JP2009215612A - 加工性に優れた中・高炭素鋼板およびその製造方法 - Google Patents

加工性に優れた中・高炭素鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】、加工性が優れるばかりでなく、打抜きおよびシェービング加工時に加工金型を損耗させることのない加工性に優れた中・高炭素鋼板を提供する。
【解決手段】C,Si,Mn,PおよびSの含有量が規定された熱延酸洗鋼板に、熱延板焼鈍或いは冷延および冷延板焼鈍を施した後、仕上げ冷延および仕上げ焼鈍を施して冷延焼鈍板を製造する際、前記熱延板焼鈍または冷延板焼鈍を、Ac1点直上の温度で長時間保持することで行った後、圧延率を制御した冷延と仕上げ焼鈍を行って冷延焼鈍板を製造した後、さらに最終の冷間圧延を施すことによりことにより、フェライト結晶粒界上の炭化物数CGBとフェライト結晶粒内の炭化物数CIGの間に、CGB/CIG≦0.8の関係が成り立つとともに、当該炭化物中の90%以上を長軸/短軸が2以下の球状化炭化物で占める前記炭化物がフェライト中に分散した組織を有し、最終の冷延により断面硬さが200〜300HVに調整された中・高炭素鋼板を得る。
【選択図】なし

Description

本発明は、優れた加工性を有し、部品形状に成形された後に熱処理が施され、所望の機械的特性を発現させて使用される中・高炭素鋼板およびその製造方法に関する。
歯車等、複雑形状をもち高い寸法精度、耐摩耗性が要求される機械構造部品は、中・高炭素鋼板を素材とし、切削加工により部品形状に適宜成形した後、焼入れ・焼戻し等の必要な熱処理を施すことにより製造されている。しかしながら、切削加工では製造コストが高くつくため、切削加工を打抜き加工等の塑性加工に変えることが検討されている。
ところで、塑性加工性は、多くの場合硬さが低いほど良好である。このため、加工性を重視する場合には素材鋼板をできるだけ軟質化させるような製造条件の設定が行われている。
炭素鋼板を軟質化させるには、結晶組織を大きくし、また生成される炭化物を大きくかつ丸く成長させることが有効である。このため、Ac1変態点直下で長時間加熱する技術や、Ac1変態点以上の温度に加熱して一部をオーステナイト化した後、適切な方法で冷却することで、炭化物の粒径を大きく成長させて軟質化を図ることが提案されている。
本発明者等も、炭素鋼板を軟質化して加工性を良くするために、成分組成と炭化物の存在形態について検討した技術を特許文献1,2で紹介した。
上記特許文献で紹介された技術は、炭化物の粒径を大きくしているために、炭素鋼板の軟質化には非常に有効な方法である。しかしながら、軟質化された割に加工性が向上していない点に若干の不満も残っている。具体的には、十分に軟質化された場合でも、穴拡げ性や金型寿命がほとんど向上しないか、逆に低下する場合がある。
このような穴拡げ性や金型寿命が向上しない理由は、前述の方法が炭化物の粒径を粗大化させることを目的とするものであって、炭化物の形状制御を行っていないために、硬さは低下させることができても加工性に不利な形状の炭化物を多量に生成させてしまったことにある、と考えられる。
一般的には、炭化物の成長・粗大化だけを狙った場合、炭化物の形状が棒状や板状になったりする現象が頻発する。また、炭化物形状が鋭角な角を持つ多角形になっている場合もある。このような板状や棒状の炭化物が存在すると、局部的な塑性変形能が低下するために、穴拡げ性のような局部的な塑性変形能に依存する加工性が低下する。また、炭化物の形状が棒状、板状或いは多角形になっていると、特にファインブランキング加工を行う際、金型を摩耗させる要因にもなる。
