモノマーとしては、ナイロン系樹脂を構成する脂肪族ジアミノ酸化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物、アミノ脂肪族カルボン酸化合物等があり、具体的には、ナイロン11では11−アミノウンデカン酸、ナイロン12では12−アミノドデカン酸が挙げられる。さらに、アミノカルボン酸化合物の分子鎖末端が分子内でエステル環化結合して、環内にアミド結合(−CONH−)を有する環状ラクタム化合物等の副生成物も挙げられ、具体的には、ナイロン12ではラウリルラクタム(ラウロラクタム)が挙げられる。ここで、原料に由来するモノマーには、原料合成時に副生成物として生成した低分子化合物も含まれる。
一方、上記のナイロン系樹脂原料に由来するオリゴマーとしては、ナイロン系樹脂製造時の縮重合反応の過程で、前述した原料モノマー(前述の脂肪族ジアミノ酸化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物、アミノ脂肪族カルボン酸化合物等)の2分子以上の分子鎖末端同士が分子間でエステル結合し、分子鎖末端にアミノ基(−NH2)とカルボキシル基(−COOH)の両方、又はどちらか一方の官能基を有する化合物、あるいは、その化合物の分子鎖末端がさらに分子内でエステル環化結合して環内にアミド結合(−CONH−)を有する環状ラクタム化合物、さらに上記の化合物の分子間エステル結合した化合物、さらに分子内/分子間で副反応(脱アミノ化反応あるいは脱カルボキシル化反応)を起こし生成した化合物等が挙げられる。
前記モノマーやオリゴマーが直鎖状である場合は、その末端アミノ基が含フッ素オレフィン系重合体と高い親和性を有し、含フッ素オレフィン系重合体からなるクラッド層の内部に留まりやすい。そのため、クラッド材の透明性が低下し、POFケーブルの伝送特性が著しく低下する傾向がある。一方、前記モノマーやオリゴマーが環状ラクタム化合物である場合は、クラッド層の内層側(コア又は第1クラッド層)の界面付近にまで移行して粒子状構造体を形成しやすい。そのため、POFのコア−クラッド界面、又はクラッドが多層である場合は、クラッド−クラッド界面における構造不整が増大し、POFケーブルの伝送特性が著しく低下する傾向がある。
上記オリゴマーは、低分子量である程、POF素線中への溶解・拡散が起こりやすくなる傾向があり、分子量2000以下ではその影響が特に顕著に現れる。
前述の通りPOFケーブルには耐熱性に優れていることが求められており、特に自動車内でPOFケーブルが使用される場合には、105℃環境下において5000時間を超える長期間にわたり伝送損失の増加量が小さいことが要求されている。
本発明のPOFケーブルでは、POFケーブルの長期耐熱性をより高いものとするために、光遮断被覆層が、ナイロン11及びナイロン12の少なくとも一方のナイロン系樹脂を主成分とする樹脂材料であって、かつこの材料中に含まれるナイロン系樹脂由来のモノマー及びオリゴマーの合計含有量(モノマー及びオリゴマーの一方のみを含む場合はその含有量)が1.5質量%以下の範囲にある樹脂材料で形成されている必要がある。このモノマー及びオリゴマーの合計含有量は1.3質量%以下の範囲にあることが好ましく、1.0質量%以下の範囲にあることがより好ましく、0.8質量%以下の範囲であれば特に好ましい。光遮断被覆層中のモノマー及びオリゴマーの含有量が多すぎると、特に1.5質量%より多ければ、光遮断被覆層中のモノマー及びオリゴマーのPOF素線へ移行する量が大きくなり、伝送損失の増大が著しくなる。このように光遮断被覆層中のモノマー及びオリゴマーの合計含有量が上記の範囲内であれば、光遮断被覆層中のモノマー及びオリゴマーのPOF素線への移行が抑制される。
上記のオリゴマーは、低分子量である程、POF素線中への溶解・拡散が起こりやすくなる傾向があり、分子量2000以下ではその影響が特に顕著に表れるため、分子量2000以下のオリゴマー及びモノマーの合計含有量が1.5質量%以下であることが好ましく、1.3質量%以下の範囲にあることがより好ましく、1.0質量%以下の範囲にあることがさらに好ましく、0.8質量%以下の範囲であれば特に好ましい。
ナイロン系樹脂中のモノマー及びオリゴマーを低減する方法としては、ナイロン系樹脂の重縮合反応時の温度、水分率、反応系内の原料/生成物濃度を制御する方法や、重合後のナイロン系樹脂を熱水抽出塔に供給して熱水で向流抽出する方法や、溶融したナイロン系樹脂を高温・高真空下で脱モノマー処理する方法など、公知の技術を用いることができる。
上記のようなモノマー及びオリゴマーの合計含有量が1.3質量%以下のナイロン系樹脂としては、例えば、ナイロン12ではダイセル・エボニック社製のDaiamide−L1600、L1640(商品名)、ナイロン11ではアルケマ社のRilsan BMF−0(商品名)等が挙げられる。
[機能被覆層(C又はD)を形成する樹脂組成物(I)]
本発明のプラスチック光ファイバケーブルは、光遮断被覆層の外側に、機能被覆層(C)及び機能被覆層(D)を有する。機能被覆層(C)及び機能被覆層(D)は、後述する樹脂組成物(I)又は樹脂組成物(II)から形成され、機能被覆層(C)が樹脂組成物(I)から形成される場合は、機能被覆層(D)は樹脂組成物(II)から形成され、機能被覆層(C)が樹脂組成物(II)から形成される場合は、機能被覆層(D)は樹脂組成物(I)から形成される。
樹脂組成物(I)は、POFケーブルの柔軟性を確保するための機能を有し、樹脂組成物(II)は、優れた耐熱特性及び光学特性を確保するための機能を有するものである。機能被覆層として、樹脂組成物(I)と樹脂組成物(II)とを組み合わせて積層することにより、柔軟性を保持したまま、優れた耐熱特性及び光学特性を得ることが可能となり、敷設・加工時の取り扱いを容易にすることが可能となる。さらに、機能被覆層に難燃剤を含有させると、高い難燃特性を得ることが可能となる。また、機能被覆層には無機系の着色剤を含有させることができる。
樹脂組成物(I)は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を主成分とする樹脂組成物又はエチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とする樹脂組成物である。
樹脂組成物(I)で用いるポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、前述した保護被覆層を形成する樹脂に用いることができるPBT樹脂を用いることができる。
ただし、機能被覆層としてPBT樹脂を用いる場合には、PBT樹脂の融点は、155℃以上230℃以下の範囲にあることが好ましい。融点が低すぎると、後述する樹脂組成物(II)との結晶融解温度の差が大きくなりすぎて、機能被覆層を設ける際の成形安定性が低下する虞がある。一方、融点が高すぎると、後述するような共押出被覆装置を用いて、POF素線の外周に機能被覆層を設ける際の熱履歴の影響によりPOFの光学特性が低下する虞がある。PBT樹脂の融点は220℃以下がより好ましく、210℃以下がさらに好ましい。またPBT樹脂の融点は165℃以上がより好ましく、175℃以上がさらに好ましい。
さらに、機能被覆層としてPBT樹脂を用いる場合には、PBT樹脂は、JIS K7215規格に準じて測定したショアD硬度が38〜85の範囲にあることが好ましい。ショアD硬度が低すぎると、高温での流動性が高くなる傾向があるため、被覆安定性が低下する虞がある。ショアD硬度が高すぎると、被覆工程における、光遮断被覆層と機能被覆層(C)との間、又は機能被覆層(C)と機能被覆層(D)との間の熱融着性が低下するため、光遮断被覆層と機能被覆層(C)との間、又は機能被覆層(C)と機能被覆層(D)との間の引き抜き強度が低下する虞があったり、適度な柔軟性を発現させることが難しくなる。このショアD硬度は40以上がより好ましく、45以上がさらに好ましい。また、このショアD硬度は80以下がより好ましく、75以下がさらに好ましい。
PBT樹脂の融点やショアD硬度は、前述のハードセグメント単位と前述のソフトセグメント単位の構成比や各々の分子量、あるいは重合体全体の分子量を調整することによって調整できる。
機能被覆層として用いるPBT樹脂としては、例えば、東レ・デュポン社製のハイトレル(Hytrel)2551、2474、4047、4057、4767、7237F(商品名)や、ポリプラスチック社製のDYURANEX 400LP(商品名)、帝人化成社製のヌーベラン4400シリーズ(商品名)、東洋紡社製のペルプレンSタイプ、Pタイプ(P150M)(商品名)、三菱化学社製のプリマロイBシリーズ(商品名)等の中から選ぶことができる。中でも、難燃性に優れている点から、東レ・デュポン社製のハイトレル(Hytrel)7237F(商品名)を用いることがより好ましい。
