JP2009264492A - 真空断熱材 - Google Patents

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Abstract

【課題】環境負荷や人体への影響ができるだけ小さい材料で構成され、かつほぼ絶乾となる環境や減圧下においても酸素に対して高い吸着性能を有する吸着材を適用することによって、経時断熱性能に優れた真空断熱材を提供する。
【解決手段】真空断熱材1における吸着材4が、少なくとも、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩と、セルロースとの混合物を、非酸素雰囲気下で加熱処理することにより得られる物質からなる。セルロースおよび前記金属塩は、PRTR指定物質や毒劇物に該当しないため、比較的安全性が高いだけでなく、上記環境下においても、他の金属塩を使用した場合に比べて高い酸素吸着能力を発現する。この吸着材4は、絶乾状態や減圧下においても酸素吸着能力に優れるため、真空断熱材1の経時断熱性能が向上する。
【選択図】図1

Description

本発明は真空断熱材に関するものである。
近年、地球温暖化防止の観点から省エネルギーが強く望まれており、家庭用電化製品についても省エネルギー化は緊急の課題となっている。特に、冷蔵庫、冷凍庫、自動販売機等の保温保冷機器では、熱を効率的に利用するという観点から、優れた断熱性能を有する断熱材が求められている。
一般的な断熱材として、グラスウール等の繊維材やウレタンフォームなどの発泡体が用いられている。しかし、これらの断熱材の断熱性能を向上するためには断熱材の厚さを増す必要があり、断熱材を充填できる空間に制限があって省スペースや空間の有効利用が必要な場合には適用することができない。
そこで、高性能な断熱材として、真空断熱材が提案されている。これは、スペーサーの役割を持つ多孔性の芯材を、ガスバリア性を有する外被材中に挿入し内部を減圧して封止した断熱体である。真空断熱材は、外被材内部の気体成分を極力低減することにより、気体成分による伝熱を抑制した断熱材である。
しかしながら、真空断熱材には、経時的に外部から外被材を透過して侵入するガス成分により真空度が悪化し、これ伴い、断熱性能が悪化してしまうという問題があるために、長期に渡って断熱性能が要求される用途への適用は難しかった。
そこで、真空断熱材に吸着材を適用し、吸着材により侵入ガスを吸着することで真空度の悪化を抑制、経時断熱性能を向上させる技術がある。
ここで、真空断熱材に侵入するガス種としては、窒素、酸素、水分等があるが、我々の検討の結果、中でも酸素の比率が比較的高いことが判明したことから、優れた酸素吸着材を適用することにより、真空度の悪化を抑制し、真空断熱材の経時断熱性能を向上させることが可能であると考えた。
酸素吸着材は、鉄粉やアスコルビン酸類を主剤とするものがよく知られている。
鉄粉を主剤とするものに、鉄粉、酸化促進物質、フィラー、および水分2%含有時に相対湿度55%以上を示す吸着特性を有する珪藻土に水分を含有させた水分供与体よりなることを特徴とする酸素吸収剤がある(例えば、特許文献1参照)。
また、アスコルビン酸を主剤とするものに、アスコルビン酸またはその塩、水酸化アルカリまたは/および炭酸アルカリからなるアルカリ性物質、潮解性物質および第一鉄化合物または/および活性炭からなる添加物からなる鮮度保持剤がある(例えば、特許文献2参照)。
また、鉄粉やアスコルビン酸類以外の酸素吸着材として、親水性高分子由来水酸基含有炭化物や(例えば、特許文献3参照)、セルロース誘導炭素前駆体がある(例えば、非特許文献1参照)。
特開平5−237374号公報 特公昭58−29069号公報 特開2002−211911号公報 山梨大学 宮嶋尚哉著「無機有機複合化による酸素燃焼用革新的酸素分離剤の開発」独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構平成16年度産業技術研究助成事業研究成果報告書、平成17年5月
しかしながら、上記特許文献1や2に記載の構成では、酸素吸着に水分が必要であるため、微量の水分も嫌う用途での使用が不可能であり、適用用途が制限されてしまうという課題を有していた。特に真空断熱材のように雰囲気がほぼ絶乾状態となる用途への適用は難しかった。
また、上記特許文献3や上記非特許文献1に記載の構成では、酸素選択性を有し、酸素吸着能力も優れるものであったが、真空断熱材に適用するためには、常圧下だけでなく減圧下でもより高い吸着量が求められていた。
