以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係るブレーキ装置が適用された車両を示す概略構成図である。車両1は、いわゆるハイブリッド車両として構成されており、エンジン2と、エンジン2の出力軸であるクランクシャフトに接続された3軸式の動力分割機構3と、動力分割機構3に接続された発電可能なモータジェネレータ4と、変速機5を介して動力分割機構3に接続された電動モータ6と、各アクチュエータを制御する電子制御ユニット(以下「ECU」という)とを備える。すなわち、車両1の制御部として、その駆動系全体を制御するハイブリッドECU7、エンジンを制御するエンジンECU13、各モータを制御するモータECU14、ブレーキを制御するブレーキECU70等が設けられている。各ECUは、いずれもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。変速機5には、ドライブシャフト8を介して車両1の駆動輪たる右前輪9FRおよび左前輪9FLが連結される。
エンジン2は、例えばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジンECU13により制御される。エンジンECU13は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、エンジン2の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン2の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。また、エンジンECU13は、必要に応じてエンジン2の作動状態に関する情報をハイブリッドECU7に与える。
動力分割機構3は、変速機5を介して電動モータ6の出力を左右の前輪9FR,9FLに伝達する役割と、エンジン2の出力をモータジェネレータ4と変速機5とに振り分ける役割と、電動モータ6やエンジン2の回転速度を減速あるいは増速する役割とを果たす。モータジェネレータ4と電動モータ6とは、それぞれインバータを含む電力変換装置11を介してバッテリ12に接続されており、電力変換装置11には、モータECU14が接続されている。バッテリ12としては、例えばニッケル水素蓄電池などの蓄電池を用いることができる。モータECU14も、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号等に基づいて電力変換装置11を介してモータジェネレータ4および電動モータ6を制御する。
ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、電力変換装置11を介してバッテリ12から電力を電動モータ6に供給することにより、電動モータ6の出力により左右の前輪9FR,9FLを駆動することができる。また、エンジン効率のよい運転領域では、車両1はエンジン2によって駆動される。この際、動力分割機構3を介してエンジン2の出力の一部をモータジェネレータ4に伝えることにより、モータジェネレータ4が発生する電力を用いて、電動モータ6を駆動したり、電力変換装置11を介してバッテリ12を充電したりすることが可能となる。
また、車両1には車両の走行速度を検出するための車速センサ75が設けられている。車速センサ75は、車両の走行速度を検出してハイブリッドECU7やブレーキECU70などに与える。車速センサ75の検出値は、所定時間おきにハイブリッドECU7及びブレーキECU70等に与えられる。車速センサ75としては、典型的には各車輪に対応して設けられている車輪速度センサなどを用いることができる。
また、車両1を制動する際には、ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、前輪9FR,9FLから伝わる動力によって電動モータ6が回転させられ、電動モータ6が発電機として作動させられる。すなわち、電動モータ6、電力変換装置11、ハイブリッドECU7およびモータECU14等は、車両1の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって左右の前輪9FR,9FLに制動力を付与する回生ブレーキユニット10として機能する。車両1は、このような回生ブレーキユニット10に加えて液圧ブレーキユニット20を備える。液圧ブレーキユニット20は、動力液圧源30と液圧アクチュエータ40とを含んで構成される。