樹脂組成物(I)で用いるエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVAL共重合体と略す。)としては、特に制限されないが、エチレン単位とビニルアルコール単位の含有量比が、エチレン単位20〜70モル%、ビニルアルコール単位30〜80モル%の範囲にある共重合体が好ましい。特に、共重合体の結晶融点が195℃以下、より好ましくは180℃以下の範囲にあり、210℃、荷重5kgf(49N)で測定したメルトフローインデックスが25〜80g/10分の範囲にあるものが、POFケーブルの成形安定性に優れる点から好ましい。共重合体の結晶融点は、155℃以上が好ましく、165℃以上がより好ましい。結晶融点が低すぎると、後述する樹脂組成物(II)との結晶融解温度の差が大きくなりすぎて、機能被覆層を設ける際の成形安定性が低下する虞がある。
また、EVAL共重合体は酸素遮断性が高いことから、高温環境下におけるPOF素線の酸化劣化による伝送損失の増大も抑制できる。
EVAL共重合体としては、例えば、クラレ社製のエバールE105、G156、F104、FP104、EP105、EU105(商品名)等が挙げられる。
樹脂組成物(I)中の、ポリブチレンテレフタレート系樹脂又はエチレン−ビニルアルコール共重合体の含有量は、所望の特性が得られるように、例えば50質量%以上の範囲で適宜設定でき、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
樹脂組成物(I)には、無機系の着色剤を含有させることができ、後述の樹脂組成物(II)と同様な種類の着色剤を同様な添加量の範囲で含有させることができる。
[機能被覆層(C又はD)を形成する樹脂組成物(II)]
本発明のPOFケーブルにおける特徴の一つは、光遮断被覆層の外側に、特定の範囲にある酸素透過率を持つナイロン系樹脂組成物である樹脂組成物(II)からなる機能被覆層を設けて、POFケーブルが高温環境下で使用される場合の電子遷移吸収の増大を抑制することにある。この機能被覆層を設けることによりPOFケーブルに、耐熱性を損なわずに識別性を付与することができるばかりでなく、場合によっては耐熱性をさらに向上させることが可能なる。
POF素線の外側に、保護被覆層および光遮断被覆層を形成したPOFケーブル(一次被覆ケーブル)は、波長650nm付近における伝送損失だけを見れば、105℃環境下においても長期間にわたり安定である。しかし、波長が600nmより短い波長領域においてはPOFの伝送損失の増大が大きく、500〜600nmの波長領域での信号伝送に用いることは困難であった。
一方、自動車内LAN等で用いられるPOFケーブルでは、識別性、難燃性を高めるために、一次被覆ケーブルの光遮断被覆層の外側に、着色されたナイロン系樹脂組成物からなる機能被覆層を形成することが要求されている。
一般にナイロン系樹脂の重合は化学平衡反応であるため、ポリマー中にナイロン系樹脂原料に由来するモノマーやオリゴマーが残存することは避けられない。さらに、本発明者らの検討結果によれば、105℃の高温環境下での耐久性が優れている一次被覆ケーブルの外側に、ある種のナイロン系樹脂を機能被覆層として設けたPOFケーブルは、105℃の高温環境下に長期間放置された場合、POFケーブルが置いてある環境中の酸素や、機能被覆層中の残存モノマーやオリゴマーが、光遮断被覆層および保護被覆層を通過してPOF素線の内部に溶解・拡散して、電子遷移吸収やレイリー散乱等の増大を引き起こし、その結果、POFの伝送損失が増大することが解った。
そこで、本発明者らは、機能被覆層に使用してもPOFケーブル(一次被覆ケーブル)の耐熱性を損なわないナイロン系樹脂組成物に関して鋭意検討を行った結果、結晶融点および酸素透過性が特定の範囲にあるナイロン系樹脂組成物を用いることにより、105℃の高温環境下において、波長650nmの伝送特性を損なわずに、波長600nm以下の伝送損失の増大を著しく抑制できることを見出した。
樹脂組成物(II)は、示差走査熱量測定(DSC)による結晶融点が240℃以上280℃以下であり、且つISO14663−2:1999(Annex C)に定められた方法で測定した温度T(K)における酸素透過率P(cm3・cm/(cm2・sec・Pa))が、下記一般式(1):
P<8×10-2×exp(−5600/T) (1)
を満たすナイロン系樹脂組成物である。
なお、ここで一般式(1)が成立する温度T(K)の範囲は、283K(10℃)以上、333K(60℃)以下の範囲にあることが望ましい。高分子材料の酸素透過率は、温度に対してアレニウス依存性を有することが良く知られており、さらにガラス転移温度の前後において、アレニウス依存性が変化する。ナイロン系樹脂組成物は、ガラス転移温度が55〜65℃の範囲にあるものを用いることができる。従って、温度T(K)の上限は333K(60℃)以下であることが好ましい。一方、温度T(K)の下限については、酸素透過率の測定精度の点から283K(10℃)以上であることが好ましい。
このようなナイロン系樹脂組成物としては、より高い耐熱性向上効果を得る点から、ナイロン66を主成分とするナイロン系樹脂組成物が好ましく、特に、その酸素透過率(P)が、T=296K(23℃)を一般式(1)、及び後述の一般式(9)〜(11)に代入して得られるいずれかの条件を満たすものが好ましい。
ナイロン系樹脂組成物中のナイロン系樹脂の含有量は、所望の特性が得られるように、例えば40質量%以上の範囲で適宜設定することができる。
上記のナイロン系樹脂組成物(機能被覆層を構成する樹脂組成物(II))について、まず、その結晶融点が240℃以上280℃以下である必要性について説明する。
ナイロン系樹脂においては、Brill転移温度と呼ばれる温度が存在することが知られている。このBrill転移温度においては、Brill転移と呼ばれる現象、すなわちポリマー主鎖のメチレンーアミド基間のねじれ運動が活発となり、アミド基の水素結合は保持されつつも、メチレン鎖のコンフォメーションの揺らぎや規則性の乱れを伴った大きな運動が起こり始める現象が生じる(Polymer,44(2003)、p6407−6417)。
Brill転移現象は、約40℃の温度範囲にわたって発現する現象であり、そのピーク最大値の温度をBrill転移温度と呼ばれている。ナイロン12(融点約180℃)のBrill転移温度は約140〜150℃付近、ナイロン6−12(融点約155〜160℃)のBrill転移温度は約120〜130℃付近に存在することが知られている。本発明者らの検討によれば、機能被覆層の材料として、ナイロン12やナイロン6−12を含有するナイロン系樹脂組成物を用いた場合、POFケーブルが100℃の環境下に長期間放置された場合、ナイロン12やナイロン6−12中に含まれるナイロン樹脂由来の残存モノマーや残存オリゴマーがPOF素線中に移行して、光伝送性能が著しく低下することが判明した。そこで、本発明者らは、このナイロン12やナイロン6−12では、Brill転移温度は約120〜145℃付近に存在することから、残存モノマーや残存オリゴマーのブリーディングが起こりやすいと考え、より高いBrill転移温度を有するナイロン系樹脂組成物を機能性被覆層の材料として用いれば、この問題は改善できると考えた。
しかし、Brill転移温度は測定に特別な装置を使用するため、容易に測定できる指標値ではない。そこで本発明者らは、比較的容易に測定可能な指標値として、示差操作型熱量分析計(DSC)により測定する結晶融解温度(結晶融点)を用いることを検討した。その結果、機能性被覆層に用いるナイロン系樹脂組成物の結晶融点をある温度範囲に設定することにより、POFケーブルの耐久性能を十分なものにできることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち、機能被覆層を構成するナイロン系樹脂組成物の結晶融点が240℃より低ければ、POFケーブルが105℃の環境下に長期間おかれた場合、機能被覆層を構成するナイロン系樹脂の原料に由来する残存モノマーやオリゴマーが、機能被覆層からブリードアウトしてPOF素線に移行する現象を、抑制できないおそれがある。一方、結晶融点が280℃より高ければ、機能被覆層を被覆形成する温度を高く設定しなければならないため、特に300℃以上に設定すると、PMMAやMMAを主成分とする共重合体からなるコアを有するPOF素線や、ナイロン11やナイロン12等の比較的融点の低いナイロン系樹脂からなる光遮断被覆層が熱変形しやすくなり、POFケーブルの光学特性や熱収縮特性が損なわれる可能性がある。機能被覆層を構成するナイロン系樹脂組成物の結晶融点は240℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、260℃以上がさらに好ましい。また、この結晶融点は、280℃以下が好ましく、275℃以下がより好ましく、270℃以下がさらに好ましい。
