以下に、本発明実施の形態を説明する。
(1)スルフィド化剤
本発明で用いられるスルフィド化剤とは、ジハロゲン化芳香族化合物にスルフィド結合を導入できるものであれば良く、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化リチウムおよび/または硫化ナトリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。なお、水性混合物とは水溶液、もしくは水溶液と固体成分の混合物、もしくは水と固体成分の混合物のことをさす。一般的に入手できる安価なアルカリ金属硫化物は水和物または水性混合物であるので、このような形態のアルカリ金属硫化物を用いることが好ましい。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化リチウムおよび/または水硫化ナトリウムが好ましく、水硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。これらのアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物は水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができ、水和物または水性混合物が入手のし易さ、コストの観点から好ましい。
さらに、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめ水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。硫化水素は気体状、液体状、水溶液状のいずれの形態で用いても差し障り無い。
本発明において、スルフィド化剤の量は、脱水操作などによりジハロゲン化芳香族化合物との反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し下限が0.80モル以上であり、好ましくは0.85モル以上、より好ましくは0.95モル以上、さらに好ましくは1.005モル以上である。また、上限は1.50モル以下であり、好ましくは1.25モル、より好ましくは1.20モルの範囲が例示できる。スルフィド化剤として硫化水素を用いる場合にはアルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましく、この場合のアルカリ金属水酸化物の使用量は硫化水素1モルに対し2.0〜3.0モル、好ましくは2.01〜2.50モル、更に好ましくは2.04〜2.40モルの範囲が例示できる。ここでアルカリ金属水酸化物の使用量を上記範囲とすることにより高収率で環式PASが得られるが、上記範囲より多くても、また、少なくても生成した環式PASが分解しやすく収率は低下する傾向にある。
(2)ジハロゲン化芳香族化合物
本発明の環式PASの製造において使用されるジハロゲン化芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、1−ブロモ−4−クロロベンゼン、1−ブロモ−3−クロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、及び1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、1−メチル−2,5−ジクロロベンゼン、1,4−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、1,3−ジメチル−2,5−ジクロロベンゼン、3,5−ジクロロ安息香酸などのハロゲン以外の置換基をも含むジハロゲン化芳香族化合物などを挙げることができる。なかでも、p−ジクロロベンゼンに代表されるp−ジハロゲン化ベンゼンを主成分にするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。特に好ましくは、p−ジクロロベンゼンを80〜100モル%含むものであり、さらに好ましくは90〜100モル%含むものである。また、環式PAS共重合体を製造するために異なる2種以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
ジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.90から2.00モルの範囲であることが好ましく、0.92から1.50モルの範囲がより好ましく、0.95から1.20モルの範囲が更に好ましい。ジハロゲン化芳香族化合物の使用量を上記範囲とすることにより環式PASを高収率で得られるが、上記範囲より少ない場合には環式PASの収率が低下する傾向にあり、また、上記範囲より多い場合には低分子量の線状PASの生成量が増加し、後述の方法により環式PASを高純度で回収することが難しくなる傾向にある。
(3)有機極性溶媒
本発明の環式PASの製造においては反応溶媒として有機極性溶媒を用いるが、なかでも有機アミド溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、及びこれらの混合物などが、反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでもN−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。
本発明において環式PASの製造における反応溶媒として用いる有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤のイオウ成分1モルに対し1.25リットル以上であり、好ましくは1.5リットル以上、より好ましくは2リットル以上である。使用量の上限に特に制限はないが、より効率よく環式PASを製造するとの観点から、スルフィド化剤のイオウ成分1モルに対し50リットル以下とすることが好ましく、20リットル以下がより好ましく、15リットル以下が更に好ましい。なお、ここでの溶媒使用量は常温常圧下における溶媒の体積を基準とする。有機極性溶媒の使用量を多くすると、環式PAS生成の選択率が向上するが、多すぎる場合、反応容器の単位体積当たりの環式PASの生成量が低下する傾向に有り、更に、反応に要する時間が長時間化する傾向がある。環式PASの生成選択率と生産性を両立するとの観点で前記した有機極性溶媒の使用量範囲とする事が好ましい。なお、一般的な環式化合物の製造における溶媒の使用量は極めて多い場合が多く、本発明の好ましい使用量範囲では効率よく環式化合物を得られないことが多い。本発明では一般的な環式化合物製造の場合と比べて、溶媒使用量が比較的少ない条件下、即ち前記した好ましい溶媒使用量上限値以下の場合でも、効率よく環式PASが得られる。この理由は現時点定かではないが、本発明の方法では、反応混合物の還流温度を超えて反応を行うため、極めて反応効率が高く原料の消費速度が高いことが、環状化合物の生成に好適に作用しているものと推測している。ここで、反応混合物における有機極性溶媒の使用量とは、反応系内に導入した有機極性溶媒から、反応系外に除去された有機極性溶媒を差し引いた量である。
(4)環式ポリアリーレンスルフィド
本発明における環式ポリアリーレンスルフィドとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物であり、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(A)のごとき化合物である。
ここでArとしては下記一般式(B)〜式(M)などであらわされる単位を例示できるが、なかでも式(B)〜式(K)が好ましく、式(B)及び式(C)がより好ましく、式(B)が特に好ましい。
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)。
なお、環式ポリアリーレンスルフィドにおいては前記式(B)〜式(M)などの繰り返し単位をランダムに含んでも良いし、ブロックで含んでも良く、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式ポリアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)が挙げられる。
環式ポリアリーレンスルフィドの前記(A)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、2〜50が好ましく、2〜25がより好ましく、3〜20が更に好ましい範囲として例示できる。後述するように環式PASを含有するポリアリーレンスルフィドプレポリマーを高重合度体へ転化する場合には、環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度以上に加熱して行うことが好ましいが、mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなる傾向にあるため、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの高重合度体への転化をより低い温度で行うことができるようになるとの観点でmを前記範囲にすることは有利となる。
また、環式ポリアリーレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の使用は前記した高重合度体への転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
(5)環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法
本発明では、スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物とを有機極性溶媒中で接触させて環式PASを製造する。
