通信システムの伝送容量は増加の一途をたどっており、光ファイバを用いた光通信システムにより伝送容量は著しく増加している。例えば、通信システムは、ポイント・トゥー・ポイントの幹線系と、メトロ系及びアクセス系とに分けられるが、前者の幹線系では既に光通信システムが普及し、後者においても電気通信システムから光通信システムへの移行が進められている。すなわち、通信システム全体が光通信システムによって構築されようとしている。
近年、波長分割多重方式により、1本の光ファイバで伝送可能な情報量が飛躍的に増加した。同方式では、光ファイバの低損失帯域をスペクトル変換効率0.4bit/Hzで利用すると、1本の光ファイバで伝送可能な伝送容量は約3.2Tbit/sとなる。具体的には、この伝送容量は、各チャンネル(波長)の信号光の伝送速度が現在利用されている10Gbit/sであるとした場合、320のチャンネルによって実現される。
ところで、信号光は、長距離を伝搬する際、必ず、その信号波形、タイミング、及び強度が劣化する。そして、ある程度の距離を伝播した信号光は必ず再生処理を行なう必要がある。そのため、光通信システムには、通常、劣化した信号光を再生するための光信号再生システムが組み込まれている。この光信号再生システムは、例えば、劣化した信号光を受信してそれを電気信号に変える受信装置と、この電気信号に対して増幅、雑音除去、波形再生、クロック再生等の所望の再生処理を行なう再生装置と、そして再生処理を受けた電気信号を再び信号光に変換してそれを光伝送路へ送信する送信装置とを備えている。
具体的には、上記したチャンネル数が320にまでおよぶ複数の信号光が伝播する光ファイバに介挿される光信号再生システムの場合には、このチャンネル数に対応して、320台の光受信装置、再生装置、及び送信装置が組み込まれる。
このように多数の装置を含む光信号再生システムは、小型化が困難であり、また、消費電力が大きいという問題がある。更には、上述したように光通信システムがメトロ系及びアクセス系に使用された場合、320チャンネルの光信号再生システムを各中継所に多数設置する必要が生じるため、光通信システム全体が大型化し、コストの増加や消費電力の増加を招く。
このような問題を解決する一つの方法としては、波長分割多重方式におけるチャンネル数を削減し、各チャンネルの伝送速度を上昇させる方法があげられる。同一の伝送容量を達成する場合には、各チャンネルの伝送速度と、波長分割多重チャンネル数とは反比例の関係にあるからである。
しかし、上記した光信号再生システムに用いられている再生装置は、電気信号に対して処理を行なう電気デバイスであって、物理的に応答速度の上限をもつ。例えば、電気デバイスで処理可能な信号の伝送速度の限界は、現在40Gbit/sであり、この伝送速度では、なお約80ものチャンネル数が必要である。更には、電気デバイスをそのように高速駆動させるためには高い電力が必要となる。したがって、電気デバイスを用いた光信号再生システムにおいては、各チャンネルの伝送速度には上限があり、現実には、その小型化及び消費電力の低減は困難である。
このような電気デバイスを用いた光信号再生システムにおける問題を解決する方法の一つに、信号光を電気信号へと変換することなく、光の状態のまま信号再生処理を行なう全光信号再生方法がある。この全光信号再生方法を用いた装置は、通常、高速の電気変調器と物質の非線形光学効果を利用した再生装置とからなる。
しかしながら、この全光信号再生装置は、電気変調器を用いるため、光電変換を行なう光信号再生システムと同様にその処理速度に上限がある。さらに40Gbit/s以上の伝送速度の信号光を再生処理する場合、時間分割することで伝送信号光の伝送速度を落とし、信号再生を行なった後、時間分割多重する必要が生じるため、大規模な装置になる。
また、上記した全光信号再生装置は、光信号の再生に非線形光学応答(非線形光学効果)を利用しているが、その場合には、以下の問題も発生する。すなわち、大容量光通信システムにおいて、互いに波長の異なる複数の信号光を含む波長分割多重光が光伝送路を伝搬した場合、伝搬後の波長分割多重光に含まれる各信号光の偏光状態は波長毎にわずかに異なる。このような状態にある波長分割多重光に対して、一括して、非線形光学効果を利用した全光信号再生装置による再生処理を施した場合、入射光の偏光状態に応じて非線形光学効果の大小が大きく変化するため、再生された波長分割多重光には、良好に再生されない、もしくは全く再生されない信号光が含まれてしまうという問題である。
以上では光再生装置の入力伝送光偏波状態に注目して、その問題点を示した。以下では、光再生システムに注目して、その現状とその問題点を示す。光再生とは伝送によって劣化した光信号の強度、波形整形そしてタイミングを再生する機能(re-amplification、re-shapingとre-timing、以下ではO3Rと略す)を意味する。この機能を有する光再生システムでは、無限遠(長距離)の光ファイバ伝送が可能となりえる。
上述した無限遠(長距離)伝送に関してはLeutholdらにより報告されている(Leuthold et al., Electron. Lett., 38, p.890, 2002)。この報告では、O3R再生器を用いる40Gb/s 1,000,000km伝送について記述されている。
Leutholdらは、本報告において、時間再生に必要な光クロック抽出(伝送信号光に同期するクロックパルス列の発生技術)及びスイッチングにおいて電子回路技術を用いている。このため、この装置では電子回路技術では対応不可能な伝送スピードには対応できない。例えば160Gb/sシステムのような電子回路制限以上の伝送スピードを有するシステムには適用不可能である。
なお、160Gb/sシステムに関しては、光スイッチを用いる光再生システムが報告されている(Schubert et al., Electron. Lett., 38, p.903, 2002)。しかしながら、このシステムでは、クロック抽出装置を有していない為にO3R装置として機能出来ないと考えられる。
上述をまとめると、有効な全光技術を基本とする03Rは、実現されていないのが現状である。しかしながら、O3Rの各コンポーネントとなる波形整形技術及び時間再生技術単体に関しては多数の報告がある。以下にこれらの報告を示す。ただし、ここでは本発明に関連する光ファイバを基本とする技術に絞っている。
はじめに、全光波形整形技術について説明する。この技術手法は2つの方式に大別される。一つ目は、光ファイバの光非線形性と異常分散性の複合的効果の結果として形成されるソリトンを活用する手法である(Hasegawa and Tappert, Appl. Phys. Lett., 23, p.142, 1973)。この手法に基づく波形整形器は、soliton converterと呼ばれる。もう一つは、光ファイバ非線形性を介した光パルスの自己位相変調効果に基づく手法である(Mamyshev、ECOC’98, p.475, 1998)。これは提案者の名前に由来しMamyshevフィルタと称されている。スーパーコンティニューム光を活用する方法はこれの追究型と位置づけられる。
前者(soliton converter)を用いたシステム実験としては、4×40Gb/s信号の10,000km伝送が報告されている(Dany et al.、Opt. Lett., 25, p.793, 2000)。後者(Mamyshevフィルタ)は前述したLeutholdらの1,000,000km伝送路に活用されている(Leuthold et al., Electron. Lett., 38, p.890, 2002)。これらはいずれもシステムの観点からの報告であり、それらデバイス単体としての性能は明確に記述されていない(数少ない報告例がDany et al., ECOC’01, We.P.45, 2001である)。特に、soliton converterでは、ソリトン効果を介する雑音増大も問題となる(Kubota et al., J. Opt. Soc. Am. B, 16, p.2223, 1999)為、デバイス性能の観点からの設計も重要となる。つまり、これらのデバイス性能を明らかにし、デバイス単体の最適設計指針を得ることが今後の課題となる。
次に時間再生技術について説明する。この技術の主流は光クロック抽出と光スイッチ技術の複合法である。この構成を図38に示す。光クロック抽出部と光スイッチ部から構成される。前者(光クロック抽出部)は、入力信号(伝送信号に相当する光信号もしくは電気信号)と局所光(クロック基準となり得る光パルス列、光local oscillator(光LO)とも称される)の位相を一致させるものである。言い換えると、光クロック抽出は、入力光と局所光との間の同期を取ることによって実現される。その為、光LOには繰返し周波数可変性が必要である。
後者(光スイッチ部)は、光領域での乗算機能を実現する光ファイバにおける非線形効果を活用する光デバイス、例えば四光波混合(four wave mixing: FWM)デバイスや非線形光ループミラー(nonlinear optical loop mirror: NOLM)、を利用した光スイッチである。以下に、光クロック抽出及び光スイッチ技術の詳細について述べる。
図38において破線で囲まれている部分が光クロック抽出部であり、これは光位相比較部、光LO発生部とコントローラ回路から成る。光位相比較器において外部信号光と光LOの位相差を検出し、その誤差が小さくなるように光LOの発振周波数(パルス列の繰返し周波数に対応)を調整する。
この結果、外部信号光と光LOの同期が実現され、外部信号と同期の取れた時間位置が正確なパルス列(今後はクロックパルス列と呼ぶ)が出力として得られる。両者の位相を比較する部分に、電子回路技術ではなく、非線形光学効果を活用することによって160GHzを超える高速動作可能な位相比較器が実現される。以上のような光領域における位相比較器を用いる同期法はoptical phase locked loop(OPLL)と称される。実際に、NOLMを用いて2台のLDからのビート光と外部信号光の同期を取ることによるクロック抽出が提案されている(Bigo et al., US6,239,893 B1)。
ここで注目すべき内容は、このOPLLの出力光クロック列のタイミングジッタ(クロックパルスの時間揺らぎ)である。タイミングジッタとは、クロックパルスの時間位置のズレ量を意味する。このジッタは伝送システムの性能劣化の要因となり得る為に、この抑圧は重要である。クロックパルス列のタイミングジッタはOPLL動作速度と相関があり、OPLL動作が高速であるほどジッタは減少する。即ち、OPLL高速化がジッタ低減化に効果的である。
しかしながら、上記技術(Bigo et al., US6,239,893 B1)のようにNOLMを用いるとOPLLループが長尺となる為にOPLL動作帯域が制限されてしまう。その結果、ジッタ低減が困難となる。これを解決する為には、位相比較器に用いる光非線形デバイスのファイバ短尺化が重要となろう。ファイバを短尺化することにより、OPLL動作帯域が制限されず、言い換えるにOPLLの高速動作が実現され、低ジッタな高品質クロックパルス列発生が可能となる。
上述クロック抽出技術と共に時間再生技術に必要なのが光スイッチ技術である。ここでは、光ファイバの非線形効果を活用した光スイッチの典型例であるFWMを活用する手法について説明する。光ファイバに波長が異なる2色の光波を入力すると、それら入力光の何れかが非線形効果に充分な光パワーを有する場合においては、それらとは色の異なる新たな光波が発生する。これがFWM現象である。
クロックパルス列と信号光が光ファイバに入力された場合、そのFWM発生光には入力信号光の情報が重畳されているだけでなく、そのパルスタイミングはクロックパルス列によって決定される。従って、情報が乗った低ジッタの光信号パルス列が得られる。これがFWMを基本とする時間再生の原理である。ただし、光ファイバ伝搬する光パルスには非線形効果だけではなく分散効果も影響を与える。
この効果或いはこれら効果の複合により、パルス伝搬においてパルス波形が変化する。その結果、FWM光の波形歪が生じる。これを抑圧する為には、ファイバ分散値や入力パワーの最適化を行うことが有効であるが、具体的な数値やその制御方法等は明らかにされていない。
以上、光再生システムに必要最低限のコンポーネントに関して記述した。この他に光再生システムの性能を向上させる技術も重要である。ここでは本発明に関連する以下の二つのコンポーネントについてまとめる。(1)光パルス波形を光スイッチに適した波形に変換する装置、(2)光パルス成分と光雑音成分を分離する装置。
はじめに、上述した(1)光パルス波形を光スイッチに適した波形に変換する装置に関連する、光スイッチにおける強度雑音増大の抑圧に有効なパルス矩形化技術をまとめる。一般に、光スイッチでは光非線形性と分散の相互作用の結果として、入力される伝送信号パルスの時間揺らぎ(位相揺らぎ)が時間再生された出力信号光の強度揺らぎに変換される。これを説明するのが図39Aである。
ここでは、ジッタを有するパルス列とクロックパルス列の光スイッチを考える。光スイッチ出力パルスパワーは伝送パルスとクロックパルスの時間重なりに相関がある。その為に、ジッタによる両者パルス重なりの変化が光スイッチ出力パルスパワー揺らぎに変換される。この位相揺らぎから光強度揺らぎへの変換を抑制する為には、伝送信号光パルスあるいは抽出したクロックパルスの矩形化変換が有効である(図39B)。
この矩形化方法としては、波長分散や偏波分散を活用する方法と、非線形効果と正常分散の複合的効果を活用する方法に大別される。前者の例はファイバブラッググレーティングや偏波保持ファイバを用いた手法(Lee et al., OFC2001, PD30-1, 2001およびSchubertet al., Electron. Lett., 38, p.903, 2002)であり、後者の例は正常分散ファイバを用いる方式(原理の報告はNakatsuka et al., Phys. Rev. Lett., 47, p.910,1981)である。
前者の線形動作を基本とする方式では、変換される矩形化の立下り・立上りの急峻さは入力パルス幅によって決定される。即ち、急峻な矩形化パルスを得る為には、それに対応する超短光パルスの入力が必要となる。それに比べて、後者は急峻な矩形波への波形変換が可能である利点を有しているが、矩形化に必要な非線形効果と分散効果を得る為には、入力光の高パワー化やファイバ長尺化が必須となる。
