JP2010018733A - 環式ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法 - Google Patents

環式ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
結晶化度の低い(融解熱量が20J/g以下)、もしくは実質的に結晶性を有さない環式ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む実質的に非晶性の環式ポリアリーレンスルフィド混合物であって、融解熱量が20J/gを越える結晶性の環式ポリアリーレンスルフィド混合物をその融解ピーク温度以上に加熱した後に冷却することで製造する。
【選択図】なし

Description

本発明は環式ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法に関する。より詳しくは結晶化度の低い、もしくは実質的に結晶性を有さない環式ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法に関する。
芳香族環式化合物はその環状であることから生じる特性に基づく高機能材料や機能材料への応用展開可能性、たとえば包接能を有する化合物としての特性や、開環重合による高分子量直鎖状高分子の合成のための有効なモノマーとしての活用など、その構造に由来する特異性で近年注目を集めている。環式ポリフェニレンスルフィド(以下、ポリフェニレンスルフィドをPPSと略する場合もある)に代表される環式ポリアリーレンスルフィド(以下、ポリアリーレンスルフィドをPASと略する場合もある)も芳香族環式化合物の範疇に属し、上記同様に注目に値する化合物である。
環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法としては、たとえばジアリールジスルフィド化合物を超希釈条件下で酸化重合する方法が提案されている(たとえば特許文献1参照。)。この方法では反応後に得られた反応溶液をメタノールに滴下することで環式PASを得る方法が開示されており、環状ヘキサ(チオ−1,4−フェニレン)(以下、環式ポリフェニレンスルフィド6量体と呼称する場合もある)が得られることが開示されている。この方法で得られる環式ポリアリーレンスルフィドである環状ヘキサ(チオ−1,4−フェニレン)の熱的特性については非特許文献1に開示されており、これによればこの環式PASは209℃に融解ピークを有し、この融解熱量は46J/gであり極めて高結晶性であることが開示されている。
環式ポリアリーレンスルフィドとして環式ポリフェニレンスルフィド6量体を得る別の方法として、架橋タイプのポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略する場合もある)樹脂からクロロホルムを抽出溶媒としてソックスレー抽出を行い、この抽出液を室温まで冷却した際の白色析出物として純度99.9%のシクロヘキサ(p−フェニレンスルフィド)を得る方法が開示されている(例えば特許文献2参照。)。この方法で得られる高純度環式ポリフェニレンスルフィド6量体の熱的特性については非特許文献2に開示されているとおり、その融解ピーク温度は348℃と極めて高温であり、従って融解熱量も20J/gを大幅に超えるものと推測される。また、単一の繰り返し単位数を有する環式ポリフェニレンスルフィドの熱的特性については、環式ポリフェニレンスルフィド4量体、5量体、7量体、8量体につき、それぞれ296−298℃、257−259℃、328℃、305℃と極めて高い融解ピーク温度を有することが開示されている(例えば非特許文献3及び4参照。)。一般に同一の繰り返し構造を有するホモオリゴマーやホモポリマーの融点は、その結晶化度に依存することが知られており、融点が高いほど融解熱量は増大する。ここで一般的なポリフェニレンスルフィドの融解ピーク温度は約280℃であり、その融解熱量は30〜50J/g程度であるため、前記単一の繰り返し数を有する環式ポリフェニレンスルフィドの高い融解ピーク温度はこれらが極めて結晶性が高く融解熱量も20J/gを大幅に越えることを示しているといえる。またこの様な環式PASは溶融加工が極めて困難という難点も有する。
環式ポリアリーレンスルフィドの他の製造方法として、4−ブロモチオフェノールの銅塩をキノリン中の超希釈条件下で加熱する方法が開示されている。この方法では反応後に得られた反応液から溶媒を留去することで生成物の濃厚溶液を得た後、これを含水メタノールに滴下、次いで塩酸水溶液及び蒸留水で精製することで固形分を回収し、この固形分のクロロホルム可溶分をメタノールを用いて再沈殿回収し、さらに酢酸エチルでリニアーオリゴマーを溶解除去することで環状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーを得ている。また、この方法で得られる環状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーは環状ポリフェニレンスルフィドの4核体、5核体、6核体、及びそれ以上の核体数のものをそれぞれ20%、40%、20%、20%含む混合物であること、またこの混合物は217℃に融点を有し、その融解潜熱は35.0J/gであることが開示されている(例えば特許文献3参照。)。
また、上記同様に環式ポリアリーレンスルフィドの混合物を製造する方法として、ジハロゲン化芳香族化合物としてp−ジクロロベンゼンと、アルカリ金属硫化物として硫化ナトリウムを有機極性溶媒であるN−メチルピロリドン中で反応させ、ついで加熱減圧下で溶媒を除去後、水で洗浄する事で得られたポリフェニレンスルフィドを塩化メチレンで抽出して得られた抽出液の飽和溶液をメタノールに再沈殿することで沈殿物として環状フェニレンスルフィドオリゴマー混合物を得る方法が開示されている(たとえば特許文献4参照。)。この方法では7〜15量体の環状フェニレンスルフィドオリゴマー混合物が得られることが開示されているが、この方法も前述の環状ポリフェニレンスルフィドの4核体、5核体、6核体、及びそれ以上の核体数のものを含む混合物と同じ再沈殿法を用いて環状フェニレンスルフィドオリゴマー混合物を得ているため、これもまた高い融解ピーク温度と20J/gを越える融解熱量を有していることが明らかである。
すなわち従来技術で得られる環式ポリアリーレンスルフィドは高い結晶性を有し、高い融解ピーク温度と20J/gを越える融解熱量を有するものであり、これを溶融させて加工する際には高温を要するものであった。この高い加工温度は加工時の発生ガスやエネルギー使用量増大を増長させるのみならず、環式ポリアリーレンスルフィドを他の材料、例えば汎用プラスチックやポリアミド、ポリエステルに代表されるエンプラ類と混合する際にこれらプラスチック材料の劣化も増長させうる。従って、結晶性が低く、融解ピーク温度が低く、融解熱量の小さい環式ポリアリーレンスルフィドが望まれていた。
特許第3200027号公報 (特許請求の範囲) 特開平10−077408号公報(第6頁) 米国特許第5869599号公報 (第14頁) 特開平05−163349号公報 (第7頁) macromolecules,vol.30,No.15,p.4503,1997 Bull.Acad.Sci.USSR,36,8,p.1770 Tetrahedron Letters,vol.23,No.4,p.374 Bull.Acad.Sci., vol.39,p.763-766,1990
本発明は上記従来技術の課題を解決した、結晶化度の低い、もしくは実質的に結晶性を有さない環式ポリアリーレンスルフィドを提供することおよびその製造方法を提供することを課題とする。
上記課題に対し本発明は、
1.一般式(1)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィド混合物であって、示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が20J/g以下であることを特徴とする環式ポリアリーレンスルフィド、