そこで、本発明者等は、塑性変形能を低下させることなく、打抜き加工時に金型を損傷・摩耗させることを抑制した中・高炭素鋼およびその製造方法を特許文献3で提案した。当該特許文献3で提案した技術は、C:0.30〜1.30質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:0.2〜1.5質量%,P:0.02質量%以下,S:0.02質量%以下を、さらに必要に応じて、Ni:1.8質量%以下,Cr:2.0質量%以下,V:0.5質量%以下,Mo:0.5質量%以下,Nb:0.3質量%以下,Ti:0.3質量%以下,B:0.01質量%以下,Ca:0.01質量%以下の1種又は2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する熱延酸洗板に、熱延板焼鈍或いは冷延および冷延板焼鈍を施した後、仕上げ冷延(本出願では軽冷延に相当する)および仕上げ焼鈍を施して冷延焼鈍板を製造する際に、特殊な焼鈍を施して、フェライト結晶粒界上の炭化物数CGBとフェライト結晶粒内の炭化物数CIGの間に、CGB/CIG≦0.8の関係が成り立つように炭化物が分散した組織を有し、さらに断面硬さが160HV以下となったものを得ようとするものである。
特開2000−265239号公報 特開2000−265240号公報 特願2007−150121号
上記特許文献3で紹介された技術では、中・高炭素鋼板の成分組成と組織、特に炭化物粒子のフェライト結晶粒界上と結晶粒内の分散状態を、結晶粒内炭化物数の方が多くなるように調整することにより、結果的に分散された炭化物粒子を小さく、かつ丸くして金型等を損耗させる硬質の剥落粒子を無害化することができている。このため、当該特許文献による技術で提供される中・高炭素鋼板を素材として所望形状への打抜き加工等の塑性加工を施しても、金型等の損耗が抑えられるので、複雑形状の自動車部品等、高硬度および高靭性を必要とする各種機械部品を、低コストで生産性良く製造することができるという、実用上優れた効果を奏している。
しかしながら、断面硬さが160HV以下になる程に軟質化してしまうと、打抜き加工製品にダレが発生し、曲がりが大きくなってしまい、例えば歯車のような高度な寸法精度を必要とするものにあっては打抜きのままでは使用できない。このため、打抜き加工後にシェービング加工が施される。
打抜き加工後にシェービング加工等の切削加工が施される場合、切削加工量を極力少なく、かつ加工工具の損傷・摩耗を極力低減することが必要となる。そのためには、素材中・高炭素鋼板を単に軟質化するのみでは不十分であって、打抜き加工品のダレや曲がりを抑制するために断面硬さを調整しつつ、打抜き加工工具およびシェービング加工工具の長寿命化が可能な鋼板が求められる。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、打抜き加工とその後のシェービング加工が施される中・高炭素鋼板において、加工性が優れるばかりでなく、打抜きおよびシェービング加工時に加工金型を損耗させることのない加工性に優れた中・高炭素鋼板を提供することを目的とする。
本発明の加工性に優れた中・高炭素鋼板は、その目的を達成するため、C:0.30〜1.00質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:0.2〜1.5質量%,P:0.02質量%以下,S:0.02質量%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、フェライト結晶粒界上の炭化物数CGBとフェライト結晶粒内の炭化物数CIGの間に、CGB/CIG≦0.8の関係が成り立つとともに、全ての炭化物の内の90%以上を長軸/短軸が2以下の球状化炭化物で占める炭化物がフェライト中に分散した組織を有することを特徴とする。そして、本発明の中・高炭素鋼板は、仕上げ焼鈍後の最終の冷延により断面硬さが200〜300HVに調整されていることが好ましい。
本発明鋼板は、さらに、Ni:1.8質量%以下,Cr:2.0質量%以下,V:0.5質量%以下,Mo:0.5質量%以下,Nb:0.3質量%以下,Ti:0.3質量%以下,B:0.01質量%以下の内の1種又は2種以上を含む成分組成とすることもできる。
