JP2009242974A - ポリエステル系繊維およびそれを含む繊維構造物 - Google Patents

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芳哲 星野
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Abstract

【課題】繊維表面近傍の領域を選択的に修飾することで、外部環境から積極的かつ高効率に耐薬品性、耐熱性および耐加水分解性を向上させたポリエステル系繊維およびそれを含む繊維構造物を提供する。
【解決手段】ポリエステル系繊維がポリエステル繊維のポリマー鎖と、ポリマー鎖とが、多官能性含窒素化合物によって結合されてなるか、または、(2) ポリエステル系繊維のポリマー鎖末端のカルボキシル基末端またはヒドロキシル基末端に、多官能性含窒素化合物が結合してなるポリエステル系繊維か、または、(3) ポリエステル系繊維内で多官能性含窒素化合物がホモポリマを形成しているポリエステル系繊維
において、繊維の表面から繊維断面重心までの長さをRとした時に、繊維断面重心から表面へR/2以内の繊維内周部(N1)と繊維表面から断面重心へR/2以内の繊維外周部(N2)において、内周部N1の窒素含有量をM1、外周部N2の窒素含有量をM2とした時、窒素含有率差が(M1/N1)<(M2/N2)であることを特徴とするポリエステル系繊維。
【選択図】なし

Description

本発明はポリエステル系繊維およびそれを含む繊維構造物に関する。さらに詳しくは、耐薬品性、耐熱性および耐加水分解性を向上させたポリエステル系繊維およびそれを含む繊維構造物に関する。
これまでポリエステル系繊維、特にポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸繊維などは、高温、高湿熱環境、薬品暴露環境など、様々な環境下で使用されている。
これらの過酷な環境の中で腐食、変形、分解、品質劣化をさせないために、ポリエステル系繊維は改質され続けてきたが、より過酷な環境下で使用するために耐薬品性、耐熱性、耐加水分解性などの向上が恒常的に望まれている。
中でも溶融紡糸されるポリエステル系繊維には、固有の融点があり、融点以上の高熱に晒されると融解するという致命的な弱点がある。
さらにポリ乳酸繊維については、湿熱条件下での加水分解によって著しく強度が低下することが知られており、衣料用途では、染色、乾燥工程における強度劣化、保管倉庫の湿熱による製品劣化を生じる問題がある。
ポリエステル系繊維の耐熱性の向上に対して、ポリ乳酸内部に多官能性含窒素化合物などを用いて放射線を照射することによりポリ乳酸の耐熱性を向上されることが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしこの方法では、ポリ乳酸の耐熱性は向上するものの、耐加水分解性を向上させることはできない。さらに、放射線を照射するための大がかりな装置が必要となるため、汎用素材として展開するにはコストがかかり、実用的であるとは言えない。
ポリ乳酸の耐加水分解性の向上に対して、エポキシ化合物やカルボジイミド化合物を用いてポリ乳酸のカルボキシル末端鎖を封鎖することで耐加水分解性を向上されることが知られている(例えば、特許文献2、3参照)。しかしながら、この方法ではポリ乳酸の耐熱性は改善できず、過酷な環境下で十分な性能であるとは言えない。
特開2005−126603号公報 特開2004−277931号公報 特開2001−335626号公報
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、繊維表面近傍の領域を選択的に修飾することで、外部環境から積極的かつ高効率に耐薬品性、耐熱性および耐加水分解性を向上させたポリエステル系繊維およびそれを含む繊維構造物を提供するものである。