Figure 2010018733
(mは4〜50の整数。mは4〜50の混合物でも良い)
2.環式ポリアリーレンスルフィド混合物の含む環式ポリアリーレンスルフィドに対するm=6の環式PASの含有量が50重量%未満であることを特徴とする第1項に記載の環式ポリアリーレンスルフィド、
3.環式ポリアリーレンスルフィド混合物に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドのうち一般式(1)のmが4〜12の環式ポリアリーレンスルフィドの総量を100%とした場合に、mが5〜8の環式ポリアリーレンスルフィドをそれぞれ5%以上含むことを特徴とする第1項または第2項に記載の環式ポリアリーレンスルフィド、
4.示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が10J/g以下であることを特徴とする第1項から第3項のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィド、
5.示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際に融解ピークが実質的に認められないことを特徴とする第1項から第3項のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィド、
6.前記一般式(1)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィド混合物であって、示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が20J/gを越える環式ポリアリーレンスルフィド混合物をその融解ピーク温度以上に加熱した後に冷却することを特徴とする第1項から第5項のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法、
7.環式ポリアリーレンスルフィド混合物に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド含有量の減少率が加熱前後で10%以下であることを特徴とする第6項に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法、
8.加熱の上限温度が320℃以下であることを特徴とする請求項6または7に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法、に関するものである。
本発明によれば、結晶化度の低い環式ポリアリーレンスルフィドおよび/または実質的に結晶性を有さない環式ポリアリーレンスルフィドを提供することおよびその製造方法を提供することができる。
以下に、本発明実施の形態を説明する。
(1)環式ポリアリーレンスルフィド
本発明のポリアリーレンスルフィドは、下記式(A)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィド混合物であって、示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が20J/g以下の環式ポリアリーレンスルフィドである。
ここで、本発明における環式ポリアリーレンスルフィドをより詳細に説明すると、式−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物であり、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(A)のごとき化合物である。
Figure 2010018733
ここでArとしては式(B)〜式(M)などであらわされる単位を例示できるが、なかでも式(B)〜式(D)が好ましく、式(B)及び式(C)がより好ましく、式(B)が特に好ましい。
Figure 2010018733
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
なお、環式ポリアリーレンスルフィドにおいては前記式(B)〜式(M)などの繰り返し単位をランダムに含んでも良いし、ブロックで含んでも良く、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式ポリアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
Figure 2010018733
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)が挙げられる。
環式ポリアリーレンスルフィドの前記(A)式中の繰り返し数mは4〜50であって、4〜25が好ましく、4〜20が更により好ましい。mがこの様な範囲の環式PASは加熱した際に流動化する温度が低くなる傾向にあるため、環式PASを成形加工する際や、他の樹脂と溶融混練する際に加工温度を低くできるとの観点で有利となる。また、mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドの性質が、後述する線状ポリアリーレンスルフィドの性質に類似してくる傾向にあり、mが大きい環式ポリアリーレンスルフィドはmが小さなものに比べて結晶化し易くなる。従って、本発明の特長である融解熱量が20J/g以下の環式ポリアリーレンスルフィドを得るためにはmが前記範囲であることが好ましい。また、本発明の環式ポリアリーレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低く、融解熱量も小さくなる傾向があるため好ましい。
また、本発明の環式ポリアリーレンスルフィドは前記式(A)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィド混合物であって、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上含むものである。環式ポリアリーレンスルフィド混合物に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの上限値に特に制限は無いが、98重量%以下が好ましい範囲として例示できる。ここで環式ポリアリーレンスルフィド混合物における環式ポリアリーレンスルフィド以外の化合物は後述する線状ポリアリーレンスルフィドであることが特に好ましい。
上記のように本発明の環式ポリアリーレンスルフィドは環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィド混合物であるが、この環式ポリアリーレンスルフィド混合物に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの総量に対する前記式(A)のm=6の環式PASの含有量は50重量%未満であることが好ましく、40重量%未満がより好ましく、30重量%未満がさらに好ましい(m=6の環式PAS(重量)/(環式PAS混合物(重量)×100)。前述した特許文献2に開示されている方法、すなわち架橋タイプのPPSをソックスレー抽出し、これで得られた抽出液を冷却して固形分を得る方法、すなわち「再結晶」により環式PPSを得る方法においては純度99.9%のシクロヘキサ(p−フェニレンスルフィド)(m=6の環式PPS)を得る方法が開示されている。このm=6の環式PPSは非特許文献2によれば348℃に融解ピーク温度を有するとされ、これはこのm=6の環式PPSが極めて安定な結晶構造を有し、且つ結晶化もし易いためと考えられる。またこの安定な結晶構造を反映し融解熱量も20J/gを大幅に越える80J/g程度となり、この様な傾向はm=6以外の環式PPS単体でも当てはまることが非特許文献3および4からも明らかである。従ってこのような環式PASを加工する際には極めて高い加工温度が必要となるため、後述の環式PAS製造方法における溶融加工温度をより低い温度にしうるとの観点から本発明の環式PAS混合物においては、特に前記式(A)のm=6の環式PASの含有量を先述の範囲とすることが好ましい。