結晶融点が240℃以上280℃以下であるナイロン系樹脂組成物に含有されるナイロン系樹脂としては、具体的には、ナイロン66の単独重合体、又は後述するようなナイロン66を主成分とするナイロン系樹脂組成物を挙げることができる。ここで、主成分とするとは、ナイロン系樹脂組成物の全体量を100質量%とした時、ナイロン66を50質量%以上含有することを意味し、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
ナイロン66(Bril温度の最大値は約150〜160℃、Polymer,42(2001)、p10119−10132)は、融点が265℃であり、温度23℃における酸素透過率Pは約3×10-10〜4×10-10cm3・cm/(cm2・sec・Pa)、温度105℃における酸素透過率Pは約1×10-8〜2×10-8cm3・cm/(cm2・sec・Pa)である。
樹脂組成物(II)に含まれるナイロン系樹脂由来のモノマー及びオリゴマーの合計含有量(モノマー及びオリゴマーの一方のみを含む場合はその含有量)については、一般的に工業化されているナイロン系樹脂の含有レベルにあれば、本発明によるPOFケーブルは十分な耐熱性を得ることができる。樹脂組成物(II)中のモノマー及びオリゴマーの合計含有量は15質量%以下の範囲にあることが好ましく、10質量%以下の範囲にあることがより好ましく、5.0質量%以下の範囲であれば特に好ましい。これらの化合物の合計含有量の下限については特に制限はない。樹脂組成物(II)中のモノマー及びオリゴマーの合計含有量が上記の範囲内であれば、より十分な耐熱性を有するPOFケーブルが得られる。例えば、ナイロン系樹脂由来のモノマー及びオリゴマーの合計含有量が、0.1質量%以上、さらには0.5質量%以上であっても、機能被覆層として用いる場合には、十分な耐熱性を有するPOFケーブルを得ることができる。
なお、ナイロン系樹脂由来のモノマー及びオリゴマーとは、具体的には、ナイロン66の場合、モノマーとはヘキサメチレンジアミンとアジピン酸、オリゴマーとはヘキサメチレンジアミンとアジピン酸からなる縮合化合物の4量体以下の環状オリゴマー及び鎖状オリゴマーを意味する。ナイロン612の場合、モノマーとはヘキサメチレンジアミンとデカンジカルボキシル酸、オリゴマーとはヘキサメチレンジアミンとデカンジカルボキシル酸からなる縮合化合物の4量体以下の環状オリゴマー及び鎖状オリゴマーを意味する。
ナイロン66としては、宇部興産社製のUBEナイロン2015B、2020B、2026B(商品名);東レ社製のアミランCM3007、CM3001−N、CM3006、CM3301、CM3304、CM3004(商品名);旭化成ケミカルズ社製のレオナ1200S、1300S、1500、1700(商品名);BASF社製のUltramid 1000、1003、A3、N322、A3X2G5(商品名);EMS・CHEMIE AG社製のGRILON ASシリーズ、AZシリーズ、AR、ATシリーズ(商品名);DuPont社製のZytel 101、103、42A、408(商品名)を挙げることができる。
上述したPOFケーブルの伝送損失値は、波長650nmのみならず、500以上600nm以下の短波長領域においても、105℃の高温環境下でも、長期間にわたり安定である。
次に、ナイロン系樹脂組成物(機能被覆層を構成する樹脂組成物(II))の酸素透過率(P)についてさらに説明する。
ナイロン系樹脂組成物の酸素透過率(P)が、上記式(1)の右辺の値より高くなると、POFケーブルが105℃の高温環境下に長期間置かれた場合、POFが置いてある環境中の酸素が、光遮断被覆層および保護被覆層を透過して、POF素線の内部に溶解・拡散して、POF素線が酸化劣化を受ける傾向が大きくなる。その結果、POF素線のコア部やクラッド部における電子遷移吸収が増大して、伝送損失が増大する。酸素透過率(P)が、上記式(1)を満たせば、伝送損失の増大を大きく抑えることができる。
ナイロン系樹脂組成物の酸素透過率(P)は、さらに下記一般式(9):
P<8×10-2×exp(−5800/T) (9)
を満たすことが好ましく、下記一般式(10):
P<8×10-2×exp(−6000/T) (10)
を満たすことがより好ましく、下記一般式(11):
P<8×10-2×exp(−6300/T) (11)
を満たすことが特に好ましい。
ナイロン系樹脂組成物の酸素透過率を低くするための方法としては、結晶化度を特定の範囲に制御する方法や、球晶サイズを特定の範囲に制御する方法を用いることが好ましい。
機能被覆層としてのナイロン系樹脂組成物の結晶化度は30%以上55%以下の範囲にあることが好ましい。結晶化度をこのような範囲に制御することにより、所望の酸素透過率を有するナイロン系樹脂組成物を得やすくなる。結晶化度が小さすぎると、POFケーブルが高温下で処理された際に後結晶化が発生するため、POFケーブルの寸法変化が生じたり、所望の酸素透過率が得られないため、105℃の環境下に長期間置かれた場合に、伝送損失の増加を抑制することが困難になったりする。結晶化度が大きすぎると、POFケーブルの曲げ弾性率が高くなるため、POFケーブルが取り扱い難くなったり、POFケーブルをボビンに巻き取って長期間保管しておくと巻き癖が付き易くなったりする等の問題が生じる。ナイロン系樹脂組成物の結晶化度の好ましい範囲の下限側は35%以上がより好ましく、上限側は50%以下がより好ましく、45%以下がさらに好ましい。
なお、結晶化度(X)とは、密度から下記一般式:
結晶化度(X)=(ds−da)/(dc−da)
(da:非晶質の密度、dc:結晶質の密度、ds:試料の密度)
に従って算出するものとする。
本発明において、機能被覆層を形成するナイロン系樹脂組成物は、顕微鏡観察による球晶サイズの平均直径が0.01μm以上40μm以下の範囲にあることが好ましい。
ここで、球晶サイズは、POFケーブルの機能被覆層から超薄切片を作製し、その切片を顕微鏡で観察し、球晶の写真を撮影した後、画像解析装置で球晶の直径の数平均を算出して得られる値である。
球晶サイズが小さすぎると、POFケーブルの機械的強度(特に、引っ張り強度)が低下する傾向がある。また、球晶サイズが大きすぎると、所望の酸素透過率が得られないため、POFケーブルが105℃の環境下に長期間置かれた場合に伝送損失が増加したり、POFケーブルの耐熱寸法安定性が損なわれたりする傾向がある。この球晶サイズ(平均直径)の好ましい範囲の下限側は1.0μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましく、上限側は30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。
ナイロン66の結晶化度や球晶サイズを特定の範囲に制御する方法としては、製造時の成形温度や冷却速度等を適当な範囲に制御する等の方法を挙げることができる。しかし、POFケーブルの性能を損なわずに製造することが可能な条件範囲では、所望する結晶化度や球晶サイズに制御することが困難である。そこで、本発明のPOFケーブルでは、樹脂組成物(II)としてのナイロン系樹脂組成物に結晶化促進剤(造核剤)や、後述する特定の難燃剤を含有させることが好ましく、これにより、球晶サイズを小さくしたり、結晶化度を上げたりすることができる。
結晶化促進剤としては、POF素線中に移行して、POFケーブルの光学性能に影響を与えない化合物が好ましい。このような結晶化促進剤としては、酸化マグネシウムや酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化鉄等の金属酸化物や、タルク、シリカ、グラファイト、炭化珪素等の無機微粒子、ナイロン6T、ナイロン66/6Tなどの高融点ポリアミドを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
樹脂組成物(II)としてのナイロン系樹脂組成物中の結晶化促進剤の含有量は、POFケーブルの105℃での耐熱性を損なわない範囲で適宜設定することができるが、ナイロン系樹脂組成物100質量%に対し、0.01〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.05〜5質量%の範囲がより好ましく、0.3〜3質量%の範囲がさらに好ましい。
[樹脂組成物(II)における難燃剤]
POFケーブルに難燃性が要求される場合には、機能被覆層に難燃剤を含有させることができる。
本発明において、樹脂組成物(II)としてのナイロン系樹脂組成物に後述の特定の難燃剤を含有させることにより、機能被覆層の材料の結晶化度や球晶サイズを調整して、機能被覆層の酸素透過性を制御することができる。
特に、自動車内通信用途で用いられるPOFケーブルには高い難燃性が要求されるため、機能被覆層に難燃剤を含有させることが好ましい。
機能被覆層に難燃剤を含有させる場合、本発明のPOFケーブルでは、PMMA系樹脂からなるPOF素線、保護被覆層、光遮断被覆層には難燃剤を含ませないことが好ましく、また各々の被覆層の材料は自己消火性を有さない点から、機能被覆層に難燃機能を担わせることが好ましい。
