JP2009280850A - 溶接部耐食性に優れた構造用ステンレス鋼板および溶接構造物 - Google Patents

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【課題】石炭や鉄鉱石を運ぶ貨車(レールワゴン)のボディ用途材料として好適な、溶接部耐食性に優れた構造用ステンレス鋼板およびその鋼板を用いた溶接構造物を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:1.0%以下、Mn:1.0〜2.0%、Cr:10〜15%、Ni:0.3〜1.0%、Ti:0.1〜0.5%、N:0.01〜0.03%を含有し、さらに、Ti/(C+N)≧3、F値=Cr+2×Si+4×Ti−2×Ni−Mn−30×(C+N)≦11を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、溶接部耐食性に優れた構造用ステンレス鋼板および溶接構造物に係り、例えば石炭や鉄鉱石を運ぶ貨車(レールワゴン)のボディ用途材料として好適なステンレス鋼板およびその鋼板を用いた溶接構造物に関するものである。
石炭や鉄鉱石を運ぶ貨車(レールワゴン)のボディ用途材料には、ステンレス鋼が使用されている。このようなレールワゴンのボディ用途材料は、採掘された石炭が硫黄分を多く含んでいるため、耐硫酸腐食性能、とくに溶接部の耐粒界腐食性が求められる。
腐食性不純物を多く含む過酷な腐食環境下で使用される材料としては、例えば、特許文献1に記載されたマルテンサイト系ステンレス鋼が知られている。また、特許文献2にも耐食性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。
特開平11−310855号公報 特開2000−26941号公報
しかしながら、上述の特許文献1に記載のステンレス鋼は油井管などの油井用であり、特許文献2に記載のステンレス鋼は二輪車等のディスクブレーキ用であり、いずれも溶接部とくに溶接熱影響部の耐食性に関してはなんら考慮されていないため、溶接構造物用途に適用した場合には、十分な溶接部耐食性が得られないという問題点があった。
そこで、本発明は、例えば石炭や鉄鉱石を運ぶ貨車(レールワゴン)のボディ用途材料として好適な、溶接部耐食性に優れた構造用ステンレス鋼板およびその鋼板を用いた溶接構造物を提供することを目的とする。
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意研究したところ、所定成分のステンレス鋼板において、化学組成とくにMn、Tiの含有量と、各元素のバランスを適正範囲に調整すれば、粒界近傍のCr欠乏に起因した粒界腐食を抑制できること、および溶接熱影響部をマルテンサイトを主体とした組織にできることを知見した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:1.0%以下、Mn:1.0〜2.0%、Cr:10〜15%、Ni:0.3〜1.0%、Ti:0.1〜0.5%、N:0.01〜0.03%を含有し、さらに
Ti/(C+N)≧3
F値=Cr+2×Si+4×Ti−2×Ni−Mn−30×(C+N)≦11
を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、溶接部耐食性に優れた構造用ステンレス鋼板である。ただし、上記の不等式中のTi、C、N、Cr、Si、Ni、Mnは、それぞれの各元素の含有量(質量%)である。
また、本発明は、上記発明に記載の溶接部耐食性に優れた構造用ステンレス鋼板を溶接して構成したことを特徴とする溶接構造物である。
本発明によれば、例えば石炭や鉄鉱石を運ぶ貨車(レールワゴン)のボディ用途材料として好適な、溶接部耐食性に優れた構造用ステンレス鋼板およびその鋼板を用いた溶接構造物を得ることができる。
本発明の鋼組成を、上記範囲に限定した理由について以下に説明する。説明において%は質量%とする。
C:0.01〜0.10%
