特許文献1では、活性層は一軸異方性を有する半導体よりなり、また活性層の膜厚方向は一軸異方性の軸とは異なる方向である。この半導体発光素子は、(11−20)面または(1−100)面の主面を有する基板上に作製されている。また、基板の主面はこれらの面から0度以上のオフ角で傾斜することができるけれども、双晶等の発生を抑制するために、傾斜角の上限は10度である。つまり、上記の主面は、a面及びm面、並びにa面及びm面から僅かなオフ角を成す面である。
半極性面は優れた特性を示す発光素子を提供することが理論的に予測されているけれども、大口径のウエハが供給されていない。特許文献2に記載されているオフ角の範囲において、限られた成膜実験の結果が報告されている。
特許文献1に記載されたオフ角よりも大きな角度でc面から傾斜した結晶面は、c面、a面及びm面と異なる、いわゆる半極性を示す。窒化ガリウム系半導体において半極性を利用するためには、特許文献1に記載された角度範囲よりもc面に対する傾斜角を大きくすることが求められる。
しかしながら、GaN基板といった六方晶系化合物からなる基板上に窒化ガリウム系半導体層を成長するとき、六方晶系化合物の格子定数と窒化ガリウム系半導体層の格子定数との差により、窒化ガリウム系半導体層に歪みが生じる。窒化ガリウム系半導体層の成長において窒化ガリウム系半導体層に歪みの緩和が生じると、転位が生成される。発明者らの検討によれば、六方晶系化合物の典型的な結晶面、具体的にはc面、a面及びm面上への成長と異なって、半極性を利用する窒化ガリウム系半導体素子では、歪みの緩和が抑制され転位の発生を低減できる可能性がある。
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、半極性を利用する窒化ガリウム系半導体において、歪みの緩和による転位の発生を抑制されたIII族窒化物半導体素子を提供することを目的とし、またこのIII族窒化物半導体素子のためのエピタキシャルウエハを提供することを目的とする。
本発明の一側面によれば、III族窒化物半導体素子は、(a)六方晶系化合物のc面に対して10度より大きく80度未満のオフ角で傾斜しており該六方晶系化合物からなる主面を有する支持基体と、(b)前記支持基体の前記主面上に設けられており、前記六方晶系化合物と異なる六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を含む半導体領域とを備える。前記支持基体の前記六方晶系化合物の(0001)面と前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体の(0001)面との傾斜角は+0.05度以上であり、前記傾斜角は+2度以下であり、前記傾斜角は−0.05度以下であり、前記傾斜角は−2度以上であり、前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体はAlGaN及びInGaNのいずれかである。
このIII族窒化物半導体素子によれば、上記のオフ角の範囲の支持基体では、支持基体の(0001)面と六方晶系窒化ガリウム系半導体の(0001)面との傾斜角は0.05度以上であり、2度以下であるとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体において歪みの緩和が抑制されて、六方晶系窒化ガリウム系半導体における転位密度の増加が抑制される。
本発明のIII族窒化物半導体素子では、透過型電子線回折像において、前記支持基体の<0001>方向は、前記六方晶系窒化ガリウム系半導体の<0001>方向と異なる。このIII族窒化物半導体素子では、六方晶系窒化ガリウム系半導体が支持基体の主面に平行な面内で弾性的に歪んでいるので、歪み緩和の発生が抑制され、GaNの<0001>方向が六方晶系窒化ガリウム系半導体の<0001>方向と異なる。
本発明のIII族窒化物半導体素子は、(a)六方晶系化合物のc面に対して10度より大きく80度未満のオフ角で傾斜しており該六方晶系化合物からなる主面を有する支持基体と、(b)前記支持基体の前記主面上に設けられており、前記六方晶系化合物と異なる六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を含む半導体領域とを備える。透過型電子線回折像において、前記支持基体の前記六方晶系化合物の<0001>方向を示す第1の軸は、前記六方晶系窒化ガリウム系半導体の<0001>方向を示す第2の軸と異なる方向に延びている。
このIII族窒化物半導体素子によれば、上記のオフ角の範囲の支持基体では、支持基体の<0001>方向を示す第1の軸は、六方晶系窒化ガリウム系半導体の<0001>方向を示す第2の軸と異なる方向に延びているとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体において歪みの緩和が抑制されて、六方晶系窒化ガリウム系半導体における転位密度の増加が避けられる。
本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記半導体積層は、六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる活性層を含み、前記活性層は、前記活性層からの光のピーク波長が400nm以上550nm以下の波長範囲内に含まれるように設けられており、前記活性層は、InGaN井戸層を含み、当該III族窒化物半導体素子は、発光ダイオード又は半導体レーザであることが好ましい。このIII族窒化物半導体素子では、転位密度の増加の抑制により、III族窒化物半導体素子の発光特性が良好になる。
本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記支持基体は、サファイア、SiC及びGaNのいずれかからなることができる。このIII族窒化物半導体素子では、上記の材料からなる支持基体は、歪みの緩和抑制を利用可能である。
本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記支持基体は、窒化ガリウム系半導体からなることが好ましい。前記主面は半極性を示す。このIII族窒化物半導体素子によれば、支持基体及び半導体層が、共に窒化ガリウム系半導体からなるので、窒化ガリウム系半導体の支持基体上に良好な結晶品質の窒化ガリウム系半導体を堆積できる。