このような中・高炭素鋼板は、C:0.30〜1.00質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:0.2〜1.5質量%,P:0.02質量%以下,S:0.02質量%以下を、さらに必要に応じて、Ni:1.8質量%以下,Cr:2.0質量%以下,V:0.5質量%以下,Mo:0.5質量%以下,Nb:0.3質量%以下,Ti:0.3質量%以下,B:0.01質量%以下の内の1種又は2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する熱延酸洗板に、熱延板焼鈍あるいは冷延および冷延板焼鈍を施した後、軽冷延および仕上げ焼鈍を施して冷延焼鈍板を製造する際、前記熱延板焼鈍または冷延板焼鈍を、Ac1〜(Ac1+50℃)の温度で5時間以上保持した後に600℃までの冷却を20℃/h以下で行った後、10〜25%の圧延率で軽冷延を施し、その後600℃〜Ac1の温度で2時間以上保持する仕上げ焼鈍を施して冷延焼鈍板を製造した後、さらに最終の冷間圧延を施すことにより製造される。
最終の冷間圧延は圧延率20〜60%で行うことが好ましい。
本発明により、中・高炭素鋼板の成分組成と組織、特にフェライト結晶粒界上の炭化物をフェライト結晶粒内の炭化物よりも少なく、しかも形成される炭化物を球状化させた組織として軟質化を図るとともに、仕上げ焼鈍後に最終の冷延を施して断面硬さを200〜300HVに調整している。
このため、打抜き加工の際にもダレや曲がりの生成が少なく、このためシェービング加工代が少なくなるばかりでなく、断面硬さの調整により加工工具への負担が軽減され、金型等の損耗が抑えられる。
したがって、本発明鋼板を素材とすることにより、形状が複雑で寸法精度が要求される各種機械部品を、低コストで生産性良く製造することができる。
本発明者等は、炭素鋼板に打抜き加工等の塑性加工を施す際に金型等が損耗する原因について鋭意検討した。
通常、打抜き加工等では、被加工鋼板の硬さが低いほど加工荷重は小さいので、金型にかかる負荷は小さく、金型の損耗頻度は軽減される。そして被加工鋼板の硬さが硬くなるほど、金型の損耗頻度は高くなる。また、金型の摩耗は、加工品の断面や金型破損部から剥落して形成される硬質な摩耗粒子によるアブレッシブ摩耗である。被加工鋼板の硬さが低いと、金型の破損が低減し、また鋼材からの硬質粒子の剥落も減少するので、金型を摩耗させる硬質粒子が減少することになる。すなわち、被加工鋼板の硬さが低いほど金型は長寿命化する。
しかしながら、上記知見自体は一般論である。
本発明者等は、金型損耗の原因について鋭意検討する段階で、打抜きおよびシェービング金型の寿命向上の効果が実用上有効に発揮される超軟質化材およびその製造条件を見出した。
以下に、その詳細を説明する。
本発明が対象とするような中・高炭素鋼にあっては、通常、炭化物はフェライト結晶の粒界上や粒内に分散析出する。そして、フェライト結晶の粒界上あるいは粒内に析出した炭化物粒子は、析出した部位に応じて形状が異なる。
フェライト結晶粒界上に析出した炭化物粒子は、結晶粒内に析出した炭化物粒子と比べて、粗大なものが多く、しかも棒状,板状等、アスペクト比が大きく、かつ角張ったものが多い。結晶粒界上に存在する角張った炭化物は、加工時に剥落し易く、金型寿命に対して悪影響をおよぼすことになる。そこで、金型寿命を長くするには、炭化物を結晶粒界から引き離す方法が必要である。
炭化物を結晶粒界から引き離すためには、Ac1〜(Ac1+50℃)の温度で5時間以上保持した後に600℃までの冷却を20℃/h以下で行う極軟化焼鈍を施した後に低い冷延率での軽冷延を行い、さらに600℃〜Ac1の温度で2時間以上保持する仕上げ焼鈍を行うことにより、炭化物粒径とフェライト結晶粒径を積極的に粗大化させることができる。
軽冷延前の極軟化焼鈍で炭化物を粗大化し、軽冷延後の仕上げ焼鈍でフェライト結晶粒径が粗大になれば、結晶粒界から引き離される炭化物の比率が多くなり、相対的に結晶粒内にある炭化物の比率が増加する。結晶粒内にある炭化物は角のとれたスムーズな形状をしており、金型寿命に悪影響を与えにくい。なお、軽冷延前の極軟化焼鈍で形成された結晶粒界上の炭化物は板状や棒状の形状を呈しやすいが、軽冷延+仕上げ焼鈍により容易に球状化し、局部延性を劣化させることがない。炭化物は、軽冷延であっても板状や棒状の炭化物が分断され、仕上げ焼鈍で球状となる。さらに、仕上げ焼鈍でフェライト粒径が粗大化されることで鋼板は軟質化する。
