JP2010017127A - 標的核酸比率推定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】エンドポイントのPCR反応溶液から、被検核酸試料中の標的核酸量と参照核酸量の比率を推定する方法の提供。
【解決手段】(a)標的核酸と参照核酸との総量に対する標的核酸の混合比率が異なる標準核酸試料系列を調製する、(b)それぞれの標準核酸試料に対してPCRを行い、標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量を測定する、(c)前記混合比率と測定された増幅産物量との関係を近似する連続微分可能関数を算出する、(d)被検核酸試料に対してPCRを行い、標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量を測定する、(e)工程(d)において得られた標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量、並びに工程(c)において得られた連続微分可能関数から、被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率を推定する、標的核酸比率推定方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率を、PCR反応のエンドポイントにおける反応溶液中の増幅産物量から推定するための方法に関する。
近年の遺伝子操作技術や遺伝子組換え技術等の進歩に伴い、核酸分析による遺伝子検査は、医療、研究、産業への応用に広く用いられている。このような検査は試料中の標的塩基配列を有する標的核酸の存在の検出や定量を行うものであり、疾患の診断、治療だけでなく、食品検査等の様々な分野において応用されている。例えば、遺伝的疾患、腫瘍、感染症等の疾患の診断のために、先天的又は後天的に変異した遺伝子や、ウィルス関連遺伝子等を検出する遺伝子検査が行われている。また、一塩基多型(SNP)をはじめとする遺伝子多型の解析は、臨床検査や学術研究においてのみならず、食品等の品質検査やトレーサビリティおいても応用されている。
遺伝子解析に供される試料は、臨床検査における検体等のように、微量である場合が多い。このため、通常は、予めPCR(Polymerase Chain Reaction)等により、解析対象である標的核酸を含むゲノム断片を増幅し、この増幅されたゲノム断片を用いて標的核酸の検出や定量が行われている。解析対象である被検試料中の標的核酸量を測定する方法として、一般的には、予め、濃度既知の標的核酸を含む試料系列を調製し、該系列に対してなされたPCR反応後の反応溶液中の増幅産物量を測定することにより検量線を作成し、この検量線に基づき被検試料中の標的核酸量を決定している。
一方、遺伝子解析に供される試料は、主に生体試料であることから、試料が採取された個体の個体差、採取部位や採取された時期、試料の調製方法や保存方法等の影響を受けやすい。このため、試料間のバラツキが大きく、検査結果の比較も困難である場合が多いが、試料中に比較的多く含まれている核酸や、予め期待できる含有量が明らかな核酸を参照核酸とし、この標的核酸量と参照核酸量の比率を求めることにより、精度の高い解析を行うことができる。例えば、2の試料中の標的核酸量を比較する場合に、直接標的核酸量を比較するのではなく、各試料における標的核酸量と参照核酸量の比率を比較することにより、該2試料中の標的核酸量の差が、単なる試料間のバラツキではなく、有意な差であると判断することができる。
試料中の標的核酸量と参照核酸量の比率を求める方法として、例えば、PCRのエンドポイントで、参照核酸と標的核酸の増幅量を比較して、定量を行い、参照核酸と標的核酸の比率を求める競合的PCR法がある。また、試料中の標的核酸量と参照核酸量の比率を求める方法として、例えば、(1)核酸試料群中の各核酸の混合物を遺伝子増幅法で増幅する工程と、増幅産物を制限酵素で消化する工程と、消化物を電気泳動にかける工程と、泳動バンドの濃さを測定する工程と、測定された各バンドの濃さに基づいて前記核酸試料群中の、核酸の種類の比率を測定する工程とを含む、核酸試料群中の、核酸の種類の比率の測定方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、(2)検出対象である特定植物属由来の試料と標準植物試料とを予め定めた比率で混合した補正用サンプルを用意し、該サンプルからゲノムDNAを抽出すること、被検対象である食品または食品原材料に既知量の標準植物試料を添加した被検サンプルを調製し、該サンプルからゲノムDNAを抽出すること、該ゲノムDNAとプライマーとでリアルタイムPCR法を実施すること、補正用サンプルで検出される補正基準値を用いて補正して、被検サンプル中に含まれる特定植物原料の量を算出する、食品等中の特定植物属を定量する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
特許第3950546号公報 国際公開第04/101794号パンフレット
競合的PCR法は、PCR反応前の反応溶液中の参照核酸と標的核酸の比(初期テンプレート量比)と、PCR反応後の反応溶液中の参照核酸と標的核酸の比(増幅後テンプレート量比)がほぼ等しいこと、すなわち、参照核酸と標的核酸の増幅効率が同じであることを前提としている。このため、競合的PCR法では、参照核酸と標的核酸の増幅効率が異なる場合には、信頼できる測定結果が得られないという問題がある。
また、PCR反応は基本的に、変性工程、アニーリング工程、及び伸張工程の3つの工程1サイクルとし、該サイクルを25〜30回繰り返すことにより特定の標的塩基配列を増幅していく。反応初期においては、nサイクル後には標的核酸は2倍に増幅されることになり、増幅産物は指数関数的に増大するが、反応終了時点(エンドポイント)においては、PCR反応は飽和してしまう。つまり、エンドポイントにおける反応溶液中の増幅産物量は、PCR反応開始時の標的核酸量とは相関せず、定量的な測定は困難である。したがって、エンドポイントにおける反応溶液中の増幅産物を検出し、量を決定している上記(1)の方法では、PCR反応が飽和している場合には測定することができないという問題がある。一方、上記(2)の方法においては、リアルタイムPCRを用いているため、PCR反応の飽和による問題は生じていないが、リアルタイムPCRは、一般的なPCRとはことなり、より高価な装置を必要とし、反応条件の検討が煩雑である、という問題がある。
本発明は、PCR反応のエンドポイントにおける反応溶液から、高精度かつ簡便に、PCR反応開始時の反応溶液中の標的核酸量と参照核酸量の比率を測定し得る方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、反応溶液中に添加した標的核酸と参照核酸との混合比率の関数として、エンドポイントにおける反応溶液中のプライマー消費率(反応溶液中に添加したプライマー量に対するPCR増幅に消費されたプライマーの割合)の連続微分可能関数を、標的核酸と参照核酸に対してそれぞれ独立して作成した後、これらの関数を用いることにより、被検試料に対して同じ条件でPCR反応を行った場合に、エンドポイントにおける反応溶液中のプライマー消費率から、被検試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率を求められることを見出し、本発明を完成させた。なお、PCR増幅に消費されたプライマー量は、増幅産物量に相当するために、プライマー消費率は、反応溶液中に添加したプライマー量に対する増幅産物量の割合として求めることができる。
