JP4179847B2 - 固体高分子型燃料電池用電極構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子型燃料電池用電極構造体に係り、特に、燃料不足時の性能劣化を抑制させた固体高分子型燃料電池用電極構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
固体高分子型燃料電池は、平板状の膜電極複合体(MEA:Membrane Ele-ctrode Assembly)の両側にセパレータが積層されて構成されている。膜電極複合体は、一般に、カソード側の電極触媒層とアノード側の電極触媒層との間に高分子電解質膜が挟まれ、各電極触媒層の外側にガス拡散層がそれぞれ積層された積層体である。このような燃料電池によると、例えば、アノード側に配されたセパレータのガス通路に水素ガスを流し、カソード側に配されたセパレータのガス通路に酸化性ガスを流すと、電気化学反応が起こって電流が発生する。
【0003】
燃料電池の作動中においては、ガス拡散層は電気化学反応によって生成した電子を電極触媒層とセパレータとの間で伝達させると同時に燃料ガスおよび酸化性ガスを拡散させる。また、アノード側の電極触媒層は燃料ガスに化学反応を起こさせプロトン(H+)と電子を発生させ、カソード側の電極触媒層は酸素とプロトンと電子から水を生成し、電解質膜はプロトンをイオン伝導させる。そして、正負の電極触媒層を通して電力が取り出される。
【0004】
自動車等の運転ではしばしば急激な出力変動が生じるため、動力源として上記のような固体高分子型燃料電池を用いる場合には、ガス供給の追従が遅れることがあり、この時、燃料電池用電極構造体において一時的な燃料不足の状況が生じる。この燃料不足状況では、アノードにおいて、プロトンの供給源として下記式1のように水の電気分解が進行し、電流の維持が図られる。
2H2O→4H++4e−+O2 (1)
【0005】
また、上記のような水の電気分解が進行している状況において、さらに燃料不足が継続すると、下記式2のようなカーボン腐食反応が進行する。
2H2O+C→4H++4e−+CO2 (2)
この式2の反応においては、触媒担体であるカーボンブラックが腐食され、その結果、燃料電池用電極構造体の発電性能が劣化するおそれがある。
【0006】
このような問題に対する解決策としては、触媒の担持率を増加させることにより、または、耐食性の高いカーボンを使用することにより、カーボン腐食の耐性を向上させる技術(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。また、上記式1の反応に着目し、アノード触媒層に水の電気分解促進触媒を添加する技術(例えば、特許文献2および3参照。)、アノード触媒層または拡散層に水量上昇材料を添加する技術(例えば、特許文献3および4参照。)等が提唱されている。
【0007】
【特許文献1】
国際公開第01/15254号パンフレット
【特許文献2】
国際公開第01/15247号パンフレット
【特許文献3】
国際公開第01/15255号パンフレット
【特許文献4】
国際公開第01/15249号パンフレット
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来技術では、一時的な燃料不足状況においては効果が見られるものの、実際の運転状況のような燃料不足が繰り返し生じるような条件および定格運転条件においては、アノード触媒層が水を保持するために、アノード触媒層中の細孔のガス拡散流路に水が溜まりガスの拡散を阻害する現象、いわゆる、フラッティングが生じるといった問題を有していた。このフラッティングが生じると、燃料ガスの供給が阻害され、アノード(燃料ガス極)中の燃料不足領域を拡大して、カーボンの腐食反応を進行させ、その結果、電極構造体の性能低下が生じてしまう。
【0009】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、燃料不足状況においても性能劣化を抑制し得る固体高分子型燃料電池用電極構造体を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極構造体は、高分子電解質膜、触媒層と拡散層を有するアノードおよびカソードからなる固体高分子型燃料電池用電極構造体において、前記アノード拡散層は、(1)カーボン基材上に水保持性を高める保水性物質を電子導電物質と保水性物質との総量に対して5〜20重量%含有する水分保持層を設け、(2)アノード拡散層の60℃の水分吸着率が40〜85%であり、(3)差圧測定法により測定された差圧は60mmaq以上120mmaq以下であり、サイクリックボルタンメトリ法を用いて測定した前記高分子電解質膜からのプロトン伝導経路中に存在する前記カソード触媒層の触媒物質電荷量の割合が、カソード触媒層中に存在する全触媒物質の電荷量に対して15%以上であることを特徴としている。また、本発明の他の固体高分子型燃料電池用電極構造体は、高分子電解質膜、触媒層と拡散層を有するアノードおよびカソードからなる固体高分子型燃料電池用電極構造体において、前記アノード拡散層は、(1)60℃の飽和水蒸気圧下における水分吸着量が150cc/g以上であるカーボン粒子を含有し、(2)アノード拡散層の60℃の水分吸着率が40〜85%であり、(3)差圧測定法により測定された差圧は60mmaq以上120mmaq以下であり、サイクリックボルタンメトリ法を用いて測定した前記高分子電解質膜からのプロトン伝導経路中に存在する前記カソード触媒層の触媒物質電荷量の割合が、カソード触媒層中に存在する全触媒物質の電荷量に対して15%以上であることを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、アノード触媒層に水保持性を持たせるのではなく、カーボン基材上に水保持性を高める保水性物質を電子導電物質と保水性物質との総量に対して5〜20重量%含有する水分保持層を設けることによって、または、60℃の飽和水蒸気圧下における水分吸着量が150cc/g以上であるカーボン粒子を含有することによって、アノード拡散層の60℃の水分吸着率を40〜85%とし、アノード拡散層に高い水保持性を持たせている。そして、燃料不足の際には、アノード拡散層からアノード触媒層へと水が供給され、アノード触媒層において水の電気分解が行われ、高分子電解質膜ヘプロトンが供給されることとなる。
