JP2009238558A - 微生物発電方法および装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】バイポーラ膜によって隔てられた負極室及び正極室を有し、正極室溶液に鉄イオンを含有させた微生物発電装置において、微生物発電量を増大させる。
【解決手段】槽体30内に2枚の板状のバイポーラ膜31,31が互いに平行に配置されることにより、該バイポーラ膜31,31同士の間に負極室32が形成され、該負極室32とそれぞれ該バイポーラ膜31を隔てて2個の正極室33,33が形成されている。正極室33の散気管51に酸素含有ガスを供給して正極溶液を曝気し、負極室に負極溶液Lを供給し、好ましくは負極溶液を循環させる。正極溶液に鉄イオンを含有させる。バイポーラ膜31のアニオン交換面が正極室33に臨み、カチオン交換面が負極室32に臨んでいる。
【選択図】図2
【解決手段】槽体30内に2枚の板状のバイポーラ膜31,31が互いに平行に配置されることにより、該バイポーラ膜31,31同士の間に負極室32が形成され、該負極室32とそれぞれ該バイポーラ膜31を隔てて2個の正極室33,33が形成されている。正極室33の散気管51に酸素含有ガスを供給して正極溶液を曝気し、負極室に負極溶液Lを供給し、好ましくは負極溶液を循環させる。正極溶液に鉄イオンを含有させる。バイポーラ膜31のアニオン交換面が正極室33に臨み、カチオン交換面が負極室32に臨んでいる。
【選択図】図2
Description
本発明は、微生物の代謝反応を利用する発電方法および装置に関する。本発明は特に、有機物を微生物に酸化分解させる際に得られる還元力を電気エネルギーとして取り出す微生物発電方法およびその装置に関する。
近年、地球環境に配慮した発電方法へのニーズが高まり、微生物発電の技術開発も進められている。微生物発電は、微生物が有機物を資化する際に得られる電気エネルギーを取り出すことにより発電する方法である。
一般的に、微生物発電では負極が配置された負極室内に、微生物、微生物に資化される有機物、および電子伝達媒体(電子メディエータ)を共存させる。電子メディエータは微生物体内に入り、微生物が有機物を酸化して発生する電子を受け取って負極に渡す。負極は外部抵抗(負荷)を介して正極と電気的に導通しており、負極に渡された電子は外部抵抗(負荷)を介して正極に移動し、正極と接する電子受容体に渡される。このような電子の移動により正極と負極との間に電流が流れる。
微生物発電では、電子メディエータが微生物体から直接、電子を取り出すため、理論上のエネルギー変換効率は高い。しかし、実際のエネルギー変換効率は低く、発電効率の向上が求められている。そこで、発電効率を高めるため、電極の材料や構造、電子メディエータの種類、および微生物種の選択等について様々な検討および開発が行われている(例えば特許文献1,2、非特許文献1)。
特許文献1には、正極室と負極室とを固体電解質よりなるアルカリイオン導電体で隔て、正極室内及び負極室内をリン酸緩衝液(バッファ)でpH7とし、正極室内に空気を吹き込んで発電を行うことが記載されている。この特許文献1の第0010段落には、正極溶液中に酸化還元試薬としてフェリシアン化カリウムを存在させることが記載されている。
特許文献2及び非特許文献1には、正極室と負極室とをバイポーラ膜で区画し、バイポーラ膜のアニオン交換面を負極室に臨ませ、カチオン交換面を正極室に臨ませ、正極溶液に鉄イオンを含有させ、正極溶液を大気開放容器に循環流通させて2価の鉄イオンを微生物により3価に酸化することが記載されている(特許文献2の第0021,0030,0040段落、第0060〜0065段落及びクレーム10)。
特開2000−133326号公報
WO2007/094658A1
A.T.Heijne,et al,Microbial Fuel Cell Operation with Continuous Biological Ferrous Ion Oxidation of the Catholyte,Emviron.Sci.Technol.,2007,41,4130-4134