Cは、石炭や鉄鉱石を運ぶ貨車(レールワゴン)のボディ用途材料等の構造用ステンレス鋼板として必要な強度を得るためには、0.01%以上の含有を必要とすることから、C含有量は0.01%以上に限定する。
一方、C含有量が0.10%を超えると、Cr炭化物あるいはCr炭窒化物が多量に析出して、耐食性とくに溶接熱影響部の耐食性を劣化させる。さらに溶接熱影響部が著しく硬化し、靭性をも劣化せさる。そのため、C含有量は0.10%以下に限定する。より優れた溶接部耐食性、とくに溶接熱影響部の耐粒界腐食性を得るためには、C含有量は0.025%以下とすることが望ましい。
Si:1.0%以下
Siは、必ずしも添加する必要はないが、通常、製鋼過程で脱酸剤として用いられる元素であり、この目的で添加することができる。しかし、その含有量が1.0%を超えると靭性が著しく低下するので、その含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.5%以下である。
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、脱酸剤及び構造用ステンレス鋼板として必要な強度を確保するための強化元素として有用な元素であり、さらに高温におけるオーステナイト安定化元素でもある。本発明においては、溶接熱影響部のミクロ組織を所望の体積率を有するマルテンサイト組織に制御するうえで重要な元素であり、このような作用を発揮させるために、その含有量は1.0%以上に限定する。好ましくは1.5%以上である。
一方、2.0%を超えて含有させても、その効果は飽和するばかりか、過剰の添加は靭性を低下させ、また製造工程での脱スケール性を悪くし、表面性状に悪影響を及ぼし、さらに合金コストも増大するので、2.0%以下に限定する。
Cr:10〜15%
Crは、不動態皮膜を形成し、耐食性、とくに溶接熱影響部の耐食性を確保するうえで必須の元素であり、その効果を得るためには10%以上の含有が必要となる。
一方、Crを15%を超えて過剰に含有させると、コストを上昇させるばかりでなく、高温でオーステナイト相を確保することが困難となり、溶接熱影響部のミクロ組織を所望の体積率を有するマルテンサイト組織に制御することが困難となる。
その結果、溶接熱影響部での耐粒界腐食性の低下を招く恐れがある。したがって、Cr含有量は、11〜15%に限定する。好ましくは、10.5〜12.5%である。
Ni:0.3〜1.0%
Niは、強度と靭性を確保する目的で0.3%以上含有させる。一方、Niは高価な元素であり、経済性の観点から、その上限を1.0%とする。NiはMnと同様に、高温におけるオーステナイト安定化元素であり、溶接熱影響部のミクロ組織を所望の体積率を有するマルテンサイト組織に制御するうえで有用であるが、本発明では、その効果がMnの添加により十分に得られるので、上記の理由から、その含有量を0.3〜1.0%に限定する。
Ti:0.1〜0.5%
Tiは、本発明において優れた溶接部耐食性を得るために重要な元素であり、とくに溶接熱影響部の耐粒界腐食性を向上させるために必須の元素である。Tiは鋼中のC、NをTiの炭化物、窒化物あるいは炭窒化物(以後、炭化物、窒化物、炭窒化物の3種を総称して、炭窒化物等と記す)として析出固定し、Crの炭窒化物等の生成を抑制する効果を有する。
とくに、溶接時の溶接熱影響部にCrの炭窒化物等が析出することによる粒界近傍のCr欠乏を抑制し、耐粒界腐食性を向上させる効果を有している。このような効果を発揮させるためには、Ti含有量を0.1%以上とする必要がある。
一方、0.5%を超えて多量に含有させても、その効果は飽和するばかりか、鋼中に多量のTiの炭窒化物等が析出し、靭性の劣化を招く。このため、Ti含有量は0.1〜0.5%に限定する。好ましくは0.3%以下である。
N:0.01〜0.03%
Nは、Cと同様に、構造用ステンレス鋼板として必要な強度を得るための強化元素として有用な元素であることから、その含有量は0.01%以上とする。一方、N含有量が0.03%を超えると、Cr炭窒化物あるいはCr窒化物が多量に析出して、耐食性とくに溶接熱影響部の耐食性を劣化させる。このため、N含有量は0.03%以下に限定する。好ましくは0.02%以下である。