図2は、液圧ブレーキユニットを中心としたブレーキ装置の系統図である。液圧ブレーキユニット20は、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40と、それらをつなぐ液圧回路とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪9FR、左前輪9FL、図示しない右後輪および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧された作動液としてのブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧されたブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪とともに回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施の形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施の形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。ブレーキペダル24への運転者による入力が機械的に伝達されてマスタシリンダ32のブレーキフルードが加圧される。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とするとともに、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧の方が若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギとして例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、液圧ブレーキユニット20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型の切替弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型の切替弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、切替弁としてのシミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型の切替弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型の切替弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施の形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。したがって、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
液圧ブレーキユニット20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、ブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU7などと通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すとともに減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されているとともに、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
本実施の形態に係るブレーキ制御装置は、電動モータ6の回生制御により回生制動力を発生させる回生ブレーキユニット10と、ブレーキフルードの液圧制御により液圧制動力を発生させる液圧ブレーキユニット20と、制御部とを備える。本実施の形態の制御部は、ハイブリッドECU7、ブレーキECU70、モータECU14等を含んで構成される。上述のように構成された液圧ブレーキユニット20は、回生ブレーキユニット10と協働してブレーキ回生協調制御(以下、単に「回生協調制御」という)を実行する。この回生協調制御は、液圧ブレーキユニット20による液圧制動による制御(以下「液圧制御」ともいう)と、回生ブレーキユニット10による回生制動による制御(以下「回生制御」ともいう)とを、協調させて行うものである。
次に、本実施の形態に係る回生協調制御における液圧制動力および回生制動力を演算する過程を説明する。図3は、制御部における各制動力を演算する過程を模式的に示した図である。
制御部を構成するブレーキECU70は、制動要求を受けて各制動力の演算を開始する。制動要求は、例えば、運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。ブレーキECU70は、制動要求を受けて目標制動力を演算し、目標制動力から回生による制動力(「回生制動力」という)を減じることにより液圧ブレーキユニット20により発生させるべき液圧制動力である目標液圧制動力を算出する。
具体的には、ブレーキECU70は、制動要求を受けてストロークセンサ25からの出力に基づいてブレーキペダル24のストローク量を検出し、目標となる減速度を演算する。次に、ブレーキECU70は、求められた減速度に基づいて目標制動力を演算する。この際、ブレーキECU70内で扱うデータ量を少なくするため、目標制動力は10Nを最小単位として演算される。図3に示すLSBは最下位ビット(least significant bit)を意味し、各LSBの値は各演算過程における1LSBに相当する力あるいはトルクである。
