JP2009209499A - 低熱収縮性捲縮ポリエチレンナフタレート繊維及びその製造方法 - Google Patents

低熱収縮性捲縮ポリエチレンナフタレート繊維及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の目的は、良好なカード通過性を実現する十分な捲縮性能を有し、かつ熱収縮の小さいポリエチレンナフタレート捲縮繊維を提供することにある。
【解決手段】捲縮数×(繊度)1/2が15〜50であり、かつ180℃乾熱収縮率が−5〜10%、100℃熱水収縮率が−5〜10%であることを特徴とする低熱収縮性捲縮ポリエチレンナフタレート繊維により本発明の目的を達成する事ができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、カード通過性が良好であり、紡績性や乾式不織布に用いた際の加工性や強度及び低熱収縮性に優れたポリエチレンナフタレート繊維に関する。
ポリエチレンナフタレート繊維は、同じポリエステル繊維である汎用のポリエチレンテレフタレートに比べ、ヤング率が高いことやガラス転移温度が高いことによる耐熱性、寸法安定性に優れるなどの特徴があり、タイヤコードや電気コード等の補強ワイヤー等への応用が広がっている。
但し、従来知られているポリエチレンナフタレート繊維は長繊維及び無捲縮の短繊維(例えば、特許文献1参照。)であり、捲縮の付与されたポリエチレンナフタレート繊維はこれまで提案されていなかった。それは、従来知られているタイヤコード用などの高強度や高モデュラスを重視したポリエチレンナフタレート繊維は剛性が高すぎ、従来の捲縮短繊維を製造する押込み式クリンパーにより繊維を坐屈させる方法では、クリンパーのガタツキが生じ、カード通過性やニードルパンチ性に十分な捲縮数及び捲縮率を有する捲縮繊維が得られなかったからである。従って、ポリエチレンナフタレート捲縮短繊維による紡績糸や詰綿、ニードルパンチ不織布などの乾式不織布を得ることはできなかった。従来、ポリエチレンナフタレート繊維を用いて製造された不織布として提案されているものは、メルトブロー法で製造された不織布(例えば、特許文献2参照。)や長繊維不織布(例えば、特許文献3参照。)だけであった。
特開平09−256218号公報 特開平04−146251号公報 特開平10−025651号公報
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、良好なカード通過性を実現する十分な捲縮性能を有し、かつ熱収縮の小さいポリエチレンナフタレート捲縮繊維を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、120〜200℃で緊張熱処理後、対金属摩擦の大きい油剤を付与し、65℃以上に加熱した後に機械的に捲縮を付与することで、捲縮性能が十分でかつ低熱収縮性のポリエチレンナフタレート繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本願発明は、捲縮を有するポリエチレンナフタレート繊維であって、捲縮数[山/25mm]×(繊度[dtex])1/2が15〜50であり、かつ180℃乾熱収縮率が−5〜10%、100℃熱水収縮率が−5〜10%であることを特徴とする捲縮ポリエチレンナフタレート繊維、及びポリエチレンナフタレートの未延伸糸条又はポリエチレンナフタレートの延伸糸条を120〜200℃で定長熱処理した後、定長熱処理後の糸条を65℃以上の温度で捲縮を付与し、60℃以下の温度で乾燥することを特徴とする請求項1記載の捲縮ポリエチレンナフタレート繊維の製造方法である。
本発明の捲縮ポリエチレンナフタレート繊維は、十分な捲縮性能を有する上、実用的な低熱収縮性等を有するためカード通過性が改善されており、カード工程を要する紡績糸や詰綿、ニードルパンチ不織布などの乾式不織布、その他の繊維構造体用途への展開が可能となり、耐熱性の要求されるバグフィルター用不織布や天井材やフロアマット、エンジンフィルター等の車輌用不織布、シート用クッション材などへの適用を可能とするものである。