すなわち、本発明は、
(1)被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸のモル比率を推定する方法であって、(a)標的核酸と参照核酸との総量に対する標的核酸の混合比率(モル比)が異なる標準核酸試料系列を調製する工程と、(b)前記工程(a)において調製した標準核酸試料系列のそれぞれの標準核酸試料に対して、下記工程(i)及び(ii)を行う工程と、(c)前記混合比率と前記工程(b)において得られた標的核酸に由来する増幅産物量との関係を近似する第1の連続微分可能関数と、前記混合比率と前記工程(b)において得られた参照核酸に由来する増幅産物量との関係を近似する第2の連続微分可能関数とを、それぞれ算出する工程と、(d)被検核酸試料に対して、下記工程(i)及び(ii)を行う工程と、(e)前記工程(d)において得られた標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量、並びに前記工程(c)において得られた第1の連続微分可能関数及び第2の連続微分可能関数から、被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率を推定する工程と、を有することを特徴とする標的核酸比率推定方法;(i)核酸試料と、標的核酸検出用プライマーと、参照核酸検出用プライマーとを含む反応溶液中で、PCR(Polymerase Chain Reaction)反応を行う工程と、(ii)工程(i)の後、標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量を測定する工程、
(2)前記工程(i)が、(i’)核酸試料と標的核酸検出用プライマーとを含む反応溶液中、及び、核酸試料と参照核酸検出用プライマーとを含む反応溶液中で、別個にPCR反応を行う工程、であることを特徴とする前記(1)記載の標的核酸比率推定方法、
(3)前記標的核酸検出用プライマー及び前記参照核酸検出用プライマーが、蛍光物質により標識されたプライマーであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の標的核酸比率推定方法、
(4)反応溶液中のPCR反応開始前の反応溶液中のプライマー量に対するPCR反応後の反応溶液中の増幅産物量のモル比率の測定を、蛍光相関分光法、蛍光強度分布解析法、及び蛍光偏光解析法からなる群より選択される1以上を用いて行うことを特徴とする前記(3)記載の標的核酸比率推定方法、
(5)前記増幅産物量の測定を、DNA結合性色素を用いて行うことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の標的核酸比率推定方法、
(6)前記増幅産物量の測定を、蛍光物質により標識されたハイブリダイゼーションプローブを用いて行うことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の標的核酸比率推定方法、
(7)前記増幅産物量の測定を、FRETハイブリダイゼーションプローブ、分子ビーコン、又はTaqManプローブを用いて行うことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の標的核酸比率推定方法、
(8)前記標的核酸が変異細胞由来核酸であり、前記参照核酸が正常細胞由来核酸であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の標的核酸比率推定方法、
(9)前記標的核酸が、変異細胞が有する被検遺伝子由来の核酸であり、前記参照核酸が、正常細胞が有する前記被検遺伝子由来の核酸であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の標的核酸比率推定方法、
(10)前記被検遺伝子が、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)遺伝子、JAK2遺伝子、及びBcr−Abl遺伝子からなる群より選択される1の遺伝子であることを特徴とする前記(9)記載の標的核酸比率推定方法、
(11)前記標的核酸が、遺伝子多型のうちの一のタイプを含む配列を有する核酸であり、前記参照核酸が、前記遺伝子多型のうちの前記タイプとは異なるタイプの多型部位を含む配列を有する核酸であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の標的核酸比率推定方法、
(12)前記遺伝子多型が、一塩基多型であることを特徴とする前記(11)記載の標的核酸比率推定方法、
(13)前記遺伝子多型が、ミトコンドリアDNAにおける多型であることを特徴とする前記(11)又は(12)記載の標的核酸比率推定方法、
(14)前記標的核酸が寄生生物由来核酸であり、前記参照核酸が宿主生物由来核酸であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の標的核酸比率推定方法、
(15)前記寄生生物が、微生物又はウィルスであることを特徴とする前記(14)記載の標的核酸比率推定方法、
(16)前記標的核酸が遺伝子組み換え植物由来核酸であり、前記参照核酸が非遺伝子組み換え植物由来核酸であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか記載の標的核酸比率推定方法、
を提供するものである。
本発明の標的核酸比率推定方法を用いることにより、PCR反応のエンドポイントにおける反応溶液を用いて、PCR反応開始時における反応溶液中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率を、非常に簡便に求めることができる。標的核酸と参照核酸の増幅曲線を、独立して取り扱うため、標的核酸と参照核酸の増幅効率が著しく異なる場合であっても、高精度に標的核酸の比率を求めることができる。
本発明の標的核酸比率推定方法は、被検核酸試料中の核酸を鋳型とし、PCR反応を行い、エンドポイントにおける反応溶液を解析することにより、PCR反応前の反応溶液中、すなわち、被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率(以下、単に「標的核酸比率」ということがある。)を推定する方法である。なお、本発明及び本願明細書において、特に記載が無い限り、「量」は「モル量」を、「量比」や「比」は「モル比」を、「比率」は「モル比率」を、それぞれ意味する。
PCR反応の増幅は増幅初期において指数関数的に進行し、増幅後期はプライマー濃度の減少、テンプレートの再会合、酵素活性の低下等の様々な理由により増幅効率が低下し、反応が飽和する。このため、PCR反応のエンドポイントにおける反応溶液中の参照核酸と標的核酸の量比は、PCR反応前の反応溶液中の参照核酸と標的核酸の量比を反映していない場合が多い。にもかかわらず、本発明の標的核酸比率推定方法を用いることにより、標的核酸検出用プライマーと参照核酸検出用プライマーとが、互いに相補的な反応性を有するプライマーである場合に、エンドポイントにおける反応溶液を解析することにより、高い精度でPCR反応前の反応溶液中の参照核酸と標的核酸の比率を推定することができる。