一方、フェライト結晶粒径を粗大化するとともに炭化物の形状制御を行った軟質化材では、ダレ量の増加や打抜き品のわん曲が大きくなる。打抜き加工後にシェービング加工を行う場合においては、シェービング量の低減の観点から打抜き加工面のダレ量の低減が必要である。このため打抜き加工後にシェービング加工を行う場合においては、素材を可能な限り軟質化した後に冷間圧延を行って硬くし、ダレおよびわん曲の生成量を低減する必要がある。
上記観点から、本発明にあっては、成分組成の特定の他に、「フェライト結晶粒界上の炭化物数CGBとフェライト結晶粒内の炭化物数CIGの間に、CGB/CIG≦0.8の関係が成り立つとともに、当該炭化物中の90%以上を長軸/短軸が2以下の球状化炭化物で占める前記炭化物がフェライト中に分散した組織を有する」なる要件を採用したものである。また、「仕上げ焼鈍後の最終の冷延により断面硬さが200〜300HVに調整されている」なる要件を好ましい要件としたものである。
炭化物粒径およびフェライト結晶粒径を粗大化し、結晶粒界から引き離される炭化物の比率を多くするために、本発明では、基本的に、極軟化焼鈍+軽冷延+仕上げ(再結晶)焼鈍のプロセスを利用している。炭化物粒子が存在する炭素鋼板では、炭化物粒子が結晶粒界をピン止めするので、再結晶で粒径を粗大化させるにはある程度の冷延率が必要になる。一方、冷延率が大きすぎると、再結晶核が多くなりすぎて結晶粒径が逆に微細化されるおそれがある。
さらに、最終の冷延は、打抜き品のダレおよびわん曲の抑制に必要である。ただし、金型寿命の向上を図るためには、ダレおよびわん曲の抑制が可能な範囲での低い冷延率を付与する。
最終冷延で硬質となるが、極軟化焼鈍+軽冷延+仕上げ(再結晶)焼鈍のプロセスの段階で軟質化することで、一般的な冷延・焼鈍のプロセスよりも同じ最終冷延率であっても軟質化でき、かつ炭化物の形態制御により金型の長寿命化が図れる。
上記観点から、本発明の製造方法にあっては、熱延板焼鈍または冷延板焼鈍、その後の軽冷延、仕上げ焼鈍、さらにその後に施す最終の冷間圧延の条件を細かく規定したものである。
以下に、本発明の特徴点を詳しく説明する。
なお、本発明の特徴点である前記「極軟化焼鈍+軽冷延+仕上げ(再結晶)焼鈍」のプロセスを、「超軟質化処理」と称する。
まず、本発明鋼板の鋼組成について説明する。
C:0.30〜1.00質量%
本発明は、機械構造部品や刃物・工具等に使用される炭素鋼板を素材として、C量は0.30質量%以上1.00質量%までの中・高炭素鋼を対象としている。C量が0.30質量に満たない低炭素鋼では塑性加工性が問題になることはないので、本発明の対象外とする。また、C量が1.00質量%を超えると、組織制御によって塑性加工性を高めることは非常に難しくなるので、1.00質量%以下のCを含有する中・高炭素鋼を対象とした。
Si:1.0質量%以下
Siは脱酸作用を有する。ただし、本発明の場合、Siを積極的に添加しなくても脱酸不良を起こすようなことはない。反面、添加量が多くなりすぎると加工性を低下させることになる。その上限は1.0質量%である。
Mn:0.2〜1.5質量%
Mnは焼入れ性を確保するために必要な元素である。添加量が0.2質量%に満たないとその効果は小さい。逆に1.5質量%を超えて添加すると、Ms点が低くなって残留オーステナイトが増加して所望の硬さが得られず、却って靭性が低下するという弊害が生じる。
P:0.02質量%以下
Pはオーステナイト粒界に偏析し、靭性を低下させる元素である。したがって、少ない方が好ましい。0.02質量%を超えて含有させると延性−脆性遷移温度の上昇を招くので、P含有量の上限は0.02質量%とする。
S:0.02質量%以下
SはMnS系介在物を形成し靭性を低下させる。したがって、少ない方が好ましい。材質上弊害のない水準は0.02質量%以下である。
本発明鋼板は、必要に応じてさらにNi,Cr,V,Mo,Nb,Ti,Bを含むこともできる。
Ni:1.8質量%以下