本発明の環式PASの製造に際しては、反応混合物中の水分量がイオウ成分1モル当たり0.8モル未満であることが必要であり、0.7モル未満であることが好ましく、0.6モル未満であることがより好ましく、0.5モル未満であることがさらに好ましい。また、反応混合物中の水分量の下限はなく、0に近いほど好ましいが、本発明を実施する上での実質的下限として反応混合物中のイオウ成分1モル当たり0.05モル以上を例示できる。環式ポリアリーレンスルフィドの製造時の反応混合物中の水分量については前述の特許文献3において反応混合物中のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上20モル以下が好ましい旨が明記されているが、当該特許文献における水分量の下限未満、すなわち0.8モル未満とすることでも同様の反応濃度、反応温度、および反応時間において十分な反応を行うことが可能であるのみならず、環式ポリアリーレンスルフィドの収率および選択率が向上可能なことを見出し、本発明を完成させるに至った。さらに反応混合物中の水分量が本発明の好ましい範囲を超える場合には反応液の着色および反応器への着色物の付着が顕著であったが、水分量を本発明の好ましい範囲とすることでそれら着色の問題が大幅に改善され、得られる環式ポリアリーレンスルフィドの品質が向上するのみならず、反応器の洗浄作業の軽減も可能となった。
なお、本発明における反応混合物中の水分量とは、反応系に仕込んだスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物、および有機極性溶媒、さらにはその他成分を仕込む場合にはその成分も含め、各成分に含まれて導入された水分量の総和を意味し、あるいは脱水操作など付加的な操作により反応系から水が反応系外に除去される場合には前記水分量の総和から除去された水分量を差し引いた水分量を意味するものであり、上記諸成分の混合及び反応過程で生成する水は考慮しない。
反応混合物中の水分量を前記の好ましい範囲にする方法としては、例えば上記諸成分として無水または低含水量のものを各成分の水分量の総和がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル未満となる組み合わせとして用いる方法も好ましい方法として例示できる。また、上記諸成分の水分量の総和がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル以上となる場合には、予め脱水工程を設けて各成分の水分量を所望の範囲に減じた後に用いる方法、あるいは上記諸成分を水分量の多いまま混合して反応しながら脱水する方法を採用することも可能である。一般にジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒については十分に低水分量のものが比較的容易に入手可能であるのに対し、スルフィド化剤、例えばアルカリ金属硫化物についてはイオウ成分1モル当たり0.8モル以上の水を含む水和物または水性混合物の方が一般的により安価で入手もし易い。したがって、入手性やコストの観点からはスルフィド化剤としてこれら水和物または水性混合物を用いることが好ましく、この場合、反応混合物中の水分量はジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒の水分量に関わらず、スルフィド化剤のイオウ成分1モルあたり0.8モル以上となるため、反応混合物中の水分量を前記の好ましい範囲に調整するためには脱水を行う工程を設けることが必要となる。
本発明における脱水工程では、スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物および有機極性溶媒のうち、それぞれを単独もしくは2種以上の混合物として脱水することができる。脱水工程における脱水方法としては前記の好ましい水分量の範囲に調整可能な限りその方法に特に制限はないが、例えば次のような脱液法が好ましく採用される。すなわち望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温〜100℃の温度範囲で、少なくとも含水スルフィド化剤と有機極性溶媒とからなる混合物を調製し、常圧または減圧下で150℃以上、好ましくは170℃以上、より好ましくは200℃以上に昇温して、水分量がスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.8モル未満になるように水を留去させる方法が例示できる。なお、上記有機極性溶媒および水分を留去させる温度の好ましい上限としては250℃である。また、上記脱液法において用いる有機極性溶媒の量はスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たり0.1〜1リットルが好ましく、0.13〜0.8リットルがより好ましく、0.16〜0.6リットルがさらに好ましい。この範囲内であれば反応に金属製容器を用いた際に容器からの金属溶出が少なくなる傾向にあり、得られる環式PAS中の金属不純物の低減が期待できる。また、脱水工程では留去を促進するために、撹拌しながら留去を行っても良く、望ましくは不活性ガスの気流を通じて留去を行っても良く、また、トルエンなどの共沸成分を加えて留去を行っても良い。さらに水を選択的に留去させる目的で精留塔を設けても良い。
上記のような脱水工程で調製した脱水成分は、反応工程にて本発明の環式PASの製造に必須なその他の無水または低水分量の諸成分と混合することで反応混合物を調製した後、反応させて環式PASを製造することが可能であり、反応工程は脱水工程に連続して行うことが好ましい。ここで、反応は脱水工程と同一の反応器で行っても良く、または脱水工程で調製した脱水成分を異なる反応器に移し、他の成分と混合後に行っても良いが、脱水工程で調製した脱水成分を異なる反応器に移す方法が好ましく、脱水工程で調整した反応工程複数回分の脱水成分を小分けして反応器に移す方法がより好ましく、これにより環式PASの製造過程において脱水工程にかかる時間の短縮が可能となるため生産性が向上するといった利点がある。
反応混合物には前記必須成分以外に反応を著しく阻害しない第三成分や、反応を加速する効果を有する第三成分を加えることも可能である。反応を行う方法に特に制限は無いが、攪拌条件下で行うことが好ましい。
本発明の環式PASの製造に際しては、上記諸成分からなる反応混合物を加熱することで環状PASを製造する。本発明の環式PASの製造における反応温度は、特に制限はないが、常圧下の還流温度を超えることが好ましく、この温度は反応混合物中の成分の種類、量によって多様に変化するため一意的に決めることはできないが、通常120〜350℃、好ましくは180〜320℃、より好ましくは220〜310℃、さらに好ましくは225〜300℃、よりいっそう好ましくは240〜280℃の範囲を例示できる。ここで常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101kPa近傍の大気圧条件のことである。なお、還流温度とは反応混合物の液体成分が沸騰と凝縮を繰り返している状態の温度である。本発明では反応混合物を常圧下の還流温度を超えて加熱することが好ましいが、反応混合物をこのような加熱状態にする方法としては、例えば反応混合物を常圧を越える圧力下で反応させる方法や、反応混合物を密閉容器内で加熱する方法が例示できる。この好ましい温度範囲ではより高い反応速度が得られ、反応が均一で進行しやすい傾向にあり、効率よく環式PASが得られる傾向にある。また、反応は一定温度で行う1段反応、段階的に温度を上げていく多段階反応、あるいは連続的に温度を変化させていく形式の反応のいずれでもかまわない。
また、反応時間は、使用した原料の種類や量あるいは反応温度に依存するので一概に規定できないが、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。この好ましい時間以上とすることでは、未反応の原料成分を十分に減少できるため、生成した環式PASの回収がしやすくなる傾向にある。一方、反応時間に特に上限は無いが、本発明の方法は極めて高い反応速度が得られやすい特徴を有するため、40時間以内でも十分に反応が進行し、好ましくは10時間以内、より好ましくは6時間以内も採用できる。
本発明の環式PASの製造において、反応混合物を加熱する際の圧力は反応混合物を構成する原料およびその組成、反応温度等により変化するため一意的に規定することはできないが、好ましい圧力の上限としてはゲージ圧で1MPa以下である。また、本発明では反応混合物の常圧下における還流温度を越えることが好ましく、反応混合物をこのような加熱状態にする方法としては、例えば反応混合物を常圧を越える圧力下で反応させる方法や、反応混合物を密閉容器内で加熱する方法が例示できることから、好ましい圧力の下限は常圧を超える圧力である。すなわち、具体的な好ましい圧力としてはゲージ圧で0.05MPa〜1MPa、より好ましくは0.1MPa〜0.8MPa、さらに好ましくは0.2MPa〜0.6MPa、とりわけ好ましくは0.2MPa〜0.5MPaが例示できる。この様な好ましい圧力範囲では、環式PASの製造に要する時間が短くできる傾向にある。また、一般に反応混合物を加熱する際の圧力が1MPaを超える高圧になるとそれに耐えうる高価な環状PASの耐圧製造設備が必要となるが、この様な好ましい圧力範囲では環式PASの製造に要する設備コストを低減できる上、安全性も高い。このような観点から汎用的な設備を用いて環式PASの製造を行う場合には、反応混合物を加熱する際の圧力が0.5MPa以下であることがとりわけ好ましい。なお、ここでゲージ圧とは大気圧を基準とした相対圧力のことであり、絶対圧から大気圧を差し引いた圧力値と同意である。
本発明の環式PASの製造において、所望の時間反応を継続し仕込んだ原料が減少した随意の段階で、スルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物を追加して更に反応を継続することも可能である。ここで追加する量は、追加する前の反応混合物中のスルフィド化剤の量を勘案することが重要であり、スルフィド化剤の追加を行った後の反応混合物中のスルフィド化剤のイオウ原子1モルに対して有機極性溶媒が1.25リットル以上になる範囲内および水分量が0.8モル未満となる範囲内で追加を行うことが強く望まれる。なお、本発明の方法において、スルフィド化剤はジハロゲン化芳香族化合物と反応して消費されるため、ジハロゲン化芳香族化合物の転化率からスルフィド化剤の転化率を見積もることが可能であり、このスルフィド化剤の転化率から反応混合物中のスルフィド化剤の量を算出する事が可能である。