また、上記特許文献3で親水性高分子を処理するための塩基性物質として推奨されている水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは劇物に該当し、また、非特許文献1で検討されている硝酸塩は非常に酸化性が高く消防法危険物第1類物質に該当する。吸着材製造時や使用時、廃棄時の安全性、環境負荷を考慮すると、原料にはできるだけ環境や人体への影響が小さいものを使用することが望まれていた。
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、環境や人体への影響が小さい材料からなり、かつほぼ絶乾となる環境や減圧下においても酸素に対して高い吸着能力を有する吸着材を適用することによって、経時断熱性能に優れた真空断熱材を提供することを目的とするものである。
上記目的を達成するために、本発明の真空断熱材は、少なくとも、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩と、セルロースとの混合物を、非酸素雰囲気下にて加熱処理することにより得られる物質からなる吸着材を用いたのである。
まず、吸着材の原料であるセルロースは、我々の身近なところで幅広く使用されている物質であり、人体や環境に対する悪影響を懸念することなく使用可能である。
また、前記金属塩は、PRTR指定物質や毒劇物などに該当しない物質であるため、比較的安全性が高い。
前記構成の物質が酸素を吸着するメカニズムは明らかではないが、原料であるセルロースを、金属塩水溶液で含浸処理した後、固液分離し、乾燥して改質セルロースとし、それをさらに非酸素環境下で加熱処理することにより、水分を必要とすることなく特異的に酸素を化学吸着する特性を発現することを確認した。
また、含浸処理に使用する金属塩の種類が、前記の金属塩であると、他の金属塩を使用した場合に比べ、常圧下でも減圧下でも高い酸素吸着能力を発現することを確認した。特に減圧下においてその傾向が顕著である。
本発明の真空断熱材は、吸着材が、減圧下や絶乾下においても高い酸素吸着能力を有するために、経時断熱性能が向上する。
請求項1に記載の発明は、吸着材がガスバリア性の外被材内に減圧密封されている真空断熱材であって、前記吸着材が、少なくとも、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩と、セルロースとの混合物を、非酸素雰囲気下にて加熱処理することにより得られる物質からなる吸着材であることを特徴とするものであり、前記吸着材により真空断熱材の経時断熱性能が向上する。
ここで、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩は、PRTR指定物質や毒劇物に該当しないために他の金属塩に比べて比較的安全性が高いばかりでなく、他の金属塩を使用した場合に比べて格段に吸着量が高く、特に減圧下での吸着量に優れる。
本発明で用いる吸着材は、絶乾下や減圧下においても優れた酸素吸着能力を有するため、真空断熱材に適用することにより、外被材を透過して経時的に外部から侵入する酸素を吸着材が吸着するために経時断熱性能が向上する。
前記金属塩としては、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等があるが特に指定するものではなく、これらは1種類のみでも、2種類以上を混合して使用してもよい。
また、セルロースとは、炭素、水素、酸素を主構成元素とするグルコースからなる多糖類であり、多数のβ−グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した高分子を指すが、その種類は特に指定するものではない。
また、非酸素雰囲気下とは、酸素をできるだけ含まない雰囲気下、すなわち、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、または真空下等を指すが、特に指定するものではない。
また、加熱処理の方法は、焼成炉での焼成等、特に指定するものではない。
また、吸着材の使用形態も特に指定するものではなく、例えば、粉体状、ペレット状、シート状、あるいは別容器への収容といった使用方法等が考えられ、用途によって自由に選択できる。
なお、本発明における外被材とは、真空断熱材内部の空間と外部の空間とを遮断するものであれば、バリア性を有するプラスチック容器、金属容器、ラミネートフィルム等が使用でき、特に指定するものではない。
例えば、ラミネートフィルムを使用する場合、その構成は特に指定するものではなく、以下に示したような材料が使用可能である。