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明を構成する短繊維は実質的にエチレン−2,6−ナフタレート単位よりなるポリエチレンナフタレート繊維であることが必要である。ポリエチレンナフタレート繊維は、好ましくはエチレン−2,6−ナフタレート単位をポリエチレンナフタレート繊維を構成する繰り返し単位あたり90モル%以上含み、10モル%未満の割合で適当な第3成分を含む重合体からなる繊維であっても差し支えない。第3成分としては(a)1分子当たり2個のエステル形成性官能基を有する化合物、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのその他のジカルボン酸;グリコール酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのヒドロオキシカルボン酸;1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、p,p′−ビス(ヒドロキシエトキシ)ジフェニルスルホン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリアルキレングリコールなどのジヒドロキシ化合物;それらの機能的誘導体、すなわち前記カルボン酸、オキシカルボン酸、オキシ化合物又はそれらの低級(ジ)アルキルエステル、低級(ジ)アリールエステル、低級(ビス)アルキルアリールエステル等から誘導される高重合度化合物や、(b)1分子当たり1個のエステル形成性官能基を有する化合物、たとえば、安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。さらに(c)3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物、たとえば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメシン酸、トリメリット酸なども、重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。
また、前述の樹脂には必要に応じて、触媒のほか、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、光安定剤、中和剤、造核剤、滑剤、減粘剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、可塑剤、消泡剤、整色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、染料又は顔料などが添加されていてもよい。また、改質のためにポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアルキレンオキシド共重合ポリエステルなどのポリエステル樹脂やナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−12などのポリアミド類が少量共重合されていてもよい。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の固有粘度は特に限定を受けないが、好ましくは0.6〜1.0dL/g、更に好ましくは0.7〜0.9dL/gの範囲が好適に用いられる。本発明でいう固有粘度はポリエチレンナフタレート繊維を、フェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(容積比6:4)に溶解し、35℃で測定した粘度から求めた値である。極限粘度が0.6dL/g未満では、ポリエチレンナフタレート繊維の強度、タフネスが低下する。極限粘度が1.0dL/gを越えるようなポリエチレンナフタレート繊維は紡糸工程が不良となりやすく、製造が難しくなる。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の繊度については、特に限定は受けないが、押込み型クリンパーにより機械捲縮を付与する際に、トウ(糸条)における単糸間の空隙率が少ない細繊度において、本繊維の捲縮性能が特に有効に作用する。特に有用な繊度は0.5〜6.0dtex、特に0.5〜3.0dtexの場合であって、これらの場合にカード通過性が良好であるという顕著な効果が得られる。
十分なカード通過性を保障する捲縮性能については、捲縮数及び捲縮率が重要な尺度となる。捲縮数が大きいほど、あるいは捲縮率が大きいほど、繊維間の絡合が十分であり、カード通過性は向上する。