同様に後述の環式PAS製造方法における溶融加工温度をより低い温度にしうるとの観点から、本発明では環式PASとして異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物を用いることが好ましいことは前述したとおりであるが、環式PAS混合物に含まれる環式PASのうち前記式(A)のmが4〜12の環式PASの総量を100%とした場合に、mが5〜8の環式PASをそれぞれ5%以上含む環式PAS混合物を用いることが好ましく、mが5〜8の環式PASをそれぞれ7%以上含む環式PAS混合物を用いることがより好ましい。このような組成比の環式PAS混合物は特に融解ピーク温度が低くなり、且つ融解熱量も小さくなる傾向にあり溶融加工性の面で特に好ましい。なおここで、環式PAS混合物における環式ポリアリーレンスルフィドの総量に対する繰り返し数mの異なる環式PASの含有率は、環式PAS混合物をUV検出器を具備した高速液体クロマトグラフィーで成分分割した際に環式PASに帰属される全ピーク面積に対する、所望するm数を有する環式PAS単体に帰属されるピーク面積の割合として求めることができる。なお、この高速液体クロマトグラフィーで成分分割された各ピークの定性は、各ピークを分取液体クロマトグラフィーで分取し、赤外分光分析における吸収スペクトルや質量分析を行うことで可能である。
本発明の環式ポリアリーレンスルフィドの特長は、環式ポリアリーレンスルフィドを示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が20J/g以下の環式ポリアリーレンスルフィドであって、好ましくは融解熱量が10J/g以下、さらに好ましくは融解ピークが実質的に認められないことである。なお本発明においては、微少な融解ピークが検出されてもその融解熱量が1J/g以下の場合には、融解ピークが実質的に認められないとみなす。一般に室温にて固形状の物質をDSCにて昇温した際に吸熱ピークが観察される場合、その吸熱ピーク温度近傍で測定対象物質は固体状態から液状に転移、すなわち融解したと解釈することができ、融解ピーク以下で形成していた結晶構造が融解ピーク温度以上になることで無定型状になったと解釈できる。またこの吸熱ピークの面積からは融解に必要とされる熱量、すなわち融解熱量が算出される。ここで従来技術によって製造される環式ポリフェニレンスルフィドに代表される環式アリーレンスルフィドは、固体状態において結晶構造を形成しているため上記のDSC測定において200℃以上の融解ピーク温度を有し、その融解熱量は20J/gを越えることが知られている。この様な環式アリーレンスルフィドは融解ピーク温度未満ではその全量または一部が未融解の固体状で存在することになる。従って融解ピーク温度未満で均一な状態とはなり得ず、例えば環式アリーレンスルフィドの融解ピーク温度未満で均一状態をとりうる他の成分(例えば樹脂)と混合しようとした場合に、均一な組成物が得られないことになる。これに対し本発明の環式アリーレンスルフィドのように融解熱量が20J/g以下、好ましくは融解熱量が10J/g以下、さらに好ましくは融解ピークが実質的に認められない環式アリーレンスルフィドは低温で均一状態を取り得るため他の成分と均一な組成物を得られやすいという特長を有する。より詳しくは本発明の環式アリーレンスルフィドは非晶性であって、ガラス転移温度を超えた温度であれば流動性を発現するため、極めて低温で均一状態をとりうるという特長を有する。ここで例えばパラフェニレンスルフィドを構成単位とする環式ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度は70〜100℃に存在するため、この温度以上で流動性を発現するという優れた特長を有する。
(2)線状ポリアリーレンスルフィド
本発明における線状ポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモポリマーまたは線状のコポリマーであり、Arとしては前記式(B)〜式(M)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(B)〜式(D)が好ましく、式(B)及び式(C)がより好ましく、式(B)が特に好ましい。
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(N)〜式(Q)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
Figure 2010018733
また、本発明における線状PASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
Figure 2010018733
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)の他、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンが挙げられる。
本発明における各種線状PASの溶融粘度に特に制限は無いが、一般的な線状PASの溶融粘度としては0.01〜1000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が例示でき、0.01〜500Pa・sの範囲が入手の容易性の観点で好ましい範囲といえる。また、線状PASの分子量にも特に制限は無く、一般的なPASの重量平均分子量としては200〜1,000,000が例示できる。なお、本発明の環式ポリアリーレンスルフィド混合物における環式ポリアリーレンスルフィド以外の化合物は線状ポリアリーレンスルフィドであることが特に好ましいことは前述したとおりであるが、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる線状PASは分子量が200〜5,000のものが好ましく、300〜2,500のものが特に好ましい。この好ましい分子量の線状PASは、通常の線状PASよりも分子量が小さいため、結晶構造をとりにくいという特性を有するため、この様な線状PASが環式PAS混合物に含まれても本発明の特徴である融解熱量が20J/g以下の環式PASを得られやすい傾向にある。
このような線状PASの製造方法は特に限定はされず、いかなる製法によるものでも使用することが可能であるが、例えば特公昭45−3368号公報,特公昭52−12240号公報,特公昭63−3375号公報に代表される、少なくとも1個の核置換ハロゲンを含有する芳香族化合物またはチオフェンとアルカリ金属モノスルフィドとを極性有機極性溶媒中で高められた温度において反応せしめる方法、好ましくはスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とを有機極性溶媒中で接触させることによって得ることができる。
また、一般的に環式化合物の製造は目的物である環式化合物の生成と線状化合物の生成の競争反応であるため、環式PASの製造を目的とする方法においては、目的物の環式PAS以外に線状PASが少なからず副生物として生成する。従って環式PASを得ようとする際には少なからず副生物である線状PASが混合する傾向にある。ここで環式PASのみを単離するためには極めて厳密な精製条件の制御が必要となる場合が多く、また単離できたとしても前述した非特許文献1から4に開示されているとおり、その結晶性は極めて高く、融点の高い環式PASが得られる傾向にある。これに対して本発明で用いる環式PASは環式PASを50%以上含む混合物であれば良く、この様な混合物は極めて厳密な精製条件を必要としないという観点で優位な方法といえる。
(3)環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法