本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記支持基体は、貫通転位密度1×107cm−2以下の窒化ガリウム系半導体領域を有することが好ましい。このIII族窒化物半導体素子によれば、窒化ガリウム系半導体の堆積を低転位の窒化ガリウム系半導体領域上に行うことができ、基板から引き継ぐ転位が少ないので、歪みの緩和の発生が生じにくい。
本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記支持基体の前記六方晶系化合物はGaNであり、前記傾斜角は、前記支持基体のGaNの(0001)面と前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体の(0001)面とによって規定される。
このIII族窒化物半導体素子によれば、良質なGaNウエハが利用可能であり、これ故に、基板から引き継ぐ転位に起因する歪み緩和の発生が生じにくい。
本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体はInGaNであることができる。前記傾斜角は、前記支持基体のGaNの(0001)面と前記半導体層のInGaNの(0001)面とによって規定される。このIII族窒化物半導体素子によれば、InGaN層の歪み緩和の発生が低減される。或いは、本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体はAlGaNであることができる。前記傾斜角は、前記支持基体のGaNの(0001)面と前記半導体層のAlGaNの(0001)面とによって規定される。このIII族窒化物半導体素子によれば、AlGaN層の歪み緩和の発生が低減される。
本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記六方晶系窒化ガリウム系半導体は前記支持基体の前記主面に平行な面内で弾性的に歪んでいる。このIII族窒化物半導体素子は、六方晶系窒化ガリウム系半導体が支持基体の主面に平行な面内において弾性的に歪むことによって、歪みの緩和が抑制される。
本発明のIII族窒化物半導体素子では、前記支持基体は、サファイア基板、SiC基板上基板等を含むことができる。例えば、前記支持基体は、A面のサファイア基板と、該サファイア基板上に成長されたGaN層とを含むことができる。
本発明の別の側面に係るエピタキシャルウエハは、(a)六方晶系化合物のc面と10度より大きく80度未満のオフ角で傾斜しており該六方晶系化合物からなる主面を有するウエハと、(b)前記ウエハの前記主面上に設けられており、前記六方晶系化合物と異なる六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を含む半導体領域とを備える。前記ウエハの前記六方晶系化合物の(0001)面と前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体の(0001)面との傾斜角は+0.05度以上であり、前記傾斜角は+2度以下であり、前記傾斜角は−0.05度以下であり、前記傾斜角は−2度以上であり、前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体はAlGaN及びInGaNのいずれかである。
このエピタキシャルウエハによれば、上記のオフ角の範囲のウエハでは、支持基体の(0001)面と六方晶系窒化ガリウム系半導体の(0001)面との傾斜角(絶対値)は0.05度以上2度以下の範囲であるとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体において歪みの緩和が抑制されて、六方晶系窒化ガリウム系半導体における転位密度の増加が避けられる。
本発明のエピタキシャルウエハでは、透過型電子線回折像において、前記ウエハの前記六方晶系化合物の<0001>方向は、前記六方晶系窒化ガリウム系半導体の<0001>方向と異なる。このエピタキシャルウエハでは、六方晶系窒化ガリウム系半導体がウエハの主面に平行な面内で弾性的に歪んでいるので、歪み緩和の発生が抑制され、六方晶系化合物の<0001>方向が六方晶系窒化ガリウム系半導体の<0001>方向と異なる。
本発明のエピタキシャルウエハは、(a)六方晶系化合物のc面と10度より大きく80度未満のオフ角で傾斜しており該六方晶系化合物からなる主面を有するウエハと、(b)前記ウエハの前記主面上に設けられており、前記六方晶系化合物と異なる六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を含む半導体領域とを備える。透過型電子線回折像において、前記ウエハの前記六方晶系化合物の<0001>方向を示す第1の軸は、前記六方晶系窒化ガリウム系半導体の<0001>方向を示す第2の軸と異なる方向に延びている。
このエピタキシャルウエハによれば、上記のオフ角の範囲のウエハでは、六方晶系化合物の<0001>方向が六方晶系窒化ガリウム系半導体の<0001>方向と異なるとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体において歪みの緩和が抑制されて、六方晶系窒化ガリウム系半導体における転位密度の増加が抑制される。
本発明のエピタキシャルウエハでは、前記半導体領域は、六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる活性層を含み、前記活性層のフォトルミネッセンススペクトルのピーク波長は、400nm以上550nm以下の波長範囲内にあることができる。この発明によれば、転位密度の増加の抑制により、良好な発光特性のIII族窒化物半導体素子のためのエピタキシャルウエハが提供される。
本発明のエピタキシャルウエハでは、前記ウエハは、サファイア、SiC及びGaNのいずれかからなることができる。このエピタキシャルウエハによれば、上記の材料からなるウエハは歪みの緩和抑制を利用可能である。
本発明のエピタキシャルウエハでは、前記ウエハは窒化ガリウム系半導体からなり、前記主面は半極性を示す。このエピタキシャルウエハによれば、支持基体及び半導体層が、共に窒化ガリウム系半導体からなるので、窒化ガリウム系半導体の支持基体上に良好な結晶品質の窒化ガリウム系半導体を堆積できる。
本発明のエピタキシャルウエハでは、前記ウエハは、貫通転位密度1×107cm−2以下の窒化ガリウム系半導体領域を有することができる。このエピタキシャルウエハによれば、窒化ガリウム系半導体の堆積を低転位の窒化ガリウム系半導体領域上に行うことができ、ウエハから引き継ぐ転位が少ないので、歪みの緩和の発生が生じにくい。
