JP2009248221A - 耐欠損性と耐摩耗性にすぐれたダイヤモンド被覆工具 - Google Patents

耐欠損性と耐摩耗性にすぐれたダイヤモンド被覆工具 Download PDF

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Abstract

【課題】耐欠損性、耐摩耗性にすぐれたダイヤモンド被覆工具を提供する。
【解決手段】 WC基超硬合金またはTiCN基サーメットからなる工具基体表面にダイヤモンド皮膜が被覆されたダイヤモンド被覆工具であって、上記ダイヤモンド皮膜は、平均結晶粒径0.2〜1.5μmの配向ダイヤモンド結晶粒が、無配向ダイヤモンド結晶粒のマトリックス中に面積率で30〜80%分散分布する膜構造を備え、さらに、前記ダイヤモンド皮膜の結晶粒の(110)面または(111)面の少なくともいずれかの面は、基体表面の法線に対する傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在し、かつ、0〜10度の範囲内に存在する度数合計は、度数全体の30〜60%の割合を占める。
【選択図】 図1

Description

この発明は、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体にダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具に関し、特に、金属材料よりも比強度、比剛性の高いCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics。炭素繊維強化プラスチック)あるいは溶着性の高いAl合金等の高速切削に際し、長期の使用に亘って、シャープな切刃が維持されるとともにバリ発生が少なく、すぐれた耐欠損性とすぐれた耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆工具に関するものである。
従来、炭化タングステン基(WC基)超硬合金または炭窒化チタン基(TiCN基)サーメットなどの工具基体に、ダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具が知られており、
例えば、工具基体表面に、ダイヤモンドの結晶成長の起点となる核付着工程およびダイヤモンドを結晶成長させる結晶成長工程とを繰り返し行うことにより、結晶粒径が微細なダイヤモンド皮膜を被覆したダイヤモンド被覆工具が知られており、この被覆工具を用いたAl合金の切削加工で、すぐれた面精度を得られることが知られている。
また、ダイヤモンド皮膜を、ラマン分光分析によるダイヤモンドのピーク強度Iに対する非ダイヤモンド炭素のピーク強度Iの強度比I/Iが0.7以下の層と、I/Iが0.9以上の層とを交互に積層したダイヤモンド被覆工具も知られており、この被覆工具をAl合金の切削加工に用いた場合、靭性、耐欠損性、耐摩耗性にすぐれることも知られている。
特開2002−79406号公報 特開平6−297207号公報
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴って、切削条件はますます高速化している。上記の従来被覆工具は、これを通常条件での切削加工に用いた場合には特段の問題は生じないが、これを、一般の金属材料に比して、比強度、比剛性にすぐれるCFRPの高速切削に用いた場合には、CFRPは炭素繊維とエポキシ系樹脂の複合材であるため工具摩耗が激しいばかりか欠損が生じやすく、工具寿命が短命であるという問題点があった。
また、従来被覆工具を、軟質で溶着性の高いAl合金等の高速切削に用いた場合には、切削時の高熱発生により、溶着性の高い被削材(Al合金)の切粉が、工具切刃へ溶着することにより、シャープな切刃を維持することが困難であるばかりか、欠損が生じやすくなるという問題点があった。
この結果、CFRP、Al合金等の高速切削加工に用いた場合、ダイヤモンド被覆工具の寿命は短いばかりか、さらに、被削材のバリ発生のために仕上げ面精度が粗くなり、寸法精度も劣るという問題点があった。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に難削材であるCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の高速切削加工で、シャープな切刃を維持しつつ、バリの発生を抑制し、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を備えたダイヤモンド被覆工具を開発すべく鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
