JP2009236259A - 電食防止用絶縁転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】電食防止と、高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とを高次元で並立させる。
【解決手段】内輪1の表面のうちで内輪軌道2以外の面を、セラミックス製の絶縁層7により被覆する。この内輪1を、Cを0.10〜0.60質量%、Siを0.10〜1.00質量%、Mnを0.40〜1.00質量%、Crを0.50〜2.00質量%含み、残部をFe及び不可避不純物とした鋼材により造る。この鋼材に、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施し、表層部にCを0.80〜1.40質量%含むものとする。又、上記内輪軌道2の表層部分の残留オーステナイト量を10〜30容量%とし、上記内輪1全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする。
【選択図】図1
【解決手段】内輪1の表面のうちで内輪軌道2以外の面を、セラミックス製の絶縁層7により被覆する。この内輪1を、Cを0.10〜0.60質量%、Siを0.10〜1.00質量%、Mnを0.40〜1.00質量%、Crを0.50〜2.00質量%含み、残部をFe及び不可避不純物とした鋼材により造る。この鋼材に、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施し、表層部にCを0.80〜1.40質量%含むものとする。又、上記内輪軌道2の表層部分の残留オーステナイト量を10〜30容量%とし、上記内輪1全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする。
【選択図】図1
Description
この発明は、汎用或いは鉄道車両用の電動モータの回転軸、発電機或いはCTスキャナ等の医療用機器の回転軸の様に、電流が流れる可能性がある回転支持部に組み込む電食防止用絶縁転がり軸受の改良に関する。
電動モータや発電機等、各種電気機器等の回転軸を支承する為の転がり軸受の場合、対策を講じないと、転がり軸受自体に、帰路電流、モータ軸電流等の電流が流れてしまう。転がり軸受に電流が流れた場合、電流の通路となる部分の腐食が進む、所謂電食が発生して、転がり軸受の寿命を著しく短縮してしまう。この様な電食の発生を防止する為、転がり軸受を構成する外輪や内輪の表面に絶縁層を形成する事で、転がり軸受に電流が流れない様にする電食防止用絶縁転がり軸受が、例えば特許文献1に記載されている様に、従来から各種知られている。
上記特許文献1に記載される等により従来から知られている電食防止用絶縁転がり軸受は何れも、転がり軸受を構成する軌道輪のうちで、相手部材の嵌合支持する部分に、セラミックス、合成樹脂等の絶縁層を形成して成るもので、例えば図1に示す様に構成されている。転がり軸受は、内輪1の外周面に形成した内輪軌道2と外輪3の内周面に形成した外輪軌道4との間に複数の転動体5を設ける事で、上記内輪1と外輪3との相対的回転を自在としている。これら各転動体5は、環状の保持器6により、円周方向等間隔に配置した状態で、転動自在に保持している。そして、上記内輪1の内周面及び軸方向両端面に、セラミックス溶射層である絶縁層7を形成している。この様な電食防止用絶縁転がり軸受の場合、上記内輪1を金属製の回転軸に外嵌支持した状態では、上記絶縁層7が、これら内輪1と回転軸とを絶縁する。この結果、これら内輪1と回転軸との間に電流が流れなくなり、上記転がり軸受の構成各部材1、3、5に、上述した様な電食が発生しなくなる。尚、絶縁層7を形成する軌道輪を、図示の様な内輪1に代えて、外輪3とする構造も、上記特許文献1に記載されている。
上述の様な電食防止用絶縁転がり軸受の場合、上記絶縁層7を形成した軌道輪(図示の例では内輪1)の温度が、一般的な転がり軸受に比べて上昇し易い。この理由は、上記絶縁層7の熱伝導率が低く(電気絶縁性だけでなく熱絶縁性も有する)為、軌道(図示の例では内輪軌道2)と各転動体5との転がり接触に伴って発生した熱が外部(例えば鋼製の回転軸)に伝わりにくい為である。この様な理由で、上記絶縁層7を形成した軌道輪の温度は上昇し易いが、この軌道輪の温度が上昇すると、何らの対策も施さない場合には、この軌道輪の寸法が変化する。この軌道輪が内輪1であった場合、この寸法変化が内輪1の直径拡大(内輪膨張)として出現し、次の様な問題を生じる。先ず第一に、転がり軸受の内部隙間が減少して、上記各転動体5の転動面と、前記内輪軌道2及び前記外輪軌道4との転がり接触部の面圧が高くなる。そして、転がり軸受を設計する際に規定した許容面圧を上回って、この転がり軸受の耐久性確保が難しくなる。第二に、上記内輪1の内径寸法の増大により、この内輪1と回転軸との嵌め合い代が減少し、これら内輪1と回転軸とが相対回転するクリープが発生し易くなる。そして、このクリープが発生した場合には、上記内輪1の内周面と上記回転軸の外周面との一方又は双方の周面が摩耗し、これら内輪1と回転軸との嵌合部にがたつきが発生する。
この様な、上記絶縁層7を設けた軌道輪の温度上昇に伴って発生する不都合は、この軌道輪を構成する鋼材に高温寸法安定化処理を施すか、この鋼材として高温寸法安定材を使用する事で解決できる。このうち、高温寸法安定化処理としては、コスト面や生産面の観点から、高温焼き戻し処理を施す事により、残留オーステナイト量を2容量%以下とする事が一般的である。他の高温寸法安定化処理としては、2回焼き戻し処理により、残留オーステナイト量を2容量%以下とする処理がある。
但し、これら従来から知られている寸法安定化処理では、残留オーステナイトが、上記各転動体5の転動面と転がり接触する、上記内輪軌道2(或いは上記外輪軌道4)の最表面部分からも除去されてしまう。この内輪軌道2(或いは上記外輪軌道4)の最表面部分に存在する残留オーステナイトは、この内輪軌道2(或いは上記外輪軌道4)の転がり疲れ寿命確保の面からは有効に作用する為、上記最表面部分の残留オーステナイト迄も除去される事は好ましくない。具体的には、この最表面部分の残留オーステナイトが過小になると、転がり軸受の定格寿命{玉軸受の場合に(C/P)3 、ころ軸受の場合に(C/P)10/3}を満足する事が難しくなる。