なお、ジハロゲン化芳香族化合物(以下、DHAと略する場合もある)の転化率は、以下の式で算出した値である。DHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(a)ジハロゲン化芳香族化合物をスルフィド化剤に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率(%)=[〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕]×100%
(b)上記(a)以外の場合
転化率(%)=[〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)〕]×100%。
スルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物を追加添加するのは、仕込んだ原料が減少した随意の段階が許容されることは前記した通りであるが、DHAの転化率が50%以上の段階が好ましく、70%以上の段階がより好ましく、このような段階で追加する事でより効率よく環式PASを得ることが可能となる。
このようなスルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物の追加を行う回数に制限は無いが、通常、反応開始時の反応系内のスルフィド化剤及び追加したスルフィド化剤の合計が、反応混合物中の有機極性溶媒1リットル当たりスルフィド化剤のイオウ原子基準で10モルまでの量が好ましい範囲として例示できる。ここでスルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物の追加は、反応混合物中の生成物量を増大させる効果があり、単位体積当たりの環式PAS収量を増大できるため好ましい方法である。
なお、スルフィド化剤及びジハロゲン化芳香族化合物の追加により、反応混合物中の水分量が変化する場合、前記した好ましい水分量となるように付加的な操作を行うことも可能であり、追加する前、追加している途中、追加後に反応混合物から水を随意量除去する事も望ましい方法である。なお、この水の除去に際し、水以外の成分が反応混合物から除去される場合、必要に応じてスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物及び有機極性溶媒を更に追加する事も可能であり、除去された成分を再度反応混合物に戻す操作を行ってもかまわない。
なお、本発明の環式PASの製造には、バッチ方式、及び連続方式など公知の各種重合方式、反応方式を採用することができる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、特に、経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下が好ましい。また、本発明においては反応混合物を加熱する際の好ましい圧力の上限がゲージ圧で1MPa以下であり、この圧力を超えない範囲にて不活性ガスで加圧しても良い。
(6)環式ポリアリーレンスルフィドの回収方法
本発明の環式PASの製造においては前記した反応により得られた反応混合物から環式PASを分離回収することも可能である。反応により得られた反応混合物には環式PAS、線状PAS及び有機極性溶媒が含まれ、その他成分として未反応のスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物や水、副生塩などが含まれる場合もある。
(6−1)環式ポリアリーレンスルフィドの回収方法1
この様な反応混合物からPAS成分を回収する方法に特に制限は無く、例えば必要に応じて有機極性溶媒の一部もしくは大部分を蒸留等の操作により除去した後に、PAS成分に対する溶解性が低く且つ有機極性溶媒と混和し、好ましくは副生塩に対して溶解性を有する溶剤と必要に応じて加熱下で接触させて、環式PASを線状PASとの混合固体としてPAS成分を回収する方法、反応混合物において環式PASおよび線状PASが溶解するに足る温度、好ましくは200℃を越える温度、より好ましくは230℃以上の温度において反応混合物中に存在する固形成分と可溶成分を固液分離により分離して少なくとも環式PAS、線状PASおよび有機極性溶媒を含む溶液成分を回収し、この溶液成分から必要に応じて有機極性溶媒の一部もしくは大部分を蒸留等の操作により除去した後に、PAS成分に対する溶解性が低く且つ有機極性溶媒と混和し、好ましくは副生塩に対して溶解性を有する溶剤と必要に応じて加熱下で接触させて、環式PASを線状PASとの混合固体としてPAS成分を回収する方法、が例示できる。この様な特性を有する溶剤は一般に比較的極性の高い溶剤であり、用いた有機極性溶媒や副生塩の種類により好ましい溶剤は異なるので限定はできないが、例えば水や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノールに代表されるアルコール類、アセトンに代表されるケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどに代表される酢酸エステル類が例示でき、入手性、経済性の観点から水、メタノール及びアセトンが好ましく、水が特に好ましい。
このような溶剤による処理を行うことで、環式PASと線状PASとの混合固体に含有される有機極性溶媒や副生塩の量を低減することが可能である。この処理により環式PAS及び線状PASは共に固形成分として析出するので、公知の固液分離法を用いて環式PAS及び線状PASの混合物としてPAS成分を回収することが可能である。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。なお、これら一連の処理は必要に応じて数回繰り返すことも可能であり、これにより環式PASと線状PASとの混合固体に含有される有機極性溶媒や副生塩の量がさらに低減される傾向にある。
また、上記の溶剤による処理の方法としては、溶剤と反応混合物を混合する方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。溶剤による処理を行う際の温度に特に制限は無いが、20℃〜220℃が好ましく、50℃〜200℃が更に好ましい。この様な範囲では例えば副生塩の除去が容易となり、また比較的低圧の状態で処理を行うことが可能であるため好ましい。ここで、溶剤として水を用いる場合、水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましいが、必要に応じてギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、アクリル酸、クロトン酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸性化合物及びそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物およびアンモニウムイオンなどを含む水溶液を用いることも可能である。この処理後に得られた環式PASと線状PASとの混合固体が処理に用いた溶剤を含有する場合には必要に応じて乾燥などを行い、溶剤を除去することも可能である。
上で例示した回収方法では、環式PASは線状PASとの混合物(以下PAS混合物と称する場合もある)として回収される。環式PASと線状PASの分離を行う方法としては例えば、環式PASと線状PASの溶解性の差を利用した分離方法、より具体的には環式PASに対する溶解性が高く、一方で環式PASの溶解を行う条件下では線状PASに対する溶解性に乏しい溶剤を必要に応じて加熱下でPAS混合物と接触させて、溶剤可溶成分として環式PASを得る方法が例示できる。ここで、上記の溶解性を利用した分離方法により効率良く環式PASを得るために、線状PASの分子量は後述する環式PASを溶解可能な溶剤に溶解しにくい、好ましくは溶解しない特性を有する分子量であることが好ましく、重量平均分子量で2,500以上が例示でき、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく例示できる。
環式PASと線状PASの分離に用いる溶剤としては環式PASを溶解可能な溶剤であれば特に制限はないが、溶解を行う環境において環式PASは溶解するが線状PASは溶解しにくい溶剤が好ましく、線状PASは溶解しない溶剤がより好ましい。PAS混合物を前記溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する反応器の部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。用いる溶剤としてはPAS成分の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、PAS混合物を溶剤と接触させる操作をたとえば常圧環流条件下で行う場合に好ましい溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、メチルエチルケトンなどの極性溶媒を例示できるが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、メチルエチルケトンが好ましく、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンがより好ましく例示できる。
PAS混合物を溶剤と接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってPAS成分や溶剤が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
PAS混合物を溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、一般に温度が高いほど環式PASの溶剤への溶解は促進される傾向にあるが、線状PASの分子量が低い場合、線状PASの溶解も促進される傾向にある。線状PASの分子量が前述した好ましい分子量である場合は、環式PASとの溶解性の差が大きくなるため、高い温度でPAS混合物の溶剤との接触を行っても環式PASと線状PASが好適に分離できる傾向にある。また、前記したように、PAS混合物の溶剤との接触は大気圧下でおこなうことが好適であるので、上限温度は使用する溶剤の大気圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい溶剤を用いる場合はたとえば20〜150℃、好ましくは30〜100℃を具体的な温度範囲として例示できる。