ここで、「標的核酸検出用プライマーと参照核酸検出用プライマーとが、互いに相補的な反応性を有するプライマーである」とは、一方が飽和に近づくときに、他方が反応していない関係を有するプライマーを意味し、被検核酸試料中の標的核酸量と参照核酸量が、負の相関を有することを意味する。標的核酸検出用プライマーと参照核酸検出用プライマーとが、互いに相補的な反応性を有するため、PCR反応のエンドポイントにおいて、標的核酸のPCR反応と参照核酸のPCR反応のいずれか一方は飽和しているが、他方は飽和していない。このため、例えば、PCR反応のエンドポイントにおいて、参照核酸のPCR反応が飽和しており、標的核酸のPCR反応が飽和していない場合には、標的核酸の増幅産物量(標的核酸検出用プライマーの反応量)から、PCR反応前の反応溶液中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率を求めることができる。
一般的に、変異細胞と正常細胞との遺伝子配列の差は少なく、ごく一部の塩基が異なっていることが多い。注目する変異部周囲の共通配列にプライマーを設計し増幅することにより、変異細胞由来と正常細胞由来の核酸の比率を保持した一定濃度の試料を準備することができる。ここで、変異細胞由来核酸の増幅反応と、正常細胞由来核酸の増幅反応は、同じプライマーを用いているため、増幅効率は等しいと考えられること、及び、試料中の核酸量は増幅反応の終点では、混合比率によらず一定であることから、変異細胞由来核酸量と正常細胞由来核酸量は負の相関を有する。したがって、本発明の標的核酸比率推定方法において、変異細胞由来核酸を標的核酸とし、正常細胞由来核酸を参照核酸とすることにより、被検核酸試料中の正常細胞由来核酸と変異細胞由来核酸との総量に対する変異細胞由来核酸量の比、すなわち変異率を求めることができる。このため、本発明の標的核酸比率推定方法は、被検核酸試料が採取された個体の遺伝子における変異率の検査に好適である。
本発明においては、変異細胞とは、遺伝子に変異が生じている細胞であれば特に限定されるものではなく、腫瘍細胞等の後天的に変異が生じた細胞であってもよく、先天的に変異が生じているものであってもよい。例えば、腫瘍細胞を変異細胞とした場合には、本発明の標的核酸比率推定方法により求められた変異率は、信頼性が高いため、腫瘍の進行度の診断の指標とし得ることが期待できる。
本発明においては、標的核酸が、変異細胞が有する被検遺伝子由来の核酸であり、参照核酸が、正常細胞が有する前記被検遺伝子由来の核酸であることが好ましい。標的核酸と参照核酸を、同一の被検遺伝子由来核酸とした場合には、標的核酸量と参照核酸量の相関がより強いため、より信頼性の高い標的核酸比率を得ることができる。例えば、変異細胞が腫瘍細胞である場合には、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)遺伝子、JAK2遺伝子、Bcr−Abl遺伝子等の、腫瘍細胞において高い頻度で変異が検出される遺伝子を被検遺伝子とすることができる。
また、遺伝子多型においては、ある個体の遺伝子が、該遺伝子多型のうちの一のタイプを含むホモアレルである場合には、該個体が該遺伝子多型のうちの別のタイプを含むアレルを有することはない。つまり、遺伝子多型のうちのある特定のタイプを含む核酸の量と、別のタイプを含む核酸の量は負の相関を有する。したがって、本発明の標的核酸比率推定方法において、遺伝子多型のうちの一のタイプを含む配列を有する核酸を標的核酸とし、該遺伝子多型のうち、標的核酸とは異なるタイプの多型部位を含む配列を有する核酸を参照核酸とすることにより、被検核酸試料中の該遺伝子多型由来核酸における各タイプの比率を求めることができる。このため、本発明の標的核酸比率推定方法は、被検核酸試料が採取された個体の遺伝子多型のタイピングにも好適である。特にミトコンドリア中の遺伝子多型は、ミトコンドリアが細胞内に数十〜千コピー存在するため、正常型と変異型の混合比が様々になっていることが知られており、本発明の定量法が適している。
本発明において、遺伝子多型とは、ある生物種の集団内で、個体ごとに遺伝子の塩基配列が異なるものであれば、特に限定されるものではない。該遺伝子多型として、例えば、一塩基多型(SNP)、マイクロサテライト等がある。また、ゲノムDNA上における遺伝子多型であってもよく、ミトコンドリアDNAにおける多型であってもよい。
その他、本発明においては、寄生生物由来核酸を標的核酸とし、宿主生物由来核酸を参照核酸とすることにより、被検核酸試料中の宿主生物由来核酸と寄生生物由来核酸との総量に対する寄生生物由来核酸量の比、すなわち、寄生率を求めることができる。寄生生物としては、特に限定されるものではないが、微生物やウィルスであることが好ましい。寄生生物が、感染症原因生物である場合には、本発明の標的核酸比率推定方法は、感染症の感染率の検査にも好適である。
また、本発明においては、遺伝子組み換え植物由来核酸を標的核酸とし、非遺伝子組み換え植物由来核酸を参照核酸とすることにより、被検核酸試料中の遺伝子組み換え植物由来核酸と非遺伝子組み換え植物由来核酸との総量に対する遺伝子組み換え植物由来核酸量の比、すなわち、遺伝子組み換え植物由来核酸含有率を求めることができる。参照核酸とする非遺伝子組み換え植物としては、遺伝子組み換え植物と同じ品種の植物であることが好ましい。例えば、天然のトウモロコシ由来核酸を参照核酸とし、遺伝子組み換えトウモロコシ由来核酸を標的核酸とすることにより、一定量中のトウモロコシにおける遺伝子組み換えトウモロコシの含有比率を求めることができる。
なお、予め、被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸を、共通のプライマーを用いて同時に増幅させることにより、標的核酸量と参照核酸量とが負の相関を有する試料を調製することができる。共通のプライマーを用いることにより、同じ増幅効率で標的核酸と参照核酸を増幅させるため、被検核酸試料中の標的核酸量と参照核酸量の比率(標的核酸比率)は、理論的には、増幅によって影響を受けることはない。このように、被検核酸試料を予め増幅処理することにより、標的核酸量と参照核酸量に負の相関を持たせた試料を用いることにより、本発明の標的核酸比率推定方法を用いて標的核酸と参照核酸の比率を推定することができる。例えば、寄生生物由来核酸を標的核酸とした場合に、参照核酸を、標的塩基配列と類似する配列を有する宿主生物由来核酸とし、寄生生物由来核酸と宿主生物由来核酸を同一のプライマーを用いて同時に増幅させることにより、寄生生物由来核酸と宿主生物由来核酸が負の相関を持つ試料を調整することができる。また、遺伝子組み換え植物由来核酸を標的核酸とする場合には、遺伝子組み換え部位周囲の共通配列にプライマーを設計し、該プライマーを用いて増幅させることにより、遺伝子組み換え植物由来核酸と非遺伝子組み換え植物由来核酸の比率を保持したまま、遺伝子組み換え植物由来核酸と非遺伝子組み換え植物由来核酸が負の相関を持つ試料を調整することができる。
なお、本発明において、標的核酸検出用プライマーとは、標的塩基配列を有する標的核酸をPCR増幅するために用いられるプライマーであって、参照配列を有する参照核酸を認識せず、標的核酸を特異的に認識するプライマーを意味する。同様に、本発明において、参照核酸検出用プライマーとは、参照核酸をPCR増幅するために用いられるプライマーであって、標的核酸を認識せず、参照核酸を特異的に認識するプライマー意味する。