但し、繊度が小さいほど、繊維が坐屈しやすくなり、捲縮数は大きくなるが、良好な捲縮数を保障するためには、それぞれの繊度に応じて、ある一定以上の捲縮数を付与することが必要となる。ポリエチレンナフタレート繊維は、汎用のポリエチレンテレフタレート繊維に比べ、ガラス転移温度が高く、かつ樹脂の剛性が大きいので、同じ繊度であっても坐屈により捲縮数を大きくすることが困難である。換言すると、繊度が低すぎると(細すぎると)捲縮形態が僅かな力で伸びるため、同じ捲縮数でも繊度が高い(太い)場合に比べて繊維同士の絡みが下がり、カードでウェッブ切れなどの問題が発生しやすく、すなわちカード通過性が劣るようになります。逆に繊度が高すぎる(太すぎる)状態で捲縮数を増やしすぎるとカードでうまく開繊できない等の問題が発生し、カード通過性が劣化するようになります。本発明者により繊度、捲縮数等の性能の異なる短繊維についてカード通過性の評価検討により、各繊度に応じて良好なカード通過性を示す尺度として、下式を考案し、これが15〜50の範囲にあることが適正であることを見出した。この範囲をはずれると、上記の様な問題が発生するので好ましくない。
D=捲縮数×(繊度)1/2
ここで、捲縮数はJIS L 1015:2005 8.12に記載の方法で測定した値(単位:山/25mm)であり、繊度はJIS L 1015:2005 8.5.1
A法に記載の方法により測定した値(単位:デシテックス=dtex)である。繊度が小さいほど、付与される捲縮数自体は大きくなるが、Dが15以上となるような捲縮数が繊度に応じて付与されなければ、ウェブ切れなどのカード通過性に問題が生じるのである。一方、Dが50を超えるような細かい捲縮も、絡合が強すぎるためにカードでの単糸引き揃え効果を阻害するため、カード通過性やウェブの地合いを悪化させることになる。好ましいDの範囲は20〜35であり、より好ましい範囲は21〜30である。
Dを高める、すなわち、捲縮数を大きくする方法としては、クリンパーでの単糸の坐屈を進めるために、公知である、クリンパー前のトウ温度を加熱を高くすることが重要であり、ポリエチレンナフタレートの場合、65℃以上、好ましくは75℃以上のトウ温度とすることが必要である。加熱の方法としては、高温蒸気吹き付けや電気ヒーターやスーパーヒート蒸気による非接触加熱や加熱ローラーへの接触による方法などが挙げられる。
またクリンパーへ供給するトウ繊度は、クリンパーボックス幅(クリンパーのニップロール幅)25mm当たりに換算して5〜10万デシテックス/25mmの範囲にすることが好ましい。そのトウ繊度が10万デシテックス/25mmを上回ると、単糸間の密度が上がるため坐屈しにくくなり、クリンパーが不安定になる。一方、そのトウ繊度が5万デシテックス/25mmを下回ると、単糸間の空隙が不均一となり、捲縮斑を生じやすくなる。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維は、延伸糸であっても未延伸糸であってもよい。未延伸糸の場合、配向度が低いため、加熱圧着によってポリエチレンナフタレート繊維を接着させるバインダー繊維として用いることができる。延伸糸の場合、剛性が未延伸糸に比べて更に高くなるので捲縮を付与しにくくなるが、未延伸糸の25℃×65%RH(相対湿度)下での破断乾伸度(以下、BDRと呼ぶ。この値は具体的には原糸が切れるまで引っ張った場合の伸度を表し、原糸の延伸し易さを表す指標となる。)対比延伸倍率を小さくすることによって、剛性は小さくなり、捲縮を付与しやすくなる。好ましい延伸倍率はBDRの0.85倍以下、更に好ましくはBDRの0.75倍以下である。但し、高い強度やヤング率が必要とされる場合は、当然のことながら、延伸倍率を上記の範囲を上回らない範囲で高めとする必要がある。
延伸糸の場合、公知の延伸方法が用いられるが、ポリエチレンナフタレート繊維はポリエチレンテレフタレートより高いガラス転移点を有するため、ローラー加熱や非接触加熱(電気ヒーター又はスーパーヒート蒸気を通過)により可塑化させて延伸する方法、95〜100℃の温水やシリコンオイル等の液浴中で延伸する方法が好ましく用いられる。また、延伸張力が高いため、2段以上の多段延伸を採用し、徐徐に目標の延伸倍率に延伸することが好ましい。