【0012】
このように、本発明の固体高分子型燃料電池用電極構造体は、燃料不足状況においてのみ水がアノード触媒層に供給されるため、アノード触媒層ではフラッティングが生じることなく、一方、燃料不足の際に、アノード触媒層において水の電気分解が促進させるため、水の電気分解の次ステップであるカーボンの腐食反応を抑制することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極構造体においては、アノード拡散層以外の構成要素は特に限定されるものではないので、以下、アノード拡散層について詳細に説明する。
【0014】
本発明の固体高分子型燃料電池用電極構造体におけるアノード拡散層は、(1)カーボン基材と、(2)その上に構成されるカーボン粒子とフッ素樹脂とからなる層と、(3)さらにその上に構成されるカーボン粒子、高分子電解質、造孔材および保水性物質からなる層により構成されてもよく、または、(1)カーボン基材と、(2)その上に構成されるカーボン粒子、フッ素樹脂および保水性物質からなる層により構成されてもよい。
【0015】
また、本発明におけるアノード拡散層は、カーボン基材上に水保持性を高める保水性物質を電子導電物質と保水性物質との総量に対して5〜20重量%含有する水分保持層を設けるか、または、60℃の飽和水蒸気圧下における水分吸着量が150cc/g以上であるカーボン粒子を含有することによって、60℃の水分吸着率を40〜85%とすることが必要がある。図1は、電子導電物質と保水性物質との総量に対する保水性物質の含有率と電圧低下量との相関を示した線図であり、図2は、カーボン粒子の水分吸着量と電圧低下量との相関を示した線図である。これらの線図から明らかなように、保水性物質の含有率が5〜20重量%の範囲内、または、カーボン粒子の水分吸着量が150cc/g以上であれば、電圧低下量が30mV以下となり、良好な電圧性能を発揮することが示されている。また、図3は、アノード拡散層の60℃の水分吸着率と電圧低下との相関を示した線図である。この線図から明らかなように、アノード拡散層の水分吸着率が40〜85%の範囲内であれば、電圧低下量が30mV以下となり、良好な電圧性能を発揮することが示されている。これに対し、保水性物質の含有量、または、カーボン粒子の水分吸着量が上記値より少ないと、アノード拡散層の水分吸着率が小さすぎて、上記の効果が得られない。一方、保水性物質の含有量、または、カーボン粒子の水分吸着量が上記値より多いと、アノード拡散層の水分吸着率が大きすぎて、フラッティングによるガス供給性が低下し、燃料不足状況における燃料不足領域が拡大してしまい逆効果になってしまう。本発明における保水性物質としては、ゼオライト、γ−アルミナ、シリカ等の酸化物が挙げられる。
【0016】
また、本発明においては、差圧測定法により測定された差圧が60〜120mmaqの範囲でなければならない。図4は、アノード拡散層の差圧と電圧低下との相関を示した図である。この線図から明らかなように、アノード拡散層の差圧が60〜120mmaqの範囲内であれば、電圧低下量が30mV以下となり、良好な電圧性能を発揮することが示されている。これに対して、この差圧が120mmaqより大きいと、ガス供給性が低下し、燃料不足状況における燃料不足領域が拡大してしまい、一方、この差圧が60mmaqより小さいと、水排出性が高いために水の電気分解のみではプロトンの供給ができず、アノードにおけるカーボン材料の腐食反応が進行してしまう。ここで、本発明における差圧測定法とは、ガス流路の途中にアノード拡散層を挟み込んで保持した状態において、反応ガスを所定流量流し、アノード拡散層前後における圧力を測定し、その圧力差を求める方法である。
【0017】
さらに、高分子電解質膜とアノード触媒層の密着性が良好でないと、水の電気分解で生成したプロトンの供給を高分子電解質膜に適切に行えないため、本発明においては、この適切な密着性の度合いをサイクリックボルタンメトリ法による測定値で表した。すなわち、本発明における密着率は下記式により定義した。
密着率(%)=(片側加湿のサイクリックボルタンメトリ法による測定値)/(両側加湿のサイクリックボルタンメトリ法による測定値)×100
ここで、両側加湿のサイクリックボルタンメトリ法とは、アノードおよびカソードの両極に加湿ガスを供給し、電極構造体全体に水分を行き渡らせて、電極触媒層中の全ての触媒物質の電気化学表面積に基づく電荷量を測定する方法である。一方、片側加湿のサイクリックボルタンメトリ法とは、アノードからのみ加湿ガスを供給し、アノード側から供給された水分をカソード側の固体高分子膜の導電経路だけに分散させて、高分子電解質膜からプロトン伝導経路中に存在するカソード触媒層の触媒物質の電気化学表面積に基づく電荷量を測定する方法である。この高分子電解質膜からプロトン伝導経路中に存在するカソード触媒層の触媒物質の量が多いほど、密着率が高く、触媒物質が有効に使用されていることを示している。
【0018】
図5は、密着率と電圧低下との相関を示した線図である。この線図から明らかなように、密着率が15%以上であれば、電圧低下量が30mV以下となり、良好な電圧性能を発揮することが示されている。したがって、本発明においては、サイクリックボルタンメトリ法を用いて測定した高分子電解質膜からのプロトン伝導経路中に存在するカソード触媒層の触媒物質電荷量の割合が、カソード触媒層中に存在する全触媒物質の電荷量に対して15%以上であることが必須である。
【0019】