例えば、変異細胞由来核酸を標的核酸とし、正常細胞由来核酸を参照核酸とする場合には、遺伝子の部分配列のうち、変異部位(変異が生じている部位)を含む配列を有する核酸を特異的に認識し得るプライマーを標的核酸検出用プライマーとし、正常遺伝子の部分配列のうち、該変異部位に対応する部位を含む配列を有する核酸を特異的に認識し得るプライマーを参照核酸検出用プライマーとすることができる。また、遺伝子多型のうちの一のタイプを含む配列を有する核酸を標的核酸とし、該遺伝子多型のうち、標的核酸とは異なるタイプの多型部位を含む配列を有する核酸を参照核酸とする場合には、遺伝子の部分配列のうち、それぞれのタイプの遺伝子多型部位を含む配列を有する核酸を特異的に認識し得るプライマーを、標的核酸検出用プライマーや参照核酸検出用プライマーとすることができる。
PCR反応には、増幅対象である核酸領域の両端とハイブリダイズする2種類のプライマー(フォワードプライマーと、それに対応するリバースプライマー)を用いるが、標的核酸検出用プライマーと参照核酸検出用プライマーは、いずれもフォワードプライマーとリバースプライマーのいずれであってもよい。また、標的核酸をPCR増幅するために標的核酸検出用プライマーと対応する標的核酸用リバースプライマーを用い、参照核酸をPCR増幅するために参照核酸検出用プライマーと対応する参照核酸用リバースプライマーを用いる場合に、同じプライマーを、該標的核酸用リバースプライマーと該参照核酸用リバースプライマーとして共通して用いてもよい。
このようなプライマーは、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても設計することができる。例えば、公知のゲノム配列データと汎用されているプライマー設計ツールを用いて、簡便にプライマーを設計することができる。該プライマー設計ツールとして、例えば、Web上で利用可能なPrimer3(Rozen, S., H.J. Skaletsky、1996年、http: //www−genome.wi.mit.edu/genome_software/other/primer3. h t m l)や、Visual OMP(DNA Software社製)等がある。また、公知のゲノム配列データは、通常、国際的な塩基配列データベースである、NCBI(National center for Biotechnology Information)や、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)等において入手することができる。
このようにして設計したプライマーは、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても合成することができる。例えば、オリゴ合成メーカーに合成をされ依頼してもよく、市販の合成機を用いて独自に合成してもよい。また、各プライマーは、標的核酸等とハイブリダイズする領域以外にも、標的核酸等のPCR増幅を阻害しない程度において、付加的な配列を有することができる。該付加的な配列として、例えば、制限酵素認識配列や、核酸の標識に供される配列等がある。
さらに、本発明において用いられる標的核酸検出用プライマーや参照核酸検出用プライマーは、増幅産物や未反応のプライマーの検出や解析を容易にするために、標識されたものであってもよい。該標識をするための物質は、核酸の標識に用いることができるものであれば、特に限定されるものではなく、放射性同位体、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン等がある。高感度でありかつ簡便に検出し得ることから、本発明において用いられる標的核酸検出用プライマーや参照核酸検出用プライマーとしては、蛍光物質を用いて標識されたプライマーであることが好ましい。該蛍光物質としては、例えば、FITC、フルオレセイン、ローダミン等の核酸の標識に汎用されているものを適宜選択して用いることができる。
具体的には、本発明の標的核酸比率推定方法は、被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率を推定する方法であって、下記の工程(a)〜(e)を行うことを特徴とする。以下、工程ごとに説明する。
まず、工程(a)として、標的核酸と参照核酸との総量に対する標的核酸の混合比率(以下、「混合比率」と略記することがある。)が異なる標準核酸試料系列を調製する。標準核酸試料系列を構成する標準核酸試料の数は、特に限定されるものではなく、3〜20種類程度であることが好ましい。また、各標準核酸試料の混合比率も、特に限定されるものではなく、用いる標的核酸検出用プライマーや参照核酸検出用プライマーの種類等を考慮して適宜決定することができる。例えば、混合比率が0、0.25、0.5、0.75、1.0である5種類の標準核酸試料からなる標準核酸試料系列のように、各標準核酸試料の混合比率が等間隔に設定されているものであってもよく、混合比率が0、0.05、0.1、0.2.0.5、0.8、0.9、0.95、1.0である9種類の標準核酸試料からなる標準核酸試料系列等のように、各標準核酸試料の混合比率が不等間隔に設定されているものであってもよい。本発明においては、PCR反応が飽和している可能性が高いエンドポイントにおける標的核酸比率を求めるものであるから、用いられる標準核酸試料系列としては、標的核酸と参照核酸のいずれか一方が飽和に近づいている、混合比率が0〜0.2及び0.8〜1.0の範囲をより細かく設定したものであることが好ましい。
なお、該標準核酸試料系列を構成する各標準核酸試料は、PCR反応におけるテンプレートとして用いられるものであるが、混合比率が0又は0に近い標準核酸試料をテンプレートとした場合には参照核酸のPCR反応が飽和に近づいており、逆に、混合比率が1又は1に近い標準核酸試料をテンプレートとした場合には標的核酸のPCR反応が飽和に近づいている必要がある。このため、各標準核酸試料における標的核酸量と参照核酸量の総量は、PCR反応の反応溶液に添加された場合に、テンプレート量が十分となるように、反応溶液への添加量等を考慮して、適宜調整することが好ましい。
次に、工程(b)として、工程(a)において調製した標準核酸試料系列のそれぞれの標準核酸試料に対して、(i)核酸試料と、標的核酸検出用プライマーと、参照核酸検出用プライマーとを含む反応溶液中で、PCR反応を行った後、(ii)工程(i)の後、標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量を測定する。
工程(i)において、各PCR反応における反応溶液の組成や熱サイクル等の反応条件は、特に限定されるものではなく、標的核酸検出用プライマー等の使用するプライマーのTm値、DNAポリメラーゼの種類等を考慮して、適宜決定することができる。但し、各PCR反応は、反応溶液に添加される標準核酸試料の種類が異なる以外は、全て同一の反応条件でなければならない。
ここで、理論的には、増幅産物量は、反応に消費されたプライマー量と等しいことから、各増幅産物量を求めることにより、標的核酸検出用プライマー及び参照核酸検出用プライマーに対して、それぞれ、PCR反応開始前の反応溶液中のプライマー量に対するPCR反応後の反応溶液中の増幅産物量のモル比率であるプライマー消費率を算出することができる。具体的には、プライマー消費率は、下記の式で表される。なお、式中「初期プライマー量」とは、PCR反応開始前の反応溶液中のプライマー量(反応溶液に添加したプライマー量)を意味する。