本発明のエピタキシャルウエハでは、前記ウエハの前記六方晶系化合物はGaNであり、前記傾斜角は、前記ウエハのGaNの(0001)面と前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体の(0001)面とによって規定される。
このエピタキシャルウエハのために、良質なGaNウエハが利用可能であり、これ故に、ウエハから引き継ぐ転位に起因する歪み緩和の発生が生じにくい。
本発明のエピタキシャルウエハでは、前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体はInGaNであり、前記傾斜角は、前記ウエハのGaNの(0001)面と前記半導体層のInGaNの(0001)面とによって規定されることができる。このエピタキシャルウエハによれば、InGaN層の歪み緩和の発生が低減される。或いは、本発明のエピタキシャルウエハでは、前記半導体層の前記六方晶系窒化ガリウム系半導体はAlGaNであり、前記傾斜角は、前記ウエハのGaNの(0001)面と前記半導体層のAlGaNの(0001)面とによって規定されることができる。このエピタキシャルウエハによれば、AlGaN層の歪み緩和の発生が低減される。
本発明のエピタキシャルウエハでは、前記六方晶系窒化ガリウム系半導体は前記ウエハの前記主面に平行な面内で弾性的に歪んでいる。このエピタキシャルウエハは、六方晶系窒化ガリウム系半導体が支持基体の主面に平行な面内において弾性的に歪むことによって、エピタキシャルウエハにおける歪みの緩和が抑制される。
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
以上説明したように、本発明の一側面によれば、半極性を利用する窒化ガリウム系半導体において、歪みの緩和により転位の発生を抑制された、III族窒化物半導体素子が提供される。また、本発明の別の側面によれば、このIII族窒化物半導体素子のためのエピタキシャルウエハが提供される。
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のIII族窒化物半導体素子及びエピタキシャルウエハに係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
a面及びm面、並びにa面及びm面から僅かなオフ角を成す面に係る結晶成長については、これまで様々な検討が為されてきた。しかしながら、窒化ガリウム系半導体の半極性を利用する半導体素子のための六方晶系窒化ガリウム系半導体における歪みの緩和についての知見が望まれている。この六方晶系窒化ガリウム系半導体は、六方晶系化合物からなる基板主面上に成長され、この基板主面は、六方晶系化合物のc面に対して10度より大きく80度未満のオフ角で傾斜している。
本実施の形態に係るIII族窒化物半導体素子は、上記のオフ角を有する支持基体と、支持基体の主面上に設けられた半導体領域とを備える。この半導体領域は、六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を含む半導体積層であることができる。また、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体素子のためのエピタキシャルウエハは、上記のオフ角を有するウエハと、ウエハの主面上に設けられた半導体領域を備える。この半導体領域は、六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる半導体膜を含む。
六方晶系化合物が半導体層の六方晶系窒化ガリウム系半導体と異なるとき、六方晶系化合物の格子定数(例えば、c軸方向の格子定数)は、六方晶系窒化ガリウム系半導体の格子定数(例えば、c軸方向の格子定数)と異なっている。このとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体は、格子定数差に起因する歪みを内包することになる。歪みは、結晶内に構造的な欠陥(例えば転位)によって緩和される。しかし、転位の増加は、結果的に、六方晶系窒化ガリウム系半導体の結晶品質を低下させる。故に、転位の増加を抑制することが望まれている。
図1は、六方晶系化合物の格子定数と六方晶系窒化ガリウム系半導体の格子定数との関係を示す図面である。図1に示される材料では、六方晶系化合物の格子定数は六方晶系窒化ガリウム系半導体の格子定数よりも小さい。図1(a)〜図1(c)に示されたベクトルCは、六方晶系化合物のc軸の方向を示している。参照符合SSUBP、SSUBH、SSUBNは、六方晶系化合物におけるc面を示す。参照符合SLAYP1、SLAYH1、SLAYN1は、六方晶系窒化ガリウム系半導体におけるc面を示す。参照符合11a、11b、11cは、六方晶系化合物からなるウエハを示し、参照符合13a、13b、13cは、六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を示す。ウエハ11a、11b、11cのエッジ上の2点間の距離の最大値は、45mm以上である。
図1(a)を参照すると、極性を示すc面主面を有するウエハ11aを準備されている。六方晶系窒化ガリウム系半導体13aは、このウエハ11a上に堆積されるべきものである。六方晶系窒化ガリウム系半導体13aに固有の格子定数DLAYP1は、ウエハ11aの六方晶系化合物固有の格子定数DSUBPよりも大きい。この格子定数は、a軸方向またはm軸方向に規定される。
図1(b)を参照すると、非極性を示すa面主面(又はm面主面)を有するウエハ11bが準備されている。六方晶系窒化ガリウム系半導体13bは、このウエハ11b上に堆積されるべきものである。六方晶系窒化ガリウム系半導体13bの格子定数DLAYN1は、ウエハ11bの六方晶系化合物の格子定数DSUBNよりも大きい。この格子定数は、c軸方向に規定される。
図1(c)を参照すると、半極性を示す主面を有するウエハ11cが準備されている。ウエハ11c該六方晶系化合物からなる主面を有しており、その主面は、六方晶系化合物のc面に対して10度より大きく80度未満のオフ角で傾斜している。六方晶系窒化ガリウム系半導体13cは、このウエハ11c上に堆積されるべきものである。傾斜主面を有するウエハ11cでは、基本格子に関連づけられた基本格子における軸方向を用いて格子定数を図1(a)及び図1(b)に示されるように示すことができないけれども、六方晶系窒化ガリウム系半導体13cの基本格子のサイズDLAYH1とウエハ11cの六方晶系化合物の基本格子のサイズDSUBHとの関係は図1(a)及び図1(b)と同様であり、関係DLAYH1>DSUBHが満たされる。