即ち、図1には、本発明のダイヤモンド被覆工具の側断面の概略図を示すが、図1において、工具基体1の表面に、例えば、マイクロ波プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、アークプラズマCVD法等のダイヤモンド気相合成法によって、所定条件で所定層厚の無配向ダイヤモンド皮膜2を形成し、ついで、成膜条件を変更し、平均結晶粒径0.2〜1.5μmの配向ダイヤモンド結晶粒が、無配向ダイヤモンド結晶粒のマトリックス中に面積率で30〜80%分散分布する膜構造を構成し、さらに、上記ダイヤモンド皮膜の(110)面または(111)面が、傾斜角度数分布グラフの0〜10度の傾斜角区分で30〜60%の度数を占める配向ダイヤモンド皮膜で構成した場合には、このダイヤモンド被覆工具は、シャープな切刃を維持しつつ、バリの発生が少なく、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮するようになることを見出したのである。
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体表面に10〜30μmの膜厚のダイヤモンド皮膜が被覆されたダイヤモンド被覆工具において、
上記ダイヤモンド皮膜は、平均結晶粒径0.2〜1.5μmの配向ダイヤモンド結晶粒が、無配向ダイヤモンド結晶粒のマトリックス中に面積率で30〜80%分散分布する膜構造を備え、さらに、前記ダイヤモンド皮膜について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(110)面および(111)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、(110)面または(111)面の少なくともいずれかの面について、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30〜60%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すダイヤモンド皮膜であることを特徴とするダイヤモンド被覆工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明のダイヤモンド被覆工具の被覆層について、詳細に説明する。
本発明のダイヤモンド皮膜は、無配向ダイヤモンド結晶粒と配向ダイヤモンド結晶粒によって構成するが、無配向ダイヤモンド結晶粒は、従来から知られている成膜法で形成すればよい。
例えば、通常の熱フィラメント法による化学蒸着装置を用い、
フィラメント温度 1900〜2200℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 700〜850℃、
反応圧力 0.67〜6.7kPa、
反応ガス CH:3〜8vol%,H:残、
という条件の化学蒸着で成膜するが、この無配向ダイヤモンド皮膜は、それ自体が高硬度特性を備えるとともに、無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布する配向ダイヤモンド結晶粒が粗大化するのを抑制する作用を有する。
本発明のダイヤモンド皮膜における配向ダイヤモンドは、例えば、
(110)面配向ダイヤモンドは、
フィラメント温度 2200〜2400℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 750〜900℃、
反応圧力 1.33〜13.3kPa、
反応ガス CH:0.5〜3vol%,H:残、
(111)面配向ダイヤモンドは、
フィラメント温度 2400〜2600℃、
フィラメント−基板間隔 10〜30mm、
基板温度 900〜1050℃、
反応圧力 1.33〜13.3kPa、
反応ガス CH:2〜6vol%,H:残、
という条件の化学蒸着で形成することができる。
ただ、本発明では、所定粒径の配向ダイヤモンド結晶粒を、所定面積割合で無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布させるために、その成膜条件を、上記配向ダイヤモンドの成膜条件に加え、反応ガスとして、N:4.0〜15vol%を使用することが必要である。
配向ダイヤモンド結晶粒の粒径、面積割合は、それぞれ主として、反応圧力、Nガス量によって調整することができる。
無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布する配向ダイヤモンド結晶粒の平均粒径が0.2μm未満あるいは同結晶粒の面積割合が30面積%未満の場合には、ダイヤモンド皮膜の強度の向上を期待することはできないため耐欠損性の向上を望めず、一方、配向ダイヤモンド結晶粒の平均粒径が1.5μmを超える場合あるいは同結晶粒の面積割合が80面積%を超える場合には、ダイヤモンド皮膜からの配向ダイヤモンド結晶粒の剥離、欠落が生じやすくなるため欠損が発生しやすくなるとともに、ダイヤモンド皮膜の平滑性も低下するため、切削時のバリが発生しやすくなるので、配向ダイヤモンド結晶粒の平均粒径は0.2〜1.5μm、また、配向ダイヤモンド結晶粒の面積割合は30〜80面積%と定めた。