PAS混合物を溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、この様な範囲では環式PASの溶剤への溶解が十分になる傾向にある。
PAS混合物を溶剤と接触させる方法は、公知の一般的な手法を用いれば良く特に限定はないが、たとえばPAS混合物と溶剤を混合し、必要に応じて攪拌した後に溶液部分を回収する方法、各種フィルター上のPAS混合物に溶剤をシャワーすると同時に環式PASを溶剤に溶解させる方法、ソックスレー抽出法原理による方法などいかなる方法も用いることができる。PAS混合物と溶剤を接触させる際の溶剤の使用量に特に制限はないが、たとえばPAS混合物重量に対する浴比で0.5〜100の範囲が例示できる。浴比がこの様な範囲の場合、PAS混合物と溶剤を均一に混合し易く、また、環式PASが溶剤へ十分に溶解し易くなる傾向にある。一般に、浴比が大きい方が環式PASの溶剤への溶解には有利であるが、大きすぎてもそれ以上の効果は望めず、逆に溶剤使用量増大による経済的不利益が生じることがある。なお、PAS混合物と溶剤の接触を繰り返し行う場合は、小さい浴比でも十分な効果を得られる場合が多い。またソックスレー抽出法は、その原理上、PAS混合物と溶剤の接触を繰り返し行う場合と類似の効果が得られるので、この場合も小さな浴比で十分な効果を得られる場合が多い。
PAS混合物を溶剤と接触させた後に、環式PASを溶解した溶液が固形状の線状PASを含む固液スラリー状で得られた場合、公知の固液分離法を用いて溶液部を回収することが好ましい。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。このようにして分離した溶液から溶剤の除去を行うことで環式PASの回収が可能となる。一方、固体成分については、環式PASがまだ残存している場合、再度溶剤との接触及び溶液の回収を繰り返し行うことでより収率よく環式PASを得ることも可能である。また、環式PASがほとんど残存していない場合には、残存溶剤を除去することで高純度な線状PASとして好適にリサイクル可能である。
前述のようにして得られた環式PASを含む溶液から溶剤の除去を行い、環式PASを固形成分として得ることも可能である。ここで溶剤の除去は、たとえば加熱し、常圧以下で処理する方法や、膜を利用した溶剤の除去を例示できるが、より収率よく、また効率よく環式ポリアリーレンスルフィドを得るとの観点では常圧以下で加熱して溶剤を除去する方法が好ましい。なお、前述の様にして得られた環式PASを含む溶液は温度によっては固形物を含む場合もあるが、この場合の固形物も環式ポリアリーレンスルフィド混合物に属するものであるので、溶剤の除去時に溶剤に可溶の成分とともに回収する事が望ましく、これにより収率よく環式PASを得られるようになる。ここで溶剤の除去は、少なくとも50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、よりいっそう好ましくは95重量%以上の溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
(6−2)環式ポリアリーレンスルフィドの回収方法2
上記には環式PASの回収方法として、まず環式PASと線状PASを含むPAS混合物を得た後にこの混合物から環式PASを回収する方法について例示したが回収方法はこれに限定されるものではない。環式PAS回収方法として別の具体例を以下に示す。
本発明で得られる反応混合物には環式PAS、線状PAS及び有機極性溶媒が含まれ、その他成分として未反応のスルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物や水、副生塩などが含まれる場合もあることは前述した通りであるが、この反応混合物において環式PASは幅広い温度領域で有機極性溶媒に溶解状態となる傾向がある。一方で線状PASは環式PASと溶解挙動が大きく異なり、具体的には200℃以下の温度領域ではその大部分が反応混合物中で固体として存在する傾向にある。
従ってこの様な環式PASと線状PASの反応混合物中での溶解挙動差を用いることで、簡易な固液分離により環式PASと線状PASの分離が可能になる。このような固液分離による環式PASと線状PASの分離が可能となるより具体的な温度領域の上限としては200℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは120℃以下が例示でき、一方で下限温度としては10℃以上が例示でき、20℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。この好ましい温度上限以下では反応混合物に含まれる線状PASは固形分として存在する傾向が強く、特に前述した好ましい重量平均分子量の線状PASはこの条件下で固形分となりやすい傾向がある。一方でこの好ましい温度領域において反応混合物中の環式PASは有機極性溶媒に可溶である傾向が強く、特に環式PASの繰り返し単位数mが前述した好ましい範囲の環式PASはこの条件下で有機極性溶媒に溶解する傾向が強い。また例示した下限温度以上では反応混合物の粘度が低くなる傾向になり固液分離操作がし易く、また固形成分と溶液成分の分離性にすぐれる傾向にある。
また、先述した反応混合物の固液分離で得られる溶液成分、すなわち濾液成分(温度によっては固形成分を含む場合もある)には環式PASが含まれる。所望に応じて濾液成分から有機極性溶媒を除去することで環式PASを含む固体として回収することも可能である。この有機極性溶媒の除去方法としては例えば蒸留により除去する方法や、有機極性溶媒と混和する第二の溶剤と接触させる方法などが例示できる。蒸留により除去する具体的な方法としては、濾液成分を好ましくは20〜250℃、より好ましくは40〜200℃、さらに好ましくは100〜200℃、よりいっそう好ましくは120〜200℃に加熱する方法が例示できる。この加熱を減圧条件下や気流下で行うこと、さらには攪拌条件下で行うことで効率よく有機極性溶媒の除去を行うことが可能である。なお、加熱する際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、これにより環式PASの分解、着色、架橋などを抑制できる傾向にある。なおここで、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。濾液成分を第二の溶剤で溶剤置換する方法で環式PASを得る具体的な方法としては、環式PASが溶解しない、もしくは環式PASが溶解しにくい第二の溶剤と接触させることで、環式PASを含む固形成分を回収する方法を例示できる。この第二の溶剤と接触させるより具体的な方法としては後述の(7)で示す方法を採用することが例示できる。
(7)その他後処理
かくして得られた環式ポリアリーレンスルフィドは十分に高純度であり、各種用途に好適に用いることができるが、さらに以下に述べる後処理を付加的に施すことによってよりいっそう純度の高い環式PASを得ることが可能である。
前記(6)までの操作によって得られた環式PASは、用いた溶剤の特性によってはPAS混合物中に含まれる不純物成分を含む場合がある。このような少量の不純物を含む環式PASを不純物は溶解するが、環式PASは溶解しない、もしくは環式PASの溶解しにくい第二の溶剤と接触させることで、不純物成分を選択的に除去することが可能な場合が多い。また前記(6−2)の方法で得られた濾液成分(環式PASを含む溶液)から環式PASを固形成分として分離するためにこの第二の溶剤と濾液成分を接触させることも可能である。
環式PAS混合物もしくは前記(6−2)で得られた濾液成分を前記第二の溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。第二の溶剤として好ましい溶剤としては、環式PASの分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸オクチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル、サリチル酸メチル、蟻酸エチル、等のカルボン酸エステル系溶媒、及び水が例示でき、なかでもメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、水が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、アセトン、酢酸エチル、水が特に好ましい。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
環式PASを第二の溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、上限温度は使用する第二の溶剤の常圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい第二の溶剤を用いる場合はたとえば20〜100℃が好ましい温度範囲として例示でき、より好ましくは25〜80℃が例示できる。
環式PASを第二の溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、この様な時間範囲内ででは環式PAS中の不純物の第二の溶剤への溶解が十分となる傾向にある。
環式PASを第二の溶剤と接触させる方法としては固体状の環式PASと第二の溶剤を必要に応じて攪拌して混合する方法、各種フィルター上の環式PAS固体に第二の溶剤をシャワーすると同時に不純物を第二の溶剤に溶解させる方法、固体状の環式PASを第二の溶剤を用いたソックスレー抽出を用いる方法や、溶液状の環式PASもしくは溶剤を含む環式PASスラリーを第二の溶剤と接触させて、第二の溶剤の存在下で環式PASを析出させる方法などを用いることができる。なかでも溶剤を含む環式PASスラリーを第二の溶剤と接触させる方法は、操作後に得られる環式PASの純度が高く、有効な方法である。