但し、これら従来から知られている寸法安定化処理では、残留オーステナイトが、上記各転動体5の転動面と転がり接触する、上記内輪軌道2(或いは上記外輪軌道4)の最表面部分からも除去されてしまう。この内輪軌道2(或いは上記外輪軌道4)の最表面部分に存在する残留オーステナイトは、この内輪軌道2(或いは上記外輪軌道4)の転がり疲れ寿命確保の面からは有効に作用する為、上記最表面部分の残留オーステナイト迄も除去される事は好ましくない。具体的には、この最表面部分の残留オーステナイトが過小になると、転がり軸受の定格寿命{玉軸受の場合に(C/P)3 、ころ軸受の場合に(C/P)10/3}を満足する事が難しくなる。
一方、特許文献2には、転がり軸受を構成する内輪と外輪と各転動体とを、Cを0.10〜1.00質量%、Siを0.15〜1.00質量%、Mnを0.20〜1.50質量%、Crを0.50〜3.00質量%含み、残部をFe及び不可避不純物とした鋼材により造り、少なくとも内輪全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とすると共に、上記各転動体の平均残留オーステナイト量を20〜30容量%とした、転がり軸受に関する発明が記載されている。上記特許文献2には、この様な構成を採用する事により、高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とを両立させられるとしている。但し、上記特許文献2に記載された発明の場合には、前述した様な帰路電流やモータ軸電流等に基づく電食防止に就いては考慮していない。一般産業用機器や風力発電機の回転支持部に組み込まれる転がり軸受には、点検や交換が非常に難しい場合が多い為、メンテナンスフリーの要求が高く、高耐久性、長寿命が要求されるだけでなく、上記電食防止の為に、上記帰路電流やモータ軸電流等の電流を絶縁する機能が求められる。
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、電食防止と、高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とを高次元で並立させる事ができる電食防止用絶縁転がり軸受を実現すべく発明したものである。
本発明の電食防止用絶縁転がり軸受は何れも、前述の特許文献1に記載された電食防止用絶縁転がり軸受と同様に、外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有し、この内輪と同心に配置された外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた、それぞれが金属製である複数個の転動体とを備える。
そして、上記内輪と上記外輪とのうちの何れかであって、鋼製である一方の軌道輪の表面のうちで軌道面を設けた面以外の面を、少なくとも99.0質量%以上のアルミナ(Al2 O3 )と0.01〜0.20質量%の酸化チタン(チタニア、TiO2 )とを含むセラミックス製の絶縁層により被覆している。
そして、上記内輪と上記外輪とのうちの何れかであって、鋼製である一方の軌道輪の表面のうちで軌道面を設けた面以外の面を、少なくとも99.0質量%以上のアルミナ(Al2 O3 )と0.01〜0.20質量%の酸化チタン(チタニア、TiO2 )とを含むセラミックス製の絶縁層により被覆している。
特に、本発明の電食防止用絶縁転がり軸受のうち、請求項1に記載した電食防止用絶縁転がり軸受に於いては、上記絶縁層を設けた軌道輪を、C(炭素)を0.10〜0.60質量%、Si(珪素)を0.10〜1.00質量%、Mn(マンガン)を0.40〜1.00質量%、Cr(クロム)を0.50〜2.00質量%含み、残部をFe(鉄)及び不可避不純物とした鋼材により造る。そして、この鋼材に浸炭処理又は浸炭窒化処理を施し、表層部にCを0.80〜1.40質量%含むものとする。
この様な請求項1に記載した電食防止用絶縁転がり軸受を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記絶縁層を設けた軌道輪の周面に形成した軌道の表層部分(表面から深さ100μm迄の範囲)の残留オーステナイト量を10〜30容量%とする。又、この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする。
更に、請求項3に記載した発明の場合には、上記請求項1に記載した発明とは独立して、上記絶縁層を設けた軌道輪の周面に形成した軌道の表層部分の残留オーステナイト量を10〜30容量%とし、この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする。
この様な請求項1に記載した電食防止用絶縁転がり軸受を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記絶縁層を設けた軌道輪の周面に形成した軌道の表層部分(表面から深さ100μm迄の範囲)の残留オーステナイト量を10〜30容量%とする。又、この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする。
更に、請求項3に記載した発明の場合には、上記請求項1に記載した発明とは独立して、上記絶縁層を設けた軌道輪の周面に形成した軌道の表層部分の残留オーステナイト量を10〜30容量%とし、この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする。
上述の様に構成する本発明の電食防止用絶縁転がり軸受によれば、電食防止と、高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とを高次元で並立させる事ができる。