また、本発明の電極構造体においては、1A/cm2時の抵抗過電圧損失が10mV未満とすることが好ましい。図6は、貫通抵抗と1A/cm2時の電圧損失との相関を示した線図である。この線図から明らかなように、貫通抵抗が5mΩ以下であれば、1A/cm2時の電圧損失が10mV未満となり、良好な電圧性能を発揮することが示されている。
【0020】
【実施例】
次に、本発明の固体高分子型燃料電池用電極構造体の実施例および比較例を用いて、本発明の効果を具体的に説明する。
A.第1実施形態
まず、本発明の固体高分子型燃料電池用電極構造体において、アノード拡散層に、カーボン基材上に水保持性を高める保水性物質を電子導電物質と保水性物質との総量に対して5〜20重量%含有する水分保持層を設けた形態について説明する。
【0021】
1.電極構造体の作製
<実施例1>
イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)35gと、カーボンブラックと白金の重量比を50:50とした白金担持カーボン粒子(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業社製)10gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)2.5gとを混合し、カソード触媒ペーストとした。このカソード触媒ペーストをFEPシート上にPt量を0.3mg/cm2となるように塗布乾燥し、カソード電極シートとした。一方、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)36.8gと、カーボンブラックと触媒の重量比を46:54としたPt−Ru担持カーボン粒子(商品名:TEC61E54、Pt:Ru=1:1、田中貴金属工業社製)10gとを混合し、アノード触媒ペーストとした。このアノード触媒ペーストをFEPシート上に触媒量を0.15mg/cm2となるように塗布乾燥し、アノード電極シートとした。
【0022】
また、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)4.5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)2.5gと、ZSM5(東ソー社製)0.5gとを混合し、下地層ペーストA1とした。また、エチレングリコールに、テフロン(登録商標)粉末(商品名:L170J、旭硝子社製)12gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)18gとを混合し、下地層ペーストB1とした。次いで、あらかじめ撥水処理したカーボンペーパー(商品名:TGP060、東レ社製)上に、下地層ペーストB1を2.3mg/cm2塗布した後、下地層ペーストA1を0.3mg/cm2塗布・乾燥し、アノード拡散層とした。一方、上記とは別に、アノードと同じカーボンペーパー上に、下地層ペーストB1のみを2.3mg/cm2塗布・乾燥し、カソード拡散層とした。
【0023】
次に、前記のアノードおよびカソードの電極シートを、デカール法(一体化圧力40kg/cm2)により電解膜に転写し、膜−電極複合体CCMを作製し、このCCMを挟み込むように、上記のアノードおよびカソード拡散層をそれぞれ積層し、実施例1の電極構造体MEAを形成した。
【0024】
<実施例2>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA2を使用した以外は、実施例1と同様に、実施例2の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA2は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)4.0gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)2.5gと、ZSM5(東ソー社製)1gとを混合して作製した。
【0025】
<実施例3>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA3を使用した以外は、実施例1と同様に、実施例3の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA3は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)4.75gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)2.5gと、ZSM5(東ソー製)0.25gとを混合して作製した。
【0026】
<実施例4>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA4を使用した以外は、実施例1と同様に、実施例4の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA4は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)4.5gと、ZSM5(東ソー社製)0.5gとを混合して作製した。
【0027】
<実施例5>
実施例1におけるアノード拡散層に代えて、あらかじめ撥水処理したカーボンペーパー(商品名:TGP060、東レ社製)上に、下地層ペーストB2を2.3mg/cm2塗布・乾燥させたアノード拡散層を使用した以外は、実施例1と同様に、実施例5の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストB2は、エチレングリコールに、テフロン(登録商標)粉末(商品名:L170J、旭硝子社製)12gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)16.2gと、ZSM5(東ソー社製)1.8gとを混合して作製した。
【0028】