また、上記配向ダイヤモンド結晶粒と無配向ダイヤモンド結晶粒からなるダイヤモンド皮膜について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(110)面および(111)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成したところ、上記ダイヤモンド皮膜では、(110)面または(111)面の少なくともいずれかの面について、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30〜60%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、無配向ダイヤモンド結晶粒では、(110)面、(111)面のいずれの面についても、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークは存在せず、かつに、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30%未満という小さな割合を占めるに過ぎなかった。
そして、上記(110)面、(111)面への配向を示す配向ダイヤモンド結晶粒は、無配向ダイヤモンド結晶粒に比して、すぐれた高硬度と高強度を相兼ね備えている。
本発明では、上記の配向ダイヤモンド結晶粒と無配向ダイヤモンド結晶粒とからなるダイヤモンド皮膜の膜厚を、10〜30μmとしているが、ダイヤモンド皮膜の膜厚が10μm未満では長期の使用に亘っての耐摩耗性を確保することができないばかりか、厚膜化されていないために長寿命化を図ることもできず、一方、膜厚が30μmを超えると、ダイヤモンド皮膜の強度が低下するとともに、皮膜表面の平滑性も低下するため、切刃の欠損や切削時のバリが発生しやすくなることから、ダイヤモンド皮膜の膜厚を、10〜30μmと定めた。
この発明のダイヤモンド被覆工具は、平均粒径0.2〜1.5μmの配向ダイヤモンド結晶粒が、無配向ダイヤモンド皮膜中に面積割合で30〜80面積%分散分布し、かつ、ダイヤモンド皮膜の結晶粒の(110)面あるいは(111)面が、皮膜の厚さ方向に強配向していることにより、ダイヤモンド皮膜が高硬度、高強度を有し、同時に配向ダイヤモンド結晶粒の粗大化が防止され、その結果、厚膜化を行った場合でも、ダイヤモンド皮膜の剥離、欠落が生じることはなく、ダイヤモンド皮膜の備えるすぐれた特性(高硬度、高強度)の劣化が生じることはない。
したがって、この発明のダイヤモンド被覆工具を、CFRP、Al合金等の高速切削加工に用いた場合であっても、シャープな切刃を維持したまま、バリを発生することもなく、すぐれた耐欠損性および耐摩耗性を長期の使用に亘って発揮するものである。
つぎに、この発明のダイヤモンド被覆工具を実施例により具体的に説明する。
ここでは、ダイヤモンド被覆工具を、エンドミル、ドリルに適用した場合について述べるが、本発明はこれに限定されるものではなく、各種の切削工具に適用することが可能である。
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が13mmの工具基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の丸棒焼結体から、研削加工にて、切刃部の直径×長さが10mm×22mmの寸法、並びにねじれ角30度の2枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(エンドミル)C−1〜C−4の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した後、酸溶液によるエッチングおよび/またはアルカリ溶液によるエッチング処理を行い、さらに、ダイヤモンド粉末スラリー液を用いて超音波洗浄器で超音波処理を行なった後、
(a)まず、
フィラメント温度 2000℃、
フィラメント−基板間隔 15mm、
基板温度 800℃、
反応圧力 2.66kPa、
反応ガス CH:4.5vol%,H:残、
という条件で蒸着し、工具基体の表面に、無配向ダイヤモンド皮膜を成膜し、
(b)ついで、成膜条件を変更し、上記配向ダイヤモンド皮膜の表面に、
フィラメント温度 2300℃、
フィラメント−基板間隔 15mm、
基板温度 850℃、
反応圧力 2.0kPa、
反応ガス CH:1.5vol%,N:8.0vol%,H:残、
という条件で、配向ダイヤモンド結晶粒を形成し、
(c)上記(a)、(b)の成膜工程を繰り返し行うことにより、
