好ましい態様の詳細な説明
以下の好ましい態様の説明は、単に例示の性質を有しており、本発明、その適用又は用途を限定することは意図されていない。
一側面において、本発明は、向上した電圧サイクル耐性を示す燃料電池電極触媒層に関する。電極触媒層は、担持構造体上に堆積された約3〜約15nmの平均粒径を有するアニールされた白金粒子を含む。白金粒子は、約800〜約1400℃の温度で、アニール後の表面積がアニール前の表面積の約80%未満になるような時間、熱処理されるかあるいはアニールされる。多様な態様において、電極触媒層は、約0.6〜約1.0Vの範囲にて約15000回の電圧サイクル後に、元の又はアニール後の電気化学的活性表面積の50%より大きい電気化学的活性表面積を保持する。本発明を詳細に説明する前に、例示的な燃料電池の基本的な要素と、電極触媒層及びその周辺の成分とを理解することが有用である。
図1を参照する。膜電極アセンブリ(MEA)4を有する例示的な単一セル双極(bipolar)プロトン交換膜(PEM)燃料電池スタック2が描かれている。MEA4は典型的に、アノード及びカソード電極、アノード及びカソード拡散媒体(diffusion media)、並びにPEMからなる。これら5つの層からなるMEAを製造するために主に2つの異なる方法を用いることができる:(i)膜の上に電極を直接適用し、いわゆる触媒被覆膜(catalyst coated membrane, CCM)とし、次いで2つの拡散媒体ではさむ、又は(ii)前処理した拡散媒体の上に電極を直接適用し、いわゆる触媒被覆基板(catalyst-coated substrate, CCS)とし、次いで膜の各々の面の上にそれを積層する。MEA4は、導電性液体冷却双極板(bipolar plate)14、16によって、スタック中の他の燃料電池(図示しない)から分離される。MEA4と双極板14、16とは、ステンレス鋼締め付け板10及び12の間にともに積み重ねられる。導電性双極板14、16の作動面の少なくとも1は、燃料や酸化剤ガス(例えばH2及びO2)をMEA4へと分配するための複数の溝又はチャネル18、20を含む。非伝導性ガスケット26、28は、密封と燃料電池スタックの複数の成分間の電気的絶縁を提供する。ガス透過性炭素/グラファイト拡散層34、36は、MEA4の電極面30、32に対してプレスされる。導電性双極板14及び16は、炭素/グラファイトペーパー拡散層34及び36に対してプレスされる。酸素は貯蔵タンク46から燃料電池スタックのカソード側へと適切な供給配管42を通じて供給され、水素は貯蔵タンク48から燃料電池スタックのアノード側へと適切な供給配管44を通じて供給される。あるいは、空気が大気からカソード側へと供給されてもよく、水素がメタノールやガソリン改質器等からアノード側へと供給されてもよい。MEA4のH2及びO2/空気の両側について排気配管(図示せず)も提供される。追加の配管50、52が双極板/伝導性端板14、16へと液体冷却剤を供給するために提供される。端板(end plate)14、16からの冷却剤を排出するための適切な配管も提供されるが、図に示していない。
好ましいPEM膜は、プロトン伝導性ポリマーで構成されており、これは当該技術分野でよく知られている。このポリマーは本質的にイオン交換樹脂であり、そのポリマー構造中にイオン性基を含み、ポリマーを通じてカチオンが移動するのを可能とする。PEMとして用いるのに適する1つの商業的なプロトン伝導性膜は、E. I. DuPont de Nemours & Co.から商標名NAFIONRで売られている。他のプロトン伝導性膜も同様に、当業者により選択されて商業的に入手可能である。
本発明の一側面によれば、電極触媒層は複数の電極の向かい合う面に隣接して配置され、典型的にはごく微細に分割された触媒粒子を有する担持層を含み、この触媒粒子は好ましくは担持層上に均一に分散又は堆積されている。好ましい触媒材料は、本発明の白金及び白金合金のように、アノード反応及びカソード反応の両者において触媒として機能する。好ましくは、白金触媒粒子は、アニールされた白金粒子がアニール前の表面積の約20%未満、好ましくは約70%未満の表面積を有するような時間、約800℃〜約1400℃、より好ましくは約900〜約1200℃へと熱処理されるかアニールされる。
