以下に、本発明実施の形態を説明する。
(1)環式ポリアリーレンスルフィド
本発明における環式ポリアリーレンスルフィドとは、式−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物であり、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(A)のごとき化合物である。
ここでArとしては式(B)〜式(M)などであらわされる単位を例示できるが、なかでも式(B)〜式(D)が好ましく、式(B)及び式(C)がより好ましく、式(B)が特に好ましい。
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
なお、環式ポリアリーレンスルフィドにおいては前記式(B)〜式(M)などの繰り返し単位をランダムに含んでも良いし、ブロックで含んでも良く、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式ポリアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)が挙げられる。
環式ポリアリーレンスルフィドの前記(A)式中の繰り返し数mに特に制限はないが4〜50が好ましく、4〜25がより好ましく、4〜20が更に好ましい。mがこの様な範囲の環式PASは加熱した際に流動化する温度が低くなる傾向にあるため、環式PASを成形加工する際や、他の樹脂と溶融混練する際に加工温度を低くできるとの観点で有利となる。また、後述するように環式PASを含有するポリアリーレンスルフィドプレポリマーを高重合度体への転化する場合には、環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度以上に加熱して行うことが好ましいが、mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなる傾向にあるため、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの高重合度体への転化をより低い温度で行うことができるようになるとの観点でmを前記範囲にすることは有利となる。また、本発明の環式ポリアリーレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低く、融解に要する熱量も小さくなる傾向があるため好ましい。
また、本発明の環式ポリアリーレンスルフィドは前記式(A)で表される環式ポリアリーレンスルフィドのみで構成されることが望ましい。即ち環式PAS以外の不純物を含まないことが望ましく、不純物含有量が少ないほど、言い換えれば純度が高いほど環式PASとしての特性が発現されることになる。一方で高純度の環式PASを得るためにはより多大な労力とエネルギーを要する傾向になる。従って通常は環式PASを90重量%以上含むことが好ましく、93%以上含むことがより好ましい。ここで環式PASを用いる用途によっては不純物を含んでいることが許容される場合もあるため、本発明においてはある程度の不純物を含む環式PASを用いることも可能であり、特に環式PASの純度に制限は無いが、環式PASを50重量%以上含むもの、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上含むものをもちいることも可能である。ここで本発明の環式PASの回収をより効率的に実施するとの観点においては、環式PASに含まれる環式ポリアリーレンスルフィド以外の化合物は線状ポリアリーレンスルフィドであることが特に好ましい。これは同じくアリーレンスルフィドを構成単位とする化合物である線状PASはその特性において環式PASと類似性を有するため、不純物として含まれていても本発明の主旨を害しない傾向にあるためである。
また、本発明の環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの総量に対する前記式(A)のm=6の環式PASの含有量は50重量%未満であることが好ましく、40重量%未満がより好ましく、30重量%未満がさらに好ましい([m=6の環式PAS(重量)]/[環式PAS混合物(重量)]×100(%))。前述した特許文献6に開示されている方法、すなわち架橋タイプのPPSをソックスレー抽出し、これで得られた抽出液を冷却して固形分を得る方法、すなわち「再結晶」により環式PPSを得る方法においては純度99.9%のシクロヘキサ(p−フェニレンスルフィド)(m=6の環式PPS)を得る方法が開示されている。このm=6の環式PPSは348℃に融解ピーク温度を有するとされ、これはこのm=6の環式PPSが極めて安定な結晶構造を有し、且つ結晶化もし易いためと考えられる。従ってこのような環式PASを加工する際には極めて高い加工温度が必要となるため、後述の環式PAS製造方法における溶融加工温度をより低い温度にしうるとの観点から本発明の環式PAS混合物においては、特に前記式(A)のm=6の環式PASの含有量を先述の範囲とすることが好ましい。同様に後述の環式PAS製造方法における溶融加工温度をより低い温度にしうるとの観点から、本発明では環式PASとして異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物を用いることが好ましいことは前述したとおりであるが、環式PAS混合物に含まれる環式PASのうち前記式(A)のmが4〜12の環式PASの総量を100%とした場合に、mが5〜8の環式PASをそれぞれ5%以上含む環式PAS混合物を用いることが好ましく、mが5〜8の環式PASをそれぞれ7%以上含む環式PAS混合物を用いることがより好ましい。このような組成比の環式PAS混合物は特に融解ピーク温度が低くなり、且つ融解熱量も小さくなる傾向にあり溶融加工性の面で特に好ましい。なおここで、環式PAS混合物における環式ポリアリーレンスルフィドの総量に対する繰り返し数mの異なる環式PASの含有率は、環式PAS混合物をUV検出器を具備した高速液体クロマトグラフィーで成分分割した際に環式PASに帰属される全ピーク面積に対する、所望するm数を有する環式PAS単体に帰属されるピーク面積の割合として求めることができる。なお、この高速液体クロマトグラフィーで成分分割された各ピークの定性は、各ピークを分取液体クロマトグラフィーで分取し、赤外分光分析における吸収スペクトルや質量分析を行うことで可能である。
(2)有機溶媒(b)
本発明では混合物中に存在する環式PASのうち50重量%以上が溶解している混合物から環式PASを固形分として回収するが、この混合物を調製する際に有機溶媒(b)を用いる。ここで混合物中に存在する環式PASのうち50重量%以上が溶解している混合物から環式PASを固形分として回収することにより、回収操作による環式PASの純度向上や回収操作性に優れる形状として環式PAS固体が回収できるようになる。
ここで有機溶媒(b)は、混合物中に存在する環式PASの50重量%以上を溶解する溶解力を有する有機溶媒であれば特に制限は無い。ここで有機溶媒の溶解力は、環式PASの溶解を行う際の温度や圧力や使用量など様々な要因が影響するため前記条件に合致する有機溶媒であればその選択に特に制限は無いが、より効率よく且つ簡易な操作で環式PASの回収を実施するとの観点では、より少量の有機溶剤の使用量で多量の環式PASを溶解できることが望ましい。このような特性を有する溶剤としてはたとえばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表される非プロトン性溶媒などの有機溶媒を例示できる。
また一般に有機溶剤の溶解力は溶解操作に処する温度の上昇に伴って上昇するが、より高温で溶解操作を実施することでより少量の有機溶剤の使用量で多量の環式PASを溶解できる傾向にある。一方で温度上昇により有機溶剤の蒸気圧は上昇する傾向にあるため、温度上昇によって有機溶剤の蒸気圧が常圧以上になったり、もしくは常圧に近い条件となり、有機溶剤の大気への揮散による影響が増大する傾向となる。このような条件下で溶解操作を行う際には有機溶剤の大気への揮散を防止可能な容器を用いる必要性が生じ、たとえば密閉条件下での溶解操作が可能な加圧条件に耐えうる容器を用いるなど、溶解操作の実施により高度で高コストな設備を用いる必要性が生じる。従って、より簡易な設備を用いて溶解操作を行うためには、有機溶剤の蒸気圧が低い条件で溶解操作を実施できることが望ましく、このような有機溶剤を選定する一つの指針が有機溶剤の沸点であり、沸点の高い有機溶剤が好ましい。この観点ではエーテル系溶媒や非プロトン性極性溶媒が好ましく、非プロトン性溶媒がより好ましいといえる。なお、ここで使用する有機溶媒(b)は後述する有機溶媒(b)以外の溶媒(c)、好ましくはプロトン性溶媒と混和することが望ましいが、エーテル系溶媒や非プロトン性溶媒は一般にプロトン性溶媒と混和しやすい特徴を有しているため、この観点でも望ましいといえる。
また、用いる溶剤としてはPAS成分の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましい。