最内層の熱溶着層には、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、無延伸ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、無延伸ポリエチレンテレフタレート、無延伸ナイロン、無延伸エチレン−ポリビニルアルコール共重合体樹脂等が使用可能であり、特に指定するものではない。
また、外部からのガス侵入を抑制するために、金属箔や、蒸着フィルム、コーティングフィルム等が使用可能である。その種類や積層数は特に指定するものではない。金属箔は、アルミニウム、ステンレス、鉄やその混合物等、特に指定するものではない。また、蒸着やコーティングの基材となるプラスチックフィルムの材料は、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体樹脂、ポリエチレンナフタレート、ナイロン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド等、特に指定するものではない。また、蒸着の材料としては、アルミニウム、コバルト、ニッケル、亜鉛、銅、銀、シリカ、アルミナ、ダイヤモンドライクカーボンやそれらの混合物等、特に指定するものではない。また、コーティングの材料としては、PVA、ポリアクリル酸系樹脂やその混合物等、特に指定するものではない。
また、耐ピンホール性や耐摩耗性の向上、難燃性の付与、さらなるバリア性の向上等を目的としてさらに外層や中間層にフィルムを設けることも可能である。
ここで、外層や中間層に設けるフィルムは、ナイロン、エチレン・4フッ化エチレン共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体樹脂等、その種類や積層数は、特に指定するものではない。
また、前記構成の吸着材の他に、水分吸着材を併用することも可能である。水分吸着材とは、気体中に含まれる水分を吸着するものであり、活性炭、シリカゲル、酸化カルシウム等があるが、特に指定するものではない。また、水分吸着材の形状は顆粒状、ペレット状等、特に指定するものではないが、粉末状であると単位重量あたりの表面積が大きくなり、周囲の水分をより早く吸着することが可能になるため、粉末状であることがより望ましい。
また、本発明の真空断熱材は、外被材が大気圧による変形を受けにくい材料や構成のものである場合は芯材を有さない構成とすることも可能であるが、芯材を有する構成であってもよい。芯材とは、大気圧による圧縮から真空断熱材の形状を保持するものであり、高い空隙率を有するものであれば、繊維、粉末、発泡樹脂、多孔質体、薄膜積層体等、特に指定するものではない。例えば、繊維系では、グラスウール、グラスファイバー、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、炭化ケイ素繊維等、粉末系では、シリカ、パーライト、カーボンブラック等、発泡樹脂ではウレタンフォーム、フェノールフォーム、スチレンフォーム等がある。また、これらの混合体や成形体を使用することも可能である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記吸着材が、0.1mass%以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属成分を有するものであり、これにより、真空断熱材の経時断熱性能が向上する。
前記吸着材のうちの前記金属の含有量はICPなどにより評価可能であり、金属の含有量がこの範囲ではない場合に比べて高い酸素吸着能力が得られ、真空断熱材に適用した場合においても経時断熱性能が向上することを確認した。なお、金属含有量は、より望ましくは1mass%以上、さらに望ましくは5mass%以上である。
なお、比較例にて後述するが、請求項1に記載の発明における金属塩ではない場合、例えば硫酸塩、塩化物などでは、金属の含有量が多くても高い酸素吸着能力が得られないことを確認した。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記混合物が、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩の水溶液で前記セルロースを含浸処理後、固液分離、乾燥を経て得られるものであり、これにより、真空断熱材の経時断熱性能が向上するものである。
吸着材を、上記工程を経て作製することにより、高い酸素吸着能力を発現し、真空断熱材に適用した場合においても経時断熱性能が向上することを確認した。