次に、上述した(2)光パルス成分と光雑音成分を分離する装置について説明する。ここでは、雑音除去コンポーネントについてまとめる。光パルスには雑音が付加されている。この雑音の主な成分は、光増幅に伴い発生する自然放出光(amplified spontaneous emission light: ASE)である。一般に、雑音は信号光よりも広帯域な光スペクトルを有している為、信号光帯域外の雑音成分は光フィルタによってある程度除去することができる。
しかしながら、信号光帯域内の雑音成分は残留する。この雑音を除去する為には、前述の波形整形を行う他に光ソリトンの性質を活用する方法がある。ここでは本発明に関連した後者に注目する。
光ソリトン伝搬では、誘導ラマン散乱(stimulated Raman scattering:SRS)によってソリトンが長波長側にシフトする現象(ソリトン自己周波数シフト:SSFS:soliton self-frequency shift)が報告されている(Mitschke and Mollenauer, Opt. Lett., 11, p.659, 1986)。この現象は、ソリトンにASE雑音が付加されていても生じ得る。この性質を活用するノイズ除去法としては、この現象を活用し、ソリトンとASE雑音成分を(周波数的に)分離し、フィルタリングする方法が提案されている(並木ら、特開2001−109024号)。その雑音除去装置の構成を図40Aに示す。
これは異常分散ファイバ(anomalous-dispersion fiber: ADF)と光フィルタから成る。図40B上部に示すような雑音成分を有する光ソリトンがADFに入力される。そこでの伝搬では、光ソリトン成分がSRSによってSSFSする。ここで注目すべきは、このSRSによってソリトン成分は長波長側にシフトするが、雑音成分は長波長側に波長シフトしない点である。従って、シフト後のソリトン成分のみを出力光フィルタによって抽出することによって信号光帯域内であった雑音成分をも除去することが可能となる(図40B下部)。
更に、この現象では波長シフトも伴う為に、SSFSの制御によって信号光を所望の波長に調整することも可能である。しかしながら、一般にSSFSはフェムト秒領域において生じる現象である為に、ピコ秒ソリトン伝搬におけるSSFSやその効率化の為には更なる工夫が必要である。
本発明では、劣化した信号光を含む波長分割多重光は、後述するように非線形光学効果を利用して再生される。そこで、まず、非線形光学効果について説明する。
非線形光学効果は、非線形光学定数が大きい媒質(以下、非線形光学媒質ともいう)に強度の大きな光が入射したときに顕著に発生する。詳しくは、非線形光学定数が大きい媒質としては、例えば、ゲルマニウム、フッ素、希土類元素等をドープした光ファイバ(以下、高非線形ファイバともいう)、LiNbO3等の強誘電体、及び半導体等があげられる。また強度の大きな光としては、信号光自体、又は、信号光とは別にこの効果を発生させるために用意された一つ若しくは二つ以上の制御光若しくは励起光があげられる。
非線形光学効果が生じた場合、例えば、この媒質に入射している信号光の波形形状の変化若しくはその位相の変調が生じる。また、制御光若しくは励起光と周波数の異なる高調波又は差周波若しくは和周波が発生する。このような非線形光学効果としては、自己位相変調(以下、SPMという)、相互位相変調(以下、XPMという)若しくは四光波混合(以下、FWMという)、ラマン増幅、パラメトリック増幅、ソリトン効果及びスーパーコンティニュウム効果(以下、SCという)等が挙げられる。
ここで、非線形光学効果の大きさ、例えば、周波数変調の程度や発生した高調波の強度は、入射した光の強度に対して非線形である。
そして、非線形光学効果の大きさは、偏波依存性を有する。例えば、強度の大きな光が無偏光ではなく、ある偏光状態を有し、かつ、この強度の大きな光の入射方向と直交する面内において非線形光学媒質が異方性を有する場合を考える。この場合、非線形光学効果の大きさは、この光の偏光状態と媒質の相対方位に依存するという偏波依存性を有する。また、媒質にこのような異方性がない場合であっても、非線形光学効果の大きさは、強度の大きな光が制御光若しくは励起光であるときには、信号光の偏光状態と、制御光若しくは励起光の偏光状態との相対関係に強く依存する。
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る第1実施形態の波長分割多重光再生システム1(以下、再生システム1という)を示している。
再生システム1は、波長分割多重通信システムに組み込まれた状態、例えばこの光伝送システムの一部を構成する光ファイバ4と光ファイバ6との間に介挿された状態で使用される。
そして、再生システム1は、波長分割多重光に含まれている信号光であって、波長分割多重光が波長分割多重通信システムの伝送路中を伝搬することによって劣化した信号光を、伝搬する以前の状態、例えば発信器から出射した直後の状態へと復元もしくは再生する。なお、信号光の劣化とは、例えば、信号光の強度、位相、周波数、偏光状態またはこれらのうち複数が所定の許容範囲を超えて変化することをいう。
再生システム1は分波装置8と合波装置10とを備えている。分波装置8は、一つの入射ポート8aと複数の出射ポートとを有し、この入射ポート8aには光ファイバ4が接続されている。光ファイバ4から入射ポート8aを介して分波装置8に入射した波長分割多重光は、複数の信号光λ1、λ2、λ3、…λnへと分波される。そして各信号光λ1、λ2、λ3、…λnは、それぞれ、波長毎に異なる分波装置8の出射ポートから出射する。ただし、分波する前に伝送路分散によって付加されたチャープを補償する為の分散補償器300があるのが好ましい。この形態を図43に示す。分散補償器の例としては、ファイバブラッググレーティングを利用したモジュール、エタロンを利用したモジュール、DCF(Dispersion shifted fiber)モジュール、プリズム対とグレーティングを利用したモジュールなどの一般的に利用されているものが適用できる。なお、上述した分散補償器300は、固定型、可変型のどちらでも構わないが、可変型である方が、チャープ補償の範囲が広がるため、好都合である。
一方、合波装置10は、複数の入射ポートと一つの出射ポート10aとを有し、この出射ポート10aには光ファイバ6が接続されている。各入射ポートを介して合波装置10に入射した信号光λ1、λ2、λ3、…λnは、合波されて波長分割多重光となり、出射ポート10aを介して光ファイバ6へと伝搬する。
なお、これら分波装置8及び合波装置10は共に、例えばアレイ導波路回折格子、フィルタ型合分波器、FBG(Fiber Bragg Grating)型合分波器により構成することができる。
分波装置8と合波装置10との間には、複数の光路121、122、123、…12nが延びており、各光路121、122、123、…12nの両端は、分波装置8の出射ポートと合波装置10の入射ポートに接続されている。
これら光路121、122、123、…12nのうち少なくとも一つの光路121には、分波装置8側から順に、偏波コンバータ13と、光信号再生装置15(以下、再生装置15と記述する)とが介挿されている。
再生システム1においては、光路121、122、123、…12nのうち、どの光路に上記した偏波コンバータ13及び再生装置15を介挿するかという点については、各光路121、122、123、…12nを伝搬する信号光λ1、λ2、λ3、…λnの劣化の程度に応じて適宜決定することができる。なお、偏波コンバータ13を含まない図44の形態も可能である。
各光路121、122、123、…12nは、例えば、シングルモードファイバー若しくは分散シフトファイバ等の光ファイバ、光導波路、空間、又はこれらの組み合わせにより構成することができる。しかしながら、光路121のうち、偏波コンバータ13と再生装置15との間を延びる部分については、後述する理由により、そこを伝播する光の偏光状態を保持することが可能な偏波保持型導波路12aで構成することが好ましい。このような偏波保持型導波路12aとしては、例えば、偏波保持光ファイバ、半導体光導波路、及びガラス製平面形導波路などをあげることができる。
偏波コンバータ13へ入射した信号光λ1は、この偏波コンバータ13において、その偏光状態が後述する再生装置15による再生処理に適した所望の偏光状態、例えば直線偏光へと偏光変換された後、偏波コンバータ13から出射する。
ところで、偏波コンバータ13に入射する時点において、信号光λ1は、自らの波長、または、発信器で生成されてから偏波コンバータ13に入射するまでの伝搬光路の長さ、種類もしくは状態等に対応したある偏光状態を有している。すなわち、信号光λ1は、光路の波長分散、偏波モード分散(光弾性効果によるものも含む)等に応じた偏光状態を有している。
偏波コンバータ13は、このように様々かつ不確定な要因に基づきあらゆる偏光状態を取り得る信号光λ1に対して偏光変換を施し、その偏光状態を所望の偏光状態へと変換する。すなわち、偏波コンバータ13は、そこに入射した時点における信号光の偏光状態に依存することなく、所望の偏光状態の光を出射させるものであって、任意の偏光状態を所望の偏光状態へと偏光変換する機能を有している。
偏波コンバータ13から出射された信号光λ1は、偏波保持型導波路12aを伝搬して再生装置15へ入射される。
ここにおいて、偏波保持型導波路12aを伝搬する信号光は、その偏光状態を維持したまま伝搬することができる。よって、偏波コンバータ13を出射した信号光λ1は、その偏光状態を維持したまま再生装置15へと入射することができる。
より具体的に説明すると、偏光変換後の信号光λ1が直線偏光であり、また、偏波保持型導波路12aとして偏波保持光ファイバを用いた場合には、信号光の偏光面と偏波保持光ファイバの主軸、すなわち進相軸若しくは遅相軸とを一致させることにより、偏波コンバータ13と再生装置15との間で、信号光λ1の偏光状態は保存される。
ただし、前述のとおり偏波保持型導波路12aを用いなくとも偏波が保持される状況であれば、通常の導波路でも構わない。例えば、偏波コンバータ13と再生装置15との間の光路121の長さを短くすることによっても、それらの間で信号光λ1の偏光状態の保存もしくはその変化を抑制することができる。
さらに、偏波コンバータ13と再生装置15との間の光路121が偏波保持型導波路12aではない場合であっても、この光路121の複屈折が既知であれば、その複屈折を考慮して偏波コンバータ13の偏光変換の設定を行なうことにより、所望の偏光状態の信号光λ1を再生装置15へ入射させることができる。
再生装置15は、入射した信号光λ1に非線形光学効果を利用した再生処理を施して信号光λ1を再生する。
再生装置15から出射し、光路121を伝搬した信号光λ1は、合波装置10へとその入射ポートを介して入射する。一方、合波装置10には、その他の光路122、123、…12nを伝搬してきた信号光λ2、λ3、…λnもそれぞれ互いに異なる入射ポートを介して入射している。合波装置10は、信号光λ1を含むこれらの信号光λ1、λ2、λ3、…λnを合波して波長分割多重光とし、出射ポート10aから出射させる。
なお、図70に示すように、上述した再生システム1を、任意の間隔で直列的に多段接続させた光伝送システムを構築してもよい。実際に光伝送システムとして再生システム1が配置される場合、図70のような構成となる。つまり、伝送される光ファイバ4もしくは光ファイバ6の特性の影響、もしくは伝送速度により信号光は劣化されるが、この劣化を再生すべき場所に再生システム1を配置させればよい。特に、長距離区間で信号光を伝搬させる場合、図70に示した光伝送システムは有効である。
以下では、上記した再生システム1を用いた、波長分割多重光再生方法A(以下、方法Aという)を、図1を用いて説明する。
方法Aは、分波工程と、偏光変換工程と、再生工程とを備える。
まず、分波工程において、分波装置8が波長分割多重光を波長毎に複数の信号光λ1、λ2、λ3、…λnに分波する。
その後に、偏光変換工程において偏波コンバータ13が、分波工程で得られた複数の信号光λ1、λ2、λ3、…λnのうち、少なくとも1つの信号光λiに偏光変換を施す。この偏光変換は、信号光λiの偏光状態を、再生装置15において所望の非線形光学効果の発現に適合した偏光状態、若しくは、再生装置15において信号光がもっともよく再生される偏光状態へと偏光変換する。
そして、再生工程において再生装置15が、偏光変換工程で偏光変換された信号光λiに対して非線形光学効果を利用した再生処理を施す。
これらの再生システム1及び方法Aは、以下の作用を有する。
波長分割多重光に含まれる互いに波長の異なる複数の信号光は、波長分割多重光が例えば通信システム中の発信器から出射してこの通信システム中を伝搬した後では、それらの偏光状態は波長に応じて互いに異なっている。そのため、波長の異なる複数の信号光を、非線形光学効果を利用した再生装置にて一括して再生した場合、その波長毎に、信号光の再生の程度が異なってしまう。すなわち、ある一つの波長の信号光は良好に再生できたが、他の波長の信号光は再生されなかったという場合が起こり得る。
そこで、再生システム1及び方法Aにあっては、信号光の偏光状態が波長依存性を有していること、ならびに、非線形光学効果を利用した信号光の再生の程度は、信号光の偏光状態と、制御光若しくは励起光の偏光状態との相対関係に強く依存することを考慮する必要がある。このため、まず、波長分割多重光を波長毎に複数の信号光へと分波して、それぞれの信号光を独立化して扱う。そしてその上で、再生装置15による再生処理が必要な信号光の偏光状態を、信号光の再生装置15への入射に先立って再生に適合する偏光状態に調整する。
これにより、再生システム1及び方法Aは、再生処理が必要な信号光を、発信器から出射した直後の状態、もしくは劣化前の信号光の状態へと忠実に再現することができる。その結果、再生された信号光を含む波長分割多重光の波形を良好に再生することができる。
更に、再生システム1及び方法Aにおいては、信号光は電気信号に変換されることなく再生されるので、伝送容量が電気デバイス等によって制限されることがない。そのため、再生システム1及び方法Aによれば、各波長(チャンネル)の信号光の伝送速度を40Gbit/sを超えて高めることが可能であり、波長分割多重光のチャンネル数を減らすことができる。その結果、再生システム1は、従来に比べて少ない再生装置15で構成されるので、その小型化及び省電力化が可能である。
以下では、再生装置15について詳述する。
再生装置15は、図2に示したように、増幅装置17、波形再生装置19、クロック再生装置21及び雑音除去装置23を含む。