本発明の環式ポリアリーレンスルフィドは、示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が20J/g以下であって、好ましくは融解熱量が10J/g以下、さらに好ましくは融解ピークが実質的に認められないことを特長とするが、この様な環式ポリアリーレンスルフィドは例えば前記式(A)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィド混合物であって、示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が20J/gを越える環式ポリアリーレンスルフィド混合物をその融解ピーク温度以上に加熱した後に冷却することによって製造することができる。
本発明の環式PASの製造におけるより好ましい加熱温度は、原料として用いる環式PAS混合物の融解ピーク温度よりも20℃以上高い温度が好ましく、30℃以上高い温度がより好ましく、40℃以上高い温度が更に好ましく、例えば融解ピークがブロードな場合には50℃以上高い温度を採用すること好ましい方法といえる。ここで原料として用いる環式PAS混合物の融解ピーク温度は前述のDSC測定により見積もることができるが、一般に融解温度には幅があり、ピーク温度以上でも融解に伴う吸熱が継続する傾向があるため、均一に溶解するためには前記好ましい加熱温度を採用することが望ましい。また加熱における上限温度は加熱に処する時間にも依存するため一意的には限定できないが、320℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、290℃以下が更に好ましい。この好ましい上限温度以下では加熱時における環式PASの変質が起こりにくい傾向にある。また、反応は一定温度で行う1段反応、段階的に温度を上げていく多段階反応、あるいは連続的に温度を変化させていく形式の反応のいずれでもかまわない。
また、加熱時間は使用する原料の環式PAS混合物の組成、融解ピーク温度、融解熱量およびこれら原料の量あるいは加熱温度にも依存するので一概に規定できないが、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましい。一方で加熱時間の上限は30分以内が好ましく、20分以内がより好ましい。この好ましい時間とすることで、原料の環式PASを均一に溶解することができ、また、加熱時の環式PASの変質も起こりにくくできる傾向にある。また、加熱の際には原料の環式PAS以外の成分が存在しないことが好ましく、例えば各種溶媒等が存在しない状態で加熱を行うことが望ましい。
原料の環式PASを加熱し、好ましくは融解させ均一状態の融液にした後に冷却することで本発明の目的とする融解熱量が20J/g以下の環式PASを得る。ここで冷却は環式PASが固体状態になる温度まで冷却することが好ましく、得られた環式PASを回収し易くなる。ここで冷却は、環式PASのガラス転移温度以下まで行うことが好ましく、具体的には100℃以下まで冷却することが好ましく、70℃以下がより好ましく、50℃以下まで冷却することが更に好ましい。この好ましい温度以下まで冷却することで環式PASが固体状になるためその後の回収操作が容易となる。この冷却の方法に特に制限は無いが、環式PASの融液を一定速度で強制冷却する方法や、自然放冷する方法、融液を例えば室温近傍の水に吐出して室温近傍まで急冷する方法などを例示できる。ここで用いた環式PASの性質が結晶化し易いものである場合には急冷する方法が好ましいが、前述した本発明において好ましい環式PAS(例えば前記式(A)における繰り返し単位mの組成)は、融液から冷却した際に結晶構造をとりにくい傾向にあるため必ずしも急冷としなくてもよい傾向にある。
上記環式PASの製造法、すなわち上記一連の加熱から冷却までの操作は、バッチ方式、及び連続方式など公知の方式を採用することができる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下や減圧条件下で行うことが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下もしくは減圧条件下が好ましい。
また、本発明の環式PASの製造においては、融解熱量が20J/gを越える環式PAS混合物(以下cPAS1と称する場合もある)を原料としてその融解ピーク温度以上に加熱した後に冷却することによって融解熱量が20J/g以下の環式PAS混合物(以下cPAS2と称する場合もある)を得るが、この加熱前後において環式PAS混合物に含まれる環式PAS含有量の減少率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。すなわち原料であるcPAS1が含む環式PAS含有量を100%とした場合に、加熱後に得られたcPAS2が含む環式PAS含有量が90%を越えることが好ましく、95%を越えることがより好ましい。ところで、環式PASの用途の一つとして環式PASを開環重合することで線状PASを得ることが例示できるが、本発明者らがこの開環重合の挙動について鋭意検討した結果、環式PASを加熱することで開環重合が進行することを見出した。ここで、本発明の環式PASの製造法では原料のcPAS1を加熱するが、この加熱温度が環式PASの開環重合が進行する温度である場合、原料のcPAS1が含む環式PASの一部が開環重合し、加熱・冷却後に得られるcPAS2が含む環式PASが原料のcPAS1よりも減少する場合がある。この場合、環式PASの開環重合により生成した線状PASは重量平均分子量で1万以上の高分子量体になる傾向が強く、環式PASとは性質が大きく異なる傾向がある。例えば環式PASが環式PPSの場合、開環重合により高分子量の線状PPSが生成することになる。高分子量の線状PPSは高融点をもつ結晶性樹脂であり耐薬品性にも優れるため、このような線状PPSが環式PASに含まれると環式PASを融解させようとする場合に未融解物として残在したり、環式PASを溶剤に溶解させる際に未溶解物として残存する場合がある。従ってこの様な環式PASの加熱による開環重合を避けるとの観点でもcPAS1を加熱する温度は前記した好ましい温度範囲が望ましく、またcPAS1の加熱後の環式PAS含有量の減少率が10%以下であることが望ましい。
なおここで本発明のポリアリーレンスルフィドの原料となる環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィド混合物はその融解熱量が20J/gを越えるものであれば良い。この様な環式ポリアリーレンスルフィドの調製法に特に制限はなく、例えば前述した従来技術によって得られる環式ポリアリーレンスルフィドを用いることも可能であり、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物のいずれでも用いることが可能であるが、例えば国際公開公報WO2007/034800に開示されている以下の方法により得ることも可能である。
(a)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合することで、80meshふるい(目開き0.125mm)で分離される顆粒状PAS樹脂、重合で生成したPAS成分であって前記顆粒状PAS樹脂以外のPAS成分(ポリアリーレンスルフィドオリゴマーと称する)、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、ここに含まれるポリアリーレンスルフィドオリゴマーを分離回収し、これを精製操作に処すことで環式PAS混合物を得る方法。
(b)少なくともポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤および有機極性溶媒を含有する混合物を加熱してポリアリーレンスルフィド樹脂を重合して、重合終了後に公知の方法によって有機極性溶媒の除去を行い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む混合物を調製し、これを公知の方法で精製することで得られる環式PASを含むPAS樹脂を得て、これを実質的にPAS樹脂は溶解しないが環式PASは溶解する溶剤を用いて抽出して環式PAS混合物を回収する方法。