プライマー消費率 =[増幅産物量]/[初期プライマー量]
=[増幅産物量]/([増幅産物量]+[未反応のプライマー量])
すなわち、プライマー消費率を求めるためには、PCR反応後の反応溶液中の増幅産物量(モル)自体を測定し、この増幅産物量を初期プライマー量(モル)で除してもよく、PCR反応後の反応溶液中の増幅産物量と未反応のプライマー量の比率を測定した後に、該比率から上記式に基づいて算出することもできる。
反応溶液中の増幅産物量(モル)を測定する方法は、特に限定されるものではなく、増幅産物量の定量的測定に用いられる公知の方法の中から、適宜選択して行うことができる。例えば、増幅産物を、SYBER GREEN等のDNA結合性色素や蛍光物質により標識されたハイブリダイゼーションプローブを用いて検出してもよい。また、蛍光発色物質とクエンチャーの両方が結合しており、増幅産物に特異的に結合することにより、蛍光発色物質とクエンチャーの距離が十分に広がり、これにより発光される蛍光の量を測定することにより、増幅産物を定量的に検出し得るFRETハイブリダイゼーションプローブや分子ビーコン、TaqManプローブ等の検出用プローブを用いてもよい。これらのプローブの設計や合成は、常法により行うことができる。これらの手法により得られた測定値から、予め濃度既知の増幅産物を用いて常法により作成された検量線を用いて、増幅産物量(モル)を測定することができる。
その他、標的核酸検出用プライマーや参照核酸検出用プライマーが、蛍光物質により標識されたプライマーである場合には、PCR反応後の反応溶液中の増幅産物量と未反応のプライマー量の比率を、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy、以下、FCSという。)、蛍光強度分布解析法(Fluorescence Intensity Distributiion Analysis、以下、FIDAという。)、及び蛍光偏光解析法(FIDA−polarization、以下、FIDA−POという。)からなる群より選択される1以上を用いて測定することが好ましい。
FCSは、蛍光物質一分子当たりの蛍光強度のゆらぎを解析し、測定試料中の一分子の相対的な大きさや、各大きさの分子の割合を解析することが可能な解析方法である(例えば、特開2001−272404号公報参照。)。未反応なプライマーは、プライマー産物よりも分子が小さいため、FCSにより、溶液中の、未反応の蛍光標識済みプライマーと、増幅産物の比率を簡便に測定することができる。
また、FIDAは、蛍光分子の一分子当たりの蛍光強度を求めることができる解析法であり、測定試料中に蛍光強度が異なる2種類以上の蛍光分子が存在している場合、それぞれの蛍光強度を有する分子の数量及び割合を算出することもできる。このため、例えば、未反応なプライマーとプライマー産物との蛍光強度が異なる場合には、FIDAにより一分子当たりの蛍光強度を観測し、溶液中の、未反応の蛍光標識済みプライマーと、増幅産物の比率を簡便に測定することができる。
一方、FIDA−POは、FIDAと蛍光偏光解析を複合させた解析法であり、蛍光分子の蛍光偏光度と分子数を求めることができる。測定試料中に蛍光偏光度が異なる2種類以上の蛍光分子が存在している場合、それぞれの蛍光偏光度を有する分子の数量及び割合を算出することもできる。プライマー産物は、未反応なプライマーよりも分子が大きいため、回転運動もゆっくりとなるため、蛍光偏光度が大きくなる。このため、FIDA−POにより一分子当たりの蛍光偏光度を観測し、溶液中の、未反応の蛍光標識済みプライマーと、増幅産物の比率を簡便に測定することができる。
なお、本発明においては、標的核酸のPCR反応と、参照核酸のPCR反応はそれぞれ独立である。このため、上記記載のように、一の反応溶液中に、標的核酸検出用プライマーと参照核酸検出用プライマーを添加して、マルチプレックスPCRを行い、各プライマーのプライマー消費率を算出してもよく、核酸試料と標的核酸検出用プライマーとを含む反応溶液と、核酸試料と参照核酸検出用プライマーとを含む反応溶液とを、別個に調製し、それぞれを同一の反応条件においてPCRを行い、各プライマーのプライマー消費率を算出してもよい。
次に、工程(c)として、テンプレートとして用いた標準核酸試料の混合比率と工程(b)において得られた標的核酸に由来する増幅産物量との関係を近似する第1の連続微分可能関数と、当該混合比率と工程(b)において得られた参照核酸に由来する増幅産物量との関係を近似する第2の連続微分可能関数とを、それぞれ算出する。ここで、混合比率が1に近づくほど、標的核酸に由来する増幅産物量が飽和し、逆に混合比率が0に近づくほど、参照核酸に由来する増幅産物量が飽和する。このため、横軸を混合比率、縦軸を測定したプライマー消費率として各測定値をプロットすると、飽和曲線が得られる。以下、その理由を述べる。
PCR反応の増幅効率(すなわち、プライマーの消費効率)がプライマー濃度に主導していると仮定し、PCR反応がテンプレートとプライマー会合対の伸張反応により起こることに留意すると、サイクルごとのプライマーの減少量は、テンプレート濃度([Product])、プライマー濃度([Primer])、反応効率(k)、サイクル数(c)により、下記式(1)で表される。なお、反応溶液中のテンプレートは、反応溶液中に添加した初期のテンプレートに加えて、PCR反応により得られた増幅産物も含まれる。
Figure 2010017127
一方、テンプレートの増加量はプライマーの消費量に等しいことから、上記式(2)が成立する。
Figure 2010017127
これらの微分方程式が、前サイクルのテンプレート、プライマー濃度により次の反応効率が近似できるとすると、それぞれ下記式(3)及び(4)となる。これらの微分方程式を、オイラー法により解析的に解くと、初期のテンプレート量に依存してPCR反応の増幅曲線が求まる。ここで、初期テンプレート量を、混合比率(r)として表すと、標的核酸のPCR反応の増幅曲線は図1のようになる。
Figure 2010017127
一般的には、PCR反応における熱サイクル数は、30〜40サイクルである。そこで、40サイクル目のプライマー消費率(K2%)を混合比率(r)に対してプロットすると、図2における「◆」のようになり、標的核酸のPCR反応においては、混合比率(r)とプライマー消費率(K2%)の関係は飽和曲線に近似し得ることがわかる。一方、参照核酸のPCR反応においては、参照核酸の初期テンプレート量は、混合比率(r)に対して、(1−r)として表されることから、同様に解析した結果を、プロットすると、図2における「◇」のようになり、やはり、混合比率(r)とプライマー消費率(K2%)の関係は飽和曲線に近似し得る。
すなわち、工程(c)において求められる連続微分可能関数は、飽和曲線を近似し得る連続微分可能関数であれば、特に限定されるものではなく、一般的に演算解析に用いられる近似式の中から適宜選択して用いることができる。混合比率(r)と標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率(K2%(T))の関係を近似する第1の連続微分可能関数、及び、混合比率(r)と標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率(K2%(C))の関係を近似する第1の連続微分可能関数は、例えば、下記の形の連続微分可能関数とすることができる。但し、式中、a、b、c、a’、b’、及びc’は、反応条件に依存する定数である。