先ず、一方の軌道輪の表面のうちで軌道面を設けた面以外の面をセラミックス製の絶縁層により被覆している為、帰路電流やモータ軸電流等の電流を絶縁して電食を防止できる。尚、上記絶縁層中のアルミナの割合を99.0質量%とする事で、十分な絶縁性を確保できる。これに対して、上記絶縁層中に0.01〜0.20質量%の酸化チタンを含有させる事で、必要とする絶縁性を確保しつつ、上記絶縁層の加工コストの上昇を抑えられる。この点に就いて、以下に説明する。
先ず、一方の軌道輪の表面のうちで軌道面を設けた面以外の面をセラミックス製の絶縁層により被覆している為、帰路電流やモータ軸電流等の電流を絶縁して電食を防止できる。尚、上記絶縁層中のアルミナの割合を99.0質量%とする事で、十分な絶縁性を確保できる。これに対して、上記絶縁層中に0.01〜0.20質量%の酸化チタンを含有させる事で、必要とする絶縁性を確保しつつ、上記絶縁層の加工コストの上昇を抑えられる。この点に就いて、以下に説明する。
本発明の電食防止用絶縁転がり軸受を組み込む電動機や発電機は、インバータ制御であり、スイッチング時の騒音を低減する目的で、キャリア周波数が高くなる傾向にある為、上記電動機や発電機の回転支持部に組み込まれた転がり軸受を流れようとする電流も高周波となる。従って、上記電食防止用絶縁転がり軸受の絶縁性能を十分に確保する為には、上記絶縁層に高いインピーダンス特性が要求される。この絶縁層のインピーダンスZは次の(1)式で表せるが、このインピーダンスZを大きくする為には、この絶縁層の静電容量Cを小さくする必要がある。
|Z|=[{(R2 )-1+(2π・f・C)2 }1/2 ]-1 −−− (1)
但し、
R : 抵抗値(Ω)
f : 周波数(Hz)
C : 静電容量(F)
又、この静電容量Cは、次の(2)式で表せる。
C=ε0 ・εr ・A/S −−− (2)
但し、
ε0 : 真空中の誘電率(8.854×10-12 F/m)
εr : 比誘電率
A : 絶縁面積(m2 )
S : 発電体からの距離(m)
この(2)式から明らかな通り、セラミックス等の比誘電率の低い材料を用いれば、静電容量Cを小さくできる。本発明では、上記絶縁層として、アルミナを主成分とするセラミックス製の溶射皮膜を使用している。上記比誘電率は、アルミナの純度を高くする程低くできて、絶縁性能の向上を図れる。但し、アルミナの生成段階で不可避的に混入する不純物を考慮した場合、アルミナの純度を過度に高くする事はコストの上昇を招く。そこで、アルミナの純度は、十分な絶縁性能を確保できる99.0質量%以上とした。一方、酸化チタンの含有量が高くなると上記比誘電率が高くなり、絶縁性能確保の面からは不利になる。そこで、酸化チタンの含有量の上限を、必要な絶縁性能を確保できる範囲で、0.20質量%とした。これに対して、チタニアの含有量の下限を、著しいコスト上昇を招かない程度の、0.01質量%とした。
|Z|=[{(R2 )-1+(2π・f・C)2 }1/2 ]-1 −−− (1)
但し、
R : 抵抗値(Ω)
f : 周波数(Hz)
C : 静電容量(F)
又、この静電容量Cは、次の(2)式で表せる。
C=ε0 ・εr ・A/S −−− (2)
但し、
ε0 : 真空中の誘電率(8.854×10-12 F/m)
εr : 比誘電率
A : 絶縁面積(m2 )
S : 発電体からの距離(m)
この(2)式から明らかな通り、セラミックス等の比誘電率の低い材料を用いれば、静電容量Cを小さくできる。本発明では、上記絶縁層として、アルミナを主成分とするセラミックス製の溶射皮膜を使用している。上記比誘電率は、アルミナの純度を高くする程低くできて、絶縁性能の向上を図れる。但し、アルミナの生成段階で不可避的に混入する不純物を考慮した場合、アルミナの純度を過度に高くする事はコストの上昇を招く。そこで、アルミナの純度は、十分な絶縁性能を確保できる99.0質量%以上とした。一方、酸化チタンの含有量が高くなると上記比誘電率が高くなり、絶縁性能確保の面からは不利になる。そこで、酸化チタンの含有量の上限を、必要な絶縁性能を確保できる範囲で、0.20質量%とした。これに対して、チタニアの含有量の下限を、著しいコスト上昇を招かない程度の、0.01質量%とした。
又、絶縁層を設けた軌道輪を、次の(1)(2)に示した2通りの条件の一方又は双方を満たすものとする事で、高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とを両立させられる。
(1) Cを0.10〜0.60質量%、Siを0.10〜1.00質量%、Mnを0.40〜1.00質量%、Crを0.50〜2.00質量%含み、残部をFe及び不可避不純物とした鋼材に浸炭処理又は浸炭窒化処理を施し、表層部にCを0.80〜1.40質量%含むものとする。
(2) 軌道の表層部分の残留オーステナイト量を10〜30容量%とし、軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする。
(1) Cを0.10〜0.60質量%、Siを0.10〜1.00質量%、Mnを0.40〜1.00質量%、Crを0.50〜2.00質量%含み、残部をFe及び不可避不純物とした鋼材に浸炭処理又は浸炭窒化処理を施し、表層部にCを0.80〜1.40質量%含むものとする。
(2) 軌道の表層部分の残留オーステナイト量を10〜30容量%とし、軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする。
先ず、上記(1) の条件を満たす鋼材を使用する事で、高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とを両立させられる。上記(1) の条件で、各元素を含有させる理由、及び、これら各元素の含有量を上記範囲に規制する理由は、次の通りである。
[材料中にCを0.10〜0.60質量%、表層部にCを0.80〜1.40質量%]
Cは、鋼に必要な強度と寿命を得る為に必要な元素である。通常、転がり軸受に用いられる材料は肌焼き鋼や軸受鋼であるが、内輪又は外輪を構成する合金鋼で、Cの含有量を0.10〜0.60質量%の範囲に規制すれば、残留オーステナイト量を少なく抑えて、高温下での残留オーステナイトの分解を抑え、寸法安定性を確保できる。Cの含有量が0.10質量%未満の場合には、内輪軌道、外輪軌道等の表面硬さを確保する為に行う、浸炭処理又は浸炭窒化処理等の熱処理工程の処理時間が長くなり、熱処理コストが徒に増大する。そこで、Cの含有量は0.10質量%以上とする。