正極室での電子受容体として鉄イオンを使用するのは、高い電位(標準水素電極に対し、0.77V)で反応がおこるため、取り出すことができる電力が大きいこと、及び、2価の鉄イオンを容易に3価に酸化できることによる。
しかし、鉄イオンを使用する場合には、鉄イオンが水酸化鉄として析出することを回避するため、pH2.5以下の酸性条件で運転する必要がある。正極室のpHが酸性であるということはプロトン濃度が高いことであり、負極室で生成したプロトンは濃度勾配(pH8とpH2では濃度が106違う)に逆らって正極室へ移動するため、プロトン移動速度が小さくなり、発電量の低下を招く。さらに、負極溶液中に存在するK,Na等のカチオンが濃度勾配にしたがって正極室へ移動し、負極溶液のpH低下と正極溶液のpH上昇を招く。
これを回避するため、特許文献2及び非特許文献1では、バイポーラ膜を、アニオン交換面を負極室に向け、カチオン交換面を正極室にむけて配置している。このようにすることによって、バイポーラ膜のアニオン交換面からはOH−が生成し、このOH−が負極室で生成したプロトンを中和し、カチオン交換面からはプロトンが生成して正極反応が進行する。
しかしながら、この反応では、Na,K等のカチオンがカソードへ移動することは防止できても、プロトン移動を促進することはできないため、発電量は小さい。
本発明は、上記従来の問題点を解決し、正極室と負極室とをバイポーラ膜で隔て、正極溶液に鉄イオンを含有させた微生物発電方法及び装置において、微生物発電の効率を高くすることができる微生物発電方法及び装置を提供することを目的とする。
請求項1の微生物発電方法は、負極を有し、微生物および電子供与体を含む液を保持した負極室と、該負極室に対しバイポーラ膜を介して隔てられており、正極を有し、鉄イオンを含む正極溶液を保持した正極室とを備えた微生物発電装置の該正極溶液に酸素を供給して発電を行う微生物発電方法において、該バイポーラ膜のアニオン交換面を正極室に臨ませ、カチオン交換面を負極室に臨ませたことを特徴とするものである。
請求項2の微生物発電方法は、請求項1において、前記正極溶液のpHが0.9〜2.5であり、鉄イオンの濃度がFeとして1,000〜100,000mg/Lであることを特徴とするものである。
請求項3の微生物発電装置は、負極を有し、微生物および電子供与体を含む液を保持した負極室と、該負極室に対しバイポーラ膜を介して隔てられており、正極を有し、鉄イオンを含む正極溶液を保持した正極室と、該正極溶液に酸素を供給する酸素供給手段と、を備えた微生物発電装置において、該バイポーラ膜のアニオン交換面を正極室に臨ませ、カチオン交換面を負極室に臨ませたことを特徴とするものである。
請求項4の微生物発電装置は、請求項3において、前記正極溶液のpHが0.9〜2.5であり、鉄イオンの濃度がFeとして1,000〜100,000mg/Lであることを特徴とするものである。
本発明は、正極室と負極室とをバイポーラ膜で隔て、正極溶液に鉄イオンを含有させた微生物発電方法及び装置において、バイポーラ膜のアニオン交換面を正極室に臨ませ、カチオン交換面を負極室に臨ませることにより、微生物発電の発電量を著しく増大させるようにしたものである。
このようにバイポーラ膜のアニオン交換面を正極室に臨ませ、カチオン交換面を負極室に臨ませることにより発電量が著しく増大する理由は明確ではないが、次のように推定される。すなわち、上記特許文献3のように、アニオン交換面を負極室に、カチオン交換面を正極室に向けた場合、負極溶液中のアニオン及び正極溶液中のカチオンは、いずれもバイポーラ膜内に侵入できず、バイポーラ膜内部はほぼ純水に近い状態になっている。
これに対し、本発明のように、バイポーラ膜のアニオン交換面を正極室に臨ませ、カチオン交換面を負極室に臨ませるようにした場合、正極溶液中のアニオンがアニオン交換面を通過してバイポーラ膜内部に侵入し、負極室側からはカチオン交換面を通過してプロトンとNa,Kのカチオンがバイポーラ膜内に侵入する。そのため、バイポーラ膜内部は塩類濃度が高い酸性pHになる。このようにバイポーラ膜内が、濃度が高く酸性pHになっていると、負極室側から正極室側に向うプロトンの移動が促進され、発電量が増加する。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