Figure 2010017127
その他、下記の6次の多項式の連続微分可能関数にであってもよい。但し、式中、a、b、c、d、e、f、g、a’、b’、c’、d’、e’、f’、及びg’は、反応条件に依存する定数である。
Figure 2010017127
また、工程(d)として、被検核酸試料に対して、上記工程(i)及び(ii)を行い、標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量を測定する。具体的には、PCR反応における反応溶液の組成や反応条件を、標準核酸試料に代えて解析対象である被検核酸試料をテンプレートとして用いた以外は、全て工程(b)と同じにして行う。なお、工程(d)は工程(b)とは独立して行ってもよく、工程(b)と同時に行ってもよい。ここで、増幅反応で消費されたプライマーは、ほとんどが増幅産物になっているものと考えられるので、プライマー消費率は増幅産物量に一致する。したがって、工程(b)と同様に、標的核酸検出用プライマー及び参照核酸検出用プライマーのプライマー消費率を、それぞれ算出することができる。
本発明において用いられる被検核酸試料は、標的核酸と参照核酸が含まれていることが期待できる核酸試料であれば、特に限定されるものではない。該被検核酸試料は、動物等から採取した生体試料であってもよく、培養細胞溶液等から調製した試料であってもよく、生体試料等から抽出・精製したゲノム溶液でもよい。特に臨床検査等に用いられるヒト由来の生体試料や、ヒト由来の生体試料から抽出・精製したゲノム溶液であることが好ましい。ヒト由来の生体試料として、例えば、血液、骨髄液、リンパ液、尿、喀痰、腹水、滲出液、羊膜液、腸管洗浄液、肺洗浄液、気管支洗浄液、膀胱洗浄液、膵液、唾液、精液、胆汁、胸水、爪、毛髪、又は大便等がある。また、該生体試料は、生物から採取された状態の試料であってもよく、調製した試料であってもよい。該調製の方法は、該生体試料中に含有されているゲノムを損なわない方法であれば、特に限定されるものではなく、通常、生体試料に対してなされている調製方法を行うことができる。
本発明の標的核酸比率推定方法において、より高精度に標的核酸比率を推定するためには、テンプレートとなる標的核酸や参照核酸が十分量含まれている被検核酸試料を用いることが好ましい。このため、該被検核酸試料として、生体試料を用いる場合には、予め、PCR反応等により標的核酸や参照核酸を増幅処理しておくことが好ましい。例えば、変異細胞が有する被検遺伝子由来核酸を標的核酸とし、正常細胞が有する被検遺伝子由来核酸を参照核酸とし、生体試料から抽出・精製したゲノム溶液を被検核酸試料とする場合には、変異部位を含む該被検遺伝子の部分領域の核酸をPCR反応により増幅させ、得られた増幅産物を被検核酸試料とすることが好ましい。
その後、工程(e)として、工程(d)において得られた標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量、並びに前記工程(c)において得られた第1の連続微分可能関数及び第2の連続微分可能関数から、被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率を推定する。例えば、工程(c)において得られた第1の連続微分可能関数から得られる標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率K2%(T)を縦軸、第2の連続微分可能関数から得られる標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率K2%(C)を横軸として、混合比率(r)を媒介変数としてプロットすると、図3に実線で示すような曲線が得られる。このように、第1の連続微分可能関数及び第2の連続微分可能関数から、混合比率、参照核酸量、標的核酸量の関係が図3に実線で示す曲線であった場合、原点からの距離を変数にして、工程(d)において得られた被検核酸試料における標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率と参照核酸検出用プライマーのプライマー消費率をプロットした点(図3中、「実測値」)から、最も近い該曲線上の点、具体的には、実測値をプロットした点と原点とを結ぶ直線と曲線との交点(図3中、「推定」)における混合比率(r)が、被検核酸試料における標的核酸比率であると推定される。
このように、本発明の標的核酸比率推定方法においては、標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率の近似関数と、参照核酸検出用プライマーのプライマー消費率の近似関数とを、それぞれ別個独立に求めるため、標的核酸の増幅効率(プライマー消費効率)と参照核酸の増幅効率が大きく異なる場合であっても、両関数から、混合比率、参照核酸量、標的核酸量の関係を高い精度で推定することができる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
本発明の標的核酸比率推定方法を用いて、腫瘍細胞において高頻度に検出されるJAK2遺伝子のV617F変異の変異率を推定した。この体細胞変異は、JAK2の617番目のバリンをコードするコドンGTGの3番目の塩基GがTに変異し、フェニルアラニンとなる変異である。図4に、JAK2遺伝子におけるV617Fの周囲の塩基配列を示す。塩基配列中、下線を付してある部位を、本実施例における標的塩基配列又は参照塩基配列とした。また、図中、[G/T]が変異部位であり、該変異部位がGである塩基配列を参照核酸とし、該変異部位がTである塩基配列を標的塩基配列とした。
<標準核酸試料系列>
図4に示す標的塩基配列を有する標的核酸と、参照塩基配列を有する参照核酸とを、混合比率(標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸量の割合)がそれぞれ、0、0.05、0.1、0.2.0.5、0.8、0.9、0.95、1.0となるように、それぞれ混合し、9種類の標準核酸試料からなる標準核酸試料系列を調製した。なお、標準核酸試料の調製に用いた標的核酸及び参照核酸は、表1に示すフォワードプライマー(1st−Fw−Primer)とリバースプライマー(1st−Rv−Primer)を用いて、図4に示す塩基配列を有する核酸をPCR増幅し、得られた増幅産物の塩基配列を確認した後、プラスミドに導入したものを、それぞれ用いた。
Figure 2010017127
さらに、テンプレート量を十分量とするため、各標準核酸試料をテンプレートとし、1st−Fw−Primerと1st−Rv−Primerとを用いてPCRを行い、標的核酸及び参照核酸を増幅させた。なお、同じプライマーを用いているため、該増幅処理によっては、混合比率に影響はない。