一般的にナイロン系樹脂に用いられる難燃剤としては、リン系化合物、臭素系化合物、塩素系化合物、トリアジン系化合物、水和金属系化合物が良く知られており、様々な用途で利用されている。
しかし、本発明者らの検討によれば、ある種の難燃剤は、POFケーブルが105℃の高温環境下に長期間置かれた場合に、光遮断被覆層と保護被覆層を通過してPOF素線に移行して、伝送損失の著しい増大を引き起こしたり、被覆材自体の劣化を引き起こしたり、あるいは十分な難燃性を達成するにはかなりの高配合量が必要となることから被覆層の機械的強度が著しく低下することが判明した。
本発明者らは、このような問題を解決できる難燃剤の探索・検討を行った結果、高分子量タイプの臭素系難燃剤を単独、又は高分子量タイプの臭素系難燃剤と酸化アンチモンを併用して、ナイロン系樹脂に対して特定の範囲内の量を添加して用いることが、本発明のPOFケーブルに最適であることを見出した。
すなわち、樹脂組成物(II)としてのナイロン系樹脂組成物の全体を100質量%とした場合に、臭素系難燃剤を樹脂組成物中の臭素原子含有量が1.5〜30質量%の範囲となる量で含有させることが好ましい。また、酸化アンチモンについては、ナイロン系樹脂組成物の全体を100質量%とした場合に、0.1〜20質量%の範囲の量で含有させることが好ましい。臭素原子の含有量が、1.5質量%より小さい場合にはPOFケーブルに十分な難燃性を付与することが困難となる傾向にあり、30質量%より大きい場合にはPOFケーブルの耐摩耗性や機械的強度が低下したり、POFケーブルの曲げ弾性率が高くなりすぎて取り扱い性が低下したりする虞がある。臭素原子の含有量は5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましい。また、臭素原子の含有量は25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が特に好ましい。
このような臭素系難燃剤の中でも、臭素置換ポリスチレン及びポリ(臭素化ベンジルアクリレート)から選ばれる少なくとも一種が好ましく、臭素化ポリスチレン、ポリジブロモスチレン及びポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)から選ばれる少なくとも一種が特に好ましい。これらの臭素系難燃剤の数平均分子量は900以上60,000以下の範囲にあることが好ましい。ここで数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算分子量を意味する。
上記臭素系難燃剤の分子量が900より小さい場合には、POFケーブルが105℃の高温環境下の長期間置かれた場合に臭素系難燃剤が機能被覆層からブリードアウトする傾向にあり、光遮断被覆層と保護被覆層を通過してPOF素線に移行して伝送損失の著しい増大を引き起こしたり、あるいはPOFケーブルの表面に臭素系難燃剤がブリードアウトしてPOFケーブルの難燃性が低下したりするおそれがある。
上記臭素系難燃剤の分子量が60,000より大きい場合には、臭素系難燃剤の流動性や、ナイロン系樹脂組成物中への溶解性・分散性が低下することにより、POFケーブルの難燃性や機械的強度が低下したり、ケーブルの外観が損なわれたりする傾向がある。
臭素化ポリスチレン(BrPS)又はポリジブロモスチレン(PDBS)としては、下記一般式(12)で示される数平均分子量900〜60,000の化合物を挙げることができる。
(ポリジブロモスチレンの場合はm=2、臭素化ポリスチレンの場合はm=2〜5、nは自然数を示す。)
例えば、ブロモケム社製のFR−803P(商品名);アルベマール社製のSAYTEX−HP−7010、HP−3010、PYROCHEK−68PB(商品名);GLC社製のPB−411、PBDS−80、PBS−64HW、CP−411(商品名);マナック社製のプラセフテイ−1200(商品名)が挙げられる。
臭素系難燃剤は単独で使用しても難燃性の向上効果が得られるが、酸化アンチモンと併用することにより、さらに難燃性を高めることができる。酸化アンチモンは、POFケーブルが高温環境下に長期間置かれた場合でもPOF素線へ移行することがないため、本発明のPOFケーブルに適している。このような酸化アンチモンとしては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンを挙げることができるが、低価格という点から五酸化アンチモンが好ましい。酸化アンチモンの含有量は、樹脂組成物(II)としてのナイロン系樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、臭素原子含有量が1.5〜30質量%の範囲となる量の臭素系難燃剤に対して、酸化アンチモンを0.1〜20質量%の範囲で添加することが好ましい。
酸化アンチモンの含有量が20質量%を超える場合には、POFケーブルの耐摩耗性や機械的強度が低下したり、あるいはPOFケーブルの曲げ弾性率が高くなりすぎて取り扱い性が低下したりするなどの虞がある。酸化アンチモンの含有量は15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。また臭素系難燃剤と酸化アンチモンを併用する場合には、臭素系難燃剤と酸化アンチモンの質量比(臭素系難燃剤/酸化アンチモン)を1/1以上4/1以下の範囲となるように設定することが好ましい。この質量比が高すぎると、酸化アンチモンを添加したことによる難燃化の相乗効果は不十分であり、この質量比が低すぎると、酸化アンチモンを過剰に添加していることになり、難燃性の著しい向上は見られない一方で、POFケーブルの耐摩耗性や機械的強度が低下したり、あるいはPOFケーブルの曲げ弾性率が高くなったりするおそれがある。臭素系難燃剤と酸化アンチモンの質量比は1.5/1以上がより好ましく、2/1以上がさらに好ましい。また、この質量比は3/1以下がより好ましく、2.5/1以下がさらに好ましい。
三酸化アンチモンは、日本精鉱社製のPATOXシリーズ(CZ等)、STOXシリーズ(商品名)、鈴裕化学社製のFCP AT−3、AT−3CN(商品名)等を挙げることができ、五酸化アンチモンは、日産化学社製のサンエポック(商品名)を挙げることができる。
[樹脂組成物(II)における着色剤]
本発明のPOFケーブルでは、樹脂組成物(II)としてのナイロン系樹脂組成物に、特定の着色剤を添加したり、上述した難燃剤と特定の着色剤を組み合わせて添加することができる。これにより、機能被覆層の材料の結晶化度を高めたり、球晶サイズを小さくしたりして、酸素透過性を制御することができる。これにより、POFケーブルが高温環境下で使用される場合の伝送特性を安定に維持できる。
一般的な熱可塑性樹脂の着色剤としては、有機系色素と無機顔料が広く用いられているが、本発明であるPOFケーブルを識別するための着色剤としては、有彩色の無機系顔料を用いる。
本発明者らの検討によれば、機能被覆層に有機系色素を含有させたPOFケーブルが105℃の高温環境下に長期間置かれた場合、これらの有機色素が、光遮断被覆層と保護被覆層を通過してPOF素線中に移行し、伝送損失の著しい増大を引き起こすことが判明した。一方で、無機顔料を用いた場合には、このような移行現象は見られず、POFケーブルが105℃の高温環境下に長期間置かれた場合でも、伝送損失に影響を与えないことを明らかにした。
無機顔料の含有量は、ナイロン系樹脂組成物の全体を100質量%とした場合に、0.1質量%以上10質量%以下の範囲にあることが好ましい。無機顔料の含有量が0.1質量%未満であると着色効果が不十分であり、鮮やかな色合いを出すことが困難になる傾向にある。無機顔料の含有量が10質量%を超える場合には、被覆材の機械的強度が低下して、耐摩耗性や耐接傷性が低下するおそれがある。無機顔料の含有量は0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、3質量%以上が特に好ましい。また、無機顔料の含有量は7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
無機顔料として、例えば、緑色が要求される場合にはセリウム又はランタンのうち少なくとも1つを含むレアメタル系化合物や、青色の場合には群青、紺青、黄色の場合は黄酸化鉄、赤色の場合は弁柄(三酸化二鉄)、白色の場合は酸化チタン、タルク、カオリン、黒色の場合はカーボンブラック、黒色酸化鉄等を挙げることができる。なかでも、群青、紺青、酸化鉄、弁柄、酸化チタン、レアメタル系化合物、カーボンブラックから選択される少なくとも一種の着色剤を好適に用いることができる。
次に、本発明の第1の態様による実施形態について説明する。