第1図は本発明の実施の形態に係る微生物発電装置の概略的な構成を示す模式的断面図である。
槽体1内がバイポーラ膜2によって正極室3と負極室4とに区画されている。バイポーラ膜2は、そのアニオン交換面が正極室3に臨み、カチオン交換面が負極室4に臨むように配置されている。正極室3内にあっては、バイポーラ膜2に密着するように、導電性多孔質材料よりなる正極5が配置されている。正極5と槽体1の壁面との間のスペースは正極溶液で満たされている。この正極溶液を曝気するように、正極室3内の下部に散気管7が設けられている。この散気管7に空気などの酸素含有ガスが導入され、正極室上部のガス流出口8から曝気排ガスが流出する。なお、曝気に伴って正極溶液が蒸発したり、飛散して減少するので、弁15を有した補給口16から補充用の正極溶液を適宜供給する。
この正極溶液には、鉄イオンが溶解している。鉄イオンの濃度の好ましい範囲については後に詳述する。正極溶液はpH0.9〜2.5程度の酸性となっている。
負極室4内には、導電性多孔質材料よりなる負極6が配置されている。この負極6は、バイポーラ膜2に密着しており、負極6からバイポーラ膜2にプロトン(H+)が受け渡し可能となっている。
この多孔質材料よりなる負極6に微生物が担持されている。負極室4には流入口4aから負極溶液Lを導入し、流出口4bから廃液を排出させる。なお、負極室4内は嫌気性とされる。
負極室4内の負極溶液Lは循環往口9、循環配管10、循環用ポンプ11及び循環戻口12を介して循環される。この循環配管10には、負極室4から流出してきた液のpHを測定するpH計14が設けられると共に、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ添加用配管13が接続されている。
散気管7に空気を供給して正極室3内の正極溶液を曝気すると共に、必要に応じポンプ11を作動させて負極溶液Lを循環させることにより、
(有機物)+H2O→CO2+H++e−
なる反応が進行する。この電子e−が負極6、端子22、外部抵抗21、端子20を経て正極5へ流れる。
(有機物)+H2O→CO2+H++e−
なる反応が進行する。この電子e−が負極6、端子22、外部抵抗21、端子20を経て正極5へ流れる。
上記反応で生じたプロトンH+は、バイポーラ膜2を通って正極5に移動する。正極5では、
O2+4H++4e−→2H2O
なる反応が進行する。このような反応により、正極5と負極6との間に起電力が生じ、端子20,22を介して外部抵抗21に電流が流れる。
O2+4H++4e−→2H2O
なる反応が進行する。このような反応により、正極5と負極6との間に起電力が生じ、端子20,22を介して外部抵抗21に電流が流れる。
正極溶液に鉄イオンが存在することにより、正極での反応が促進される。この反応機構については後に詳述する。
負極室4では、微生物による水の分解反応によりCO2が生成することにより、pHが低下しようとする。そこで、pH計14の検出pHが好ましくは7〜9となるようにアルカリが負極溶液Lに添加される。このアルカリは、負極室6に直接に添加されてもよいが、循環水に添加することにより、負極室6内の全域を部分的な偏りなしにpH7〜9に保つことができる。
第2図は本発明の別の実施の形態に係る微生物発電装置の概略的な断面図である。
略直方体形状の槽体30内に2枚のバイポーラ膜31が互いに平行に配置されることにより、該バイポーラ膜31,31同士の間に負極室32が形成され、該負極室32とそれぞれ該バイポーラ膜31を隔てて2個の正極室33,33が形成されている。バイポーラ膜31は、そのアニオン交換面が正極室33に臨み、カチオン交換面が負極室32に臨むように配置されている。
負極室32内には、各バイポーラ膜31と密着するように、多孔質材料よりなる負極34が配置されている。負極34は、バイポーラ膜31に対し軽く(例えば0.1kg/cm2以下の圧力で)押し付けられている。