以上のごとき観点において、有機溶剤(b)として特に望ましいのはN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表される非プロトン性溶媒であり、中でも安定性に優れや取り扱いが容易なアミド系溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンがよりいっそう好ましいものとして例示できる。
(3)溶媒(c)
本発明では環式PAS(a)及び有機溶媒(b)を含む混合物に(b)とは異なる溶媒(c)を加えることで環式PAS(a)を固形分として回収する。
ここで用いる溶媒(c)は、(a)環式PAS及び(b)有機溶媒を含む混合物に加えることで混合物中の環式PAS(a)の50重量%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上を固形分として回収できる特性を有するものであれば良い。従って溶媒(c)は有機溶媒(b)よりも環式PASに対する溶解性が低いものであることが必要である。また溶媒(c)を加えることで、より効率よく環状PASを固形分とするためには、溶媒(c)は有機溶媒(b)と混和することが望ましい。この様な特性を有する溶剤は一般に極性の高い溶剤があり、用いた有機溶媒(b)の種類により好ましい溶剤は異なるので限定はできないが、例えば水や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノールに代表されるアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンに代表されるケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルに代表される酢酸エステル類が例示できる。これらの中でもプロトン性溶媒である水やアルコール類は極性が特に高く環式PASの溶解性が低いため好適に利用でき、プロトン性溶媒の中でも入手性、経済性、取り扱い性の容易さの観点から水、メタノール、エタノールが好ましく、水が特に好ましい。
(4)環式ポリアリーレンスルフィドの回収方法
本発明では少なくとも(a)環式ポリアリーレンスルフィド及び(b)有機溶媒を含む混合物であって環式ポリアリーレンスルフィド(a)の50重量%以上が溶解している混合物に、(b)とは異なる溶媒(c)を加えることで環式ポリアリーレンスルフィド(a)を固形分として回収率50重量%以上で回収する。
本回収法においてはまず、少なくとも(a)環式PAS及び(b)有機溶媒からなる混合物を調製する。この混合物においては(a)環式PASと(b)有機溶剤以外は存在しないことが好ましいが、本発明の本質を損なわない範囲でその他の成分を含んでいても良い。なお、このような第3成分の量が増大すると、本回収方法により単離回収される環式PASの純度が低下する傾向にあるため、前述したような好ましい純度の環式PASを得るためには第3成分は少ないことが望まれる。この混合物における(a)の含有率(環式PAS(a)の重量と有機溶媒(b)の重量の総和に対する環式PAS(a)の重量分率)は高いほど好ましく、一般に含有率が高いほど回収操作後に得られる環式PASの収量が増大し、効率よく環式PASを回収できる。この観点から、混合物における(a)の含有率は1重量%以上が好ましく、4重量%以上がより好ましく、8重量%以上がよりいっそう好ましい。一方、混合物における(a)の含有率の上限は特に無いが、一般に環式PASは各種溶剤に対する溶解性が低い傾向にあるため、含有率が高すぎると不溶成分が生じる傾向となり、回収操作に不都合を生じることもある。この回収操作上の不都合としてはたとえば、混合物(固形分を含むスラリー状の場合もある)が不均一になり、局所的な組成が異なり回収物の品質が低下するなどである。またこのような不都合が生じる傾向は用いる有機溶剤(b)の特性や混合物調製時の条件などに大きく依存するため、混合物における(a)の含有率の上限を定めることはできないが、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下の含有率が望ましい。
また、前記したごとき回収操作における不都合を回避して混合物における(a)の含有率をより高くするために、混合物を調製する際に加熱することも可能である。この温度は(2)項において述べたとおり用いる有機溶剤(b)特性に応じて異なるため一意的に決めることはできないが、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、75℃以上がさらに好ましい。一方で上限温度としては使用する有機溶媒(b)の常圧における沸点以下であればよいが、高温で結晶を析出させると微細結晶が形成される傾向にあるため、固液分離を行う際に濾紙の目詰まりの要因となり、回収操作上の不都合となる傾向がある。この観点から、操作温度範囲の上限としては100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、85℃以下がさらに好ましい。なお、この混合物を調製するにあたり、撹拌や震蕩等の操作を施すことも可能であり、より均一な混合物の状態を保つとの観点でも望ましい操作といえる。なおここで、(a)環式PAS及び(b)有機溶媒からなる混合物においては、この混合物中に存在する環式PASのうち50重量%以上が溶解していることが必要であり、これにより環式PASの回収におけるメリットが生じることは前記したとおりである。ここで、混合物に溶解している環式PAS量を定量する手法としてはたとえば、混合物を通常の固液分離操作に処して不溶成分を回収し、これの重量求めることで定量する方法が例示できる。
本発明で用いる環式PAS(a)と有機溶媒(b)の混合物は、上記の好ましい環式PAS(a)の含有率とするために、希薄な混合物を濃縮して得ることが好ましい。混合物を調整する際に初めから高濃度の混合物とすると、得られる回収環式PAS中に有機溶媒(b)が含まれることがあり、希薄な混合物を濃縮して好ましい環式PAS(a)の含有率の混合物を調整することで、得られる回収環式PASの純度を高くすることができる。さらに、混合物を濃縮することで、過飽和の状態としてから溶剤(c)を加えることで、純度の高い回収環式PASを得ることができる。
本回収法においては次に、上記のごとき混合物に、有機溶媒(b)とは異なる溶媒(c)を加えることで、溶媒(b)に溶解している環式ポリアリーレンスルフィドを固形分として析出させて回収する。ここで混合物に溶媒(c)を加える方法に特に制限は無いが、溶媒(c)を加えたことで粗大な固形分が生成するような添加方法は避けるべきであり、混合物を撹拌しながら溶媒(c)を滴下する方法が好ましい。溶媒(c)を加える温度に制限は無いが、温度が低いほど溶媒(c)を加えた際に粗大な固形分が生成する傾向が高まるため、このような操作上の不都合を回避し混合物の均一性を保つとの観点で50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、75℃以上がさらに好ましい。一方で上限温度としては使用する有機溶媒(b)及び溶媒(c)の常圧における沸点以下が好ましい。このような好ましい温度範囲で溶媒(c)を加える操作を行うことで、回収する際に固液分離の効率を向上させることができ、操作の観点及び設備の観点でより簡易な方法で回収操作を実施できる傾向にある。
また、本発明の環式PASの回収方法においては、環式PASの回収方法として従来採用されてきた再沈法と比べて少量の溶媒の使用でも効率よく環式PASを回収することが可能であるため、環式PAS(a)と有機溶媒(b)を含む混合物に加える溶剤(c)の重量を有機溶媒(b)の重量以下とすることも可能である。さらに前述したように、本発明において好ましい有機溶媒(b)と溶媒(c)の選択をすることで、環式PAS(a)と有機溶媒(b)を含む混合物に加える溶剤(c)の重量を有機溶媒(b)の重量の50重量%以下にすることも可能であり、より好ましい条件では40重量%以下、さらに好ましい条件では35重量%以下の条件を設定することも可能となる。一方で、溶剤(c)を加える重量の下限に特に制限はないが、より効率よく環式PASを固形分として回収するためには同じく10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましい。加える溶剤(c)の量を少なくすることで、回収操作を小スケールで行うことができ、操作性の向上が期待できる。本発明においては混合物中に含まれる環式PAS(a)の50重量%以上を固形分として回収することが可能であるが、前記のような好ましい溶剤(c)の使用量の範囲では環式PAS(a)の80重量%以上を固形分として回収できる傾向にあり、より好ましくは90重量%以上を、さらに好ましくは95%以上を、よりいっそう好ましくは98重量%以上を回収することも可能である。なお、環式PASの回収方法として従来採用されてきた再沈法においては、環式PASの少なくとも一部が溶解した溶液もしくはスラリーを環式PASの貧溶媒に滴下する方法で環式PASの回収がなされてきたが、一般にこの方法で用いられる貧溶媒の使用量は、環式PAS溶液またはスラリーに対して大過剰であるため回収操作において大量の廃液が発生する等の課題があった。またこの再沈法において貧溶媒の使用量を低減し、たとえば前述した本発明における好ましい溶媒使用量の例示範囲で再沈操作を実施した場合、粗大な固形分が発生する、反応容器に固形分が固着する、さらに得られる固形分中の環式PASの純度が低下するなど様々な不都合が生じる傾向にあった。これに対し本発明の環式PASの回収方法はこれら従来の再沈法の課題を大幅に改善できる傾向にある点でも、極めて優れた方法といえる。