本実施形態のPOFケーブルは、上述のPOFケーブルの基本構造(POF素線(コア−クラッド)、保護被覆層、光遮断被覆層、機能被覆層(C)、機能被覆層(D))を有し、125℃で500時間加熱処理した後のPOF素線に含まれる前記ナイロン系樹脂由来のモノマー及びオリゴマーの合計含有量(モノマー及びオリゴマーの一方のみを含む場合はその含有量。以下、適宜「モノマー及び/又はオリゴマー含有量」という)が30ppm以下である。
ナイロン系樹脂由来のモノマー及び/又はオリゴマーは、POFケーブルが高温環境下にさらされた際、POF素線中へ移行し、熱劣化が生じ、着色要因となる虞がある。その移行量(モノマー及び/又はオリゴマー含有量)が30ppmより多いと、劣化による着色がPOFの光学特性に影響を及ぼすこととなり、短波長側の伝送損失が悪化してしまう。ナイロン系樹脂由来のモノマー及び/又はオリゴマーのPOF素線中への移行を完全に防ぐことは、非常に困難であるが、その移行量を30ppm以下とすることにより、伝送損失の増加が抑制され、信号の伝送に好適な材料となる。この移行量は低い方が好ましく、25ppm以下であることがより好ましい。
POF素線中のナイロン系樹脂由来のモノマー及び/又はオリゴマー含有量の測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、核磁気共鳴(NMR)、ガスクロマトグラフィ(GC)による測定等、既知の各種測定方法を用いることが可能である。これらの中でも、水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフィ(GC/FID)が、検出感度が高いため好ましい。本発明では、POF素線の溶解液に所定量の内部標準試料を添加した試料を水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフィにより測定し、内部標準試料によるピーク面積とモノマー及び/又はオリゴマーのピーク面積を比較することにより、モノマー及び/又はオリゴマー含有量を求めた。
次に、本発明の第2の態様および第3の態様による実施形態について説明する。
本実施形態のPOFケーブルは、上述のPOFケーブルの基本構造(POF素線(コア−クラッド)、保護被覆層、光遮断被覆層、機能被覆層(C)、機能被覆層(D))を有し、光遮断被覆層の外側の機能被覆層(C)及び機能被覆層(D)は、高温環境下での伝送損失の増加を抑制し、且つ優れた柔軟性を確保することを目的として設けられている。機能被覆層(C)及び機能被覆層(D)は、前述したように樹脂組成物(I)又は樹脂組成物(II)から形成されるが、機能被覆層(C)が樹脂組成物(I)から形成される場合は、機能被覆層(D)は樹脂組成物(II)から形成され(第1の積層形態)、機能被覆層(C)が樹脂組成物(II)から形成される場合は、機能被覆層(D)は樹脂組成物(I)から形成される(第2の積層形態)。
ただし、前者の場合(第1の積層形態)と、後者の場合(第2の積層形態)とでは、それぞれの厚みの関係が異なる。
以下に、保護被覆層、光遮断被覆層、機能被覆層(C)及び機能被覆層(D)の各層の厚みと、これらの厚み間の関係、機能被覆層全体(機能被覆層(C)+機能被覆層(D))の厚みに対する機能被覆層(C)及び機能被覆層(D)の厚みの関係について説明する。
本発明では、コア−クラッド構造を有するPOF素線の外径をA(μm)、保護被覆層の厚みをa(μm)、光遮断被覆層の厚みをb(μm)、機能被覆層(C)の厚みをc(μm)、機能被覆層(D)の厚みをd(μm)とした時、機械特性および耐熱特性の双方を両立する観点から、A,a,b,c,dの値を下記の式を満たす範囲に設定することが好ましい。
900≦A≦1100
1.5≦b/a≦30
5.5≦(b+c+d)/a≦70
b/aが1.5より小さい場合には、POF素線と光遮断被覆層との間の引抜強度が低下したり、POFケーブルの機械的特性や、自動車用途で要求されるバッテリー液耐性、ピストニングが低下したりする虞がある。b/aが30よりも大きい場合には、保護被覆層が薄くなるため、光遮断被覆層や樹脂組成物(II)に含まれるナイロン系樹脂に由来する残存モノマーやオリゴマーの移行を保護被覆層で遮蔽できなくなる虞がある。より好ましい範囲は、2.0≦b/a≦10であり、さらに好ましい範囲は、3.0≦b/a≦5.0である。
機能被覆層(C)及び(D)の厚み(c+d)と、光遮断被覆層の厚みbと保護被覆層の厚みaとの関係は、5.5≦(b+c+d)/a≦70を満たすことが好ましい。
(b+c+d)/aが5.5より小さい場合には、POF素線と光遮断被覆層との間の引抜強度が低下したり、POFケーブルの機械的特性や自動車内用途で要求されるバッテリー液耐性、ピストニングが低下したりする虞がある。(b+c+d)/aが70より大きい場合には、保護被覆層が薄くなるため、光遮断被覆層や樹脂組成物(II)に含まれるナイロン系樹脂に由来する残存モノマーやオリゴマーの移行を保護被覆層で遮断できなくなる虞がある。より好ましい範囲は、8.0≦(b+c+d)/a≦40であり、さらに好ましい範囲は、9.5≦(b+c+d)/a≦10である。
また、POF素線の外径を900〜1100μmとする時の保護被覆層の厚みa(μm)、光遮断被覆層の厚みb(μm)、機能被覆層(C)の厚みc(μm)、機能被覆層(D)の厚みd(μm)については、特に制限されないが、以下の関係を満たすことが好ましい。
10≦a≦100
140≦b≦300
200≦a+b≦350
500≦a+b+c+d≦660
保護被覆層の厚みaが、10μmより小さい場合には残存モノマーやオリゴマーを遮断する効果が不十分である傾向にあり、逆に100μmより大きい場合にはPOF素線と光遮断被覆層の間の引抜強度が低下したり、ピストニングが大きくなる傾向がある。
光遮断被覆層の厚みbが、140μmより小さい場合にはPOFケーブルの耐薬品性が低下する虞があり、逆に300μmより大きい場合には光遮断被覆層に由来する残存モノマーやオリゴマーに対する遮断効果が不十分になる虞がある。
保護被覆層の厚みと光遮断被覆層の厚みの合計(a+b)については、200μmより小さい場合にはナイロン11又はナイロン12からなる層の厚みが小さいためにPOFケーブルの耐溶剤性が低下する虞があり、逆に350μmより大きい場合には後述するように保護被覆層と光遮断被覆層を、POF素線の外周に、一つのクロスヘッドを用いて同時被覆をする場合に、POF素線が熱による劣化を受けやすくなる虞がある。
被覆層全体の厚み(a+b+c+d)については、500μmより小さい場合には、自動車内における振動や、高温多湿な環境からPOF素線を保護する効果等、各層による効果が不十分になるおそれがある。逆に660μmより大きい場合には、POFケーブルの曲げ弾性が大きくなり、ケーブル加工時の取り扱い性が低下する。
機能被覆層(C)の厚みc(μm)と機能被覆層(D)の厚みd(μm)は、下記式(2)又は(3)を満たすように設定することが好ましい。
機能被覆層(C)が樹脂組成物(I)から形成され、機能被覆層(D)が樹脂組成物(II)から形成される場合(第1の積層形態)は、下記式(2):
0.39 ≦ c/(c+d) ≦0.9 (2)
を満たすことが好ましい。
この場合、機能被覆層(C)および機能被覆層(D)の合計厚み(c+d)に対する機能被覆層(C)の厚みcが占める割合が0.9よりも大きくなると、ケーブルの柔軟性が向上する反面、機能被覆層(D)がもつ酸化劣化の抑制機能が十分発現されず、高温環境下での伝送損失増大を招く虞がある。反対に機能被覆層(C)の厚みcが占める割合が0.39よりも小さくなると、POFケーブルの曲げ弾性率が大きくなり、ケーブル加工時の取り扱い性が低下する虞がある。
また、機能被覆層(C)の厚みcが占める割合が0.39よりも小さくなると、樹脂組成物(I)と樹脂組成物(II)の融点の違いにより、被覆層の燃焼時、内側に存在する樹脂組成物(I)が樹脂組成物(II)よりも先に溶融し、液状の溜りとなって落下する、いわゆるドロッピングが生じる虞がある。このドロッピングが生じると、樹脂組成物(II)で形成された機能被覆層(D)の内側に空気の滞留する領域が生じるため、POFケーブルの難燃性が低下する。
以上の観点から、式(2)の上限値は、0.8以下が好ましく、0.75以下がより好ましい。また、式(2)の下限値は、0.40以上が好ましく、0.41以上がより好ましい。
一方、機能被覆層(C)が樹脂組成物(II)から形成され、機能被覆層(D)が樹脂組成物(I)から形成される場合(第2の積層形態)は、下記式(3):
0.15 ≦ c/(c+d) ≦0.7 (3)
を満たすことが好ましい。
この場合、機能被覆層(C)および機能被覆層(D)の合計厚み(c+d)に対する機能被覆層(C)の厚みcが占める割合が0.7より大きくなると、高い耐熱特性を発現する反面、POFケーブルの曲げ弾性率が大きくなり、ケーブル化工事の取り扱い性が低下する虞がある。反対に機能被覆層(C)の厚みcが占める割合が0.15よりも小さくなると、POFケーブルの曲げ弾性率が小さくなり、より柔軟で取り扱いの容易なケーブルが得られる一方、酸化劣化抑制効果が十分発現されず、高温環境下での伝送損失増大を招く虞がある。