ここで、含浸処理を行うためには、高濃度の金属塩水溶液が作製可能であることが望ましいため、金属塩は、望ましくは0.5mol/L以上、より望ましくは1mol/L以上の濃度の水溶液が作製可能な溶解度を有することが望ましい。
なお、金属塩水溶液の液性は、特許文献3では、塩基性の水溶液であることを推奨していたが、液性は必ずしも塩基性である必要はなく、中性を示す塩(例えば酢酸カルシウム)でも高い酸素吸着能力が得られることを確認したため、塩基性である必要はない。
含浸処理の方法は、セルロースが金属塩水溶液に含浸される方法であればよく、特に指定するものではない。なお、含浸時、セルロースを含んだ金属塩水溶液は、攪拌や振動などにより、均一性が保たれるようにすることが望ましい。また、温度も特に指定するものではなく、常温でも加温でもよい。
固液分離の方法は、前工程の溶液の固体成分(改質セルロース)と液体成分が分離できる方法であればよく、ろ過、遠心分離などがあるが、特に指定するものではない。なお、固液分離後に洗浄を行わないことによって、活性点の形成に寄与する金属がより多く残るために高い吸着能力を発現する。
乾燥の方法は、改質セルロースから余分な水分を除去する方法であればよく、自然乾燥、熱風循環炉などを使用した強制的な乾燥等があるが、特に指定するものではない。
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記混合物が、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩の水溶液で前記セルロースを含浸処理後、固液分離、洗浄、乾燥を経て得られ、かつ、前記固液分離工程において、洗浄に使用する水の量が、含浸処理時の液量の倍量以下であるものであり、これにより、真空断熱材の経時断熱性能が向上するものである。
洗浄工程を経ると、セルロースの含浸処理時に使用した容器の共洗いができるために容器に残留したセルロースを無駄なく使用することができる、セルロースの表面に付着した余分な成分を除去することができる、等のメリットがある。
しかしながらその一方で、洗浄によって活性点の形成に寄与する金属成分までもが洗い流されてしまうために吸着能力が落ちてしまうリスクがある。特許文献3には、洗浄水の量は処理液の10倍程度が適量であると記載されているが、洗浄水の量が10倍であると、余分な成分だけでなく、活性点の形成に寄与する金属成分までもがほぼ完全に洗い流されてしまうこと、作製した吸着材は化学吸着しないことを確認した。なお、洗浄に使用する水の量が上記範囲であれば、高い酸素吸着能力を確保でき、真空断熱材に適用した場合においても経時断熱性能が向上することを確認した。
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、前記加熱処理工程が、300℃以上600℃以下の温度条件で行われるものであり、これにより、真空断熱材の経時断熱性能が向上するものである。
様々な温度で加熱処理を実施したところ、温度がこの範囲ではない場合に比べて、高い酸素吸着能力が得られた。おそらく、温度が低すぎると吸着サイトの形成が未熟であり、また逆に温度が高すぎると構造の破壊が発生することが考えられ、上記範囲が高い酸素吸着能力の発現に適した構造となっていると考える。
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明において、前記真空断熱材は、熱溶着層同士が対向する二枚の前記外被材の間に、複数の芯材が、二つ以上の互いに独立した減圧空間内に位置するように減圧密封され、隣接する前記減圧空間と前記減圧空間との間の対向する前記外被材同士が溶着されたものであり、前記吸着材が、一箇所以上の前記減圧空間内に前記芯材と一緒に密封されているものである。
真空断熱材が上記構成(熱溶着層同士が対向する二枚の外被材の間に、複数の芯材が、二つ以上の互いに独立した減圧空間内に位置するように減圧密封され、隣接する前記減圧空間と前記減圧空間との間の対向する前記外被材同士が溶着された構成)であると、第一に、外被材端面から離れた芯材部分は端面からの侵入ガスの影響が小さいために、真空断熱材全体としての経時断熱性能が維持しやすい、第二に、一箇所で真空ブレークが生じてもそれが他の芯材部分に与える影響が小さいために断熱性能の悪化を最小限で抑えることができる、第三に、芯材および真空断熱材形状の自由度が高く、アプリケーションに応じた形状設計が可能である等、一つの芯材を有する真空断熱材に比べて、様々なメリットを有している。このため、幅広い用途への展開が見込める。