環式PASを第二の溶剤と接触させた後に公知の固液分離法を用いて固体状の環式PASを回収することが可能である。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。固液分離後に得られた環式PAS中に不純物がまだ残存している場合は、再度環式PASと第二の溶剤とを接触させて、さらに不純物を除去することも可能である。
(8)本発明の環式PASの特性
かくして得られた環式PASは、通常、環式PASを50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上含む純度の高いものであり、一般的に得られる線状のPASとは異なる特性を有する工業的にも利用価値の高いものである。また、本発明の製造方法により得られる環式PASは前記式(A)におけるmが単一ではなく、m=4〜50の異なるmを有する前記式(A)が得られやすいという特徴を有する。ここで好ましいmの範囲は4〜25,より好ましくは4〜20である。mがこの範囲の場合、後述するように環式PASをPASを得るための原料として用いる場合に重合反応が進行しやすく、高分子量体が得られやすくなる傾向にある。この理由は現時点判然とはしないが、この範囲の環式PASは分子が環式であるがために生じる結合のゆがみが大きく、重合時に高分子量化が起こりやすいためと推測している。
なお、mが単一の環式PASは単結晶として得られるため、極めて高い融解温度を有するが、本発明では環式PASは異なるmを有する混合物が得られやすく、これにより環式PASの融解温度が低いという特徴があり、このことはたとえば環式PASを溶融して用いる際の加熱温度を低くできるという優れた特徴を発現することになる。
(9)本発明の環式PASを配合した樹脂組成物
本発明で得られた環式PASを各種樹脂に配合して用いることも可能であり、このような環式PASを配合した樹脂組成物は、溶融加工時のすぐれた流動性を発現する傾向が強く、また滞留安定性にも優れる傾向にある。この様な特性、特に流動性の向上は、樹脂組成物を溶融加工する際の加熱温度が低くても溶融加工性に優れるという特徴を発現するため、射出成形品や繊維、フィルム等の押出成形品に加工する際の溶融加工性の向上をもたらす点で大きなメリットとなる。環式PASを配合した際にこの様な特性の向上が発現する理由は定かではないが、環式PASの構造の特異性、すなわち環状構造であるために通常の線状化合物と比較してコンパクトな構造をとりやすいため、マトリックスである各種樹脂との絡み合いが少なくなりやすいこと、各種樹脂に対して可塑剤として作用すること、またマトリックス樹脂どうしの絡み合い抑制にも奏効するためと推測している。
環式PASを各種樹脂に配合する際の配合量に特に制限は無いが、各種樹脂100重量部に対して本発明の環式PASを0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部配合することで顕著な特性の向上を得ることが可能である。
また、上記樹脂組成物には必要に応じて更に繊維状および/または非繊維状の充填材を配合することも可能であり、その配合量は前記各種樹脂100重量部に対して0.5〜400重量部、好ましくは0.5〜300重量部、より好ましくは1〜200重量部、更に好ましくは1〜100重量部の範囲が例示でき、これにより優れた流動性を維持しつつ機械的強度が向上できる傾向にある。充填剤の種類としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などのいずれの充填剤も使用することができる。これら充填剤の好ましい具体例としてはガラス繊維、タルク、ワラステナイト、およびモンモリロナイト、合成雲母などの層状珪酸塩が例示でき、特に好ましくはガラス繊維である。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填剤はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
また、樹脂組成物の熱安定性を保持するために、フェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の耐熱剤を含有せしめることも可能である。かかる耐熱剤の配合量は、耐熱改良効果の点から前記各種樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系化合物を併用して使用することは、特に耐熱性、熱安定性、流動性保持効果が大きく好ましい。
さらに、前記樹脂組成物には以下のような化合物、すなわち、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重宿合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物はいずれも前記各種樹脂100重量部に対して20重量部未満、好ましくは10重量部以下、更に好ましくは1重量部以下の添加でその効果が有効に発現する傾向にある。
上記のごとき環式PASを配合してなる樹脂組成物を製造する方法は特に限定されるものではないが、例えば環式PAS、各種樹脂および必要に応じてその他の充填材や各種添加剤を予めブレンドした後、各種樹脂および環式PASの融点以上において一軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの通常公知の溶融混合機で溶融混練する方法、溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などが用いられる。ここで環式PASとして環式PASの単体、すなわち前記式(A)のmが単一のものを用いる場合や、異なるmの混合物であっても結晶性が高く融点が高いものを用いる場合は、環式PASを環式PASが溶解する溶媒に予め溶解して供給し溶融混練の際に溶媒を除去する方法、環式PASをその融点以上で一旦溶解した後に急冷することで結晶化を抑え、非晶状としたものを供給する方法、あるいはプリメルターを環式PASの融点以上に設定し、プリメルター内で環式PASのみを溶融させ、融液として供給する方法などを採用することができる。
ここで環式PASを配合する各種樹脂に特に制限は無く、結晶性樹脂および非晶性樹脂の熱可塑性樹脂、また熱硬化性樹脂にも適用が可能である。
ここで結晶性樹脂の具体例としては例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリイミド樹脂およびこれらの共重合体などが挙げられ、1種または2種以上併用してもよい。中でも、耐熱性、成形性、流動性および機械特性の点で、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。また、得られる成形品の透明性の面からはポリエステル樹脂が好ましい。各種樹脂として結晶性樹脂を用いる場合は、上述した流動性の向上の他に結晶化特性も向上する傾向がある。また、各種樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることも特に好ましく、この場合、流動性の向上と共に、結晶性の向上、さらにはこれらが奏効した効果として射出成形時のバリ発生が顕著に抑制されるという特徴が発現しやすい傾向にある。
非晶性樹脂としては非晶性を有する溶融成形可能な樹脂であれば、特に限定されないが、耐熱性の点で、ガラス転移温度が50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。上限は、特に限定されないが、成形性などの点から300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。なお、本発明において、非晶性樹脂のガラス転移温度は、示差熱量測定において非晶性樹脂を30℃〜予測されるガラス転移温度以上まで、20℃/分の昇温条件で昇温し1分間保持した後、20℃/分の降温条件で0℃まで一旦冷却し、1分間保持した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観察されるガラス転移温度(Tg)を指す。この具体例としては、非晶性ナイロン樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート樹脂、ABS樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、およびポリ(メタ)アクリレート共重合、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種が例示でき、1種または2種以上併用してもよい。これら非晶性樹脂の中でも、特に高い透明性を有するポリカーボネート(PC)樹脂、ABS樹脂の中でも透明ABS樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、およびポリ(メタ)アクリレート共重合、ポリエーテルスルホン樹脂を好ましく使用することができる。各種樹脂として非晶性樹脂を用いる場合には、前述の溶融加工時の流動性向上に加えて、透明性に優れる非晶性樹脂を使用した場合においては、高い透明性を維持させることができるという特徴を発現できる。ここで、非晶性樹脂組成物に高い透明性を発現させたい場合には、環式PASとして前記式(A)のmが異なる環式PASを用いることが好ましい。なお、環式PASとして環式PASの単体、すなわち前記式(A)のmが単一のものを用いる場合、この様な環式PASは融点が高い傾向にあるため、非晶性樹脂と溶融混練する際に十分に溶融分散せずに樹脂中に凝集物となったり透明性が低下する傾向にあるが、前述したように前記式(A)のmが異なる環式PASはその融解温度が低い傾向にあり、このことは溶融混練時の均一性の向上に効果的である。ここで、本発明の製造方法により得られる環式PASは前記式(A)におけるmが単一ではなく、m=2〜50の異なるmを有する前記式(A)が得られやすいという特徴を有するため、高い透明性を有する非晶性樹脂組成物を得たい場合に特に有利である。
