JP2009092161A - 転がり軸受 - Google Patents

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秀幸 飛鷹
Hiroki Komata
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Abstract

【課題】異物混入潤滑環境下でも寿命の長い転がり軸受を提供する。
【解決手段】軌道輪2a,2bが0.6〜1.2質量%のCと、0.4〜1.0質量%のSiと、0.4〜1.0質量%のMnと、0.7〜1.5質量%のCrと、0.2〜1.0質量%のMoとを含有し、かつ残りが残部Feと不可避不純物である軌道輪素材からなる転がり軸受であって、軌道輪2a,2bの表面硬度がHv740以上になると共に軌道輪2a,2bの表面残留オーステナイト量が20〜40vol%となるように、軌道輪2a,2bの表層部に硬化層を高周波焼入れによって形成した。
【選択図】図1

Description

本発明は、鉄鋼用圧延機などで使用される大形の転がり軸受に関する。
鉄鋼用圧延機などで使用される大形の転がり軸受を製造する場合、通常、Cr,Ni,Moなどにより焼入れ性を確保した中炭素鋼(C:0.1〜0.4質量%)が軌道輪素材として用いられ、中炭素鋼を浸炭処理することによって転がり軸受として必要な硬さを得ている。ここで、軌道輪素材として中炭素鋼が用いられる理由としては、靭性の確保が挙げられる。焼入れされた鋼では硬度が炭素量に依存し、硬度と靭性がトレードオフの関係にあることから、低炭素な母材を用いるほど高靭性の軸受とすることができる。
靭性は転がり軸受に要求される機能の中でも重要なものの一つであり、低炭素化によって浸炭時間が長時間になるというデメリットを考慮しても中炭素鋼あるいは低炭素鋼が用いられる。
一方、転がり軸受の寿命に関して、特に重視されるものが比較的短寿命である異物混入潤滑下などで発生する表面疲労であり、表面疲労に対しては表面硬度の上昇と残留オーステナイトの増加によって対応できることが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
特開平6−117438号公報 特開平6−129436号公報
しかしながら、表面部の残留オーステナイト量を確保するためには、それに応じた炭素量が必要であり、靭性の面も考慮すると、中炭素鋼あるいは低炭素鋼に長時間の浸炭を施して転がり軸受を製造しているのが現状である。このため、従来では、鉄鋼用圧延機などで使用される大形の転がり軸受を製造するときに、軸受鋼のような高炭素鋼を軌道輪素材として用いることができず、必要な硬度と靭性を確保するために、中炭素鋼あるいは低炭素鋼を軌道輪素材として用い、長時間の浸炭を軌道輪素材に施す必要があるため、コストの上昇等を招くという問題があった。
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係る転がり軸受は、軌道輪と転動体のいずれか一方または両方が0.6〜1.2質量%のCと、0.4〜1.0質量%のSiと、0.4〜1.0質量%のMnと、0.7〜1.5質量%のCrと、0.2〜1.0質量%のMoとを含有し、かつ残りが残部Feと不可避不純物である鋼からなる転がり軸受であって、前記鋼からなる軌道輪または転動体の表面残留オーステナイト量が20〜40vol%になると共に前記鋼からなる軌道輪または転動体の表面硬度がHv740以上になるように、前記鋼からなる軌道輪または転動体の表層部に硬化層が高周波焼入れによって形成されていることを特徴とする。
請求項2記載の発明に係る転がり軸受は、請求項1記載の転がり軸受において、前記鋼からなる軌道輪または転動体が芯部に非焼入れ部を有することを特徴とする。
ここで、炭素(C)は疲労強度を確保するための必須元素であり、基本的に、C量の増加に伴って強度が上昇し、疲労強度が高くなるが、炭素量が多過ぎると炭化物がネット状に析出し易くなり、靭性の確保が難しくなる。したがって、本発明では、C量の上限を1.2質量%とし、C量の下限は十分な疲労強度および実用的な浸炭処理条件で表面のC量が転がり疲労に対して良好な特性を確保できるまで上昇可能な0.6質量%とした。
Siは焼入れ性および焼戻し軟化抵抗性を向上させる元素であり、この効果を付与するためには、0.4質量%以上の添加が必要である。しかし、添加量の上昇に伴って被削性が低下するため、本発明では、Siを0.4〜1.0質量%に規定した。