もう一つの捲縮付与性を高める効果的方法は、クリンパー前で繊維−金属間摩擦の高い油剤を付与することである。本目的を達成できる油剤としては種類を限定しないが、高速カード通過性の観点から、炭素数16〜22個のアルキルホスフェートアルカリ金属塩が好ましく、ヘキサデシルホスフェート、オクタデシルホスフェート(ステアリルホスフェート)、エイコサニルホスフェート、又はドコサニルホスフェートのナトリウム塩若しくはカリウム塩を具体的にあげることができる。最も好ましいのは、炭素数18個のステアリルホスフェートカリウム塩(SPKと呼ぶ)である。アルキルホスフェートアルカリ金属塩と共に収束性や制電性、その他の機能性を持たせるために、捲縮付与性を阻害しない範囲で他の油剤成分を加えてもよいが、アルキルホスフェートアルカリ金属塩が油剤純分中の50重量%以上含まれていることが好ましい。なお、繊維表面にアルキルホスフェートアルカリ金属塩を含む油剤をクリンパー前でポリエチレンテレフタレートに対して0.05〜1.0重量%(油剤成分純分[固形分]換算)で付与されていることがより好ましい。油剤付着率が0.05重量%を下回るとクリンパーにおける捲縮付与性とカード通過性を阻害する他、静電気発生の原因となる。一方、油剤付着率が1.0重量%を上回ると、カードで油剤成分が脱落し、スカムの原因となる。より好ましい油剤付着率は0.10〜0.50重量%の範囲内である。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の180℃乾熱収縮率は−5〜10%、熱水収縮率が−5〜10%であり、耐熱変形性に優れている。ここで、乾熱収縮率は、JIS L 1015:2005 8.15 b)法に記載の方法により、180℃で測定したものである。また、熱水収縮率は、JIS L1015:2005 8.15 a)に記載の方法により、100℃の沸騰水にて測定したものである。乾熱収縮率が10%を上回ると、高温雰囲気下で繊維が熱収縮し、乾燥や熱セット、バインダー繊維の熱接着などの加工工程後に不織布や紡績糸、繊維構造体などの繊維製品が変形する、あるいは硬化する不具合があり、また、車輌内装材やバグフィルターなどの耐熱性が要求される用途で変形や性能劣化を生じ、好ましくない。乾熱収縮率が0%を下回る分には特に問題を生じることはないが、特に大きな自己伸長を起こす例は観測されなかった。
このように熱収縮率を小さくする手段としては、延伸後又は未延伸状態で、120〜200℃で定長熱処理することにある。定長熱処理は基本的には繊維長を延伸することなく1.0倍の長さ下で行うが、熱処理に伴う繊維の収縮や伸長変化などに伴い、0.85〜1.15倍などのドラフトもとり得るものとする。120〜200℃でセットする意味は以下の通りである。すなわち、ポリエチレンナフタレート未延伸糸あるいは延伸糸のガラス転移温度は113℃であるため、ガラス転移温度以上で定長熱処理することで非晶部分に残留する微小な歪をとることができる。一方、ポリエチレンナフタレート未延伸糸あるいは延伸糸の低温結晶化温度は220℃(DSCピーク温度)であるため、200℃以下で定長熱処理すれば結晶化度及び結晶サイズの促進を小さくすることができ、剛性の上昇を抑えることによって、クリンパーによる捲縮の付与性を確保する効果がある。但し、結晶化が進行していないので、捲縮付与後に弛緩熱処理を行うと、捲縮付与時の坐屈により生じた非晶鎖の歪を解放する方向となるので、弛緩熱処理あるいはオイル付与後の乾燥としては、60℃以下、好ましくは50℃以下とすることが好ましい。乾燥温度が60℃を超えると捲縮度が小さくなり、本発明の捲縮性能Dが15未満となり、カード通過性が不良となる。なお、繊維の要求特性に応じて、乾燥あるいは弛緩熱処理工程を施さなくてもよく、また、温度をかけずに常温の循環風による自然乾燥を行っても良い。
定長熱処理温度が120℃を下回り、かつ弛緩熱処理温度が110℃未満の場合、繊維の熱収縮が大きく、180℃乾熱収縮率は10%を上回るようになる。また、定長熱処理温度が120℃を下回り、かつ弛緩熱処理温度が110℃以上の場合、弛緩熱処理工程で繊維が大きく収縮し、繊度が大きくなると共に、強度低下、伸度上昇となる上、細かな立体捲縮が発現することにより、捲縮性能Dが50を超えてしまうことによりカード通過性が損なわれる。一方、定長熱処理温度が200℃を超えると、結晶化度が高くなることにより、クリンパー前トウ温度を65℃以上としても捲縮付与性に劣るようになり、Dが15を下回ってしまう。定長熱処理温度の好ましい範囲は130〜190℃、更に好ましくは140〜180℃である。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維の断面形状は特に限定されないが、円形であっても異型断面であってもよく、忠実であっても中空断面であってもよい。異型断面の例としては、扁平型、楕円型、長円型、ダンベル形、C字形、三角形や四角形などの多角形や三葉型、十字型、星型などの多葉体などが挙げられる。中空形状にあっても、円形の他、三角形、楕円形、長円形、十字型などの異型断面でもよく、中空数も1個以上あれば数は制限されない。