(d)表2に示される平均結晶粒径、面積割合の配向ダイヤモンド結晶粒が無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布する、同じく表2に示される目標膜厚のダイヤモンド皮膜を成膜することにより、本発明のダイヤモンド被覆エンドミル(以下、本発明エンドミルという)1〜4をそれぞれ製造した。
また、前記工具基体(エンドミル)C−5〜C−8の表面に上記と同様のコーティング前処理を行なった後、
(e)まず、
フィラメント温度 2000℃、
フィラメント−基板間隔 15mm、
基板温度 800℃、
反応圧力 2.66kPa、
反応ガス CH:4.5vol%,H:残、
という条件で蒸着し、工具基体の表面に、無配向ダイヤモンド皮膜を成膜し、
(f)ついで、成膜条件を変更し、上記配向ダイヤモンド皮膜の表面に、
フィラメント温度 2500℃、
フィラメント−基板間隔 15mm、
基板温度 950℃、
反応圧力 2.0kPa、
反応ガス CH:3.5vol%,N:2.0vol%,H:残、
という条件で、配向ダイヤモンド結晶粒を形成し、
(g)上記(e)、(f)の成膜工程を繰り返し行うことにより、
(h)表2に示される平均結晶粒径、面積割合の配向ダイヤモンド結晶粒が無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布する、同じく表2に示される目標膜厚のダイヤモンド皮膜を成膜することにより、本発明エンドミル5〜8をそれぞれ製造した。
比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)C−1〜C−4の表面に上記と同様のコーティング前処理を施した状態で、上記実施例1の(a)と同一の条件で、上記工具基体(エンドミル)の表面に、表3に示される目標膜厚の無配向ダイヤモンド結晶粒のみからなるダイヤモンド皮膜を成膜することにより、比較ダイヤモンド被覆エンドミル(以下、比較エンドミルという)1〜4をそれぞれ製造した。
さらに比較の目的で、上記の工具基体(エンドミル)C−5〜C−8の表面に上記と同様のコーティング前処理を施した状態で、上記実施例1の(b)と同一の条件で、上記工具基体(エンドミル)の表面に、表3に示される目標膜厚の配向ダイヤモンド皮膜のみを蒸着形成することにより、比較ダイヤモンド被覆工具としての比較ダイヤモンド被覆エンドミル(以下、比較エンドミルという)5〜8をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明エンドミル1〜8および上記比較エンドミル1〜8のダイヤモンド皮膜について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(110)面および(111)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した。
図2に、一例として、比較エンドミル1の無配向ダイヤモンド結晶粒の(110)面についての傾斜角度数分布グラフを示すが、比較エンドミル1〜4の無配向ダイヤモンド結晶粒の(110)面および(111)面の傾斜角度数分布グラフは、いずれもほぼ同様な傾斜角度数分布グラフを示し、0〜10度の範囲内の傾斜角区分には特段のピークが存在せず、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計も、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の25%以下にすぎない小さな値であった。
図3には、一例として、本発明エンドミル3の配向ダイヤモンド結晶粒の(110)面についての傾斜角度数分布グラフを示すが、本発明エンドミル1〜4のダイヤモンド皮膜の(110)面の傾斜角度数分布グラフは、いずれもほぼ同様な傾斜角度数分布グラフを示し、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30〜60%の割合を占めた。
図4には、一例として、本発明エンドミル6の配向ダイヤモンド結晶粒の(111)面についての傾斜角度数分布グラフを示すが、本発明エンドミル5〜8のダイヤモンド皮膜の(111)面の傾斜角度数分布グラフは、いずれもほぼ同様な傾斜角度数分布グラフを示しし、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30〜60%の割合を占めた。
表2、表3に、本発明エンドミル1〜8および上記比較エンドミル1〜8のダイヤモンド皮膜について測定された最高ピークが存在する傾斜角区分、0〜10度の範囲内に存在する度数割合を示す。
また、表2、表3には、本発明エンドミル1〜8および比較エンドミル5〜8のダイヤモンド皮膜について、上記皮膜断面の測定結果から得られる皮膜断面における配向ダイヤモンド結晶粒個々を画像解析装置により処理することによって算出した配向ダイヤモンド結晶粒の平均粒径を示し、さらに、表2には、本発明エンドミル1〜8のダイヤモンド皮膜について、同様の処理によって算出した配向ダイヤモンド結晶粒の面積割合を示す。