Niは靭性を向上させる作用と、Mnと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する。しかし、1.8質量%を超えて過剰に添加しても、コストに見合った靭性向上効果は得られない。したがって、添加する場合は1.8質量%を上限とする。
Cr:2.0質量%以下
Crは焼入れ性を有する元素である。強度を向上させるばかりでなく、耐摩耗性をも向上させる。しかし、2.0質量%を超えて過剰に添加すると靭性が低下する。
V:0.5質量%以下
Vは焼入れ時にオーステナイト結晶粒径を微細化する作用がある。本発明の合金成分系では、旧オーステナイト結晶粒径微細化作用を発揮させるには、0.5質量%までの添加で十分である。添加量が過剰に多くなると製造性に困難を来たすので、添加する場合は0.5質量%を上限とする。
Mo:0.5質量%以下
Moは焼入れ性を向上させる効果を有する。またNiとの複合添加で鋼の強靭性を高める作用も発揮する。さらに、特殊炭化物を形成することによって耐摩耗性を向上させる作用も有している。本発明の合金成分系では、上記作用を発揮させるのは0.5質量%のまでの添加で十分である。これ以上添加しても、それに見合った効果が得られないばかりでなく、製造性を悪化させるようになる。したがって添加する場合は0.5質量%を上限とする。
Nb:0.3質量%以下
Nbは、焼入れ時のオーステナイト粒径を微細化させる効果を有する。本発明の合金成分系では、旧オーステナイト結晶粒径微細化作用を発揮させるには、0.3質量%までの添加で十分である。0.3質量%を超えて添加しても、効果は飽和するので、添加する場合も0.3質量%を上限とする。
Ti:0.3質量%以下
Tiも、焼入れ時のオーステナイト粒径を微細化させる効果を有する。本発明の合金成分系では、旧オーステナイト結晶粒径微細化作用を発揮させるには、0.3質量%までの添加で十分である。0.3質量%を超えて添加しても、効果は飽和するので、添加する場合も0.3質量%を上限とする。
B:0.01質量%以下
Bは、旧オーステナイト結晶粒界の強度を高め、靭性を向上させる作用を発揮する。本発明の合金成分系では、0.01質量%までの添加でこの効果が得られる。しかし、0.01%を超えて添加してもその効果は飽和するので、添加する場合は0.01%を上限とする。
断面硬さ:200〜300HV以下
打抜き加工用の金型やシェービング加工用の金型の寿命を決める重要な要因は、打抜き加工する鋼材の硬さである。断面硬さが200HVに満たないと打抜き加工時にダレ,わん曲が生じやすくなり、逆に300HVを超える程に硬くなると金型の損傷が起こりやすくなる。断面硬さが200〜300HVであると、ダレ,わん曲を抑制し、金型寿命向上に対して大きな効果を発揮することができる。
組織形態
本発明の基本的発想である超軟質化処理は、炭化物の形状を大きく且つ棒状や板状のものを分断して球形にしたりすることが可能である。さらにフェライト結晶粒を粗大化し、フェライト結晶粒内の炭化物の比率を高くできる。
具体的には、極軟化焼鈍により炭化物を粗大化し軟質となるが、フェライト結晶粒界上に形成された炭化物は板状や棒状の形状を呈しやすい。そこでその後に軽冷延で板状や棒状の炭化物を分断する。さらにAc1未満の温度で仕上げ焼鈍を行うことで、フェライト結晶粒が再結晶し、軽冷延で分断された炭化物はフェライト結晶粒界から引き離されて球状化し結晶粒内に存在する。結晶粒内の炭化物の比率を高くすることで、結果的に分散された炭化物粒子を大きく、かつ丸くして金型を摩耗させる硬質の剥離粒子を低減かつ無害化できる。また、フェライト結晶粒の粗大化によりさらに軟質となる。
本発明では、フェライト結晶粒界上の炭化物数をCGB、フェライト結晶粒内の炭化物数をCIGとしたとき、CGBとCIBの間に、CGB/CIG≦0.8の関係が成り立つように炭化物が分散した組織を有していると、金型の長寿命化が図れることを、実験を重ねることで確認した。一方、CGB/CIGが0.8を超えて大きくなると金型の摩耗損傷が大きくなる。結果としてシェービング加工面の表面粗さ(Ra)が大きくなり金型寿命が短くなる。