正極室33内には、バイポーラ膜31と接して多孔質材料よりなる正極35が配置されている。この正極35は、ゴム等よりなるスペーサ36に押圧されてバイポーラ膜31に軽く(例えば0.1kg/cm2以下の圧力で)押し付けられて密着している。正極35とバイポーラ膜31との密着性を高めるために、両者を溶着したり、部分的に接着剤で接着してもよい。
この正極35及び負極34は、端子37,39を介して外部抵抗38に接続されている。
正極35と槽体30の側壁との間のスペースは正極溶液が満たされている。各正極室33内の下部に散気管51が設置され、正極溶液が曝気可能とされている。曝気排ガスは、正極室33の上部のガス流出口52から流出する。なお、図示は省略するが、各正極室33に対し正極溶液を補充するように補給口が設けられている。正極溶液には鉄イオンが溶解している。また、正極溶液はpH0.9〜2.5程度の酸性となっている。
負極室32には、流入口32aから負極溶液Lが導入され、流出口32bから廃液が流出する。負極室32内は嫌気性とされる。
負極室32内の負極溶液は、循環往口41、循環配管42、循環ポンプ43及び循環戻口44を介して循環される。この循環配管42に、pH計47が設けられると共に、アルカリ添加用配管45が接続されている。負極室32から流出する負極溶液のpHをpH計47で検出し、このpHが好ましくは7〜9となるように水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリが添加される。
この第2図の微生物発電装置においても、散気管51に酸素含有ガスを供給して正極室33内の正極溶液を曝気すると共に、負極室32に負極溶液を流通させ、好ましくは負極溶液を循環させることにより、正極35と負極34との間に電位差が生じ、外部抵抗38に電流が流れる。
第1,2図では、散気管を正極室3,33内に配置して正極室3,33内で正極溶液の曝気を行っているが、正極室内の正極溶液を別の曝気室に導入して曝気してもよい。
第3図は、第2図の微生物発電装置において、正極室とは別個に曝気室63を設けた実施の形態を示している。
この第3図の実施の形態では、正極室33内の正極溶液を取出口61から配管62及びポンプ66を介して曝気室63に導入し、散気管63aで曝気する。曝気排ガスは曝気室の排ガス流出口63bから流出する。曝気処理された正極溶液は、配管64及び戻口65を介して正極室33に戻る。
正極室33には曝気排ガス流出口52は設けられていないが、ガスベント部を設けてもよい。当然ながら、正極室33内には散気管は設けられていない。
この正極溶液も、鉄イオンが溶解しており、また、pH0.9〜2.5の酸性となっている。
この第3図の微生物発電装置のその他の構成は第2図と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
この第3図の微生物発電装置においても、正極室33内の正極溶液を曝気室63を介して循環させ、該曝気室63内で曝気すると共に、負極室32に負極溶液を流通させ、好ましくは負極溶液を循環させることにより、正極35と負極34との間に電位差が生じ、外部抵抗38に電流が流れる。
次に、この微生物発電装置の微生物、負極溶液、正極溶液などのほか、バイポーラ膜、負極及び正極の好適な材料等について説明する。
負極溶液L中に含有させることで電気エネルギーを産生させる微生物は、電子供与体としての機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、Saccharomyces、Hansenula、Candida、Micrococcus、Staphylococcus、Streptococcus、Leuconostoa、Lactobacillus、Corynebacterium、Arthrobacter、Bacillus、Clostridium、Neisseria、Escherichia、Enterobacter、Serratia、Achromobacter、Alcaligenes、Flavobacterium、Acetobacter、Moraxella、Nitrosomonas、Nitorobacter、Thiobacillus、Gluconobacter、Pseudomonas、Xanthomonas、Vibrio、Comamonas及びProteus(Proteus vulgaris)の各属に属する細菌、糸状菌、酵母などを挙げることができる。このような微生物を含む汚泥として下水等の有機物含有水を処理する生物処理槽から得られる活性汚泥、下水の最初沈澱池からの流出水に含まれる微生物、嫌気性消化汚泥等を植種として負極室に供給し、微生物を負極に保持させることができる。発電効率を高くするためには、負極室内に保持される微生物量は高濃度であることが好ましく、例えば微生物濃度は1〜50g/Lであることが好ましい。