<比較例1>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA5を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例1の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA5は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)3.75gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)2.5gと、ZSM5(東ソー社製)1.25gとを混合して作製した。
【0029】
<比較例2>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA6を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例2の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA6は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)30gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)4.5gと、ZSM5(東ソー社製)0.5gとを混合して作製した。
【0030】
<比較例3>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA7を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例3の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA7は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)35gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)4.5gと、ZSM5(東ソー社製)0.5gとを混合して作製した。
【0031】
<比較例4>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA8を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例4の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA8は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)2.5gとを混合して作製した。
【0032】
<比較例5>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA9を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例5の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA9は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)4.5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)1.5gと、ZSM5(東ソー社製)0.5gとを混合して作製した。
【0033】
<比較例6>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA10を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例6の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA10は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、Cabot社製)4.5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)3.5gと、ZSM5(東ソー社製)0.5gとを混合して作製した。
【0034】
<比較例7>
実施例1において、膜−電極複合体CCMの作製におけるデカール法の一体化圧力を30kg/cm2とした以外は、実施例1と同様に、比較例7の電極構造体MEAを形成した。
【0035】
<比較例8>
実施例1において、膜−電極複合体CCMの作製におけるデカール法の一体化圧力を10kg/cm2とした以外は、実施例1と同様に、比較例8の電極構造体MEAを形成した。
【0036】
2.燃料不足試験
上記のようにして作製された各実施例および比較例の電極構造体を組み込んだ燃料電池に対して、セル温度:80℃、加湿量:アノード45RH%、カソード85RH%、0.5A/cm2における利用率:アノード100%、カソード60%の条件下で、印加する電流密度を図7に示すように0〜1A/cm2の間で経時変化させ、この変化を500回繰り返すことによって、燃料不足試験を行った。この燃料不足試験前後に測定した端子電圧から求めた電圧差を表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
3.評価
保水性物質含有率、アノード拡散層水分吸着率、差圧および密着率を規定の範囲内とした実施例1〜5の電極構造体は、貫通抵抗が5mΩ以下であり、かつ燃料不足試験においても電圧差が30mV以下と、性能低下が僅かであることが示された。これに対し、保水性物質含有率が大きすぎる比較例1、アノード拡散層水分吸着率が大きすぎる比較例2および3、保水性物質含有率、アノード拡散層水分吸着率および差圧が小さすぎる比較例4、差圧が小さすぎる比較例5、差圧が大きすぎる比較例6、および、密着率が小さすぎる比較例7および8の電極構造体は、貫通抵抗が5mΩ以下ではあるものの、燃料不足試験における電圧差が30mVを超えており、性能低下が激しいことが示された。