上記までの操作の実施により得られた環式PAS(a)と有機溶媒(b)及び溶媒(c)の混合物中(以降混合物(d)と称する場合もある)には混合物中に存在する環式PAS(a)のうち50重量%以上が固形分として存在する。従って公知の固液分離法を用いて環式PASを回収することができ、固液分離法としては、例えば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。ここで環式PASの回収率をより高くするためには、混合物(d)を50℃未満の状態にしてから固液分離を行うことが好ましく、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下で行うことが好ましい。なお、このような好ましい温度としてから環式PASの回収を行うことは、環式PASの回収率を高める効果のみならず、より簡易な設備で環式PASの回収を行えるようになるとの観点でも好ましい条件といえる。なお、混合物(d)の温度の下限は特に無いが、温度が低下することで混合物(d)の粘度が高くなりすぎるような条件や、固化するような条件は避けることが望ましく、一般的には常温近傍とすることが最も望ましい。
このような固液分離を行うことで混合物(d)中に存在する環式PASの50重量%以上を固形分として単離・回収することができる。このようにして分離した固形状の環式PASは混合物(d)中の液成分(母液)を含む場合には、固形状の環式PASを各種溶剤を用いて洗浄することで、母液を低減することも可能である。ここで固液状の環状PASの線状に用いる各種溶剤としては環式PASに対する溶解性が低い溶剤が望ましく、たとえば前記(3)項に示した溶媒(c)が好ましい溶媒として例示できる。このような溶剤を用いた洗浄を付加的に行うことで、固形状の環式PASが含有する母液量を低減できるのみならず、環式PASが含む溶剤に可溶な不純物を低減できるという効果もある。この洗浄方法としては固形分ケークが積層した分離フィルター上に溶剤を加えて固液分離する方法や固形分ケークに溶剤を加えて撹拌することでスラリー化した後に再度固液分離する方法などが例示できる。また、前述の母液を含有、もしくは洗浄操作による溶剤成分を含有する等、液成分を含む湿潤状態の環式PASをたとえば一般的な乾燥処理を施すことにより液成分を除去して乾燥状態の環式PASを得ることも可能である。
なお環式PASの回収操作を行う際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。これにより環式PASを回収する際の環式PASの架橋反応や分解反応、酸化反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できるのみならず、回収操作に用いる有機溶媒(b)や溶媒(c)の酸化劣化等、好ましくない副反応を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とは回収操作に処する各種成分が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
(5)本発明で回収される環式PASの特性
かくして得られた環式PASは、通常、環式PASを50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上含む純度の高いものであり、一般的に得られる線状のPASとは異なる特性を有する工業的にも利用価値の高いものである。また、本発明の製造方法により得られる環式PASは前記式(A)におけるmが単一ではなく、m=4〜50の異なるmを有する前記式(A)が得られやすいという特徴を有する。ここで好ましいmの範囲は4〜25,より好ましくは4〜20である。mがこの範囲の場合、後述するように環式PASを高重合度体へ転化させる場合に重合反応が進行しやすく、高分子量体が得られやすくなる傾向にある。この理由は現時点判然とはしないが、この範囲の環式PASは分子が環式であるがために生じる結合のゆがみが大きく、重合時に開環反応が起こりやすいためと推測している。なお、mが単一の環式PASは単結晶として得られるため、極めて高い融解温度を有するが、本発明では環式PASは異なるmを有する混合物が得られやすく、これにより環式PASの融解温度が低いという特徴があり、このことはたとえば環式PASを溶融して用いる際の加熱温度を低くできるという優れた特徴を発現することになる。
(6)本発明で回収される環式PASを配合した樹脂組成物
本発明で得られた環式PASを各種樹脂に配合して用いることも可能であり、このような環式PASを配合した樹脂組成物は、溶融加工時のすぐれた流動性を発現する傾向が強く、また滞留安定性にも優れる傾向にある。この様な特性、特に流動性の向上は、樹脂組成物を溶融加工する際の加熱温度が低くても溶融加工性に優れるという特徴を発現するため、射出成形品や繊維、フィルム等の押出成形品に加工する際の溶融加工性の向上をもたらす点で大きなメリットとなる。環式PASを配合した際にこの様な特性の向上が発現する理由は定かではないが、環式PASの構造の特異性、すなわち環状構造であるために通常の線状化合物と比較してコンパクトな構造をとりやすいため、マトリックスである各種樹脂との絡み合いが少なくなりやすいこと、各種樹脂に対して可塑剤として作用すること、またマトリックス樹脂どうしの絡み合い抑制にも奏効するためと推測している。
環式PASを各種樹脂に配合する際の配合量に特に制限は無いが、各種樹脂100重量部に対して本発明の環式PASを0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部配合することで顕著な特性の向上を得ることが可能である。
また、上記樹脂組成物には必要に応じて更に繊維状および/または非繊維状の充填材を配合することも可能であり、その配合量は前記各種樹脂100重量部に対して0.5〜400重量部、好ましくは0.5〜300重量部、より好ましくは1〜200重量部、更に好ましくは1〜100重量部の範囲が例示でき、これにより優れた流動性を維持しつつ機械的強度が向上できる傾向にある。充填剤の種類としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などのいずれの充填剤も使用することができる。これら充填剤の好ましい具体例としてはガラス繊維、タルク、ワラステナイト、およびモンモリロナイト、合成雲母などの層状珪酸塩が例示でき、特に好ましくはガラス繊維である。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填剤はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
また、樹脂組成物の熱安定性を保持するために、フェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の耐熱剤を含有せしめることも可能である。かかる耐熱剤の配合量は、耐熱改良効果の点から前記各種樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系化合物を併用して使用することは、特に耐熱性、熱安定性、流動性保持効果が大きく好ましい。
さらに、前記樹脂組成物には以下のような化合物、すなわち、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重宿合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物はいずれも前記各種樹脂100重量部に対して20重量部未満、好ましくは10重量部以下、更に好ましくは1重量部以下の添加でその効果が有効に発現する傾向にある。
上記のごとき環式PASを配合してなる樹脂組成物を製造する方法は特に限定されるものではないが、例えば環式PAS、各種樹脂および必要に応じてその他の充填材や各種添加剤を予めブレンドした後、各種樹脂および環式PASの融点以上において一軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの通常公知の溶融混合機で溶融混練する方法、溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などが用いられる。ここで環式PASとして環式PASの単体、すなわち前記式(Q)のmが単一のものを用いる場合や、異なるmの混合物であっても結晶性が高く融点が高いものを用いる場合は、環式PASを環式PASが溶解する溶媒に予め溶解して供給し溶融混練の際に溶媒を除去する方法、環式PASをその融点以上で一旦溶解した後に急冷することで結晶化を抑え、非晶状としたものを供給する方法、あるいはプリメルターを環式PASの融点以上に設定し、プリメルター内で環式PASのみを溶融させ、融液として供給する方法などを採用することができる。