負極溶液Lとしては、微生物又は細胞を保持し、かつ発電に必要な組成を有する有機物を含んだ溶液が用いられる。例えば、呼吸系の発電を行う場合は、負極側の溶液としては、ブイヨン培地、M9培地、L培地、Malt Extract、MY培地、硝化菌選択培地などの呼吸系の代謝を行うのに必要なエネルギー源や栄養素などの組成を有する培地が利用できる。また、下水、有機性産業排水、生ゴミ等の有機性廃棄物を破砕物の分散液などを用いることができる。負極溶液L中の有機物としては、微生物によって分解されるものであれば特に制限はなく、例えば水溶性の有機物、水中に分散する有機物微粒子などが用いられる。負極溶液L中の有機物濃度は、発電効率を高くするために100〜10000mg/L程度の高濃度であることが好ましい。
負極溶液L中には、微生物又は細胞からの電子の引き抜きをより容易とするために電子メディエーターを含有させてもよい。この電子メディエーターとしては、例えば、チオニン、ジメチルジスルホン化チオニン、ニューメチレンブルー、トルイジンブルー−O等のチオニン骨格を有する化合物、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン等の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン骨格を有する化合物、ブリリアントクレジルブルー、ガロシアニン、レソルフィン、アリザリンブリリアントブルー、フェノチアジノン、フェナジンエソスルフェート、サフラニン−O、ジクロロフェノールインドフェノール、フェロセン、ベンゾキノン、フタロシアニン、あるいはベンジルビオローゲン及びこれらの誘導体などを挙げることができる。
さらに、微生物の発電機能を増大させるような材料、例えばビタミンCのような抗酸化剤や、微生物中の特定の電子伝達系や物質伝達系のみを働かせる機能増大材料を溶解すると、さらに効率よく電力を得ることができるので好ましい。
負極溶液Lは、必要に応じ、リン酸バッファを含有していてもよい。
負極溶液の温度は10〜70℃程度が好ましい。
正極溶液としては、鉄イオンを含むものが用いられる。具体的には、硫酸鉄、塩化鉄、ポリ硫酸鉄などの少なくとも1種よりなる可溶性鉄塩が溶解しているものが好ましい。鉄イオンは、Feに換算して好ましくは1,000〜100,000mg/L、より好ましくは5,000〜20,000mg/Lの濃度で存在させることが好ましい。鉄イオンの存在量が少なすぎると、正極35と鉄イオンとの間での電子受容反応および、還元された鉄イオンの酸化再生反応が遅くなる。
正極室には、微生物発電装置の運転開始時に鉄イオンを存在だけでなく、運転を開始した後にマンガン塩水溶液をさらに添加する等して鉄イオンを追加的に供給してもよい。
正極溶液は、pH0.9〜2.5の酸性であることが好ましく、pHをこのような範囲とするために、硫酸を添加するのが好ましい。
2価の鉄イオンは、酸素含有ガスの曝気によって酸化されて3価となり、この3価の鉄イオンがFe3++H++e−→Fe2++OH−のように反応して、正極室における電子消費反応に寄与する。この反応によりFe2+に還元された鉄イオンは、曝気によってFe3+に酸化される。
2価の鉄イオンを含む正極溶液を、pH2〜3程度の酸性条件にして曝気することで、2価の鉄イオンを直接的に3価に酸化させることができる(酸素酸化)。また、正極溶液を酸性とすることにより、鉄イオンが水酸化鉄となって沈殿することが防止される。