具体的には、10μLの2×AmpliTaq Gold Master Mix(ABI社製)に、標的核酸と参照核酸の総量が4000コピー(ゲノムDNA約20ng相当量)となるように、標準核酸試料を添加し、さらに、最終濃度が0.5μMとなるように1st−Fw−Primerと1st−Rv−Primerとをそれぞれ添加し、milliQ水で最終容量が20μLとなるように調製したものを、反応溶液とした。該反応溶液を、95℃で10分間処理した後、95℃で30秒間、54℃で30秒間、72℃で30秒間を40サイクル行い、さらに72℃で10分間処理する工程からなる反応条件によりPCR反応を行った。なお、PCR反応は、サーマルサイクラーPTC−200(MJ社製)を用いて行った。このPCR反応後の反応溶液を、増幅処理後の標準核酸試料とした。
<第1及び第2の連続微分可能関数>
増幅処理後の標準核酸試料をテンプレートとし、5’末端がTAMRA標識された標的核酸検出用プライマー(T−Fw−Primer)と、5’末端がATTO647N標識された参照核酸検出用プライマー(G−Fw−Primer)とを含む反応溶液を調製し、PCRを行い、各プライマーのプライマー消費率を測定し、第1及び第2の連続微分可能関数を求めた。各検出用プライマーの塩基配列を表2に示す。なお、リバースプライマーは、いずれも、増幅処理後の標準核酸試料から反応溶液中に持ち込まれるRv−Primerを共通して用いた。
Figure 2010017127
具体的には、2μLの10×Stoffel Fragment Buffer(ABI社製)に対して、1μLの増幅処理後の標準核酸試料、硫酸マグネシウム(最終濃度:2.5mM)、dNTP(最終濃度:0.2mM)、T−Fw−Primer(最終濃度:0.5μM)、G−Fw−Primer(最終濃度:0.5μM)、及び0.1UのStoffel Fragment(ABI社製)を添加し、milliQ水で最終容量が20μLとなるように調製したものを、反応溶液とした。ネガティブコントロールとして、標準核酸試料に代えて等量のmilliQ水を添加した反応溶液も調製した。該反応溶液を、95℃で10分間処理した後、95℃で30秒間、52℃で60秒間、72℃で30秒間を40サイクル行い、さらに72℃で10分間処理する工程からなる反応条件によりPCR反応を行った。なお、PCR反応は、サーマルサイクラーPTC−200(MJ社製)を用いて行った。
PCR反応後の反応溶液を、10mM Tris緩衝液で100倍に希釈し、蛍光相関分光装置MF−20(Olympus社製)を用いてFCS測定を行った。なお、測定は、1試料につき15秒3回行い、平均値を測定結果とした。測定の結果得られた拡散時間の短い成分を未反応のプライマーとし、拡散時間の長い成分を増幅産物として、両者の比率を求めた後、該比率からプライマーの消費率(K2%)を算出した。
図5は、算出された各プライマーのプライマー消費率(K2%)を混合比率(r)に対してプロットしたものである。図中、「◆」は標的核酸のプライマー消費率を、「◇」は参照核酸のプライマー消費率を、それぞれ示している。この測定結果を、下記に示す式でフィッティングし、標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率K2%(T)の連続微分可能関数K2%(T)=F(r)と、標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率K2%(G)の連続微分可能関数K2%(G)=F’(1−r)とを求めた。図5中、実線で記載がK2%(T)=F(r)であり、点線がK2%(G)=F’(1−r)である。
なお、測定値と下記の関数との相関は高く、フィッティング結果は表3のようになった。a(a’)、b(b’)、c(c’)の図形的な意味は、それぞれ、a:K2%の飽和する値、b:K2%が飽和の半分になる変異率、c:変異率0%のときのシグナルである。
Figure 2010017127
Figure 2010017127
図6中の実線で示す曲線は、得られた第1の連続微分可能関数及び第2の連続微分可能関数から求められる混合比率、参照核酸量、標的核酸量の関係を示したものである。縦軸(Mutant(T)K2%)は標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率であり、横軸(WildType(G)K2%)は参照核酸検出用プライマーのプライマー消費率である。なお、図中、「Negative」はネガティブコントロール(標準核酸試料無添加の反応溶液)の結果を、「Dye」はFCS測定における装置調製用色素の結果を、それぞれ示している。
<標的核酸比率既知の測定試料を用いた標的核酸比率の推定>
上記で得られた曲線で示される混合比率、参照核酸量、標的核酸量の関係を用いて、実際に試料中の標的核酸比率が推定し得ることを確認するために、標的核酸比率既知の測定試料を用いて、得られた曲線から標的核酸比率を推定した。
標的核酸比率既知の測定試料は、シーケンシングにより標的核酸のみを含有することを確認した標的核酸溶液と、同じくシーケンシングにより参照核酸のみを含有することを確認した参照核酸溶液とを、標的核酸比率が0、0.05、0.1、0.2.0.5、0.8、0.9、0.95、1.0となるように、それぞれ調製したものを用いた。各測定試料のコピー数は、高濃度のストック溶液のUV吸収から測定した。
調製した6種類の測定試料に対して、上記<第1及び第2の連続微分可能関数>と同様にして、PCR反応を行い、各プライマーのプライマー消費率を測定した。測定された実測値と、図6に示した曲線から、図3に記載の方法で、標的核酸比率を推定した。各測定試料に対して18回の測定を行い、推定された標的核酸比率と、実際の標的核酸比率との相関をとったところ、傾きが0.982(SD:0.025)、相関係数が0.988(SD:0.012)となり、高い相関を示した。図7に、実際の標的核酸比率と、測定の結果得られた標的核酸比率との関係を示す。したがって、これらの結果から、本発明の標的核酸比率推定方法を用いることにより、被検核酸試料の標的核酸比率を高い精度で簡便に推定し得ることが明らかである。
[実施例2]
プライマー消費率(K2%)と混合比率(r)の関係を、実施例1とは異なる連続微分可能関数に近似させた場合であっても、本発明の標的核酸比率推定方法により標的核酸比率が推定し得ることを示した。
具体的には、実施例1の<第1及び第2の連続微分可能関数>において得られた各プライマーのプライマー消費率(K2%)を、図5と同様に混合比率(r)に対してプロットした後、下記に示す式でフィッティングし、標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率K2%(T)の連続微分可能関数K2%(T)=F(r)と、標的核酸検出用プライマーのプライマー消費率K2%(G)の連続微分可能関数K2%(G)=F’(1−r)とを求めた。測定値と下記の関数との相関は高く、フィッティング結果は表4のようになった。得られた関数K2%(T)=F(r)と関数K2%(G)=F’(1−r)を用いて、図3と同様にして混合比率、参照核酸量、標的核酸量の関係を示す曲線を得た。
Figure 2010017127
Figure 2010017127
実施例1において調製した6種類の標的核酸比率既知の測定試料に対して、同様に、PCR反応を行い、各プライマーのプライマー消費率を測定した。測定された実測値と、上記で得られた曲線から、図3に記載の方法で、標的核酸比率を推定した。各測定試料に対して18回の測定を行い、推定された標的核酸比率と、実際の標的核酸比率との相関をとったところ、相関係数が0.96となり、高い相関を示した。図8に、実際の標的核酸比率と、測定の結果得られた標的核酸比率との関係を示す。したがって、これらの結果から、本発明の標的核酸比率推定方法の工程(c)において、プライマー消費率と混合比率の関係を近似する連続微分可能関数は、一般的に飽和曲線を近似し得るものであればよく、いずれの関数を用いて近似した場合であっても、被検核酸試料の標的核酸比率を高い精度で簡便に推定し得ることが明らかである。