[材料中にCを0.10〜0.60質量%、表層部にCを0.80〜1.40質量%]
Cは、鋼に必要な強度と寿命を得る為に必要な元素である。通常、転がり軸受に用いられる材料は肌焼き鋼や軸受鋼であるが、内輪又は外輪を構成する合金鋼で、Cの含有量を0.10〜0.60質量%の範囲に規制すれば、残留オーステナイト量を少なく抑えて、高温下での残留オーステナイトの分解を抑え、寸法安定性を確保できる。Cの含有量が0.10質量%未満の場合には、内輪軌道、外輪軌道等の表面硬さを確保する為に行う、浸炭処理又は浸炭窒化処理等の熱処理工程の処理時間が長くなり、熱処理コストが徒に増大する。そこで、Cの含有量は0.10質量%以上とする。
一方で、転がり軸受の運転時に上記内輪軌道、外輪軌道には、各転動体の転動面との転がり接触部で高面圧が作用し、繰り返しせん断応力が加わる状態で使用される。この為、上記内輪軌道、外輪軌道の表層部に関しては、十分な硬さを確保すると共に、或る程度の残留オーステナイトを存在させて、材料強度を高める必要がある。この為には、Cの存在が必要になる。そこで、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した後の状態での、表層部のCの含有量を0.80質量%以上とした。この様に、Cは、硬さや残留オーステナイトの確保等の面で材料強度を高める為に重要な元素であるが、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した後の状態での、Cの含有量が1.40質量%を超えると、その後の焼き入れ特性が悪化したり、巨大炭化物が形成されて上記内輪軌道、外輪軌道の転がり疲れ寿命など材料強度の低下を招く為、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した後の状態での、表層部のCの含有量の上限値を1.40質量%とした。又、材料中のCの含有量が0.60質量%を越えると、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した後の状態での、表層部のCの含有量を1.40質量%以下に抑える事が難しくなる。そこで、上記材料中のCの含有量の上限値を0.60質量%とした。
[Siを0.10〜1.00質量%]
Siは、製鋼時に脱酸剤として必要であるだけでなく、基地マルテンサイトを強化すると共に、焼き戻し軟化抵抗性を高め、転がり疲れ寿命を延長するのに有効な元素である。しかも、浸炭層又は浸炭窒化層の諸特性を満足させるべく、表面窒素濃度や残留オーステナイト量等をバランス良く確保する為に必要な元素である為に添加する。これらの効果を十分に発揮させる為には、少なくとも0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上含有させる必要がある。但し、Siの含有量が多過ぎると、被削性等を低下させて、上記内輪軌道、外輪軌道の加工性が低下するだけでなく、浸炭処理、浸炭窒化処理に関する特性が低下して、十分な硬化層深さや窒素拡散深さを確保できなくなる場合がある。そこで、Siの含有量の上限を1.0質量%以下とした。
Siは、製鋼時に脱酸剤として必要であるだけでなく、基地マルテンサイトを強化すると共に、焼き戻し軟化抵抗性を高め、転がり疲れ寿命を延長するのに有効な元素である。しかも、浸炭層又は浸炭窒化層の諸特性を満足させるべく、表面窒素濃度や残留オーステナイト量等をバランス良く確保する為に必要な元素である為に添加する。これらの効果を十分に発揮させる為には、少なくとも0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上含有させる必要がある。但し、Siの含有量が多過ぎると、被削性等を低下させて、上記内輪軌道、外輪軌道の加工性が低下するだけでなく、浸炭処理、浸炭窒化処理に関する特性が低下して、十分な硬化層深さや窒素拡散深さを確保できなくなる場合がある。そこで、Siの含有量の上限を1.0質量%以下とした。
[Mnを0.40〜1.00質量%]
Mnは、Siと同様に、脱酸剤としての働きがある他、焼入性を向上させる為に必要な元素である。その効果を十分に発揮させるには、含有量を0.40質量%以上確保する必要がある。但し、Mnの含有量が多過ぎると、被削性を低下させて、上記内輪軌道、外輪軌道の加工性が低下するだけでなく、熱処理後に、多量の残留オーステナイトを生成したりして、寸法安定性を阻害し、且つ、耐摩耗性が低下して良好な性能を得にくくなる。この為、Siの含有量の上限値を1.0質量%とした。
Mnは、Siと同様に、脱酸剤としての働きがある他、焼入性を向上させる為に必要な元素である。その効果を十分に発揮させるには、含有量を0.40質量%以上確保する必要がある。但し、Mnの含有量が多過ぎると、被削性を低下させて、上記内輪軌道、外輪軌道の加工性が低下するだけでなく、熱処理後に、多量の残留オーステナイトを生成したりして、寸法安定性を阻害し、且つ、耐摩耗性が低下して良好な性能を得にくくなる。この為、Siの含有量の上限値を1.0質量%とした。
[Crを0.50〜2.00質量%]
Crは、基地に固溶して焼入性、焼き戻し軟化抵抗性等を高めると共に、高硬度の微細な炭化物又は炭窒化物を形成し、軸受材料の硬さや熱処理時の結晶粒粗大化を防止して、軸受寿命を高める作用がある為に添加する。その効果を発揮させる為には、含有量を0.50質量%以上確保する必要がある。但し、含有量が2.00質量%を超えると、製鋼過程で巨大炭化物が生成して、その後の焼き入れ特性に悪影響を与えたり被削性が低下し易くなる。この為、Crの含有量の上限値を2.00質量%とした。
尚、絶縁層を設けた軌道輪を鋼材中に含有させる元素は、上述したC、Si、Mn、Crの他は、残部をFe及び不可避不純物とするが、Mo、V等の炭化物形成促進元素に関しては、Crと同様の作用・効果を得られるので、素材費や加工性低下によるコスト上昇の原因とならない範囲で、0〜2質量%程度添加しても良い。