以上の観点から、式(3)の上限値は、0.65以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。また下限側は0.20以上が好ましい。
次に本発明のPOFケーブルの製造方法について説明する。
POF素線の形成は、例えば通常の複合紡糸法により行うことができる。
POF素線の被覆は、クロスヘッドダイを備えた押出被覆装置を用いて、POF素線の外周を被覆材で被覆することにより行うことができる。
POF素線を被覆する際の被覆温度T1の範囲は、保護被覆層および光遮断被覆層を形成する場合、190℃以上230℃以下であることが好ましい。被覆温度が190℃より低いと、被覆する樹脂が十分に溶融されず、塊となって被覆の厚み変動が大きくなったり、被覆樹脂の被覆装置配管中の流れが悪くなり、樹脂吐出不足を起こし、所望の厚み制御が困難になる。被覆温度が230℃より高くなると、POF素線が軟化しやすくなり、被覆工程の被覆樹脂供給圧力で外径変動を起こしたり、熱劣化による伝送損失の増加等を招く虞がある。被覆層の厚みをより薄く均一に制御し、且つPOF素線の光学特性を維持するためには、被覆温度Tは200℃から220℃の範囲にあることがより好ましい。
機能被覆層(C)及び機能被覆層(D)の被覆温度T2は、樹脂組成物の主材料にもよるが、機能被覆材料の融点M℃と示すとき、M+3℃以上、M+15℃以下とすることが好ましい。被覆温度がM+3℃より低いと、被覆材料が十分に溶融されず、塊となって被覆の厚み変動が大きくなったり、被覆材料の被覆装置配管中の流れが悪くなり、被覆材料の吐出不足を起こし、所望の厚み制御が困難になる。被覆温度がM+15℃より高くなると、POF素線もしくは一次被覆層(保護被覆層、光遮断被覆層)が軟化しやすくなり、被覆工程の被覆材料の供給圧力で外径変動を起こしたり、熱劣化による伝送損失の増加等を招く虞がある。被覆層の厚みをより薄く均一に制御し、且つPOF素線の光学特性を維持するためには、被覆温度T2は、M+5℃以上、M+10℃以下の範囲にあることがより好ましい。但し、機能被覆層(C)と機能被覆層(D)の二層を一括で被覆する場合には、クロスヘッド部及びダイス・ニップル部の温度設定は機能被覆層(D)の設定に合わせて実施することが好ましい。
被覆装置は、図2に示すようなクロスヘッドを備えた装置(クロスヘッドダイ)を用いることが好ましい。POF素線は、クロスヘッドのダイス201とニップル202に設けられた軸線204に沿った経路を通過し、被覆された後に、ダイス201の先端面201aの開口からPOFケーブルとして外部へ押し出される。その際、このクロスヘッド内では、被覆材流路203からの被覆材がPOF素線の外周へ被覆される。光遮断被覆層を形成する場合は、保護被覆層が形成されたPOFを経路内に通過させ、機能被覆層(C)を形成する場合は、光遮断被覆層がさらに形成されたPOFを経路内に通過させ、機能被覆層(D)を形成する場合は、機能被覆層(C)がさらに形成されたPOFを経路内に通過させる。
ダイス−ニップル部での被覆材流路205と軸線204とのなす角度θ(ダイス−ニップルのテーパー角)が20度から70度となっていることが好ましい。すなわち、POF素線(あるい被覆層が形成されたPOF)と被覆材が、POF素線の中心軸と被覆材料の流路205の流れ方向とのなす角が20度から70度の範囲で接触することが好ましい。角度θが20度未満では、POF素線に均一な厚みで被覆層を形成することがすることが困難であり、一方、70度を超えると、高温に加熱された被覆材料がPOF素線に与える熱や応力が大きくなり、POF素線の光学特性が劣化する場合がある。光遮断被覆層及び保護被覆層を形成する場合には角度θが30〜45度となるように形成されていることが好ましく、機能被覆層(C)及び機能被覆層(D)を形成する場合には、角度θが30〜60度となるように形成されていることが好ましい。
機能被覆層(C)として、樹脂組成物(I)、特にPBT樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いる場合には、光遮断被覆層と機能被覆層(C)との間に十分な密着性が発現されにくいため、クロスヘッド内の樹脂流路を減圧状態にし、光遮断被覆層と機能被覆層(C)の密着強度を高めることが好ましい。
次に本発明のPOFケーブルを用いた信号伝送方法について説明する。
上述したように、発光中心波長が650nm付近にある可視光LEDは、POFの光源として広く用いられているが、100℃以上での耐熱性が不十分という問題があった。その理由として、このようなLEDは、GaAlAs系材料から形成され、Al成分の構成比が多いために酸化されやすいことが挙げられる。
これに対して、発光中心波長を600nm以下に有する可視光LEDとしては、InGaN系(発光中心波長505nm、520nm)やPGaN系(発光中心波長565nm)、InGaAlP系(発光中心波長590nm)等が知られているが、LEDの耐熱性を低下させる原因となるAl成分を含まない、或いは含んでも含有量が小さいため、LED自身の100℃以上での耐熱性も十分実用化できるレベルに到達している。
一方、上述したように本発明のPOFケーブルは、POF素線の外周部に、特定の材料から構成される保護被覆層、遮断被覆層、機能被覆層(C)及び機能被覆層(D)を有することによって、100℃以上の高温環境下において、波長600nm以下の波長領域でも、POFの伝送損失の増大が著しく抑制される。
これにより、本発明のPOFケーブルと、発光中心を波長500nm以上600nm以下の範囲に有する可視光LEDとを組み合わせることによって、自動車内通信分野などの100℃以上での長期耐熱性が要求される分野でも、良好な信号伝送が可能となった。
このような可視光LEDとしては、発光中心を波長520nm近辺に有するInGaN系LED、発光中心を波長565nm近辺に有するPGaN系LED、発光中心を波長590nm近辺に有するAlGaInP系LEDから選ばれるLEDを用いることができるが特に限定されるものではない。
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。
本発明の各実施例に対して実施した各種の評価は、下記に記載の評価方法に従って行った。各実施例のPOFケーブルの構成および評価結果を比較例とともに各表に示した。
[結晶融解熱(△H)及び結晶融点(Tm)の測定]
示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツル社製、商品名:DSC−220)を使用して測定を行った。サンプルを、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温して5分間保持して溶融させた後、10℃/分で0℃まで降温して、再度昇温速度10℃/分で昇温、5分間保持、10℃/分で降温を行い、この時の結晶融解熱(△H)を求めた。また、結晶融解ピークの最大点を結晶融点とした。
[屈折率の測定]
溶融プレスにより厚さ200μmのフィルム状の試験片を形成し、アッベの屈折計を用い、室温23℃におけるナトリウムD線の屈折率(nD23)を測定した。
[ナイロン系樹脂中の低分子化合物(モノマー及びオリゴマー)の定量分析および定性分析方法]
ナイロン系樹脂のペレット50gとメタノール100mlを300mlナスフラスコに入れ24時間、攪拌しながら還流した。還流後、メタノールをビーカーに移し、新たなメタノールをナスフラスコに入れて更に24時間還流を行った。還流後、抽出したメタノール溶液の合計200mlを乾固させ、得られた乾固物の質量(Xg)を測定した。
この乾固物について、質量分析計(MS)(日本電子(株)製、商品名:SX−102)、熱抽出GC−MS(Agilent社製、商品名:HP5890/5972)による定性分析を行った。
また、この乾固物をメタノールに再度適当量溶解し、分取型サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(日本分析工業(株)製、商品名:LC−10)により、乾固物を分子量別に分けて採取した。さらに、採取物に対して、核磁気共鳴スペクトル測定(NMR)(日本電子(株)製、商品名:EX−270)による定性分析を行った。
なお、ナイロン系樹脂のペレット中に含まれる低分子化合物の含有量(モノマーとオリゴマーの合計含有量)は下記式(iX):
〔含有量〕=X/50×100(質量%) (iX)
により算出した。
[結晶化度(X)の測定]
25℃に管理された恒温水槽にn−ヘプタンと四塩化炭素からなる密度勾配管を作製し、試料を5mm×5mm程度の大きさにサンプリングして投入し、24時間後に読み取り、この読み取り値より密度dsを決定した。次いで、この密度dsを用いて、結晶化度(X)を下記一般式:
結晶化度(X)=(ds−da)/(dc−da)
(ここで、da:非晶質の密度、dc:結晶質の密度、ds:試料の密度)
に従って算出した。
da、dcの値はX線回折法や赤外線スペクトルから求めた。ナイロン66の場合、da=1.09、dc=1.24を用いた。
[球晶サイズの測定]
POFケーブルの機能被覆層からミクロトームで超薄切片を切り出し、その切片を偏光顕微鏡で観察し、球晶の写真を撮影した後、画像解析装置で球晶の直径を20点測定して数平均を算出して、これを球晶サイズとした。
[耐熱試験方法]
波長650nm、励振NA=0.1の光を用い、25−1mのカットバック法により、初期のPOFケーブルの伝送損失、及び105℃のオーブン内に5000時間放置した後のPOFケーブルの伝送損失を測定した。
[酸素透過率の測定]
ISO14663−2:1999(Annex C)に定められた方法に従って、以下のようにして被覆材料の酸素透過率を測定した。
機能被覆層を形成するためのナイロン系樹脂組成物を、圧縮成形機により加熱下に圧縮成形し、厚さ100μmのフィルム状試験片を作製し、米国、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(機種名:OXTRAN(登録商標))を用い、温度23℃、湿度0%RHの条件下で酸素透過率[cm3・cm/(cm2・sec・Pa)]を測定した。
[難燃性試験]
難燃性試験は、DIN72551−5に準拠するに測定方法に基づいて行った。
なお、この測定方法は、電線用の難燃性測定法であるDIN72551−5を、POFケーブルの難燃性を測定するために、次のように変更したものである。
すなわち、この測定法においては、燃焼時又は燃焼後の電線を斜め45°に維持することが必要とされている。しかし、POFケーブルは電線とは異なり、POFケーブルが燃焼した際にPOFケーブルをこのような斜め45°に維持することが困難である。よって、POFケーブルを燃焼時又は燃焼後に斜め45°に維持するために、POFケーブルの周囲に螺旋状に一対の銅線を、互いが交差するように巻き付けた状態で難燃性を測定する。この銅線としては直径0.7mmφのものを用い、螺旋周期は光ファイバケーブルの長手方向に20mm周期とする。
また、難燃性試験の合否の判定基準は、POFケーブルにバーナーの炎を7秒間あてて着火した後、この炎を試料から遠ざけ、30秒以内に炎が消えたものを可とし、消えなかったものを不可とする。このような試験を10本のサンプルに対して行って、可の本数が8本以上である場合を「○」とし、それ未満の場合を「×」とした。併せて、30秒以内に炎が消えたものの本数を記録した。
[POFケーブルの曲げ弾性率の測定]
POFケーブルを2つの固定点で固定し、ケーブル曲げ具を用いてPOFケーブルを中心軸に対して垂直に押圧した。固定点の間隔は15mmとした。押圧時、POFケーブルは、曲率半径5mmの円弧形状となった。ケーブル曲げ具が押圧開始から1mm変位したときのケーブル曲げ具にかかる応力(N)を測定し、曲げ弾性率(N/mm)とした。この結果から、POFケーブルの曲げ弾性率の判定を、次のように行なった。
○:曲げ弾性率が、10N以上18N以内、
×:曲げ弾性率が、6N以上10N未満、又は、18Nを超過。
曲げ弾性率が低すぎると、POFケーブルが軟らかくなるため、取り扱いの最中にPOFケーブルがねじれやすくなる。逆に、曲げ弾性率が高すぎると、POFケーブルが固くなるため、取り扱い性が低下したり、POFケーブルを専用ボビンに巻き取った状態で保管しておくと、POFケーブルに"巻き癖"が付きやすくなる。
[ナイロン系樹脂由来のモノマー及び/又はオリゴマーの光遮断被覆層からPOF素線への移行量の定量方法]
光遮断被覆層を形成する樹脂組成物中のナイロン系樹脂がナイロン12である場合について、ナイロン12由来の低分子化合物(モノマー及び/又はオリゴマー)の定量方法について説明する。本実施例では、光遮断被覆層からPOF素線へ移行する低分子化合物としてナイロン12の原料であるラウリルラクタムが検出された。
以下の手順でPOF素線に含まれるラウリルラクタム量を定量した。
定量はAgilent Technologies製のガスクロマトグラフィHP−6890を用いて以下の条件で行った。
分離カラム:J&W SIENTIFIC製のDB−5(0.32mm径、30m長、0.25μm膜厚)、
注入量:1μl、
キャリヤーガス:He(1.3ml/min、線速度41cm/sec)、
注入口温度:270℃、
検出器温度:250℃、
カラム測定温度プログラム:100℃で5分間保持し、昇温速度10℃/minで200℃へ昇温し、200℃で1分間保持し、昇温速度20℃/minで300℃へ昇温。
次に、検量線の作成方法について説明する。
初めに以下の試料溶液を調製した。
・内部標準液(ε−カプロラクタム希釈液)の調製
ε−カプロラクタム10mgをアセトンで希釈し全量を50mlとした。
・検量線溶液1〜3の調製
検量線溶液1:ラウリルラクタム10mgをアセトンで希釈し、全量を50mlとし、さらにその1mlをアセトン2mlで希釈し、これに、内部標準物質としてε−カプロラクタム希釈液(上記記載)1mlを添加した。
検量線溶液2:ラウリルラクタム10mgをアセトンで希釈し、全量を50mlとし、さらにその2mlをアセトン1mlで希釈し、これに、内部標準物質としてε−カプロラクタム希釈液(上記記載)1mlを添加した。
検量線溶液3:ラウリルラクタム10mgをアセトンで希釈し、全量を50mlとし、さらにその3mlに、内部標準物質としてε−カプロラクタム希釈液(上記記載)1mlを添加した。
次に、以下の手順で検量線を作成した。
上記検量線溶液1〜3を、上記の条件で水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフィ(GC/FID)により測定し、ピーク面積比(ラウリルラクタムのピーク(保持時間:14分)面積を内部標準のピーク(保持時間:6.4分)面積で割った値)と検量線溶液ラウリルラクタム含有量との関係式を導いた。
次に、実施例及び比較例のPOF素線に含まれるラウリルラクタムの定量方法について説明する。
初めに以下の試料溶液を調製した。
初めに、POFケーブルを空気雰囲気下125℃で500時間加熱処理した。加熱処理後、保護被覆層、光遮断層、機能被覆層(C)および(D)を取り除いてPOF素線を取り出した。得られたPOF素線550mgをアセトン5mlに溶解し、10mlのメタノールを加えて再沈殿した。沈殿したポリマーを取り除き、得られた液を乾固した。乾固物にメタノール0.5mlを加え、内部標準物質としてε−カプロラクタム希釈液(上記記載)1mlを添加した。
次に上記の試料溶液を、上記の条件で水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフィ(GC/FID)により測定し、得られたクラマトグラフ及びピーク面積比とラウリルラクタム含有量との関係式から、試料に含まれるラウリルラクタムの量を決定し、POF素線中のラウリルラクタム濃度(ppm)を得た。
[実施例1]
コア材としてPMMA(屈折率1.492)、第1クラッド材として3FM/17FM/MMA/MAA(組成比で51/31/17/1(質量%))からなる共重合体(屈折率1.416〜1.417)、第2クラッド材としてVdF/TFE/HFP(組成比で43/48/9(質量%)、屈折率1.375、結晶融解熱(△H)14mJ/mg)からなる共重合体をそれぞれ用いた。これらの重合体を溶融して、220℃の紡糸ヘッドに供給し、同心円状複合ノズルを用いて複合紡糸した後、140℃の熱風加熱炉中で繊維軸方向に2倍に延伸し、各クラッドの厚みが10μmで直径が1mmのPOF素線を得た。得られたPOF素線の波長650nmの伝送損失は130dB/kmと良好であった。
作製したPOF素線の外周に、保護被覆層としてPBT樹脂(東レ・デュポン社、商品名:ハイトレル(Hytrel)4767)、光遮断被覆層として、カーボンブラックを1質量%添加した市販のナイロン12(ダイセル・エボニック社製、商品名:ダイアミド−L1640)を、210℃に設定したクロスヘッドダイを用いたクロスヘッドケーブル被覆装置で被覆し、保護被覆層(厚み40μm)、光遮断被覆層(厚み210μm)を有する外径1.5mmのPOF一次ケーブルを得た。
得られたPOF一次ケーブルは、波長650nmの初期の伝送損失が134dB/kmと良好であった。光遮断被覆層のナイロン12に含まれるモノマー及びオリゴマーの合計含有量は、1.18質量%であった。抽出後のメタノール溶液から得られた採取物の定性分析を行ったところ、抽出物は、ナイロン12の原料であるモノマー単量体(12−アミノドデカン酸およびω−ラウリロラクタム)及びこのモノマーの二量体、三量体、四量体、さらにそれ以上の多量体(アミノ脂肪族カルボン酸化合物と環状ラクタム化合物)であった。