図2は、六方晶系化合物の支持基体上に成長された六方晶系窒化ガリウム系半導体の半導体層を示す図面である。図1に示される材料では、六方晶系化合物の格子定数は六方晶系窒化ガリウム系半導体の格子定数よりも小さい。図2(a)〜図2(c)に示されたベクトルCは、六方晶系化合物及び六方晶系窒化ガリウム系半導体のc軸の方向を示す。六方晶系窒化ガリウム系半導体がウエハ11a、11b、11c上に堆積されると、六方晶系窒化ガリウム系半導体13a、13b、13c固有の格子定数は、ウエハ11a、11b、11cの格子定数に応じて変化して、六方晶系窒化ガリウム系半導体15a、15b、15cが形成される。これ故に、六方晶系窒化ガリウム系半導体15a、15b、15cは歪みを内包している。しかしながら、転位といった格子欠陥が結晶成長中に生成されるとき、生成により歪みが緩和されて結晶品質を劣化させる。故に、歪みの緩和は望まれていない。
図2(c)を参照すると、半極性を示す六方晶系窒化ガリウム系半導体15cも歪みを内包する。歪みが緩和されずに六方晶系窒化ガリウム系半導体15c内に残るとき、c面、a面及びm面上へ成長された六方晶系窒化ガリウム系半導体15a、15bとは異なり、ウエハ11cの結晶面、例えばc面SSUBCは、六方晶系窒化ガリウム系半導体15cの対応結晶面、例えばc面SLAYC1には平行ではなく、参照面SR1に平行に延びる。この角度差は、後ほど説明されるように、X線回折測定による結果から理解される。
ウエハ11c上に成長された六方晶系窒化ガリウム系半導体に転位が生成されて歪みが緩和されてしまったとき、成長中に生成された転位の数が非常に多い。このとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体の結晶面、例えばc面SLAYC1がウエハ11bの所定の結晶面、例えばc面SSUBCに平行に延びるように、六方晶系窒化ガリウム系半導体が、歪み緩和の結果として変形する。例えば、六方晶系化合物がGaNであるとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体はInGaN、InAlGaN等である。InGaNの格子定数は、インジウム組成に依存するけれども、GaNの格子定数よりも大きい。
六方晶系窒化ガリウム系半導体15cも歪みを内包するとき、つまり、転位の生成が非常に少ない。このとき、X線回折測定による結果から判断して、六方晶系窒化ガリウム系半導体15cにおいてc面SLAYC1と参照面SR1との成す傾斜角α(絶対値)は、0.05度以上である。また、傾斜角α(絶対値)は2度以下である。例えば、六方晶系窒化ガリウム系半導体がInGaNであると共に、ウエハ11cがGaNから成るとき、この傾斜角は、例えばウエハ11cのGaNの(0001)面と半導体層のInGaNの(0001)面とによって規定される。InGaN層の歪み緩和の発生が低減されており、六方晶系窒化ガリウム系半導体15cの成長中に増加した転位の数は非常に少ない。上記の傾斜角の関係が、ウエハ11cの主面の全体にわたって満たされている。傾斜角の関
係を満たすためには、In組成は0.07以上であることが好ましく、また0.35以下であることが好ましい。
図1及び図2を参照しながら行われた説明は、ウエハ11c上に堆積された六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる単一の半導体層を例示的に示して行われたけれども、歪みの内包は、複数の半導体層を含む半導体積層をウエハ11c上に成長する構造においても当てはまる。
上記の説明から理解されるように、上記のオフ角の範囲のウエハ11cでは、ウエハ11cの(0001)面と六方晶系窒化ガリウム系半導体15cの(0001)面との傾斜角(絶対値)は0.05度以上であり、2度以下であるとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体15cにおいて歪みの緩和が抑制されて、このIII族窒化物半導体素子の六方晶系窒化ガリウム系半導体15cにおける転位密度の増加が抑制される。
また、図2(c)を参照すると、六方晶系窒化ガリウム系半導体15cの<0001>方向が、軸ARとして示されている。透過型電子線回折像において、ウエハ11cの<0001>方向は、軸ARと異なっている。角度差が明らかになるように、ウエハ11cのc軸ベクトルCに合わせて補助軸ARが示されている。補助軸ARとベクトルCとが成す角度βは歪みの内包に関連づけられ、角度βの値は角度αに実質的に等しい。これらの角度(絶対値)は0.05度以上であり、2度以下であるとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体15cにおいて歪みの緩和が抑制されて、このIII族窒化物半導体素子の六方晶系窒化ガリウム系半導体15cにおける転位密度の増加が抑制される。また、六方晶系窒化ガリウム系半導体15cがウエハ11cの主面に平行な面内で弾性的に歪んでいるので、歪み緩和の発生が抑制され、ウエハ11cの<0001>方向が六方晶系窒化ガリウム系半導体15cの<0001>方向と異なることになる。上記の角度の関係が、ウエハ11cの主面の全体にわたって満たされている。
図3は、六方晶系化合物の格子定数と六方晶系窒化ガリウム系半導体の格子定数との関係を示す図面である。図3に示される材料では、六方晶系化合物の格子定数は六方晶系窒化ガリウム系半導体の格子定数よりも小さい。図3(a)〜図3(c)に示されたベクトルCは、六方晶系化合物のc軸の方向を示しており、参照符合SSUBP、SLAYPは、六方晶系化合物、六方晶系窒化ガリウム系半導体におけるc面を示す。参照符合11a、11b、11cは、六方晶系化合物からなる支持基体を示し、参照符合17a、17b、17cは、六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる半導体層を示す。
図3(a)を参照すると、極性を示すc面主面を有するウエハ11aを準備されている。六方晶系窒化ガリウム系半導体17aは、このウエハ11a上に堆積されるべきものである。六方晶系窒化ガリウム系半導体17aに固有の格子定数DLAYP2は、ウエハ11aの六方晶系化合物固有の格子定数DSUBPよりも小さい。この格子定数は、a軸方向またはm軸方向に規定される。