上記で得られる、各種樹脂に環式PASを配合した樹脂組成物は通常公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用できる。またこれにより得られた各種成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。また、上記樹脂組成物およびそれからなる成形品は、リサイクルすることが可能である。例えば、樹脂組成物およびそれからなる成形品を粉砕し、好ましくは粉末状とした後、必要に応じて添加剤を配合して得られる樹脂組成物は、上記樹脂組成物と同じように使用でき、成形品とすることも可能である。
(10)環式PASの高重合度体への転化
本発明によって製造される環式PASは(8)に述べたごとき優れた特性を有するので、ポリマーを得る際のプレポリマーとして好適に用いることが可能である。なおここでプレポリマーとしては本発明の環式PAS製造方法で得られる環式PAS単独でも良いし、所定量の他の成分を含むものでも差し障り無いが、環式PAS以外の成分を含む場合は線状PASや分岐構造を有するPASなど、PAS成分であることが特に好ましい。少なくとも本発明の環式PASを含み、以下に例示する方法により高重合度体へ変換可能なものがポリアリーレンスルフィドプレポリマーであり、以下PASプレポリマーと称する場合もある。
環式PASの高重合度体への変換反応は、環式PASから環状PASの分子量よりも高分子量の成分が生成する条件下で行えばよく、例えば本発明の環式PAS製造方法による環式PASを含む、PASプレポリマーを加熱して高重合度体に転化させる方法が好ましい方法として例示できる。この加熱の温度は前記PASプレポリマーが溶融解する温度であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限は無い。加熱温度がPASプレポリマーの溶融解温度未満では分子量の高いPASを得るのに長時間が必要となる傾向がある。なお、PASプレポリマーが溶融解する温度は、PASプレポリマーの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えばPASプレポリマーを示差走査型熱量計で分析することで溶融解温度を把握することが可能である。なお、加熱温度が高すぎるとPASプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとポリアリーレンスルフィドプレポリマー間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるPASの特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。このような好ましくない副反応の顕在化を抑制しやすい加熱温度としては180〜400℃が例示でき、好ましくは200〜380℃、より好ましくは250〜360℃である。一方、ある程度の副反応が起こっても差し障り無い場合には、250〜450℃、好ましくは280〜420℃の温度範囲も選択可能であり、この場合には極短時間で高分子量体への転化を行えるという利点がある。
前記加熱を行う時間は使用するPASプレポリマーにおける環式PASの含有率やm数、及び分子量などの各種特性、また、加熱の温度等の条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間としては0.05〜100時間が例示でき、0.1〜20時間が好ましく、0.1〜10時間がより好ましい。0.05時間未満ではPASプレポリマーのPASへの転化が不十分になりやすく、100時間を超えると好ましくない副反応による得られるPASの特性への悪影響が顕在化する可能性が高くなる傾向にあるのみならず、経済的にも不利益を生じる場合がある。
また、PASプレポリマーには加熱による高重合度体への転化に際しては、転化を促進する各種触媒成分を使用することも可能である。このような触媒成分としてはイオン性化合物やラジカル発生能を有する化合物が例示できる。イオン性化合物としてはたとえばチオフェノールのナトリウム塩やリチウム塩等、硫黄のアルカリ金属塩が例示でき、また、ラジカル発生能を有する化合物としてはたとえば加熱により硫黄ラジカルを発生する化合物を例示でき、より具体的にはジスルフィド結合を含有する化合物が例示できる。なお、各種触媒成分を使用する場合、触媒成分は通常はPASに取り込まれ、得られるPASは触媒成分を含有するものになることが多い。特に触媒成分としてアルカリ金属及び/または他の金属成分を含有するイオン性の化合物を用いた場合、これに含まれる金属成分の大部分は得られるPAS中に残存する傾向が強い。また、各種触媒成分を使用して得られたPASは、PASを加熱した際の重量減少が増大する傾向にある。従って、より純度の高いPASを所望する場合および/または加熱した際の重量減少の少ないPASを所望する場合には、触媒成分の使用をできるだけ少なくすることが好ましく、使用しないことがより好ましい。従って、各種触媒成分を使用してPASプレポリマーを高重合度体へ転化する際には、PASプレポリマーと触媒成分を含む反応系内のアルカリ金属量が100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは30ppm以下更に好ましくは10ppm以下であって、なお且つ、反応系内の全イオウ重量に対するジスルフィド重量が1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、更に好ましくは0.1重量%未満になるように触媒成分の添加量を調整して行うことが好ましい。
PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常溶媒の非存在下で行うが、溶媒の存在下で行うことも可能である。溶媒としては、PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の阻害や生成したPASの分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。また、二酸化炭素、窒素、水等の無機化合物を超臨界流体状態として溶媒に用いることも可能である。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
前記、PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行っても良いし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限無く行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これによりPASプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとPASプレポリマー間などで架橋反応や分解反応等の好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とはPAS成分が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下が更に好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい上限を越える場合は、架橋反応など好ましくない副反応が起こりやすくなる傾向にあり、一方好ましい下限未満では、反応温度によってはPASプレポリマーに含まれる分子量の低い環式ポリアリーレンスルフィドが揮散しやすくなる傾向にある。
前記したPASプレポリマーの高重合度体への転化は繊維状物質の共存下で行うことも可能である。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。繊維状物質存在下でPASプレポリマーの高重合度体への転化を行うことで、PASと繊維状物質からなる複合材料構造体を容易に作成する事ができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、PAS単独の場合に比べて、たとえば機械物性に優れる傾向にある。
ここで、各種繊維状物質の中でも長繊維からなる強化繊維を用いることが好ましく、これによりPASを高度に強化する事が可能になる。一般に樹脂と繊維状物質からなる複合材料構造体を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質のぬれが悪くなる傾向にあり、均一な複合材料ができなかったり、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここでぬれとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないようにこの流体物質と固体基質との物理的状態の良好且つ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質とのぬれは良好になる傾向にある。本発明のPASプレポリマーは融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、たとえばPASと比べて著しく低いため、繊維状物質とのぬれが良好になりやすい。PASプレポリマーと繊維状物質が良好なぬれを形成した後、本発明のPASの製造方法によればPASプレポリマーが高重合度体に転化するので、繊維状物質と高重合度体(ポリアリーレンスルフィド)が良好なぬれを形成した複合材料構造体を容易に得ることができる。
繊維状物質としては長繊維からなる強化繊維が好ましいことは前述したとおりであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性及び引張強度の良好な繊維があげられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。この内、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450Kgf/mm2、引張伸度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。長繊維状の強化繊維を用いる場合、その長さは、5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を複合材料として十分に発現させることが容易となる。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いてもかまわない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であっても使用可能である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