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1) ポリエステル系繊維がポリエステル繊維のポリマー鎖と、ポリマー鎖とが、多官能性含窒素化合物によって結合されてなるか、または、(2) ポリエステル系繊維のポリマー鎖末端のカルボキシル基末端またはヒドロキシル基末端に、多官能性含窒素化合物が結合してなるポリエステル系繊維か、または、(3) ポリエステル系繊維内で多官能性含窒素化合物がホモポリマを形成しているポリエステル系繊維
において、繊維の表面から繊維断面重心までの長さをRとした時に、繊維断面重心から表面へR/2以内の繊維内周部(N1)と繊維表面から断面重心へR/2以内の繊維外周部(N2)において、内周部N1の窒素含有量をM1、外周部N2の窒素含有量をM2とした時、窒素含有率差が(M1/N1)<(M2/N2)であることを特徴とするポリエステル系繊維。
(2) 該多官能性含窒素化合物の官能基が、ビニル基、メタクリル基、アクリル基、アリル基、イソシアネート基、グリシジル基およびシラノール基から選ばれたものであることを特徴とする上記(1)に記載のポリエステル系繊維。
(3) 該多官能性含窒素化合物がヘキサメチレンジイソシアネート系化合物であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のポリエステル系繊維。
(4) 該ポリエステル系繊維がポリ乳酸であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステル系繊維。
(5) 該ポリ乳酸繊維のポリマー鎖末端のカルボキシル基が7当量/ton以下に封鎖されてなることを特徴とする上記(4)に記載のポリエステル系繊維。
(6) 該ポリ乳酸繊維のポリマー鎖末端のカルボキシル基がトリグリシジルイソシアヌレートによって封鎖されてなることを特徴とする上記(4)に記載のポリエステル系繊維。
(7) 170℃以上、15秒間のアイロン処理により、不融であることを特徴とする上記(5)または(6)に記載のポリエステル系繊維。
(8) 上記(1)〜(7)のいずれかに記載のポリエステル系繊維を含むことを特徴とする繊維構造物。
耐薬品性、耐熱性および耐加水分解性を向上させたポリエステル系繊維およびそれを含む繊維構造物を製造することで、耐熱性および湿熱条件下での強度保持率に優れたポリエステル系繊維およびそれを含む繊維構造物を得ることができる。
本発明のポリエステル系繊維は、次の(1)〜(3)の少なくとも1つの条件を満たす。
(1) ポリエステル系繊維がポリエステル繊維のポリマー鎖と、ポリマー鎖とが、多官能性含窒素化合物によって結合されてなる。
(2) ポリエステル系繊維のポリマー鎖末端のカルボキシル基末端またはヒドロキシル基末端に、多官能性含窒素化合物が結合してなる。
(3) ポリエステル系繊維内で多官能性含窒素化合物がホモポリマを形成しているポリエステル系繊維である。
本発明においては、この条件を満たすことにより、耐薬品性、耐熱性および耐加水分解性に優れた繊維構造物を得ることができる。
中でも耐熱性および耐加水分解性に乏しいポリ乳酸繊維の場合、多官能性含窒素化合物を用いて、ポリ乳酸繊維を構成するポリマー鎖同士の少なくとも一部を結合し、ポリマー鎖末端のカルボキシル基の一部を多官能性窒素化合物により封鎖することや、ポリ乳酸系繊維内でポリ乳酸ポリマと異なるポリマを生成することで、アイロン耐熱性が170℃以上、70℃90%相対湿度(RH)雰囲気で7日間処理した後のポリエステル系繊維の強度保持率が60%以上であり、衣料用途に優れた繊維構造物とすることができる。
ポリエステル系繊維のポリマー鎖同士の一部を結合すると、ポリマー鎖の分子運動が抑制されるため、耐熱性が向上する。
また、ポリエステル系繊維は、湿熱雰囲気下でカルボキシル末端基に起因した加水分解を生じ、布帛強度が低下することが分かっている。このカルボキシル基を多官能性含窒素化合物により封鎖することで湿熱雰囲気下でも加水分解を抑制することができる。特にポリ乳酸繊維はカルボキシル末端基を封鎖することによる加水分解抑制効果が大きい。
また、ポリエステル系繊維のポリマー内に存在する多官能含窒素化合物同士の結合によってなる異ポリマはポリエステル系繊維を機械的に拘束し熱運動を抑制するので、耐熱性が向上する。