しかしながらその一方で、真空断熱材の大きさが同じ場合、複数の芯材で構成すると、各芯材を密封した減圧空間の容積が小さくなるため、少しのガス侵入により内圧が上昇しやすくなるという問題が生じる。これを、本発明で用いる吸着材によって吸着することによって、真空断熱材の経時断熱性能を確保する。
なお、本発明における芯材および真空断熱材の形状は、断熱を必要とする箇所に応じて三角形、四角形、多角形、円形、L型あるいはそれらの組み合わせからなる任意形状が使用できる。
また、真空断熱材の作製において、独立した空間の形成方法は、減圧下において芯材のある部分を含めて外被材を加熱加圧して溶着する方法や、減圧下において外被材の外周部のみを熱溶着して芯材を減圧密封した後に大気圧によって押圧されている熱溶着層同士を高温雰囲気において熱溶着層の融点まで加熱して溶着する方法等、特に指定するものではない。
なお、本発明で用いる吸着材は、少なくとも外被材の外周側の減圧空間に芯材と一緒に配置することが望ましい。
金属箔などの使用により外被材のラミネート面のバリア性を強化しても、外被材の端部はガス透過度の高い熱溶着層が露出しているため、外被材端部に近い芯材を密封した減圧空間ほど真空度が悪化しやすくなり、断熱性能が悪化しやすい。そこで、この部分に吸着材を適用することによって、端部からの侵入ガスを効率的に吸着し、断熱性能の悪化を抑制する。
また、このように吸着材を配置すると、外被材端部から遠い芯材を密封した減圧空間においても、外被材端部に近い芯材を密封した減圧空間で侵入ガスが吸着されるために、ガスが一層侵入しにくくなることで内圧変化が生じにくくなる。
なお、吸着材は、よりガスが侵入しやすい部分である二辺以上の端部(外被材の外周部の角部)に近い芯材を密封した減圧空間に配置することがより望ましい。
また、吸着材の使用量についても、侵入ガスの量は、比較的端部から遠い芯材を密封した減圧空間に比べて、比較的端部に近い芯材を密封した減圧空間の方が多いため、吸着材の使用量を多くすることが望ましい。中でも、よりガスが侵入しやすい部分である二辺以上の端部(外被材の外周部の角部)に近い芯材を密封した減圧空間への使用量を多くすることがより望ましい。
また、吸着材が全ての芯材を密封した減圧空間に配置されていると、建物への適用時などに一部の芯材部分に釘打ちを行っても、釘打ちによって破袋した部分からの侵入ガスを、隣接する芯材を密封した減圧空間に配置した吸着材によって吸着することができる。
また、あらかじめ釘打ちする部位がわかっている場合には、釘打ち部に比較的近い芯材を密封した減圧空間に吸着材を配置してもよい。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明するが、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における真空断熱材の断面図である。図1において、真空断熱材1は、芯材2と、芯材2を減圧密封するガスバリア性の外被材3と、芯材2と一緒に外被材3内に減圧密封される吸着材4及び水分吸着材5から構成されている。
吸着材4は、原料となるセルロースを、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩の水溶液で含浸処理後、固液分離、(洗浄、)乾燥し、それをさらに非酸素雰囲気下で加熱処理して得たものである。
次に、真空断熱材1の作製方法について説明する。まず、外被材3は、同じ大きさの長方形に切った二枚のラミネートフィルムの熱溶着層同士を向かい合わせて三辺を溶着し、袋状とする。次に、三辺シールした外被材3の開口部から芯材2と吸着材4と水分吸着材5を挿入する。これをチャンバー内に設置し、内部を所定の圧力まで減圧した後、外被材3の開口部を溶着することで真空断熱材1を得る。
吸着材4が、経時的に外被材3を透過して真空断熱材1内部に侵入する酸素を吸着するために、水分吸着材5のみを適用した構成に比べて、経時的な断熱性能の変化が抑制され、その寿命は吸着材4を適用しない真空断熱材に対して約2倍に向上した。
なお、参考までに、吸着材4を適用しない真空断熱材において、外被材3を透過して侵入するガスの組成を評価したところ、酸素が約50%を占めていることを確認した。この結果は、外被材3を透過して侵入する酸素を吸着除去することにより、経時的な真空断熱材1内部のガス増加量が半分になる(真空断熱材1の内部圧力変化が半分になる)ことを指し、上記結果と合致する。
なお、本実施の形態の真空断熱材1は、芯材2を有する構成であるが、外被材3が大気圧による変形を受けにくい材料や構成のものである場合は、芯材2を有さない構成とすることも可能である。
なお、本実施の形態の真空断熱材1は、水分吸着材5を有する構成であるが、水分吸着材5を有さない構成であってもかまわない。