Mnは焼入れ性および焼戻し軟化抵抗性を向上させる元素であり、この効果を付与するためには、0.4質量%以上の添加が必要である。しかし、添加量の上昇に伴って被削性が低下するため、本発明では、Mnを0.4〜1.0質量%に規定した。
Crは焼入れ性および焼戻し軟化抵抗性を向上させる元素であり、この効果を付与するためには、0.7質量%以上の添加が必要である。しかし、添加量の上昇に伴って被削性が低下するため、本発明では、Crを0.7〜1.5質量%に規定した。
Moは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗性を向上させると共に合成炭化物を形成しやすく、表面硬度の上昇により長寿命化に貢献する元素である。この効果を付与するためには、0.2質量%以上の添加が必要であるが、添加量の上昇に伴って被削性が低下するため、本発明では、Moを0.2〜1.0質量%に規定した。
本発明によれば、転がり軸受として必要な硬度を確保できるので、異物混入潤滑環境下でも寿命の長い転がり軸受を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施形態を示す図であり、同図に示されるスラスト玉軸受1は、一対の軌道輪2a,2bを備えている。これらの軌道輪2a,2bは互いに対向しており、軌道輪2aと軌道輪2bとの間には、転動体である複数の玉3が設けられているとともに、玉3を軌道輪2a,2bの円周方向に一定間隔で保持する保持器4が設けられている。
また、軌道輪2a,2bは0.6〜1.2質量%のCと、0.4〜1.0質量%のSiと、0.4〜1.0質量%のMnと、0.7〜1.5質量%のCrと、0.2〜1.0質量%のMoとを含有し、かつ残りが残部Feと不可避不純物である鋼に高周波焼入れを施して形成されており、高周波焼入れが施された部分の表面残留オーステナイト量は20〜40vol%となっている。また、軌道輪2a,2bの高周波焼入れが施された部分の表面硬度はHv740以上となっている。
(実施例)
Figure 2009092161
Figure 2009092161
本発明者らは、表1に示す組成の鋼種M1〜M11,SUJ2,SUJ3から転がり軸受(呼び番51305)の軌道輪を作製した。具体的には、鋼種M1〜M11,SUJ2,SUJ3を旋削によって粗加工した後、高周波焼入れを施して軌道輪の表層部に硬化層を形成した。その後、焼戻しを行い、最後に研削加工を行なって転がり軸受の完成寸法(内径:25mm、外径:52mm、幅:18mm)に仕上げた。そして、上記の工程で作製された各軌道輪の表面硬度と表面残留オーステナイト量(γR)を測定した。その測定値を表1に併記する。
また、本発明者らは上記の工程で作製された軌道輪とSUJに浸炭窒化処理を施した3/8inch鋼球3個とを組み合せたものを試験軸受とし、面圧:4GPa、軸受形式:51305、潤滑油:♯68タービンオイルの条件で各試験軸受の異物混入潤滑下寿命試験を行い、試験軸受の累積破損確率が10%となる寿命(L10寿命)を求めた。
各試験軸受のL10寿命を表2に示す。また、表1および表2から、軌道輪の表面硬度と軸受寿命比との関係を調べた結果を図2に示すとともに、軌道輪の表面残留オーステナイト量と軸受寿命比との関係を調べた結果を図3に示す。なお、表2に示す数値は表1に示した比較例1のL10寿命を1.0とした場合の寿命比を表している。
比較例1〜3と実施例1〜10とを比較すると、実施例1〜10のほうが軸受の転がり疲労寿命が長いことがわかる。これは、比較例1〜3は軌道輪の表面硬度がHv740未満で且つ軌道輪表面の残留オーステナイト量が20vol%未満であるのに対し、実施例1〜10は軌道輪の表面硬度がHv740以上で且つ軌道輪表面の残留オーステナイト量が20vol%以上であり、実施例1〜10の軌道輪表面硬度と軌道輪表面の残留オーステナイト量が比較例1〜3より高い値となる理由は、転がり軸受の軌道輪素材として、0.6〜1.2質量%のCと、0.4〜1.0質量%のSiと、0.4〜1.0質量%のMnと、0.7〜1.5質量%のCrと、0.2〜1.0質量%のMoとを含有し、かつ残りが残部Feと不可避不純物である鋼種を用いているためと考察される。
表3に、本発明の実施例11と比較例4,5を示す。
Figure 2009092161