また、前記したPASプレポリマーの高重合度体への転化は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、たとえば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、たとえば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<環式ポリフェニレンスルフィド生成率測定>
環式ポリフェニレンスルフィド化合物の生成率の測定は、HPLCを用いた定性定量分析によって行なった。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:関東化学社製 Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(波長270nm)。
[実施例1]
<脱水工程>
SUS316製の攪拌機付き1リットルオートクレーブに48重量%の水硫化ナトリウム水溶液28.1g(水硫化ナトリウムとして0.241モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液19.8g(水酸化ナトリウムとして0.238モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)238.0g(2.40モル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は24.9g(1.38モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は5.75モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの溶媒量は約0.97Lであった。
オートクレーブ上部にバルブを介して充填剤入りの精留塔を取り付け、常圧で窒素を通じて240rpmで撹拌しながら230℃まで約3時間かけて徐々に加熱して脱液を行い、留出液27.1gを得た。
この留出液をガスクロマトグラフ法で分析したところ留出液の組成は水23.4g、NMPが3.7gであり、この段階では反応系内に水が1.5g(0.083モル)、NMPが234.3g(2.36モル)残存していることが判った。なお、脱水工程を通して反応系から飛散した硫化水素は0.004モルであった。
<反応工程>
脱水工程の終了後オートクレーブ上部のバルブを閉じた。次いで得られた混合物を約160℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)34.9g(0.237モル)及びNMP377.5g(3.81モル)を加えた。この段階における、反応系内のイオウ成分1モル当たりの水分量は0.35モル、NMP量は2.52Lであった。反応器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、250℃まで60分かけて昇温した。この段階の反応器内の圧力はゲージ圧で0.40MPaであった。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷した。
得られた内容物をガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、モノマーのp−DCBの消費率は91%、環式PASの収率は19%であり、環式PASの選択率は21%であることがわかった。また、得られた反応物の色調は黄白色であり、反応物回収後の反応器は接液部にわずかに変色が認められたが金属光沢が保たれていた。
本発明の好ましい方法で環式ポリアリーレンスルフィドの製造を行った場合、極めて高収率かつ高選択率で環式ポリアリーレンスルフィドの製造を行うことが可能で、さらに、反応物の色調も優れることがわかった。
[実施例2]
<脱水工程>
SUS316製の攪拌機付き1リットルオートクレーブに48重量%の水硫化ナトリウム水溶液116.9g(水硫化ナトリウムとして1.00モル)、21.7重量%の水酸化ナトリウム水溶液193.8g(水酸化ナトリウムとして1.05モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)198.2g(2.00モル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は212.5g(11.8モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は12.7モル、また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの溶媒量は約0.19Lであった。
オートクレーブ上部にバルブを介して充填剤入りの精留塔を取り付け、常圧で窒素を通じて240rpmで撹拌しながら230℃まで約3時間かけて徐々に加熱して脱液を行い、留出液218.9gを得た。
この留出液をガスクロマトグラフ法で分析したところ留出液の組成は水203.8g、NMPが15.1gであり、この段階では反応系内に水が8.7g(0.48モル)、NMPが183.1g(1.84モル)残存していることが判った。なお、脱水工程を通して反応系から飛散した硫化水素は0.03モルであった。
<反応工程>
脱水工程の終了後オートクレーブ上部のバルブを閉じた。次いで得られた混合物を室温近傍まで冷却した後、得られた混合物71.6g(水硫化ナトリウムとして13.5g(0.240モル)相当、水酸化ナトリウムとして10.7g(0.267モル)相当、NMPとして45.3g(0.457モル)相当、水として2.2g(0.122モル)相当)を脱水工程とは別の容器、即ち脱水工程とは別に用意したSUS316製の攪拌機付き1リットルオートクレーブに移し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)36.0g(0.245モル)及びNMP575.7g(5.81モル)を加えた。この段階における、反応系内のイオウ成分1モル当たりの水の量は0.50モル、NMP量は2.52Lであった。反応器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、250℃まで60分かけて昇温した。この段階の反応器内の圧力はゲージ圧で0.4MPaであった。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷した。
得られた内容物をガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、モノマーのp−DCBの消費率は90%、環式PASの収率は17%、環式PASの選択率は19%であることがわかった。また、得られた反応物の色調は黄白色であり、反応物回収後の反応器は変色がほとんどなく金属光沢が保たれていた。
本発明の好ましい方法として脱水工程と反応工程を別の反応器で行った場合においても、高収率かつ高選択率で環式ポリアリーレンスルフィドの製造を行うことが可能で、さらに、反応物の色調も優れることがわかった。
[比較例1]
ここでは、特許文献3(特開2009−30012号公報)の実施例に準じて環式PASの製造を行った例を示す。即ち、前記実施例の脱水工程を省き、反応開始前に反応系内を窒素加圧した以外は実施例1および2の反応工程と同等の反応容器、反応濃度、反応温度の条件にて環式PASの製造を行った例を示す。
SUS316製の攪拌機付き1リットルオートクレーブに48重量%の水硫化ナトリウム水溶液28.1g(水硫化ナトリウム0.240モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液21.0g(水酸化ナトリウム0.252モル)、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)36.0g(0.245モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.1g(6.21モル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は25.5g(1.42モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は5.92 モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1 モル当たりの溶媒の量は約2.50Lであった。
反応器を室温にて窒素ガスで0.3MPaに加圧、密封した後、400rpmで撹拌しながら、室温から250℃まで約1時間かけて昇温した。この段階で、反応器内の圧力はゲージ圧で1.7MPaであった。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷した。
得られた内容物をガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、モノマーのp−DCBの消費率は95%、環式PASの収率は16%、環式PASの選択率は17%であることがわかった。
反応混合物中の水分量が多い条件で環式PASの製造を行った場合では、本発明の好ましい態様である実施例1および2と比べると、目的とする環式PASの収率および選択率が低いことが明らかとなった。また、前記特許文献3において反応器の窒素加圧により環式PAS選択率の向上傾向が認められていることから、窒素加圧を行っても環式PAS選択率は実施例1および2に及ばないのみならず、窒素加圧および水分量の増加に伴い加熱時の反応器内の圧力が実施例1および2に比べ大幅に上昇することがわかる。さらに本比較例で得られた反応物中には黒色成分が多く、反応物回収後の反応器の接液部も黒色化し金属光沢は認められなかった。
[実施例3]