再生装置15は、再生システム1に求められる再生能力に応じて、光増幅装置17、波形再生装置19、クロック再生装置21及び雑音除去装置23よりなる群のうちから選択された一つ又は二つ以上を含む。また、その選択された装置は、非線形光学効果を利用して再生処理を行なうものである。また、これら増幅装置17、波形再生装置19、クロック再生装置21及び雑音除去装置23の配列は、限定されることはなく、必要に応じて適宜変更することが可能である。例えば、波形再生装置19の前段にクロック再生装置21を配置してもよい。
ここで、増幅装置17は減衰した信号光を増幅し、波形再生装置19は信号光の波形を再生し、クロック再生装置21は信号光のクロック再生を行ない、そして、雑音除去装置23は信号光に含まれる雑音を除去する。
なお、増幅装置17により増幅され、雑音として自然放出光(無偏光)を含む信号光であっても、偏光子を透過させることにより、信号光に含まれる雑音を半減させることができる。すなわち、増幅装置17と偏光子とを組み合わせたものは、雑音除去装置23として用いることができる。
増幅装置17としては、例えば、エルビウム添加ファイバ型増幅器、ラマン増幅器、半導体光増幅器、パラメトリック光増幅器等をあげることができる。
ラマン増幅器では、そこに入射される信号光と、励起光との間における偏光状態の相対関係にラマン利得が依存する。再生システム1においては、所望のラマン利得を得るのに適した偏光状態へと、偏波コンバータ13が信号光を予め偏光変換するので、ラマン増幅器は安定して信号光を増幅することができる。
ラマン増幅器と同じように、半導体光増幅器やパラメトリック光増幅器もそれぞれの利得に偏光依存性がある。再生システム1においては、所望の利得を得るのに適した偏光状態へと、偏波コンバータ13が信号光を予め偏光変換するので、半導体光増幅器やパラメトリック光増幅器は安定して信号光を増幅することができる。
クロック再生装置21は、非線形光学効果として、例えば、XPM若しくはFWMを利用するものがあげられる。
前者の(XPMを利用する)クロック再生装置21としては、図3に例示したものがある。このクロック再生装置21は、パルス状の制御光を出射する制御光発生装置25と、光学遅延手段27及び制御部29により制御光に対して信号光の位相を揃える位相同期手段31と、光カプラ33を介して光路に介挿され、制御パルス光と信号光とが伝搬してXPMが発生する高非線形ファイバ35と、高非線形ファイバ35に制御光を入射若しくはそこから出射させるWDMカプラ37、39とを備えている。また、このクロック再生装置21は、高非線形ファイバ35からの信号光の戻り光を防止するアイソレータ41と、光フィルタ43を備えることが望ましい。
また、後者の(FWMを利用する)クロック再生装置21としては、図4に例示したものがある。このクロック再生装置21は、パルス状の励起光を出射する励起光出射装置45と、励起光に対して信号光の位相を揃える位相同期手段31と、合波器47(例えばWDMカプラや3dBカプラ)を介して励起光と信号光とが入射してFWMが発生する非線形光学媒質49とを備える。このクロック再生装置21においては、非線形光学媒質49に入射した信号光が、FWMを用いて波長変換された信号光とともに非線形光学媒質49から出射するので、波長変換されていない信号光及び励起光は、光フィルタや、WDMカプラ51を用いて波長変換によって得られた信号光と分離される。
図3及び図4に示したクロック再生装置21は、高非線形ファイバ35若しくは非線形光学媒質49中におけるXPMやFWMを利用して信号光に対してクロック再生処理を施している。このようなクロック再生処理においては、得られる非線形光学効果が小さい場合、良好に信号光のクロック再生をすることができなくなる。そのため、信号光と、制御光若しくは励起光との間において、それぞれの偏光状態を所定の相対関係に維持し、得られる非線形光学効果の大きさを所定の大きさに維持する必要がある。
具体的には、クロック再生装置21に入射する信号光の偏光状態が直線偏光の場合、励起光若しくは制御光の偏光面と信号光の偏光面とが互いに平行になるように、信号光の偏光状態を維持する。これにより、クロック再生装置21は、所定の程度にて信号光のクロック再生を行うことができる。
波形再生装置19には、非線形光学効果としてソリトン効果、又は、SPM若しくはSCを利用するものがある。
前者の(ソリトン効果を利用する)波形再生装置19は、例えば図5に示したように、増幅装置17aと、非線形光学媒質53と、光フィルタ(バンドパスフィルタ)55とから構成されている。ここで非線形光学媒質53としては、高非線形ファイバおよび半導体素子があげられる。なお、図5では、波形装置19内に増幅装置17aを配置させた例を示した。しかしながら、図2に示したように増幅装置17が配置され、この増幅装置17のみで波形再生装置19に入射する信号光の強度を充分に高めることが出来る場合は、増幅装置17aを必ず配置させる必要はない。つまり、波形再生装置19内の増幅装置17aは、必要に応じて配置させればよい。
図5の再生装置19においては、増幅装置17aで強度が高められた信号光が非線形光学媒質53に入射し、この媒質中53中で発生するソリトン効果により、信号光に含まれる時間的な雑音成分が除去され、信号光の波形が再生される。
後者の(SPM若しくはSCを利用する)波形再生装置19としては、図6に例示したものがある。この波形再生装置19は、増幅装置17aと、非線形光学媒質56と、光フィルタ55と、波長変換部57とから構成されている。なお、図5と同様の理由で、増幅装置17aは必要に応じて配置される。
図6の波形再生装置19においては、増幅装置17aで強度が高められた信号光が非線形光学媒質53に入射し、この媒質中56中で発生するSPM若しくはSCによって、時間的な雑音成分が除かれた信号光についてのみ波長帯が広げられる。
そして、この波長帯が広げられた信号光が光フィルタ55へと入射し、所定の波長帯を有する信号光のみが光フィルタ55を透過することにより、信号光の波形が再生される。波形が再生された信号光は、波長変換部57に入射して波長変換を施される。
ここで、波長変換部57による波長変換は、波形再生装置19から出射される信号光の波長帯を、媒質56にて広げられる前の波長帯に戻すためである。よって、波長帯を戻す必要がない場合には、波長変換部57を波形再生装置19に設ける必要はない。
波長変換部57には、非線形光学効果として、例えばFWM、XPMもしくはSPMを利用するものがある。これらのうち、FWM若しくはXPMを用いるものは、基本的に上記したクロック再生装置21と同じ構成を有する。したがって、波長変換部57はクロック再生装置21を兼ねることができ、図6に示した波形再生装置19の場合は、その出射側にクロック再生装置21を配置する必要はない。
また、波長変換部57にSPMを利用した場合は、増幅装置と、非線形ファイバと光フィルタによって構成することができる。
上述したように、波形再生装置19による信号光の波形再生処理は、媒質53、56、35、49中におけるSPM、XPM、FWM、ソリトン効果及びSC等の非線形光学効果を利用している。そして、XPMとFWMを利用した波形再生処理の場合には、制御光若しくは励起光の発生装置25、45から出射した制御光若しくは励起光と、信号光とを同一の媒質35、49に入射させることによりXPM若しくはFWMを発生させる。
このような波形再生処理においては、得られる非線形光学効果が大きすぎても小さすぎても良好に信号光の波形を再生することができなくなるおそれがある。そのため、信号光と、制御光若しくは励起光との間において、それぞれの偏光状態を所定の相対関係にて維持し、発生する非線形光学効果の大きさを所望の大きさに維持する必要がある。
雑音除去装置23は、波形再生装置19と同様に、増幅器、非線形光学媒質、および光フィルタなどで構成することができる。雑音除去装置23は、SPMやSC等の非線形光学効果を用いて、信号成分の波長帯を広げた後、信号部分と雑音部分とを分離している。
なお、上記した波形再生装置19、クロック再生装置21、もしくは雑音除去装置23において用いられる制御光または励起光の発生装置としては、櫛型分散配置(櫛型分散プロファイル)を利用した光パルス光源、ファイバ型圧縮装置により圧縮された光パルス光源、スーパーコンティニュアム光源、ソリトンパルス光源、ファイバーリングレーザのいずれかを用いるのが好ましい。なぜならば、これらの光源は、パルス時間幅が狭い高繰り返しパルスを発生させることが可能であって、更に、パルス時間幅及び繰り返しのパターンを、例えば信号光の周波数等を考慮して適宜設定することができるからである。
次に、図7を参照して、偏波コンバータ13について詳述する。
偏波コンバータ13は、上記したように、任意の偏光状態を所望の偏光状態へと偏光変換する機能を有するものであればよい。このような偏波コンバータ13は、少なくとも、入射した光(信号光)に対して偏光変換を施して所望の偏光状態とする偏光変換部71を備えている。
具体的には、制御光若しくは励起光が直線偏光である場合には、信号光の所望の偏光状態としては、制御光若しくは励起光と偏光面が平行である直線偏光となるように、偏波コンバータ13で制御する。
そして、偏波コンバータ13は、図7に示すように、偏光変換部71に入射する信号光の偏光状態を検出し、この検出結果に基づき偏光変換部71をフィードフォワード制御する。あるいは、偏波コンバータ13は、図8に示すように、偏光変換部71から出射した信号光の偏光状態を検出し、この検出結果に基づき偏光変換部71をフィードバック制御する。このため、図7および図8に示すように、偏波コンバータ13は、検出部73及び制御部75を備えているのが好ましい。その理由は、信号光を所望の偏光状態へと確実に偏光変換することができるからである。
具体的に説明すると、検出部73としては、光分配器77により分波された信号光の偏光状態及び強度を検出可能な偏波アナライザー若しくは強度のみを検出可能なパワーメータ等があげられる。また、制御部はコンピュータにより構成することができる。
次に、図9を参照し、入射した信号光を直線偏光へと変換する偏波コンバータであって、検出部及び制御部を備えていない一構成例を示す。
この偏光変換部71は、入射した信号光を偏光面が互いに直交する2つの偏光へと分離する偏光分離素子79と、これらの2つの偏光を合波する合波器81とを備えている。そして、これら偏光分離素子79と合波器81との間には、2つの光路が延びており、そのうち一方の光路にのみλ/2波長板83が介挿されている。
この偏光変換部71に信号光が入射すると、偏光分離素子79により分離された偏光のうち、一方の偏光は、図中矢印で示したように紙面と平行な偏光面のまま合波器81へと入射される。一方、紙面と垂直な偏光面を有する他方の偏光は、λ/2波長板83を通過することによりその偏光面が90°回転させられて合波器81へと入射する。したがって、合波器81に入射した時点においては2つの光路を伝搬してきた各偏光の偏光面は揃っており、これら偏光が合波器81において合波されることにより得られる信号光は、必ず直線偏光となる。
また、図10は、入射した信号光を直線偏光へと変換する偏波コンバータであって、偏光変換部71をフィードバック制御するための検出部73及び制御部75を備えたものを示している。
この偏光変換部71は、入射した信号光を偏光面が互いに直交する2つの偏光へと分離する偏光分離素子79と、これら2つの偏光を合波する合波器81とを備えている。そして、これら偏光分離素子79と合波器81との間には、2つの光路が延びており、そのうち一方の光路にはλ/2波長板83が介挿され、他方の光路には、光学光路長を可変とするための光学遅延手段85が介挿されている。
また、合波器81の出射側には、入射した信号光を所定の強度比で2つの光へ分光する光分配器77が配置されている。光分配器77の一方の出射側には、検出部73として、信号光を受光してその強度を測定するパワーメータが配置されている。そして、コンピュータ等からなる制御部75は、検出部73の検出結果から信号光の強度を制御するために、検出部73と電気的に接続されている。その一方で制御部75は、検出部73から入力される検出結果、すなわち検出部73で検出する信号光の強度が最大となるように、光学遅延手段85を介して他方の光路の光学光路長を可変制御するために、光学遅延手段85とも電気的に接続されている。
更に、図11は、入射した信号光を、直線偏光に限らず任意の偏光状態を有する信号光へと変換する偏波コンバータであって、偏光変換部71をフィードバック制御するための光分配器77、検出部73及び制御部75を有するものを示している。
この偏波コンバータの偏光変換部71は、コリメータ86、87間を延びる信号光の光路上に順に配置されたλ/4波長板89と、λ/2波長板91と、λ/4波長板93と、これら波長板の光軸を回転軸として回転させるために各波長板に装着された回転手段95、97、99とからなる。すなわち、この偏光変換部71においては、回転手段95、97、99によって波長板89、91、93を回転させることにより、信号光の偏光状態に対する各波長板89、91、93の進相軸及び遅相軸の方位が可変である。
検出部73は信号光の偏光状態として例えばストークスパラメータを求めることが可能な偏波アナライザーからなり、制御部75はこのストークスパラメータが所望の値となるように各回転手段95、97、99の回転角を調節する。したがって、図11に示す偏波コンバータによれば、任意の偏光状態を有する光を、所望の偏光状態へと偏光変換することができる。
なお、図11の偏波コンバータにおいて、偏光変換部71が信号光を直線偏光へと偏光変換する場合には、図12に例示したように、再生装置15による再生処理に適した直線偏光を透過させるように、偏光変換部71の出射側に直線偏光子101を配置し、かつ、検出部75は信号光の強度を検出するパワーメータとするのが好ましい。
その理由は、信号光λ1が偏光子101を通過することにより、信号光の偏光度を高めることができ、再生装置15による再生の程度を一層安定させることができるからである。また、後述するように偏波コンバータ13の入射側に光増幅器105が配置された場合(図13を参照)には、この光増幅器105にて増幅された雑音、すなわち、信号光λ1に付加された無偏光である自然放出光が除去され、信号光λ1の信号雑音比を向上させることができるからである。
なお、偏波コンバータの偏光変換部71は、波長板89、91、93の替わりに、複屈折材料を一つ以上、配置して構成されてもよい。この際、偏光子101を透過した後の光のパワーが、検出部73で最大となるように制御部75にて復屈折材料の制御を行なう。なお、偏光子101から再生装置15(図1参照)までは、偏光状態を保持することが可能な偏波保持導波路12a(図1参照)で構成することが好ましい。偏光子101の主軸は、偏波保持導波路12aにおいて偏光が保持される角度に設定される。