上記の曝気による2価の鉄イオン3価への酸化は、遅いので鉄酸化細菌を利用した生物酸化で酸化することが好ましい。生物酸化を行う場合、曝気を行う室に鉄酸化細菌を添加する。鉄酸化細菌は、下水を処理する生物処理槽等に保持される活性汚泥、最初沈殿池の流出水、および河川水等に常在している。よって、微生物発電装置の運転開始時に、曝気を行う正極室又は曝気室にこれらの鉄酸化細菌源を少量、接種すればよい。鉄酸化細菌で鉄イオンの酸化を行う場合も、正極溶液のpHを0.9〜2.5程度にして曝気を行うことにより、鉄イオンが水酸化鉄となって沈殿することが防止される。生物酸化を行う場合、正極溶液には微生物の必須栄養塩類である窒素成分(例えば塩化アンモニウム)およびリン成分(例えばリン酸塩)を含ませておくのが好ましい。
曝気量は、酸素酸化の場合、生物酸化の場合とも、正極溶液の溶存酸素(DO)濃度を測定した場合にDOが検出される程度(例えば0.5mg/L以下)であればよい。
正極溶液を正極室とは別の曝気室で曝気する場合、曝気室の容積は正極室の容積と同等以下でよい。具体的には、酸素酸化を行う場合、曝気室容積は正極室容積と同等〜1/20程度でよい。生物酸化を行う場合、曝気室容積は酸素酸化を行う場合より小さくてよく、具体的には正極室容積と同等〜1/100程度とすればよい。
曝気室の生物反応の方式は限定されず、固定床、浮遊法、流動床のいずれでもよい。曝気室内の微生物濃度は100〜1,000mg/L程度の範囲で高濃度であることが好ましく、固定床および流動床方式を採用すれば、単位容積あたりの微生物濃度を高くできるので、好ましい。
正極溶液を曝気するための酸素含有ガスとしては、空気が好適である。正極室からの排ガスを、必要に応じ脱酸素処理した後、負極室に通気し、負極溶液Lからの溶存酸素のパージに用いてもよい。
バイポーラ膜としては、正極室側がアニオン交換面となっており、負極室側がカチオン交換面となっているものであるいずれのものも用いることができる。バイポーラ膜には、アニオン交換膜とカチオン交換膜とを積層したものなど各種製造方法によって製造されたものがあるが、いずれのものも用いることができる。
負極は、多くの微生物を保持できるよう、表面積が大きく空隙が多く形成され通水性を有する多孔体が好ましい。具体的には、少なくとも表面が粗とされた導電性物質のシートや導電性物質をフェルト状その他の多孔性シートにした多孔性導電体(例えばグラファイトフェルト、発泡チタン、発泡ステンレス等)が挙げられる。このような多孔質の負極を区隔材に密着させた場合、電子メディエータを用いることなく、微生物反応で生じた電子が負極に渡るようになり、電子メディエータを不要とすることができる。
負極は、フェルト等の繊維体よりなることが好ましい。かかる負極は、負極室厚みよりも大きい厚さを有する場合、それを押し縮めて負極室に挿入し、それ自身の復元弾性によって区隔材に密着するようになる。ただし、負極は、適宜のスペーサ(例えばハニカムスペーサ)によってバイポーラ膜31に押し付けられてもよい。
複数のシート状導電体を積層して負極としてもよい。この場合、同種の導電体シートを積層してもよく、異なる種類の導電体シート同士(例えばグラファイトフェルトと粗面を有するグラファイトシート)を積層してもよい。
負極は全体の厚さが3mm以上50mm以下、特に5〜40mm程度であることが好ましい。積層シートによって負極を構成した場合、シート同士の合わせ面(積層面)に沿って液が流れるように、積層面を液の流入口と流出口とを結ぶ方向に配向させるのが好ましい。
正極は、フェルト状又は多孔質状の、酸性の正極溶液によって腐食しない導電性材料、例えばグラファイトフェルト、発泡ステンレス、発泡チタン等で構成される。多孔質材の場合、空隙の直径が0.01〜1mm程度であることが好ましい。正極としては、区隔材と密着させやすい形状(例えば板状)にこれら導電性材料を成形されたものを用いることが好ましい。正極の厚みは2〜50mmであることが好ましい。正極室内に鉄酸化細菌を存在させて生物酸化を行う場合、正極は30〜50mm程度の厚みがある方が微生物保持量を大きくでき、好ましい。