Crは、基地に固溶して焼入性、焼き戻し軟化抵抗性等を高めると共に、高硬度の微細な炭化物又は炭窒化物を形成し、軸受材料の硬さや熱処理時の結晶粒粗大化を防止して、軸受寿命を高める作用がある為に添加する。その効果を発揮させる為には、含有量を0.50質量%以上確保する必要がある。但し、含有量が2.00質量%を超えると、製鋼過程で巨大炭化物が生成して、その後の焼き入れ特性に悪影響を与えたり被削性が低下し易くなる。この為、Crの含有量の上限値を2.00質量%とした。
尚、絶縁層を設けた軌道輪を鋼材中に含有させる元素は、上述したC、Si、Mn、Crの他は、残部をFe及び不可避不純物とするが、Mo、V等の炭化物形成促進元素に関しては、Crと同様の作用・効果を得られるので、素材費や加工性低下によるコスト上昇の原因とならない範囲で、0〜2質量%程度添加しても良い。
上述の様な塑性を有する金属材料に所定の鍛造加工及び旋削加工を施して造った、上記絶縁層を設けた軌道輪は、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施す事で、表層部のCの含有量を0.8〜1.4質量%とした後に、連続して焼き入れ、焼き戻し処理を行う。そして、この状態で、軌道面(内輪軌道又は外輪軌道)の表層部の残留オーステナイト量を10〜30容量%として、この軌道面の定格寿命を満足させる。又、上記軌道輪全体での平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする事により、この軌道輪の高温寸法安定性を確保する。前記絶縁層は、上記焼き入れ、焼き戻し処理の後、セラミックス溶射により被覆する。この状態で、電食防止の為の絶縁層を有し、高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とを図れる軌道輪を得られる。
高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とは、各部の残留オーステナイト量を適切に規制する事により図れる。即ち、絶縁層を設けた軌道輪の周面に形成した軌道の表層部分の残留オーステナイト量を10〜30容量%とする事により、上記転がり疲れ寿命の確保を図れ、上記軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下とする事で高温下での寸法安定性の確保を図れる。これらの効果を得る為に、各部の残留オーステナイト量を上記範囲に規制した理由は、次の通りである。
[表層部の残留オーステナイト量を10〜30容量%]
残留オーステナイトは、通常は柔らかく粘りのある組織である。そして、軌道輪を構成する鋼中で、軌道面の表層部に存在すると、繰り返し応力を受けた際のエネルギをマルテンサイト変態に利用する為、上記表層部に加わる応力を緩和できる。そして、フレーキング破損を防止して、転がり疲れ寿命の延長を図れる。但し、残留オーステナイトがマルテンサイトに変態(分解)する過程で、僅かとは言え体積が膨張するので、残留オーステナイト量が多いと、寸法安定性が損なわれる。
残留オーステナイトは、通常は柔らかく粘りのある組織である。そして、軌道輪を構成する鋼中で、軌道面の表層部に存在すると、繰り返し応力を受けた際のエネルギをマルテンサイト変態に利用する為、上記表層部に加わる応力を緩和できる。そして、フレーキング破損を防止して、転がり疲れ寿命の延長を図れる。但し、残留オーステナイトがマルテンサイトに変態(分解)する過程で、僅かとは言え体積が膨張するので、残留オーステナイト量が多いと、寸法安定性が損なわれる。
上記作用により転がり疲れ寿命の延長を十分に図る為には、軌道の表層部分の残留オーステナイト量を少なくとも10容量%以上とする必要がある。更に、摩耗粉等の、厳しい異物混入が想定され、高い疲労強度が必要とされる場合に、好ましくは、上記軌道の表層部分の残留オーステナイト量を20容量%以上確保する。但し、この表層部の残留オーステナイト量が30容量%を超えると、上記軌道の硬さが過度に低下して、材料強度が不足するだけでなく、表層部のみとは言え、残留オーステナイトの分解に伴う、上記軌道を有する軌道輪の寸法変化(膨張)が無視できない程に大きくなる。そこで、上記表層部の残留オーステナイト量の上限値を30容量%とした。
[軌道輪全体の平均残留オーステナイト量を4容量%以下]
転がり軸受の構成部材の寸法変化は、残留オーステナイトの分解による膨張の大きさと、マルテンサイトの収縮の大きさとの和で表される。即ち、残留オーステナイトの分解に伴う膨張量が、マルテンサイトの生成による収縮量よりも大きい場合に、上記構成部材の寸法が膨張する。転がり軸受のサイズ、用途等にもよるが、この構成部材中の残留オーステナイトの量が10容量%を超えると寸法変化が確認され、15容量%を超えると寸法変化が無視できなくなる。勿論、上記軌道輪全体としての残留オーステナイト量を少なく抑える程、この軌道輪全体としての寸法及び形状の変化を少なくできる。但し、上記表層部の残留オーステナイト量を10〜30容量%とする事を考慮すれば、上記軌道輪全体としての平均残留オーステナイトを極端に少なくする事はできない。そこで、長期間に亙り安定した性能を確保できる転がり軸受を実現する面から、残留オーステナイトの分解による膨張とマルテンサイトの生成による収縮のバランスが保たれ、結果として寸法変化を殆ど起こさない平均残留オーステナイト量として、上限値を4容量%とした。
転がり軸受の構成部材の寸法変化は、残留オーステナイトの分解による膨張の大きさと、マルテンサイトの収縮の大きさとの和で表される。即ち、残留オーステナイトの分解に伴う膨張量が、マルテンサイトの生成による収縮量よりも大きい場合に、上記構成部材の寸法が膨張する。転がり軸受のサイズ、用途等にもよるが、この構成部材中の残留オーステナイトの量が10容量%を超えると寸法変化が確認され、15容量%を超えると寸法変化が無視できなくなる。勿論、上記軌道輪全体としての残留オーステナイト量を少なく抑える程、この軌道輪全体としての寸法及び形状の変化を少なくできる。但し、上記表層部の残留オーステナイト量を10〜30容量%とする事を考慮すれば、上記軌道輪全体としての平均残留オーステナイトを極端に少なくする事はできない。そこで、長期間に亙り安定した性能を確保できる転がり軸受を実現する面から、残留オーステナイトの分解による膨張とマルテンサイトの生成による収縮のバランスが保たれ、結果として寸法変化を殆ど起こさない平均残留オーステナイト量として、上限値を4容量%とした。