(4)本発明の環式ポリアリーレンスルフィドの用途
(a)本発明の環式PASを配合した樹脂組成物
本発明の環式PASは前記(1)に示したごとき優れた特性を有するため各種樹脂に配合して用いることも容易である。このような環式PASを配合した樹脂組成物は、溶融加工時のすぐれた流動性を発現する傾向が強く、また滞留安定性にも優れる傾向にある。この様な特性、特に流動性の向上は、樹脂組成物を溶融加工する際の加熱温度が低くても溶融加工性に優れるという特徴を発現するため、射出成形品や繊維、フィルム等の押出成形品に加工する際の溶融加工性の向上をもたらす点で大きなメリットとなる。環式PASを配合した際にこの様な特性の向上が発現する理由は定かではないが、環式PASの構造の特異性、すなわち環状構造であるために通常の線状化合物と比較してコンパクトな構造をとりやすいため、マトリックスである各種樹脂との絡み合いが少なくなりやすいこと、各種樹脂に対して可塑剤として作用すること、またマトリックス樹脂どうしの絡み合い抑制にも奏効するためと推測している。
環式PASを各種樹脂に配合する際の配合量に特に制限は無いが、各種樹脂100重量部に対して本発明の環式PASを0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部配合することで顕著な特性の向上を得ることが可能である。
また、上記樹脂組成物には必要に応じて更に繊維状および/または非繊維状の充填材を配合することも可能であり、その配合量は前記各種樹脂100重量部に対して0.5〜400重量部、好ましくは0.5〜300重量部、より好ましくは1〜200重量部、更に好ましくは1〜100重量部の範囲が例示でき、これにより優れた流動性を維持しつつ機械的強度が向上できる傾向にある。充填剤の種類としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などのいずれの充填剤も使用することができる。これら充填剤の好ましい具体例としてはガラス繊維、タルク、ワラステナイト、およびモンモリロナイト、合成雲母などの層状珪酸塩が例示でき、特に好ましくはガラス繊維である。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填剤はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
また、樹脂組成物の熱安定性を保持するために、フェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の耐熱剤を含有せしめることも可能である。かかる耐熱剤の配合量は、耐熱改良効果の点から前記各種樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系化合物を併用して使用することは、特に耐熱性、熱安定性、流動性保持効果が大きく好ましい。
さらに、前記樹脂組成物には以下のような化合物、すなわち、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重宿合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物はいずれも前記各種樹脂100重量部に対して20重量部未満、好ましくは10重量部以下、更に好ましくは1重量部以下の添加でその効果が有効に発現する傾向にある。
上記のごとき環式PASを配合してなる樹脂組成物を製造する方法は特に限定されるものではないが、例えば環式PAS、各種樹脂および必要に応じてその他の充填材や各種添加剤を予めブレンドした後、各種樹脂および環式PASの流動化温度以上において一軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの通常公知の溶融混合機で溶融混練する方法、溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などが用いられる。ここで本発明の環式PASは融解熱量が小さく、結晶性が低いという特徴を有するため、公知の環式PASと比べて大幅に低い温度で流動化が可能であり、このことは上記溶融混練の際に特に好ましい特徴といえる。
ここで環式PASを配合する各種樹脂に特に制限は無く、結晶性樹脂および非晶性樹脂の熱可塑性樹脂、また熱硬化性樹脂にも適用が可能である。
ここで結晶性樹脂の具体例としては例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリイミド樹脂およびこれらの共重合体などが挙げられ、1種または2種以上併用してもよい。中でも、耐熱性、成形性、流動性および機械特性の点で、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。また、得られる成形品の透明性の面からはポリエステル樹脂が好ましい。各種樹脂として結晶性樹脂を用いる場合は、上述した流動性の向上の他に結晶化特性も向上する傾向がある。また、各種樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることも特に好ましく、この場合、流動性の向上と共に、結晶性の向上、さらにはこれらが奏効した効果として射出成形時のバリ発生が顕著に抑制されるという特徴が発現しやすい傾向にある。
非晶性樹脂としては非晶性を有する溶融成形可能な樹脂であれば、特に限定されないが、耐熱性の点で、ガラス転移温度が50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。上限は、特に限定されないが、成形性などの点から300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。なお、本発明において、非晶性樹脂のガラス転移温度は、示差熱量測定において非晶性樹脂を30℃〜予測されるガラス転移温度以上まで、20℃/分の昇温条件で昇温し1分間保持した後、20℃/分の降温条件で0℃まで一旦冷却し、1分間保持した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観察されるガラス転移温度(Tg)を指す。この具体例としては、非晶性ナイロン樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート樹脂、ABS樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、およびポリ(メタ)アクリレート共重合、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種が例示でき、1種または2種以上併用してもよい。これら非晶性樹脂の中でも、特に高い透明性を有するポリカーボネート(PC)樹脂、ABS樹脂の中でも透明ABS樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、およびポリ(メタ)アクリレート共重合、ポリエーテルスルホン樹脂を好ましく使用することができる。各種樹脂として非晶性樹脂を用いる場合には、前述の溶融加工時の流動性向上に加えて、透明性に優れる非晶性樹脂を使用した場合においては、高い透明性を維持させることができるという特徴を発現できる。ここで、非晶性樹脂組成物に高い透明性を発現させたい場合には、環式PASとして融解熱量が10J/g以下のものを用いることが好ましく、より好ましくは融解ピークが実質的に認められないものを用いることが好ましい。この様な環式PASを用いることで、非晶性樹脂と溶融混練する際に環式PASが溶融分散し易くなるため、樹脂中の凝集物が低減したり、透明性が向上する傾向にあるため効果的である。