本発明では、負極室を複数の分室に分割し、各分室を直列接続することで各分室でのpH低下を抑制した上で負極室内の液のpHを調整するようにしてもよい。負極室を分割すれば、各分室での有機物分解量が小さくなる結果、炭酸ガスの生成量も小さくなるため、各分室でのpH低下を少なくできる。負極室を流れる液には、前段側の分室から後段側の分室へ流れる際にアルカリを添加すればよい。このようにすれば、前段側の分室でpHが低下した液のpHを上げて後段側の分室へ流入させることができ、負極室内の液のpHを上記範囲に調整することが容易になる。
以下、比較例及び実施例について説明する。まず、比較例について説明する。
[比較例1]
第2図において、バイポーラ膜31のアニオン交換面が負極室に臨み、カチオン交換面が正極室に臨んでいること以外は第2図に示した構成の微生物発電装置を作成した。この発電装置の槽体30の全体の容積は700mL、負極室32の容積は350mL、各正極室33の容積は175mLである。各正極室33には上部に空気流出口を設け、下部に散気管51を設けた。
第2図において、バイポーラ膜31のアニオン交換面が負極室に臨み、カチオン交換面が正極室に臨んでいること以外は第2図に示した構成の微生物発電装置を作成した。この発電装置の槽体30の全体の容積は700mL、負極室32の容積は350mL、各正極室33の容積は175mLである。各正極室33には上部に空気流出口を設け、下部に散気管51を設けた。
バイポーラ膜31としてアストム株式会社製バイポーラ膜を用い、上記の通り、そのアニオン交換面を負極室に臨ませ、カチオン交換面を正極室に臨ませた。
負極34としては、250mm×70mmで厚さ10mmのグラファイトフェルト(東洋カーボン株式会社製)2枚を導電性接着剤で張り合わせて構成した。接着剤は、グラファイトフェルトの面に部分的に(面全体の10%程度)に塗布し(いわゆる「ベタ塗り」を避け)、互いに向かい合うグラファイトフェルトの面の微小な凹凸が接着剤で埋められてしまわないようにした。各グラファイトフェルトの両表面は粗面である。なお、2枚のカーボンフェルトの積層体は負極室32と同じ大きさを有したものであり、負極室32内全体に充填され、バイポーラ膜31に接触している。
この微生物発電装置は、従って、負極室32に供給された液はすべて多孔性の負極34を透過するように構成されており、負極34内を通らずに負極室32を通過すること(ショートパス)が実質的にないよう構成されている。
負極室32には種菌として下水処理場の生物処理槽から採取した活性汚泥を添加して培養し、負極を構成する各グラファイトフェルトの表面に微生物を付着させた。負極室32内の微生物濃度は約2200mg/Lであった。
正極35は、それぞれ、厚さ5mmのグラファイトフェルト1枚で構成した。厚さ5mmのハニカムスペーサ36を配置し、正極35をバイポーラ膜31に接触させた。
正極室33内は、濃度5,000mg/Lの硫酸第1鉄と500mg/LのNH4Cl、50mg/Lのリン酸カリウム、および50mg/Lの硫酸マグネシウムを含み、硫酸によってpH2とされた正極溶液で満たした。
正極溶液に下水活性汚泥を10mL添加した後、1L/minにて散気管51に空気を通気して曝気した。負極室32には、下水活性汚泥を10mL添加した後、1,000mg/Lの濃度の酢酸と、50mMの濃度のリン酸バッファと、塩化アンモニウム300mg/Lとを含む負極溶液を70mL/minの流入量で供給し、同量の廃液を排出させた。
循環配管42の循環流量は10mL/minとした。pH計47の検出pHが約8.2となるように1Nの水酸化ナトリウムを循環液に添加した。外部抵抗は5Ωとした。
上記条件で、運転を開始したところ、発電電圧は3日後に270mVまで上昇し、2週間にわたって260〜270mVの安定した電圧となった。このときの負極1m3当りの発電電力は40W/m3であった。
その後、この比較例1において、外部抵抗を1Ωから33Ωまで変化させて、内部抵抗を測定した。結果を第4図に示す。内部抵抗は約5Ω、回路開放電圧は0.74Vであった。
[実施例1]
比較例1において、バイポーラ膜31の向きを逆にして、アニオン交換面を正極室に臨ませ、カチオン交換面を負極室に臨ませたこと以外は実施例1と同じ条件にて微生物発電を行った。なお、比較例1と同じく、外部抵抗を5Ωとした。