多様な担持構造体を当該分野で知られるように用いることができる。本発明の多様な態様において、担持構造体は、伝導性酸化物;伝導性ポリマー;活性炭、グラファイト、カーボンナノチューブ、微細分割炭素粒子、及びこれらの組み合わせを含む多様な形態の炭素を含む。触媒は、好ましくは、触媒粒子及び炭素粒子と混合されたプロトン伝導性材料とともに炭素粒子の表面上に担持される。アノード触媒粒子は好ましくは水素ガス(H2)の解離を促進し、プロトンと遊離電子とを形成させる。プロトンは反応のためにPEMを通じてカソード側へと移動する。カソード触媒粒子はプロトンと酸素ガスとの反応を促進させ、副生成物として水を生成する。
本発明の多様な好ましい態様において、電極触媒担持構造体は、有機材料、無機材料、又はその両方を含むことができる。好ましくは、担持構造体は、約5m2/gより大きい表面積を有する。一定の態様において、電極触媒担持構造体は、好ましくは約50〜約2000m2/gの表面積を有する炭素担体材料を含む。担体材料として有用な炭素材料の非限定的な例には、グラファイト化炭素(50〜300m2/gの表面積を有する)、バルカンカーボン(vulcan carbon)(約240m2/gの表面積を有する)、ケッチェンブラックカーボン(Ketjen black carbon)(約800m2/gの表面積を有する)、及びブラックパールカーボン(Black Pearls carbon)(約1500〜2000m2/gの表面積を有する)が含まれる。今のところ、約2200〜2700℃の温度へ加熱されるグラファイト化炭素又は炭素が好ましく、これらはより丈夫な炭素担体を生じる。グラファイト化炭素はより小さい表面積を有し、より規則的な構造を有し、またより腐食しにくい。炭素粒子は電気的経路を提供し、触媒活性のための白金触媒粒子を担持するから、電極触媒層は一般的に約30〜約90重量%、好ましくは約50〜約75重量%の炭素を含む。触媒の存在量の観点から、電極触媒層は好ましくは約10〜約70重量%の白金を含み、好ましくは約25〜約50重量%の白金を含む。
典型的には、白金触媒粒子又は白金を担持した炭素粒子は、イオン伝導性ポリマー又はイオノマーの全体を通じて分散されて電流密度を改善し、典型的にはプロトン伝導性ポリマー及び/又はフルオロポリマーを含む。多様な態様において、イオノマー:炭素の重量比は、炭素に担持された白金触媒について約0.8:1〜約1.2:1である。プロトン伝導性材料を用いるとき、プロトン伝導性材料は典型的にはPEM(例えばNAFIONR)に用いるのと同じプロトン伝導性ポリマーを含むだろう。フルオロポリマーは、もし用いられるならば、典型的にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であるが、FEP(フッ素化エチレンプロピレンコポリマー)、PFA(パーフルオロアルコキシ樹脂)、及びPVDF(フッ化ポリビニリデン)のような他のものも用いることができる。これらのポリマーは触媒の保持について丈夫な構造を生成し、PEMに良好に接着し、セル内部の水の制御を助け、そして電極のイオン交換能を高める。プロトン伝導性材料を白金触媒炭素粒子と密に混合することにより、反応が起る触媒部位へのプロトンの連続的な経路を提供することができる。
多様な態様において、白金粒子は、二元白金合金、三元白金合金、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる白金合金を含む。二元白金合金の非限定的な例には、PtCo、PtCr、PtV、PtTi、PtNi、PtIr、及びPtRhが含まれる。同様に、三元白金合金の非限定的な例には、PtCoCr、PtRhFe、PtCoIr、及びPtIrCrが含まれる。
白金表面積は白金粒径にほぼ反比例することは知られている。白金粒子のサイズ効果はリン酸型燃料電池(PAFC)に関連してよく理解されており、白金粒子の直径が12nmから2.5nmへと減少するにつれリン酸中の白金の比活性(specific activity)が3分の1に減少し、一方、質量活性(mass activity)は3nmで最大を示す結果により説明され、これはPAFC文献の他の報告とも一致する。この効果は、一般的に、異なる結晶面へのアニオンの特異的吸着の妨害効果に起因し、その分布は白金粒径とともに変化する。本発明の多様な好ましい態様において、アニールされた白金粒子の大きさは均一であり、それらの平均粒径は約3〜約15nm、より好ましくは約4〜約8nmである。