一方、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から、電動モータ6の回転数等に基づいて決まる回生制動力の上限値である発電側上限値と、バッテリ12の充電容量等に基づいて決まる上限値である蓄電側上限値との供給を受ける。つまり、回生制動力として要求可能な上限値は、これら発電側上限値および蓄電側上限値のいずれか小さい方であり、その小さい方の上限値が後述する回生MAXガードとなる。ブレーキECU70は、目標制動力のうちこの回生MAXガードを超えない範囲で目標制動トルク(「回生要求トルク」に対応する)を演算し、CAN(controller area network)によりハイブリッドECU7に対して回生要求トルクの情報を送信する。
ハイブリッドECU7は、要求回生制動力をモータECU14に出力する。モータECU14は、電動モータ6によって左右の前輪9FR、9FLに付与される制動トルクが回生要求トルクとなるように電力変換装置11に制御指令を出力する。電力変換装置11は、モータECU14からの指令に基づいて電動モータ6を制御する。これにより車両1の運動エネルギーは電気エネルギーに変換されて、電動モータ6から電力変換装置11を介してバッテリ12に蓄積される。蓄積されたエネルギーは以降の車輪の駆動等に用いられ、車両の燃費向上に寄与することとなる。
モータECU14は、電動モータ6の回転数など、回生ブレーキユニット10の実際の作動状態を示す情報を取得してハイブリッドECU7に送信する。ハイブリッドECU7は、回生ブレーキユニット10の実際の作動状態に基づいて車輪に実際に付与されている回生実行トルクを演算し、回生実行トルクの情報をブレーキECU70に送信する。
ブレーキECU70は、受信した回生実行トルクの情報に基づいて回生実行制動力を演算し、算出された回生実行制動力を目標液圧制動力から減ずることで液圧ブレーキユニット20により発生させるべき液圧制動力である目標液圧制動力を算出する。そして、ブレーキECU70は、算出した目標液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
その結果、液圧ブレーキユニット20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施の形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。このとき、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64を閉状態とし、レギュレータ33及びマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。このように、ブレーキECU70は、ブレーキフルード圧が目標液圧となるように液圧ブレーキユニット20を制御する。これにより各車輪に液圧制動力が付与される。
上述のような回生協調制御の場合、目標制動力がMAXガードを超えていない場合、回生制動力のみによって目標制動力を満たせるため、理想的には目標液圧制動力は0になる。しかしながら、このような場合であっても、以下に示す演算の過程における桁落ちの誤差により目標液圧制動力が0にならず、不必要なブレーキの引きずりが発生することになる。
例えば、図3に示す構成の場合、目標制動トルクは2Nmを最小単位として演算されるため、タイヤ径に基づいて目標制動力を目標制動トルクに変換する際に最小単位未満の値を切り下げると最大2Nmの桁落ちによる誤差が生じ得る。また、ブレーキECU70において算出された目標制動トルクの情報は、データ量を少なくするために、それまでLSBが2Nmであったものが20Nmに変換され、CANにより回生要求トルクとしてハイブリッドECU7へ送信される。そのため、最大18Nmの桁落ちによる誤差が生じ得る。
ハイブリッドECU7は、受信した回生要求トルクの情報に基づいて回生制御を行い、実行された回生実行トルクの情報をCANによりブレーキECU70へ送信する。なお、ブレーキECU70やモータECU14の内部の処理において、車軸にかかる回生トルクをモータ軸にかかる回生トルクへ変換する際にも、ギア比が整数倍でない場合、桁落ちによる誤差が生じ得る。
送信された回生実行トルクの情報を受信したブレーキECU70は、回生実行トルクの値をLSBがそれまで20Nmであったものを再度2Nmに変換し処理する。そして、ブレーキECU70は、回生実行トルクに基づいてLSBを10Nとした回生実行制動力に変換する。この際、タイヤ径に基づいて回生実行トルクを回生実行制動力に変換するため、最小単位未満の値を切り下げると桁落ちによる誤差が生じ得る。
このように、回生制動力を算出する過程で扱うデータ量を削減するために規格化された所定量(例えば、10N、2Nm、20Nm)を最小単位として演算する場合、最小単位未満の値が発生してもこれを扱えないため、前述のように切り下げ処理すると、桁落ちにより演算結果に誤差が生じることになる。そのため、桁落ちによる誤差によって当初目標とされた回生制動力よりも実行されている回生制動力が小さく算出されることになる。ブレーキECU70は、このように算出された回生制動力を目標制動力から減ずることで目標となる液圧制動力を演算するため、桁落ちによる誤差によって目標となる液圧制動力が理想状態よりも大きく算出されることになり、これが不必要なブレーキの引きずりの要因となる。