つぎに、上記本発明エンドミル1〜8および上記比較エンドミル1〜8のうち、
本発明エンドミル1、2、5、6および比較エンドミル1、2、5、6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:5mmの、炭素繊維と熱硬化型エポキシ系樹脂が直交積層構造を持つ炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)の板材、
切削速度: 240 m/min.、
切断加工:(5 mm)、
テーブル送り: 1500 mm/分、
エアブロー、
の条件(切削条件A)での上記CFRPの乾式高速切断加工試験、
本発明エンドミル3、4、7、8および比較エンドミル3、4、7、8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmの、JIS・ADC12の板材、
切削速度: 420 m/min.、
溝深さ(切り込み):径方向(ae)2.5mm,軸方向(ap)8mm、
テーブル送り: 1200 mm/分、
エアーブロー、
の条件(切削条件B)での上記Al合金の乾式高速側面切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの切削加工試験でも切刃部に欠損が発生するまでの切削溝長、あるいは、被削材にバリが発生するまでの切削溝長を測定した。
これらの測定結果を表4にそれぞれ示した。
Figure 2009248221
Figure 2009248221
Figure 2009248221
Figure 2009248221
上記の実施例1で製造した直径が13mmの丸棒焼結体を用い、この丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さが10mm×22mmの寸法、並びにねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(ドリル)D−1〜D−4の切刃に、ホーニングを施し、上記実施例1と同様のコーティング前処理を施した後、上記実施例1の(a)〜(c)と同一の条件で、工具基体(ドリル)D−1〜D−4の表面に、表5に示される平均結晶粒径、面積割合の配向ダイヤモンド結晶粒が無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布する、同じく表5に示される目標膜厚のダイヤモンド皮膜を成膜することにより、本発明のダイヤモンド被覆ドリル(以下、本発明ドリルという)1〜4をそれぞれ製造した。
また、前記工具基体(ドリル)D−5〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、上記実施例1と同様のコーティング前処理を施した後、上記実施例1の(e)〜(g)と同一の条件で、工具基体(ドリル)D−5〜D−8の表面に、表5に示される平均結晶粒径、面積割合の配向ダイヤモンド結晶粒が無配向ダイヤモンド皮膜中に分散分布する、同じく表5に示される目標膜厚のダイヤモンド皮膜を成膜することにより、本発明ドリル5〜8をそれぞれ製造した。
比較の目的で、上記の工具基体(ドリル)D−1、D−2、D−5、D−6の表面に、ホーニングを施し、上記実施例1と同様のコーティング前処理を施した後、上記実施例1の(a)と同一の条件で、上記工具基体(ドリル)の表面に、表6に示される目標膜厚の無配向ダイヤモンド結晶粒のみからなるダイヤモンド皮膜を成膜することにより、比較ダイヤモンド被覆ドリル(以下、比較ドリルという)1、2、5、6をそれぞれ製造した。
さらに比較の目的で、上記の工具基体(ドリル)D−3、D−4、D−7、D−8の表面に上記実施例1と同様のコーティング前処理を施した後、上記実施例1の(b)と同一の条件で、上記工具基体(ドリル)の表面に、表6に示される目標膜厚の配向ダイヤモンド結晶粒のみからなるダイヤモンド皮膜を成膜することにより、比較ダイヤモンド被覆ドリル(以下、比較ドリルという)3、4、7、8をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明ドリル1〜8および上記比較ドリル1〜8のダイヤモンド皮膜について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(110)面および(111)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成し、表5、6に、最高ピークが存在する傾斜角区分、0〜10度の範囲内に存在する度数割合を示した。
また、表5、表6には、本発明ドリル1〜8および比較ドリル5〜8のダイヤモンド皮膜について算出した配向ダイヤモンド結晶粒の平均粒径を示し、さらに、表5には、本発明ドリル1〜8のダイヤモンド皮膜について算出した配向ダイヤモンド結晶粒の面積割合を示す。