本発明のポリエチレンナフタレート繊維は捲縮付与を要求される長繊維であってもよいが、カードにより成型される紡績糸や詰綿、ニードルパンチ法等による乾式不織布、その他の繊維構造体の用途に適用するためには、短繊維の形態で使用される。繊維長は特に限定されないが、好ましくは30〜200mm、更に好ましくは35〜150mmに切断して用いられる。なお、本発明のポリエチレンナフタレート繊維を2〜30mm未満に切り、湿式不織布用途に転用することは何ら差し支えない。
以上に説明した本発明の繊維は、例えば次のように製造することができる。ポリエチレンナフタレート樹脂ペレットを溶融押出機等で溶融するか、若しくは連続重合装置から溶融状態にて口金を装着したスピンパックに供給し、ストランド状で吐出して、口金下5〜200mmの位置で、紡出糸条に10〜40℃の空気を送風して冷却固化させた後、紡糸速度100〜2000m/minで引き取って未延伸糸を得る。得られた未延伸糸は、紡糸装置に直結していない公知の短繊維製造用延伸機を用いて、延伸及び熱処理、油剤付与、捲縮付与、乾燥、カットを行う。具体的には、収缶した未延伸糸を束ねてトウとし、95℃以上の温水中で1〜数ステップに分けて延伸する。その後、120〜200℃の温度で繊維長が0.98倍となる条件(ドラフト0.98倍)で定長熱処理(例えば、スーパーヒート蒸気加熱ローラーに接触)を行い、アルキルホスフェートアルカリ金属塩を50重量%含有する油剤を付着させ、65℃以上に加熱されたトウ(糸条)を押込みクリンパーに供給することで捲縮を付与し、常温空気を循環させることによってトウ(糸条)の乾燥を行った後、ロータリーカッター等で所定の繊維長にカットし、目的の繊維を得ることができる。ここで、本発明における糸条とは、単一の繊維、繊維束、若しくはモノフィラメントをいう。
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定を受けるものではない。
なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)固有粘度(〔η〕)
フェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(重量比6:4)を溶媒として、35℃で測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)
JIS K7121記載の示査走査熱量測定(DSC)に従って、昇温速度20℃/分の条件で測定した。
(3)単糸繊度
JIS L 1015:2005 8.5.1 A法に記載の方法により測定した。
(4)繊維長
JIS L 1015:2005 8.4.1 C法に記載の方法により測定した。
(5)捲縮数、捲縮率
所定の繊維長に切断前のトウより単糸を取り、JIS L 1015:2005 8.12に記載の方法により測定した。
(6)油剤付着率
JIS L 1015:2005 8.22 c)法において、試料量を9g、溶媒であるメタノールをメタノール:アセトン混合液(容量比1:1)に変更した以外は同様の方法により測定した。
(7)180℃乾熱収縮率
JIS L 1015:2005 8.15 b)法に記載の方法により、180℃で測定した。
(8)100℃熱水収縮率
JIS L 1015:2005 8.15 a)法に記載の方法により、100℃で測定した。
(9)カード通過性
原綿100gをローラーカードを通過させた際のカードからの繊維紡出状態を観察して、以下の基準でレベル付けした。
レベル1:ローラーカードからウェブが途切れなく紡出され、ウェブ地合いも良好である。
レベル2:ローラーカードから紡出されるウェブの絡合が弱く、偶発的にウェブ切れが生じる。
レベル3:ローラーカードから繊維が脱落し、ウェブが紡出されない。
(10)スライバードラフトフォース
繊維をローラーカード機にかけ、0.1g/cm程度のゲレン(スライバー単位長さ当たりの重量を表し、この値が大きい未延伸糸は延伸しやすいことを表す。)をもつスライバーを得た。このスライバーを25℃×60%RH(相対湿度)の雰囲気下に24時間放置後、長さ方向に切断して長さ20cmのサンプルを5本以上作成した。この各サンプルを、トム引張試験機にスライバー長さ方向にチャック間隔10cmでセットし、引張速度20cm/min(チャック間隔に対して200%/min)で引張り、得られたスライバー強力(N)をスライバーの重量(g)で除した値をスライバードラフトフォースとする。測定値は5回測定の平均値をとった。