この偏光子101を用いた偏波コンバータを用いた場合、制御のゆらぎは出力光強度の変動として現れる。これに対し、偏光子101を用いずに、偏波保持導波路12aにおいて偏光が保持される角度に偏光を入射することは可能である。この場合、制御のゆらぎは、消光比の増加という形で現われる。つまり、偏光子101を用いた偏波コンバータは、消光比の変動のトレランスよりも光パワーの変動のトレランスを大きくとれるような非線形信号処理において有効となる。
図13は、本発明に係る第2実施形態の波長分割多重光再生システム103(以下、再生システム103という)を示している。
再生システム103は、分波装置8と偏波コンバータ13との間を延びる光路121、122、123、・・・12nに光増幅器105が介挿され、かつ、偏波コンバータ13と光信号再生装置15との間を延びる偏波保持型導波路12a、12b、12c、・・・12nに可変分散補償器107が介挿されている以外は、再生システム1(図1参照)と同じ構成を有している。
光増幅器105は、分波装置8と偏波コンバータ13との間に配置され、分波装置8から光路121、122、123、・・・12nを伝搬してきた信号光λ1、λ2、λ3、・・・λnを受光する。そして、光増幅器105は信号光λ1、λ2、λ3、・・・λnを所定の強度へと増幅した後、光路121、122、123、・・・12nへと出射させる。
すなわち、光増幅器105はそこに入射した信号光λ1、λ2、λ3、・・・λnの強度を適宜増幅して出射し、そのことによって、例えば波長分割多重通信システムを伝搬してきた信号光λ1、λ2、λ3、・・・λnの減衰が大きい場合であっても、その減衰を補償することができる。
ただし、光増幅器105を配置する位置は、分波装置8と偏波コンバータ13との間に限定されることはなく、分波装置8と再生装置15までの間のいずれの位置であってもよい。あるいは、光増幅器105は分波装置8の入射ポート8a側に配置され、波長分割多重光に含まれた状態にて信号光λ1、λ2、λ3、・・・λnを増幅してもよい。
また、光増幅器105による信号光の増幅率は、偏波コンバータ13に含まれる検出部及び制御部によりフィードバック制御若しくはフィードフォワード制御してもよい。
偏波コンバータ13と再生装置15との間には可変分散補償器107が配置され、偏波コンバータ13から出射した信号光λ1、λ2、λ3、・・・λnは、偏波保持型導波路12a、12b、12c・・・12nを伝搬して可変分散補償器107に入射する。可変分散補償器107は、伝送路を伝搬することで蓄積された伝送路の波長分散による信号光の波形歪みを補正した後、偏波保持型導波路12a、12b、12c・・・12nへと出射させる。
なお、可変分散補償器107を配置する位置は格段限定されることはなく、偏波コンバータ13と再生装置15との間の他、分波装置8と光増幅器105との間、光増幅器105と偏波コンバータ13との間、再生装置15と合波装置10との間であってもよい。
図14は、本発明に係る第3実施形態の波長多重分割光再生システム109(以下、再生システム109という)を示している。
再生システム109は、偏波モード分散補償装置110が、可変分散補償器107と再生装置15との間を延びる偏波保持型導波路12a、12b、12c、・・・12nに介挿されている点が、図13に示した再生システム103と異なっている。
この偏波モード分散補償装置110は、伝送路中に局所的かつランダムに存在する複屈折が、偏波モードに伝搬速度差を与え信号光の時間波形を歪ませるという、偏波モード分散を補償する装置である。
したがって、再生システム109によれば、伝送路中の偏波モード分散による波形歪みが補償されるので、再生システム109を出射した後における信号光若しくは波長分割多重光の伝送可能距離を延長することができる。
図15は、本発明に係る第4実施形態の波長分割多重光再生システム111(以下、再生システム111という)を示している。
この再生システム111は、合波装置が偏波インターリーバ機能を有する偏波インターリーバ112であり、また、偏波インターリーバ112の出射側に、偏波インターリーバ112から出射した波長分割多重光の偏光状態を偏光変換するための偏波コンバータ114が設置されている点において、再生システム103と異なっている。
偏波インターリーバ112は、互いに波長の異なる複数の信号光λ1、λ2、λ3、…λnを合波する際に、波長において隣り合う信号光同士を、互いに偏光状態が直交するように合波する偏波インターリーブ機能を有している。
したがって、偏波インターリーバ112により合波された波長分割多重光が同一の光路を伝搬した際には、波長において隣り合う信号光間、言い換えれば、隣り合うチャンネル同士間での相互作用による信号光の劣化が抑制される。
また、偏波コンバータ114は、偏波コンバータ114と、次の波長分割多重再生システム、もしくは、受信器との間を延びる光伝送路(光ファイバ6)において、波長分割多重光に対する偏波モード分散の影響が最小となる偏光状態へと、偏波インターリーバ112の出射ポート112aから出射した波長分割多重光に偏光変換を施す。
したがって、この再生システム111によれば、この再生システム111に入射した波長分割多重光を再生するのみでなく、波長分割多重光の偏光状態を再生システム111から出射した後に、伝搬する光路に適した偏光状態とすることが可能である。例えば、再生システム111は、次の波長分割多重再生システム若しくは受信器に入射するまでの間、波長分割多重光の劣化を抑制することができる。
なお、この再生システム111においては、光増幅器105を、分波装置8と偏波コンバータ13との間ではなく、偏波コンバータ13と再生装置15との間を延びる偏波保持導波路12a、12b、12c、・・・12nに介挿し、偏波コンバータ13の検出部にて検出された信号光λ1、λ2、λ3、…λnの強度に基づき光増幅器105をフィードフォワード制御している。
この場合、再生装置15に入射する信号光λ1、λ2、λ3、…λnの強度を一定にすることができるので、より一層再生装置15による信号光λ1、λ2、λ3、…λnの再生の程度を安定化することができる。
図16は、本発明に係る第5実施形態の波長分割多重再生システム116(以下、再生システム116という)を示している。
この再生システム116は、互いに接続された複数のサブシステム116a、116b、…を含んでいる。
各サブシステム116a、116b、…は、光路121の両端近傍、すなわち分波装置8側及び合波装置112側に、それぞれ、光スイッチ118a、118b、…及び120a、120b、…が介挿されている以外は、再生システム111と同じ構成を有する。なお、図16中、線の錯綜をさけるために各サブシステム116a、116b、…における光路121以外の光路122,123,…12nの記載を省略した。
図16に示したシステム116においては、光スイッチ118aと118bとの間が光路122で接続され、光スイッチ120aと120bとの間が光路124で接続されている。
したがって、各サブシステム116a、116b、…は、光路121もしくは偏波保持型導波路12aに少なくとも1つの光スイッチが介挿されていることにより、自身の分波装置8により分波された信号光ではなく、波長分割多重光通信システムの他の箇所から伝搬してきた信号光に対しても再生処理を施すことができる。
そして、これら各サブシステム116a、116b、…を光路122、124で接続することにより、再生システム116は全体としてルータ機能を備えている。
なお、光スイッチ118a、118b、…、もしくは、光スイッチ120a、120bは、半導体光スイッチであるのが好ましい。再生システム116の大型化を防止できるとともに、サブシステム116a、116b、…間で光路を切換えるスイッチング速度を高めることができるからである。
詳しくは、半導体光スイッチは、半導体材料に、異方性エッチング若しくは犠牲層エッチング等のマイクロマシーニング技術を適用して形成された光スイッチであって、Micro-Electro-Mechanical-System(以下、MEMSという)の一種である。
本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形が可能である。例えば、図2の再生装置15を半導体基板上に集積回路として形成することで、再生装置15を一体化・小型化することができる。
また、再生装置15においては、波形再生装置、雑音除去装置及びクロック再生装置は、互いに同じ非線形光学効果を利用する場合には同一の機能を有することがあることから、これらのうちいずれか一つ又は二つを省くことが可能であり、もって再生装置15を構成する装置の数を減少させることができる。
以下に、本発明の再生装置(図1参照)についてさらに詳述する。
図17は、再生装置200の一実施例を示す概念図である。この再生装置200は、soliton converter202、pulse roller204、Kerr-shutter206そしてsoliton purifier208が順に配置されて構成される。なお、再生システム1としては、図1のようにこの再生装置200の前段に偏波コンバータ13を配置するのが望ましいが、偏波が保持される状況であればそれを要しない図44のようなシステム形態でも構わない。
はじめに、伝送によって劣化された光信号210がsoliton converter202によって残留チャープ除去とともに波形整形される。その後、pulse roller204に入力され、そこでは波形整形された信号光が次段のKerr-shutter206に適した波形である矩形波に変換される。以上のような前処理の後、Kerr-shutter206を用いて信号光は波形再生されるだけでなく時間再生され得る。最後に、その再生された信号光をより高品質にする為に、soliton purifier208によってソリトン以外の成分、例えば光増幅に伴い発生する自然放出光などを除去する。この再生装置200の各コンポーネントの動作は光非線形性に基づいている為に偏波依存性を有していることが多い。よって、図45に示すように各コンポーネント202、204、206、208の入力側に必要に応じて偏波コントローラ302や偏光子304を配置するのが好ましい。なお、再生装置200内において、偏波状態変化が小さい場合、これらは不要となる。また、図46のように再生装置200内の各コンポーネント202、204、206、208のうち、少なくとも一つのコンポーネントを利用したシステムを構築してもよい。例えば、図46に示すように、device Aと、our deviceとして配置されたsoliton converterと、device Bとからなるシステムを構築させてもよい。システムの目的に応じて、our deviceを上述した各コンポーネント202、204、206、208から適宜選択し、この各コンポーネント202、204、206、208に対応するdevice A、device Bを配置させればよい。
以下では、この再生装置200の各コンポーネントについて説明する。
再生装置200の初段は、soliton converter202である。なお、soliton converter202の関連技術は、Dany et al.、Opt. Lett., 25, p.793, 2000や、Matsumoto et al., IEEE Photon. Technol. Lett., 14, p.319, 2002に記載されている。
図18は、soliton converter202の一構成例である。soliton converter202は、異常分散ファイバ(anomalous-dispersion fiber :ADF)212と、光フィルタ(band-pass filter: BPF)214とで構成される。入力された信号光は異常分散ファイバ伝搬に伴い異常分散性と非線形性の相互作用によりsoliton-likeなパルス列に変換される。更に、光フィルタ214を通過することによって、光リミッタ機能が実現され、雑音除去も可能である。ただし、ADF212への入力光パワーがソリトン効果発生に不充分な場合は、図18に示すように、ADF212の前段に光増幅器216とそこで発生する自然放出光を除去する為の光フィルタ218を配置させてもよい。
なお、図18に示したsoliton converter202の構成では、ソリトン伝搬におけるソリトン効果を介する入力雑音の増幅が問題となる場合がある(Kubota et al., J. Opt. Soc. Am. B, 16, p.2223, 1999)。これは雑音を有するソリトンがファイバ伝搬においては異常分散と非線形性の相互作用によって生じるパラメトリック利得を介して振幅・位相雑音が増幅される為である。
これを抑圧する為には、soliton converter202において、ADF212のファイバ長を短くすることが好ましい。ADF212のファイバ長が短くなると、雑音とソリトンが伝搬する距離が減少し、そのままそれらの相互作用の抑圧につながる。従って、ADF212の短尺化は波形整形に伴う雑音増幅の低減化に有効である。なお、ADF212のファイバ長の詳細については後述する。
これに反し、充分な波形整形機能の実現には、非線形効果が必須である。従って、非線形効果発生に必要なファイバ長(非線形長)以上のファイバ長がsoliton converter202に必要となる。また、公知文献(Deny et al., Opt. Lett., 25, p.793, 2000)ではsoliton converterにはソリトン周期z0以上のファイバ長が必要であることが示されている。ただし、z0は以下の式で与えられる。
T0は入力パルスに対する強度がピークの1/eとなる点の半値幅である。β2はsoliton converterの分散値である。このsoliton converter202の性能のファイバ長依存性を実験的に明らかにする為、ソリトン周期で規格化したファイバ長(規格化ファイバ長:z)が異なる3種類の光ファイバに対するsoliton converterからの出力パルスの光信号雑音比(OSNR)とスペクトル線幅増大の入力パワーPin依存性を測定した。その結果を図20Aと図20Bに示す。ただし、ソリトン次数Nをその横軸にとった。NはPinを基本ソリトン励起パワーで規格化した値の平方根であり、以下の式で与えられる。
なお、γはファイバ非線形係数である。
図20Aおよび図20Bからわかるように、規格化ファイバ長:zによらず、全てのsoliton converterにおいてNの増大に伴いOSNRが劣化する。しかしながら、ADF212のファイバ長が、ソリトン周期の2周期程度のファイバ長ではその劣化が小さいことが示されている。また、このsoliton converterのみがスペクトル線幅(Δυ/Δυin)が増大しないことも示されている。以上の実験結果から、規格化ファイバ長zが2以下のsoliton converterが雑音増幅抑圧に有効であることが示された。なお、z=2以下のNとOSNR、もしくはNとΔυ/Δυinの関係は、図20A、図20Bの最上段と同じ結果が得られるため、図示は省略する。