電極を固体ポリマー電解質とともに組み立てる際、固体電解質との不十分な接触や非導電性固体電解質のフィルムにより触媒粒子が互いに電気的に絶縁されることにより、白金触媒の固有の表面積(ときに電気化学的面積APt,catともよばれる)のすべてが電気化学的反応に利用できるというわけではない。したがって、MEAにおいてサイクリックボルタンメトリーによりいわゆるドリブンセルモード(driven-cell mode)を用いて測定される白金の表面積APt,MEAは、触媒の固有表面積APt,catよりも実質的に小さくなる可能性があり、APt,cat/APt,MEAの比はしばしばMEA触媒利用性(MEA catalyst utilization)uPtとよばれる。uPtについて報告される値は、MEAの調製に依存して、60〜70から75〜98%の範囲である。固有触媒表面積APt,catは、m2/gPtの単位で報告される。
本発明の予測できない利益を示すために、PEM燃料電池に用いられる多様な白金触媒について比活性と質量活性を測定した。以下の表1に示される値は、0.9V、80℃、及び100kPaabsのO2分圧で計算した。試験例1は炭素上の高度に分散された白金である(〜50% Pt/C);試験例2は炭素上の高温(1000℃)でアニールされた白金である(〜50% Pt/Cアニール);試験例3は炭素上の高い重量%の白金合金である(〜50% PtCo/C);試験例4は炭素上の低重量%の白金合金である(〜30% PtCo/C);そして試験例5は炭素触媒上の標準的な低分散白金である(〜40% Pt/C低分散)。
白金合金は典型的には高温アニール工程(すなわち800〜1000℃)経ており、一方、標準的な白金触媒は一般にもっと低い温度範囲(すなわち25〜200℃)内で合成される。標準的な白金粒子が高温へアニールされるにつれ、白金粒径は増加し、白金表面積は減少する。これは表1に示されており、標準的な白金触媒の表面積は、試験例1の80m2/gPtから、高温アニール工程後に、試験例2の50m2/gPtへと減少している。しかし、予期せぬことに、減少した表面積は、比活性の増大を伴い、それによりアニールされた白金粒子の質量活性は標準的な白金触媒に比べて予測不可能なほど大きくなっている。アニール工程はほんの少し質量活性を向上させる一方で、図2、図3、及び以下に示すように電圧サイクル耐性を劇的に改善する。標準的な白金触媒(例えば試験例5)におけるより低い白金分散に起因して白金粒径が単に増加することは、質量活性の大きな減少にはつながらず、電圧サイクル耐性を増加させるとは考えられないことに注意すべきである。
多様な態様において、電極触媒層は約180μA/cm2 Ptより大きい比活性を有し、より好ましくは比活性は200μA/cm2 Ptより大きく、さらにより好ましくは300μA/cm2 Ptより大きい。同様に、電極触媒層は好ましくは約0.1A/mgPtより大きい質量活性を有し、より好ましくは質量活性は0.2A/mgPtより大きく、さらにより好ましくは0.3A/mgPtより大きい。
高いセル性能に加えて、燃料電池は、好ましくは自動車条件下で約5000〜約10000時間の寿命を有する高い耐久性の触媒を一般に必要とする。自動車条件下で、燃料電池は、最も典型的な住居用燃料電池システムや静止燃料電池システムのような固定された負荷が維持されるのとは異なり、何回もの電位サイクル又は負荷サイクルを経る。図2は、様々な電極触媒の標準化された電気化学的表面積に対する電圧サイクル数のチャートである。データは50cm2の面積を有するMEAを用いてH2/N2操作下で得た。電圧は、80℃、20mV/sで約0.6〜約1.0Vの電位サイクルであった。約0.6Vの電圧は、高スロットル、例えば100hpでの自動車走行の例である。約1.0Vの電圧は、開回路電圧(open circuit voltage, OCV)又は自動車エンジンがアイドリング状態のときの例である。