そこで、本実施の形態に係るブレーキ制御装置では、ブレーキECU70やハイブリッドECU7に、回生制動力を算出する過程で用いられる最小単位未満の桁落ちにより生じる誤差を抑制する桁処理誤差抑制部が設けられている。このように桁処理誤差抑制部を設けることで、桁落ちにより生じる誤差を抑制できるため、当初目標とされた回生制動力よりも実行されている回生制動力の方が小さくなる状況が抑制される。その結果、目標となる液圧制動力が理想状態よりも大きく算出されることがなくなり、不必要なブレーキの引きずりの発生を抑制することができる。
具体的には、桁処理誤差抑制部は、回生制動力を算出する過程で生じる最小単位未満の値を切り上げ処理している。これにより、簡易な演算処理で桁落ち(桁処理)による誤差を抑制することができる。そのため、桁落ちによる回生制動力の低下が抑制されブレーキの引きずりが抑制される。なお、切上げ処理によって実行されている回生制動力が目標とされた回生制動力よりも大きくなり、目標液圧制動力がマイナスとして算出される場合もあり得るが、そのような場合には、目標液圧制動力をゼロとして回生協調制御が実行される。
また、桁処理誤差抑制部は、桁落ちにより生じる誤差を抑制する所定の値を、回生制動力を算出する過程で加算してもよい。あるいは、桁処理誤差抑制部は、桁落ちにより生じる誤差を抑制する所定の値を、目標となる液圧制動力を算出する過程で減算してもよい。ここで、所定の値は、各演算の過程で生じる桁落ちの誤差が最も多い場合を想定してそれらを累積した値としてもよいし、実験やシミュレーションにより桁落ちの誤差の分布を求めその中央値あるいは最大値としてもよい。このような構成によっても、簡易な演算処理で桁落ちによる誤差を抑制することができる。そのため、桁落ちによる回生制動力の低下が抑制されブレーキの引きずりが抑制される。なお、上述の説明では、制動力とトルクとを区別して説明していたが、トルクを制動力と相関のある数値として扱えばこれらを区別する必要ない。
次に、本実施の形態にかかる回生協調制御の方法について説明する。図4は、回生協調制御を実行する上で生じる問題点を示す説明図である。同図は、液圧制御から回生制御への切替え時の様子を表している。同図の上段には、液圧制御における作動液の目標液圧(破線)と、実際の液圧である実液圧(実線)が示されている。下段には、要求回生制動力(破線)と、実際の回生制動力である実回生制動力が示されている。同図の横軸は時間の経過を表している。
図示のように、液圧制御から回生制御へ切り替える際には、その回生要求とともにいったん液圧制御による液圧を大きく立ち上げる。これは、回生要求を行っても直ちに所望の回生制動力が得られるのではなく時間的遅れが生ずるため、その間の制動力を確保するものである。その液圧制動力を十分に確保した後、その液圧制動力を徐々に低減させて回生制動へと切り替えていく。図示の例では、時刻t1に回生要求およびその要求値(目標回生制動力)が出力されるとともに、目標液圧を上昇させている。そして、回生実行値としての回生実行制動力が上昇し始めた時刻t2から目標液圧を低下させている。ここでは、前述の桁処理誤差抑制部の働きにより、液圧制御から完全に回生制御へ切り替える場合には、その目標液圧がゼロに設定される。回生実行制動力は、時刻t3において誤差なく目標回生制動力に達している。
なお、液圧制御においては、液圧のハンチング防止等のためにその目標液圧に対して所定幅(例えば0.13Mpa程度)の不感帯領域が設定されている場合がある。同図においては、二点鎖線にて囲まれる範囲が目標液圧:ゼロに対する不感帯領域を示している。そして、実液圧がその不感帯領域に入ると、制御上目標液圧が達成されたと判定される。したがって、目標液圧をゼロに設定しても実液圧がゼロに収束しない。つまり、ホイールシリンダ圧が残り、ブレーキの引きずりが生じるといった問題がある。
そこで、本実施の形態では、この回生協調制御中の減圧時にホイールシリンダ圧を確実にゼロに導けるようにする。図5は、第1の実施の形態にかかる回生協調制御の主要部を示す説明図である。同図は、回生協調制御において液圧制御から回生制御へ切り替える際の減圧時の様子を表しており、図4における時刻t2以降の部分(一点鎖線参照)に対応する。同図には、液圧制御における作動液の目標液圧(破線)と実液圧(実線)が示され、二点鎖線にて囲まれる領域が不感帯領域となっている。同図の横軸は時間の経過を表している。
図示のように、本実施の形態では、本来の液圧の目標値(実目標液圧)がゼロであるのに対し、その目標液圧を図示のように負の値(<0)とした残圧低減目標値(仮目標液圧)を設定することによる残圧低減制御が行われる。そして、実液圧がゼロ、つまりホイールシリンダ圧の残圧がゼロになった後にその目標液圧をゼロに戻すようにする。この負の値は、例えばその絶対値が不感帯領域の半幅(目標値を基準とした不感帯領域の上下いずれか一方の幅:以下「不感帯幅」という)となるように設定してもよい。あるいは、その負の値に設定する期間に応じてその不感帯幅より小さくするなどの調整をしてもよい。このように、目標液圧を便宜上一時的に負の値をとる残圧低減目標値とすることで、図示のように時刻t4にて実液圧をゼロに収束させることができる。つまり、ホイールシリンダ圧としての残圧を低減することができる。その結果、ブレーキの引きずりを防止することができる。