本発明の電食防止用絶縁転がり軸受の特徴は、セラミックス製の絶縁層を設けた軌道輪を構成する鋼材の組成、或いはこの軌道輪各部の残留オーステナイト量を適正に規制する事で、電食防止と、高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とを高次元で並立させる点にある。図面に表れる構造に就いては、前述の特許文献1に記載された構造を含め、従来から知られている電食防止用絶縁転がり軸受と同様であるから、図示並びに説明は省略する。
本発明の効果を確認する為に行った実験に就いて説明する。下記の表1に示した2種類の鉄系合金(鋼材)にそれぞれ下記の表2に示す様な熱処理を施す事により、それぞれの性状がこの表2に示す様なものである、本発明の技術的範囲に属する6種類の試料(実施例1〜6)と、本発明の技術的範囲から外れる6種類の試料(比較例1〜6)との、合計12種類の試料を造った。そして、これら12種類の試料に就いて、それぞれ後述する様な寸法安定性試験と耐久寿命試験とに供した。尚、表2中、本発明の技術的範囲から外れる数値等に就いてはアンダーラインを付した。又、下記の表1中の鋼材Aは、JIS G 4805に規定された高炭素クロム軸受鋼である。
又、試験では、電食防止用絶縁転がり軸受の構成各部材のうちの内輪の性状に就いて種々異ならせ、この内輪の性状の相違が、各電食防止用絶縁転がり軸受の性能に及ぼす影響に就いて判定した。内輪以外の構成部材、即ち、外輪と転動体(玉)と保持器とは、何れも、全試料に就いて同じ仕様とした。
先ず、外輪は、前記表1に記載した鋼材A(高炭素クロム軸受鋼)相当品の棒鋼を旋削加工により所望の形状に切り出した。次いで、ずぶ焼き入れし、連続して焼き戻し処理を施す事で所望の熱処理品質を得た後、研削により、所定の寸法精度及び形状精度に仕上げた。
転動体は、前記表1に記載した鋼材A(高炭素クロム軸受鋼)相当品の線材を冷間鍛造により所望の形状に成形した。次いで、ずぶ焼き入れし、連続して焼き戻し処理を施す事で所望の熱処理品質を得た後、研削により、所定の寸法精度及び形状精度に仕上げた。
先ず、外輪は、前記表1に記載した鋼材A(高炭素クロム軸受鋼)相当品の棒鋼を旋削加工により所望の形状に切り出した。次いで、ずぶ焼き入れし、連続して焼き戻し処理を施す事で所望の熱処理品質を得た後、研削により、所定の寸法精度及び形状精度に仕上げた。
転動体は、前記表1に記載した鋼材A(高炭素クロム軸受鋼)相当品の線材を冷間鍛造により所望の形状に成形した。次いで、ずぶ焼き入れし、連続して焼き戻し処理を施す事で所望の熱処理品質を得た後、研削により、所定の寸法精度及び形状精度に仕上げた。
更に、内輪を造るのに、先ず、前記表1に記載した鋼材A又は鋼材Bを、旋削加工により所望の形状に切り出した。次いで、次述する何れかの熱処理に続いて焼き戻しを施す事により、所望の熱処理品質を得た。その後、後述する溶射方法で、内周面、軸方向両端面、外周面の軸方向両端部で内輪軌道から外れた部分にセラミックス製の絶縁層(絶縁皮膜)を形成してから、この絶縁層中の微細孔を塞ぐ封孔処理を施した。更に、この封孔処理の後、表面を研削する事で、寸法精度及び形状精度を所望通りに仕上げた。
又、前記表2に記載した熱処理方法、並びに、熱処理に付随する焼き戻し処理は、それぞれ次の様な工程で行う。
「ずぶ焼き入れ」
Rxガス雰囲気中で、820〜850℃に0.5〜1.0時間保持した後、60〜80℃の油中で焼き入れする。
「浸炭処理」
エンリッチガス雰囲気中で、820〜920℃に1.0〜24.0時間保持した後、放冷し、その後にRxガス雰囲気中で、820〜850℃に0.5〜1.0時間保持し、次いで、60〜80℃の油中で焼き入れする。
「浸炭窒化処理」
Rxガス+エンリッチガス+アンモニアガス雰囲気中で、820〜920℃に1.0〜24.0時間保持した後、放冷し、その後にRxガス雰囲気中で、820〜850℃に0.5〜1.0時間保持し、次いで、60〜80℃の油中で焼き入れする。
「焼き戻し処理」
上記の何れかの処理を施した後に、連続して160〜250℃に2.0時間保持した後、放冷する。
「ずぶ焼き入れ」
Rxガス雰囲気中で、820〜850℃に0.5〜1.0時間保持した後、60〜80℃の油中で焼き入れする。
「浸炭処理」
エンリッチガス雰囲気中で、820〜920℃に1.0〜24.0時間保持した後、放冷し、その後にRxガス雰囲気中で、820〜850℃に0.5〜1.0時間保持し、次いで、60〜80℃の油中で焼き入れする。
「浸炭窒化処理」
Rxガス+エンリッチガス+アンモニアガス雰囲気中で、820〜920℃に1.0〜24.0時間保持した後、放冷し、その後にRxガス雰囲気中で、820〜850℃に0.5〜1.0時間保持し、次いで、60〜80℃の油中で焼き入れする。
「焼き戻し処理」
上記の何れかの処理を施した後に、連続して160〜250℃に2.0時間保持した後、放冷する。
又、セラミックス製の絶縁層(絶縁皮膜)は、次述する溶射処理と封孔処理とを順次行う事により形成した。
「溶射処理」
アルミナを99.80質量%、酸化チタンを0.20質量%、それぞれ含む混合原料をプラズマで加熱・溶融させて液状微粒子とし、プラズマジェットと共に、内輪の表面のうちで内輪軌道以外の部位に高速で衝突させてセラミックス皮膜を形成した。
「封孔処理」
有機系封孔材のエポキシ樹脂を塗布し、高温槽で150℃に保持した。
「溶射処理」
アルミナを99.80質量%、酸化チタンを0.20質量%、それぞれ含む混合原料をプラズマで加熱・溶融させて液状微粒子とし、プラズマジェットと共に、内輪の表面のうちで内輪軌道以外の部位に高速で衝突させてセラミックス皮膜を形成した。
「封孔処理」
有機系封孔材のエポキシ樹脂を塗布し、高温槽で150℃に保持した。