本発明の標的核酸比率推定方法を用いることにより、PCRのエンドポイントにおいても高精度かつ簡便に、標的核酸量と参照核酸量の比率を測定し得ることから、試料中の変異細胞の割合を推定する腫瘍関連の体細胞変異解析等の臨床検査の分野で、特に有用である。
PCRの増幅効率が、テンプレート濃度とプライマー濃度に比例すると仮定した場合のPCR反応の増幅曲線を示した図である。 図1における増幅曲線の40サイクル目のプライマー消費率(K2%)を混合比率(r)に対してプロットしたものである。図中、「◆」は標的核酸のプライマー消費率を、「◇」は参照核酸のプライマー消費率を、それぞれ示している。 第1の連続微分可能関数及び第2の連続微分可能関数から求められる混合比率、参照核酸量、標的核酸量の関係、及び、被検核酸試料中の標的核酸比率を推定する方法を簡略に示した図である。 JAK2遺伝子におけるV617Fの周囲の塩基配列を示した図である。 実施例1において、測定された各プライマーのプライマー消費率(K2%)を混合比率(r)に対してプロットしたものである。図中、「◆」は標的核酸のプライマー消費率を、「◇」は参照核酸のプライマー消費率を、それぞれ示している。 実施例1において得られた第1の連続微分可能関数及び第2の連続微分可能関数から求められる混合比率、参照核酸量、標的核酸量の関係を示した図である。 実施例1において、実際の標的核酸比率と、測定の結果得られた標的核酸比率との関係を示した図である。 実施例2において、実際の標的核酸比率と、測定の結果得られた標的核酸比率との関係を示した図である。

Claims (16)

  1. 被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸のモル比率を推定する方法であって、
    (a)標的核酸と参照核酸との総量に対する標的核酸の混合比率(モル比)が異なる標準核酸試料系列を調製する工程と、
    (b)前記工程(a)において調製した標準核酸試料系列のそれぞれの標準核酸試料に対して、下記工程(i)及び(ii)を行う工程と、
    (c)前記混合比率と前記工程(b)において得られた標的核酸に由来する増幅産物量との関係を近似する第1の連続微分可能関数と、前記混合比率と前記工程(b)において得られた参照核酸に由来する増幅産物量との関係を近似する第2の連続微分可能関数とを、それぞれ算出する工程と、
    (d)被検核酸試料に対して、下記工程(i)及び(ii)を行う工程と、
    (e)前記工程(d)において得られた標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量、並びに前記工程(c)において得られた第1の連続微分可能関数及び第2の連続微分可能関数から、被検核酸試料中の標的核酸と参照核酸の総量に対する標的核酸の比率を推定する工程と、
    を有することを特徴とする標的核酸比率推定方法。
    (i)核酸試料と、標的核酸検出用プライマーと、参照核酸検出用プライマーとを含む反応溶液中で、PCR(Polymerase Chain Reaction)反応を行う工程と、
    (ii)工程(i)の後、標的核酸に由来する増幅産物量及び参照核酸に由来する増幅産物量を測定する工程。
  2. 前記工程(i)が、
    (i’)核酸試料と標的核酸検出用プライマーとを含む反応溶液中、及び、核酸試料と参照核酸検出用プライマーとを含む反応溶液中で、別個にPCR反応を行う工程、
    であることを特徴とする請求項1記載の標的核酸比率推定方法。
  3. 前記標的核酸検出用プライマー及び前記参照核酸検出用プライマーが、蛍光物質により標識されたプライマーであることを特徴とする請求項1又は2記載の標的核酸比率推定方法。
  4. 反応溶液中のPCR反応開始前の反応溶液中のプライマー量に対するPCR反応後の反応溶液中の増幅産物量のモル比率の測定を、蛍光相関分光法、蛍光強度分布解析法、及び蛍光偏光解析法からなる群より選択される1以上を用いて行うことを特徴とする請求項3記載の標的核酸比率推定方法。
  5. 前記増幅産物量の測定を、DNA結合性色素を用いて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の標的核酸比率推定方法。
  6. 前記増幅産物量の測定を、蛍光物質により標識されたハイブリダイゼーションプローブを用いて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の標的核酸比率推定方法。
  7. 前記増幅産物量の測定を、FRETハイブリダイゼーションプローブ、分子ビーコン、又はTaqManプローブを用いて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の標的核酸比率推定方法。
  8. 前記標的核酸が変異細胞由来核酸であり、前記参照核酸が正常細胞由来核酸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的核酸比率推定方法。
  9. 前記標的核酸が、変異細胞が有する被検遺伝子由来の核酸であり、前記参照核酸が、正常細胞が有する前記被検遺伝子由来の核酸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的核酸比率推定方法。
  10. 前記被検遺伝子が、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)遺伝子、JAK2遺伝子、及びBcr−Abl遺伝子からなる群より選択される1の遺伝子であることを特徴とする請求項9記載の標的核酸比率推定方法。
  11. 前記標的核酸が、遺伝子多型のうちの一のタイプを含む配列を有する核酸であり、前記参照核酸が、前記遺伝子多型のうちの前記タイプとは異なるタイプの多型部位を含む配列を有する核酸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的核酸比率推定方法。
  12. 前記遺伝子多型が、一塩基多型であることを特徴とする請求項11記載の標的核酸比率推定方法。
  13. 前記遺伝子多型が、ミトコンドリアDNAにおける多型であることを特徴とする請求項11又は12記載の標的核酸比率推定方法。
  14. 前記標的核酸が寄生生物由来核酸であり、前記参照核酸が宿主生物由来核酸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的核酸比率推定方法。
  15. 前記寄生生物が、微生物又はウィルスであることを特徴とする請求項14記載の標的核酸比率推定方法。
  16. 前記標的核酸が遺伝子組み換え植物由来核酸であり、前記参照核酸が非遺伝子組み換え植物由来核酸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の標的核酸比率推定方法。
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