図3(b)を参照すると、非極性を示すa面主面(又はm面主面)を有するウエハ11bが準備されている。六方晶系窒化ガリウム系半導体17bは、このウエハ11b上に堆積されるべきものである。六方晶系窒化ガリウム系半導体17bに固有の格子定数DLAYN2は、ウエハ11bの六方晶系化合物の格子定数DSUBNよりも小さい。この格子定数は、c軸方向に規定される。
図3(c)を参照すると、半極性を示す主面を有するウエハ11cが準備されている。ウエハ11c該六方晶系化合物からなる主面を有しており、その主面は、六方晶系化合物のc面に対して10度より大きく80度未満のオフ角で傾斜している。六方晶系窒化ガリウム系半導体17cは、このウエハ11c上に堆積されるべきものである。傾斜主面を有するウエハ11cでは、基本格子に関連づけられた基本格子における軸方向を用いて格子定数を図3(a)及び図3(b)に示されるように示すことができないけれども、六方晶系窒化ガリウム系半導体17cの基本格子のサイズDLAYH2とウエハ11cの六方晶系化合物の基本格子のサイズDSUBHとの関係は、図3(a)及び図3(b)と同様である。
図4は、六方晶系化合物の支持基体上に成長された六方晶系窒化ガリウム系半導体の半導体層を示す図面である。図3に示される材料では、六方晶系化合物の格子定数は六方晶系窒化ガリウム系半導体の格子定数よりも小さい。図4(a)〜図4(c)に示されたベクトルCは、六方晶系化合物及び六方晶系窒化ガリウム系半導体のc軸の方向を示す。六方晶系窒化ガリウム系半導体がウエハ11a、11b、11c上に堆積されると、六方晶系窒化ガリウム系半導体19a、19b、19cが形成される。六方晶系窒化ガリウム系半導体17a、17b、17c固有の格子定数は、ウエハ11a、11b、11cの格子定数に応じて変化する。これ故に、六方晶系窒化ガリウム系半導体19a、19b、19cは歪みを内包している。しかしながら、転位といった格子欠陥が結晶成長中に生成されるとき、これにより歪みが緩和されて結晶品質を劣化させる。故に、歪みの緩和は望まれていない。
図4(c)を参照すると、半極性を示す六方晶系窒化ガリウム系半導体19cも歪みを内包する。歪みが緩和されずに六方晶系窒化ガリウム系半導体19c内に残るとき、c面、a面及びm面上へ成長された六方晶系窒化ガリウム系半導体19a、19bとは異なり、ウエハ11cの結晶面、例えばc面SSUBCは、六方晶系窒化ガリウム系半導体19cの対応結晶面、例えばc面SLAYC1に平行ではなく、参照面SR2に平行に延びる。この角度差は、後ほど説明されるように、X線回折測定による結果から理解される。
ウエハ11c上に成長された六方晶系窒化ガリウム系半導体に転位が生成されて歪みが緩和されてしまったとき、つまり、転位の生成が非常に多いとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体の結晶面、例えばc面SLAYC1がウエハ11bの結晶面、例えばc面SSUBCに平行に延びるように、六方晶系窒化ガリウム系半導体が歪み緩和の結果として変形する。例えば、六方晶系化合物がGaNであるとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体はAlGaN、InAlGaN等である。AlGaNの格子定数は、アルミニウム組成に依存するけれども、GaNの格子定数よりも小さい。
六方晶系窒化ガリウム系半導体19cも歪みを内包するとき、つまり、転位の生成やクラックの発生が非常に少ないとき、X線回折測定による結果から判断して、六方晶系窒化ガリウム系半導体19cにおいてc面SLAYC1と参照面SR2との成す傾斜角γ(絶対値)は0.05度以上である。また、傾斜角γ(絶対値)は2度以下である。上記の傾斜角の関係が、ウエハ11cの主面の全体にわたって満たされている。
図3及び図4を参照しながら行われた説明は、ウエハ11c上に堆積された六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる単一の半導体層を例示的に示して行われたけれども、歪みの内包は、複数の半導体層を含む半導体積層をウエハ11c上に成長する構造においても当てはまる。
上記の説明から理解されるように、上記のオフ角の範囲のウエハ11cでは、ウエハ11cの(0001)面と六方晶系窒化ガリウム系半導体19cの(0001)面との傾斜角は0.05度以上であり、2度以下であるとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体19cにおいて歪みの緩和が抑制されて、このIII族窒化物半導体素子の六方晶系窒化ガリウム系半導体19cにおける転位密度の増加が抑制される。例えば、六方晶系窒化ガリウム系半導体がAlGaNであると共に、ウエハ11cがGaNから成るとき、この傾斜角は、ウエハ11cのGaNの(0001)面と半導体層のAlGaNの(0001)面とによって規定される。AlGaN層の歪み緩和の発生が低減される。傾斜角の関係を満たすためには、Al組成は0.2以下であることが好ましい。
また、図4(c)を参照すると、六方晶系窒化ガリウム系半導体19cの<0001>方向が、軸ARとして示されている。透過型電子線回折像において、ウエハ11cの<0001>方向は、軸ARと異なっている。角度差が明らかになるように、ウエハ11cのc軸ベクトルCに合わせて補助軸ARが示されている。補助軸ARとベクトルCとが成す角度δは歪みの内包に関連づけられ、角度δの値は角度γに実質的に等しい。これらの角度が0.05度以上であり、2度以下であるとき、六方晶系窒化ガリウム系半導体19cにおいて歪みの緩和が抑制されて、このIII族窒化物半導体素子の六方晶系窒化ガリウム系半導体19cにおける転位密度の増加が抑制される。また、六方晶系窒化ガリウム系半導体19cがウエハ11cの主面に平行な面内で弾性的に歪んでいるので、歪み緩和の発生が抑制され、ウエハ11cの<0001>方向が六方晶系窒化ガリウム系半導体19cの<0001>方向と異なる。上記の傾斜角の関係が、ウエハ11cの主面の全体にわたって満たされている。
半導体積層のための六方晶系窒化ガリウム系半導体としては、上記のInGaN、AlGaNに限定されることなく、InAlGaN等であってもよい。上記の傾斜角の関係が、ウエハ11cの主面の全体にわたって満たされている。