試験用の転がり軸受(比較例2、6に関しては一般的な転がり軸受、それ以外は電食防止用絶縁転がり軸受)は、上述の様にして造った内輪と、前述の様にして造った外輪、転動体、保持器と組み合わせた。組み合わせ後、回転精度を測定して、問題ないものを試料として、次に示す各試験に供した。各試料とも、呼び番号が6206である単列深溝型玉軸受(内径30mm、外径62mm、幅16mm)とした。尚、上記保持器は、冷間深絞り用鋼板(SPCC)材を用い、冷間鍛造により所望の形状(波形プレス保持器)を得た。
[寸法安定性試験]
この寸法安定性試験では、残留オーステナイトの分解に伴う、内輪の内径及び転がり軸受の内部隙間の変化に就いて評価した。各試料(転がり軸受)の、試験前に於ける内部隙間は、30μmとなる様に、内輪と外輪及び転動体とを選択組み合わせした。試験温度は150℃とし、恒温ヒータ槽で10時間保持した後の各寸法を測定した。上記内部隙間の測定は、上記内輪を専用のシャフトで固定した状態で上記外輪を径方向に往復移動させ、この外輪の径方向の動き量をダイヤルゲージで測定する事で求めた。又、内輪単体の膨張量は、内輪外周面の内輪軌道の最小外径寸法をマイクロメータで測定し、試験前後で変化量を比較した。
この寸法安定性試験では、残留オーステナイトの分解に伴う、内輪の内径及び転がり軸受の内部隙間の変化に就いて評価した。各試料(転がり軸受)の、試験前に於ける内部隙間は、30μmとなる様に、内輪と外輪及び転動体とを選択組み合わせした。試験温度は150℃とし、恒温ヒータ槽で10時間保持した後の各寸法を測定した。上記内部隙間の測定は、上記内輪を専用のシャフトで固定した状態で上記外輪を径方向に往復移動させ、この外輪の径方向の動き量をダイヤルゲージで測定する事で求めた。又、内輪単体の膨張量は、内輪外周面の内輪軌道の最小外径寸法をマイクロメータで測定し、試験前後で変化量を比較した。
[耐久寿命試験]
この耐久寿命試験は、残留オーステナイトの量が内輪軌道の転がり疲れ寿命に及ぼす影響を知る為に行った。試験条件は次の通りである。
荷重(P/C) : 0.20
回転速度 : 3000min-1
潤滑油 : リチウム石鹸グリース
この耐久寿命試験は、各試料に就いて10個ずつ(n=10、全試料合計で120個)行い、何れかの軌道輪(内輪又は外輪)か転動体に摩耗、剥離等の損傷が発生した時点迄の累積時間を寿命とした。寿命到達の判定は、転がり軸受の振動値が初期振動値に対し2倍となった時点とした。そして、寿命に達した転がり軸受を分解して、転がり接触面(軌道面、転動面)を金属顕微鏡により外観観察し、何れの部分に損傷が発生したかを確認した。更に、試験結果からワイブルプロットを作成し、各ワイブル分布の結果から各々のL10寿命を求めた。そして、寿命を、比較例1に対する比として、前記表2に記載した。
この耐久寿命試験は、残留オーステナイトの量が内輪軌道の転がり疲れ寿命に及ぼす影響を知る為に行った。試験条件は次の通りである。
荷重(P/C) : 0.20
回転速度 : 3000min-1
潤滑油 : リチウム石鹸グリース
この耐久寿命試験は、各試料に就いて10個ずつ(n=10、全試料合計で120個)行い、何れかの軌道輪(内輪又は外輪)か転動体に摩耗、剥離等の損傷が発生した時点迄の累積時間を寿命とした。寿命到達の判定は、転がり軸受の振動値が初期振動値に対し2倍となった時点とした。そして、寿命に達した転がり軸受を分解して、転がり接触面(軌道面、転動面)を金属顕微鏡により外観観察し、何れの部分に損傷が発生したかを確認した。更に、試験結果からワイブルプロットを作成し、各ワイブル分布の結果から各々のL10寿命を求めた。そして、寿命を、比較例1に対する比として、前記表2に記載した。
上述の様な条件で行った試験の結果を示す前記表2から明らかな通り、本発明の技術的範囲に属する電食防止用絶縁転がり軸受は何れも、電食防止と、高温下での寸法安定性の確保と、異物混入潤滑環境下での転がり疲れ寿命の確保とを高次元で並立させる事ができる。
これに対して、本発明の技術的範囲から外れる電食防止用絶縁転がり軸受は、何れかの面で、要求する性能を満たす事ができなかった。この点に関して、各比較例毎に、以下に説明する。
これに対して、本発明の技術的範囲から外れる電食防止用絶縁転がり軸受は、何れかの面で、要求する性能を満たす事ができなかった。この点に関して、各比較例毎に、以下に説明する。
「比較例1」
この比較例1は、従来から一般的に実施されていた電食防止用絶縁転がり軸受の仕様で、内輪に高炭素クロム軸受鋼を用い、高温焼き戻しにより寸法安定化し、セラミックスの絶縁皮膜を有する。但し、上記比較例1は、表層部の残留オーステナイト量が0容量%の為、内輪軌道に剥離が発生し、長寿命を得られなかった。
「比較例2」
この比較例2は、従来から一般的に使用されていた、単なる転がり軸受の仕様で、内輪に高炭素クロム軸受鋼を用い、高温焼き戻しにより寸法安定化している。但し、セラミックスの絶縁皮膜を有しておらず、電食が発生する為、寸法安定性試験及び耐久寿命試験が成立しない。
「比較例3」
この比較例3は、高炭素クロム軸受鋼を用い、170℃での焼き戻しを施す事により、内輪全体の残留オーステナイト量を8容量%としている。又、セラミックスの絶縁皮膜を有する。この様な比較例3は、温度上昇に伴い、上記内輪全体で残留オーステナイトが分解して寸法膨張が生じた。この結果、転がり軸受内部の隙間が消滅し、転がり接触部の面圧の増大により焼き付きが発生し、短寿命になった。
「比較例4」
この比較例4は、内輪軌道表面の炭素濃度が低く、強度不足の上にこの表面部分の残留オーステナイト量が少ない為、内輪軌道が剥離して短寿命になった。
「比較例5」
この比較例5は、内輪軌道表面の炭素濃度が高過ぎ、巨大炭化物の形成に伴う強度不足の上に、内輪全体としての平均残留オーステナイト量が多過ぎて、寸法変化が大きい。この為、内輪軌道部分で早期に焼き付きが発生し、短寿命になった。
「比較例6」
この比較例6は、肌焼き鋼に浸炭処理を施し、内輪軌道表面の残留オーステナイト量を30容量%とし、内輪全体の平均残留オーステナイト量を3.2容量%としたもので、寸法安定性を有しているが、セラミックスの絶縁皮膜を有していない。従って、電食が発生する為、寸法安定性試験及び耐久寿命試験が成立しない。