表3において、実施例11は軌道輪素材として表1に示す組成の鋼種M3を用い、軌道輪素材に高周波焼入れを施して形成された軌道輪を示している。また、比較例4は軌道輪素材として肌焼鋼(SCR420)を用い、軌道輪素材に浸炭処理を施して形成された軌道輪を示し、比較例5は軌道輪素材(SUJ2)に高周波焼入れを施して形成された軌道輪を示している。
表3に示す比較例4,5および実施例11の軌道輪表面品質と靭性値を表3に併記する。また、表3に示す各軌道輪を用いて軸受形式51305の転がり軸受(内径:25mm、外径:52mm、幅:18mm)を作製し、作製された転がり軸受を異物混入潤滑環境下と異物非混入潤滑環境下で寿命試験を行った結果を表3に併記する。
前述したように、異物混入潤滑環境下での軸受寿命は表面の残留オーステナイト量と硬度に依存するため、実施例11と比較例4の寿命は比較例5よりも高い値を示している。また、高周波焼入れを施した実施例11および比較例4の軸受寿命は、潤滑剤中に異物が混入していない潤滑環境下でも良好な値を示すが、この場合の寿命は材料の清浄度に依存するため、大差がない。
一方、靭性については、高周波焼入れが施されたもの(実施例11および比較例4)は芯部に非焼入れ層を有するため、芯部まで焼入れされた比較例1よりも高い値を示している。このことから、Mo等の添加で硬質の合金炭化物を有し、かつ高周波により芯部に高靭性の非焼入れ層を残存させたものが良好な寿命特性と靭性特性を有していることがわかる。
したがって、転がり軸受の軌道輪素材として、0.6〜1.2質量%のCと、0.4〜1.0質量%のSiと、0.4〜1.0質量%のMnと、0.7〜1.5質量%のCrと、0.2〜1.0質量%のMoとを含有し、かつ残りが残部Feと不可避不純物である鋼種を用い、軌道輪表面の硬度がHv740以上で軌道輪表面の残留オーステナイト量が20vol%以上になるように、軌道輪の表層部に硬化層を高周波焼入れによって形成することにより、異物混入潤滑下でも転がり疲労寿命の長い転がり軸受を得ることができる。
また、軌道輪の芯部に高靭性の非焼入れ部を残存させることにより、異物混入潤滑下でも転がり疲労寿命のより長い転がり軸受を得ることができる。
上述した第1の実施形態では、本発明をスラスト玉軸受に適用した場合を例示したが、これに限定されるものではない。たとえば、ラジアル軸受、フランジを有する車輪支持用軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、ニードル軸受についても本発明を適用することができる。
本発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。 転がり軸受の軌道輪表面硬度と異物混入潤滑環境下での軸受寿命との関係を示す図である。 転がり軸受の軌道輪表面残留オーステナイト量と異物混入潤滑環境下での軸受寿命との関係を示す図である。
符号の説明
1 スラスト玉軸受
2a,2b 軌道輪
3 玉
4 保持器

Claims (2)

  1. 軌道輪と転動体のいずれか一方または両方が0.6〜1.2質量%のCと、0.4〜1.0質量%のSiと、0.4〜1.0質量%のMnと、0.7〜1.5質量%のCrと、0.2〜1.0質量%のMoとを含有し、かつ残りが残部Feと不可避不純物である鋼からなる転がり軸受であって、前記鋼からなる軌道輪または転動体の表面残留オーステナイト量が20〜40vol%になると共に前記鋼からなる軌道輪または転動体の表面硬度がHv740以上になるように、前記鋼からなる軌道輪または転動体の表層部に硬化層が高周波焼入れによって形成されていることを特徴とする転がり軸受。
  2. 請求項1記載の転がり軸受において、前記鋼からなる軌道輪または転動体が芯部に非焼入れ部を有することを特徴とする転がり軸受。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011038571A (ja) * 2009-08-07 2011-02-24 Mitsubishi Motors Corp クランク軸用軸受装置及びその組立方法
CN102483127A (zh) * 2009-08-10 2012-05-30 罗伯特·博世有限公司 用于传动带的横向元件以及传动带

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