以下に、吸着材4の作製に用いる金属塩(アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩)の種類や作製工程が酸素吸着能力に与える影響について、実施例と比較例を用いて示す。なお、前記の影響をより明確にするために、実施例および比較例では、セルロースを微結晶セルロースに統一したが、セルロースの種類はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
吸着材4の作製に用いる金属塩として酢酸カルシウムを使用した。
まずは、吸着材4の作製方法について説明する。
酢酸カルシウムを水に溶解して1mol/Lの水溶液とし、これにセルロースを入れ、攪拌する。
攪拌後、ろ過によって固体成分と液体成分を分離する。
含浸時に使用した容器の壁面に残ったセルロースを洗い流すのに必要な最低限の水量で洗浄を行う。
ろ紙上に残った固体成分を乾燥し、改質セルロースを得る。
次に、非酸素雰囲気下として真空下500℃にて加熱処理を行う。
このようにして得た吸着材のカルシウム含有量は、6.3mass%であった。
これを、真空断熱材1に適用した場合の断熱性能の経時変化を確認した。
吸着材4を使用しない真空断熱材に比べて、経時的な真空断熱材の内部圧力変化が約1/2に低減し、寿命は約2倍に向上した。
更に、吸着材4作製時の加熱処理温度の影響を確認した。
300℃を下回る温度で処理した吸着材4は化学吸着が確認できず、真空断熱材1に適用した場合においても、経時断熱性能の改善は確認できなかった。300℃以上で加熱処理した場合は、化学吸着が確認でき、真空断熱材1においても経時断熱性能が改善された。また、450〜500℃で加熱処理した場合に吸着量は極大値となり、600℃以下までは化学吸着が確認できたが、これを超えると吸着量が減ってしまい、同時に経時断熱性能が改善されなくなった。よって、加熱処理温度は300℃以上600℃以下が望ましいと考える。
(実施例2)
吸着材4の作製に用いる金属塩として酢酸ナトリウムを使用した。
酢酸ナトリウムを水に溶解して1.5mol/Lの水溶液とし、これにセルロースを入れ、攪拌する。
攪拌後、ろ過によって固体成分と液体成分を分離する。
ろ紙上に残った固体成分を乾燥し、改質セルロースを得る。
次に非酸素雰囲気下として真空下400℃にて加熱処理を行う。
このようにして得た吸着材のナトリウム含有量は、6.5mass%であった。
これを、真空断熱材1に適用した場合の断熱性能の経時変化を確認した。
吸着材4を使用しない真空断熱材に比べて、経時的な真空断熱材の内部圧力変化が約1/2に低減し、寿命は約2倍に向上した。
更に、吸着材4の作製方法の影響を確認した。
まずは、セルロースと酢酸ナトリウムを粉同士の状態で混合し、上記と同様に加熱処理を行った。なお、加熱処理後の吸着材のナトリウム含有量が上記とほぼ同じとなるよう、混合割合を調整した。
このようにして得た吸着材の吸着量は、上記に比べて化学吸着が大幅に減り、真空断熱材においても経時断熱性能の改善はほとんど確認できなかった。よって、セルロースを、金属水溶液での含浸処理、固液分離、乾燥を経て改質セルロースとする工程が酸素吸着能力の向上のためには望ましいと考える。
(実施例3)
吸着材4の作製に用いる金属塩として酢酸カリウムを使用した。
酢酸カリウムを水に溶解して2mol/Lの水溶液とし、これにセルロースを入れ、攪拌する。
攪拌後、ろ過によって固体成分と液体成分を分離する。
ろ紙上に残った固体成分を乾燥し、改質セルロースを得る。
次に非酸素雰囲気下として真空下450℃にて加熱処理を行う。
このようにして得た吸着材のカリウム含有量は、6.2mass%であった。
これを、真空断熱材1に適用した場合の断熱性能の経時変化を確認した。
吸着材4を使用しない真空断熱材に比べて、経時的な真空断熱材の内部圧力変化が約1/2に低減し、寿命は約2倍に向上した。
更に吸着材4作製時の洗浄の影響を確認した。
上記は洗浄を行っていないが、洗浄を行うと、洗浄に使用する水の量が増すにつれて、吸着材中の金属量が減っていくことと、それに伴って化学吸着量が減り、真空断熱材においても経時断熱性能が改善しなくなることを確認した。
洗浄に使用する水の量が、含浸処理時の液量の倍量以下までは、化学吸着が確認できたが、それを超えると金属量は0.1mass%にも満たなくなり、ほぼ物理吸着のみになってしまい、断熱性能も改善されなかった。よって、洗浄に使用する水の量は、含浸処理時の液量の倍量以下にするのが望ましいと考える。
(実施例4)