次に、回生協調制御処理における制動力の演算について概略を説明する。図6は、ブレーキECUにおける演算処理の流れを示すフローチャートである。図7は、ハイブリッドECU7における演算処理の流れを示すフローチャートである。これらの処理は、図示しないイグニッションスイッチがオンにされてから繰り返し実行される。
図6に示すように、ブレーキECU70は、まず、車速センサ75の検出情報に基づいて車両1が走行中であるか否かを判定する(S10)。走行中である場合には(S10のYes)、あらかじめ設定された回生協調制御の開始条件(「回生条件」という)が成立したか否かを判定する(S12)。なお、車両1が走行中でない場合(S10のNo)、回生条件が成立していない場合には(S12のNo)、いずれもいったん処理を終了する。
回生条件が成立している場合(S12のYes)、ブレーキECU70は、ストロークセンサ25からの出力等に基づいて目標となる減速度を演算し(S14)、求められた減速度に基づいて目標となる制動力を演算する(S16)。本実施の形態では、このような目標制動力演算工程により、運転者のブレーキ操作に応じた目標制動力が演算される。その後、ハイブリッドECU7から取得された回生実行トルクの値に基づいて回生実行制動力が演算される(S18)。そして、S16において算出された目標制動力から回生実行制動力を減ずることで目標液圧制動力(S20)、更には目標液圧が演算される(S22)。そして、ブレーキECU70は、目標液圧となるように液圧アクチュエータ40の各電磁弁を制御する。
一方、ハイブリッドECU7は、図7に示すように、回生要求があるか否かを判定する(S30)。ハイブリッドECU7は、回生要求がある場合(S30のYes)、ブレーキECU70から送られた回生要求トルクの値を取得し(S32)、実行可能な範囲で回生実行トルクを演算する(S34)。なお、回生要求がない場合(S30のNo)、ハイブリッドECU7はいったん処理を終了する。
したがって、本実施の形態に係るブレーキECU70およびハイブリッドECU7は、目標制動力の範囲内で実行可能な回生制動力を演算するとともに、実行されている回生制動力を目標制動力から減ずることで目標となる液圧制動力を演算することができる。また、前述のように、回生制動力を算出する過程(例えば、S14〜S20、S32、S34等)で用いられる最小単位未満の値が切り上げられることで桁落ちにより生じる誤差が抑制される。
このように、本実施の形態に係るブレーキ制御方法によれば、桁落ちにより生じる誤差を抑制できるため、当初目標とされた回生制動力よりも実行されている回生制動力のほうが小さくなる状況が抑制される。その結果、このように算出された回生制動力を目標制動力から減ずることで目標となる液圧制動力を演算すると、目標となる液圧制動力が理想状態よりも大きく算出されることがなくなり、不必要なブレーキの引きずりの発生を抑制することができる。
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態に係るブレーキ制御装置では、目標制動力から回生実行制動力を減じることで目標液圧制動力を算出しているが、回生実行制動力の演算処理におけるブレーキECU70とハイブリッドECU7との送受信や演算自体の遅延のため、回生要求があってから回生制動力が算出されるまでの間にはタイムラグが発生する。そのため、本来回生制動力のみで目標制動力を満たせるにもかかわらず液圧制動力が発生し、エネルギーの回収効率を低下させる要因となる。
そこで、本実施の形態では、回生実行トルクと目標液圧制動力が所定の条件の際には、目標液圧制動力を0とする制御について説明する。図8は、第2の実施の形態に係るブレーキECU70における演算処理の流れを示すフローチャートである。図8において、S10からS20までの処理は第1の実施の形態と同様なため、説明を省略する。
本実施の形態では、図8のS20において目標液圧制動力が演算された後、最近の処理において用いられた回生実行トルクの値が所定の値A1より大きいか否かが判定される(S40)。所定の値A1は、回生実行トルクの値が実質的に発生しており回生ブレーキユニット10により回生制動が可能である状態か否かを判定することを考慮して設定されている。例えば、所定の値A1が0として設定されていた場合、回生実行トルクが0のときには回生ブレーキユニット10が回生制動を行えない状態であることが推定される(S40のNo)。この場合、通常と同様に目標液圧制動力に基づいて目標液圧が演算される(S42)。