上記で得られる、各種樹脂に環式PASを配合した樹脂組成物は通常公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用できる。またこれにより得られた各種成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。また、上記樹脂組成物およびそれからなる成形品は、リサイクルすることが可能である。例えば、樹脂組成物およびそれからなる成形品を粉砕し、好ましくは粉末状とした後、必要に応じて添加剤を配合して得られる樹脂組成物は、上記樹脂組成物と同じように使用でき、成形品とすることも可能である。
(b)環式PASの高重合度体への転化
本発明によって製造される環式PASは(1)に述べたごとき優れた特性を有するので、開環重合によりポリマーを得る際のプレポリマーとして好適に用いることが可能である。なおここでいうプレポリマーとは少なくとも本発明の環式ポリアリーレンスルフィドを含み、以下に例示する方法によりポリアリーレンスルフィドの高重合度体へ変換可能なもの、すなわちポリアリーレンスルフィドのプレポリマーであり、以下PASプレポリマーと称する場合もある。
環式PASの開環重合は環式PASの開環が起こり、高分子量体が生成する条件下で行えばよく、例えば本発明の環式PASを含むPASプレポリマーを加熱して高重合度体に転化させる方法が好ましい方法として例示できる。この加熱の温度は前記PASプレポリマーが流動化する温度以上であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限は無い。加熱温度がPASプレポリマーの流動化温度以上では分子量の高いPASを短時間で得やすくなる傾向がある。なお、PASプレポリマーが流動化する温度は、PASプレポリマーの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えばPASプレポリマーを示差走査型熱量計やレオメーターに代表される粘弾性測定機で分析することで把握することが可能である。なお、加熱温度が高すぎるとPASプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとポリアリーレンスルフィドプレポリマー間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるPASの特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。このような好ましくない副反応の顕在化を抑制しやすい加熱温度としては100〜400℃が例示でき、好ましくは150〜380℃、より好ましくは200〜360℃である。一方、ある程度の副反応が起こっても差し障り無い場合には、250〜450℃、好ましくは280〜420℃の温度範囲も選択可能であり、この場合には極短時間で高分子量体への転化を行えるという利点がある。
前記加熱を行う時間は使用するPASプレポリマーにおける環式PASの含有率やm数、及び分子量などの各種特性、また、加熱の温度等の条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間としては0.05〜100時間が例示でき、0.1〜20時間が好ましく、0.1〜10時間がより好ましい。0.05時間未満ではPASプレポリマーのPASへの転化が不十分になりやすく、100時間を超えると好ましくない副反応による得られるPASの特性への悪影響が顕在化する可能性が高くなる傾向にあるのみならず、経済的にも不利益を生じる場合がある。
また、PASプレポリマーには、加熱による高重合度体への転化に際して転化を促進する各種触媒成分を使用することも可能である。このような触媒成分としてはイオン性化合物やラジカル発生能を有する化合物が例示できる。イオン性化合物としてはたとえばチオフェノールのナトリウム塩やリチウム塩等、硫黄のアルカリ金属塩が例示でき、また、ラジカル発生能を有する化合物としてはたとえば加熱により硫黄ラジカルを発生する化合物を例示でき、より具体的にはジスルフィド結合を含有する化合物が例示できる。なお、各種触媒成分を使用する場合、触媒成分は通常はPASに取り込まれ、得られるPASは触媒成分を含有するものになることが多い。特に触媒成分としてアルカリ金属及び/または他の金属成分を含有するイオン性の化合物を用いた場合、これに含まれる金属成分の大部分は得られるPAS中に残存する傾向が強い。また、各種触媒成分を使用して得られたPASは、PASを加熱した際の重量減少が増大する傾向にある。従って、より純度の高いPASを所望する場合および/または加熱した際の重量減少の少ないPASを所望する場合には、触媒成分の使用をできるだけ少なくする、好ましくは使用しないことが望まれる。従って、各種触媒成分を使用してPASプレポリマーを高重合度体へ転化する際には、PASプレポリマーと触媒成分を含む反応系内のアルカリ金属量が100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは30ppm以下更に好ましくは10ppm以下であって、なお且つ、反応系内の全イオウ重量に対するジスルフィド重量が1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、更に好ましくは0.1重量%未満になるように触媒成分の添加量を調整して行うことが好ましい。
PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常溶媒の非存在下で行うが、溶媒の存在下で行うことも可能である。溶媒としては、PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の阻害や生成したPASの分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。また、二酸化炭素、窒素、水等の無機化合物を超臨界流体状態として溶媒に用いることも可能である。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
前記、PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行っても良いし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限無く行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これによりPASプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとPASプレポリマー間などで架橋反応や分解反応等の好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とはPAS成分が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下が更に好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい上限を越える場合は、架橋反応など好ましくない副反応が起こりやすくなる傾向にあり、一方好ましい下限未満では、反応温度によってはPASプレポリマーに含まれる分子量の低い環式ポリアリーレンスルフィドが揮散しやすくなる傾向にある。
前記したPASプレポリマーの高重合度体への転化は繊維状物質の共存下で行うことも可能である。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。繊維状物質存在下でPASプレポリマーの高重合度体への転化を行うことで、PASと繊維状物質からなる複合材料構造体を容易に作成する事ができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、PAS単独の場合に比べて、たとえば機械物性に優れる傾向にある。