【0039】
B.第2実施形態
次に、本発明の固体高分子型燃料電池用電極構造体において、アノード拡散層に、60℃の飽和水蒸気圧下における水分吸着量が150cc/g以上であるカーボン粒子を含有させた形態について説明する。
1.電極構造体の作製
<実施例6>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA11を使用した以外は、実施例1と同様に、実施例6の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA11は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:ケッチェンブラック、Cabot社製)5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)2.5gとを混合して作製した。
【0040】
<実施例7>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA12を使用した以外は、実施例1と同様に、実施例7の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA12は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:ケッチェンブラック、Cabot社製)5gとを混合して作製した。
【0041】
<実施例8>
実施例1におけるアノード拡散層に代えて、あらかじめ撥水処理したカーボンペーパー(商品名:TGP060、東レ社製)上に、下地層ペーストA13を2.3mg/cm2塗布・乾燥させたアノード拡散層を使用した以外は、実施例1と同様に、実施例8の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA13は、テフロン(登録商標)ディスパージョン(商品名:L170J、旭硝子社製)12gに、カーボンブラック粉末(商品名:ケッチェンブラック、Cabot社製)18gを混合して作製した。
【0042】
<比較例9>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA14を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例9の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA14は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーポンブラック粉末(商品名:AB−5、Cabot社製)5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)2.5gとを混合して作製した。
【0043】
<比較例10>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA15を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例10の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA15は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:バルカンXC75、デンカ社製)5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)2.5gとを混合して作製した。
【0044】
<比較例11>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA16を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例11の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA16は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)18gと、カーボンブラック粉末(商品名:ケッチェンブラック、Cabot社製)5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)3.5gとを混合して作製した。
【0045】
<比較例12>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA17を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例12の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA17は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)25gと、カーボンブラック粉末(商品名:ケッチェンブラック、Cabot社製)5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)3.5gとを混合して作製した。
【0046】
<比較例13>
実施例1における下地層ペーストA1に代えて、下地層ペーストA18を使用した以外は、実施例1と同様に、比較例13の電極構造体MEAを形成した。なお、下地層ペーストA18は、イオン導伝性ポリマー(商品名:NafionSE20192、Dupont社製)30gと、カーボンブラック粉末(商品名:ケッチェンブラック、Cabot社製)5gと、結晶性炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)1gとを混合して作製した。
【0047】
<比較例14>
実施例6において、膜−電極複合体CCMの作製におけるデカール法の一体化圧力を30kg/cm2とした以外は、実施例6と同様に、比較例14の電極構造体MEAを形成した。