つぎに、上記本発明ドリル1〜8および比較ドリル1〜8のうち、
本発明ドリル1〜4および比較ドリル1〜4については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:8mmの、炭素繊維と熱硬化型エポキシ系樹脂が直交積層構造を持つ炭素繊維強化樹脂複合材(CFRP)の板材、
切削速度: 180 m/min.、
送り: 0.06 mm/rev、
貫通穴:(8 mm)、
の条件(切削条件C)での上記CFRPの乾式高速穴あけ切削加工試験、
本発明ドリル5〜8および比較ドリル5〜8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:15mmの、JIS・ADC12の板材
切削速度: 220 m/min.、
送り: 0.09 mm/rev、
貫通穴:(15 mm)、
の条件(切削条件D)での上記Al合金の乾式高速穴あけ切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの乾式高速穴あけ切削加工試験でも、切刃部に欠陥が発生するまで、あるいは、被削材にバリが発生するまでの穴あけ加工数を測定した。
この測定結果を表7にそれぞれ示した。
Figure 2009248221
Figure 2009248221
Figure 2009248221
表2〜7に示される結果から、本発明ダイヤモンド被覆工具としての本発明エンドミル1〜8および本発明ドリル1〜8は、配向ダイヤモンド結晶粒がすぐれた高硬度、高強度を備えるとともに、無配向ダイヤモンド皮膜中に所定粒径、所定面積割合、所定の配向性を有する配向ダイヤモンド結晶粒が分散分布しているため、配向ダイヤモンド結晶粒の粗大化が防止され、ダイヤモンド皮膜全体としての硬度、強度が向上し、しかも、厚膜化が可能であり、その結果、金属材料よりも比強度、比剛性の高いCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の高速切削に際し、長期の使用に亘って、シャープな切刃が維持されるとともにバリ発生が少なく、すぐれた耐欠損性とすぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、無配向ダイヤモンド皮膜のみ、あるいは、配向ダイヤモンド皮膜のみを被覆した比較エンドミル1〜8、比較ドリル1〜8においては、強度が劣りまた厚膜化ができないため、切刃の劣化、バリの発生等が生じるとともに、欠損の発生、耐摩耗性の劣化により工具寿命が短命なものであった。
上述のように、この発明のダイヤモンド被覆工具は、通常条件での切削加工は勿論のこと、金属材料よりも比強度、比剛性の高いCFRPあるいは溶着性の高いAl合金等の高速切削においても、切刃の劣化、バリの発生を防止し、長期の使用に亘って、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮するものであるから、切削加工装置のFA化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
ダイヤモンド被覆工具の側断面概略図。 比較エンドミル1の無配向ダイヤモンド結晶粒の(110)面についての傾斜角度数分布グラフ。 本発明エンドミル3の配向ダイヤモンド結晶粒の(110)面についての傾斜角度数分布グラフ。 本発明エンドミル6の配向ダイヤモンド結晶粒の(111)面についての傾斜角度数分布グラフ。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体表面に10〜30μmの膜厚のダイヤモンド皮膜が被覆されたダイヤモンド被覆工具において、
    上記ダイヤモンド皮膜は、平均結晶粒径0.2〜1.5μmの配向ダイヤモンド結晶粒が、無配向ダイヤモンド結晶粒からなるマトリックス中に面積率で30〜80%分散分布する膜構造を備え、さらに、前記ダイヤモンド皮膜について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、基体表面に対し垂直な皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(110)面および(111)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、(110)面または(111)面の少なくともいずれかの面について、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の30〜60%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すダイヤモンド皮膜であることを特徴とするダイヤモンド被覆工具。
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