上記のエピタキシャルウエハE1、E2の半導体積層が、六方晶系窒化ガリウム系半導体からなる活性層を含むとき、III族窒化物半導体素子は、発光ダイオード又は半導体レーザといった半導体発光素子であることができる。活性層のフォトルミネッセンススペクトルのピーク波長は、400nm以上550nm以下の波長範囲内にあることができる。これらのエピタキシャルウエハE1、E2がから作製されるIII族窒化物半導体発光素子は、弾性的に変形した半導体層の働きにより転位密度の増加が抑制されて、良好な発光特性を有する。
III族窒化物半導体発光素子用に作製されたエピタキシャルウエハ上に電極等を作製してウエハ生産物を形成した後に、このウエハ生産物を分離して多数の半導体発光素子を作製できる。半導体発光素子では、ウエハ11cの分離により形成された支持基体上の半導体積層内に活性層を含む。発光ダイオード又は半導体レーザといった半導体発光素子では、活性層が400nm以上550nm以下の波長範囲内の発光ピークを有するエレクトロルミネッセンスを含むように設けられる。転位密度の増加の抑制により、III族窒化物半導体発光素子の発光特性が良好になる。一実施例は、活性層は、井戸層及び障壁層を含む量子井戸構造を有することができる。一実施例では、活性層は例えばInGaN井戸層を含む。400nm以上550nm以下の波長範囲内の発光のためには、井戸層のインジウム組成の範囲は、0.07以上であることが好ましく、井戸層のインジウム組成の範囲は、0.35以下であることが好ましい。また、井戸層の厚さの範囲は1.5nm以上であることが好ましく、井戸層の厚さの範囲は10nm以下であることが好ましい。
ウエハ11cは、サファイアまたはSiC等からなるようにしてもよい。このIII族窒化物半導体素子では、上記の材料からなる支持基体は、既に説明された歪み緩和の抑制を利用可能である。例えば、支持基体は、A面のサファイア基板と、該サファイア基板上に成長されたGaN層とを含むことができる。A面サファイア基板を用いると、(10−12)を主面とするGaNが成長する。転位密度1×10+8cm−2程度以下のGaNエピタキシャル膜では、下地のn型GaN層とInGaN層との間において、本発明の効果が出てくる可能性があると考えられる。
ウエハ11cは、窒化ガリウム系半導体なることができる。ウエハ11cの主面は半極性を示す。このIII族窒化物半導体素子によれば、ウエハ11c及び半導体層15c、19cが、共に窒化ガリウム系半導体からなるので、窒化ガリウム系半導体支持基体上に良好な結晶品質の窒化ガリウム系半導体を堆積できる。窒化ガリウム系半導体支持基体は、貫通転位密度1×107cm−2以下の窒化ガリウム系半導体領域を有することが好ましい。貫通転位密度は、例えば窒化ガリウム系半導体支持基体のc面において規定されることができる。窒化ガリウム系半導体の堆積を低転位の窒化ガリウム系半導体領域上に行うことができ、ウエハから引き継ぐ転位が少ないので、歪みの緩和の発生が生じにくい。
また、ウエハ11cがGaNからなるとき、傾斜角α、γは、支持基体11cのGaNの(0001)面と半導体層15c、19cの六方晶系窒化ガリウム系半導体の(0001)面とによって規定される。良質且つ大口径のGaNウエハが利用可能であるので、このGaNウエハから引き継ぐ転位に起因する歪み緩和の発生が生じにくい。半極性を示す主面を有するGaNウエハでは、主面の全体にわたってオフ角が分布している。オフ角の分布の有無に関係なく、傾斜角α、γに関する規定が満たされる。
図5は、本実施の形態を適用した発光ダイオードの構造を概略的に示す図面である。発光ダイオード21aは、支持基体23と、支持基体23の主面23a上に設けられた半導体積層25aとを含む。支持基体23の主面23aは、c面に対して10度より大きく80度未満のオフ角で傾斜する。支持基体23は、単結晶からなることができる。半導体積層25aは、400nm以上550nm以下の波長範囲内の発光ピークを有する活性層27を含む。活性層27は、n型窒化ガリウム系半導体領域29とp型窒化ガリウム系半導体領域31との間に設けられている。n型窒化ガリウム系半導体領域29は、バッファ層33aと、n型GaN層33bを含む。p型窒化ガリウム系半導体領域31は、電子ブロック層35a及びコンタクト層35bを含む。活性層27は、交互に配列された井戸層3
7a及び障壁層37bを含む多重量井戸構造を有する。コンタクト層35b上には、アノードといった第1の電極39aが設けられており、支持基体23の裏面23b上には、カソードといった第2の電極39bが設けられている。
一例の発光ダイオード(LED)の構造を以下に示す。
支持基体23:n型GaN基板
バッファ層33a:Si添加n型Al0.06Ga0.94N、50nm
n型GaN層33b:Si添加n型GaN、2μm
井戸層37a:アンドープIn0.18Ga0.82N層、5nm、3層
障壁層37b:アンドープGaN層、13nm
電子ブロック層35a:Mg添加p型Al0.08Ga0.92N層、20nm
コンタクト層35b:Mg添加p型GaN、50nm。
図5には、GaN支持基体のc軸の方向を示す軸AR3が示されている。GaN支持基体の(0001)面(図5において示された参照面SR3)とAlGaNバッファ層33aの(0001)面との傾斜角Aは0.05度以上であり、傾斜角Aは2度以下である。また、GaN支持基体の(0001)面(図5において示された参照面SR4)と井戸層37aの(0001)面との傾斜角Bは0.05度以上であり、傾斜角Bは2度以下である。傾斜角A及び傾斜角Bは、GaN支持基体のc面に対して互いに逆方向に傾斜している。傾斜角の関係が、支持基体23の主面の全体にわたって満たされている。
図6は、本実施の形態を適用した半導体レーザの構造を概略的に示す図面である。半導体レーザ21bは、支持基体23と、支持基体23の主面23a上に設けられた半導体積層25bとを含む。支持基体は、活性層の発光領域の位置に合わせて設けられた単結晶領域を有することができる。半導体積層25bは、n型窒化ガリウム系半導体領域41、光導波領域45及びp型窒化ガリウム系半導体領域51を含む。光導波領域45は、n型窒化ガリウム系半導体領域41とp型窒化ガリウム系半導体領域51との間に設けられている。光導波領域45は、活性層47aを含み、活性層47aは光ガイド層47b、47cとの間に設けられている。活性層47aは、400nm以上550nm以下の波長範囲内に発振波長を有する活性層27は、交互に配列された井戸層49a及び障壁層49bを含