【0048】
<比較例15>
実施例6において、膜−電極複合体CCMの作製におけるデカール法の一体化圧力を10kg/cm2とした以外は、実施例6と同様に、比較例15の電極構造体MEAを形成した。
【0049】
2.燃料不足試験
上記のようにして作製された各実施例および比較例の電極構造体を組み込んだ燃料電池に対して、セル温度:80℃、加湿量:アノード45RH%、カソード85RH%、0.5A/cm2における利用率:アノード100%、カソード60%の条件下で、印加する電流密度を図7に示すように0〜1A/cm2の間で経時変化させ、この変化を500回繰り返すことによって、燃料不足試験を行った。この燃料不足試験前後に測定した端子電圧から求めた電圧差を表2に示した。
【0050】
【表2】
【0051】
3.評価
カーボン粒子水分吸着量、アノード拡散層水分吸着率、差圧および密着率を規定の範囲内とした実施例6〜8の電極構造体は、貫通抵抗が5mΩ以下であり、かつ燃料不足試験においても電圧差が30mV以下と、性能低下が僅かであることが示された。これに対し、カーボン粒子水分吸着量が多すぎる比較例9、カーボン粒子水分吸着量が少なすぎ、アノード拡散層水分吸着率が小さすぎ比較例10、アノード拡散層水分吸着率が多すぎる比較例11、差圧が小さすぎる比較例12、差圧が大きすぎる比較例13、および、密着率が小さすぎる比較例14および15の電極構造体は、貫通抵抗が5mΩ以下ではあるものの、燃料不足試験における電圧差が30mVを超えており、性能低下が激しいことが示された。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、アノード拡散層に、カーボン基材上に水保持性を高める保水性物質を電子導電物質と保水性物質との総量に対して5〜20重量%含有する水分保持層を設け、または、60℃の飽和水蒸気圧下における水分吸着量が150cc/g以上であるカーボン粒子を含有し、アノード拡散層の60℃の水分吸着率を40〜85%とし、差圧測定法により測定された差圧を60〜120mmaqとし、サイクリックボルタンメトリ法を用いて測定した前記高分子電解質膜からのプロトン伝導経路中に存在する前記カソード触媒層の触媒物質電荷量の割合を、カソード触媒層中に存在する全触媒物質の電荷量に対して15%以上とすることによって、アノード触媒層に水保持性を持たせるのではなく、アノード拡散層に高い水保持性を持たせ、そして、燃料不足の際には、アノード拡散層からアノード触媒層へと水が供給され、アノード触媒層において水の電気分解が行われ、高分子電解質膜ヘプロトンが供給されるため、燃料不足状況においても性能劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電子導電物質と保水性物質との総量に対する保水性物質の含有率と電圧低下量との相関を示した線図である。
【図2】 カーボン粒子の水分吸着量と電圧低下量との相関を示した線図である。
【図3】 アノード拡散層の60℃の水分吸着率と電圧低下との相関を示した線図である。
【図4】 アノード拡散層の差圧と電圧低下との相関を示した図である。
【図5】 密着率と電圧低下との相関を示した線図である。
【図6】 貫通抵抗と1A/cm2時の電圧損失との相関を示した線図である。
【図7】 燃料不足試験における電流密度の経時変化を示した線図である。
Claims (4)
- 高分子電解質膜、触媒層と拡散層を有するアノードおよびカソードからなる固体高分子型燃料電池用電極構造体において、
前記アノード拡散層は、少なくともカーボン基材と、前記カーボン基材上に設けられる水分保持層からなり、前記水分保持層は水保持性を高める保水性物質を電子導電物質と保水性物質との総量に対して5〜20重量%含有し、
アノード拡散層の60℃の水分吸着率が40〜85%であり、
差圧測定法により測定されたアノード拡散層の差圧は60mmaq以上120mmaq以下であり、
サイクリックボルタンメトリ法を用いて測定した前記高分子電解質膜からのプロトン伝導経路中に存在する前記カソード触媒層の触媒物質電荷量の割合が、カソード触媒層中に存在する全触媒物質の電荷量に対して15%以上であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極構造体。 - 前記アノード拡散層は、カーボン基材と、その上に構成されるカーボン粒子とフッ素樹脂とからなる層と、さらにその上に構成される前記水分保持層からなり、前記水分保持層は、カーボン粒子、高分子電解質、造孔材および保水性物質からなることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極構造体。
- 前記アノード拡散層は、カーボン基材と、その上に構成される前記水分保持層からなり、前記水分保持層は、カーボン粒子、フッ素樹脂および保水性物質からなることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極構造体。
- 高分子電解質膜、触媒層と拡散層を有するアノードおよびカソードからなる固体高分子型燃料電池用電極構造体において、
前記アノード拡散層は、少なくともカーボン基材と、前記カーボン基材に含有されたカーボン粒子からなり、前記カーボン粒子は、60℃の飽和水蒸気圧下における水分吸着量が150cc/g以上であり、
アノード拡散層の60℃の水分吸着率が40〜85%であり、
差圧測定法により測定されたアノード拡散層の差圧は60mmaq以上120mmaq以下であり、
サイクリックボルタンメトリ法を用いて測定した前記高分子電解質膜からのプロトン伝導経路中に存在する前記カソード触媒層の触媒物質電荷量の割合が、カソード触媒層中に存在する全触媒物質の電荷量に対して15%以上であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極構造体。
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