次に、回生実行トルクが所定の値A1より大きい場合(S40のYes)、更に回生実行トルクが回生MAXガードの値より小さいか否かが判定される(S44)。回生実行トルクが回生MAXガードの値と同じ場合(S44のNo)、それ以上回生制動力を増すことができないため、目標液圧制動力を0とする制御は行わず通常と同様に目標液圧制動力に基づいて目標液圧が演算される(S42)。
回生実行トルクが回生MAXガードの値より小さい場合(S44のYes)、更に目標液圧制動力が所定の値A2より小さいか否かが判定される(S46)。所定の値A2は、算出されている目標液圧制動力の値を0に設定し直しても実質的に回生制動のみで制動が可能である状態か否かを考慮して設定されている。目標液圧制動力が所定の値A2以上の場合(S46のNo)、目標液圧制動力を0に再設定すると制動力の減少幅が大きく回生制動のみでの制動では不十分なことも考えられるため、通常と同様に目標液圧制動力に基づいて目標液圧が演算される(S42)。
一方、目標液圧制動力が所定の値A2より小さい場合(S46のYes)、目標液圧制動力を0とすることで液圧ブレーキユニット20におけるブレーキの引きずりが発生しないように目標液圧が0に設定される(S48)。したがって、あるタイミングのブレーキ操作に対して、回生実行トルクと液圧制動力とが演算されるタイミングにずれが生じるような場合であっても、制御遅れによる不必要な液圧の発生が抑制され、ブレーキの引きずりが抑制される。
また、回生制動トルクが発生している状態で運転者がブレーキを踏み増した場合、液圧制動力が低減された分をそれ以降のタイミングで演算される回生実行トルクの増加で補うことができ、微小なブレーキ操作量の変化にも対応する制動が可能となる。
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、回生協調制御以外においても残圧低減処理を行う点を除けば第1の実施の形態とほぼ同様である。このため、第1の実施の形態とほぼ同様の構成部分については必要に応じて同一の符号を付す等して適宜その説明を省略する。
図9は、第3の実施の形態にかかるブレーキ制御方法の主要部を示す説明図である。同図は、液圧制御における減圧時の様子を表している。同図には、液圧制御における作動液の目標液圧(破線)と実液圧(実線)が示され、二点鎖線にて囲まれる領域が不感帯領域となっている。同図の横軸は時間の経過を表している。
本実施の形態では、実液圧が目標液圧をゼロとした場合の不感帯領域に入ったときに、減圧リニア制御弁67を全開状態に制御し、ホイールシリンダ圧としての残圧を強制的にゼロにする残圧低減制御が実行される。図示の例では、目標液圧をゼロに設定したことに伴って実液圧が不感帯領域に入った後、時刻t21において減圧リニア制御弁67を所定期間全開にしている。これにより、時刻t22において実液圧がゼロに収束している。その結果、ブレーキの引きずりを防止することができる。
本実施の形態では、車両1が平地に停車していることを条件に、停車中においても残圧低減制御が実行される。本実施の形態のブレーキECU70には、現在のシフトレンジを検出するシフトポジションセンサ、パーキングブレーキの操作を検出するパーキングブレーキスイッチ、および車両1の前後方向の傾斜を検出する傾斜センサが接続されている。ブレーキECU70は、これらのセンサ(「状態検出部」に該当する)によりシフトレンジがPレンジ(パーキングレンジ)に設定され、パーキングブレーキがオンにされ、さらに車両1の傾斜が許容傾斜範囲にあれば、残圧低減制御を実行する。ここで、「許容傾斜範囲」は、ホイールシリンダ圧がゼロになっても車両がその自重により走行しない程度の傾斜範囲があらかじめ実験等により設定されている。車両1が坂路に停車している場合には、安全性を優先して残圧低減を行わないようにする。
ところで、上述のように減圧リニア制御弁67を全開にして残圧低減制御を実行すると、コイルの発熱が過大となる可能性がある。そこで、本実施の形態に係る車両1は、減圧リニア制御弁67の少なくとも一部の温度を推定する温度推定部を更に備えている。そして、ブレーキECU70は、温度推定部により推定された減圧リニア制御弁67の一部の推定温度に基づいて減圧リニア制御弁67を制御する。
ここで、温度推定部としては、一般的な温度センサを用いてもよいが、本実施の形態では、減圧リニア制御弁67に流れる電流に基づいて温度を推定している。温度推定部は、例えば、ブレーキECU70と不図示の電流センサとから構成される。以下、コイル温度の具体的な推定方法について説明する。
はじめに、式(1)によりコイル抵抗推定値R1を演算する。ここで、室温(例えば25℃)におけるコイルの抵抗値をR0、抵抗値の温度変化を示す抵抗温度係数をα、直前のコイル温度の推定値をT0[℃]とする。
R1=R0×(1+α×(T0−25))・・・式(1)
次に、式(2)によりコイルの発熱量Whを演算する。ここで、電流センサで検出した電流値をIとする。なお、電流値Iとしては、減圧リニア制御弁67に対する指示電流値を用いてもよい。これによれば、電流センサを省略することができる。
Wh=R1×I2・・・式(2)
次に、式(3)によりコイルの放熱量Wcを演算する。ここで、コイルの熱放散係数をζ、減圧リニア制御弁67が備えられてる環境温度をTE(例えば100℃)とする。