さらに、種々な塑性加工性を考慮すると、炭化物の球状化率を90%以上に調整しておく必要がある。90%に満たないと、金型の摩耗損傷が大きくなり、シェービング加工面の表面粗さが大きくなる。
なお、炭化物の存在形態、すなわちフェライト結晶の粒界および粒内での炭化物の存在比率や炭化物の球状化率は、超軟質化処理を施すことにより形成され、さらにはその後の最終の冷間圧延を行っても基本的には変わらない。
次に、本発明鋼板を製造する方法について簡単に説明する。
なお、熱延条件や熱延板酸洗条件には全く制限はない。通常通り行っても全く問題はない。
超軟質化処理における極軟化焼鈍:Ac1〜(Ac1+50℃)の温度で5時間以上保持した後に600℃までの冷却を20℃/h以下で行う焼鈍
超軟質化処理の効果を十分に発揮させるためには、上記の極軟化焼鈍において、炭化物を粗大化、球状化させておくことが必要になる。
この焼鈍を施していないと、炭化物の形状が球状にならず、粒径が粗大にならない。また、この焼鈍工程で、保持温度がAc1点温度に満たないと、また保持時間が5時間に満たないと炭化物粒径が十分に粗大化されず、逆にAc1+50℃を超えるほどに高いと炭化物が球状化せずに板状や棒状になるために超軟質化処理の効果が得られない。さらに、600℃までの冷却速度が20℃/hよりも速いと、炭化物形状が板状や棒状になりやすくなるために超軟質化処理の効果が得られない。600℃〜室温までの冷却速度に制限はない。
超軟質化処理における軽冷延;冷延率10〜25%
極軟化焼鈍した鋼板に低い冷延率の軽冷延を施すことにより鋼板組織中に転位を導入する(加工硬化させる)ことが、引続いて施される仕上げ焼鈍で、フェライト結晶粒を再結晶・粗大化させるために必須となる。このための冷延率は少なくとも10%は必要である。冷延率が10%に満たないほどに小さいと、フェライトの再結晶が不完全(サブグレイン組織)になり、硬さを十分に低下させることができない。逆に冷延率が25%を超えるほどに大きいと、導入される転位が多くなりすぎ、再結晶の核生成サイトの密度が増大して、再結晶粒が逆に微細化されてしまって、結果的に硬質化される。
超軟質化処理における仕上げ焼鈍;600℃〜Ac1点の温度域に2h以上保持
軽冷延されたフェライト結晶粒を再結晶させ、粒径を粗大化してフェライト結晶粒内に存在する炭化物の比率を多くするための処理である。保持温度が600℃に満たないと再結晶され難いので、最低でも600℃以上の温度で保持する必要がある。保持温度がAc1点を超えると、組織がオーステナイト化されるようになる。オーステナイト結晶が形成され、フェライト+オーステナイト+炭化物の混合組織になると、フェライト結晶がオーステナイト相にピン止めされて粗大化できなくなる。したがって、仕上げ焼鈍はAc1点を超えてはならない。また、再結晶を十分に行わせるためには、2h以上の保持が必要である。
仕上げ焼鈍後の最終の冷間圧延;圧延率20〜60%
打抜き加工後にシェービング加工を施すような使用態様では、打抜き加工品のダレ、わん曲を抑制してシェ−ビング加工代を極力少なくするため、一旦超軟質化した鋼板の断面硬さをある程度硬くする必要がある。このために、仕上げ焼鈍後再度の冷間圧延を行う。
20%以上の冷延率により、良好な板形状(板厚精度、Lそり、Cそり)が得られる。また、圧延率が60%を超えるほどの冷延を施すと、鋼板が高硬度となり、圧延機に負荷がかかって製造性が悪くなるばかりでなく、加工金型の損傷が激しくなる。
実施例1:
表1に示す化学成分を有する鋼を溶製し、連続鋳造でスラブを得た後、スラブ加熱温度1250℃,仕上げ温度850℃および巻取り温度600℃の熱延を施し、塩酸浴による酸洗を施して、板厚4.0mmの熱延酸洗板を得た。
各熱延酸洗板を、750℃×10h加熱した後に10℃/sの冷却速度で600℃まで冷却する焼鈍を施した後、圧延率20%の軽冷延とその後の710℃×10h→炉冷の焼鈍を施す超軟質化処理を行い、さらにその後に圧延率40%の冷間圧延を施した。
また、比較の通常法として各熱延酸洗板を710℃×10h→炉冷の焼鈍後、圧延率30%の冷延とその後710℃×10h→炉冷の焼鈍を行い、さらにその後に圧延率40%の冷間圧延を施した。