む多重量井戸構造を有する。n型窒化ガリウム系半導体領域41は、n型クラッド層43を含む。p型窒化ガリウム系半導体領域51は、電子ブロック層53a、p型クラッド層53b及びp型コンタクト層53cを含む。コンタクト層53c上には、アノードといった第1の電極55aが設けられており、支持基体23の裏面23b上には、カソードといった第2の電極55bが設けられている。
一例の半導体レーザ(LD)の構造を以下に示す。
支持基体23:n型GaN基板
n型クラッド層43:Si添加n型Al0.03Ga0.97N層、2μm
n側光ガイド層47b:アンドープIn0.02Ga0.98N層、100nm
井戸層49a:アンドープIn0.08Ga0.92N層、5nm、3層
障壁層49b:アンドープGaN層、15nm
p側光ガイド層47c:アンドープIn0.02Ga0.98N層、100nm
電子ブロック層53a:Mg添加p型Al0.18Ga0.82N層、20nm
p型クラッド層53b:Mg添加p型Al0.06Ga0.94N層、400nm
コンタクト層53c:Mg添加p型GaN、50nm。
図6には、GaN支持基体のc軸の方向を示す軸AR4が示されている。GaN支持基体の(0001)面とn型クラッド層43aの(0001)面(図6において示された参照面SR5)との傾斜角Cは0.05度以上であり、傾斜角Cは2度以下である。また、GaN支持基体の(0001)面(図6において示された参照面SR6)と光ガイド層49a、49bの(0001)面との傾斜角Dは0.05度以上であり、傾斜角Dは2度以下である。傾斜角A及び傾斜角Bは、GaN支持基体のc面に対して互いに逆方向に傾斜している。傾斜角の関係が、支持基体23の主面の全体にわたって満たされている。
(実施例)
有機金属気相成長法により発光ダイオードを作製した。図7及び図8は、発光ダイオードの作製方法の主要な工程を含む工程フローを示す図面である。原料にはトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)を用いた。
工程フロー100の工程S101に示すように、下記のようなGaNウエハを準備した。
GaNウエハ、 m軸方向オフ角、 a軸方向オフ角
m16、 16.4度、 0.2度
m26、 26.4度、 0.1度
オフ角はX線回折法により決定された。
反応炉内のサセプタ上に、GaNウエハm16、m26を配置した。以下の手順で成長を行った。工程S102では、成長炉内を圧力101kPaにコントロールしながら、成長炉にNH3とH2を供給して、摂氏1050度の基板温度で熱処理を行った。熱処理はクリーニングのためであり、その時間は10分間を行った。次いで、工程S103では、NH3、TMA、TMG、SiH4を供給して、AlGaNバッファ層を50nm成長した。続いて、TMAの供給を停止すると共にNH3、TMG、SiH4を続けて供給して、厚さ2000nmのSiドープGaN層を成長した後に、NH3、TMG、SiH4の供給を停止した。基板温度を摂氏700度近辺まで下げた。この温度で、NH3、TMG、TMI、SiH4を供給して厚さ50nmのSiドープInGaN層バッファ層を成長させた。続いて、発光層を成長した。発光層は、厚さ15nmのGaN障壁層及び厚さ5nmのInGaN井戸層からなる3周期の多重量子井戸構造からなる。その後、TMGとTMIの供給を停止した後に、基板温度を摂氏1000度に上昇した。この温度において、TMG、TMA、NH3、CP2Mgを導入して、厚さ20nmのMgドープp型AlGaNを成長した。その後に、TMAの供給を停止すると共にTMG、NH3、CP2Mgを成長炉に供給して、厚さ50nmのp型GaN層を成長した。その後、室温まで降温して、エピタキシャルウエハを反応炉から取り出した。GaNウエハm16、m26を用いて作製されたエピタキシャルウエハE16、E26の構造は、図5に示されたLEDのエピタキシャル構造と同じである。
エピタキシャルウエハE16、E26のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを室温で評価した。励起光には325nmのHe−Cdレーザを用いた。試料位置でのレーザーパワーは1mWであり、スポット径は約200umであった。図9は、代表的なPLスペクトルPLm16、PLm16を示す。エピタキシャルウエハE16の発光ピーク波長は500nmであり、エピタキシャルウエハE26の発光ピーク波長は495nmであった。
工程S104では、エピタキシャルウエハE16のX線回折法による評価を行った。入射X線のスリットサイズは、縦0.2mm横2mmである。オフ方向をX線の入射方向に合わせた後、ステージの高さ調整し、(20−25)面を用いた軸立てを行い、(0002)面のオフセット角をゼロにセットした。
工程S105では、(0002)面の逆格子マッピング測定を行った。図10は、測定によって得られたm16の逆格子マッピングを示す。縦軸はc軸の格子定数の逆数に係数を乗じたものを示し、横軸はa軸の格子定数の逆数に係数を乗じたものを示す。逆格子マッピングには、GaN基板の回折点、InGaN層の回折点、AlGaN層の回折点を含んでいた。
工程S106では、逆格子マッピング像の解析を行った。逆格子マッピング像によれば、GaN基板ピークに対して、InGaN層およびAlGaN層の回折点はω−2θ面内に存在しないことを示された。すなわち、GaNの<0001>方向はInGaNの<0001>方向と異なり、またGaNの<0001>方向はAlGaNの<0001>方向と異なる。更に、工程S107では、InGaN層の(0001)面とGaN層の(0001)面とは、約0.45度の角度を成しており、平行ではない。また、AlGaN層の(0001)面とGaN層の(0001)面とは、約0.1度の角度を成しており、平行でない。
次に、エピタキシャルウエハE26について、透過電子線顕微鏡を使用した評価を行った。試料の加工は、フォーカス・イオン・ビーム(FIB)法によって行い、イオンミリング法によってダメージを除去した。電子線の入射方向は、角度のオフ方向に直交する<11−20>方向(a軸方向)であった。電子線の加速電圧は200kVであった。図11は、図5に示されたm26のLED構造における活性層付近の拡大像を示す図面である。透過電子線顕微鏡像によれば、約5nmの井戸幅の3周期量子井戸構造が形成できていることを示していた。また、転位はなく、高品質な活性層が形成されていた。