Ti/(C+N)≧3
前述のように、Tiは鋼中のC、NをTiの炭窒化物等として析出固定し、Crの炭窒化物等の生成を抑制する効果を有するが、このような効果を確実に発揮させるためには、Ti含有量をC、Nの含有量との関係で調整することが重要となる。このため、Ti/(C+N)≧3に限定する。好ましくは、Ti/(C+N)≧4である。
F値=Cr+2×Si+4×Ti−2×Ni−Mn−30×(C+N)≦11
F値は溶接時の溶接熱影響部のミクロ組織を推定するパラメータであり、より詳しくはマルテンサイト組織の体積率(フェライト組織の残存率)を推定するパラメータである。
溶接熱影響部のように高温にさらされた部位では、その一部がオーステナイト(さらに一部はδフェライト)に変態し、この相が冷却過程でマルテンサイトに変態する。この割合は、フェライト安定化元素(フェライト生成元素)とオーステナイト安定化元素(オーステナイト生成元素)の量的バランスの影響を受ける。
上記のF値の式中の係数が正の元素(Cr,Si,Ti)はフェライト安定化元素であり、係数が負の元素(Ni,Mn,C,N)はオーステナイト安定化元素である。
すなわち、F値が大きいほどフェライト組織が残存しやすく(フェライト組織の体積率が大きい、すなわちマルテンサイト組織の体積率が小さい)、小さいほどフェライト組織が残存しにくい(フェライト組織の体積率が小さい、すなわち、マルテンサイト組織の体積率が大きい)ことになる。
図1は、F値と溶接熱影響部のマルテンサイト組織体積率(%)の関係を示したものである。Cr:11〜12%、Ti:0.1〜0.5%含有し、鋼組成を変化させF値を9.2〜13.5の範囲で7種に調整した鋼板をT形試験体に組み立て、両側一層すみ肉溶接(ガスメタルアーク溶接、シールドガス:98%Ar−2%O、流量:20L/min)し、溶接熱影響部のミクロ組織を観察し、マルテンサイト体積率を求めた。
さらに、後述する実施例に記載の方法によって、硫酸−硫酸銅腐食試験を行い、溶接熱影響部近傍の腐食状況を観察した。
図1から、F値が11以下になると溶接熱影響部のマルテンサイト体積率が40%以上になることがわかる。
さらに、腐食状況を観察した結果、F値が11(マルテンサイト体積率:40%)のサンプルには、溶接熱影響部にごく軽度な腐食が観察されたが実用上は全く問題ないレベルのものであり、F値が10.5以下(マルテンサイト体積率:60%以上)のサンプルについては、腐食は全く観察されなかった。
一方、F値が11超(マルテンサイト体積率:40%未満)の3種のサンプルに関しては、ビード幅方向端部の溶接熱影響部に粗大粒が観察され、この熱影響粗粒部に、深い孔食または粒界腐食が観察された。
これらの結果より、本発明においては、溶接熱影響部の耐食性の向上を図るために、上記のF値を11以下に限定する。好ましくは、F値:10.5以下であり、さらに好ましくは10以下である。
本発明のステンレス鋼板は、上記した成分の他は、残部Feおよび不可避的不純物である。なお、脱酸剤として添加される0.2%以下のAl,熱間加工性改善のために添加される0.01%以下のCa等は、本発明の効果を損なうものではなく、これらの含有は許容される。
また、不可避的不純物としては、0.04%以下のP、0.03%以下のS,0.01%以下のO等を例示することができる。なお、本発明のステンレス鋼板が優れた溶接部耐食性、とくに溶接熱影響部の優れた耐粒界腐食性を有する理由は、以下のように考えられる。
溶接熱影響部にCrの炭窒化物が析出し、粒界近傍にCr欠乏が起こると耐食性が劣化するが、本発明のステンレス鋼板は、F値を適正値となるように調整したことにより、溶接熱影響部のミクロ組織がマルテンサイト主体の組織になり、粗大粒が生成し難くなる。
その結果、オーステナイト母相に固溶した大半のCは、冷却過程で変態したマルテンサイトにそのまま固溶し、Crの炭化物、炭窒化物の析出が防止される。