各供試材について、最終の冷間圧延前と後の断面硬さを、圧延方向と板厚方向を含む断面を研磨紙で湿式研磨した後、ビッカース硬度計で測定した。その結果を表2に示す。
表2に見られるように、成分組成を適切に調整した中・高炭素鋼に、同じ最終冷延率を付与しても通常法よりも超軟質化処理を行った方が軟質となり、打抜き加工やその後のシェービング加工の際にも加工金型の損耗を低減できる鋼板が提供できることがわかる。これに対して、超軟質化処理を行ってもC含有量が多かったり(鋼種No.P)、Si含有量やMn含有量が多かったり(鋼種No.Q,R)すると、軟質化せず、シェービング加工に適さないことがわかる。
Figure 2009215612
Figure 2009215612
実施例2:
表1中、A鋼、E鋼、J鋼およびP鋼について、超軟質化処理時の圧延条件の影響について、検討した。
実施例1と同じ方法で板厚4.0mmの熱延酸洗板を製造した。各熱延酸洗板を、740℃×10h加熱した後に20℃/hrの冷却速度で600℃まで冷却する焼鈍を施した後、圧延率を0〜50%の範囲で種々変えた冷延とその後の710℃×10h→炉冷の焼鈍を施す超軟質化処理を行い、さらにその後に圧延率40%の冷間圧延を施した。
各供試材について、最終の冷間圧延後の断面硬さを、実施例1と同じ方法で測定した。その結果を図1に示す。
また、E鋼、J鋼およびP鋼の最終冷間圧延後の断面を5%ナイタールで腐食し、その腐食面に現れたフェライトの結晶粒径を切断法で計測した。その結果を図2に示す。
図1に見られるように、超軟質化処理時における冷延率を10〜25%程度にすると、A鋼、E鋼およびJ鋼では、冷延率0%の場合よりも軟質化することができている。これに対して、C含有量が多いP鋼では、適切な超軟質化処理を施しても軟質化できていない。
10〜25%の冷延を施すことにより、A鋼、E鋼およびJ鋼では軟質化できているのに対して、P鋼では軟質化できなかった理由が、図2の結果からわかる。
すなわち、超軟質化処理における冷延時の冷延率を10〜25%とすると、E鋼とJ鋼ではフェライト結晶粒径が急激に粗大化しているのに対してP鋼では粗大化していない。P鋼のC含有量が多すぎたためと推測される。このように、適切な冷延率の冷間圧延を行うことにより、組織中の転位密度が高くなり、引続いて施される仕上げ焼鈍時に再結晶粒の成長速度を増加させる効果をもたらしたものと考える。
実施例3;
表1に示す化学成分を有する鋼を供試材とし、熱延から最終的な冷延までの各条件を表3に示すように種々変更し、最終的な冷延を施した後の仕上げ板厚を1.5mmとした鋼板を作製した。極軟化焼鈍では、焼鈍温度から600℃までを10℃/hで冷却した。
各鋼板に、次に示す条件で打抜き→シェービング加工試験を行った。
加工条件
Figure 2009215612
組織形態については、鋼板断面を5%ナイタールで腐食した後、走査型電子顕微鏡によりフェライト結晶粒界上とフェライト粒内にある炭化物が1000個になるまで、フェライト結晶粒界上の炭化物数CGBとフェライト粒内の炭化物数CIGを計測した。また炭化物の球状化率の計測は、炭化物総数1000個とし、炭化物総数に占める、炭化物の最大長さpとその直角方向の最大長さqの比(p/q)が2以下である炭化物の数の割合(%)を、画像処理装置を用いて行った。
その後、各打抜き加工品について、図3のように定義したダレとわん曲の生成状況を、次のように観察・測定した。その結果を表4に示す。
ダレ;打抜き加工品の断面をエメリー紙で湿式研摩後、ダレ量を測定
わん曲;打抜き加工品を表面粗さ測定機でわん曲量を測定
なお、表4中では、打抜き品のダレ量が100μm以下を○、わん曲量が15μm以下を○で評価している。
また、金型寿命を、加工品のシェービング面を表面粗さ測定機によって調査した。その際、表面粗さRaが2.0μm以下のものを○で、さらに表面粗さRaが良好で1.0μm以下のものを◎、それらから外れたものを×で評価した。
そして、ダレ量,わん曲量,金型寿命の全てで○と評価できるものを、加工性が良好と評価した。
Figure 2009215612