ここで環式PASを配合する各種樹脂に特に制限は無く、結晶性樹脂および非晶性樹脂の熱可塑性樹脂、また熱硬化性樹脂にも適用が可能である。
ここで結晶性樹脂の具体例としては例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリイミド樹脂およびこれらの共重合体などが挙げられ、1種または2種以上併用してもよい。中でも、耐熱性、成形性、流動性および機械特性の点で、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。また、得られる成形品の透明性の面からはポリエステル樹脂が好ましい。各種樹脂として結晶性樹脂を用いる場合は、上述した流動性の向上の他に結晶化特性も向上する傾向がある。また、各種樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることも特に好ましく、この場合、流動性の向上と共に、結晶性の向上、さらにはこれらが奏効した効果として射出成形時のバリ発生が顕著に抑制されるという特徴が発現しやすい傾向にある。
非晶性樹脂としては非晶性を有する溶融成形可能な樹脂であれば、特に限定されないが、耐熱性の点で、ガラス転移温度が50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。上限は、特に限定されないが、成形性などの点から300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。なお、本発明において、非晶性樹脂のガラス転移温度は、示差熱量測定において非晶性樹脂を30℃〜予測されるガラス転移温度以上まで、20℃/分の昇温条件で昇温し1分間保持した後、20℃/分の降温条件で0℃まで一旦冷却し、1分間保持した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観察されるガラス転移温度(Tg)を指す。この具体例としては、非晶性ナイロン樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート樹脂、ABS樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、およびポリ(メタ)アクリレート共重合、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種が例示でき、1種または2種以上併用してもよい。これら非晶性樹脂の中でも、特に高い透明性を有するポリカーボネート(PC)樹脂、ABS樹脂の中でも透明ABS樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、およびポリ(メタ)アクリレート共重合、ポリエーテルスルホン樹脂を好ましく使用することができる。各種樹脂として非晶性樹脂を用いる場合には、前述の溶融加工時の流動性向上に加えて、透明性に優れる非晶性樹脂を使用した場合においては、高い透明性を維持させることができるという特徴を発現できる。ここで、非晶性樹脂組成物に高い透明性を発現させたい場合には、環式PASとして前記式(Q)のmが異なる環式PASを用いることが好ましい。なお、環式PASとして環式PASの単体、すなわち前記式(Q)のmが単一のものを用いる場合、この様な環式PASは融点が高い傾向にあるため、非晶性樹脂と溶融混練する際に十分に溶融分散せずに樹脂中に凝集物となったり透明性が低下する傾向にあるが、前述したように前記式(Q)のmが異なる環式PASはその融解温度が低い傾向にあり、このことは溶融混練時の均一性の向上に効果的である。ここで、本発明の製造方法により得られる環式PASは前記式(Q)におけるmが単一ではなく、m=4〜50の異なるmを有する前記式(Q)が得られやすいという特徴を有するため、高い透明性を有する非晶性樹脂組成物を得たい場合に特に有利である。
上記で得られる、各種樹脂に環式PASを配合した樹脂組成物は通常公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用できる。またこれにより得られた各種成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。また、上記樹脂組成物およびそれからなる成形品は、リサイクルすることが可能である。例えば、樹脂組成物およびそれからなる成形品を粉砕し、好ましくは粉末状とした後、必要に応じて添加剤を配合して得られる樹脂組成物は、上記樹脂組成物と同じように使用でき、成形品とすることも可能である。
(7)環式PASの高重合度体への転化
本発明によって製造される環式PASは(5)に述べたごとき優れた特性を有するのでPASポリマーを得る際のプレポリマーとして好適に用いることが可能である。なおここでプレポリマーとしては本発明の環式PASの回収方法で得られる環式PAS単独でも良いし、所定量の他の成分を含むものでも差し障り無いが、環式PAS以外の成分を含む場合は線状PASや分岐構造を有するPASなど、PAS成分であることが特に好ましい。少なくとも本発明の環式PASを含み、以下に例示する方法により高重合度体へ変換可能なものがポリアリーレンスルフィドプレポリマーであり、以下PASプレポリマーと称する場合もある。
環式PASの高重合度体への転化は環式PASを原料にして高分子量体が生成する条件下で行えばよく、例えば本発明の環式PAS製造方法による環式PASを含む、PASプレポリマーを加熱して高重合度体に転化させる方法が好ましい方法として例示できる。この加熱の温度は前記PASプレポリマーが溶融解する温度であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限は無い。加熱温度がPASプレポリマーの溶融解温度未満では分子量の高いPASを得るのに長時間が必要となる傾向がある。なお、PASプレポリマーが溶融解する温度は、PASプレポリマーの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えばPASプレポリマーを示差走査型熱量計で分析することで溶融解温度を把握することが可能である。なお、加熱温度が高すぎるとPASプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとポリアリーレンスルフィドプレポリマー間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるPASの特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。このような好ましくない副反応の顕在化を抑制しやすい加熱温度としては180〜400℃が例示でき、好ましくは200〜380℃、より好ましくは250〜360℃である。一方、ある程度の副反応が起こっても差し障り無い場合には、250〜450℃、好ましくは280〜420℃の温度範囲も選択可能であり、この場合には極短時間で高分子量体への転化を行えるという利点がある。
前記加熱を行う時間は使用するPASプレポリマーにおける環式PASの含有率やm数、及び分子量などの各種特性、また、加熱の温度等の条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間としては0.05〜100時間が例示でき、0.1〜20時間が好ましく、0.1〜10時間がより好ましい。0.05時間未満ではPASプレポリマーのPASへの転化が不十分になりやすく、100時間を超えると好ましくない副反応による得られるPASの特性への悪影響が顕在化する可能性が高くなる傾向にあるのみならず、経済的にも不利益を生じる場合がある。
また、PASプレポリマーには加熱による高重合度体への転化に際しては、転化を促進する各種触媒成分を使用することも可能である。このような触媒成分としてはイオン性化合物やラジカル発生能を有する化合物が例示できる。イオン性化合物としてはたとえばチオフェノールのナトリウム塩やリチウム塩等、硫黄のアルカリ金属塩が例示でき、また、ラジカル発生能を有する化合物としてはたとえば加熱により硫黄ラジカルを発生する化合物を例示でき、より具体的にはジスルフィド結合を含有する化合物が例示できる。なお、各種触媒成分を使用する場合、触媒成分は通常はPASに取り込まれ、得られるPASは触媒成分を含有するものになることが多い。特に触媒成分としてアルカリ金属及び/または他の金属成分を含有するイオン性の化合物を用いた場合、これに含まれる金属成分の大部分は得られるPAS中に残存する傾向が強い。また、各種触媒成分を使用して得られたPASは、PASを加熱した際の重量減少が増大する傾向にある。従って、より純度の高いPASを所望する場合および/または加熱した際の重量減少の少ないPASを所望する場合には、触媒成分の使用をできるだけ少なくする、好ましくは使用しないことが望まれる。従って、各種触媒成分を使用してPASプレポリマーを高重合度体へ転化する際には、PASプレポリマーと触媒成分を含む反応系内のアルカリ金属量が100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは30ppm以下更に好ましくは10ppm以下であって、なお且つ、反応系内の全イオウ重量に対するジスルフィド重量が1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.3重量%未満、更に好ましくは0.1重量%未満になるように触媒成分の添加量を調整して行うことが好ましい。
PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常溶媒の非存在下で行うが、溶媒の存在下で行うことも可能である。溶媒としては、PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の阻害や生成したPASの分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがあげられる。また、二酸化炭素、窒素、水等の無機化合物を超臨界流体状態として溶媒に用いることも可能である。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
前記、PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行っても良いし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限無く行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
PASプレポリマーの加熱による高重合度体への転化の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これによりPASプレポリマー間、加熱により生成したPAS間、及びPASとPASプレポリマー間などで架橋反応や分解反応等の好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とはPAS成分が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下が更に好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい上限を越える場合は、架橋反応など好ましくない副反応が起こりやすくなる傾向にあり、一方好ましい下限未満では、反応温度によってはPASプレポリマーに含まれる分子量の低い環式ポリアリーレンスルフィドが揮散しやすくなる傾向にある。
前記したPASプレポリマーの高重合度体への転化は繊維状物質の共存下で行うことも可能である。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。繊維状物質存在下でPASプレポリマーの高重合度体への転化を行うことで、PASと繊維状物質からなる複合材料構造体を容易に作成する事ができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、PAS単独の場合に比べて、たとえば機械物性に優れる傾向にある。
ここで、各種繊維状物質の中でも長繊維からなる強化繊維を用いることが好ましく、これによりPASを高度に強化する事が可能になる。一般に樹脂と繊維状物質からなる複合材料構造体を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質のぬれが悪くなる傾向にあり、均一な複合材料ができなかったり、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここでぬれとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないようにこの流体物質と固体基質との物理的状態の良好且つ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質とのぬれは良好になる傾向にある。本発明のPASプレポリマーは融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、たとえばPASと比べて著しく低いため、繊維状物質とのぬれが良好になりやすい。PASプレポリマーと繊維状物質が良好なぬれを形成した後、本発明のPASの製造方法によればPASプレポリマーが高重合度体に転化するので、繊維状物質と高重合度体(ポリアリーレンスルフィド)が良好なぬれを形成した複合材料構造体を容易に得ることができる。
繊維状物質としては長繊維からなる強化繊維が好ましいことは前述したとおりであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性及び引張強度の良好な繊維があげられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。この内、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450Kgf/mm2、引張伸度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。長繊維状の強化繊維を用いる場合、その長さは、5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を複合材料として十分に発現させることが容易となる。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いてもかまわない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であっても使用可能である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
また、前記したPASプレポリマーの高重合度体への転化は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、たとえば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、たとえば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
(8)PAS
前記(7)によれば、工業上極めて有用なPASを得ることが可能である。ここでPASとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては前記式(A)〜式(L)などであらわされる単位などを例示できるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記式(M)〜式(O)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことも可能であるが、これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明の好ましい態様によって得られるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
本発明の好ましい態様によって得られるPASの分子量に特に制限は無いが、好ましい範囲として重量平均分子量で10,000以上、より好ましくは15,000以上、さらに好ましくは18,000以上である。重量平均分子量が10,000以上のPASでは加工時の成形性が高く、また成形品の機械強度や耐薬品性等の特性も高くなる傾向にある。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000未満、更に好ましくは200,000未満であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
本発明の好ましい態様によって得られるPASの分子量分布の広がり、即ち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度は4.0以下が例示でき、2.5以下が好ましく、2.3以下がより好ましく、2.1以下が更に好ましく、2.0以下がよりいっそう好ましい。分散度が4.0以下のPASではPASに含まれる低分子成分の量が少ない傾向にあり、この範囲ではPASを成形加工用途に用いた場合の機械特性が高く、また、加熱した際のガス発生量や溶剤と接した際の溶出成分量が低減できる傾向にある。なお、前記重量平均分子量及び数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
また、本発明の好ましい態様によって得られるPASの溶融粘度に特に制限はないが、通常、溶融粘度が5〜10,000Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)の範囲が好ましい範囲として例示できる。