ここでは反応工程で使用する溶媒量を減じた以外は実施例1と同様の反応容器、反応温度の条件にて環式PASの製造を行った例を示す。
<脱水工程>
SUS316製の攪拌機付き1リットルオートクレーブに48重量%の水硫化ナトリウム水溶液28.1g(水硫化ナトリウムとして0.240モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液20.6g(水酸化ナトリウムとして0.247モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)238.0g(2.40モル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は25.4g(1.41モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は5.87モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの溶媒量は約0.97Lであった。
オートクレーブ上部にバルブを介して蒸留塔を取り付け、常圧で窒素を通じて240rpmで撹拌しながら200℃まで約1.5時間かけて徐々に加熱して脱液を行い、留出液29.1gを得た。
この留出液をガスクロマトグラフ法で分析したところ留出液の組成は水22.8g、NMPが6.3gであり、この段階では反応系内に水が2.6g(0.14モル)、NMPが231.7g(2.34モル)残存していることが判った。なお、脱水工程を通して反応系から飛散した硫化水素は0.0004モルであった。
<反応工程>
脱水工程の終了後オートクレーブ上部のバルブを閉じた。次いで得られた混合物を約160℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)35.6g(0.242モル)及びNMP181.2g(1.83モル)を加えた。この段階における、反応系内のイオウ成分1モル当たりの水分量は0.59モル、NMP量は1.68Lであった。反応器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、250℃まで60分かけて昇温した。この段階の反応器内の圧力はゲージ圧で0.40MPaであった。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷した。
得られた内容物をガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、モノマーのp−DCBの消費率は93%、環式PASの収率は13%であり、環式PASの選択率は14%であることがわかった。また、得られた反応物の色調は黄白色であり、反応物回収後の反応器は接液部にわずかに変色が認められたが金属光沢が保たれていた。
本発明の好ましい範囲内で溶媒量を減じて環式ポリアリーレンスルフィドの製造を行った場合、環式ポリアリーレンスルフィドの収率および選択率は若干低下するが、実施例1および2と同様に含水量の多い場合に比べ、加熱時の反応器の圧力は低く保つことが可能であり、さらに得られた反応物の色調も優れることがわかった。また、反応液中の環式PASの濃度は0.74重量%であり、実施例1と同等であった。
[比較例2]
ここでは実施例3と同量の原料を使用し、比較例1と同様にして脱水工程を省いて環式PASの製造を行った例を示す。
本条件では原料仕込み後の昇温開始(25℃)から約60分後、約250℃到達時に内圧が1.8MPaに達しオートクレーブの安全弁(作動圧力設定値:1.8MPa)が作動したため、250℃到達時点で反応を中断した。反応系内の水分量はスルフィド化剤1モル当たり5.87モルと比較例1と同程度であるが、NMPに対する水の比率が比較例1よりも増加しており水蒸気分圧が上昇したためと考えられる。
このように含水量の多い系で使用する溶媒量を減じると反応器内の圧力が大幅に上昇するため、それに耐えうる高価な耐圧製造設備が必要となる。
[実施例4]
ここでは実施例3より反応工程で使用する溶媒量をさらに減じて環式PASの製造を行った例を示す。
<脱水工程>
SUS316製の攪拌機付き1.5リットルオートクレーブに48重量%の水硫化ナトリウム水溶液93.6g(水硫化ナトリウムとして0.800モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液69.6g(水酸化ナトリウムとして0.835モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)818.3g(8.25モル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は85.0g(4.72モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は5.90モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの溶媒量は約1.00Lであった。
オートクレーブ上部にバルブを介して蒸留塔を取り付け、常圧で窒素を通じて240rpmで撹拌しながら200℃まで約1.5時間かけて徐々に加熱して脱液を行い、留出液187.7gを得た。
この留出液をガスクロマトグラフ法で分析したところ留出液の組成は水74.0g、NMPが113.7gであり、この段階では反応系内に水が11.0g(0.61モル)、NMPが704.6g(7.10モル)残存していることが判った。なお、脱水工程を通して反応系から飛散した硫化水素は0.0016モルであった。
<反応工程>
脱水工程の終了後オートクレーブ上部のバルブを閉じた。次いで得られた混合物を約160℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)119.6g(0.814モル)及びNMP383.3g(3.87モル)を加えた。この段階における、反応系内のイオウ成分1モル当たりの水分量は0.76モル、NMP量は1.33Lであった。反応器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、250℃まで60分かけて昇温した。この段階の反応器内の圧力はゲージ圧で0.46MPaであった。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷した。
得られた内容物をガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、モノマーのp−DCBの消費率は94%、環式PASの収率は10%であり、環式PASの選択率は11%であることがわかった。また、得られた反応物の色調は黄白色であり、反応物回収後の反応器は接液部にわずかに変色が認められたが金属光沢が保たれていた。
本発明の好ましい範囲内で溶媒量を減じて環式ポリアリーレンスルフィドの製造を行った場合、環式ポリアリーレンスルフィドの収率および選択率は若干低下するが、実施例1および2と同様に含水量の多い場合に比べ、加熱時の反応器の圧力は低く保たれ、さらに得られた反応物の色調が優れることがわかった。また、反応液中の環式PASの濃度は0.78重量%であり、実施例1と同程度であった。
[実施例5]
ここでは使用するスルフィド化剤およびp−DCBの組成を変更した以外は実施例1と同様の反応容器、反応濃度、反応温度の条件にて環式PASの製造を行った例を示す。
<脱水工程>
SUS316製の攪拌機付き1リットルオートクレーブに48重量%の水硫化ナトリウム水溶液28.1g(水硫化ナトリウムとして0.240モル)、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液19.4g(水酸化ナトリウムとして0.232モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)238.1g(2.40モル)を仕込んだ。原料に含まれる水分量は24.8g(1.38モル)であり、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの水の量は5.73モルであった。また、スルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの溶媒量は約0.97Lであった。
オートクレーブ上部にバルブを介して蒸留塔を取り付け、常圧で窒素を通じて240rpmで撹拌しながら200℃まで約1.5時間かけて徐々に加熱して脱液を行い、留出液33.9gを得た。
この留出液をガスクロマトグラフ法で分析したところ留出液の組成は水24.5g、NMPが9.4gであり、この段階では反応系内に水が0.3g(0.017モル)、NMPが228.7g(2.31モル)残存していることが判った。なお、脱水工程を通して反応系から飛散した硫化水素は0.0011モルであった。
<反応工程>
脱水工程の終了後オートクレーブ上部のバルブを閉じた。次いで得られた混合物を約160℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)32.6g(0.222モル)及びNMP384.4g(3.88モル)を加えた。この段階における、反応系内のイオウ成分1モル当たりの水分量は0.06モル、NMP量は2.50Lであった。反応器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、250℃まで60分かけて昇温した。この段階の反応器内の圧力はゲージ圧で0.40MPaであった。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷した。
得られた内容物をガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、モノマーのp−DCBの消費率は96%、環式PASの収率は16%であり、環式PASの選択率は17%であることがわかった。また、得られた反応物の色調は黄白色であり、反応物回収後の反応器は接液部にわずかに変色が認められたが金属光沢が保たれていた。
本発明の好ましい範囲でスルフィド化剤およびp−DCBの組成を変更しても良好な選択率で環式ポリアリーレンスルフィドが得られ、加熱時の反応器の圧力は低く保たれ、さらに得られた反応物の色調が優れることがわかった。