環境によるポリエステル系繊維の劣化は、繊維表面近傍から開始されるため、繊維表面近傍の領域を選択的に修飾することで、外部環境から積極的かつ高効率に耐薬品性、耐熱性、耐加水分解性を向上させることができる。したがって、繊維の表面から繊維断面重心までの長さをRとした時に、繊維断面重心から表面へR/2以内の繊維内周部(N1)と繊維表面から断面重心へR/2以内の繊維外周部(N2)において、内周部N1の窒素含有量をM1、外周部N2の窒素含有量をM2とした時、窒素含有率差が(M1/N1)<(M2/N2)であるポリエステル系繊維は、(M1/N1)≧(M2/N2)である構造のポリエステル系繊維よりも、少ない量の多官能性含窒素化合物で外部環境から積極的かつ高効率に耐薬品性、耐熱性、耐加水分解性を向上させることができる。
本発明でいうポリエステル系繊維、およびそれを含む繊維構造物としては、基本的に多価カルボン酸とポリアルコールの重縮合体であって、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられるがこれらのポリエステルに限定されない。また、ポリ乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸いずれの乳酸単位の縮合体、または、それらの混合縮合体が挙げられる。
本発明でいうポリエステル系繊維とは、ポリエステル樹脂から製造された繊維であり、例えばモノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルファイバー、ナノファイバー、トウ、ハイバルクスフ、ハイバルクトウ、紡績糸、混紡糸、加工糸、仮撚糸、異形断面糸、中空糸、コンジュケート糸、部分配向糸、延伸加工糸、スライバーなどを包含する。
本発明でいう繊維構造物とは、織布、編物、不織布、紐、縄、フェルト、紙、網などの繊維体と認識される物一般を包含する。
本発明のポリエステル系繊維および繊維構造物は、ポリエステル以外のポリマーや粒子、難燃剤、耐電防止剤、艶消し剤、消臭剤、抗菌剤、抗酸化剤、染料、着色顔料などの添加物を含有していても良い。
本発明でいう多官能性含窒素化合物の結合とは、多官能性含窒素化合物同士が官能基により結合してなり、それら自身がオリゴマー、ポリマーを形成することである。多官能性窒素化合物同士の結合により形成されたオリゴマー、ポリマーがポリエステルの主鎖、カルボキシル基末端、ヒドロキシル基末端と結合していても良い。
本発明でいう多官能性含窒素化合物は、構造母体および/または官能基に窒素を含有する化合物であり、具体的には、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルプロピルイソシアヌレート、グリシジルメタクリレート、トリグリシジルイソシアヌレート、イソシアヌレート型ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、メタクリエロイルオキシエチルイソシアネート、シリルイソシアネートなどが例示できるが、これらの多官能性含窒素化合物に限定されない。特にヘキサメチレンジイソシアネート系化合物が高温、高湿熱環境、薬品暴露環境などに対する耐性を向上する効果が高く、好ましい。
多官能性含窒素化合物の官能基はビニル基、メタクリル基、アクリル基、アリル基、イソシアネート基、グリシジル基、シラノール基などのヒドロキシル基またはカルボキシル基と結合し得るものが好ましく使用できる。
ポリエステル系繊維、特にポリ乳酸繊維およびは、湿熱雰囲気下でカルボキシル末端基に起因した加水分解を生じ、布帛強度が低下することが分かっている。このカルボキシル基を多官能性含窒素化合物により封鎖することで湿熱雰囲気下でも加水分解を抑制することができる。
本発明でいうカルボキシル基の封鎖は、特にグリシジル基を含むものによって封鎖されていることが好ましく、特に好ましくは、トリグリシジルイソシアヌレートにより封鎖されていることが例示されるが、これらの化合物に限定されない。