本発明の好ましい態様によれば、得られるPASは従来のものに比べ高純度であり、不純物であるアルカリ金属含量は100ppm以下のものが得られやすい特徴がある。好ましいアルカリ金属含量としては50ppm未満、より好ましくは30ppm以下、更に好ましくは10ppm以下である。アルカリ金属含有量が100ppm以下であると、例えば高度な電気絶縁特性が要求される用途において高い信頼性を発現し易くなる。ここで本発明におけるPASのアルカリ金属含有量とは、例えばPASを電気炉等を用いて焼成した残渣である灰分中のアルカリ金属量から算出される値であり、前記灰分を例えばイオンクロマト法や原子吸光法により分析することで定量することができる。
本発明の好ましい態様により得られるPASの別の特徴は、加熱した際の重量減少が従来のPASと比較して著しく少なく、具体的には下記式(1)を満たす傾向にある。
△Wr=(W1−W2)/W1×100≦0.18(%) ・・・(1)
ここで△Wrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
本発明の好ましい態様により得られるPASは△Wrが0.18%以下と極めて小さな値となる傾向が強く、好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.12%以下となる優れた特性を有する傾向にある。△Wrが前記範囲であることは、たとえばPASを成形加工する際の発生ガス量を低減する傾向にあり、また、押出成形時の口金やダイス、また射出成型時の金型への付着物が低減され生産性が向上する傾向がある。本発明者らの知る限りでは公知のPASの△Wrは0.18%を越えるが、本発明の好ましい態様によって得られるPASは分子量分布や不純物含有量が公知のPASと異なりきわめて高純度となりやすいがために△Wrの値が著しく低下するものと推測している。
なお、△Wrは一般的な熱重量分析によって求めることが可能であるが、この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101.3kPa近傍の大気圧条件のことである。測定の雰囲気が前記以外では、測定中にPASの酸化等が起こったり、実際にPASの成形加工で用いられる雰囲気と大きく異なるなど、PASの実使用に即した測定になり得ない可能性が生じる。また、△Wrの測定においては50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。好ましくは50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるPASを実使用する際に頻用される温度領域であり、また、固体状態のPASを溶融させ、その後任意の形状に成形する際に頻用される温度領域でもある。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のPASからのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分量などに関連する。従って、このような温度範囲における重量減少率が少ないPASの方が品質の高い優れたPASであるといえる。△Wrの測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
(9)PASの特性
本発明の好ましい態様によって得られるPASは、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れ、特に従来のPASと比べて分子量分布が狭く、且つ、金属含有量が著しく少ない傾向があるため、成形加工性や機械特性及び電気的特性が極めて優れており、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形用途のみならず、押出成形により、シート、フィルム、繊維及びパイプなどの押出成形品に成形,使用することができる。
本発明の好ましい態様によって得られるPASを用いたPASフィルムの製造方法としては、公知の溶融製膜方法を採用することができ、例えば、単軸または2軸の押出機中でPASを溶融後、フィルムダイより押出し、冷却ドラム上で冷却してフィルムを作成する方法、あるいは、このようにして作成したフィルムをローラー式の縦延伸装置とテンターと呼ばれる横延伸装置にて縦横に延伸する二軸延伸法などが例示できるが、特にこれに限定されるものではない。
本発明の好ましい態様によって得られるPASを用いたPAS繊維の製造方法としては、公知の溶融紡糸方法を適用することができ、例えば、原料であるPASチップを単軸または2軸の押出機に供給しながら混練し、ついで押出機の先端部に設置したポリマー流線入替器、濾過層などを経て紡糸口金より押出し、冷却、延伸、熱セットを行う方法などを採用することができるが、特にこれに限定されるものではない。
また、本発明の好ましい態様によって得られるPASは、単独で用いてもよいし、所望に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤などを添加することもでき、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表されるポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、酸無水物基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミドなどの樹脂を配合することもできる。
(10)PASの用途
本発明の好ましい態様によって得られるPASの優れた特性として成形加工性や機械特性及び電気的特性があげられ、その用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスク、デジタルビデオディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、燃料タンク、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー等の自動車・車両関連部品、その他各種用途が例示できる。
PASフィルムの場合、優れた機械特性、電気特性、耐熱性を有しており、フィルムコンデンサーやチップコンデンサーの誘電体フィルム用途、回路基板、絶縁基板用途、モーター絶縁フィルム用途、トランス絶縁フィルム用途、離型用フィルム用途など各種用途に好適に使用することができる。
PASのモノフィランメントあるいは短繊維の場合、抄紙ドライヤーキャンバス、ネットコンベヤー、バグフィルター、絶縁ペーパーなどの各種用途に好適に使用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<環式ポリフェニレンスルフィドの組成測定>
環式ポリフェニレンスルフィドに含まれる異なる繰り返し単位数の環式ポリフェニレンスルフィドの比率は、HPLCを用いて定性定量分析を行なった。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
また上記HPLC測定により成分分割した各ピークの定性は、成分分割した成分のマススペクトル分析、分取クロマトにより分割した各成分のMALDI−TOF−MSおよびGPCによる分子量情報より行い、環状4量体から12量体までの定性を行った。
<分子量測定>
環式PASおよびPAS成分の分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
[参考例1]
ここでは国際公開公報WO2007/034800に開示されている方法により、環式ポリアリーレンスルフィドを調製した例を示す。
撹拌機付きのステンレス製反応器1に48%水硫化ナトリウム水溶液1169kg(10kmol)、48%水酸化ナトリウム水溶液841kg(10.1kmol)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を1983kg(20kmol)、50%酢酸ナトリウム水溶液322kg(1.96kmol)を仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水1200kgおよびNMP26kgを留出した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次いで、約200℃まで冷却した後、内容物を別の攪拌機付きのステンレス製反応器2に移送した。反応器1にNMP932kgを仕込み内部を洗浄し、洗浄液を反応器2に移した。次に、p−ジクロロベンゼン1477kg(10.0kmol)を反応器2に加え、窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃まで昇温した。次いで200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、この温度で140分保持した。水353kg(19.6kmol)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、約80℃まで急冷し、スラリー(A)を得た。
このスラリー(A)を2623kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。80℃に加熱したスラリー(B)をふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状ポリフェニレンスルフィド樹脂を、濾液成分としてスラリー(C)を得た。