このスライバードラフトフォースは原綿中のお互い繊維の絡みの強さを表す指標となり、良好なカード通過性を得るには適切なスライバードラフトフォース範囲があることが本発明者らの検討により明らかになった。ポリエチレンナフタレート繊維は捲縮がかかりにくいので、一般にスライバードラフトフォースが低くなる傾向があるが、本発明の要件を満たすことによってこの値を適切な範囲にすることができる。
[実施例1]
融点264℃、[η]=0.62dL/gのポリエチレンナフタレート樹脂のペレットを170℃で5時間乾燥して溶融押出機に供給し、孔径0.5mmの丸孔キャピラリーを1305孔有する公知のポリエステル繊維紡糸用口金を用いて、溶融吐出させた。溶融直後のポリエチレンナフタレート樹脂温度は320℃、吐出量は600g/分であった。これを口金下50mmで紡出糸条を25℃の冷風で冷却した後、紡糸速度1,250m/分でケンスに収缶して未延伸糸条を得た。
次いで、いくつかの未延伸糸条からなるトウを束ねて、98℃温水中で1.6倍に、更に98℃温水中で1.2倍に2段延伸し、セットローラー(スーパーヒート蒸気加熱ローラー)によりトウ温度が180℃の状態で定長熱処理(ドラフト1.00倍)し、固形分がステアリルホスフェートカリウム塩単独からなる油剤の2.5重量%水溶液に延伸糸条を浸漬した後、押し込み式クリンパーを用いてトウ温度85℃(クリンパー前トウ温度とも称する)で捲縮を付与すると同時に油剤の水溶液付着量が繊維重量に対して10重量%になるまで絞った後、常温にて循環空気による乾燥を実施後、ロータリーカッターにて繊維長64mmにカットし、目的とする捲縮ポリエチレンナフタレート短繊維を得た。得られた捲縮ポリエチレンナフタレート短繊維の物性及びカード通過性評価結果を表1と表2に示した。
[実施例2]
2段延伸倍率を1.0倍(全倍率1.6倍)とした以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1と表2に示した。
[比較例1]
定長熱処理時のトウ温度を180℃から200℃と変更した他は、実施例1と同様に実施した。結果を表1と表2に示した。
[比較例2]
定長熱処理工程を省略した他は、実施例1と同様に実施した。結果を表1と表2に示した。
[比較例3]
定長熱処理工程を省略し、135℃の熱風で乾燥(弛緩熱処理)した他は実施例1と同様に実施した。結果を表1と表2に示した。
[実施例3]
全体の延伸倍率を1.0倍となるようにした他は実施例1と同様に実施した。結果を表1と表2に示した。
[比較例4]
定長熱処理工程を省略した他は実施例3と同様に実施した。結果を表1と表2に示した。
Figure 2009209499
Figure 2009209499
本発明の捲縮ポリエチレンナフタレート繊維は、十分な捲縮性能を有する上、実用的な低熱収縮性等を有するためカード通過性が改善されており、カード工程を要する紡績糸や詰綿、繊維構造体、ニードルパンチ不織布などの乾式不織布用途への展開が可能となる。従って、耐熱性の要求されるバグフィルター用不織布や天井材やフロアマット、エンジンフィルター等の車輌用不織布、シート用クッション材などへの適用を可能とするものであり、産業上の意義は大きい。

Claims (4)

  1. 捲縮を有するポリエチレンナフタレート繊維であって、捲縮数[山/25mm]×(繊度[dtex])1/2が15〜50であり、かつ180℃乾熱収縮率が−5〜10%、100℃熱水収縮率が−5〜10%であることを特徴とする捲縮ポリエチレンナフタレート繊維。
  2. 炭素数16〜22個のアルキルホスフェートアルカリ金属塩を50重量%以上含む油剤を捲縮ポリエチレンテレフタレート繊維に対して0.05〜1.0重量%付着していることを特徴とする請求項1記載の捲縮ポリエチレンナフタレート繊維。
  3. ポリエチレンナフタレートの未延伸糸条又はポリエチレンナフタレートの延伸糸条を120〜200℃で定長熱処理した後、定長熱処理後の糸条を65℃以上の温度で捲縮を付与し、60℃以下の温度で乾燥することを特徴とする請求項1記載の捲縮ポリエチレンナフタレート繊維の製造方法。
  4. 捲縮を付与する前に炭素数16〜22個のアルキルホスフェートアルカリ金属塩を50重量%以上含む油剤をポリエチレンナフタレート繊維に付与することを特徴とする請求項3記載の捲縮ポリエチレンナフタレート繊維の製造方法。
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