本発明においては、上述したポリエステルに多官能性含窒素化合物をブレンドし、乾熱処理、湿熱処理、エージング処理、プラズマ処理、電子線照射、紫外線照射、重合開始剤、触媒の添加、紡糸工程での加熱などにより、多官能性含窒素化合物によってポリエステル系繊維のポリマー鎖同士の少なくとも一部が結合されたり、またはポリマー鎖末端のカルボキシル基末端またはヒドロキシル基末端に多官能性含窒素化合物が結合されたり、またはポリエステル系繊維内で多官能性含窒素化合物をホモポリマ化させることができるが、この方法には限定されない。
ポリエステル繊維と多官能性含窒素化合物のブレンド方法については、特に制限はないが、紡出前のチップへ多官能性含窒素化合物のブレンド、浴中処理での薬剤吸尽などが挙げられる。紡出前のチップへ多官能性含窒素化合物をブレンドする場合は、繊維内部よりも繊維外部の多官能性含窒素量が多くなるような複層構造にすることが好ましい。特に好ましくは、浴中処理により処理温度、処理時間を調節してブレンドすることで、多官能性含窒素化合物は繊維表面から内部に吸尽されるため繊維表面近傍へ薬剤を選択的に反応させることが可能となる。繊維の表面から繊維断面重心までの長さをRとした時に、繊維断面重心から表面へR/2以内の繊維内周部(N1)と繊維表面から断面重心へR/2以内の繊維外周部(N2)において、内周部N1の窒素含有量をM1、外周部N2の窒素含有量をM2とした時、繊維表面近傍に多官能性含窒素化合物が多く含まれていると、窒素含有率差が(M1/N1)<(M2/N2)となり、好ましい。
ここでの浴中処理方法に特に制限はないが、処理媒体として、水、有機溶媒、超臨界二酸化炭素などが例示されるが、これらの方法に限定されない。
繊維表面近傍へ選択的な修飾の確認については、Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry(TOF−SIMS)やX線マイクロアナライザ(EPMA)などで繊維内部の薬剤分布を観察することで検出できる。EPMAでは数%と比較的高濃度の窒素元素などを同定する必要があることから、特に好ましくはTOF−SIMSで検出するのが良い。
測定する繊維が、染色や機能加工などされていた場合は、アセトンやジメチルホルムアミドなどの有機溶媒によりソックスレー抽出を行い、染料などを繊維外に抽出した後に測定することで検出できる。
本発明の上記(1)〜(3)のいずれかのポリエステル系繊維とすることで、ポリエステル繊維ポリマーの非晶領域の溶解性が低下する。塩化メチレン50mlに対して、本発明の繊維構造物を0.5g浸漬させ12時間静置後、不溶成分を濾過し乾燥後に重量を測定することにより、ゲル分率が算出できる。ゲル分率が小さいと、高温、高湿熱環境、薬品暴露環境等に対する耐性が不十分であるため、ゲル分率は30%以上が好ましい。ゲル分率はポリエステル繊維ポリマーの非晶領域が上限であるため、非晶領域の割合はポリマーの製造条件、繊維の製造条件により変化するが、ポリエステル繊維の物性を考慮するとゲル分率は80%以下が好ましい。
該ポリエステル系繊維がポリ乳酸系ポリマーである場合、ポリマー末端のカルボキシル基が7当量/tonを超えていると、エステル結合の加水分解速度はプロトン濃度に依存するため、ポリエステル系繊維のポリマー末端のカルボキシル基が7当量/ton以下であることが好ましい。
上述した方法で調製したポリエステル繊維およびそれを含む繊維構造物は、難融解性であるため、中間セット、最終セット温度の高温化が可能であり、裁断時の摩擦熱による融着やミシン針の摩擦熱による製品劣化を抑制し、可縫性を改善することができる。アイロンによる融解も抑制できることから、より高温のアイロンをかけることが可能となる。本発明により、170°以上、15秒間のアイロン処理によっても不融である繊維構造物を得ることができる。ポリ乳酸ポリマーを用いた場合、その融点である170℃以上のアイロン処理を行っても、ポリマーが溶解しないため、不快な光沢を呈したり、収縮したりすることがなくなるため、洗濯後のアイロンをより快適に行うことができる。
衣料用繊維は染色工程を経て製品となることが多く、精練、乾燥、染色工程など、湿熱処理工程を通過する際に、著しく強度低下を起こす。これを抑制するため、耐加水分解性を向上させることは重要である。