また、soliton converter202は再生装置200の初段に配置される為、その入力パルスは残留分散によってチャープを有する場合がある。信号光は、チャープを有すると、パルスに変換される際、パルス幅が広がってしまうという問題が生じる。このため、soliton converter202は、入力パルスが有するチャープに対する性能も重要となる。
これを検討する為、(ソリトンコンバータの前に)single-mode fiber(SMF)を伝搬させることによってチャープが付加されたパルスをsoliton converter202に入力し、出力されたパルス波形を測定した。その出力パルスの自己相関波形幅ΔtACの入力パワーPin依存性を図21に示す。図21の左部は、出力光フィルタに入力する前のパルス幅を示し、図21の右部は出力光フィルタから出力されたパルス幅である。
図21からわかるように、入力チャープ量を増大させた(SMF長を増加させた)場合、Pinを増大させることにより、入力のチャープ量(SMFの長さ)にかかわらずΔtACが減少する傾向が示されている。つまり、この実験結果を解釈すると、入力チャープ依存性はPin調整によって補償することが可能ということである。これを直接的に実験によって確認した結果を図22に示す。
図22の左部は、入力パルス波形を示し、図22の中央部は、Pin調整を行った場合のsoliton converterからの出力パルス波形を示し、図22の右部は出力フィルタからの出力パルス波形を示している。図22の左部のように、特性が異なるパルス列をsoliton converterに入力しても、Pinを調整することにより、出力パルス波形は、同様なパルス波形が得られることが示されている。具体的なPinの調節方法の一例としては、soliton converterの前に可変減衰器を配置し、光パワーを制御する手法が考えられる。
本実施例の短尺soliton converterにおける出力ソリトンの自己相関幅ΔtACと、OSNRのPin依存性を図23に示す。上述したように、長尺型に比べてOSNR劣化がある程度抑圧されている。その一方で、ΔtACが極小となるPinにおいてはOSNRが著しく劣化してしまう。
言い換えると、パルス圧縮と雑音増大にはトレードオフ関係がある。雑音抑圧とパルス圧縮を両立する手法が本発明の一つである圧縮器と波形整形器の組合せである(図19)。波形整形器の前にパルス圧縮器が配置される構成である。ここでは、波形整形器は前述のsoliton converterだけでなくMamyshev フィルタやNOLMなども含まれる。一般に、入力パルスピークパワーが高いほどファイバ非線形効果を基本とする波形整形器の性能は向上され得る。これを活用するのが本発明である。事前にパルス列を圧縮しピークパワーを増大させ波形整形器に入力する方式である。
特に、これには低雑音性に優れる断熱圧縮方式を基本とする圧縮器が適している。この方式の実現には、ファイバ長手方向に分散値が減少するファイバ(分散減少ファイバ)や緩やかな利得を有するファイバ(例えばラマン増幅ファイバ)を用いる手法がある。また、前者ファイバを数種類のファイバの連結によって模倣するステップ状分散プロファイルを持つファイバ(SDPF)や櫛状分散プロファイルを有するファイバ(CDPF)も提案されている。特に、2種類のファイバの組合せで構成されるCDPFは、作製が容易であるため好ましい。
なお、光パルスの断熱圧縮は、光ソリトンが分散効果と非線形効果がつりあってできる定常パルスであり、どちらかの効果を増減させると、もう一方の効果がそれに追随するように、光パルスのパラメータが自動的に変化することを利用している。ここで、分散効果はファイバの分散値およびパルス幅の逆数の2乗、そして非線形効果はファイバの非線形定数およびパルス電力に、それぞれ比例する。つまり、非線形効果が一定の状況で、ファイバの分散値を減少させると、それを補填するべくパルス幅の逆数の2乗が大きくならなければならず、結果的にパルス幅が小さくなる。
以上の原理にもとづくと、パルスの断熱圧縮を実現させるためには、上述したような、ファイバの分散値を長手方向に減少させる方法の他に、分布ラマン増幅器を用いる方法と、ファイバの非線形性を長手方向に増大させる方法が考えられる。前者の方法は、光パルスの電力が分布ラマン増幅によって伝搬中に大きくなるため、非線形効果が増加し、分散値と非線形定数が一定のファイバにおいては、分散効果がそれに追随するように、パルスの幅が小さくなる。
一方、後者の方法は、分散値が一定で、非線形効果が長手方向に増加する(ファイバ損失によってパルス電力が減衰したとしても、ファイバ非線形定数が十分増加していて、電力と非線形定数の積が長手方向に増加すれば、結果的に非線形効果は増加する)ようなファイバにおいては、増大する非線形効果に追随するために、分散効果も大きくならねばならず、やはりパルスの幅が小さくなる。
ファイバの非線形定数を増加させる方法は、長手方向に連続的に増加させる方法の他に、ステップ状に変化させる方法や、櫛形に非線形定数配置して近似する方法によっても実現できる。
以上、ファイバ型波形整形器について記述してきたが、波形整形機能を実現するのはファイバのみとは限らない。一般に、入出力特性において閾値と飽和特性を有する(これを可飽和吸収特性とよぶ)デバイスは、波形整形機能を有する。以下では、この可飽和吸収体に関して示す。
全光再生中継(O3R)やモード同期レーザにおいて、可飽和吸収特性を有するデバイスは不可欠である。従来、可飽和吸収体には、光ファイバの非線形性を用いたものもあるが、材料の可飽和吸収特性を直接応用したものとしては、半導体可飽和吸収鏡(SESAM;semiconductor saturable absorber mirror)(S. Tsuda, W. H. Knox, E. A. de Souza, W. Y. Jan, and J. E. Cunningham, “Low-loss intracavity AlAsAlGaAs saturable Bragg reflector for femtosecond mode locking in solid-state lasers,” Opt. Lett., Vol. 20, No. 12, pp. 1406-1408, June 15, 1995.)やカーボンナノチューブ(CNT;Carbon Nanotube)(S. Y. Set, H. Yaguchi, Y. Tanaka, M. Jablonski, Y. Sakakibara, A. Rozhin, M. Tokumoto, H. Kataura, Y. Achiba, K. Kikuchi, “Mode-locked fiber lasers based on a saturable absorber incorporating carbon nanotubes,”Postdeadline papers, OFC2003, PD 44.,2003)を用いたものが提案されている。しかしながら、上述したSESAMの可飽和吸収体を利用する場合、所望の特性を得るためには、材料の可飽和吸収特性を最適化する必要があり、材料作製時における条件の安定性や再現性が難しいという問題がある。
可飽和吸収特性は、SESAMを利用する場合、可飽和吸収層周辺の組成、吸収スペクトル、厚み、ブラッグ・ミラーと可飽和吸収層との相対位置関係などで決まる。特に、ブラッグ・ミラーで反射する光が入射光とともに定在波を形成するため、トータルの光強度密度は、半導体深さ方向に対して分布を持つ。可飽和吸収層とこの光強度密度分布との相対関係は、同じ入射光強度に対しても異なる可飽和吸収特性を与える要因となる。CNTの場合は、バンドギャップや厚みが主な設計パラメータとなる。いずれの場合でも、所望の可飽和吸収特性を正確に実現することが難しく、O3Rやモード同期レーザなど、システムの構築において歩留まりや特性の制限がある。
また、モード同期レーザでは、発振パルス特性が可飽和吸収特性によって左右されるため、得られるパルス特性は、可飽和吸収体の選定により決定される。これは、モード同期レーザの歩留まりが悪くなるだけでなく、発振されるパルス特性の制限にもつながる。また、パルス発振するために必要な可飽和吸収特性と、より短パルス動作ならびに高エネルギー動作を実現するための可飽和吸収特性とは、原理的に異なるという問題もあり、パルスを発振するために、定常動作でのパルス特性を犠牲にせざるを得ないという問題が生じていた。
これらの問題を解決するため、本発明の一実施例として、上述した可飽和吸収体は、可飽和吸収特性を可変構造とした。可飽和吸収特性が可変であれば、製造時に特性を調整し所望の特性を実現するよう工程を組むことができ、歩留まりを向上できる。また、システムとして敷設後でも可飽和吸収特性を調整することができれば、動作条件が外乱やシステム設定の変更等によって変更となっても柔軟に対応することができる。
また、モード同期レーザにおいて可飽和吸収特性が可変であれば、パルスを発振するときの可飽和吸収特性からパルス動作を保持したまま、さらに所望のパルス特性が得られるよう可飽和吸収特性を可変することも可能となり、従来難しかったパルス発振と短パルス・高エネルギー動作の両立が可能となる。
以下、上述した内容を図で説明する。図47に、典型的な可飽和吸収特性を示す。横軸は入力光強度であり、縦軸は出力光強度である。線形の場合と異なり、低入力光強度領域では閾値特性を有し、光入力光強度領域では、飽和特性を示すのが特徴である。可飽和吸収特性を可変にするということは、この曲線を自由に調整できることを意味する。さらに、詳述すると、この閾値飽和特性が一定の光強度に対して変えることができるようにするということである。つまり、図47の曲線を図にあるように伸び縮みさせたり、傾きを変化させたりするということである。
一般に、可飽和吸収体へ入射する光強度密度を可変にすれば、可飽和吸収特性を可変にすることが可能である。図48にその系を示す。光ファイバ306から出射した光を集光し、再びもう一方の光ファイバ308に結合するまでの過程で、どの位置に可飽和吸収体310を配置させるかによって、可飽和吸収体310に入射する光強度密度が異なる。図48は、透過型であるが、図49は、反射型の構造を示している。反射型の場合は、ビームウエイストが変化するように光学系を動かすことで同様の効果が得られる。
また、SESAMやCNTの可飽和吸収特性に面内分布を持たせることもできる。例えば、SESAMでは、ブラッグ・ミラーと可飽和吸収層との位置関係を膜厚の面内分布を利用して面内で連続的に変化するように成形することができる。あるいは、ブラッグ・ミラーと可飽和吸収層の位置関係の変わりに、可飽和吸収層の組成や膜厚を面内で変化させることによって可飽和吸収特性に面内分布をもたせることもできる。CNTでも、膜厚に面内分布をもたせたり、製造時基板に温度勾配を持たせるなどして面内でバンドギャップをはじめ、CNTの構造を変化させたりすることで、可飽和吸収特性に面内分布をもたせることもできる。
このように、可飽和吸収特性に面内分布を有する可飽和吸収体310を、図50のように空間結合系で結合する光ファイバ306、308間の光路に移動可能に配置させることで、可飽和吸収特性が可変のデバイスが実現できる。移動可能な方向は、縦、横、斜め、また光路に対し傾斜させる方向にしてもよい。いずれも、可飽和吸収体310を通過する光路長を可変にするためである。なお、この可飽和吸収体の移動方向は、図48の透過型、図49の反射型においても同様の構造にすればよい。
本発明をモード同期レーザに応用する際、パルスを発振する可飽和吸収特性から、図47にある曲線を徐々に上方向へ伸ばすように調整することで、徐々に、パルス幅とエネルギーをそれぞれ、狭く大きくすることができる。これは、図48を例にすると、可飽和吸収体310を徐々に中心312からレンズ316側に向かって移動することに対応する。なお、図48では、中心312よりレンズ316側に可飽和吸収体310を移動させたが、中心312よりレンズ314側に可飽和吸収体310を移動させても、同様の効果が得られる。
このように可飽和吸収体310を移動させると、可飽和吸収体310への入射光強度密度が小さくなるため、図47では曲線が縦・横軸方向に伸びることに対応する。このことは、図50のような構成の場合、可飽和吸収特性の弱い方へ可飽和吸収体310を移動させると、同様の効果が得られる。弱い可飽和吸収特性とは、たとえば、CNTを例にすると、CNTの膜厚が薄いことに対応する。このような可変性は、製造時に可飽和吸収特性を調整するために用いても良いし、システム使用時に可変制御可能なデバイスとして応用しても良い。
次に、時間再生装置であるKerr-shutter206の実施例を図24に示す。本実施例はOPLL(optical phase-locked loop)220と光スイッチ部222とからなる。OPLL220は、光位相比較器224と、光LO発生器226と、制御部228とから構成される。
OPLL220では、位相比較器224によって外部から入力される信号光と光LO信号光(以下、光LOと呼ぶ)の位相差を検出し、制御部228ではその位相差に基づき光LOの繰返し周波数を調整する。その結果として、外部信号光と同期した光クロックパルス列が得られる。このクロックパルス列と外部信号光を光領域でスイッチングすることによって、時間再生された信号光が得られる。以下では、本発明各部の詳細を示す。
上述したように、本実施例のOPLL220は、光位相比較器224と、光LO発生器226と、制御部228とから構成される。光位相比較器224は、光ファイバから構成されるFWM部230と、光フィルタ232と、受光部234を基本構成としたものである。FWM部230は、非線形性光ファイバもしくは、図示されていないがPPLN(Periodically-poled LiNO3)、SOA(semi-conductive optical amplifier)等のFWMが行われる光学素子から構成される。
OPLL220では、外部からの信号光と光LOをFWM部230に入力することにより、新規にFWM光が発生する。このFWM光は、光フィルタ232により抽出されフォトダイオード(photo-diode:PD)からなる受光部234に受光される。