Wc=ζ×(T0−TE)・・・式(3)
次に、式(4)によりコイルの熱収支ΔWを演算する。ここで、コイル温度を推定する際のサンプリング時間をtとする。
ΔW=(Wh−Wc)×t・・・式(4)
次に、式(5)によりコイルの温度上昇ΔTを演算する。ここで、コイルの熱容量をQとする。
ΔT=ΔW/Q・・・式(5)
そして、最後に式(6)によりコイルの推定温度Tを演算する。
T=T0+ΔT・・・式(6)
ブレーキECU70は、上述の式(1)〜式(6)に示す演算を所定のタイミング、サンプリング時間で繰り返すことでコイルの温度を随時推定することができる。図10は、第3の実施の形態に係る減圧リニア制御弁67の制御を示すフローチャートである。この処理は所定のタイミングおよび間隔で繰り返し実行される。
ブレーキECU70は、残圧低減条件が成立しているか否かを判定する(S50)。残圧低減制御が成立していない場合(S50のNo)、減圧リニア制御弁67は閉状態に制御される(S52)。残圧低減制御が成立している場合(S50のYes)、コイル推定温度Tが所定の強制閉弁温度Th以下か否かが判定される(S54)。ここで、所定の強制閉弁温度Thは、減圧リニア制御弁67を開弁するために電流が流し続けられるコイルの寿命や性能に与える影響が無視できなくなる温度を考慮して設定されている。
コイル推定温度Tが強制閉弁温度Th以下の場合(S54のYes)、コイルに電流を流しつづけてもコイルの寿命や性能に与える影響は無視できるため、減圧リニア制御弁67を開弁し残圧低減制御が実行される(S56)。一方、コイル推定温度Tが強制閉弁温度Thよりも高い場合(S54のNo)、車両の制御状態が残圧低減条件を満たしていても減圧リニア制御弁67への通電制御を停止し閉弁する(S52)。これにより、減圧リニア制御弁67の連続動作による温度上昇が防止され、減圧弁の長寿命化が図られる。
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、残圧低減処理における減圧リニア制御弁67の閉弁制御に関する。図11は、第4の実施の形態に係る減圧リニア制御弁67の制御を示すフローチャートである。この処理は所定のタイミングおよび間隔で繰り返し実行される。
ブレーキECU70は、残圧低減条件が成立しているか否かを判定する(S60)。残圧低減制御が成立していない場合(S60のNo)、減圧リニア制御弁67は閉状態に制御される(S62)。残圧低減制御が成立している場合(S60のYes)、コイル推定温度Tが所定の減圧弁全開許可温度T1以下か否かが判定される(S64)。ここで、所定の減圧弁全開許可温度T1は、減圧リニア制御弁67を全開状態にするための電流が流し続けられてもコイルの寿命や性能に与える影響が無視できる温度を考慮して設定されている。
コイル推定温度Tが減圧弁全開許可温度T1以下の場合(S64のYes)、コイルに印加できる最大(MAX)電流を流しつづけてもコイルの寿命や性能に与える影響は無視できるため、減圧リニア制御弁67を全開し残圧低減制御が実行される(S66)。一方、コイル推定温度Tが減圧弁全開許可温度T1よりも高い場合(S64のNo)、更にコイル推定温度Tが所定の減圧弁電流減少開始温度T2以下か否かが判定される(S68)。ここで、所定の減圧弁電流減少開始温度T2は、強制閉弁温度Thより低く減圧弁全開許可温度T1より高い温度として設定されている。
コイル推定温度Tが減圧弁電流減少開始温度T2以下の場合(S68のYes)、コイルへの通電量を前述の最大電流より小さい値まで増加させながら減圧リニア制御弁67を開弁し残圧低減制御が実行される(S70)。一方、コイル推定温度Tが減圧弁電流減少開始温度T2よりも高い場合(S68のNo)、更にコイル推定温度Tが所定の強制閉弁温度Th以下か否かが判定される(S72)。
コイル推定温度Tが強制閉弁温度Thよりも高い場合(S72のNo)、車両の制御状態が残圧低減条件を満たしていても減圧リニア制御弁67への通電を停止し閉弁する(S74)。これにより、減圧リニア制御弁67の連続動作による温度上昇が防止され、減圧弁の長寿命化が図られる。一方、コイル推定温度Tが強制閉弁温度Th以下の場合(S72のYes)、その温度に応じて減圧リニア制御弁67への通電量を徐々に減少させていく(S76)。これにより、強制閉弁温度Thに達する前に減圧リニア制御弁67の通電量が減少しているので、仮に強制閉弁温度Thに達して減圧リニア制御弁67が強制的に閉弁されても弁が弁座等に衝突する際の作動音や力が緩和される。その結果、減圧弁の長寿命化が図られる。
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
1 車両、 7 ハイブリッドECU、 10 回生ブレーキユニット、 20 液圧ブレーキユニット、 23 ホイールシリンダ、 24 ブレーキペダル、 25 ストロークセンサ、 27 マスタシリンダユニット、 30 動力液圧源、 40 液圧アクチュエータ、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 75 車速センサ。