ここで、各種繊維状物質の中でも長繊維からなる強化繊維を用いることが好ましく、これによりPASを高度に強化する事が可能になる。一般に樹脂と繊維状物質からなる複合材料構造体を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質のぬれが悪くなる傾向にあり、均一な複合材料ができなかったり、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここでぬれとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないようにこの流体物質と固体基質との物理的状態の良好且つ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質とのぬれは良好になる傾向にある。本発明のPASプレポリマーは融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、たとえばPASと比べて著しく低いため、繊維状物質とのぬれが良好になりやすい。PASプレポリマーと繊維状物質が良好なぬれを形成した後、本発明のPASの製造方法によればPASプレポリマーが高重合度体に転化するので、繊維状物質と高重合度体(ポリアリーレンスルフィド)が良好なぬれを形成した複合材料構造体を容易に得ることができる。
繊維状物質としては長繊維からなる強化繊維が好ましいことは前述したとおりであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性及び引張強度の良好な繊維があげられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。この内、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450Kgf/mm 、引張伸度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。長繊維状の強化繊維を用いる場合、その長さは、5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を複合材料として十分に発現させることが容易となる。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いてもかまわない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であっても使用可能である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
また、前記したPASプレポリマーの高重合度体への転化は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、たとえば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、たとえば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<融解ピーク温度および融解熱量の測定>
パーキンエルマー製DSC7を用いて環式PASの熱的特性を測定した。測定においては下記条件を用いた。
・50℃×1分 ホールド
・50℃から360℃へ昇温,昇温速度20℃/分(ここでの吸熱におけるピーク温度をを融解ピーク温度とする。またこの融解ピークの面積から融解に要した融解熱量を算出する。)
・360℃×1分 ホールド
・360℃から100℃へ降温,降温速度20℃/分
<環式ポリフェニレンスルフィドの組成測定>
環式ポリフェニレンスルフィドに含まれる異なる繰り返し単位数の環式ポリフェニレンスルフィドの比率は、HPLCを用いて定性定量分析を行なった。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)
また上記HPLC測定により成分分割した各ピークの定性は、成分分割した成分のマススペクトル分析、分取クロマトにより分割した各成分のMALDI−TOF−MSおよびGPCによる分子量情報より行い、環状4量体から12量体までの定性を行った。
<分子量測定>
環式PASの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
[参考例1]
ここでは国際公開公報WO2007/034800に開示されている方法により、DSC測定において融解ピークを発現し、この融解ピークから算出される融解熱量が20J/gを越える環式ポリアリーレンスルフィドを調製した例を示す。
撹拌機付きのステンレス製反応器1に48%水硫化ナトリウム水溶液1169kg(10kmol)、48%水酸化ナトリウム水溶液841kg(10.1kmol)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を1983kg(20kmol)、50%酢酸ナトリウム水溶液322kg(1.96kmol)を仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水1200kgおよびNMP26kgを留出した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次いで、約200℃まで冷却した後、内容物を別の攪拌機付きのステンレス製反応器2に移送した。反応器1にNMP932kgを仕込み内部を洗浄し、洗浄液を反応器2に移した。次に、p−ジクロロベンゼン1477kg(10.0kmol)を反応器2に加え、窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃まで昇温した。次いで200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、この温度で140分保持した。水353kg(19.6kmol)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、約80℃まで急冷し、スラリー(A)を得た。
このスラリー(A)を2623kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。80℃に加熱したスラリー(B)をふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(C)を得た。
スラリー(C)1000kgをステンレス製反応器に仕込み、反応器内を窒素で置換してから、撹拌しながら減圧下100〜150℃で約1.5時間処理して大部分の溶媒を除去した。
次いでイオン交換水1200kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、約70℃で30分撹拌してスラリー化した。このスラリーを濾過して白色の固形物を得た。得られた固形物にイオン交換水1200kgを加えて70℃で30分撹拌して再度スラリー化し、同様に濾過後、窒素雰囲気下120℃で乾燥したのち、80℃で減圧乾燥を行い、乾燥固形物を11.6kg得た。
この固形物の赤外分光分析における吸収スペクトルより、この固形物はフェニレンスルフィド単位からなるポリフェニレンスルフィド混合物であることがわかった。このポリフェニレンスルフィド混合物のGPC測定を行い、クロマトグラムを解析した結果、分子量5000以下の成分の重量分率は39%、分子量2500以下の成分の重量分率は32%であった。
上記で得られたポリフェニレンスルフィド混合物を10kg分取し、溶剤としてクロロホルム150kgを用いて、常圧還流下で1時間攪拌することでポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させた。ついで熱時濾過により固液分離を行い抽出液を得た。ここで分離した固形物にクロロホルム150kgを加え、常圧還流下で1時間攪拌した後、同様に熱時濾過により固液分離を行い、抽出液を得て、先に得た抽出液と混合した。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。
この抽出液スラリーを減圧下で処理する事で、抽出液重量が約40kgになるまでクロロホルムの一部を留去してスラリーを得た。次いでこのスラリー状混合液をメタノール600kgに撹拌しながら滴下した。これにより生じた沈殿物を濾過して固形分を回収し、次いで80℃で減圧乾燥することで白色粉末3.0kgを得た。