Figure 2009215612
表3,4に示す結果から、本請求項で規定した要件を満たすものでは、ダレ量,わん曲量,シェービング面粗さを満足する金型寿命に優れたものであった。
これに対して、試験No.1は極軟化焼鈍温度が低く過ぎたためCGB/CGI≦0.8を満足せずシェービング面粗さの点で満足できなかった。
No.9,20は、極軟化焼鈍温度が低く過ぎたためCGB/CGI≦0.8を満足せず、シェービング面粗さの点で満足できなかった。
No.11は、超軟質化処理時の軽冷延率が低いためCGB/CGI≦0.8を満足せず、逆にNo.32は、超軟質化処理時の軽冷延率が高いためにCGB/CGI≦0.8を満足せず、シェービング面粗さの点で満足できなかった。
No.14は、超軟質化処理が行われていないために炭化物の球状化率、CGB/CGI≦0.8を満足せず、シェービング面粗さの点で満足できなかった。
No.27,28,29は、鋼成分の調整が適当でなかったため、軟質化せず、シェービング加工に適していなかった。実施例1での検討結果と同じである。
No.31は、仕上げ焼鈍の温度が高すぎたため、CGB/CGI≦0.8、および炭化物球状化率を満足せず、シェービング面粗さの点で満足できなかった。
超軟質化処理時の冷延率と硬さの関係を示す図 超軟化処理時の冷間圧延率とフェライト結晶粒径の関係を示す図 打抜き加工品断面のダレ量、わん曲量を示す概略図

Claims (6)

  1. C:0.30〜1.00質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:0.2〜1.5質量%,P:0.02質量%以下,S:0.02質量%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、フェライト結晶粒界上の炭化物数CGBとフェライト結晶粒内の炭化物数CIGの間に、CGB/CIG≦0.8の関係が成り立つとともに、全ての炭化物の内の90%以上を長軸/短軸が2以下の球状化炭化物で占める炭化物がフェライト中に分散した組織を有することを特徴とする加工性に優れた中・高炭素鋼板。
  2. C:0.30〜1.00質量%,Si:1.0質量%以下,Mn:0.2〜1.5質量%,P:0.02質量%以下,S:0.02質量%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、フェライト結晶粒界上の炭化物数CGBとフェライト結晶粒内の炭化物数CIGの間に、CGB/CIG≦0.8の関係が成り立つとともに、全ての炭化物の内の90%以上を長軸/短軸が2以下の球状化炭化物で占める炭化物がフェライト中に分散した組織を有し、仕上げ焼鈍後の最終の冷延により断面硬さが200〜300HVに調整されていることを特徴とする加工性に優れた中・高炭素鋼板。
  3. さらにNi:1.8質量%以下,Cr:2.0質量%以下,V:0.5質量%以下,Mo:0.5質量%以下の内の1種又は2種以上を含む成分組成を有する請求項1または2に記載の加工性に優れた中・高炭素鋼板。
  4. さらにNb:0.3質量%以下,Ti:0.3質量%以下,B:0.01質量%以下の内の1種又は2種以上を含む成分組成を有する請求項1〜3の何れかに記載の加工性に優れた中・高炭素鋼板。
  5. 請求項1〜4の何れかに記載された成分組成を有する鋼の熱延酸洗板に、熱延板焼鈍あるいは冷延および冷延板焼鈍を施した後、軽冷延および仕上げ焼鈍を施して冷延焼鈍板を製造する際、前記熱延板焼鈍または冷延板焼鈍を、Ac1〜(Ac1+50℃)の温度で5時間以上保持した後に600℃までの冷却を20℃/h以下で行った後、10〜25%の圧延率で軽冷延を施し、その後600℃〜Ac1の温度で2時間以上保持する仕上げ焼鈍を施して冷延焼鈍板を製造した後、さらに最終の冷間圧延を施すことを特徴とする加工性に優れた中・高炭素鋼板の製造方法。
  6. 最終の冷間圧延を圧延率20〜60%で行う請求項5に記載の中・高炭素鋼板の製造方法。
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