機能被覆層(C)の材料として、群青(着色剤)を2.5質量%添加した難燃ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂(東レ・デュポン社、商品名:ハイトレル(Hytrel)7237F)(樹脂組成物(I))を用いた。機能被覆層(D)の材料として、ナイロン66(宇部興産社製、商品名:UBEナイロン2015B)を43.5質量%、臭素化ポリスチレン(アルベマール社製、商品名:HP−3010、GPCで測定したポリスチレン換算分子量50,000)を40質量%、五酸化アンチモン(日産化学社製、商品名:サンエポック)を15質量%、群青(着色剤)を1.5質量%の比率で配合した樹脂組成物(樹脂組成物(II))を用いた。これらの材料を、それぞれ、235℃および275℃に設定した押出機へ供給し、275℃に設定したクロスヘッドダイを用いたクロスヘッドケーブル被覆装置で、POF一次ケーブルの外周に二層一括被覆し、機能被覆層(C)(厚み160μm)、機能被覆層(D)(厚み240μm)を有する外径2.3mmのPOF二次ケーブルを得た。
表1に、他の実施例および比較例とともに本実施例のPOF二次ケーブルの構成を示す。また、表3に、本実施例で用いた樹脂組成物(II)であるPA66(A)の組成および物性を示す。
得られたPOF二次ケーブルは、初期の伝送損失が、波長650nmでは134dB/km、波長570nmでは84dB/km、波長520nmでは97dB/kmと良好であり、耐熱試験後の伝送損失も波長650nmでは185dB/km、波長570nmでは112dB/km、波長520nmでは192dB/kmと良好であった。また、得られたPOFケーブルは、曲げ弾性率試験の結果が15Nであり柔軟性が高く、難燃性も良好であった。評価結果を表2に示す。
[実施例2〜4]
表1に示すように、機能被覆層(C)と機能被覆層(D)の厚みを変更した以外は、実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示されるように、伝送性能、耐熱性、柔軟性、難燃性のいずれにおいても良好であった。
[実施例5〜7]
実施例5〜7はそれぞれ、機能被覆層(D)に用いる樹脂組成物(II)を、表3に示すPA66(B)〜PA66(D)に変更した以外は、表1に示すように実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。
得られたPOFケーブルは、表2に示されるように、伝送性能、耐熱性、柔軟性、難燃性のいずれにおいても良好であった。難燃剤である臭素化ポリスチレン及び五酸化アンチモンの添加量の違いにより耐熱性や曲げ弾性率に若干の違いが見られた。
[実施例8〜10]
機能被覆層(C)の材料に樹脂組成物(II)を用い、機能被覆層(D)の材料に樹脂組成物(I)を用い、表1に示す厚みに設定した以外は、実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示されるように、伝送性能、耐熱性、柔軟性、難燃性のいずれにおいても良好であった。特に、実施例9については、表4に示すように、耐熱性試験後のラウリルラクタムのPOF素線への移行量が少なく、波長520nm、570nm、650nmの伝送損失の値が良好であることを確認した。
[実施例11〜14]
保護被覆層の材料として、表1に示す樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示されるように、伝送性能、耐熱性、柔軟性、難燃性のいずれにおいても良好であった。保護被覆層の材料の種類により耐熱性に若干の変化が見られた。
[比較例1]
表1に示すように、機能被覆層(C)を設けなかった以外は実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示すように、初期伝送性能、耐熱性、難燃性が良好であった。また、表4に示すように、耐熱性試験後のラウリルラクタムのPOF素線への移行量が少なく、波長520nm、570nm、650nmの伝送損失の値も低かった。しかし、曲げ弾性率が25Nと高く柔軟性が不十分であった。
[比較例2〜3]
表1に示すように、機能被覆層(C)と機能被覆層(D)の厚みを変更した以外は、実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。実施例1〜4と比較して、機能被覆層(C)の厚みが小さい比較例2〜3は、表2に示すように、初期伝送性能と耐熱性は良好であるが、曲げ弾性率や難燃性は不十分であった。
[比較例4]
表1に示すように、機能被覆層(D)を設けなかった以外は、実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示すように、初期伝送性能、難燃性、柔軟性は良好であったが、耐熱性が不十分であった。
[比較例5]
表1に示すように、機能被覆層(C)と機能被覆層(D)の厚みを変更した以外は、実施例8〜10と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示すように、初期伝送性能、耐熱性、難燃性は良好なものであったが、機能被覆層(C)が厚く機能被覆層(D)が薄いため曲げ弾性率が高く柔軟性が不十分であった。
[比較例6]
表1に示すように、機能被覆層(C)と機能被覆層(D)の厚みを変更した以外は、実施例8〜10と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示すように、初期伝送性能、難燃性、柔軟性は良好であったが、機能被覆層(C)が薄いため耐熱性が不十分であった。
[比較例7]
表1に示すように、光遮断被覆層の材料として、カーボンブラックを1質量%添加した市販のナイロン12(EMS−CHEMIE社製、商品名:Grilamide L16A、モノマー及びオリゴマーの合計含有量が1.69質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示すように、初期伝送性能、難燃性、柔軟性は良好であったが、耐熱性が不十分であった。
[比較例8]
表1に示すように、第2クラッド材としてVdF/TFE(組成比で80/20(質量%)、屈折率1.402、結晶融解熱(△H)60mJ/mg)からなる共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示すように、初期伝送性能、難燃性、柔軟性は良好であったが、耐熱性が不十分であった。
[比較例9]
表1に示すように、保護被覆層および機能被覆層(C)を設けなかった以外は実施例1と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示すように、初期伝送性能、難燃性は良好であったが、曲げ弾性率が25Nと高く柔軟性が不十分であった。また、表4に示すように、耐熱性試験後のラウリルラクタムのPOF素線への移行量が多く、波長520nm、570nmの伝送損失が大きかった。
[比較例10]
表1に示すように、保護被覆層を設けなかった以外は、実施例9と同様にしてPOFケーブルを得た。得られたPOFケーブルは、表2に示すように、初期伝送性能、難燃性、柔軟性は良好であった。しかし、表4に示すように、耐熱性試験後のラウリルラクタムのPOF素線への移行量が多く、波長520nm、570nmの伝送損失が大きかった。
表中及び明細書中の略号は下記の化合物を示す。
VdF:フッ化ビニリデン、
TFE:テトラフルオロエチレン、
HFP:ヘキサフルオロプロピレン、
MMA:メタクリル酸メチル、
MAA:メタクリル酸、
3FM:メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、
17FM:メタクリル酸2−(パーフルオロオクチル)エチル、
PBT樹脂(A):ポリブチレンテレフタレート系樹脂(東レ・デュポン社、商品名:ハイトレル(Hytrel)4767)、
PBT樹脂(B):ポリブチレンテレフタレート系樹脂(東レ・デュポン社、商品名:ハイトレル(Hytrel)7237F)、
PSt系樹脂:ポリスチレン樹脂(日本ポリスチレン社、商品名:日本ポリスチG120K)
アクリル系樹脂:MMAとブチルアクリレート(BA)の共重合体(組成比80/20質量%、三菱レイヨン社製)、
PVdF:ポリフッ化ビニリデン樹脂(アルケマ社、商品名:KYNAR710)、
EVAL樹脂:エチレン−ビニルアルコール共重合体(組成比32/68mol%、クラレ社製、商品名:エバールF104)、
PA12(A):ナイロン12(ダイセル・エボニック社製、商品名:ダイアミド−L1640)、
PA12(B):ナイロン12(EMS/CHEMIE社製、商品名:Grilamide L16A)、
PA66:ナイロン66(宇部興産社製、商品名:UBEナイロン2015B)、
BrPSt:臭素化ポリスチレン(アルベマール社製、商品名:HP−3010)、
AnOx:五酸化アンチモン(日産化学社製、商品名:サンエポック)。