スラリー(C)1000kgをステンレス製反応器に仕込み、反応器内を窒素で置換してから、撹拌しながら減圧下100〜150℃で約1.5時間処理して大部分の溶媒を除去した。
次いでイオン交換水1200kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、約70℃で30分撹拌してスラリー化した。このスラリーを濾過して白色の固形物を得た。得られた固形物にイオン交換水1200kgを加えて70℃で30分撹拌して再度スラリー化し、同様に濾過後、窒素雰囲気下120℃で乾燥したのち、80℃で減圧乾燥を行い、乾燥固形物を11.6kg得た。この固形物の赤外分光分析における吸収スペクトルより、この固形物はフェニレンスルフィド単位からなるポリフェニレンスルフィド混合物であることがわかった。このポリフェニレンスルフィド混合物のGPC測定を行い、クロマトグラムを解析した結果、分子量5000以下の成分の重量分率は39%、分子量2500以下の成分の重量分率は32%であった。
上記で得られたポリフェニレンスルフィド混合物を10kg分取し、溶剤としてクロロホルム150kgを用いて、常圧還流下で1時間攪拌することでポリフェニレンスルフィド混合物と溶剤を接触させた。ついで熱時濾過により固液分離を行い抽出液を得た。ここで分離した固形物にクロロホルム150kgを加え、常圧還流下で1時間攪拌した後、同様に熱時濾過により固液分離を行い、抽出液を得て、先に得た抽出液と混合した。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。
この抽出液スラリーを減圧下で処理する事で、抽出液重量が約40kgになるまでクロロホルムの一部を留去してスラリーを得た。次いでこのスラリー状混合液をメタノール600kgに撹拌しながら滴下した。これにより生じた沈殿物を濾過して固形分を回収し、次いで80℃で減圧乾燥することで白色粉末3.0kgを得た。
この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、HPLCによる成分分割結果および各成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜12の環式ポリフェニレンスルフィドを主要成分とする混合物であって、環式ポリフェニレンスルフィドの重量分率は約94%、残り約6%は環式ポリフェニレンスルフィド以外のポリフェニレンスルフィド成分であって直鎖状ポリフェニレンスルフィドオリゴマーと繰り返し単位数13以上の環式ポリフェニレンスルフィドの混合物であった。これら分析結果よりこの白色粉末は純度94.0%の環式PASであることがわかった。
また、上記環式PASのHPLC測定結果の解析より、この環式PASに含まれる環式PASのうち繰り返し単位数が4〜12の環式PASの総量を100%とした場合の、繰り返し単位数が5,6,7及び8の環式PASの割合はそれぞれ12%,13%,28%及び15%であることがわかった。またGPC測定の結果、重量平均分子量は900であり、分子量2500以上の成分は含有していないことがわかった。
(実施例1)
以下に示す実施例では、環式PAS(a)として参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィド(以下環状PPSと称する場合もある)を、有機溶媒(b)としてN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を、溶媒(c)として水を用いて環式PASの回収を実施した例を示す。
参考例1で得られた純度94%の環状PPS3.1gにNMP100gを加えて、環状PPSを3.0重量%含む混合物を調製し、撹拌しながら100℃に加温した後80℃に冷却した。この際、常温では一部不溶成分が存在したが100℃に到達した段階、さらに80℃に冷却した段階で不溶部は認められず、80℃以上の条件においては混合物に含まれる環状PPSの50重量%以上が溶解していることを確認した。
ついでこの混合物を系内温度80℃にて撹拌したまま、チューブポンプをもちいて水33gを約15分かけてゆっくりと滴下した(水の滴下終了後混合物におけるNMPと水の重量比率は75:25)。この際、水の滴下に伴い混合物の温度は約75℃まで低下し、また、混合物中に徐々に固形分が生成し、水の滴下が終了した段階では白濁したスラリー状となったが塊状の粗大な固形分の生成は認められず均一に固形分が分散したスラリーとなった。
このスラリーを撹拌したまま約1時間かけて約30℃まで冷却し、次いで30℃以下で約30分間撹拌を継続した後、得られたスラリーを目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。得られた固形分(母液を含む)を約30gの水に分散させ70℃で15分撹拌した後、前述同様にガラスフィルターで吸引濾過する操作を計4回繰り返した。得られた固形分を真空乾燥機70℃で3時間処理して乾燥固体を得た。
乾燥固体をHPLCで分析した結果、環状PPSであることが確認でき、環状PPSの回収率は98.8重量%、回収された環状PPSの純度は96%であった。また得られた環状PPSをガスクロマトグラフィーにより分析した結果、NMPの含有率は0.1重量%未満であることがわかった。本発明における好ましい方法で環式PASの回収を行うことで高純度の環状PPSを高収率で得ることができた。
(実施例2)
溶媒(c)として用いる水の量を43g(水の滴下終了後混合物におけるNMPと水の重量比率は70:30)とした以外は実施例1と同様に環式PASの回収を実施した結果、環状PPSの回収率は99.7重量%、回収された環状PPSの純度は94.2%であった。用いる溶媒(c)の量を増やすことで収率は向上し、純度の向上効果はやや低下するものの、高純度の環状PPSを高収率で得ることができた。
(実施例3)
溶媒(c)として用いる水の量を29g(水の滴下終了後混合物におけるNMPと水の重量比率は80:20)とした以外は実施例1と同様に環式PASの回収を実施した結果、環状PPSの回収率は96.4重量%、回収された環状PPSの純度は96%であった。用いる溶媒(c)の量を減らすことでわずかに収率が低下するが、より純度高い環状PPSを得ることができることがわかった。
(実施例4)
溶媒(c)として用いる水の量を11g(水の滴下終了後混合物におけるNMPと水の重量比率は90:10)とした以外は実施例1と同様に環式PASの回収を実施した結果、環状PPSの回収率は78重量%、回収された環状PPSの純度は99.3%であった。用いる溶媒(c)の量をさらに減らすことで収率が低下する一方で、極めて純度高い環状PPSを得ることができることがわかった。
(比較例1)
溶媒(c)を加えない以外は実施例1と同様に実施した。環状PPSの回収率は13重量%、回収された環状PPSの純度は98.7%であった。
溶媒(c)を加えない場合にはごくわずかな量の環式PASしか得ることができず、極めて低収率となることがわかった。また得られた環状PPSをガスクロマトグラフィーをもちいて分析した結果、NMPが1重量%以上含まれることがわかり、後処理(水洗操作)による母液の除去効率が悪いことが判明した。
(比較例2)
ここでは環式PASの回収方法として公知の再沈法にて環式PASの回収を実施した例を示す。
参考例1で得られた純度94%の環状PPS3.1gにNMP100gを加えて、環状PPSを3.0重量%含む混合物を調製し、撹拌しながら100℃に加温した後80℃に冷却した。この混合液を約25℃の水900gに撹拌条件下で滴下した(水の滴下終了後混合物におけるNMPと水の重量比率は10:90)。この際、混合液の滴下により水は乳濁し、乳濁の度合いは滴下を進めるに従って強まったが、滴下が終了した段階でも乳濁した状態であったため、撹拌したまま約5時間室温で放置したが、乳濁状態のままであった。この乳濁液を実施例1と同様にガラスフィルター吸引濾過したところ、著しく濾過性が悪く、また濾液が乳濁していた。
以下実施例1と同様に処理を行った結果、環状PPSの回収率は87重量%、回収された環状PPSの純度は92.2%であった。環式PASの回収方法として公知の再沈法にて環式PASの回収を実施した場合、回収操作において本発明と比較して大量の廃液が発生するのみならず、固液分離における操作性も著しく悪化することがわかった。また、環状PPSの純度の向上効果も無いことがわかった。
(実施例5)
NMP100gに加える環状PPSの量を8.7gとして、環状PPSを8.7重量%含む混合物を調製して用いた以外は実施例1と同様に環式PASの回収を実施した。
回収操作により得られた環状PPSの回収率は99.5重量%、回収された環状PPSの純度は95.2%であった。環式PAS(a)と有機溶媒(b)に混合物における環式PASの含有率が8重量%の実施例1との比較の結果、環式PASの含有率を増大することで環式PASの回収率が向上することがわかった。