さらに一部の残存したフェライト組織中においても、C,N量との関係で適正化された量のTiが添加されているため、C、NはTiの炭窒化物等になって析出し、Crの炭窒化物の析出が抑制される。
そのため、粒界近傍でのCr欠乏が防止され、優れた耐粒界腐食性が得られるものと考えられる。
次に本発明のステンレス鋼板の製造方法について説明する。本発明のステンレス鋼板の製造方法は、とくに限定されるものではなく、常法に従い製造することができる。
公知の方法である転炉、電気炉等で溶製し、必要に応じて2次精錬を行い、公知の連続鋳造法により鋼素材とすることができる。これら鋼素材(鋼片)を所定の温度(1100〜1250℃程度)に加熱し、熱間圧延により所望の板厚(2〜6mm程度)に仕上げ、熱延板とする。
該熱延板を必要に応じて、焼鈍を施したのち、デスケーリング(ショットブラスト、酸洗等)し、本発明のステンレス鋼板とすることができる。
なお、本発明の構造用ステンレス鋼板を用いて、溶接により接合される溶接構造物を構築すれば、溶接部耐食性に優れた溶接構造物とすることができる。
表1に示す組成の鋼1〜3を溶製し、連続鋳造により200mm厚のスラブとして、1170℃に加熱後、熱間圧延により板厚5mmの熱延板とした。この時、熱延終了温度は920℃、巻取温度は670℃であった。
得られた熱延板を、690℃×10時間、冷却速度が20℃/hrの焼鈍をした後、ショットブラスト、酸洗を行い、スケールを除去した。これらの鋼板から平板サンプルを切出し、下板と立て板からなるT形試験体を組立て、両側一層すみ肉溶接(ガスメタルアーク溶接、シールドガス:98%Ar−2%O、流量:20L/min)を行ない、すみ肉溶接試験片を各3個作製した。
これらのすみ肉溶接試験片のすみ肉溶接部から腐食試験片を採取し、硫酸−硫酸銅腐食試験(ASTM A262 practice EおよびASTM A763 practice Zに準拠したModified Strauss test、試験溶液はCu/6%CuSO/0.5%HSOとし、この沸騰液中に端面を研磨した試験片を20時間浸せき)を行い、溶接熱影響部近傍の腐食状況を観察するとともに、腐食生成物を研削により除去した後に、溶接熱影響部のミクロ組織を観察しマルテンサイト体積率を求めた。
比較例の鋼番号2及び鋼番号3に関しては、3個の腐食試験片の全てに、ビード幅方向端部の溶接熱影響部に粗大粒が観察され、この熱影響粗粒部に、深い孔食または粒界腐食が観察された。マルテンサイト組織の体積率は、鋼番号2は35%、鋼番号3は80%であった。
鋼番号2はF値が本発明の範囲外であり、マルテンサイト体積率が低いため、また、鋼番号3はF値は本発明の範囲内ではあるが、Tiが添加されていないため、それぞれ溶接熱影響部の耐粒界腐食性が劣っていた。
これに対し、本発明例の鋼番号1は、3個の腐食試験片にいずれにも腐食は認められなかった。溶接熱影響部のミクロ組織は、マルテンサイトの体積率が90%であり、粗大粒は認められなかった。すなわち、本発明例の鋼番号1は溶接熱影響部の耐粒界腐食性が優れていることが確認された。
Figure 2009280850
F値と溶接熱影響部のマルテンサイト体積率の関係を示す図である。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.10%、Si:1.0%以下、Mn:1.0〜2.0%、Cr:10〜15%、Ni:0.3〜1.0%、Ti:0.1〜0.5%、N:0.01〜0.03%を含有し、さらに
    Ti/(C+N)≧3
    F値=Cr+2×Si+4×Ti−2×Ni−Mn−30×(C+N)≦11
    を満足し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、溶接部耐食性に優れた構造用ステンレス鋼板。
    ただし、Ti、C、N、Cr、Si、Ni、Mnは、それぞれの各元素の含有量(質量%)である。
  2. 請求項1に記載の溶接部耐食性に優れた構造用ステンレス鋼板を溶接して構成したことを特徴とする溶接構造物。
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