この比較例1は、従来から一般的に実施されていた電食防止用絶縁転がり軸受の仕様で、内輪に高炭素クロム軸受鋼を用い、高温焼き戻しにより寸法安定化し、セラミックスの絶縁皮膜を有する。但し、上記比較例1は、表層部の残留オーステナイト量が0容量%の為、内輪軌道に剥離が発生し、長寿命を得られなかった。
「比較例2」
この比較例2は、従来から一般的に使用されていた、単なる転がり軸受の仕様で、内輪に高炭素クロム軸受鋼を用い、高温焼き戻しにより寸法安定化している。但し、セラミックスの絶縁皮膜を有しておらず、電食が発生する為、寸法安定性試験及び耐久寿命試験が成立しない。
「比較例3」
この比較例3は、高炭素クロム軸受鋼を用い、170℃での焼き戻しを施す事により、内輪全体の残留オーステナイト量を8容量%としている。又、セラミックスの絶縁皮膜を有する。この様な比較例3は、温度上昇に伴い、上記内輪全体で残留オーステナイトが分解して寸法膨張が生じた。この結果、転がり軸受内部の隙間が消滅し、転がり接触部の面圧の増大により焼き付きが発生し、短寿命になった。
「比較例4」
この比較例4は、内輪軌道表面の炭素濃度が低く、強度不足の上にこの表面部分の残留オーステナイト量が少ない為、内輪軌道が剥離して短寿命になった。
「比較例5」
この比較例5は、内輪軌道表面の炭素濃度が高過ぎ、巨大炭化物の形成に伴う強度不足の上に、内輪全体としての平均残留オーステナイト量が多過ぎて、寸法変化が大きい。この為、内輪軌道部分で早期に焼き付きが発生し、短寿命になった。
「比較例6」
この比較例6は、肌焼き鋼に浸炭処理を施し、内輪軌道表面の残留オーステナイト量を30容量%とし、内輪全体の平均残留オーステナイト量を3.2容量%としたもので、寸法安定性を有しているが、セラミックスの絶縁皮膜を有していない。従って、電食が発生する為、寸法安定性試験及び耐久寿命試験が成立しない。
本発明は、セラミックス製の絶縁層により被覆する軌道輪が内輪である場合に限らず、外輪である場合にも実施できる。外輪の場合、残留オーステナイトの分解に伴う予圧や締め代の変化が内輪の場合とは逆になる。但し、これらの変化が、電食防止用絶縁転がり軸受に設計通りの性能を発揮させる面から有害である事には変わりない。従って、本発明は、上記絶縁層を内輪の内周面及び軸方向両端面に形成した構造に限らず、外輪の外周面及び軸方向両端面に形成した構造で実施する事もできる。
1 内輪
2 内輪軌道
3 外輪
4 外輪軌道
5 転動体
6 保持器
7 絶縁層
2 内輪軌道
3 外輪
4 外輪軌道
5 転動体
6 保持器
7 絶縁層
Claims (3)
- 外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有し、この内輪と同心に配置された外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた、それぞれが金属製である複数個の転動体とを備え、上記内輪と上記外輪とのうちの何れかであって、鋼製である少なくとも一方の軌道輪の表面のうちで軌道面を設けた面以外の面を、少なくとも99.0質量%以上のアルミナと0.01〜0.20質量%の酸化チタンとを含むセラミックス製の絶縁層により被覆した電食防止用絶縁転がり軸受に於いて、この絶縁層を設けた軌道輪を、Cを0.10〜0.60質量%、Siを0.10〜1.00質量%、Mnを0.40〜1.00質量%、Crを0.50〜2.00質量%含み、残部をFe及び不可避不純物とした鋼材に浸炭処理又は浸炭窒化処理を施し、表層部にCを0.80〜1.40質量%含むものとした事を特徴とする電食防止用絶縁転がり軸受。
- 絶縁層を設けた軌道輪の周面に形成した軌道の表層部分の残留オーステナイト量が10〜30容量%であり、この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量が4容量%以下である、請求項1に記載した電食防止用絶縁転がり軸受。
- 外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有し、この内輪と同心に配置された外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた、それぞれが金属製である複数個の転動体とを備え、上記内輪と上記外輪とのうちの何れかであって、鋼製である少なくとも一方の軌道輪の表面のうちで軌道面を設けた面以外の面を、少なくとも99.0質量%以上のアルミナと0.01〜0.20質量%の酸化チタンとを含むセラミックス製の絶縁層により被覆した電食防止用絶縁転がり軸受に於いて、この絶縁層を設けた軌道輪の周面に形成した軌道の表層部分の残留オーステナイト量が10〜30容量%であり、この軌道輪全体の平均残留オーステナイト量が4容量%以下である事を特徴とする電食防止用絶縁転がり軸受。
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Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2016186354A (ja) * | 2015-03-27 | 2016-10-27 | Ntn株式会社 | 主電動機用軸受 |
JP2019196540A (ja) * | 2018-05-11 | 2019-11-14 | 山陽特殊製鋼株式会社 | 水素侵入環境下の転がり疲れ寿命に優れる軸受用鋼 |
US10823229B2 (en) | 2017-03-24 | 2020-11-03 | Aktiebolaget Skf | Rolling-element bearing including an electrically insulating layer |
-
2008
- 2008-03-28 JP JP2008085299A patent/JP2009236259A/ja active Pending
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