吸着材4の作製に用いる金属塩として炭酸カリウムを使用した。
炭酸カリウムを水に溶解して0.5mol/Lの水溶液とし、これにセルロースを入れ、常温で攪拌する。
攪拌後、遠心分離によって固体成分と液体成分を分離する。
含浸時に使用した容器の壁面に残ったセルロースを洗い流すのに必要な最低限の水量で洗浄を行う。
沈殿を乾燥し、改質セルロースを得る。
次に非酸素雰囲気下として窒素還流下で450℃にて加熱処理を行う。
このようにして得た吸着材のカリウム含有量は、3.6mass%であった。
これを、真空断熱材1に適用した場合の断熱性能の経時変化を確認した。
吸着材4を使用しない真空断熱材に比べて、経時的な真空断熱材の内部圧力変化が約1/2に低減し、寿命は約2倍に向上した。
なお、実施例に挙げた金属塩以外のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩でも同様に作製と評価を実施したが、いずれも優れた吸着能力を有することがわかった。なお、酢酸塩のほうがより高い吸着能力を有することから、真空断熱材への適用時には、吸着材の使用量の低減が可能となるため、酢酸塩を使用するほうがより望ましいと考える。
(比較例1)
セルロースを非酸素雰囲気下として真空下400℃で加熱処理を行った。
この吸着材は、酸素を物理吸着するのみであり、真空断熱材に適用した場合においても、吸着材を適用しない構成に対して経時断熱性能は改善しなかった。
(比較例2)
金属塩として水酸化ナトリウムを使用した。
水酸化ナトリウムを水に溶解して1mol/Lの水溶液とし、これにセルロースを入れ、常温で攪拌する。
攪拌後、ろ過によって固体成分と液体成分を分離する。
含浸時に使用した容器の壁面に残ったセルロースを洗い流すのに必要な最低限の水量で洗浄を行う。
ろ紙上に残った固体成分を乾燥し、改質セルロースを得る。
次に非酸素雰囲気下として真空下400℃にて加熱処理を行う。
このようにして得た吸着材のナトリウム含有量は、6mass%であった。
減圧下における吸着量が小さいため、真空断熱材への適用時には使用量を増やす必要があり、減圧下において使用する用途にはあまり適していない。
さらに、水酸化ナトリウムは劇物であるため、安全性に問題があるとともに、ろ過の速度が実施例に使用した金属塩に比べて10倍以上遅く、作業性の面からも、吸着材の原料として使用するには不向きであると考える。水酸化カリウムでも同様のことが言える。
(比較例3)
金属塩として硝酸ナトリウムを使用した。
硝酸ナトリウムを水に溶解して1mol/Lの水溶液とし、これにセルロースを入れ、常温で攪拌する。
攪拌後、ろ過によって固体成分と液体成分を分離する。
ろ紙上に残った固体成分を乾燥し、改質セルロースを得る。
次に非酸素雰囲気下として窒素雰囲気下400℃にて加熱処理を行う。
この吸着材は加熱処理後、大気中で取り出すと、大気中の酸素と激しく反応し、燃えてしまったために、ナトリウム含有量と吸着量の評価が不可能であった。
なお、硝酸塩はそれ自身が消防法の危険物であるため、安全性に問題があるとともに、加熱処理後に燃えてしまう傾向があるため、非常に取り扱い性が困難であり、吸着材の原料として使用するには不向きであると考える。
(比較例4)
金属塩として塩化ナトリウムを使用し、比較例2同様に吸着材を作製した。
この吸着材のナトリウムの含有量は6.6mass%であった。
金属含有量は多いものの、比較例1同様、真空断熱材に適用した場合においても、吸着材を適用しない構成に対して経時断熱性能は改善しなかった。なお、他の金属の塩化物においても同様の傾向があり、塩化物は適さないことがわかった。
(比較例5)
金属塩として硫酸マグネシウムを使用し、比較例3同様に吸着材を作製した。
この吸着材のマグネシウムの含有量は7.7mass%であった。
金属含有量は多いものの、真空断熱材に適用した場合においても、吸着材を適用しない構成に対して経時断熱性能は改善しなかった。なお、他の金属の硫酸塩においても同様の傾向があり、硫酸塩は適さないことがわかった。
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における真空断熱材の上側の外被材を透視した場合の平面図である。図2において、真空断熱材6は、熱溶着層同士が対向する二枚のガスバリア性の外被材8の間に、複数の芯材7が、二つ以上の互いに独立した減圧空間内に位置するように減圧密封され、隣接する前記減圧空間と前記減圧空間との間の対向する外被材8同士が溶着されたもので、吸着材9が、一箇所以上の前記減圧空間内に芯材7と一緒に密封されている。