受光部234及び制御部228では、この出力電気信号を位相差信号として認識し、この認識に基づき光LOの発振周波数(繰返し周波数に対応)を調整する。この結果、外部信号光に同期したクロックパルス列が得られる。なお、FWM部230において非線形性を充分に起こす(FWMを効率良く発生させる)為には、必要に応じて(図24に示すように)、EDFAや半導体光増幅器などの光増幅器236及び光フィルタ(図示せず)をFWM部230の前段に配置させてもよい。なお、位相差信号を取得するためには、FWM部にPPLN、SOA等のFWMが行われる光学素子を使用することが可能である。この場合、OPLLループ長がさらに短尺化され、OPLLの帯域がより大きくなる。
さらに、外部信号光と光LOの位相関係を認識するためにFWM部をPPLNや非線形光学結晶に変え、第二次高調波発生光(SHG;Second-Harmonic Generation)の強度変化を利用しても良い。また、入力信号光の波長には感度を持たずより短波長の光に感度を持つPDに入射し、PD内の二光子吸収により位相関係を光電流量に変換して検出しても良い。
一方、光LO発生器226はビート光発生器238から構成される。具体的には、2つ以上の周波数成分を持つ一台以上の半導体レーザが好ましく、図24では、その一例である2台の半導体レーザ(laser diode:LD)から構成されるものを示した。ビート光発生器238から出力されたCW光は、光カプラ240により合波することによってビート光が得られることになる。なお、ビート光の周波数は、ビート光発生器238の少なくとも一方の駆動電流及び温度を調整することによって制御される。
このビート光を光LOとして光位相比較器224へ入力させるとともに、クロック信号として光スイッチ部222にも入力される。また必要であれば、光スイッチ部222に入力する前に、光ファイバ圧縮器239によってビート光からソリトン列へ変換し事前に光スイッチ部222に適した波形にクロック信号波形を整形してもよい。
クロック抽出において最も重要なのは、出力されるクロックパルス列のタイミングジッタ低減化である。言い換えると、パルスの時間的位置の正確さである。本実施例においては、タイミングジッタを低減化する為に、以下の3つの手法がなされている。
一つ目は、OPLL220のループ短尺化である。タイミングジッタはOPLL220のループ長に相関があり、ジッタ抑圧にループ短尺化(ファイバ短尺化)が有効である。特に、本実施例では、位相比較器224がFWMを基本とした構成となっているため、従来のNOLM型に比べ、よりループの短尺化を実現することができる。この結果、本実施例では、ジッタが抑圧されたクロックパルス列を得ることが可能となる。位相比較器224のFWM部230の光ファイバとしては、通常の伝送路用ファイバに比べて5倍以上の非線形係数を有する高非線形ファイバ(highly-nonlinear fiber: HNLF)を採用することでも、ループ長(ファイバ長)の減少化が実現される。
二つ目は、図68におけるファイバ長LA-B[m]とファイバ長LA-C[m]の長さをほぼ同じ長さにすることである。ファイバ長LA-Bとは、分波器Aと光スイッチBをダイレクトに接続したファイバの長さであり、ファイバ長LA-Cとは、分波器Aからクロック抽出部、ファイバ圧縮器を介して光スイッチCに接続されたファイバの長さである。分波器Aで分岐した信号が光スイッチBに到達するまでの時間τA-B、もしくはクロック抽出部、圧縮器を介して光スイッチCに到達するまでの時間τA-Cは、次のように記述される。τA-Bは(=LA-B/v)[s]、τA-Cは(=LA-C/v)[s]である。ここで、v[m/s]はファイバ中の光の速度である。図68のファイバ圧縮器は、例えば数kmの長さを必要とする。そのため分波器Aと光スイッチBとの間にファイバ長LA-C[m]と同程度の長さのファイバを付加しなければ、光スイッチに到達する信号の時間差|τA-B−τA-C|は、数μsとなる。光スイッチにおける信号光と光LOのビットレート差の上限は時間差に対して、Δω<|δB+δL|×|τA-B-τA-C|で示される。ここでδB[Hz]は信号のビットレートの線幅、δL[Hz]は、LO出力光の周波数線幅、と記述される。よって、時間差|τA-B-τA-C|を小さくすることにより(言い換えると、ファイバ長差|LA-B-LA-C|を小さくすることにより)、ビットレート差Δωが小さくなり光スイッチを行うタイミングジッタを低減化できる。
三つ目は、LDペア駆動回路である。光LO発生器226では、2台のLDを直列駆動することにより、駆動電流源に由来するLD波長揺らぎをキャンセルすることが可能となる。実際に、このLD直列駆動による雑音抑圧効果を測定した結果を図25に示す。図25Aは、LDペアの独立駆動時のタイミングジッタ特性を示し、図25Bは、LDペアの直列駆動時のタイミングジッタ特性を示すものである。独立駆動時に比べて直列駆動時のジッタが1/10に低減されていることが示されている。LDの直列駆動による雑音低減の理由は、二つのLDの駆動電流変化が等しい為である。このLDペア駆動回路の代わりに、カレントミラー回路を用いても同じ状況が実現される。
図24のように、一般にOPLL部220と光スイッチ部222が分離していて、光LO発生器226内の光パルス圧縮器239は、長さL(m)を持つ。入力した信号光が最初の分波器241(図24の入力した信号光がOPLLと光スイッチ部に分波される分波器)で分配された後、位相調整部246を通過して光スイッチ部222に到達する時間をτ1とし、OPLL部220で同期を取った後、光スイッチ部222に同期信号が到達する時間をτ2とすると、τ1とτ2は異なり、時間遅延Tlag=|τ2−τ1|=n・L/cで表される。なお、nはファイバの屈折率、cは光速である。入力信号光の周波数ω1(t−τ1)とクロック抽出後に光LO発生器226から出力されたビート光の周波数ω2(t−τ2)は、一般的に異なる。光スイッチ部222における入力信号光と、光LO発生器226で発生された同期信号との位相差Δφは、Δφ=2π(ω2(t−τ2)−ω1(t−τ1))・Tlag=Δω・Tlagと記述される。位相誤差Δφの許容値が0.05(rad)である時、Δω<0.05(n・c)/(2πL) (Hz)となる。一例としては、L=1000(m)、n=1.5の場合、周波数誤差Δω<約500Hzであれば、位相誤差が許容される。このように光パルス圧縮器239の長さLに依存して光LO発生器226の出力ビート光の周波数線幅の許容量が決定される。
次に、図24と図68を用いて、ループ長の最適化について説明する。なお、ここでいうループ長とは、図68に示した光クロック抽出器(optical clock extraction)内の光ファイバ長のことを示す。上述のように、ビットレート差をΔω、ループ長をLLoop、vを光ファイバ中の光の速度、LA-Bを分波器Aと光スイッチBとを接続したファイバの長さ、nを光ファイバの屈折率、Xを任意の数とすると、LLoopは、Δω(LLoop)<v・X/n・LA-Bの関係が成り立つように決定されることが好ましい。つまり、本発明では、FWM部230として高非線形ファイバを用いたため、LLoopが短くなる。この結果、Δωも小さくなるため、タイミングジッタの低減化につながる。
光スイッチ部222は、FWM部242と、光フィルタ244と位相調整部246から構成される(図24を参照)。位相調整部246以外は、位相比較器224と同様の構成である。
光スイッチ部222では、まず、信号光とクロックパルス列をFWM部242に入力する。FWM部242からの出力では時間再生された信号光がFWM光として発生する。その光波は光フィルタ244によって入力光成分と分離され出力される
ただし、クロックパルスと信号光はOPLL220によって同期している(周波数は一致している)ものの、その位相を合わせる必要がある。その為に、信号光もしくはクロックパルスの少なくとも一方の光パスに挿入された可変光遅延線(DL;delay line)からなる位相調整部246によって位相が調整される。
なお、位相調整部246は遅延長が半固定であっても可変であっても良い。位相調整部246が半固定である場合は環境の温度変化に対して必要とされる調整量が変化しないように、系全体の温度を一定に制御する必要がある。また、位相調整部246が可変である場合、位相調整量は、出力パルスの一部を受光して得られる電気信号に基づき決定される。
ここでは、ファイバ型のFWM部242について説明する。このファイバ型FWM部では、パルスの光ファイバ伝搬に伴う分散及び非線形効果による波形歪が生じる場合がある。これを抑圧する為には、入力パルス条件に適した波長(周波数)配置とファイバ選択が重要となる。この抑圧方法について以下の(1)〜(4)の順に説明する。ここでは、入力ポンプパルスの時間幅をΔtp、スペクトル幅をΔνp、ピークパワーをPpとし、入力信号パルスの時間幅をΔts、スペクトル幅をΔνs、ピークパワーをPsと表し(図51参照)、周波数配置と使用するファイバの設計を考える。
(1)FWMにおいては、3光波のスペクトル成分が重ならないようにポンプ光と信号光の周波数間隔Δν(離調量)を充分に確保する必要がある。この条件を以下の式で与える。
(2)上式で与えられるΔνに対する波長変換においては、少なくとも2Δν以上の帯域が必要となる。一方で、FWMにおけるファイバの帯域制限の要因には、(a)波長分散による位相不整合、(b)偏波分散、(c)コヒーレンス劣化、が考えられる。要因(a)に対しては、位相整合条件を満足する周波数配置にする、即ち、ポンプ波長とファイバのゼロ分散波長を一致させることによって回避可能である。また、一般に(c)の要因は、(b)の要因よりも影響が少ない。従って、通常のFWMでは(b)偏波分散による帯域制限が支配的となる。この帯域制限に対してはファイバの偏波保持化(S. Watanabe et al., ECOC97, PD7, 1998.)が有効であるが、作製の困難さが問題である。この他の広帯域化手法としてはファイバ短尺化が有効である(O. Aso et al., EL, vol. 36, p.709, 2000.)。それを示したのが図52である。この図52に示されたファイバ長と帯域の関係に基づき離調Δνに必要な帯域を確保できるファイバ長ΔLを準備する。
(3)FWM発生に充分な非線形効果を得るためには、入力ポンプパルスに対する非線形長LNL程度のファイバ長Lが必要である。これを以下の式で定量化する。
ただし、上述したようにFWM帯域を確保する為にLには上限がある。従って、上式条件を満足させる為にはγP0の増大化が重要となる。その一方で、高パワーパルスのファイバ伝搬では、非線形効果により自己位相変調(SPM)から生じるスペクトル波形歪が問題となる。これを抑圧する観点から、SPMによってポンプパルススペクトルが双峰化する非線形位相シフトである3π/2(アグラワル著、「非線形ファイバ光学」、吉岡書店)以下にγPpLに上限を設定する。
以上の二つの式からスペクトル歪無くFWMを行うγPpの範囲が明らかになった。
(4)FWM伝搬では、入力ポンプパルスと信号光パルスに対する分散効果によって、それら時間波形に歪みが生じる場合がある。これらを抑圧する為には、それらパルスに対する2次・3次分散効果を低減化する必要がある。この条件は以下の式で与えられる。
ここで、位相整合条件を満足する波長(周波数)配置では、入力ポンプ波長での2次分散値は小さい。その為に、ポンプパルスに対しては3次分散効果が支配的となり、これを抑圧する条件は以下の式で与えられる。
また、入力信号光パルス波長での2次分散値は2πβ3Δνによって与えられ、この抑圧条件は以下の式で与えられる。
以上の(1)から(4)に記した数式により、時間波形歪の無いFWMに必要なファイバが設計される。その設計手順を図53のフロー図にまとめる。
次に、実際のFWMの実施例として、図53の手順に基づき設計されたファイバを用いたFWM器を用いて160GHzピコ秒パルス列の波長変換を実験した結果を示す。その実験系を図54に示す。図54の構成は、1556nmの160GHz、2psのパルス列と、1540nmのCW光を3dBカプラによって合波し、0.2km長の低スロープJHNLFに入力するものである。発生されたFWM成分は、2段構成のBPF(透過中心波長は1572nm、半値幅4.5nm)によって抽出される。なお、ここで用いたHNLFのγと分散スロープはそれぞれ24.1/W/kmと0.014ps/nm2/kmである。これらは図53に示された手順で決定されている。入力パルスとCWのパワーがそれぞれ19dBmと13dBmの時のHNLF入出力スペクトル波形を図55に示す。出力において1572nm付近と、1524nm付近にFWM成分が発生しているのが示されている。このFWMパルスの自己相関波形を図56に示す。比較の為に入力パルスの自己相関波形も示した。FWM成分抽出に用いた2段構成のBPFによってパルス幅が10%程度増大しているものの、パルス時間波形歪み無く波長変換されていることが示されている。2段構成のBPF通過後のFWMパワーは-2dBmであった。
なお、図54では、BPFを2段構成としたが、入力パルスとCWの成分が十分に除去出来れば一段構成でも良く、さらには3段構成、4段構成・・・n段構成としても良い。また、図54および図55では、透過中心波長が1572nmであるBPFを用い、FWMにより長波長側に発生した1572nm付近のみを出力パルスとして取り出したが、図示しないが、透過中心波長が1524nmのBPFを使用すれば、短波長側に発生したFWM成分を取り出せることは言うまでも無い。
この実施例では、入力パルスとして、隣接パルス間の位相が逆相関係になっているキャリア抑圧されたパルス、いわゆるCS-RZパルス(Carrier Suppressed Return-to-Zero)が用いられている点に注目する。まず、FWMによって発生するパルス列の隣接パルス間の位相関係を考える。入力CW光がFWMポンプとして機能した際、短波長側に発生するFWM変換光(本実施例では1524nm付近の成分)は、隣接パルス間が逆位相となるCS-RZパルス列である。一方で、入力パルス列がFWMポンプとして機能した際、長波長側に発生するFWM変換光(本実施例では1572nm付近の成分)は、隣接パルス間が同位相関係のRZパルス列である。この特性を用いることにより、CS-RZパルス列をRZパルス列に変換することが可能となった。また、隣接パルス間の位相関係を保持したい場合は、入力パルスをFWMのポンプとして使用しなければよい。
以上は、FWMを用いた光スイッチ及び波長変換器について示したが、FWM現象を用いる他の形態としては、波形整形機能を実現するデバイスも実現可能である。この構成を図57に示し、現象については図58に示す。構成要素自体は、図54の実施例構成とほぼ同様である。異なるのは入力ポンプパワーを増大化させ、SPMによるスペクトル広帯域化を積極的に活用する点である。これに伴い、発生するFWMパルスのスペクトルも広帯域化される。加えて、入力信号光の入力パルスパワーを増大化させることにより、この非線形効果における相互位相変調効果の結果として、FWMパルススペクトルは更に拡大する。