次いで、格子面に関する情報を得るために、制限視野電子線回折を行った。制限視野絞りの直径は0.1μmであった。図12は、エピタキシャルウエハE26の構造と、この構造に対応づけられた測定点とを示す図面である。図13は、3つの測定点において得られた回折パターンを示す図面である。図13(a)を参照すると、基板の<0001>方向は、設計通り約26度の角度だけ直上方向から左へ傾いていることを示している。図13(b)を参照すると、n−GaN層でも同様のパターンを示している。図13(a)及び図13(b)のパターンから、GaN層は、GaNウエハに対してエピタキシャルに成長されたことがわかった。図13(c)に示されるように、活性層を含む領域でも同様の観察を行った。図14(a)及び図14(b)は、測定点SAD2、SAD3における電子線回折像を示す。図15(a)及び図15(b)は、それぞれ、図14(a)及び図14(b)に示された、測定点SAD2、SAD3における電子線回折像の拡大像を示す。図15(a)及び図15(b)を参照すると、活性層を含む観察エリアを示す図15(b)の拡大像では、逆格子点に基板表面方向に垂直に伸びる裾が存在していた。これは、InGaNおよびAlGaNからの回折であると考えられる。これらの裾は、GaNの<0001>方向にはInGaNの<0001>方向が一致していないことを示していた。故に、InGaN層の(0001)面は、GaN層の(0001)面と平行でないことがわかった。
X線回折像の測定及び/または透過電子線顕微鏡像の測定を行った測定データから、エピタキシャルウエハにおいて、GaNの所定の結晶面、結晶軸の向きと、GaNと異なる窒化ガリウム系半導体(例えば、InGaN、AlGaN、AlInGaN)の所定の結晶面、結晶軸の向きとを比較して、窒化ガリウム系半導体の結晶の歪みを見積もる。工程S108では、この歪みの緩和が所望の範囲内にあるかを判断する。この歪みの緩和が所望の値以下のとき、エピタキシャルウエハが良品と判断される。工程S109で、引き続いて、デバイス作製のためのプロセスを行う。例えば、工程S110では、半導体素子のための電極の形成を行う。工程S111で、この歪みの緩和が所望の値より大きいとき、エピタキシャルウエハの処理は停止される。
上記の実施例及び他の実験から、支持基体の六方晶系化合物の(0001)面と半導体層の六方晶系窒化ガリウム系半導体の(0001)面との傾斜角は2度以下であれば、歪みの緩和が抑制されて、良好な特性の発光素子が提供される。傾斜角は0.05度以上であれば、X線回折で確実に検証することが可能である。
図16(a)は、InGaNのおける傾斜角の計算値の例示を示す。矢印Angleは、オフ角範囲を示す。符号「□」はm軸方向傾斜及びIn組成0.35における傾斜角を示し、符号「◆」はa軸方向傾斜及びIn組成0.35における傾斜角を示し、符号「△」はa軸方向傾斜及びIn組成0.07における傾斜角を示す。400nm以上550nm以下の波長範囲内に含まれるピーク波長の光の発生を得るためのエピタキシャル積層において、In組成は例えば約0.07以上であり0.35以下の範囲であることが好ましい。傾斜角の下限は、例えばa方向にオフ角10度及びIn組成0,07のときに約0.05度である。X線回折で検証可能な最小値がこの程度の値である。傾斜角の上限は、例えばm方向にオフ角43度及びIn組成0.35のときに、約1.6度となる。
図16(b)は、AlGaNのおける傾斜角の計算値の例示を示す。矢印Angleは、オフ角範囲を示す。符号「□」はm軸方向傾斜及びAl組成0.2における傾斜角を示し、符号「◆」はa軸方向傾斜及びAl組成0.2における傾斜角を示し、符号「△」はa軸方向傾斜及びAl組成0.02における傾斜角を示す。400nm以上550nm以下の波長範囲内に含まれるピーク波長の光の発生を得るためのエピタキシャル積層において、Al組成は例えば約0.02以上であり0.2以下の範囲であることが好ましい。AlGaNについて、InGaNと同要領で傾斜角を求めると、傾斜角の下限は、例えばa方向にオフ角10度及びAl組成0,02のときに約0.005度である。X線回折で検証限界を下回るような値である。傾斜角の上限は、例えばm方向にオフ角43度及びAl組成0.2のときに、約0.3度となる。
傾斜角の計算は、例えば以下の手順で行われる。(1)InGaNエピタキシャル膜のIn組成またはAlGaNエピタキシャル膜のAl組成を一つ決める。(2)歪んだInGaN又はAlGaNのc軸の格子定数を求める。(3)上記のエピタキシャル膜と六方晶系結晶ウエハでそれぞれの(hikl)面の角度を(0001)面を基準にして求める。(4)エピタキシャル膜の(hikl)面の角度と六方晶系結晶ウエハの(hikl)面の角度との差を求める。これによって傾斜角の値が得られる。なお、複雑な計算を避けるために、傾斜角△θ(エピタキシャル膜(0001)−ウエハ(0001))は、c面上に成長されたエピタキシャル膜のある指数の結晶面における傾斜角[エピタキシャル膜(hkil)−ウエハ(hkil)]と同じであるとして近似的な計算を行っている。こ
の手順に従って、InAlGaNについても同様の計算を行うことができる。
歪み緩和が生じた発光素子では、発光効率が2割以上も低下し、低電流時のリーク電流が増加し、デバイス寿命が短くなるなど、デバイス特性悪化が認められる。故に、半極性面上のデバイスにおいて歪み緩和を生じさせないことは重要である。
特に、通電中のデバイス寿命について、六方晶のGaNは転位の滑り面が(0001)である。そのため、c面上デバイスでは、滑り面と成長面が平行であるので、デバイス動作中の新たな転位の増殖は起こりにくい。しかし、半極性面上デバイスでは、成長面と(0001)が交差するので、デバイス動作中の新たな転位の増殖がc面上のデバイスよりも起こりやすいことが想定される。故に、エピ成長層の歪み緩和を抑制することが必要である。
一般的に窒化物発光素子は、c面基板を用いたデバイスでの研究・開発が先行している。その場合と比較して、半極性面を用いたデバイスの作製では、エピタキシャル膜の成長条件を大きく変更する必要がある。具体的には、InGaNではIn組成が低下し、AlGaNではAl組成が低下する。そのため、c面上での成長条件と比較して、InGaNの成長では、c面における結晶成長の温度に比べて50〜150度(摂氏の温度単位系)程度の温度差で低い値が最適であり、AlGaNの成長では、c面における結晶成長の温度に比べて10〜50度(摂氏の温度単位系)程度の温度差で高い値が最適である。この点で、発光素子構造を成長する温度シーケンスは、c面の場合と比較して、半極性面の場合と大きく異なる。
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。