比較例1において、バイポーラ膜31の向きを逆にして、アニオン交換面を正極室に臨ませ、カチオン交換面を負極室に臨ませたこと以外は実施例1と同じ条件にて微生物発電を行った。なお、比較例1と同じく、外部抵抗を5Ωとした。
その結果、運転開始翌日には電圧が500mVを超えた。そこで、外部抵抗を1Ωにしたところ、電圧は230mVで安定した。これは、2週間の運転期間中、ほぼ一定であった。したがって、この間の発電電力は、負極1m3あたり、約150W/m3であった。
その後、この実施例1において、外部抵抗を1Ωから33Ωまで変化させて、内部抵抗を測定した。結果を第5図に示す。第5図の通り、内部抵抗は約2.5Ωと比較例1の1/2になり、また、回路開放電圧も0.75Vと0.1V上昇した。
これらの実施例1と比較例1との対比より、本発明例によると発電電力が3倍以上増大することが認められた。
1,30 槽体
2,31 バイポーラ膜
3,33 正極室
4,32 負極室
5,35 正極
6,34 負極
7,51,63a 散気管
63 曝気室
2,31 バイポーラ膜
3,33 正極室
4,32 負極室
5,35 正極
6,34 負極
7,51,63a 散気管
63 曝気室
Claims (4)
- 負極を有し、微生物および電子供与体を含む液を保持した負極室と、
該負極室に対しバイポーラ膜を介して隔てられており、正極を有し、鉄イオンを含む正極溶液を保持した正極室と
を備えた微生物発電装置の該正極溶液に酸素を供給して発電を行う微生物発電方法において、
該バイポーラ膜のアニオン交換面を正極室に臨ませ、カチオン交換面を負極室に臨ませたことを特徴とする微生物発電方法。 - 請求項1において、前記正極溶液のpHが0.9〜2.5であり、鉄イオンの濃度がFeとして1,000〜100,000mg/Lであることを特徴とする微生物発電方法。
- 負極を有し、微生物および電子供与体を含む液を保持した負極室と、
該負極室に対しバイポーラ膜を介して隔てられており、正極を有し、鉄イオンを含む正極溶液を保持した正極室と、
該正極溶液に酸素を供給する酸素供給手段と、
を備えた微生物発電装置において、
該バイポーラ膜のアニオン交換面を正極室に臨ませ、カチオン交換面を負極室に臨ませたことを特徴とする微生物発電装置。 - 請求項3において、前記正極溶液のpHが0.9〜2.5であり、鉄イオンの濃度がFeとして1,000〜100,000mg/Lであることを特徴とする微生物発電装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2008082687A JP2009238558A (ja) | 2008-03-27 | 2008-03-27 | 微生物発電方法および装置 |
Applications Claiming Priority (1)
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2018530861A (ja) * | 2015-08-24 | 2018-10-18 | ケミラ ユルキネン オサケイティエKemira Oyj | 微生物燃料電池の汚染を低減する方法、洗浄剤組成物及びその使用方法 |
CN110684645A (zh) * | 2019-11-25 | 2020-01-14 | 中国科学院天津工业生物技术研究所 | 用于微藻自养的高效供碳或氮装置 |
-
2008
- 2008-03-27 JP JP2008082687A patent/JP2009238558A/ja active Pending
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CN110684645A (zh) * | 2019-11-25 | 2020-01-14 | 中国科学院天津工业生物技术研究所 | 用于微藻自养的高效供碳或氮装置 |
CN110684645B (zh) * | 2019-11-25 | 2022-04-22 | 中国科学院天津工业生物技术研究所 | 用于微藻自养的高效供碳或氮装置 |
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