さらに、耐加水分解性を向上させたポリエステルを船舶で輸出入する場合、船内コンテナ内が高温高湿雰囲気となり、輸出入時による製品劣化を抑制することができ、産業上有利な製品とすることができる。
[実施例1]
紡糸工程で1重量%トリグリシジルイソシアヌレートをブレンドした84dTexの繊度で24本の長繊維から構成されるポリ乳酸糸を用いて、平織り織物を作成した。浴比1:25のトリアリルイソシアヌレートの水溶液を織物に対し25重量%、ナイパーBMT−K40(日本油脂製)を25重量%、イオネットRAP250(三洋化成製)を75重量%含有する水浴中に、得られた織物を分散させ、処理温度110℃で30分浴中処理を行った。処理後の布帛に110℃の温度で60分間乾熱処理を行った。
塩化メチレン50gに対して、得られた布帛を0.5g浸漬させ、12時間静置した。12時間後に液中を目視で観察した所、不溶成分が残っていた。ポリ乳酸の架橋構造は溶媒に不溶であったことから、ポリ乳酸に架橋構造が形成されていることを確認した。不溶成分のみを濾過し乾燥後に重量測定を行いゲル化率を算出したところ44%であった。
TOF−SIMSにより繊維断面の薬剤分布を確認したところ、(M1/N1<M2/N2)であることが確認できた。
該布帛を2×15cmの大きさに切り、両面テープを用いて黒画用紙に貼り付け、160℃、170℃、175℃、180℃の各アイロン温度で15秒間、アイロンを当てることで耐熱性を測定した。その結果、170℃以上でアイロン耐熱性を有していることを確認した(アイロンは東芝製TA−723Sを用いた。アイロン温度はチノー製の防水型放射温度計IR−TEを用いて測定した)。表1に結果を示す。黒く変色しているところが、耐熱性に劣ることを示す。
該布帛に70℃、90%相対湿度(RH)雰囲気で7日間湿熱処理を行った後、布帛から糸を抜き、島津製作所製の島津オートグラフAG−1Sを用い、試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で、糸の引っ張り強度を測定したところ、湿熱処理前の強度と比較して強度保持率が65%であることを確認した。
[実施例2]
実施例1記載のポリ乳酸糸を用い、平織り織物とした。浴比1:25のタケネートWD−730(三井ポリウレタン製)の水溶液を、織物に対し25重量%含有する水浴中に、得られた織物を分散させ、処理温度110℃で30分浴中処理を行った。その後風乾させ、7日間エージングを行った。
塩化メチレン50gに対して、処理布帛を0.5g浸積させ、12時間静置した。12時間後に液中を目視で観察した所、不溶成分が残っていた。ポリ乳酸の架橋構造は溶媒に不溶であったことから、ポリ乳酸に架橋構造が形成されていることを確認した。溶解24時間後に不溶成分のみを濾過し乾燥後に重量測定を行い、ゲル化率を算出したところ44%であった。
TOF−SIMSにより繊維断面の薬剤分布を確認したところ、(M1/N1<M2/N2)であることが確認できた。
該布帛を2×15cmの大きさに切り、両面テープを用いて黒画用紙に貼り付け、表1に示した各アイロン温度で15秒間、アイロンを当てることで耐熱性を測定した。その結果、170℃以上でアイロン耐熱性を有していることを確認した。
該布帛に70℃、90%相対湿度(RH)雰囲気で7日間湿熱処理を行った後、布帛から糸を抜き、インストロンジャパン製のインストロンを用いて糸の引っ張り強度を測定したところ、湿熱処理前の強度と比較して強度保持率が65%であることを確認した。
[実施例3]
84dTexの繊度で24本の長繊維から構成されるポリ乳酸糸を経、緯ともに用いた平織り織物を作成した。イソシアネート系化合物であるLUCKSKIN LC4803(セイコー化成製)を布帛重量に対して10重量%含有する超臨界浴中に織物を溶解し、処理温度80℃で30分浴中処理を行った。
塩化メチレン50gに対して、得られた布帛を0.5g浸漬させ、12時間静置した。12時間後に液中を目視で観察した所、不溶成分が残っていた。ポリ乳酸の架橋構造は溶媒に不溶であったことから、ポリ乳酸に架橋構造が形成されていることを確認した。不溶成分のみを濾過し乾燥後に重量測定を行い、ゲル化率を算出したところ34%であった。