即ち、ポンプパワーが低い場合、FWMパルスのスペクトル幅は、ポンプパルスあるいは信号光パルスのそれと同程度であるが、ポンプパワーが高い場合では、FWMパルススペクトルが広帯域化される。従って、適切なFWHMを有するBPFを配置することによって、広帯域化されたスペクトルがカットされる為、非線形ロスを実現できる。従って、入力ポンプパワーと出力FWMパワーの関係は図59のようになり、閾値及び飽和特性が実現される。この結果、このFWMデバイスは波形整形機能を有する光スイッチを実現でき、これを用いればO3Rが実現される。
次に図26Aから図26Cを参照し、光受光部234(図24参照)における位相誤差信号を認識する電子回路の構成を説明する。図26Aは、光受光部234の一構成例である。光受光部234は、Photo diode(PD)と、loop filterと、LDコントロール部とからなる。なお、LDコントロール部は、LDの駆動電流や、温度を制御する機構である。
図26Aの光受光部234では、位相比較部224での出力光をPDで受光した後、その低周波信号成分をloop filterで挿出する。この出力電気信号に基づき、LD駆動電流を制御することによって、ビート光発生部のLD出力波長、すなわちビート周波数をコントロールする。
図26Bは、図26Aの変形例であり、2台のPDと、加算器と、loop filterと、LDコントローラとから構成される。図26Bでは、位相比較部での出力光だけでなく、信号光パルスの光パワーを2台のPDで受光し、それらの出力差をloop filterに入力する。これによって、信号光パルスと光LOの位相ズレに基づく位相差信号の変化の消光比が向上される。図26Bの光受光部の構成では、より高感度となる。
図26Cは、図26Aの更なる変形例であり、PDと、乗算器と、loop filterと、加算器と、LDコントローラと、参照信号発生器とから構成される。光スイッチ出力をPDで受光した後に、参照信号と乗算した電気信号の低周波成分をloop filterによって挿出する。さらに、それと参照信号の差に基づきLDをコントロールする。図26Cの光受光部の構成では、より効率的に位相比較部での出力光パワー最大値のポイントを見出すことができる。
図60Aは、位相比較部224の変形例であり、FWM部に光ファイバを用いずに位相差を検出するための構成例である。FWM光発生素子500としては、SOAやPPLNなどが利用できる。また、FWM光発生素子500の代わりに、SHG発生素子として、PPLNや非線形光学結晶なども利用することが可能である。また、図60Bに示されるようにPDをSiPD(シリコンフォトダイオード)に置き換え二光子吸収により位相差を検出することも可能である。
また、上述の光時間再生システムの位相比較部224と光スイッチ部222のFWMファイバを融合化させることも可能である。その構成を図27に示す。光位相比較器と光スイッチ部が共通のFWM部250と光LO発生部252から成る。各部要素は前述の図24と同様である。入力信号光と光LOをFWM部250に入力し、そこで発生するFWM光を光フィルタ254で抽出する。そのFWM光を位相誤差信号として光LO周波数コントロール部に入力すると共に、クロックパルス列として出力する。
以上、光再生システムに必要最低限のコンポーネントに関して記述した。更に、本発明の再生装置200(図17参照)では、その性能を向上させる為にpulse rollerとsoliton purifierを用いる。以下ではそれらの実施形態例を紹介する。
pulse roller204の一実施例を図28に示す。信号光パルスをpulse rollerファイバ260に入力する構成である。そのpulse rollerファイバ260における正常分散性と非線形効果の相互作用によって入力された信号光は矩形化される。非線形効果がパルススペクトルを広帯域化させ、加えて正常分散効果によってパルス時間波形が矩形化される。
ここで、パルス矩形化について、図41A〜D及び図42を参照して説明する。
図41Aのパルスが正常分散ファイバを伝搬する際、矩形パルスへ変形するが、この際、正常分散の効果と非線形効果(Kerr効果)の相互作用が不可欠である。つまり非線形効果によって、図42の下部のようなアップチャープが生じ、正常分散の効果で低い周波数成分が速く、高い周波数成分が遅く伝搬する。この結果、図41Bのような形に変形する。
詳しく述べると、図42に示すように、パルス強度の変曲点に相当するT1とT2の間では、線形アップチャープによって、正常分散の効果でパルスが線形的に広がる。なお、T0はパルスの中心位置である。一方、Tx<T1およびTx>T2では(Txとは任意の時間)、ダウンチャープとなっているため、パルス先端部では先端ほど(|T|が大きいほど)ゆっくり、後端部では後端ほど(|T|が大きいほど)速く伝搬する。つまり時間T1およびT2の部分にエネルギーが集まり、パルス強度は時間に対して急峻に変化するようになる。その急峻さは、T1およびT2における瞬時周波数の最大値に比例する。
本発明では高効率な矩形化現象を起こす為に、pulse rollerファイバ260として正常分散増大ファイバ(normal-dispersion-increasing fiber:NDIF)を用いている。このNDIFの分散プロファイルを図29Aに示す。図29Aから図29Cの縦軸は、すべて負の分散値[ps/nm/km]を表しており、座標が上に行くほど分散値は0に近くなる。
図29Aに示すように、NDIFの入力側では低分散値を有する為に、相対的に非線形効果が支配的となる。一方、NDIFの出力側は、高分散値を有する為に、正常分散効果が支配的となる。従って、NDIFの入力側において、パルスは充分にスペクトル広帯域化される。そして、NDIFの出力側において、パルスは強正常分散効果によってそのパルス時間波形が効率良く矩形化される。
この結果、pulse rollerファイバ260(光ファイバ:NDIF)の短尺化が可能となる。これは、非線形長LNLと分散長LDを用いて定量的に示すと、入力端ではLD≫LNLであり、出力端ではLD≪LNLと設計されている。ただし、分散長LDは、LD=To2/|β2|で表される。Toとβ2は入力パルス時間幅と分散値を表す。また、LNL=1/γPoである。γとP0は非線形係数と入力ピークパワーである。
さらに、NDIFを採用することにより、図41Cのように、頭頂部が完全に平坦な矩形パルスを作り出すことができる。これは、LD≫LNLである領域において、パルスはアップチャープされたスーパーガウシアン型パルスへと変形され、次いでLD≪LNLなる領域において、正常分散効果によってパルスを線形的に広げることができるためである。アップチャープされたスーバーガウシアン型パルスは、正常分散が作用する線形伝送路を伝搬する場合、頭頂部が完全に平坦となる事実は、理論計算により確認できる。以下では、NDIFの詳細な原理について説明する。
従来のように、pulse rollerに分散値が一定のファイバを使用する場合、非線形効果を発生させるために大きな入力パワーと、分散効果を発生させるためにある程度大きな分散値の両方が必要だった。この理由は、分散値が低い場合、非線形効果によってアップチャープは生じても、分散の効果が小さいために、波形が矩形に変化しないためである。一方、分散値が大きい場合、非線形効果によって生じたアップチャープを持つ成分が、分散の効果ですぐに拡散してしまい、さらにピークパワーが小さくなることからチャープが蓄積されないままパルスが伝搬することになる。
この結果、図41Bのようにパルスの立ち上がりは鈍く、頭頂部はもとの図41Aに示したパルスの立ち上がりとは本質的に変わらず、上に凸なものとなる。パルスの立ち上がりの急峻さは、スペクトルに含まれる高周波成分に依存するため、立ち上がりが鈍いという事実は、十分な非線形効果による高周波成分の発生がなされていないことにも対応する。
上述内容から効率的にパルスを矩形化するためには、まず分散の影響があまりない状態において、非線形効果によるアップチャープを十分に蓄積した上で、その後大きな分散効果によってパルスを変形させればよい。そのような状況は、長さ方向に対して正常分散値を増大させるような光ファイバを用いれば実現できる。
より詳細に述べると、まず光ファイバの入射端では、パルスの入射電力に対応する非線形距離が、入射パルスの幅と分散値に対応する分散距離よりも、十分短いように設計する。この結果、分散の効果よりも非線形効果が支配的になり、伝搬初期に十分に大きなアップチャープが蓄積される。
さらに光ファイバの出射端では、分散距離が非線形距離よりも短く、分散効果が支配的となるように設計する。すでに非線形効果によって高周波成分が発生しているため、パルスの立ち上がりは急峻なものとなる。一方、そのときのパルスは大きなアップチャープを持つスーパーガウシアン型関数で近似できる。そのようなパルスは、正常分散の効果が支配的なファイバを伝搬する際、図41Cのようにパルス中心部が上に凸から下に凸の関数になることが、簡単な計算によって確認できる。図41Bから図41Cの状態に変形する途中でパルスを出力させることにより、図41Dのように頭頂部がほぼ平らな矩形パルスを作り出すことができる。
上述したように、ファイバ入射端においては非線形効果が支配的で、出射端においては分散効果が支配的であるような状況は、(正常)分散値を長手方向に増大させる方法の他に、分散値が一定で、非線形定数を長手方向に減少させる手法がある。なお、ファイバの非線形定数を減少させる場合、長手方向に連続的に減少させる以外は、ステップ状のプロファイルを持つように特性を変化させる手法や、櫛形にプロファイルを持つように特性が変化するように非線形定数が制御されていれば良い。
次にpulse roller204の他実施例について説明する。図29Bおよび図29Cは、図29Aの他実施例である。NDIF(図29A参照)の代替として、分散値・非線形係数が異なる2種類以上の光ファイバを組合せた分散マネージメント光ファイバ260(ステップ型および櫛型分散プロファイルファイバ)を用いたpulse roller204である。
図29Bおよび図29Cのファイバの内、いずれかを有するpulse roller204も図29Aのpulse rollerファイバ260を有するものと同様の作用・効果を有する。つまり、いずれのpulse roller204も、入力端側の部分では非線形効果の作用が支配的であり、出力端側の部分では分散効果の作用が支配的である。
図29B、図29Cに示すpulse roller204は、pulse rollerファイバ260が、非線形効果が支配的となる光ファイバと、分散効果が支配的な光ファイバとを順に配置させた組合せである。
次に、pulse rollerファイバ260が2種の光ファイバから構成されるpulse roller204を用いたパルス矩形化の一実験構成例を図30Aに示す。160GHz繰返しの2psパルス列をpulse rollerファイバ260に入力する構成である。このpulse rollerファイバ260の分散プロファイルを図30Bに示す。図30Bは、横軸が光ファイバの長さであり、縦軸が分散値である。なお、図30Bに示すpulse rollerファイバは、HNLFとNDFとから構成され、HNLFの長さが200m、分散値がD=−0.7ps/nm/kmであり、NDFの長さが80m、D=−7.5ps/nm/kmである。
ここでは、非線形効果が支配的となる光ファイバに高非線形ファイバ(highly-nonlinear fiber: HNLF)を用いている。HNLFは、伝送路用ファイバが持つ非線形定数以上のそれを有する光ファイバである。このHNLFを用いることによって、光ファイバの短尺化が可能となる。なお、HNLFを用いる場合は、図29A〜図29CのようなNDIFを用いずに一定分散値としても、通常のファイバを用いた場合と比較して、短尺化が可能である。
次に、図30Bのpulse rollerファイバにおける2psパルス伝搬シミュレーションの結果を図31に示す。実線が出力パルスの実時間波形であり、それに対応する自己相関波形が破線で示されている。P0は入力ピークパワーである。P0=23.5dBmにおいて実線で示された出力パルス波形が矩形化されていることが示されている。その時の自己相関波形(破線)は三角状となる。
これらに対して、白丸が自己相関波形の実験結果である。実験では160GHzパルス列を用いている為に、パルス裾部分のパルス重なりが生じる領域では白丸と破線の乖離が大きいものの、パルス中心部分では両者が良く一致することが示されている。従って、実験でもシミュレーションと同様にP0=23.5dBmにおいて実線で示された矩形化パルスが得られていると考える。
上述したpulse roller204を光スイッチ部(図24を参照)の前段に配置することによって、時間再生装置・時間分割装置の高性能化が実現可能である。つまり、図24を参照すると、第一のカプラと光スイッチ部の間、もしくは光LO発生器と光スイッチ部の間に配置されることになる。その一実施例を図32に示す。
図32では、上述したpulse roller204は、光スイッチ部222の前段に配置され、外部信号光あるいはクロックパルスをpulse roller204によって矩形化した後、光スイッチ部222にて光スイッチする構成である。なお、この場合、光スイッチ部222の構成は、図24に示したようなFWM構造に限定されず、NOLM型、SOA(semi-conductive optical amplifier)型としても良い。
一方のパルスが矩形化されている為、外部信号光のタイミングジッタによる両者の相対時間位置ズレからの強度揺らぎへの変換が抑圧される。この原理は前述(図39)した通りである。矩形化パルスの平坦幅がこの抑圧範囲に相当する。
ここでは前述のpulse roller204とOPLL220を組合せたクロック抽出器の実施例を記述する。その構成を図33に示す。pulse roller204と図24内のクロック抽出器から成る。
信号光パルスはpulse roller204によって矩形化された後に、その矩形化パルスと光LOをFWM部に入力する。そこで発生するFWM光を受光部で電気信号に変換する。本発明の一つの特徴は、このFWM光を誤差信号と認識する方式にpulse rollerの出力パルス特性を利用する点である。
図24に示す光スイッチ部では、入力信号光と光LOのピーク値の設定が重要となる。光スイッチ出力の平均パワーの変化から入力信号光と光LOの位相差を検出する為には、両者のピークの時間位置をズラす必要がある。