この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津製作所製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式ポリフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であって、環式ポリフェニレンスルフィドの重量分率は約94%、約6%は直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーと繰り返し単位数13以上の環式ポリフェニレンスルフィドの混合物であった。以上の分析結果から上記で得られた白色粉末は環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィドであることが分かった。以下この白色粉末を環式PAS混合物1と称する。
上記環式PAS混合物1のHPLC測定結果の解析より、この環式PAS混合物1に含まれる環式PASのうち繰り返し単位数が4〜12の環式PASの総量を100%とした場合の、繰り返し単位数が5,6,7及び8の環式PASの割合はそれぞれ12%,13%,28%及び15%であることがわかった。またGPC測定の結果、重量平均分子量は900であり、分子量2500以上の成分は含有していないことがわかった。
また、環式PAS混合物1のDSC測定の結果、融解ピーク温度は217℃、融解熱量は28J/gであることがわかった。
[実施例1]
攪拌機を具備したガラス製容器に参考例1で得られた融解熱量が20J/gを越える環式PAS混合物1を約5g仕込んだ。攪拌は停止したままフラスコ内を窒素置換した後、あらかじめ調温しておいたマントルヒーターにフラスコをセットして加熱を行った。加熱開始後約3分後、内容物の一部が液化し始めたので攪拌を開始した。加熱開始後約10分で内温が約280℃に到達した。この段階で内容物は透明な均一液状であり固形分は観察されなかった。280℃到達後、攪拌したまま5分間保持した後、マントルヒーターを取り外し攪拌を停止して約1.5時間かけて室温まで冷却した。
得られた固形物のDSC測定の結果、融解ピークは認められず、非晶性の環式PASが得られたことがわかった。またHPLC測定の結果、得られた非晶性環式PASに含まれる繰り返し単位数4〜12の環式PASの含有率は94%であり、加熱前との差は認められなかった。また、GPC測定でも加熱前の環式PAS混合物1との差異は認められなかった。
[実施例2]
280℃到達後の保持時間を1分とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた固形物のDSC測定の結果、248℃に微少な融解ピークが確認できたがその融解熱量は2J/gとごくわずかであることがわかり、ほぼ非晶性の環式PASが得られたことがわかった。またHPLC測定の結果、得られた非晶性環式PASに含まれる繰り返し単位数4〜12の環式PASの含有率は94%であり、加熱前との差は認められなかった。また、GPC測定でも加熱前の環式PAS混合物1との差異は認められなかった。
[実施例3]
加熱温度を260℃とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた固形物のDSC測定の結果、244℃に融解ピークが確認されたが、その融解熱量は8J/gと加熱前と比べて大幅に減少していることがわかった。またHPLC測定の結果、得られた非晶性環式PASに含まれる繰り返し単位数4〜12の環式PASの含有率は94%であり、加熱前との差は認められなかった。また、GPC測定でも加熱前の 環式PAS混合物1との差異は認められなかった。
[実施例4]
加熱温度を300℃とした以外は実施例1と同様に行った。
得られた固形物のDSC測定の結果、247℃に融解ピークが認められ、その融解熱量は2J/gであることがわかった。またHPLC測定の結果、得られた非晶性環式PASに含まれる繰り返し単位数4〜12の環式PASの含有率は92%であり、加熱前と比べて2%減少していることがわかった。また、GPC測定においてピーク分子量約5万にわずかながらピークが認められ、この条件ではわずかに環式PASの開環重合が進行し高分子量線状PASが生成していることがわかった。
[比較例1]
ここでは環式PASの加熱温度を、原料の環式PASの融解ピーク温度とした場合の例を示す。
加熱温度を200℃とした以外は実施例1と同様に行った。この場合、200℃到達時から200℃での保持終了までの間、内容物は不透明で不均一なスラリー状であった。
得られた固形物のDSC測定の結果、238℃に融解ピークが認められ、その融解熱量は22J/gであることがわかった。
実施例と本比較例から明らかなように、原料の環式PASを加熱する温度が、その融解ピーク温度以下の場合、融解熱量が20J/g以下の環式PASが得られないことがわかる。

Claims (8)

  1. 一般式(1)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィド混合物であって、示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が20J/g以下であることを特徴とする環式ポリアリーレンスルフィド。
    Figure 2010018733
    (mは4〜50の整数。mは4〜50の混合物でも良い)
  2. 環式ポリアリーレンスルフィド混合物の含む環式ポリアリーレンスルフィドに対するm=6の環式PASの含有量が50重量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の環式ポリアリーレンスルフィド。
  3. 環式ポリアリーレンスルフィド混合物に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドのうち一般式(1)のmが4〜12の環式ポリアリーレンスルフィドの総量を100%とした場合に、mが5〜8の環式ポリアリーレンスルフィドをそれぞれ5%以上含むことを特徴とする請求項1または2に記載の環式ポリアリーレンスルフィド。
  4. 示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が10J/g以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィド。
  5. 示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際に融解ピークが実質的に認められないことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィド。
  6. 前記一般式(1)で表される環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む環式ポリアリーレンスルフィド混合物であって、示差走査熱量計(DSC)にて50℃から360℃まで昇温速度20℃/分で測定した際の融解熱量が20J/gを越える環式ポリアリーレンスルフィド混合物をその融解ピーク温度以上に加熱した後に冷却することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  7. 環式ポリアリーレンスルフィド混合物に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド含有量の減少率が加熱前後で10%以下であることを特徴とする請求項6に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
  8. 加熱の上限温度が320℃以下であることを特徴とする請求項6または7に記載の環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
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