TOF−SIMSにより繊維断面の薬剤分布を確認したところ、(M1/N1<M2/N2)であることが確認できた。
該布帛を2×15cmの大きさに切り、両面テープを用いて黒画用紙に貼り付け、表1に示した各アイロン温度で15秒間、アイロンを当てることで耐熱性を測定した。その結果、170℃以上のアイロン耐熱性を有していることを確認した。
該布帛に70℃、90%相対湿度(RH)雰囲気で7日間湿熱処理を行った後、布帛から糸を抜き、インストロンジャパン製のインストロンを用いて糸の引っ張り強度を測定したところ、湿熱処理前の強度と比較して強度保持率が65%であることを確認した。
[比較例1]
実施例1におけるトリアリルイソシアヌレートの水溶液等による処理を行う前のポリ乳酸織物を用いて、実施例1と同様に塩化メチレンによる溶解テストを行った。その結果、不溶成分が確認できなかったため、ポリ乳酸は架橋構造を形成していないことが確認された。
TOF−SIMSにより繊維断面を確認したところ、N1領域とN2領域共に均質であることが確認できた。
該布帛を2×15cmの大きさに切り、両面テープを用いて黒画用紙に貼り付け、表1に示した各アイロン温度で15秒間、アイロンを当てることで耐熱性を測定した。これより170℃で融解することが確認できたため(黒く変色している部分が融解していることを示す)、実施例1〜3では耐熱性が改善されていることが分かった。
実施例1と同様に、該布帛に70℃、90%相対湿度(RH)雰囲気で7日間湿熱処理を行った後、引っ張り試験機により糸強度を測定するために布帛から糸の引き抜きを試みたが、引き抜けないほど劣化しており、実施例1〜3の布帛は耐加水分解性が改善されていることを確認した。

Claims (8)

  1. ポリエステル系繊維がポリエステル繊維のポリマー鎖と、ポリマー鎖とが、多官能性含窒素化合物によって結合されてなるか、または、(2) ポリエステル系繊維のポリマー鎖末端のカルボキシル基末端またはヒドロキシル基末端に、多官能性含窒素化合物が結合してなるポリエステル系繊維か、または、(3)ポリエステル系繊維内で多官能性含窒素化合物がホモポリマを形成しているポリエステル系繊維
    において、繊維の表面から繊維断面重心までの長さをRとした時に、繊維断面重心から表面へR/2以内の繊維内周部(N1)と繊維表面から断面重心へR/2以内の繊維外周部(N2)において、内周部N1の窒素含有量をM1、外周部N2の窒素含有量をM2とした時、窒素含有率差が(M1/N1)<(M2/N2)であることを特徴とするポリエステル系繊維。
  2. 該多官能性含窒素化合物の官能基が、ビニル基、メタクリル基、アクリル基、アリル基、イソシアネート基、グリシジル基およびシラノール基から選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系繊維。
  3. 該多官能性含窒素化合物がヘキサメチレンジイソシアネート系化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル系繊維。
  4. 該ポリエステル系繊維がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル系繊維。
  5. 該ポリ乳酸繊維のポリマー鎖末端のカルボキシル基が7当量/ton以下に封鎖されてなることを特徴とする請求項4に記載のポリエステル系繊維。
  6. 該ポリ乳酸繊維のポリマー鎖末端のカルボキシル基がトリグリシジルイソシアヌレートによって封鎖されてなることを特徴とする請求項4に記載のポリエステル系繊維。
  7. 170℃以上、15秒間のアイロン処理により、不融であることを特徴とする請求項5または6に記載のポリエステル系繊維。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル系繊維を含むことを特徴とする繊維構造物。
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