図に見られるように、多様な試験例は電圧サイクル数にしたがって標準化された電気化学的活性表面積が減少することを示している。標準的な白金触媒に与える電圧サイクルの影響は、約0.6〜約1.0Vの間での約10000回の電圧サイクル後に元の電気化学的活性表面積の実際60〜70%が減少することにより示される。例えば、試験例1の電気化学的活性表面積は、10000電圧サイクル後に約67%減少した。試験例2〜4についても表1に示される通り電気化学的活性表面積が同様に減少した。本発明に従う電極触媒を用いる様々な態様において、電極触媒の電気化学的活性表面積は、15000回そして20000回の電圧サイクル後であっても、元のあるいはアニール後の電気化学的表面積が50%を超えて残る。
図3は、様々な電極触媒の電気化学的表面積の絶対値に対する0.6〜1.0Vの範囲の電圧サイクル数のチャートである。図に見られるように、本発明に従う電極触媒層は初期の電気化学的活性表面積が最大ではないが、15000回及び20000回の電圧サイクル後に元の電気化学的活性表面積が50%を超えて維持される。
本発明は燃料電池の電圧サイクル耐性を向上させる方法も提供する。この方法は、炭素上に白金触媒粒子をアニールし、約3〜約15nmの平均粒径を有する白金/炭素電極触媒粒子を形成することを含む。アニールされた白金/炭素電極触媒粒子を含む電極触媒担持構造体が、PEM燃料電池に付与される。担持構造体は、当該分野で通常知られる技術を用いて形成される。1つの非限定的な例には、触媒インクを形成すること、あるいは白金/炭素電極触媒粒子を有機溶媒、脱イオン水、及びイオノマー溶液とともに含有する水性溶液を形成することが含まれる。適する有機溶媒には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、及びアセトンが含まれる。インクは典型的には約12〜20時間ボールミルされ、PEM燃料電池用に、所望の通りMEA又は拡散媒体上に被覆される。
多様な態様において、白金粒子は、アニール前に、約1〜約4.5nmの平均一次粒径を有する。熱処理後、アニールされた平均粒径は好ましくは約4〜約8nmである。好ましくは、白金触媒粒子は、白金粒子のアニール後の表面積がアニール前の表面積の約80%未満となるように白金/炭素電極触媒粒子の大きさを増加させるのに充分な時間、約800〜約1400℃、より好ましくは約900〜約1200℃の温度でアニールされる。多様な態様において、白金粒子は、約0.5〜約10時間以上の間、好ましくは約1〜約3時間の間熱処理され、あるいはアニールされる。
アニールプロセス中、大気雰囲気を非酸化性ガスのような制御された雰囲気と置き換えることにより、白金を酸化から保護することが好ましい。非酸化性である気体雰囲気は、多様なもののうちの1つであることができる。例えばヘリウム、ネオン、又はアルゴンといった、化合物を形成しない不活性ガスあるいは非反応性ガスであることができる。また、白金と反応する傾向を有さないガスであってもよいだろう。別のタイプのガスは、白金を酸化から守るだけではなく白金表面上に既に存在し得る全ての酸化物を還元するであろう還元性ガスとして、当該分野で知られている。ガスを制御雰囲気用に選ぶ前に、ガスの性質とガスの白金粒子に与える影響とを決定すべきであることを理解すべきである。多様な態様において、白金触媒粒子は、不活性ガス、還元性ガス、水素、及びこれらの混合物からなる群から選択される熱処理ガスの存在下でアニールされる。好ましい組み合わせには、(1)水素ガスのみ、(2)不活性ガスのみ、(3)不活性ガスと還元性ガスの組み合わせ、又は(4)不活性ガスと水素と還元性ガス(例えば一酸化炭素)の組み合わせが含まれる。
多様な変更態様において、アニールプロセス中に周囲大気を除去することが望ましいだろう。これは、当該分野で知られるように真空技術を用いることで達成することができる。普通の真空であっても、99.9%の不活性ガスである人工的な雰囲気に比べて、酸化物の形成をより少なくすることができる。本明細書では、真空は、大気圧に比べて減圧であることをいう。
本発明の説明は単に例示の性質のみであり、かくして、本発明の精神から逸脱しない変更は本発明の範囲内であることが意図されている。そのような変更は本発明の精神及び範囲から逸脱したものとみなされるべきでない。