なお、実施例5においては環状PPSとNMPからなる混合物を80℃に調温した段階で、系内に一部析出物が認められた。そこで、この80℃段階での析出成分量を別途確認した結果(80℃の混合物を熱時ろ過し、フィルターオン成分を乾燥することで固形分量を算出)、析出成分は環状PPSであり、析出量は1g以下であることが確認でき、80℃において環状PPSの50重量%以上が溶解していたことを確認した。
(実施例6)
NMP100gに加える環状PPSの量を13.6gとして、環状PPSを13.6重量%含む混合物を調製して用いた以外は実施例1と同様に環式PASの回収を実施した。
回収操作により得られた環状PPSの回収率は99.7重量%、回収された環状PPSの純度は94.5%であった。環式PASの含有率を増大することで環式PASの回収率が向上することがわかった。
なお、実施例6においても実施例5と同様に環状PPSとNMPからなる混合物を80℃に調温した段階で、系内に一部析出物が認められた。そこで、実施例5と同様に80℃段階での析出成分量を別途確認した結果、析出成分は環状PPSであり、析出量は1g以下であることが確認でき、80℃において環状PPSの50重量%以上が溶解していたことを確認した。
(実施例7)
NMP100gに加える環状PPSの量を21.2gとして、環状PPSを21.2重量%含む混合物を調製して用いた以外は実施例1と同様に環式PASの回収を実施した。
回収操作により得られた環状PPSの回収率は99.7重量%、回収された環状PPSの純度は93.8%であった。環式PASの含有率を増大することで環式PASの回収率が向上することがわかったが、純度はやや低下する傾向となった。回収した環状PPSをガスクロマトグラフィーで分析した結果、NMPが約0.4重量%含まれることがわかり、NMPの残留により純度が低下したことがわかった。
なお、実施例7においても実施例5と同様に環状PPSとNMPからなる混合物を80℃に調温した段階で、系内に一部析出物が認められた。そこで、実施例5と同様に80℃段階での析出成分量を別途確認した結果、析出成分は環状PPSであり、析出量は1g以下であることが確認でき、80℃において環状PPSの50重量%以上が溶解していたことを確認した。
(比較例3)
ここでは環式PASの回収方法として公知の再沈法にて環式PASの回収を実施した別の例を示す。
実施例5と同様にNMP100gに加える環状PPSの量を8.7gとして、環状PPSを12重量%含む混合物を調製し、80℃の状態とした。実施例5で用いたのと同様の水量である33gを準備し、約25℃の撹拌条件下で滴下した(滴下後のNMPと水の重量比率は75:25)。この際、混合液の滴下により粗大な固形分が析出し、混合液を約20g滴下した段階で粘着状の固形分が多量に生成し系の撹拌が困難となったため。粘着状の固形分は撹拌に用いていたスターラーチップや受器として用いていたビーカーの壁面に付着し、固形分の回収は困難であった。
(実施例8)
参考例1の手法で得られた純度96%の環状PPS12gにNMP138gを加え、撹拌しながら100℃まで加熱して環状PPSが8重量%含まれる混合物を調製した。その後、撹拌しながら80℃に冷却した。この際、系内に一部析出物が認められたが、実施例5と同様に80℃段階での析出成分量を別途確認した結果、析出量は1g以下であったため、80℃において環状PPSの50重量%以上が溶解していたことを確認した。
次いでこの混合物を系内温度80℃にて撹拌したまま、滴下ロートをもちいて水46gを約31分かけてゆっくりと滴下した(水の滴下終了後混合物におけるNMPと水の重量比率は75:25)。この際、水の滴下による液温度の低下は確認されなかった。水の添加により、混合物中に徐々に固形分が生成し、水の滴下が終了した段階では白濁したスラリー状となったが均一に固形分が分散したスラリーとなった。
このスラリーを撹拌したまま約2時間かけて約30℃まで冷却し、次いで30℃以下で約30分間撹拌を継続した後、得られたスラリーを目開き1μmの濾紙で吸引濾過した。得られた固形分(母液を含む)を約200gの水に分散させ80℃で15分撹拌した後、前述同様に濾紙で吸引濾過する操作を計3回繰り返した。得られた固形分を、真空乾燥機を用いて100℃で5時間静置乾燥処理して乾燥固体を得た。
乾燥固体をHPLCで分析した結果、環状PPSであることが確認でき、環状PPSの回収率は99.6重量%、回収された環状PPSの純度は95.2%であった。また濾過性も良く、単位時間・単位濾過面積当たりの濾液処理量が3639g-溶媒(b)/m2・min以上であることも確認した。
(実施例9)
参考例1の手法で得られた純度96%の環状PPS12gにNMP138gを加え、撹拌しながら110℃まで加熱して環状PPSが8重量%含まれる混合物を調整した。この際、不溶部の析出は認められず、110℃以上の条件においては混合物に含まれる環状PPSの50重量%以上が溶解していることを確認した。
次いでこの混合物を系内温度110℃にて撹拌したまま、滴下ロートをもちいて水46gを約31分かけてゆっくりと滴下した(水の滴下終了後混合物におけるNMPと水の重量比率は75:25)。この際、水の滴下による液温度の低下は確認されなかった。このとき、混合物中に徐々に固形分が生成し、水の滴下が終了した段階では白濁したスラリー状となった。また、析出物の一部において塊状の固形分(φ1mm以上)が生成されたことを確認した。
このスラリーを撹拌したまま約3時間かけて約30℃まで冷却し、次いで30℃以下で約30分間撹拌を継続した後、得られたスラリーを目開き1μmの濾紙で吸引濾過した。得られた固形分(母液を含む)を約200gの水に分散させ80℃で15分撹拌した後、前述同様に濾紙で吸引濾過する操作を計3回繰り返した。得られた固形分を真空乾燥機100℃で5時間処理して乾燥固体を得た。
乾燥固体をHPLCで分析した結果、環状PPSであることが確認でき、環状PPSの回収率は99.2重量%、回収された環状PPSの純度は94.8%であった。110℃に保持したままで水を添加する操作を行うことでも、実施例8と同様の環状PPS回収率・純度が得られることが確認された。しかし吸引濾過を行った際、実施例8と比較して濾過性が悪くなったことを確認し、単位時間・単位濾過面積当たりの濾液処理量は484g-溶媒(b)/m2・minであったことを確認した。ここから、水分滴下時の混合物内温を110℃に保持することで、濾過性が低下することがわかった。
(実施例10)
参考例1の手法で得られた純度96.8%の環状PPS45gにNMP855gを加えて、環状PPSを5.0重量%含む混合物を調製した。この混合物に100℃で減圧濃縮(20mmHg)を行い、環状PPSを15.0重量%含む混合物を調製した。その後常圧に戻し、撹拌しながら100℃に冷却した。100℃に到達した段階では、系内に一部析出物が認められたが、実施例5と同様に100℃段階での析出成分量を別途確認した結果、析出量は1g以下であったため、この条件においては混合物に含まれる環状PPSの50重量%以上が溶解していることを確認した。
ついでこの混合物を系内温度100℃にて撹拌したまま、滴下ロートをもちいて水45gをゆっくりと滴下した(水の滴下終了後混合物におけるNMPと水の重量比率は85:15)。この際、水の滴下に伴い混合物中に徐々に固形分が生成し、水の滴下が終了した段階では白濁したスラリー状となったが均一に固形分が分散したスラリーとなった。
このスラリーを撹拌したまま約2.5時間かけて約50℃まで冷却し、次いで50℃のまま1時間撹拌を継続した。得られたスラリーを目開き1μmの濾紙で吸引濾過した。得られた固形分(母液を含む)を約200gの水に分散させ、前述同様に濾紙で吸引濾過する操作を1度行った。得られた固形分を真空乾燥機100℃で5時間処理して乾燥固体を得た。
乾燥固体をHPLCで分析した結果、環状PPSであることが確認でき、環状PPSの回収率は95.2重量%、回収された環状PPSの純度は95.1%であった。
(実施例11)
実施例10において、濃縮後の環状PPSの濃度を約20重量%にして用いた以外は実施例9と同様に環式PASの回収を実施した。
回収操作により得られた環状PPSの回収率は96.4重量%、回収された環状PPSの純度は95.3%であり、環式PASの含有率を増大することで環式PASの回収率が向上することがわかった。
また、実施例11においては、実施例10と同様の減圧濃縮段階で、系内に一部析出物が認められた。しかし、析出量は1g以下であるため、100℃において環状PPSの50重量%以上が溶解していたことを確認した。
(実施例12)
実施例10において、吸引濾過後に得られた固形分を洗浄する際にNMPと水の重量比率85:15の洗浄液を用いた以外は実施例10と同様に環式PASの回収を実施した。
回収操作により得られた環状PPSの回収率は95.3重量%、回収された環状PPSの純度は93.7%であった。洗浄操作の際に用いる洗浄液として、母液の組成と同様の組成にすることで、洗浄液中へ環状PPSがある程度溶解するため、回収率および純度が共に低下することがわかった。
なお、実施例12においては、実施例10と同様に減圧濃縮段階で、系内に一部析出物が認められた。しかし、析出量は1g以下であるため、100℃において環状PPSの50重量%以上が溶解していたことを確認した。