図24に示す光スイッチ部において、図26に示した光受光部を使用する場合、光の平均強度を利用して位相検出を行うため、光スイッチ部と光LOの光信号のピークの時間位置を等しくする必要がある。このため、図24に示した光スイッチ部は、OPLLと別々に動作させる必要がある。
また、周波数変調が加えられた光LOからの出力光により位相検出を行う方法は、入力パルスピークと光LOからの出力光の強度ピークが平均的には一致するが、各パルスのピーク同士の時間差は変調周波数で変化する。さらに、光LOからの出力光は、周波数変調が加えられているため、複数回、光再生を行うたびにタイミングジッタが積算される場合がある。
これらに対し、図35Aおよび図35Bに示す光受光部では、FWM光のスペクトルによる位相検出は、平均値処理でありながらピーク値が一致する。そのため、光スイッチ部とOPLLの両方の機能を一度に行うことができる。
典型的なpulse roller出力パルスの時間波形とチャープ(瞬時周波数の時間変化)特性をそれぞれ図34A、34Bの最上部に示す。一般に、正常分散と非線形効果の相互作用によって矩形化されるパルスには線形チャープが蓄積される。このパルスと変換限界パルス(図34A、図34Bの中央部)から発生するFWM光も線形チャープを有する。このFWMパルス特性を図34A、図34Bの最下部に示す。
矩形パルスが線形チャープを有する為に、入力パルス間の時間ズレが出力FWM光の周波数ズレに変換される。よって、このFWM光の周波数ズレをモニタリングすることで入力パルス間の位相差を認識できる。FWM光から位相差を認識する光受光部を図35A、図35Bに示す。
この光受光部は、図35Aに示すように、分波器262と、2つ以上の光フィルタ264(図35Aでは3つ配置)と各フィルタ出力光パワー比較器266とから構成される。この分波器262と複数の光フィルタ264の変わりに、図示しないが、AWG(arrayed waveguide)を用いることも可能である。
この光受光部では、まずFWM光を分波器262で3分波し、各光波を異なる透過周波数を有する光フィルタ264に入力する。各フィルタ出力パワーの差はFWM光の周波数ズレ、即ち光位相比較器入力パルス間の時間ズレ、に対応する。従って、このパワー差のモニタリングによってパルス間の時間位置ズレを認識することができ、これに基づき光LOの周波数を調整する。なお、図35Bは図35Aに示した光受光部の他実施例であり、グレーティングとPDからなる。図35Bの光受光部は、図35Aと同様の効果を有する。
矩形化パルスを用いたOPLL動作の応用として、図61に示すようにパルス振幅を時間的に変化させ、時間位置のずれを強度ずれとして検出することによるOPLL動作も可能である。図61のように、矩形パルスの振幅を時間的に変化させる方法としては、利得ピークとなる位相を矩形パルスの中心から少しずらした、同期変調を行うなどの方法が考えられる。
図32で述べたような、pulse roller204とoptical switch222の組み合わせは、図17に述べたような再生装置200としてのみではなく、高品質な繰り返し特性を持つ、OTDM信号発生器にも、応用可能である。
図62は、OTDM信号発生器の全体図を示している。繰り返し周波数がNxf[GHz]のパルス光源604は、繰り返し特性が非常によく、情報が載せられていない。一方、パルス光源606は、繰り返し周波数がf[GHz]であり、Nチャネルの光時分割が可能なほど時間幅が圧縮されており、さらにf[Gbit/s]のデータ変調が行われているものとする。パルス光源604およびN個のパルス光源606は、すべて発生した電気クロック信号602と同期が取れているものとする。なお、図62では、パルス光源604とパルス光源606を同期させるために電気クロック信号602を利用したが、これに限定されない。例えば、ビート光などの光信号を利用することができる。
N個のパルス光源606から発生された情報信号は、光時分割多重器608で時分割多重化される。パルス光源606と光時分割多重器608の組み合わせは、従来用いられているものであるが、一般にタイミングジッタを持つなど、繰り返し特性が極めて高いとは言えない。光時分割多重器608で多重化された信号は、矩形化器610で矩形化される。
一方、パルス光源604で発生された光信号は遅延線612によって、矩形化器610の出力信号と時間的な位置を合わせられ、合波器614で合波された後、パルススイッチ616によって、OTDMされた論理信号のみがパルス発生器604で発生された光パルスにコピーされ、その結果繰り返し特性がパルス発生器604で得られたパルスと同等の、高品質なものが得られる。
遅延線612は矩形化器610の前後に配置してもよいし、光時分割多重器608内に組み込んでもよい。また、矩形化器610での効率を上げるため、その前にソリトンコンバータが挿入されていてもよい。
次に、本実施例の雑音除去装置であるsoliton purifier208を図36Aに示す。ソリトンファイバ272が2台の光フィルタ270、274の間に配置される構成である。
まず、soliton purifier208の動作を簡単に述べる。まず、BPF270によって信号帯域以外の帯域の雑音を除去し、次いでソリトンファイバ272中のラマン自己周波数シフト現象を用い、信号スペクトルをBPF270の帯域以上の量を周波数軸上でシフトさせる。このとき、元の信号帯域に存在していた雑音は周波数シフトせず、ソリトンと雑音の分離が可能である。最後にBPF274で再び信号帯域外の雑音を除去する。結果的に信号の雑音が大きく低減される。
soliton purifier208に入力される光信号パルスは、入力側光フィルタ270によって信号光帯域外の雑音が除去される。その後、異常分散性を持つソリトンファイバ272に入力される。このソリトンファイバ272では、ソリトンが帯域内において、誘導ラマン散乱による利得の傾き(以後利得スロープと呼ぶ)を感じるように制御されている点が重要である。この利得スロープの存在の結果として、ソリトンが波長シフトする。この現象は、ソリトンのラマン自己周波数シフトとして知られている現象である(Mitschke et al., Opt. Lett., vol.11, p.659(1986).およびGordon, Opt. Lett., vol.11, p.662 (1986).)。波長シフトしたソリトンは出力側光フィルタ274によって抽出される。
ここで本発明の特徴は、ソリトンの波長シフトを効率良く実現する為に利得スロープが制御されている点である。本実施例では、以下の2つの手法が成されている。
一つ目の手法は、ソリトンファイバとしてHNLFを活用した点である(図36B))。ファイバにソリトンが伝搬すると、ソリトン自身がポンプとなり低周波側にラマン利得を形成させる。その利得スロープをソリトン自身が感じたことによって、ソリトンの中心周波数が低周波側にシフトする。この現象がソリトン自己周波数シフト(soliton self-frequency shift: SSFS)である。一般的な、HNLFにおけるラマン利得を図37Aに示す。比較の為にSMFのラマン利得も示す。
HNLFは、SMFに比べて大きな利得スロープを有する為、ファイバ長が短くてもSSFS効果が増強され得る。従って、HNLFを使用することにより、ファイバを短尺化することが可能となり、その結果としてファイバ損失が低減されるだけでなく、ソリトン間の相互作用も抑圧され得る。
二つ目の手法は、外部ポンプ光によってラマン増幅する点である(図36C)。図36Cでは、ポンプ光発生器の配置を前方と後方とした。このポンプ光発生器の配置は、前方・後方のいずれ、もしくは両方でも構わない。
この構成のsoliton purifierは、外部ポンプ光による増幅調整を通じてSSFS効果のコントロールを行うものである。図63は、ラマン増幅器による増幅利得と、ソリトンのスペクトルの関係を、周波数軸上で記述したものである。ポンプ光の周波数をνpとすると、ラマン増幅利得は約νp-13THzでピーク値をとる。一方、周波数に対する利得のスロープが最大となるのは、約νp-10THzなる周波数であるが、ソリトンの中心周波数νsをこの値に設定することで、SSFSの効果が最大限に増強される。また、SSFSによってシフトさせたい周波数の量をΔνとおくと、νs−Δν=νp-13THzと設定することで、ソリトンの周波数シフト量を制限することができる。
単位伝搬距離に対する、ソリトンの自己周波数シフトの量は、パルス幅の4乗に逆比例することが知られている。そこで、soliton purifier208の前段にパルス圧縮器を挿入してパルスを圧縮することで、より効率的に周波数シフトを実現させることができる。
図36Cのように前方および後方励起ラマン増幅を行う際に、光電力が伝搬距離に対してゆるやかに増加し、断熱ソリトン圧縮が実現できるように設計することで、パルスは伝搬中に圧縮され、やはり効率的に周波数シフトさせることができる。
繰り返し特性のよい光ソリトン列を用いた全光非線形信号処理を考えた場合、信号帯域付近の雑音が増幅されることが問題となる。図67は、繰り返し周波数が160GHzで、パルスの半値幅が1psである光ソリトン列が、2kmのHNLFを伝搬するときの入力および出力スペクトルを表し、実験により得られたものである。図67からわかるように、中心周波数付近の雑音が増幅されている様子がわかる。使用したHNLFの分散値は、図69に示すように、約3.5ps/nm/kmから約1.8ps/nm/kmへと連続的に減少していて、非線形性は21.8W-1km-1、損失は1dB/kmである。図69において、直線(a)は、測定で得られた分散値を直線近似したもので、分散値D[ps/nm/km]と距離z[km]が、D=3.5−0.9zの式で表せる関係にある。一方、曲線(b)は、D=3.25×10-0.1zの式で表せる関数であり、Dの値が減少する割合は、1dB/kmである。つまり、図69から、ファイバの分散値は長さに対してほぼ直線的に減少しているが、距離が短いために指数関数でも近似することができ、その際の減少の割合は1dB/kmであり、ファイバの損失値の減少する割合である1dB/kmと一致しているとみなせる。伝搬距離に対して、ファイバ損失による光電力の減衰量と、分散値の減衰量がつりあっている場合、伝送系は無損失と等価であるとみなすことが出来るため(K. Tajima, “Compensation of soliton broadening in nonlinear optical fibers with loss,”Opt. Lett., vol. 12, pp. 54-56, 1987.)、このファイバでは基本ソリトンが1.6kmの実効距離にわたって、無損失でファイバを伝搬していることと等価である。図67における雑音増幅は、繰り返し特性の極めて高い光パルス列の離散スペクトルによる、パラメトリックプロセスに起因するものである。Duty比(=パルスの半値幅÷パルス間隔)が大きい場合(0.2以上)、光ソリトン列は無損失で伝搬されるため、増幅された雑音のピーク利得は、Duty比と伝搬距離のみで決定される。
図64は、雑音増幅のピーク利得を、ビットレートと伝搬距離に対して数値計算により求めたものであり、パルス幅1psのソリトン列が、雑音とともにファイバ(分散値3[ps/nm/km]、非線形定数20[1/km/W])を伝搬することを想定している。この場合の分散距離は0.1kmと計算され、図中の距離Lは、分散距離に対する比Zに変換され、雑音増幅利得はDuty比とZのみで決定される。例えば、繰り返し周波数を160GHz(duty比0.16)とし、そのときの雑音増幅を15dB以下に抑えたい場合、ソリトンが伝搬可能な最大距離は、図64より0.5km、すなわち分散距離の5倍までと判断できる。雑音増幅利得がDuty比と分散距離で規格化された距離の二つで決定されるという事実は、任意の物理スケールおよび、初期ソリトン電力に対して微小とみなせる任意の初期雑音電力の場合において真である。
一方、Duty比が大きくなると、雑音増幅の様子は、ソリトン列の隣接パルス間位相差に依存する。図65は、ファイバとパルスについて前項と同様のパラメータであり、繰り返し周波数を320GHz、伝搬距離を1kmとおいた場合の出力パルス列のスペクトルを数値計算によって算出したものである。明らかに、同相パルス列よりも、隣接パルス間位相差がπであるCS−RZパルス列の方が、雑音増幅が抑圧されているのがわかる。
したがって、繰り返し特性がよいソリトン列を伝搬させることを考える場合、CS−RZ列を採用すると、雑音増幅が抑圧されることがわかる。なお図65の計算結果は、入力パルス列として繰り返し周波数が160GHz、パルス幅を2psとし、伝搬距離を4kmとした場合についても、同様の結果が得られる。
以上、再生装置の詳細を示してきた。上述したように、これらは、主に光ファイバの非線形効果が活用されるデバイス及びそれらの組合せである。一般に、光非線形効果は入力光偏波に依存する為、このようなデバイスに使用するファイバの偏波保持化によってデバイスの高性能化、および高安定化が図られる。その一形態を図66に示す。ポラライザ702と偏波保持ファイバ(PMF)704とからなる構成である。
入力光はポラライザ702によって単一偏波成分のみが通過し、PMF704に入力される。ポラライザ702の通過偏波は、PMF704に対して最適化されている。ポラライザ702でのロスを低減化する為、ポラライザ702の前に偏波コントローラ706を配置し、その偏波コントローラ706によって入力光偏波状態を最適化するのが好ましい。以上のような非線形デバイスのPMの適正化は、性能向上をもたらすだけでなくデバイスの小型化にも有効である。PMF704は、ファイバ曲げ誘起のロスや複屈折の影響が小さい為、ファイバを巻くボビンの径の低減化が可能となる。ボビン小型化の結果としてデバイス寸法も小型化される。
したがって、本発明の波長分割多重光再生システム及び波長分割多重光再生方法によれば、波長分割多重光通信システムにおける波長分割多重光の伝送速度を、例えばビットレート40Gbit/sを超えて高めることが可能であると同時に、波長分割多重光再生システムの小型化及び省電力化が可能である。
更に、本発明の波長分割多重光再生システムを備えた中継局を多段通過した場合にあっては、各中継局で波長分割多重光が確実に再生されることから、波長分割多重光の信号強度、波形、及びタイミング等の品質は常に維持される。その結果、本発明によれば、超長距離間の光通信システムを実現可能である。
よって、本発明の波長分割多重光再生システム及び波長分割多重再生方法の通信産業における利用価値は極めて大である。