まず、真空断熱材6の構成について説明する。真空断熱材6は、複数の芯材7がそれぞれ所定の間隔で配置され、また、吸着材9は所定の芯材7部分に配置され、外被材8により減圧密封されている。また、芯材7はそれぞれが独立した減圧空間内に位置するように芯材7の周囲には熱溶着部10が設けられている。
次に、真空断熱材6の作製方法について説明する。まず、外被材8の熱溶着層を上に向け、複数の芯材7と、所定の芯材7部分に吸着材9を配置する。次に、これを熱溶着層同士が対向するようにもう一枚の外被材8で覆う。さらにこれを減圧下で外被材8の外周部分を溶着し、大気圧下で高温環境に置くなどの方法により芯材7間を溶着し、熱溶着部10を設ける。
真空断熱材6のような構成であっても、吸着材9が、経時的に外被材8を透過して真空断熱材6内部に侵入する酸素を吸着するために、吸着材9を適用しない構成に比べて、経時的な断熱性能の変化が抑制され、その寿命は吸着材9を適用しない真空断熱材に対して約2倍に向上した。
なお、本実施の形態では、芯材7の形状を一定形状に統一し、吸着材9の配置も全ての芯材7部分に配置した構成としたが、真空断熱材6の形状、芯材7の形状や配置、吸着材9の配置や使用量、等は、図2に示した形状や配置に限ったものではなく、用途やガス侵入量等に合わせて自由に変更できる。
また、本実施の形態における真空断熱材は、水分吸着材を有さない構成であるが、水分吸着材を併用してもよい。
本発明で用いる吸着材は、絶乾状態や減圧下においても優れた酸素吸着特性を有するため、その吸着材を適用した本発明の真空断熱材は、経時断熱性能に優れる。
このため、非常に長い間断熱性能が要求される建物への使用が可能である。また、建物以外にも電車、自動車等の乗り物等、断熱を必要とする空間を形成する壁面等への適用も可能である。また、冷蔵庫のような保冷機器や、電気湯沸かし器、炊飯器、保温調理器、給湯器等の保温機器に使用すれば長期に渡って優れた省エネ効果を示す。また、省スペースで高い断熱性能が要求されるようなノート型コンピューター、コピー機、プリンター、プロジェクター等の事務機器への適用も可能である。また、コンテナボックスやクーラーボックス等の保冷が必要な用途への適用も可能である。
本発明の実施の形態1における真空断熱材の断面図 本発明の実施の形態2における真空断熱材の平面図
符号の説明
1 真空断熱材
3 外被材
4 吸着材
6 真空断熱材
7 芯材
8 外被材
9 吸着材

Claims (6)

  1. 吸着材がガスバリア性の外被材内に減圧密封されている真空断熱材であって、前記吸着材が、少なくとも、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩と、セルロースとの混合物を、非酸素雰囲気下にて加熱処理することにより得られる物質からなる吸着材であることを特徴とする真空断熱材。
  2. 前記吸着材が、0.1mass%以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属成分を有することを特徴とする請求項1に記載の真空断熱材。
  3. 前記混合物が、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩の水溶液で前記セルロースを含浸処理後、固液分離、乾燥を経て得られることを特徴とする請求項1または2に記載の真空断熱材。
  4. 前記混合物が、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酢酸塩または炭酸塩の水溶液で前記セルロースを含浸処理後、固液分離、洗浄、乾燥を経て得られ、かつ、前記固液分離工程において、洗浄に使用する水の量が、含浸処理時の液量の倍量以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の真空断熱材。
  5. 前記加熱処理工程が、300℃以上600℃以下の温度条件で行われることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の真空断熱材。
  6. 前記真空断熱材は、熱溶着層同士が対向する二枚の前記外被材の間に、複数の芯材が、二つ以上の互いに独立した減圧空間内に位置するように減圧密封され、隣接する前記減圧空間と前記減圧空間との間の対向する前記外被材同士が溶着されたものであり、前記吸着材が、一箇所以上の前記減圧空間内に前記芯材と一緒に密封されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の真空断熱材。
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